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論文

第71巻第4号 2024年4月

首都圏の未就学児の母親における
産後ケア施設利用の実態と要因

木平 聖実(キヒラ キヨミ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)

目的 日本は他国と比較して産後ケアの未普及と,産後ケア施設の利用率の低さが課題である。本研究の目的は,未就学児を育児中の母親における産後ケア施設利用の実態と要因を明らかにすることである。

方法 研究デザインは量的横断的研究であり,2022年4~9月に未就学児の母親を対象として,無記名の自己記入式質問紙調査を実施した。保育園4施設の施設長の紹介を得て調査票を配布し,留め置き法またはオンラインで回収した。調査内容は属性,産後ケア施設の利用状況,産後の身体的・精神的・経済的状況,産後の支援ニーズであり,第1子出産時の状況を想起してもらい回答を求めた。分析はSPSS ver25を使用し,t検定,χ2検定またはフィッシャーの正確確率検定,二項ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

結果 対象者150名に調査票を配布し,132部(回収率88.0%)を回収し,130名から有効回答を得た(有効回答率86.7%)。未就学児の母親における産後ケア施設の利用者の割合は14.6%であり,主な利用理由は産後の支援者欠如,休息の必要性,育児不安であった。産後ケア施設利用は,年齢(オッズ比(OR)=1.2,95%信賴区間(CI)=1.05-1.37,p=0.008),里帰りによる母の支援(OR=0.1,95%CI=0.02-0.44,p=0.003)が有意に関連していた。

結論 産後ケア施設の利用要因は,母親が高年齢であることと,産後に里帰りによる母の支援がない場合であることが明らかとなった。首都圏の母親に対する産後ケア施設の利用推奨や社会資源の情報提供といった積極的介入が必要であることが示唆された。

キーワード 未就学児,母親,産後ケア,ロジスティック回帰分析

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第71巻第4号 2024年4月

主任介護支援専門員による
地域の介護支援専門員への支援

-管理者の重要度と実行度の認識から-

三橋 優介(ミハシ ユウスケ)

目的 本研究では,居宅介護支援事業所(以下,事業所)の主任介護支援専門員による地域の介護支援専門員への支援に着目し,支援の重要性の認識の度合い(重要度)と,実行している度合い(実行度)を比較し,それらの差異を構造的に分析することにより,支援の現状を明らかにすることを目的とした。

方法 福岡県の事業所のうち,特定事業所加算Ⅰ~Ⅲを算定している526件を抽出し,そこに所属する管理者を調査対象とした。調査方法は無記名自記式質問紙を用いた郵送調査とし,有効回答数は276件(回収率52.5%)であった。分析は地域の介護支援専門員への支援に関する13項目の重要度と実行度について点数化を行い,平均値と標準偏差を求めた。さらに,重要度と実行度の平均値について相関係数を推定し,散布図により両者の関係を考察した。分析に際してはMicrosoft Excelを使用した。

結果 重要度の平均値は「事例検討会の開催」が3.33と最も高く,次いで「研修会の開催」が3.27と高い値を示した。一方,実行度の平均値は重要度と同様に「事例検討会の開催」が2.76と最も高く,次いで「研修会の開催」が2.44と高値を示していた。平均値の範囲は,重要度が2.66~3.33,実行度が1.58~2.76であった。また,13項目の重要度と実行度の平均値をプロットしたところ,「重要度・実行度がともに高いグループ」「重要度・実行度がともに低いグループ」の2つのグループに分けられた。相関係数は0.92であり,両者の間にはかなり強い相関関係が認められた(P<0.001)。

結論 重要度の平均値は2.66~3.33の範囲,実行度の平均値は1.58~2.76の範囲に広がり,両者の間には相関係数0.92という相関関係が認められ,重要度の値は実行度の値と密接にかかわっていることが示された。また,「重要度・実行度がともに高いグループ」では「事例検討会の開催」「研修会の開催」が特に高い値を示していた。2018年度の介護報酬改定により他の法人が運営する事業所と共同で事例検討会・研修会を開催することが特定事業所加算の算定要件となっており,それによって地域の介護支援専門員への支援に関する活動が促進されたことが示唆された。

キーワード 居宅介護支援事業所,地域,主任介護支援専門員,介護支援専門員への支援,重要度,実行度

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第71巻第4号 2024年4月

特別養護老人ホームの看取りケアマネジメント
における多職種役割分担の特徴

島田 千穂(シマダ チホ) 会田 薫子(アイタ カオルコ) 沢田 淳子(サワダ アツコ)
石山 麗子(イシヤマ レイコ) 二神 真理子(フタカミ マリコ) 平川 仁尚(ヒラカワ ヨシヒサ)
斎藤 民(サイトウ タミ) 高梨 早苗(タカナシ サナエ)
小松 亜弥音(コマツ アヤネ) 三浦 久幸(ミウラ ヒサユキ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)における看取りケアへのニーズは,ますます大きくなっている。これまでの特養の看取りケア研究では,担い手としての看護職や介護職に着目されてきたが,本人の意思を中心とした多職種協働ケアが求められる中,調整機能に着目する必要がある。本研究は,特養の看取りケアの調整機能における施設ケアマネジャーの役割を明らかにすることを目的とした。

方法 全国の特養全数7,765カ所から,3,000カ所を無作為抽出して対象とした。施設長経由で,計画担当介護支援専門員1人に自記式質問紙調査を依頼し,2022年12月末に郵送で回収した。回答者の属性,所属施設の属性,看取りケアマネジメントでの役割(ケアプラン変更,不安や思いを聴く,状態を説明する,医師への連絡など6項目),入居者や家族との将来の最期の迎え方に関する対話の程度を質問した。所属機関の倫理審査承認後,調査を行った。

結果 回収数は711通(23.7%),うち回答の研究利用に同意しない20通と看取りケアプランを作成したことがない93通を除き598通を分析対象とした。回答者の基礎資格は介護福祉士86.8%,社会福祉士18.9%であった。ケアプラン作成業務を専任で担当しているのは52.2%であった。看取りケアマネジメントで「自分が主に担当」する項目は,「ケアプラン変更」が74.7%,「家族の不安や思いを聴く」は30.9%,「状態を予測して家族に説明」は18.2%,「入居者の不安や思いを聴く」は16.6%,「状態を予測して入居者に説明」は14.0%となった。今後の状態を予測して入居者や家族に説明することを自分が主に担当する人ほど入居者本人や家族との将来の対話の割合が有意に高くなっていた。

結論 特養のケアマネジャーの看取りケアマネジメントは,「ケアプラン変更」以外は他職と分担して行われることが多かった。看取りにおけるケアマネジメントは多職種協働で行われており,施設内での職種間の情報収集と共有方法の質に着目した看取りケア評価が必要と考える。

キーワード 特別養護老人ホーム,ケアマネジメント,看取りケア,人生の最期に関する事前対話

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第71巻第4号 2024年4月

地域在住高齢者のその後の累積介護費は直線的に増加するのか

-フレイル,要支援・要介護リスク評価尺度を用いたJAGES9年間の追跡調査より-

渡邉 良太(ワタナベ リョウタ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)
井手 一茂(イデ カズシゲ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 内閣府は成果連動型民間委託契約方式の重点分野として介護領域を挙げているが,その財政評価方法が課題となっている。介護予防により抑制される累積介護費が直線的に増えるとすると,事業期間は短期でもよいが,指数関数的に増える場合,短期間では過小評価となる。本稿では,財政評価を行う際の妥当な追跡期間を検討するために,フレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低によるその後の累積介護費の差が直線的に増加するのか追跡期間別に検証する。

方法 日本老年学的評価研究(JAGES)の2010年度の3県5市町の要介護認定を受けていない高齢者を対象とした自記式郵送調査の一部をベースラインとした。有効回答者21,614人の2019年12月までの9年間(108カ月間)の1人当たりの累積介護費を介護保険給付実績情報に基づいて算出した。ベースライン時点のフレイル(7点以下を非該当,8点以上を該当),要支援・要介護リスク評価尺度(16点以下を低群,17点以上を高群)は,基本チェックリストおよび性,年齢を用いて評価した。累積介護費を追跡期間別に記述し,フレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低群間の差および1年目の差に対する倍率を算出した。なお,追跡期間中の死亡者(5,108人)に限定することで「生涯介護費」についても分析した。

結果 ベースライン時点のフレイル該当者は4,299人(19.6%),要支援・要介護リスク評価尺度高群は6,051人(28.0%)であった。フレイル該当有無群間の1人当たりの累積介護費の差は1年後を1.0倍(1.2万円)とすると,3年後には11.8倍(14.0万円),6年後には46.4倍(55.4万円),9年後には86.5倍(103.2万円)になった。同様に,要支援・要介護リスク評価尺度高低の差は1年後を1.0倍(1.3万円)とすると,3年後は13.7倍(18.1万円),6年後には56.8倍(75.1万円),9年後には115.1倍(152.0万円)になった。追跡期間中の死亡者に限定した生涯介護費としてもフレイル該当者,要支援・要介護リスク評価尺度高群では,全対象者と同様に累積介護費が高かった。

結論 ベースライン時点でのフレイル該当有無,要支援・要介護リスク評価尺度高低によるその後の累積介護費の差は追跡期間が長くなるほど大きくなり,1年後を基準とすると9年後には86~115倍もの差があった。直線的な関係ではないため,短期間で差をみることは相当の過小評価となりえる。財政評価には適切な追跡期間を設定する必要が示唆された。

キーワード 成果連動型民間委託契約方式,介護保険,介護予防

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第71巻第4号 2024年4月

住民主体の通いの場における運営母体による
課題認識の差異に応じた継続支援方法の検討:横断研究

 

江尻 愛美(エジリ マナミ) 河合 恒(カワイ ヒサシ) 安永 正史(ヤスナガ マサシ)
白部 麻樹(シロベ マキ) 伊藤 久美子(イトウ クミコ)
植田 拓也(ウエダ タクヤ) 大渕 修一(オオブチ シュウイチ)

目的 高齢者が通いの場での活動を継続するためには,行政や専門職が行う「継続支援」が不可欠である。厚生労働省は通いの場を,だれが(運営)×どこで(場所)×なにを(活動)という観点で類型化しているが,運営母体が異なれば活動で抱える課題や必要な支援も異なると考えられる。本研究の目的は,住民主体の通いの場における運営母体による課題認識の差異を明らかにして有効な継続支援方法を検討すること,また前記の検討を深めるため運営母体によるソーシャル・キャピタル(SC)認知の差異を明らかにすることとした。

方法 2018年に島しょ部を除く東京都内53区市町村の担当者を通じて通いの場活動を行う自主グループへ自記式質問紙調査への協力を依頼し,40区市町の155グループ2,367名より回答を得た。運営母体は,厚生労働省の類型をもとに,住民団体(地縁),住民団体(ボランティア),住民個人(行政養成),住民個人(有志),行政・医療介護専門職の5つに分類した。通いの場における課題は,参加者の不足など10種類からあてはまるものを選択させた。SCは,集合的効力感を構成する概念である,近隣に対する信頼を示す社会的凝集性と,共有された期待を示す私的社会統制を尋ねた。運営母体による課題認識の差異をχ2検定および残差分析で,SC認知の差異を性と年齢を調整した共分散分析で検討した。

結果 分析対象は運営母体に欠損のない153グループ2,342名(男性14.0%,平均年齢76.9歳)で,運営母体の内訳は,住民団体(地縁)27グループ,住民団体(ボランティア)22グループ,住民個人(行政養成)49グループ,住民個人(有志)33グループ,行政・医療介護専門職22グループだった。課題認識者の割合は,「参加者の不足」が住民団体(地縁)で多く(18.5%),住民個人(行政養成)で少なく(9.9%),「場所の確保」が住民団体(ボランティア)と行政・医療介護専門職で多く(それぞれ16.9%,15.3%),住民団体(地縁)で少なく(5.0%),「グループ内の人間関係」が住民団体(ボランティア)で多かった(9.5%)。社会的凝集性,私的社会統制ともに,住民団体(地縁)に所属する者はそれ以外に所属する者より有意に得点が高かった(すべてp<0.001)。

結論 運営母体により活動時の課題認識は異なり,必要とされている継続支援も異なることが明らかとなった。また,SCも考慮に入れながら支援を行うことで効果的な支援となる可能性が考えられた。

キーワード 地域づくりによる介護予防,住民主体の通いの場,運営母体,課題,ソーシャル・キャピタル

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第71巻第3号 2024年3月

児童虐待の社会的背景に関する実証研究

-都道府県レベルにおけるリスク因子に着目して-

張 詩琪(チョウ シキ)

目的 本研究では都道府県レベルにおける児童虐待の社会的要因を解明し,今後の児童虐待予防対策への示唆を得ることを目的とする。

方法 都道府県別の児童虐待率,人口・世帯,経済,女性の労働,生活時間,ソーシャルサポートに関する統計データを利用し,因子分析,重回帰分析,構造方程式モデリング(SEM)を用いて分析した。

結果 因子分析の結果,「都道府県の都市化」「都道府県の性別役割分業体制」「都道府県の経済的課題」という3つの因子が抽出された。都道府県別における妻の就職率,妻の家事時間,核家族の割合,専業主婦の割合から構成された「都道府県の性別役割分業体制」が強いほど,児童虐待率が高い。都道府県における民生委員・児童委員1人当たりの相談・支援件数が多いほど,児童虐待率が低い。また,「都道府県の都市化」が進んでいるほど,「都道府県の性別役割分業体制」が強い。同時に民生委員・児童委員1人当たり相談・支援件数が少なくなり,児童虐待率が高いという間接的効果が認められた。

結論 標準的な家庭を前提とした労働,社会保障制度,性別役割分業を維持する社会構造はストレスになる可能性があり,ジェンダー平等な子育て支援,働き方改革,社会政策が求められる。つながりの希薄化と地域からの孤立の問題に関して,地域におけるソーシャルキャピタルの充実,地域の絆の再生をめぐる地域レベルの児童虐待予防対策が必要である。

キーワード 児童虐待,社会的背景,都道府県レベル,性別役割分業体制

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第71巻第3号 2024年3月

周産期における救急搬送先選定困難事案の
発生割合と有床診療所での分娩割合との関連

-都道府県レベルのエコロジカル研究-

服部 早苗(ハットリ サナエ) 岩上 将夫(イワガミ マサオ) 佐方 信夫(サカタ ノブオ)

田宮 菜奈子 (タミヤ ナナコ)

目的 わが国の周産期医療提供体制は,比較的小規模な多数の分娩施設が分散的に分娩を担うという特徴を有している。総合母子周産期医療センターを中心とし,地域母子周産期医療センター,主に低リスク分娩を扱う一次分娩施設(一般病院,有床診療所(以下,診療所),助産所)が連携しあい,地域の周産期医療を担うという体制をとっている。その中でも,周産期医療提供体制を構築する上では,母子周産期医療センター(以下,周産期センター)が中心となり,24時間対応できる救急医療体制が求められている。しかし地方都市では,主にローリスク分娩を担っていた産科診療所の自然減により,周産期センターにハイリスク分娩だけでなく,ローリスク分娩も集中している。このことにより周産期センターへの負担が増え,救急搬送先選定困難事案(以下,選定困難事案)が発生している可能性がある。そこで診療所での分娩割合と選定困難事案の発生割合には負の相関がある(診療所での分娩割合が多いと,選定困難事案の発生割合が少ない)という仮説を立て,本研究を行った。

方法 2016年から2020年までの5年間に消防庁が実施した「救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査の結果」に基づき,一般住民から通報される救急要請における周産期救急搬送の現状を分析した都道府県レベルのエコロジカル研究を行った。アウトカムを選定困難事案の発生割合とし,診療所での分娩割合と関連をみるために重回帰分析を行った。調整変数として,15~49歳の女性人口割合,周産期センター数,MFICUとNICUの病床数を調整した。

結果 重回帰分析の結果,選定困難事案の発生割合と15~49歳の女性人口の割合には有意な正の関連(回帰係数=0.63,p<0.01),診療所での分娩割合には有意な負の関連(回帰係数=-0.05,p=0.02)を認めた。

結論 本研究では,選定困難事案の発生割合と診療所での分娩割合の関連をみた結果,負の関連を認めた。周産期救急搬送体制の中で,周産期センターが中心的な役割を果たさなければならないため,平時から周産期センターが受け入れをしやすい体制を整えていく必要がある。その解決策として,既存の診療所を利用することも有用かもしれない。

キーワード 周産期救急搬送,救急搬送先選定困難事案,診療所での分娩割合

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第71巻第3号 2024年3月

障害福祉サービスにおけるピアサポーターの雇用に関する課題

-ピアサポーターを雇用した経験がない事業所を対象とした質問紙調査の内容分析-

横山 和樹(ヨコヤマ カズキ) 小川 賢一(オガワ ケンイチ) 小笠原 啓人(オガサワラ ヒロト)

小笠原 那奈(オガサワラ ナナ) 窪田 優美菜(クボタ ユミナ) 木村 智之(キムラ トモユキ)

中島 邦宏(ナカジマ クニヒロ) 稲垣 麻里子(イナガキ マリコ) 矢部 滋也(ヤベ シゲヤ)

目的 令和3年度の障害福祉サービス等の報酬改定において,ピアサポート体制加算・ピアサポート実施加算が新設され,今後は自身の障害の経験を生かして同様の障害を持つ人をサポートするピアサポーターの活躍が期待される。本研究では,これらの加算の対象である障害福祉サービス事業所のうち,ピアサポーターを雇用した経験がない事業所におけるピアサポーターの雇用に関する課題を明らかにすることを目的とした。

方法 2022年2月から9月に郵送法による質問紙調査を実施した。対象施設は,北海道内のピアサポート体制加算・ピアサポート実施加算の対象のうち,ピアサポーターを雇用した経験がない事業所とし,20歳以上の代表者に調査を依頼した。調査項目は,事業所の基本属性(選択形式),ピアサポーターの雇用に関する課題(自由記述)で構成した。データ分析は内容分析を用いて,ピアサポーターの雇用に関する課題についての同一記録単位および類似する同一記録単位をまとめたカテゴリーを作成し,ピアサポート体制加算対象施設およびピアサポート実施加算対象施設ごとに全体に対する割合を求めた。

結果 返答があった343事業所のうち,ピアサポーターを雇用した経験がない事業所は308事業所(89.8%)であった。ピアサポーターの雇用に関する課題についての7つのカテゴリーが得られ,多い順に[ピアサポーターの理解と必要性の不足][事業所の人員や業務内容から生じる問題][ピアサポーターに出会えていない状況][ピアサポーターの雇用に関わる費用負担の大きさ][地域の実情に基づく制約][ピアサポーターの就業と生活のスキルに対する不安][雇用以外の手段でのピアサポートの活用]であった。

結論 ピアサポーターを雇用した経験がない事業所は全回答数の9割程度であり,雇用が定着しているとは言い難い現状が明らかになった。事業所の多くは,ピアサポ―ターそのものや雇用に向けた制度等の知識が不足していた。また,事業所の人員不足や業務内容の問題により,ピアサポーターの雇用まで手が回らず,ピアサポーターとの協働を負担と捉える場合もあった。一方で,ピアサポーターに出会えていない等の回答もあり,地域の関連機関が連携することによって,ピアサポーターの雇用が実現する可能性もあった。以上より,ピアサポーターに関する正しい知識と実践の普及啓発,ピアサポーターの雇用に向けた組織間の連携などが課題となることが示唆された。

キーワード ピアサポーター,ピアスタッフ,ピアサポート体制加算,ピアサポート実施加算,就労支援,障害者雇用

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第71巻第3号 2024年3月

就労系障害福祉サービスの利用決定で用いられる
就労アセスメントの実施状況に基づく市区町村の類型化

 

前原 和明(マエバラ カズアキ)

目的 就労アセスメントの制度にかかる課題を明らかにするため,本研究では就労アセスメントを用いた支給決定に携わる市区町村の課題に基づく類型化を試みることを目的とした。

方法 全国の市区町村1,741カ所の就労アセスメントの支給決定に携わる職員に対して,2022年10月14日~11月4日の期間でオンライン調査を実施した。調査票は,市区町村の人口,就労アセスメントの実施に関して認識している課題,就労アセスメントの結果を支給決定等に活用する上での対策の必要性,就労アセスメントの結果を支給決定に活用する上での対策について問う項目から構成される。回答のあった464カ所の市区町村のデータを分析に用いた。市区町村の人口分類,課題の有無,対策の必要性,具体的な対策の実施状況を変数とした階層的クラスター分析を実施した。また,各クラスターの特徴を把握するために,χ2検定を実施した。

結果 クラスター分析を実施し,解釈可能性を基準に,最終的に4クラスターが適切と判断した。次にχ2検定により得られた各クラスターにおける回答市区町村数の有意な差から,各クラスター「課題未発生(小規模)」「対策未実施」「対策実施」「課題未認識(大規模)」と命名した。

結論 本研究では,市区町村は4つの類型に分類することができた。この類型化により,就労アセスメントに関する課題が「どのようなもの」であり,この課題を改善するために「どのような改善」が想定されるかを示すことができた。就労アセスメントに関する課題として,何をどのように改善するのかの具体的なイメージを持てておらず改善が後手に回っている状況,何らかの課題が存在するが不十分な実施や形骸化も含めて手続きにおいて課題を認識していない状況が明らかになった。また,対策として,結果を利用者の進路に役立てるための多機関連携を意識した取り組みが行われている状況が明らかになった。以上より,この市区町村の類型化は,個々の市区町村の置かれている状況の違いを前提とした,様々な改善に向けたアプローチを提案する際の参考資料となると結論づけた。

キーワード 就労アセスメント,就労選択支援,就労継続支援B型事業所,多機関連携,社会参加

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第71巻第2号 2024年2月

児童相談所児童福祉司と地域の
関係機関との連携に関する調査研究

米倉 裕希子(ヨネクラ ユキコ)

目的 児童虐待の相談件数が増加する中,児童相談所児童福祉司(以下,児童福祉司)の機能強化が求められる一方で,児童虐待対応における市町村の役割は拡大し,児童福祉司と地域の関係機関との連携の重要性が高まっている。本研究の目的は,児童福祉司および地域の関係機関で構成される要保護児童対策地域協議会(以下,要対協)それぞれの立場からみた連携の困難感や現状,影響する要因を明らかにし,連携を促進する方策を検討することである。

方法 A県で協力の同意が得られた児童福祉司および要対協の構成員を対象に質問紙調査を実施した。連携困難感尺度および顔の見える連携尺度を用い,関係機関による困難感の違い,顔の見える連携の現状と年齢,経験年数,保持資格,多職種連携研修の経験との関連を分析した。

結果 分析対象者は児童福祉司42名,要対協58名だった。連携困難感尺度の結果,児童福祉司は市町村窓口や児童養護施設等よりも教育機関に対する困難感が有意に高いことがわかった。また,顔の見える連携尺度では,児童福祉司は要対協よりも情報共有に関する項目の得点が有意に高かった。また,資格や多職種連携研修の経験がある方がないよりも「地域のリソース(資源)が具体的にわかる」の項目で有意に得点が高かった。

結論 資格や多職種連携研修の経験が連携の入口において重要であることが示唆された。海外では児童虐待に特化した多職種連携教育(Inter Professional Education,IPE)が進んでいるが,本邦では関連職種の多様性等からIPEが行われていない実情がある。今後,保健医療福祉分野にとどまらず,心理,教育,司法などを含めた児童虐待に関連するIPEが推進され,意思決定において不一致を排除しない価値に基づく実践の考え方にそった専門職連携実践(Inter Professional Work,IPW)が浸透していくことが重要である。

キーワード 児童相談所児童福祉司,要保護児童対策地域協議会,連携,多職種連携教育(IPE)

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第71巻第2号 2024年2月

墨田区保健所における保育園サーベイランスの活用
(2013~2022年度)

杉山 美奈子(スギヤマ ミナコ) 糸井 陽一(イトイ ヨウイチ) 堀 元海(ホリ モトミ)
漁 亜沙美(スナドリ アサミ) 林 智子(ハヤシ トモコ) 原 あかね(ハラ アカネ)
川名 由佳里(カワナ ユカリ) 栗田 順子(クリタ ジュンコ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ)
杉下 由行(スギシタ ヨシユキ)

目的 墨田区では2013年度に保育園サーベイランスシステムを区内すべての保育園において導入した。本研究では,導入後約9年間の保育園サーベイランスの活用状況について分析した。

方法 保育園では,毎日,症状,疾患診断別の欠席者数,また,保育中の発症についてシステム入力が行われる。入力情報は保健所,保育主管課,園医等で参照され,感染症の発生状況が関係者に伝達されるとともに日常的な指導等にも活用されている。2013年8月より2022年12月までを分析期間とし,評価の要素は,探知経路,対応方法,対応内容,疾患・症状,各保育園での通算対応回数,探知事例の患者数とした。新型コロナウイルス感染症に関しては,2020年以降の分析期間中,一例発生ごとに保育園から保健所に報告され,他の感染症とは扱いが異なるため検討の対象から除外した。

結果 保育園で発生した感染症の探知件数は,2014年度が最も多く,次いで2022年度が多かった。このうち,保育園サーベイランスで探知された割合は,2020年度を除き47~88%であった。対応方法として2013年度から2020年度までは訪問の割合は少なかったが,2021,2022年度は訪問の割合(それぞれ32%,18%)が増加した。対応内容は発生状況確認が最も多かった。疾患ではインフルエンザ,感染性胃腸炎,症状では嘔吐,下痢,発熱が多かった。全期間で対応を要する回数が10回以上であった保育園は全体の24%にみられた。探知事例の患者数は10人が最頻値であった。最大患者数56人の事例は2022年度に発生し,患者数が24人を超える事例は,すべて2022年度に発生していた。

結論 保育園サーベイランスで探知された割合は高く,これは保育園で流行が探知され保健所に連絡されるよりも先に,保健所が対応していることを意味している。症状と疾患の両面からサーベイランスを行い感染症の発生状況をモニタリングする症候群サーベイランスのアプローチが感染症の早期探知には有用である。2022年度は新型コロナウイルス感染症の流行が大きくなり,その対応が優先されたことから保育園サーベイランスによる探知,介入が遅れた可能性がある。保健所における保育園サーベイランスの活用の評価は厳密な意味では困難であるが,2022年度の集団発生の多さや,規模の大きさは逆説的に保健所における保育園サーベイランスによる早期探知,早期介入がいかに重要であるかを示していると考えられた。

キーワード 症候群サーベイランス,感染症,早期探知,集団感染,保育園児

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第71巻第2号 2024年2月

健康寿命の延伸と健康づくり事業実施量との関係性

-基礎自治体を対象とする生態学的研究-

友澤 里穂(トモザワ リホ) 細川 陸也(ホソカワ リクヤ)

目的 健康寿命の地域差を説明する要因として,基礎自治体(市区町村)の健康づくり事業の取り組み状況の差異については十分に検討されていない。本研究では,健康寿命の経年的な変化量と健康づくり事業の事業実施量との関連性について検討した。

方法 全国1,726カ所の基礎自治体を分析対象とする生態学的研究を実施した。2015年から2020年まで6年間分の男女別の65歳時健康寿命(要介護2以上を不健康期間とする「日常生活動作が自立している期間の平均」)を用いて,分散の逆数を重みとする重み付き線形回帰直線を自治体ごとに算出した。この回帰直線の傾きを健康寿命の変化量として目的変数とし,健康づくり事業(特定健診・特定保健指導・介護予防普及啓発事業・介護予防活動支援事業)の事業実施量を説明変数,2015年時健康寿命と自治体の特徴(75歳以上人口割合・可住地人口密度・1人当たり課税対象所得額)を調整変数とする重回帰分析を実施した。

結果 全国の健康寿命の変化量は,男性で0.118(標準誤差(SE)=0.001,p<0.001),女性で0.104(SE=0.001,p<0.001)であった。また分析対象の自治体ごとに算定したところ,男性の健康寿命の変化量が正であった自治体は82.7%,女性の健康寿命の変化量が正であった自治体は77.6%であった。重回帰分析の結果では,男性では特定健診(標準化回帰係数(β)=0.132,p<0.001),特定保健指導(β=0.096,p<0.001)の事業実施量が健康寿命の変化量と正の関連を示し,女性では健康寿命の変化量と特定保健指導(β=0.097,p<0.001),介護予防活動支援事業(β=0.045,p=0.033)の事業実施量が正の関連を,介護予防普及啓発事業(β=-0.059,p=0.005)の事業実施量が負の関連を示した。

結論 男性では特定健診・特定保健指導,女性では特定保健指導・介護予防活動支援事業の事業実施量が多い自治体ほど健康寿命の延伸量も大きく,自治体の事業実施量の差異が健康寿命の延伸に関連している可能性が示唆された。しかし,その説明力は小さく,これら事業により健康寿命の延伸を達成するには,一定の事業実施量を確保していく必要があると考えられる。事業の質・過程などを考慮したさらなる分析が期待される。

キーワード 健康寿命,日常生活動作が自立している期間の平均,健康づくり事業,自治体

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第71巻第2号 2024年2月

日本の高等教育機関における
スクールソーシャルワーカー養成の全国実態調査

 

厨子 健一(ズシ ケンイチ) 岩山 絵理(イワヤマ エリ)

目的 研究の目的は,日本の高等教育機関におけるスクールソーシャルワーカー(SSWer)養成の全国実態を明らかにすることである。

方法 調査は,一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟より「スクール(学校)ソーシャルワーク教育課程認定事業」の認定を受けている63の養成校を対象に実施した。調査票は,29の養成校から回答を得た。回収率は46%であった。調査項目として,①養成校の概要,②養成教育の概要,③実習内容の実施程度,④養成教育における難しさ,4つにまつわる項目を設定した。

結果 過去3年間の教育課程修了者数の中央値(四分位偏差,最小値-最大値)は,2019年度2(2,0-16)人,2020年度2(4,0-13)人,2021年度2(3,0-13)人であった。過去3年間の教育課程修了者のうちの新卒SSWer数では,2019年度0(0,0-3)人,2020年度0(0,0-5)人,2021年度0(0,0-4)人であった。実習生の就職可能な範囲の正規SSWerの求人の有無について,求人がある7校(24%),求人がない22校(76%)であった。実習先となる実習機関・施設の種別(複数回答)では,小学校14校(48%),中学校16校(55%),高等学校10校(34%),教育委員会22校(76%),その他11校(38%)であった。実習指導者の職種(複数回答)において,社会福祉士,精神保健福祉士の資格をもつSSWer26校(90%),元教員のSSWer8校(28%),その他3校(10%)であった。実習内容の実施程度の項目のなかで,中央値が4点の項目は,12項目中6項目,3点の項目が5項目,2点では1項目であった。養成教育における難しさは,実習先の少なさが自由記述に回答のあった23養成校のうちの9校であった。以降,実習調整の困難8校,実習内容の不十分さ7校とつづいた。実習以外の難しさでは,正規採用の少なさ8校であった。

結論 スクールソーシャルワーク(SSW)教育課程を選択する学生は少なく,新卒SSWerを輩出できていない実態が明らかとなった。また,養成教育の難しさにおいて,養成校の課題に加え,実習を受け入れる教育行政のSSWに関する認知度や正規採用の少なさなどの課題が存在した。今後,養成校と教育行政との協働により,SSW活用の重要性や養成教育を検討していく必要がある。

キーワード スクールソーシャルワーク(SSW),養成,教育課程,新卒スクールソーシャルワーカー(SSWer),全国実態

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第71巻第1号 2024年1月

既婚女性の家事分担・就業に対する
規範意識と現実の就業行動

塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ)

目的 本研究では,既婚女性の家事分担・就業に対する規範意識と現実の就業行動についての実証分析を行い,規範意識の実態と規範意識が現実の就業行動に与える影響を検証した。

方法 全国の核家族世帯に属する男女を対象に調査を行い,そこから得られたデータを使用し,単純集計,クロス集計,多項ロジスティック回帰による分析を行った。

結果 第1に,専業主婦の規範は,核家族においてほとんど共有されておらず,回答者の3割は,家事に支障がない範囲で,妻が働くのがよい(妻に対する消極的就業規範)と考えており,回答者の約6割は夫婦で家事を分担してでも,妻が働くのはよい(妻に対する積極的就業規範)と考えていた。第2に,家事に支障があるのであれば,夫と分担して,妻が働くのはよいという考えをもっているものの,実際には妻が専業主婦であるという回答者の割合が30.7%存在していた。この割合を男女別で分析すると,男性が26.7%,女性が33.9%であり,女性のほうが希望(意向)を満たされていなかった。第3に,妻の就業の形態の選択については,妻本人よりも夫の意向が反映されていた。

結論 回答者のほとんどは,妻の就業をよいと考えていた。しかし,そのような希望(意向)に反して,妻が専業主婦の地位にある回答者も一定数存在した。そして,妻の現実の就業選択においては,妻本人よりも夫の意向が反映されていた。これは,夫婦間のエンパワーメントにおけるジェンダー平等の観点からは,1つの問題提起とみなされるであろう。

キーワード 既婚女性の就業,家事分担,規範意識,ジェンダー平等

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第71巻第1号 2024年1月

東京都世田谷区における新型コロナウイルス感染症の
家庭内感染率と家庭内伝播に関わる要因

-従来株およびB.1.1.7系統(アルファ株)流行期の積極的疫学調査より-

門脇 睦美(カドワキ ムツミ) 安岡 圭子(ヤスオカ ケイコ) 高橋 千香(タカハシ チカ)
向山 晴子(ムコウヤマ ハルコ) 城川 美佳(キガワ ミカ)
白山 芳久(シラヤマ ヨシヒサ) 湯浅 資之(ユアサ モトユキ)

目的 東京都世田谷区における新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査から明らかになった主な感染経路は家庭内感染であった。本研究では,これまで報告がない東京都内の家庭内感染率と家庭内感染の発生に関わる要因を明らかにすることを目的とした。

方法 感染症法に基づいて実施された新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査で収集されたデータを用いた。従来株流行期である2020年12月とB.1.1.7系統(アルファ株)の流行期である2021年5月の初発患者から同居家族への家庭内感染率を算出した。また,初発患者の属性別の感染率とリスク比を算出し,年代別感染率と発症から診断までの日数について多変量解析を行った。

結果 初発患者における家庭内への感染率は従来株流行期が31.1%,アルファ株流行期は36.6%であった。初発患者の属性と家庭内感染の発生状況では,初発患者の年代,発症から診断までの日数,診断時の症状の有無,世帯人数,療養場所,流行株が家庭内感染の発生の有無と関連していた。多変量解析による結果からは,初発患者の年代では0~19歳に対して65歳以上でリスク比が1.59(95%信頼区間:1.19-2.14),発症から診断まで2日以内に対して3日以降でリスク比が1.52(95%信頼区間:1.30-1.77)で,それぞれ独立して家庭内感染の発生と関連していた。

結論 世田谷区の積極的疫学調査より,家庭内の初発患者が同居者に感染させる割合は,従来株31.1%,アルファ株36.6%であった。家庭内感染を起こした感染源群から同居家族への感染率が高い関連要因としては,感染源が65歳以上の高齢者であること,患者の発症から診断までの遅れが関連していた。

キーワード 新型コロナウイルス感染症,SARS-CoV-2,家庭内感染,積極的疫学調査,B.1.1.7系統(アルファ株)

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第71巻第1号 2024年1月

大学生の朝食欠食と生活行動および経済状況との関連

 

小島 里菜(コジマ リナ) 近藤 健太(コンドウ ケンタ) 大沢 舞美(オオサワ マイミ)
児玉 有里紗(コダマ アリサ) 齋藤 彩夏(サイトウ サヤカ) 佐久間 夏菜(サクマ カナ)
山本 怜奈(ヤマモト  レナ) 小山 未緒(コヤマ ミオ)
篠原 聡志(シノハラ サトシ) 駒田 真由子(コマダ マユコ)

目的 朝食欠食は将来の健康に影響する食行動の1つであるが,若者の朝食欠食率は高い状態が続いている。朝食欠食を減らす政策は行われているものの,改善はされていない。本研究の目的は朝食欠食が習慣化する可能性のある大学生の生活行動や経済状況と朝食欠食の関連を明らかにすることである。

方法 研究デザインは横断研究であり,データは全国大学生活協同組合連合会が実施した「第54回学生生活実態調査,2018」を二次利用した。分析は,記述統計量を算出し,朝食の有無と基本属性,大学生の生活行動,大学生の経済状況との関連についてχ2検定およびCochran-Armitageの傾向検定を実施した。さらに朝食の有無と大学生の生活行動,大学生の経済状況との関連は,性別,所属学部,学年,住まいを調整因子とし,最近1週間の登校日数,登校時刻,片道の通学時間,深夜食の有無,深夜食の食べた内容,1日のスマートフォン使用時間合計,1週間の勉強時間合計,現在アルバイトをしているか,現在奨学金を受給しているかをそれぞれ独立変数とし,朝食の有無を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 対象は18,555名(男性9,883名,女性8,672名),平均年齢は20.32±1.66歳であった。多重ロジスティック回帰分析を用いた結果,登校時刻では「9時以降」,深夜食の有無では「食べた」,深夜食の食べた内容では「常食」,現在アルバイトをしているかでは「している」,現在奨学金を受給しているかでは「受給している」の各項目で朝食欠食していると回答していた人のオッズ比が高かった。また,1週間の登校日数では,5日を基準とすると0~4日でオッズ比が高く,6,7日でオッズ比が低かった。さらに,片道の通学時間が短くなる,1日のスマートフォン使用時間合計が長くなると朝食欠食のオッズ比が高くなった。

結論 大学生の朝食欠食と生活行動および経済状況との関連を検討した結果,朝食欠食をする大学生は,登校日数が少ない,登校時刻が遅い,片道の通学時間が短い,深夜食を摂取している,深夜食の内容は常食を摂取している,1日のスマートフォン使用時間合計が長い,勉強時間が短い,アルバイトをしている,奨学金を受給しているといった特徴があることが明らかになった。大学生の朝食欠食率を下げるためには,経済状況を考慮すると同時に,スマートフォンの使用時間や,アルバイトを含む時間の使い方を見直す必要が示唆された。

キーワード 朝食,大学生,スマートフォン,アルバイト,横断研究

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第71巻第1号 2024年1月

一地域における救急搬送自傷例の性・年齢階級
・重症度・曜日別発生数の分析

牧瀬 香穂(マキセ カホ) 影山 隆之(カゲヤマ タカユキ) 岩崎 香子(イワサキ ヨシコ)

目的 自殺未遂者には自殺企図再発のリスクが高いが,適切な支援を提供すればこのリスクを下げられる。そのためには警察・消防・救急医療機関・精神医療・地域保健福祉等の連携が重要である。連携体制の検討にあたり,自殺未遂が多発する季節・曜日・時間帯を知るために,119番通報があった自傷例の性・年齢階級別発生数,自傷行為手段と重症度の関連,季節・曜日・時間帯と自傷例発生数との関連を検討した。

方法 大分市で2018~2020年に発生した自傷例の資料を消防局から入手し,集計分析した。

結果 通報があった自傷例は同じ期間の自殺死亡者の2.4倍で,その1割は死亡しており,他方3分の1は搬送されず受診していなかった。未遂例には20歳代女性が多かった。不搬送未遂例には死亡例・重症事例と同様に致命率の高い自傷手段がみられ,かつ月曜の発生が多かった。これ以外は未遂例の発生に季節性や曜日による差が小さく,深夜の発生は少なかった。

結論 不搬送未遂例には救急搬送の必要がなくても,生きる上で深刻な問題を抱え「死ぬ意図」が強かった事例が含まれる可能性があるので,救急隊と地域保健福祉行政との連携の必要がなかったか検討する必要がある。地域保健福祉行政から退院前の未遂者に接触して支援を始めるとすれば,多発日を想定する必要はないが休日の対応体制が課題であり,救急医療機関や転院先と地域保健福祉行政との連携手順をはじめ,消防・警察・搬送先医療機関・地域保健福祉行政・精神科医療機関等が連携して未遂者を支援する体制を構築する必要がある。そのために,自殺企図に至る背景,精神科受療歴,搬送先での在院日数,退院後の転帰等について,医療機関ベースでの情報収集も必要である。

キーワード 自殺未遂,救急搬送,救急医療機関,重症度,自傷手段,地域保健福祉

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第71巻第1号 2024年1月

医育機関に勤務する医師の
従たる従事先に関する研究

 

寺裏 寛之(テラウラ ヒロユキ) 小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 小池 創一(コイケ ソウイチ)

目的 医師の偏在解消と労働環境の改善は喫緊の課題である。昨今,働き方改革関連法が成立し,医師の労働時間の上限規制が設けられた。病院で働く医師は,主たる従事先とは別に従たる従事先を有する場合がある。労働時間は主たる従事先と従たる従事先とで通算されるため,働き方改革により従たる従事先の就労環境に影響を与える可能性がある。医育機関は,教育の役割の他に地域医療の現場への医師供給の役割もあると考えられている。本研究では,病院または医育機関の医師の従たる従事先に関して実態を明らかにした。

方法 2018年の医師・歯科医師・薬剤師統計(3師統計)で病院に常勤し診療を主業務とする,臨床研修医を除いた医師(n=157,426)を対象とした。はじめに,対象者を医育機関の医師と医育機関以外の病院(以下,それ以外の病院)の医師とに分類し,従たる従事先を有する医師の属性や従たる従事先を保有する割合を比較した。次に全国の3次医療圏(都道府県単位)を各都道府県の医師確保計画にある医師偏在指標による分類に従って,医師多数県,医師中程度県,医師少数県の3つに分類し,主たる従事先と従たる従事先の医療圏に関して比較検討した。また,医師多数県の医育機関の医師が医師少数県を従たる従事先にした場合の主たる従事先と従たる従事先との都道府県の移動に関する図を作成した。

結果 従たる従事先を有する医師の割合は医育機関(44.9%)のほうがそれ以外の病院(11.5%)と比較して有意に高かった。主たる従事先が医師多数県で従たる従事先が医師少数県である医師の割合は,医育機関(17.1%)のほうがそれ以外の病院(9.8%)よりも高かった。医育機関の医師の従たる従事先が病院である割合はそれ以外の病院よりも高かった。すべての医師少数県は医師多数県に所在する医育機関の医師の従たる従事先であった。

結論 医育機関の医師は従たる従事先を有する割合がそれ以外の病院よりも高く,従たる従事先は病院である割合が高かった。医師多数県にある医育機関の医師は医師少数県を従たる従事先にすることで医師を供給する役割を担っていることが示唆された。

キーワード 医師偏在,医育機関,医師・歯科医師・薬剤師統計,医師届出票,従たる従事先

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第70巻第15号 2023年12月

中高年住民における情報通信技術(ICT)
を利用した交流と社会活動・うつとの関連

渡部 有人(ワタナベ ユウト) 河野 あゆみ(コウノ アユミ) 池田 直隆(イケダ ナオタカ)

目的 本研究では,情報通信技術(以下,ICT)機器による交流が,地域中高年住民の社会活動およびうつ傾向に与える影響を明らかにすることを目的とした。

方法 大阪府下2自治体の住民ボランティア927名を調査対象として,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査項目は基本属性,所持ICT機器,所持ICT機器による交流,社会活動頻度,うつである。所持ICT機器による交流では,ICT機器による交流頻度と交流人数について把握した。社会活動頻度では,過去1年間の社会活動の頻度について把握した。うつについては,GDS5を用いて把握した。

結果 390名(42.1%)を有効回答とし,分析対象者とした。対象者の属性は,年齢は65歳未満の者が95名(24.4%),65~74歳の者が206名(52.8%),75歳以上の者が89名(22.8%)であった。性別は男性が125名(32.1%),女性が265名(67.9%)であった。所持ICT機器はフィーチャーフォンのみ群が39名(10.0%),スマートフォンのみ群が126名(32.3%),複数所持群が225名(57.7%)であった。ICT機器による交流が社会活動・うつに及ぼす影響を分析した結果,ICT機器による家族との交流頻度が高い群は低い群に比べ,うつのオッズ比が有意に低かった(オッズ比0.52,95%信頼区間=0.29-0.91,p=0.024)。ICT機器による交流人数が多い群は少ない群に比べ社会活動頻度のオッズ比が有意に高かった(オッズ比1.66,95%信頼区間=1.08-2.57,p=0.023)。また,ICT機器による交流人数が多い群は少ない群に比べ,うつのオッズ比が低い傾向がみられた(オッズ比0.58,95%信頼区間=0.33-1.00,p=0.051)。

結論 本研究では,中高年住民のICT機器による交流頻度が高いことおよびICT機器による交流人数が多いことは,うつの頻度を下げることに有効であることが示された。また,ICT機器による交流人数が多いことは,社会活動頻度を高めることが示唆された。

キーワード 情報通信技術(ICT)を利用した交流頻度,情報通信技術(ICT)を利用した交流人数,社会活動,うつ

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第70巻第15号 2023年12月

健康保険組合における特定保健指導の実施率・改善率と
内臓脂肪症候群該当者割合との関連

 

中尾 杏子(ナカオ キョウコ) 井出 博生(イデ ヒロオ) 古井 祐司(フルイ ユウジ)

目的 健康保険組合の共通評価指標のデータを用いて,被保険者の構成など被保険者の属性による影響を考慮したうえで,保険者による保健事業の実施状況および効果と,加入者全体の健康状態(内臓脂肪症候群該当者割合)との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 第2期データヘルス計画の中間評価においてデータヘルス・ポータルサイトに共通の評価指標を入力した845組合を分析対象とした。共通の評価指標5指標のうち,特定保健指導実施率(実施率)および「特定保健指導による特定保健指導対象者の減少率」(改善率)の高低により組合を4群に分類し,4群間での内臓脂肪症候群該当者割合の違いを比較した。群間比較においては,共分散分析により加入者数の対数,被保険者の男性割合,被保険者の平均年齢,特定健康診査実施率を共変量として調整したうえで比較した。

結果 特定保健指導の実施率と改善率の間には有意な相関は認められなかった。実施率および改善率のそれぞれが高いほど内臓脂肪症候群該当者割合は有意に低い結果であった。

結論 実施率(量)を上げることと改善率(質)を上げることは独立の要素であり,内臓脂肪症候群該当者割合を減少させるためには,特定保健指導の実施率と改善率いずれも上げていくことの必要性が示唆された。

キーワード 内臓脂肪症候群,特定保健指導実施率,特定保健指導による特定保健指導対象者の減少率,共通評価指標,データヘルス

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第70巻第15号 2023年12月

介護支援専門員の貧困観の構造
と困窮者への対応に与える影響

北島 洋美(キタジマ ヒロミ) 柳沢 志津子(ヤナギサワ シズコ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ)

目的 介護支援専門員の貧困の原因認識の構造と,その認識が経済的に問題のある利用者・家族に対する業務にどのような影響(困難感および支援への肯定的態度)を及ぼしているのか明らかにした。原因認識は先行研究に基づき「個人的」「社会的」「運命的」の3因子構造モデルを設定した。

方法 東京都区部の居宅支援事業所に対して調査協力の依頼を行い,協力意向を示した182事業所に属する全介護支援専門員457人を調査対象者とした。調査は2021年11月に自己式調査票を用いた郵送調査で行った。因子構造の妥当性は確認的因子分析で検証した。

結果 回収された調査票は397票で,回収率は86.9%であった。分析に有効な調査票は304票であった。貧困の原因認識は3因子構造が支持され,個人的原因認識の平均が最も高かった。原因認識の中で,社会的原因認識が困難感の増加に,個人的原因認識が支援への肯定的態度の減少に有意に影響していた。

結論 原因認識と業務への影響に関しては,まず現状の枠組みでは介護支援専門員は社会的原因を解決する手段が乏しいため,社会的原因認識が対応の困難感に影響したと考えられる。貧困の原因を個人的要因だと捉えた場合は,自己責任があると考え積極的な支援姿勢がそがれている可能性がある。そして,3つ目の要因である「運命的」要因が困難感や支援への肯定的態度に影響しなかった理由および貧困が社会構造の中で引き起こされていることが指摘されているなかで,個人的原因への支持が高いことについてはさらなる検証が必要である。

キーワード ケアマネジメント,貧困帰属,ミクロ・メゾ・マクロ,困難感,肯定的態度

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第70巻第15号 2023年12月

新型コロナウイルス感染症の
療養期間延長と基礎疾患等の関連

-静岡県熱海保健所における第5波・第6波疫学調査表の解析-

藤浪 正子(フジナミ マサコ) 中村 美詠子(ナカムラ ミエコ)

伊藤 正仁(イトウ マサヒト) 尾島 俊之 (オジマ トシユキ)

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第5波(2021年7~10月)以降は,療養解除基準期間経過後も症状悪化等により療養日数を延長した患者が散見された。静岡県熱海保健所管内は,従来から肥満や喫煙・糖尿病等の者が多く,健康課題とされてきた。そこで熱海保健所がもつCOVID-19患者の疫学調査表を用いて,療養期間延長の有無と肥満,喫煙状況や基礎疾患保有状況の関連を明らかにし,今後のCOVID-19重症化対策や生活習慣病対策推進のための知見を得ることを目的とした。

方法 静岡県熱海保健所管内で対応した第5波,第6波のCOVID-19患者の疫学調査表を用い,基準の療養期間延長の有無と患者のBody Mass Index(BMI)(㎏/㎡),喫煙状況,基礎疾患等との関連を分析した。分析は流行株の違いから第5波,第6波を分けて行い,χ2検定またはFisherの正確確率検定,ロジステック回帰分析を行った。

結果 療養期間延長ありの者は,第5波では91人(40.4%),第6波では242人(16.5%)であった。多変量調整の結果,療養期間延長の要因として挙げられた基礎疾患等の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は,第5波では肥満(BMI≧25.0㎏/㎡)2.34(1.20-4.56),第6波では,糖尿病あり2.40(1.51-3.81),やせ(BMI<18.5㎏/㎡)2.22(1.41-3.50),肥満2.08(1.50-2.88)が有意に高く,療養期間延長に影響を与えていた。一方,ワクチン接種との関連は,第5波,第6波いずれも2回以上接種で,それぞれ0.27(0.08-0.99),0.44(0.31-0.62)と有意に低く,療養期間延長の抑制要因であった。また,第6波において糖尿病とやせ,糖尿病と肥満を併存している者はそれぞれ5.18(1.20-22.40),5.68(3.01-10.70)とリスクがより高かった。

結論 COVID-19第5波においては肥満が,第6波においてはやせ,肥満,糖尿病の保有が療養期間延長の要因となり,いずれの波においてもワクチン接種が療養期間延長抑制に寄与していた。COVID-19重症化抑制のためにも,地域の従来の健康課題である肥満や糖尿病等の生活習慣病対策をより一層推進する必要がある。

キーワード 新型コロナウイルス感染症,療養期間,やせ,肥満,糖尿病,ワクチン接種

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第70巻第13号 2023年11月

生活実態調査を用いた小・中学生の抑うつに関する分析

-学校生活と子どもの抑うつとの関連に注目して-

近藤 天之(コンドウ タカユキ) 加藤 承彦(カトウ ツグヒコ)

石塚 一枝(イシツカ カズエ) 阿部 彩(アベ アヤ)

 

目的 わが国における子どもの抑うつ研究は,家庭関係という視点からの研究成果が蓄積されている一方で,子どもが多くの時間を過ごす学校に関連する要因に注目した研究は極めて少ない。本研究では東京都および広島県の子どもの生活実態調査を利用し,小学5年生および中学2年生の抑うつ症状の社会人口学的要因を明らかにするとともに,学校生活に関する調査項目と子どもの抑うつ症状との関連に焦点を当てて分析を行った。

方法 大規模調査である「子どもの生活実態調査」から作成した小学5年生とその保護者(n=16,350),中学2年生とその保護者(n=14,927)のデータセットデータを分析に使用した。抑うつの評価には,抑うつ自己評価尺度(DSRS-C)を用いた。分析では,子どもの抑うつに関する社会人口統計学的データを示した上で,学校生活を「友人関係」「教師との関係」「部活動」「学校の授業」の4つの側面に分け,それぞれの側面を表す変数と抑うつとのクロス分析を行い,関連性を検討した。

結果 小学5年生は全体の14%(男子13%,女子14%)が,中学2年生は全体の23%(男子20%,女子25%)が抑うつ群であるという結果となった。学校生活との関係について,「友人との交流が少ない」「いじめを受けた経験がある」「先生と会うことが楽しみでない」「部活動に参加していない」「部活動が楽しみでない」「学校の授業が楽しみでない」「授業理解度が低い」子どもについて,抑うつ群の割合が有意に高いという結果を示した。

結論 学校生活と抑うつの関係については,おおむね先行研究と一致する結果であったと確認できた。また,学校生活の中でも特に,友人との関係の悪さ・希薄さが抑うつと強い関連をもち,その傾向は男子より女子のほうが,小学5年生より中学2年生のほうがより顕著であることが示唆された。教師との関係についても,友人関係ほど強くないが子どもの抑うつに与える影響が示唆された。本研究の限界として,学校生活と抑うつとの関連を再確認できたものの,横断研究であるため因果推論が難しい。抑うつの時系列的な変化を観測し要因を特定するためには,コホート調査の実施が重要である。

キーワード 学校,抑うつ,小学生,中学生,思春期,子どもの生活実態調査

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第70巻第13号 2023年11月

母子世帯における母親の身体的・精神的健康の現状

-「2017年北海道ひとり親家庭生活実態調査」の二次分析-
江 楠(コウ ナン) 鳥山 まどか(トリヤマ マドカ)

目的 母子世帯の母親はひとりで経済的,仕事や子育てにおける葛藤を抱え,健康に問題が生じやすいと考えられる。母子世帯の母親の健康問題を明らかにすることは,子育て・就労・経済,また健康維持のための支援策の構築にとって意義がある。そこで本研究では,母子世帯の母親の身体的・精神的健康の現状を確認することを目的とした。

方法 「2017年北海道ひとり親家庭生活実態調査」のデータを用い,二次分析を行った。調査期間は平成29年8月1日~8月31日である。札幌市を除く北海道全域で児童扶養手当を受給しているひとり親世帯に質問紙を郵送し回収した。調査票は母子世帯へ3,995票配布し,有効回答票数は1,904票であった(回収率47.7%)。本研究は祖父母等と生計同一ではない母子世帯1,558を分析対象とした。調査項目のうち,「母親の年齢」,社会経済状況として,「就労」「家計状況」「貯金」「学歴」,身体的健康として,「母親の現在の健康状態等」,精神的健康として,「調査時点から過去1カ月の間の母親の心の状態」を用いた。母親の年齢と社会経済状況の項目ごとに,身体的・精神的健康をクロス集計により確認した。心理的ストレスK6得点の10点以上を精神的健康が不調とした。

結果 母子世帯の母親の年齢が高くなるほど,身体的健康に問題を抱えている割合が高かった。経済状況が厳しいほど,働いていない母親,また「中学卒業」と「高校中退」の母親の方が身体的健康に問題を抱えている割合が高く,K6得点が10点以上である割合が高い傾向にあった。2019年国民生活基礎調査における女性より,北海道の母子世帯の母親は身体的健康に問題を抱えている人がより多く,K6得点が高かった。とりわけ,北海道の母子世帯の母親は年齢層がより若い世帯,また社会経済状況と身体的・精神的健康がよりよい層においても,2019年国民生活基礎調査における女性と比べて,身体的健康に問題を抱え,精神的健康も不調の傾向がみられた。

結論 母子世帯における社会経済状況が不利な状況であり,かつ身体的・精神的健康が不調という困難が重なっている母親が一定数存在することを確認できた。ひとり親世帯に対する今後の施策では,母子世帯の母親へのより一層の健康のケアや子育て・就労・経済的支援の必要性がある。また,家族や友人によるソーシャルサポートや育児・家事サービスの利用によって,身体的な負担を軽減し,母親の精神的健康を維持する必要がある。

キーワード 北海道ひとり親生活実態調査,母子世帯,社会経済状況,身体的健康,精神的健康

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第70巻第13号 2023年11月

COVID-19の影響下で乳幼児を育児する親における
育児ストレスの関連要因

草訳 彩乃(クサワケ アヤノ) 小池 琴音(コイケ コトネ) 小森 美玖(コモリ ミク)
荒井 春華(アライ  ハルカ) 岡安 優奈(オカヤス ユウナ) 笠木 珠里(カサギ ジュリ)
里村 麻理菜(サトムラ マリナ) 平田 菜摘(ヒラタ ナツミ) 鬼澤 宏美(オニザワ ヒロミ)
小嶋 奈都子(コジマ ナツコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ) 

目的 COVID-19による生活の変化や制限は育児中の両親に,育児ストレスや心理的な不調といった弊害を生じさせている可能性がある。本研究の目的はCOVID-19の影響下で乳幼児を育児する親における育児ストレスの関連要因を明らかにすることである。

方法 研究デザインは量的横断的記述研究であり,2022年6~7月に自記式質問紙法を実施した。対象者は乳幼児を育児中の両親であり,調査内容は,性別,年齢,就業状況,既往疾患の有無,生殖器疾患の有無,1番下の子どもの年齢,子どもの人数などであった。分析は,因子分析,信頼性分析を実施の上,育児ストレスおよび精神健康度と属性およびCOVID-19によるストレス内容との関連をt検定,一元配置分散分析,重回帰分析を用いて分析した。

結果 調査票を1,030名に配布し,有効回答565部(有効回答率54.9%)を用いてデータ分析を行った。COVID-19の影響による育児ストレスがある人は67.8%であり,原因は「自由な行動の制限」「感染防止生活が続くこと」「マスクや手指消毒」等であった。育児ストレス尺度得点は,父親群29.1点,母親群40.3点であり,母親群は有意に高く育児ストレスが多かった(p<0.001)。精神健康度得点は,父親群1.6点,母親群3.0点であり,母親群は有意に高く精神的な健康の度合いが悪かった(p<0.001)。育児ストレスに対して父親群は「家事分担の増加」(p=0.001),「習い事の遅れ」(p=0.046)が有意に育児ストレスを及ぼす影響を与えており,母親群は「行動制限」(p=0.012),「世帯収入変化」(p=0.034),「旅行できない」(p=0.001),「基礎疾患」(p=0.016)が有意に育児ストレスを及ぼす影響を与えていた。精神健康度に対して父親群は「家事分担の増加」(p=0.003),「パートナーとの時間増加」(p=0.016)が有意に精神的な健康の度合いに悪影響を与え,母親群は「行動制限」(p=0.007),「世帯収入変化」(p=0.040),「子どもの基礎疾患」(p=0.042)が有意に精神的な健康の度合いに悪影響を与えていた。

結論 育児ストレスの関連要因として,父親は「家事分担の増加」「習い事の遅れ」であり,母親は「行動制限」「世帯収入変化」「旅行できない」「基礎疾患」と違いがあった。

キーワード COVID-19,乳幼児,両親,育児ストレス

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第70巻第13号 2023年11月

育児中の母親の生活習慣と育児に関する
情緒的支援,手段的支援の関連

縞谷 絵理(シマタニ エリ) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ)

目的 生活習慣病の発症には性差とライフステージが関連し,特に育児中の母親は,望ましい生活習慣の維持が難しいと報告されている。育児中の母親を対象とした健康増進のための支援は限られており,母親の生活習慣と情緒的支援,手段的支援などの関連を明らかにした研究はほとんどない。そこで,本研究では,母親の生活習慣と育児に関する情緒的支援,手段的支援の関連を明らかにすることを目的とした。

方法 関東圏内の保育所と幼稚園の合計10施設に子どもを通所・通園させている母親1,309人を対象に,2016年6~7月に無記名自記式質問紙調査を行った。生活習慣の測定には,日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(HPLP)を用い,育児に関する情緒的支援,手段的支援との関連を検討するため,年代,家族構成,子どもの人数,就業状況を調整変数として,強制投入法による重回帰分析を行った。

結果 485票(有効回答率37.1%)を分析対象とした。対象者は,30歳代が63.3%であり,HPLP得点の平均値は2.5点であった。育児に関する情緒的支援については,家事・育児の相談相手がいると回答した割合は95.3%であった。手段的支援では,夫の育児参加,子どもの体調不良時に子どもの世話をしてくれる存在,自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在は,いずれも「時々している」「時々いる」と回答した割合が50.1%,47.0%,51.5%と最も多かった。重回帰分析の結果,HPLP得点には,育児ストレスが少ないこと(β=-0.18,p<0.001),育児不安が少ないこと(β=-0.13,p=0.006),家事・育児の相談相手がいること(β=0.23,p<0.001),夫の育児参加があること(β=0.08,p=0.046),自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在がいること(β=0.08,p=0.035),が関連しており,調整済み決定係数は0.225であった。

結論 母親の健康増進に向けた生活習慣には,育児ストレスの少なさ,育児不安の少なさ,家事・育児の相談相手がいること,自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在がいることが関連していた。母親のよりよい生活習慣を支援するためには,家事と育児に関する相談相手を確認すること,母親の体調不良や受診のための支援が重要であることが示唆された。

キーワード 母親,生活習慣,健康増進,情緒的支援,手段的支援

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第70巻第13号 2023年11月

子育て世代包括支援センターの認知度と利用状況

-こども家庭センター設置に向けた考察-
植田 紀美子(ウエダ キミコ)

目的 2022年6月の児童福祉法等の一部を改正する法律により,子育て世代包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点が統合し,「こども家庭センター」を設置することですべての妊産婦,子ども,子育て世帯への一体的な相談支援が強化される。現在,全市区町村の9割を超える自治体で設置されている子育て世代包括支援センターの認知度と利用状況,利用者の特性を調査し,こども家庭センターを広く普及していくための基礎資料とすることを目的とした。

方法 (株)クロス・マーケティング保有の「長子・末子・出産月」のスペシャルパネルを用いて,2021年度において3歳以下の子どもをもつ母親に無作為にアンケートを配信し,無記名自記式のオンラインアンケート調査を実施した。子育て世代包括支援センターの認知度と利用状況について,記述統計により基本属性に基づき整理し,認知度や利用状況が基本属性によって差がないか,妊娠期の利用状況と出産後の利用状況の関係をχ2検定により統計学的に比較した。

結果 母親866名から回答を得た。子育て世代包括支援センターを知っている者は66.9%で,そのうち,52.5%が知っているが利用していなかった。大都市に居住している方が,無職の方が,また,祖父母と同居している方が子育て世代包括支援センターを知らなかった。66.9%が母子健康手帳取得のための利用,26.2%が妊娠期に妊娠,出産,子育てについての相談利用,37.8%が出産後の子育てについての相談利用であった。子育て世代包括支援センターで妊娠期に積極的に相談していた者は,出産後も継続利用していることが明らかとなった。

結論 2017年に子育て世代包括支援センターが法定化され,その後に出生した子どもをもつ母親を対象に,子育て世代包括支援センターの認知度,利用状況,利用者の特性を整理することができた。今後,設置されるこども家庭センターが広く利用されるためには,人口規模に応じた周知の工夫や,職域での情報入手がない無職層への情報発信が重要であること,また,妊娠期からの丁寧な関わりにより出産後も子育て支援をより継続できることが示唆された。今後,設置されるこども家庭センターの妊娠期からの子育て支援推進の基礎資料になると考える。

キーワード 子育て世代包括支援センター,こども家庭センター,子育て支援,児童虐待予防,実態調査,児童福祉法

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第70巻第13号 2023年11月

児童相談所への虐待通告の地域差

-都道府県単位の人口密度を用いた分析-

松田 昌史(マツダ マサフミ) 奥村 優子(オクムラ ユウコ)

小林 哲生(コバヤシ テッセイ)樋口 大樹(ヒグチ ヒロキ)

 

目的 児童虐待の通告件数には地域差があり,都市ほど通告が多いと指摘されている。ただし,先行研究では質的な区分を用いて都市が定義されていた。本研究では,都市の数量的定義として人口密度を用い,先行研究の知見を検証する。つまり人口密度の高い都道府県ほど虐待通告件数の多いことを実証する。

方法 「令和2年国勢調査」から人口密度および「令和2年度福祉行政報告例」から児童虐待通告件数を取得し,都道府県を単位とした相関係数を求めた。通告件数の分析にあたっては各都道府県人口10万人当たりの数値とした。

結果 都道府県ごとの児童虐待通告件数と人口密度には有意な正の相関係数があり(r=0.66,p<0.001),人口密度の高い都道府県ほど児童虐待通告件数の多いことが確認された。また,通告元による違いを分析したところ,「警察」(r=0.63,p<0.001),「近隣・知人」(r=0.69,p<0.001)からの通告は人口密度と強い相関があった。一方,「児童相談所」(r=0.31,p<0.05)は比較的相関係数が小さくなり,「学校等」(r=0.15,ns)からの通告は人口密度との有意な相関を示さなかった。通告元によって人口密度との関係が異なることが示唆された。

結論 人口密度の高い地域ほど児童虐待通告件数の多い説明として,2つの仮説を提唱する。「発見しやすさ」仮説は,人口密度の高い地域は近隣家庭との物理的距離が近いため,児童虐待の現場を目撃したり,物騒な物音を聞いたりする可能性が高く,結果として児童虐待が通告されやすくなると考えるものである。「心理的要因」仮説は,児童虐待への意識や閉鎖的コミュニティにおける通告への忌避感などの心理的傾向が人口密度によって異なり,都市ほど防止意識が高く,通告忌避が起きにくいと考えるものである。これらの仮説については,今後の検証が待たれる。

キーワード 児童虐待,人口密度,通告,国勢調査,福祉行政報告例

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第70巻第12号 2023年10月

父親の職業と周産期死亡
および自然・人工死産の関連

-1995-2015年-
奥井 佑(オクイ タスク)

目的 本研究では,人口動態統計および人口動態職業・産業別統計を用いて,父親の職業と周産期死亡,自然死産,人工死産の関連を経年的に調べた。

方法 1995年度から2015年度まで5年おきの人口動態職業・産業別統計の出生票と死産票データと,1995年から2015年までの5年おきと1996年から2016年までの5年おきの10年分の人口動態統計の死亡票データを用いた。父親の職業別での早期新生児死亡を把握するため,出生データと死亡データをリンクさせた。また,父親の職業について,上級非肉体労働者,下級非肉体労働者,肉体労働者,その他にクラス分類した上で,自然死産率,人工死産率,周産期死亡率を職業クラスおよび年度ごとに算出した。さらに,対数二項回帰モデルを用いて,周産期死亡,自然死産,人工死産に対する父親の職業クラスのリスクを他の属性で調整した上で分析した。

結果 自然死産率,人工死産率,周産期死亡率について,職業クラスによらず1995年度から2015年度にかけて値は減少し,上級非肉体労働者の値が年度によらず最も低かった。回帰分析の結果,アウトカム指標と年度によらず,ほとんどの場合において,下級非肉体労働者,肉体労働者,その他のリスクは統計学的に有意に上級非肉体労働者よりも高かった。一方で,上級非肉体労働者に対するそれ以外の職業クラスの人工死産のリスク比は年度を追うごとに減少していた。

結論 周産期死亡,自然死産,人工死産において,上級非肉体労働者以外の職業クラスのリスクは上級非肉体労働者よりも高かったが,人工死産については上級非肉体労働者とそれ以外の職業クラスのリスクの違いが経年的に減少傾向であることが示された。

キーワード 人口動態,自然死産,人工死産,周産期死亡,父親の職業

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第70巻第12号 2023年10月

新型コロナウイルス感染拡大前後における
画像検査の実施状況に関する調査

岡野 員人(オカノ カズト) 杉山 正樹(スギヤマ マサキ)

目的 本研究は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大前後におけるCT検査やMRI検査などの画像検査数を比較することで,COVID-19における「受診控え」が画像検査に与えた影響について検討した。

方法 対象とした検査は,X線検査,CT検査,MRI検査,核医学検査,心臓カテーテル検査とし,2019年度および2020年度におけるレセプト情報・特定健診等情報データベースから検査数をまとめ比較した。評価は,各画像検査における月別の画像検査数の変化を評価するために,2020年度における各画像検査数の前年同月比を算出し比較した。また,2019年度および2020年度の都道府県別算定回数のデータから各都道府県におけるCOVID-19感染拡大前後比を算出し,変動係数を求め地域差を比較した。

結果 月別の画像検査数はすべての画像検査で2020年4~5月に大きくに減少していることがわかった。外来における画像検査数の前年比は,全体でX線検査が90.8%,CT検査が96.5%,MRI検査が94.9%,核医学検査が91.7%であった。入院における画像検査数の前年比は,全体でX線検査が91.0%,CT検査が99.6%,MRI検査が96.1%,核医学検査が91.4%,心臓カテーテル検査が85.5%と外来同様にすべての検査で減少した。また,入院における画像検査数は外来に比べて変動係数が高く地域差が大きい結果となった。
結論 「受診控え」による患者数の減少が画像検査数の減少に関係していることが明らかとなったが,患者数の減少は「受診控え」だけでなく,「新しい生活様式」による行動の変化が様々な疾患の疾病率に影響を与えたことも要因の1つであると推察した。
キーワード 画像検査,COVID-19,受診控え,レセプト情報・特定健診等情報データベース,変動係数

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第70巻第12号 2023年10月

家族介護・就業と健康の関連

-中高年女性のパネルデータ分析-
菊澤 佐江子(キクザワ サエコ) 植村 良太郎(ウエムラ リョウタロウ)

目的 全国パネル調査データを用いて,同居による親の介護(以下,介護)と健康の関連について,介護開始からの経過時間,就業状況といった社会的文脈を考慮しつつ,精神的健康と身体的健康の両面から検討を行った。

方法 厚生労働省が2005~2014年に実施した「中高年者縦断調査」の第1回~第10回調査の個票データを使用した。分析にあたっては,1年間(T1からT2)を観察単位として,9観察単位(2005~2006年,2006~2007年,…,2013~2014年)をプールした統合データを作成した。分析対象は,50代女性で,分析に用いた変数に欠損値がなかった12,253人(延べ38,330観察単位)である。分析は,2時点間(T1-T2)の介護状況がT2の健康状態に及ぼす影響を検討するために,変量効果モデルを推定した。

結果 身体機能的制限については,いずれのモデルにおいても,介護継続/開始/停止の回帰係数は有意ではなく,係数は負の値を示していた。ディストレスについては,介護開始/継続の回帰係数がともに0.1%水準で正の方向に有意であり,係数は介護開始,介護継続の順で大きかった。就業継続/開始の回帰係数は,身体機能的制限・ディストレスともに,負の方向に有意であった。介護と就業の交互作用は,身体機能的制限についてのみ観察され,介護継続と就業継続,介護継続と就業停止の交互作用がそれぞれ5%,1%水準で正の方向に有意であった。

結論 介護は精神的健康と有意な負の関連をもつものの,その関連は介護の過程によって一様ではなく,たとえば,ディストレスの水準は,介護開始後1年以内の介護者で,介護をしていない者に比べ顕著に高く,1年以上介護を継続している者ではそれよりは低いものの有意に高く,介護停止で元の水準に戻る傾向があることが考察された。介護が健康に及ぼす効果は,精神的健康と身体的健康とで必ずしも一様ではないことも示された。特に,介護の健康への効果に対する就業状況の作用のあり方は,精神的健康と身体的健康の間で,また介護や就業の過程によって異なり,たとえば,介護継続者が就業を継続することは,精神的健康にはプラスに作用するが,身体的健康においては過重な負担となって表れるケースもあることが考察された。介護と健康との関連については,身体的健康や時間の経過のほか介護サービス等の情報を含むデータを用いてさらに詳細な分析を行うことが,今後の課題と考えられた。
キーワード 家族介護,就業,精神的健康,身体的健康,パネル調査データ

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第70巻第12号 2023年10月

高齢者介護施設における理念浸透の実態

-一般介護職員の理念浸透の構造と離職意向との関係-
種橋 征子(タネハシ セイコ)

目的 本研究は,一般介護職員の理念浸透の構造および理念浸透と情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい,離職意向の関係性を明らかにすることを目的とした。

方法 開設から5年以上経過した4府県の小規模多機能型居宅介護事業所と3府県の特別養護老人ホームの一般介護職員を調査対象とし,質問紙調査を実施した。理念浸透の構造を明らかにするために先行研究を基に「理念浸透モデル」を措定し,共分散構造分析を行い,モデルの適合度と各因子間の関係性を確認した。さらに,理念浸透が一般介護職員の組織に対する認識に及ぼす影響を明らかにするために,「理念浸透モデル」と一般介護職員の情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい,離職意向との関係について共分散構造分析を行い,適合度と各因子間の関係性を確認した。

結果 「理念浸透モデル」について共分散構造分析を実施した結果,「制度化」は「内面化」よりも「共感」に及ぼす影響の方が大きく,「共感」の方が「内面化」を促進することが明らかになった。「上司の態度」は「内面化」に直接の影響はなかったが,「同僚の態度」は「内面化」に直接影響を及ぼすという結果となった。また,離職意向に負の影響を及ぼす「仕事のやりがい」には,「情緒的組織コミットメント」「同僚の態度」が直接影響を及ぼしていた。

結論 高齢者介護施設における一般介護職員の理念浸透の構造および理念の制度化が一般介護職員の情緒的組織コミットメントや仕事のやりがいを向上し,離職意向を低減する効果があることが明らかになった。そして,上司(リーダー)よりも身近で,共に理念を反映した利用者支援にあたる同僚や先輩の存在が一般介護職員の理念の内面化や仕事のやりがいに影響を及ぼすことが示された。
キーワード 理念浸透,理念の制度化,介護職員,離職意向,情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい

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第70巻第11号 2023年9月

希釈タイプ乳酸菌飲料を活用した
離島在住高齢者の健康増進活動

木下 徹(キノシタ テツ) 丸山 広達(マルヤマ コウタツ) 内田 直人(ウチダ ナオト)
小谷 恵(コタニ メグミ) 松浦 啓一(マツウラ ケイイチ) 水野 征一(ミズノ セイイチ)
久住 朝子(クスミ アサコ) 川口 恭輔(カワグチ キョウスケ) 大澤 一仁(オオサワ カズヒト)
大木 浩司(オオキ コウジ) 谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 希釈タイプ乳酸菌飲料を継続して飲むことによる,高齢者の心身のQOL,精神健康度,幸福度の向上効果を調べ,地域単位で実施できる高齢者の心の健康を支える活動に関して検証した。
方法 愛媛県越智郡上島町岩城島の住民118名(男性37名,女性81名,56~94歳)から試験参加の同意を得た。本活動は,乳酸菌飲料を飲まない8週間の前観察期間,乳酸菌飲料を飲用する8週間の飲用期間,さらに乳酸菌飲料を飲まない8週間の後観察期間による,1群3期オープン試験として実施した。参加者は開始時から4週間ごとに健康関連QOL尺度SF-8に回答し,8週間ごとに精神健康尺度GHQ-12,VASによる幸福度アンケートおよびお腹の状態に関するアンケートに回答した。
結果 前観察期間ではいずれの指標においても有意な改善は認められなかったが,飲用期間では,SF-8の「身体機能」「日常役割機能(身体)」「体の痛み」「全体的健康感」「日常役割機能(精神)」「心の健康」「身体的サマリースコア」の各スコアにおいて有意な上昇が認められた(いずれもp<0.05)。また,GHQ-12スコアは有意に低下し(p<0.01),幸福度は有意に上昇した(p<0.01)。また,後観察期間では,SF-8の「身体機能」スコアおよび「身体的サマリー」スコアにおいて有意な低下が認められた(いずれもp<0.05)。さらに,「全体的なお腹の調子」「便秘」について,飲用期間において有意な改善が認められた(いずれもp<0.05)。
結論 希釈タイプ乳酸菌飲料を毎日飲用することによる心身への効果は,乳酸菌による保健効果から生じただけでなく,参加者に毎日のルーティンワークができたことや日々の目的ができて心が前向きになったこと等も要因となった可能性が考えられる。本活動のような取り組みは離島や農村部だけでなく都心部でも実施可能であり,高齢化が進む日本の地域高齢者の活力や幸福度の上昇への貢献が期待される。
キーワード 乳酸菌飲料,高齢者のQOL,幸福度,離島の福祉

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第70巻第11号 2023年9月

国民健康保険保険者努力支援制度の
事業評価スコアと健康寿命との関連

細川 陸也(ホソカワ リクヤ) 友澤 里穂(トモザワ リホ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)
明神 大也(ミョウジン トモヤ) 相田 潤(アイダ ジュン)
近藤 克則(コンドウ カツノリ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 健康日本21(第二次)の目標に「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が掲げられている。効果的・効率的な地域の健康づくりや保健活動を目指すPDCAサイクルの推進を図る国民健康保険保険者努力支援制度の事業評価が導入されたが,どのような活動が健康寿命と関連するかは明らかとなっていない。そこで,本研究は,同事業評価の各項目スコアと健康寿命との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 本研究は,健康寿命の算定の誤差が大きくなる人口1万2千人未満(2020年)の市区町村を除く1,154自治体を分析対象とした。国民健康保険保険者努力支援制度の事業評価に基づき,厚生労働省が公表した2020年度の事業評価スコア集計データを用いた。また,健康日本21の「日常生活に制限のない期間」の考え方に基づき,要介護2以上を不健康な期間とする「日常生活動作が自立している期間」を用いて,男女別に,65歳時の健康な期間の平均を算出し,これを健康寿命として用いた。市区町村の事業評価スコアを説明変数,健康寿命を目的変数,人口密度の対数・財政力指数を調整変数とし,重回帰分析を実施した。
結果 男女ともに,特定健診受診率・特定保健指導実施率・メタボリックシンドローム該当者および予備群の減少率(男性:β=0.179,p<0.001,女性:β=0.155,p<0.001),重複・多剤投与者に対する取り組み(男性:β=0.076,p=0.009,女性:β=0.082,p=0.005),保険料収納率の向上(男性:β=0.211,p<0.001,女性:β=0.188,p<0.001),地域包括ケアの推進(男性:β=0.067,p=0.023,女性:β=0.093,p=0.002)の事業評価スコアが高いほど,健康寿命が有意に長い傾向がみられた。また,重症化予防の取り組み(男性:β=0.045,p=0.117,女性:β=0.099,p<0.001),第三者求償の取り組み(男性:β=0.008,p=0.782,女性:β=0.065,p=0.029)の事業評価スコアが高いほど,健康寿命が長い傾向がみられ,女性のみ有意であった。
結論 特定健診受診率・特定保健指導実施率・メタボリックシンドローム該当者および予備群の減少率,重症化予防の取り組み,重複・多剤投与者に対する取り組み,保険料収納率の向上,地域包括ケアの推進,第三者求償の取り組みの事業評価スコアは,健康寿命と正の関連がみられた。今後,縦断データや個人データでの因果効果の検証が待たれる。
キーワード 国民健康保険,保険者努力支援制度,PDCA,高齢者,健康寿命

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第70巻第11号 2023年9月

妊娠期から産後の女性におけるうつ傾向の
推移および時期による差異

岡﨑 あゆみ(オカザキ アユミ) 町屋 奈々美(マチヤ ナナミ) 許 明奈(キョ アキナ)
大渡 典(オオワタリ ツカサ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)

目的 産後うつ病の防止のため,妊婦に対する現状把握が必要である。特に,女性の妊娠初期から産後にかけてうつ病のスクリーニングにより,早期介入の時期を検討する必要がある。本研究の目的は,産後うつ傾向のある女性に妊娠中から関わる示唆を得るために,妊娠期から産後の女性におけるうつ傾向の推移と各時期の差異を明らかにすることである。
方法 後ろ向き観察研究デザインを用いて,2020年10月~2022年2月にデータを収集した。研究対象者のデータは,2021年4月~2022年1月に出産した女性175名分の電子カルテから得た。調査内容は属性,妊娠初期・後期・産後2週間のエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)得点とし,記述統計量を算出し,t検定を行った。
結果 138名分の有効データ(78.9%)を用いて分析した。対象者の平均年齢は33.8±4.2歳であり,初産婦が60.1%であった。EPDS得点は妊娠初期3.9±4.2点に比較して,妊娠後期2.6±3.1点(t=4.7,p<0.001),産後2週間2.9±3.4点(t=2.9,p=0.004)と,それぞれ有意に低下していた。妊娠初期にEPDSが高得点のハイリスク群は,妊娠後期と産後2週間のEPDS得点がローリスク群より高かった(p<0.05)。
結論 妊娠初期にEPDS得点が高いハイリスク群はローリスク群と比較して,妊娠後期および産後2週間もEPDS得点が高く持続していた。妊娠初期から産後うつをスクリーニングし,妊娠初期からうつ防止のために関わり,妊娠期から産後にかけて切れ目なく支援する重要性が示唆された。
キーワード 産後うつ病,妊産婦,褥婦,エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS),後ろ向き研究

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第70巻第11号 2023年9月

高年齢介護助手における職業性ストレスおよび
ソーシャルサポートと情緒的消耗感の関連

馬 盼盼(マ ハンハン) 相良 友哉(サガラ トモヤ) 杉浦 圭子(スギウラ ケイコ)
高瀬 麻以(タカセ マイ) 中本 五鈴(ナカモト イスズ) 六藤 陽子(ムトウ ヨウコ)
東 憲太郎(ヒガシ ケンタロウ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)

目的 本研究は介護の補助職として働く高年齢介護助手の情緒的消耗感と職業性ストレスおよびソーシャルサポートとの関連を明らかにすることを目的とした。
方法 2020年度の「介護老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業」の高年齢介護助手調査データを使用し,全国の599施設に勤める1,601名の高年齢介護助手の回答を解析した。この調査では,60歳以上の介護助手を高年齢介護助手と定義した。情緒的消耗感は,日本版バーンアウト尺度の下位尺度を用いた。職業性ストレスは,新調査票職業性ストレス簡易調査票から,「仕事の量的負荷」「仕事の質的負荷」「身体の負担」「仕事のコントロール」「職場の一体感」を用いた。ソーシャルサポートはサポートの種類(情緒的・情報的・評価的・手段的サポート)とサポート源(上司・同僚・家族・友人のサポート)を尋ねた。解析は,情緒的消耗感を従属変数とし,職業性ストレス,ソーシャルサポートを説明変数とした重回帰分析を行った。
結果 対象者は,女性が66.7%,平均年齢が68.4±4.7歳であった。情緒的消耗感得点は,8.98±3.71であった。重回帰分析の結果,職業性ストレスでは,仕事の量的負担(β=0.226,p<0.001),仕事の質的負担(β=0.089,p=0.002),身体の負担(β=0.114,p<0.001)の得点が高いほど情緒的消耗感の得点が有意に高く,職場の一体感(β=-0.210,p<0.001)の得点が高いほど,情緒的消耗感の得点が有意に低かった。ソーシャルサポートでは,サポートの種類の評価的サポート(β=-0.092,p=0.008),サポート源の同僚のサポート(β=-0.100,p<0.001)と家族のサポート(β=-0.063,p=0.016)の得点が高いほど,情緒的消耗感の得点が有意に低かった。
結論 高年齢介護助手の情緒的消耗感の予防や軽減には,業務量や内容が適切かどうかのモニタリング,一体感のある職場環境の創出,高年齢介護助手の仕事を適切に評価する関係性の構築,そして,職員同士が支え合える体制や家族からの支援が得られるように仕事について十分理解してもらうことが重要である。
キーワード 高年齢介護助手,情緒的消耗感,職業性ストレス,業務負担,ソーシャルサポート

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第70巻第11号 2023年9月

サービス付き高齢者向け住宅における
不適切なケア等の実態と意識の現状

-サービス付き高齢者向け住宅のタイプ別の比較をもとに-
松本 望(マツモト ノゾミ)

目的 本研究は,サービス付き高齢者向け住宅(以下,サ高住)のタイプ別に,不適切なケア等の実態と意識の現状を明らかにすることを目的とした。
方法 調査は「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」に2021年10月末時点で掲載され,開設後1年以上経過しているサ高住,4,753件に勤務する介護職員を対象にアンケートを配布して行い,調査に同意できる場合のみ回答するよう依頼した。アンケートの項目は不適切なケア等の実態,不適切なケア等の意識,勤務するサ高住の特性と職員の属性で構成した。分析は,まず不適切なケア等の実態・意識について,それぞれ因子分析を行った。次に,抽出された各因子の下位項目を単純加算した得点を下位尺度得点とし,Kruskal-Wallisの検定によりサ高住のタイプ別に比較した。
結果 944人から回答があり(回収率19.9%),そのうち欠損のあったデータを除く885人分を有効回答として分析に用いた(有効回答率18.6%)。まず不適切なケア等の実態・意識について因子分析を行った結果,「乱暴な介護の実態」「意思に沿わない介護の実態」「身体拘束の実態」と,同じ項目で構成される「乱暴な介護の意識」「意思に沿わない介護の意識」「身体拘束の意識」の3因子が抽出された。次にKruskal-Wallisの検定を行った結果,「介護タイプ」のサ高住について,「意思に沿わない介護の実態」が他のタイプに比べ有意に多く,さらに「意思に沿わない介護の意識」が有意に低いことが明らかとなった。
結論 「介護タイプ」のサ高住は,バーンアウトに陥ったり,BPSDのストレスにさらされたりしやすい環境であることから,「意思に沿わない介護の意識」が低下し,それが「意思に沿わない介護の実態」の多さにつながっていると考えられた。そのため,職員が高い意識やモチベーションを維持できるよう,職員同士が連携・協働し,支え合う仕組みの構築,例えば日常的な申し送りや定期的なミーティングのほか,困難事例の検討を行うことや,連絡ノートや情報共有システムの活用,サービス担当者会議への参加等が有効だといえる。また,「介護タイプ」以外のサ高住も含め,各サ高住の力量に見合った入居者の受け入れやマネジメントを行い,入居者の介護ニーズと各サ高住で提供できるサービスのレベルにギャップが生じないようにすることが,不十分なケアや不適切なケア等の予防にもつながるといえる。
キーワード サービス付き高齢者向け住宅,不適切なケア等の実態,不適切なケア等の意識

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第70巻第8号 2023年8月

第23回生命表の作成方法について

安川 学(ヤスカワ マナブ)

*こちらの論文には抄録はございません

 

 

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第70巻第8号 2023年8月

令和2年都道府県別生命表における平均寿命の地域差分析

首藤 陽平(シュトウ ヨウヘイ) 飯田 悠斗(イイダ ユウト)

上平 駿(カミヒラ ハヤオ) 安川 学(ヤスカワ マナブ)

 

目的 令和2年都道府県生命表において,各都道府県の平均寿命の全国の平均寿命に対する差(地域差)を,年齢階級別・死因別の寄与へと分解することによって,地域差の要因を明らかにする。また,平成27年と令和2年の年齢階級別・死因別の寄与を比較することによって,その経年変化を明らかにする。

方法 各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の差(地域差)に対する年齢階級別の寄与は,全国の死亡率を低い年齢から順次,各都道府県の死亡率に置き換えたときの平均寿命の変化量として算出した。また,死因別の寄与は各年齢に対し,死亡率を死因別に分解することで同様に死因別寄与を求め,全年齢の総和として算出した。
結果 男で平均寿命が最も長い滋賀県は,年齢階級別では主に50~84歳がプラスに寄与している。また,死因別では不慮の事故と自殺を除く死因がプラスに寄与している。女で平均寿命が最も長い岡山県は,年齢階級別では主に55~89歳がプラスに寄与している。また,死因別では悪性新生物<腫瘍>の寄与が最も大きい。さらに,平成27年と令和2年で地域差を比較すると,地域差は拡大している。
結論 各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の差(地域差)を年齢階級別,死因別に分析するとそれぞれの特徴は都道府県により異なる。また,地域差の年齢階級別・死因別寄与の経年変化を観察することで,地域差の変化や平均寿命の都道府県別順位の変化の要因を詳細に分析できる。
キーワード 都道府県別生命表,平均寿命,地域差,年齢階級,死因,寄与

 

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第70巻第8号 2023年8月

令和2年市区町村別生命表における平均余命の誤差評価について

飯田 悠斗(イイダ ユウト)

目的 令和2年市区町村別生命表報告書に記載のある,平均余命の標準誤差について,その評価式の導出過程を明らかにするとともに,人口規模と誤差の大小関係を観察することを目的とする。
方法 Chin Long Chiang氏の方法に基づき,実績死亡数を人口の回数分の真の死亡確率によるベルヌーイ試行の結果とみなすことから出発し,平均余命の標準誤差を,死亡率の分散を使って表現する。
結論 人口の常用対数と平均寿命の標準誤差率の間には負の相関がみとめられ,相関係数は男-0.76,女-0.68であった。
キーワード 試行結果としての死亡数,平均余命の誤差,人口規模

 

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第70巻第8号 2023年8月

簡易生命表における平均寿命の延びの寄与年数への分解

首藤 陽平(シュトウ ヨウヘイ) 安川 学(ヤスカワ マナブ)

目的 簡易生命表においては,平均寿命の前年からの延びに対する死因別寄与年数を公表し,その算定方法を報告書に掲載している。そこで,本論文では,2つの生命表間の平均寿命の差を要因別寄与年数へと分解する手法の一般論を解説し,令和3年簡易生命表における死因別・死亡月別寄与年数への分解結果を解説する。
方法 平均寿命の前年からの延びを,まず年齢階級別の寄与年数へと分解した後,それらをさらに死因別・死亡月別に加法分解することで行列展開し,それを死因・死亡月ごとに足し上げることで要因別寄与年数を求めた。
結論 令和3年簡易生命表における平均寿命の前年からのマイナスの延びの要因別寄与年数をみると,死因別でみると「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」等がマイナスに寄与し,死亡月別でみると12月においてプラス幅が,また,5月においてマイナス幅が最も大きく寄与したことがわかった。
キーワード 簡易生命表,平均寿命,死因,死亡月,要因分解,寄与

 

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第70巻第7号 2023年7月

人口動態調査の二次利用提供データを用いた
ICD-10小分類相当別の心疾患死亡率に関する
長期的動向の県間比較における課題点について

絹田 皆子(キヌタ ミナコ) 今野 弘規(イマノ ヒロノリ) 董 加毅(トウ カギ)
田中 麻理(タナカ マリ) 坂庭 嶺人(サカニワ リョウト) 岸田 里恵(キシダ リエ)
磯 博康(イソ ヒロヤス) 祖父江 友孝(ソブエ トモタカ) 

目的 平成19年,統計法が60年ぶりに改正され,厚生労働省が実施する人口動態調査等の公的統計データの二次利用に関する規定により,死亡票に記載された死因の県間比較調査や研究が推進されることとなった。しかしながら,人口動態調査に基づく死亡率について,長期的動向の県間比較を行う際,「死因簡単分類名の心疾患(高血圧性を除く)を構成する内訳病名(ICD-10小分類相当,以下,内訳病名)」を用いることの課題点を検証した報告は見当たらない。そこでわれわれは,平成29年度環境省委託事業「放射線健康管理・健康不安対策事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業)」「福島県内外での疾病動向の把握に関する調査研究」の一環として,死因簡単分類名の「心疾患(高血圧性を除く)」における内訳病名別死亡率の長期的動向の県間比較を行い,その課題点を検証した。

方法 1995年から2015年までの人口動態調査の二次利用提供データを用いて,福島県と近隣9県(岩手,宮城,山形,茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,新潟)の40~79歳日本人男女を対象として,10県全体および各県別の「心疾患(高血圧性を除く)」(ICD-10:I01-I02.0,I05-I09,I20-I25,I27,I30-I52,以下,心疾患)の内訳病名割合(%)を5年ごとに算出し,上位10位までの疾患を比較した。

結果 「心疾患」において,1995年では,10県全体における内訳病名上位10疾患は,1位の「急性心筋梗塞,詳細不明(I21.9)」が約半数を占め,次いで「心不全,詳細不明(I50.9)」が約1/5を占めていた。各県別の全期間における「心疾患」の内訳病名割合は,山形・福島・茨城ではほぼ変化が認められなかった。しかしながら,岩手・宮城・千葉・新潟は1995年時点で全体の数%であった「心臓性突然死〈急死〉と記載されたもの(I46.1)」が,2015年には全体の約15~40%に,宮城・栃木・埼玉は1995年時点で全体の数%であった「急性虚血性心疾患,詳細不明(I24.9)」が,2015年では全体の約13~35%に,群馬は1995年時点で全体の数%であった「心疾患,詳細不明(I51.9)」が,2015年では全体の約35%に,それぞれ大幅に増加していた。その逆に,それら7県では,心筋梗塞や心不全の割合は減少傾向がみられた。

結論 「心疾患」の内訳病名は,急性心筋梗塞や心不全などの主要な病名の頻度が1995年以降の20年間で変化の仕方が県によって大きく異なり,判定基準が統一されていないことが明らかとなったことから,死亡率の長期的動向や県間比較には,単純に内訳病名を用いることは適切でないことが示唆された。

キーワード 人口動態統計,心疾患,死因病名,長期的動向,県間比較

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第70巻第7号 2023年7月

民生委員が抱える役割ストレスに関する短縮版尺度の開発

飛田 和樹(ヒダ カズキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)

目的 本研究では,民生委員が抱える役割ストレスに関する短縮版尺度を開発し,その妥当性を検証することを目的とした。

方法 首都圏大都市のA市B区において,地域特性や地区の民生委員定数等を考慮して抽出した7地区の民生委員計153名を対象に質問紙調査を実施した。質問紙は101件回収(回収率66.0%),性別無回答の1件を除き100件を有効回答とした(有効回答率65.4%)。杉原による民生委員の役割ストレスに関する尺度について,Item-Total相関分析,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)により短縮版項目を抽出した。抽出された項目群についてクロンバックのα係数を確認し,基準関連妥当性として民生委員の活動継続意欲と援助成果との相関関係を確認した。調査対象者の基本属性による役割ストレスの差異について,対応のないt検定および一元配置分散分析で確認した。

結果 本研究では短縮版尺度として,7項目版(クロンバックのα=0.800)および3項目版(クロンバックのα=0.677)を開発した。原版12項目のなかで,「責任の範囲がはっきりしていない」「何が期待されているのかわからない」「十分な情報や援助がないのに仕事を割り当てられる」「意味がないと思われることを行政から割り当てられる」「行政や関係機関からの依頼事項が多い」という5項目が原版12項目の総得点と強い相関関係が確認された(r=0.603~0.753)。7項目版と3項目版のいずれも,活動継続意欲(r=-0.507,-0.511)や援助成果(r=-0.409,-0.445)に原版と同等以上の相関関係が確認された。調査対象者が54歳以下の若年層,70歳以上の高年齢層で役割ストレスが低い傾向にあり,60~64歳の役割ストレスが最も高かった(原版12項目:P=0.031,7項目版:P=0.042,3項目版:P=0.061)。

結論 本研究による短縮版尺度を活用して民生委員が抱える負担感を適時・適切にモニタリングすることで,各地域での支援方針や重点的な介入策を検討する一助になり得ると考える。

キーワード 民生委員・児童委員,役割ストレス,短縮版尺度

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第70巻第7号 2023年7月

住民主体の活動を促す行政保健師行動評価尺度の開発

岩本 真弓(イワモト マユミ)

目的 地区活動において住民主体の活動を促す行政保健師の行動評価尺度(以下,行政保健師行動評価尺度)を開発し,信頼性・妥当性を検討することを目的とした。

方法 住民主体の活動が地域づくりに発展している好事例に関わる行政保健師を対象に半構造的面接法によるインタビュー調査から抽出した48項目を文献と照合し,専門家調査による項目の精選,内容妥当性を確認した41項目を使用した。行政保健師行動評価尺度開発のための本調査は,2県62市町村の保健師610人を対象に郵送による質問紙調査を実施した。調査期間は2022年5~6月である。調査内容は,基本情報,行政保健師行動評価尺度案,パートナーシップ構築プロセス評価尺度である。

結果 200名の有効回答(回答率32.8%)を分析対象とした。行政保健師行動評価尺度案41項目の項目分析にて回答に偏りがみられた9項目を除いた32項目について探索的因子分析を行った結果,「情報提供・発信」「地域の人材育成」「ネットワーク構築」「協働事業における進行管理」の4因子21項目から構成され,尺度全体のCronbachのα信頼係数は0.93,構成概念妥当性については,構造方程式モデリングによる確認的因子分析で検証を行った結果CFI=0.916,RMSEA=0.067となり,信頼性と妥当性が検証された。

結論 開発された,住民主体の活動を促す行政保健師の行動を4因子,21項目で評価する行政保健師行動評価尺度について,一定の信頼性・妥当性が確認され,住民とともに地域特性に応じた新たな価値を創り出す内容を包含した行政保健師の特徴的な行動を評価することが可能になったと考えられる。

キーワード 住民主体の活動,行政保健師,地区活動,行動評価尺度

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第70巻第7号 2023年7月

福祉学科学生の認知症の人に対する態度とイメージ
および認知症知識に関する日中比較

-日本のA大学と中国のB大学との比較調査を通して-
許 東升 (シュー ドンション) 辻丸 秀策(ツジマル シュウサク)

目的 本研究は,福祉先進国の日本と福祉発展途上国の中国における福祉学科学生の認知症の人に対する態度,イメージ,認知症に関する知識の現状を明らかにし,日中比較を通して,今後の両国の福祉人材育成の取り組みについて提案することを目的とした。

方法 2022年の時点で,日本のA大学と中国のB大学の福祉学科に在籍する1~3年次の学生を対象とした。調査期間は,中国では5月9日~20日,日本では6月21日とし,アンケート調査を行った。最終的に397人(日本109人;中国288人)を分析対象とした。調査により両国の福祉学科学生の認知症の人に対する態度とイメージおよび認知症に関する知識について回答を得て比較した。調査対象者の基本属性と認知症関連項目の日中比較について,χ2検定を用いた。また,認知症の人に対する態度とイメージ,認知症に関する知識の項目別の日中比較についてはχ2検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。さらに,認知症の人に対する態度および下位尺度の肯定的態度と否定的態度,認知症に関する知識,認知症の人に対するイメージ合計得点の平均値に日中の間に差があるかどうかを調べるため,t検定を用いて,分析を行った。

結果 両国の福祉学科学生が認知症の人に対する肯定的態度を持つ傾向を示した。下位尺度の肯定的態度と否定的態度では,中国の福祉学科学生の認知症の人に対する肯定的態度が有意に強く,否定的態度も有意に強い。また,両国の福祉学科学生の認知症に関する知識の全体の正答率ともに6割強であり,中国の方が認知症の原因,行動・心理症状およびその対応方法に関する7項目の正答率が有意に高く,日本の方が記憶障害と幻覚・妄想の対応方法および治療に関する6項目の正答率が有意に高かった。さらに,認知症の人に対するイメージでは,日本の方がネガティブな回答が多く,中国の方がポジティブな回答が多く,中国の方が認知症の人に対するよりポジティブなイメージを持つことが明らかになった。

結論 今後,両国の認知症高齢者が増加する高齢社会に向けて,専門的な福祉人材を育成するために,両国とも福祉学科学生に対して,認知症の人に対するポジティブなイメージを促進し,認知症に関する知識を全般的に高めることが必要である。特に,深刻な認知症問題を来す中国において,福祉学科学生に対して,認知症の人に対する否定的態度を解消し,治療等に関する知識を高める必要性が提示できる。

キーワード 認知症の人に対する態度,認知症に関する知識,認知症の人に対するイメージ,福祉学科学生,日中比較

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第70巻第7号 2023年7月

日常生活に制限のない期間の
平均の算定方法に関する検討

川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 健康日本21(第二次)で利用される「日常生活に制限のない期間の平均」(以下,健康寿命)について,健康状態の測定対象を居宅者から医療機関の入院者と介護保険施設の在所者への拡大および計算の最終年齢階級を85歳以上から95歳以上へ変更することによる,2010~2019年の指標値の変化を検討した。

方法 基礎資料として国民生活基礎調査,簡易生命表,患者調査,介護サービス施設・事業所調査と人口を,算定方法として健康日本21(第二次)での算定方法(標準の算定方法)を,測定対象と最終年齢階級をそれぞれ上記のとおり変更した算定方法を用いた。

結果 2010年の健康寿命について,標準の算定方法の男性70.42年と女性73.62年に対して,測定対象を変更すると男性-0.76年と女性-1.10年,最終年齢階級を変更すると男性-0.05年と女性-0.14年の変化であった。2010年と2019年の健康寿命の年次差について,標準の算定方法の男性2.26年と女性1.76年に対して,測定対象と最終年齢階級を変更しても0.1年未満の変化であった。

結論 2010~2019年の健康寿命は測定対象の変更に伴ってかなり低下し,最終年齢階級の変更に伴って若干低下したが,年次差はほとんど変化しなかった。健康日本21(第二次)の健康寿命の目標達成の評価結果には測定対象と最終年齢階級の変更がほとんど影響しないことが確認された。

キーワード 健康寿命,算定方法,日常生活に制限のない期間の平均,国民生活基礎調査,健康日本21(第二次)

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第70巻第6号 2023年6月

訪問看護サービスの利用と提供に
関する過疎地域と全国の比較分析

杉井 たつ子(スギイ タツコ) 門間 貴史(モンマ タカフミ) 武田 文(タケダ フミ)

目的 全国市町村単位の各種統計データを用いて,訪問看護サービスの提供と利用の状況について過疎地域と全国とで比較検討した。

方法 訪問看護サービスの提供について,過疎地域と全国の①人口10万人・老年人口・1㎢あたりの訪問看護ステーション(ST)数,②人口10万人・老年人口・1施設あたりの訪問看護STの常勤看護師数,③訪問看護サービス提供施設の設置主体別内訳を算出した。訪問看護サービスの利用について,過疎地域と全国の要介護認定者における④利用割合,⑤1人あたりの利用回数,⑥訪問看護サービス提供1施設あたりの利用人数(月平均値)を,介護区分別に算出した。上記③を除く全項目について,全国を母集団として過疎地域との相違を母比率の差の検定およびt検定により検討した。③については,全国の設置主体別内訳を理論値とし過疎地域における観察値の適合度についてχ2検定を行ったのち,各設置主体別割合に関する残差分析を行った。

結果 訪問看護サービスの提供状況をみると,人口10万人・老年人口・1㎢あたりの訪問看護ST数,および人口10万人・老年人口・1施設あたりの訪問看護STの常勤看護師数は,いずれも過疎地域が全国より有意に少なかった。また訪問看護サービス提供施設の設置主体別内訳は,過疎地域は全国より営利法人が少なく,社会福祉法人(社協),その他法人,社団・財団,農協,地方公共団体(市町村等)が多かった。要介護認定者における訪問看護サービスの利用状況をみると,サービスの利用割合は要支援1を除くすべての介護区分において,利用者1人あたりの利用回数はすべての介護区分において,訪問看護サービス提供1施設あたりの利用人数(月平均値)は要支援1を除くすべての介護区分においても過疎地域が全国より有意に少なかった。

結論 過疎地域は全国と比較して,人口および面積あたりの訪問看護ST数と常勤看護師数が少なく,訪問看護サービス提供施設の設置主体は営利法人が少なく地方公共団体が多く,要支援1を除くすべての要介護認定者において利用割合が少なかった。利用者1人あたりの利用回数と,訪問看護サービス提供1施設あたりの利用人数も少ないことが明らかとなった。

キーワード 訪問看護サービス,過疎地域,市町村,要介護認定者,提供,利用

 

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第70巻第6号 2023年6月

障害福祉サービス費用からみた居住支援と日中活動支援

-自治体障害者自立支援給付データの分析-
榊原 賢二郎(サカキバラ ケンジロウ)

目的 障害者の地域移行は,施設入所・グループホーム居住・在宅という居住形態にまずは関わるが,地域生活は日中も含めて成立する。入所施設では日中・夜間が事実上一体であるが,その他の居住形態で個々の日中系サービス等がいかに利用されているかを定量的に解明する。

方法 4自治体から匿名の障害者自立支援給付データ5~14年分(最長2007-2020年度。障害者手帳データを含む)の提供を受け,居住形態や手帳等級も活用して集計した。

結果 日中の比重が大きい施設入所者とは異なり,グループホーム居住者の場合,居住支援(共同生活援助)が利用単位数の半ばを占め,日中系では生活介護・就労継続支援B型(・利用なし)に分散した。在宅者では,生活介護・就労継続支援B型のほか,訪問系の居宅介護などが利用されており,それらの比重には地域差がみられた。各居住形態における障害福祉サービスの1人当たり平均利用単位数は,施設入所者>グループホーム居住者>在宅者となった。療育手帳重度者では,グループホーム居住者・在宅者において,より平均利用単位数が高い生活介護の比率が高まるが,重度の在宅者への就労継続支援B型の提供が多い自治体もあった。居住形態ごとの療育手帳重度者1人当たり平均利用単位数は,グループホーム居住者が施設入所より高くなる傾向がみられた。日中系サービス利用者の療育手帳重度者割合をみると,生活介護が一貫して重度者中心であるのに対して,就労継続支援B型では,3自治体で重度者割合の低下傾向がみられた。

結論 居住形態や障害の重度性により,日中活動支援の利用状況も変化していた。このことは,障害者の社会参加機会やサービス供給体制への含意を有する。前者に関しては,通所サービスの中でも,就労という枠組みと「常時介護」の枠組みがどの程度選ばれるかに関わる。また,本稿の日中と夜間の総合的分析は,サービス基盤の整備の基礎資料となりうる。

キーワード 障害者総合支援法,地域移行,生活介護,就労継続支援,障害者手帳

 

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第70巻第6号 2023年6月

DPCデータを用いた福岡県の二次医療圏別にみた
がん医療の現状分析

宮﨑 裕也(ミヤザキ ユウヤ) 石原 礼子(イシハラ レイコ)

目的 厚生労働省が公表しているがん診療連携拠点病院等の整備指針では,二次医療圏に1カ所の地域がん診療連携拠点病院を整備することが望ましいとされている。本研究では,福岡県の二次医療圏別にみたがん医療の現状を明らかにし,福岡県での今後のがん医療の在り方や課題について考察することを目的とした。

方法 厚生労働省が公表している令和元年度退院患者調査を用い,福岡県の二次医療圏別の患者推計値を求め,流入流出患者数を算出する。その後,主要な6つのがんについて,二次医療圏別の手術の有無別患者数を求め,患者推計値との比較を行った。また,4診療圏に集約した場合についても同様に比較を行った。

結果 胃がん,肺がん,大腸がん,子宮がん,肝がんでは,9の医療圏で患者数が患者推計値を下回る結果となった。また,乳がんでは,11の医療圏で患者数が患者推計値を下回る結果となった。4診療圏別での比較では,筑豊診療圏で,大腸がん,子宮がん,乳がん,肝がんの患者数が患者推計値を大きく下回っていた。

結論 福岡県は,全国に比べてすべてのがんの人口10万人当たりの入院患者数は多いが,がん医療は二次医療圏で完結しているとは言い難い結果であった。また,4診療圏で比較しても,筑豊診療圏では他診療圏への流出がみられたため,少子高齢化の進展や核家族化の進展,高齢者の移動能力,治療と仕事の両立を考慮すると,筑豊診療圏に属する直方・鞍手医療圏には,地域がん診療病院の設置,もしくは外来でのがん治療の充実を図る必要があると考える。しかし,がん医療の現状を把握するためには,経時的な変化を観察していく必要があり,また,地域の実情に基づいたがん医療の在り方を今後さらに研究していく必要があると考えた。

キーワード DPC,がん医療,二次医療圏

 

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第70巻第6号 2023年6月

都道府県別の社会経済状況を測る合成指標の開発

-健康寿命の都道府県間格差対策に向けて-
片岡 葵(カタオカ アオイ) 井上 勇太(イノウエ ユウタ) 西岡 大輔(ニシオカ ダイスケ)
佐藤 倫治(サトウ トモハル) 福井 敬祐(フクイ ケイスケ) 
伊藤 ゆり(イトウ ユリ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 健康日本21(第2次)の主目標に健康格差の縮小が掲げられ,都道府県間の健康寿命の差が評価されてきた。しかし,健康格差の評価は地域間差だけでなく,地域の社会経済状況の違いも考慮することが重要である。日本では,市区町村単位の社会経済状況を包括的に測定する地理的剥奪指標が健康格差の評価に広く使用されている。一方,都道府県単位の各種公的統計を用いた指標は近年開発されておらず,健康日本21(第2次)の主目標に掲げられている健康寿命との関連も検証されていない。本研究では,都道府県単位で集計・公表されている各種統計データにより社会経済状況を測定する合成指標を作成した。また,それらが男女別の健康寿命とどの程度関連するかを観察した。

方法 先行研究をもとに都道府県の社会経済状況を示す18変数を選択し,2010年・2013年のデータを政府統計から収集した。指標作成には主成分分析を使用し,主成分得点を指標の得点として算出した。説明変数に作成した指標,目的変数に2010年・2013年の都道府県別の健康寿命を用いて,ピアソンの積率相関係数の算出と分散重み付け線形回帰を行い,作成した指標と健康寿命の関連を男女別に検討した。

結果 主成分分析の結果,2因子9変数が得られた。第1主成分は,高齢者がいる世帯の割合,住戸面積,住宅保有割合,人口集中地区の人口比率の4変数の相関が高いことから「中心部への人口偏在性」を示す因子とした。第2主成分は,母子・父子世帯の割合,サービス業の就業率,若年無業者の割合,県民所得,失業率の5変数の相関が高いことから,「経済状況」を示す因子とした。男性では,「経済状況」スコアが高い都道府県ほど健康寿命が短く(相関係数:-0.38),「経済状況」スコアが最も高い地域と低い地域の間で0.88歳の健康寿命の差があった。女性では「中心部への人口偏在性」スコアが高いほど健康寿命が短く(相関係数:-0.27),「中心部への人口偏在性」スコアが最も高い地域と低い地域の間で0.72歳の健康寿命の差があった。

結論 中心部への人口偏在性と経済状況を示す指標を得た。それぞれ,男女の健康寿命と相関がみられたことから,本指標が健康格差の評価指標として有効と考えた。得られた指標を用いて健康格差を定期的に評価することで,介入の優先地域の選定,地域の特性に応じた介入手法の開発,施策の効果評価,保健分野の枠を超えた連携等,健康格差縮小に向けた活動が前進することが期待される。

キーワード 健康格差,健康寿命,社会経済状況,地理的剥奪指標

 

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第70巻第6号 2023年6月

病床規模別・所有形態別にみた病院機能の変遷

-60年間の推移分析から-
加藤 尚子(カトウ ナオコ) 鈴木 修一(スズキ シュウイチ)
近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ)

目的 病院の歴史的経緯を検証するために,病床規模別・所有形態別に病院機能の変遷を辿った。過去のどの時点において病院の機能が分化していったかを,病院機能の年次推移分析によって検討した。

方法 医療施設調査・病院報告において,国民皆保険達成の前年である1960年を始点としコロナ禍前年の2019年を終点とする60年間を分析期間として,一般病院を対象に,病床規模別・所有形態別に病院機能を表す各種の指標を時系列に収集した。病床規模別では,49床以下を小規模病院群,50床以上299床以下を中規模病院群,300床以上を大規模病院群と称して,3つの病院群に大別化した。所有形態別では,「国」「公的医療機関」「社会保険関係団体」「その他」を公的病院群,「医療法人」「個人」を私的病院群と称して大別化した。長期にわたる年次推移の変曲点を明らかにするために,ジョインポイント回帰分析を行った。

結果 施設数および病院機能を示す指標である一般病床割合,看護師数,退院患者数,平均在院日数,外来患者割合に関して,病院群ごとにジョインポイント回帰分析を行った結果,60年間の年次推移の傾向には,大規模病院群と公的病院群,中規模病院群と私的病院群に類似性が認められた。病院群ごとに各指標に関して,ジョインポイント回帰分析の結果抽出された年次ごとの変曲点を集計すると,合計ポイントの高かった年次は,1997年(25.06ポイント),1998年(18.19ポイント),1968年(15.41ポイント),2001年(14.64ポイント),1971年(14.10ポイント),1996年(10.07ポイント),1986年(8.19ポイント),2000年(7.81ポイント),2007年(6.41ポイント),2008年(5.72ポイント)の順になった。

結論 ジョインポイント回帰分析で抽出した変曲点を根拠に,現在の病院機能に至る変遷を辿ると,1970年頃を基点に急性期ケアと慢性期ケアの機能分化が始まり,1980年代後半に分化が確立したと想定できる。大規模病院群および公的病院群は,1960年から現在に至るまで,一貫して急性期ケアに特化した変化を遂げている。その一方,中規模病院群および私的病院群は機能の変動が大きい。しかし1960年代までは,現在にみられるような機能の相違は認められなかった。中規模病院群および私的病院群においては,1970年代以降の施設数増加に伴い慢性期ケアの機能を取り込んでいったと考えられる。1986年を変曲点に1990年代初頭の量的拡大の終了によって,その勢いは停滞した。2000年以降は,一部に急性期ケアの機能を取り込んでいる可能性があるが大きな変動は認められず,機能の相違は解消されていない。

キーワード 病床規模,所有形態,病院機能,歴史的経緯,急性期ケア,慢性期ケア

 

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第70巻第5号 2023年5月

小地域における高齢者の社会参加活動への
参加促進要因についての探索的研究

-高齢者の社会参加活動の活発な地区における要因分析を通して-
蘇 暁娜(ソ ギョウナ)

目的 趣味や生きがい活動など高齢者の社会参加活動が活発的に行われている島根県松江市淞北台地区に着目し,参加する当事者である高齢者の社会参加活動の特徴を明らかにするとともに,社会参加活動と地域の環境的要因に対する認識から,小地域における高齢者の社会参加活動を促進する要因を明らかにすることを目的とした。

方法 先行研究などから高齢者の社会参加活動を促進する要因について30項目を設定し,当該地区の65歳以上の257名を分析対象者として2020年4月25日から5月16日までアンケート調査を実施し,探索的因子分析を行った。

結果 回答者の年代からみると,社会参加活動に参加している方は,前期高齢者より75歳以上の後期高齢者が多かった。社会参加活動の参加割合は,趣味関係では前期高齢者25.0%,後期高齢者75.0%,スポーツ関係では前期高齢者26.6%,後期高齢者73.4%,ボランティアでは前期高齢者27.7%,後期高齢者72.3%,老人クラブでは前期高齢者16.0%,後期高齢者84.0%,町内会・自治会では前期高齢者33.1%,後期高齢者66.9%,住民同士の親睦交流会では前期高齢者26.8%,後期高齢者73.2%であった。また,趣味関係のグループでは,「週1回程度」および「月1〜2回」の高頻度の参加者が合計78.4%であり,スポーツ関係のグループでは,「週1回程度」および「月1〜2回」の高頻度の参加者が合計65.6%,いずれも「年数回程度」の低頻度の参加者(趣味21.6%,スポーツ関係34.4%)より多く,他の社会参加活動より参加頻度が高かった。社会参加活動についての探索的因子分析を行った結果,小地域における高齢者の社会参加活動への参加促進要因として,「地域住民との協力による地域とのつながり」「地域活動への参加のしやすさ」「地域貢献への主体的な取り組み」「満足感や自己効力感の獲得」の4つの因子が抽出された。

結論 小地域において高齢者の社会参加活動を活性化するためには,第一に,高齢者自身の趣味や嗜好を反映した参加を促進する環境の整備を行うこと,第二に,参加者同士の緩やかな関係性を尊重しながら,参加する当事者である高齢者の主体性を最大限に活かすことが重要であること,第三に,社会参加活動を促進するためには,高齢者自ら認めた成果が実感できるようなプログラムの創出が求められる。

キーワード 小地域,高齢者,社会参加活動,参加促進要因,因子分析

 

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第70巻第5号 2023年5月

循環器研修・研修関連施設における循環器疾患の医療連携

金岡 幸嗣朗(カナオカ コウシロウ) 岩永 善高(イワナガ ヨシタカ) 住田 陽子(スミタ ヨウコ)
笹原 祐介(ササハラ ユウスケ) 和田 晋一(ワダ シンイチ) 宮本 恵宏(ミヤモト ヨシヒロ)

目的 循環器疾患は,急性期治療後も再発や増悪を繰り返すことが特徴であり,治療継続および予防の観点において,急性期から回復期・慢性期までの医療提供体制の連携が重要である。本研究の目的は,円滑に地域連携を進めるための,急性期から回復期・慢性期にかかる,わが国の循環器疾患医療提供体制の連携の現状および課題点を明らかにすることである。

方法 2021年10月1日~11月30日の期間に,日本循環器学会の協力のもとに,全国の日本循環器学会専門研修・研修関連施設(1,349施設)を対象にアンケート調査を行った。2020年4月から2021年3月までの期間における,各施設における医療連携の体制および取り組み,さらには同期間に入院した急性冠症候群,急性心不全患者に対する診療について,Web形式で回答を得た。

結果 調査依頼を行った1,349施設のうち,759施設(56%)から回答を得た。回答があった施設のうち,572施設(75%)が何らかの診療連携の取り組みを行っていると回答した。地域連携パスを運用している施設は,急性冠症候群では84施設(11%),急性心不全では113施設(15%)と少数であった。地域連携パスを運用している患者の割合は,いずれの疾病群でも2割未満であった。患者教育資料を用いている施設は,急性冠症候群では177施設(23%),急性心不全では358施設(47%)であり,運用している患者の割合は,いずれの疾病群でも8割以上と回答した施設が最も多かった。また,実際に外来心大血管リハビリテーションを行った患者の割合は,2割未満と回答した施設が最も多かった。

結論 日本循環器学会研修施設・研修関連施設を対象として,急性期から回復期・慢性期にかかる連携の実態に関するアンケート調査を行った。地域連携パスおよび患者教育資料の運用実態は施設間および対象疾患により異なることが明らかになり,今後どのような診療連携に関する取り組みを進めていくかについて,さらに議論が必要であることが示唆された。

キーワード 循環器疾患,医療連携,地域連携パス,患者教育資料,急性冠症候群,急性心不全

 

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第70巻第5号 2023年5月

海外渡航における日本人の
事件・事故・感染症に対するリスク認知および予防行動意図

三好 知美 (ミヨシ トモミ) 渡邉 正樹(ワタナベ マサキ)

目的 新型コロナウイルス感染症の流行以前は,海外に渡航する日本人は増加傾向にあった。同時に海外渡航における日本人の事件,事故,傷病も増加し,2015年の海外邦人総援護人数は2万人を超え,海外渡航者の安全対策が喫緊の課題である。本研究の目的は,海外渡航において日本人が遭遇する主なハザードである犯罪,事故,感染症を取り上げ,リスク認知,自己効力感および主観的知識を把握し,予防行動意図との関連を明らかにすることである。

方法 調査機関の登録者のうち日本国籍を持つ20~69歳の計2,000名を対象にWeb調査を実施した(有効回答者1,989名)。調査時期は2016年12月であった。調査内容は,基本属性,過去10年間の渡航回数および被害経験,犯罪,事故,感染症に対するリスク認知(重大性,被害可能性),自己効力感,主観的知識および予防行動意図である。予防行動意図は,安全情報収集意図,感染症情報収集意図と海外保険加入意図の3項目であった。

結果 渡航回数別の比較では,重大性は,すべてのハザードにおいて渡航回数間に有意差(p<0.05)が認められ,犯罪では渡航回数5回以上の者は,渡航回数1回の者より重大性の認知が低かった。被害可能性は,事故のみで渡航回数間に有意差が認められた。一方,自己効力感,主観的知識では,すべてのハザードにおいて有意差が認められ,渡航回数が多い者が有意に高い傾向がみられた。自分の被害経験有無では,重大性,被害可能性は,すべてのハザードで有意差が認められなかった。しかし,身近な人の被害経験の有無では,重大性は犯罪,事故で,被害可能性はすべてのハザードで,身近な人の被害経験がある者が,ない者に比べて有意に高かった。安全情報収集意図,感染症情報収集意図,海外保険加入意図それぞれを従属変数とした重回帰分析を行ったところ,重大性の標準偏回帰係数が高く,他の独立変数に比べて強く影響していた。

結論 海外渡航で遭遇する新たなハザードの種類や程度によっては,過去の経験と大きく異なる場合がある。過去の経験が判断を誤らせリスクを過小評価したり,自己効力感,主観的知識が高い場合には,予防行動やリスク回避行動を妨げたりすることが懸念される。経験による認知バイアスを考慮した対策が必要であることが示唆された。

キーワード 海外渡航,ハザード,リスク認知,自己効力感,主観的知識,予防行動意図

 

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第70巻第5号 2023年5月

製造業労働者の生活習慣に関する性別・年齢階級別検討

-製造業94社における約7 万人(20~69歳)の特定健康診査データから-
土田 ももこ(ツチダ モモコ) 門間 貴史(モンマ タカフミ) 小澤 咲子(オザワ サキコ)
菊地 亜矢子(キクチ アヤコ) 武田 文(タケダ フミ)

目的 特定健康診査データを用いて,20~69歳の製造業労働者の生活習慣(喫煙,運動,食事,飲酒,睡眠等)に関する性別・年齢階級別のリスク傾向を明らかにする。

方法 製造業94社が加入している2つの健康保険組合の2015年度特定健康診査を受診した20~69歳の従業員75,498名(男性:62,056名,女性:13,442名)を分析対象とした。特定健康診査の標準的な質問票の11項目(喫煙1項目,運動3項目,食事4項目,飲酒2項目,睡眠1項目)を用いて,生活習慣の性別・年齢階級別(20歳代,30歳代,40歳代,50歳代,60歳代)の状況をχ2検定およびBonferroniの多重比較によって検討した。

結果 性別にみると男性では,喫煙,就寝前2時間以内に夕食をとる,朝食を欠食する,食べる速度が速い,毎日飲酒をする,の割合が高く,女性では,運動習慣がない,身体活動が少ない,歩行速度が遅い,夕食後に間食をする,飲酒量が多い,睡眠による十分な休養がない,の割合が高かった。さらに男性で割合の高い上記5項目を年齢階級別にみると,朝食を欠食する者は20歳代で,現在喫煙をしている者,就寝前2時間以内に夕食をとる者,食べる速度が速い者は40歳代で,毎日飲酒をする者は60歳代で最も多かった。また女性で割合が高い上記6項目を年齢階級別にみると,運動習慣がない者,歩行速度が遅い者,生活習慣病リスクを高める飲酒量の者は20歳代で,身体活動が少ない者は40歳代で,睡眠による十分な休養がとれていない者は50歳代で最も多く,夕食後の間食については年齢階級による差異を認めなかった。

結論 製造業労働者における生活習慣リスクについて性別・年齢階級別に分析した結果,男性における20歳代の朝食の欠食,40歳代の喫煙,就寝前2時間以内の夕食,食べる速度の速さ,60歳代の毎日の飲酒が,また女性における20歳代の運動習慣の欠如,歩行速度が遅いこと,飲酒量が多いこと,40歳代の身体活動の欠如,50歳代の睡眠による休養の不足が,改善すべき重点課題であることが示唆された。

キーワード 製造業労働者,生活習慣,性別・年齢階級別,特定健康診査

 

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第70巻第5号 2023年5月

乳がんの住民検診における受診間隔の遵守に関連する要因

-全国データの集計および地域相関分析-
高橋 則晃(タカハシ ノリアキ) 高橋 宏和(タカハシ ヒロカズ) 
中尾 睦宏(ナカオ ムツヒロ) 山崎 力(ヤマザキ ツトム)

目的 健康増進事業として市区町村で実施されている乳がんの住民検診における2年連続受診者の状況と特性を明らかにすることを目的とした。

方法 「地域保健・健康増進事業報告」の2018・2019年度の乳がん検診データを用いて日本全国の2年連続受診者の割合を年齢階級ごとに集計した。同割合に関連する市区町村の要因を特定するために地域相関分析を実施した。分析に用いる市区町村の背景因子には人口,産業・就業,医療に関する各変数および検診受診率の計12変数を使用した。

結果 2年分の受診者数を分母とした計算式において2年連続受診者の割合は全体で9.7%であり,年齢階級が上がるにつれて増加する傾向が認められた。地域相関分析の結果,2年連続受診者割合と最も関連が大きかった市区町村の背景因子は受診率そのものであり,そのほか総人口,人口密度,転出者割合の面で都市部に対して地方において同割合が高い傾向が示された。2年連続受診者割合と受診率との散布図から,指針通りの隔年受診を遵守している自治体とそれ以外の自治体に大きく二分している傾向が示された。

結論 利益・不利益のバランスから隔年受診が推奨される乳がん検診において,日本の全市区町村の住民検診データを用いて2年連続受診者割合の状況を明らかにした。隔年受診の遵守を意識していない自治体では積極的に受診率の向上に取り組む際に,未受診者だけでなく既に隔年で受診している市民に対しても毎年の受診を促進してしまっている可能性がある。今後の課題として,適切な受診間隔を遵守している自治体を奨励するための評価指標の確立が望まれる。

キーワード 乳がん検診,マンモグラフィ,受診間隔,受診率,不利益,地域相関分析

 

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第70巻第4号 2023年4月

独居認知症高齢者の在宅生活継続困難時に
直面する課題の構造に関する検討

中島 民恵子(ナカシマ タエコ) 杉山 京(スギヤマ ケイ)

目的 本研究は独居認知症高齢者の在宅生活継続に向けて,介護支援専門員からみた独居認知症高齢者が在宅生活継続困難時に直面する課題の構造を明らかにすることを目的とした。

方法 オンライン調査会社のパネルを用いて,独居認知症高齢者のケアマネジメントの経験がある介護支援専門員400人に対して,Web上での質問紙調査を実施した。回答は400人から得られ,統計解析には在宅継続が困難となった独居認知症高齢者を支援した経験がある345人による資料を用いた。質問紙は在宅生活を中断した独居認知症高齢者を担当した経験の有無や,過去に担当した事例において在宅生活継続困難時に直面した課題等の調査項目で構成した。分析では,在宅生活継続困難時に直面する課題を構成する因子を確認するため,探索的因子分析を行った。さらに,抽出された因子の構成概念妥当性を,構造方程式モデリングを用いた検証的因子分析によって検討した。

結果 探索的因子分析の結果,【セルフマネジメント能力】【本人の独居生活への意欲】【住環境】【外出時の本人の注意力】【インフォーマルサポートとの関係】の5因子が抽出された。【セルフマネジメント能力】は栄養摂取,服薬管理,金銭管理等に関する項目で構成,【本人の独居生活への意欲】は本人の在宅生活に対する内面的な状況を示す項目で構成,【住環境】は生活をしていく上でバリアになりうる,商店のなさ,外出しづらい環境の項目で構成,【外出時の本人の注意力】は外出時の迷子,信号無視などによって交通事故に巻き込まれる可能性がある項目で構成,【インフォーマルサポートとの関係】は,主に家族との関わりと地域住民との関わりとの2つの側面に関する項目で構成されていた。検証的因子分析におけるモデルの適合度は統計学的許容水準を満たしており,構成概念妥当性が支持された。

結論 統計学的手法を用いて,独居認知症高齢者が在宅生活継続困難時に直面する課題の構造が確認された。独居認知症高齢者が在宅生活を望む場合に,それらを困難にしうる要因を捉える視点を持つ指標開発の一助となる点が意義深い。今後は,全国の介護支援専門員を対象とした郵送型の調査を実施,結果の一般化を図ることが課題である。

キーワード 独居認知症高齢者,在宅生活継続,介護支援専門員

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第70巻第4号 2023年4月

大都市で生活する軽度認知機能低下を認める
一人暮らしへの訪問看護利用の効果

-介護支援専門員の視点からの比較-
落合 佳子(オチアイ ヨシコ) 桑野 美夏子(クワノ ミカコ)
秋葉 喜美子(アキバ キミコ) 王 麗華(オウ レイカ)

目的 本研究は,大都市で生活する軽度認知機能低下が認められる一人暮らしの利用者に対し,介護支援専門員の視点から訪問看護利用の効果を見いだすことを目的とした。

方法 介護サービス情報公表システムに登録している,関東地区の政令指定都市A市すべての居宅介護支援事業所926カ所に勤務する介護支援専門員を対象にした。要介護1で認知機能低下を認め訪問看護を利用しているケースと,訪問看護以外の他の介護サービスを利用しているケースを担当する者それぞれ1名抽出した。抽出された介護支援専門員に,担当する利用者の概要,介護支援専門員からの視点から判断した病状,認知機能,生活状況,家族の不安について,担当当初から現在までの状況の変化について,無記名自記入式質問紙による調査を実施した。得られたデータは,訪問看護利用者群と訪問看護未利用者群の2群に分け,介護支援専門員の担当当初から現在までの状況の変化をクロス集計し,各々の関係についてχ2検定を行った。さらに効果の認められた項目についてロジスティック回帰分析を行った。

結果 質問紙の回収は256カ所(回収率27.8%)で介護支援専門員386名から回答を得た。そのうち,担当するケースで「独居」と回答した160名を本研究の分析対象とした。訪問看護を利用しているケース89名を「訪問看護利用者群」とし,訪問看護以外の他の介護サービスを利用しているケース71名を「訪問看護未利用者群」とした。両群とも平均年齢は82歳であった。「訪問看護利用者群」と「訪問看護未利用者群」に分け,利用者の変化を「病状」「認知機能」「生活状況」「家族の不安」について関係をみたところ,「認知機能」と「家族の不安」に有意な関係がみられた。そして,「認知機能」と「家族の不安」についてロジスティック回帰分析の結果,「認知機能」の維持改善においては,訪問看護の利用,認知症薬を内服中,認知症高齢者日常生活自立度判定基準に有意な関連が認められた。「家族の不安」の維持改善においては,訪問看護の利用,認知症薬を内服中に有意な関連が認められた。

結論 大都市で生活する軽度認知機能低下を認める一人暮らしの方について,介護支援専門員の視点では「訪問看護利用者群」は「訪問看護未利用者群」に比べ,認知症薬の内服や認知症高齢者日常生活自立度判定基準の影響も存在するが,認知機能は現状を維持し,家族の不安は改善されている傾向がみられた。このことは,訪問看護の利用に関する効果の1つと推察された。

キーワード 訪問看護,軽度認知機能低下,大都市,一人暮らし

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第70巻第4号 2023年4月

家族エンパワメント尺度短縮版の作成

佐藤 伊織(サトウ イオリ) 藤岡 寛(フジオカ ヒロシ)
松澤 明美(マツザワ アケミ) 涌水 理恵(ワキミズ リエ)

目的 家族エンパワメントは,何か目前の課題がある場合に家族が自分たちのおかれた状況に気づき,問題を自覚し,自分たちの生活の調整と改善を図る力をつけることを目指すことと定義される。家族エンパワメント尺度(FES)は,障がいのある子どもの主たる養育者が回答する自記式尺度であり,日本を含む世界各地の研究で使用されているが,34項目と項目数が多く,多忙な養育者へ回答を求めるには負担がある。そこで,FESの短縮版を作成し,信頼性および妥当性を検討した。

方法 在宅重症心身障害児の家族を対象とした既存のデータセット(N=561)を用いて項目反応理論(段階反応モデル)により10項目の短縮版を作成した。項目削減プロセスにおいては研究者間で項目内容の検討・議論を行い,全項目版で担保されている内容的妥当性の維持につとめた。情緒・発達障がいのある子どもの主養育者を対象とした別のデータセット(N=204)を用いて,10項目でのCronbachのα係数,再テストの級内相関係数(ICC),FES34項目総合得点との相関係数を算出した。確認的因子分析を行い,一因子モデルの適合度を算出した。

結果 識別力の高い10項目を選択できた。Cronbachのα係数は0.887,ICCは0.737,FES34項目総合得点との相関係数は0.937であった。修正指標に基づき共分散パスを引いた一因子モデルの適合度指標は,χ2値が66.4(自由度=28,p=0.000),RMSEAが0.048,CFIが0.98であった。

結論 FES日本語版の10項目短縮版を,項目反応理論により作成し,内的一貫性・再検査信頼性・基準関連妥当性・構成概念妥当性を確立した。FES10項目短縮版の合計得点はFES総合得点と同様に家族エンパワメントの高さの指標として利用可能である。家族エンパワメントを詳しく査定するために3つの下位尺度得点を算出したい場合は,短縮版でなく元の34項目版を利用すべきである。

キーワード 親,介護者,家族エンパワメント,家族看護,尺度開発,障がい児

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第70巻第4号 2023年4月

熊本地震被災者の中長期的メンタルヘルスの実態と関連要因

-コロナ禍からの復興-
大河内 彩子(オオコウチ アヤコ) 何 慕(カ モ) 佐美三 知典(サミソ トモノリ)

目的 熊本市で最大11万人が避難した熊本地震の発災後5年となった。しかし,東日本大震災では復興期に睡眠障害および心理的苦痛となる割合が増加したことから,熊本地震被災者についても同様の状況が危惧され,熊本地震の被災者の健康や生活における中長期的影響の評価が必要である。さらに,熊本地震では復興期に新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)パンデミックが生じた。よって,コロナの影響を含めて,仮設住宅退去後の熊本地震被災者の生活状況とメンタルヘルスリスクとの関連を精査し,今後の支援に役立てることを目的とした。

方法 仮設住宅を退去した熊本地震被災者のうち熊本市内居住18歳以上の者全数を対象とし,11,479世帯に調査票を配布し,郵送回収した。データ収集期間は2020年7-12月とし,回答のあった8,966人のデータを分析した。調査項目は,属性,現在の住まい・生活習慣・社会関係・コロナによる変化,メンタルヘルスリスク(要支援基準該当の有無,心理的苦痛,不眠症,PTSDリスク)である。独立性の検定後,メンタルヘルスリスクの有無を従属変数としオッズ比と95%信頼区間を用いたロジスティック回帰分析を行った。

結果 ロジスティック回帰分析の結果,現在の住まいが公営住宅,孤独感あり,コロナによる活動機会減少が心理的苦痛・睡眠障害・PTSDリスク・要支援基準(熊本市が支援を必要と考える基準)のすべてに関連していた。中でも孤独感ありのオッズ比が最も高かった。また,女性は要支援基準を除いた,すべてのメンタルヘルスリスクに関連していた。

結論 東日本大震災後の社会的孤立者の全死亡リスクの増加もあり,孤独感との関連について今後精査が必要である。女性との関連では,性差への配慮が必要である。現在の住まいの形態との関連は,東日本大震災の復興公営住宅居住者ほど心理的苦痛が高い傾向だったのと同様であり,つながりづくりが求められる。最後にコロナという新たなストレッサーに配慮した支援が求められる。

キーワード 熊本地震,新型コロナウイルス感染症,メンタルヘルス,孤独,女性,現在の住まい

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第70巻第4号 2023年4月

特定機能病院の36協定で定める医師の延長労働時間

三隅 達也(ミスミ タツヤ)

目的 医師の約4割が年約960時間,約1割が年約1,920時間以上の時間外・休日労働を行っている実態がある。医師の労働時間縮減のため,2024年4月以降,医師に異なる水準の労働時間規制が設けられる。本研究の目的は,それまでに2年を切った時点における全国すべての特定機能病院の最新の時間外・休日労働に関する協定届(以下,36協定)で定める医師の特別延長時間等を明らかにし,それが医師の労働実態にどの程度沿っているかを明らかにすることである。

方法 すべての特定機能病院から労働基準法(以下,法)の適用外となる1施設を除く86施設を調査対象とした。2022年5月14日付けの行政文書開示請求書を各都道府県労働局へ郵送し,各施設から2021年度および2022年度に届け出された36協定を開示請求した。

結果 36協定なしは1施設(1.2%),1年単位の原則または特別延長時間の長い方が一般労働者の特別延長時間の上限の720時間以下は30施設(34.9%),720時間を超え一般の医療機関の医師に適用されるA水準の960時間以下は34施設(39.5%),960時間を超え特定地域医療提供機関の医師に適用されるB水準等の1,860時間以下は20施設(23.3%),1,860時間超は1施設(1.2%)であった。

結論 結果は医師の労働実態に照らして過少である。これは法違反の常態化および36協定の形骸化を示唆する。特定機能病院であってもその約7割はB(特定地域医療提供機関)・連携B(連携型特定地域医療提供機関)・C-1(技能向上集中研修機関)・C-2(特定高度技能研修機関)水準に特定されることを希望しないことが予想される。

キーワード 労働基準法,36協定,労働時間規制,医師,特定機能病院

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第70巻第4号 2023年4月

緊急入院した脳梗塞患者の
入院期間に影響を与える社会的要因についての研究

桝田 真里(マスダ マリ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ)

目的 脳梗塞は発症後の経過や後遺症の程度に個人差があり,地域や家庭内に患者を受け入れる余裕がなければ急性期病院での在院日数が長くなると予測される。本研究では急性期脳梗塞患者に関する入院期間の長期化に影響する社会的要因を検討した。

方法 DPC対象病院である福岡県済生会福岡総合病院に脳梗塞で緊急入院した694名を対象として,院内データから患者特性と社会的要因の項目を抽出した。社会的要因と入院期間の関係を明らかにするために,DPC制度で定められた基準に基づいて「全国平均在院日数以内での退院群」と「長期入院群」に分け,2群の患者特性と社会的要因の割合を比較した。ロジスティック回帰モデルを利用して,長期入院に影響する社会的要因を検討した。

結果 長期入院群と対照群間で「キーパーソンとの同居あり」「経済的不安あり」「低所得である」「生活保護受給あり」の項目に有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,長期入院に影響すると選択された因子は「経済的不安あり」で,特に「移動能力の自立あり」に区分された患者は「経済的不安あり」の場合に長期入院群になりやすいことが示された。

結論 独居でないことよりも介護力を有する身近なキーパーソンの存在の方が医療機関の退院調整に貢献すると示唆される。経済的不安を抱える患者が入院中に社会的資源を活用するための手続きを行うことが入院期間の延長の要因となる可能性がある。

キーワード 急性期脳梗塞,入院期間,DPC対象病院,社会的要因,身近なキーパーソン

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第70巻第3号 2023年3月

レセプト統計による推計平均在院日数の妥当性の検証について

渡邊 千里(ワタナベ センリ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ)

目的 診療エピソードにアプローチする統計にはコホート統計と期間統計があり,入院の在院日数に関するものとしては,コホート統計として患者調査の退院患者平均在院日数が,期間統計として病院報告の平均在院日数がある。厚生労働省保険局調査課では,新たな期間統計として,レセプト統計の件数・日数に関する恒等式から平均在院日数を推計する式を数理的に導出し,この推計値が実質的に病院報告の平均在院日数とみなせることを示している。この推計式を用いれば,業務上自動的に得られるレセプト統計から平均在院日数が推計でき,医療費分析において非常に有用である。本研究では,この推計式と病院報告の計算方法による平均在院日数およびコホート統計の計算方法による平均在院日数を同一のデータからそれぞれ計算し,直接比較することを目的とした。

方法 全国のDPC病院からランダムに抽出した10施設についての2013~2020年度のDPCデータを用いる。調査対象期間を2013~2019年度とし,調査対象期間の各月ごとに病院報告の計算方法による平均在院日数(基準値)と上記推計式による推計平均在院日数を計算し,両者を比較する。また,在院患者数の月内の分布を確認し,月末在院患者数の影響を補正した推計式でも比較する。さらに,コホート統計として新規入院患者平均在院日数と退院患者平均在院日数との比較も行った。

結果 在院患者数の月末変化率は平均△4.2%(95%信頼区間:△5.0-△3.5%,p<0.001)となり,月末に有意に減少していた。推計平均在院日数は基準値と高い相関を示したものの,基準値に対してプラス方向に偏りが見られたが,補正値では偏りが見られなかった。基準値との同等性を比較すると,基準値との差は,推計平均在院日数が平均0.273(95%信頼区間:0.247-0.298),補正値が平均0.007(△0.006-0.020),新規入院患者平均在院日数が平均△0.067(△0.101-△0.033),退院患者平均在院日数が平均0.069(0.018-0.119)で,すべて同等性マージン(±0.5日)の範囲内にあった。

結論 病院報告の計算方法による平均在院日数と比べて,推計平均在院日数はおおむね同等である。また,コホート統計ともおおむね同等である。

キーワード 平均在院日数,推計平均在院日数,レセプト統計,診療エピソード統計,コホート統計,期間統計

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第70巻第3号 2023年3月

COVID-19流行前後の健康関連行動の変化と
時間割引率の関連

-J-SHINE2017,2020を用いた分析-
大川 卓朗(オオカワ タクロウ) 高木 大資(タカギ ダイスケ)

 

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前後での健康関連行動(運動,飲酒,喫煙)の増減を説明する要因として行動経済学的概念である時間割引率に着目し,時間割引率が低い人々と高い人々の間の健康関連行動の差がCOVID-19流行前よりもコロナ禍(COVID-19流行下)において拡大したかを検討した。

方法 東京近郊4市区に在住の25歳から50歳までの男女から確率的に抽出された人々を対象とした,まちと家族の健康調査(J-SHINE)の第3回(2017年)と第4回(2020年)のデータを使用した。両調査に回答し,かつ分析に使用する変数に欠損のなかった1,048人のデータを分析対象とした。目的変数として3種の健康関連行動(運動習慣,毎日の飲酒習慣,喫煙習慣:それぞれ2017年と2020年の両調査で測定)を,説明変数として回答した年(2020年ダミー),時間割引率,それらの交互作用項を使用し,調整変数として年齢,性別,最終学歴,テレワーク・在宅勤務,配偶者・パートナーとの同居を投入したロジスティック回帰分析を行った。

結果 運動習慣については,2020年ダミー×時間割引率の交互作用効果が統計学的に有意であり(オッズ比[OR]=1.35,95%信頼区間[CI]:1.00-1.83),時間割引率が高い人々において2017年から2020年にかけて運動習慣者割合の増加が大きかったことが示された。一方,毎日の飲酒習慣(OR=1.01,95%CI:0.86-1.18)と喫煙習慣(OR=0.92,95%CI:0.80-1.05)については,いずれも2020年ダミー×時間割引率の交互作用効果は統計学的に有意ではなかった。

結論 本研究の結果から,COVID-19流行前に比べて,流行下の方が時間割引率の高低による運動習慣の格差が縮小していることが示された。しかし,コロナ禍後には再び格差が拡大し得るのか,そして,格差が再拡大するのだとすればコロナ禍後のヘルスプロモーションをどのように行っていくべきか,といった点については継続的な調査研究により検討していく必要がある。

キーワード COVID-19,運動,飲酒,喫煙,時間割引率,時間選好

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第70巻第3号 2023年3月

40~50代非肥満型糖尿病予備群のリスク要因の特徴

-健康群,肥満型糖尿病予備群との比較-
柳澤 理子(ヤナギサワ サトコ) 横山 加奈(ヨコヤマ カナ) 杉山 希美(スギヤマ キミ)
杉山 晴子(スギヤマ ハルコ) 佐野 弥生(サノ ヤヨイ) 竹内 恵美子(タケウチ エミコ)
小林 純子(コバヤシ ジュンコ) 清水 かおり(シミズ カオリ)

目的 本研究の目的は,豊川市の特定健診における有所見者状況を示すとともに,40~50代の健康群,非肥満型糖尿病予備群,肥満型糖尿病予備群を比較し,非肥満型糖尿病予備群に関連する生活習慣リスク要因を検討することである。

方法 愛知県豊川市の特定健診における有所見率を,愛知県,国と比較した。また,同市で糖尿病予防活動が強化される前の2015年に特定健診を受けた糖尿病非治療者をHbA1c値で分類し,健康群(HbA1c<6.0%),非肥満型糖尿病予備群(6.0≦HbA1c<6.5%,BMI<25.0),肥満型糖尿病予備群(6.0≦HbA1c<6.5%,BMI≧25.0)に分類し,生活習慣リスク要因を比較した。分析には,χ2検定,一元配置分散分析,多項ロジスティック回帰分析を用いた。

結果 特定健診の有所見率は,LDLコレステロールおよびHbA1cで愛知県および全国より高く,特にHbA1cは突出しており,40~50代から高い傾向を示した。リスク要因の分析対象者は1,825人で,男性679人(37.2%),女性1,146人(62.8%)であった。また,健康群1,479人(81.0%),非肥満型糖尿病予備群218人(11.9%),肥満型糖尿病予備群128人(7.0%)であった。非肥満型糖尿病予備群は,健康群に比較して年齢が高く,20歳の時から体重が10㎏以上増加しており,人と比較して食べる速度が速い者が多かった。一方,毎日飲酒する者は健康群より少なかった。肥満型糖尿病予備群は,健康群に比較して年齢が高く,20歳の時から体重が10㎏以上増加しており,1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上1年以上実施しており,人と比較して食べる速度が速い者が多かった。また,ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速い者は少なく,お酒を毎日飲む者も少なかった。

結論 40~50代の非肥満型糖尿病予備群への保健指導においては,現在の体形に関わらず20代の体重を目安に体重の維持あるいは減少を目指すこと,ゆっくり食事をすることが有効な可能性がある。

キーワード 非肥満型糖尿病,境界型糖尿病,糖尿病予備群,生活習慣,豊川市,リスク要因

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第70巻第3号 2023年3月

チーム医療が医療の効率性に及ぼす影響

-看護職チームの連携に対する認識度合いの分析から-
藤谷 克己(フジタニ カツミ) 鈴木 里砂(スズキ リサ) 谷口 優(タニグチ ユウ)
市川 香織(イチカワ カオリ) 松下 博宣(マツシタ ヒロノブ) 

 

目的 本研究では,医療機関における看護職のチーム医療の認識度合いについて計量的評価を行い,医療の効率性に対する影響を調べることを目的とした。わが国では多職種連携を一般にチーム医療と呼ぶことが多く,今回は看護という同職種内での連携を中心に,多職種連携協働の実態に対する認識の程度を計測することにより,多職種連携協働の醸成度を評価し,チーム医療の連携醸成度合いと医療の効率性の関係を調査対象とした。

方法 本研究では,評価指標としてAITCS-Ⅱ-J(Assessment of Inter-professional Team Collaboration Scale-Ⅱ-J AITCS日本語版)を用いた。また医療の効率性に関わる評価指標は,DiNQL(Database for improvement of Nursing Quality and Labor)データを使用し,調査項目については,病床回転率,平均在院日数,ADL改善率とした。調査はA医療施設で働く全職種を対象として行った。調査データの収集はウェブ経由で行い,期間は2019年4月15日から同年5月17日までであった。

結果 AITCS-Ⅱ-Jの総得点の平均値(±標準偏差)は,81.3±1.0であった。AITCS-Ⅱ-Jのサブスケール得点では,パートナーシップが28.7±0.4,協力が29.5±0.5,調整が23.2±0.4であった。信頼性に関しては,AITCS-Ⅱ-Jのクロンバックのα係数は0.933であった。また病床回転率の平均値(±標準偏差)は2.9±0.1,平均在院日数が11.9±0.3,ADL改善率が45.1±1.2であった。

結論 本研究の結果から,AITCS-Ⅱ-Jのサブスケールであるパートナーシップ得点が高いほど,医療の効率性指標である病床回転率が上がり,かつ平均在院日数が有意に短縮されることが明らかになった(それぞれβ=0.232,p=0.007,β=-0.306,p=0.001)。具体的には,患者の要望に耳を傾ける行動,ケアプラン作成には患者や家族と一緒になって行う行動を含む多職種連携を推進,醸成することにより平均在院日数が短縮されることが示唆された。

キーワード 多職種連携,AITCS-Ⅱ-J,医療の効率性,病床回転率,平均在院日数,ADL改善率

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第70巻第3号 2023年3月

主任介護支援専門員の事業所内における役割

-管理者の重要度と実行度の認識から-
三橋 優介(ミハシ ユウスケ)

目的 本研究では,居宅介護支援事業所(以下,事業所)の主任介護支援専門員の事業所内における役割に着目し,重要性の認識の度合い(重要度)と,実行している度合い(実行度)の実態と相互の関係を構造的に分析することにより,現状を明らかにすることを目的とした。

方法 福岡県の事業所のうち,特定事業所加算Ⅰ~Ⅲを算定している526件を抽出し,そこに所属する管理者を調査対象とした。質問紙の項目は,①調査対象者の基本属性,②事業所内の役割に関する18項目の重要度と実行度,③地域の役割に関する13項目の重要度と実行度等であった。調査方法は無記名自記式質問紙を用いた郵送調査とし,調査期間は2021年3月1日から4月30日までであった。

結果 送付数526件のうち,有効回答数は276件(回収率52.5%)であった。質問項目では,重要度と実行度の双方において「事業所内の介護支援専門員が担当しているケースの,事業所内における情報共有」「事業所内の介護支援専門員が担当しているケースの,管理者への報告」「担当介護支援専門員が不在時の,他の介護支援専門員による対応」「事例検討会の開催」が高値を示した。また,重要度と実行度の間には強い相関関係が認められた。

結論 主任介護支援専門員の事業所内における役割として,事業所内の情報共有に基づいた支援を重視し,かつ実行していることが明らかになった。また,事例検討会の開催についても重要度・実行度は高く,事例検討会を通した介護支援専門員の資質向上を重視し,かつ実行していることが示唆された。さらに,事業所内の役割における重要度と実行度の高さは相互に関連していることが示された。

キーワード 居宅介護支援事業所,主任介護支援専門員,事業所内における役割,重要度,実行度

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第70巻第3号 2023年3月

自治体における保育士の離職意思に影響する要因と
業務負担軽減および離職防止策に関する実態

宮本 絢子(ミヤモト アヤコ) 白神 敬介(シラガ ケイスケ)

目的 近年,各地方自治体では保育士確保が大きな課題となっており,多くの自治体で様々な取り組みが行われているが,現場保育士の負担や離職は増加傾向にある。そこで,本研究では,自治体の保育主管課を対象に,保育士の離職要因に加え,業務負担軽減および離職防止策に関する調査を実施した。特に,2020年以降のコロナ禍において,全国的に保育計画(行事)を再考する動きが増えた社会背景を踏まえ,保育主管課が認識する保育士の離職要因や業務負担軽減および離職防止策を整理すること,さらに自治体の規模による比較検討と,コロナ禍以前から保育計画(行事)の見直しを進めていた自治体に関する検討の3点から分析を進める。

方法 政令指定都市等の大都市と人口5万人以下の小都市を含む計105の自治体の保育主管課を対象に2021年9月から12月に質問紙調査を行い,得られたデータを分析した。主な調査内容は,自治体の基本情報,コロナ禍前後を含む行事の実施状況,正規保育士の離職要因,業務負担軽減および離職防止策に関する事項である。

結果 保育士の離職意思に影響する要因については,「人間関係の困難感」が多く選択された。このことは,都市の規模や,保育計画(行事)の変更の検討時期がコロナ禍以前か以後かには関係なく認められた。業務負担軽減および離職防止策については,保育所のICT化は大都市で顕著であったものの,全体でみると「事務・雑務の改善」や「就労時間(時間外労働)の改善」が半数を超え,「保育所の職員間でのコミュニケーションの改善」は,半数以下であった。

結論 結果より,「人間関係の困難感」を主要な離職要因と捉える傾向が確認されたが,これに対する保育の業務負担軽減および離職防止策の割合は低い傾向が見いだされた。このことから,保育主管課においては働き方改革の推進や業務の効率化といった制度的環境の整備に比重が置かれている実態があると考えられる。また,本調査の結果では,保育士を調査した先行研究とは異なり,離職意思に影響する要因として「行事の大変さ」や「家に持ち帰る仕事の大変さ」を選択した自治体はほとんどなかった。このことは,保育の業務負担に対する保育主管課と現場保育士の考えの相違を示唆している。

キーワード 保育計画,保育主管課,公立保育所,保育士の業務負担,離職防止,コロナ禍

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第70巻第2号 2023年2月

ヘルスキーパー雇用企業に対する
雇用実態および雇用意識に関する調査

近藤 宏(コンドウ ヒロシ) 石崎 直人(イシザキ ナオト) 福島 正也(フクシマ マサヤ)
磯 勇雄(イソ イサオ) 田中 秀樹(タナカ ヒデキ)

目的 近年,事業所内に設置された施術所(治療室)において産業医等と連携して社員の健康維持,増進を図るため,あん摩マッサージ指圧および鍼灸の施術を行う視覚障害者がヘルスキーパーとして企業に雇用される機会が増加している。そこで,ヘルスキーパーの雇用状況や雇用に対する意識について明らかにするために調査を行った。

方法 調査対象は,関東甲信越地区においてヘルスキーパーを雇用している企業206社とした。調査は,無記名による自記式のアンケート調査により実施した。調査項目は,調査対象企業の基本属性,ヘルスキーパーの雇用と意識,新型コロナウイルス感染症による業務への影響に関する項目とした。

結果 54件の回答があった(回収率26.2%)。企業の主な業種は,サービス業11件(20.4%)が最も多く,次いで情報通信業9件(16.7%)であった。ヘルスキーパーの雇用人数の中央値は2.5人であった。雇用形態は,正社員と契約社員ではそれぞれ30件(55.6%)であった。ヘルスキーパールームの設置のきっかけは,従業員の健康の保持と増進のため49件(90.7%)が最も多く,次いで障害者の法定雇用率を達成させるため37件(68.5%),企業の社会的責任を果たすため22件(40.7%)と続いた。「ヘルスキーパーは貢献できていると思うか」は,肯定的意見(そう思う,どちらかといえばそう思う)51件(94.4%)であった。「ヘルスキーパーは従業員の健康保持増進に役立っていると思うか」は,肯定的意見(そう思う,どちらかといえばそう思う)51件(94.4%)であった。新型コロナウイルス感染症による業務への影響については,ヘルスキーパーの勤務状況が従来通りで変わりがなかったのは7件(13.0%)にとどまり,多くは在宅勤務(一部または全部)や時短勤務となり,通常の業務が行うことができていなかった。

結語 関東甲信越地区におけるヘルスキーパーを雇用している企業を対象にヘルスキーパーの雇用状況や雇用に対する意識について調査し,ヘルスキーパーの雇用や今後の視覚障害を有する鍼灸マッサージ師の雇用を推進する上で貴重な基礎資料を得ることができた。

キーワード 視覚障害者,ヘルスキーパー,雇用実態,鍼灸,マッサージ,調査

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第70巻第2号 2023年2月

マタニティハラスメントと関連する職場環境要因

-COVID-19流行下における横断調査-
堀口 涼子(ホリグチ リョウコ) 可知 悠子(カチ ユウコ) 堤 明純(ツツミ アキズミ)

目的 日本において,マタニティハラスメント(以下,マタハラ)と職場環境要因について調べた研究はほとんどない。本研究では,妊娠中の従業員を対象にインターネットによる横断調査を実施し,マタハラと関連する職場環境要因について,探索的に検討することを目的とした。

方法 COVID-19による日本における最初の緊急事態宣言中であった2020年5月22日~31日の期間に,就労妊婦(妊娠判明時に就労していた女性を含む)379名を対象とし,インターネットによる横断調査を実施した。マタハラは,国のガイドラインで禁止されている16の不利益取扱いを1つ以上受けているかどうかで定義した。分析は,ロジスティック回帰分析を用いた。

結果 対象者379名中,マタハラの経験がある者は97名(25.6%)であった。年齢や妊娠週数を調整した全変数調整モデルにおいて,企業規模が1,000人以上と比較して,1-29人(オッズ比(OR):3.55,95%信頼区間(95%CI):1.49-8.45),30-299人(OR:2.66,95%CI:1.29-5.51)の環境でマタハラの経験が多かった。一方,上司からのサポート(OR:0.80,95%CI:0.69-0.92)の得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。全変数調整モデルでは有意ではなかったが,無調整モデルにおいて,雇用形態では正社員と比べてパート社員で,職種では管理職・専門・技術職と比べて営業・販売職・サービス業で,マタハラに対応する相談窓口の設置に関しては「ある」と比べて「ない」環境で,有意にマタハラの経験が多かった。一方,勤続年数が長いほど,同僚のサポートの得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。

結論 職場環境要因として企業規模が小さいことはマタハラの経験が多いことと関連していた。一方,上司からのサポート得点が高いことは,マタハラの経験が少ないことと関連していた。また,パート社員,営業・販売職・サービス業,マタハラ対応相談窓口の設置がないこともマタハラの経験が多い傾向がみられた。同僚からのサポート得点が高い,または勤続年数が長いとマタハラの経験が少ない傾向がみられた。特に規模の小さい企業側は,マタハラを予防するために,法律に沿ったマタハラ防止対策を講じるとともに,上司や同僚からのサポートの高い職場環境を作る必要がある。

キーワード マタニティハラスメント,職場環境要因,就労妊婦,緊急事態宣言

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第70巻第2号 2023年2月

看護系女子大学生および母親における
HPVワクチン接種とヘルスリテラシーの関連

佐藤 那海(サトウ ナミ) 髙橋 愛弥香(タカハシ アヤカ) 小島 結衣(コジマ ユイ)
小西 美菜子(ニシ ミナコ) 小島 咲織(コジマ サオリ) 大出 菜々(オオデ ナナ)
清水 萌(シミズ モエ) 武藤 楓(ムトウ カエデ) 矢嶋 瞳(ヤジマ ヒトミ)
鬼澤 宏美(オニザワ ヒロミ) 小嶋 奈都子(コジマ ナツコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)

目的 日本は諸外国と比較すると子宮頸がん予防行動が低く,ヒトパピローマウイルス(以下,HPV)ワクチン接種率および子宮頸がん検診受診率が低い。HPVワクチン接種にはヘルスリテラシーが重要であると考えられている。研究目的は,看護系女子大学生および母親に対して,HPVワクチン接種の有無とヘルスリテラシーの関連を明らかにすることである。

方法 量的横断的研究デザインであり,2021年5月~6月に自記式質問紙法またはオンライン調査を実施した。調査内容は,属性,子宮頸がん予防行動の現状,ヘルスリテラシーであった。因子分析,信頼性分析を実施の上,ヘルスリテラシーが属性または子宮頸がん予防行動の現状と関連しているかをt検定,χ2検定を用いて分析した。

結果 対象者のうち学生414名,母親398名,合計812名に調査依頼を行い,有効回答329部(学生248部,母親81部)を分析データとした。有効回答率は学生59.9%,母親20.4%であった。HPVワクチン接種者は86名(26.1%)であり,接種理由は「母親の意向」「自治体の接種案内」,未接種理由は「副反応の不安」「存在を知らない」であった。子宮頸がん検診対象者である20歳以上の対象者人数は245名であり,子宮頸がん検診受診者は104名(42.4%)であった。検診理由は「自治体の案内」「罹患の怖さ」,未検診理由は「内診に抵抗」であった。ヘルスリテラシーはHPVワクチン接種の有無および子宮頸がん検診の有無において群間の有意差はなかった。意思決定の記憶がある人はない人より有意にヘルスリテラシー得点が高かった(p<0.05)。学生群において生殖器疾患のある人はない人よりヘルスリテラシー得点が有意に高かった(p<0.05)。HPVワクチン接種は意思決定が母親以外より母親の方が有意に多く(p<0.001),情報入手先のある人はない人より有意に多かった(p<0.001)。

結論 ヘルスリテラシーとHPVワクチン接種は関連がなかった。学生群で生殖器疾患のある人はヘルスリテラシーが高かった。HPVワクチン接種の意思決定者は母親が多かった。

キーワード 子宮頸がん,検診,パピローマウイルスワクチン,ヘルスリテラシー

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第70巻第2号 2023年2月

基本チェックリストを用いた
要介護化リスク評価尺度の試作と予備的検証

-8年間の前向き追跡研究-
松﨑 英章(マツザキ ヒデアキ) 辻 大士(ツジ タイシ) 野藤 悠(ノフジ ユウ)
岸本 裕歩(シモト ヒロ) 陳 涛(チン タオ) 楢﨑 兼司(ナラザキ ケンジ)

目的 高齢者が早期の介護予防の一環として将来の要介護化リスクを自己評価する際には,長期にわたって簡便かつ正確に要介護化リスクを予測できる尺度が求められる。そこで,本予備的研究では現存する要介護化リスク評価尺度の一つである基本チェックリスト(以下,KCL)を用いて追跡8年間における要介護化リスクを簡便に予測するリスクスコア(以下,RS)を試作し,その予測能(予測モデルのイベント発生リスクに対する予測能力)を検証した。

方法 2011年のベースライン調査に参加した福岡県糟屋郡篠栗町在住の要支援・要介護認定を受けていない高齢者2,629名のうち,データが得られた2,209名を解析対象とした。KCL25項目,年齢階級(65-69歳,70-74歳,75-79歳,80-84歳,85歳以上),性のうち,要支援・要介護認定と関連する因子を多変量Cox比例ハザード分析に同時投入し,変数減少法(p<0.1)で因子を抽出した。非標準化偏回帰係数(以下,B)の最小値を1.0に補正した際の補正率を全項目のBに乗じ,四捨五入した整数値を各項目の点数,その合計をRSとした。要支援・要介護認定の危険因子を調整した多変量Cox比例ハザード分析により,RSの1点上昇ごとの要支援・要介護認定ハザード比(以下,HR)とその95%信頼区間(95%CI)を算出した。また,RSの要介護化リスクに対する予測能を検証する目的でC統計量とその95%CIを算出した。

結果 RSは年齢階級とKCL9項目(運動機能3項目,栄養状態1項目,認知機能3項目,抑うつ2項目)の10因子で構成され,合計得点の範囲は0-26点であった。また,RSは危険因子とは独立して要介護化リスクと関連し(HR:1.21,95%CI:1.19-1.23),要介護化リスクに対するC統計量は0.78(95%CI:0.76-0.80)であった。

結論 8年間の要介護化リスクを簡便に予測するRSを試作した結果,要介護化リスクの有意な予測因子であるKCL9項目と年齢階級の10項目で構成される簡便なRSが作成された。今後,将来の要介護化リスクを長期的に予測する最適な尺度を確立するには,既に短期間で外的妥当性が確認されている他の要介護化リスク評価尺度において長期の追跡期間で妥当性を検証することとあわせて,本研究で作成されたRSでも長期の追跡期間で外的妥当性を検証する必要がある。

キーワード 基本チェックリスト,要介護認定,リスクスコア,前向き追跡研究,要介護化リスク評価尺度

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第70巻第2号 2023年2月

認知症高齢者の日常生活自立度を用いた
健康余命の全国二次医療圏での算出

後藤 悦(ゴトウ エツ) 愼 重虎(シン ジュンホ)
中部 貴央(ナカベ タカヨ) 今中 雄一(イマナカ ユウイチ)

目的 認知症施策推進大綱では共生とともに認知症の予防の推進が重視されている。予防の取り組みの進捗評価のために,地域ごとにその実態を把握する指標が必要である。そのための指標の開発を目指し,要介護認定に用いられる認知症高齢者の日常生活自立度を基準とした健康寿命(以下,認知症自立余命)を算出し,地域差の図示を行うことを目的とした。

方法 人口は住民基本台帳,死亡数は人口動態調査,認知症高齢者の日常生活自立度別人数は厚生労働省より提供された「要介護認定情報・介護レセプト等情報」の特別抽出による2015~2017年のデータを用い,厚生労働科学研究健康寿命サイト掲載の計算方法を使用し認知症自立余命を算出した。2018年時の全国の二次医療圏(一部,介護保険者)ごとに,男女別0歳時から85歳時まで5歳ごとに日常生活自立度1以上,2以上,3以上の期間を健康でない期間としてそれぞれの認知症自立余命を算出した。本研究はその中から0,40,65歳時に注目した。

結果 認知症高齢者の日常生活自立度が2以上の期間を健康でない期間とした0,40,65歳時の2017年における認知症自立余命の平均値(標準偏差)はそれぞれ,男性で78.97(0.92)年,39.94(0.79)年,17.33(0.55)年,女性で83.14(0.71)年,43.72(0.65)年,20.05(0.60)年であった。

結論 本研究の認知症自立余命は,毎年一年を通じて大規模に得られるデータに基づき,より客観的な判定基準である認知症高齢者の日常生活自立度を基準としており,全国各地域での認知症の状況や,自立的に生活できる余命の把握に役立つであろう。認知症高齢者の日常生活自立度は,1はほぼ自立であり3以上は該当者が少なく計算結果が安定しないため,2以上の期間を健康でない期間として健康余命(認知症自立余命)を計算することが望ましいと考える。また,40歳時~50歳時の健康余命(認知症自立余命)は,生活習慣病の予防に早期対応できる年齢層であるため,有力な指標として提案する。そして認知症自立余命は,各地域の認知症関連施策の成果の進捗評価に有用であると考える。

キーワード 認知症,健康寿命,認知症高齢者の日常生活自立度,地域差,介護DB

 

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第70巻第1号 2023年1月

認知症対応型共同生活介護事業所における
令和元年度の地域密着型外部評価による「災害対策」の考察

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 公共的な事業はより高い運営の透明性が求められるが,認知症対応型共同生活介護事業所(GH)は地域密着型外部評価の結果を公表している。厚生労働省通知の参考例の68の自己評価項目において問題点・課題が多かった項目は,平成23~26年度の過去4年間すべてで「災害対策」が一番高い割合だったが,令和元年度は「災害対策」はどうだったかを明らかにするとともに,「災害対策」の改善計画の内容を検証して,関係者の参考とすることを目的とした。

方法 令和元年度に外部評価結果を,ワムネットと2県のリンクページで公表した,東京都と愛媛県を除く45道府県のGHの目標達成計画を参照して,68項目での問題点・課題があった項目を調べ,「災害対策」の割合を過去4年間の割合と比較した。また,「災害対策」の改善計画を分類・区分して具体的な内容を検証した。調査期間は2020年4月3日から2021年5月30日までである。

結果 問題点・課題があった項目は特定の項目に集中していた。「災害対策」は令和元年度も一番高い割合で,過去4年間のいずれよりも高かった。改善計画の区分「地域へのはたらきかけ」からはGHの地域住民・機関へのアプローチの姿勢がうかがわれ,区分「防災訓練の充実」ではハイリスクな想定で訓練を行おうとしている。区分「設備・機器等の整備」ではインフラ復旧に時間がかかる場合を考慮して備蓄品の整備を進めようとしている。

結論 今後も「誰もが読みやすい」外部評価結果の公表が期待される。また,社会福祉施設,介護サービス事業所は相談窓口はあるが,一般に利用者・家族は意見を出しにくいと考えられ,外部評価の機会は重要である。外部評価は,第三者の視点が入るサービス改善の一方法であり,信頼につながると考えられ,経費や職員の負担に配慮しながら活用していくことが望まれる。また,今後の課題として,年月の経過とともに「災害対策」の改善の取り組みは変化することから,令和2年度以降は分類・区分の項目の見直しが必要である。

キーワード 地域密着型外部評価,認知症対応型共同生活介護事業所(GH),問題点・課題,目標達成計画,災害対策,改善計画

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第70巻第1号 2023年1月

「特定行為に係る看護師の研修制度」
指定研修機関の研修体制の実態

長谷川 直人(ハセガワ ナオト) 村上 礼子(ムラカミ レイコ) 八木 街子(ヤギ マチコ)
春山 早苗(ハルヤマ サナエ) 江角 伸吾(エスミ シンゴ) 

目的 「特定行為に係る看護師の研修制度(以下,特定行為研修)」の指定研修機関の研修体制の実態を明らかにし,効率的に研修修了者を輩出する研修提供体制を検討する。

方法 2020年2月時点で特定行為研修を行うすべての指定研修機関,191施設に対してインターネット上での無記名のアンケート調査を実施した。調査項目は,指定研修機関の概要,研修の受講期間と受け入れ方法,研修の受講状況,指定研修機関の構成員と業務内容,研修を円滑に運営するための工夫,運営上の財源や会計とし,理由や内容を問う項目は選択肢を準備して複数回答可とした。

結果 66施設(34.6%)から回答が得られ,すべてを有効回答とした。研修開始から修了までの受講期間は60施設(90.9%)が6カ月以上1年半未満で,おおよそ1年に渡って受講生を教育していた。研修開始時から調査時までの受講者の総数の平均は25.6±46.6名(最大273名,最小2名)で33施設(50.0%)が10名以下であった。研修修了者の総数は,平均13.6±28.9名(最大205名,最小0名)で,47施設(71.2%)が10名以下であった。2019年度の総修了者数を総応募数で除した修了率について,最も高値であったのは栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連70.8%,最も低値であったのは皮膚損傷に係る薬剤投与関連21.1%で,21区分中15区分が50%未満であった。総修了者数を総定員数で除した輩出率も同様の傾向で,12区分が50%未満であった。研修指導者について専従のスタッフ数は0.7±1.0名(最大4名)で,配置しているのは28施設(42.4%)であった。また,専任として正規雇用している研修指導者がいる施設は43施設(65.2%)で平均3.4±6.4名(最大36名),専任として定期雇用している研修指導者がいる施設は5施設(7.6%)で平均0.2±0.8名(最大6名)であった。収支差額の平均は-188.8±582.8万円で,収支に回答が得られた64施設中33施設(51.6%)が赤字での運営であった。

結論 2015年の研修制度開始から5年間の研修体制の全体概要を把握した結果,研修修了率と輩出率の向上,多様な研修提供体制に応じたテーラーメイド支援の充足の2つの課題が挙げられた。今後は,教育の質保証や効率的な研修体制について検討する機会の増加,指定研修機関の教育・運営状況の知見の蓄積,研修修了率と輩出率向上のための具体的な課題とその要因の明確化,専従や専任の構成員の人件費を増加させる柔軟な補助金等の支援が必要であると考える。

キーワード 特定行為に係る看護師の研修制度,指定研修機関,研修体制,実態調査

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第70巻第1号 2023年1月

都道府県レベルにおける
ソーシャル・キャピタル指標と自殺死亡率との関連

-社会生活基本調査を用いた横断研究-
中村 恒穂(ナカムラ ツネオ) 井手 一茂(イデ カズシゲ) 鄭 丞媛(ジョン スンウォン)
髙橋 聡(タカハシ サトル) 香田 将英(コウダ マサヒデ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)  

目的 高齢者の自殺対策を進めるうえでソーシャル・キャピタルが注目されているが,都道府県レベルのソーシャル・キャピタルと自殺死亡率の関係については,報告が少ない。そこで,都道府県レベルのソーシャル・キャピタル指標と自殺死亡率との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 都道府県を分析単位とした地域相関分析と重回帰分析を行った。目的変数は各都道府県の2010-12年の男女別60歳以上自殺SMRとし,説明変数のソーシャル・キャピタル指標は,平成23(2011)年社会生活基本調査の65歳以上男女別行動者率を用いた。社会参加の行動者率は①スポーツ,②学習・自己啓発・訓練,③ボランティア,④趣味・娯楽,⑤これらを合計した4種総計行動者率とした。調整変数は,自殺との関連性が報告され公的データで入手可能なものとして,1人当たり県民所得,高齢単身世帯割合,完全失業率,可住地人口密度,日照時間,降水日数,最低気温を用いた。分析方法は,①相関分析では,用いた変数間の相関係数Spearmanのρを算出し,相関関係を検討した。②重回帰分析では,男女別60歳以上自殺SMRを目的変数とし,12変数を用いて重回帰分析(強制投入法)を行った。

結果 2変数間の関係では,男性自殺SMRは,スポーツ,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率の4指標と負の相関(p<0.05)がみられた。女性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練のみと負の相関(p<0.05)がみられた。重回帰分析では,男性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率の3指標と負の関連(p<0.05)がみられた。女性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練,ボランティアの2指標と負の関連(p<0.05)がみられた。

結論 都道府県レベルの社会参加の行動者率と自殺SMRとの関係を調べた結果,男性では,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率,女性では学習・自己啓発・訓練,ボランティアへの参加割合が多いと自殺SMRが低いという負の関連がみられた。これらから地域において学習・自己啓発・訓練などの参加促進を通じ,ソーシャル・キャピタルを醸成することが自殺対策につながる可能性が示唆された。

キーワード 自殺,SMR,ソーシャル・キャピタル,社会生活基本調査,都道府県,行動者率

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第70巻第1号 2023年1月

新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における国民の生活習慣の変化

-NIPPON DATA2010追跡調査結果-
古澤 朗子(フルサワ アキコ) 門田 文(カドタ アヤ) 大久保 孝義(オオクボ タカヨシ)
岡村 智教(オカムラ トモノリ) 奥田 奈賀子(オクダ ナガコ) 西 信雄(ニシ ノブオ)
宮本 恵宏(ミヤモト ヨシヒロ) 由田 克士(ヨシタ カツシ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)
近藤 慶子(コンドウ ケイコ) 岡見 雪子(オカミ ユキコ) 北岡 かおり(キタオカ カオリ)
早川 岳人(ハヤカワ タケヒト) 喜多 義邦(キタ ヨシクニ) 上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ)
岡山 明(オカヤマ アキラ) 三浦 克之(ミウラ カツユキ) NIPPON DATA2010研究グループ

目的 NIPPON DATA2010におけるわが国を代表する一般成人集団を対象に,2020年の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における生活習慣の変化を調査し,性,年齢,地域別に分析した。

方法 研究対象者は,2010年国民健康・栄養調査に全国300地区から参加し,2020年時点でNI‑

PPON DATA2010追跡調査に参加している30歳から99歳の男女2,244人とした。2020年4~5月の新型コロナウイルス感染症第1波流行中における,それ以前との体重・食生活・身体活動量や受診行動の変化について問う自記式質問調査を2020年10月に実施した。完全な回答が得られた1,926人(男性788人,女性1,138人) について,性別,年齢階級別,居住地域ブロック別に回答を集計し比較した。割合の差の検定はχ2検定およびFisherの正確確率検定を用いた。

結果 1㎏以上の体重増加者は,男性(17.3%)より女性(27.1%)に多く(p<0.001),身体活動量が減少した者も,男性(23.2%)より女性(31.0%)の方が多かった(p=0.001)。飲酒の頻度や量の増加者,減少者ともに男性において女性より高い割合を示した(p<0.001)。一方,男女ともに,野菜を食べる頻度や量が増えた者は減った者の2倍以上多く,自宅で料理したものを食べる頻度が増えた者は減った者の約6倍であった。年齢階級別にみると,1㎏以上の体重増加者は65歳未満(30.8%)で特に多く(p<0.001),「自宅で調理したものを食べる頻度」「スーパーやコンビニの弁当や総菜,テイクアウト,デリバリーの利用頻度」「間食する頻度や量」が増加した者が65歳未満に多かった(いずれもp<0.001)。地域ブロック別では,1㎏以上の体重増加者,身体活動量が減った者が,都市部で高い傾向を示した(いずれもp<0.001)。

結論 2020年の新型コロナウイルス緊急事態宣言下において,生活習慣や体重は男性よりも女性,高齢者よりも若い世代で大きく変化し,居住地域別では,都市部での変化が大きかった。これらの特徴を踏まえ,自粛生活の長期化による健康影響に注意する必要がある。

キーワード 新型コロナウイルス感染症,体重,食習慣,身体活動量,飲酒,NIPPON DATA2010

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第70巻第1号 2023年1月

高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動と
活動効果指標との関連性

小澤 多賀子(コザワ タカコ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 黒江 悦子(クロエ エツコ)
今 絵理佳(コン エリカ) 古澤 綾(フルサワ アヤ) 大川 沙緒里(オオカワ サオリ)
矢野 敦大(ヤノ アツヒロ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 地域在住高齢者によるボランティア活動への従事は,介護予防の取組促進と社会保障の持続可能性への期待が大きい。しかし,高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動と,活動効果指標としての介護保険料,介護給付費,要介護認定率との関連について検討した報告は見当たらない。そこで,本研究では高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動とその活動効果指標としての介護保険料,介護給付費,要介護認定率との関連を検討し,高齢者によるボランティア活動の有効性を明らかにすることを目的とした。

方法 茨城県では平成17年からシルバーリハビリ体操指導士養成事業を開始し,地域在住高齢者へ介護予防体操を普及する高齢のボランティアを養成している。本研究の対象は,本事業を展開する茨城県全市町村(n=44)とした。体操普及活動指標は平成17~29年度における65歳以上人口千人あたりの指導士養成人数,教室延べ開催数,教室参加指導士延べ人数,住民参加延べ人数とした。活動効果指標は,介護保険料(第7期第1号保険料),11年間(平成19~29年度)の65歳以上人口あたりの介護給付費(合計,要支援1・2,要介護1~5)の増減,12年間(平成18~29年度)の要介護認定率(合計,要支援1・2,要介護1~5)の増減とした。分析は市町村ごとの体操普及活動指標と活動効果指標との関連について,Spearmanの順位相関係数から検討した。

結果 44市町村において,住民参加延べ人数と介護保険料,指導士養成人数と介護給付費(要支援1・2)の増減,教室延べ開催数および住民参加延べ人数と要介護認定率(要支援1・2)の増減とに有意な負の相関が認められた(P<0.05)。また,44市町村において,指導士養成人数と要介護認定率(要介護1~5)の増減とに有意な正の相関が認められた(P<0.05)。

結論 本研究の結果,高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動は,市町村において介護保険料や要支援者における介護給付費および要介護認定率の増加を抑制する可能性が示唆された。

キーワード 高齢のボランティア,介護予防,体操普及活動,介護保険料,介護給付費,要介護認定率

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第69巻第15号 2022年12月

精神障害者保健福祉手帳の等級と
国連国際障害統計ワシントン・グループの指標の関係

-長野県飯山市における調査結果から-
北村 弥生(キタムラ ヤヨイ) 今橋 久美子(イマハシ クミコ) 飛松 好子(トビマツ ヨシコ)
江藤 文夫(エトウ フミオ) 岩谷 力(イワヤ ツトム)

目的 精神障害者保健福祉手帳所持者が,国際連合の国際障害統計ワシントン・グループ(以下,WG)の指標にどのように回答するかを明らかにすることを目的とした。

方法 長野県飯山市(人口約2万人)において,全障害者手帳所持者1,221名(身体867名,療育154名,精神200名)を対象に令和2年11月,質問紙法調査を郵送法により実施した。短い質問群全6項目(WG-SS:「見ること」「聞くこと」「移動」「コミュニケーション」「記憶・集中」「セルフケア」)に加えて,短い質問群拡張版(WG-SS Enhanced)から4項目(「不安」「憂うつ」の頻度と程度)の結果を分析した。

結果 589名(48.2%)(身体407名,療育75名,精神80名,重複19名,不明8名)から回答を得て,精神障害者保健福祉手帳所持者80名のうち等級を回答した75名を解析対象とした。①WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」であった者は21.4%であった。6項目のうち最も多く「障害あり」と判定されたのは「思い出したり集中すること」で,「全くできない」0%,「とても苦労する」17.3%であった。②WG-SS Enhancedの「不安」の頻度への回答では,「毎日」45.3%,「週に1回程度」20.0%であり,「憂うつ」の頻度は,「毎日」37.3%,「週に1回程度」20.0%であった。精神障害者保健福祉手帳1級所持者は2級所持者に比べて,WGの「不安」および「憂うつ」の頻度を「毎日」と回答した者は少なかった。③WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」を選択した者,または,「不安」の頻度または「憂うつ」の頻度で「毎日」または「週に1回程度」を選択した者の合計は70.7%であった。

結論 本研究では,WG-SS6項目だけでは精神障害者保健福祉手帳所持者の約2割しか「障害あり」と判定しなかったが,WG-SS6項目に「不安」の頻度と「憂うつ」の頻度を加えた合計8項目では精神障害者保健福祉手帳所持者の約7割を「障害あり」と判定した。WGの指標をわが国で使用する場合には,WG-SS6項目に「上肢」2項目,「不安」2項目,「憂うつ」2項目を加えたWG-SS Enhanced(合計12項目)を使用することを提案し,令和4年生活のしづらさなどに関する調査(厚生労働省)では採用された。また,WGの指標では「障害あり」と判定されることもある障害者手帳非所持の高齢者がどの程度いるかを,高齢者を対象とする調査で確認しておくことが望ましいと考えられた。

キーワード 国際障害者統計,ワシントン・グループ,生活のしづらさなどに関する調査,国民生活基礎調査,精神障害

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第69巻第15号 2022年12月

小学校高学年児童における睡眠の質と心の健康の関連要因

-関東圏内の私立小学校を対象に-
三森 寧子(ミツモリ ヤスコ) 髙橋 恵子(タカハシ ケイコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)
有森 直子(アリモリ ナオコ) 亀井 智子(カメイ トモコ) 新福 洋子(シンプク ヨウコ)
武内 紗千(タケウチ サチ) 谷田 恵子(タニダ ケイコ) 池田 雅則(イケダ マサノリ)

目的 日本人の平均睡眠時間は,諸外国と比較すると最も短く,子どもも同様の傾向がある。子どもの睡眠と心の健康は互いに影響し合うものであり,早期に介入すべき健康課題の1つといえる。本研究の目的は,小学生の睡眠に関する支援の示唆を得るために,小学校高学年児童を対象に心の健康の観点から,睡眠の質の関連要因を探索することである。

方法 研究デザインは量的横断的研究であり,2014年10月に関東圏内の小学4~6年生540名を対象に自己記入式質問紙調査を行った。データ収集方法は,小学校の学校長の研究協力同意が得られた後に,児童および保護者に研究協力依頼を実施し,調査票を配布した。回収は留め置き法を用いた。調査内容は属性,睡眠の質,QOL,自尊感情,自己効力感,ソーシャルサポートであった。因子分析,信頼性分析,t検定,一元配置分散分析,重回帰分析を行った。

結果 小学校高学年の児童540名に調査票を配布し,502部の有効回答を得た(有効回答率93.0%)。対象者は男子332名(66.1%),女子170名(33.9%)であり,4年生154名(30.7%),5年生170名(33.9%),6年生178名(35.5%)であった。睡眠の質,QOL,自尊感情,自己効力感,ソーシャルサポートの5尺度はすべて,信頼性と妥当性が再確認された。睡眠の質の悪さに対して,QOLの低さ(p<0.001),ソーシャルサポートの低さ(p<0.001),自尊感情の低さが有意に影響を与えていた(p<0.01)。インターネット利用時間が睡眠の質の悪さに有意に影響を与えていた(p<0.01)。

結論 回答者の17.5%を示した睡眠障害のある児童はQOLが低く,ソーシャルサポートが得られず,自尊感情が低いことが明らかとなった。子どもの発達課題を考慮しながら睡眠に関する支援を学校と家庭が連携して取り組む必要性が示唆された。

キーワード 子ども,睡眠,心理社会的,QOL,横断調査,睡眠障害

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第69巻第15号 2022年12月

2000年以降の医師偏在指標の試算について

小池 創一(コイケ ソウイチ) 寺裏 寛之(テラウラ ヒロユキ)
小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 松本 正俊(マツモト マサトシ)

目的 国が新たに開発した医師偏在指標を,過去の人口・医師数・受療率等に適用,一定の仮定を置いた上で算出し,その推移や人口10万対医師数との比較を行うことで,医師偏在指標を用いる際の留意点や,今後の医師確保策のための課題について検討することを目的とした。

方法 2000~2018年の期間について2年間隔で三次医療圏(都道府県),二次医療圏別の医師偏在指標を算出した。過去のデータが利用可能なものについては過去のデータを用いるが,過去のデータが得られないものについては条件が変わらないものと仮定した。その上で,医師偏在指標と人口10万対医師数を比較するとともに2000年時点の偏在指標の上位・中位・下位1/3の地域が2018年までの間に,2000年時点の各区分の水準にあてはめた場合,どの区分に該当するかを試算した。

結果 2000年~2018年の医師偏在指標の推移をみると,三次医療圏・二次医療圏のいずれも最小値,平均値ともに増加が認められているが,最大値も増加しており,標準偏差,最大値-最小値とも拡大している。2018年の人口10万対医師数と医師偏在指標はいずれも強い相関を示していた。2018年の時点では2000年基準による下位1/3に該当する都道府県のうち約8割(16-3/16=0.81),二次医療圏では6割(112-42/112=0.61)がその水準を上回っているという試算結果となった。

結論 医師偏在指標を一定の仮定の下で過去にさかのぼって試算した。医師偏在指標全体の水準は改善しており,2000年基準で医師少数県・医師少数区域とされた地域は,2018年までにそれぞれ8割,6割がその水準を上回る等,医師確保策には一定の成果がみられている。しかしながら,もともと医師偏在指標が大きかった地域も偏在指標をさらに改善させていることから,依然として地域間格差は存在している。現在は,医師確保計画が医療計画の中に定められ,これまで以上に強力な医師偏在対策がとられているものの,医師の偏在是正は容易ではない。国,地方自治体の一層の取り組みの強化が求められるとともに,幅広い関係者間の理解と合意をいかに得るかが今後の課題となると考えられる。

キーワード 医師需給,医師偏在対策,医療計画,医師確保計画,医師偏在指標

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第69巻第15号 2022年12月

特別養護老人ホームにおける機能訓練体制構築のための取り組み

-機能訓練指導員の他職種連携を基盤に「できている部分」に着目して-
植田 大雅(ウエダ ヒロマサ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)は機能訓練指導員を配置し,「協働・連携」の下で機能訓練に取り組むことを必須要件としている。しかし,機能回復訓練にとどまり他職種で協働する取り組みが浸透していない危険性がある。本研究では,特養における他職種連携において,機能訓練指導員の「できている」部分に着目し,利用者の重度化が進む中で機能訓練指導員が他職種とどのように関わり,連携体制を構築しているかを明らかにする。

方法 2020年8月上旬に東京都内特養558施設の施設長宛に調査用紙を郵送・依頼し,合計252施設の機能訓練指導員から回答を得た(回収率45.2%)。調査内容は,基本属性と業務内容,他職種連携などである。その中の他職種との連携に着目し,「できている」部分に関する15項目について5件法で回答を得た。主因子法による因子分析を行い,その結果を元に「他職種連携」に関する意識への影響について重回帰分析を行った(有効分析数217名)。また,連携していると思う職種について挙げてもらった。

結果 因子分析の結果,第Ⅰ因子「重度化対策・予防」(α=0.862),第Ⅱ因子「介助方法の指導」(α=0.820),第Ⅲ因子「周辺環境調整協力」(α=0.628),第Ⅳ因子「福祉機器の活用と指導」(α=0.599)の4因子が得られた。重回帰分析結果より,「できている」部分の下位尺度の中で,第Ⅱ因子「介助方法の指導」,第Ⅳ因子「福祉機器の活用と指導」,第Ⅲ因子「周辺環境調整協力」が他職種連携に影響を及ぼしていた。連携していると思う職種の1番目は介護職員であった。

結論 機能訓練の連携体制の構築化は,利用者を終日ケアしている介護職員を重要な連携先として考え,機能訓練指導員は指導者的立場として介護職員を支援しながら進めていくことが,より良いサービス提供になると考える。

キーワード 機能訓練指導員,他職種連携構築,「できている」部分の因子構造,指導者的立場,利用者の重度化

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第69巻第15号 2022年12月

地域の事例検討会記録による在宅困難事例の問題点

-類型化の試みと解決可否の検討-
中野 寛也(ナカノ ヒロヤ) 松井 邦彦(マツイ クニヒコ) 室生 勝(ムロウ マサル)
松田 智行(マツダ トモユキ) 成島 淨(ナルシマ キヨシ)
日比野 敏子(ヒビノ トシコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ)

目的 専門職が抱える現場の困難事例の問題点に対して解決策を提供するための多職種による地域の医療福祉事例検討会で,多職種が提示した困難事例の問題点に着目し包括的な類型化を試みた。また問題点の一部について,類型ごとにそれらの問題点が解決されたか否かを検討した。

方法 8年間の事例検討会で討議された89事例から,分析対象は76事例であった。事例から抽出された問題点について,先行研究を参考に問題点の類型化を行った。本人と周辺の関係性において生じる問題点については独立させる形で「問題点の所在」を分類し,その下位分類として「問題点の内容」を類型化した。さらに,問題点の一部について,問題が解決したか否かを検討するため,判定を2名の評価者が独立して行い,判定が2名の間で不一致だった問題点は評価者間で互いの判定の根拠を共有しながら協議し,すべての問題点の最終的な判定を決定した(初回判定一致率56.3%,Cohenのkappa係数0.48)。

結果 76事例で挙げられた問題点は194個あった。「問題点の所在」としては,本人(52個),サービス提供者(48個),介護者(36個),世帯全体(経済的問題を除く)(14個),環境(制度・システム的)(13個),介護者とサービス提供者の関係性(11個),世帯全体(経済的問題)(10個),サービス提供者間の関係性(6個),環境(物理的)(6個)の9項目を設定した。「問題点の内容」については40項目の分類を設定した。194個の問題点のうち判定対象の問題点は,96個となった。解決したと判定された問題点の割合は「問題点の所在」が「介護者」だった問題で69%と最も高く,次いで「世帯全体の問題(経済的問題)」「サービス提供者」等の順だった。「問題点の内容」別に解決された問題点が多かったのは「経済的問題によるサービス利用困難」「病状・不穏状態によるサービス利用困難」等の順だった。解決しやすい問題は多職種で知識を共有することで解決しやすくなったと考えられたが,解決しにくい問題は制度自体の問題,物理的環境の問題等,個別に介入することが難しい問題点が多く,地域ケア会議での検討や解決に向けた制度設計,政策策定が図られるべき問題点だと考えられた。

結論 今後は事例の集積により,類型の標準化が進み,困難事例に関する多職種間の共通理解が構築されること,また問題点ごとの解決策が政策に反映され,地域でその人らしく暮らせる支援の仕組みが必要である。

キーワード 在宅医療,居宅療養,困難事例,事例検討会,問題点の類型化,問題点解決の可否

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第69巻第13号 2022年11月

社会福祉協議会における法人後見の現状と課題

-意義,意思決定支援,公的支援のあり方を中心に-
関根 薫(セキネ カオル) 鵜沼 憲晴(ウヌマ ノリハル)

目的 認知症高齢者の増加等により今後成年後見の需要が高まる一方,専門職後見人ならびに市民後見人の大幅増加が見込めない現状を踏まえ,本研究では,すべての基礎自治体に設置されている市区町村社会福祉協議会(以下,社協)による法人後見の可能性に焦点をあて,その意義を検証するとともに,意思決定支援や公的支援のあり方等,社協による法人後見を促進するための具体的な課題について考察することを目的とした。

方法 全国の社協1,741件を対象に,郵送法による自計式調査票を用いた悉皆調査を実施した。調査期間は,2020年2月から4月である。調査票の有効回答数は953件,有効回答率は54.7%であった。本研究では,調査の項目のうち社協による法人後見の受任状況・体制,社協が法人後見を実施する意義,意思決定支援の実態,社協の法人後見を推進していくための課題等に焦点を絞って考察を行った。

結果 社協が受任しているケースのうち約5割が「市区町村長申立」,約7割が「経済的困窮世帯」であった。後見業務では約7割が兼任職員のみで担っており,財源が不十分な割合も約7割に上ることが明らかとなった。社協による法人後見の意義については,日常生活自立支援事業からのスムーズな移行,複合的な生活問題を抱えているケースや経済的困窮ケースへの長期継続的な対応,問題解決に向けた他機関・事業所との連携,専門職後見人等の第三者後見人が乏しい地域での対応可能性などが認められた。意思決定支援については,意思の表明に関わる支援の実施率が相対的に高かった。社協の法人後見推進に向けた課題については,専任担当職員の確保・増員,担当職員の知識・技術の向上,他機関・事業者との連携などが認められるとともに,求められる公的支援として,安定的かつ十分な財源の確保,経済的困窮ケースに対する支援などが示された。

結論 受任状況ならびに実施の意義より,社協の法人後見は成年後見におけるセーフティネットとしての役割を担っていることが明らかとなった。また,社協では意思決定支援を中心に社会福祉に関する理念やスキルが成年後見業務に反映されていることからも,社協による法人後見が共生社会における地域包括支援体制の構築に寄与することが確認できた。今後の課題として,人員や財源の確保が問題として析出されており,これらの解決策として,成年後見制度法人後見支援事業の充実化等を提起した。

キーワード 成年後見,法人後見,社会福祉協議会,意思決定支援,地域包括支援

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第69巻第13号 2022年11月

国保保険料と被保険者の受診行動について

-HLMによる分析-
佐川 和彦(サガワ カズヒコ)

目的 国保被保険者の受診行動について,サンク・コスト効果の存在を検証するだけではなく,その大きさが地域によって異なることも検証する。さらに,サンク・コスト効果の大きさを決定づける要因についても検証を行った。

方法 平成30年度の保険者別データを用いて,国保被保険者の受診行動について分析を行った。受診率関数の推定にあたっては,HLM(階層線型モデル)を応用した。レベル1において,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の符号がプラス,かつ有意ならば,サンク・コスト効果が存在することになる。次に,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の経験的ベイズ推定値を求め,地域間でサンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することを確認した。レベル2において,人口当たりの医師数(歯科医師数)がサンク・コスト効果の大きさを左右するかどうかを検証した。

結果 国保被保険者については,総じてサンク・コスト効果が存在することが確認された。また,地域間で,サンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することが確認できた。被保険者がサンク・コスト効果に基づく受診行動を取る地域が多数であったが,少数であっても,経験的ベイズ推定値がマイナスであり,被保険者のコスト意識に基づく行動が優勢である地域があることも確認された。人口当たりの医師数(歯科医師数)が増加すれば,サンク・コスト効果が大きくなる(コスト意識に基づく行動が優勢である地域においては,少なくともそれを抑制する)傾向があることが確認された。

結論 人口当たりの医師数や歯科医師数が増加することによる被保険者の利便性の向上が,サンク・コスト効果を大きくしている。保険料引き上げを検討する際に,サンク・コスト効果による受診率上昇も考慮に入れなければ,サンク・コスト効果の分だけ,将来の医療費に想定外の上乗せが生じることになるであろう。

キーワード 国保保険料,受診率,サンク・コスト効果,医療資源量,HLM(階層線型モデル)

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第69巻第13号 2022年11月

高校生における親への援助希求行動の関連要因

立瀬 剛志(タツセ タカシ) 赤﨑 有紀子(アカサキ ユキコ)
関根 道和(セキネ ミチカズ) 山田 正明(ヤマダ マサアキ) 鈴木 道雄(スズキ ミチオ) 

目的 若者の自殺対策として援助希求行動が重要であるといわれており,若者のSOS教育が推進されている。一方,教育現場では,若者の成長課題として自己肯定要素の欠如が問題とされているが,自己肯定感情に伴う自己解決能力の高さは援助要請行動の阻害因子としても位置づけられる。そこで今回,高校生における親への相談行動を説明する因子を自己肯定感情との関連を踏まえ分析し,援助希求行動の促進の因子とその経路を検証した。

方法 2005年富山県の高校1年生に実施した第5回富山スタディのデータ5,874名を分析に用いた(男性2,846名,女性3,028名)。パス解析を用い,4つの健康指標と5つの社会指標の説明変数から親への相談因子と自己肯定感情因子へパスを想定し,関連を認めた因子を抽出した。また親への相談へのパス経路を直接的,かつ自己肯定感情を経由した効果を算出した。分析はパス解析を行い,パス図の適合度を検証した後,男女別に多母集団分析を実施し違いを比較した。

結果 親に相談しない者は1,050名(17.9%)であり,自分を嫌いと回答した者は2,346名(39.9%)であった。パス解析による適合度は十分な値を示し,関連パスは各因子から直接親への相談に関連したものと自己肯定感情を経由して寄与したものに分かれた。親への相談との直接的関連では,良いところを認めてくれる人がいるほど(標準化推定値β=0.154),自己肯定感情が高いほど(β=0.151)親へ相談していた。,またイライラの頻度が高いほど(β=0.074),一方かんしゃくの頻度が少ないほど(β=-0.062)親へ相談していた。自己肯定感情を経由しして関連したものは,得意なことや楽しいことが関連し,良いところを認めてくれる人の存在も自己肯定感情を通して親への相談に関連した。男女別の分析でも全体での分析と同様の関連パスが有意差を示した。

結論 今回の結果は,自己肯定感情は援助希求行動を促進する重要な役割を示すことに加え,信頼できる友人や大人の存在が親への援助希求の促進に重要な役割を果たすことが示唆された。悩みを抱える若者がSOSを発するためには,自分を受け入れ肯定することに加え,認めてくれる他者の存在が重要となる。

キーワード 援助希求行動,自己肯定感情,相談相手,認めてくれる人,パス解析

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第69巻第13号 2022年11月

保健活動の評価指標の検討

-市町村保健師による保健活動(母子保健・健康づくり・高齢者保健福祉)の評価指標を統計項目とすることに焦点をあて-
平野 かよ子(ヒラノ カヨコ) 河野 朋美(カワノ トモミ) 森本 典子(モリモト ノリコ)
藤井 広美(フジイ ヒロミ) 石川 貴美子(イシカワ キミコ) 

目的 これまでに筆者らが開発してきた市町村保健師による保健活動の評価指標を統計学的に解析し,評価指標を統計項目として活用することの検討を行った。

方法 開発してきた3領域の保健活動(母子保健,健康づくり,高齢者保健福祉)の評価指標を用いて5段階尺度の自記式調査票を作成し,調査期間は平成31年1~3月に全国から無作為抽出した市町村(各領域270)の母子保健,健康づくり,高齢者保健福祉の各事業の主担当保健師に,現状の保健活動を評価することを依頼した。当初の各領域の評価指標項目数は母子保健28,健康づくり29,高齢者保健福祉25であった。項目分析と項目間相関係数の分析で評価指標の信頼性の検討を行った。また,因子分析により各領域の評価指標の構造を把握し,3領域の全体と因子ごとの評価指標項目のCronbachのα係数を用いて内的整合性を確認した。

結果 調査票の回収状況(回収率)は母子保健90(33.3%),健康づくり80(29.6%),高齢者保健福祉77(28.5%)であった。各項目の回答状況はほぼ5段階に分散し,未回答の項目は少なかった。項目分析は記述統計の平均値と標準偏差と項目間相関係数で行い,全項目間のSpearmanの相関係数に0.60以上は認められなかった。因子分析では母子保健に3因子,健康づくりに4因子,高齢者保健福祉に3因子が抽出された。健康づくりでは因子負荷量の小さい2項目は削除した。3領域の全体と因子ごとのCronbachのα係数はすべて0.72以上であった。

結論 今回の分析で母子保健の評価項目の28項目,健康づくり27項目,高齢者保健福祉の25項目に一定の信頼性およびそれぞれの領域の構成要素を明らかにすることができた。因子分析により母子保健3因子,健康づくり4因子,高齢者保健福祉3因子が抽出され,これらの因子ごとの項目群を統計項目群とすることの可能性が示唆された。市町村は評価指標項目の全体を,あるいは目的に応じて因子群を統計項目として保健活動を評価することが可能と考えられた。この統計から市町村の保健活動の取り組みの特徴と変化を可視化させる研究の必要性が示唆された。

キーワード 市町村保健活動,保健師,評価指標,質評価,統計項目

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第69巻第13号 2022年11月

沖縄長寿の神話

-戦前・戦後を通じた沖縄県民死亡率のコホート分析-
岡本 悦司(オカモト エツジ)

目的 沖縄県男性の平均寿命は1980~85年に全国一となり「健康長寿県」のイメージが定着したが,その後は急落し,最新の2015年生命表では36位である。戦前においても沖縄県は決して長寿県ではなく,沖縄県男性の長寿化は戦後35~40年の一時的な現象であった。その原因として,1945年の沖縄戦による選択的生存仮説すなわち「戦争による犠牲の大きかった世代ほど,戦後の生存率がよかったのではないか」という仮説をたて,戦前戦後の人口統計や生命表を用いて検証した。

方法 戦前と戦後に琉球政府によって実施された国勢調査ならびに生命表より沖縄戦前後の相対生存率を出生コホート別に推計し,コホート別の戦後の標準化死亡比(SMR)との相関を評価する。

結果 沖縄県男性について沖縄戦前後の相対生存率と戦後の標準化死亡比とを出生コホートごとに比較したところ,正相関(R2=0.34)がみられた。すなわち,沖縄戦前後で相対生存率の低い(=戦争による犠牲が大きい)世代ほど,戦後の標準化死亡比が低い(=死亡率が低い)傾向がみられた。女性についてはそのような正相関はみられなかった。

結論 戦争による犠牲の多い世代ほど,生き残った者の戦後の死亡率は低い傾向がみられた。沖縄戦は3カ月以上に及ぶ過酷な戦闘であり,強い生命力を有する者だけしか生存できない,いわゆる「選択的淘汰」が働いたと考えられる。戦後35~40年に沖縄県男性の平均寿命が一時的に全国1になったのは,食生活やライフスタイルの影響ではなく,沖縄戦による一時的な効果であったと考えられる。

キーワード 沖縄県,コホート効果,選択的生存,標準化死亡比,生命表

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第69巻第13号 2022年11月

不慮の窒息死の都道府県間差と関連する要因

奥井 佑(オクイ タスク) 朴 珍相(パク ジンサン)

目的 本研究では都道府県ごとの不慮の窒息の年齢調整死亡率の動向を明らかにするとともに,都道府県間差と関連する要因を特定した。

方法 人口動態統計より,2000-2020年における不慮の窒息による死亡データを入手した。また,不慮の窒息死との関連を調べるため,各都道府県の人口学,経済,医療,および医学関連データを政府統計より入手した。都道府県,性別,年ごとに不慮の窒息死の年齢調整死亡率を算出し,2000年から2020年における年齢調整死亡率の年平均変化率を算出した。また都道府県を対象とした生態学的研究により,年齢調整死亡率と都道府県の特性との関連を,線形混合効果モデルを用いたパネルデータ解析により探索した。

結果 2000年から2020年にかけて,男性ではすべての都道府県で年齢調整死亡率が減少傾向を示した一方で,女性では年齢調整死亡率が上昇している県が存在した。47都道府県中,39県において男性の方が女性よりも年平均変化率の絶対値が大きく,年齢調整死亡率の減少度合いが大きかった。回帰分析の結果,人口当たり課税所得は男女とも年齢調整死亡率と統計学的に有意に負の関連を示した。また,男性においては,人口当たりの精神科を有する病院または精神科病院の数が年齢調整死亡率と統計学的に有意な正の関連を示した。一方で,女性においては要支援または要介護である高齢者の割合が年齢調整死亡率と統計学的に有意な正の関連を示した。

結論 都道府県の個人所得レベルと不慮の窒息死が関連する可能性が示唆され,今後個人データを用いた社会経済状況と不慮の窒息死との関連に関する研究がまたれる。

キーワード 人口動態,都道府県,窒息,不慮の事故,死亡,年齢調整死亡率

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第69巻第12号 2022年10月

COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴

-パネルコホート研究を用いた2019年度と2020年度の比較-
松本 宗賢(マツモト ムネノリ) 李 响(リ ショウ) 焦 丹丹(ジャオ ダンダン)
張 瑾睿(チャン ジンルイ) 王 妍霖(オウ エンリン) 乾 美玲(ガン メイリン)
朱 珠(シュ シュ) 朱 言同(シュ ヤントン) 劉 洋(リュウ ヤン)
崔 明宇(サイ ミンウ) Ammara Ajmal(アマラ アジュマル) Yolanda Graça(ヨランダ グラサ)
Alpona Afsari Banu(アルポナ アフサリ バヌー) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 田中 笑子(タナカ エミコ)
冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡邉 多恵子(ワタナベ タエコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は筆者らが1998年より継続している,北海道から沖縄まで全国の延べ667カ所の保育園,こども園,幼稚園に在籍する0歳から6歳までの園児の保護者と保育専門職によるパネルコホート調査の2019年度調査と2020年度調査データの比較を行い,2020年度のCOVID-19感染拡大下の育児環境の特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,全国の保育園,こども園,幼稚園(9カ所)に在籍する,0歳から6歳までの園児の保護者とし,2019年11月13日~12月31日と2020年11月16日~12月31日に調査を行った。調査は,各園より保護者に依頼し,紙面またはオンラインで回答を得た。保護者には育児環境に関する10項目,育児サポートとして育児の相談者や支援者の有無等3項目,保護者の特性として育児に対する自信,ストレスの程度,子どもの特性として年齢,性別,きょうだいの有無,子どもの社会適応として園生活への適応について調査した。分析は,COVID-19感染拡大による影響を検討するため,各項目について,感染拡大前の基準年(2019年度)調査データと感染拡大後の2020年度調査データの変化を検討した。次に,保護者の不適切な行為と関連する要因を他の項目の影響を互いに調整した上で検討するため,性別と年齢,きょうだいの有無を調整した,子どもをたたく頻度を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。独立変数としては,子どもをたたく頻度と基準年のそれ以外の項目とのχ2検定を行った。

結果 2019年度に比べて2020年度では,育児環境に関する人的かかわり領域の「家族で食事をする機会が乏しい」の割合が有意に減少し,「本を読み聞かせる機会が乏しい」「一緒に歌を歌う機会が乏しい」「配偶者の育児協力の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。制限や罰の回避領域の「子どもをたたく頻度」の割合は,2019年度21.0%,2020年度18.6%と有意に減少していた。また,2019年度に比べて2020年度では,社会的かかわり領域の「公園に連れていく機会が乏しい」「知人との交流の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。育児サポートでは,2019年度に比べて2020年度は,「育児支援者がいない」「配偶者と子どもの話をする機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。さらに,子どもをたたく頻度の関連要因として,保護者の「子どもの誤りへの不適切な対応」と「育児に対する自信がない」ことの2項目が明らかとなった。

結論 COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴として,2019年度に比べて2020年度では「家族で食事をする機会」が示す子どもの保護者と過ごす機会が増加し,「公園に連れていく機会」「知人との交流の機会」が示す社会的かかわり,および「育児支援者」が減少した。また,先行研究で保護者のストレスとの関連が確認されている「保護者が子どもをたたく頻度」が,COVID-19感染拡大下では減少し,保護者のストレスとの関連は確認されなかった。

キーワード COVID-19,生活の変化,育児環境,育児サポート,育児意識,パネルコホート調査

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第69巻第12号 2022年10月

離島市町村における自殺死亡の現状と
社会生活指標との関連

波名城 翔(ハナシロ ショウ)

目的 日本の自殺者数は平成10年代のピーク時から,近年右肩下がりで減少傾向にある。離島市町村においては自殺死亡率の低さが報告される一方で,自殺死亡率の高い離島市町村も存在することが報告されている。本研究では,離島市町村の自殺死亡の現状と社会生活指標との関連を明らかにし,今後の自殺予防対策としての基礎資料を得ることを目的とした。

方法 研究対象地域は,橋などで本土とつながっていない離島63市町村(8市31町24村)を対象とした。平成20年から同30年までの人口動態調査死亡票のデータから,離島市町村の自殺EBSMRを作成した。市町村別の自殺EBSMRの分布を確認するとともに,人口規模4区分別,男女別の自殺EBSMRの違いを検討した。また,自殺死亡率と社会生活指標についてSpearmanの順位相関分析を行った。

結果 離島63市町村の対象期間11年間の自殺者の総数は,1,587人であった。人口10万対自殺死亡率の推移では,段階的に自殺死亡率は低下傾向にあるが,全国との比較では男性が高く,女性は低く推移していた。人口規模別にみた自殺EBSMRの中央値は,男女とも「5,001人以上10,000人以下」で有意に高かった。都道府県単位では,すべての市町村で自殺EBSMRが100以下の都道府県がある一方で,低率市町村と高率市町村が混在する都道府県もみられ,①人口規模の大きい「市」,②小規模離島が周辺にある中規模以上の市町村,③複数の市町村で構成される島では自殺EBSMRが高くなることが考えられた。また,社会生活指標との関連では男性は離婚率と年少人口割合,病院病床数が正の相関を示し,女性は病院数,病院病床数が正の相関を,診療所数,医師数で負の相関を示した。

結論 離島市町村における自殺死亡率は,市町村の規模や人口の移動,複数市町村で構成されるなどの影響や男性の自殺死亡率の高さが強く影響されると考えられた。男性はコミュニティのつながりと都市化,女性は診療所,医師数などの身近な医療関連指標が関係することが推察された。

キーワード 離島市町村,自殺EBSMR,人口動態統計,社会生活指標

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第69巻第12号 2022年10月

児童養護施設を経験した若者の
幼少期逆境体験に関連する要因

石田 賀奈子(イシダ カナコ)

目的 幼少期逆境体験(Adverse Childhood Experiences,以下,ACEs)は成人後の健康や貧困に関連する。本研究では,児童養護施設を退所した若者のACEsの実際を把握し,彼らのACEsにどのような要因が作用しているのかを明らかにする。ACEsがどのような要因によって高く示されるのかを明らかにすることによって,児童養護施設を退所した若者のケアについての提言を試みることを目的として実施した。

方法 全国605カ所の児童養護施設に,①2019年3月31日または②2020年3月31日の時点で,高校3年生だった者について回答してもらう調査票を郵送した。質問項目は基本的属性,ACEs,およびポジティブな子ども時代の体験(Positive Childhood Experiences,以下,PCEs)に関連するものであった。調査時期は,2020年11月から2021年1月末とした。605施設のうち,187施設から回答を得た。分析方法は,ACEs得点と2変数間のクロス集計と決定木分析を行った。

結果 844名の若者に関する回答が得られた。性別は,男性427人(51.2%),女性407人(48.8%)であった。何らかの障害があるのは254人(30.2%)で,そのうち,知的障害が最も多く,161人(63.4%)であった。退所から現在までに経験したことを尋ねた項目では,卒業時と同じ事業所で働いている者が最も多かったが,退職や転職のほか,無職の状態や生活保護受給の経験といったネガティブな出来事を経験している者もいた。また,ACEs得点を2群に分けたとき,ハイリスク群が55.3%と非常に高い割合を示した。クロス集計の結果,ACEs得点が高い若者ほど家庭復帰は困難であること,無職を経験していること,入所前に他の社会的養護を経験しておらず,年齢が高くなってからの入所であることが明らかとなった。決定木分析では,「自宅や学校の近隣で,暴力を見たり,聞いたりしたことがあるか」「施設入所時の虐待加算の有無」「母の精神疾患の有無」「児童の性別」がACEsの高い群の特徴であると示された。

結論 本研究の結果,退所後2年以内に状況が大きく変わることへの対応が必要であること,女児のほうが強い逆境体験を有していることが示唆された。児童福祉法改正により,今後は18歳の誕生日で支援を途絶えさせることのないよう切れ目のない支援が求められる。どのような経験を持つ若者が18歳以降にハイリスクな状態につながりやすいのかを把握し,児童養護施設だけではなく,他の様々な社会資源とともに,成人後の支援を充実させることが求められる。

キーワード 社会的養護,児童養護施設,アフターケア,幼少期逆境体験(ACEs),決定木分析

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第69巻第12号 2022年10月

医師の負担軽減に伴う病院機能の集約化・重点化と
患者アクセスの変化の量的な概算

江原 朗(エハラ アキラ)

目的 医師の働き方改革に伴って特定の病院機能が集約化・重点化される可能性が高く,住民の病院へのアクセスの変化を概観するモデルを作成する。

方法 特定の病院機能に関する診療圏を,「国土面積を特定の病院機能がある市町村数で割った面積を有する円である」と仮定した単純化モデルを作成し,病院の集約化・重点化によりその半径がどう変化かするかを計算した。なお,計算の仮定は,a)住民の医療需要が集約化・重点化の前後で変わらない,b)病院の規模やその分布に大きな差がない,c)診療圏の人口とその分布も大差はないとした。そして,全国の小児科病棟のある市町村が531から288に集約化・重点化された場合に円形の診療圏の半径(モデル値)と居住する市町村から最寄りの小児科病棟がある市町村までの距離(実測値)がどう変化するかを比較して近似の精度を評価した。

結果 小児科病棟が所在する市町村が531から288に減少した場合,円形と仮定した診療圏の半径(モデル値)は1.35倍(20.4㎞/15.1㎞),居住する市町村から最寄りの小児科病棟がある市町村までの距離(実測値)は1.63倍(22.7㎞/13.9㎞)となった。このモデルと実測値との間の相対誤差は|1.63倍-1.35倍|/1.63倍=0.17であり,その差は2割弱に過ぎなかった。

結論 特定の病院機能が集約化・重点化される際の地理的なアクセスの変化を市町村単位で概算する際に,診療圏を「国土面積を特定の病院機能がある市町村数で割った面積を有する円である」と仮定したこの粗い近似のモデルを用いても実測値と大きな差異は生じなかった。モデルが簡単であるため,集約化・重点化の際のアクセスの変化を示す簡便なツールとして有用であると考えられる。

キーワード 集約化,重点化,医師の働き方改革,診療圏,アクセス,小児科病棟

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第69巻第12号 2022年10月

対面・非対面交流のタイプ別にみた高齢者の主観的健康:
JAGES2019横断研究

福定 正城(フクサダ マサキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)
近藤 克則(コンドウ カツノリ) 斎藤 民(サイトウ タミ)

目的 本研究は,高齢者の交流タイプを対面交流の頻度と非対面交流の頻度から4群に分け,それぞれの交流タイプと主観的健康との関連を検証することを目的とした。

方法 日本老年学的評価研究(JAGES)によって2019年に実施された要介護認定を受けていない高齢者を対象にした質問紙調査(回収率69.4%)のうち,使用変数が含まれる22,809人を分析した。従属変数には,主観的健康指標として健康度自己評価と抑うつ(GDS-15)を用いた。独立変数には,対面・非対面交流頻度として4つの指標を使用し,対面・非対面交流がそれぞれ週1回以上か否かで「孤立型」「非対面中心型」「対面中心型」「交流豊富型」に分類した。各交流タイプの該当割合を算出し,健康度自己評価不良および抑うつ状態の割合について,同居者の有無で層別化し記述統計を確認した後,各交流タイプの間でFisherの正確確率検定による多重比較(Bonferroni法)を行った。その後,多重代入法により欠損値を補完し,同居者の有無で層別化してポアソン回帰分析を行った。

結果 解析の結果,交流タイプの割合は,交流豊富型群がほぼ半数,孤立型群が約25%,対面中心型群および非対面中心型群が約15%であった。多重比較によれば,健康度自己評価は同居者ありで,抑うつは同居者の有無にかかわらず,対面中心型群と非対面中心型群との間以外に有意差が認められ,健康度自己評価は同居者なしで孤立型群と各交流タイプとの間に有意差が認められた。ポアソン回帰分析の結果,孤立型群と比べて,交流豊富型群の健康度自己評価不良への該当しやすさは,同居者なしで0.71(95%信頼区間,以下,95%CI:0.58-0.88)倍,同居者ありで0.76(95%CI:0.68-0.85)倍であった。抑うつ状態への該当しやすさは,同居者なしで0.37(95%CI:0.27-0.51)倍,同居者ありで0.39(95%CI:0.32-0.47)倍であった。一方で,孤立型群と比べて,非対面中心型群の健康度自己評価不良への該当しやすさは,同居者なしで0.70(95%CI:0.51-0.96)倍,同居者ありで0.89(95%CI:0.78-1.02)倍であった。抑うつ状態への該当しやすさは,同居者なしで0.62(95%CI:0.41-0.93)倍,同居者ありで0.71(95%CI:0.55-0.91)倍であった。

結論 高齢者の交流タイプ別にみると,交流豊富型群が最も主観的健康と関連し,対面中心型群および非対面中心型群であっても,主観的健康に寄与し得ることが示唆された。非対面交流は,身体機能低下の影響を受けにくい交流媒体であるため,加齢による社会的ネットワークの縮小を防ぐ可能性をもつと考えられる。

キーワード 対面交流,非対面交流,交流タイプ,健康度自己評価,抑うつ,社会的孤立

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第69巻第11号 2022年9月

フレイルティモデルを用いた
わが国男性の悪性新生物コーホート死亡率の動向の検討

都築 英莉(ツヅキ エリ) 石井 太(イシイ フトシ)

目的 本研究は,わが国男性の悪性新生物コーホート死亡率に,フレイルティモデルを当てはめ,その動向を定量的に分析することを目的とした。

方法 1900〜1940年に生まれた41コーホートの男性を対象とし,日本版死亡データベースと人口動態統計を用いて,45〜89歳の年齢別悪性新生物死亡率を推計した。さらに,フレイルティの分布を表す関数としてガンマ分布を用い,標準的な死力にゴンパーツモデル,ワイブルモデルを用いてモデリングを行った。

結果 推計結果から,悪性新生物死亡率は中年から老年にかけて上昇スピードが減速する中年上昇型であることが明らかとなったが,1910〜1920年生まれコーホートではその減速は緩やかになっていた。フレイルティモデルへの当てはめからは,すべてのコーホートにおいて,ガンマワイブルモデルの方が当てはまりがよいことが確認された。モデルのパラメータを観察すると,1900~1910年半ば生まれコーホートまではフレイルティのばらつきが小さくなったが,それ以降のコーホートでは再び上昇する傾向が観察された。さらに,標準的な死力であるワイブルモデルの切片の観察からは,1930年生まれコーホートから急速に悪性新生物死亡率が改善していることが明らかとなった。

結論 わが国男性の悪性新生物死亡率は,脳血管疾患死亡率の低下などの他の死因の影響から,一時的に中年で死亡率が急上昇する年齢パターンから離れたものの,その後,他の死因の影響が小さくなるとともに悪性新生物死亡率自体も改善し,本来の年齢パターンに戻るという変遷を遂げてきたものと理解できる。

キーワード 悪性新生物,コーホート死亡率,ガンマモデル,ワイブルモデル,ゴンパーツモデル

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第69巻第11号 2022年9月

国民健康保険制度改革が医療費適正化と
予防・健康づくりに及ぼす影響

-都道府県単位化と保険者努力支援制度に焦点を当てて-
小村 有紀(コムラ ユキ)

目的 本稿の目的は,国保における都道府県単位化と保険者努力支援制度の導入が市町村の医療費適正化と予防・健康づくりにどのような影響をもたらすのかについて,都道府県と市町村の階層構造を考慮しながら実証分析を行い,明らかにすることである。

方法 分析対象は,医療費が高額とされる中国地方,四国地方と九州地方の都道府県および市町村である。分析に使用する主要なデータは,国民健康保険の実態から医療費の3要素,人口動態統計特殊報告平成25年~平成29年人口動態保健所・市区町村別統計から死亡率,保険者努力支援制度交付基準から設定された各指標である。被説明変数には,医療費の3要素である受診率,1件当たり日数および1日当たり費用額又は死亡率を採用した。説明変数は,保険者努力支援制度における市町村の12の指標と都道府県の3つの指標に加え,被説明変数に影響を及ぼす社会的要因と地域的要因をコントロールするために,人口密度,15歳未満人口割合や課税対象所得等を投入した。また,推定には,都道府県と市町村の階層構造を考慮するため階層線形モデルによる分析を行った。

結果 被説明変数を受診率とした場合の推計結果は,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標で有意にマイナスであった。1件当たり日数では,市町村指標のうち3つの指標で有意にマイナスであった。次に,1日当たり費用額では,2つの市町村指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。最後に,死亡率については,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。

結論 推定結果を総合的に解釈すると,保険者努力支援制度交付金の交付基準として設定されている市町村指標は医療費適正化に対して一定の効果を発揮し,都道府県指標は死亡率との関連性が観察された。また,死亡率と関連のあった指標は,都道府県から市町村への積極的関与を含み,指導・助言を行うこと等であった。一方で,すべての指標が効果を発揮しておらず,指標として適正であるのかについて証拠に基づく政策立案という観点から検討する必要性が示唆された。

キーワード 国民健康保険,都道府県単位化,保険者努力支援制度,階層構造

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第69巻第11号 2022年9月

介護保険初申請後5年間の
認知症・障害者自立度の変化とその関連要因を探る

國分 恵子(コクブ ケイコ) 堀口 美奈子(ホリグチ ミナコ) 森 亨(モリ トオル)

目的 介護保険初申請後5年間の認知症・障害者自立度の変化とその関連要因を探る。

方法 介護保険初申請後5年間に死亡や転居等で除外した者を除いたA市の65歳以上の者250名について認知・身体機能の変化とその関連要因を分析した。

結果 自立度の変化を悪化した者の割合でみると,認知症自立度は66.4%,障害者自立度は60.8%で,認知症,障害いずれにおいても初申請時の区分の低い(状態の良い)者ほど悪化する傾向が有意に認められた。さらに障害者自立度においては,初申請時の認知症自立度区分の高い(状態の悪い)者で悪化率が高いことが示された。

結論 認知症・障害者自立度において,いずれも初申請時自立度が低い(状態の良い)人でその後の悪化率が高いことについては,区分の設定体系の妥当性,初・再申請時の認定のバイアス等を含めて今後さらに慎重に検討すべきである。悪化と生活の場の関連に関しては,それぞれの生活の場における介護・看護の影響とともに,生活の場の決定に自立度以外の要因が作用している可能性について考慮が必要と考えられる。

キーワード 介護保険,認知機能,自立度の変化,生活の場

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第69巻第11号 2022年9月

訪問看護師の属性が地域連携促進に与える要因分析

大木 正隆(オオキ マサタカ) 浅海 くるみ(アサウミ クルミ)

目的 訪問看護師の属性が地域連携促進に与える関連要因を,統計的手法を用いて明らかにすることである。

方法 東京都の訪問看護ステーションに所属する訪問看護師875名に,郵送法無記名自記式質問紙調査を実施した。調査期間は,2017年10月~同年12月,分析対象は,711名(有効回答率81.2%)である。

結果 訪問看護師の属性で医療介護福祉の地域連携尺度の得点差を分析した結果(Mann-WhitneyのU検定),訪問看護師の年齢(50~70代),臨床経験年数(18年以上),訪問看護経験年数(5年以上),役職(主任+管理者),夜間・休日オンコール経験(あり),勤務形態(常勤),ケアマネジャー資格(あり)の群が医療介護福祉の地域連携尺度の得点が有意に高かった(p<0.05)。さらに訪問看護師の属性を説明変数,医療介護福祉の地域連携尺度を目的変数としたロジステック回帰分析を実施した結果,医療介護福祉の地域連携尺度には,訪問看護経験年数(5年以上,オッズ比(OR):2.644,95%信頼区間(95%CI):1.791~3.903),役職(主任+管理者,OR:1.683,95%CI:1.065~2.659)が有意に関連した。

結論 訪問看護師の属性の視点から地域連携を促進していく上では,特に訪問看護経験年数,役職に着目することが重要である。

キーワード 訪問看護,地域連携,地域包括ケアシステム,訪問看護経験年数,役職

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第69巻第11号 2022年9月

日本の都市高齢者の援助行動と被援助志向性

-よこはまシニアボランティアポイント制度登録者における検討-
澤岡 詩野(サワオカ シノ) 渡邉 大輔(ワタナベ ダイスケ)
中島 民恵子(ナカジマ タエコ) 大上 真一(オオガミ シンイチ)

目的 日本の都市高齢者のボランティア活動とソーシャルサポートネットワークと,被援助志向性の関連を明らかにすることを目的とした。既になんらかのボランティア活動を行っている高齢者の分析を行うために,シニアボランティアポイント制度の登録者を対象とした。

方法 神奈川県横浜市の介護予防施策「よこはまシニアボランティアポイント制度」の登録者を対象として,2017年10月~12月末日に郵送法による自記式のアンケート調査を行った。このうち,分析に用いる変数に欠損がない1,024人を対象に分析を行った。被援助志向性を明らかにするために,被援助志向性を構成する2つの因子「援助に対する欲求」と「援助に対する抵抗感」それぞれについて,2つの援助要請対象「身近な他者」と「公的な他者」に関する4つの質問項目に対し5件法で尋ねた。これらの被援助志向性4項目それぞれを従属変数とし,重回帰分析を行った。

結果 ①男性よりも女性が「身近な他者」からも「公的な他者」からも「援助に対する抵抗感」をもっていること,②女性では「身近な他者」からの「援助に対する欲求」でボランティア活動の頻度の影響が認められ,活動しているほどに欲求も高いこと,③男性では「身近な他者」からの「援助に対する抵抗感」にボランティア活動の影響が認められ,活動しているほどに抵抗感が高いこと,④加えて受領可能と認識する情緒的サポートネットワークの種類が多いほどに抵抗感も高くなることが示された。

結論 一般高齢者よりも援助志向の高いことが考えられるボランティアポイント制度登録者においても被援助志向性に影響を与える要因は男女で異なることや,「援助をうけることへの欲求がある一方で,他者からの援助をうけることに抵抗を感じる」といった相反する感情が内在する人の存在を明らかにした本研究は重要な知見を提示するものといえる。今後は,男女の違いや相反する感情が内在する人の存在を前提にして支援策を検討することが求められる。

キーワード 援助行動,被援助志向性,ボランティア活動,都市高齢者

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