第55巻第13号 2008年11月 乳幼児を持つ母親の子育て不安に影響を与える要因-子育て不安と児童虐待の関連性-八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ) 小河 孝則(オガワ タカノリ) 田口 豊郁(タグチ トヨヒロ)下田 茜(シモダ アカネ) |
目的 児童虐待の背景の1つとして子育て不安やストレスが高まっていることが指摘されていることから,子育て不安に影響を与える要因の検討を行い,今後の子育て支援の課題を明らかにすることを目的とする。特に子育て不安と母親の虐待的傾向・被虐待的経験との関連性について検討を行った。
方法 調査は,2006年2月に保育所5カ所,幼稚園3カ所の合計8カ所において,保護者を対象に留置き調査を実施した。配布数は877,回収数は418,回収率は47.7%,有効回答数は387,有効回答率は92.6%であった。調査内容は,保護者・家族の概要,子育て状況,子育て観,子育て不安・ストレス,子どもへの虐待的傾向,保護者の被虐待的経験の合計74項目であった。分析するに当たって,項目反応理論を用いて,子育て不安・ストレス・虐待的傾向・被虐待的経験に関する項目母数値の推定と被験者母数の推定を行った。
結果 項目反応理論を用いた項目母数の検討を行った結果,子育て不安は18項目,ストレスは6項目,虐待的傾向は4項目,被虐待的経験は4項目を使用した。子育てサポートと子育て不安の関連性,虐待的傾向・被虐待的経験と子育て不安の関連性が認められた。子育て不安得点と虐待的傾向得点の間にはかなり相関があった(r=0.491,p<0.01)ことから,子育て不安が保護者の虐待的傾向に関連していることがわかった。心理的虐待傾向(無視)と心理的被虐待経験(無視)の間にかなり相関があり(ρ=0.444,p<0.01),世代間伝達が推察された。
結論 地域の実情にあった効果的な子育て支援を進めていくためには,子育て状況を測定する尺度の開発,地域や家庭における子育て支援システムの構築,子育て支援のための実践プログラムの開発の重要性が示唆された。
キーワード 子育て支援,子育て不安,児童虐待的傾向,被児童虐待的経験,項目反応理論