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論文記事:福祉的就労における利用者の工賃の現状と課題 201608-04 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第63巻第8号 2016年8月

福祉的就労における利用者の工賃の現状と課題

-山口県における就労系サービス事業所の実態調査より-
佐藤 真澄(サトウ マスミ)

目的 本研究の目的は,福祉的就労における利用者の工賃の実態とその条件となる事業所の収益事業について明らかにすることにある。「福祉的就労」について明確な定義はなく,本来は一般労働市場において福祉的な支援を受けながら働くという形態も含まれている。ただし,本研究では,「障害福祉サービスによって提供される就労の場」に限定して論じた。

方法 調査は2014年11月に行い,対象は山口県保健福祉施設等名簿(2014年5月)に掲載されている障害福祉サービス事業所302カ所のうち就労継続支援(A/B型),就労移行支援事業を実施している104カ所である。調査票の内容は,事業所の沿革と概要,サービス内容,事業実績など多岐に渡っている。

結果 調査票の回収割合は,就労継続支援(A/B型),就労移行支援事業を実施している事業所で58.6%であった。「おおむね週5日働く」という想定での平均的な工賃(月額)は,「1~3万円以下」が68.6%と最も多く,「1万円以下」と合わせると9割以上の事業所が月額3万円以下である。工賃の支払い規定を,①作業時間と工賃との関係,②月給・日給・時間給等の算定の2段階で調査した。作業時間との関係では,77.6%の事業所が作業時間・日数に応じた日給制もしくは時間給制を採用している。一方で,基本となる時間給等の算定については,業務内容や作業能力等による差を付けず,「すべての利用者で一律」としている事業所が33.3%ある。その点が企業等の一般労働市場との大きな違いである。各事業所で行われている収益事業は,「施設内での下請・内職作業」が最も多いが,これらの事業は収益性が低く,その点を課題だと事業所は感じていた。

結論 福祉的就労は,訓練の場であり,就労の場である。そして,福祉サービスである。単純に就労の場であれば,収益性の高い事業を実施することで高い工賃を支払うことだけをめざすが,訓練であり,福祉サービスであるから,すべての利用者の作業能力や障害特性に応じた内容を選択せざるを得ない。利用者の高齢化・重度化が進むなかで,多様なニーズに対応しようとすればするほど,事業所としての収益の確保は難しい。その結果,すべての利用者が低賃金での就労を余儀なくされている。制度改革では,高工賃の事業所を高く評価するなど成果主義的な方針が示されているが,事業所の自主努力だけでは限界がある。賃金補填を含む公的な支援が必要な段階にあるのではないだろうか。

キーワード 障害者,福祉的就労,就労系サービス,工賃

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