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第55巻第1号 2008年1月 日本の損失生存可能年数(YPLL)-10年間の推移-今井 博之(イマイ ヒロユキ) |
目的 1995年にわが国の死亡統計がICD-10に変更されて以降,2005年までの10年間に,損失生存可能年数(Years of Potential Life Lost:以下,YPLL)値がどのように変化したかについて調べた。
方法 該当する年の日本の人口動態統計から得た疾患別・年齢階級別の死亡数を用いて65歳未満のYPLLを算出した。また,この10年間に進行した少子高齢化の影響を排除するために,年齢調整YPLLについても検討した。
結果 日本の65歳未満YPLL値は,この10年間は減少傾向にあり,2005年のYPLL値は2,504,633年で,1995年と比較して19%減少した。疾患別YPLL値で最も高かったのは悪性新生物で,1995年は総YPLL値の26.9%を占め,2005年も27.1%とほとんど変化がなかった。外因死のYPLL値は,1995年の28.4%から2005年の30.0%へと増加の傾向がみられ,1998年に悪性新生物のYPLLを超えた。しかし,外因死のうち不慮の事故によるYPLL値はこの10年で約6ポイント低下したが,依然として10%以上を占めており,心疾患よりもわずかに高い値を示した。また,自殺によるYPLL値は約18%を占めており,10年間に8ポイント以上増加した。自殺のYPLLが不慮の事故のYPLLを越えたのは1998年であった。年齢調整YPLLについても上記の傾向とほぼ同様であった。しかし,年齢調整YPLLでは,総YPLLに占める悪性新生物の割合が21.5%であったのに対し,外因死が33.5%と,より大きな比重を占めていた。
結論 日本の総YPLL値は減少傾向にあるが,外因死によるYPLL値は心疾患を大きく上回っており,1998年以降は,単一で最大の原因である悪性新生物よりも高い値となった。この傾向は年齢調整YPLLでみるとさらに明らかで,2005年の年齢調整総YPLLに占める外因死の割合は33%を越えていた。外因死のうち,不慮の事故のYPLLは減少を続けている。一方,自殺のYPLLの増加は顕著であり,事故予防と自殺予防を包括した総合的な外傷防止対策が必要であることを示している。
キーワード YPLL,外因死,事故,自殺,safety promotion