組合管掌健康保険の保険料率決定に関する分析

 

サガワ カズヒコ

佐川 和彦

 

目的 組合管掌健康保険(以下,組合健保)では,一定の制約の下で個々の健康保険組合(以下,健保組合)は自由に保険料率を決めることができる。しかし,実際には各健保組合が財政状況に応じて保険料率を頻繁に変更するということはない。本稿では,各健保組合は潜在的な保険料率の変更幅が一定の限度を超えないと現実に変更を行わないと想定するモデルを用いる。実証分析によって,その限度の大きさを示すとともに,健保組合の保険料率の水準によって限度が異なることについても検証する。

方法 ある行動をひきおこす潜在的な要因があったとしても現実の行動にスムーズに結びつかない,すなわち,行動に摩擦(フリクション)が生じていると想定するモデルとして,フリクションモデルがある。本稿では,フリクションモデルを応用して,東京都の589組合を対象に実証分析を行った。保険料率の変更幅として用いたのは,2005年度の保険料率の対前年度変化分である。また,2004年度の保険料率の水準によって高低2群に分けた分析を行った。

結果 実際に保険料率の変更を行うか行わないかの分かれ目になる(いき)値の推定値は,モデルから予想されるとおりの符号であった(p<0.001)。さらに,保険料率別に分割した推定結果によれば,もともとの保険料率の水準が低いと,保険料率をさらに引き下げることに対してはフリクションがより大きくなった。反対に,もともとの保険料率の水準が高いと,さらに引き上げることに対してはフリクションがより大きくなった。このような保険料率の水準の高低による健保組合の決定の差異は,保険料率の引き下げの場合により顕著であり,引き上げの場合は小さかった。閾値の推定値(絶対値)は,保険料率の平均値を考慮にいれると,かなり大きな値であった。

結論 保険料率の引き下げが考えられる場合,あるいは,引き上げが考えられる場合も,潜在的な変更幅が一定の数値を超えるまでは実際に変更されることはなかった。これは,保険料率の変更についてフリクションが生じたことを意味している。

キーワード 組合管掌健康保険,保険料率,フリクションモデル