第59巻第2号 2012年2月 在日コリアンの人口高齢化と死亡の動向-死亡・死因統計に関する日本人との比較分析-李 錦純(リ クンスン) 李 節子(リ セツコ) 中村 安秀(ナカムラ ヤスヒデ) |
目的 旧植民地時代に日本に渡航した在日コリアンは,長期在住により高齢化し,65歳以上の高齢者人口は10万人を超えた。日本社会の高齢化と同時期に高齢化した在日コリアンの健康水準を把握することは,顕在化している保健医療福祉問題を明確化する上で重要である。本研究は,在日コリアンの高齢化の推移と人口学的特徴を明らかにするとともに,健康水準を評価する指標として,死亡・死因統計について,日本人との比較分析により検討した。
方法 厚生労働省の人口動態統計(1955~2008年)および法務省の在留外国人統計(1959~2009年)を用いて,高齢者人口の推移と死亡数,死亡率,主要死因別死亡数,日本人を基準人口とした標準化死亡比を算出し,その推移を観察した。
結果 在日コリアンの高齢化率は2009年には17.8%,後期高齢者数は一貫して女性が多かった。死亡率は,日本人より低値で経過しているが,日本の社会情勢や高齢化に同調して,類似したパターンで推移していた。総死亡数に占める65歳以上の死亡数の割合は,1955年の10.5%から2005年には総死亡数4,660人に対し3,332人と,71.5%を占めるようになった。標準化死亡比(SMR)において有意に高い値を示したのは,男性の全年齢では「悪性新生物」「脳血管疾患」「不慮の事故」「自殺」,65歳以上では「悪性新生物」「自殺」であり,「自殺」は2.60と顕著であった。女性の全年齢では「心疾患」が一貫して高かったが,65歳以上において2009年には有意差は認められず,日本人と同水準を示すに至った。
結論 近年における在日コリアン人口の著しい高齢化が認められた。人口高齢化を反映し,高齢者人口の死亡数の経年的増加が認められ,今後も在日コリアン高齢者の保健医療ニーズは高まるものと推察される。SMRにおいても性差が表れており,女性高齢者は日本人と類似した傾向だが,男性高齢者は,悪性新生物と自殺において日本人以上に高値を示した。男性高齢者における悪性新生物の部位別死亡率の検討や社会環境要因の明確化とともに,日本人に対する自殺対策だけでなく,在日コリアンをも含めた自殺の原因究明など,実態に即した自殺防止対策を早急に推進していくことが求められる。
キーワード 在日コリアン,高齢者,死亡率,死因統計,標準化死亡比