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第61巻第8号 2014年8月

日本の自殺率上昇期における地域格差に関する考察

-1973~2002年全国市区町村自殺統計を用いて-
岡 檀(オカ マユミ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
椿 広計(ツバキ ヒロエ) 山内 慶太(ヤマウチ ケイタ)

目的 筆者らは,これまでに行った自殺に関する地域研究により,たとえ経済問題のような危険因子に等しく曝露されたとしても,「自殺希少地域」においては何らかの自殺予防因子が機能することによって,自殺率の発生が抑制されるという知見を持つに至った。わが国では1980年代と1990年代の2回,経済危機を背景とした全国規模の自殺率急上昇が起きている。先行研究を踏まえれば,過去の経済危機において全国一律に自殺率が上昇したわけではなく,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」では,その上昇度に差異が生じていた可能性がある。本研究は,その仮説を検証することを目的としている。

方法 解析には1973~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。自殺SMRの高低により,全国市区町村を4群に分類した。まず,これら4群の30年間の自殺率の推移を概観した。次に,過去2度の経済危機時の,前後5年間の人口10万対自殺率平均値を算出し,前後2つの差を求めて「自殺率上昇度」の指標とした。自殺率の高低により分類した第1群「自殺希少地域」~4群「自殺多発地域」の,自殺率上昇度の傾向について,χ2検定を行って比較した。4群ごとに,箱ひげ図を描いて自殺率上昇度の分布を確認した。また,自殺率上昇度の平均値をプロットした。

結果 30年間を通じて,第1群「自殺希少地域」は一貫して,4群中最も低い自殺率で推移し,第4群「自殺多発地域」は最も高い自殺率で推移していた。2度の経済危機時ともに,「自殺希少地域」は上昇度が最も小さく,有意差があった。また,「自殺希少地域」の上昇度は他の群に比べ,ばらつきが小さかった。1980年代に比べ1990年代は,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」の上昇度の差がより小さかった。

結論 経済の悪化は,自殺率を高める最大要因の一つとして考えられている。しかし,経済苦という危険因子そのものを減らすことの他に,危険因子に対する耐性を強めるという視点を加えることが,新たな自殺対策をひらく手掛かりになると考えられる。

キーワード 経済危機,自殺率上昇,自殺希少地域,自殺多発地域,自殺予防因子,自殺危険因子

論文