第54巻第4号 2007年4月 母親の育児関連Daily Hasslesと児に対するマルトリートメントの関連唐 軼斐(ト ウジヒ) 矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) |
目的 母親の育児に関連したDaily Hassles(DH)の経験頻度およびストレス強度を明らかにし,Hillsonらのモデルに基づき,育児関連DHの経験頻度およびストレス強度と,虐待やネグレクトといったマルトリートメント(不適切な関わり)との関連を検討することを目的とした。
方法 2004年11月現在,S県S市内の協力の得られた保育所16カ所を利用していたすべての母親1,700人を対象に,無記名自記式による質問紙調査を実施した。育児関連DHの測定には,Parenting Daily Hassles Scale(PDH)を日本語訳して使用した。母親の児に対するマルトリートメントは,母親の子どもに対するマルトリートメント傾向指標を用いて測定した。統計解析には構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling: SEM)を使用し,育児関連DHの経験頻度が,それら育児関連DHのストレス強度を介して,児に対するマルトリートメントの実施頻度に影響を与えるといったモデルを構築し,そのモデルのデータに対する適合度と各変数間の関連を検討した。
結果 育児関連DHの経験率をみると,ほとんどの項目において8割以上の母親が経験していた。また,育児関連DHに対するストレス強度得点も,米国の母親を対象とした先行研究とおおむね一致していた。SEMの結果,育児関連DHの下位領域「育児タスク」の経験頻度が高い者ほど,ストレスを強く感じ,心理的虐待およびネグレクトの発生頻度が高かった。また,育児関連DHの下位領域「挑戦すべき児の行動」の経験頻度が高い者ほど,ストレスを強く感じ,身体的虐待と心理的虐待の発生頻度が高かったことが明らかとなった。
考察 育児タスクが心理的虐待やネグレクトを促進していたことから,育児ストレス軽減のために,育児の代行機能を有する託児サービスの重要性が示唆された。また,児の挑戦すべき行動が身体的虐待と心理的虐待と関連していたことから,母親が児の挑戦すべき行動に適切に対応できるように,地域育児教室や両親教室等の機会を利用して,児の発育や発達に関する情報提供や児の挑戦的な行動に対する母親の受容的な態度の養成を促す必要性が示唆された。
キーワード 児童虐待,ストレス,母親,育児