第52巻第4号 2005年4月 日本人渡航者のマラリア予防対策についての状況川上 桂子(カワカミ ケイコ) 木村 幹男(キムラ ミキオ) 橋本 迪子(ハシモト ミチコ)青木 和子(アオキ カズコ) 浜田 勝(ハマダ マサル) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) |
目的 日本人渡航者が,マラリアに対する基本的知識,渡航先の流行の有無,帰国後にマラリア発症を疑うときの対処方法などについて認識できているかを明らかにし,日本人渡航者にはどのようなマラリア対策が必要なのかを検討する。
方法 2001年10月末から12月中旬の期間に,東京検疫所と大阪検疫所に予防接種を受けに来所した16歳以上の日本人渡航予定者に対して,自記式質問紙票を用いた調査を行った。調査内容は,渡航歴,渡航形態,渡航頻度,マラリアに対する基本的な知識(病名・症状・感染経路・予防法)の有無,渡航先のマラリア流行状況の把握の有無とその情報源,マラリアに関する知りたい情報,帰国後風邪症状が続く場合の対処行動,帰国後マラリアが疑わしい場合の相談先の把握の有無など,計25項目とした。
結果 調査依頼数468通のうち,回収数(率)は284通(60.7%)であった。そのうち,渡航国にWHOが規定するマラリア流行地を含む248通(53%)を有効回答とした。85%の者がマラリアの感染経路を「蚊」と正解回答し,83%の者がマラリアの主な症状を「発熱」と正解回答したが,マラリアの第1の予防法について「蚊に刺されないこと」と正解を答えた者は69%であった。渡航先でのマラリア流行の有無について「知っている」と回答した者の割合は41%と少なかった。渡航先のマラリア流行の有無の情報源は,「旅行の本・雑誌・ガイドブック」が最も多く,「旅行会社」は少なかった。また,80%の者は,帰国後マラリアが疑わしいときの相談先を「知らない」と答えていた。
結論 日本人渡航者のほとんどは,マラリアの病名,感染経路,主な症状についての知識は有していた。しかし,マラリアの予防法である渡航先の流行状況についての情報の入手,マラリアが疑わしいときの対処行動および相談先など,渡航者が自分で身を守るために必要な知識,態度が不足していた。今後,⑴渡航者が自分で身を守るという意識改善を目指す効果的な啓発を行うこと,⑵旅行会社が渡航者にマラリアについての正しい情報提供を行うことと,そのための公的機関(検疫所,保健所など)による支援が行われること,⑶国内各地でのマラリアを扱う医療機関が広く認知されること,が望まれる。
キーワード 渡航者,マラリア,予防,情報提供