第55巻第10号 2008年9月 短時間および長時間の過激な
網中 雅仁(アミナカ マサヒト) 渡辺 尚彦(ワタナベ ヨシヒコ) 高田 礼子(タカタ アヤコ) |
目的 過度の運動負荷から生じる酸化ストレスの生体影響を尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)濃度の測定によって明らかにし,生体影響を数量化して評価する方法を検討した。
方法 本研究では過度な短時間運動負荷による生体影響と長時間運動負荷による生体影響を調べるために,2つの調査対象者群を設定した。短時間運動負荷はトレッドミルを用いた運動負荷実験を行った。対象者は負荷実験前後24時間の蓄尿と負荷実験直前後のスポット尿を採取した。また,負荷実験中はMason-Likar誘導法による12誘導心電図と血圧を測定し,Bruce法による運動負荷を用いて被験者の状態を判断しながら最大心拍数の90%(目標心拍数)程度に達した時点まで負荷実験を行った。一方,長時間運動負荷には,マラソン競技会参加者を対象者とした。対象者にはホルター血圧計を取り付け,マラソン走行時の運動負荷量を確認した。また,競技前後におけるスポット尿と血液を採取した。酸化ストレスの指標には尿中8-OHdG濃度を測定し,評価した。
結果 短時間運動負荷の8-OHdG濃度では,負荷直後が負荷前日や負荷直前と比較して低下傾向であった。また,負荷実験前日,直前,直後に有意差は認められなかった。一方,負荷実験後日の蓄尿では有意な上昇を認めた(p<0.01)。長時間運動負荷のマラソン競技者における尿中8-OHdG濃度は,競技前後で比較して約2.2倍の有意な上昇を認めた(p<0.01)。また,競技後の尿中8-OHdG濃度は健常者対照群の約2倍になり,運動負荷による有意な上昇が認められた(p<0.01)。
結論 尿中8-OHdG濃度の実測値では負荷直前が,負荷直後に比較して上昇傾向を示した。一方,尿中8-OHdG濃度補正値では,短時間の運動負荷直後において低下傾向を示し,これは補正に用いたクレアチニン濃度が約12%上昇したためであった。短時間の運動負荷では,酸化ストレス指標である8-OHdG濃度の上昇がクレアチニン濃度の上昇よりも遅延することが推察された。短時間の運動負荷では,クレアチニン補正の使用に注意が必要である。一方,マラソン競技者の尿中8-OHdG濃度は,競技後急激に上昇し,約3時間の過度な有酸素運動が酸化的DNA損傷を生じさせた。また,酸化ストレス消去能には個人差のあることも推察された。尿中8-OHdG濃度の測定は過度の有酸素運動を判断する指標として有用性が期待でき,個々の有酸素運動の適正な負荷量を数量化して判断する指標として今後さらに検討すべき課題であると考えられた。
キーワード 運動負荷,酸化ストレス,8-OHdG,トレッドミル,マラソン