第53巻第6号 2006年6月 脳卒中データバンク(JSSRS)による
汐月 博之(シオツキ ヒロユキ) 大櫛 陽一(オオグシ ヨウイチ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ) |
目的 脳卒中発症患者におけるアルコール摂取量と重症度の関係についての報告はほとんど見かけないことから,全国規模の脳卒中患者データベース(JSSRS)による患者データを用いて,脳梗塞発症患者の過去の飲酒量と入院時重症度,退院時重症度,そして退院時の認知症との関連を調べることを目的とした。
方法 JSSRSの登録患者データ中,脳梗塞発症患者9,991例を対象として,過去のアルコール摂取量を,「0:ほとんど飲まない,1:機会飲酒,2:毎日1~2合,3:毎日2~3合,4:毎日3合以上,5:大酒家」と順序データ化し,アルコール摂取量と入院時重症度,退院時重症度,退院時の認知症発症の関係について,統計的手法により有意なアルコール摂取量を特定した。その際,多重比較の欠点を補うため,p<0.001を真の有意差とした。
結果 (1)入院時重症度は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で良くない傾向があった(p<0.05)。(2)退院時重症度は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で良くなかった(p<0.001)。(3)退院時の認知症発症は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で高かった(p<0.001)。
結論 アルコール摂取量と入院時重症度の明確な関連はみられなかったが,退院時重症度と退院時の認知症の存在はアルコール摂取量との間にJカーブ(Uカーブ)現象を示し,適度な飲酒(毎日1~3合まで)をしていた者は退院時の重症度や認知症への影響が有意に低かった。また,これらの者は在院日数も有意に短かった。
キーワード 脳梗塞,アルコール,予後,重症度,Jカーブ,リスク