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第56巻第10号 2009年9月

若年女性の健康を考える子宮頸がん予防ワクチン接種の意義と課題

荒川 一郎(アラカワ イチロウ) 新野 由子(ニイノ ヨシコ)

目的 子宮頸がんの発生は,発がん性のHPV(Human Papillomavirus)の感染が主要因である。HPVは性交渉によって子宮頸部粘膜へ経路する。近年,若年女性の性交渉率と性感染症の増加が問題となっている。また,子宮がん検診の受診率は欧米に比べて日本では24%程度と極端に低く,さらに20~30代の若年女性で子宮頸がんの発生が増えている。今回著者らはその要因について考察し,子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の意義,そして包括的なリプロダクティブ・ヘルスへの対策について検討した。
方法 マルコフモデルを用いて,がん検診率50%によるアウトカムの計量化を予備的に試みた(費用効用分析,社会全体の立場)。そして,20~30代女性の立場からHPVワクチンの臨床的,経済的アウトカムへの影響について検討を行った。分析手法は,費用便益分析を用い,観察期間を10歳からの30年間とし,年率3%で割引いた。いずれの検討も,モデル計算に必要な変数は,国内外の公表文献や国内の統計データより得た。
結果 定期検診率向上に関する予備検討の結果,生涯における子宮頸がんの発生率や死亡率は13~14%減少することが示唆されたが,増分費用効果比が約1兆700億円/QALY(quality-adjusted life year)と非効率的であった。12歳児のコホート(n1=589,000)へのワクチン接種(接種率100%)は,非接種(n2=589,000)と比較して,20~30代における子宮頸がんの発生や子宮頸がんによる死亡を減少させることができ,そして約12億円の純便益が得られると推計された。
結論 今回の検討結果から,検診率の向上だけでは子宮頸がんの発生を抑えるには十分ではなく,非効率的であるため,若年女性の立場からHPVワクチン接種の意義が示唆された。しかし,わが国の若者の多様な性行動に対する対策を検討する必要性が考えられ,子宮がん検診の向上とHPVワクチンの集団接種の導入に加え,諸外国の対策を参考として性の健康に関する正しい知識を提供する性教育の浸透という多角的な対策が,現実的に今回推計した便益の獲得につながると期待する。リプロダクティブ・ヘルス,生涯を通じた女性の健康への対策として,社会全体で子宮頸がん撲滅ための取り組みが今求められているのではないだろうか。
キーワード 子宮頸がん,HPV,ワクチン,疾病負担,性感染症,性教育

 

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