健康危機関連事件における本来のリスクを上回ると思われる過剰な社会反応の定量的把握とその分析

 

イマムラ トモアキ オバナ ナオヤ ヤマグチ ケンタロウ ハマダ ミキ オゴシ クミコ

今村 知明 尾花 尚弥 山口 健太郎 濱田 美来 御輿 久美子

 

目的 食品健康被害事件の際におこる報道機関や消費者における不明確なリスクや不可視なリスクに対する過剰な反応の発生メカニズムを把握する。

方法 近年発生した食品由来の健康危機について,新聞記事を収集し,定量分析を行った。また,収集した新聞記事の中で,BSE事件(2001年)については,この事件が原因と推定した自殺者の数もカウントした。

結果 食品由来の健康危機事件の中で,BSE事件では,記事数・文字数ともに大きく減少することなく報道が継続された。事件が社会問題化したことにより,関連産業の売上減少等が発生し,複数名の関係者が自殺する事態に至った。鳥インフルエンザ(山口県)においても,毎日の報道記事数が数十件に達するなど,報道の持続性がみられた。一方で,消費者の本来のリスクを上回るような反応が懸念されたが,顕在化しなかった6事例では,リスクを報道する記事が毎日掲載されることはなく,1日平均記事件数も数件程度に止まった。また,これらの事例の新聞記事の掲載頻度は,日数を経るごとに件数・文字数ともに減少し,BSE事件等で観察された「報道の持続性」を確認できなかった。鳥インフルエンザは,2004年以降,毎年大規模な感染が発生したが,2004年の事件では,多数の記事が毎日掲載された。他方,翌年以降の事例では,発生後約1週間を境に新聞記事数が漸減した。

結論 食品由来の健康危機に直面した消費者,報道機関において,本来のリスクを上回る反応が発生している状況が確認できた。筆者らは,このような一般消費者の,客観的なリスク水準(被害の発生確率)に拠らない過剰な反応を「ゴースト効果」と名付けた。消費者は,平常時であれば,健康危機の不安を報じる記事に接触しても冷静に対応できるものの,危機発生時には「幽霊」が発生し,消費行動を変える可能性が高まる。したがって,危機発生時には,不安報道が増えないことが望まれるが,このためには,食品リスクについて,「原因が未解明である」「新規性が高い」など報道機関のリスクを上回る反応を誘発するリスク特性への適合状況を確認し,「幽霊」の発生可能性の高さを早期に見極め,対策を検討する必要がある。

キーワード 健康危機,リスクコミュニケーション,報道情報,リスク分析