第57巻第4号 2010年4月 日本の出生体重低下に関する統計的研究-世界58カ国における日本の状況-阿部 範子(アベ ノリコ) 孫 超(ソン チョウ) 島田 友子(シマダ トモコ)緒方 昭(オガタ アキラ) |
目的 日本の出生体重平均値は,1975年以降低下を続け,低出生体重児割合は増加しつつある。 その原因を探るに当たって,この様な現象が,日本のみに観察されるものか否かを明らかにする事を目的とした。
方法 世界人口年鑑1986,1999年版(国際連合発行)を資料として,1998年前後における出生体重平均値と低出生体重児割合が算出可能な58カ国を観察対象国とし,出生体重平均値,低出生体重児割合,妊娠期間平均値,母の年齢平均値,複産率,出生性比を検討指標とした。観察対象国の最近年値について,平均値,%,比を算出し,それぞれの度数分布を作成し,分布内における日本の位置をz値(標準評価値)で示す。次いで1977年から1998年に至る間の資料より,各検討指標の年間変動量を求め,その分布内における日本の位置をz値で評価する。
結果 各検討指標の最近年値の分布における日本の位置:出生体重平均値はz=-1.56と分布の低位置にあるが,低出生体重児割合並びに他の検討指標は,分布の平均値付近に位置する。年間変動量分布における日本の位置:出生体重平均値はz=-1.80と低位置を占め,低出生体重児割合はz=+1.27と高位置に存在するが, 他の検討指標は分布の平均値付近に位置する。
結論 1998年における日本の出生体重平均値は観察対象国中低位置にあり,タイ,フィリピン,スロバキアと共に低出生体重児割合が多い。しかし,出生体重の分布範囲(標準偏差)が他国より狭いために,上記3カ国より低出生体重児割合は少ない。また,年間変動量の観察から,日本の出生体重平均値の低下速度,および低出生体重児割合の増加速度は,観察対象国中速い。なお,出生体重への影響要因と考えられる妊娠期間,母の年齢,複産割合,出生性比は,観察対象国の中で平均的な推移を示している。日本の出生体重平均値の低下,低出生体重割合の上昇の状況は特異的で,しかも,妊娠期間,母の年齢,複産割合,出生性比は,その変動要因とは考えられず,日本のみに存在する特有の要因によるものと推測する。
キーワード 出生体重,低出生体重児割合,複産児割合,世界人口年鑑