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論文記事:高齢者のICT利用状況の変化要因について 202007-01 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第67巻第7号 2020年7月

高齢者のICT利用状況の変化要因について

-縦断調査データを用いて-
深谷 太郎(フカヤ タロウ) 小林 江里香(コバヤシ エリカ)

目的 高齢者のインターネット利用率は年齢が高くなるにつれて低下するが,60代では7割を超えており,年々増加傾向にある。しかし,横断調査の繰り返しでは,高齢者集団の中で利用者が増えているのか,それとも利用率の高い年齢層が順次高齢者の仲間入りをしているのかは不明である。そこで,同一人物を対象とした縦断調査のデータを用いて,高齢者のICT(電子メール,インターネット)の利用状況の変化と,その要因を検討した。

方法 東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学,ミシガン大学が共同で行っている全国の60歳以上を対象とした調査において,2012年に新規に調査対象者となり,かつ,2017年に行われた追跡調査にも回答があった865人を分析対象とした(平均年齢70.5歳)。電子メールとインターネットは,それぞれ利用頻度が週1回以上を「利用あり」として2時点の利用の有無の変化を調べた。また,2012年調査時点での利用者と非利用者に分け,2017年時点での利用の有無により,「利用開始」と「利用中止」のそれぞれを従属変数とするロジスティック回帰分析を実施した。独立変数は,2012年調査時点での性別,年齢,独居,居住地の都市規模,教育年数,暮らし向き(主観的な経済状態),就労状況,親しい友人・近隣数,手段的日常生活動作(IADL),抑うつ傾向,および2時点間での退職の有無とした。

結果 電子メール,インターネットとも,2回の調査間では,利用開始者と利用中止者の数はほぼ等しかった。さらに,両ICTともに,年齢の若い人や教育年数の長い人ほど利用を開始しやすく,電子メールは友人・近所とのつきあいがない人ほど開始しにくい傾向がみられた。利用中止の要因は電子メールとインターネットでは異なり,電子メールについては教育年数の短い人や経済状態が悪い人,就労していない人で中止しやすい傾向があった。

結論 既存の調査においてみられる高齢者のインターネットなどの利用率の上昇は,同一コホート内で実際に利用者が増えているのではなく,出生コホートの入れ替えに伴うものであり,短期的には高齢者のICT利用率は低いという前提で施策を立案すべきと思われる。また,利用開始と利用中止(利用継続)の関連要因は必ずしも同じではなく,ICT利用率の向上のためには,利用開始だけでなく利用中止の要因についても多面的に検討していく必要がある。

キーワード 高齢者,ICT利用,縦断研究,電子メール,インターネット

 

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