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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第58巻第12号 2011年10月

栃木県における自殺の動向

-警察データからみた原因・動機の経時的変化-
坪井 聡(ツボイ サトシ) 千原 泉(チハラ イズミ) 工藤 由佳(クドウ ユカ)
定金 敦子(サダカネ アツコ) Tsogzolbaatar Enkh-Oyun 阿江 竜介(アエ リュウスケ) 
小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 青山 泰子(アオヤマ ヤスコ ) 上原 里程( ウエハラ リテイ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 栃木県における自殺の動向や自殺の原因,動機の推移を明らかにし,栃木県の自殺対策について検討する。

方法 2007年から2009年の間に栃木県内で発生したすべての自殺者を対象とした。栃木県警察が保有する,県内で発生した自殺に関する小票を分析資料として用いた。また,警察庁が公表している自殺統計から得られる全国の値を比較対象として用いた。分析に用いた項目は,自殺者の性,年齢,自殺した年,職業,同居人の有無,自殺未遂歴の有無,自殺の原因・動機,自殺の原因・動機の判断資料である。自殺の原因・動機には,家庭問題(親子関係の不和,夫婦関係の不和など),健康問題(身体の病気,うつ病など),経済・生活問題(倒産,多重債務など),勤務問題(職場の人間関係,仕事疲れなど),男女問題(結婚をめぐる悩み,失恋など),学校問題(学業不振,いじめなど),その他(犯罪発覚時,孤独感など),不詳が含まれていた。また,人口10万人当たりの自殺死亡者数を自殺率とした。

結果 観察した3年間の総自殺死亡者数は,栃木県で1,796人,全国で98,187人であった。総死亡者数に占める男女の割合,自殺者の年齢分布,就業状況は,栃木県と全国との間で大きな違いはみられなかった。全国では,男女とも自殺率に大きな変化はみられなかったが,栃木県の自殺率はいずれの年も男女ともに全国より高く,また,2007年以降で増加していた。栃木県の自殺の原因・動機について,男では健康問題の割合が最も大きく,経済・生活問題,家庭問題と続いた。女では,健康問題の割合が最も大きく,家庭問題,経済・生活問題と続いた。これらの内,2007年以降で増加していたのは男女ともに経済・生活問題だけであった。経済・生活問題の中の多重債務による自殺は,栃木県の男では中高年に多くみられ,2007年から2008年にかけては60歳代,2008年から2009年にかけては50歳代で特に増加していた。一方,女では,2007年には40歳代と50歳代に限られていたが2008年以降は幅広い年代にみられた。

結論 本研究によって,多重債務を中心とした経済・生活問題が栃木県の自殺率を増加させている可能性が示唆された。栃木県では,既に整備されている多重債務等の問題に関する相談窓口の利用を促進するための調査や働きかけを行い,自殺の推移を今後も注意深く観察していく必要がある。

キーワード 自殺,警察データ,栃木県,記述疫学,経済・生活問題,多重債務

 

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第58巻第13号 2011年11月

一般事業所における障害者の雇用実態

-三原市の調査から-
三原 博光(ミハラ ヒロミツ) 松本 耕二(マツモト コウジ)

目的 障害者雇用促進法や障害者自立支援法などにより,現在,障害者の就労が重視されてきている。そこで,一般事業所の障害者の雇用実態を調べることを本研究の目的として質問紙調査を実施した。

方法 三原市内の50人以上の従業員の一般事業所に対して,障害者の雇用状況に関する質問紙用紙を郵送した。

結果 三原市内の110事業所に質問紙用紙を郵送し,59事業所から回答を得た。その結果,30事業所が現在,障害者を雇用していた。雇用されている障害者の半数は身体障害者であり,障害の程度は軽度であった。雇用形態は,半数は「常用雇用」であった。雇用の方法は,6割強が障害者雇用促進法によるものではなく,一般事業所の業務の必要性から雇用されていた。雇用されている障害者やその保護者は雇用されている事に満足をしていた。そして,現在,障害者を雇用している一般事業所の4割は希望があれば,さらに障害者を雇用しても良いと回答していた。一方,20事業所は,現在,障害者を雇用していないと回答し,その理由として「障害者に適した職業がない」「障害者を雇用する環境が整備されていない」をあげていた。そして,将来の障害者の雇用の可能性については,半数の事業所は「困難である」と回答していた。

結論 障害者を雇用している事業所では,障害者やその保護者は雇用されていることに満足し,事業所も障害者の雇用について積極的に考えていた。一方,障害者を雇用していない事業所は,将来においても,障害者の雇用には消極的であった。今後,障害者の雇用に消極的な事業所に対して,行政や福祉関係者などから,障害者の雇用に関して,積極的な働きかけの必要性が課題として示された。

キーワード 一般事業所,障害者,雇用,就労

 

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第58巻第13号 2011年11月

三重県の高齢者入所施設における
季節性・新型インフルエンザワクチンの接種状況

豊島 泰子(トヨシマ ヤスコ) 鷲尾 昌一(ワシオ マサカズ) 高橋 裕明(タカハシ ヒロアキ)
大熊 和行(オオクマ カズユキ) 井手 三郎(イデ サブロウ) 荒井 由美子(アライ ユミコ)

目的 高齢者入所施設にインフルエンザウイルスが持ち込まれるとインフルエンザの集団発生に結びつく。本研究では2009/2010シーズンの新型インフルエンザの流行時における高齢者施設の入所者および看護・介護職員を対象として,季節性・新型インフルエンザの罹患状況とインフルエンザワクチン接種の現状を調査した。

方法 三重県内の全高齢者入所施設(224施設)のインフルエンザワクチン担当者を対象に,2009/2010シーズン終了後の2010年4月に郵送で,入所者および看護・介護職員の季節性・新型インフルエンザ罹患とインフルエンザワクチン接種に関する無記名のアンケート調査を行った。

結果 224施設中155施設から回答が得られた(回収率69.2%)。入所者にインフルエンザの罹患を認めた施設は季節性5.2%,新型3.2%,不明1.9%であった。看護・介護職員にインフルエンザの罹患を認めた施設は季節性20.6%,新型54.8%,不明10.3%であった。入所者のインフルエンザワクチン接種が70%以上の施設は季節性90.3%,新型72.9%であり,看護・介護職員のインフルエンザワクチン接種が70%以上の施設は季節性91.0%,新型61.9%であった。季節性インフルエンザワクチン接種割合が70%以上の施設は,入所者と看護・介護職員ともに,新型インフルエンザワクチン接種割合が70%以上の施設に比べて有意に多かった(p<0.01)。新型インフルエンザワクチン接種割合は,入所者が看護・介護職員に比べて有意に高かった(p<0.01)。看護・介護職員のインフルエンザワクチン接種に対する費用負担は,季節性では全額施設負担が58.1%,一部施設負担が32.3%,全額自己負担が9.7%であった。一方,新型では全額施設負担が45.2%,一部施設負担が29.7%,全額自己負担が23.2%であった。

結論 看護・介護職員の季節性インフルエンザワクチン接種率は入所者とほぼ同様であったが,新型インフルエンザワクチンの接種率は有意に低く,看護・介護職員の新型インフルエンザの罹患者が多く,外部からの持ち込みの防止には看護・介護職員の新型インフルエンザワクチン接種率の向上が必要であった。また面会の家族や出入りの業者に対するインフルエンザワクチン接種の勧奨の取り組みが少なく,インフルエンザの感染予防対策の見地からも改善の必要があると考えられた。

キーワード 看護・介護職員,高齢者入所施設,ワクチン,季節性インフルエンザ,新型インフルエンザ

 

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第58巻第13号 2011年11月

基本健診の血圧からみた脳卒中発症に対する集団寄与危険割合

中川 愛理(ナカガワ エリ) 朝倉 幸代(アサクラ ユキヨ) 佐野 文恵(サノ フミエ)
遊道 啓子(ユウドウ ケイコ) 島崎 忠美(シマザキ マミ) 飯野 三惠子(イイノ ミエコ)
瀧波 賢治(タキナミ ケンジ) 高橋 洋一(タカハシ ヒロカズ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 市全体の脳卒中発症に血圧がどの程度寄与しているのかを把握するために,性・年齢階級別の集団寄与危険割合を算出した。また,この分析で示された結果がこれまで市で実施してきた保健事業の内容と整合しているかを検討し,今後の脳卒中対策事業の基礎情報とすることを目的とした。

方法 平成12年度健診受診者のうち40~84歳の38,112人(男性11,357人,女性26,755人)を対象とした。この中から収縮期および拡張期血圧の結果を有し,平成12年4月1日~平成17年3月末日までに脳卒中を発症していた494人(男性248人,女性246人)を抽出した。発症状況は富山県脳卒中情報システムデータから把握した。なお,富山県脳卒中情報システム事業の情報利用については,富山県厚生部の承認を得た。血圧は区分値を設定し5カテゴリーに分けた。脳卒中発症に関わるリスク比は,年齢4群と血圧カテゴリー5群との計20群で男女別にCoxの比例ハザードモデルにてハザード比を算出した。健診受診者の性,年齢階級別の各カテゴリー別構成割合をもとに,平成19年9月末日の富山市の40~84歳における男女別の推計人数を算出した。次に,この推計人数に脳卒中発症のハザード比を乗じ,年齢階級ごとのカテゴリー別に推計脳卒中発症数を算出し,年齢階級別集団寄与危険割合を算出し,かつ各カテゴリー別にその構成値を示した。

結果 ハザード比はおおむね年齢が上がるとともに上昇する傾向がみられた。年齢階級別にみると,血圧のハザード比の上昇レベルは一様ではなかった。集団寄与危険割合は男性において65~74歳が最も高く55.4%であり,総数では44.0%であった。75~84歳以外の年齢階級において「軽症高血圧」で最も高い値を示した。女性において40~54歳が最も高く68.1%であり,年齢階級が上がるごとに集団寄与危険割合が下がる傾向がみられ,総数では46.3%であった。ほとんどの年齢階級において「軽症高血圧」で最も高い値を示した。

結論 市全体の脳卒中発症を減らすという視点で保健対策について検討した結果,男女ともに前期高齢者以下の年齢への高血圧対策,特に軽症高血圧対策が今後も必要であることが示された。今後も長期的に情報を集約・分析し,市民の健康状態を把握するとともに保健施策の成果を適切に評価し,効果的な保健事業の実施へつなげていくことが重要であると考えられる。

キーワード 脳卒中,血圧,集団寄与危険割合,保健対策

 

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第58巻第13号 2011年11月

日本成人男性におけるHIVおよびAIDS感染拡大の状況

-MSM(Men who have sex with men)とMSM以外の男性との比較-
塩野 徳史(シオノ サトシ) 金子 典代(カネコ ノリヨ) 市川 誠一(イチカワ セイイチ)

目的 わが国におけるMSM(Men who have sex with men,これまでに同性間性的接触を有する男性)人口を推定し,さらに感染経路別にHIV感染者とAIDS患者の有病率,罹患率の推計に資するデータを得ることによって,日本成人男性におけるHIVおよびAIDS感染拡大の状況の一端を明らかにする。

方法 東北,関東,東海,近畿,九州の5地域に在住する20~59歳の日本成人男性を対象として,郵送法による質問紙調査を実施しMSMの割合を算出した。得られたMSMの割合と国勢調査人口を用いてMSMの人口を推定した。そしてエイズ動向委員会による報告を基に,日本国籍MSMとMSM以外の男性(日本国籍の男性からMSM人口を除いた男性全体)におけるHIV感染とAIDSの有病率と罹患率をそれぞれ推計し比較した。

結果 質問紙調査の有効回答者は1,659人(回収率:44.8%)であり,MSMの割合は全体で2.0%(95%信頼区間:1.32-2.66%)であった。MSM割合について居住地域間での統計学的な有意差はみられなかった(p=0.170)。質問紙調査により得たMSMの割合2.0%を日本成人男性のMSM割合と仮定して有病率と罹患率をそれぞれ算出したところ,MSM以外の男性に比べてMSMは,HIV有病率では96倍,AIDS有病率では33倍の高さであった。罹患率については,MSM以外の男性では2001~2008年度の間にHIV罹患率は0.5~0.7,AIDS罹患率は0.3~0.5と大きな変化はみられなかった。一方,MSMでは,HIV罹患率は42.6(2001年)から103.7(2008年)と8年間で2.4倍,AIDS罹患率は11.6(2001年)から23.9(2008年)と8年間で2.1倍に拡大していた。

結論 20歳から59歳における日本成人男性のMSM割合の推定と,推定MSM人口を母集団としたHIVおよびAIDSの有病率と罹患率を算出した。日本人男性の中ではMSM集団において,HIV感染が拡大し,AIDS患者が増加していることが示された。わが国においてはMSM集団を対象としたHIVおよびAIDS対策を早急に実施していくことが重要である。

キーワード HIV感染症,AIDS,有病率,罹患率,MSM,MSM割合

 

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第58巻第13号 2011年11月

朝の排便時間帯別にみた保育園5・6歳児の生活実態

泉 秀生(イズミ シュウ) 前橋 明(マエハシ アキラ) 町田 和彦(マチダ カズヒコ)

目的 本研究では,2009年度に行った「幼児の生活実態調査」結果をもとに,保育園児の普段の生活実態の中から,定時に排便している幼児を抽出し,排便の時間帯と生活状況との関連を分析した。そして,子どもたちが,健康で生き生きと生活するための知見を得ることを目的とした。

方法 幼児の生活実態調査を1都9県の保育園5・6歳児2,072名(男児1,069名・女児1,003名)の保護者を対象に実施した。調査の内容は,普段の平日の生活実態を聞くものであった。そして,排便を「定時にする」と答えた幼児のみを抽出し,その中から,午前9時前に排便する幼児「登園前排便児」と,午後4時以降に排便する幼児「降園後排便児」の2群に分けて,それぞれの生活時間やその実態を比較・分析した。

結果 朝の排便を,「定時にする」子どもは,男児で1,069名中333名(31.2%),女児で1,003名中232名(23.1%)であり,その中でも,朝9時までにする「登園前排便児」は男児で266名(24.9%),女児で178名(17.7%)確認され,午後4時以降の「降園後排便児」は,男児で65名(6.1%),女児で54名(5.4%)となった。男児において,「登園前排便児」の方が「降園後排便児」よりも,生活時間が有意に早く(p<0.01),睡眠時間が有意に長い(p<0.01)ことや,1日のテレビ・ビデオ視聴時間が有意に短く(p<0.01),起床時の機嫌が「いつも良い・良いときの方が多い」子どもの割合が有意に多い(p<0.01)ことを確認した。また,「登園前排便児」の方が,夕食後のおやつを「食べない時の方が多い・食べない」割合が有意に多く,「降園後排便児」では「食べる・食べる時の方が多い」割合が有意に多かった(p<0.01)。男児において,「登園前排便児」では,朝食時のテレビ・ビデオを「見ない時の方が多い・見ない」子どもが多く,「降園後排便児」では「見る・見る時の方が多い」子どもが多くなった(p<0.01)。

結語 「登園前排便児」は,「降園後排便児」に比べて,生活時間が全体的に早いことを確認した。とくに,男児において,「登園前排便児」の朝の機嫌が良いこと,朝食時にテレビを見る子どもや夕食後のおやつを食べる子どもが少ないことが確認された。幼児期の子どもでは,毎日排便をすることに加えて,登園前に排便をしていることが,規則正しい生活をおくっている証となり,ひいては,生き生きとした健やかな暮らしを育む可能性が推察された。

キーワード 保育園児,排便状況,起床時刻,登園時刻,朝食開始時刻

 

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第58巻第13号 2011年11月

気象条件・死亡場所が死亡原因に与える影響

羽山 広文(ハヤマ ヒロフミ) 釜澤 由紀(カマザワ ユキ) 松村 亮典(マツムラ リョウスケ)
菊田 弘輝(キクタ コウキ)

目的 目的外使用により入手した人口動態調査死亡票および気象庁のアメダスデータを用い,地域,季節,外気温度,死亡場所による死亡率の関係について検討した。

方法 人口動態統計死亡票は平成15~18年の4年間分を使用した。ICD-10に準拠したCode. 9200-9208を「心疾患」,同9300-9304を「脳血管疾患」に分類した。人口データは平成17年国勢調査人口を用いた。外気温度などの条件による死亡率を評価するため,外気温度の発生頻度を考慮した死亡率を用いた。

結果 ①自宅において心疾患,新生物,脳血管疾患の順に多く,自宅での心疾患は他の死因と比較し比率が高い。②心疾患に関し,急性心筋梗塞,その他の虚血性心疾患,不整脈・伝導障害,心不全について,病院に対する自宅での死亡率のオッズ比を求めた結果,その他の虚血性心疾患,急性心筋梗塞が他の心疾患と比較し顕著であった。③脳血管疾患に関し,くも膜下出血,脳内出血,脳梗塞について,病院に対する自宅での死亡率のオッズ比を求めた結果,脳内出血が他の脳血管疾患と比較し顕著であった。④各疾患に関し,月別死亡数比を病院と自宅で比較した結果,その他の虚血性心疾患,急性心筋梗塞,脳内出血で顕著な差異が見られた。⑤心疾患および脳血管疾患の外気温別オッズ比は,病院では外気温度の影響が少なく自宅ではいずれの地域でも外気温の低下とともに顕著に増加する。地域別にみると,温暖な地域はその傾向が顕著であった。

考察 死因における心疾患と脳血管疾患に関し,同類の疾患の中でも自宅での死亡率が病院と比較し顕著に高くなる疾患は,その他の虚血性心疾患,急性心筋梗塞,脳内出血であった。いずれの疾患も危険因子として高血圧が挙げられる。自宅では温暖な地域ほど外気温が低くなった場合,リスクの増加が顕著であることから,温暖な地域でも自宅の断熱性能向上の必要性が裏付けられた。

キーワード 人口動態統計,気象データ,死亡場所,外気温度,死亡率,オッズ比

 

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第58巻第15号 2011年12月

日本の社会的養護施設入所児童における被虐待経験の実態

筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 国内の先行研究において,これまで社会的養護関連施設別や,個々の児童の基本属性別にみた被虐待経験割合,あるいは複数の被虐待経験の組み合わせについての詳細は,全国レベルではほとんど明らかにされてこなかった。そこで本研究では,2009年に実施された全国の社会的養護関連施設の全入所児童のデータを用いて,第1に,わが国の全社会的養護関連施設の全入所児童における被虐待経験の割合を明らかにすること,第2に,被虐待経験の組み合わせを類型化し,その発生割合を明らかにすること,第3に,児童の被虐待経験と基本属性との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 2009年度に社会的養護関連施設を対象とした調査で収集された全入所児童36,234名のデータを用いて,児童の年齢,性別等の基本属性,被虐待経験の有無と虐待の種類(身体的虐待,性的虐待,ネグレクト,心理的虐待,その他)について分析した。

結果 日本の社会的養護施設入所児童における被虐待経験ありの割合は,55.5%であった。男女別にみると男女ともに約6割と過半数を超え,年齢階級別では,虐待経験ありの割合が過半数だったのは,7歳以上16歳未満,16歳以上であった。また被虐待経験ありの割合は,施設種別によって大きく異なっており,情緒障害児短期治療施設が最も高く78.1%,児童自立支援施設が66.2%,児童養護施設では59.2%,母子生活支援施設が43.7%,乳児院34.4%であった。この結果からは,社会的養護入所施設のうち,乳児院と母子生活支援施設を除けば,被虐待経験を持つ児童は半数を超えており,社会的養護入所施設は,単に養育に欠ける児童へのケアだけでなく,被虐待児童に対して,治療的なケアも担うべき存在となっているものと考えられた。

結論 本研究では,施設種別ごとの被虐待経験の分析結果より,入所児童の属性が大きく異なっていることが示されたと同時に,被虐待児童への治療的ケアを含めた適切に提供できることが求められていることが明らかにされた。今後は,臨床現場で実施されている被虐待経験に対応するためのケアを明確にし,これを標準化していくことが課題である。

キーワード 社会的養護,被虐待経験,施設養護,要保護児童

 

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第58巻第15号 2011年12月

高齢者ショートステイにおける生活相談員業務の実態調査

-業務の「実施状況」と「必要性認識」に着目して-
口村 淳(クチムラ アツシ)

目的 短期入所生活介護(以下,ショートステイ)における生活相談員(以下,相談員)業務の「実施状況」ならびに「必要性認識」を明らかにし,その特徴について検討することを目的とする。

方法 無作為抽出(系統抽出法)した短期入所生活介護500施設に所属する相談員(1施設1人)を対象に,郵送調査を実施した。調査時期は,2010年10月(1カ月間),回収割合は50.8%である。28項目の業務内容を,「実施状況」ならびに「必要性認識」の視点から,それぞれ4件法で尋ねた。また,「実施状況」と「必要性認識」の差については,両項目の平均値の差を検定(t検定)した。

結果 ショートステイにおける相談員業務の傾向として,連絡調整,相談,入退所に関する業務が,「実施状況」「必要性認識」ともに高い割合がみられた一方で,介護関連の割合は両項目ともに低かった。また,スタッフ教育,経営管理,人間関係調整に関する業務も,相談員中心の業務という意味では,両項目とも5割程度にとどまった。さらに,「実施状況」と「必要性認識」の平均値の差を検討したところ,「利用者の送迎」「入所判定」「利用者・家族の入所前相談面接」をはじめとする7項目で,「実施状況」が「必要性認識」を有意に上回った。

結論 本調査の結果,ショートステイの相談員業務における「実施状況」と「必要性認識」は,おおむね一致していることが明らかになった。しかし,一部の業務では,「実施状況」が「必要性認識」を上回っていた。これは,本来,他職種が中心または他職種と協働で実施する業務であるにもかかわらず,相談員が担うことになっている可能性を示している。そのためにも,施設内の他職種との業務調整,業務分掌による系統的な体制整備の必要性等が示唆された。

キーワード ショートステイ,生活相談員,業務の実施状況,業務の必要性認識

 

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第58巻第15号 2011年12月

水中運動指導者の皮膚状態

田名部 佳子(タナベ ヨシコ) 辻本 朋美(ツジモト トモミ) 根来 佐由美(ネゴロ サユミ)
井上 智子(イノウエ トモコ)

目的 水中運動がより安全な健康づくりとして普及するために,プール水が水中運動指導に従事する運動指導士と健康運動実践指導者(以下,水中運動指導者)の皮膚に及ぼす影響を把握することを目的とした。

方法 2009年11月中旬から12月下旬にかけて,大阪府内の運動施設に勤務する水中運動指導者7名を対象に,アンケートを用いた皮膚状態や生活習慣の調査,ならびに1人当たり4~5回の両前腕内側中央部および両下腿膝蓋骨内側顆下部の角層水分量と皮膚pHの測定を行った。経時的変化を観察するため,水中運動指導前と指導直後から15分間隔に指導60分後まで測定した。

結果 水中運動指導者の1回指導時間は1.4±0.7時間であり,1週間当たり5.9±1.0時間であった。水中運動指導前の角層水分量は前腕10.6±3.8μS,膝下9.2±3.0μSと低く乾燥状態であり,指導直後に有意に上昇した(ダネット法,p<0.05)が60分後には指導前同様の低値になった。皮膚pHは指導前に前腕pH5.5±0.5,膝下pH5.2±0.6と正常であったものが指導後に上昇し,指導後60分が経過しても指導前の皮膚pHより高く,有意な差があった(ダネット法,p<0.05)。さらに,水中運動指導者は皮膚の乾燥を招きやすい生活習慣をもっており,皮膚の乾燥や痛み,髪の傷みなど,スキントラブルを実感していた。

結論 水中運動指導者の皮膚は乾燥しており,プール水の影響や生活習慣の関与が示唆された。また,プール水の影響により指導後60分が経過しても皮膚のバリア機能が低下していた。

キーワード 水中運動,運動指導士,健康運動実践指導者,スキントラブル

 

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第58巻第15号 2011年12月

全国保健所の精神障害者デイケアサービスの
実施状況の推移と影響要因

佐伯 圭吾(サエキ ケイゴ) 山田 全啓(ヤマダ マサヒロ) 山下 典子(ヤマシタ ノリコ)
有埜 みや子(アリノ ミヤコ) 角野 文彦(カクノ フミヒコ) 植村 直子(ウエムラ ナオコ)
畑下 博世(ハタシタ ヒロヨ) 車谷 典男(クルマタニ ノリオ) 

目的 わが国の保健所は精神障害者デイケア提供に先駆的かつ重要な役割を担ってきたが,1999年の精神保健福祉法改正,2005年の障害者自立支援法施行によって,障害者福祉を主に担当する行政機関は都道府県から市町村に移行された。これらの法整備は保健所デイケアのあり様に影響を及ぼしていると考えられるが,その状況は明らかでない。そこで,精神障害者を対象とした保健所デイケアの実施状況の推移と,調査時現在のデイケア実施の有無にかかわる要因の検討を目的として本研究を実施した。

方法 全国517保健所(調査時現在)の精神保健福祉担当者宛てに,自記式調査票を2008年10月から2009年1月にかけて郵送にて配布し,回収した。調査票では,管内人口,保健所デイケアの過去からの実施状況,デイケアを終了した保健所にはその理由,管内の精神科医療機関数や精神保健福祉施設数などについての回答を求めた。

結果 411保健所(79.5%)から回答が得られた。県型保健所でのデイケアの実施割合は1975年から増加し,1997年と1998年にピーク(91.5%)を形成した後,2002年以降は急速に減少し,調査時(2008年)には23.7%にまで低下していた。これに対し,市区型保健所の減少はなだらかで,その結果,調査時現在のデイケア実施割合は県型保健所が,政令指定都市型の50.0%,中核市型の71.4%,特別区保健所の81.3%に比べ有意に低率であった(P<0.01)。調査時現在のデイケア実施の有無を目的変数,保健所区分,管内の精神科医療機関数,精神福祉施設数,デイケア実施施設数などを説明変数とした多重ロジスティック回帰分析では,保健所区分のみが有意な関連を示した。また,県型保健所のうちデイケアを「実施している」保健所と「実施していない」保健所との比較では,前者に比べて後者の管内人口10万人当たりの精神福祉施設数が有意に多かった(P<0.01)。

結論 県型保健所における精神障害者のためのデイケアサービスの実施割合は大きく減少し,その減少には,精神保健福祉法改正や障害者自立支援法施行により精神障害者福祉の窓口となる行政機関が保健所から市町村へ変化したことや,地域の精神福祉資源数が関与していたことが示唆された。

キーワード 保健所,精神障害者デイケア,精神保健福祉法,障害者自立支援法

 

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第58巻第15号 2011年12月

小学生・中学生・高校生の朝食欠食と学習時間の関係

野田 龍也(ノダ タツヤ) 徳本 史郎(トクモト シロウ) 村田 千代栄(ムラタ チヨエ)
早坂 信哉(ハヤサカ シンヤ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 わが国における児童・生徒の朝食摂取と学習時間との関係を大規模調査を用いて明らかにすることを目的とした。

方法 2001年の社会生活基本調査の個票を用い,小学生(10歳以上),中学生および高校生を対象に,朝食欠食の有無と1日の合計学習時間・学校内外での学習時間との関連を学校種別および通学日・休日の別に検討した。さらに,朝食欠食の有無と他の生活行動時間との関連をみるため,児童・生徒の1日の生活行動時間の分布を,通学日・休日別,学校種別,朝食欠食の有無別に示した。

結果 対象者は通学日7,308名,休日11,265名であった。小学生,中学生,高校生について,朝食欠食率は2.8,5.9,13.4%(通学日),5.9,10.5,21.0%(休日)であり,平均学習時間は373.9,420.8,401.1(通学日),154.5,203.2,212.7分(休日)であった。朝食欠食の有無と学習時間の関係では,小学生と中学生の通学日については朝食群と朝食欠食群とで有意な差を認めなかったが,小学生の休日(両群の差:43.9分)と中学生の休日(同61.0分),さらに高校生の通学日(同51.3分)と休日(同93.7分)では朝食群の学習時間が有意に長かった。1日の生活行動時間の分布を朝食群と朝食欠食群で比較したところ,通学日では,小学生で朝食群の通学時間が有意に長かった。高校生では,朝食群で学習,スポーツに費やす時間が有意に長く,通学等,睡眠,趣味・娯楽,休養,その他の行動は有意に短かった。休日では,すべての学校種別において,朝食群の方が学習,通学等,食事,スポーツに有意に多くの時間を費やしており,睡眠とテレビ・雑誌等の時間が有意に短かった。また,中学生と高校生では,朝食群で身の回りの用事に費やす時間が有意に長く,高校生では朝食欠食群で交際・つきあいに有意に多くの時間を費やしていた。

結論 小中学生の学習時間は,通学日では朝食摂取とさほど関連しないが,休日では大きく関連していた。高校生においては,通学日,休日のいずれでも朝食摂取者の学習時間が顕著に長く,1日の生活行動時間パターンでも朝食群と欠食群で行動の分布が大きく異なることが明らかとなった。

キーワード 朝食欠食,学習時間,小学生,中学生,高校生,社会生活基本調査

 

論文

 

第59巻第1号 2012年1月

ICDを中心としたWHO-FIC(WHO国際分類)に
関する最近の動向について

瀧村 佳代(タキムラ カヨ) 及川 恵美子(オイカワ エミコ) 鐘ヶ江 葉子(カネガエ ヨウコ)

1 WHO-FICとは

 WHO国際分類ファミリー(WHO Family of International Classification. 以下,WHO-FIC)とは,

WHOが作成した国際分類を中心とする,健康に関する情報を国際的に比較するための分類群である。

WHO-FICは,以下の3種類の分類で構成されている(図1)。ファミリーを構成することによって,

分類間の矛盾を可能な限り減少させ,健康関連分類の管理者機能をもつことができる。

(1) 中心分類(reference classification)

 中心分類は,死亡,疾患,生活機能,障害等,健康・保健医療福祉システムに関する主な変数

(パラメータ)を包含している分類である。現在,ICD(International Statistical Classification of 

Diseases and Related Health Problems.疾病及び関連保健問題の国際統計分類)およびICF

(International Classification of Functioning,Disability and Health.国際生活機能分類)がこ

れに該当する。 なお,ICHI(lnternational Classification of Health Intervention.国際医療

行為分類)は,現在もなお作成検討中である。

1)ICDについて

 ICDは,疾病名および関連用語をコード化した分類であり,WHOがWHO憲章に基づいて

作成し,加盟国に対して死亡統計等に使用するよう勧告している。ICDを導入することにより,

異なる国や地域から,異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録,分析,解

釈および比較を行うことが可能となる。

 最新の分類は,1990年の第43回世界保健総会において採択されたICD第10回改訂版であり,

ICD-10と呼ばれている。

 現在,わが国では,ICD-10を一部改正したICD-10(2003)に準拠した「疾病,傷害及び

死因分類」を作成し,統計法に基づく統計調査に使用されるほか,医学的分類として医療機関

における診療録の管理等に活用されている。

 統計法に基づく統計調査のうち人口動態統計における死亡統計では,明治32年(1899)年か

らICDを活用している。死亡原因は国民の健康に直結する極めて重要な問題であることから,

死亡診断書(死体検案書)の記載内容からWHOより勧告された死因選択ルールに基づい

て「原死因」を確定し,ICDを用いて死因別に表示している。

 

第59巻第1号 2012年1月

都道府県別乳がん死亡率と教育系ファシリティとの関連

-ソーシャル・キャピタルの視点から-
片山 佳代子(カタヤマ カヨコ) 助友 裕子(スケトモ ヒロコ) 黒沢 美智子(クロサワ ミチコ)
横山 和仁(ヨコヤマ カズヒト) 岡本 直幸(オカモト ナオユキ) 稲葉 裕(イナバ ユタカ)

目的 都道府県別乳がん死亡率と教育系ファシリティは,どのような関連性を示すのか,喫煙率,乳がん検診受診率,ボランティア活動行動者率をもとにソーシャル・キャピタルを視野に入れ検討した。

方法 政府統計資料の中から,乳がん検診受診率と,成人女性喫煙率(2001年),各種ボランティア活動行動者率(2001年),各種教育系ファシリティ数(2002~2003年)を収集し,すべて都道府県別に順位データに変換し分析に使用した。乳がん死亡率は55歳前後で死亡率を算出し使用した。各種教育系ファシリティに関しては,少子化の影響と喫煙開始年齢を考慮し,都道府県別20歳以上女性人口(2001年)1人当たり数に換算して使用し,その後クラスター分析(Ward法)により分類した。各種ボランティア活動行動者率は,主成分分析より算出した値をソーシャル・キャピタル指数総合ボランティア活動率として使用した。各変数間の相関分析を通して,共分散構造分析を探索的に行いモデル化した。また教育系ファシリティ19施設の集積性を確認するために,格差係数であるジニ係数をファシリティ指標ごとに算出した。

結果 各種教育系ファシリティは「社会教育系」「限定教育系」「地域公立系」「大学系」「その他教育系」の5種に分類された。55歳以上乳がん死亡率は,東京・神奈川と関東域が高く,総合ボランティア活動率,「大学系」を除く教育系ファシリティと負の相関がみられた。共分散構造分析結果から,55歳以上乳がん死亡率には,喫煙が大きく関係しており,採用した教育ファシリティは,喫煙率を介して,乳がん死亡率に間接的に負の影響を及ぼす方向と,ソーシャル・キャピタル指標として作成した総合ボランティア活動を介して,検診受診率と喫煙率に負の影響を及ぼし,間接的に乳がん死亡率に影響を与える因果構造モデルが得られた。

結論 都道府県単位の分析ではあるが,乳がん死亡率に,公立小中高校等の地域公立系ファシリティと,幼稚園,保育所,公民館等の社会教育系ファシリティが喫煙率や,総合ボランティア活動に影響を及ぼす可能性が示唆された。今後は,地域の教育系ファシリティをどのように活用していくのか,健康教育プログラム開発,がん教育,たばこ教育プログラム等その地域特性を生かした取り組みがなされることが期待される。

キーワード 都道府県単位,乳がん死亡率,教育,ファシリティ,ソーシャル・キャピタル,地域格差

 

論文

 

第59巻第1号 2012年1月

子どものすこやかな発達と子育て支援への
「木育」効果の活用可能性

安梅 勅江(アンメ トキエ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 望月 由妃子(モチヅキ ユキコ)
徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ) 田中 笑子(タナカ エミコ)
篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ) 呉柏 良(ウバイ リャン)
難波 麻由美(ナンバ マユミ) 松本 美佐子(マツモト ミサコ) 杉田 千尋(スギタ チヒロ)
松井 勅尚(マツイ トキナオ) 多田 千尋(タダ チヒロ)

目的 「木育(もくいく)」とは,すべての人が木とふれあい,木に学び,木と生きる取り組みであり,人と木や森とのかかわりを主体的に考える豊かな心を育むことを目標としている。本研究は「木育の効果」の評価を目的とし,子どものすこやかな発達と子育て支援への一助とすることを意図した。

方法 M市の保育園児とその養育者168名に対し,約2時間の木育プログラムを実施した。木育の前後で子どもの社会性と主体性,養育者のかかわりの変化を,「かかわり指標(Interaction Rating Scale, IRS)」および「描画」を用いて評価した。分析は,「かかわり指標」については全体得点と領域得点を算出し,木育前後での子どもと養育者の得点の変化を検討した。また「描画」については,色の数,描画の大きさ,アイテム数について数値で評価した。

結果 「かかわり指標」を用いた分析では,子どもの微笑みや養育者へのアイコンタクト,発話が増え,子どもの主体性,共感性,運動制御得点が有意に高くなるなど,木育を通じて子どもから養育者へのかかわりが活発になる傾向がみられた。養育者の子どもへの対応は,木育の前後で子どもに向ける視線や声かけが増えるとともに,子どもの主体性発達への配慮,応答性への配慮が有意に高くなるなど,養育者の子どもへの配慮が高まる傾向がみられた。描画について,木育前は単純な木の絵を描く傾向が多くみられたが,木育後はプログラムに関連した「遊ぶ様子」や「さまざまな想像力」にあふれた絵が多くみられた。色数が多彩になり,大きさが拡大し,力強く描く者が増加した。

結論 「木育」を通じて子どもからのかかわり,養育者からのかかわりがともに増え,子どもと養育者が調和のとれた関係性を築いている様子がうかがわれた。子どもと養育者ともに,木育の前後で描画が大きく変化した。木育後は「勢い」「開放性」「躍動感」のある描画が多くみられた。ともに木育を十分に楽しむ様子が観察された。「木育」の積極的な活用が,子どものすこやかな発達,養育者の子育て支援への一助となる可能性がある。

キーワード 木育,評価,かかわり,描画,社会性発達,子育て支援

 

論文

 

第59巻第1号 2012年1月

特別養護老人ホームにおける
特養内死亡の推移と関連要因の分析

池崎 澄江(イケザキ スミエ) 池上 直己(イケガミ ナオキ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)における死亡について推移を把握し,特養内死亡の関連要因を明らかにする。

方法 最初に,人口動態統計と介護サービス施設・事業所調査を用い,1999年から2009年までの特養における死亡数と定員に占める割合を算出した。次に,2009年10月に無作為に抽出した全国653カ所の特養に郵送およびFAXにて調査票を配布した。内容は,施設概要,終末期ケアに関する方針,医師・看護師等の職員体制,および2008年10月から2009年9月までの1年間における退所者の内訳を尋ねた。最後に,特養における看取りに関連する要因をみるために,100床当たりに換算した特養内死亡数を算出し,ノンパラメトリック検定を行った。なお,終末期ケアに関する方針は,2002年の医療経済研究機構の調査項目と同じものを用い,同調査と比較した。

結果 1999~2009年までの間で特養における死亡数は1.7万人から3.6万に約2.2倍増加していた。この間の定員は29万人から42万へ約1.5倍増で,定員に占める死亡割合は5.8%から8.5%へ約1.5倍増であり,両者の増加が同程度に寄与していた。看取り介護加算が創設された2006年以後の定員に占める死亡割合は,より高い増加傾向を示した。2009年の郵送調査の回答数は,郵送・FAXあわせて371施設(回答割合56.8%)であった。特養内死亡が多い施設は,施設内で看取る方針を持ち,嘱託医に在宅療養支援診療所の医師がおり,終末期ケアの希望の確認を文書で行っていた。終末期ケアの施設方針を2002年の医療経済研究機構の調査と比較すると,「速やかに病院等へ移す」方針の施設が58.5%から35.6%に減少し,「施設内で看取る」方針の施設が20.7%から29.9%に増加していた。

結論 特養における死亡は看取り介護加算創設後により高い増加傾向にあり,国による看取り介護の推進は一定の効果を発揮していた。今後,さらに多くの特養が看取り介護の方針を持てるよう支援すること,および在宅療養支援診療所との連携を強化することで,特養内死亡が増加する可能性が示唆された。

キーワード 特別養護老人ホーム,看取り介護加算,在宅療養支援診療所,特養内死亡,人口動態統計

 

論文

 

第59巻第1号 2012年1月

医療計画における基準病床数の算定式と
都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測

小松 俊平(コマツ シュンペイ) 渡邉 政則(ワタナベ マサノリ) 亀田 信介(カメダ シンスケ)

目的 医療計画における基準病床数の算定式と,都道府県別将来推計人口を用いて,都道府県別に入院需要の推移を予測し,さらに,これと供給を対比することで,高齢社会における医療提供体制の確保に関する議論の基礎となるデータを提供する。

方法 医療計画における基準病床数の算定式を,都道府県別に入院需要の推移を予測し,その傾向を比較するという目的にかなうよう改変し,参考基準一般病床数,参考基準療養病床数を定義した。これらと,最新の既知の値である2009年の医療・介護サービスの供給量の実績値を対比するため,一般病床需給比率,療養病床需給比率を定義した。

結果 全国の参考基準一般病床数は,2030年まで増加して減少に転じた。全国の参考基準一般病床数は,2010年と比較して2030年には86,723床増加したが,このうち41,984床,率にして48%が,埼玉・千葉・東京・神奈川における増加分だった。全国の参考基準療養病床数は,2035年まで増加し続けた。全国の参考基準療養病床数は,2010年と比較して2030年には847,822床増加したが,このうち288,059床,率にして34%が,埼玉・千葉・東京・神奈川における増加分だった。一般病床需給比率は,2030年までに埼玉・千葉・神奈川・愛知のみで100を上回った。療養病床需給比率は,2030年までにすべての都道府県で100を大幅に上回った。埼玉・千葉・東京・神奈川では,2030年には療養病床需給比率が250を超えた。

考察 人口構造の高齢化により,首都圏を中心とした都市部で,医療・介護需要が爆発的に増加すること,このまま供給を増やさなければ,首都圏を中心として,必要な医療・介護を受けられない者が大量に出現することが示唆された。首都圏での壊滅的な供給不足を防ぐためには,あらゆる方策を駆使する必要があると考えられた。

キーワード 入院需要,高齢化,医療提供体制,医療計画,基準病床数,将来推計人口

 

論文

 

第59巻第1号 2012年1月

心理社会的要因は,仕事に支障をきたす慢性腰痛への
移行に強く影響しているか

松平 浩(マツダイラ コウ) 磯村 達也(イソムラ タツヤ) 犬塚 恭子(イヌヅカ キョウコ)
石塚 朗子(イシヅカ アキコ) 有阪 真由美(アリサカ マユミ) 藤井 朋子(フジイ トモコ)

目的 西欧では,腰痛の慢性化への移行には心理社会的要因が強く関与するとのエビデンスがある。本研究の目的は,わが国の勤労者における仕事に支障をきたす慢性腰痛への移行に関わる危険因子を,前向き研究により探索することである。

方法 腰痛およびそれに関連しうる多要因(多くの個人的要因,人間工学的要因,心理社会的要因等)を網羅した自己記入式調査票を首都圏多業種16事業所の勤労者6,140人に依頼した。ベースラインでは5,310人から,翌1年の腰痛状況等を追跡調査では3,811人から回答を得た(追跡率72%)。そのうちベースライン調査時から過去1年において腰痛はあったものの仕事に支障はなかった1,675人を抽出し,翌1年に仕事に支障をきたす非特異的腰痛が3カ月以上あったこと(従属変数)の危険因子をベースラインデータの変数から探索した。

結果 ベースライン調査時から翌1年の間,非特異的腰痛で3カ月以上仕事に支障をきたした人が2.6%(43人)発生した。ロジスティック回帰分析(性・年齢を含む多変量解析)の結果,重量物取り扱いに従事していること,働きがいが低いこと,ストレスによって起こりうる身体愁訴が多いこと(身体化傾向が強いこと),そして,家族に生活や仕事に支障をきたした腰痛の既往があることが,有意な因子であった。

結論 わが国の産業現場でも,仕事に支障をきたす慢性腰痛への移行には,腰への身体的な負荷要因のみならず心理社会的要因が強く影響することが示唆された。よって非特異的腰痛の難治・慢性化の予防と治療には,腰へかかる負担に関わる問題と心理社会的な問題へのアプローチを車の両輪とした包括的な対策が必要であると思われた。

キーワード 腰痛,慢性非特異的腰痛,危険因子,心理社会的要因,勤労者

 

論文

 

第59巻第2号 2012年2月

在日コリアンの人口高齢化と死亡の動向

-死亡・死因統計に関する日本人との比較分析-
李 錦純(リ クンスン) 李 節子(リ セツコ) 中村 安秀(ナカムラ ヤスヒデ)

目的 旧植民地時代に日本に渡航した在日コリアンは,長期在住により高齢化し,65歳以上の高齢者人口は10万人を超えた。日本社会の高齢化と同時期に高齢化した在日コリアンの健康水準を把握することは,顕在化している保健医療福祉問題を明確化する上で重要である。本研究は,在日コリアンの高齢化の推移と人口学的特徴を明らかにするとともに,健康水準を評価する指標として,死亡・死因統計について,日本人との比較分析により検討した。

方法 厚生労働省の人口動態統計(1955~2008年)および法務省の在留外国人統計(1959~2009年)を用いて,高齢者人口の推移と死亡数,死亡率,主要死因別死亡数,日本人を基準人口とした標準化死亡比を算出し,その推移を観察した。

結果 在日コリアンの高齢化率は2009年には17.8%,後期高齢者数は一貫して女性が多かった。死亡率は,日本人より低値で経過しているが,日本の社会情勢や高齢化に同調して,類似したパターンで推移していた。総死亡数に占める65歳以上の死亡数の割合は,1955年の10.5%から2005年には総死亡数4,660人に対し3,332人と,71.5%を占めるようになった。標準化死亡比(SMR)において有意に高い値を示したのは,男性の全年齢では「悪性新生物」「脳血管疾患」「不慮の事故」「自殺」,65歳以上では「悪性新生物」「自殺」であり,「自殺」は2.60と顕著であった。女性の全年齢では「心疾患」が一貫して高かったが,65歳以上において2009年には有意差は認められず,日本人と同水準を示すに至った。

結論 近年における在日コリアン人口の著しい高齢化が認められた。人口高齢化を反映し,高齢者人口の死亡数の経年的増加が認められ,今後も在日コリアン高齢者の保健医療ニーズは高まるものと推察される。SMRにおいても性差が表れており,女性高齢者は日本人と類似した傾向だが,男性高齢者は,悪性新生物と自殺において日本人以上に高値を示した。男性高齢者における悪性新生物の部位別死亡率の検討や社会環境要因の明確化とともに,日本人に対する自殺対策だけでなく,在日コリアンをも含めた自殺の原因究明など,実態に即した自殺防止対策を早急に推進していくことが求められる。

キーワード 在日コリアン,高齢者,死亡率,死因統計,標準化死亡比

 

論文

 

第59巻第2号 2012年2月

名古屋市における共食・孤食と食生活に関する調査

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 名古屋市における孤食の実態を把握するとともに,家族との食事形態と食に関する知識や食生活との関係を明らかにすることを目的に調査を行った。

方法 名古屋市に居住する16歳以上の男女のうち,無作為に抽出された3,000人に調査票を配布した。回答が得られた人のうち,同居する家族がいる1,514人を対象に分析を行った。家族と一緒に食事をする機会が週3日以上の人を「共食群」,週2日以下の人を「孤食群」として分析を行った。

結果 回答者の内訳は,共食群88.0%,孤食群12.0%であった。孤食群の割合は,性別にみた場合は男性で,また年齢階級別にみた場合は20~29歳で多かった。性,年齢階級を調整したオッズ比を算出したところ,孤食群は共食群と比較して食に関する知識に乏しく,好ましい食生活を送っていなかった。孤食群が好ましい食生活を送らない理由は,忙しいからが最も多かった。

結論 孤食群に対しては,共食を勧めるとともに,食に関する正しい知識を提供し,多忙な生活スタイルの中であっても正しい食生活を実践できるように保健指導を行う工夫が必要であると考えられた。

キーワード 共食,孤食,食生活,BMI,食育

 

論文

 

第59巻第2号 2012年2月

30歳未満女性の子宮頸がんに対する意識と
がん検診受診要因に関する研究

梅澤 敬(ウメザワ タカシ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 落合 和徳(オチアイ カズノリ)
池上 雅博(イケガミ マサヒロ)

目的 わが国における子宮頸がんのハイリスク者は20~30歳代であるが,30歳未満女性を対象とした,子宮頸がんに関連する実態調査や子宮頸がん検診の受診要因の分析研究は乏しい。本研究は30歳未満女性を対象に疫学調査を実施し,子宮頸がんに関連する認知状況と子宮頸がん検診の受診要因について明らかにすることを目的とした。

方法 対象は承諾が得られた都内の保健医療系女子学生である。方法は無記名自記式質問紙法による「子宮頸がんに関する意識調査」で,調査期間は2010年5~8月である。分析は30歳未満の18~19歳と20~29歳の2群間比較,および子宮頸がん検診受診歴の有無と各要因との関連を分析した(χ2検定,有意水準5%)。

結果 調査用紙は対象者全員の596人に配布し,485通回収できた(回収率81.4%)。解析対象者の平均年齢は20.4歳で,18~19歳は246人(53.1%),20~29歳は217人(46.8%)であった。本研究対象の子宮頸がん検診受診率は5.0%(18~19歳:1.6%,20~29歳:8.8%),受診理由の1位は検診無料クーポン券利用が35.3%であった。HPV-DNA検査を受けたことがあると回答したのは全体の1.9%であった。子宮頸がんに関連する認知状況は,子宮頸がんの病気を知っているのは35.1%,罹患率は20~30歳代に最も多いことを知っているのは51.8%,子宮頸がんの原因はHPVであることを知っているのは47.7%,検診の受け方を知っているのは12.3%,受診要件(20歳から2年に1回)を知っているのは20.7%,細胞診スクリーニング検査を知っているのは13.2%であった。子宮頸がんに関連する2群間比較の分析の結果,未成年者は20~29歳の検診対象群に比べ低い認知状況であった(p<0.001)。30歳未満の子宮頸がん検診受診者の特性は,婦人科の既往歴(不正性器出血,月経困難,腹痛,性感染症)があり,子宮頸がん検診の受診方法,受診要件,細胞診スクリーニング検査,の検診内容について知っている人であった(p<0.001)。

結論 子宮頸がんのハイリスク者である30歳未満での子宮頸がん検診の受診率向上には,検診に関連する詳細な情報提供が寄与する。

キーワード 子宮頸がん検診,HPV,母性保護,細胞診スクリーニング検査

 

論文

 

第59巻第2号 2012年2月

推奨運動量レベルの運動習慣と入院外医療費との関連

-藤沢市における検討-
齋藤 義信(サイトウ ヨシノブ) 小熊 祐子(オグマ ユウコ) 鈴木 清美(スズキ キヨミ)
相馬 純子(ソウマ ジュンコ) 田中 あゆみ(タナカ アユミ) 吉田 幸平(ヨシダ コウヘイ)
小堀 悦孝(コボリ ヨシタカ)

目的 本研究は藤沢市国民健康保険被保険者を対象とした国保ヘルスアップモデル事業で得られたデータを用い,「健康づくりのための運動基準2006」で示された日本における推奨運動量(週4METs・時)レベルの運動習慣の継続・増加・減少という変化と医療費との関連について検討することを目的とした。

方法 対象は藤沢市国民健康保険被保険者1,343名(年齢63.3±5.1歳:Mean±SD)であった。医療費の分析は2002年度と2004年度の年間入院外医療費を用いた。運動習慣は質問紙により,1週間に1回30分以上の運動やスポーツを行う頻度について,事業開始時(2002年)と2年後(2004年)の追跡調査により評価した。その結果から,「運動習慣が週2回未満のまま推奨値を満たさなかった群(非推奨群)」,「週2回以上の推奨値から週2回未満に減少した群(減少群)」,「週2回未満から週2回以上に増加した群(増加群)」および「週2回以上継続し,推奨値を満たした群(推奨群)」の4群に分類した。運動習慣の変化と医療費との関連の検討には,始めに事業開始年度における医療費の群間比較を行った。その後,事業開始年度と事業最終年度の医療費の差(変化)の群間比較を多重比較検定にて行った。また重回帰分析を用いて,医療費の変化に関連する要因の検討を行った。

結果 事業開始年度の医療費は,運動習慣4群間で差はみられなかった。事業開始年度と事業最終年度の医療費の差の比較では,非推奨群と推奨群との間に有意差が認められた。事業開始年度と事業最終年度の医療費の差の平均値は,非推奨群では13,700円の増加,減少群では16,416円の増加,増加群では6,710円の増加,推奨群は94円の減少であった。重回帰分析を用いて医療費の変化に関連する要因を検討した結果,運動習慣において非推奨群に対し推奨群であることで有意に入院外医療費の増加が少なかった。一方,事業開始時の主観的健康感が低い,年齢が高い,糖尿病を治療中であることが増加に関連する要因であった。

結論 運動習慣は入院外医療費の増加に関連する要因であると考えられ,推奨運動量レベル以上の運動を継続することにより,入院外医療費の増加を抑制する傾向が示唆された。

キーワード 推奨運動量,運動習慣,生活習慣病,入院外医療費

 

論文

 

第59巻第2号 2012年2月

小学高学年の生活実態および意識と将来への期待について

尾木 まり(オギ マリ) 柏女 霊峰(カシワメ レイホウ) 斉藤 進(サイトウ ススム)
八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ) 三輪 律江(ミワ ノリエ)

目的 小学高学年児童の生活実態並びに意識を把握することにより,家庭生活,学校生活,交友関係,将来の職業意識などを把握し,この時期の児童の生活に保障すべき生活環境について検討するための基礎資料を得ることを目的とした。また,「21世紀出生児縦断調査」における児童本人への調査手法等の検討に資することを目的とした。

方法 全国5都市12小学校の小学5・6年生の親子2,685組を対象に,平成22年9~10月に質問紙調査を実施した(小学校で配布・回収)。回収された2,140件(回収率79.7%)のうち,有効回答2,110件(有効回答率98.6%)について,都市別,学年別,性別等により分析した。また,親子に対して共通に尋ねた質問への回答の一致度を検証した。

結果 地域別には祖父母との同居,居住形態,保護者の働き方や帰宅時間に違いがみられた。学校生活では,9割の子どもが友だちと会うことを楽しみとし,昼休みも放課後も友だちと過ごすが,その過ごし方には男女差がみられた。また,放課後過ごす場所は,首都圏都市では他の都市よりも「習い事」「公園」をあげる割合が高かった。「保護者の子どもとの接し方」を尋ねた結果では,子どもの方が保護者よりも「とてもそう思う」と感じる割合が高く,保護者の接し方を肯定的にとらえていた。自分自身への意識では,自己肯定感や幸福感を含み,全体的に肯定的なとらえ方がされており,中でも「とてもそう思う」の割合は「自分には夢中になれるものがある」(74%),「自分には将来の夢がある」(67%),「自分にはなりたい職業がある」(60%)で高かった。保護者の回答と子どもの回答の一致度は客観的事実である時間でさえも一致度は低く,子どもの意識については約4割方の一致度しかみられなかった。

結論 都市部や郡部で生活の実態に違いがみられるものの,多くの小学高学年生はその生活の中で幸せを感じ,比較的高い自己肯定感を抱きつつ生活していると考えられた。また,親が思っているよりも子どもは,親に対してよい関係を抱いており,子どもは子どもで様々な生活環境の影響を受けながらもたくましく生きているという実態が浮かび上がってきた。親子調査の手法を検討するために,親子に対していくつかの共通の設問をし,その回答を比較したところ,一致度は決して高くなく,小学高学年の保護者を通じて,子どもの生活実態や意識を把握することが適切ではないことが明らかとなった。

キーワード 小学高学年,生活実態,自己肯定感,幸福感,職業意識,親子調査

 

論文

 

第59巻第3号 2012年3月

福島市の戸建住宅における
居住環境と健康状態についてのアンケート調査

田中 正敏(タナカ マサトシ)

目的 準寒冷地域である東北地方の住宅,居住環境と健康状態との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 準寒冷地域で盆地にあり,夏は高温多湿,冬は盆地特有の底冷えのする気象の福島市の戸建住宅を対象として居住環境,人々の健康状態などに関するアンケート調査を行った。

結果 有効回答数は428通(47%)であった。家の構造については,木造・木質系が82%であった。1~2人の家族構成である場合が25%であり,家族数が少ないなかで,部屋数が5部屋以上である場合が多くを占めていた。住居内の状況については,「結露が発生している」が51%,結露の発生場所は「窓のみ」が91%と多かった。カビについては,「発生している」が45%で,発生場所として,「風呂場のみ」が74%と最も多かった。室内の換気方法は,窓の開閉による場合が多く,「全室に換気装置がある」は31%であった。換気装置の使用状況については,「部屋の使用時は常時使用」が40%と最も多く,「ほとんど使用しない」が15%にみられた。「家族のなかで頭痛など何らかの症状,湿疹やアレルギーなどのある人」が「いる」場合は,80戸(18.7%)の住居であった。症状のなかで多かった項目は,「鼻づまり」などの鼻の症状,湿疹,「皮膚がかゆい」などであった。アレルギー性疾患では,アレルギー性鼻炎の罹患が最も多かった。室内環境要因と健康状態との関係で有意であったのは,「タオルの乾きにくさ(風呂場)」「結露の発生」「カビの発生」などで,湿気に関係する項目が多かった。

結論 寒冷地である東北地方の建物は,本州にみられる一般的な住宅の場合と同様に,窓などの開口部はサッシにより気密性は高いが,壁や屋根などで断熱性の低い住宅が多く,室内の換気が等閑にされると空気汚染が生じやすい。福島市のような盆地で多湿の気候条件は,室内の結露,ダニや真菌のなどの微生物の増殖を招きやすく,室内環境においてアルデヒド類,揮発性有機化合物などの化学的要因とともに生物学的要因に注意が必要である。

キーワード 気密居住環境,換気,シックハウス,アレルギー性疾患,アンケート調査

 

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第59巻第3号 2012年3月

定時制高校生における大麻など違法薬物に関する意識調査

磯村 毅(イソムラ タケシ)

目的 違法薬物乱用防止のためには,青年期の若者における違法薬物への意識や違法薬物との接点について理解することが大切である。大麻はタバコと同様に煙の吸引により使用するため,喫煙の常習化からの進展しやすさが想定できる。そこで若年者における喫煙経験と大麻との関連について検討した。

方法 愛知県内の定時制高校の生徒90名に,喫煙行動および大麻など違法薬物に関する意識調査を実施し,40歳以上の4名と喫煙行動が無回答の15名を除いた71名を対象として解析した。

結果 喫煙行動別に人数,平均年齢は,現喫煙群(11名,18.1歳),前喫煙群(8名,17.1歳),試し喫煙群(10名,17.6歳),非喫煙群(42名,17.4歳)であった。「周囲に大麻などを所持または使用した人がいる」と回答した人は,試し喫煙群+非喫煙群の52名中1名(2%)に比べ,現喫煙群+前喫煙群では回答者17名中6名(35%)と多かった(p<0.001)。大麻などを手に入れるのは,「簡単だと思う」または,「何とか手に入ると思う」と回答した人は,試し喫煙群+非喫煙群で52名中25名(48%)に対し,現喫煙群+前喫煙群では18名中16名(89%)に達した(p<0.01)。大麻の有害性の認識は,「大麻には中毒になる危険がないと思う」と答えた生徒は69名中22名(32%),「大麻には犯罪に巻き込まれる危険がないと思う」と答えた生徒は70名中24名(34%)であった。これらの回答は,非喫煙群において順に42名中18名(43%),19名(45%)であり,いずれも現喫煙群+前喫煙群+試し喫煙群と比較して有意に高かった(p<0.05)。これらの回答は,非喫煙群で大麻などを「入手不可能」と回答した24名では順に15名(63%),16名(67%)で,「入手可能」と回答した非喫煙群に比べ多かった(p<0.01)。

結論 喫煙が違法薬物のゲートウェイとなっている可能性が示唆された。また,有害性の認識が非喫煙群の大麻などを「入手不可能」と回答した生徒において低かったことから,非喫煙のごく一般の若者において,大麻などに対する警戒感が緩んでいることが危惧された。

キーワード 喫煙,大麻,違法薬物,ゲートウェイドラッグ,定時制高校

 

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第59巻第3号 2012年3月

国民健康保険加入の特定健康診査未受診者の
年齢別未受診理由について

渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ) 臼田 寛(ウスダ カン) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ)
中山 紳(ナカヤマ シン) 木村 基士(キムラ モトシ) 津田 侑子(ツダ ユウコ)
林田 一志(ハヤシダ イツシ) 河野 公一(コウノ コウイチ) 寺原 美穂子(テラハラ ミホコ)
池田 睦子(イケダ ムツコ)

目的 特定健康診査の実施率の向上を目的に,年齢別にみた未受診者の特徴を明らかにし,その対応を検討する。

方法 対象者は40~74歳の国民健康保険加入者で平成21年度の特定健康診査未受診者を層化無作為抽出した2,000人である。方法は,平成22年6月1日~30日の間に,郵送法によるアンケート調査を実施した。回収数は1,212(回収割合;60.6%)であった。性,年齢,職業を回答した1,182人を解析対象者とした。未受診に関連する項目を年齢別に分析した。

結果 対象者の63.1%は無職であった。65.3%はかかりつけ医がおり,45.9%は2週間に1回以上通院していた。未受診理由は,「忘れていた」「健康である・メタボでない」「通院中」「市からの情報不足」「受ける時間・暇がなかった」と続いていた。40歳代,50歳代,60歳代は「忘れていた」,70歳代は「通院中」が多かった。

結論 本調査結果から,対象者には「かかりつけ医がある」や「通院中」が多いことが明らかになった。受診率の向上には,かかりつけ医に受診勧奨や個別健診の実施を依頼することが必要である。年齢別では40歳代,50歳代,60歳代の「忘れていた」の理由に対して,忘れることがないよう複数の手段を用いて受診勧奨を促す。70歳以上では「通院中」を重視し,個別健診の受診を働きかけることが受診率向上につながると思われる。

キーワード 特定健康診査,国民健康保険,受診率,未受診理由

 

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第59巻第3号 2012年3月

介護保険サービスの必要量利用の可否が
家族介護者に及ぼす影響

上田 照子(ウエダ テルコ) 三宅 眞里(ミヤケ マリ) 荒井 由美子(アライ ユミコ)

目的 介護保険サービスを介護者が必要と思われる量を利用できているか否かと,介護者の介護負担や介護疲労との関連について検討する。

方法 高齢者の主介護家族を対象とし,質問紙法を用い無記名で行った。質問紙の内容は,高齢者の属性,介護サービスの利用状況,介護者の属性,介護負担,身体的・精神的疲労,健康状態,経済事情等である。質問紙の配布は,介護支援専門員が利用者宅への訪問時に配布し,回収は郵送にて行った。276人の回答を得た(回収割合70.6%)。回答の不備等の10ケースを除外し,266人の調査票を分析した。調査時期は2009年3~5月である。

結果 介護保険サービスが「必要と思われる量を利用できている」と回答した者は61.3%,「できていない」者が30.8%であった。できていない理由の内訳は,「自己負担金が高くつくから」が40.2%,「高齢者が嫌がるから」が50.0%,「役に立たない」が4.9%などであった。介護者の経済事情として,「介護の費用が高齢者の収入で賄えるかどうか」「一部自己負担金の経済的負担」「経済状況」について,サービスが必要量利用できているか否かとの関連を検討した結果,各々において有意な関連がみられ,介護者の経済的事情がサービスの必要量利用の可否に影響を与えている可能性が示唆された。サービス必要量利用の可否と介護状況,介護負担,健康状態等の項目との関連を検討した結果,介護時間,介護による拘束時間,Zarit介護負担感得点,困りごとの数,身体疲労,精神疲労,健康状態において,サービス必要量利用の可否との間に有意な関連が認められた。また,これらについてサービスが必要量利用できていない理由別に検討した結果,理由が「自己負担金がかさむ」群では,Zarit介護負担感得点,困りごとの数,身体疲労,精神疲労において有意な関連を示した。

結論 介護保険サービスは,介護家族の経済事情によって利用が制限されていることが認められた。また,サービスが必要量利用できていない場合には,介護者の介護負担や介護疲労の増大を招いている可能性が示唆され,これらを予防するためにはサービス利用のための経済的な支援が必要と考えられた。

キーワード 介護保険サービス,介護サービスの必要量利用の可否,一部自己負担金,介護負担,介護疲労

 

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第59巻第3号 2012年3月

高齢者における短縮版Generativity尺度の作成と
信頼性・妥当性の検討

田渕 恵(タブチ メグミ) 中川 威(ナカガワ タケシ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ)
小森 昌彦(コモリ マサヒコ)

目的 中年期の発達課題であるGenerativityを高齢者において測定するため,McAdamsらが開発した「Loyola Generativity Scale(LGS)」の日本語訳を用いたGenrativity尺度およびその短縮版を作成し,妥当性および信頼性について検討することを目的とした。

方法 調査1では近畿圏内の生涯学習団体に所属する高齢者556名を,調査2では兵庫県但馬圏域に住む中高年者798名を分析対象とした。LGSを翻訳した20項目の確認的因子分析結果より,5つの因子から1項目ずつ選択した5項目からなる短縮版を作成した。

結果 20項目版と短縮版の相関は0.85であり,また両者共に年齢,Generativity行動,感情的Well-being,人生満足度との有意な関連性が認められた。信頼性係数の推定値としてのα係数は,調査1では0.66,調査2では0.68であった。

結論 本研究で作成された短縮版Generativity尺度は,LGSの概念構造となる5側面を含み,かつ信頼性・妥当性の示された尺度であることが確認された。

キーワード Generativity,高齢者,Loyola Generativity Scale,信頼性,妥当性,短縮版

 

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第59巻第4号 2012年4月

第13回OECDヘルスアカウント専門家会合の報告

-A System of Health Accounts 2011 EDITION-
満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ) 

 OECD(経済協力開発機構),EUROSTAT(欧州委員会統計局)そしてWHO(World Health Organization)が共同で4年間にわたって行ってきたSHA(A System of Health Accounts)の改訂作業が2011年6月に終了し,10月にSHA2011としてOECDから公表された1)。

 本誌において,著者はOECDヘルスアカウント専門家会合およびSHAの改訂作業について報告してきた2)-4)。今回は,2011年に開催された第13回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。また,SHA2011は,公表直前にOECD事務局側の独自修正によって,以前本誌で紹介した内容と異なる部分が存在する。そこで,この修正部分についても併せて報告する。

Ⅰ は じ め に

 2000年に発表されたヘルスアカウントの推計手法であるSHA1.0を改訂する作業は,当初の計画から約1年遅れて完成した。公表の直前にOECD事務局側が内容の一部に変更を加えた部分もあったが,2011年10月に正式名称SHA 2011として公表された(改訂作業中は,SHA 2.0と呼ばれていた)。

 ヘルスケア支出の国際比較が可能となるSHAマニュアルが改訂されたことの意義およびその影響力は大きい。SHAは,国際比較する際のグローバルスタンダード(国際標準)になっており,今後はOECD加盟国のみならず発展途上国も含めた多くの国で,SHA2011に準拠した推計方法が開発されていくことになるからである。また,日本は,これまで諸外国と比べて比較的少ない医療費で,質の高い医療を提供しているといわれてきた。例えば,SHA1.0での総医療保健支出は42.9兆円(2008年度),対GDP比8.5%でありOECD加盟国34のうち20位となるため,「日本は比較的少ない」,との根拠になっている。しかし,SHA2011に伴って推計値にも変化が生じると,この順位が変わる可能性もある。

Ⅱ 第13回ヘルスアカウント専門家会合の議題

 会合では,毎年,OECD事務局の各担当者から各議題について説明を行い,ヘルスアカウント専門家とOECD事務局の検討を経て,今後の方針が決められていく。

 第13回会合は,SHA2011が3カ月前に完成していたこともあり,議題が例年よりも少なく(第12回会合の議題数15に対して,議題数9),開催期間も1日のみであった(第12回会合は2日間)(表1)。

 

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第59巻第4号 2012年4月

OECDヘルスデータ担当者会合(2011)の報告

中山 佳保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

 OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,ウェブ上のデータベース「OECDヘルスデータ」として,毎年公表している。データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)や関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当者会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,近年の会合における議論の動向を含め2011年10月3,4日に開催された会合(於パリ,参加者数約95名)の議論について報告する。

Ⅱ OECDヘルスデータを巡る近年の動向

 はじめに,議論の背景として,ヘルスデータに関する近年の大きな動きを把握しておきたい。第1に,節目となる2010年10月のOECD保健大臣会合(約5年に1回開催)では,コミュニケにおいて「データの違いを説明する要因をより注意深く検証すること等により,データ・情報の比較可能性を高めるべきである」とされた1)。これにより,今年の会合でも,各国から提出された数値を並べるだけでなく,それがどのようなデータであるかの検討に力が入れられ,その分析を受けてデータ区分の改善が進められている。第2に,ヘルスデータ2010から,WHO欧州地域事務局およびEurostatとの合同質問票によるデータ収集が医療支出以外の指標に拡大されたことも,大きな動きの1つである。主に事務局間の調整により,欧州域内の国際比較指標との整理が進められ,新規指標が増えるとともに,既存の指標の定義や区分も見直されている。第3に,これは個々の指標に影響を与えるものではないが,OECDヘルスデータ2011から,公表のプラットフォーム(基盤)が,有料の個別データベースから,OECDの総合統計データベース(保健分野に限らない)であるOECD.Statへ移行することとなった。データベースの70%がID・パスワード不要の無料で提供されるため,データ利用の増大が期待されている2)。

Ⅲ 指標開発に係る議論

 OECDヘルスデータに含まれる指標一覧は,ウェブ上で参照可能である2)3)。そのうち,最近の会合の検討対象となった主な指標については表1を参照いただきたい。慢性疾患の増加や医師不足など加盟国における政策課題を反映したものや合同質問票の導入に係る指標が取り上げられ,比較可能性向上のために区分を細分する傾向が見受けられる。以下では,2011年の会合において議論された3点について紹介する4)。

(1) 医療従事者(医師・看護師)の概念に関する議論

 現在,医療従事者については,①臨床,②専門活動中,③登録(Practicing, Professionally active, Licensed)の3つの概念についてデータ収集されている。一般的に国際比較で用いられるのは,患者に直接医療サービスを提供する①臨床数であるが,研究者や行政機関で働く者を含む②,あるいは③のみしか提出できない国もある。こうしたデータギャップを埋めるため,今回の担当者会合では,②に関する新たなデータソースとして,労働力調査(Labour Force Survey)の活用について検討された。アイルランド,オランダ,Eurostatにおいて,それぞれ既存の従事者調査あるいは単発で実施した調査と労働力調査をベースとした推計値の比較が行われた。その結果,アイルランドにおいては比較的良い結果が得られたものの,オランダ,Eurostatでは,残念ながら両者の差が非常に大きく,さらには,労働力調査は住民を対象としており,国境を越えた労働力を把握できないとの問題点も指摘され,労働力調査は医療従事者数のデータソースとしては,他にソースがない場合の最後の手段(last resort)とすべきであるとの結論になった。

(2) 医師の種類に関する議論

 医師の種類は,従来のデータ収集では,「一般診療」「専門医」「その他」(General practice, Specialist, Others)の3区分に分かれ,専門医については,小児科医,産婦人科医,精神科医等に細分されていた。しかしOECD事務局が2010年に収集されたデータを分析した結果,インターンやレジデントの扱い(訓練中として「その他」と判断する国と実際に診療に携わるため「一般診療」または「専門」とする国),また,専門医ではない医師を「一般診療」「その他」のどちらに振り分けるかにより,データに大きな影響が出ていることが判明した。そのため,OECDヘルスデータ2012からは,一般診療を「家庭医・GP(General Practitioner)」と「その他の一般(インターン等を含む)」に分け,さらに専門の種類にも「その他の専門」の区分を設けることとなった。なお,この論点は,他にも難しい課題が多く,会合でも例えば,GPは専門の一種とすべきであるという見解や口腔科の医師については,歯科医(Dentist)という医師とは別の指標とされているが,医師の専門の1つとすべきであるとの見解等が示されたが,こうした点についてOECDは,国際標準職業分類(ISCO-08)に従っており,現在の分類を維持するとしている。

(3) 手術分類別の手術数に関する議論

 手術数については,1人の患者について一連の手術が行われた際,どのように数えるかが1つの論点となる。昨年の議論により,2重計上を避けるためすべての手術・処置ではなく,また過小評価を避けるため主な手術のみの数ではなく,1人の患者の1つの手術分類につき1つのコードまたは患者数(準全数(“Quasi-all”procedures))について報告することとなった。今年はその結果が示され,スペインやイタリアなど報告態様を変更したいくつかの国については,手術数が大幅に減少する例もあったことが紹介された。また,昨年のデータ収集では試験的に日帰り手術の実施場所について,「病院」と「病院以外」の別を設けたところ,病院以外の医療センター等で多くの手術が実施されている国もあることが判明した。一方で病院における手術数しか報告できない国もあり,ひとまずこの区分を維持することが決定された。

Ⅳ データと政策分析プロジェクト

 OECDでは,先進国からデータ・情報を入手できる強みを活かし,政策分析のプロジェクトも実施しており,会合でもそうした取り組みの一端が紹介された。現在は,医療サービスの利用のおける格差,メンタルヘルス,介護の質に関する作業等が進んでおり,介護については,2011年5月に増大する需要に対する介護労働力と介護財政に着目した報告書11)が刊行され,今後は,そのフォローアップとして,介護の質に焦点を当てた分析を進めるとのことであった。

Ⅴ お わ り に

 OECDヘルスデータは,先進国の保健医療に関する最も包括的なデータソースであり,こうしたOECDによる政策分析での利用に止まらず,各国の政策立案や国際比較研究の基礎資料として頻繁に参照されている。しかし,こうした比較的信頼性が高いといわれるデータベースでも,上述のように,各国が必ずしも同じ中味のデータを提出できているとは限らず,単にデータを並べて,順位を付けるだけでは,現状を正しく理解できないこともある。国際比較データは怪しいという認識を有している人は多いと思うが,実際にデータの中味に踏み込んで検証するのは,かなり手間のかかる作業であり,国際機関でこうした地道な作業が実施されることは歓迎できる。会合でも,山積する課題のほんの一部とはいえ,データの違いによる影響が明確に示され,改めて国際比較データを利用するにあたっての注意喚起となるとともに,有用なデータベースの構築へ向けた重要な取り組みがなされているといえる。

文   献

1)OECD保健大臣会合コミュニケ(http://www.oecd.org/dataoecd/4/55/46163626.pdf

2)OECD.Stat(Health)(http://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=HEALTH_STAT

3)OECDヘルスデータの指標一覧(和英対照表を含む)(http://www.oecd.org/document/9/0,3746,en_2649_37407_2085193_1_1_1_37407,00.html)

4)OECDヘルスデータ担当者会合2011プレゼン資料(http://www.oecd.org/health/presentations

5)山﨑亜弥.OECDヘルスデータ担当者会合(2010)の報告,厚生の指標2011;58(4):23-6.

6)山﨑亜弥.OECDヘルスデータ担当者会合(2009)の報告,厚生の指標2010;57(3):1-4.

7)山﨑亜弥.OECDヘルスデータ担当者会合の報告,厚生の指標2009;56(4):1-4.

8)OECD保健医療関係ワーキングペーパー一覧(http://www.oecd.org/els/health/workingpapers

9)鐘ヶ江洋子訳,OECD編著図表でみる世界の保健医療 OECDインディケータ(2009年版)2010.

10)OECD,“Health at a Glance 2011”,2011.

11)OECD,“Help Wanted? Providing and Paying for Long-Term Care”,2011.

 

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第59巻第4号 2012年4月

都市部在住高齢者における社会活動参加者の特性

-介護予防の推進に向けた基礎資料-
佐藤 むつみ(サトウ ムツミ) 大渕 修一(オオブチ シュウイチ) 河合 恒(カワイ ヒサシ)
新井 武志(アライ タケシ) 小島 成実(コジマ ナルミ)

目的 本研究では,高齢者の社会活動参加者に対して介護予防を推進するための基礎資料を得ることを目的として,都市部在住高齢者における社会活動参加者の活動の種類別特性を検討した。

方法 東京都A区において,65歳以上の高齢者の約10%にあたる3,500名を,性,居住地区別に層化のうえ無作為に抽出し,社会活動参加の状況,基本属性,介護予防に関する知識,健康に対する意識,心身の健康状態などについて,調査用紙を郵送して回答を求めた。有効回答票1,886件(53.9%)のうち,要支援・要介護者を除く1,485件(有効回答票の78.7%)を分析対象とした。社会活動参加の状況は,①町内会,自治会,②老人会,老人クラブ,③趣味・スポーツ・学習サークル,自主グループなどの参加の有無を尋ねた。①と②を地域社会活動,③を個人社会活動とし,それぞれの参加群と不参加群の特性をクロス集計にて検討した。さらに,参加の有無を従属変数,クロス集計にて統計学的に有意な関連が認められた項目を独立変数とした多重ロジスティック解析を行い,オッズ比を検討した。

結果 地域社会活動参加群は99名,個人社会活動参加群は459名であった。地域社会活動参加群は不参加群と比較して,男性,高卒以下,高齢者のみ世帯ではない,地域包括支援センターを知っているなどの割合が高かった。個人社会活動参加群では,女性,専門・短大・大卒以上,高齢者のみ世帯,暮らし向きがふつう・余裕がある,介護予防を知っている,二次予防事業対象非該当,体の衰えを予防できる自信がある,主観的健康感が健康,移動能力が高い,外出頻度が高い,孤立感がないなどの割合が高かった。多重ロジスティック解析の結果,地域社会活動の参加と独立した関連が認められた要因は,男性,高卒以下,高齢者のみ世帯ではない,地域包括支援センターを知っている,の4項目であった。一方,個人社会活動の参加では,女性,専門学校・短大・大卒以上,高齢者のみ世帯,暮らし向きがふつう・余裕がある,主観的健康感が健康,移動能力が高い,外出頻度が高い,の7項目であった。

結論 地域社会活動と個人社会活動では参加者の特性が全く違うことがわかった。介護予防の推進のためには,社会活動の種類に応じた介入方法を検討していく必要があることが示唆された。

キーワード 地域住民調査,社会活動,介護予防,地域高齢者,都市部

 

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第59巻第4号 2012年4月

訪問看護の潜在ニーズを含めたニーズの推計

田口 敦子(タグチ アツコ) 永田 智子(ナガタ サトコ) 成瀬 昂(ナルセ タカシ)
桒原 雄樹(クワハラ ユウキ) 福田 敬(フクダ タカシ) 山田 雅子(ヤマダ マサコ)
吉池 由美子(ヨシイケ ユミコ) 八巻 心太郎(ヤマキ シンタロウ) 中尾 杏子(ナカオ キョウコ)
田上 豊(タガミ ユタカ) 村嶋 幸代(ムラシマ サチヨ)

目的 本研究では,訪問看護を必要とする患者数・要介護者数の潜在ニーズまで含めた推計を行い,その活用可能性を提示することを目的とした。

方法 ニーズ推計では,今後各自治体が自身で定期的に推計できるようになることに留意し,いずれの都道府県や自治体でも入手しやすい既存の統計データを用いるように努めた。既存の統計から得られないデータについては,質問紙調査から得た。顕在ニーズと潜在ニーズのいずれも,介護保険と医療保険を分けて推計し,その後合算した。可能な限り2008年の統計データを用いたが,2008年のデータがないものについては推計値や直近のデータを用いた。

結果 調査票を発送した施設・事業所3,740カ所のうち,1,241カ所から回答があった(回収率33.2%)。施設・事業所から得た利用者データの回収数は43,018人で,有効回答数は42,636人であった。2008年の全訪問看護利用者数,すなわち,顕在ニーズは317.9千人(内訳:介護保険256.5千人,医療保険61.4千人)であった。潜在ニーズの小計は262.2千人(内訳:居宅および介護施設で213.0千人,医療療養病床および一般病床で36.6千人,精神病床で12.6千人)であった。2008年度における顕在ニーズと潜在ニーズを合算した訪問看護ニーズの総数は580.1千人であった。

結論 潜在ニーズを含めた訪問看護ニーズは,現在の顕在ニーズの1.8倍であることが明らかとなった。今回開発した方式および調査結果として算出した数値割合は,各都道府県や自治体にある既存統計を活用することによって訪問看護ニーズが算出可能なこと,人口や要介護度の増減を調整できるため,地域の実情に応じてシミュレーションが可能であることから,有用性が高い。都道府県や自治体が医療計画や介護保険事業計画等の立案時に,潜在ニーズも含めた訪問看護ニーズを把握し,供給体制を整備していく上で役立つことが期待される。

キーワード 訪問看護,推計,顕在ニーズ,潜在ニーズ,利用者数

 

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第59巻第4号 2012年4月

国民健康・栄養調査の協力率とその関連要因

西 信雄(ニシ ノブオ) 中出 麻紀子(ナカデ マキコ) 猿倉 薫子(サルクラ ノブコ)
野末 みほ(ノズエ ミホ) 坪田 恵(ツボタ メグミ) 三好 美紀(ミヨシ ミキ)
卓 興鋼(タク キョウコウ) 由田 克士(ヨシタ カツシ) 吉池 信男(ヨシイケ ノブオ)

目的 国民健康・栄養調査のデータは健康日本21の最終評価等に活用され,健康増進施策の推進,評価のために貴重な資料となっている。本研究は,国民健康・栄養調査の調査地区が国民生活基礎調査の調査地区から抽出されることを利用して,世帯および個人単位で国民健康・栄養調査の協力率とそれに関連する要因を検討することにより,統計学的な代表性を評価することを目的とした。

方法 平成15年から19年の国民健康・栄養調査の調査地区について,国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査のレコードリンケージを行った。世帯単位の協力率については,世帯単位でレコードリンケージを行い,国民健康・栄養調査の協力率および協力率に関連する要因を検討した。個人単位の協力率については,国民生活基礎調査に協力した世帯の20歳以上の世帯員を対象に個人単位でレコードリンケージを行い,国民健康・栄養調査の協力率を身体状況調査およびその一部の血液検査と,栄養摂取状況調査,生活習慣調査の各々について検討した。

結果 世帯単位の協力率は平成15年から19年の平均で66.4%であり,世帯人員が1人の世帯,特に男性の単独世帯で低かった。個人単位の協力率は身体状況調査が53.2%,血液検査が34.4%,栄養摂取状況調査が61.3%,生活習慣調査が63.1%であり,身体状況調査,特に血液検査で低かった。性別にみると,いずれの調査も男性より女性の協力率が高く,特に身体状況調査と血液検査で男女の差が大きかった。年齢階級別にみると,いずれの調査も20歳代が最も低く,男性では60歳代と70歳以上が,女性では60歳代が高かった。配偶者の有無別にみると,男女のいずれの年齢階級でも配偶者なし(未婚・死別・離別)の者に比べて配偶者ありの者の協力率が高かった。

結論 世帯や個人の特性により国民健康・栄養調査の協力率に差がみられたことは,統計学的な代表性が損なわれてきている可能性を示唆している。また,調査の種類によっても協力率に大きな差がみられた。今後,国民健康・栄養調査の協力率を向上させるためには,調査の種類ごとに対象者の特性に応じた方法を検討する必要があると考えられる。

キーワード 国民健康・栄養調査,国民生活基礎調査,レコードリンケージ,協力率,単独世帯,配偶者の有無

 

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第59巻第4号 2012年4月

日本における「自殺希少地域」の地勢に関する考察

-1973年~2002年の全国市区町村自殺統計より標準化死亡比を用いて-
岡 檀(オカ マユミ) 藤田 利治(フジタ トシハル) 山内 慶太(ヤマウチ ケイタ)

目的 本研究の目的は,「自殺希少地域」の地理的特性を把握し,それら特性の自殺率に与える影響を考察することにある。

方法 1973年~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータから標準化死亡比を算出し,本分析における自殺率の指標,「自殺SMR」とした。さらに自殺SMRの信頼区間を求め,その結果から自殺率が有意に低い市区町村-「自殺希少地域」を分類した。地理的変数については既存のデータと,既存のデータを加工したものを併用した。ヒストグラムを描いて全国市区町村の自殺SMRの分布を確認し,記述統計量によって「自殺希少地域」とその他地域の地勢の傾向を概観した。クロス集計およびχ2検定を行い,「自殺希少地域」の地理的特徴を確認した。また,相関分析,重回帰分析重み付け最小2乗法を行って,地勢が自殺SMRに与える正負の影響とその強さを確認した。追加的分析として,全国市区町村から自殺SMRの下位1%を抽出し,それら市区町村の地勢の傾向を確認した。

結果 「自殺希少地域」は山間部よりも海岸部の低地に属し,可住地人口密度の高い市区町村に多いという傾向が示された。海岸部属性を有する市区町村のうち,「自殺希少地域」は他の地域に比較して,島属性および単一島属性を有する市区町村が多かった。また,「自殺希少地域」の市区町村が面する海域は,他の地域に比較して太平洋と瀬戸内海に多かった。

結論 「自殺希少地域」の地勢は,自殺危険因子のひとつである医療や社会福祉サービスへのアクセシビリティや,コミュニティにおける社会的支援の質とも関係がある可能性が示唆された。人が自殺へと至る機序は複雑であり,地勢との関係からのみ論じるには限界があるが,本分析結果は自殺対策を検討する際の参考資料となりうるであろう。

キーワード 自殺希少地域,地勢,コミュニティ,標準化死亡比,全国市区町村

 

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第59巻第5号 2012年5月

わが国におけるスズメバチ等による死亡の疫学

西 基(ニシ モトイ)

目的 スズメバチ等に刺されたことによる死亡の状況について,人口動態統計の資料を使用して,都道府県別の標準化死亡比(SMR)などの指標を算出し,気温との関連も検討する。

方法 人口動態統計の資料で,ICD10コードX23(スズメバチ,ジガバチ及びミツバチとの接触)による,2000年から2009年までの,都道府県別・男女別の死亡数および全国における5歳階級別・男女別の死亡数を求めた。国勢調査の資料で,2000年および2005年の都道府県別・男女別・5歳階級別の人口を求めた。これらの資料から,各年の全国における死亡数,各年齢階級における死亡数,各県・各地方におけるSMRを算出した。気温との関係を検討するため,気象庁がホームページで提供している主要都市の月平均気温の資料を使用した。

結果 2000年から2009年までの死亡数は男性が178例,女性が40例であった。男性では25歳未満の,女性では45歳未満の死亡は,それぞれみられず,大部分が50歳以上であった。男女合計で,最多が福島県で12例,次が岩手県で11例であった。東北各県のSMRは宮城県を除いて200~400前後,東北地方としては237.4で,突出して高かった。東京都の死亡数は0で,関東地方のSMRは44.4と低かった。月別の気温との関係をみたところ,夏の気温と当該年における死亡数との間には関係は認められず,春先の平均気温との間に負の相関がみられた。

結論 関東地方のSMRが低く,東北地方が高かったのは,山野に出かける頻度の相違や,ショックに対応できる救急医療施設の密度・アクセスのしやすさなども関係すると考えられた。死亡例に若年者が全くみられなかったのは,刺された累積回数が少ないとアナフィラキシーに至りにくいことが1つの理由と推測された。「夏の気温が高いと,スズメバチの活動が活発になり,刺される例が増える」という通説を裏付けることはできなかった。春先の気温との負の相関については,今後生態学的に検証する価値があると考えられた。

キーワード スズメバチ,標準化死亡比,都道府県,地方

 

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第59巻第5号 2012年5月

高校生の喫煙実態調査について

-10年前の調査結果との比較-
光井 朱美(ミツイ アケミ) 金辻 治美(カナツジ ハルミ) 大槻 眞美子(オオツキ マミコ)
西田 秀樹(ニシダ ヒデキ) 繁田 正子(シゲタ マサコ) 青木 篤子(アオキ アツコ)

目的 喫煙による健康被害は,喫煙開始年齢が低いほど大きくなるため,未成年者の喫煙防止対策は重要な課題であり,平成12年度に実施した調査を元に,10年を経過した現在の未成年の喫煙実態を把握することで,これまで取り組んできた未成年者に対する喫煙防止対策の検証と,さらなる対策の推進を図る基礎資料とすることを目的とした。

方法 管内にある3つの高等学校の生徒を対象に自記式無記名のアンケート調査を実施し,合計2,464人(回答率92.4%)から回答を得た。調査内容は,平成12年度の調査内容を基本とし,22年度は一部変更し,分析については平成12年度の調査結果と比較検討した。

結果 平成22年度調査は10年前と比較して,高校生全体の非喫煙者が,51.2%から81.9%に増加し,喫煙者が著しく減少した。

結論 喫煙者の著しい減少には,社会的な関心の高まりや公共施設等の禁煙化だけでなく,学校教育を中心とした未成年者喫煙防止対策等も影響している1つとして考えられた。

キーワード アンケート調査,高校生,防煙教育,未成年の喫煙実態

 

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第59巻第5号 2012年5月

家族構成の変動と家族関係が子ども虐待へ与える影響

-母親の家族内における立場に注目して-
中澤 香織(ナカザワ カオリ)

目的 子どもの虐待は,経済的困窮をはじめ親や子どもの障害や疾病,家族の関係など様々な困難が複合的に重なり合う問題であり,介入と防止の取り組みには家族の状況と背景にある社会を捉える視点が必要である。本研究は,家族構成の変動と家族構成員間の関係が子ども虐待へ与える影響を考察するため,家族類型による虐待の様相を捉えることを目的とする。

方法 調査は平成15年度に北海道内すべての児童相談所において受理された虐待相談件数のうち,5歳,10歳,14・15歳の129例を対象とし,各児童相談所を訪問した研究班メンバーが児童票から必要事項を転記するという方法で行い,個人情報保護が可能な形に整理できた119例を分析した。

結果 家族類型による虐待種別・虐待者の違いに家族の関係が表れていた。ステップファミリーでは継父による身体的虐待(45.8%)と性的虐待(20.8%)が多かった。実父母家族では実父による身体的虐待(21.2%)と実母によるネグレクト(33.3%)が多かった。母子家族では実母によるネグレクト(59.2%)が多かった。家族類型ごとの虐待の特徴には,母親の家族内における立場の違い,継父母と継子の関係形成の困難さ,夫婦関係における不均衡な力関係などの影響がみられた。

結論 虐待など家族内で生起する問題に関して家族の機能の低下が指摘されるが,家族構成員相互の関係に注目する必要がある。虐待がそれぞれの家族にある不均衡な力関係の下に起きていることを捉えていくことが介入と支援に不可欠である。

キーワード 子ども虐待,家族構成員の力関係,母親,社会経済的問題

 

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第59巻第5号 2012年5月

高齢者のボランティア活動および
友人・近隣援助活動に関連する要因

岡本 秀明(オカモト ヒデアキ)

目的 元気な高齢者には,地域において支える側としての活躍や地域の絆の再生に寄与してもらうことが期待されている。本研究では,高齢者のボランティア活動と友人・近隣援助活動それぞれに関連する要因を明らかにすることを目的とした。ボランティア活動の関連要因の検討については,2006年に報告した大阪調査の追試を兼ねた。

方法 千葉県市川市の高齢者(65~84歳)1,400人を無作為抽出し,自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。有効回答数755人のうち,主要項目に欠損値のない711人を分析対象とした。分析は,ボランティア活動,友人・近隣援助活動それぞれを従属変数とした2項ロジスティック回帰分析を行った。独立変数は,「家族・経済・他」「健康」「暮らし方の志向性」「技術や経験」「社会・環境的状況」の5領域を構成する計17変数,統制変数は,年齢と性別とした。

結果 ボランティア活動をしている高齢者は,IADLの得点が高い(p<0.05),地域に貢献する活動をしたい(p<0.001),中年期にボランティア経験がある(p<0.001),親しい友人や仲間の数が多い(p<0.05),ボランティア活動情報の認知の程度が高い(p<0.001)という特性であった。友人・近隣援助活動をしている高齢者は,地域に貢献する活動をしたい(p<0.01),若い世代と交流したい(p<0.01),親しい友人や仲間の数が多い(p<0.05)という特性を有していた。

結論 都市部における高齢者のボランティア活動の促進要因として重要なものは,本研究と大阪調査の結果で一致して示された,健康の良好さ,地域に貢献する活動をしたい志向性がある,中年期のボランティア経験がある,親しい友人や仲間の数が多い,ボランティア活動情報の認知の程度が高いことであることが明らかになった。地域に貢献する活動をしたい志向性がある,親しい友人や仲間の数が多いことは,友人・近隣援助活動の促進要因でもあった。元気な高齢者が,貢献活動により地域で支える側として活躍が活発になるには,示されたこれらの促進要因をより効果的に支える取り組みをしていくことが求められる。

キーワード 高齢者,ボランティア活動,貢献活動,社会活動,プロダクティブ・エイジング

 

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第59巻第5号 2012年5月

高校福祉科進学動機と介護・援助に関する意識調査

佐藤 大輔(サトウ ダイスケ)

目的 介護福祉士養成を行う高校福祉科の生徒と,対照群として総合高校の生徒の高校入学以前における介護経験や環境を比較し,介護や援助に対する意識の違いを検討し,高校福祉科の生徒が,高校から介護の道を志した関連要因を明らかにする。

方法 高校福祉科(福祉科群,n=136)と総合高校(対照群,n=260)において,2008年12月~2009年2月に質問紙調査を行った(有効回答割合:福祉科群,97.1%:対照群,95.0%)。質問紙の項目は,基本属性として,学年,性別,同居している家族構成のほか,高校入学以前の介護福祉施設訪問経験と介護実施経験,家族や親族内の医療・介護従事者の有無を尋ねた。さらに,介護のやりがいについては4件法で,既存の援助規範意識尺度は5件法で回答を求めた。福祉科群と対照群の比較は,基本属性をχ2検定,介護のやりがいの得点と援助規範意識尺度得点の比較をt検定とU検定を用いて行い,有意水準を5%とした。

結果 福祉科群では,対照群と比較して,祖父(20.5%),または祖母(34.1%)と同居している者が有意に多く,高校入学以前の介護福祉施設訪問経験がある者(70.5%)が有意に多かった。また,福祉科群では家族や親族に医療・介護従事者のいる者(50.8%)が有意に多かった。介護のやりがいを尋ねた質問の平均得点では,福祉科群(3.62±0.60,n=130)が,対照群(3.26±0.76,n=232)よりも有意に高かった。また,属性別に群間比較を行った結果,男女では違いがみられた。援助規範意識の両群間の平均得点の比較では,自己犠牲規範意識において,福祉科群(3.53±0.49,n=122)が,対照群(3.31±0.48,n=240)よりも有意に高く,弱者救済規範意識でも,福祉科群(3.58±0.42,n=127)が,対照群(3.45±0.47,n=239)よりも有意に高かった。

結論 高校福祉科生徒の特徴から,環境を整えれば若者の介護に対する意識が高まる可能性がある。また,高校福祉科の女子においては,高校入学以前の経験や環境にかかわらず,自己犠牲規範意識が高い傾向があり,介護福祉関連職への適性の高さがうかがえた。

キーワード 高校福祉科,介護のやりがい,援助規範意識

 

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第59巻第5号 2012年5月

介護分野におけるインシデント・アクシデント・
レベルの概念設計と検証

柿沼 倫弘(カキヌマ トモヒロ) 関田 康慶(セキタ ヤスヨシ) 柿沼 利弘(カキヌマ トシヒロ)

目的 介護分野の安全管理の基本情報となるインシデント・アクシデントの定義の現状を明らかにするとともに,インシデント・アクシデント・レベル概念を定義し,その妥当性を検証する。

方法 介護分野,医療分野の関連文献等のインシデント・アクシデントに関する定義やレベルを参考に,筆者らの議論に基づいたレベル概念を設計した。その妥当性を検証するために,北海道・東北地方の介護老人福祉施設906施設と介護老人保健施設537施設を対象にWEBアンケート調査(筆者らの研究グループが開発)を実施した。本調査では,筆者らが提示したインシデント・アクシデント・レベル概念の妥当性を検証した。施設長が想定しているレベルとの類似性を妥当性の指標とした。また,報告事例を用いたレベルと報告内容のあり方等について検証した。具体的な事例を3つ挙げ,レベル概念の設計指針充足度に応じてレベルの分類を求めた。事例1と事例2は,筆者らの作成したレベルの設計指針を満たし,事例3は十分に満たさないものとした。レベル分類比較では,両施設が同じ分類を行っているか否かについて5%の有意水準でχ2検定を試みた。

結果 WEBアンケート調査回収率は,11.2%(162施設)であった。インシデント・アクシデント・レベルを設定する施設のうち,約9割の施設が筆者らの提示したレベル概念と類似していることが判明した。レベル分類では,事例1で約8割,事例2で約9割とほぼ想定どおりの分類がみられたが,事例3では分類の判断が大幅に分かれた。施設間のレベル分類比較でのχ2検定の結果,経過観察が必要になった場合に介護老人福祉施設のほうが有意に介護老人保健施設より重症に捉える傾向がみられた。

結論 介護分野のインシデント・アクシデントの定義は数多くあるが,統一された定義のないことが判明した。筆者らの提示したレベル概念の定義は,多くの施設と類似していたので,受け入れられる可能性が高い。レベル概念の定義には,利用者の状態や経過事実等を含め,報告内容と対応していることが重要である。レベルの分類では,経過観察を行った場合のレベル分類に有意な差がみられたので,施設種別ごとにレベルの分類が異なる場合があることに注意する必要がある。しかし,インシデント・アクシデント・レベルは,報告内容を対応させることで全体的に高い分類力がみられるので,ある程度標準化できる可能性が示唆された。

キーワード インシデント・アクシデント・レベル,レベル分類,標準化,情報共有,予防

 

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第59巻第6号 2012年6月

生活機能評価未受診である特定高齢者候補者の特徴と
二次予防事業の課題

南部 泰士(ナンブ ヒロヒト) 越後谷 綾子(エチゴヤ アヤコ) 柿崎 明子(カキザキ アキコ)
桐原 優子(キリハラ ユウコ) 月澤 恵子(ツキサワ ケイコ) 今野谷 美名子(イマノヤ ミナコ)
高橋 俊明(タカハシ トシアキ)

目的 本研究は,医療機関で生活機能評価を行い,特定高齢者候補者とされた人の生活状態,介護予防に対する認識を明らかにし,二次予防事業,対象者把握事業における課題を考察することを目的とした。

方法 秋田県A市で,医療機関方式により,特定高齢者候補者とされた87人の,①基本チェックリスト,②家族・地域との関わりに関する項目(世帯構成,家族との関係,近所の人と関わる場所,外出時の移動手段),③介護予防に関する項目(介護について相談する人,介護について相談する公的機関,介護予防教室の認識,介護予防教室に参加したいと思わない理由),④健康のために行っていること,⑤かかりつけ医に関する項目(かかりつけ医の主たる診療科)について,面接で調査し,特定高齢者候補者の特徴を分析した。

結果 医療機関方式により特定高齢者候補者とされた人は,健診と同時に行われる生活機能評価の受診者に比べ,男女共に平均年齢が高かった。家族・地域との関わりに関する項目で,「近所の人との関わりがない」と回答した人は31.0%,介護予防に関する項目で,「介護予防教室が行われていることを知らない」と回答した人は64.4%,「介護予防教室に参加したいと思わない」と回答した人は81.6%であり,高い割合を占めていた。かかりつけ医を有している人は87.4%であった。

結論 特定高齢者候補者の介護予防に対する考え方は多様であった。特定高齢者候補者を早期に介護予防事業に促すためには,家族との関係性や生活背景等の社会的状態,身体の状態,趣味等を総合的に評価し,二次予防事業を提供する必要がある。地域の民生委員,地域支援病院や診療所等の医療機関,地域包括支援センターの関係職種がより連携を強め,特定高齢者を早期に,より多く発見できるような,地域ケアシステムの検討が急務であると考えられた。

キーワード 介護予防,二次予防事業,対象者把握事業,生活機能評価

 

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第59巻第6号 2012年6月

全国の地域包括支援センターにおける
災害時支援と防災・減災に関する調査

田原 美香(タハラ ミカ) 北川 慶子(キタガワ ケイコ) 外尾 一則(ホカオ カズノリ)
新地 浩一(シンチ コウイチ) 瀧 健治(タキ ケンジ) 高山 忠雄(タカヤマ タダオ)

目的 本報告は,地域包括支援センターに対する防災と災害時要援護者の支援に関する全国調査から,自然災害時の地域包括支援センターにおける災害時要援護者に対する支援機能の現状把握を目的とした。

方法 全国4,209地域包括支援センターに対し,被災と防災・減災に関する質問紙調査を実施し,1,338件の有効回答(回収率31.8%)を得た。調査票は郵送し,調査期間は2010年12月1日から2011年2月28日まで3カ月間の留め置き法とした。

結果 地域包括支援センター職員の防災意識は「やや低い(50.3%)」が最も多く,次いで「やや高い(26.5%)」となり「高い(6.2%)」が最も少なかった。被災経験のある地域包括支援センターが災害復旧時に行った対応は「被災者の避難先の確認(81.7%)」「被災者の体調把握(74.4%)」「被災者の自宅訪問(64.6%)」の順に多く,「ボランティア等への被災高齢者のニーズ情報提供(23.2%)」が最も少なかった。また,災害時要援護者への支援準備ができているのは,「職員の情報連絡体制の整備(87.5%)」「災害時の組織体制の確立(51.9%)」の順に多く,「災害時記録表の作成(11.0%)」「関係機関等の災害時連絡先名簿の作成(21.6%)」の順に少なかった。防災意識と災害時要援護者への支援準備との関連をみると,すべての項目で準備をしていると回答したセンターの方が防災意識の平均スコアが有意に高かった。

結論 地域包括支援センターの災害時支援は,被災高齢者への直接的支援が実施された割合が高く,地域包括支援センター内部の連絡体制も整備されていた。他方,地域の要介護高齢者情報の把握や消防,医療・保健・福祉等関連諸施設・機関との連携等,地域包括支援センターに最も期待し求められている被災者と支援をつなぐ差配(マネジメント)機関としての準備不足が明らかになった。背景には,地域包括支援センター職員の防災意識が低いという状況があり,防災意識の低さが被災者支援の準備不足の一因となっていることが示唆される。

キーワード 自然災害,地域包括支援センター,災害時要援護者,高齢者の避難支援機能

 

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第59巻第6号 2012年6月

検疫所職員の職業性ストレスおよび
そのストレス反応に関する研究

中村 奈緒美(ナカムラ ナオミ) 菅原 琢磨(スガハラ タクマ) 大山 卓昭(オオヤマ タカアキ)
岡部 信彦(オカベ ノブヒコ)

目的 国内外の社会状況や世界の感染症流行が年々大きく変化する中,検疫所業務はその変化への迅速な対応が求められる。また,業務には法律や医学など専門的な知識も必要であり,職員への負担はますます多様化していくと考えられる。本研究では検疫所職員が通常の職場生活で感じている職業性ストレスの要因や,そのストレスによって起こりうる精神的,身体的反応について調査し,検疫所職員の職業性ストレス対策を考察することを目的とした。

方法 わが国の全検疫所職員(約860人)を対象に自記式アンケートによる悉皆調査を行った。調査票1では「個人属性」「家族構成」「主に関わっている部門」「勤務年数」「現在所属する職場の環境」に関して質問した。調査票2では労働者のストレス測定のために労働省委託研究のストレス測定研究班により開発された「職業性ストレス簡易調査票」を用いた。これは,ストレスの原因となる因子やストレスによって起こる心身の反応,ストレスへの修飾要因などを評価することができる。調査結果の解析にはMann-Whitney U(MWU)検定,Kruskal Wallis(KW)検定,共分散構造分析(Multiple Indicator Multiple Cause Model:MIMICモデル)を用いた。

結果 回答率は約7割(608人)であり,回答者の属性や職場環境,勤務条件は大きく異なっていた。ストレス状態には「職場の対人関係」をはじめ,「仕事の量的負担」「仕事の質的負担」「仕事のコントロール度の低さ」「仕事の適性度の低さ」のいずれも有意に関連していた。また職場の上司,同僚,配偶者,家族,友人などからのサポートがストレス軽減に関連することが示唆された。

結論 検疫所職員においても職業性ストレスには職場の対人関係などが影響する一方で,職場のみならず家族や友人などのサポートがストレス軽減につながることが明らかになった。検疫所職員のストレス軽減の取り組みとして,職場内での良好な人間関係を構築することが重要であると考えられた。

キーワード 職業性ストレス,ストレッサー,ストレス反応,検疫所職員,職業性ストレス簡易調査票

 

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第59巻第6号 2012年6月

日韓中における就学前児の父親の
育児関連Daily Hasslesとマルトリートメントの関係

朴 志先(パク ジソン) 小山 嘉紀(コヤマ ヨシノリ) 近藤 理恵(コンドウ リエ)
金 貞淑(キム ジョンスク) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 本研究は,Hillsonらのマルトリートメントの発生プロセスモデルに基づき,日韓中における就学前児の父親を対象に,育児関連Daily Hassles(DH)の経験頻度および育児ストレス強度とマルトリートメントとの関係を明らかにすることを目的とした。

方法 本研究の対象は,日本,韓国,中国の保育所を利用している世帯の父親とした(日本:K県の保育所2カ所500人,韓国:S市,C市,Y市内の保育所15カ所1,250人,中国:J省,Z省の保育所8カ所1,500人)。本研究では,「育児関連DHの経験頻度(潜在的ストレッサー)が,それらの経験に対する一次評価(ストレス強度)を介して,子どもに対するマルトリートメントの実施頻度に影響を与える」といった因果関係モデルを仮定し,構造方程式モデリングにより,前記モデルのデータへの適合性を検討した。

結果 因果関係モデルは3カ国いずれもデータに適合していた。具体的には,3カ国において「対応が求められる児の行動(頻度)」は「対応が求められる児の行動(強度)」を介して「心理的虐待」の実施頻度に影響しており,また「育児タスク(強度)」は,韓国では,「身体的虐待」に,中国では「ネグレクト」に有意な影響を与えていたが,日本ではマルトリートメントに有意な関連性がみられないという知見を得た。

結論 本研究では,Hillsonらが提起しているマルトリートメントの発生プロセスモデルが支持された。特に3カ国の共通点として,対応が求められる児の行動に対する否定的評価が心理的虐待を促進する傾向にあり,子どもの発達や行動特性に関する父親の無理解と適切な養育方法の情報欠如が関係していることが推察された。また,相違点として,父親が育児タスクについて否定的に評価した場合,韓国では対応が求められる児に対する身体的虐待を,中国ではネグレクトを促進する傾向にあったが,日本ではマルトリートメントの関連性は見いだせなかった。韓国の場合,家父長的家族制度による子どもの訓育のひとつとして暴力的な行動に表出され,さらに日本と韓国に比べ父親の育児参加頻度が高い中国では,育児から離れ,自身のネガティブな感情を軽減しようとしている結果ではないかと推察された。なお日本では,父親の育児参加への期待は高まっていても,長時間労働により子どもと積極的に関わる時間が減少し,ふたつの変数間の関連性がみられなかったのではないかと推察された。こうした知見を総合すると,子どもに対する父親のマルトリートメント防止に向けてより効果的な対策を開発していくには,マルトリートメントの発生の背景を考慮すべきものといえよう。

キーワード 父親,マルトリートメント,育児ストレス,東アジア

 

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第59巻第6号 2012年6月

3歳児の睡眠時間がその後の肥満に与える影響の縦断的検討

高橋 彩紗(タカハシ アヤサ) 鈴木 孝太(スズキ コウタ) 佐藤 美理(サトウ ミリ)
山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ) 

目的 近年,日本において肥満傾向児の割合は高く,そのリスクファクターとして食事や運動,睡眠時間などの生活習慣が注目されている。このうち睡眠時間に関しては,多くの先行研究において横断的に検討されているが,縦断的な研究は少ない。本研究では,幼児期の睡眠時間が学童期における肥満に与える影響を明らかにすることを目的とし,縦断データを用いて3歳時の睡眠時間が9~10歳時の肥満に与える影響を検討した。

方法 1991年4月1日から2000年3月31日までに山梨県甲州市(旧塩山市)で出生した児のうち3歳児健診時に肥満ではなく,その後,甲州市内の小学校において小学校4年生(9~10歳)のときに身体測定を受けた者を解析対象者とした。睡眠時間は,3歳児健診時に母親が記入した調査票における児の就寝時刻と起床時刻から算出した。肥満の指標には,3歳児健診および小学校4年生の身体測定データから算出したBody Mass Index(BMI)を用いて,成人の肥満(BMI≧25)に相当する国際的な小児肥満の基準によって判定した。3歳時の睡眠時間と9~10歳時の肥満との関係について,χ2検定および多重ロジスティックモデルによる多変量解析を行った。

結果 期間内に出生した児は2,083人であり,このうち肥満でなかった児は1,960人(94.1%)であった。その児のうち,9~10歳時の身体測定データが存在した児は1,541人(追跡率74.0%)であった。性別,3歳児健診時アンケート調査における食事回数,テレビ視聴時間で調整した結果,3歳時の睡眠時間が9時間の児に比べて,睡眠時間が11時間以上の児は肥満になるリスクが1.69倍(95%信頼区間1.13-2.54)と有意に高かった。一方,3歳時の睡眠時間が9時間未満の児は,肥満になりやすい傾向を認めた(オッズ比1.74(95%信頼区間0.87-3.46))。

結論 本研究では幼児期(3歳時)の睡眠がその後の肥満に及ぼす影響を縦断的に検討し,長い睡眠時間はその後の肥満のリスクとなることが示された。幼児期の睡眠習慣を含む生活習慣が,その後の肥満に対して与える影響に関しては,今後もさらなる検討が必要である。

キーワード 3歳児,9~10歳児,睡眠時間,肥満,過体重,コホート研究

 

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第59巻第6号 2012年6月

小学校高学年児童の
1年間におけるストレス対処力(SOC)の変動

朴峠 周子(ホウトウゲ シュウコ) 武田 文(タケダ フミ) 坂野 純子(サカノ ジュンコ)
戸ヶ里 泰典(トガリ タイスケ) 山崎 喜比古(ヤマザキ ヨシヒコ) 門間 貴史(モンマ タカフミ)
浅沼 徹(アサヌマ トオル) 木田 春代(キダ ハルヨ)

目的 精神健康の維持・増進にはストレス対処力(Sense of Coherence:SOC)が関与するが,精神健康問題が多発する小学校高学年期におけるSOCの動静については,これまでほとんど明らかにされていない。そこで本研究では,小学校高学年児童の個人レベルでのSOCについて,1年間の学期ごとの変動パターンを明らかにする。

方法 神奈川県内の近郊にある公立A小学校に通う4~6年生全児童403名を対象とし,属性,SOCに関する無記名自記式の調査票を用いて,1年間の縦断調査を実施した。各学期(全3回)の調査への回答が完全であった303名について,各学期のSOC得点を高群と低群に2群化し,1学期時点をベースラインとして,1・2・3学期の高低2群を掛けあわせた8つのSOCレベル変動パターンを作成した。そして,変動パターンと属性との関連を検討し,各変動パターンにおける学期ごとのSOC得点を比較した。

結果 8つのSOCレベル変動パターンに該当する児童数の内訳は,ベースライン高群4パターンについては,[高-高-高]群96名,[高-低-高]群22名,[高-高-低]群21名,[高-低-低]群23名,ベースライン低群4パターンについては,[低-高-高]群16名,[低-低-高]群18名,[低-高-低]群20名,[低-低-低]群87名であり,これらの変動と学年・性別との関連はみられなかった。各変動パターンのSOC得点は,[高-高-高]群では3学期が1学期よりも有意に高かったが(p<0.05),[低-低-低]群では学期間の有意差がなかった。その他6パターンではいずれも,高群に該当する学期が低群に該当する学期よりも有意に高かった(p<0.001)。

結論 小学校4~6年生児童303名の1・2・3学期におけるストレス対処力の変動について検討したところ,6割の児童はSOCレベルが1学期から3学期を通して安定していた。高レベルを維持している児童,低レベルを維持している児童が各3割あり,前者では1学期に比べて3学期のレベルがさらに上昇していた。残る4割の児童は2学期・3学期のどこかでSOCレベルが変動する6パターンのいずれかに該当し,その内訳はほぼ同割合であった。このようなストレス対処力の変動は,学年と性別にかかわらず小学校高学年児童全般に認められるものであった。

キーワード ストレス対処力(Sense of Coherence:SOC),児童用SOCスケール日本語版,小学校高学年児童,縦断調査

 

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第59巻第7号 2012年7月

自殺率とインターネットにおける検索エンジン利用の関連

-医療・社会・経済・家族関連語を利用した検討-
末木 新(スエキ ハジメ)

目的 わが国における自殺のリスク・ファクターに関する検索データ(医療・社会・経済・家族等含む)および自殺率を用いて,自殺率の先行指標として機能可能な検索語を明らかにする。

方法 自殺のリスク・ファクターに関する検索データは,Google Insights for Searchを利用して収集した。自殺率には,厚生労働省の人口動態統計を利用した。調査対象となった46の検索語の検索ボリュームについて,それぞれ自殺率との相互相関を算出し,時系列的関連を検討した。

結果 検索を先行させた場合(-3カ月<ラグ<-1カ月)においては,「酒」「失業」「社会福祉」「アレルギー」の4語が弱~中程度の正の相関を示しており(0.25<r<0.47),「うつ病」「ストレス」「不眠」「睡眠薬」「抗うつ薬」「精神科」「喘息」「頭痛」「結婚」「完全自殺マニュアル」の10語が弱~中程度の負の相関を示していた(-0.53<r<-0.25)。

結論 社会・経済関連語を中心に,いくつかの検索語の検索ボリュームが自殺率の先行指標となることが示唆された。しかし,算出された結果の中には,海外において実施された先行研究の知見と相反する関連を示しているもの,結果の解釈が難しいものも含まれていた。分析データの年数を長くしてより一般化可能性の高い結果を得ること,検索行動の文化普遍性と日本語における固有性に焦点を当てた検討が必要になると考えられた。

キーワード 自殺予防,インターネット,情報疫学,検索エンジン,相互相関

 

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第59巻第7号 2012年7月

精神保健福祉業務担当の保健所保健師の
精神保健福祉業務についての認識と能力の自己評価

-精神保健福祉業務担当年数3群別の比較-
池上 由美子(イケガミ ユミコ) 後閑 容子(ゴカン ヨウコ) 石原 多佳子(イシハラ タカコ)
纐纈 朋弥(コウケツ トモミ)

目的 精神保健福祉業務を担当する保健所保健師における,担当業務としての認識と,それらの業務に対する遂行能力の自己評価について基礎的なデータを得る。

方法 全国の都道府県立保健所とその支所418カ所の精神保健福祉業務を主に担当する保健師442人に無記名の自記式質問紙調査票を配布した。142人から回答があり(回収率32.1%),140人を分析対象とした。精神保健福祉10業務48項目に対する担当業務としての認識を「全くそう思わない」~「とてもそう思う」の4段階で,遂行能力の自己評価は「全くできない」~「できると思う」の4段階で調査し,精神保健福祉業務担当年数10年以下,11~20年,21年以上の3群に分類して集計した。

結果 担当業務として「とてもそう思う」の回答割合が高かった上位2項目は,10年以下の群では,問題が複雑で処遇困難なケースの相談と医師や社会福祉関係等の行政機関,医療機関等の関係機関との連携,11~20年の群では,問題が複雑で処遇困難なケースの相談と管内の精神保健福祉の実態把握,21年以上の群は,精神障害に対する正しい知識の普及と記録業務だった。「とてもそう思う」の回答割合が低かった下位2項目には,3群に共通してボランティア団体の組織育成があった。担当年数10年以下の群は,精神保健福祉10業務48項目のうち45項目で「できると思う」の回答割合が50%未満で,11~20年の群,21年以上の群に比べ遂行能力の自己評価が低い項目が多かった。問題が複雑で処遇困難なケースの相談は,11~20年の群と21年以上の群では,「できると思う」が50%以上あったが,10年以下の群は22.3%だった。

結論 保健師の担当業務としての認識は,個別事例の相談から管内の実態把握,普及活動や管理を含めた精神保健福祉活動へと拡大していくと考えられる。また,担当年数10年以下の群では,他の2群に比べ精神保健福祉業務に対する能力の自己評価が低く,業務を遂行する上で困難な者が多いと考えられ,専門的能力向上が重要である。

キーワード 保健所保健師,精神保健福祉業務,担当業務の認識,遂行能力の自己評価

 

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第59巻第7号 2012年7月

個別化助言を自動化した
非対面行動変容プログラムによる特定保健指導の効果

足達 淑子(アダチ ヨシコ) 田中 みのり(タナカ ミノリ) 石野 祐三子(イシノ ユミコ)
伊藤 恵子(イトウ ケイコ) 村田 美加(ムラタ ミカ) 宮腰 真紀子(ミヤコシ マキコ)
藤崎 章好(フジサキ アキヨシ) 佐藤 千史(サトウ チフミ)

目的 多数の指導者が大規模母集団に介入する特定保健指導においては,補助手段として標準化された行動変容ツールを活用すると効率的であると考えられる。その観点から,個別化助言を自動化した非対面行動変容プログラムによる保健指導の効果を検討した。

方法 某企業で特定保健指導の継続支援に該当した男性を健診時期により群別し,2008年5~10月受診者176名は個別化助言を提供するコンピュータシステム「健康達人Pro」を用いて指導したKTPP群とし,2008年1~4月受診者から年齢マッチングにより選んだ152名を対照群として,1年後の健診値を比較した。両群とも健診の1~2カ月後に健診結果,助言および一般情報を提供し,約5カ月後に個別面接を行った。その後,KTPP群は2回の測定会と6回の個別化助言を,対照群は通信指導と個別面接を各1回ずつ受けた。

結果 ベースライン時(2008年度)において,KTPP群と対照群の年齢,就労部門,支援レベル,喫煙状況の比率に有意差は認めず,健診値も総コレステロール値を除き有意差はなかった。KTPP群は健診から面接までに,1㎏体重が増加した。1年後,体重,BMI,中性脂肪,LDLコレステロールとALTの5項目で交互作用があり,KTPP群が対照群より大きく低下し,初期体重の3%および4%の減量達成率はKTPP群が高率傾向にあった。群内比較では,KTPP群で体重,BMI,ウエスト周囲長,TG,HDLコレステロール,LDL-C,TC,ALT,γGTPが有意に低下したが,対照群では変化を認めなかった。支援レベルは両群とも改善し,群間の有意差はなかった。

考察 体重と血中脂質,肝機能の改善においてKTPP群の優位性が示唆された。健診から面接までの結果から,健診値のフィードバックと一般情報提供のみの効果は乏しいと思われた。行動変容に必要な個別対応指導を効率よく実施するために,個別化助言を自動化したシステムを活用することは有望である。

キーワード 特定保健指導,個別化助言,情報技術,非対面プログラム,行動変容支援

 

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第59巻第7号 2012年7月

学級閉鎖の有効性に関する研究

-新型インフルエンザ流行時の小学校におけるクラス内欠席者割合と
実施日数より予測される学級閉鎖後の欠席者割合-
山本 駿(ヤマモト シュン) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト) 和田 一郎(ワダ イチロウ)
宇田 晃仁(ウダ アキヒト) 馬 恩博(マ エンボ)

目的 新型インフルエンザ流行時(平成21年),多くの小中高等学校は,学級閉鎖の有効性や適切な実施期間の知見がほとんどない中で,茨城県では実施主体である地方公共団体,県の助言を参考に,感染拡大防止のため学級閉鎖を実施した。本研究の目的は,学級閉鎖が欠席者減少に有効であるか,もし有効であった場合には,どのタイミングで,どの程度の期間実施すると効果が高いかについての知見を得ることである。

方法 対象は茨城県T市の全小学校(37校481クラス)の全クラスおよびその生徒である。各学校の養護教員あてに,質問紙調査(郵送法)を実施した(平成22年7月)。質問項目は,学校名,記入者,平成21年9月1日から12月24日の間の出席簿に基づいた各クラスの生徒数,各日の欠席者数,学級閉鎖の有無,もし学級閉鎖を実施した場合はその期間である。学級閉鎖の有効性は,学級閉鎖実施前後で欠席者数の割合の差をχ2検定で検討した。学級閉鎖をどのタイミングで実施し,どの程度の期間実施すると効果が高いかは,欠席者割合減少差と,学級閉鎖前日の欠席者割合および学級閉鎖実施日数との関連を重回帰分析より検討した。

結果 有効回答は小学校17校(実質的回収割合41.0%)で,この中で学級閉鎖を実施したクラスは,16校116クラス3,384人(のべ数では16校130クラス3,711人)であった。学級閉鎖後に欠席者数が有意に減少し(p<0.001),学級閉鎖前後の欠席者割合減少差に,学級閉鎖実施前日の欠席者割合と学級閉鎖実施期間が,それぞれ有意に関連し(すべてP<0.001,モデルF検定p<0.001,重相関係数0.764),このモデルより学級閉鎖後の欠席者割合を予測できた。例えば欠席者割合が20%で学級閉鎖を6日間実施する(土日含む)と,学級閉鎖後の欠席者割合を10.9%に減少させることが期待できる。欠席者割合が10%程度では学級閉鎖は効果がなく,欠席者を10%程度まで減少させることを基準とすれば,欠席者割合が15%のクラス数は少ないため除くと,学級閉鎖はクラスの20%以上が欠席した時点で開始し,期間を6日以上とするとよい。

結論 新型インフルエンザに対し,感染拡大防止という点で学級閉鎖は有効であった。学級閉鎖実施前日の欠席者割合と,学級閉鎖の実施日数より実施後の欠席者数を予測することが可能であった。学級閉鎖は,少なくとも20%が欠席した時点で開始し期間を6日以上とすれば,欠席者を10%程度まで減少させるという意味で効果があることが示された。

キーワード 新型インフルエンザ,学級閉鎖,欠席者割合,実施日数,有効性,予測

 

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第59巻第7号 2012年7月

5年間の追跡調査による
歯周組織の状態とHbA1cの関連研究

森田 一三(モリタ イチゾウ) 稲垣 幸司(イナガキ コウジ) 中村 文彦(ナカムラ フミヒコ)
野口 俊英(ノグチ トシヒデ) 松原 達昭(マツバラ タツアキ) 吉井 佐織(ヨシイ サオリ)
中垣 晴男(ナカガキ ハルオ) 水野 金一郎(ミズノ キンイチロウ)

目的 歯周組織の状態とHbA1cの上昇の関連を明らかにすることを目的に行った。

方法 1997年12月から2007年4月までの間に名古屋市内にあるA人間ドック施設へ健康診査に訪れた30~69歳の者を追跡対象者とし,健康診査受診から5年後に再度同様の健康診査を受けた者を分析対象者とした。歯周組織検査はCommunity Periodontal Index(CPI:地域歯周疾患指数)を用いて測定した。HbA1cが6.5%(National Glycohemoglobin Standardization Program

:NGSP値)以上と6.2%(NGSP値)以上の2つのカットオフ値を用いてそれぞれ分析を行った。ベースライン時に糖尿病の既往がなく,HbA1cの値が6.5%(NGSP値)未満の者42,861名,または6.2%(NGSP値)未満の者42,127名を追跡対象者とした。ベースライン時のCPIコード群による5年後のHbA1cがカットオフ値以上になることの関連について,二項回帰分析によりベースライン時の年齢,性別,BMI,喫煙状況,飲酒状況を調整した相対危険度および95%信頼区間を求めた。

結果 HbA1cのカットオフ値が6.5%の場合,年齢,性別,BMI,喫煙状況,飲酒状況を調整した後の5年後に,HbA1cの値が6.5%以上になる相対危険度はCPIのコード0(健康な歯肉)に比べコード1(プロービング後の出血がみられる)は2.00(95%信頼区間0.79-5.06),コード2(歯石沈着がある)は2.11(0.93-4.75),コード3(4㎜以上6㎜未満の歯周ポケット)は1.88(0.83-4.26),コード4(6㎜以上の歯周ポケット)は2.35(1.02-5.40)であった。HbA1cのカットオフ値が6.2%の場合,同様の調整をした後の5年後に,HbA1cの値が6.2%以上になる相対危険度はCPIのコード0に比べコード1は2.29(1.21-4.33),コード2は1.96(1.11-3.48),コード3は1.99(1.12-3.53),コード4は2.39(1.33-4.31)であった。

結論 本追跡研究よりCPIによる検査結果がコード0の者に比べ4㎜以上の歯周ポケットがある者や歯肉からの出血,歯石の沈着がある者はHbA1cが上昇することが示唆された。歯周病,糖尿病の相互関係の視点からも,医科と歯科の連携について,政策レベルでの充実が望まれる。

キーワード 血糖値,歯周病,追跡調査,コホート研究,HbA1c,生活習慣

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第59巻第11号 2012年9月

地震災害時および災害後の健康被害について

-阪神淡路大震災を例にとって-
尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ)

目的 阪神淡路大震災時およびその後の健康被害について明らかにする。

方法 文献検索,文献の概要整理。死亡データの解析。

結果 震災による直接死亡という観点では,高齢者が震災弱者といえるが,若年者では,普段の年にはないほどの死亡がみられることもわかり,普段の年の状況(年齢差,性差等)が平滑化される傾向があることがわかった。直接死亡の要因として身体障害者であることも明らかになった。孤独死は中高年の男性の病死が多く,アルコールとの関連の強さも示唆された。間接死亡は,急性心筋梗塞,脳梗塞,肺炎等で認められた。消化性潰瘍の増加も指摘されている。それらの背景には,震災ストレスによる血圧,血液凝固能,血糖コントロールの悪化があり,間接死亡が数カ月から1~2年にわたり増加することの背景になっている。

結論 震災による直接死をみると高齢者や障害者など,震災弱者への対応が重要であることがわかる。震災後の間接死亡には,平常時の社会経済的要因や生活習慣等の疾病関連要因が強く影響する。震災後の2次的健康被害を減らすためにも,これらの知見を生かした,保健活動が今後ますます必要となってくる。

キーワード 震災,死亡,罹患,疫学

 

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第59巻第11号 2012年9月

在宅認知症高齢者の介護・医療サービス利用

-家族介護者が感じる困難・負担感-
中井 康貴(ナカイ ヤスタカ) 中山 慎吾(ナカヤマ シンゴ) 古瀬 徹(フルセ トオル)

目的 在宅認知症高齢者の介護・医療サービス利用において家族介護者が感じる困難や負担感等を明らかにし,満たされていないニーズや社会資源体制の在り方について検討した。

方法 2010年9月時点で介護保険サービスを利用しているA市の在宅認知症高齢者(認知症自立度Ⅱ以上)の主介護者を対象とし,質問紙調査を実施した。同年9~12月の期間に回収された133名の回答について集計・分析を行った。

結果 現在利用している介護保険サービスとして多かったのは「通所リハビリ」と「通所介護」で,それぞれ約4割であった。今後もっと多く利用したい,または新たに利用したいサービスがあると回答した者のうちで,今後利用したいサービスとして最も回答が多かったのは「ショートステイ」で,約7割であった。介護保険サービス利用で感じることとして多かった回答は,「利用料の負担が大きい」(34.6%),「回数(または時間)が足りない」(15.8%)であった。認知症高齢者の外来受診の診療科として最も多かったのは内科,次いで脳神経外科だったが,眼科,皮膚科,整形外科などの比率も高かった。外来受診で感じることとして多かった回答は,「待つのがつらい」(44.4%),「家から病院までの移動に苦労する」(39.8%)であった。認知症となってからの入院のうち「認知症のための入院」は少数で,多くは「認知症以外の病気で入院」であった。入院した際の様子として多かった回答は「入院によって認知症の症状が重くなった」(52.9%),「入院中の付き添いに苦労した」(29.4%)であった。

結論 介護サービス利用に関しては,ショートステイ等のサービスの利便性や柔軟性,経済的負担への配慮の必要性が示唆された。医療サービス利用では,「待ち時間」「病院までの移動」「入院中の付き添い」等が負担の主な要因であることがわかった。この状況を踏まえ,医療・福祉分野・地域等の連携を強化し,地域の独自性を尊重した介護サービスを整備し,家族介護者の介護負担を軽減できる積極的な取り組みが必要である。

キーワード 在宅認知症高齢者,家族介護者,介護保険サービス,外来受診,入院

 

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第59巻第11号 2012年9月

在宅高齢者における健康生活習慣と機能的・構造的統合性の関係

中島 望(ナカシマ ノゾミ) 李 志嬉(イ ジヒ) 桐野 匡史(キリノ マサフミ)
小川﨑 緑(カワサキ ミドリ) 太湯 好子(フトユ ヨシコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 在宅高齢者を対象に,今後の高齢者の健康の維持・増進に対する介入指針を得ることをねらいとして,健康生活習慣と「運動機能」「聴機能」「視機能」「記憶機能」の4要素から構成される健康状態(機能的・構造的統合性)との関係性を明らかにすることを目的とした。

方法 A県B市の10カ所の高齢者大学講座を受講している65歳以上の715人を対象に,無記名の質問紙調査を留め置き法にて実施した(回収率72.0%)。本研究の分析では,基本属性(年齢,性別,家族構成,自覚的健康度),健康生活習慣,機能的・構造的統合性に関する項目を抜粋して使用した。

結果 抜粋項目に欠損値のない319人(有効回答率61.9%)のデータを分析対象とした。まず,健康生活習慣の実施状況をみると,身体的な健康生活習慣の1つである「特別に汗をかくようなスポーツをしていますか」項目を除くすべてにおいて,「現在しているし,始めてから6カ月たっている」とする維持期に属する人が最も多くなっていた。次に,健康生活習慣(7因子二次因子モデル)を独立変数,機能的・構造的統合性(4因子二次因子モデル)を従属変数とした因果関係モデルに性別・年齢を統制変数として加え,モデルのデータに対する適合性と変数間の関連性を検討した結果,機能的・構造的統合性に対して,健康生活習慣(パス係数0.344),年齢(同-0.408),性別(同-0.222)が有意な関連性を示していた。具体的には,健康生活習慣を継続して行っている人ほど,また若年で男性の方が,機能的・構造的統合性(心身機能・身体構造)が良好であることが示された。なお,健康生活習慣,年齢,性別の機能的・構造的統合性に対する説明率は34.3%であった。

結論 健康生活習慣の下位因子へのパス係数に着目すると,精神的・社会的な意味合いをもつ「生活のハリ」「心理的安定」「社会参加」の値が高くなっており,従来着目されてきた「運動習慣」「食生活」よりも健康状態に対して重要な役割を担っていることが示された。また機能的・構造的統合性(心身機能・身体構造)への関係性(パス係数)をみると,健康生活習慣に比して年齢の影響が大きかったがその差は小さいことから,加齢による健康状態の変化(老化)は健康生活習慣を積極的に取り入れることで,その進行を予防できる可能性があることが示唆された。

キーワード 在宅高齢者,健康生活習慣,健康状態

 

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第59巻第11号 2012年9月

介護予防2次予防事業としての市町村の
転倒・骨折予防事業に対する評価の実態に関する全国調査

森岡(寺澤) 典子(モリオカ テラサワ ノリコ) 斎藤 民(サイトウ タミ) 甲斐 一郎(カイ イチロウ)

目的 高齢者における転倒・骨折予防は公衆衛生上重要な課題の1つである。現在,転倒・骨折予防事業は,介護予防事業として多くの市町村にて実施されているが,事業評価の全国的な現状は不明瞭な部分が多い。本研究では,平成20年度に実施された介護予防2次予防事業(旧:特定高齢者施策)としての転倒・骨折予防事業の評価の全国的な実態を明らかにし,課題や支援の在り方を検討した。

方法 全国1,798市町村より単純無作為抽出した1,000市町村における介護予防事業の担当者(保健師,事務職員等の関係職種)を対象に郵送による質問紙調査を実施した。質問内容は,平成20年度の事業実施の状況,評価の状況,必要な支援などであった。

結果 有効回答率は58.7%であった。自治体内で統一した事業を展開していた497市町村のうち,事業評価を実施していたのは450市町村(90.5%)であった。プロセス評価指標についての評価実施割合は,フォローアップ体制の確立が55.3%,計画への住民参加が15.1%であった。アウトプット評価指標では,ほぼ全指標が約8割で評価されていたが,目標値の設定は約4割であった。アウトカム評価指標では,身体機能を示す指標は約8割,転倒数やQOL指標は約3割であった。また,事業の前後での評価が主流であり,追跡測定を実施している市町村は1割弱であった。評価結果の活用方法では,次年度への計画立案が8割と最も高く,活用していない市町村も1割程度みられた。支援が必要な項目として,専門知識(評価手法)が8割以上の市町村で挙げられた。

結論 介護予防2次予防事業としての転倒・骨折予防事業の事業実施および事業評価の実施率が共に高いことが明らかとなった。事業評価における全国的な課題として,プロセス評価におけるフォローアップ体制整備や住民参加の推進,アウトプット評価における目標値の設定,アウトカム評価における追跡測定や総合的な視点からの指標(転倒数やQOL指標)の測定,評価結果の有効活用が挙げられた。課題の解決には,評価手法などの専門的知識の情報提供や人材育成という視点からの支援が望まれる。

キーワード 介護予防事業,転倒予防,評価

 

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第59巻第8号 2012年8月

介護業務における「バーンアウト」改善に向けた調査研究

-特別養護老人ホームの介護職員・施設長に対する調査からみえた課題-
立花 直樹(タチバナ ナオキ) 九十九 綾子(ツクモ アヤコ)

目的 本研究では,第1に介護職員の「ストレス(否定的側面)」と「やりがい(肯定的側面)」に焦点を当てながら,特別養護老人ホームの介護職員の就労が継続可能となる要因について明らかにすることを目的として調査・分析を行った。第2に,介護現場の第一線で活躍する介護職員と労務管理責任者である施設長の考え方などに,どのような差異があるのかを明らかにすることを目的とした。

方法 大阪府社会福祉協議会老人施設部会の承諾と協力を得て,大阪府内の特別養護老人ホームを対象に,無作為層化抽出法を用いて161施設を抽出した。介護職員644人(各施設4人)と161人の施設長を対象に,「基本項目(性別,勤務年数,取得資格等)」「バーンアウト尺度」「QWLSCL測定尺度」等で構成される質問紙調査を用いた郵送調査を実施した。分析はχ2検定並びにt検定を行い,要因が複数予測されたものについては,要因間の分散分析を行い,一元配置分散分析を実施した場合はF統計量を用いた多重比較を併用した。

結果 介護職員451人(回収率:70.0%),施設長75人(回収率:46.6%)からの回答があった。介護職員では,男性よりも女性にバーンアウト傾向がみられた(t=-2.78,p<0.01)。2要因の分散分析を行った結果,「職場内における相談相手の有無(F=3.12,p<0.05)」「性別と職場外における相談相手の有無(性別:F=17.60,p<0.001,職場外における相談相手の有無:F=11.48,p<0.001)」「職員間の人間関係の良否(F=9.50,p<0.01)」「同僚との人間関係の良否(F=11.99,p<0.01)」「性別と上司との人間関係の良否(性別:F=8.60,p<0.01,上司との人間関係:F=25.50,p<0.001)」「利用者との人間関係の良否(F=9.23,p<0.01)」「仕事のやりがいの有無(F=11.83,p<0.01)」のそれぞれに主効果がみられた。「介護職が仕事を長く継続するために最も大切なこと」を選択する回答では,介護職員と施設長の意識のズレがみられた。

結論 介護職員が,継続して就労できる環境を整備するには,「様々な人間関係に配慮した支援システム」「満足できる所得保障と働きがいのある仕組み」の構築が必要であるといえる。そのために,施設を統括しマネジメントを担う理事長や施設長が,介護職員との考えや意識のズレを放置せずに,日頃より介護職員のニーズや意見をくみ取り,話し合い,職場環境や労働条件,さらには福利厚生システムとして取り入れていく必要性がある。

キーワード 特別養護老人ホーム,介護職員,バーンアウト,やりがい

 

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第59巻第8号 2012年8月

新興・再興インフルエンザ流行時の学校における
社会防衛的見地からの感染制御対策

-小学校,中学校,高等学校へのアンケート調査を実施して-
三宅 眞理(ミヤケ マリ) 中谷 逸作(ナカタニ イッサク) 三島 伸介(ミシマ ノブユキ)
神田 靖士(カンダ セイジ) 西山 利正(ニシヤマ トシマサ)

目的 2009年4月にメキシコから始まった新型インフルエンザ(A型H1N1亜型)の流行は同年5月兵庫県神戸市内の複数の高等学校を中心とした流行として輸入が顕性化し全国に拡大した。集団発生の感染動向とその対策について大規模任意アンケート調査を行い,その結果から今後の感染症対策に資することを目的とする。

方法 対象は東京都,神奈川県,滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県の6都道府県にある公立高等学校,中学校,小学校(計7,384校)とし,それぞれの学校長宛に「学校とインフルエンザに関するアンケート」を送付し,記入して郵送での返信を求めた。実施期間は2010年1月28日~2月6日である。

結果 アンケートの回収の総数は1,385通,回収割合は18.8%で,2009年5月1日~12月31日の間にインフルエンザにかかった生徒(もしくは児童)の1校においての最大罹患数は689名であった。各校における罹患者の割合別にみると,30%以上である学校は小学校590校(85%),中学校328校(69%)で最も多く,高等学校では罹患者の割合が20~29%であるのが115校(54%)で最も多かった。また,インフルエンザによる臨時休業を決定する際に最も重視するものについて質問したところ,「教育委員会の指針」を重視している学校が最も多く,次に「学校医の意見」「養護教諭の意見」を重視していることが明らかになった。学校においては気軽に相談できる機関や専門的知識,指導,連携,対応マニュアルの構築の希望が多く,学校への保健所職員等の専門家による感染症の適切な指導,発生時の対応,保護者への説明,研修会などの実施が求められていた。

結論 本調査の結果,85%の学校が社会防衛のために学校が担う役割があると回答しており,学校防衛の意識が高かった。感染症の予防や発生時の対応は学校などの集団では早期に的確な対策が不可欠で,子どもの健康管理,地域や家庭への指導など発生時には業務の負担が増大し,さらに多岐にわたる配慮が必要である。したがって,学校職員だけでの対応でなく地域全体での取り組みが必要となる。学校防衛と社会防衛を連携する感染症ネットワークの構築には,保健所と学校の交流会や講習会,対策委員会などの企画から感染症対応マニュアル化をはかり,その地域でのきめ細かいネットワークを発展させることが必要である。

キーワード 新型インフルエンザ,A型H1N1亜型,学校アンケート調査,情報収集,社会防衛

 

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第59巻第8号 2012年8月

要介護度別にみた在宅脳卒中患者の
介護サービス利用率と関連要因

金子 さゆり(カネコ サユリ) 尾形 倫明(オガタ トモアキ) 金川 仁子(カネカワ マサコ)

目的 在宅脳卒中患者における居宅サービス利用率に関わる要因を要介護度別に明らかにし,今後の介護サービス提供のあり方について検討する。

方法 本研究は,東北,関東甲信越地方にある在宅医療・介護関連の38施設のいずれかを利用している在宅脳卒中患者とその家族,914組を対象に2010年6月から12月までの期間で横断調査を行った。在宅療養者とその家族にはアンケート調査を実施し,在宅療養中の医療および介護サービスの内容についてはカルテや訪問記録,介護保険のサービス利用票などから情報を得た。

結果 要介護度別に居宅サービス利用率とその関連要因を検討した結果,居宅サービスの平均利用率は41.9~55.1%であり,要介護度が軽度(要介護1,2)の場合は,主介護者が配偶者以外において居宅サービス利用率が上がり,また,同居していない場合も居宅サービス利用率が上がることが示された。要介護度が中程度(要介護2,3,4)の場合は,要介護者の認知レベルが悪化するほど居宅サービス利用率が上がり,主介護者の介護負担感が増すほど居宅サービス利用率が上がることが示された。要介護度が重度(要介護4,5)の場合は,通院回数が多くなるほど居宅サービス利用率が上がり,居住地域が市部の場合は郡部に比べてサービス利用率が上がることが示された。

結論 在宅脳卒中患者の居宅サービス利用率とその関連要因は要介護度によって大きく異なっていた。要介護度が軽度もしくは中程度の場合は,家族の介護状況がサービス利用の多寡に影響することが示唆され,家族介護を前提としない要介護状態に応じた介護必要量に見合うケアプランの策定が望まれる。また,要介護度が重度の場合は通院回数と居住地域が居宅サービス利用率へ関連することが示唆され,過疎地域における在宅支援サービスの充実を進めていく必要がある。

キーワード 脳卒中,要介護度,居宅サービス,支給限度基準額,サービス利用率

 

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第59巻第8号 2012年8月

平均寿命の伸長における年齢階級別の寄与について

奥野 浩(オクノ ヒロシ)

目的 1945年以降の平均寿命の伸長について,年齢構造と経年変化について分析し,今後の指針を探求する糸口とする。この手法を使い,長野,青森,沖縄の男性における平均寿命の伸長の特徴を明らかにする。

方法 「完全生命表」(第9回より第20回)と「都道府県生命表」(1965年から2005年)から,5歳ごとの年齢階級に分けたデータを用いた。新たに定義した「改善余地」および「寄与年数」「区間死亡率」を算出し,分析を行った。

結果 平均寿命の伸長について,1970年までは0~4歳の年齢区分における死亡率の改善が一番大きかったが,1970年以降は60歳以上の死亡率の改善による影響が大きい。長野,青森,沖縄の男性について,0~20歳までは大きな差はないが,成年から差が大きい。全国と比べると,長野の男性は多くの年齢区分で「改善余地」の値が小さい。青森県の男性は,20~65歳の年齢区分ですべての年で全国より「改善余地」の値が大きい。沖縄の男性は,1940年以前に生まれた世代では,全国より「改善余地」の値が小さく,それ以後に生まれた世代では,全国より「改善余地」の値が大きい傾向がある。

結論 平均寿命の延びは,現在では70歳以上の年齢における死亡率の改善によって実現されている。長野,青森,沖縄県の男性の平均寿命の差は,成年の健康環境によるものが大きい。

キーワード 平均寿命,寄与年数,区間死亡率,改善余地

 

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第59巻第8号 2012年8月

転倒発生の少ない市町はあるか:AGESプロジェクト

山田 実(ヤマダ ミノル) 松本 大輔(マツモト ダイスケ) 林 尊弘(ハヤシ タカヒロ)
中川 雅貴(ナカガワ マサキ) 鈴木 佳代(スズキ カヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 高齢者の転倒要因には,身体的要因や環境要因等の因子が挙げられているが,地域要因はあまり検証されていない。本研究の目的は身体要因や環境要因で調整してもなお,転倒が少ない市町(地域要因)が存在するのか検証することである。

方法 AGES(愛知老年学的評価研究)プロジェクト2003年のデータを用いた。分析対象は,愛知県知多半島の7つ(A~G)の市町に居住し用いた変数に欠損のない8,943名(72.9±6.0歳)を分析対象とした。過去1年間で2回以上の転倒経験の有無を目的変数とし,A~Gまでの市町ダミー変数を説明変数に,そしてその他の転倒関連個人因子および環境因子を調整変数として投入した多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。

結果 全市町における2回以上の転倒発生率は8.3%(最小8.0%~最大10.1%)であった。ロジスティック回帰分析によって,様々な転倒関連因子で調整した結果,B市町はG市町(レファレンス市町)に比べて有意に転倒発生割合が少なかった(オッズ比=0.673,95%信頼区間:0.474-0.955)。

結論 転倒に関連すると考えられている個人因子や自宅周辺環境,農村・都市など地域類型で調整してもなお,転倒発生オッズ比がリファレンス市町に対して約3割も低い「転倒が少ない市町」が存在した。

キーワード 転倒,市町,高齢者

 

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第59巻第12号 2012年10月

狂犬病予防啓発を目的としたゲーミング・シミュレーション

-子ども向け教育教材「わんわんカルテット」の利用可能性と効果の検討-
西嶋 康浩(ニシジマ ヤスヒロ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 馮 巧蓮(ヒョウ コウレン)
小澤 広輝(オザワ ヒロキ) 城川 美佳(キガワ ミカ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 狂犬病予防の普及啓発を目的として開発されているカードゲーム教材カルテット「わんわんカルテット」の利用可能性と学習効果を検討することとした。

方法 対象者は,2010年4月21日から5月7日まで,研究班のホームページ上で,5歳以上の子どもがいる家族と限定し,ゲームの利用モニター募集を掲載した。保護者が記入する質問紙調査を実施し,質問内容は,参加するすべての子どもの年齢,性別,犬の飼育経験の有無,ゲームの1週間におけるプレイ回数,ゲーム中の子どもの様子と保護者から見たゲームの効果とした。また,自由記載の項目も設け,その内容はKJ法に準じて分析した。手順としては,回答者の記述内容の意味がわかるように最小限の言葉を補い,適切な長さに断片化し,ラベルに転記した。各ラベルの関連性からグループ編成し,そのグループに表札をつけ,各グループの関連性から全体像を図式化した。分析は,開発を中心に関わった研究者の先入観や思い込みを最小限に抑えるため,KJ法分析経験者で職種,性別の異なる立場の共著者3名で行った。表記された内容が示す意味や用語の意図に細心の注意を払いながら,3名の合意が得られるまで分析した。統計的有意水準は5%とした。

結果 モニター参加家族は86家族で,質問紙の返送は82家族(ゲーム参加の子ども197名),回答率95.3%であった。82家族のうち,無回答の3家族を除き,犬を飼った経験があるのは26家族(32.9%)であった。実際のプレイを通じて,子どもの様子にプラスの側面とマイナスの側面があった。プラスの側面では,ゲームに興味をもち,楽しく何度もプレイできていた。マイナスの側面は,興味を示さない,カードの内容を見ない,ルールが難しいであった。プラスの側面からの効果としては,学習効果とコミュニケーション効果の2つが抽出された。

結論 狂犬病予防啓発を目的とした子ども向け教育教材「カルテット」の総合的な評価として,子どもたちに良い,ゲームで学べてよい,人にすすめたい,の3点が抽出され,様々な分野の学習に役に立つ可能性や,より年齢の高い子どもへの教育効果の可能性について指摘された。

キーワード 狂犬病,予防啓発,ゲーミング・シミュレーション,カルテットゲーム,利用可能性

 

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第59巻第12号 2012年10月

障害のある人たちへの身体拘束に関する現状把握と対策

谷口 明広(タニグチ アキヒロ) 武田 康晴(タケダ ヤスハル) 笠原 千絵(カサハラ チエ)

目的 本調査は,多様化している障害者福祉関連事業所において,身体拘束がどの程度行われており,その防止に対しての取り組み状況を明らかにすることを目的とした。「身体拘束」が良いことではないと誰もが知ってはいるが,やむを得ず,拘束を実施している実態を知り,その防止に対する取り組みの実態を把握するために行われた。

方法 この研究は,2010年1月中旬から3月末まで,アンケートの郵送配布による量的調査を実施した。京都府下にある身体障害児・者と知的障害児・者を対象とする195カ所の関連施設へアンケート用紙を配布して,同年3月末までに返信用封筒にて回収した。

結果 身体拘束の有無:25%を超えた項目は「ベルト等で固定」が24ケース,「Y字帯等の使用」が24ケースで,「立ち上りの防止」が4ケースにとどまっている。身体拘束の理由:「本人のため」という理由で身体拘束を行っている項目のうち50%を超えるものは,「立ち上りの防止」が3ケース,「向精神薬の過剰服用」が3ケース,「居室等への隔離」が9ケースの3項目であり,本人のための身体拘束が意外に少ない。身体拘束に係る手続き:「事前説明」および「ケース会議」については「ミトン等の使用」以外は50%を超えているが,「身体拘束の理由」でも「意識なし」が高い割合であった。身体拘束への関与者:「サービス管理責任者」が「柵の使用」9ケースから「ミトン等の使用」8ケースまでの割合で関与しており,「家族」が「ベルト等で固定」62.5%,「Y字帯等の使用」87.5%,「立ち上りの防止」「介護服等の使用」「向精神薬の過剰服用」「居室等への隔離」等が高い割合であった。身体拘束の経緯:「経過観察」についてはすべての項目について約8割以上で実施されており,それ以外で50%を超えているものは,「立ち上りの防止」が「会議で検討」3ケースのほか,「向精神薬の過剰服用」および「居室等への隔離」が「会議で検討」「見直し」でそれぞれ2ケースと7ケース,3ケースと8ケースで50%を超えている。

結論 「身体拘束」とは,対象者(障害のある人たち)の「健康や安全を確保する」ために実施されなければならないし,究極的なところでは「生命を護るために実施される一種の介護行為」と規定できる。介護行為の主体は,あくまでも障害のある人たちであり,彼らの生命を護るために実施されるものである。この原則が壊され,看護・介護者に主体が移り,生命の安全までも脅かすようになったときに「虐待」という言葉に変容するように思われる。「身体拘束」をどのように捉えればよいのかという現場の迷い,これまで当然の処遇として行ってきたことを「身体拘束」と突き付けられている現場の戸惑い,利用者利益に資する「支援」が身体拘束と分類されてしまう矛盾,決して充分ではない資源の中で懸命に利用者へ実践しようとする現場の模索を感じ取ることができた。

キーワード 虐待,本人同意,家族同意,切迫性,非代替性,一時性

 

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第59巻第12号 2012年10月

生活保護受給有子世帯の現状と支援課題

-A県における生活保護受給有子世帯属性調査における実態を対象として-
小林 理(コバヤシ オサム) 岡部 卓(オカベ タク) 西村 貴之(ニシムラ タカユキ)

目的 生活保護受給世帯の子どもの現在だけでなく,将来の生活や人生設計の確保を図るべく,各自治体には,様々な取り組みと実施体制の工夫が求められている。本研究では,A県で創設された生活保護受給有子世帯への子どもの健全育成プログラムおよび子ども支援員プログラムの策定事業に携わる機会を得て,その事業の一環として生活保護受給有子世帯の生活実態と支援課題の把握を目的として,実態調査を行った。

方法 調査対象は,A県所管域(町村域)における被保護有子世帯(生活保護受給中の0~18歳・高校就学年齢までの子どものいる世帯)の全世帯(210世帯)とした。調査方法は,生活保護ワーカーおよび子ども支援員(A県プログラムで創設された専門職)が生活保護ケースファイルから,調査項目に該当する情報を抽出し,調査票回答欄へ記入を行った。

結果 調査対象の子どもの人数は,全対象世帯で392人,男205人(52.3%),女187人(47.7%)である。年齢は0~18歳までで,平均9.9歳,中央値でみると11歳である。世帯の経済状況は,最低生活費(月額)は,平均値で239,616円であった。生活保護以外の収入源を人数でみると,最も多かったものは子ども手当178人(84.8%)で,就労収入のある世帯は,106人(50.5%)と全体の5割である。住居の種類は,民間賃貸住宅166人(79.0%)と最も多く,次いで公営住宅29人(13.8%)等であった。父親が最も長くついた職(最長職)は,ばらつきがみられるが,建設・土木作業7人(16.6%),飲食物調理4人(9.5%),自動車運転手(トラック・タクシー)3人(7.1%)などとなっている。母親の最長職は,確認できた195人のうち,商品販売26人(13.3%),事務員22人(11.2%),ホステス10人(5.1%),食料品製造10人(5.1%)などとなっている。特定の業種が安定的継続的な就労にむすびついているとはいえなかった。

結論 本調査から,世帯の基本属性の特徴として,子どものライフコース上の進路や進学についての課題と,養育者の生活課題の重なりの状況が世帯にみられることが明らかとなった。子どもの就学や教育の課題は,養育者の学歴や就業の考え方と,学校教育や進路指導の状況との調整が求められる課題である。その際,学費や生活費といった経済面も含めて,生活保護制度,就学および進路指導の支援,子育て支援の協働と求められる課題への取り組みが必要となっている。

キーワード 生活保護受給有子世帯,基本属性の把握,子ども家庭支援,就学支援,世帯の特徴と支援課題

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第59巻第12号 2012年10月

高齢者の健診受診と「将来の楽しみ」,うつ,
社会経済的要因との関連

-AGESプロジェクト-
芦田 登代(アシダ トヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ)
白井 こころ(シライ ココロ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 三澤 仁平(ミサワ ジンペイ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 厚生労働省の目標値よりも健診受診率が低いことが指摘されている。そこで,どのような人が健診を受診しているのか明らかにすることを目的に,ポジティブな心理要因(将来の楽しみ),うつ,所得などと受診経験の有無との関連を分析した。

方法 愛知老年学的評価研究(Aichi Gerontological Evaluation Study,AGES)プロジェクト2006~2007年調査データの一部を用い要介護状態でない高齢者15,726人を分析対象とした。目的変数は健診受診経験の有無,説明変数は「将来における楽しみ」の有無,年齢,性別,等価所得,教育年数,婚姻状態,就労状態,主観的健康感,IADL,現在治療中の疾患の有無,高齢者うつ尺度15項目版(GDS)の計11変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。

結果 変数をすべて同時に投入すると,「将来の楽しみ」がない者に比べある者が健診を受診したオッズ比(OR)は,男性で1.25,女性で1.45であった(p<0.01)。等価所得については,100~200万円未満のグループと比較すると,400万円以上では男女1.27(p<0.01),男性1.57(p<0.01)と有意に高かったが,女性では1.10で有意な関連はみられなかった。うつと楽しみの有無とは関連がみられたが,両者を同時投入すると,男女ともうつは有意ではなくなり将来の楽しみのみが有意なORを示した。さらに,等価所得階層間で「将来の楽しみ」の有無と健診受診経験「有」の確率を比較すると,高所得層で「将来の楽しみ」がない人より,低所得でも楽しみのある人の方が受診経験「有」が多いという結果が得られた。

結論 将来の楽しみがある人・高所得の人において,男女ともに健診を受診した者が多く,うつと比べ将来の楽しみがあることの方が健診受診経験との関連が強く,所得が低くても将来の楽しみのある人のほうが,高所得で楽しみがない人よりも健診受診経験が多いことが示された。これらのことは,健診受診行動には,社会階層や将来の楽しみ等が関連していることを示唆しており,健診受診の促進には受診勧奨だけではない,総合的なアプローチの必要性が示唆される。

キーワード 将来の楽しみ,うつ,健診受診経験,社会経済的要因,所得

 

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第59巻第12号 2012年10月

訪問看護ステーションの管理者の
インフルエンザワクチン接種に対する意識

豊島 泰子(トヨシマ ヤスコ) 鷲尾 昌一(ワシオ マサカズ) 今村 桃子(イマムラ トウコ)
荒井 由美子(アライ ユミコ)

目的 訪問看護ステーションの管理者のインフルエンザ感染予防の意識を明らかにし,訪問看護サービスを利用する利用者のインフルエンザ感染予防を行うことを目的にした。

方法 九州7県の訪問看護ステーションの管理者426名を対象に調査内容は,インフルエンザワクチン接種の勧奨をしている対象者について,訪問看護サービスを利用している利用者以外の介護者や同居家族へのインフルエンザワクチン勧奨について,訪問看護ステーションで勤務する看護・介護職員のインフルエンザワクチン接種割合,インフルエンザワクチン接種費用の負担について等であった。

結果 訪問看護ステーションの管理者は,92.6%が利用者,86.6%が家族介護者,67.1%が介護者以外の同居家族に対してインフルエンザワクチン接種の勧奨を行っていた。89.2%の施設でワクチン接種に対する金銭的補助がなされ,看護介護職員のワクチン接種割合が90%以上の施設は84.0%であった。

結論 看護介護職員のワクチン接種割合が90%以上の施設は84.0%であり,訪問看護の利用者のインフルエンザ感染予防の点から看護職の接種割合100%を目標にさらなる接種割合の向上に努める必要があると考えられた。

キーワード 訪問看護ステーション,インフルエンザワクチン,意識,管理者,同居家族

 

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第59巻第12号 2012年10月

アジア太平洋地域における全死亡に占める
脳卒中病型別死亡割合の動向

-政府統計に基づく検討-
月野木 ルミ(ツキノキ ルミ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 アジア太平洋諸国の脳血管疾患(以下,脳卒中)対策を講じるためには,国全体の脳卒中死亡・発症について経時的な実態把握および国際比較を行い,各国の脳卒中死亡の特徴とその要因を捉える必要がある。同時に脳卒中において脳出血と脳梗塞では発症機序や治療など予防対策が異なるため,また医療資源や対策を考える上で,脳卒中死亡だけでなく脳卒中病型別死亡の実態把握が重要となる。本研究ではアジア太平洋地域の4カ国の政府統計に基づき,全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合を指標として,その年次推移を観察,国際比較を行った。

方法 対象はアジア太平洋地域の政府統計とし,公的統計が整備され精度が高い,脳卒中,脳梗塞,脳出血死亡者数の男女別データが経年で入手可能な国を探索したところ,日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの4カ国が選択された。これら4カ国の政府統計に基づき脳出血,脳梗塞,病型別不明/その他の各死亡数を全死亡数で除した値を全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合として算出し,年次推移を観察した。

結果 全4カ国で全死亡に占める脳卒中死亡割合は減少傾向であること,日本と韓国では全死亡に占める脳出血死亡割合が減少しているのに対し,脳梗塞死亡割合は増加後,日本は1990年代以降横ばい傾向,韓国は2005年以降減少傾向を示すこと,オーストラリアとニュージーランドでは,日本と韓国に比べて全死亡に対する脳卒中死亡割合は少なく,脳卒中病型別でみると全死亡に占める脳出血死亡割合は不変,脳梗塞死亡割合は減少傾向であることなどがわかった。

結論 日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの政府統計に基づく全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合は,日本と韓国,オーストラリアとニュージーランドでそれぞれ類似した傾向を示した。オーストラリアとニュージーランドの結果は脳卒中病型別死亡不明の割合が多く,過去のコホート研究結果を考慮すると脳梗塞死亡割合が過小評価されている可能性がある。政府統計を用いて脳卒中病型別死亡を検討する場合は,全脳卒中死亡に占める脳卒中病型別不明の割合,その国の脳卒中病型別の診断状況,その国のコホート研究結果を考慮して検討する必要がある。

キーワード 脳卒中,脳梗塞,脳出血,政府統計,国際比較,アジア太平洋地域

 

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第59巻第11号 2012年9月

人口動態調査の調査票情報を用いた
大規模コホート研究における死因照合作業の問題点の検討

原田 亜紀子(ハラダ アキコ) 岡山 明(オカヤマ アキラ) 喜多 義邦(キタ ヨシクニ)
大橋 靖雄(オオハシ ヤスオ) 上島 弘嗣 (ウエシマ ヒロツグ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
日本動脈硬化縦断研究(JALS)グループ

目的 循環器疾患の発症と死亡をエンドポイントとした疫学研究であるJapan Arteriosclerosis Longitudinal Study(JALS)参加者を対象として,新統計法のもとで人口動態調査の二次利用申請から死因の照合作業までを実際に行い,人口動態調査を疫学研究で活用する際の課題を検討した。

方法 人口動態調査の二次利用の申請を行い,性,生年月日,死亡年月日,死亡時の居住市町村名を照合変数とし,JALSで登録された死亡者(3,220件)のデータと照合することで原死因を確定した。さらに,実際の照合作業に加え,照合に用いる性別,生年月日,死亡年月日,死亡時市町村コードの4変数を選択的に操作した際の照合状況への影響も検討した。

結果 初回照合の結果,原死因が特定できたのは3,135件(97.4%)であった。照合不能であった85件については,JALSの各コホート研究者に対して照合変数に該当する情報の確認を依頼し,修正した結果,最終的な照合者は3,203件(99.5%)であった(第2回照合)。計2回の照合から,初回照合で照合不能であった85件について,どのような情報の誤りにより照合できなかったか,JALS側,人口動態調査側で考えられる原因を整理したところ,JALS側の要因としては,「死亡日として調査日を誤記入」が16件,「1~2日の日付の違い」が14件と多かった。一方,人口動態側の要因としては,「文字(日付)入力の誤り」が7件,「生年月日,死亡日ともに同じ日が入力」が4件と多くみられた。さらに,照合変数を選択的に操作し照合状況への影響も検討したところ,性別,生年月日,死亡年月日,死亡時市町村コードの4変数を用いた場合では,生年月日,死亡年月日いずれかが日付まで正確に得られていれば,照合候補者の重複を低率に抑えられた(死亡年月日が「月日」まで正確な場合は重複率が0.2%,生年月日が「月日」まで正確な場合は,0.2%)。

結論 人口動態調査を用い,死亡者の原死因を確定する作業を通じ,照合を困難にする原因は,申請者側のみならず人口動態調査側にもあることが明らかになった。また,照合に用いる変数を選択的に操作し照合状況を検討したところ,生年月日,死亡年月日のいずれかの情報が,月日まで正確に得られていることが重要であった。

キーワード コホート研究,人口動態調査,統計法,死因照合

 

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第59巻第13号 2012年11月

日本の将来推計人口(平成24年1月推計)

金子 隆一(カネコ リュウイチ) 石川 晃(イシカワ アキラ) 石井 太(イシイ フトシ)
岩澤 美帆(イワサワ ミホ) 佐々井 司(ササイ ツカサ) 三田 房美(ミタ フサミ)
守泉 理恵(モリイズミ リエ) 別府 志海(ベップ モトミ) 鎌田 健司(カマタ ケンジ)

Ⅰ は じ め に

わが国では今後,人口減少が加速的に進行し,同時に世界でも例を見ない著しい人口高齢化に直面していくことになる。こうした人口の変化は,経済や社会保障制度をはじめとする社会の在り方を根本的に変えることになるだろう。国立社会保障・人口問題研究所は平成24(2012)年1月に新たな「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」を公表したが,本稿では推計手法の解説とともにその結果について概観する。

Ⅱ 結果の概要

まず,推計が描く日本の将来人口のプロフィールから見ていきたい。図1に明治期から21世紀を通してのわが国総人口の推移を示した。2010年までは実績値であり,2011年以降について「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」出生中位・死亡中位推計による推計値を示している。現在われわれは人口の歴史的ピーク付近をわずかに越えた地点にいるが1),将来推計によれば今後は一転して人口減少が進み,約50年後の2060年には現在のほぼ3分の2の規模にあたる8674万人となることが示されている。

 

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第59巻第13号 2012年11月

国民生活基礎調査の匿名データによる健康状態と喫煙の解析

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ)
谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 栗田 秀樹(クリタ ヒデキ)

目的 平成16年国民生活基礎調査の匿名データに基づいて,健康状態と喫煙の関連を解析した。健康状態としては,自覚症状,通院状況,日常生活への影響と健康意識を取り上げた。

方法 統計法36条に基づき厚生労働省から提供を受けて,匿名データを利用した。喫煙状況の得られた20歳以上の73,110人において,健康状態の調査項目ごとに,喫煙のオッズ比をロジスティック回帰により年齢を調整して算定した。

結果 たばこを以前吸った者の吸わない者に対する年齢調整オッズ比は自覚症状なしを1.0とすると,36症状ともに症状ありが1.5以上であり,いずれかの症状ありが男1.62と女2.34であった。通院なしに対する年齢調整オッズ比は,13傷病の中で男の6傷病と女の12傷病の通院ありが1.5以上であり,いずれかの傷病の通院ありが男1.38と女2.10であった。日常生活の影響なしに対する年齢調整オッズ比は,日常生活の5つの活動の中で男の4活動と女の5活動の影響ありが1.5以上であり,いずれかに影響ありが男1.58と女2.42であった。健康意識がよいに対するよくないの年齢調整オッズ比は男1.57と女2.23であった。たばこを毎日吸う者と時々吸う者の吸わない者に対する年齢調整オッズ比は自覚症状,通院,日常生活の影響,健康意識ともに一定の傾向でなかった。

結論 健康状態の多くの面に対して喫煙が強く関連することが確認され,匿名データ利用の有用性が示唆された。

キーワード 国民生活基礎調査,匿名データ,喫煙,健康状態,保健統計

 

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第59巻第13号 2012年11月

院内がん登録における匿名化手法の検討

渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ) 山城 勝重(ヤマシロ カツシゲ)
海崎 泰治(カイザキ ヤスハル) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ) 固武 健二郎(コタケ ケンジロウ)
猿木 信裕(サルキ ノブヒロ) 岡村 信一(オカムラ シンイチ)
柴田 亜希子(シバタ アキコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ)

目的 全国で指定されているがん診療連携拠点病院から提供される院内がん登録全国データは,わが国のがん診療の現状を示す貴重なデータである。このデータの個人情報保護特性を明らかにし,より多くの研究者が解析利用できるように,匿名化手法の検討を行った。

方法 まず,院内がん登録データ2008年症例(N=424,983)のリスク評価を行った。次いで,全データで一律にキー変数の情報量を減らす加工(大域的再符号化)とリスクの再評価を行い,さらに安全性を上げるためにリサンプリングの効果も検討した。リスク評価には「一意」の数・割合を用いた。

結果 病院名削除と年齢の処理で,一意割合は1.7~3.0%にまで低下したが,母集団が大きいことから依然として7,140~12,699が一意であった。ランダムサンプリングを行うと,例えば50%の抽出率で,抽出後の標本で一意に見えるデータの約半数が母集団一意でない状態となった。

結論 診断病院名の削除と年齢のグルーピングやトップ/ボトム・コーディングを行うことで,ほとんどのデータについて一定の安全性が確保できると考えられる。今後,リスクレベルに関し社会的な合意を得た上で,安全な二次利用が促進されることが望まれる。

キーワード 院内がん登録,ミクロデータ,開示リスク,匿名化

 

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第59巻第13号 2012年11月

DPCデータを用いた臨床指標の算出

-AHRQのPatient Safety Indicator(患者安全指標)に焦点を当てて-
小林 美亜(コバヤシ ミア) 池田 俊也(イケダ シュンヤ) 藤森 研司(フジモリ ケンジ)
松田 晋哉(マツダ シンヤ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ)

目的 米国のAHRQ(The Agency for Healthcare Research and Quality)は,病院の管理データ(Administrative Data)を用いてPSI(Patient Safety Indicator:患者安全指標)を算出し,患者安全の保証に活かしている。本研究は,日本の病院の管理データであるDPCデータを用いることにより,AHRQのPSIの抽出を行い,抽出したPSIに関する在院日数や医療費の分析を行うことを目的とした。

方法 日本のDPCデータからPSIを抽出することができるように,AHRQの仕様書で用いられているICD9-CMコードをICD-10コードに置き換え,DPCデータの構造からPSIを算出するロジックを作成した。平成22年度厚生労働科学研究「診断群分類の精緻化とそれを用いた医療評価の方法論開発に関する研究」へ参加協力が得られたDPC対象・準備病院において,各PSIの分母に該当する患者(平成21年7月1日~12月末日に退院)が10症例以上ある施設を分析対象とし,11種類のPSIの発生率および医療費について算出した。

結果 抽出した11種類のPSIのうち,「麻酔合併症」および「輸血による副反応」に該当する症例の報告は0件であった。各PSIの事象発生有無群別にみた医療費の総点数比較では,いずれのPSIにおいても事象の発生有群の方が発生無群に比べて統計学的に有意に点数が高かった。

結論 病院の管理データを活用したPSIの抽出は,容易に大規模集団のデータを活用し,経時的に傾向を把握することが可能であることから,効率性が高い。今後は,算出した各PSIについて妥当性検証を行うとともに,データの精度に影響を与える要因を検討する必要がある。医療費については,各指標に該当する事象が発生した群について総点数等が高くなっていたが,今後,事象が発生した症例については,適切な対照群を設定して比較を行うなど,さらなる検討が求められる。

キーワード 臨床指標,医療の質,患者安全,PSI,DPC

 

 

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第59巻第13号 2012年11月

高齢者の生活機能の状況と介護予防支援との関連

-二次予防事業対象者選定の基本チェックリストのデータ分析から-
大鐘 啓伸(オオガネ ヒロノブ) 寺社下 葉子(ジシャゲ ヨウコ)
佐古 智代(サコ トモヨ) 諸岡 大揮(モロオカ タイキ)

目的 介護保険法に基づく介護予防支援プログラムの実施については,二次予防事業対象者選定のための基本チェックリストが活用されている。基本チェックリストの項目は,高齢者の生活機能の状況に関する質問から構成されているが,項目の内容について改善が指摘されている一方で,妥当性・信頼性の検証も課題となっている。そこで,本研究では,基本チェックリストの各項目について高齢者の属性と介護予防支援との関連を分析して,その結果から高齢者の生活機能の状況を検討し,また基本チェックリストの活用の有用性を検証する。

方法 A市の70歳から75歳までの高齢者3,204名を対象として,平成22年4月に自記式の郵送調査により実施した。回答率は70.7%であった。調査票は,高齢者の生活機能を確認するための厚生労働省の基本チェックリスト(25項目)にうつに関する質問3項目を追加して作成した。分析は,基本チェックリストの各質問項目における対象者の性別・世帯の状況の特徴についてχ2検定を行った。また,二次予防事業対象者と介護予防支援プログラムとの関連について数量化Ⅲ類およびクラスター分析を行った。

結果 生活機能の状況のうち運動器に関する機能について,40.0%の高齢者が不安を感じていた。基本チェックリストにおける介護予防支援プログラムごとの特徴として,一人暮らしの場合は,閉じこもり,認知症,うつの予防支援の項目に該当する割合が多かった。二次予防事業対象者は,70歳から75歳までの高齢者のうち25.6%であった。特に,女性あるいは一人暮らしの場合で介護予防支援を必要とする割合が多かった。また,介護予防支援プログラムは,“行動系生活機能予防支援群”“神経心理系生活機能予防支援群”“食育系生活機能予防支援群”に分類された。

結論 高齢者の属性によって,生活機能の状況に違いが認められ,チェック項目の該当者が多かった運動器に関する機能支援にはポピュレーション・アプローチを実施し,それ以外の支援については,生活機能の特徴に応じた個別の介護予防支援プログラムを実施することが適切であると示唆された。そのような予防支援を展開するうえで,基本チェックリストは有用であった。

キーワード 介護予防・支援,一次予防事業,二次予防事業対象者,基本チェックリスト,生活機能

 

論文

 

第59巻第13号 2012年11月

「老衰死」の地域差を生み出す要因

-2005年の都道府県別老衰死亡率(性別年齢調整死亡率)と医療・社会的指標との関連-
今永 光彦(イマナガ テルヒコ) 山崎 由花(ヤマザキ ユカ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 「老衰死」の地域差を生じさせる要因はこれまで検討されていないことから,今回,2005年の都道府県別老衰死亡率と医療・社会的指標との関連を調べることで,その要因を検討した。

方法 基礎資料として,2005年人口動態特殊報告・都道府県別年齢調整死亡率,2005年人口動態統計,統計でみる都道府県のすがた2007~2010,2004年国民生活基礎調査,2005年医療施設調査,2006年医師・歯科医師・薬剤師調査,2006年度保健・衛生行政業務報告,2005年病院報告,2005年患者調査,2006年度福祉行政報告例を用いた。それらの基礎資料から,老衰死亡率に関連する可能性がある2005年または直近の医療・社会的指標を抽出した。単変量解析としてPearsonの積率相関係数を計算した。次に,それらの中から,Pearsonの積率相関係数の絶対値が0.3以上であった変数を説明変数とし,都道府県別老衰死亡率(性別年齢調整死亡率)を目的変数とした重回帰分析を行った。

結果 重回帰分析の結果,男性では,75歳以上の入院受療率(標準偏回帰係数-0.390,P=0.001),心疾患の年齢調整死亡率(標準偏回帰係数0.229,P=0.04),悪性新生物の年齢調整死亡率(標準偏回帰係数-0.322,P=0.005)が有意な関連指標であった。このモデルの決定係数(R2)は0.824であり,自由度調整済み決定係数は0.800であった。女性では,病院死亡割合(標準偏回帰係数-0.303,P=0.005),85歳以上の年齢階級別死亡率(標準偏回帰係数0.291,P=0.007),訪問診療を行っている病院数(標準偏回帰係数-0.423,P=0.001),第3次産業就業者割合(標準偏回帰係数-0.380,P=0.001)が有意な関連指標であった。このモデルの決定係数(R2)は0.796であり,自由度調整済み決定係数は0.774であった。

結論 2005年の都道府県別老衰死亡率と医療・社会的指標との関連の検討を行ったところ,有意な関連指標をいくつかみとめた。これらの背景には,病院へのアクセスの容易さや医師や患者側の終末期ケア・高齢者ケアへの考え方などの影響があると推測された。今後,実際にどのようなプロセスで老衰死と診断されているかを探索していく必要がある。

キーワード 老衰,老衰死,高齢者医療,超高齢者,地域差

 

 

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第59巻第15号 2012年12月

介護費用と家族介護の評価に関する日韓比較

増田 雅暢(マスダ マサノブ)

目的 日本と韓国において要介護高齢者を抱える家族の介護費用負担額や負担感などを調査することにより,介護保険制度導入後の介護費用の状況を把握するとともに,日韓比較により介護費用負担に関する両国の特徴を分析する。あわせて,介護手当の導入の是非について意識調査を行い,今後の介護者支援の方策について検討する。

方法 本研究は,日韓において在宅で要介護高齢者を介護している家族介護者を対象に,日本では3市,韓国では2市において,留置調査と面接調査を併用して実態調査を行った。

結果 日本では,毎月の介護費用は,月額平均43,800円,介護サービスの利用に伴う毎月の負担額は,月額平均26,100円であった。日本の先行研究では,介護保険導入前の1993年では,月額34,146円,導入直後の2002年では,月額38,928円であった。一方,韓国では,月額平均45.5万ウォン(約3.4万円),介護サービスの自己負担額は,月額平均23.4万ウォン(約1.7万円)であった。介護手当の導入については,日本では54%の人が,韓国では75%の人が賛成した。手当の水準については,日本よりも韓国の方が高い水準を希望している人が多かった。

考察 日韓比較において大きな相違が2点みられた。ひとつは,介護費用の負担者の相違である。日本では全体の3分の2は要介護者本人であるが,韓国では,同居・別居の子どもが全体の3分の2であった。韓国では,国民皆年金の歴史が浅く,高齢者の年金等の所得水準が低いことや,「親孝行」の精神から,子どもが親の介護費用を負担するという考えが一般的であるということが考えられる。もうひとつは,介護サービスの利用に伴う自己負担額の負担感に関する認識の相違である。日本では,負担に感じる人は全体の3分の1であるのに対し,韓国では全体の7割が負担を感じている。韓国では,負担者が介護者である子ども自身であることや,介護保険の自己負担割合が日本よりも高いことによるものと考えられる。介護手当については,ドイツの介護保険では制度化されているが,日本では制度がなく,韓国では小規模の制度が存在しているにすぎない。日韓とも,家族介護者から導入の要望が高いことを考慮すると,今後,介護者支援の観点から制度化に向けて検討を進める必要があると考えられる。

キーワード 介護保険,介護費用負担,家族介護,介護手当

 

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第59巻第15号 2012年12月

認知症高齢者に合わせた
コミュニケーション技法習得に向けた取り組み

-介護福祉士を目指す学生に回想法の技法を活用して-
津田 理恵子(ツダ リエコ)

目的 認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける回想法の技法を活用したコミュニケーションをロールプレイで再現した授業を展開し,思い出に働きかけるコミュニケーション技法が習得できたかを確認することを目的とした。

方法 調査対象は,4年制大学介護福祉コースの1回生23名とした。方法は講義後,認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける関わり方についてロールプレイを取り入れた演習を行い,記名式で演習前後に,思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールを作成し使用して調査を行った。さらに,演習後のみコミュニケーションの習得度に関する意識について調査を実施した。

結果 演習前後の思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールの得点は,25項目すべてにおいて得点が有意に上昇していた。演習後のコミュニケーションの習得度に関する意識では,演習を通してコミュニケ-ション能力が向上し,ロールプレイが学びにつながったと答えた者が多かった。コミュケーションの特徴として「返答の際にあいづちしかうっていない」と答えた者が多く,演習を通してあいづちのみの返答では相手の言葉を引き出せないことを理解し,普段の生活の中でも「あいづちの後に言葉を付け足すようになった」と答えた学生が多かった。

結論 認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法を習得するため,回想法の技法を活用したコミュニケーションを授業に取り入れた結果,演習後に思い出に働きかけるコミュニケーションスキルは向上することが示された。その際,ロールプレイやモデリングを取り入れることが有効で,代理的経験から成功経験が得られるよう導くことで,望ましい行動を引き起こす正の強化につながることが明らかになった。また,認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法の習得を目指すことは,学生にとっては必要な対人支援スキルであり,介護実践現場においても介護職員のストレス軽減につながる可能性がある。さらに,学生や介護職員にとどまらず広く回想法の技法を活用したコミュニケーション技法を啓蒙していくことで,認知症高齢者が懐かしい思い出を語る機会が増え,認知症高齢者にとっては安心した生活の実現につながっていく可能性がある。

キーワード コミュニケーション,認知症高齢者,回想法の技法,ロールプレイ

 

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第59巻第15号 2012年12月

大学生の違法薬物への意識とライフスタイル要因との関連

北田 雅子(キタダ マサコ) 武藏 学(ムサシ マナブ) 大浦 麻絵(オオウラ アサエ)
中村 永友(ナカムラ ナガトモ)

目的 本研究では,成人形成期(Emerging adulthood)と呼ばれる青年期後半の大学生を対象に,違法薬物への意識とライフスタイルとの関係を明らかにし,大学における効果的な健康教育を検討することを目的とした。

方法 札幌市内の総合大学の学部生1~4年生3,970名を対象に自記式質問紙での調査を行った。大麻などの違法薬物へ何らかの効用を認めている群を「肯定群」,そうでない者を「非肯定群」とした。学生を取り巻く環境(薬物入手の可能性,周囲の乱用者の有無),ライフスタイル,タバコへの心理・社会的依存度(加濃式社会的ニコチン依存度調査票:KTSND)について回答を求めた。

結果 3,579名の大学生から回答が得られた(男子2,569名:71.8%,女子1,010名:28.2%)。ライフスタイルを学年間で比較すると,不健康なライフスタイルを持つ者の割合は,1年生に比べて2年生以上の学年で高かった。特に,喫煙率や飲酒率は,男女とも学年を経るごとに増加する傾向を示した。違法薬物への肯定群は362名(10%),非肯定群は3,194名(90%)であった。ライフスタイルを群間で比較した結果,肯定群では食事バランスへの関心が低く,野菜や果物の摂取頻度が低く,飲酒・喫煙する者の割合が有意に高かった。タバコへの心理・社会的依存度についてKTSNDの合計得点を比較すると,肯定群では18.9(±6.8)点,非肯定群では15.1(±7.0)点であり,肯定群の方が有意に高値を示した。さらに,肯定群では「薬物の入手が可能」「周りに乱用者がいる」という回答者の割合も非肯定群に比して有意に高かった。

結論 薬物乱用防止教育を積極的に実施する時期としては,ライフスタイルが著しく変化する入学後から2年生へ移行する時期が特に重要であることが示唆された。違法薬物を肯定的にみなす群は,不健康なライフスタイルを持つ者が多く,喫煙を文化的な嗜好品として容認する意識を持つ者の割合が高かった。ゆえに,大学における薬物乱用防止教育の普及啓発内容としては,健康的なライフスタイルの推奨とともに,喫煙・飲酒を含め,違法薬物を肯定的に容認する認知の是正を目的としたアプローチが重要であると考えられた。

キーワード 大学生,薬物乱用防止教育,ライフスタイル,喫煙,心理社会的依存

 

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第59巻第15号 2012年12月

未就学児を持つ共働き夫婦における
ワーク・ライフ・バランスと精神的健康

-1年間の縦断データから-
島田 恭子(シマダ キョウコ) 島津 明人(シマズ アキヒト) 川上 憲人(カワカミ ノリト)

目的 従来のワーク・ライフ・バランス(以下,WLB)と精神的健康に関する研究では横断研究が多く要因間の因果関係を特定できない限界があった。また「仕事と家庭役割間のネガティブなスピルオーバー」が主に注目され「両役割間のポジティブなスピルオーバー」を考慮した研究は少ない。本研究は,両役割間のネガティブおよびポジティブなスピルオーバーが心理的ストレス反応に与える影響を,縦断データを用いて検討することを目的とした。

方法 ベースライン調査(T1:2008年11月)は都内某区の保育園に子どもを通わせる共働き夫婦を対象に実施され2,992名が回答した。フォローアップ調査(T2:2010年1月)は,T1調査時にT2調査への参加に同意した1,466名を対象に実施され,963名が回答した(追跡率65.7%)。本研究では,両調査での有効回答者894名(男性394名,女性500名)を分析対象とした。解析は,心理的ストレス反応(T2)を従属変数とし,以下のステップで独立変数を追加投入する階層的重回帰分析を男女別に行った。ステップ1:基本属性(T1),ステップ2:心理的ストレス反応(T1),ステップ3:仕事領域変数(T1:量的負担,裁量権,サポート),ステップ4:家庭領域変数(T1:量的負担,裁量権,サポート),ステップ5:WLB変数(T1:仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバー,家庭から仕事へのネガティブ・スピルオーバー,仕事から家庭へのポジティブ・スピルオーバー,家庭から仕事へのポジティブ・スピルオーバー)

結果 男性ではステップ5で,仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバー(T1)が,心理的ストレス反応(T2)と正の関連を示していた。女性では家庭での量的負担(T1)が正の関連を,家庭での裁量権(T1)が負の関連を示していた。ポジティブ・スピルオーバーは,男女ともに心理的ストレス反応(T2)と有意な関連を示さなかった。

結論 男性では仕事から家庭へのネガティブなスピルオーバーが1年後の心理的ストレス反応の高さに関連している一方,女性では家庭の量的負担と裁量権が1年後の心理的ストレス反応に関連していた。わが国の共働き夫婦の精神的健康を考える際,男性では仕事から家庭へのネガティブなスピルオーバーに,女性では家庭での負担の低減と裁量権を上げることの重要性が示唆された。本研究ではポジティブ・スピルオーバーは,男女ともに1年後の心理的ストレス反応と有意な関連を示さなかったが,さらに他の健康アウトカムとの関連を含め研究が行われるべきである。

キーワード 共働き世帯,ワーク・ライフ・バランス(WLB),ネガティブ・スピルオーバー,ポジティブ・スピルオーバー,役割間葛藤,精神的健康

 

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第59巻第15号 2012年12月

介護保険制度の導入・改定前後における
居宅サービス利用と介護負担感の変化

-反復横断調査に基づく経年変化の把握-
杉原 陽子(スギハラ ヨウコ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 中谷 陽明(ナカタニ ヨウメイ)

目的 介護保険制度の導入4年前から制度実施10年までの間の要介護高齢者と介護者の変化を,特定地域における反復横断調査データを基に把握し,居宅サービス利用の量的拡大と介護負担の軽減の観点から介護の社会化の到達状況を検証した。

方法 1996,98,2002,04,10年に,東京都A市の65歳以上の住民に対して,日常生活動作能力と認知機能を調べるスクリーニング調査を郵送法(未回収者には訪問回収を併用)にて行った。スクリーニング調査の対象者は,1996年は65歳以上の住民全数で,それ以降は3~4分の1の確率で無作為抽出した。日常生活動作能力と認知機能の状態から要介護高齢者を把握し,その介護を主に担当している家族・親族に対して訪問面接調査を行った(独居等で介護者がいない場合は本人に調査を依頼)。各年における面接調査の完了数は,941人,404人,595人,441人,414人であった。

結果 14年間で単身世帯と二人世帯がいずれも約10ポイント増加し,2010年時点では回答者の過半数を占めた。要介護高齢者と介護者ともに高齢化が進み,介護年数が10年以上の長期介護の割合は約8ポイント増加していた。居宅サービスの利用率や利用希望の充足率は,介護保険導入前よりは増加していたが,導入以降も経年的に増加していたのは通所サービスだけであった。訪問介護は2005年の制度改定以降,減少傾向で,短期入所や訪問看護は,制度導入後は増加していなかった。介護者の負担については,毎日かかりきりで介護している人の割合や介護者の身体的・精神的・社会的負担,特養入所希望のいずれの指標とも,介護保険導入前と比べて改善する傾向は確認できなかった。

結論 居宅サービス利用の量的拡大の観点からは,介護保険導入前よりは介護の社会化は進展したといえる。しかし,制度導入以降はサービスの種類によって進展に差があり,特に短期入所や訪問看護のように家族による代替が難しいサービスほど進展していなかった。さらに,介護負担や入所希望の軽減の観点からは,介護の社会化は未だ不十分であることが示唆された。その理由として,居宅サービスの量的不足やサービスメニューの乏しさの問題とともに,家族の介護力の低下や介護の長期化,社会経済的な問題の増加等で介護状況が複雑・多様化しており,現行の介護保険制度で対応するには限界がある可能性が考えられた。

キーワード 介護保険制度,反復横断調査,居宅サービス,介護負担,介護の社会化,家族の介護力

 

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第60巻第2号 2013年1月

推計平均在院日数の数理分析

-推計平均在院日数と病院報告の平均在院日数の関係-(平成24年9月)

標記の資料は,平成24年9月に下記の厚生労働省 ホームページに公表された。

 ( http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken /database/zenpan/sankou.html

 公表部局(厚生労働省保険局調査課)では,資料の「はじめに」にあるように「本稿の目的は・・推計平均在院日数,推計新規入院件数・・の医療保険や医療分野における活用に資することである」との考えであって,本誌の読者にもご覧いただき,ご質問やご意見等は公表部局に直接お寄せいただき,ご活用いただければとのことである。

 平均在院日数は衛生統計においても重要な指標であるので,読者が資料をご覧になる際に参考となるよう,資料の概要等を紹介する。

 

(1) 資料の概要

 現在,入院患者の平均在院日数・新規入院患者数は患者調査の退院患者平均在院日数・新入院患者数,病院報告の平均在院日数・新入院患者数により得られているが,本資料は,医療保険のレセプト統計を用いて実質的に病院報告の平均在院日数・新入(退)院患者数と同じ「推計平均在院日数」「推計新規入院件数」が算定されるという事実とその根拠の分析を示すものである。この算定式を使うと,例えば毎月の都道府県別 75歳以上の平均在院日数,新規入院件数など,これまでの衛生統計では得られなかった統計が得られることとなる。

 下記の厚生労働省のホームページに,月次,年次,都道府県別等の統計が公表されている。

 (http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryou_doukou_b.html)

 衛生統計において,年齢階級別や疾病分類別等,入院患者の属性別平均在院日数等の統計が重要であるが,このような区分別統計は,3年に1回行われる患者調査により9月1カ月分の抽出調査で得られる。病院報告では,毎月,全数調査により医療機関単位の病床種類別に平均在院日数等の統計が得られているが,入院患者の属性別統計はない。このため,入院患者の属性別平均在院日数等の統計は,毎月単位,毎年度単位,全数では得られていなかった。

 一方,医療保険におけるレセプト統計では毎月,全数で,医療保険制度別かつ年齢区分別(未就学者, 65歳未満,65~70歳, 70~74歳,75 歳以上別)の入院統計が得られているほか,毎年度,全数で,制度別,性別,年齢階級別,疾病中分類別の入院統計が得られている。この統計は国民医療費の年齢階級別,疾病分類別統計の大部分を占めるものでもある。

 このレセプト統計に本資料の算定方法を用いると,レセプト統計の属性区分に対応した平均在院日数,新規入院件数等の統計が得られることとなり,衛生統計への活用が期待される。

 標記の資料について説明する。ホームページ上の資料には数理分析の性格上数式が多く読みやすくはないが,冒頭の「目次」「はじめに」と末尾の「むすび」には数式を用いないで資料の概要やねらいが書かれており,この部分だけを読んでも資料の概要やねらいが理解することができる。さらに,文書中に枠囲みの記述があり,日常の言い方で要点や数式の意味などを説明しており,理解を助けるようにしている。

(2) レセプト統計

 レセプト統計について説明する。レセプトとは診療報酬明細書のことである。病院や診療所は,入院患者の費用のうち患者から3割分を受け取り,残りの7割分を入院患者の加入している医療保険者に請求するが,その際,入院患者に行った診療行為や投与した薬とその価格,入院した日数などの明細を記した診療報酬明細書も併せて医療保険者に提出する。請求は患者1人について暦の各月の1カ月分まとめて行う。このレセプトの枚数を「件数」,各レセプトに書かれた入院日数の合計を「日数」,3割分と7割分の合計金額を「医療費」といい,件数,日数,医療費等の統計をレセプト統計とよび,ホームページに公表されている。 

 

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第60巻第1号 2013年1月

ICD改訂の動向について

谷 伸悦(タニ ノブヨシ) 及川 恵美子(オイカワ エミコ)

ICD改訂に係る動向を適切に理解していただくために,まず, ICDに関する基礎的な概念,組織,現状等について述べ,続いて ICDの改訂についてお話しいたします。

Ⅰ は じ め に

ICDとは,世界保健機関:WHO( World Health Organization )で定められている「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:( International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems )」の略称であり,通称,「 ICD=国際疾病分類」と呼ばれている。 ICDはこれまで何度も改訂が行われてきており,現在,日本ではこの ICDの第10回改訂( Tenth Revision)の2003 年度版に基づいたものが,「統計法第28 条第1項及び附則第3条の規定に基づく疾病,傷害および死因統計分類」(平成 21年3月23日総務省告示 176号)(以下,ICD-10 )として総務省より告示され,人口動態や医療分野等における公的な統計等に使用されている。

Ⅱ ICDの基本

(1) 「ICD-10」の構成

「ICD-10」は,基本分類(約14,000 項目),疾病分類(大分類,中分類,小分類),死因分類により構成されており,その構成要素の数は,基本分類>小分類>中分類>死因分類>大分類 の順番となっている。大分類と死因分類はおおむね似通ってはいるが完全に同一とはなっていない。

日本において告示されている統計分類表としては,「疾病,傷害及び死因統計分類基本分類表」「疾病分類表」(大分類・中分類・小分類),「死因分類表」の3つの分類表があり,いろいろな分野での統計,調査等において,その分類表を基にしたものが使い分けられている。

 

(2) 「ICD-10」の活用例

 例えば,人口動態統計では「死因分類(死因簡単分類)」「基本分類(人口動態死因統計分類基本分類表)」「選択死因分類表」「乳児死因簡単分類表」「感染症分類表」が使用されており,患者調査では「疾病分類(大分類,中分類,小分類)」が使用されている。また,社会医療行為別調査では「疾病分類(中分類)」が,国民健康保険等における診断群分類包括評価に用いられる標準病名等には「基本分類」が用いられており,さらに国民健康保険等に関連する電子カルテや電子レセプト等にも「基本分類」が活用されている。

 

(3) 「ICD-10」の分類

 ICD の分類は病名をアルファベットと数字を用いたコードで表記しており,各国においてその疾患の名称が異なっても同一のコードとなるように構成されている。

 

 

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第60巻第1号 2013年1月

知的障害者グループホーム利用者の利用継続を
促進/阻害する要因に関する研究

-共同生活援助(G/H)事業・共同生活介護(C/H)事業からの転居者の状況に関する全国調査の分析-
松永 千惠子(マツナガ チエコ)

目的 本研究では,2010(平成22)年に行った「共同生活援助(G/H)事業・共同生活介護(C/H)事業からの転居者の状況に関する全国調査」から,知的障害者グループホーム利用者の利用継続を促進・阻害する要因を抽出し,不本意ながらグループホームでの生活継続を断念することのないよう,それらの人の生活を支える当事者の立場に立った対応策を検討することを目的とした。

方法 全国のG/H・C/Hの事業所から無作為抽出した1,000法人を対象として郵送法による質問紙調査を実施し,知的障害者グループホーム利用者の利用継続を促進・阻害する要因の抽出を行った。

結果 発送数1,000通,回収は357通,回収率35.7%,無効18通(期限切れを含む),有効回答率33.9%であった。その結果,知的障害者の転居理由の第1位は,「家族の希望」,次いで「人間関係の不和」,第3位「1人暮らしを希望」,第4位「医療的なケアが必要」,第5位「高齢」などであった。数量化3類の分析結果では,利用継続を阻害する要因は「個人的な要因」「家族的な要因」「社会的な要因」「身体的な要因」となった。これに対し促進要因は,「職員の人数の要因」「バリアフリー等の施設要因」「職員の教育の要因」「制度・外的要因」「施設内の人間関係の要因」の5つが示唆された。

結論 本研究の結果からは,知的障害者の移行後の生活の継続のためには,職員による家族へのていねいな説明や利用者本人の意思表出支援,意思決定支援を含めたコミュニケーション支援,職員教育,そしてそれらに関連する制度の改正が望まれる。

キーワード 知的障害者,グループホーム,ケアホーム,全国調査,転居者

 

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第60巻第1号 2013年1月

佐賀県におけるインフルエンザ年齢構成の検討

大日 康史(オオクサ ヤスシ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 谷口 清州(タニグチ キヨス)
岡部 信彦(オカベ ノブヒコ) 森屋 一雄(モリヤ カズオ) 嘉村 明子(カムラ アキコ)
山口 邦彦(ヤマグチ クニヒコ) 永尾 一恵(ナガオ カズエ) 末次 稔(スエツグ ミノル)
古川 次男(フルカワ ツギオ) 平子 哲夫(ヒラコ テツオ)

目的 インフルエンザ対策は公衆衛生上重要な対策のひとつであり,インフルエンザ患者数を推定することは,政策決定をする上で必須である。薬局サーベイランスによるインフルエンザ推定患者数と発生動向調査のインフルエンザ報告数の相関は高く,薬局サーベイランスはリアルタイムな情報として2009年からインフルエンザ流行時に活用されているが,年齢構成の検討は行われていなかった。そこで本研究の目的は,薬局参加率の最も高い佐賀県において年齢構成の情報を加えることで,今後のインフルエンザ対策に役立てることとした。

方法 薬局サーベイランスの抗インフルエンザウイルス薬の処方数による推定患者数と発生動向調査のインフルエンザ患者数の年齢構成を比較する。年齢構成は発生動向調査に従い,0~4歳,5~9,10~14,15~19,20~29,30~39,40~49,50~59,60~69,70歳以上とした。データ期間は,2010年36週(9月6日~12日)~2011年35週(8月26日~9月4日)の1年間とした。

結果 佐賀県の薬局サーベイランスの疫学曲線は,2011年第3週(1月17日~23日)がピークで17週(4月25日~5月1日)に2度目のピークがあった。年齢群別では5~9歳が最も多く15.8%,次いで30歳代が15.6%であった。15歳未満は38.8%で,20~49歳が40.4%であった。同県の発生動向調査の疫学曲線も2011年第3週がピークで17週に2度目のピークがあった。年齢群別では5~9歳が34.7%,次いで0~4歳が25.7%であった。15歳未満は77.2%で,20~49歳が14.3%であった。発生動向調査と薬局サーベイランスによるグラフのパターンは同じで,ピークのタイミングも同じであった。発生動向調査と薬局サーベイランスを週単位で相関をみたところ,相関係数は,0.962と強い相関を示した。

結論 インフルエンザ患者数の年齢構成は,2つの調査で大きな違いがみられた。インフルエンザが小児と成人の両方で流行する場合には動向は似るが,成人のみで流行が起こると,現在の発生動向調査ではとらえられない可能性があることが示唆された。薬局サーベイランスでは,すべての医療機関から処方せんを受けつけており,また面分業も広がっているので,特定の年齢に偏る可能性は医療機関より低い。勤労世代の罹患状況を迅速に把握することは,各企業等の事業継続計画(BCP)を運用するうえで重要であると考えられた。

キーワード インフルエンザ,発生動向調査,薬局サーベイランス,処方せん,年齢構成

 

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第60巻第1号 2013年1月

高校生の恋愛観・性役割観と家族形成意欲に関する調査研究

-男女共同参画社会に向けた若者への支援について-
齋藤 幸子(サイトウ サチコ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 内山 絢子(ウチヤマ アヤコ)
近藤 洋子(コンドウ ヨウコ) 原 美津子(ハラ ミツコ) 宮原 忍(ミヤハラ シノブ)

目的 少子社会における次世代育成策として,虐待やDV(domestic violence)とは無縁の養育力を備えた家庭形成を目標とした,若者への支援について検討する。その資料収集を目的に,高校生の将来の家族形成意欲と恋愛観・性役割観などとの関連を調べることとした。

方法 都内3カ所の公立高等学校の1〜2年生を対象として,倫理的配慮のもと集団調査法によりアンケートを実施し,2011年1〜4月に回収した有効回答554件について分析した。調査内容は,恋愛観,結婚意欲,出産意欲,発達課題(親密性,達成意欲,協調性,自尊感情),性役割観などであった。分析にあたっては,恋愛について積極的か消極的か,固定的な性役割を肯定するか否かの問いの回答によって,対象を4類型(1群「恋愛積極・性役割肯定」,2群「恋愛積極・性役割否定」,3群「恋愛消極・性役割肯定」,4群「恋愛消極・性役割否定」)に分け,群間の違いを検討した。4群が現在一般で使われている用語でいう「草食系」の概念に近いと考えられる。

結果 恋愛に積極的な1・2群は,恋愛に消極的な3・4群に比べて,親密性・家族形成意欲など多くの項目で値が高かった。1群の男性は自尊感情が男女通じて最も高かった。1群の女性は親密性が最も高いが,男女が互いに理解することが難しいと感じていた。2群は1群に次いで親密性,家族形成意欲が高いが,日本の将来は希望がもてると思う割合が最も低かった。3・4群は,ともに自尊感情・親密性が低く,特に3群男性は,子どもや子育てを肯定的に捉える得点が低く,異性の友達が少ないなど,家族形成に最も遠いと思われた。4群男性は,結婚を希望する割合が最も低かった。3・4群の女性は同じ群の男性に比べれば家族形成意識は高く,3群女性の8割,4群女性の7割は結婚を希望していた。

結論 男女共同参画社会を目指すわが国における家族形成は,恋愛に積極的で固定的性役割を否定する2群に期待がかかるが,この群が日本の将来に希望を持つ割合が低いことが問題である。一方,恋愛に消極的な3群や4群であっても,将来の家族形成意欲はある程度持っているので,自尊感情,親密性を育み,次世代育成力につながる支援が望まれる。固定的な性役割観をもつ1群については,互いを尊重し共生するための男女のパートナーシップを育み,現代社会に即した家庭形成の支援が必要となることが推察された。

キーワード 少子化,男女共同参画社会,次世代育成支援,恋愛観,性役割観,親密性

 

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第60巻第1号 2013年1月

健常者における手指巧緻動作と認知機能の関連

坪井 章雄(ツボイ アキオ) 門間 正彦(モンマ マサヒコ) 河野 豊(コウノ ユタカ)
中村 洋一(ナカムラ ヨウイチ) 新井 光男(アライ ミツオ) 林 隆司(ハヤシ タカシ)
大貫 学(オオヌキ マナブ)

目的 認知機能に関する研究では,健常者と認知症患者の認知レベルの違いに関する検討は行われているが,健常者の認知機能やそれと関連する動作能力について,年齢別の詳細な報告はない。本研究は,健常者の手指巧緻動作と認知機能の関連について年齢別に比較検討した。

方法 自宅で暮らす上で介助を要さない自立者で上肢運動機能障害のない者を対象とした。手指巧緻動作の指標としてIPU巧緻動作検査(Ibaraki Prefectural University Finger Dexterity Test:IPUT)を,知的能力の指標として改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いた。3~94歳の健常者2,247名(男性983名,女性1,264名)にはIPUTを測定し,その内18~94歳718名(男性272名,女性446名)にはHDS-Rも合わせて測定した。

結果 測定の結果,認知機能の指標としたHDS-Rは20歳代から50歳代まではほぼ変化がないが,その後加齢と共に徐々に低下することが示された。また,巧緻動作の指標となるIPUTでも同様に5歳より手指巧緻動作機能が向上した後は,ほぼ20歳代から50歳代までほぼ一定になり,その後加齢により低下する傾向が示された。一方,健常者に対するIPUT各サブテストの結果は,すべてで年齢群間に有意差がみられ,年齢とIPUT各サブテストはすべて有意な相関(0.445~0.583)を示した。また,年齢群ごとにIPUTとHDS-Rの相関を調べたところ,64歳以下の群に比べ65歳以上の高齢者群で有意な負の相関関係が多く示された。全年齢でみても,IPUT各サブテストとHDS-Rの相関はすべてで有意であった(-0.390~-0.488)。

結論 健常者でも高齢になると手指巧緻動作の低下と認知機能の低下に大きな相関を示すようになっていた。このことから,今後,動作性認知症スクーリング検査として応用できる可能性が示された。

キーワード 健常者,認知機能,ペグボード,手指巧緻動作,加齢

 

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第60巻第1号 2013年1月

食の外部化にみる都道府県単位の食品の消費パターンと
栄養習慣・食生活支援環境の関連性

児玉 小百合(コダマ サユリ)

目的 食の外部化評価による47都道府県の食品の消費パターンと,健康日本21の栄養・食生活分野の目標未達項目,地域の食生活支援環境との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 総務省平成21年度「全国消費実態調査」から都道府県の2人以上世帯(50,836世帯)月間食品消費(購入)金額を分析に用いた。32食品のデータのうち穀類,生鮮食品類,調味料の合計は家庭食の内食,調理食品計は家庭外調理食品を家庭で食べる中食とし,中食は主食的調理食品の中食⑴,他の調理食品の中食⑵に分類した。内食,中食⑴⑵,外食の4種を都道府県の食品の消費パターンを示す食の外部化指標とし,全国平均値における金額構成比,地域分布,指標間の関連を分析した。栄養習慣は脂肪エネルギー比率・野菜摂取量・食塩摂取量,食生活支援環境は世帯環境・食環境(生産・流通)・社会人口経済環境の指標を収集し,食品の消費パターンとの関連を分析した。

結果 2人以上世帯の金額構成比は内食(55.4%),外食(13.6%),中食(10.7%),中食⑴(41.3%)・中食⑵(58.7%),食の外部化率(24.3%)であった。単身世帯の食の外部化率(34.9%)は2人以上世帯と比較し,1.4倍高かった。指標間の関連,地域分布の類似性は内食・中食⑵(r=0.556),外食・中食⑴(r=0.578)に認められ,前者は高食塩・高野菜摂取量,後者は高脂肪エネルギー比率・低野菜摂取量の傾向を示した。重回帰分析の結果,内食は老年人口高割合(β,0.360),稲作経営体多数(β,0.768),中食⑵は共働き世帯高割合(β,0.576),中食⑴は離婚率高率(β,0.322),外食は食料低自給率(β,-0.633),人口高密度(β,0.361)などと有意な関連(p<0.05)を示した。流通支援環境は内食,中食⑵はスーパー購入金額(β,0.537,0.569),外食はコンビニ構成比(β,0.492)との関連が有意に認められた。

結論 都道府県の食品の消費パターンとして,4種の食の外部化指標を作成した。外食・中食の主食を含む食の外部化の消費パターンと,健康日本21の栄養・食生活分野の目標未達項目が関連する傾向が認められ,支援環境として食料低自給率,生鮮食品販売店の少ない流通環境,離婚率高率などの負の世帯環境が関連する可能性が明らかになった。

キーワード 食の外部化,消費パターン,全国消費実態調査,都道府県,支援環境,健康日本21

 

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第60巻第2号 2013年2月

縦断調査の厚生労働政策への応用に向けて

北村 行伸(キタムラ ユキノブ) 金子 隆一(カネコ リュウイチ)

目的 本稿は,厚生労働統計協会の委託により実施した「縦断調査データの厚生労働政策への応用に関する研究」の研究成果を紹介し,21世紀縦断調査の概説とその利活用への各方面からの参加の促進を目的としている。

方法 21世紀縦断調査(出生児,成年者,中高年者調査)は,出産,子育て,成長,就業,家族形成,引退期の健康・生活などの国民生活の重要な側面について,同一客体を長年にわたって追跡するパネル調査手法により動態の把握を行い,各種の厚生労働施策の企画立案等に資することを目指しているが,政府がこれまで実施してきた横断調査とはデータ管理,統計分析手法,結果の解釈,応用の仕方などが異なっており,調査実施部局だけでなく専門的分析を行う研究者の協力や政策形成現場との問題意識の共有などが必要である。本事業ではそうした枠組みの検討や素材となる研究を行い,さらに有識者によるアドバイザー・グループを組織して調査の利活用や方向性の検討を行った。

結果 同調査は因果関係の検証や政策効果の測定などに効果的なパネル調査であり,また3調査の組み合わせによって国民生活をライフコースの視点から体系的に捉えるという諸外国にも例を見ない特徴を有し,厚生労働行政において科学的知見に基づいた政策形成を図って行く上で有効であり,かつ科学的な政策形成過程構築の基礎となる調査である。

結論 調査実施,分析研究,政策形成の3分野の連携をはじめ,各方面からの協力による利活用が望まれる。

キーワード 21世紀縦断調査,パネル調査,科学的知見に基づいた政策形成

 

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第60巻第2号 2013年2月

介護支援専門員と主任介護支援専門員の支援関係の実態と課題

-両者におけるスーパービジョンに着目したアンケート調査から-
吉田 輝美(ヨシダ テルミ)

目的 本研究では,介護支援専門員を支援するための主任介護支援専門員が行うスーパービジョンの現状を明らかにし,両者の支援関係を検証した。地域包括支援センターの主任介護支援専門員と,特定事業所加算のある居宅介護支援事業所の介護支援専門員との関係についても検証した。

方法 調査は2010年2月2日~26日に実施した。対象者は,①特定事業所加算の指定を受けている居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員214名,②特定事業所加算の指定を受けている居宅介護支援事業所に勤務する主任介護支援専門78名,③委託型地域包括支援センターに勤務する主任介護支援専門員99名,④直営型地域包括支援センターに勤務する主任介護支援専門員69名,合計460名について集計・分析を行い,自由記述はカテゴリーに分類した。

結果 214名の特定事業所加算のある居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員のうち,スーパービジョンを「知っている」197名(92.1%)で,そのうち,スーパービジョンを「受けている」のは122名(62.0%)であった。①に該当するスーパービジョンを受けている介護支援専門員122名を対象とした,事業所内のスーパービジョンの機能に関しては,スーパービジョンが「十分ではないが機能している」と回答したのは58名(47.5%),「十分機能している」は47名(38.5%),「機能していない」は15名(12.3%)であった。スーパービジョン研修に,「まあまあ満足」81名(32.9%),「不満足」63名(25.6%),「十分満足」53名(21.5%)であった。「まあまあ満足」の自由記述は,「業務活用型」「業務活用不安型」に分類し,「業務活用不安型」は,「継続した学びの機会」「研修内容」「実践環境」「実践のあり方」のサブカテゴリーに分類した。「不満足」の自由記述は,「継続した学びの機会」「研修内容」「実践環境」「実践のあり方」「未受講」のカテゴリーに分類した。主任介護支援専門員同士の連携について気づいたことの自由記述は,「満足」「制度上の課題」「個人の力量」「改善案」のカテゴリーに分類した。

結論 両者の支援関係は,これまでの慣例主義による「実践環境」での立場の違いなどや,多忙業務により十分良好とはいえない。それには「継続した学びの機会」の無いことや「研修内容」に対する不満が関係し,併せて主任介護支援専門員のスーパーバイジーとしての経験の無さが,スーパーバイザーとしての力量不足となり,スーパービジョンが十分機能しない要因であると考えられる。主任介護支援専門員が,役割を遂行できるようにするためには,「制度上の課題」改善,「研修内容」の改善,「継続した学びの機会」の保障で業務に活用する不安を軽減し,実践できる主任介護支援専門員の人材育成を行うための条件整備が喫緊の課題であると考える。

キーワード 介護支援専門員,主任介護支援専門員,居宅介護支援事業所,地域包括支援センター,スーパービジョン,支援関係

 

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第60巻第2号 2013年2月

ホームヘルパーの確保と
定着への取り組みの現状と結果に関する研究

宮本 恭子(ミヤモト キョウコ)

目的 訪問介護事業者によるホームヘルパーの確保と定着への取り組みの現状を分析するとともに,ヘルパーの確保と定着を規定する取り組みの要因を明らかにする。

方法 まず,(社)シルバーサービス振興会が実施した「介護サービス従事者の人材確保に関する調査事業報告書」における個票データを用い,ヘルパーの確保と定着への取り組みの回答を解釈しやすくするため,探索的因子分析を実施した。分析は,確保と定着への取り組みの項目に分けて行った。次に,因子分析の結果抽出された尺度を説明変数として採用し,ヘルパーの確保と定着を規定している取り組みの要因を重回帰分析により検討した。なお,被説明変数には「仮にヘルパーを10人採用した場合,1年後に定着している人数は何人か」に対する回答によって把握する「定着状況」を採用した。統制変数には事業所の属性を考慮した。

結果 ヘルパー確保への取り組みについては2つの因子が抽出された。第1因子は,3項目から主に構成される「募集コスト重視型」の取り組みだと捉えることができた。第2因子は,2項目から主に構成される「情報提供重視型」対策をあらわしていた。ヘルパー定着への取り組みについては,3つの因子が抽出された。第1因子は,11項目から主に構成される「教育訓練充実型」対策だと捉えることができた。第2因子は,6項目から主に構成される「雇用条件整備型」対策だと考えられた。第3因子は,3項目からから主に構成される「人間関係重視型」対策をあらわしていた。ヘルパーの確保と定着を規定する要因としては,確保への取り組みである「募集コスト重視型」と,定着への取り組みである「教育訓練充実型」が定着状況に対してプラスに有意な影響を持っていた。一方,「雇用条件整備型」対策は,定着状況に対してマイナスに有意な影響を持っていた。

結論 ヘルパー募集の際,幅広い人材を集めるためにコストをかけることや,入職後に教育訓練機会を充実させることは,ヘルパーの確保と定着に一定の効果を発揮していた。今後,採用方法を工夫すること,ヘルパーの職務能力の向上に役立つよう能力開発の機会を設けることで,ヘルパーの確保と定着が促進する可能性が示唆された。

キーワード 訪問介護事業者,ホームヘルパー,定着と確保への取り組み

 

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第60巻第2号 2013年2月

社会性を育む統合保育の推進要因に関する研究

-フォーカス・グループインタビューを用いて-
松本 美佐子(マツモト ミサコ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
望月 由妃子(モチヅキ ユキコ) 徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 杉田 千尋(スギタ チヒロ)
宮崎 勝宣(ミヤザキ カツノブ) 枝本 信一郎(エダモト シンイチロウ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 40年にわたり統合保育を実施している保育専門職に対しグループインタビューを行い,質の高い統合保育とインクルーシブ教育の推進要因を明らかにすることを目的とした。

方法 障害児を積極的に受け入れている認可保育園の専門職に対してフォーカス・グループインタビューを実施した。対象は8名(男性4名,女性4名),社会福祉法人理事長,保育園の園長,主任クラスの保育専門職者,障害者の共同生活介護事業管理者であった。内容は,統合保育の原点と展開についてであった。グループインタビューから得られた結果をカテゴリー化し,質の高い統合保育を展開するための要因を抽出し分析した。

結果 質の高い統合保育の推進要因を「個の領域」「相互の領域」「地域システムの領域」の3領域に分類した。具体的な要因としては「共感性の獲得」「表現力の獲得」「自己効力感の獲得」「仲間同士のかかわり」「保育士のかかわり」「地域社会とのかかわり」「社会ニーズへの先見性」の6点であった。

結論 質の高い統合保育とは,仲間同士や保育士とのかかわりを通し子どもの社会性の育みを促進する保育である。インクルーシブ教育の推進には社会ニーズへの先見性,養育者にとどまらず地域住民を巻き込み地域の活性化に貢献するコミュニティ・エンパワメントの必要性が示唆された。

キーワード コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,保育専門職,子育て支援,統合保育

 

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第60巻第2号 2013年2月

山形県庄内地域における地域・職域がん検診受診者数の把握

菅原 彰一(スガワラ ショウイチ) 松田 徹(マツダ トオル) 田澤 縁(タザワ ユカリ)
富樫 真二(トガシ シンジ) 上野 晃一(ウエノ コウイチ)

目的 山形県庄内地域における地域,職域,任意型検診のがん検診受診者数を把握し,その推移を明らかにすることを目的とする。

方法 庄内地域の地域検診,職域検診,任意型検診のがん検診受診状況を把握するため,平成20~22年度の受診者数について各機関へ照会・集計した。また,市町が毎年取りまとめる「職場で受診予定」の人数を照会・集計し,概算を算出して,上記調査と比較検討した。

結果 主要部位(胃,大腸,子宮頸部,乳房)のがんでみると,胃がんと大腸がんでは地域検診と職域検診(任意型検診を含む,以下同じ)がほぼ同数であり,子宮頸がんと乳がんでは地域検診が多かった。平成22年度は地域検診と職域検診を合わせた受診者数が,すべての主要部位で平成20年度と比べて増加した。平成22年度の対20年度比は,胃がん,大腸がん,子宮頸がんで職域検診が地域検診に比べて増加数は大きく,また増加率も高かった。職場受診予定者の概算値でも,全部位で平成22年度の対20年度比は増加した。

結論 当地域において「職域」におけるがん検診受診者が胃がんと大腸がんで「地域」と同程度,子宮頸がんと乳がんで「地域」の4~5割程度存在することが確認され,「職域」における受診者数は「地域」に比べて増加傾向にあることが明らかとなった。本研究で捕捉することができなかった受診者については,引き続き検討を要することが示唆された。また,標本調査では申告と実態でかい離が生じる可能性があることと,正確な受診率の算定には含むべき課題があることについて言及した。

キーワード がん検診,受診者数,受診率,地域検診,職域検診,任意型検診

 

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第60巻第2号 2013年2月

訪問看護ステーションにおける
夜間・早朝サービス提供体制の変化

-2003年と2009年の全国調査から-
村嶋 幸代(ムラシマ サチヨ) 田口 敦子(タ口グチ アツコ) 永田 智子(ナガタ サトコ)
成瀬 昂(ナルセ タカシ) 桒原 雄樹(クワハラ ユウキ) 福田 敬(フクダ タカシ)
山田 雅子(ヤマダ マサコ) 田上 豊(タガミ ユタカ)

目的 本研究では,訪問看護ステーション(ST)における夜間・早朝訪問看護体制の変化を明らかにすること,および夜間・早朝の計画的訪問を実施しているSTの特徴を明らかにすることを目的として調査を行った。

方法 全国のSTに質問紙を送付し,郵送で回収した。2003年は全3,013カ所,2009年は全3,578カ所のSTを対象とした。STの属性,夜間・早朝の訪問看護の対応体制,電話対応の回数および臨時訪問回数,夜間・早朝の計画的訪問を実施していないSTにはその理由を尋ねた。分析方法は,単純集計の後,2003年と2009年の比較を行うことで6年間の夜間・早朝の訪問看護体制の推移を明らかにした。比較には,χ2検定,Fisherの直接確率検定,t検定,Mann-Whitney検定を用い,有意水準は両側5%とした。

結果 回収数は,2003年は1,891(有効回答62.8%),2009年は1,188(有効回答33.2%)であった。「2交替または3交替」の体制をとっているSTは,2003年と2009年を比較すると,0.3%から0.6%へと移行し,倍にはなったもののさほど変化がみられなかったが,夜間・早朝の計画的訪問の実績のあったSTの割合は,2003年と比べて2009年には,いずれの時間帯も増加傾向であった。計画的訪問を実施していないSTに時間帯別に「計画的訪問を実施していない理由」を尋ねたところ,2003年に比べて2009年には,「ニーズがない」がいずれの時間帯においても有意に減少し,一方で「ニーズはあるが人手が整わない」が有意に増加していた。

結論 ST利用者は,1カ所ST当たり50名程度と少ないため,小さなSTでは夜間・早朝の計画的訪問では安定的な利用者確保が難しい。よって,夜間・早朝には,複数のSTで連合体制を組めるような報酬体系や支援体制が必要である。具体的には,現在,医療保険では同一日には1カ所のSTしか報酬を請求できないことが連合体制の推進を阻んでいるため,日中と夜間とを分けて請求することを可能にする,地域ごとに夜間・早朝の訪問看護を担うべき基幹型のSTを設置する等の制度設計が急務である。さらに,ST管理者に夜間・早朝の利用者ニーズは認知されるようになってきたものの,訪問看護師不足が明らかとなった。地域全体の課題として保健所等で人材育成を行い,人材確保に取り組むことが肝要である。

キーワード 訪問看護ステーション,夜間・早朝訪問看護,全国調査,提供体制,在宅ケア

 

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第60巻第3号 2013年3月

中学生における喫煙と大麻など違法薬物に関する意識調査

舘 英津子(タチ エツコ) 磯村 毅(イソムラ タケシ) 渡辺 愛(ワタナベ アイ)
加藤 裕子(カトウ ユウコ)

目的 大麻はタバコと同様に煙の吸引により使用するため,喫煙の常習化からの進展が想定できる。今回,中学生を対象として喫煙と大麻など違法薬物に関する意識調査を行ったので報告する。

方法 愛知県内の2つ,および鹿児島県内の1つの公立中学の1~3年生の生徒 1,144名に,喫煙行動および大麻など違法薬物に関する無記名の自記式意識調査を実施した。1,024人より回答が得られ,そのうち意識調査部分のすべてが無回答,および調査の承諾を得られなかった8名を除く1,016名を有効回答として解析した。

結果 大麻などを手に入れるのは「簡単だと思う」または「何とか手に入ると思う」と回答した人(大麻などの入手可能群)は,1年,2年,3年の順に,76.0%,72.4%,76.8%であった。常習的喫煙の経験者(現喫煙者+前喫煙者)は順に,3.4%,1.9%,3.2%であった。常習的喫煙経験者とその経験のない人(非喫煙者+試し喫煙者)を比較すると,周囲に大麻などを所持または使用した人がいると回答した人は前者では24.1%で,後者の3.7%と比較して高かった(p<0.01)。大麻などをすすめられたことがあると回答した人は前者では13.3%で,後者の0.3%と比較して高かった(p<0.01)。大麻などを手に入れるのは「不可能」と回答した人のうち,大麻には中毒になる危険はない,もしくは大麻には犯罪に巻き込まれる危険がないと答えた人は,それぞれ12.7%,14.0%で,大麻などの入手可能群の3.1%,3.2%と比較して高かった(p<0.01)。

考察 対象とした中学では,多くの生徒が中学1年の段階から大麻などを入手しようと思えばできると考えていることがわかった。入手できないと回答した人は,入手できると回答した人に比べ大麻の危険性の認識が乏しい人が多く,現状に対する関心の低さと認識の甘さが懸念された。今後は,入手しようと思えばできるが,大麻をはじめとした薬物を,自分の意志で,主体的に,拒否していく態度を養うことを目指していく必要がある。また,多くの薬物のゲートウェイドラッグとなるタバコを吸わないという防煙教育を徹底することが大切と思われた。

キーワード 喫煙,大麻,違法薬物,ゲートウェイドラッグ,中学生

 

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第60巻第3号 2013年3月

引越後の高齢者における
年齢別にみた情報とサービスに関する要望

工藤 禎子(クドウ ヨシコ)

目的 引越した高齢者の年齢別にみた情報とサービスに関する要望を明らかにし,支援のあり方を検討する一助にすることである。

方法 一都市部の1年間の転入者全731人に質問紙を郵送し,回収した310通中299通を分析対象とした。分析は,年齢階級別に,引越後に困ったこと,知りたかった情報,あればよかったと思うサービス等の変数について,χ2検定,一元配置分散分析を行った。

結果 対象者は,男性118人,女性181人,平均年齢は75.6±7.2歳であった。69歳以下67人,70~74歳83人,75~79歳65人,80~84歳38人,85歳以上44人であり,この5区分別に分析を行った。引越後に困ったことは,80歳以上では「周辺環境が分からず外に出にくい」「家族に気を使う」が有意に多かった。引越後の情報源は,79歳以下は,ちらし・新聞,広報,市民便利帳からが多く,高齢な人ほど,介護保険サービス関係者と家族からが多かった。知りたかった情報は,79歳以下は交通機関についてが多く,80~84歳では老人クラブについてが多かった。高齢な人ほど介護保険等福祉サービスの情報を求めていた。引越した高齢者向けのサービスについては全体の64.9%があればよいと答え,80歳以上では,保健師等の訪問による相談を求める割合が有意に多かった。

結論 高齢者の引越後の生活の支援においては,前期高齢者が求めている外出先や交通機関の情報を広報やマスメディアを通じて提供すること,後期高齢者には個別の訪問型の相談や家族を通じた支援などが有用であることが示唆された。

キーワード 高齢者,介護予防,転居,年齢,情報,要望

 

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第60巻第3号 2013年3月

ラダートレーニングを用いた健康教室が
高齢者の運動器の機能向上に及ぼす影響について

吉村 良孝(ヨシムラ ヨシタカ) 本田 倫江(ホンダ ミチエ) 下瀬 裕子(シモセ ユウコ)
小野 政文(オノ マサフミ) 中村 弘幸(ナカムラ ヒロユキ) 江崎 一子(エザキ イチコ)

目的 高齢化が進む現代において,高齢者における心身の健康づくりは重要な課題である。高齢者における転倒は,運動器の機能低下が要因となり引き起こされる。先行研究において,トレーニングと運動器の機能向上との関係について報告されているが十分ではないと考えられた。このため,高齢者の運動器の機能向上に及ぼすトレーニング効果の検討がさらに必要となる。本研究の目的は,高齢者を対象に行ったラダートレーニングを用いた健康教室が,参加者の運動器の機能向上に及ぼす影響について検討することである。

方法 被検者は,豊後高田市在住の65歳以上で市が行う特定健診の結果,生活機能評価で運動機能の低下に該当する者23名である。内訳は男性3名,女性20名である。教室は週1回の頻度で合計5回実施した。1回の実施時間は90分である。この教室が運動器の機能向上に及ぼす影響について検討するため,教室前と終了時において開眼片足立ち,timed up and go test,5m通常歩行時間,5m最大歩行時間,椅子10回座り立ち時間を行った。

結果 timed up and go test,5m通常歩行時間,椅子10回座り立ち時間は,教室終了時に有意な短縮が見られた。開眼片足立ち,5m最大歩行時間は,教室前後の値に有意な変化は認められなかった。

考察 本研究で被検者の動的バランス能力,歩行能力が改善したことから,ラダートレーニングは転倒予防に有効ではないかと考えられた。また,実際のトレーニングでは,なかなかできない者,ラダーを何度も踏む者,ラダーにつまずく者,動きが逆になる者がいたが,トレーニングを繰り返すことによりこれらの問題は解消されて,被検者は達成感を得ていた。このことからラダートレーニングを高齢者の運動器の機能向上のトレーニングに用いる時は,本来の方法とは異なるが,素早さは重視せずゆっくり正確に行うことが重要ではないかと考えられた。

キーワード 高齢者,運動指導,ラダートレーニング,介護予防,運動器の機能向上

 

論文

 

第60巻第3号 2013年3月

乳幼児をもつ女性保護者の育児ストレスの
労働形態別にみた多母集団同時分析

池田 隆英(イケダ タカヒデ)

目的 育児をめぐる事件は,注目されて久しく,今日もなお絶えない。その背景に育児ストレスとの関連が指摘されてきたが,従来の実証研究では要因分析が十分に行われていない。そこで,乳幼児をもつ女性保護者を対象にして,育児に関するアンケート調査を行った。本稿では,労働形態別に育児ストレスの要因分析を行うことで,子育て支援の課題を明らかにすることを目的とした。

方法 調査は,2007年11~12月,乳幼児をもつ保護者1,911名に調査票を配布して実施した。回収数1,219部,回収率63.8%,有効回答1,156部,有効回答率60.5%であった。本稿では女性保護者(n=1,125)を分析対象とした。質問項目のうち,気になる様子,子育て環境,自尊感情,子育て状況を独立変数,ストレス反応を従属変数に,重回帰による労働形態別の多母集団同時分析を行った。

結果 ストレス反応に対して,特に,気になる様子や自尊感情が,3つの労働形態に共通して有意な影響をもつ。また,子育て環境や子育て状況の一部の因子は,2つの労働形態あるいは1つの労働形態だけで,有意な影響をもつ。しかも,労働形態のすべてに共通する要因,フルタイムとパートあるいはパートと専業主婦に共通する要因,専業主婦に固有の要因があることがわかった。すなわち,賃労働を行うフルタイムやパートタイムの場合,「暴力の表出」をするほどストレス反応が現われやすい。フルタイムの労働ではないパートタイムや専業主婦の場合,子どもと離れた「1人の時間」がないほどストレス反応が現われやすい。賃労働を行っていない専業主婦の場合,社会的なサポートのある「良好な環境」がないほど,ストレス反応が現われやすい。

結論 育児ストレス反応に対する相対的影響は,労働形態と単純に対応しているわけではない。今後,育児ストレス反応の要因分析では,労働形態別の複雑な相対的影響を丹念に分析する必要がある。また,労働形態は経済階層や文化階層と関連が深いことから,育児ストレス反応が階層性と関連することを考慮して,より実態に即した子育て支援策が必要であると考えられる。

キーワード 乳幼児,女性保護者,育児ストレス,労働形態,育児行動,多母集団同時分析

 

論文

 

第60巻第3号 2013年3月

茨城県市町村の健康余命(寿命)と健康格差の関連要因

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 澤田 宜行(サワダ ノブユキ)
山田 大輔(ヤマダ ダイスケ) 星 旦二(ホシ タンジ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 「健康日本21」に続く新しい「次期国民健康づくり運動プラン」では,健康寿命の延伸に加えて,健康格差の縮小が目標とされている。健康寿命の延伸と健康格差の縮小の背景には,2042年以降,高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇し続けること,社会格差を示すジニ係数が一貫して拡大し,そのことが健康格差を拡大させていることがあげられる。本研究は,茨城県の市町村(N=44)を単位に,主要な社会統計指標を選定し,これらの指標と,健康寿命の一つである障害調整健康余命(DALE)および障害をもつ割合である加重障害保有割合(WDP)との関連について検討し,茨城県における健康余命に影響を及ぼす要因と健康格差を生じさせる要因を明らかにすることを目的とした。

方法 選定した指標を健康指標,保健医療指標,人口学的指標,社会経済指標に4区分した。年齢調整WDPとDALE(65~69歳)(以下,DALE)との関連要因の解析には,Spearmanの順位相関係数を用いた。重回帰分析はステップワイズ法を用い,年齢調整WDPとDALEを従属変数とし,区分ごとの指標を説明変数として投入して,分析を行った。

結果 格差の大きかった要因は一般病院病床数,医師数であった。指標との関連は,女性の年齢調整WDPは保健医療指標,人口学的指標,社会経済指標との間に有意な相関が認められた。男性のDALEはすべての健康指標との間に有意な負の相関が認められた。また,男女ともDALEは高齢夫婦世帯数,高齢単身世帯数との間に有意な正の相関,公的年金の160万円以下との間に有意な負の相関,産業別就業人口割合(第二次産業)(以下,第二次産業就業人口割合)との間に有意な負の相関が認められた。重回帰分析の結果,男性の年齢調整WDPはどの指標とも有意な関連が認められなかった。女性は,悪性新生物,公的年金300万円以上の2変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。男性のDALEは,悪性新生物,不慮の事故,高齢世帯夫婦の3変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。女性のDALEは,悪性新生物,公的年金160万円以下と300万円以上,第二次産業就業人口割合の4変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。

結語 茨城県においては,悪性新生物が男女の健康余命の延伸を阻んでいる可能性があること,健康余命の延伸にはある一定以上の収入が必要であること,産業構造による健康格差を縮小する必要があることが示唆された。さまざまな地域特性を有する茨城県では,その特性に合った健康余命を延伸させ施策,および健康格差を縮小させる施策の策定が急務である。

キーワード 障害調整健康余命(DALE),加重障害保有割合(WDP),健康余命の延伸,地域格差,健康格差

 

論文

 

第60巻第4号 2013年4月

第14回OECDヘルスアカウント専門家会合の報告

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌において,第10回OECDヘルスアカウント専門家会合から報告をしてきた。今回は,2012年10月10~11日に開催された第14回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。

 ここ数年の議論の中心であったSHAの改定作業も2011年6月に終了したため,今回の会合は,SHA2011に準拠した推計を行うに当たっての諸外国間での情報共有,データ提出のスケジュール調整等が中心であった。

Ⅰ は じ め に

 SHA(System of Health Account)は,OECD(経済協力開発機構)加盟国の国民保険計算(National Health Accounts)を推計する際のガイドラインである1)。国民保健計算には,傷病の治療に要する医療費に加えて,長期ケア(介護保険),健康増進・疾病予防,一般薬(OTC),保険制度の運営,設備投資等も含めた保健医療に関する支出が含まれる。

 日本の国民医療費(厚生労働省統計情報部)は,推計範囲が公的な医療保険対象の費用(支出)を推計したものである2)。しかし,諸外国と比較する際には,国によって公的医療保険の対象範囲も異なるために,現在では事実上のグローバルスタンダードになっているSHA準拠の推計値が用いられることが多い。OECD加盟国は2001年から,このSHAに沿った推計結果を総保健医療支出としてOECD事務局に提出している。提出データはOECD事務局が検収・編集して,OECD.Statとしてインターネット上で公開されている3)。

 2006年,OECDヘルスアカント専門家会議において急速な医療技術の進歩,多くの国で複雑化している保健医療システムをより正確にモニタリングするための改良が求められていた等の理由から,SHA(以下,改定以前をSHA1.0)の改定作業が始まった。この改訂作業は,通常はOECD加盟国間でも同意を得ることが難しいことが多いのが実情であるが,より広範囲の国での適用も視野に入れてWHO(世界保健機関)とも共同したため(WHOは開発途上国への適用を目的としており,先進国が主たるメンバーのOECDとは興味・関心が異なる場合がある),合意形成に至るまでに多くの労力と時間を要した。だが,当初の予定より半年の遅れが生じたものの,2011年6月にSHA1.0の改訂作業は終了し,改訂版SHAはSHA2011という名

 

論文

 

第60巻第4号 2013年4月

OECDヘルスデータ担当者会合(2012)の報告

中山 佳保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

 OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,ウェブ上のデータベース「OECDヘルスデータ」として,毎年公表している。データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当者会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2012年10月11,12日に開催された会合(於パリ,参加者数約90名)の議論について報告する。

Ⅱ 2012年OECDヘルスデータ担当者会合

 OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,提示された議論のポイントについて参加国が発言する形式をとる。議長団は形式的に立候補と選挙により選ばれ,今回は,Francis Notzon氏(米国),MikaGissler氏(フィンランド)が共同議長,またスイス,豪州の担当者が議長団のメンバーとなった。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる。

 ここ数年来の慣例であるが,今回も前半は,ヘルスアカウント専門家会合との合同セッションの場が設けられ,後半がヘルスデータ担当者による単独会合となった。議題は,表1のとおり,多岐にわたるが,その中から,疾病別医療支出,乳児死亡,健康格差の議論についてご紹介する。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイトから参照可能であるので適宜ご参照いただきたい注1)。

 

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第60巻第4号 2013年4月

グループホームにおける管理者の仕事裁量に関連する要因

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 岸田 研作(キシダ ケンサク)

目的 グループホームに勤務する管理者の仕事裁量に関連する要因を明らかにすることである。

方法 対象は,WAMNETに登録されている全国のグループホームから無作為抽出(抽出率70.0%)された6,064のホームの管理者である。調査内容は,管理者特性(性別,年齢,職業資格,勤務年数,認知症介護経験年数),管理者の仕事裁量度合い,事業主体に関する項目である。管理者の仕事裁量度合いと項目を,χ2検定とKruskal-Wallis検定を用いて分析をした。

結果 分析対象となったのは,1,575のグループホームの管理者であった。管理者の仕事裁量度合いに有意に関連したものは,年齢が高い,勤務年数が長い,認知症介護の経験が長いであった。資格では,看護師・ケアマネジャー・社会福祉士の資格をもつ者は,資格をもたない者に比べ仕事の裁量度合いが有意に多かった。また,事業主体では,有限会社やNPOで働いている管理者は,仕事の裁量度合いが有意に多かった。

結論 社会福祉法人や医療法人の事業主体で働く管理者の仕事の裁量度合いは,少ない割合を示した。このことは,社会福祉法人や医療法人で働く管理者は,グループホーム独自の介護方針・目標を認めてもらえてない可能性があると考えられる。今後は,グループホームの管理者の仕事裁量と離職の関連について直接検討できるような調査を設計することである。

キーワード 認知症高齢者グループホーム,グループホームの管理者,仕事の裁量

 

論文