第60巻第6号 2013年6月 高齢者における首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)
松井 美帆(マツイ ミホ) 大野 安里沙(オオノ アリサ) |
目的 高齢者の首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)は人間を身体面だけでなく,精神的,社会的,さらには価値観・信念が反映された全体的な存在として捉えることが重要であるが,わが国のこれまでの報告ではSOC短縮版を用いたものが多く,類似概念との関連を検討した研究は十分に行われていない。そこで本研究では,一般高齢者を対象にSOCと自己効力感との関連を明らかにする。
方法 対象は九州地方のA県B市の老人クラブ会員300人で,このうち質問紙調査に有効回答の得られた182人を分析対象とした。調査内容は29項目からなるSOC評価スケール日本語版,一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES),基本属性として年齢,性別,世帯構成,教育歴,健康状態,経済状態,別居家族・友人との交流等であった。
結果 対象者の平均SOC得点は平均137.4±20.4点であった。SOCとGSESの相関については,総得点では有意な正の相関(r=0.464,p<0.001)を認めた。また,各尺度の因子間および,両尺度の因子間についてもすべて有意な正の相関が認められた。さらに,単変量解析においてSOCと関連が示唆された経済状態,友人との交流,GSESに年齢,性別を加えて独立変数とし,SOCを従属変数として重回帰分析を行った結果,GSESが関連要因として認められた。
結論 高齢者のSOCは一般成人よりも強く,老年期においても生命力あふれる人生を生きる可能性が開かれていることが示唆された。また,自己効力感との関連も認められたことから,身体面だけでなく,社会面や価値観・信念について考慮することが重要である。
キーワード 首尾一貫感覚,自己効力感,高齢者,ストレス