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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第55巻第15号 2008年12月

法令に基づく権限の所在からみた
保健所の対物業務に関する研究

-健康危機管理の視点から-
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 菅沼 成文(スガヌマ ナルフミ) 玉川 淳(タマガワ ジュン)
河原 和夫(カワハラ カズオ) 谷 修一(タニ シュウイチ) 

目的 法令条文に基づく保健所業務における対物業務について,全国の政令市保健所について権限委譲の状況を把握することとした。
方法 保健所業務の法令条文に基づく対物業務内容を健康危機管理関連業務,健康危機管理周辺業務,その他の業務に分類し,これらの権限の所在について,保健所長に委譲されているものの割合を検討した。
結果 業務は全体で408項目であった。健康危機管理関連業務は82項目(20.1%),健康危機管理周辺業務は325項目(79.7%),その他は1項目(0.2%)であった。法律によって政令市(長)に権限がある業務は199項目で全体の48.8%で,そのうち保健所長に権限委譲されていたのは161項目(80.9%)であった。これら権限委譲されているもののうち健康危機管理関連業務に該当するものは46項目(28.6%)であった。いわゆる危機(クライシス)時の健康危機管理関連業務は,健康危機管理周辺業務の1/2以下であった。このことから,マネジメントにおける機能は日常に比較して十分ではないことが示唆された。
キーワード 保健所,対物業務,健康危機管理,権限委譲

 

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第55巻第15号 2008年12月

非喫煙者,喫煙者および禁煙1年以上継続者
の自覚症状並びに健診結果の検討

謝 勲東(シャ クントウ) 武藤 孝司(ムトウ タカシ) 

目的 非喫煙者,喫煙者および禁煙1年以上継続者の自覚症状および健診結果を検討することを目的とした。
方法 対象は人間ドック受診者のうち,質問票から喫煙状況が得られ,かつ1年以内の禁煙者を除外した男性7,907名(平均年齢51.6歳)とした。質問票で喫煙状態より非喫煙群,喫煙群,禁煙1年以上継続群(禁煙群)の3群に分けた。非喫煙群を対照群として,喫煙群および禁煙群の自覚症状(咳や痰が多い,物忘れ,疲れやすい,どうき,上腹部違和感,しばしば下痢,肩こり,腰痛)および検査値異常(肥満,高血圧,高血糖,高中性脂肪,低HDLコレステロール,高尿酸,高γ-GTP,低1秒率)に関して年齢を調整したオッズ比を求めた。
結果 喫煙群ではすべての自覚症状において非喫煙群よりも有意に大きいオッズ比を示したが(1.16-2.96,2以上は咳や痰),禁煙群で非喫煙群より有意に大きいオッズ比を示したのは物忘れ,しばしば下痢,腰痛の3項目だけであり(1.13-1.38),しかも物忘れ以外の7つの自覚症状において禁煙群のオッズ比は喫煙群よりも小さかった。一方,喫煙群では高血圧と高尿酸以外の6つの検査値異常において非喫煙群よりも有意に大きいオッズ比を示した(1.22-2.60,オッズ比2以上は高中性脂肪,高γ-GTP,低1秒率の3項目)。禁煙群では低HDLコレステロール以外の7つの検査値異常において非喫煙群よりも有意に大きいオッズ比を示したが(1.24-1.56),高中性脂肪,低HDLコレステロール,高γ-GTP,低1秒率の4つの検査値異常において禁煙群のオッズ比は喫煙群よりも小さかった。
結論 喫煙群の自覚症状および検査異常は非喫煙群より明らかに多く,しかも自覚症状の1項目および検査異常の3項目のオッズ比は2以上であった。若いときから喫煙しないことを目的とした健康教育は大事だと思われる。禁煙群の自覚症状は喫煙群より明らかに少なかったが,検査異常項目は少なくなかった。しかし非喫煙群に対してオッズ比2以上の項目はなかった。禁煙群では禁煙後食欲が増すため,過食となり一部の代謝異常は改善しないか,あるいは増悪する可能性があり,禁煙後の適正な食事,運動,ストレス管理など生活習慣の注意が必要である。禁煙の継続や開始に対する動機づけとして,禁煙群の自覚症状改善や高いオッズ比の検査値異常が喫煙群より少なかったことを啓発することは今後重要と思われる。
キーワード 喫煙,禁煙,自覚症状,健診結果,健康教育

 

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第55巻第15号 2008年12月

特別養護老人ホームにおける介護職員の離職率に関する研究

張 允楨(チャン ユンジョン) 黒田 研二(クロダ ケンジ) 

目的 本研究は,特別養護老人ホーム各施設の離職率を3区分し,仕事や職場に対する職員の意識,介護業務の内容,職場内における人間関係,仕事上における施設環境という4つの領域との関連を調べ,離職率の低い施設の特徴を明らかにすることで,介護職員の定着をはかるための要件を検討した。
方法 大阪府に所在する特別養護老人ホームの介護職員を対象とした。調査は郵送法による自記式質問紙調査で,2006年8月に実施した。調査票を,101施設の介護職員3,919人に配布し,2,859人から有効回答を得た(有効回収率73%)。
結果 離職率中位群・高位群に比べ,低位群では以下の特徴がみられた。第1に,低位群の施設では職員の資質向上に積極的に取り組んでいることが示唆された。他の群に比べ,低位群では「専門資格取得を具体的に・積極的に支援している」「職員の研修を個々の力量に応じ体系的・計画的に行っている」と評価した職員が多かった。さらに,実際,事業所から勧められて研修会に参加したと答えた職員も多かった。第2に,低位群の施設職員は「賃金」「休暇の取得」「福利厚生」という項目に関してより高い満足度を示し,低位群の施設では労働環境が充実している可能性がうかがえた。特に,賃金に関する満足度において比較的高い<半外A663>2値を示しており,高位群で4割程度が満足を示したのに対して,中位群・高位群では3割以下であった。第3に,低位群では「職場への所属意識」,職場環境のうち「施設運営への参加」「役割の明確性」において,職員の評価が高かった。
結論 介護職員の離職を防ぎ,定着をはかるためには,専門資格の取得や研修を通じて職員の資質向上を支援する職場環境の構築と,賃金,休暇の取得,福利厚生等の労働環境の整備が重要であると考えられた。これは厚生労働省が発表した福祉人材の確保に関する指針においても指摘されており,本研究はそれを実証的に検証したといえる。さらに,職場への所属意識を高めること,施設運営に参加できる機会を確保すること,仕事上における役割を明確にすることが,職員の定着をはかる要件であることが示唆された。
キーワード 離職率,特別養護老人ホーム,介護職員,職場環境,資質向上支援

 

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第55巻第15号 2008年12月

こころの病をもつ人々への地域住民のスティグマおよび社会的態度

-全国サンプル調査から-
望月 美栄子(モチヅキ ミエコ) 山崎 喜比古(ヤマザキ ヨシヒコ) 菊澤 佐江子(キクザワ サエコ)
的場 智子(マトバ トモコ) 八巻 知香子(ヤマキ チカコ) 杉山 克己(スギヤマ カツミ)
坂野 純子(サカノ ジュンコ)  

目的 こころの病をもつ人々への地域住民の態度について,全国サンプル調査により多角的に把握し,こころの病をもつ人々と地域住民が共に暮らしやすい地域生活実現のための課題を考察する。
方法 国内に居住する1864歳の男女から二段階無作為抽出により1,800名を抽出し,面接調査・留置記入法のいずれかの方法で調査を行った(2006年8~10月,有効回収994票)。質問紙はビニエット方式で,冒頭でこころの病をもつ人物(Aさん)の様子を病名は伏せて提示し,Aさんについての質問に回答してもらうものである。ビニエットはうつ病と統合失調症の2種類で,さらにそれぞれの人物が男女の2種類の計4種類があり,それらを無作為に対象者に振り分けた。質問項目は,Aさんの症状に対する認識,「スティグマ的反応」,Aさんと隣同士になる等の関係をどの程度受け入れるかを尋ねる「社会的距離」,Aさんのような人への保健医療サービスの提供等を行政がどの程度責任をもつべきかを尋ねる「行政の責任」,治療のために入院する等をどの程度法律で強制すべきかを尋ねる「法律による強制」,こころの病をもつ人との回答者自身の接触体験などを尋ねた。
結果 Aさんの症状に対して,うつ病・統合失調症両事例ともに回答者の92%が「精神的な病気の可能性」があると回答し,治療の効果もおよそ95%前後が認めていたが,統合失調症事例に対して約半数が「うつ状態」と回答した。「スティグマ的反応」では両事例とも「Aさんは自分の状況を恥ずかしく思うべきだ」等の不名誉の各項目,「Aさんは治療を受けることで地域ののけ者になるだろう」等の治療の影響の各項目では否定する回答が大半を占めていたが,「Aさんといると緊張する」等の感情の各項目では肯定する回答が半数近かった。「社会的距離」と「法律による強制」は統合失調症事例の方が得点が有意に高かった。「行政の責任」は両事例ともすべての項目で7090%が責任を果たすべきと回答した。
結論 回答者は,ビニエットに示された状態が医学的な精神疾患であることを認識しているものの,精神疾患に対する理解はあいまいなものである様子がうかがわれた。こころの病をもつ人々に対して,あからさまな偏見や差別を示す回答者は少なかったが,実際に接する際に戸惑いや不安を感じる者が多く,地域住民の啓発活動において,接し方等の実践的な情報提供が必要であると考えられた。
キーワード こころの病,全国調査,ビニエット方式,スティグマ,社会的距離,行政の責任

 

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第55巻第15号 2008年12月

メタボリックシンドローム構成因子に及ぼす肥満と
生活習慣の影響についての縦断研究

木山 昌彦(キヤマ マサヒコ) 大平 哲也(オオヒラ テツヤ) 北村 明彦(キタムラ アキヒコ)
今野 弘規(イマノ ヒロキ) 岡田 武夫(オカダ タケオ) 佐藤 眞一(サトウ シンイチ)
前田 健次(マエダ ケンジ) 中村 正和(ナカムラ マサカズ) 石川 善紀(イシカワ ヨシノリ)
嶋本 喬(シマモト タカシ) 野田 博之(ノダ ヒロユキ) 磯 博康(イソ ヒロヤス)

目的 肥満はメタボリックシンドローム(以下,MS)の構成因子である血圧高値,糖代謝異常,脂質代謝異常の重要な原因と考えられているが,日本人において肥満がどの程度それらの発症に寄与しているかは明らかではない。そこで本研究は,肥満および飲酒,喫煙,身体活動等の生活習慣がそれらの因子の出現にどの程度影響するか縦断的に検討することを目的とした。
対象・方法 2001年7月~200212月までに大阪府立健康科学センターを受診した8,893人に生活習慣に関する質問紙調査と身体測定,血液検査等を実施した。次に,20012002年受診者のうち200612月までに再受診した7,276人(81.8%)に同様の検査を実施した。20012002年の検査において血圧高値,糖代謝異常,脂質代謝異常を有する者を除外し,残る4,672人(男性2,607人,女性2,065人)を解析対象として20012002年の肥満,生活習慣と新規の血圧高値,糖代謝異常,脂質代謝異常との関連を検討した。
結果 平均3.8年後のフォローアップ検査において新規に血圧高値,糖代謝異常,脂質代謝異常に当てはまった人数はそれぞれ539人,389人,574人であった。これらに2つ以上当てはまるものをMSありとした場合,男性168人,女性62人,計230人がこの基準に当てはまった。BMIbody mass index)をもとに新規のMS出現頻度をみると,BMIが高くなる程MSの出現頻度は高くなった。一方,MSの出現数はBMI25/㎡以上において91人(39.6%)であり,25/㎡未満の方が出現数は多かった(139人)。また,生活習慣とMS出現との関連をみた結果,1日当たり2合以上の飲酒,現在喫煙していること,ついついお腹いっぱい食べてしまうことがMSの出現に有意に関連した。MS出現に対する性・年齢調整オッズ比は飲酒が2.0995%信頼区間:1.522.87),喫煙が1.39(同:1.031.87),お腹いっぱい食べることが1.51(同:1.142.01)であった。
結論 肥満はもとより,肥満以外からも血圧高値,耐糖能異常,脂質代謝異常が出現する場合が多く,それには飲酒,喫煙等の生活習慣が関連している可能性がある。
キーワード メタボリックシンドローム,血圧高値,糖代謝異常,脂質代謝異常,肥満,生活習慣

 

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第56巻第1号 2009年1月

老年期における死に対する態度尺度(DAP)短縮版の信頼性ならびに妥当性

針金 まゆみ(ハリガネ マユミ) 河合 千恵子(カワアイ チエコ) 増井 幸恵(マスイ ユキエ)
岩佐 一(イワサ ハジメ) 稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ)
小川 まどか(オガワ マドカ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ) 

目的 老年期における死に対する態度を簡便に測定するために,Gesserらが開発し,河合らが日本語版を作成した死に対する態度尺度(DAP)の短縮版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。
方法 対象者は,地域在住の60歳以上の男女1,546人であった。DAPオリジナル版21項目の因子分析結果より,4つの下位次元から3項目ずつ12項目からなるDAP短縮版を作成した。
結果 各下位次元のDAPオリジナル版とDAP短縮版の相関は,死の恐怖0.86,積極的受容0.94,中立的受容0.92,回避的受容0.82であった。DAP短縮版の各下位次元の信頼性係数(Cronbachのα)は,死の恐怖0.60,積極的受容0.59,中立的受容0.52,回避的受容0.54であった。性,年齢,現在の配偶状況,過去1年間の死別経験,主観的健康感,精神的健康と下位次元との間に有意な関連性がみられた。
考察 以上から,DAP短縮版の信頼性,妥当性はオリジナル版に近い性質を示しており,短縮版として使用可能であることが確認された。
キーワード 死,態度,尺度構成,信頼性,妥当性,地域在住高齢者

 

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第56巻第1号 2009年1月

地域レベルのソーシャル・キャピタル指標に関する研究

埴淵 知哉(ハニブチ トモヤ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)
前田 小百合(マエダ サユリ) 相田 潤(アイダ ジュン) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 健康との関連が注目されている地域レベルのソーシャル・キャピタル(SC)指標として,アンケート調査から測定された指標と,地域の協調行動,投票率,地域特性を表す指標との関連を検討し,地域レベルSCに関する基礎的な知見を導出する。
方法 2007年10月から11月にかけて,三重県志摩市に居住する60歳以上の住民20,466人に自記式調査票を郵送し,12,197票を回収した(回収率59.6%)。SC測定のための7つの質問への回答を26地区ごとに集計し,地域レベルのSC指標とした。協調行動として,地域福祉計画づくりの座談会参加割合および社会福祉協議会へのボランティア登録割合,投票率として衆院選,参院選,市長選,市議選の投票率,地域特性として人口密度,平均等価所得,高齢化率,居住年数を地区別に求め,SC指標との地域相関分析および多次元尺度構成法による全変数の関連性の視覚化を行った。
結果 「地域への信頼感」と「地域への愛着」(r=0.821,p<0.01),「垂直的組織への参加」と「近所付き合いの人数」(r=0.747,p<0.01)のように,認知的SC同士,構造的SC同士には強い正の相関関係が確認されたが,両者の間にはほとんど有意な関係がみられなかった。協調行動との関連については,座談会参加割合は構造的SC,反対にボランティア登録割合は認知的SCとの有意な正の相関を示した。投票率は構造的SCとのみ有意な正の相関を示した。地域レベルSCは多くの地域特性とも関連しており,人口密度および居住年数10年以下の回答者の割合とは負の相関関係を示した。
結論 認知的/構造的などの概念上の性質の違いが,測定された地域レベルSCの地域差としても確認された。今後のSC研究においては,その性質を区分して健康とより深く関連するSCを特定すること,さらに,地域特性や個人属性との交互作用についても研究を進める必要性が指摘された。
キーワード ソーシャル・キャピタル,協調行動,投票率,地域特性

 

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第56巻第1号 2009年1月

大阪府におけるがん患者に対する放射線療法実施の実態と需要量の予測

-放射線療法専門施設および米国との比較より-
伊藤 ゆり(イトウ ユリ) 井岡 亜希子(イオカ アキコ)
津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ) 西山 謹司(ニシヤマ キンジ)

目的 大阪府がん登録資料を用いて,大阪府におけるがん患者に対する放射線療法の実施状況を把握し,大阪府内の放射線療法専門施設や米国での実施状況と比較する。また,大阪府全体で放射線療法の実施を専門施設や米国での実施レベルに推進した場合の需要量を推計し,都道府県がん対策推進計画の基礎資料とする。
方法 大阪府がん登録資料に基づき,2000~2003年にがんと診断された大阪府全体のがん患者の放射線実施割合を大阪府の専門施設や米国における放射線療法の実施割合と比較した。その際,部位や進行度の分布が異なるため,大阪府全体の分布に調整し,比較した。専門施設あるいは米国の部位・進行度別の放射線療法実施割合を大阪府全体の部位・進行度別罹患数に乗じて,大阪府全体が専門施設あるいは米国での実施割合を達成した場合の需要量を推計した。
結果 大阪府において2000~2003年に診断されたがん患者の放射線療法実施割合は,全部位で14.9%であった。専門施設における放射線療法実施割合は部位および進行度分布を大阪府全体のものに調整すると18.8%となり,大阪府全体の実施割合よりも3.9ポイント高かった。米国における実施割合は胃がんを除いた全部位で比較した。大阪府における胃がんを除く全部位の放射線療法実施割合は18.3%であったが,米国では部位および進行度分布を調整すると26.5%であり,8.2ポイント高かった。専門施設での実施割合を実現した場合には大阪府での実施件数は年平均628件増加し,これを専門施設でまかなう場合,1.3倍の負担増になると推計された。米国での実施割合を実現した場合には年平均1,189件増加し,これを見込むと放射線療法需要件数は現在の1.5倍となった。
結論 大阪府におけるがん患者に対する放射線療法の実施割合は放射線療法専門施設や米国における実施割合と比較すると少なく,同程度の割合で実施するためには1.3倍,1.5倍の負担増となり,施設面,人員面での拡充が必要であることが示唆された。
キーワード がん登録,放射線療法,医療需要量推計,がん対策,医療計画,日米比較

 

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第56巻第1号 2009年1月

国民健康保険レセプトデータを用いた奈良県の医療の実態に関する分析

岸川 洋紀 (キシカワ ヒロキ) 安川 文朗(ヤスカワ フミアキ)

目的 近年,医療費の増大や医療費の地域差が問題となっている。これらの問題を緩和するために,都道府県では法に基づく医療費適正化計画の作成および対策の実施が求められており,都道府県内の医療の実態について把握することが急務である。本研究では,奈良県を対象とし,国民健康保険(国保)の診療報酬明細書(レセプト)データから県内の医療の実態を推察することを試みた。
方法 対象としたデータは平成18年5月診療分の奈良県国民健康保険診療報酬明細書データである。入院および入院外医療を分析の対象とした。二次医療圏別に年齢階層別の1人当たり医療費を計算し,医療費の地域差について検討した。また,市郡別の医療費や医療費に関連する各種指標の相関を求め,医療費に影響を与えている要因について検討した。
結果 後期高齢者において入院,入院外とも1人当たり医療費が二次医療圏間で大きく異なっており,県内において医療費に地域差が生じていることが確認された。後期高齢者の1人当たり医療費は,比較的都市化が進んでいる県北西部で高く,山間部が多い県南東部で低くなっていた。1人当たり医療費と各指標間の関連を調べると,入院,入院外とも受診率との間に強い関連が認められた。入院においては,レセプト1件当たり医療費との間にも関連が認められたが,受診率との関連と比べると弱いものであった。入院外においては,レセプト1件当たり医療費との間には関連はみられなかった。また,入院外では,受診率とレセプト1件当たり医療費との間に強い負の相関が認められた。
考察 県内で生じている医療費の地域差は,入院,入院外とも,受診率の地域差が主な要因であると考えられた。県北西部で受診率が高く,県南東部で低いことから,交通の便などによる医療施設へのアクセスの容易さなどが受診率に影響を与えており,医療費の地域差にも影響を与えているものと考えられる。また,入院外において,受診率とレセプト1件当たり医療費との間に負の相関が認められたことから,都市部において頻繁に診療を受けようとする患者側の受診行動の問題や,受診率の低い地域において診療の単価を上げようとする医療施設などの供給側の問題が生じている可能性が考えられる。
キーワード 医療費,後期高齢者,国民健康保険,二次医療圏,受診率

 

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第56巻第1号 2009年1月

男子平均寿命の国内格差について

-青森県と長野県の比較を通して-
綿引 信義(ワタヒキ ノブヨシ) 畑 栄一(ハタ エイイチ)

目的 青森県と長野県における男子平均寿命の格差を年齢構造と死因構造から分析し,男子平均寿命の国内格差の縮小に資することを目的に検討した。
資料および方法 都道府県別生命表(1995年,2000年,2005年),人口動態統計(1995~1997年,1999~2001年および2003~2005年)そして国勢調査結果(1995年,2000年,2005年)を用い,年齢階級別死亡率が男子平均寿命の格差に寄与している年数・割合と年齢階級別死因別死亡率の格差が男子平均寿命の格差に寄与している年数・割合を算出した。
結果 青森県と長野県の男子平均寿命の格差は,1995年の3.37年から2000年の3.23年へ0.14年縮小し,2005年には3.57年と拡大した。1995~2005年における両県の男子平均寿命の格差に対する年齢階級別死亡率の格差の寄与年数は,55~79歳の間の年齢階級で最も大きかった。また,2005年の60~64歳を除いて10%以上の寄与割合を示し,いずれの年次においても55~79歳の寄与割合は55%以上であった。一方,2005年には0歳の寄与割合は0.0%となり格差への寄与がなくなった。平均寿命の格差に対する死因別死亡率の格差の寄与年数の順位は,3年次とも第1位悪性新生物,第2位心疾患と不変であるが,2005年に自殺が肺炎に変わって第3位となった。悪性新生物の寄与年数は,年次の推移とともにそれぞれ0.97年,1.04年,1.11年と上昇していた。2005年の55~79歳の年齢層における寄与年数は,悪性新生物0.80年,心疾患0.32年,脳血管疾患0.20年,肺炎0.17年および自殺0.13年であった。
結語 これらの結果から,両県の男子平均寿命の格差を縮小するためには55~79歳の年齢階級およびその格差に対する寄与が大きい3大死因(悪性新生物,心疾患,脳血管疾患),自殺,肺炎に焦点を当てたさらなる検討が必要であることが示唆された。
キーワード 男子平均寿命,格差,年齢階級別死亡率,死因別死亡率,寄与年数

 

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第56巻第1号 2009年1月

今後の国民生活基礎調査の在り方についての一考察:健康票を中心に

橋本 英樹(ハシモト ヒデキ)

目的 国民生活基礎調査は,国民生活に関わる基礎的事項を世帯面から調査する指定統計である。第1回調査から20年余が経過し,求められるニーズも大幅に変化・多様化してきている。そこで国民生活基礎調査の政策的・学術的意義や現状における検討課題について整理を試みた。
方法 本統計の策定・利用に関わった経験をもつ有識者から意見聴取を行った。あわせて総務省・旧統計審議会などの討議資料,先行研究事業報告書を参照した。
結果 世帯を単位として健康に影響する社会経済的要因を包括的に測定できている点では本統計の社会的意義は極めて高いが,健康を規定する社会経済的・心理行動学的要因について政策的取り組みとの位置づけを明確にモデル化した上で,測定項目の削除・追加を検討する必要があると考えられた。「健康」概念について主観的・客観的健康,社会活動を支える資源(インプット)としての健康と,社会経済的状況や生活習慣などの結果(アウトプット)として現れる健康と2面性を持つことを考慮し,時間的概念も取り入れた質問の設計や縦断的調査の部分的導入など検討する余地があると思われた。調査規模としては都道府県表彰を許す規模が望ましいと考えられ,現在の所得票・介護票については対象拡大することが求められるが,同時に地域代表性を確保できるような確率論的サンプリングのあり方を検討する必要もあると思われた。学術・政策評価のための目的外利用については個人情報保護に十分配慮しつつ,より開かれた体制で行われることが望ましいと考えられた。
結論 上述された課題に取り組むうえで,まず本統計が社会的共有財産として国民生活の向上にいかに資するのかについて,国民に広く開かれた形で設計・実施・結果公表のあり方を検討することが先決であると考えられた。
キーワード 国民生活基礎調査,健康票,世帯面統計,社会的健康決定要因,新統計法

 

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第56巻第2号 2009年2月

新型インフルエンザ等に関するインターネットを利用した質問紙調査

山上 文(ヤマガミ フミ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ)
鈴木 建彦(スズキ タケヒコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 新型インフルエンザ等への対策を早急に講じるため,インフルエンザ,鳥インフルエンザ,新型インフルエンザに関する国民の知識の現状を把握することを目的とした。
対象と方法 gooリサーチに公募によって登録している20歳台から50歳台消費者モニター1,019人を対象としたインターネット調査で,2006年8月21日から2006年8月22日にかけて実施した。質問は,流行状況,国内発生,感染経路,予防方法,対処方法(行動),治療法の有無,法律の有無とその内容など,全40問である。回答は「はい」「いいえ」の二者択一形式である。
結果 インフルエンザに関して各問の平均正答率は約90%であったが,鳥インフルエンザ,新型インフルエンザの平均正答率は約70%であり,正答率が50%程度に満たない問いもあった。新型インフルエンザに関しては,「新型インフルエンザとは,現在,ヒトに感染している鳥インフルエンザのことである」「これまで鶏肉を食べて鳥インフルエンザに感染した例はない」「新型インフルエンザに対するワクチンは,現在病院で接種することができる」などの正答率が低く,誤った知識を得ていた。
結論 インターネット調査は,迅速性と簡便かつ低コストという点から,早急に対策を講じる必要がある際に活用できると考えられた。インフルエンザと,鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザにおいて正答率に差異がみられたのは,インフルエンザが毎年流行が起こる身近な問題であるのに対し,鳥インフルエンザや新型インフルエンザは最近知られるようになったからだと考えられる。報道や,流行の経験などで,知識の獲得に差が生じることが推察された。
キーワード 新型インフルエンザ,鳥インフルエンザ,インフルエンザ,インターネット調査,普及啓発

 

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第56巻第2号 2009年2月

一般住民のインフルエンザ予防接種歴とH5N2鳥インフルエンザウイルス中和抗体

緒方 剛(オガタ ツヨシ) 山崎 良直(ヤマザキ ヨシナオ) 岡部 信彦(オカベ ノブヒコ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 田代 眞人(タシロ マサト) 永田 紀子(ナガタ ノリコ)
板村 繁之(イタムラ シゲユキ) 安井 良則(ヤスイ ヨシノリ) 中島 一敏(ナカシマ カズトシ)
土井 幹雄(ドイ ミキオ) 泉 陽子(イズミ ヨウコ) 藤枝 隆(フジエダ タカシ)
大和 慎一(ヤマト シンイチ) 川田 諭一(カワダ ユイチ) 

目的 一般住民において,インフルエンザ予防接種歴や年齢がH5N2中和抗体陽性と関連しているかについて検討を行う。
方法 一般住民165名を調査対象とした。年齢,養鶏場従事歴,過去1年間のインフルエンザ予防接種歴およびインフルエンザ罹患歴などの変数に対して,H5N2中和抗体価をマン・ホイットニ-検定で比較した。インフルエンザ予防接種歴のある者とない者について,H5N2中和抗体40倍以上の陽性率を計算した。変数のH5N2中和抗体価への関連を調べるため,ロジスティック回帰分析を用いてオッズ比を計算した。
結果 H5N2中和抗体陽性率は,予防接種歴のある対象では16%,予防接種歴のない対象では6%であり,各年齢層でもまた養鶏場従事の有無に分けても,予防接種歴のある者は接種歴がない者よりも高かった。インフルエンザ予防接種歴のある者の調整をしないオッズ比は3.3(95%信頼区間:1.1-9.8),調整オッズ比は3.9(95%信頼区間:1.1-14.2),40歳以上の者の調整をしないオッズ比は8.8(95%信頼区間:1.1-68.9),調整オッズ比は8.5(95%信頼区間:0.99-72.9)であった。
結論 一般住民において,インフルエンザ予防接種歴はH5N2中和抗体陽性と関連していた。
キーワード インフルエンザ,H5N2,中和抗体,予防接種,年齢

 

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第56巻第2号 2009年2月

介護老人福祉施設における機能訓練の現状と課題

小林 規彦(コバヤシ ノリヒコ)

目的 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)では,その基本方針である居宅生活復帰を念頭に置いて,入所者が自立した日常生活を営むことを目指し,機能訓練指導が行われている。この機能訓練の実施に対し,現在は個別機能訓練加算が算定されているが,この加算は平成18年度から導入されたもので,以前は常勤の理学療法士等の配置加算という算定方式であった。本研究では,機能訓練の加算方式が改定された平成18年前後の状況を比較し,現制度下での介護老人福祉施設における機能訓練の現状と課題を示し,今後の方策について考察する。
方法 老人福祉法と介護保険法ならびに諸基準の解釈と,厚生労働省大臣官房統計情報部「平成18年社会福祉施設等調査報告の概況」および「平成18年介護サービス施設・事業所調査結果の概況」を参考とするほか,著者が平成16年と19年に実施した「介護老人福祉施設における機能訓練の実態調査」をもとにまとめた。対象は,東京都内6カ所の介護老人福祉施設で,調査内容は,施設概要と施設環境(施設内外の環境,入所者の処遇,就労実態,公表内容との相違等),機能訓練の実態について,現地にて聞き取りおよび一部参与観察にて調査した。聞き取り調査は主に施設長,機能訓練指導員に対して実施し,参与観察は機能訓練実施場面を直接観察した。
結果 介護老人福祉施設は,施設数,入所定員,在所者数すべてにおいて年々増加し,入所者の構成割合では高齢化が進み,平均要介護度の上昇も認められた。入所者の生活状況は,寝たきりが平成15年では70.8%,平成18年では73.7%と多くの割合を占めていた。機能訓練の実施に際して,専門性に応じた役割分担的な職務形態をとる傾向がみられた。入所者に対する実施割合ついては,平成16年ではすべての施設において常勤の理学療法士等の配置加算の算定を行っていたが,全入所者を対象としていたのは1施設のみであった。平成19年では全入所者を実施対象とする施設は存在せず,すべての施設において実施割合が減少していた。機能訓練によって入所者の要介護度の変化は平成16年,19年ともに認められなかった。入所者の居宅生活復帰に向けた取り組みについて,すべての施設が機能訓練のみと回答していたが,実現は極めて稀で困難な課題であることがわかった。
結論 介護老人福祉施設において,機能訓練がその目的を果たすためには現行制度ではあまりに<ルビ>脆ぜい弱じゃく<ルビ終>である。より高頻度で継続的な機能訓練が入所者に対し行われる環境にするためには,実施体制の整備が急務であり,居宅生活復帰の実現には復帰後の地域でのサポート体制の充実が必須である。しかし,単に制度改革を望むことは現実的には困難であり,現状において既存の体制化で何らかの有効な方策を考えることも必要である。今後の研究課題として取り組みたい。
キーワード 介護保険,介護老人福祉施設,機能訓練,居宅生活復帰

 

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第56巻第2号 2009年2月

岩手県立病院常勤医師数の推移と臨床研修制度導入の影響

松嶋 大(マツシマ ダイ) 岡山 雅信(オカヤマ マサノブ)
松嶋 恵理子(マツシマ エリコ) 梶井 英治(カジイ エイジ)

目的 全国で最も県立医療機関が多い岩手県を対象に,自治体病院常勤医師数の推移,臨床研修制度導入による自治体病院常勤医師数への影響の2点を明らかにすることを目的に調査を行った。
方法 対象は平成17年3月31日時点のすべての岩手県立医療機関である。調査項目は,平成8,14,16年度の各対象の病床数,病床利用率,1日平均入院患者数,1日平均外来患者数,常勤医師数である。さらに比較のため,平成8,10,12,14,16年度の岩手県内および盛岡市内の医療施設従事者数,盛岡市内診療所数のデータを入手した。すべての項目について年度ごとに,医療機関別および2次医療圏別に単純集計を行い,比較検討した。
結果 対象医療機関(以下,岩手県立病院)は27施設で,すべて病院であった。岩手県立病院全体の常勤医師数は,平成16年度(518名)は8年度(501名)からは増加していたが,14年度(531名)よりは減少した。病院別には,平成8年度から16年度にかけて一貫して常勤医師数が増加した病院は3施設のみであった。また,平成14年度(研修制度導入前)から16年度(研修制度導入後)にかけて,常勤医師数が増加した病院はわずか4施設のみであり,13施設で減少した。2次医療圏別には,平成8年度から16年度にかけて一貫して増加したのは3医療圏のみであり,2医療圏では一貫して減少していた。平成8年度を基準とした16年度時点の岩手県立病院常勤医師数の増加率は3.4%であり,同期間の全国(11.5%)と比較すると,岩手と全国との間に増加率の大きな差を認めた。なお岩手県内の医師数増加のほとんどが盛岡市(県庁所在地)に集中していた。
結論 岩手県立病院の常勤医師数は,平成8年度から16年度にかけてわずかに増加しているものの,その増加の程度は全国と比較して低く,医師数増加(推移)に都市部と地方の格差(地域偏在)がある。また,岩手県立病院では臨床研修制度導入前後で常勤医師数が減少しており,同制度が常勤医師数の増加の減速因子となっている可能性がある。
キーワード 自治体病院,医師不足,医師偏在,新医師臨床研修制度,岩手県

 

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第56巻第2号 2009年2月

浴槽での不慮の溺死・溺水の記述疫学

松井 利夫(マツイ トシオ) 鏡森 定信(カガミモリ サダノブ)

目的 保管統計表を含む「人口動態統計」を用いて,不慮の溺死・溺水の人数や死亡率(人口10万対)の推移を調べ,「浴槽に関連する溺死」の性別年齢区分別,家庭やサービス施設など発生場所別死亡数や死亡率を明らかにし,さらに,都道府県別地域性についても検討した。
方法 昭和55年から平成17年までの26年間の「人口動態統計」(保管統計表)を用いた。平成6年以前は外因性の「不慮の溺死」(E110)を,平成7年以降は「不慮の溺死」(死因簡単分類コード:20103,死因基本コード:W65~W74)を用いて,分類(発生状況)別と発生場所別死亡数や死亡率を算出し,全国の性別年齢階級別死亡数や都道府県別分類別死亡数から国勢調査人口を基に死亡率を算出した。
結果 不慮の溺死数は平成7年から急激に増加し,約6千人で微増・横ばいで推移している。平成7年以降の高齢者割合は67%で,平成12年から17年までの不慮の溺死率(人口10万対)の年平均は男性5.2,女性4.0であり,「浴槽での不慮の溺死」率は男性2.7,女性2.8であった。「浴槽での溺死」総数は3,471人(全年齢の59%)であり,そのうち「家庭」では3,082人(89%),「サービス施設」では231人(7%)であった。高齢者での「家庭」または「サービス施設」のいずれにおいても男性の死亡率が高かった。最近7年間の都道府県別「家庭の浴槽での溺死」率を比較したところ,男女とも富山県や福井県で高く,東北地区の日本海側でおおむね高い傾向が認められ,「サービス施設の浴槽での溺死」率も男女とも富山県や福井県が高かった。
結論 不慮の溺死の6割弱が「浴槽」で発生し,「家庭」での発生割合は89%で,「サービス施設」では7%であった。「浴槽での溺死」の85%が高齢者であり,「家庭の浴槽」での溺死率は全年齢でみた場合,女性がやや高かったが,高齢者では男性が高くなった。「サービス施設」では男性の死亡率が女性より5ないし10倍程度高く,性差が示唆された。「浴槽での溺死」率は北陸・信越地区や東北地区日本海側で高く,環境気象や家屋構造などの他に入浴習慣などの関連も示唆された。
キーワード 不慮の溺死・溺水,記述疫学,浴槽での溺死,家庭,サービス施設

 

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第56巻第2号 2009年2月

訪問介護の利用を決定する要因に関する研究

-ケアマネジャーに対する量的調査をもとに-
笠原 幸子(カサハラ サチコ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究は,ケアマネジャーは利用者の生活を全体的に把握して介護サービスの利用を決定しているという仮説にもとづき,要介護認定者を対象に訪問介護サービスの利用の決定に関連する要因を明らかにすることを目的とする。
方法 近畿地方にあるA地域ケア協議会の協力を得て,同協議会研修会終了後,参加者(ケアマネジャー)に調査目的を説明し協力を依頼した。理解を得られたケアマネジャーのみに調査票を配布した(112名)。調査方法は自記式質問紙を用いた横断的調査法であり,調査期間は,2007年1月の約2週間である。当該ケアマネジャーが担当している利用者に関するデータをもとに,訪問介護の利用の有無を従属変数,利用者の基本的属性,身体機能状況,精神心理状況,社会環境状況の3領域に大別した各変数を独立変数とする2項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 有効回収率は73.2%(82名)で,利用者に関する回答数は1,587(分析対象者数)を得た。2項ロジスティック回帰分析による結果,訪問介護利用の決定に有意な関連があった変数は,「性別」「要介護度」「協力者の就労の有無」が有意な正の関連を示した。一方,「認知症老人の日常生活自立度判定基準」「日常生活での近隣との関わり」「人を自宅に入れたがらない傾向」「世帯規模」「経済状況」が有意な負の関連を示した。
結論 本研究において,ケアマネジャーは利用者の身体機能状況に特化して訪問介護の利用を決定しているのではなく,身体機能状況,精神心理状況,社会環境状況の相互連関性と相互依存性を考慮し,利用者の生活をホリスティック(全体的)に捉えて訪問介護の利用を決定していることが明らかになった。具体的には,訪問介護の利用の決定要因は,利用者の身体機能状況では,「要介護度」と「認知症老人の日常生活自立度判定基準」,利用者の精神心理状況では,「人を自宅に入れたがらない傾向」と「日常生活での近隣との関わり」,利用者の社会環境状況では,「協力者の就労の有無」「世帯規模」「経済的状況」であることが明らかになった。
キーワード 訪問介護,サービス利用の決定要因,ホリスティック(全体的)視点

 

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第56巻第2号 2009年2月

法医剖検例からみた高齢者死亡の実態と背景要因

-いわゆる孤独死対策のために-
松澤 明美(マツザワ アケミ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 山本 秀樹(ヤマモト ヒデキ)
山崎 健太郎(ヤマザキ ケンタロウ) 本澤 巳代子(モトザワ ミヨコ) 宮石 智(ミヤイシ サトル)

目的 高齢者のいわゆる「孤独死」は深刻な社会問題であり,その予防は重要な政策課題である。しかし実証的データはほとんどなく,その定義も議論上にある。そこで本研究は高齢者のいわゆる孤独死対策に向けた基礎的資料を得るために,まず法医剖検例となった高齢者すべての死亡(すなわち誰にも看取られなかった高齢者死亡)の実態と背景要因を明らかにすることを目的とした。特に,これまで狭義の孤独死の定義として議論になってきた点である世帯構成による実態の違いに着目した。
方法 岡山大学における平成17~18年の同一医師による法医剖検例から65歳以上の死者を抽出し,剖検記録から死因の背景要因となる情報を収集した。全体の状況の記述に加え,世帯構成別に分け,背景要因を比較した。
結果 剖検例210例のうち65歳以上の61例を分析した結果,死因の種類では「不慮の外因死」が77%,直接死因では「焼死」が全体の41%であった。世帯構成では「独居」46%,対象者の特性では杖歩行や義足,片麻痺,寝たきり等,日常生活動作の自立度が低い事例が36%みられた。発見時の状況では,第一発見者は「近隣の人」が41%で,死亡から発見までの時間では,「1日以上」発見されなかった事例は31%であった。また,「1カ月以上」発見されなかった5例のうち,世帯構成の明らかになった3例はすべて「独居」であり,ミイラ化や高度腐乱状態で発見された事例も含まれていた。また,火災等に関する死亡が53%あり,出火原因および場所では「台所・コンロ等」19%,次いで「タバコ」「ストーブ」各16%,「灯明」13%であった。
結論 法医剖検例からみた高齢者の看取られない死(このうちすべてが予防すべき孤独であるかは議論を要する)は,世帯構成でみると,約半数が独居であった。また,独居事例では病死が多く,死亡から発見までの時間が長い事例もみられた。これらのことから,高齢者の看取られない死は必ずしも独居者のみの問題ではなく,その対策としては,独居に限らない高齢者への包括的対策,独居者に対しては心理的・社会的孤立予防への対策がより重要と考えられた。また,対象者は約7割が不慮の外因死であり,特に火災等に関する死亡が多くを占めていたことから,高齢者の不慮の事故対策は重要であり,中でも火災への予防的対策は急務の課題であることが明らかになった。高齢者の「孤独死」とは何かについては今後,より議論を要するが,具体的な対策を講じていくため,把握が難しい個々の事例のさらなる実態把握とそれに基づく検討が必要である。そのためには法医剖検例に基づく背景の疫学的検討は非常に有効であり,法医公衆衛生学ともいうべき新たな研究分野が必要と考える。

 

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第56巻第3号 2009年3月

札幌市における放火の疫学

西 基(ニシ モトイ)

目的 放火事例について,時間的要因の側面を中心として疫学的解析を行う。
方法 2003年1月1日から2007年12月31日までに札幌市消防局が放火もしくは放火の疑いと認定した695件の火災事例を対象とした。対象の5年間のすべての日を休日の観点から分類し(3連休以上の連休入りの前日・中日・明け,通常日曜・通常月曜など),それぞれの日における放火発生頻度を算出した。放火発生時刻は通常の社会活動の観点から5種類(未明・朝・昼・夕刻・夜)に分けた。放火の目的は自殺とそれ以外(ほとんどが単純な放火)に分けた。
結果 対象とした5年間の1日当たり件数は平均0.38件であったが,5月から10月は概して平均より多く,11月から4月までは平均より低かった。これは全国における傾向とは正反対であった。通常金曜から通常月曜にかけて,また連休などの前から後にかけて,発生頻度が単調に増加した。全体の約2割が通常月曜や連休明けなどの休日明けに発生していた。時刻別にみると,全体の約6割が未明と夜に発生していた。全体の約7%を占める自殺放火は昼間に多く,自殺以外の放火とは対照的な時間的分布を示した。通常日曜夜から通常月曜未明にかけて自殺以外の放火が多くみられたが,連休明けは,自殺放火が多いこともあって昼間の頻度が高かった。
結論 札幌市において冬季に放火の頻度が低下することは,低気温や降雪が放火の意志を削ぐことが一因と推測される。一般に自殺は長期休暇明けや週明けに多く発生するが,自殺放火はもちろん,それ以外の放火の特徴もこれと類似しており,全国における失業率と単位人口当たりの放火発生率・自殺率・離婚率の年次推移が極めて強い相関を示したこととも合わせ,放火についても自殺や離婚と共通する社会病理学的背景が想定された。
キーワード 疫学,時間的要素,社会病理学,放火

 

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第56巻第3号 2009年3月

介護保険主治医意見書に記載された診断名の解析

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 田中 千恵美(タナカ チエミ) 板並 智子(イタナミ トモコ)
渡辺 美野子(ワタナベ ミヤコ) 北島 純子(キタジマ ジュンコ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ)
今任 拓也 (イマトウ タクヤ) 百瀬 義人(モモセ ヨシト) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 介護保険における主治医意見書の診断名記載欄に傷病名がどのように記載されているかを把握し,主治医意見書に記載された情報を活用する上での問題点とデータベースを構築する上での留意点を検討した。
方法 2000年2月から2007年1月の期間に福岡県Y町(2005年3月22日以後は市町村合併により福岡県T町Y地区)にて要介護認定を受けたすべての者の主治医意見書482件について,性,記入日時点での年齢,3行の診断名記載欄に記載された傷病名を抽出してデータベース化を実施し,主治医意見書ごとに傷病名が記載された記載欄の行数,記載欄に記入された傷病名数,傷病名の総数を集計した。
結果 診断名記載欄の1行目には482件の主治医意見書すべてに傷病名の記載が認められた。54件(11.2%)の主治医意見書で診断名記載欄の1行目に複数の傷病名が記載されていた。診断名記載欄の1行に記載されていた傷病名数の最大値は4であった。主治医意見書に記載された傷病名の総数の最大値は7であり,傷病名数が3のものが232件(48.1%)と最も高い割合を占めていた。診断名記載欄の1行目において,最も多く認められた傷病名は「血管性及び詳細不明の認知症」であり,2行目および3行目の診断名記載欄では「高血圧性疾患」が最も多く認められた。
結論 診断名記載状況が「主治医意見書記入の手引き」に示された様式に従っていない主治医意見書が10%以上存在することが明らかになった。主治医意見書は介護認定審査会における要介護度の最終判定にも用いられ,介護保険に関する貴重な情報が記載されている。しかし,介護保険事業状況報告,介護給付費実態調査,介護サービス施設・事業所調査などの介護保険に関する統計調査には用いられていない。診療報酬明細書(レセプト)は国民医療費,社会医療診療行為別調査,国民健康保険医療給付実態調査などの医療費に関する統計調査における基礎資料としても用いられている。現行の主治医意見書が有する課題を十分把握した上で,レセプトオンライン化と同様に記載情報の全項目が利用可能な制度を設計することにより,医療保険と介護保険を突合した分析が可能となれば,高齢化の進行に伴い増大するわが国の社会保障費の問題をより実態に沿った形で検討することができる。
キーワード 主治医意見書,診断名,介護保険,要介護認定

 

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第56巻第3号 2009年3月

離島高齢者における終末期ケアの意向に関する調査

松井 美帆(マツイ ミホ) 川崎 涼子(カワサキ リョウコ)
新田 章子(ニッタ アキコ) 松本 雅子(マツモト マサコ)

目的 離島在住高齢者の終末期ケアの意向を明らかにすることを目的として,都市部高齢者と比較検討を行った。
方法 対象は60歳以上の老人クラブ会員825名で,長崎県五島列島における2島嶼部の福江島,宇久島に在住する離島高齢者260名,広島市,宇部市の都市部在住高齢者565名であった。有効回答である離島185名(71.2%),都市313名(55.4%)を分析対象とした。対象者には,終末期の療養場所の希望,延命治療の意向,事前指示の認知と支持に関する自記式質問紙調査を行った。
結果 対象者の平均年齢は,離島高齢者71.9±5.7歳,都市高齢者75.4±5.4歳で,性別は男性が52.4%,55.3%であった。終末期の療養場所の希望については,離島高齢者では在宅が73.1%%と最も多く,次いで病院12.9%,高齢者施設11.1%,都市高齢者では在宅44.6%,病院30.0%,ホスピス・緩和ケア病棟20.2%と有意な差を認めた。延命治療の意向については,両群で「医師の判断に任す」が40.1~55.9%と最も多く,人工呼吸器,人工栄養では2群間で有意な差を認め,離島高齢者では「希望しない」が都市高齢者より多かった。事前指示について,リビング・ウイルの認知は離島高齢者で低かったが,リビング・ウイルについては共に70%以上が支持しており,代理人指定については離島高齢者では78%と都市高齢者62.2%より有意に支持率が高かった。
結論 離島高齢者における終末期ケアの意向については,都市部高齢者と異なる傾向が認められ,ホスピス・緩和ケアや事前指示に関する情報提供や,リビング・ウイルや代理人指定の支持の高さから,患者・家族との話し合いにより離島在住高齢者の意思を尊重した医療が提供されることが望まれる。
キーワード 終末期ケア,離島高齢者,延命治療,事前指示,リビング・ウイル,代理人指定

 

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第56巻第3号 2009年3月

介護保険認知症データ分析からみた地域密着型サービスの普及

平野 隆之(ヒラノ タカユキ) 奥田 佑子(オクダ ユウコ)

目的 地域密着型サービスの創設など市町村主導による認知症高齢者の地域ケアシステムの構築が求められているなか,自治体には自らの地域の評価が求められている。しかし,認知症を対象としたサービス利用構造の分析や自治体間の比較は行われていないため,自治体の特徴や課題を把握することが難しい現状にある。そこで本研究では日本福祉大学におけるこれまでの介護保険評価の実績を生かし,自治体間比較から認知症高齢者の利用サービスの最新状況と地域特性を明らかにするとともに,小規模多機能型居宅介護(以下,小規模多機能)の高普及地域をモデルに整備後の費用構造の変化を捉え,小規模多機能の利用実態を把握することを目的としている。
方法 11の自治体から提供を受けた2007年6月の認定データと給付データ(75,662人分)について自治体間比較を行う。動ける認知症利用者について,「施設」「特定施設」「グループホーム」「小規模多機能」「複数機能」「単機能」のサービス類型を用いて分析する。B市(高普及地域)の2006年3月と2007年6月の2時点の比較から費用構造の動態を分析し,小規模多機能が導入されて以後の18カ月間(2006年4月~2007年10月)のデータから利用の実態を分析する。
結果 動ける認知症は増加傾向にあり,介護保険費用の3割以上を占める。最も多い地域では42%,少ないところでは26%となっている。1人当たり費用額では地域間で25,700円の差があり,高い地域では施設の利用割合とともに,特定施設,グループホーム,小規模多機能の利用割合も高くなっている。このうち,小規模多機能の整備が最も進んだB市では,小規模多機能が増えることで,施設割合と単機能割合が減少するという費用構造の変化が起きている。小規模多機能の利用実態は定員に対して約50%の利用率となっている。動ける認知症が65%となっており,平均要介護度は2.01だった。小規模多機能の利用は約半数が新規利用であり,継続利用者は単機能からの移動が最も多い。
結論 動ける認知症は「グループホーム」や「特定施設」「小規模多機能」など報酬単価の高い在宅サービスの利用率が高いことから,1人当たり費用額は「施設」と併せてこれらのサービスによって規定される。小規模多機能の利用者は比較的軽度で新規の利用が多いため,「単機能」の利用率が下がるなど,高普及地域では費用構造に変化が生じている。今後利用率が増えることでその影響は大きくなるとともに,積極的な整備を行う地域とそうでない地域での地域差が広がると考えられる。
キーワード 介護保険,動ける認知症,サービスパッケージ,自治体間比較,小規模多機能型居宅介護

 

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第56巻第3号 2009年3月

介護予防施策の対象者が健診を受診しない背景要因

-社会経済的因子に着目して-
平松 誠(ヒラマツ マコト) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ)

目的 介護予防の特定高齢者施策では,65歳以上の高齢者の5%相当を事業の参加者と見込んでいたが,実際の参加者は0.14%と少なく,事業の見直しが求められている。そこで,特定高齢者に該当するような虚弱高齢者の特徴,スクリーニングの場とされている健診を受診しないことと関連する因子,健診以外のスクリーニング方法の可能性について検討した。
方法 9自治体に居住する要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象とした。特定高齢者施策の対象者選定で用いられる基本チェックリストに類似した項目を含む自記式調査票を郵送で配布回収した。分析対象は,39,765名(回収率60.8%)で,性別,年齢,治療の有無,通院頻度,主観的健康感,飲酒,喫煙,老研式活動能力指標,GDS(高齢者うつ尺度)15項目版,健診受診の有無,所得,教育年数,気兼ねなく外出できる場所の項目を用いた。
結果 「特定高齢者」には,28.2%が該当した。年齢が高く,女性で,医療機関での治療や通院をし,毎日3合以上飲酒や喫煙をしており,活動能力が低く,主観的健康感が悪くうつ傾向・うつ状態で,社会経済的階層が低い者が多かった。なかでも,主観的健康感のよくない者で65.2%ととてもよい者(10.2%)の6倍,等価所得300万円以上で21.1%に対し,50万円未満では35.9%と1.7倍も多くみられた。健診未受診者は,年齢が高く,医療機関での治療や通院をしておらず,飲酒や喫煙をしており,活動能力が低く,主観的健康感やGDSが悪く,社会経済的階層が低い者が多かった。今回の調査で把握できた「特定高齢者」のうち46.1%は健診未受診者であった。健診以外のスクリーニングの場をさぐるために高齢者が気兼ねなくいける外出先をみたところ,公共施設や仕事場は少なく,自宅周辺,病院・診療所が多かった。
結論 健診には元気な人ほど来ており,介護予防事業の対象となる「特定高齢者」の半数は受診していなかった。健診を介してスクリーニングする方法にだけ頼るのには限界があると思われる。医療機関や郵送アンケートの活用,社会経済的な地位が低い人に虚弱な高齢者が多いことに着目したアプローチなどを考えるべきであろう。
キーワード 介護予防,特定高齢者,虚弱高齢者,健診,社会経済的因子

 

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第56巻第4号 2009年4月

都市部前期高齢者の向老期と現在の生き方の継続性

-認識レベルによる横断的検討-
中原 純(ナカハラ ジュン) 藤田 綾子(フジタ アヤコ)

目的 本研究の主要目的は都市部前期高齢者の向老期の生き方と現在の生き方の認識が継続的であるという仮説を検証することである。そのために50歳から64歳の人々を対象として高齢期の望ましい生き方として尋ねられた3因子13項目を用いて,前期高齢者が回顧した向老期の生き方,および前期高齢者の現在の生き方を検討することの妥当性を検証し,向老期の生き方と現在の生き方の関連を検討することを目的として分析を行う。
方法 対象者は大阪府吹田市在住の前期高齢者の男女33,530名(男性15,643名,女性17,887名)から,住民基本台帳を用いて無作為抽出した男女1,325名(抽出率3.95%)である。調査方法は郵送法による質問紙調査であり,中原・藤田の生き方に関する13項目(向老期の生き方および現在の生き方)について1項目でも記入漏れのある回答紙を除いた結果,最終的に男女479名(平均年齢69.11歳,標準偏差2.64)が分析の対象となった。調査内容は,基本属性(年齢,性別,主観的健康状態,主観的経済状況,最終学歴),高齢期の生き方,向老期の生き方とした。
結果 検証的因子分析の結果,向老期の生き方および現在の生き方の適合度はおおむね良好であった。すなわち,向老期の生き方および現在の生き方の認識を,中原・藤田で示された「変化・挑戦的生き方」「安定・防衛的生き方」および「同調的生き方」の3因子で捉えることの妥当性が示された。次に,向老期の生き方の各因子を独立変数,現在の生き方の各因子を従属変数とする重回帰分析を行った結果,向老期の「変化・挑戦的生き方」は現在の「変化・挑戦的生き方」と,向老期の「安定・防衛的生き方」は現在の「安定・防衛的生き方」と,向老期の「同調的生き方」は現在の「同調的生き方」とそれぞれ強く関連していることが示された。
結論 前期高齢者は,認識レベルにおいては,向老期の生き方を継続するような生き方を行っており,生き方の認識については継続性理論の妥当性が示唆された。
キーワード 前期高齢者,向老期の生き方,前期高齢期の生き方,継続性理論

 

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第56巻第4号 2009年4月

ドイツの公的介護保険にみる給付の傾向と特徴

佐藤 影美(サトウ エミ)

目的 ドイツの公的介護保険は,日本の公的介護保険導入時に参考にされた制度である。日本とは異なり,導入時からほとんど変更されずに制度が維持されてきている。公的介護保険に関連する社会・経済的指標と介護給付等のデータを分析することを通して,ドイツにおける給付の傾向と特徴を検討することを目的とした。
方法 Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計庁)による連邦州各々の公的介護保険に関連する21種類の指標の4年分,7年間にわたるデータを分析対象とした。これら21変数を社会経済状況に関連する指標,個人の経済状態に関連する指標,施設および在宅サービスの状況に関連する指標に3分類した。その上で,給付の傾向と特徴を検討するために主成分分析を行った。
結果 4主成分を抽出した。第4主成分までの累積寄与率は79.2%であった。第1主成分は,介護に関連する経済力の要素が強く表れており「介護に対する経済力」とした。第2主成分は,在宅サービスに関連した要素が強いので「在宅サービス利用傾向」とした。第3主成分は,施設利用に関連した要素が強く表れているため「施設利用傾向」とした。第4主成分は,高齢化と要介護に関連した要素が強く反映されていると考え「高齢化と要介護状況」とした。各主成分得点の7年間の経年変化では,第1主成分「介護に対する経済力」,第2主成分「在宅サービス利用傾向」,第3主成分「施設利用傾向」は増加傾向を示したが,第4主成分「高齢化と要介護状況」は全く逆の直線を描き減少傾向を示した。
結論 介護に対する経済力が最も重要であった。経済力のある地域は施設介護を選択する傾向が認められた。また,家族での介護よりも専門的な在宅介護を選択する傾向が認められた。そして,高齢化割合が低い地域で要介護割合が高いという傾向と7年間の経年変化の特徴から,ドイツでは要介護認定が厳しくなるなど,何らかの政策的な対応が存在する可能性が示唆された。公的介護保険における社会的な状況の構造を簡潔に集約することで,現金給付よりも施設を含む専門的なケアを選択するというドイツの傾向が明白になり,介護保険財政に影響を与えることが予測される。今後のドイツの介護保険政策に注目したい。
キーワード ドイツ,公的介護保険,介護給付,主成分分析

 

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第56巻第4号 2009年4月

都道府県別要介護認定割合の較差と関連する要因の総合解析

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 渡部 月子(ワタナベ ツキコ)
高 燕(コウ エン) 星 旦二(ホシ タンジ)

目的 本研究の目的は,都道府県別にみた要介護認定割合と介護保険料の関連要因を探り,概念モデルを構築し,直接効果だけではなく間接効果を含めた関連を総合的に明らかにし,要介護認定割合と介護保険料の地域較差を低減化させる施策の基礎資料を得ることとした。
方法 要介護認定割合と介護保険料と関連すると考えられる要因として,医療施設指標,高齢者施設指標,保健医療マンパワー指標,経済指標の中から8要因を分析に用いた。これらの要因について,最尤法を用いたプロマックス斜交回転による探索的因子分析を行い,抽出された因子を参考に,潜在変数を設定し,要介護認定割合と介護保険料に関連する潜在変数を規定すると考えられる仮説モデルに基づいて共分散構造分析を行い,説明力とともに適合度が高いモデルを選択した。
結果 要介護認定割合と介護保険料を「要介護状況」とし,病院病床数と診療所病床数,および病床利用割合と関連する潜在変数を「医療施設と機能」,医師数と特別養護老人ホーム在所者数と関連する潜在変数を「マンパワーと施設入所者」,高齢者有業割合と自宅死亡割合と関連する潜在変数を「高齢者を取巻く環境」とした。これらの4つの潜在変数を組み合わせたモデルを複数設定し,適合度が高く説明率が高いモデルを探った。「要介護状況」に対する「医療施設と機能」の直接効果は,0.82であり,医療施設の多い地域においては「要介護状況」を増加させる可能性が示された。一方,「要介護状況」に対する「高齢者を取巻く環境」の総合効果,つまり直接効果と間接効果を合わせた効果は,-0.49であり,高齢者有業割合とともに自宅死亡割合が高い地域においては,「要介護状況」を低下させる可能性が示された。「要介護状況」を規定する「医療施設と機能」を100%とすると,「高齢者を取巻く環境」は,「要介護状況」に対して約60%(-0.49/0.82)の抑止力を持つ可能性が示された。「マンパワーと施設入所者」を含めた共分散構造分析は高い適合度は得られなかったため,モデルとして採用しなかった。
結論 病院と診療所の病床数が多く,病床利用割合が高いほど要介護認定割合と介護保険料を高める可能性が示唆された。また,「高齢者を取巻く環境」から「要介護状況」に対する直接効果はほとんどみられないものの,「医療施設と機能」を経由して間接的に「要介護状況」と関連する役割がある可能性が示唆された。
キーワード 要介護認定割合,介護保険料,都道府県較差,高齢者有業割合,病床数

 

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第56巻第4号 2009年4月

都市在宅高齢者における緑に関連する
楽しみと生きがいの実態と主観的健康感との関連

星 旦二(ホシ タンジ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 猪野 由起子(イノ ユキコ)
高橋 俊彦(タカハシ トシヒコ) 長谷川 卓志(ハセガワ タクシ) 巴山 玉蓮(トモヤマ ギョクレン)
山本 千紗子(ヤマモト チサコ) 櫻井 尚子(サクライ ナオコ) 長谷川 明弘(ハセガワ アキヒロ)

目的 都市在宅高齢者の緑に関連する楽しみと生きがいの実態と主観的健康感との関連を明確にすることである。
方法 調査対象者は65歳以上の都市在宅高齢者20,939人であり,分析対象者は2004年9月に実施した自記式質問紙調査に回答した13,407人であった。本研究では,楽しみと生きがいとしてあげた家庭菜園,園芸,森や樹木とのふれあい,ハイキング,登山の5項目の実態と主観的健康感との関連を分析した。
結果 楽しみと生きがいとして,園芸を選択する者が最も多く(男性14.5%,女性17.0%),次いで森や樹木との触れ合い,ハイキング,家庭菜園,登山の順であった。性別では,園芸は女性に,家庭菜園は男性に統計学上有意に多く選択された。年齢階級別では,森や樹木とのふれあい,ハイキング,登山は加齢と共に統計学上有意に低下するものの,園芸と家庭菜園はどの年齢階級でも有意差なく選択されていた。緑に関連する楽しみと生きがいがある人の主観的健康感は,個別の楽しみと生きがいでも,得点でも統計学上有意に高い関連がみられた。
キーワード 生きがい,緑,主観的健康感,都市在宅高齢者

 

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第56巻第4号 2009年4月

児童生徒の喫煙状況と喫煙意識に関する調査研究

-管内における平成16年度および19年度調査の比較-
高橋 佳代子(タカハシ カヨコ) 長谷川 まゆみ(ハセガワ マユミ) 池田 範子(イケダ ノリコ)
澤田 裕治(サワダ ユウジ) 武藤 眞(ムトウ シン)

目的 平成16年度および19年度に地域の児童生徒とその保護者を対象に「タバコに関する意識調査」を実施し,地域での児童生徒の喫煙状況や喫煙に関する意識の変化を明らかにする。
方法 対象者は管内全小学校(4年生以上),中学校,高等学校からそれぞれ1クラスずつを抽出し,その児童生徒と保護者とした。対象者に対して自記式無記名の質問紙による調査を行った。各学校にて配布,回収を行い,回答は返信用封筒に封入したまま未開封の状態で奥越健康福祉センターに集約した。調査項目は児童生徒に対しては,たばこの印象,たばこの害の知識,自分の喫煙状況,家族の喫煙状況,たばこの入手方法,友人の喫煙状況など17項目,保護者に対しては,たばこの害の知識,受動喫煙の害の知識,家庭内の喫煙時の取り決め,子どもの喫煙状況,子どもの喫煙時の対処方法,必要と考える喫煙防止対策など13項目とした。
結果 児童生徒の喫煙経験の割合は,平成16年度と比較し19年度は男女ともに低下傾向であり,高校生男子と小学生女子では有意に低下していた(p<0.05)。たばこの入手方法は,平成16年度,19年度ともに「家にあるたばこをもらった」「屋外の自動販売機で買った」「友だちからもらった」の順で高くみられたが,平成16年度と比較し,19年度には「コンビニ,スーパーなどで買った」「たばこ屋で買った」割合が上昇していた。家族の喫煙の割合は,平成16年度(67.0%)に比較して19年度の(63.5%)は有意に低下していた(p<0.05)。家庭内に喫煙者あり群において,児童生徒の喫煙経験の割合は平成16年度,19年度ともに,有意に高かった(p<0.01)。
結論 福井県奥越地域における児童生徒の喫煙経験の割合は低下傾向にあり,特に高校生男子と小学生女子では有意に低下していた。家族に喫煙者のいる割合は低下していたが,依然6割以上の児童生徒の家族に喫煙者がいた。また,たばこの入手は,家庭内・自動販売機からが多く,対面販売からもなお入手可能な地域の現状が明らかとなった。これらのことから,今後の未成年の喫煙対策として,成人の喫煙行動が児童生徒に与える影響を十分理解し,家庭や販売店におけるたばこの適正な管理をはじめとした,地域全体の喫煙対策のさらなる推進が必要であると考える。
キーワード 小中高生,喫煙,喫煙意識,疫学,保護者,福井県

 

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第56巻第5号 2009年5月

市町村合併による歯科保健事業実施状況の変化

末高 武彦(スエタカ タケヒコ)

目的 平成の大合併によりわが国の市町村数は,10年前に比べ半数に減少した。地域保健事業は市町村で行われるが,この合併により市町村の規模は拡大し保健事業も再構築が求められた。著者は,専門職員である歯科衛生士が常勤しない市町村も多い現状において,合併した市町村における今後の歯科保健事業の進め方について検討する第一段階として,合併前後の市町村の歯科保健事業の変化について調査を行った。
方法 2003年4月以降に合併した540市町村を対象に,著者が作成した調査票を用いて郵送法で,常勤歯科衛生士数,歯科保健事業の実施状況,合併による歯科保健事業への影響などについて調査を行った。
結果 回答は316市町村(回答率59%)から得た。歯科衛生士が常勤する市町村は27%で,人口10万人以上で多かった。3歳児歯科健診は,年間実施回数では人口規模・合併市町村数と関連したが,実施個所数(実数)では1カ所に集約した市町村が39%みられた。合併による住民への影響は,実施回数では「受けやすくなった」が39%みられたが,実施個所数では「受けにくくなった」が24%で「受けやすくなった」の23%を上回った。また,市町村職員は「業務量の増加」が55%みられ,その理由は「地域の広がり」「事務処理量の増加」が半数以上を占めた。これらの多くで,人口規模,合併市町村数により異なる傾向を示した。
結論 市町村合併により地域の規模は拡大し,歯科保健事業も再構築の途上にある。事業の実施個所が減少するなど住民に不便も生じ,職員の業務量も増すなど,様々な影響が明らかとなった。この結果は,合併市町村における今後の歯科保健事業のあり方を検討する資料としたい。
キーワード 市町村合併,歯科保健事業,住民への影響,専門職員の業務量

 

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第56巻第5号 2009年5月

基本チェックリストによる
「運動器の機能向上」プログラム対象者把握の意義と課題

-「能力」と「実践状況」による評価からの検討-
清野 諭(セイノ サトシ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 金 美芝(キム ミジ)
根本 みゆき(ネモト ミユキ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)
奥野 純子(オクノ ジュンコ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 現行の介護保険制度で用いられている基本チェックリスト(運動器の機能向上項目)は,各生活課題の実践状況を問う形式になっており,廃用症候群のリスク抽出に焦点が置かれている。しかし,廃用症候群に着目するならば,各生活課題における能力と実践状況の乖離と実際の体力からの検討が不可欠である。そこで本研究は,能力と実践状況に乖離のある境界域の者の体力を把握し,基本チェックリストによる運動器の機能評価の意義を検討することを目的とした。また,本研究結果を基に,運動器の機能向上プログラム対象者の体力的特徴についても併せて考察することとした。
方法 地域在住高齢者480名(73.7±5.9歳,男性137名,女性343名)を対象とした。体力測定10項目から体力を,質問紙から生活機能を評価した。また,基本チェックリストの運動器の機能向上項目を用いて,「階段を手すりや壁をつたわらずに昇る」「椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がる」「15分くらい続けて歩く」について「実践しているかどうか」(実践状況)を調査した。能力は,同様の3つの生活課題が「できるかどうか」について調査した。これらの回答より,対象者を活動群(3項目すべてできる・実践している),境界群(すべてできるが,少なくとも1項目実践していない),不活動群(少なくとも1項目できない)の3群に分類し,体力と生活機能を男女別に比較した。
結果 運動器3項目の実践状況を問うことによって,男性で32.1%,女性で35.9%が境界群として抽出された。体力と生活機能は,活動群,境界群,不活動群の順に低下する傾向がみられた。特に女性において,境界群および不活動群では,活動群に比べて体力のばらつきが大きくなる傾向がみられた。
結論 運動器3項目(階段昇段,椅子からの立ち上がり,歩行)の実践状況を問うことで,能力を問うよりも早期に機能低下者をスクリーニングできることが示された。しかし,実践状況と能力は異なる概念であるため,基本チェックリストでは実践状況と併せて能力を問うことも検討されるべきと考えられた。また,運動器の機能向上項目によって抽出された対象者の体力レベルの幅が広い可能性が示唆され,各対象者の目標やニーズを考慮した上で運動習慣化へ導く支援策が希求される。
キーワード 基本チェックリスト,特定高齢者,能力,実践状況,体力

 

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第56巻第5号 2009年5月

訪問看護ステーションにおける精神科訪問看護の実施割合の変化と関連要因

萱間 真美(カヤマ マミ) 瀬戸屋 希(セトヤ ノゾミ) 上野 桂子(ウエノ ケイコ)
木全 真理(キマタ マリ) 伊藤 順一郎(イトウ ジュンイチロウ) 柳井 晴夫(ヤナイ ハルオ)
立森 久照(タチモリ ヒサテル) 沢田 秋(サワダ アキ) 瀬尾 智美(セオ トモミ)
船越 明子(フナコシ アキコ) 吉池 由美子(ヨシイケ ユミコ) 八巻 心太郎(ヤマキ シンタロウ)

目的 わが国の訪問看護ステーションからの精神科訪問看護実施率と,その推移および関連要因を明らかにすることにより,今後,訪問看護ステーションからの精神科訪問看護を普及させるために必要な要件について考察することを目的とした。
方法 全国訪問看護事業協会が委託を受けて実施した厚生労働省の平成19年度障害者保健福祉推進事業における実態調査で,全国訪問看護事業協会に加盟する全国3,307カ所の訪問看護ステーションにFaxを用いて精神科訪問看護の実施の有無および訪問看護ステーションからの精神訪問看護の概要について調査を行った。
結果 1,664カ所の訪問看護ステーションより回答が得られ(回収率50.3%),そのうち精神科訪問看護を行っていたステーションは41.0%(682事業所),うち精神障害者の自宅への訪問(訪問看護基本療養費Ⅰまたは介護保険法で,精神疾患(認知症を除く)が主疾病の利用者への訪問)を行っていたのは40.5%(674事業所)であった。この結果を,平成18年度に全国訪問看護事業協会が行った調査での実施率35.5%と比較すると,5%の増加であった。また,精神科訪問看護を行っている事業所は,行っていない事業所と比較すると看護職員数および総職員数が多く,訪問の利用者数や件数も多く,また精神科病床における看護の経験を持つ看護職員が多かった。
結論 訪問看護ステーションにおける精神科訪問看護の実施率には上昇傾向がみられたが,実施している機関は一定の規模を有し,精神科医療との何らかのつながりをもつ事業所に限られていることが伺えた。今後の普及に向けては,精神科訪問看護を特定の事業所が担っていくのか,あるいは広く一般の事業所に普及していくのかを検討し,ケアの実態に応じた制度の充実が必要であると考えられた。
キーワード 精神科訪問看護,訪問看護ステーション,精神保健医療福祉の改革ビジョン

 

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第56巻第5号 2009年5月

介護福祉実習における養成校の課題

-養成校教員と施設指導者の実習に関する調査結果から-
津田 理恵子(ツダ リエコ)

目的 介護福祉実習は,介護福祉士養成課程において価値観形成に重要な意義がある。しかし,介護福祉士養成施設による実習指導の実状において差があることが推察された。そこで,実習施設の実習指導担当者と介護福祉士養成施設の実習指導担当教員に,厚生労働省通達の指導要領に沿った指導が展開されているか調査を行い,実習における介護福祉士養成施設における課題について検討することを目的とした。
方法 調査は,質問紙を用いた郵送法で行った。対象は,介護福祉士養成施設協会に加入している全国の大学,短期大学および専門学校1~4年課程の介護福祉士養成施設で,巡回指導に当たっている介護福祉士養成施設の実習指導担当教員200人と,各都道府県の指定介護老人福祉施設4~5施設を無作為に抽出し,施設で実習指導に当たっている実習指導担当者200人である。研究の趣旨,調査の目的と内容を紙面により説明し,倫理的に配慮したうえで回答を得た。介護福祉士養成施設の実習指導体制と実習指導の実状,施設の実習指導担当者が意識している介護福祉士養成施設の実習指導体制などについて調査し,介護福祉士養成施設の実習指導担当教員と施設の実習指導担当者の,実習に関する意識や実状について検討した。
結果 質問紙の有効回答割合は,実習指導担当教員が82人(41%)で,実習指導担当者が80人(40%)であった。その回答から,学内演習の進度は,実習時期を決める際に考慮されていないことや,実習日数を十分に確保し,前向きに教育に取り組む姿勢が伺える養成校が存在している一方で,最低基準を満たしていない介護福祉士養成施設もあり,その差は歴然としていた。さらに,実習担当教員が行う巡回指導は,厚生労働省の通達によると,少なくとも週に2回は実施することが望ましいとされている中で,施設への巡回指導回数が,週に1回以下という介護福祉士養成施設もあり,介護福祉士養成課程における実習指導場面において,介護福祉士養成施設によって,厚生労働省から示されている指導要領を熟知せずに,実習指導に当たっている現状や,施設との連携も不足している結果が示された。
結論 介護福祉士養成施設の実習指導担当教員は,厚生労働省から示されている指導要領を熟知したうえで実習指導に当たると共に,施設との連携を強化し,介護福祉士養成施設の実習指導体制の整備をすすめ,実習カリキュラムを見直していくことで,学生にとって学びやすい実習環境の提供につながると提案した。
キーワード 介護福祉実習,実習指導体制,実習指導要領,実習日数,巡回指導

 

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第56巻第5号 2009年5月

母親の定位家族体験と育児不安

-母親の育児ネットワークを視野に入れて-
中谷 奈津子(ナカタニ ナツコ)

目的 本研究では,乳幼児を持つ母親の定位家族体験の認知および現在の育児ネットワークと,育児不安との関連について検討した。
方法 三重県鳥羽市内全域の保育所16カ所,幼稚園1カ所に通う子どもを持つ770世帯の母親を対象とした。鳥羽市社会福祉事務所の協力を得て,2004年9月中旬から下旬にかけて,各保育所または幼稚園に調査票を配布し,回収した(委託留置調査法)。対象となった770世帯のうち431世帯の票を回収した(回収率56.0%)。そのうち無効票を除く421票を分析の対象とした。
結果 育児不安得点について因子分析を行ったところ,「生活疲労」因子,「育児不安」因子,「充実感欠如」因子の3つが抽出された。また母親の小学生の頃の定位家族体験12項目について対応分析を行い,因子軸第1軸~3軸を抽出した。第1軸はきょうだいやおじ・おば等による厳格な養育⇔祖父母による受容的でモデル的な養育,第2軸は祖父母中心の養育⇔父母によるケアとモデル的な養育,第3軸は祖父によるケア中心の養育⇔祖母によるケアとモデル的な養育と表わされた。分析の結果「生活疲労」因子については,世話ネットワーク(リフレッシュ)を持つ母親ほど,生活疲労の因子得点が高く,母親の収入が200~300万円未満の時にも生活疲労が高いことが分かった。「育児不安」因子については,助言ネットワーク,世話ネットワーク(自分の病気時)があるほど育児不安は低い傾向にあり,世話ネットワーク(リフレッシュ)が多いほど育児不安が高くなる傾向にあった。「充実感欠如」因子については,祖父によるケア中心の養育を受けてきた母親は,充実感欠如の得点が高く,祖母中心のケアとモデル的な養育を受けてきた母親は,その得点が低い傾向にあった。
結論 育児ネットワークが有効に働いていたのは,「育児不安」因子のみであり,「生活疲労」因子については,世話ネットワーク(リフレッシュ)が負の相関を示すのみであった。「充実感欠如」因子においては,育児ネットワークが有効な支援策として機能しておらず,むしろ母親の定位家族体験の認知に影響されていることが明らかとなった。
キーワード 定位家族体験,育児不安,育児ネットワーク,母親

 

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第56巻第6号 2009年6月

要介護高齢者の息子による虐待の要因と多発の背景

上田 照子(ウエダ テルコ) 三宅 真理(ミヤケ マリ) 西山 利正(ニシヤマ トシマサ)
田近 亜蘭(タジカ アラン) 荒井 由美子(アライ ユミコ)

目的 息子による高齢者介護の実態と虐待の背景要因を明らかにし,近年の多発の背景について検討する。
方法 調査は大阪府A市の居宅介護支援事業所の介護支援専門員(以下,ケアマネ)94人を回答者とし,ケアマネの担当している利用者の主介護者である息子のすべてと介護家族による虐待ケースを対象として質問紙法により行った。67人の回答(回収率71.3%)を得,60人の回答を有効回答とした。これらのケアマネが担当している利用者総数は1,279人であった。別に,ケアマネ4名と,訪問介護員10名を対象として,息子による介護の特徴と関わりの難しさ,必要と考えられる支援等について各々約90分のグループインタビューを行った。
結果 主介護者の構成割合は息子が11.1%を占めていた。息子の56.3%が独身であった。虐待のみられたケースは主介護息子142人中27人で息子以外の家族では37ケースであった。断面での主介護家族数に対する虐待数の割合(以下,出現率)は主介護息子では19.0%であり,息子以外の家族による出現率に比較して高率であった。虐待の有無と高齢者の属性,息子の属性,介護環境等との関連を検討した結果,「要介護度が高い」「認知症による日常生活自立度が低い」「息子との人間関係が悪い」「近隣との交流がない」,息子が「独身である」「経済状態が苦しい」「自己中心的である」「怠惰である」「親への依存がある」「介護の協力者がいない」「介護知識・技術が不十分である」「介護負担感が大きい」介護者になった経緯が,「高齢者の希望ではない」などにおいて虐待が有意に高率であった。
結論 在宅の要介護高齢者における虐待は息子において高率であった。息子において虐待が高率である背景には,息子ゆえの介護環境条件があり,これらが虐待のリスクを高くしていることが示唆された。息子における虐待の予防には,息子特有の介護環境条件に配慮した施策や支援が求められる。
キーワード 高齢者虐待,要介護高齢者,虐待の要因,家族介護者,息子

 

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第56巻第6号 2009年6月

都道府県別,地方区分別にみた
出生性比,自然死産性比,低出生体重児性比の年次推移の関連

大見 広規(オオミ ヒロキ) 廣岡 憲造(ヒロオカ ケンゾウ)
望月 吉勝(モチヅキ ヨシカツ) 羽田 明(ハタ アキラ)

目的 最近の数十年間,わが国では出生性比減少,死産性比増加,低出生体重児性比の減少が観察されている。これにあわせて都道府県別,地方区分別にみた周産期をめぐる性比の年次推移相互に相関がみられるかについて検討した。
方法 人口動態統計から1985~98年について都道府県別,地方区分別の出生性比,妊娠15週までの自然死産性比,低出生体重児性比を算出し,年次推移の推定値(単回帰分析の傾き)を計算した。性比の年次推移推定値相互の関係について,Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数,およびそれら相関係数の有意水準を求めて,相互の関係を検討した。また5年ごとの平均値をとり,その推移についても同様の検討を行った。
結果 全国的な性比の年次推移の増減傾向については,多くの都道府県や地方区分でも確認されたものの,それぞれの年次推移推定値間には統計学的に有意な相関が明確には確認できなかった。
結論 年次推移推定値のオーダーが各性比ごとに大きく異なること,都道府県や地方区分に分けると年度ごとのばらつきが極めて大きくなることが要因と考えられた。適切な指標を工夫することや,出生性比の変化が観察されている諸外国についても,死産性比や低出生体重児性比の推移を調査することが必要であると考えられる。
キーワード 人口動態統計,出生性比,死産性比,低出生体重児性比,年次推移

 

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第56巻第6号 2009年6月

コンピュータを利用した問診システムが
一人親方の健診受診率・保健指導参加率に及ぼす効果について

白澤 貴子(シラサワ タカコ) 大津 忠弘(オオツ タダヒロ) 星野 祐美(ホシノ ヒロミ)
川口 毅(カワグチ タケシ) 小風 暁(コカゼ アカツキ)

目的 一人親方および家族に対して事前にコンピュータによる問診システムを利用することによる健診受診率や健診後の保健指導参加率に及ぼす効果について検討した。
方法 対象者は,A建設業組合国民健康保険組合A県支部A出張所の全加入者(本人および家族を含む)778人のうち,2006年の健診受診者187人(男性122人,女性65人)であった。また,2006年健診受診に際し,事前のコンピュータによる生活習慣調査票に回答した136人(男性89人,女性47人)については,健診結果との関連を分析した。さらに,保健指導該当者77人(男性51人,女性26人)のうち事後指導に参加した22人(男性16人,女性6人)の参加状況を分析した。健診結果と問診結果との関連および事後の保健指導の参加状況の分析はχ2検定を用いた。統計学的な有意水準は5%とした。
結果 2006年の健診受診率は2004年,2005年に比べ増加傾向を示した(P=0.016)。2006年に初めて受診した者は若い年代層(P=0.027),肥満(BMI≧25㎏/㎡)(P=0.006)の割合が多く,また,食習慣に何らかの問題があり(P=0.015),運動不足の傾向がみられた。特定健診の必須項目である腹囲との関連はみられなかった(P=0.760)。事後の保健指導該当者の出現率は各年で差が認められなかったが,健康教室の参加率は,2006年のみ受診群は他年に比較して少なかった(P=0.102)。
結論 コンピュータによる問診システムは日常生活における問題点の指摘や生活指導をし,また必要な医療機関へと受診勧奨するため,健康意識の低い層へのアプローチとして健診受診率の向上に有効であったが,保健指導の参加率の向上は認められなかった。
キーワード 一人親方,メタボリックシンドローム,コンピュータによる問診,健診受診率,保健指導参加率

 

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第56巻第6号 2009年6月

全国市町村における食育推進状況

新保 真理(シンボ マリ) 若林 チヒロ(ワカバヤシ チヒロ) 國澤 尚子(クニサワ ナオコ)
新村 洋未(シンムラ ヒロミ) 新井 恵(アライ メグミ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 全国市町村における食育推進状況を明らかにすることを目的に本研究を行った。
方法 全国1,840市町村(平成18年10月1日現在の全市町村)の健康づくり担当課へ自記式質問紙を郵送にて配布,回収した。調査期間は,平成18年12月から平成19年2月,調査項目は食育推進会議設置状況,食育推進計画作成状況,健康日本21の地方計画策定状況,小中学校における栄養教諭設置状況(非常勤含む)である。回答の得られた市町村は1,316カ所(回収率71.5%)であった。このうち,項目ごとに無回答を除いた市町村を対象に人口規模別(1万人未満,1万人以上3万人未満,3万人以上10万人未満,10万人以上の4区分)に分析を行った。
結果 全国市町村の食育推進会議設置状況は設置済み11.8%,設置予定13.0%,予定なし,または未定75.2%であり,食育推進計画作成率は1.7%で,作成予定を合わせても23.1%であった。また,人口規模別では食育推進会議,食育推進計画ともに,人口規模が小さくなるほど設置,作成予定なし,または未定の割合が高かった。食育推進計画を策定予定なし,または未定とした市町村のうち,健康日本21地方計画を策定している割合は55.2%で,人口規模が小さい1万人未満の市町村では40.6%であった。小中学校における栄養教諭配置率は21.1%(配置予定を含めて25.0%)であり,都道府県別では配置率に違いがみられたが,健康日本21地方計画策定率との関連は認められなかった。
結論 全国市町村の食育推進計画作成率は1.7%で,作成予定を合わせても23.1%であり,人口規模の小さい市町村で作成率,作成予定率の低さが目立った。人口規模の小さい1万人未満の市町村では食育推進計画を策定予定なし,または未定であっても健康日本21地方計画策定を行っているところは40.6%あり,健康日本21地方計画から食育推進計画への展開方法の提示が必要と考えられる。また,栄養教諭については学校における子どもの食育のキーパーソンであることから,都道府県への栄養教諭配置に向けた積極的な働きかけや栄養教諭が食育を推進できる環境整備が必要である。
キーワード 食育,市町村調査,栄養教諭,健康日本21

 

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第56巻第7号 2009年7月

後期高齢者における地域包括支援センターの利用と関連要因の検証

-小田原市お達者チェックからの分析-
相原 洋子(アイハラ ヨウコ) 薬袋 淳子(ミナイ ジュンコ) 島内 節(シマノウチ セツ)

目的 平成17年度の介護保険法改正に伴い,介護予防支援のために地域包括支援センター(包括センター)が,市町村に設置された。本調査では,地域の保健福祉の支援対象として,見守りが必要な後期高齢者を特定するために実施された「お達者チェック」より,包括センターを利用する高齢者の特性について分析を行った。継続的かつ包括的な保健福祉の支援ネットワークの中核としての機能を担う包括センターの利用者が,どのような特性を持つのかを把握することで,包括センターが行う支援方法についての検討を行う。
方法 平成19年8~10月に,小田原市在住の後期高齢者全数を対象に実施された,「お達者チェック」の有効回答者16,110人を対象にした。包括センターの相談有無に関連する要因について,男女別に,世帯,社会活動性および不安について検証した。分析は,多重ロジスティック回帰モデルを用い検定を行った。
結果 包括センターに「相談している」と回答した人は,男性413人(6.7%),女性901人(9.8%)であった。相談している人は,相談していない人と比較し,男女とも独居世帯,近所付き合いや趣味・特技がなく,かつ仕事をしていない人であり,身体面および心理的・精神面の不安がある人であった。女性においては,65歳以上家族と同居,相談できる友人・知人がいない,住環境面の不安があることも包括センターへの相談利用に有意に関連していた。
結論 包括センターを利用している後期高齢者の特性として,サポートネットワークが低いこと,身体面および心理・精神面の不安を抱えていることが明らかとなった。後期高齢者の増加に伴い,高齢者の不安に対応した保健・福祉のサービスが適切に利用できるように,包括センターの役割がますます重要となってくることが考えられる。
キーワード 地域包括支援センター,後期高齢者,不安,介護保険

 

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第56巻第7号 2009年7月

シックハウス症候群と住まい方

-居住環境にかかわる疾病予防-
田中 かづ子(タナカ カヅコ) 岸 玲子(キシ レイコ) 西條 泰明(サイジョウ ヤスアキ)
中山 邦夫(ナカヤマ クニオ) 森本 兼曩(モリモト カネヒサ) 瀧川 智子(タキガワ トモコ)
柴田 英治(シバタ エイジ) 力 寿雄(チカラ ヒサオ)
吉村 健清(ヨシムラ タケスミ) 田中 正敏(タナカ マサトシ)

目的 現在,社会的に問題となっているシックハウス症候群(以下,SHS)の予防対策を居住環境や住まい方の面から検討するため全国6地域(札幌,福島,名古屋,大阪,岡山,北九州)の一般住宅を対象に居住者の自覚症状と室内環境,生活感覚との関係を調査した。
方法 築6年以内の一戸建て住宅の中から無作為に抽出した対象に自覚症状,住環境,生活感覚について質問票を配布し,425軒(1,479人)から回答を得た。SHSの判定には自覚症状の訴えが1つ以上あり,その症状は「家を離れるとよくなる」の回答群をSHSあり群とし,質問票調査と同時に測定した居間の化学物質,ダニアレルゲン,真菌,粉じんなどの測定値および質問票項目との間で関連を検討した。
結果 環境測定値では,ホルムアルデヒド,総アルデヒド類,総VOC類,総ダニアレルゲン,真菌総コロニー数がSHS群でSHSなし群より有意に高値であった。住環境,生活感覚に関する質問項目では「カビ発生あり」「水漏れあり」などの高湿度環境の指標となる項目,「床材がフローリングである」,居間で「シンナーを使用・保管した」など直接的関連項目や「家のにおいが気になる」「家の空気が悪い・汚れていると感じる」などの居住者の汚染感覚の指標となる項目がSHS群で有意な関連を示した。質問項目中,SHSのリスクとして示された住環境や生活感覚に関する項目を選択し,温度,湿度,室内粉じん量,微生物測定値などの住宅が具備する条件も加えて,SHS発症原因物質との関連について検討した結果,アルデヒド類濃度の増加には温度,湿度,真菌総コロニー数,粉じん量,汚染感覚指標数が,総VOC濃度では汚染感覚指標数,高湿度環境指標数が関連した。総ダニアレルゲン値の増加には粉じん量,湿度,高湿度環境指標数,汚染感覚指標数が,真菌総コロニー数では湿度,粉じん量が関連した。
結論 昨今の新築住宅では,建築基準法の改正や化学物質の室内濃度指針値の設定により,住居の換気・空調の向上や該当化学物質濃度の低減などSHS発症原因の除去対策が進められている。しかし,実生活上において化学物質や微生物などはSHS発症の独立の要因というより居住環境や居住者の住まい方が総合して影響しあっていることが示唆され,SHS対策には居住者・個人レベルでの湿気や清掃など居住環境に関する知識の蓄積,それらの実践も必要と考えられた。
キーワード シックハウス,化学物質,微生物,湿度,住居環境,住まい方

 

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第56巻第7号 2009年7月

市町村合併が保健(師)活動に及ぼす影響の評価と今後の課題

-合併有無別の分析から-
桝本 妙子(マスモト タエコ) 都筑 千景(ツヅキ チカゲ) 生田 惠子(イクタ ケイコ)
平野 かよ子(ヒラノ カヨコ) 石川 貴美子(イシカワ キミコ) 烏帽子田 彰(エボシダ アキラ)

目的 2006年11月,全国1,840市町村(特別区を除く)を対象に行った質問紙調査をもとに,合併が保健(師)活動に及ぼす影響と課題を横断的,数量的に分析した。
方法 事前に電話で協力を依頼し,了解の得られた974市町村の保健活動の責任者(保健師)に郵送で調査票を配布し,記名により郵送で回収した(回収率52.9%)。調査内容は,人口,合併の有無,保健師の確保状況,地区活動に配慮の必要な地区の有無,高齢者保健福祉業務における介護部署および国保部署との連携,新市町村の計画策定状況,行政評価の実施状況,健康指標の把握状況である。分析対象は,合併市町村329に対応して非合併市町村337を人口規模別にマッチングして,合計666市町村とした。
結果 保健師の確保状況では,「十分・ほぼ確保できている」は合併36.6%,非合併22.6%であった。特別配慮の必要な地区「あり」は,合併44.8%,非合併15.5%で,その内訳は,合併市町村の方が山間部・豪雪地が多かった。高齢者保健福祉業務に関する介護部署との連携では,合併市町村の方が企画または評価まで含めて一体的に推進しているところがやや多かった。国保部署との連携では,「実施において一部共同で行っている」は合併51.4%,非合併44.5%と,合併市町村の方が多かった。新市町村の計画策定について「策定済み」は合併20~90%に対し,非合併が50~90%と,すべての計画において合併市町村が少なかった。行政評価の実施状況では,「毎年実施している」は,合併50.0%,非合併61.4%で,非合併市町村の方が有意に多かった。健康指標の把握率は,合併,非合併による差はなかった。
結語 合併市町村では,当面はマンパワーが強化され充実した活動が可能であると考えられる。しかし,合併後年数を経るにしたがい支所等への保健師の配置数は削減され,保健担当課以外の部署への分散配置もすすめられていくと考えられる。地域の特性を保健師業務に反映させていくためには,地区分担と業務分担を併用した活動が望ましいと考える。また,今後は,高齢者保健福祉業務に関する介護部署,国保部署との連携をさらに円滑にすすめていける体制づくりが重要になると思われる。合併は市町村の計画策定と行政評価を停滞させていることを伺わせ,早急な地方計画策定および行政評価が課題である。
キーワード 市町村合併,保健(師)活動,影響評価

 

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第56巻第7号 2009年7月

「子育ての楽しみ」要因と少子化対策の可能性

-兵庫県を事例とした探索的分析から-
越智 祐子(オチ ユウコ) 村上 寿来(ムラカミ トシキ)

目的 少子化対策が行ってきた,様々な育児負担の軽減を目的とした「育児支援」の背景には「子育て=負担」というとらえ方が存在している。しかし,そもそも子育てを負担としてとらえる価値観が少子化を押し進めているひとつの要因であるとすれば,負担軽減を狙う政策だけでは,少子化傾向に歯止めをかけるには大きな限界があると言わざるを得ない。したがって,そうしたとらえ方を超えた新たな視点を導入した政策展開が必要であると考えられる。それは「子育ての肯定的要素の増幅」という観点である。本稿では「子育ての楽しみ」に焦点をあて,質問紙調査からその構成要素を明らかにすることを試みた。
方法 兵庫県下の市町に対して1歳半健診対象者への調査票配布への協力を依頼し,協力が得られた市町で1歳半健診の対象となった児の母親を対象に,自記式調査票による質問紙調査を実施した。調査票は後日,同封の返信用封筒による個別回収を行った。調査の実施期間は2007年11~12月であり,配布数は2,000票,有効回収数は532票で有効回答率は26.6%であった。
結果 妊娠・出産・子育ての楽しみに関する項目を作成し,因子分析を行ったところ,「子どもへの愛着」「変化への適応性」「自分の成長」「つながりの増加」「コントロール願望(不全)感」「身近なモデルの存在」の6因子が抽出された。「都市」と「地方」で因子得点の平均値を比較したところ,「コントロール願望(不全)感」が「地方」で有意に高いことがわかった。
結論 養育者の主観的な「子育ての楽しみ」を構成する要素を検討し,「子育ての楽しみの増幅」という少子化対策の新たな視点を提供した。既存の施策についても,新たな視点から再評価することが可能である。
キーワード 子育ての楽しみ,少子化対策,因子分析

 

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第56巻第7号 2009年7月

医師の勤務条件および職場環境に関する病院勤務医の意向調査

新野 由子(ニイノ ヨシコ) 石橋 洋次郎(イシバシ ヨウジロウ)
佐野 洋史(サノ ヒロシ) 久保 統敬(クボ ノリユキ)

目的 平成19年度から「緊急医師確保対策」への取り組みが行われ,医学部定員が拡大されている。しかし,平成16年から始まった医師臨床研修制度や平成11年に横浜市大での医療事故以後,医療を取り巻く環境に大きな変化が起こり,医師の意識も年代ごとに大きく違いがあると考えられる。そのため,医師偏在の現状と対策,勤務条件・職場環境,職場選択要因についての考え方を把握し,それぞれに関して世代間の違いの検証も行い,医師の偏在への対策を検討する上での基礎資料とすることを目的とした。
方法 臨床研修病院130病院に調査協力を依頼し,そのうち応諾いただいた26病院に所属する勤務医と研修医を対象にアンケート調査を行った。調査内容は,対象者の基本属性(年齢,性別など),現状あるいは偏在対策に対する考え方,妥当と考える派遣年数等,勤務条件に対する希望や許容の範囲,職場環境についての考え方とし,検定を行った。
結果 コメディカルとの協働に関してはすべての年齢層の80%以上が「コメディカルも積極的に意見を言えるような職場環境が良い」という項目にやや近いと回答している。ワーク・ライフ・バランスへの配慮に関しては,若い医師ほど「仕事と家庭が両立出来てこそ医師としてよい仕事が出来ると思う」を選択しており有意に高かった。中堅医師の開業による医師不足対策では,「医師数を増やして余裕のある勤務体制にする」「中堅勤務医の給与を引き上げる」を選択している者が多く,「チーム医療により個人の負担を軽減する」「シフト勤務等導入による連続勤務時間短縮」という回答が若手医師で有意に高く,特に産科や小児科など夜間も昼間と同様に忙しい診療科ではこのようなシフト勤務への取り組みも対策の1つとして考えられる。
結論 勤務医は,へき地への派遣にはローテーション勤務の確立が望ましいと考え,臨床現場においては,シフト勤務,女性医師が産休・育休も取れる体制,訴訟リスクの低減を必要としていることが明らかになった。
キーワード 病院勤務医,職場環境,勤務条件,対策

 

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第56巻第8号 2009年8月

地域在住高齢者の運動習慣の定着に関する質的研究

澤田 優子(サワダ ユウコ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ)
伊藤 澄雄(イトウ スミオ) 福田 寛二(フクダ カンジ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 地域に在住する高齢者を対象とした訪問面接調査により運動の実態および運動習慣の定着の因子を明らかにすることを目的とした。
方法 対象は大都市近郊農村の65歳以上の在宅居住高齢者13名(平均年齢81.7±5.3歳,男性4名,女性9名)であり,専門職による訪問面接調査(所要時間約1時間)を実施した。調査内容は,年齢,性別,要介護状態,罹患,運動の実施状況,運動の定着の因子であった。
結果 運動の定着は「運動のきっかけ」に始まり,「運動をすることによる精神的,身体的,社会的,生活の変化」という運動による4側面の変化を生じ,「運動の習慣が生活のなかで定着する」というプロセスで構成されていた。また,運動習慣定着にいたるまでの全過程において他者との関わりの因子が含まれていた。
結論 運動の定着のプロセスには4側面の変化があることが明らかとなった。また単独での運動の推進だけでなく,グループダイナミクス(集団力動)を利用した支援の重要性も示された。今後はこれらの研究成果を踏まえ,継続できる運動実践のためのプログラム立案や運動習慣の効果をさぐることが課題となる。
キーワード 運動習慣,高齢者,質的研究

 

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第56巻第8号 2009年8月

東京都区部における単身・複数世帯別自殺死亡率

金涌 佳雅(カナワク ヨシマサ) 谷藤 隆信(タニフジ タカノブ) 阿部 伸幸(アベ ノブユキ)
森 晋二郎(モリ シンジロウ) 重田 聡男(シゲタ アキオ)
福永 龍繁(フクナガ タツシゲ) 鈴木 恵子(スズキ ケイコ)

目的 自殺予防対策の一環として,個人の重要な社会的背景の1つである世帯状況,特に単身および複数世帯の違いに視点を当てた調査を行った。
調査方法 平成2年以降の国勢調査実施年(平成2年,7年,12年,17年)における東京都特別区内の都民の自殺者を男女とも単数・複数世帯の計4群に区分し,年齢階級別粗死亡率(人口10万人対),粗死亡率の性比・性差,および年齢調整死亡率,自殺死亡標準化死亡比を算出した。
結果 自殺者数では4群の中でいずれの代表年も複数世帯の男性が多かった。また,平成7年から12年の間に4群いずれも大きく増加していたが,単数・複数世帯とも女性に比べ男性の方が増加率は高かった。年齢階級別自殺数でみると,男性においては単身・複数世帯とも50歳代を中心にその前後5歳を含めた年齢層におおむねピークが認められた。平成17年における年齢階級別死亡率は,40歳代後半から60歳代の単身世帯の男性に特に高い傾向がみられた。死亡率性比では単身および複数世帯とも男性に高く,特に平成17年では性比で3倍となっていた。標準化死亡比をみると単身世帯の男性では,全国平均と比して有意に高く,複数世帯の男女ではおおむね低かった。
結論 40歳代後半から60歳代の単身世帯の男性は,その他の3つの世帯群よりも明らかに自殺のリスクが高く,このことが男性の単身世帯者全体の自殺死亡率上昇の原因にもなっていることが示された。東京都区部における自殺対策においては,全年齢層への一般的な予防活動と合わせ,40歳代後半から60歳代の単身世帯の男性に重きを置いた調査・対策をとることも効果的であろうと考えられた。
キーワード 自殺統計,世帯,東京都特別区

 

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第56巻第8号 2009年8月

高齢者に対する認知症の情報提供と初期症状への対処行動

松井 美帆(マツイ ミホ) 新田 章子(ニッタ アキコ) 田口 幹奈子(タグチ カナコ)

目的 認知症に関する情報提供を行い,高齢者の認知症の知識と初期症状における対処行動について明らかにすることを目的とした。
方法 A県内の老人クラブに所属する高齢者184人に質問紙票を配布し,162人(88.0%)から回答を得,そのうち有効回答のみられた154人(83.7%)を対象とした。対象者にはパンフレットを用いて認知症に関する情報提供を行った後,自記式質問紙調査により基本属性,認知症高齢者の介護経験,認知症の知識,認知症のごく初期・初期症状への対処行動,認知症の不安,認知症のイメージについて調査した。
結果 対象者の平均年齢は,72.9±6.4歳,性別は男性が39.6%であった。アルツハイマー型認知症(Dementia of Alzheimer's type; DAT)の知識量の平均点は1.62点と先行研究に比較してわずかに高かった。家族が認知症になった場合の初期症状における対処行動では,「病院を受診する」20.3~53.6%と先行研究が20%以下であったのに比較して多く,具体的な対処には至らない傾向も3~4割と少なかった。受診行動に関連する要因として,年齢,性別,認知症の知識や不安,怖い・苦しい・たいせつにされないなどのイメージが挙げられた。
結論 高齢者に対する認知症の情報提供は,初期症状における対処行動に結びつくことから,早期受診へ向けて高齢者に適切な啓発活動を行っていくことが重要である。
キーワード 認知症,高齢者,対処行動,イメージ

 

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第56巻第8号 2009年8月

保健・衛生行政業務報告に基づく特定疾患医療受給者数および
登録者数変化の観察

石島 英樹(イシジマ ヒデキ) 永井 正規(ナガイ マサキ)

目的 特定疾患の2001~2005年度の受給者数,2003~2005年度の登録者数,受給者から登録者への変更数,登録者から受給者への変更数を観察し,登録者証交付制度(以下,登録者制度)が受給者数の変化に及ぼした影響を考察する。
方法 2001~2003年度地域保健・老人保健事業報告と2004,2005年度保健・衛生行政業務報告(衛生行政報告例)を用いて,各年度末現在の受給者数,登録者数,受給者から登録者への年間変更数,登録者から受給者への年間変更数を,疾患別に集計した。
結果 登録者制度対象19疾患,同制度対象外26疾患の両者において,受給者数は2001~2005年度にかけて増加傾向であったが,両者ともに2003年度に受給者数の減少もしくは増加傾向の停滞がみられた。登録者制度対象19疾患では,同制度対象外26疾患より2003年度の受給者数減少の程度が大きかったが,その後は登録者制度導入前と同程度の増加傾向を示した。登録者制度が受給者数に与える影響の大きさは,疾患によって異なっていた。登録者制度対象19疾患のうち,2003年度の受給者数減少が大きいのは,再生不良性貧血,サルコイドーシス,特発性血小板減少性紫斑病であり,登録者の対受給者数比も大きかった。再生不良性貧血では10~20歳代で,サルコイドーシスでは10~30歳代で,特発性血小板減少性紫斑病では20歳未満で,受給者の減少が大きく,これらの年齢層で登録者の対受給者数比が大きかった。
結論 2003年度に受給者数増加傾向が鈍化した。この原因の1つは2003年9月に全受給者に更新手続きを求めたことであり,もう1つは登録者制度が導入されたことである。2003年度の登録者制度の導入は同制度対象疾患の受給者数減少に寄与した。登録者制度の影響の大きさは,疾患によって異なり,再生不良性貧血,サルコイドーシス,特発性血小板減少性紫斑病など,軽症者が多い,あるいは治癒・寛解しやすいといった特徴のある疾患で大きかった。登録者制度が受給者数増加を抑制する効果は一時的なものであると考えられた。
キーワード 特定疾患医療受給者,登録者,保健・衛生行政業務報告(衛生行政報告例)

 

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第56巻第8号 2009年8月

生命行政の検証

-岩手県旧沢内村(現西和賀町)の老人医療費無料化が村におよぼした影響-
鈴木 るり子(スズキ ルリコ)

目的 岩手県旧沢内村(現西和賀町),(以下,「沢内村」)の生命行政,特に老人医療費無料化が村におよぼした影響について検証する。
方法 聞き取り並びに文献による。
結果および考察 岩手県沢内村の生命行政は,沢内村出身の深沢晟雄によって実践された。深澤晟雄は,昭和29年教育長,昭和31年助役,昭和32年村長に就任し,豪雪・貧困・多病と闘い,昭和35年12月から65歳以上,翌年4月から60歳以上と乳児の医療費無料化を全国で初めて実施した。また,沢内村の豪雪に対しては,ブルドーザーでの除雪で人々の諦め意識の改革,高い生活保護率に対しては,貧困と疾病の悪循環を断ち切るため保健師を採用し,本格的な保健活動を展開した。昭和37年には日本で初めて乳児死亡ゼロを達成し,昭和38年に保健文化賞を授与されている。深澤村長は,さらに健康管理課を設置した。課長は医師とし,保健・医療の沢内方式の予防活動を展開し,地域包括医療のシステ化を図った。老人医療費無料化が村に与えた影響は①長寿村の達成-昭和55年には,近隣のどの町村よりも長寿の村となった。②国民健康保険の医療費の減少-被保険者1人当たりの医療費は,昭和43年には県平均を下回った。③健康な村づくりに発展-60歳以上の医療費無料化が果たした役割について,元沢内村病院長増田進は,「村が明るくなった。老人の自殺が減少した。嫁の受診が増え,家族の健康に気配りができるようになった」と述べている。このように沢内村が行った老人医療費の無料化は,高齢者を明るく元気にし,全村民の健康づくりに波及した生命行政であった。健康が保障されれば,住民の関心とエネルギーは次の段階へ向けられる。村の高齢者達が生き生きと活動する姿はいかに生命や健康の基盤を支えることが重要かを示唆している。
キーワード 生命行政,老人・乳児医療費無料化,沢内方式,地域包括医療

 

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第56巻第8号 2009年8月

精神障害者の社会適応訓練から一般就労への有効な支援

大野 順子(オオノ ジュンコ)

目的 社会適応訓練利用後,労働関係機関との連携・協働により一般就労に至った3事例を通し,保健師の精神障害者に対する就労支援のあり方を考える。
対象と結果 社会適応訓練事業を利用した精神障害者への一般就労の支援経過の検討を行った。西多摩保健所では,平成18年10月から19年3月まで,都内で働く保健師1,260人を対象に「就労支援において保健師が大切と考えている支援の視点」についてアンケート調査を行った。その結果,保健師は保護的就労(福祉的就労)とされる通所授産施設,共同作業所,社会適応訓練事業利用については,保健師の視点や支援方法で有意に影響する項目があったが,一般就労では有意に影響する項目は明らかにならなかった。社会適応訓練中から一般就労への動機づけを行い,障害をオープンにした就労活動で障害者本人の希望に添える一般就労支援ができた。
結論 精神障害者の一般就労には保健師の支援だけでは困難であり,労働関係機関等との連携・協働が不可欠と考えられた。精神障害者は仕事や人間関係という訓練の環境を変えずに一般就労したいという希望が強い。保健師は働いて報酬を得ることが生活の安定だけでなく,本人達の自尊心につながることを重視し援助した。障害者の病状,能力,意欲,体力をアセスメントし,障害をオープンにして労働機関関係者との連携,制度を活用することが一般就労には有効と考えられる。
キーワード 精神障害者,社会適応訓練事業,保護的就労(福祉的就労),一般就労

 

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第56巻第10号 2009年9月

グループ回想法の介入効果

-特別養護老人ホーム入所者の生きがい感-
津田 理恵子(ツダ リエコ)

目的 先行研究において,回想法介入による効果の確認を,生きがい感スケールを用い,長期的にその効果を検証している研究は見当たらなかった。そこで,特別養護老人ホームでクローズド・グループによる回想法の介入を試み,生きがい感スケールを用いて,多層ベースラインで調査を実施し回想法の介入効果を確認することを目的とした。
方法 特別養護老人ホームに入所している高齢者13名を,A組・B組・C組の3グループに分け,1グループにつき5週間ずつ,介入時期を2カ月間ずらしてグループ回想法を実践し,生きがい感スケールを用いて2カ月ごとに5回(10カ月間)測定した(多層ベースライン)。
結果 生きがい感スケールの得点と生きがい感スケールの下位項目の得点について,3(グループ;A組,B組,C組)×5(時期;1回目,2回目,3回目,4回目,5回目)の分散分析を行った。その結果,交互作用に有意な傾向が認められた(p<0.06)。多重比較を行った結果,A組では1回目と2回目の間(p<0.03),B組は2回目と3回目の間(p<0.03),C組では3回目と4回目の間(p<0.04)に有意な改善が確認できた。有意な差がみられた時点は,それぞれ回想法の介入直後であった。さらに,生きがい感スケールの下位項目では,「私には施設内・外で役割がある」「世の中がどうなっていくのかもっと見ていきたいと思う」「私は家族や他人から期待され頼りにされている」の3項目に有意な改善が示された。
結論 回想法の介入によって,特別養護老人ホーム入所者の生きがい感の向上に効果があることが確認できた。日々の生活における余暇時間における活動として,回想法は,個人の懐かしい記憶に働きかける個別性が尊重された支援であると示した。
キーワード グループ回想法,特別養護老人ホーム,生きがい感,多層ベースライン

 

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第56巻第10号 2009年9月

青年勤労者における抑うつ状態と体力との関連

久保田 晃生(クボタ アキオ) 原田 和弘(ハラダ カズヒロ) 笹井 浩行(ササイ ヒロユキ)
甲斐 裕子(カイ ユウコ) 高見 京太(タカミ キョウタ)

目的 本研究は職域の青年期を対象に抑うつ状態と体力との関連を検討し,職域におけるメンタルヘルスの向上を効果的に推進するための基礎的資料を得ることを目的とする。
方法 静岡県内のN社K製造所で,本研究に協力の得られた20歳代,30歳代の男性288人を対象とした。この内,「解析項目に1つでも欠損値がある」「体力項目のいずれかに平均値+標準偏差×3以上の値がある」「CES-Dで逆転項目の回答が不十分である」75人を除いた213人を解析対象者とした。体力は握力と長座体前屈,反復横とび,上体起こし,立ち幅とびを測定した。質問紙調査では,自記式の推定最大酸素摂取量,Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)日本語版,International Physical Activity Questionnaire(IPAQ)日本語版Short Versionのほか,年齢,配偶者,学歴,睡眠時間,夜勤,喫煙習慣,飲酒習慣,現病歴の状況を把握した。また,同時期の健診結果からBMIを把握した。解析は,CES-D得点から2群(16点以上の抑うつ群と16点未満の非抑うつ群)に分け,体力測定,質問紙調査の結果をMann-Whitney U検定,χ2検定で比較した。抑うつの有無(抑うつ群=1,非抑うつ群=0)を目的変数,各体力項目を説明変数,各交絡因子を調整変数としたロジスティック回帰分析を施し,抑うつ状態と体力との関連を検討した。
結果 全体のCES-D得点は15.3±8.1点(平均値±標準偏差)で,抑うつ群は88人(41.3%)であった。抑うつ群と非抑うつ群の比較では,年齢,配偶者,夜勤,BMI,立ち幅とび,上体起こしで有意差が認められた(p<0.05)。立ち幅とび,上体起こし以外の体力項目は,有意差は認められなかったが,抑うつ群の方が非抑うつ群よりも低い値を示した。ロジスティック回帰分析では,立ち幅とび(1標準偏差上昇に対するオッズ比0.57,95%信頼区間0.41-0.80),推定最大酸素摂取量(0.58,0.39-0.86),上体起こし(0.72,0.53-0.97),握力(0.73,0.54-0.99)が有意な関連を示した(p<0.05)。
結論 本研究の結果,抑うつ状態と体力を構成する要素である筋力(握力)と筋持久力(上体起こし),筋パワー(立ち幅とび),持久力(推定最大酸素摂取量)が関連し,体力を向上させることが,抑うつ予防につながる可能性が考えられた。しかし,本研究は横断的研究であり,抑うつ状態と体力との因果関係は断言できない。今後,縦断的研究が望まれる。
キーワード 抑うつ状態,CES-D,体力,身体活動量,青年期,勤労者

 

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第56巻第10号 2009年9月

在宅要支援・要介護1認定者における
介護保険サービス利用の介護度悪化防止への効果に関する分析

松本 たか子(マツモト タカコ) 猫田 泰敏(ネコダ ヤストシ)

目的 本研究は,高齢者の自立支援を基本理念とする介護保険制度で軽度認定を受けた在宅高齢者の第1回更新月1カ月分の介護保険サービス利用による,第1回更新時から第2回更新時までの介護度の悪化防止への効果について分析した。
方法 調査対象地域は,65歳以上の人口割合が全国値に近似し,介護保険法に基づく介護保険サービスの全種類の利用可能な東京都B区を選定した。自治体の既存の介護保険データを用い,2003年度に新規申請を行い,初回認定時および第1回更新時に要支援・要介護1の認定を受けた第1号被保険者456人を調査対象とした。調査項目は,性別,第1回更新申請時の年齢,新規時および第1回・第2回更新時の介護度,第1回・第2回更新年月日,第1回更新月1カ月分のすべての介護保険サービスの利用状況とした。第1回更新時から第2回更新時までの介護度の変化と調査対象の特性,サービス利用状況との関連について分析した。
結果 第1回更新時から第2回更新時までに介護度が悪化した者は61名(13.4%)であった。調査対象の特性と介護度の変化の間には有意な関連は認められなかった。個別の介護保険サービスの利用状況と介護度の変化の分析の結果,訪問介護の利用者において月6回以上の利用者のオッズ比が0.37(0.17~0.84)と悪化防止への影響が認められた。また,通所介護では月1~5回の利用者でオッズ比が2.74(1.15~6.53)と逆に悪化することが示された。多重ロジスティック分析の結果も同様であった。
結論 自立可能性が高い軽度認定者に対する在宅高齢者の介護保険サービスのうち,訪問介護の提供が有効であることが示された。このことから,対象者の生活や疾病などの個別性を踏まえたサービスの提供が必要であることが重要と考えられた。通所介護については,現在の実施のあり方に検討すべき点があることを示唆するものと考えられた。
キーワード 介護保険制度,在宅高齢者,要支援・要介護1,介護度の変化,介護保険サービス

 

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第56巻第10号 2009年9月

家族介護者の抑うつ傾向に影響を及ぼす介護保険サービスの検討

坪井 章雄(ツボイ アキ オ)

目的 在宅介護家族の介護ストレスによる介護破綻を予防するために,抑うつ傾向の軽減のための有用な在宅サービスの可能性を探る目的で調査を行った。
方法 対象は,茨城県内のすべての在宅介護家族を母集団として層化二段無作為抽出法により標本抽出した。在宅介護家族支援と介入を行っている居宅療養管理指導事業所(以下,事業所)の利用者を対象とし,標本抽出台帳から153施設を無作為抽出し,調査の依頼を行った。介護ストレスの軽減に有用なサービスや問題解決の内容・方法を抽出するために,Ⅰ:介護者・被介護者属性,Ⅱ:利用サービス内容,Ⅲ:問題解決の方法,について調査票を作成し,調査票との関連を検討するために,介護者の測定には標準的うつ評価スケールとして国際的に受け入れられているGDS-15を調査に用いた。
結果 サービス利用者と非利用者間におけるGDS-15の差の検定では,障害の予後や改善の説明やスロープの設置でサービス利用者が非利用者より有意にGDS-15平均点が低かった。問題解決実施者と非実施者間におけるGDS-15の差の検定では,相談者がいる介護者,援助者がいる介護者,趣味がある介護者,および家族に相談している介護者,医師や看護師,PT・OTなどの医療職に相談している介護者,インターネットを用いている介護者では,非実施者より有意にGDS-15平均点が低かった。一方,何もしない介護者は有意にGDS-15平均点が高かった。
結論 抑うつ傾向軽減のためには,被介護者の将来の状況に対する不安が軽減するサービスが有効と考えられた。また,家族が相談者や支援者とすることで抑うつ傾向が軽減することが示されており,主たる介護者と共にそれ以外の家族に対して,在宅介護に対する理解と協力を得る事を目的とした介入の必要性が考えられる。
キーワード 介護家族GDS-15,抑うつ,介護保険サービス,介護破綻

 

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第56巻第10号 2009年9月

児童養護問題の階層性

-児童養護施設6カ所の実態調査から-
堀場 純矢(ホリバ ジュンヤ)

目的 児童養護施設(以下,施設)で暮らす子どもと親の生活問題に関する研究は,1990年代以降,ほとんどみうけられない。そこで筆者は,子どもと親(家族)の背負う労働問題を生活問題と不可分のものとして捉え,東海地区の施設6カ所で暮らす子どもと親の生活問題に関する調査を行った。本稿の目的は,この調査結果をもとに,児童養護問題の階層性を統計的に浮き彫りにすることである。
対象・方法 調査対象は,東海地区の施設6カ所の父母352名(父179名,母173名)とした。A園(2000年3月),B園(2003年4月),C園(2006年8月),D園(2006年10月),E園(2006年3月),F園(2008年8月),すべてその月現在の各施設に在籍している子どもと親の生活歴についてケース記録より情報抽出を行った。また,施設職員にケースごとに情報が不足する項目について聞き取りを行った。調査期間は,2000年8月,2003年5月~2004年8月,2006年1月~2008年8月である。調査項目は,学歴,就労・所得,社会保険,居住場所,近所づきあいの程度,健康状態の6項目とした。
結果 施設で暮らす子どもの親は,親の親(祖父母)の代からの貧困を背景として,「学歴」が低く,そのことが「不安定就労」「無職」「生活保護」につながっていた。その結果,住居も相対的に狭小な民間アパート・寮・公営住宅で暮らさざるをえず,自己負担の割合が高く給付が不十分な「国保」「無保険」につながっていた。さらに,雇用・労働条件が不安定で重労働のため,「近所づきあい」をするゆとりもなく社会的に孤立し結果として心身の健康問題が深刻化していた。
結論 施設で暮らす子どもと親のほとんどが不安定低所得階層であること,母親に不安定就労や無職が多く,生活問題が深刻であること,父母ともに厳しい労働・生活実態を反映して,心身の健康問題が深刻であること,児童養護問題の背景には親の労働・生活問題があること,以上の4点が明らかとなった。
キーワード 児童養護施設,階層性,健康・生活問題

 

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第56巻第10号 2009年9月

若年女性の健康を考える子宮頸がん予防ワクチン接種の意義と課題

荒川 一郎(アラカワ イチロウ) 新野 由子(ニイノ ヨシコ)

目的 子宮頸がんの発生は,発がん性のHPV(Human Papillomavirus)の感染が主要因である。HPVは性交渉によって子宮頸部粘膜へ経路する。近年,若年女性の性交渉率と性感染症の増加が問題となっている。また,子宮がん検診の受診率は欧米に比べて日本では24%程度と極端に低く,さらに20~30代の若年女性で子宮頸がんの発生が増えている。今回著者らはその要因について考察し,子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の意義,そして包括的なリプロダクティブ・ヘルスへの対策について検討した。
方法 マルコフモデルを用いて,がん検診率50%によるアウトカムの計量化を予備的に試みた(費用効用分析,社会全体の立場)。そして,20~30代女性の立場からHPVワクチンの臨床的,経済的アウトカムへの影響について検討を行った。分析手法は,費用便益分析を用い,観察期間を10歳からの30年間とし,年率3%で割引いた。いずれの検討も,モデル計算に必要な変数は,国内外の公表文献や国内の統計データより得た。
結果 定期検診率向上に関する予備検討の結果,生涯における子宮頸がんの発生率や死亡率は13~14%減少することが示唆されたが,増分費用効果比が約1兆700億円/QALY(quality-adjusted life year)と非効率的であった。12歳児のコホート(n1=589,000)へのワクチン接種(接種率100%)は,非接種(n2=589,000)と比較して,20~30代における子宮頸がんの発生や子宮頸がんによる死亡を減少させることができ,そして約12億円の純便益が得られると推計された。
結論 今回の検討結果から,検診率の向上だけでは子宮頸がんの発生を抑えるには十分ではなく,非効率的であるため,若年女性の立場からHPVワクチン接種の意義が示唆された。しかし,わが国の若者の多様な性行動に対する対策を検討する必要性が考えられ,子宮がん検診の向上とHPVワクチンの集団接種の導入に加え,諸外国の対策を参考として性の健康に関する正しい知識を提供する性教育の浸透という多角的な対策が,現実的に今回推計した便益の獲得につながると期待する。リプロダクティブ・ヘルス,生涯を通じた女性の健康への対策として,社会全体で子宮頸がん撲滅ための取り組みが今求められているのではないだろうか。
キーワード 子宮頸がん,HPV,ワクチン,疾病負担,性感染症,性教育

 

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第56巻第11号 2009年10月

感染性胃腸炎対策研修プログラムにおける
ゲーミングシミュレーション利用の評価

堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 黒瀬 琢也(クロセ タクヤ)
日高 良雄(ヒダカ ヨシオ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 感染性胃腸炎集団感染予防対策を学ぶための教材を,ゲーミングシミュレーションを用いて開発した。これを利用した参加型研修プログラムについて評価し,その有用性について検討した。
対象と方法 研修プログラムは,①開始前のルールの自学学習,②ノロウイルスに関する講話,③ゲーミングシミュレーションの実施,④感染拡大防止に関する講話,⑤質疑応答,⑥質問紙記入,の約1時間20分である。教材はノロウイルスの感染拡大をイメージできるボードゲームである。評価は,フェイスシート(年齢,勤務年数,集団感染経験,研修受講経験,勤務先での立場),研修会評価(構成,所要時間,資料),教材評価(楽しさ,ルール,感染拡大,対策および連携の重要性,再度の実施可能性)の全15問からなる質問紙によった。平成20年にM市保健所管内の保健福祉施設勤務者を対象として実施した研修にて,プログラムを実行した。質問紙は受付にて配布し当日回収した。
結果 参加者(評価対象者)139名は,50歳台が最も多く全体の3割を超え,次いで40歳台が全体の1/4を占めていた。勤務年数は,多い順に10年以上,5年以上であった。集団感染が起きた場合に指揮をとる立場のものは全体の約半数であった。研修会評価は,すべての項目でよかったとされた。教材評価では,とても楽しく感じ,感染拡大の様子が実感でき,連携や対策の重要性を認識していることがわかった。そして,再度の実施を希望していた。両評価とも,集団感染経験,研修の受講経験,年齢,勤続年数において有意な差はみられなかった。
結論 講義形式の研修は,学問レベルは高いが内容の現実性や体験との関連性,理解度,問題解決の場としては劣るなどの問題点が指摘されている。今回の教材は質問紙調査の結果からは,経験の有無などに関わらず学習効果が得られることが示唆された。また,研修会の評価も高かった。今後,ゲーミングシミュレーションを利用した教材によって効果的な研修会ができることが示唆された。
キーワード ゲーミングシミュレーション,参加型研修プログラム,感染性胃腸炎

 

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第56巻第11号 2009年10月

年齢・職業不詳の自殺者が都道府県別自殺率に及ぼす影響

赤澤 正人(アカザワ  マサト) 松本 俊彦(マツモト トシヒコ) 川野 健治(カワノ ケンジ)
稲垣 正俊(イナガキ マサトシ) 竹島 正(タケシマ タダシ)

目的 警察庁発表の自殺の概要資料と厚生労働省の人口動態統計では,毎年自殺者数,自殺率に差が確認される。集計方法の違いが要因のひとつと考えられるが,自殺の概要資料には発見された年以前の自殺がその年の自殺として計上されうる。本研究では,発見された年以前の自殺者であると推測される自殺者を,「年齢不詳」かつ「職業不詳」の自殺者として捉え,年齢・職業不詳の自殺者が都道府県の自殺率に及ぼす影響を検討する。
方法 警察庁から自殺予防総合対策センターに提供を受けた,平成16年から18年の自殺についての自殺統計原票に基づく集計データから,都道府県別に年齢・職業不詳の自殺者数を集計した。そして発見地による自殺者数から年齢・職業不詳の自殺者数を除いた自殺率を求め,発見地による自殺率と比較検討した。
結果 3年間に全国で779人の年齢・職業不詳の自殺者が確認された。年齢・職業不詳の自殺者が多い都道府県は,東京都,山梨県,福岡県,神奈川県,愛知県等であった。山梨県は他県と比較して,発見地による自殺率(41.9,41.8,42.7)と,年齢・職業不詳の自殺者数を除いた自殺率(38.3,36.0,36.4)との間に差があることが分かった。
結論 山梨県では,年齢・職業不詳の自殺者数が自殺の概要資料における自殺率を高めている可能性が示唆された。自殺の実態把握にはデータの特徴や限界を認識しておくことが重要である。
キーワード 自殺,自殺率,自殺の概要資料,人口動態統計,年齢・職業不詳の自殺者

 

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第56巻第11号 2009年10月

二次医療圏別平均寿命による健康指標の開発

若林 チヒロ(ワカバヤシ チヒロ) 新村 洋未(シンムラ  ヒロミ) 加藤 朋子(カトウ トモコ)
川島 美知子(カワシマ ミチコ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 平均寿命は,地域の健康水準とそれに影響を及ぼす保健医療福祉政策を評価する最も適切な指標であり,都道府県単位と市区町村単位で公表されている。しかし,保健医療福祉政策の効果を評価するには,都道府県単位では広域すぎて地域ごとの評価指標としては適切ではないし,市区町村単位では単位ごとの人口規模が数百から数十万の範囲にまたがるためにばらつきが大きく信頼度に問題がある。医療サービスは二次医療圏単位で供給されており,保健医療福祉政策を評価するためには,二次医療圏単位の平均寿命による評価が必要である。そこで本研究では,市区町村単位で公表されている平均寿命を基にして,二次医療圏単位の平均寿命を計算し,その分布を観察する。さらに,二次医療圏別平均寿命を用いた解析の例として,性別に老年人口割合との関連を検討した。
方法 2005年性別市区町村別平均寿命(2006年12月31日現在の市区町村区分)と2005年国勢調査人口(2005年10月1日現在の市区町村区分)から,市町村合併前後の対応表を用いて,2006年12月31日現在の市町村区分に統一したデータベースを作成する。二次医療圏の分類は「医療施設調査」(2006年10月1日の分類)より引用し,2006年10月1日と12月31日の市町村区分の相違を確認したうえで,2006年12月31日現在の二次医療圏分類を作成した。これらを元に,人口規模を考慮した二次医療圏別平均寿命を性別に算出した。二次医療圏別平均寿命について分布の特性を観察し,地域の基本的な背景として老年人口割合との相関を観察した。
結果 二次医療圏別平均寿命は,男性78.50±0.92歳,女性85.75±0.59歳で,男女の相関はr=0.677であった。二次医療圏単位の平均寿命は,老年人口割合との間には,男性は負の相関(r=-0.440)があったが,女性は相関がなかった(r=-0.037)。
結論 市区町村別平均寿命を元に二次医療圏別平均寿命を算出し,分布と老年人口割合との関係を観察したところ,男性の方が二次医療圏別の差異が大きく,男性では都市化との関連がみられたが,女性では関連がみられず,就労形態,居住地,職業選択や保健医療福祉サービスとの関連が伺われた。二次医療圏別平均寿命は,他の社会経済指標および医療供給指標との関連を観察することで,幅広い公衆衛生活動の評価指標として利用できる。市区町村別平均寿命は5年ごとに公表されるので,5年後の指標も作成し,地域における健康水準の推移を観察する予定である。
キーワード 平均寿命,二次医療圏,健康指標,保健医療福祉政策,地域格差

 

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第56巻第11号 2009年10月

住民がかかりつけ医を持っていない割合とその特性

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
松嶋 大(マツシマ ダイ) 岡山 雅信(オカヤマ マサノブ) 松嶋 恵理子(マツシマ  エ リ コ)
藤原 真治(フジワラ シンジ) 小松 憲一(コマツ ケンイチ) 梶井 英治(カジイ エイジ)

目的 地域住民がかかりつけ医を持っていない割合と,その特性を明らかにする。
方法 対象は,下野市,小山市,真岡市,上三川町,二宮町,筑西市,結城市の2007年住民健診(2007年9~11月)の受診者である。調査方法は自記式質問紙調査で,調査項目は対象者情報(年齢,性別,学歴,就労,自宅周囲の医療機関)とかかりつけ医の有無である。かかりつけ医は「普段定期的に受診している医師」もしくは「自分の健康や病気のことを気軽に相談できる医師」と定義した。回収した質問紙のうち年齢,性別,かかりつけ医の有無のすべてに回答があるものを有効回答とした。対象者を「かかりつけ医あり(あり)」と「かかりつけ医なし(なし)」の2群に分類し比較した。
結果 対象者は2,397名で2,376名(99.1%)から回収した。有効回答は2,228名(92.9%,対象者数に対する割合)で,「あり」1,507名(67.6%),「なし」721名(32.4%)であった。かかりつけ医の有無の比較では,平均年齢,最終学歴,就労で有意差を認めた。平均年齢は,「あり」の61.5歳に対し,「なし」は52.8歳で有意に若かった。最終学歴は,専門学校卒業以上が「あり」25.8%に対し「なし」では37%であり,「なし」が有意に多かった。就労は,有職者が「あり」37.7%に対し「なし」では52.1%であり,「なし」が有意に多かった。かかりつけ医なしの対象者特性について,多重ロジスティック回帰分析にて20~64歳(若年から中年層),専門学校卒業以上(高学歴者),有職者で有意差を認めた。年齢は65歳以上と比べて,20~39歳,40~64歳のオッズ比がそれぞれ8.17,2.47で,若年から中年層はかかりつけ医を持っていない傾向にあった。最終学歴は,専門学校卒業以上について高校卒業以下と比較すると,オッズ比1.28と,専門学校卒業以上がかかりつけ医を持っていない傾向にあった。就労は有職を無職と比較すると,オッズ比1.29と,有職者はかかりつけ医を持っていない傾向にあった。
結論 住民の3割がかかりつけ医を持っていないこと,および若年から中年層,高学歴者,有職者はかかりつけ医を持っていない傾向があることが示された。
キーワード かかりつけ医,地域住民

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第56巻第11号 2009年10月

精神障害者の就労支援におけるQOLの変化

-SF_36v2日本語版を用いて-
立石 宏昭(タテイシ ヒロアキ)

目的 「個別職業紹介とサポートによる援助付き雇用プログラム(Individual Placement Support Program:IPS)」の考え方を取り入れた訪問型個別就労支援の実践を通して,就労支援とQOLの関係を明らかにすることである。
方法 精神障害者地域活動支援センターの利用者73人に対して,S1(就労準備),S2(求職活動),S3(フォローアップ),S4(保留・終了)という就労支援のターニングポイントを設け,「SF-36v2日本語版(振り返り期間が1カ月間)」によるQOLの変化を測定した。調査期間は,2006年4月から2008年3月までの2年間である。分析は,SF-36v2の36項目の設問に0~100点をスコアリングし,「国民標準値(Norm Based Scoring: NBS)」と比較した。また,SF-36v2の下位尺度に重みづけをしたあと,「身体的健康度をあらわすサマリースコア(Physical Component Summary: PCS)」と「精神的健康をあらわすサマリースコア(Mental Component Summary:MCS)」の変化を探った。さらに,各ステージの特性値に対する因子の影響を知るため,反復測定による一元配置分散分析および多重比較を行った。
結果 S1(就労準備)のPCS(-3.6),MCS(-4.0)は,ともにNBSを下回り,就労を目指す段階ではQOLは低下していた。しかし,S2(求職活動)では,S1を上回り,S3(フォローアップ)になると,PCS(0.8),MCS(3.5)はNBSを上回るほど高い数値を示していた。さらに,S3(3カ月)では,PCS(4.3)はNBSを大きく上回り,身体的健康度が高くなっていた。しかし,S3(6カ月)を過ぎるころから,PCS(3.7),MCS(2.3)の低下が始まり,S3(18カ月)になると,PCS(-1.3),MCS(-0.1)はNBSを下回っていた。つまり,各ステージにより利用者のQOLに変化が見られた。また,反復測定による一元配置分散分析および多重比較を行ったところ,①S1とS3,②S1とS3(3カ月),③S1とS3(6カ月),④S2とS3,⑤S2とS3(6カ月)の群間で有意差を確認することができた(F値6.425,p<0.000)。
結論 就労支援を始めて18カ月当たりに就労継続を図るためのターニングポイントがあった。
キーワード 精神障害者,就労支援,SF-36v2,QOL,地域活動支援センター

 

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第56巻第11号 2009年10月

回復期リハビリテーション病棟における
患者の状態の変化に関する研究

「一入院(入院時から退院時まで)」データにおける
「重症度・看護必要度」得点の変化
筒井 孝子(ツツイ  タカコ)

目的 これまで急性期病院から,回復期リハ病棟に転院してきた患者がどのような状態で,入院し,退院するかについては,十分にデータが示されてこなかった。そこで本研究では,「重症度・看護必要度」および「重症度」基準の調査項目を用い,回復期病棟の患者の入院時および退院時の状態を急性期病院の患者タイプとの比較から明らかにし,さらに,その一入院の変化について分析することを目的とした。
方法 回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の会員施設のうち看護師配置の高い21病院51病棟の患者の「重症度・看護必要度」および「重症度」基準の評価項目によるAおよびB得点を収集した。分析は,得点の平均値および標準偏差を示し,また入院時と退院時の得点等の分析に関しては,3段階以上のカテゴリー評価については,Wilcoxonの符号付き順位検定,2段階評価は,McNemar検定を行い,一入院における得点の変化を明らかにした。
結果 回復期リハ病棟の患者は,医療処置はほとんどなかったが,7対1や10対1の急性期病棟より,療養上の看護に手間がかかる患者タイプ4と5の割合が高く,全体の41.4%と示された。また,同一患者における入院時と退院時の一入院の変化については,退院時では入院時より平均得点が2.5点低下しており,患者の7割以上に得点低下がみられた。
結論 本研究結果から,回復期リハ病棟の患者は,医療的な処置がなくなった時点で急性期病棟から転院し,全患者の7割程度が改善して退院していることがわかった。今後は,新たに収集されることになった日常生活機能評価による得点データを用いて,急性期から回復期までの一入院のデータ,さらには,在宅における状態の変動を継続的に調査し,地域におけるリハビリテーションサービスやケア提供の在り方を検討することが課題である。
キーワード 回復期リハビリテーション病棟,看護必要度(nursing care intensity),重症度・看護必要度,日常生活機能評価

 

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第56巻第11号 2009年10月

アフガニスタンにおける
ポリオ根絶プログラムの成果と展望

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
高野 健人(タカ ノ タケヒト) シャフィクラ ヘマット

目的 アフガニスタンにおけるポリオ根絶プログラムの成果を評価し,今後の地域における予防接種の一層の普及のために,経口ポリオウイルスワクチン(OPV)接種率の地理的分布を分析し,実際に世帯訪問調査を行い,予防接種の促進要因を明らかにする。
方法 アフガニスタン公衆衛生省EPI事務所,WHO,UNICEFの調査による予防接種記録,2002年国勢調査結果,および地理情報データベースに基づき331地区の保健医療地理情報データベースを構築し,OPV3回接種について分析した。また急性弛緩性麻痺サーベイランスデータより,ポリオ診断確定数の変化を分析した。カブール県において,1,400世帯を対象とした世帯訪問調査を2006年に行い,ポリオ予防接種歴と,健康状態,社会経済要因,生活環境要因,ならびに保健医療サービスへのアクセスなどについてデータベースを作成し,予防接種の促進要因を分析した。
結果 アフガニスタンにおけるOPV3回接種率は向上しており,地理的分布も広がっている。また,ポリオ確定診断ケースも激減しており,地域的に限局化している。また,カブール世帯訪問調査結果から,OPV3回以上接種率は,年齢に従って増加し,それぞれ,44.8%(1歳未満),62.7%(1歳),60.4%(2歳),64.1%(3歳),68.8%(4歳)であった。また,統計的に有意な予防接種の促進要因は,アウトリーチ活動チームによる家庭訪問,予防接種の健康教育,医療施設分娩,妊婦健診,医療施設までの地理的利便性であることが示された。なお背景として,社会経済要因の影響も統計的に有意であった。
結語 アフガニスタンのポリオワクチン接種率は,目標接種率には到達していないが,近年急速に向上している。目標接種率に到達するためには,地域格差,特に,低接種率地区における予防接種活動の課題への対応が不可欠となる。ポリオの根絶に向けて,地域の安定を含む社会経済条件の向上を図る様々な支援プログラムとの連携をはかり,アウトリーチ型の活動の一層の展開,健康教育の拡充,医療施設分娩の機会拡大,妊婦検診の普及などを包括的に推進することにより,一層の予防接種の普及が図られるものと考えられる。
キーワード アフガニスタン,ポリオ,予防接種,EPI,地域保健

 

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第56巻第15号 2009年11月

消費者が必要な食の安全に関する知識

-食品衛生監視員対象の質的調査から-
 中垣 俊郎(ナカガキ トシロウ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 馮 巧蓮(ヒョウ コウレン)
赤松 利恵(アカマツ リエ)  田中  久子(タナカ ヒサコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 消費者が食品のリスク情報を解釈するために必要な知識は何であるのかを明らかにすることを目的とした。
方法 地域的偏りがないよう全国から選出された検疫所を除く行政機関に勤務する食品衛生監視員27名を対象とし,質的調査(デルファイ法)を実施した。第1回調査では「一般消費者が必要とする食の安全の知識としてどのような内容が考えられるか」の質問に対して,7項目挙げ,その選出理由を記載してもらった。第2,3回調査では,第1回調査で選出された項目から優先度が高いと考える項目7つを選択してもらい,第1位を7点,第2位を6点,第3位を5点と7位1点まで順次得点化し,項目別の合計得点を算出した。選出理由はKJ法2)を用いて分析した。調査期間は,平成19年12月から20年2月であった。
結果 回収率は85%以上であった。第1回調査で56項目が選出され,最終的に35項目に1点以上の得点が与えられた。第1位より「生食の危険性」「食中毒防止」「食品表示」と続き,上位10項目中4項目はリスク分析に関する項目であった。上位10項目の選出理由では「消費者と食品と健康被害の関係」に対して「社会の抱える課題」と「リスクコミュニケーション」がそれぞれ関連し,「消費者自身」は「知識不足」「不十分な理解」「反応」「間違った理解」「態度」「能力」といった内面が「喫食行動」と関連していた。また,「食品」は,「リスク」そのものだけでなく「流通」「管理」があがった。
結論 消費者が必要な知識として認識されている項目は,リスク評価,リスク分析の考え方の視点からだけでなく,そのときどきのメディアの影響の可能性も示唆された。
キーワード 食の安全,知識,デルファイ法,食品衛生監視員

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

精神に病を持つ人の居場所感尺度の検討

國方 弘子(クニカタ ヒロコ) 茅原 路代(カヤハラ ミチヨ) 土岐 弘美(トキ ヒロミ)

目的 精神に病を持つ人が地域で充実感がある生活を送るためには,居場所のあることが重要な要素の1つである。本研究は,居場所感を「自分がそこにいてもいい場であり,自分らしくいられる場であり,自分がありのままにそこにいてもいいと認知し得る感覚」と定義し,精神に病を持つ人の居場所感尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証することを目的とした。
方法 分析対象は,地域で生活しデイケアに通所する統合失調症者83名とした。初回調査は平成19年1~2月に行い,追跡調査は尺度の信頼性と妥当性を評価するために同一対象に,6カ月後に実施した。測定用具は,71項目からなる居場所感尺度原案,疎外感尺度(併存的妥当性の確認),WHOQOL-26尺度(予測的妥当性の確認),属性で構成した。分析は,探索的因子分析,確証的因子分析,シンクロナウス・イフェクツ・モデルを用いて妥当性を検討した。信頼性は,内的整合性と安定性の評価で検討した。
結果 探索的因子分析の結果,3因子が抽出された。3因子を一次因子,精神に病を持つ人の居場所感を二次因子とする高次因子モデルを構築しデータへの適合度を検討した結果,モデルは受容できた(χ2/df比=1.409,GFI=0.930,AGFI=0.851,CFI=0.980,RMSEA=0.071)。初回調査と追跡調査の精神に病を持つ人の居場所感は正の相関(γ=0.631,p<0.01),初回調査における精神に病を持つ人の居場所感と疎外感尺度は負の相関(γ=-0.548,p<0.01)があった。精神に病を持つ人の居場所感とWHOQOL-26の因果関係を分析した結果,初回調査における精神に病を持つ人の居場所感は,追跡調査の同一変数を0.545の標準偏回帰係数(p<0.001)で予測し,追跡調査における精神に病を持つ人の居場所感は追跡調査のWHOQOL-26を0.364の標準偏回帰係数(p<0.05)で予測した。α係数は0.893であった。
結論 結果より,本尺度の信頼性と妥当性は支持された。しかし,用いたデータが少ないために今後,大量のサンプルで調査を行うことが必要である。また,交差妥当性の検討も必要である。
キーワード 精神に病を持つ人,居場所感,尺度の開発,信頼性と妥当性

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

利用者主体の福祉サービスの実践条件に対する職員と利用者の認識

渡邉 修宏(ワタナベ ノブヒロ) 森山 哲美(モリヤマ テツミ)

目的 本研究の目的は,福祉サービスの実践条件に対する職員と利用者双方の認識を比較し,利用者主体の福祉サービスの実践に必要な条件を明らかにすることである。
方法 調査対象はA県内の障害者支援施設14カ所(身体障害者療護施設)の職員451名(回収率74.1%)と利用者228名(回収率67.1%)であり,留置法か直接聞き取りのどちらかによる悉皆調査を2005年6月から同年9月までの期間に実施した。利用者主体の福祉サービスの実践条件に対する職員と利用者の認識を把握するため,「より良い福祉サービスが実践されるために何が重視されるべきか」「職員と利用者のかかわりをよくするために何が重視されるべきか」「職員と利用者のかかわりがよいほど福祉サービスはよくなるか」「現在,利用している施設の職員と利用者のかかわりはよいか」という質問を用いて回答を求めた。
結果 利用者主体の福祉サービスに対する職員と利用者の認識の間でいくつかの違いがみられたが,本質的に異なるものではなかった。違いは,利用者主体の福祉サービスを実践するための両者の視点の方向性の違いであった。すなわち,職員は福祉サービスを実践するための外的要因を重視したが,利用者は自分に向けられる福祉サービスの内容そのものを重視した。職員と利用者の認識を比較して明らかになった利用者主体の福祉サービスに必要な条件は,①ケアにかかわる人々の関係を良好にするための知識と技術を職員が習得すること,②利用者へのサービス量を拡充するための施設内設備の充実や外部関係機関との連携が強化されること,③利用者の要求に見合った,施設と家族の連携,施設と地域社会の交流が促進されること,④職員と利用者が,互いに話し合うことができ,相手を理解して共感的に対応できるような環境が設定されること,⑤利用者の話に耳を傾け,利用者のニーズを理解して共感的に対応できるケアの技術を職員が習得することの5つであった。
結論 本研究で明らかになった5つの条件を満たす福祉サービスが実践される必要がある。そのために,利用者と職員がかかわる場面と,そのときの彼らの行動の関係を調べ,どのような行動上の問題があるのか具体的に調べる必要がある。そして,その問題が解決されるなら,真の意味での利用者主体の福祉サービスの実践は可能となるだろう。
キーワード 利用者主体の福祉サービス,実践条件,職員と利用者の認識

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

日本人渡航者における黄熱予防対策の状況

小池 絵梨香(コイケ エリカ) 西川 幸位(ニシカワ ユイ) 久保 瑠華(クボ ルカ) 
福岡 賢治(フクオカ ケンジ) 森岡 郁晴 (モリオカ イクハル)

目的 本研究では,日本人渡航者が,黄熱の予防接種時に黄熱に対する基本的知識,渡航先の流行の有無,帰国後に黄熱の発症を疑うときの対処法などについての情報収集ができているかを明らかにし,日本人渡航者の感染症対策について検討することを目的とした。
方法 対象者は,2008年6月~9月に,黄熱の予防接種を受けるため関西国際空港検疫所に来所した日本人渡航者とした。自記式質問票の調査内容は,渡航先,渡航目的,滞在期間,予防接種の必要性を知りえた情報源,黄熱に対する基本的な知識(症状,感染経路,対処法,予防策),渡航先での流行状況の把握の有無とその情報源,渡航先で受診できる病院の知識の有無とその情報源,帰国後疑わしい症状が出現した際の対処法の知識の有無とその情報源など計15項目とした。
結果 対象者数115名のうち,有効回答数は112名であった(有効回答率97.4%)。黄熱について「調べている」と回答した者の割合は52.7%であった。そのうち,黄熱の主な症状についての正答率は半数以上であり,感染経路の正答率は89.8%であった。さらに,対処法,予防策の正答率も高かった。黄熱に関する全体的な知識を渡航経験の有無別に各個人の正答数と誤答数でみると,正答数はある者4.3個,ない者6.8個であり,ある者の方が有意に少なかった。誤答数はある者3.8個,ない者2.2個と,ある者の方が有意に多かった。渡航先での黄熱の流行状況を51.8%の者が「把握している」と回答した。渡航先で病気・けがをした場合に受診できる病院を「調べている」と回答した者が13.4%であった。また,帰国後に感染症が疑われる症状が続く場合の対処法を「把握している」と回答した者は36.6%であった。これらのことから黄熱の対処方法の情報収集は十分ではなかった。
結論 日本人渡航者は,渡航経験の有無を問わず黄熱の症状や感染経路などの基本的な知識はある程度持っているが,感染症対策について十分に対応できていないことが明らかになった。したがって,医療に携る者は,渡航者に対し,自分の身は自分で守るという意識改善を訴えていかなければならない。
キーワード 渡航者,黄熱,予防対策

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

米国におけるブタ(swine)インフルエンザ集団発生(1976年)から全国予防接種キャンペーン開始までの経緯

武知 茉莉亜(タケチ マリア) 小林 真之(コバヤシ マサユキ) 近藤 亨子(コンドウ キョウコ)
大藤 さとこ(オオフジ サトコ) 福島 若葉(フクシマ ) 前田 章子(ワカバ マエダ)
廣田 良夫(アキコ ヒロタ)  

目的 1976年2月にFort Dix米陸軍基地で認められたブタ(swine)インフルエンザの集団発生から,同年10月の全国インフルエンザ予防接種キャンペーン(National Influenza Immunization Program: NIIP)開始までの一連の流れを要約し,新型インフルエンザ対策の参考に資する。
方法 Fort Dixにおけるswineインフルエンザの集団発生,NIIP決定までの経緯,およびワクチンのfield trialに関する文献から得た情報を時系列に記す。
結果 Fort Dixのswineインフルエンザ集団発生以後,米国の内外で新たな集団事例が確認されなかったにもかかわらず,swineインフルエンザの流行が起こるという前提のもと,NIIPの実施が決定された。計画当初では,接種対象の優先順位は決められておらず,全国民に対して1回の予防接種が妥当であるという予測のもと,2億人分のワクチンを製造することが決定された。また,採択されたNIIPの計画案では,swineインフルエンザ流行が再来しない,という場合については想定されていなかった。NIIPで使用する予定のワクチンに関してfield trialが行われ,様々な年齢層を対象に,2社のsplitワクチンおよび他2社のwholeワクチンが抗原量別に評価された。その結果を踏まえ,免疫原性と安全性が確認されたワクチンにつき,用量・接種回数を規定したうえで接種が勧告された。しかし,NIIP開始までにすべてのfield trialは完了せず,開始前の接種勧告発表に至らなかった年齢層もみられた。また,全国民に予防接種を行うことを予定していたにもかかわらず,ワクチンの必要供給量は確保できていなかった。ワクチン接種開始後,接種者におけるギラン・バレ-症候群の発生が報告され,NIIPは中止となった。
結論 1976年のswineインフルエンザ事例から,流行の可能性はもとよりワクチン製造といった人為的なことを含め,あらゆる点において予測は覆されうるという前提に立って対策を検討する必要性が示唆された。予防接種キャンペーンを計画する際は,そのような前提を考慮したうえで,計画の社会的意義を国民に周知させることが重要と考えられる。
キーワード swineインフルエンザ,予防接種計画,ワクチン製造

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

保健所の権限および組織からみた健康危機管理にふさわしい組織のあり方に関する研究

藤本 眞一(フジモト シンイチ) 石川 貴美子(イシカワ キミコ)

目的 「保健所」の様々な役割のうち,健康危機管理機能に着目して,地方自治体により福祉事務所との統合組織を構築されたことによる様々な形態となっている組織と,地方自治体の首長から委任されている権限を分析した。都道府県立保健所については,筆者らの先行研究があるので,今回は市・特別区立保健所について分析を行った。
方法 保健所設置市区の保健所を含む統合組織の実態と,健康危機管理を含む保健所等に委任された権限を平成18年11月現在で調査・分析した。統合組織の分析は各自治体のホーム・ページおよび全国所長会の名簿等を参考とした。また保健所に委任される権限は,衛生・環境に関係する法令について,保健所,あるいは保健所を含んだ統合組織,保健所を含まないその他の組織への委任に分けて分析を行った。
結果 保健所組織については市区が設置するものは140カ所であったが,政令指定都市以外の設置する市区保健所は全て統合化されておらず,また全体としても単独設置が大半であった。また権限委任については,82市区中3市は委任が皆無であり,1市はほとんど委任されていなかった。他の78市区において,健康危機管理に関する権限の委任割合は都道府県よりも少なかった。委任の内容は自治体により様々であった。
結論 保健所組織,権限とも様々な形態が観察された。地方分権としての首長の自由裁量と,保健所の本来果たすべき役割の法的位置づけを,さらに整理して,法定化していく必要がある。
キーワード 保健所,健康危機管理,地方分権,統合組織,権限

 

 

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第56巻第15号 2009年11月

介護老人福祉施設におけるケアの質の確保と施設の組織・管理

石黒 文子(イシグロ アヤコ) 

目的 高齢者に対するケアの質は,提供する介護職員の質に依存することが多く,一人の利用者に対して多くの介護職員が関わる施設介護の現場において,質の高いケアを提供していくためには,組織的な取り組みが必要である。そこで,介護職員と組織との良好な関係が,結果的にケアの質の維持・向上につながるものと仮定し,介護職員の仕事と組織・管理に関する認識の現状を探索的に分析し,施設において優先的に取り組むべき組織の課題を明らかにすることを目的とした。
方法 2007年9月に,ケアの質の向上に組織的に取り組む3カ所の介護老人福祉施設の介護職員を対象とした留め置きによる自記式回答法調査を実施した。調査項目は,基本属性のほかに,組織コミットメント,仕事や職場の組織・管理の現状,職務満足度を中心に構成した。
結果 組織コミットメントを因子分析した結果抽出された第1因子「残留・意欲」および第2因子「情緒的コミットメント」の因子得点と,個人属性,仕事や職場の現状に対する認識,職務満足度との関連について,相関係数の算出,一元配置分散分析,重回帰分析を行った結果,職務や教育体制の現状に対して肯定的に捉えている職員,賃金に対して満足している職員ほど「残留・意欲」と「情緒的コミットメント」がともに高かった。また,上司・リーダーや同僚との関係の現状に対して肯定的に捉えている職員ほど「情緒的コミットメント」が高い傾向にあった。さらに,組織コミットメントについて,離職率の高い施設と低い施設の介護職員に差がみられた。
結論 結果から,ケアの質の向上のために優先的に取り組むべき組織的な課題として,3点があげられる。第1に,仕事に対して達成感が感じられる仕組みや自分の能力を活かすことができる体制を構築していくこと,第2に,労働に見合った賃金のあり方を検討し,施設に見合った人事評価制度のあり方を確立していくこと,第3には,職員の意見を反映した教育・研修を行っていくことである。また,離職が介護施設を揺るがす大きな課題となっている中で,離職率による差がみられた組織コミットメントは,組織を管理していく上での有効な1つの指標となる可能性が示唆された。
キーワード ケアの質,介護職員,組織コミットメント,離職

 

 

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第56巻第15号 2009年12月

健康危機関連事件における本来のリスクを上回ると思われる
過剰な社会反応の定量的把握とその分析

今村 知明(イマムラ トモアキ) 尾花 尚弥(オバナ ナオヤ) 山口 健太郎(ヤマグチ ケンタロウ)
濱田 美来(ハマダ ミキ) 御輿 久美子(オゴシ クミコ)

目的 食品健康被害事件の際におこる報道機関や消費者における不明確なリスクや不可視なリスクに対する過剰な反応の発生メカニズムを把握する。
方法 近年発生した食品由来の健康危機について,新聞記事を収集し,定量分析を行った。また,収集した新聞記事の中で,BSE事件(2001年)については,この事件が原因と推定した自殺者の数もカウントした。
結果 食品由来の健康危機事件の中で,BSE事件では,記事数・文字数ともに大きく減少することなく報道が継続された。事件が社会問題化したことにより,関連産業の売上減少等が発生し,複数名の関係者が自殺する事態に至った。鳥インフルエンザ(山口県)においても,毎日の報道記事数が数十件に達するなど,報道の持続性がみられた。一方で,消費者の本来のリスクを上回るような反応が懸念されたが,顕在化しなかった6事例では,リスクを報道する記事が毎日掲載されることはなく,1日平均記事件数も数件程度に止まった。また,これらの事例の新聞記事の掲載頻度は,日数を経るごとに件数・文字数ともに減少し,BSE事件等で観察された「報道の持続性」を確認できなかった。鳥インフルエンザは,2004年以降,毎年大規模な感染が発生したが,2004年の事件では,多数の記事が毎日掲載された。他方,翌年以降の事例では,発生後約1週間を境に新聞記事数が漸減した。
結論 食品由来の健康危機に直面した消費者,報道機関において,本来のリスクを上回る反応が発生している状況が確認できた。筆者らは,このような一般消費者の,客観的なリスク水準(被害の発生確率)に拠らない過剰な反応を「ゴースト効果」と名付けた。消費者は,平常時であれば,健康危機の不安を報じる記事に接触しても冷静に対応できるものの,危機発生時には「幽霊」が発生し,消費行動を変える可能性が高まる。したがって,危機発生時には,不安報道が増えないことが望まれるが,このためには,食品リスクについて,「原因が未解明である」「新規性が高い」など報道機関のリスクを上回る反応を誘発するリスク特性への適合状況を確認し,「幽霊」の発生可能性の高さを早期に見極め,対策を検討する必要がある。
キーワード 健康危機,リスクコミュニケーション,報道情報,リスク分析

 

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第56巻第15号 2009年12月

要支援ならびに要介護高齢者を居宅で介護している
家族介護者の介護負担と主観的QOLに関する検討

-要介護度別と認知症の有無による違いについて-
遠藤 忠(エンドウ タダシ) 蝦名 直美(エビナ ナオミ) 望月 正哉(モチヅキ マサヤ)
小野寺 敦志(オノデラ アツシ) 長嶋 紀一(ナガシマ キイチ)

目的 要支援ならびに要介護高齢者(以下,要介護高齢者)の家族介護者の介護負担と主観的QOLを測定し,要介護高齢者の要介護度ならびに認知症の有無との関連性を明らかにし,家族介護者支援を考慮するための基礎資料を得ることを目的とした。
方法 2007年8月時点において,要介護高齢者を居宅において介護する家族介護者1,657名を調査対象とした。家族介護者と要介護高齢者の基本属性に加えて,要介護高齢者の要介護度,認知症の有無や家族介護者の介護負担尺度(J-ZBI_8)と主観的QOL尺度等について調査した。
結果 771票が回収され(回収率46.5%),主要な分析項目において欠損のなかった579票(有効回答率34.9%)を分析対象とした。要介護高齢者の要介護度は,要介護2(21.6%)同3(20.0%)同1(18.7%)の順で多かった。また要介護高齢者の約半数が認知症を有していた(認知症群47.1%)。家族介護者のJ-ZBI_8の平均得点は12.5点(得点範囲0~32点),主観的QOL尺度の平均得点は24.0点(得点範囲12~36点)であった。そしてJ-ZBI_8得点と主観的QOL尺度総得点の相関係数はr=-0.588で有意であった(p<0.001)。「家族介護者の介護サービス利用満足感」と「介護期間」を統制変数とし,要介護高齢者の要介護度と認知症の有無を独立変数,J-ZBI_8得点と主観的QOL総得点をそれぞれ従属変数とする2要因共分散分析を行った。その結果,J-ZBI_8得点では交互作用が有意(p<0.05)であり,単純主効果の分析の結果,要支援から要介護3までは,認知症の有無の単純主効果が有意に認められ,認知症群は非認知症群に比べて介護負担が有意に高かった。また非認知症群において要介護度の単純主効果が有意に認められ,多重比較(Bonferroni法)の結果,要介護4は要支援,要介護1,同3に比べて介護負担が有意に高かった。特に要介護度が低い場合,認知症高齢者の家族介護者は非認知症高齢者の場合に比べて介護負担が高く,介護ニーズの程度が高い状態である可能性が示唆された。また主観的QOL総得点では,認知症の有無の主効果が有意(p<0.01)であり,認知症群は非認知症群に比べて主観的QOLが有意に低かった。家族介護者の主観的QOLの低下を防ぐこと,さらに介護負担が増悪しないためにも,早期介入による支援は有効であると考えられる。
結論 要介護度別と認知症の有無において,家族介護者の介護負担と主観的QOLの状況が異なることが示唆された。このことから,家族介護者の介護負担と日常の介護生活における主観的QOLを併せて測定し,要介護度と認知症の有無において,両変数の状況を明確にし,基礎資料とする取り組みは,家族介護者支援を考慮するための端緒として重要であることが考えられた。
キーワード 家族介護者,要支援ならびに要介護高齢者,認知症,介護負担,主観的Qualify of Life(QOL)

 

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第56巻第15号 2009年12月

食生活改善推進員の健康習慣と役割意識に関する調査

鈴木 みちえ(スズキ ミチエ) 中野 照代(ナカノ テルヨ)

目的 健康づくりのための地区組織として活動の歴史が長い食生活改善推進員活動の有用性検討の基礎資料を得ることを目的に,推進員自身の健康習慣と役割意識との関連について検討した。
方法 平成19年5月に開催されたS県健康づくり食生活推進協議会総会に参加した推進員を対象に属性および背景,健康習慣,推進員としての役割意識に関する自記式質問紙調査を実施した。有効回答が得られた223名を分析対象とし基本統計量の算定,健康習慣と役割意識との関連性について検討した。
結果 推進員の年代は50代,60代が85.6%を占め,経験年数は1年未満~32年とその幅が広く,10年~20年未満の長期に渡る者が32.7%あった。推進員以外の社会活動への参加経験を96.4%が有し,「非常に健康・健康なほうである」の両者で91.5%であった。好ましい健康習慣保有者は喫煙しない99.1%が最も多く,続いて毎日朝食96.4%,適正飲酒78.5%,定期健診73.1%,適正体重,適正睡眠,休養は50%以下,間食注意35.0%,定期的な運動は32.7%と最も少なかった。さらに,有職者の方が適正飲酒の割合が少なく(p<0.01),適正睡眠,定期的な運動,休養,定期健診の4項目で少ない傾向にあった(p<0.1)。役割意識は因子分析の結果「組織の活動目標の自覚」「推進員に求められる姿勢の自覚」「組織の社会的役割の自覚」「家庭内役割の自覚」の4つに分類され,因子別平均値は好ましい健康習慣保有者の方がそうでない者より高値であった(p<0.01またはp<0.05)。
結論 一般人より健康意識の高いと推測される集団であっても,間食注意,定期的な運動等,習慣化しにくい保健行動があり,健康づくりリーダーとしての個々の力量を高めるためには,集団としての推進員への働きかけと併せて,個別の健康支援の必要性が示唆された。役割意識と好ましい健康習慣との関連が認められ,役割の自覚が自身の健康管理意識を高めることになるという活動の有用性の示唆を得た。
キーワード 地区組織活動,食生活改善推進員,健康習慣,役割意識

 

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第56巻第15号 2009年12月

就学前児社会スキル尺度と広汎性発達障害(PDD)との関連

篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 星野 崇宏(ホシノ タカヒロ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
童 連(トン レン) 田中 笑子(タナカ エミコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
恩田 陽子(オンダ ヨウコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ) 

目的 本研究は,発達障害のなかでも特に社会性の障害をその特徴とする広汎性発達障害(PDD)に焦点を当て,就学前児用社会スキル尺度(第1因子:協調,第2因子:自己制御,第3因子:自己表現)の下位尺度得点との関連およびその予測妥当性を検討することで,社会スキル発達リスク該当児の早期発見,早期支援への一助とすることを目的とした。
方法 対象は,2000年から2006年にかけて,全国夜間保育園連盟に加入している21都道府県98カ所の認可保育園に在籍している2歳から6歳までの園児である。方法は,各保育園の担当保育士が,年1回,就学前児用社会スキル尺度を用いて各園児の社会スキルを評価した。また,発達障害に関しては,2006年および2007年に各園で「気になる子ども」としてあげられた園児の中から,医療機関の診断,所見で発達障害(PDD,ADHD(注意欠陥多動性障害),MR(精神遅滞))の確定もしくは疑いの診断をうけている園児のデータを訪問調査の協力を得た各保育園から収集した。分析は,発達障害の確定もしくは疑い該当児を除く園児を「非該当」,PDD該当児を「PDD該当」と2群に分類し,年齢ごとに就学前児用社会スキル尺度の各下位尺度得点に関して2群間の平均値の差の検定を実施した。つづいて,PDD(該当,非該当)を目的変数,就学前児用社会スキル尺度の各下位尺度得点を説明変数としたロジスティック回帰分析を年齢ごとに実施した。
結果 各下位尺度得点に関して,「PDD該当」児と「非該当」児それぞれの平均値は,年齢経過にしたがって平均値の推移に大きな差がみられた。「非該当」児では,年齢の経過とともに各下位尺度得点の平均値が上昇していく傾向があるが,「PDD該当」児では推移の変化に乏しい。特に4歳以降では「非該当」児と「PDD該当」児のすべての下位尺度得点平均値が有意な差を示しており,「PDD該当」児の社会スキルは「非該当」児に比較して低いことが示された。一方,ロジスティック回帰分析結果では,2歳,3歳において第3因子(協調)でのみ,また4歳,5歳,6歳ではすべての因子で有意な関連がみられた。
結論 就学前児用社会スキル尺度は,4歳以降では「PDD該当」リスクが社会スキル尺度の全因子で,また医療機関の診断が確定しにくい2歳,3歳では,第3因子(自己表現)の下位尺度得点で,「PDD該当」への移行を把握可能であることが示唆された。本尺度が,子育て支援専門職にとってPDD児の早期発見,早期支援のための評価手法の一助となることが期待される。
キーワード 社会スキル,就学前児,広汎性発達障害,コホート調査

 

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第56巻第15号 2009年12月

がん専門病院における禁煙支援クリニカルパスの実施

田中 政宏(タナカ マサヒロ) 田中 英夫(タナカ ヒデオ) 谷内 佳代(タニウチ カヨ)
泉本 美佳(イズモト ミカ) 赤木 弘子(アカギ ヒロコ) 大西 聖子(オオニシ セイコ)
松尾 茂子(マツオ シゲコ) 道平 恵子(ミチヒラ ケイコ) 若林 榮子(ワカバヤシ エイコ)

目的 都道府県がん診療連携拠点病院である大阪府立成人病センターにおける,入院喫煙患者を対象とした禁煙支援クリニカルパス(以下,パス)の実施について報告する。
方法 初回入院の喫煙患者(禁煙開始後1カ月以内を含む)に対して以下のような禁煙支援介入を実施した。同意を得ることのできた喫煙患者に対して,入院予約日にパスを発行して外来看護師による禁煙指導と情報提供を行い,入院日に病棟看護師による禁煙指導と情報提供を行った。また,退院日には病棟看護師による入院中の禁煙状況の確認,禁煙継続の勧奨と情報提供を行い,さらに退院後1カ月,6カ月時点での調査票の送付による禁煙状況の確認(自己申告によるフォローアップ)を行った。実施方法を標準化するために,それぞれの介入はいずれもパスと禁煙情報提供用のリーフレットに基づいて行われ,実施時間は原則として数分間の簡単なものとした。
結果 2005年5月~2009年3月までに1,789人(年齢中央値59歳)に対してパスを発行した。うち,2009年3月末までに退院した1,585人(以下,パス発行者)の77%が入院予約日時点で喫煙中であり,20%が禁煙開始後1カ月以内であった。パス発行者の入院予約から入院までの日数の中央値は18日であり,入院までの喫煙状況は,対象者の52%が入院前日まで喫煙し,13%が入院前2~7日以内の間に喫煙していた。入院時介入はパス発行者の82%に行われており,入院中に喫煙した者は21%であった。退院時介入は対象者の67%で実施されており,そのうちの81%がフォローアップに同意していた。同意者のうち,退院後1カ月時点,6カ月時点での禁煙継続割合(未返答者は喫煙者とみなす)はそれぞれ48%,42%であった。
結論 パス実施上の課題としては以下が考えられた。①入院時・退院時ともに介入を実施できた患者の割合は対象患者全体の7割程度であり,退院時が特に低く,ともにパス制度の導入時から漸減傾向にあったこと。その理由としては,職員の入れ替わりと,パスの必要性の認知が他のクリニカルパスよりも低い可能性などが考えられた。②パスの対象者が比較的禁煙困難な者であり,かつ介入がごく簡単なものであることから考えると,退院後6カ月時点での禁煙継続割合が4割という値は予想以上に高い印象をうけること。この理由としては,入院・手術という環境介入効果が大きいこと,また自己申告の不正確さの可能性等が考えられた。③退院後の禁煙継続のためには,禁煙指導のフォローアップ体制の強化が必要であり,患者に影響力の高い主治医の外来での協力を得る方策の検討が望まれること。他に,入院前後の禁煙治療とパスの連携の強化が望まれる。
キーワード 禁煙,クリニカルパス,入院,治療効果,がん,循環器

 

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第56巻第15号 2009年12月

夜間対応型訪問介護の最重要課題

-関係機関への追跡実態調査を踏まえて-
田中 孝明(タナカ タカアキ) 脇野 幸太郎(ワキノ コウタロウ)

目的 在宅での生活を希望する要介護者にとって,夜間帯での緊急時のニーズに対応するのが夜間対応型訪問介護である。平成17('05)年の介護保険法改正によって地域密着型サービスのひとつとして創設され,市町村の指定・監督権限のもと実施されている。本研究では,この事業の実態について把握することを目的とし,そこから明らかになる問題点について若干の検討を行ってみたい。
方法 本調査は,平成20('08)年4月から平成21('09)年4月までの厚生労働省「介護給付費実態調査月報」を参考とするほか,平成21('09)年7月1日から31日に実施した追跡アンケート調査をもとにまとめた。具体的には,全国の夜間対応型訪問介護の事業所に対するアンケート調査から実態を分析する。
結果 事業所数の推移は,全国的な傾向として減少傾向にある。開設主体では営利法人が最も多く,これに社会福祉法人が続いている。利用者数に関して,全国的には増加傾向にある。利用者の属性として,介護度が軽・中度の利用者が大半を占めている。家族構成は,高齢者単身世帯が半数以上である。訪問理由について,「排泄」が最も多く,次いで「転落・転倒」であった。自治体による緊急通報サービスとの兼務に関しては,29事業所のうち6事業所が自治体から委託されていた。
結論 この事業の利用状況は低調であり,利用率を伸ばすためには潜在的なニーズの掘り起こしが必要である。そのためには,広報の充実が求められるとともに,安定的な運営体制の確保のために人材の確保が急務である。また,この事業拡大のために,類似したサービスである緊急通報サービスとの機能を整理したうえで,有機的な活用方法が望まれる。
キーワード 夜間対応型訪問介護,介護報酬改定,利用限度額,緊急通報サービス

 

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第57巻第1号 2010年1月

大学生を対象とした,食の安全教育に用いる教材
「カルテット」ゲームの利用可能性の検討

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
竹田 早耶香(タケダ サヤカ) 赤松 利恵(アカマツ リエ)
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 現代の消費者は,安全性からみた食の選択能力を身につける必要がある。著者らは,専門家が考える,一般消費者が必要とする知識をもとに,カードゲーム「カルテット-食の安全編-」を開発した。本研究は,「カルテット-食の安全編-」の利用可能性を評価することを目的とした。
方法 対象者は,都内の女子大学1校に在学中の,食物栄養学を学ぶ学部3年生34人とした。調査は2009年1月,構内の教室にて実施し,ランダム化比較試験を用いた。介入群(以下,ゲーム群)ではカルテットを用いたゲームを行い,コントロール群(以下,講義群)では講義を行った。
結果 介入による知識の変化は,時間による主効果はみられたが(F(1,30)=83.33,p<0.001),群による主効果と交互作用はみられなかった(群による主効果:F(1,30)=0.49,p=0.488;交互作用:F(1,30)=3.33,p=0.078)。また「面白さ」において,有意差はみられなかったが,「とても面白かった/まあまあ面白かった」と回答した割合は,ゲーム群(17人,100%)のほうが講義群(15人,88%)よりも多かった。
結論 ゲームと講義で習得した知識に差はなかった。しかし,有意差はないものの「面白さ」と「新しく得たもの」はゲーム群で多く,ゲームで遊ぶメリットが得られた。今後は大学生以外の一般消費者に対しても,「カルテット-食の安全編-」を実施し,利用可能性および教育効果を測定する必要がある。
キーワード 大学生,食の安全教育,ゲーム,ランダム化比較試験,利用可能性,知識

 

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第57巻第1号 2010年1月

大阪府におけるがん患者受療動態および地域別生存率の検討

志岐 直美(シキ ナオミ) 大野 ゆう子(オオノ ユウコ)
伊藤 ゆり(イトウ ユリ) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ)

目的 大阪府を対象にがん患者の治療時における受療動態および地域別生存率を検討した。
方法 対象は1993年から2002年の間にがんと診断され,大阪府がん登録に登録された患者のうち,主要5部位(胃,大腸,肝臓,肺,乳房)のがん患者を対象とした。がん診断年を前期(1993~1997年)と後期(1998~2002年)に分け,それぞれについて各2次医療圏間の患者移動状況を整理し,2次医療圏を単位とした患者の流出割合を部位ごとに算出した。特に,がん診断時の患者居住地と,治療を受けた医療機関の所在地(施設所在地)が同一の患者の割合を完結割合として算出した。さらに前期に診断された患者については,進行度,年齢構成の影響を調整した5年生存率を施設所在地別,患者居住地別に算出し,地域間の生存率格差について検討した。
結果 完結割合は地域によって異なり,前期では87.8%(大阪市)から40.3%(中河内),後期では90.2%(大阪市)から38.2%(中河内)の違いがあった(5部位計)。同一地域でも部位によって完結割合は異なり,特に肝がん,肺がんで低い傾向がみられた。前期から後期にかけて,大腸がんや乳がんでは完結割合が増加する地域がみられた。各地域に居住する患者の主な流出先は大阪市など治療において拠点となるような医療機関が集中する医療圏であり,当該地域の医療提供体制が患者受療動態に影響していると考えられた。施設所在地別の生存率では,年齢,進行度を調整した後も地域間格差がみられ,特に肝がんで11.0%,肺がんで13.4%と大きかった。一方,患者居住地別では生存率の地域間格差はどの部位においても3~5%前後と小さくなっていた。患者の医療圏間の移動によって,生存率の地域間格差が小さくなっている可能性が示唆された。
結論 現在,2次医療圏ごとに医療提供体制が整備されてはいるが,医療圏によって治療成績は異なり,また,部位によって受療動態は異なっていた。医療圏間の施設連携など,患者受療動態を踏まえた医療提供体制整備が望まれる。
キーワード がん患者,受療動態,地域別生存率,大阪府がん登録(856words)

 

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第57巻第1号 2010年1月

中高年を対象とした健康不安感尺度作成と信頼性・妥当性の検討

鈴木 宏和(スズキ ヒロカズ) 長塚 美和(ナガツカ ミワ)
荒井 弘和(アライ ヒロカズ) 平井 啓(ヒライ ケイ)

目的 薬局を訪れた中高年を対象としたアンケート調査により,健康不安感尺度を作成して,健康不安と性別,年齢,健康関連QOLとの関連を検討した。
方法 「医療とライフスタイルに関するアンケート調査」として,全国15地域の調剤薬局に訪れた人の中から30歳以上の男女を対象にして無記名の郵送法による横断的質問紙調査を行った。健康不安感尺度に関して最尤法プロマックス回転による探索的因子分析を行った。その後,因子妥当性を確認するため確認的因子分析を行った。また,作成した健康不安尺度を基に,健康不安と性別,年齢,健康関連QOLとの関連を,t検定と相関分析を用いて検討した。
結果 健康不安感尺度について,「身体的健康に対する心配」「重篤な病に対する否定的認知」「健康に対する心気傾向」の3つの因子からなる尺度が作成された。そして,これらの因子は互いに関連しあっていた。また,尺度の因子全体の適合度についてみるとGFI=0.94,CFI=0.93,RMSEA=0.06という結果が得られ,因子妥当性,内的整合性ともに十分な結果を得た。また,健康不安尺度は年齢と正の相関があった。性差は認められなかった。さらに,この健康不安感尺度は健康関連QOLと負の相関があることが確認された。
結論 本研究により,健康不安を多面的に捉えることのできる尺度が開発され,わが国の一般成人の健康不安についての基礎データが得られた。今後,高齢化が進む中で心気症的愁訴を持つ患者は増えるものと予想されるなか,心気症か否かで患者に対する対応を考えるのではなく,健康に対して大きな不安を持った人々に対してどのようにサポートしていくかが今後の課題となる。そのサポートを明らかにしてゆくときに,本研究で開発された尺度は健康不安を多面的に測定する尺度として使用されることが期待できる。
キーワード 健康不安,心気症,主観的健康,中高年

 

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第57巻第1号 2010年1月

点字ブロックが車いす使用者,高齢者,幼児の移動に
どの程度のバリアになっているか

水野 智美(ミズノ トモミ) 徳田 克己(トクダ カツミ)

目的 車いす使用者,歩行補助車(シルバーカーを含む)を使用する高齢者,ベビーカー使用者,幼児が点字ブロックをどの程度,歩行上のバリアに感じているかを明らかにする。
方法 車いす使用者193名,ベビーカー使用者441名,幼児をもつ保護者433名に対する質問紙調査,歩行補助車を使用する高齢者206名に対する個別ヒアリング調査を実施した。
結果 車いす使用者のうちで点字ブロックを不便に感じたことがないと答えた者はわずか5%に過ぎず,多くの者が点字ブロックをバリアに感じていた。バリアに感じる理由として「点字ブロックの凹凸によってキャスターの向きが変わるため進行方向が定まらない(55%)」「振動のために体位が安定しない(43%)」等が挙げられた(複数回答)。また,歩行補助車を使用する高齢者のうちの55%(112名)が点字ブロック上は歩きにくいと感じていた。その理由として「車輪が引っかかる」「凹凸の上を歩くと足が痛い」等が挙げられた。さらに,ベビーカー使用者のうちの82%(362名)が点字ブロックにベビーカーの車輪がひっかかって困ると回答し,幼児の50%(218名)が点字ブロックにつまずいたことがあると答えた。
結論 本研究の結果から,車いす使用者,高齢者,幼児は点字ブロックをバリアとして感じている傾向が強いことが確認できた。今後,様々な人が共生する社会を実現するため,これらの人々のバリアにならないための点字ブロックの設置方法について具体的に検討していく必要がある。
キーワード 点字ブロック,共生,バリアフリー

 

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第57巻第1号 2010年1月

タイムスタディで捉えるレジデンシャル・
ソーシャルワーク・コードの開発と研究

-介護老人福祉施設における生活相談員と計画担当介護支援専門員の業務分析から-
石田 博嗣(イシダ ヒロシ) 住居 広士(スミイ ヒロシ) 國定 美香(クニサダ ミカ)

目的 転換期にある施設福祉サービスマネジメントに注目して,そのソーシャルワークの標準化と専門性を明らかにすることを目的に,時間と回数という量的測度から,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)における生活相談員(以下,相談員)の業務と計画担当介護支援専門員(以下,施設ケアマネ)のソーシャルワーク業務の実態を調査した。
方法 調査は2009年4月から5月に介護老人福祉施設15施設の相談員16人を対象とし,比較対照として施設ケアマネ21人を加え,1分間タイムスタディ調査(自計式)を実施した。そのソーシャルワーク業務分類を,16項目の大分類,106項目の中分類,285項目の小分類のコードに設定できた。今回の調査分析には,大分類と中分類における各業務の「1日当たりの平均累積時間」「1日当たりの平均発生回数」「1回当たりの平均発生時間」を検証した。統計分析は,SPSS 17.0 J for Windowsのソフトを用いて,Spearman順位相関とMann-Whitney順位検定で分析した。
結果 相談員における大分類の1日当たりの平均累積時間では,1位「ケアワーク」169.61±103.88分は全体平均総和の百分率30.5%で最も多く,続いて2位「間接業務」109.00±77.77分(19.6%),3位「チームマネジメント」72.69±68.97分(13.1%)の順であった。相談員の1回当たりの平均発生時間では,1位「アセスメント」59.25±37.45分は全体の平均総和13.6%が最も多く,続いて2位「職員研修」49.38±29.17分(11.4%),3位「契約」31.67±14.04分(7.3%)の順であった。相談員と施設ケアマネの1日当たりの平均累積時間と平均発生回数の有意差の検定をした結果,相談員には,「施設運営管理等(p<0.01)」「地域との連携(p<0.01)」「ニーズの把握(p<0.01)」「スーパービジョン(p<0.01)」「チームマネジメント(p<0.05)」「権利擁護(p<0.05)」に統計的有意差が認められ,施設ケアマネは「ケアワーク(p<0.01)」のみに統計的有意差を認めた。
結論 ソーシャルワークにおける1日当たりの平均累積時間は,業務時間の標準化となるが,その専門性は評価が困難であった。1回当たりの平均発生時間が,1日当たりの平均累積時間より長い業務は,ソーシャルワークの専門性を評価するものと考える。施設内ソーシャルワークとケアマネジメント業務に有意差がみられた業務は,分業による特異性が高いと考える。
キーワード 介護老人福祉施設,1分間タイムスタディ,レジデンシャル・ソーシャルワーク(RSW),RSWコード

 

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第57巻第1号 2010年1月

医学的研究およびICD改正に対応した索引データの整備に関する検討

藤原 研司(フジワラ ケンジ)

目的 ICD(通称:国際疾病分類)は,現在ICD-10までの改訂が行われており,さらにICD-11に向けて国際的に検討が進められている。WHOのICD改正・改訂作業に,より迅速に対応するため,英語と日本語を関連づけした電子化索引データを整備する。
方法 索引データの整備は,①WHOの英語版(ICD-10第2版)と日本語版(ICD-10(2003年版準拠))の索引の統合,②英語版にのみ記載された項目,日本語版にのみ記載された項目の特定,③階層構造をもつデータの同時検索システムの構築,④WHOのICD-10第2版以後の一部改正を作成したデータに追加の内容で行ない,英訳,和訳が統一的に行われているか等を検証した。
結果 索引データ(約63,000行)について,和訳,英訳が統一的に記載されたものとするとともに,
階層構造のデータを一度に検索可能なデータとした。これにより,全体の約1割弱については,日本で独自に索引に追加したものであること,同一の英語であっても1次索引項目に続く項目によっては和訳が異なること等が判明した。
結論 今回整備されたデータは,ICDの分類としての基本構造を検討する際の基本的データとして利用可能であり,今後,ICD-11の分類構造について検討を行う際の問題点抽出等に大きな役割を果たすことできると考えられる。
キーワード ICD改正,電子化索引データ,索引データの整備

 

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第57巻第2号 2010年2月

居宅要支援高齢者の健康状態と健康管理の特徴

-前期・後期高齢者別の検討-
長谷川 直人(ハセガワ ナオト) 佐藤 和佳子(サトウ ワカコ) 佐藤 冨美子(サトウ フミコ)
舟山 恵美(フナヤマ エミ) 大島 扶美(オオシマ フミ) 今野 日出子(コンノ ヒデコ)
佐藤 千鶴(サトウ チヅル) 山形市健康福祉部介護福祉課 

目的 要支援および軽度要介護高齢者は急増しており,第3期介護保険改正(平成18年)において要支援高齢者の介護予防を目的に新予防給付が創設された。本研究では,介護度の中重度化予防に資するべく,居宅要支援高齢者の健康状態および健康管理の実態を示すとともに,前期・後期高齢者別の特徴を明らかにすることを目的とする。
方法 山形市に登録されている要介護状態区分が,要支援1・2および経過的要介護である1,732名に対し,郵送法によるアンケート調査を実施した。調査項目は,基本属性(性別,年齢,家族構成,経済状況に対する認識,要介護状態区分,障害高齢者および認知症高齢者の日常生活自立度),健康状態(現病歴,自覚している身体機能の低下と症状,身長,体重,受療頻度,睡眠の満足感,抑うつ症状,主観的健康感),健康管理(食事,水分摂取,運動,眠剤・安定剤の使用,自立への意欲)である。解析では,対象を前期群(75歳未満),後期群(75歳以上)の2群に分類し,各項目についてχ2検定を実施した。
結果 アンケート票1,085通(63.1%)が回収され,1,059通(有効回答率97.6%)を解析対象とした。居宅要支援高齢者は,ほぼ全員が何らかの病気で治療を受けており,身体機能の低下や症状を自覚していた。また,約7割がうつ予防の支援が必要と推測され,自分自身を「健康ではない」と捉えていた。一方,約8割が食事や水分摂取に配慮しており,約7割が週に2回以上の運動を実施していた。前期・後期別の比較では,前期群は脳卒中の既往を有する者,手足の不自由さやしゃべりにくさを自覚している者,および肥満の該当者が多く,主観的健康感が低い対象全体の中でもさらに低かった。後期群は,認知症高齢者の日常生活自立度が低く,眼病・心臓病・呼吸器病を有する者,足腰や関節の痛み,もの忘れ,失禁および聞こえにくさを自覚している者が多かった。
結論 居宅要支援高齢者の健康状態を適切にアセスメントし,病気の管理と生活習慣の改善を支援することでより効果的な介護予防につながる可能性が示唆された。特に前期高齢者は生活習慣病予防,後期高齢者は廃用症候群および認知症予防により特化して支援することが必要と考えられる。
キーワード 高齢者,要支援,健康状態,健康管理,介護予防

 

 

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第57巻第2号 2010年2月

介護保険に基づく平均自立期間の算定方法の適切性に関する調査

世古 留美(セコ ルミ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)
林 正幸(ハヤシ マサユキ) 加藤 昌弘(カトウ マサヒロ) 渡辺 晃紀(ワタナベ テルキ)
野田 龍也(ノダ タツヤ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 介護保険に基づく平均自立期間の算定方法(厚生労働科学研究費補助金による「健康寿命の地域指標算定の標準化に関する研究班」が提案)に関して調査を行い,その適切性などを検討した。
方法 都道府県,特別区と指定都市(以下,都道府県等)の健康福祉担当部局主管課長87人と保健所長517人に対して,調査票を配布・回収した。調査内容は指標の名称と要介護の定義(提案方法では介護保険の要介護2~5)の適切性などとし,回答は「適切」「どちらかといえば適切」「どちらかといえば適切でない」「適切でない」などの4肢択一形式とした。
結果 都道府県等は69人(79%),保健所は388人(75%)から調査票が回収された。平均自立期間という名称の適切性に対して「適切」または「どちらかといえば適切」の回答割合は90%であった。要介護2~5以外の介護保険の要介護度で,あるいは介護保険以外で,要介護の適切な定義に対して「ある」または「どちらかといえばある」の回答割合は10%以下であった。平均自立期間の意味に対して,地域保健担当者による理解が「容易」または「どちらかといえば容易」の回答割合は92%,一般住民でのそれは61%であった。市区町村の算定に対して「重要」または「どちらかといえば重要」の回答割合は81%であった。都道府県健康増進計画以外への活用に対して「可能」または「どちらかといえば可能」の回答割合は68%であった。いずれの回答割合ともに都道府県等と保健所に大きな差がなかった。
結論 提案された平均自立期間の算定方法は都道府県等からおおよそ支持されたと考えられる。今後,市区町村の算定と都道府県健康増進計画以外への活用を検討することが重要であろう。
キーワード 平均自立期間,健康寿命,介護保険,都道府県健康増進計画

 

 

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第57巻第2号 2010年2月

北海道内の産婦人科および小児科医師数の減少が死亡率に及ぼす影響

中木 良彦(ナカギ ヨシヒコ) 西條 泰明(サイジョウ ヤスアキ) 伊藤 俊弘(イトウ トシヒロ)
杉岡 良彦(スギオカ ヨシヒコ) 遠藤 整(エンドウ ヒトシ) 千石 一雄(センゴク カズオ)
今井 博久(イマイ ヒロヒサ) 吉田 貴彦(ヨシダ タカヒコ) 

目的 本研究では,個人の食物選択が社会に影響を及ぼすことの理解は,食に対する意識や行動に影響を与えると考え,「食生活改善行動の採用」を評価する尺度の開発と行動変容へと導くモデルを提案することを目的とする。

方法 対象は40歳から62歳の被雇用労働者の男性200名とし,調査は平成21年9月に行った。データ収集方法は,インターネットを利用した間接的な自記式質問紙調査とした。質問紙の信頼性については,反応分布の検討,次にG-P分析を行い,各項目得点の高群と低群で平均値の差が顕著でない(p≦0.05)項目は除外した。さらに,I-T相関分析を行い,項目と全体得点の相関が低い(<0.25)項目は除外した。最後に因子分析(主成分分析)を繰り返し,因子を抽出した。質問紙の妥当性および「食生活改善行動の採用」モデルの予測については,特定保健指導に参加した成人男女82名を対象に,同年12月に調査を行った。仮定した因子構造モデルのデータへの適合度は,パス解析を用いて検討した。

結果 44項目の反応分布から27項目5因子が残り,これを「食生活改善行動の採用」測定尺度とした。Cronbachのα係数は全体としての尺度が0.908,下位尺度では0.628から0.830を示し,内的整合性が確認された。外的基準である新しい食物選択動機調査票の下位尺度やecSatter調査票の一部の項目との関連により,一定の収束的妥当性も認められた。また,「個人の食物選択が社会に影響を及ぼす」と理解することから,食に関する意識や行動への影響については,「食事バランスへの意識」が0.676(p<0.001),「食生活変化の受容態度」は0.664(p<0.001),「食物選択動機の合理性」には0.913(p<0.001)の因果関係がみられ,モデルの適合度もそれぞれ受容可能な値が示された。

結論 栄養教育において食物選択と社会へのつながりを理解させることは,彼らの食意識に影響を与え,改善行動の採用に導くための有効なアプローチとして成り立つと考えられる。

キーワード 尺度,妥当性,行動変容,食環境

 

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第57巻第2号 2010年2月

介護保険制度下における在宅療養者の生命予後に関連する要因

倉澤 高志(クラサワ タカシ)

目的 介護保険制度が定着した現在の状況における,在宅療養患者の生命予後に影響する要因を検討し,改善するための課題を明らかにすることとした。
方法 大阪府保険医協会の内科系会員を対象に,2007年3月末日時点で継続的に訪問診療を行っている患者に対し1年間の追跡調査の説明を行い同意を得た349名(男性35.5%)につき死亡を主転帰指標として1年間追跡した。ベースラインでの患者情報の中で自立度,認知度,栄養状態については介護保険主治医の意見書に準拠して評価した。生死を従属変数,性別と年齢に加えて自立度,認知度,栄養状態,自己負担金の有無,点滴管理,介護保険サービスの利用有無を独立変数としたコックス回帰分析を行った。
結果 疾患別の生命予後の検討では悪性腫瘍のある者が有意に予後不良であることは明らかであった(p=0.017)。そこで,悪性腫瘍のある者を除外してコックス回帰分析を行った。生命予後に影響する要因として単変量解析では栄養状態不良に加えて自立度や年齢も有意な要因であったが,多変量解析では栄養状態不良のみが有意(p<0.01)な要因として抽出された。そのハザード比は6.89(95%信頼区間2.27-20.92)であった。次に介護認定を受けている者に限定して,栄養状態に影響する介護保険サービスの種類を検討した。訪問診療,訪問看護,通所サービス(通所介護,通所リハビリ)についてはサービス利用の有無と栄養状態不良者の割合とで関連はなかったが,訪問介護についてはサービスを利用者で栄養状態不良者の割合が有意に低かった(女性のみ,p<0.05)。
結語 医療介護全般を考慮した解析では,在宅療養中の患者の生命予後に最も影響するのは栄養状態であった。栄養状態を維持するためには訪問介護の利用が必要であるが,自己負担金のために利用率が下がっている事については何らかの救済策が必要である。
キーワード 在宅療養,生命予後,コックス回帰分析,栄養状態,訪問介護

 

 

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第57巻第2号 2010年2月

介護保険施設の介護職員における介護時間の評価

-介護支給時間から介護労働時間と非特定介護時間の比較-
國定 美香(クニサダ ミカ)

目的 介護保険施設の介護職員に対して,タイムスタディ調査を実施し,介護時間および介護内容の実態把握を行う。その結果から,介護保険施設の介護職員における介護サービスの評価を介護時間により検討することを目的とする。
方法 介護保険施設の介護職員による自計式タイムスタディ調査を実施した。調査対象は,介護保険施設7施設の介護職員172人および入所者470人である。研究方法は,介護職員が特定された入所者に対して個別に提供した介護時間と定義した「介護支給時間」と,介護職員が介護サービスに従事した介護時間と定義した「介護労働時間」について,介護内容ごとにWilcoxonの符号付き順位検定で統計分析する。さらにそれらの2つの差である個人を特定できない介護時間を「非特定介護時間」として,その介護内容を検討する。
結果 「介護支給時間」と「介護労働時間」の2つについて,Wilcoxonの符号付き順位検定の結果,ケアコード大分類の10項目中における①入浴清潔保持整容更衣,②移動移乗体位変換,③食事,④排泄,⑤生活自立支援,⑥医療,⑦対象者に直接関わらない業務,⑧機能訓練,⑨社会生活支援で平均介護時間に有意な差が認められた。「非特定介護時間」の介護内容については,小分類ごとの平均値が多いケア内容の結果から,「非特定間接業務」と「非特定直接業務」の2つで主に構成されていることが明らかとなった。
結論 本研究では,以下の3つのことが明らかになった。1つ目として,「介護支給時間」と「介護労働時間」には,大分類10項目の内9項目の平均介護時間に有意な差が認められた。2つ目として,「非特定介護時間」は,「非特定間接業務」や「非特定直接業務」の2つで主に構成されていた。3つ目として,介護保険施設の介護職員における介護サービスの評価として「介護支給時間」だけでなく,「介護労働時間」と「非特定介護時間」も評価する必要性が求められる。
キーワード 介護時間評価,タイムスタディ調査,介護労働時間,介護支給時間,非特定介護時間

 

 

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第57巻第3号 2010年3月

飲食店の分煙状況および関連要因に関する研究

長山 有香理(ナガヤマ ユカリ) 桑原 徹人(クワハラ テツヒト) 木下 幸子(キノシタ サチコ)
早坂 信哉(ハヤサカ シンヤ) 村田 千代栄(ムラタ チヨエ)
野田 龍也(ノダ タツヤ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)  

目的 浜松市内の飲食店における受動喫煙対策の状況およびその関連要因を明らかにする。
方法 NTT西日本発行,職業別デイリータウンページ静岡県浜松版(2008.2~2009.1)のグルメの項目に掲載されている飲食店(居酒屋,飲食店,うどん・そば店など)から1/10の系統抽出をした356件を調査対象とし電話調査を実施した。質問内容は,禁煙席と喫煙席の区別の有無,常時喫煙以外の場合に分煙や常時禁煙にしようと考えた理由,常時禁煙以外の場合に分煙や常時禁煙にできない理由,全面禁煙・分煙・全面喫煙可能の場合でどの状況が一番客の入りがよいと考えるか,健康増進法による飲食店の受動喫煙防止義務についての認知等である。
結果 有効回答数は345件(96.9%)であった。受動喫煙対策を実施している店は全体で97件(28.1%)あり,そのうちわけは常時禁煙43件(12.5%),常時分煙38件(11.0%),時間・曜日によって異なる16件(4.6%)であった。業種別には,居酒屋で4件(7.3%),居酒屋以外で93件(32.1%)であった。受動喫煙対策を実施した理由は,「客の要望・苦情」と「経営方針」が39件(41.5%)ずつであった。対策が実施できない理由として,居酒屋では「スペース確保が困難」の22件(43.1%),居酒屋以外では「顧客を失うことが心配」の91件(40.1%)が最も多かった。最も来客が多くなると責任者が予想した受動喫煙対策状況は,居酒屋が「全面喫煙可能」の30件(58.8%),居酒屋以外では「分からない」の89件(33.3%)との回答が多かった。対策を実施した方が来客が多いと予想している店で,受動喫煙対策実施割合が高かった。健康増進法による飲食店の受動喫煙防止義務については,「具体的には知らない」を含めると,240件(75.5%)の責任者が「知らない」と答えた。また,責任者が喫煙者の場合や,健康増進法の規定を知らない場合に,受動喫煙防止対策を実施している割合が低い結果であった。
結論 分煙や禁煙など何らかの受動喫煙対策を実施していた店舗は全体の97件(28.1%)であった。健康増進法第25条の規定を知らない,もしくは具体的に知らない責任者は全体の240件(75.5%)であった。責任者が健康増進法の規定を知っていると,受動喫煙対策を実施している割合が高かった。
キーワード 受動喫煙,飲食店,健康増進法,分煙,静岡県浜松市

 

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第57巻第3号 2010年3月

都道府県別合計特殊出生率,ボランティア活動行動者率,
各種ファシリティの関連

―少子化対策に配慮したまちづくりのあり方に関する-考察―
助友 裕子(スケトモ ヒロコ) 片山 佳代子(カタヤマ カヨコ) 稲葉 裕(イナバ ユタカ)

目的 都道府県別合計特殊出生率,ボランティア活動行動者率,各種ファシリティ数の関連性を検討し,少子化対策に配慮したまちづくりのあり方を検討した。
方法 政府統計資料の中から,合計特殊出生率(2006年),ボランティア活動行動者率(2006年),各種ファシリティ(1999~2001年)の計28指標を収集した。ファシリティ指標はすべて都道府県別15~49歳女性人口(2000年)1人当たり数に換算した値を使用した。ファシリティ指標を順位データに変換し,クラスター分析(Ward法)を行い共分散構造分析に用いる潜在変数を検討した。その後,相関分析,共分散構造分析により探索的にモデル化を行った。地域特性の違いの程度を確認するためにそれぞれのファシリティ指標のジニ係数を求めた。
結果 クラスター分析により,ファシリティを「公園」「商業」「医療」「生活」「衛生」「教養娯楽」の6種に分類した。共分散構造分析により,合計特殊出生率にはボランティア活動行動者率,「衛生」「生活」の3変数が正の影響を及ぼし,「教養娯楽」はボランティア活動行動者率を介し,「医療」は「衛生」を介し間接的に合計特殊出生率に影響を及ぼすという因果構造モデルが得られた。
結論 いくつかのファシリティが合計特殊出生率とボランティア活動行動者率に影響を与えている可能性が示された。本研究では,合計特殊出生率を高めるための都市計画や都市開発を視野に入れた健康なまちづくりを意識し,その一助となり得るモデルが得られたと考えている。衛生従事者の活動を通じて,「教養娯楽」「衛生」「生活」「医療」の各種ファシリティ関係者や都市計画関係者との連携を想定した少子化対策が行われることに今後期待したい。
キーワード 都道府県別,合計特殊出生率,ボランティア活動行動者率,ファシリティ,地域格差,まちづくり

 

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第57巻第3号 2010年3月

在宅医療に必要な通信機能のついた医療機器に関するインターネット調査

川上 ちひろ(カワカミ チヒロ) 市川 靖史(イチカワ ヤスシ)

目的 高齢化が進んでいるわが国では,今後死亡者数が増加することが予想されている。このため,在宅医療の需要も高まると考えられるが,在宅医療は24時間対応や緊急時の往診など医療者側の負担も大きく人材確保が課題である。通信機能のついた医療機器等(デバイス)を有効に利用することで在宅医療での医師の負担軽減につながるのではないかと考え,そのために必要なデバイスとは何かを検討するために,アンケート調査を実施した。
方法 2009年1月にインターネットを通じ,医師の基本属性やIT化への取り組み,在宅医療に有効と思われる27項目のデバイスに対する評価などを調査した。
結果 305名の医師から回答を得た。回答者の平均年齢は49.5±8.2歳であり,性別では281名(92%)が男性であった。IT化を行っていると回答したのは16名(5%)だったが,電子カルテの導入がほとんどであった。IT化の費用負担は公的負担が必要であるとの意見が多かった。血圧,体温,血液内酸素濃度,意識レベルの確認などが在宅医療に有効なデバイスとしてあげられたが,IT化は患者管理には有効でも医師の負担軽減にはつながらないという意見が多かった。
結論 バイタルサインとしてのデバイスのみでなく,Quality of Lifeにかかわるデバイスも在宅医療には重要であり,これらの装置の開発も行っていく必要がある。また,IT化することで医師の負担が軽減されるような通信用デバイスとは何かを検討する必要がある。 地域医療の連携やセキュリティーなども重要な課題である。
キーワード インターネット調査,在宅医療,通信機能付き医療機器

 

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第57巻第3号 2010年3月

保健所保健師に求められる筋萎縮性側索硬化症患者への
支援のあり方に関する研究

―保健師による支援の現状と課題,今後の展望に関する-考察―
吉井 絢子(ヨシイ ジュンコ) 松田 宣子(マツダ ノブコ)

目的 わが国の難病対策において,保健所は在宅で療養する難病患者の医療の確保や療養支援等を行っている。その中でも,筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)患者への支援の充実が求められていることから,保健師によるALS患者への支援の現状を明らかにし,今後の支援のあり方を検討した。
方法 近畿,中国,四国地方の保健所280施設に勤務する難病事業主担当保健師280人を対象に郵送による自記式アンケート調査を実施し,回答が有効であった123人(有効回答率43.9%)を分析対象とした。調査項目は,保健所の背景,保健師の特性,ALS患者のQOLを高める保健師の支援内容,支援困難なALS患者の状況等の6項目である。概念枠組みから,患者のQOLを高める支援を,精神的な支援,コミュニケーション手段の確保,同疾患患者との出会いの場の提供,外出の機会の確保への支援とし,それらの支援の実施と,保健師の経験年数,在宅療養中のALS患者支援数との関連について統計的検討を加えた。
結果 保健所の難病事業主担当保健師は,保健師としての経験年数の長短に関わらず,気管切開による人工呼吸器を装着しているALS患者の支援経験が少なかった。保健師が支援困難と感じているALS患者と初めて関わった時期は,確定診断後1カ月以内が最も多く,介護者の休息を目的としたレスパイト入院病床の確保や専門医の確保等が困難と感じていた。QOLを高める支援のうち,精神的な支援,コミュニケーション手段の確保,外出の機会の確保は,在宅療養中のALS患者支援数の多い保健師の方が少ない保健師よりも有意に多く行っており,また,保健師の経験年数に対して在宅療養中のALS患者支援数の多い保健師は,少ない保健師よりも有意に多くQOLを高める支援を実施していた。
結論 保健師はALS患者の発病初期から療養生活支援に関わっており,患者・家族の疾病受容や円滑なサービス導入のための支援に大きな役割を果たすことが示唆された。また,ALS患者のQOLを高める支援をより多く行うためには,保健師の経験だけではなく,実際にALS患者を支援する経験を積み重ねる必要があることが明らかになった。しかし,実際にはALS患者の支援経験が少ないため,今後はALS患者の支援経験を保健師が積み重ねることのできる体制の構築が必要である。
キーワード 保健所保健師,難病対策,患者支援,在宅療養,QOL

 

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第57巻第4号 2010年4月

日本の出生体重低下に関する統計的研究

-世界58カ国における日本の状況-
阿部 範子(アベ ノリコ) 孫 超(ソン チョウ) 島田 友子(シマダ トモコ)
緒方 昭(オガタ アキラ)

目的 日本の出生体重平均値は,1975年以降低下を続け,低出生体重児割合は増加しつつある。 その原因を探るに当たって,この様な現象が,日本のみに観察されるものか否かを明らかにする事を目的とした。
方法 世界人口年鑑19861999年版(国際連合発行)を資料として,1998年前後における出生体重平均値と低出生体重児割合が算出可能な58カ国を観察対象国とし,出生体重平均値,低出生体重児割合,妊娠期間平均値,母の年齢平均値,複産率,出生性比を検討指標とした。観察対象国の最近年値について,平均値,%,比を算出し,それぞれの度数分布を作成し,分布内における日本の位置をz値(標準評価値)で示す。次いで1977年から1998年に至る間の資料より,各検討指標の年間変動量を求め,その分布内における日本の位置をz値で評価する。
結果 各検討指標の最近年値の分布における日本の位置:出生体重平均値はz=-1.56と分布の低位置にあるが,低出生体重児割合並びに他の検討指標は,分布の平均値付近に位置する。年間変動量分布における日本の位置:出生体重平均値はz=-1.80と低位置を占め,低出生体重児割合はz=+1.27と高位置に存在するが, 他の検討指標は分布の平均値付近に位置する。
結論 1998年における日本の出生体重平均値は観察対象国中低位置にあり,タイ,フィリピン,スロバキアと共に低出生体重児割合が多い。しかし,出生体重の分布範囲(標準偏差)が他国より狭いために,上記3カ国より低出生体重児割合は少ない。また,年間変動量の観察から,日本の出生体重平均値の低下速度,および低出生体重児割合の増加速度は,観察対象国中速い。なお,出生体重への影響要因と考えられる妊娠期間,母の年齢,複産割合,出生性比は,観察対象国の中で平均的な推移を示している。日本の出生体重平均値の低下,低出生体重割合の上昇の状況は特異的で,しかも,妊娠期間,母の年齢,複産割合,出生性比は,その変動要因とは考えられず,日本のみに存在する特有の要因によるものと推測する。
キーワード 出生体重,低出生体重児割合,複産児割合,世界人口年鑑

 

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第57巻第4号 2010年4月

居宅介護支援事業所の介護支援専門員からみた
地域包括支援センターの現状と問題点の分析

菅村 佳美(スガムラ ヨシミ) 鳴釜 千津子(ナルカマ チヅコ) 庄司 和義(ショウジ カズヨシ)
佐藤 キヨ子(サトウ キヨコ) 陳 君(チン クン) 吉井 初美(ヨシイ ハツミ)
赤澤 宏平(アカザワ コウヘイ) 田城 孝雄(タシロ タカオ) 

目的 本研究では,地域包括支援センターの役割とサービス担当者会議の運営方法について,居宅介護支援事業所を対象としたアンケート調査に基づき,問題点と解決策を検討した。
方法 アンケートの実施時期は200611月9日~1130日,対象地域は1県4市の合計5カ所である。また,対象者は居宅介護支援事業所の介護支援専門員である。1,487人の回答に基づき,「主任介護支援専門員の業務達成度」「ケアマネジメント業務上での相談相手」「サービス担当者会議に参加すべき人とその開催に関わるべき団体」「サービス担当者会議開催時の地域包括支援センターのサポート体制」および「地域包括支援センターへの期待・要望」について,集計・分析を行った。
結果 介護支援専門員による,地域包括支援センターの主任介護支援専門員の役割に対する評価において,多職種協働・連携による長期継続ケアマネジメントの支援については評価が低かった。ケアマネジメント業務を進める上の相談相手としては,職場の上司・同僚(78.5%)サービス事業者(77.1%),についで,地域包括支援センターの職員(47.9%)であった。サービス担当者会議の運営に関しては,地域包括支援センター職員の会議への毎回参加は期待されていない。その一方で,会議開催の旗振り役への期待が57.2%と高率であった。また,サービス担当者会議開催への地域包括支援センターのサポートに,満足している人の割合は,22.4%にとどまった。「大変満足している」人43名と,「まったく満足していない」人182名を対象に,フリーコメントを集計したところ,「地域包括支援センターの職員の経験,専門性,資質の不足」「介護予防ケアプラン作成などの業務量が多く多忙」「居宅介護支援事業所と地域包括支援センターとの連携上の問題」などが挙げられた。
結論 居宅介護支援事業所の介護支援専門員からみた地域包括支援センターには,解決すべきいくつかの課題が残されていることがわかった。特に,主任介護支援専門員は指導,助言,相談の役割を求められているが,それらについての介護支援専門員による評価は必ずしも高くはない。また,サービス担当者会議の運営に関して,地域包括支援センターの間接的なサポートの方法にも課題が残されている。これらの解決方法として,地域包括支援センターの組織の改変や職員のキャリアアップ体制の整備が必要と考える。
キーワード 地域包括支援センター,介護保険法,介護支援専門員,主任介護支援専門員,サービス担当者会議,ケアマネジメント支援

 

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第57巻第4号 2010年4月

在宅外傷性脳損傷患者の
介護者における精神的健康度と関連要因

鈴木 雄介(スズキ ユウスケ) 種村 留美(タネムラ ルミ) 元村 直靖(モトムラ ナオヤス)

目的 在宅外傷性脳損傷患者および介護者の特性,介護者の精神的健康度などを明らかにし,介護者の精神的健康度を維持,増進していくための支援のあり方を検討することを目的とする。
方法 近畿圏を中心とする脳損傷患者家族会に所属する介護者に自記式調査票を郵送した。調査項目は患者に関しては特性,日常生活動作能力,高次脳機能障害の症状,介護者に関しては特性,精神的健康度とした。分析は外傷性脳損傷患者と介護者に関する調査項目の各状態が,介護者の精神的健康度に与えている影響についての解析を行った。調査期間は2008年1月13日~2月29日で62名を対象とした。
結果 患者は男49名,女13名,平均年齢は37.3±11.9歳であった。介護者は男3名,女59名,続柄は母親が43名で最も多かった。GHQ-30平均は14.8±7.6点で,精神的不健康とされる介護者は47名(75.8%)であった。介護者の精神的健康度に与えている影響について解析を行った結果,介護期間と介護者の睡眠時間が短いほど介護者の精神的健康度が悪化することが明らかとなった。患者の日常生活動作能力との関連では,整容と更衣に介助を要するほど精神的健康度が悪化していた。また,患者の高次脳機能障害の症状との関連では,遂行機能障害と社会的行動障害の症状を有するほど精神的健康度が悪化していた。
結論 外傷性脳損傷患者の介護者の精神的健康度に影響を与える要因を明らかにした。介護者に必要な支援は,外傷性脳損傷患者と介護者のコミュニケーションの特徴を捉え,双方にとってストレスを引き起こさないための関係の再構築,身だしなみやTPOに合わせ適切な衣服を着るなど,他者との関わりに影響を及ぼす日常生活動作の介助方法の指導,介護生活を維持していくための体調管理への支援である。また,これらの援助は患者が高次脳機能障害を呈し,介護生活が始まる初期段階からの援助が重要であることが示唆された。
キーワード 外傷性脳損傷,高次脳機能障害,介護者,精神的健康度

 

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第57巻第4号 2010年4月

要介護認定者数に基づく平均自立期間の小地域への適用

加藤 昌弘(カトウ マサヒロ) 世古 留美(セコ ) 川戸 美由紀(ルミ カワド)
橋本 修二(ミユキ ハシモト) 林 正幸(シュウジ ハヤシ) 渡辺 晃紀(マサユキ ワタナベ)
野田 龍也(テルキ ノダ) 尾島 俊之(タツヤ オジマ) 辻 一郎(トシユキ ツジ)

目的 健康増進計画の目標評価項目の1つに挙げられている65歳平均自立期間について,愛知県の国民健康保険各保険者において算定を行い,そのばらつきと人口規模との関係,利用する死亡資料の期間の違いについて検討を行った。
方法 愛知県の国民健康保険団体連合会を構成する58保険者(32市,25町村および1事務組合)を対象として,対象地域の人口,死亡者数および介護保険法に基づく要介護度Ⅱ~Ⅴの認定者数を用いて,2005年の保険者別,男女別の65歳平均自立期間とその95%信頼区間を算定した。ただし,算定にあたっては,人口および死亡者数を2005年の1年間(以下,1年間)利用したものと20042006年の3年間(以下,3年間)利用の2通り行った。
結果 資料を1年間利用した場合の2005年の65歳平均自立期間推定値の平均値は,男16.91±1.08年,女20.03±1.02年であり,男女とも対象の人口規模に応じかなりのばらつきが認められた。1年間利用と3年間利用した場合の比較では,男女とも各推定値のばらつきは3年間利用の方が小さかった。また,1年間利用と3年間利用した場合の各推計値は,男女とも正の相関を示し,相関係数は男が0.78,女が0.84であった。死亡資料を1年間利用した場合における平均自立期間の各推定値の95%信頼区間の幅は,一定条件下で1年間の死亡資料に基づき人口規模に応じて試算をした95%信頼区間の幅に,男女ともほぼ一致をした。このことから,平均自立期間の推定値のばらつきの大よその大きさは,全国資料に基づく試算値で見積もることが可能であることが示唆された。
結論 要介護認定者数に基づく平均自立期間は,人口規模の小さい地域での適用が可能であり有用であると考えられた。ただし,人口規模が小さい地域においては,3年間の人口および死亡者数を利用することや,平均自立期間の推定値に併せて,その95%信頼区間を明示することが望ましいと考えられた。
キーワード 健康寿命,平均自立期間,介護保険,要介護,保健指標

 

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第57巻第4号 2010年4月

睡眠医療専門機関受診者における
睡眠呼吸障害と交通事故との関連

櫻井 進(サクライ ススム) 大平 哲也(オオヒラ テツヤ) 前田 均(マエダ ヒトシ)
津田 徹(ツダ トオル) 成井 浩司(ナルイ コウジ) 吉田 良子(ヨシダ リョウコ)
谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 睡眠呼吸障害(SDB)は循環器系疾患の危険因子であるばかりでなく,睡眠の量・質の低下による日中の眠気・集中力低下,それに起因すると考えられる高い自動車事故率,労働災害率が示されており,職業運転者の居眠り運転を含め社会的な問題になりつつある。本研究では,主に運転業務中の居眠りおよび交通事故等の頻度を調べ,体格指数(BMI),SDBの程度等との関連を検討した。
方法 睡眠医療専門機関にSDBを主訴に受診した者を対象とし,文書によるインフォームドコンセントのもとに質問紙調査を行い,398名を最終対象者とした。Epworth Sleepiness ScaleESS),および終夜睡眠ポリソムノグラフィ検査を実施し,覚醒指数(ARI),および無呼吸低呼吸指数(AHI)を算出した。一部の対象者には,持続陽圧換気療法(CPAP)による症状の改善状況を調査した。さらに,重大事故群,重大事故予備群,居眠り群,眠気群,眠気なし群に分類し各医療機関別の頻度,職種,および業務と眠気・事故の頻度との関連を検討した。
結果 対象者の半数以上で,業務中に「頻繁に」または「ときどき」眠気を感じていた。運転中に居眠りをした人は約35%,居眠りによる事故経験者は約15%であった。運送業務・営業職において運転中の事故率が高い傾向がみられた。交代制勤務者で業務中に眠気を頻繁に感じる者は通常勤務者の約2倍であった。AHI値で3区分した場合,交代制勤務者はどの区分においても通常勤務者より,頻繁な眠気を訴える割合が多かった。通常勤務者ではAHIが高くなるにしたがって,業務中の眠気を訴える頻度が多くなったが,交代制勤務者では業務中,運転中にかかわらずAHIと眠気との関連はみられなかった。肥満,重度無呼吸および日中の眠気が強い,をすべて満足する群とひとつもあてはまらない群を比較したところ,重大事故発生比は11.4倍であった。運転業務従事者の中では,BMI値が大きいほど,また,ESSスコアが高いほど重大事故を起こす危険性が高くなっていた。CPAP治療実施中で回答があった方の約6割は治療の効果を実感していた。
結論 SDBを主訴に受診した対象者の多くが業務中の眠気を感じ居眠り事故率も高く対策が求められる。肥満防止・睡眠呼吸障害治療が重大交通事故発生減少に効果があることが示唆された。
キーワード 睡眠時無呼吸症候群,睡眠呼吸障害,パルスオキシメトリ法,スクリーニング検査,交通事故,産業災害

 

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第57巻第4号 2010年4月

利用者のQOLの変化からみたケアマネジメントの効果

林 暁淵(イム ヒョヨン) 綾部 貴子(アヤベ タカコ) 岡本 秀明(オカモト ヒデアキ)
所 道彦(トコロ ミチヒコ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 介護保険サービスの新規利用者の生活の質(QOL)が,介護支援専門員によるケアマネジメント実施前と比較して,実施6カ月後にどのように変化しているのかを調査し,ケアマネジメント実施の効果を明らかにすることを目的とする。
方法 近畿地方の4府県の介護支援専門員協会・協議会の会員で,かつ居宅介護支援事業者にて従事する介護支援専門員が担当することになった新規の利用者本人を対象とし,介護支援専門員が利用者本人に尋ねて記入するという他記式調査を行った。調査期間は,初回調査が平成16年8~10月,2回目調査が平成17年2~4月であり,それぞれの対象者が初回調査に回答した日から6カ月後に2回目調査を設定した。有効回収数は,初回調査が158人,2回目調査が120人であり,分析対象者は双方の調査において要介護度の記載も含めて回答があり,かつ自分自身のことについて意思表現に困難のない利用者91人とした。利用者のQOLをみるために,主観的健康度,睡眠,食事,家事,経済的安定感,対人関係,住環境,抑うつ,自己決定,生きがい感,生活満足度という11QOL領域,計23の調査項目を用意した。
結果 利用者のQOL各領域の得点の6カ月後における変化を対応のあるt検定により検討した結果,初回調査時の各領域の得点の平均値を基準とした「低位群」の場合は,ほとんどの領域において肯定的な変化がみられた。一方で,初回調査時の各領域の得点の平均値を基準とした「高位群」の場合は,肯定的な変化はみられず,ほとんどの領域において低下していた。
結論 ケアマネジメントの目的である生活の質の向上に関して,ケアマネジメントによる効果は,当初のQOL領域の得点が低いレベルの場合にはその効果が比較的高いが,当初のQOL領域の得点が高い場合においては,生活の質の向上や維持に不十分であることが考えられた。ケアマネジメントを実施する介護支援専門員は,特に新規利用者のうち身体機能面・社会環境面,精神心理面の生活の質が比較的良好な利用者に対し,これらの状態が低下しないように努めることや,生活の質が部分的に低下しないように利用者の生活の質を総合的に注視することが求められる。
キーワード ケアマネジメント,介護支援専門員(ケアマネジャー),高齢者,生活の質

 

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第57巻第5号 2010年5月

首都圏内在住中年成人における腹囲測定に基づく
内臓脂肪型肥満と軽症うつとの関連

古畑 公(フルハタ タダシ) 橋詰 直孝(ハシヅメ ナオタカ) 高橋 佳子(タカハシ ヨシコ)
鈴木 和春(スズキ カズハル) 樫村 修生(カシムラ オサム) 豊川 智之(トヨカワ サトシ)

目的 内臓脂肪型肥満は,うつをはじめとした心理学的・精神医学的状態と関連があると言われている。両者はともに現代社会の象徴する健康問題であり,その関連について評価する意義は高い。本研究では首都圏内の一般成人を対象とした健診データを用いて,腹囲測定に基づいた内臓脂肪型肥満と軽症うつとの関連について検討した。
方法 首都圏内のI市における成人病基本健康診査受診者のうち,40歳から59歳までの4,039名を対象にアンケートを送付した。軽症うつについては,潜在性微量栄養素欠乏発見システムに含まれる体調・不定愁訴問診表セットを用いた。男性は腹囲85㎝以上,女性は腹囲90㎝以上を内臓脂肪型肥満ありとした。
結果 返答されたアンケート(2,164枚)のうち分析項目においてデータに欠損のある者を除いた1,831名(男性388名,女性1,443名)を分析対象とした。女性の内臓脂肪型肥満に軽症うつが有意に多くみられた(オッズ比3.4,P<0.05)。食事非適量を調整したオッズ比は1.6と減少し,統計学的有意性も消失していた。多重ロジスティック回帰モデルでは,男女とも内臓脂肪型肥満は有意な関連を示さなかった。
結論 女性の内臓脂肪型肥満により軽症うつが高い関連が2変数間ではみられたが,食生活,特に食事非適量による交絡が示唆された。食事を適量に保つことを中心とした食生活指導により,腹囲とうつ症状が改善する可能性について,今後も検討を重ねる意義が示された。
キーワード メタボリックシンドローム,腹囲,軽症うつ,中年成人

 

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第57巻第5号 2010年5月

愛知県における若年認知症の就業,日常生活動作および介護保険利用状況

小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 渡邉 智之(ワタナベ トモユキ)

目的 若年認知症の生活の実態を明らかにするため,愛知県において,医療機関,介護福祉施設,行政関係機関を網羅した調査を行った。
方法 愛知県内の医療機関,介護福祉施設,行政関係機関等に対し,2段階によるアンケート調査を行った。1次調査で若年認知症ありとした施設や機関に,本人の属性,認知症の原因疾患,合併症,家族歴,既往歴,認知症の程度,就労状況,日常生活動作(ADL)能力,認知症の行動と心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD)の有無と内容,介護認定状況,サービス利用状況,障害者手帳・年金受給状況および現在の問題点などからなる調査票を送り回収した。
結果 調査時点で65歳以上の人を含めて,2次調査で重複を調整した後の総数は1,092人で,男性569人(52.1%),女性520人(47.6%),性別無回答3人であった。ADLのうち歩行と食事に関しては,それぞれ全体の42.9%,46.2%と約半数が自立していた。しかし,排泄(30.6%),入浴(20.2%),着脱衣(24.2%)の自立度はこれより低く,日常生活に何らかの介助が必要な人が多かった。就労や社会福祉制度の利用率は必ずしも高くなかった。
結論 若年認知症者の生活は,ADLや介護福祉サービスの利用状況などからは生活が厳しい現状であることが明らかとなった。介護保険の認定は40歳以上の約80%が受けているが,サービスは十分には利用されていない。社会福祉制度の周知や利用の促進を含め,若年認知症に対応する医療・介護福祉関係者や行政担当者の理解が不可欠である。
キーワード 若年認知症,生活実態調査,愛知県,就労状況,ADL,介護保険サービス

 

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第57巻第5号 2010年5月

マネジメントサイクルに基づく
市町村公衆栄養活動のための目標設定に関する検討

近藤 今子(コンドウ イマコ) 酒井 映子(サカイ エイコ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 今日,重要性が一層高まっている市町村公衆栄養活動がマネジメントサイクルに基づき実施されるために,先行調査で鍵を握ることが示唆された目標設定の状況および関連要因を明らかにし,目標設定の方法を検討することを目的とした。
方法 愛知,岡山,静岡県の政令市を除く市町村の行政栄養士147人に対し平成19年11,12月に郵送により自記式無記名でアンケート調査を行い,113人(回収率76.9%)から得た回答を分析した。調査内容は目標設定の状況,目標設定への指示,実態把握,相談機関,研修,評価に関する項目である。項目間の検討にはピアソンのχ2検定,さらに有意の項目にスピアマンの順位相関を用いた。p<0.05を有意とした。
結果 目標設定の状況は,3県間に差はなく,「ほとんど設定」と「設定のほうが多い」で46.4%,設定の必要性は75.7%が有るとしていた。評価は「ほとんど実施」と「実施のほうが多い」で53.2%であった。目標の設定と評価の実施は有意に関係していた。実態把握に関して,情報の活用は市町村独自で実施する調査等の労力を要するもので低く,プリシード・プロシードモデルに対応する各項目の把握は行動とライフスタイル,環境,準備・強化・実現因子で低かった。いずれも,目標設定をしているほうが良好であった。目標設定は,良い経験の有無,組織内の目標設定の指示の有無,指示がある場合の目標設定の意識,評価の実施,目標設定の必要性の意識,研修の活用,目標の設定方法が分からないとの間に有意な関連を認めた。また,指示がある場合の目標設定の意識は,良い経験の有無,評価の実施,目標設定の必要性の意識,組織内の目標設定の指示の有無との間に,さらに,目標設定の必要性の意識は,良い経験の有無,困った経験の有無,研修の受講との間に有意な関連を認めた。目標設定に関する研修は49.6%が受け,研修を活用できたとする約6割の目標設定は良好であった。
結論 目標設定の関連要因は,「組織の指示と指示への対応」「目標設定にかかる経験」「専門能力」「資質向上のための支援」に大別できた。指示は目標設定を促し,目標設定による良い経験が,より積極的な目標設定につながると推察される。さらに,目標設定に必要なスキルを確保できる研修や支援が目標設定の実現には必要である。
キーワード マネジメントサイクル,市町村公衆栄養活動,目標設定,評価,指示,専門能力

 

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第57巻第5号 2010年5月

介護労働者の介護態度自己評価に関連する要因

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 岸田 研作(キシダ ケンサク)

目的 介護労働現場における介護態度に注目をし,介護労働者の介護態度自己評価に関連する要因を明らかにすることである。
対象と方法 対象は,A団体に加盟する66の特別養護老人ホームに勤務する正規職員または非常勤フルタイムの介護職員1,570名である。調査は,職員を対象とした郵送自記式で実施した。介護態度自己評価を従属変数とし,年齢,性別,雇用形態,資格,勤務時間,施設管理者のリーダーシップ,職場の人間関係,性格等を独立変数とする重回帰分析を行った。
結果 分析対象者の平均年齢±標準偏差は,35.9±11.9歳であった。性別では,対象者の77.1%が女性であった。正規職員は,75.4%であった。介護態度の自己評価得点の平均値±標準偏差は,17.9±3.0点であった。施設管理者のリーダーシップ得点の平均値±標準偏差は,22.6±5.5であった。属性等による介護態度評価得点の比較では,「雇用形態」「シフト希望」「相談者の有無」「性格」で平均値の差があり,「仕事満足度」「利用者の立場にたつ」「職場の人間関係」「仕事継続意思」で傾向性の検定における順位相関が有意であった。重回帰分析の結果では,介護態度評価得点に影響する要因は,「年齢」「利用者の立場にたつ」「穏やかな性格」「仕事継続意思」「仕事満足度」であった。
結論 今回の調査によって,介護労働者の自己介護態度評価は,介護労働の環境よりも,介護の仕事に対する姿勢や介護に対する肯定観などが関連した。こうした影響要因が,質の高い介護実践に結びついたものであるかどうか,今後検討を要するところである。
キーワード 介護労働者,介護態度,評価,特別養護老人ホーム

 

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