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論文記事:山梨県の肝がん死亡率低下と医療行政施策の関連の検討 201910-03 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第66巻第12号 2019年10月

山梨県の肝がん死亡率低下と医療行政施策の関連の検討

-Joinpoint回帰-
横道 洋司(ヨコミチ ヒロシ) 岩佐 景一郎(イワサ ケイイチロウ) 内田 裕之(ウチダ ヒロユキ)
小野 千恵(オノ チエ) 米山 晶子(ヨネヤマ アキコ)
高倉 江利花(タカクラ エリカ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 日本の肝がん有病率は,世界の中で大きい。国と県は,1970年代より肝がん対策を行ってきた。全国と同様に,山梨県の肝がんによる死亡率は低下を続けている。これには多くの肝炎,肝がん対策が奏効していると考えられるが一方で,どの施策がその死亡率低下にどれだけ影響しているかは明らかではない。治療の向上や施策の導入の効果を推定した資料は,今後,感染症に起因する疾病に対抗する施策を考える上で必要となる。本研究は,国と山梨県が行ってきた肝炎,肝がん対策の歴史と県内の肝がんによる死亡率の変曲点との関係を,生態学的に検討することを目的とした。

方法 国と県の肝炎,肝がん対策を年次推移にまとめた。次に2000年から2015年までの10万人あたりの山梨県における肝がん死亡率の分岐点をJoinpoint回帰により探索し,統計学的に変曲点を探索した。肝がん死亡率は昭和60年の日本人モデル人口により直接法で調整した。肝炎,肝がん対策の変遷と肝がん死亡率の推移を比較し,死亡率の変曲点の意味づけを試みた。

結果 肝がん死亡率は2000年から2016年にかけて大きく低下し,全年齢では3つの変曲点が検出された。年齢階級別の解析では死亡率に単調な低下傾向はあるものの,変曲点は見いだされなかった。

結論 B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチン投与は1982年から段階的に拡大され,現在では乳児の定期接種ワクチンとなっている。このワクチンが肝がん死亡率低下に効果を現すのは2020年代後半以降だろうと考えられた。B型肝炎ウイルスの持続感染に対し,1985年にインターフェロン(IFN)療法が,2000年代に相次いで核酸アナログ製剤の投与が導入された。2005年からの急峻な肝がん死亡率低下にこの治療成績が寄与している可能性が示唆された。C型肝炎ウイルス持続感染に対して1992年にIFN療法が開始されている。2002年に老人保健法による「節目検診」として肝炎ウイルス検査も行われるようになった。2005年からの肝がん死亡率低下にこれらの施策も同様に貢献している可能性がある。2011年からの急峻な低下には,2001年のHCV持続感染に対するIFNとリバビリンの併用療法導入が貢献している可能性がある。山梨県がん登録データから,B型・C型肝炎の治療の発展が肝がん死亡率の低下に貢献している可能性が示された。

キーワード 肝がん,肝炎ウイルス対策,がん登録,B型肝炎ワクチン,日赤献血事業,核酸アナログ製剤

 

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