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論文 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第66巻第2号 2019年2月

学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)
を活用した感染症対策の提案

田邊 好美(タナベ ヨシミ) 栗田 順子(クリタ ジュンコ) 長洲 奈月(ナガス ナツキ)
土井 幹雄(ドイ ミキオ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 大日 康史(オオクサ ヤスシ)

目的 茨城県では「学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)」の導入により,2014年には0歳から18歳までの集団生活をする園児,児童・生徒らの感染症の発生状況がリアルタイムで把握できることとなった。本研究では,一保健所での取り組みとその結果を紹介する。

方法 水戸保健所では同システムを利用して,システムから自動的に検出される増加基準を超えた場合に,システム上で動向を把握した上で当該学校あるいは保育園等に電話し,状況や対応の確認を行った。調査対象期間は,2015年4月1日から同年12月31日までとした。アウトカムとしては,集団発生の有無とした。集団発生したとする判断する基準は社会福祉施設における報告基準を準用して1施設当たり10名以上とした。

結果 おおむね1クラス内3名程度の同一症状の欠席が発生した時点で電話連絡した。電話の内容は,状況や対応の確認でおおむね3分程度であった。この9カ月間に52回学校や保育園等に電話した。その内,49回(94.2%)で集団発生基準,つまり1施設で10名以上の欠席は認められなかった。

結論 94.2%で集団発生が発生しなかったため,この取り組みは効果的な感染症対策である可能性が高い。計2時間半を電話での指導に費やしたことになるが,一度施設で集団発生が生じ現地での指導となると,複数名が2時間半以上をかけて対応することになる。したがって,今回の電話での指導は明らかに保健所での業務を軽減した。また当然ながら患者数も激減しているため,公衆衛生の改善にも確実に寄与した。この取り組みにおいても状況や対応の確認のための指導は必要ないと考えられ,学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)が運用されている地域では実施可能であると考えられた。今後は学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)が全国の学校や保育園等で活用され,またその情報を今回の水戸保健所同様に保健所や行政,あるいは医師会が活用し,もって公衆衛生が大幅に向上することが期待される。

キーワード 学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランス),集団発生,予防,感染症,保健所

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

保育所における保育者の防災に取り組む姿勢

-災害危険度への認識レベルが異なる地域間比較を通して-
岡本 和花(オカモト カズカ) 白神 敬介(シラガ ケイスケ)

目的 保育所が所在する地域による違いに着目し,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢との関連について明らかにすることを主な目的とした。

方法 郵送法による自記式アンケート調査を実施し,調査期間は2016年11月中旬から12月末であった。対象者は,新潟県・栃木県・静岡県の3県にある保育所の園長22名並びに保育者293名であった。設問は,「訓練」「教育」「共通認識」「防災に取り組む態度」「災害発生を想定した時の危機感」「知識」などの項目から構成され,園長のみに尋ねた項目もあった。分析は,統計的検定における有意水準5%を基準とし,各県の保育所における避難訓練の実態と知識問題の平均正答数では一元配置分散分析と多重比較Tukey法を用い,その他ではχ2検定と残差分析を用いた。

結果 調査対象者からの回収率は85.1%であり,災害危険度への認識レベルが異なる3県の比較では,次の3点において違いがみられた。「豪雨」と「洪水」を想定した避難訓練の実施状況では,ともに新潟県での実施が有意に多く(p<0.01),静岡県での実施が有意に少なかった(p<0.05)。保育所で行われる防災に関する活動である「職員が防災について話し合う機会」は,新潟県では「いつも参加している」保育者(p<0.01),栃木県では「ときどき参加している」保育者が有意に多く(p<0.05),新潟県では「ときどき参加している」保育者が有意に少なかった(p<0.01)。また,保育者の防災に関する知識の平均正答数では,静岡県における保育者が他県よりも有意に多かった(p<0.05)。

結論 保育所が所在する地域による違いは,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。一方,保育者の防災に関する知識には,保育所が所在する地域による違いの影響がみられた。つまり,保育者の防災に取り組む姿勢は保育所が所在する地域による違いではなく,別の要因が影響を及ぼしている可能性が高い。しかしながら,保育所における避難訓練で想定されている自然災害の種類や実施回数では地域差が確認された。また,ほとんどの保育者が意識の強さや参加頻度に違いはあるものの,日頃から災害対策を意識し,施設における防災に関する活動に参加していることが読み取れた。

キーワード 保育所,保育者,防災意識,災害危険度,地域差

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

中国・内陸都市における高齢者の認知症
に対する認識と対応に関する調査研究

-四川省成都市における訪問介護を受ける高齢者に対する調査をもとに-
王 吉彤(オウ キットウ) 呉 茵(ゴ イン) 児玉 善郎(コダマ ヨシロウ)

目的 本研究では中国・成都市を対象とし,高齢者の認知症に対する認識の現状と対応の在り方を明らかにし,今後どのような認知症対策が必要かを検討することを目的とした。

方法 本研究では,成都市において訪問介護サービスを受けている60歳以上の高齢者を対象に,訪問介護スタッフを通じて無記名の質問紙調査票を直接配布し,その場で回答してもらったうえで回収した。

結果 本研究では500部の調査票を配布した。回収された499部のうち,高齢者本人が回答した331部を分析対象とした(回収率99.8%)。認知症を知っていると回答した人が7割近くであるが,具体的な認知症の症状についての認識はいずれの項目も5割以下にとどまっており,正確に理解していない人が一定の割合を占めていることが把握できた。7割近くの回答者は認知症になっても自宅での生活を希望し,家族による介護を強く願っていた。質問項目を回答者の属性別に解析した結果,認知症を知っている群は知らない群より具体的な認知症症状についてよく認識しており,認知症への心配の度合いも高かった。また,認知症が心配になった時,大型総合病院を相談先として選ぶ傾向が強く,身近な行政機関である社区相談窓口は相談先として認識されていないことが示された。

結論 中国・成都市においては,認知症を正確に認識している高齢者がまだ少ないことがわかった。また,認知症をよく認識している人ほど,認知症への心配の度合いが高いことが把握できた。さらに,認知症が心配になった時に,身近な相談先が十分ではないことがわかった。この結果から,今後,中国において認知症高齢者の数が増えていく中では,高齢者が認知症の症状を正確に認識するように取り組む必要がある。また,社区に身近な認知症の相談先を整備することにより,認知症予防の取り組みや認知症の早期受診などを促進することが求められる。

キーワード 認知症の症状,認知症の相談先,介護の場所,認知症予防

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

兵庫県の認知症カフェにおける
ボランティア活動の現状と課題

相原 洋子(アイハラ ヨウコ) 前田 潔(マエダ キヨシ)

目的 認知症カフェを拠点にボランティアが,認知症の人を居宅訪問する取り組みが提案されるなど,認知症カフェにおけるボランティア活動の促進が提案されている。しかし認知症カフェでのボランティア活動の実態についてほとんど把握されていない。本研究では,ボランティアが活動する認知症カフェの特性と活動の課題を検証することを目的とした。

方法 2017年6月時点で把握された兵庫県の認知症カフェ全数を対象とした。調査期間は2017年6~8月とし,データ収集は構造化質問紙を用いた。ボランティアが活動している認知症カフェの特性を把握するため,ボランティア活動の有無をアウトカムとし,認知症カフェの基本情報,運営上の課題,地域特性を説明変数とし,χ2検定もしくはWilcoxonの順位和検定を用い分析を行った。また認知症カフェでボランティアが活動するうえでの課題について,自由記述を得て質的内容分析を行った。

結果 252の認知症カフェに調査票を郵送し,167の認知症カフェから回答を得た(回収率66.3%)。ボランティアが活動している認知症カフェは85カ所(50.9%)あった。ボランティアが活動している認知症カフェは,ボランティアがいないカフェと比べて1回あたりの認知症の人の参加人数が多く,また開設されている地域の総人口に占める認知症サポーター,キャラバンメイトの割合が高かった。認知症カフェでボランティアが活動するうえでの課題として,〈ボランティアのコーディネート〉〈ボランティアとしての資質〉〈ボランティアの人選・募集〉〈ボランティアの育成支援〉が抽出された。

結論 地域における認知症支援の拠点となり得る認知症カフェが,ボランティア活動の促進などその役割を発展するうえで,社会全体で認知症カフェの周知を高める工夫が重要である。またボランティアのコーディネートや人材育成など,すでに経験を持つ機関や認知症カフェが,そのノウハウを共有できる機会が重要であることが示唆された。

キーワード 認知症カフェ,認知症サポーター,ボランティア,地域

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行う
アセスメントにおける情報把握の構成要素

綾部 貴子(アヤベ タカコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究では,居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行うアセスメントにおける情報把握の構成要素を明らかにした。

方法 調査対象者は,近畿2府4県の500カ所の居宅介護支援事業所の介護支援専門員各1名である。2017年2月に無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。分析は,探索的および確認的因子分析を行った。

結果 有効回収率は186票(37.2%)であった。分析の結果,「家族介護者の状況」「身体的精神的状況」「人的経済的状況」「生活観とライフスタイルの考え方」の4因子19項目が抽出された。モデルの適合度は,χ2(df)=217.800(142),GFI=0.900,AGFI=0.854,CFI=0.947,RMSEA=0.050と統計学的な許容水準を満たしていた。

結論 居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行うアセスメントにおける情報把握では,利用者だけでなく,利用者の家族介護者も視野に入れた情報把握を行っていることが明らかとなった。

キーワード 介護支援専門員,アセスメント,情報把握

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

犯罪被害者支援における多機関連携の実態

-被害者支援を担う部署に対する全国調査をもとに-
伊藤 冨士江(イトウ フジエ) 大岡 由佳(オオオカ ユウカ)

目的 犯罪被害者支援は,2006年犯罪被害者等基本法の施行により,官民挙げての取り組みが推進され大幅に進展してきた。2016年4月より第3次犯罪被害者等基本計画が始まり,地方公共団体等にて,犯罪被害者等に関する専門知識・技能を有する専門職の養成・活用,支援活動における福祉・心理関係の専門機関等との連携の充実などが喫緊の課題とされている。しかしながら,各部署の担当者の勤務状況や対応姿勢,実際に被害者支援においてどのような連携を行っているかについて把握できていない部分も多い。そこで,犯罪被害者等の対応にあたる部署に対して全国調査を実施し,その実態と連携における課題を明らかにした。

方法 犯罪被害者等の対応にあたる,全国の①警察・犯罪被害者支援室の担当職員,②民間被害者支援団体の支援統括責任者,③地方自治体・被害者対応窓口担当者,④医療機関のソーシャルワーカー(無作為抽出),⑤女性センターの相談担当者などを対象に,調査協力の依頼書,調査の実施要領と自記式質問票等を郵送し,紙媒体もしくは電子媒体での回答を依頼した。調査期間は2017年5月1日~6月5日であった。

結果 担当者の属性や対応については,被害者担当経験の長い者は警察と民間被害者支援団体に多い,全担当者の4割近くは支援・援助の資格を有していたが,市区町村では有資格者が少ない,面接や付き添い等の直接対応を行っているのは民間被害者支援団体と医療機関で多いことなどが明らかになった。多機関連携については,全体では仲介型や集中型の支援が多く,中長期支援は民間被害者支援団体と医療機関で多いが,支援の方針会議等を行ったのは全体の約4割であり,とくに司法関連機関と医療・福祉機関の連携上の分断がみられた。

結論 支援全般を充実させるためには,各機関・団体の被害者対応部署における有資格者の配置や研修会等を通した専門性の向上が必須であり,多機関連携においてはケアマネジメントの発想にもとづく体制整備を目指す必要があることが示唆された。

キーワード 犯罪被害者等,被害者支援,多機関連携,生活支援,情報共有

 

 

 

第66巻第2号 2019年2月

婚姻状況と健診受診との関連

-平成22年国民生活基礎調査より-
川田 裕美(カワタ ユミ) 前田 光哉(マエダ ミツヤ) 佐藤 智代(サトウ トモヨ)
丸山 広達(マルヤマ コウタツ) 和田 裕雄(ワダ ヒロオ)
池田 愛(イケダ アイ) 谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 健診を受診していない者は,喫煙習慣,運動習慣,血圧値等の健康状態や健康行動に課題が多いことが示されている。また,健診受診行動は社会経済要因によって異なることが報告されているが,婚姻関係に着目した研究はない。そこで,わが国の大規模かつ代表的な調査である国民生活基礎調査データを用いて,婚姻状況と健診受診との関連について分析した。

方法 平成22年国民生活基礎調査票の質問に回答した40~74歳の男性17,520人,女性18,577人を分析対象とした。婚姻状況は,「配偶者あり」「未婚」「死別・離別」の3群に分け,過去1年間に健診等(健康診断,健康診査および人間ドック)を受けたと回答した者を「健診受診者」と定義した。分析は男女別に年齢,就業状況,最終学歴,医療保険の加入状況,喫煙状況を調整した多変量調整ポワソン回帰分析を用いた。

結果 健診受診者の割合は,男性で75.6%(13,248/17,520),女性で67.5%(12,541/18,577)であった。男女ともに「配偶者あり」群を対照群とし,健診受診の多変量調整Prevalence ratio(PR)(95%信頼区間)を算出した結果,男性では「未婚」「死別・離別」群で有意に低く,それぞれ,0.90(0.88-0.93),0.95(0.93-0.99)であったが,女性においては有意な関連は認めなかった。さらに,国民健康保険,被用者保険の医療保険別2群に分けた結果,男性では国民健康保険加入者群,被用者保険加入者群ともに,「未婚」群でPRが有意に低い値を示したが,女性では,国民健康保険加入者群において,「未婚」「死別・離別」群のPRが有意に低い値を示し(未婚0.84:0.77-0.92,死別・離別0.94:0.90-0.98),一方,被用者保険加入者群では「未婚」「死別・離別」群のPRが有意に高い値(未婚1.10:1.06-1.14,死別・離別1.05:1.01-1.09)を示した。

結論 男性では「配偶者あり」群に比べて,「未婚」「死別・離別」群では健診受診率が有意に低く,女性では,国民健康保険加入者群において「未婚」「死別・離別」群では,健診受診率が有意に低かった。受診率の格差をなくすためには,男性の未婚者,死別・離別者,女性の自営業者や非正規雇用者における未婚者,死別・離別者や専業主婦に向けた健診受診の普及啓発が望まれる。

キーワード 健診,婚姻状況,国民生活基礎調査

 

 

 

第66巻第1号 2019年1月

介護サービス利用によるその後の
ADL維持期間への影響

宮原 優太(ミヤハラ ユウタ) 新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ)
寺西 敬子(テラニシ ケイコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 

目的 介護保険の認定審査資料を分析し,在宅生活開始時の介護サービス利用状況と,その後の障害高齢者の日常生活自立度維持期間との関連を明らかにすることを目的とした。また,観察開始年度が平成17年度までと18年度以降とでその関連に相違があるのかを検討する。

方法 平成11年10月から平成29年3月までの期間にT県N郡にて介護認定を受け,更新回数4回以内に自宅での介護認定調査が行われた第一号被保険者から,年齢95歳以上,要介護度3以上,ADLランクB,C,認知度Ⅲ以上の者を除く5,231名分の介護認定審査資料を対象とした。ADL維持期間は在宅生活を開始した時点からADLランクB,Cの記載がある申請情報までとし,最長60カ月で観察を打ち切った。介護サービス利用状況は在宅生活開始の申請情報から把握し,1度でも利用のある者は利用有,1度も利用のない者は利用無とした。性別,年齢階級別,要介護度別,ADL別,認知度別にADL維持期間の25パーセンタイル値をKaplan-Meier法を用いて算出した。次に各介護サービスにおいて観察開始時のADL別に性別,年齢階級,認知度を共変量としたCox比例ハザードモデルを用いて,サービス利用有を基準としたADL悪化のハザード比と95%信頼区間を求めた。通所サービスにおいては,ADLランクがJ2,A1,A2の者を対象にサービス利用有かつ後期(平成18年度以降に観察開始),サービス利用無かつ後期を基準としたADL悪化のハザード比と95%信頼区間を求めた。

結果 各特性のADL維持期間の25パーセンタイル値を求めた結果,すべての特性においてADL維持期間に差を認め,各特性のランクが自立に近いほどADL維持期間は長い結果となった。各特性を調整した結果,通所サービスでは観察開始時ADLがJ2,A1,A2において,サービス利用無群は利用有群に比べてADL悪化のリスクが有意に高く,そのハザード比はそれぞれ1.21,1.49,1.24であった。在宅生活開始年度の前期(平成17年度以前に観察開始)と後期で比較した結果,有意な差は認められなかった。

結論 ADLランクがJ2,A1,A2の者において在宅生活開始時の通所サービス利用がその後のADL維持に有効であることが認められた。在宅生活開始年度の違いを検討した結果,明らかな差は認められなかった。

キーワード 介護サービス,ADL維持,要介護高齢者

 

 

 

第66巻第1号 2019年1月

朝食欠食と血圧の関係

-朝食摂取頻度と血圧を報告した20研究のメタ分析-
橋本 泰央(ハシモト ヤスヒロ) 岩﨑 陽佳(イワサキ ハルカ)
上田 由喜子(ウエダ ユキコ) 小塩 真司(オシオ アツシ)

目的 朝食摂取の有無によりどの程度の血圧の差がみられるのかメタ分析によって明らかにすることを目的とした。

方法 医中誌,CiNii‚ Medlineから検索式「(朝食or朝食欠食or朝食摂取)AND(血圧or SBP or DBP)」もしくは「((skip breakfast)or(omit breakfast)or(breakfast consumption))AND((blood pressure)or SBP or DBP))」を用いて233本の論文を収集した。そこから⑴大学紀要等を除く査読付き原著論文で,⑵健常者を対象とし,⑶朝食の有無と血圧の関係を調査した,⑷朝食摂取群と朝食欠食群の血圧の平均値の記載がある,⑸参加者間に対応のない論文14本(20研究,朝食摂取群合計27,322人,欠食群合計6,325人)を分析対象とした。効果量には標準化された平均値差dを用い,変量モデルで算出した。効果量の異質性の指標にはQ統計量およびI2を用い,性別,年齢ごとに感度分析を行った。出版バイアスの有無はEgger法とBegg法で検定し,さらにfailsafe Nおよびtrim and fill法を用いて分析結果の頑健性を検討した。

結果 11本(16研究)が朝食摂取群と欠食群を習慣的な朝食摂取の有無で,3本(4研究)が調査当日の朝食摂取の有無で分けていた。収縮期血圧は全体の分析でも,性別,年齢ごとの分析でも欠食群の方が朝食摂取群よりも有意に高かった(全体:d=-0.10,95%CI[-0.15,-0.05];女性:d=-0.07,95%CI[-0.14,-0.01];男性:d=-0.12,95%CI[-0.24,-0.01];18歳以上:d=-0.07,95%CI[-0.13,-0.02];18歳未満:d=-0.14,95%CI[-0.22,-0.06])。効果量間には中程度から高い異質性がみられた。出版バイアスの影響はあっても小さいと推定された。拡張期血圧は全体の分析と女性,18歳未満では欠食群の方が朝食摂取群よりも有意に高かった(全体:d=-0.08,95%CI[-0.12,-0.04];女性:d=-0.08,95%CI[-0.14,-0.03];18歳未満:d=-0.12,95%CI[-0.19,-0.06])が,男性と18歳以上の分析では有意な差はみられなかった。効果量間の異質性は男性では高く,18歳未満では中程度であったが,他は低かった。出版バイアスの影響はあっても小さいと推定された。

結論 朝食欠食群の方が朝食摂取群よりも血圧が高いことが示され,高血圧予防策としての習慣的な朝食摂取の有効性が示唆された。

キーワード 朝食欠食,血圧,メタ分析,効果量,異質性,フォレストプロット

 

 

 

第66巻第1号 2019年1月

障害者就業・生活支援センターにおける精神障がい者の
アセスメント実践活動を促進させる個人要因に関する研究

青山 貴彦(アオヤマ タカヒコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究は,障害者就業・生活支援センター(以下,就業・生活支援センター)における精神障がい者のアセスメント実践の質的向上を図るため,アセスメント実践活動を促進させる個人要因について明らかにすることを目的としたものである。支援担当者個人の意識や態度に着目した量的調査を行い,実証的な検討を行った。

方法 全国に所在するすべての就業・生活支援センターに実施した郵送調査から,欠損値のない362の回答を対象に検討を行った。個人要因に関する探索的因子分析を実施し,因子モデルの構成概念妥当性について,共分散構造分析による確認的因子分析により確認した。また,抽出された因子の下位尺度得点を算出し,基本属性との関連について相関分析を行った。そのうえで,個人要因を独立変数,先行研究で確認されたアセスメント実践活動測定尺度を従属変数とする因果モデルを構成し,その適合度について検討した。

結果 個人要因に関して,「省察」「積極的姿勢」「批判的思考態度」という3因子が抽出された。「省察」と「積極的姿勢」に関しては,研修の参加回数との間でごくわずかな正の相関がみられたものの,「批判的思考態度」に関しては,いずれの基本属性とも相関がみられなかった。個人要因を独立変数,アセスメント実践活動を従属変数とする因果モデルは一定の適合を示した。「省察」から「アセスメント実践活動」への標準化係数は0.29,「批判的思考態度」から「アセスメント実践活動」への標準化係数は0.49であり,有意な正の関連がみられた。「積極的姿勢」と「アセスメント実践活動」には,有意な関連はみられなかった。

結論 就業・生活支援センターにおける精神障がい者のアセスメント実践活動を促進させる個人要因として,積極的姿勢を中核に,省察および批判的思考態度を意識的に実践することの重要性を示した。そして,就業・生活支援センターの支援担当者を対象とした研修において,「批判的思考態度に関する内容を教授し,演習などを通じて批判的思考態度が意識できるようにトレーニングすること」を提言した。

キーワード 障害者就業・生活支援センター,精神障がい者,アセスメント,省察,批判的思考態度

 

 

 

第66巻第1号 2019年1月

世代効果を用いた地域格差指標の検討

-脳血管疾患・肺炎・自殺死亡-
三輪 のり子(ミワ ノリコ) 中村 隆(ナカムラ タカシ)

目的 世代(同時出生集団)の観点から地域格差を捉える新しい指標を提案し,健康施策の評価と今後の戦略の検討に資することを目的とした。健康日本21(第二次)では「健康格差の縮小の実現」が掲げられ,国民の健康に影響を及ぼす社会環境の改善に向けた取り組みが重視されている。その評価に際し,主要死因の死亡率の地域差は地域格差を表すものとみることができるが,これには人口の年齢・世代構成の違いによる影響も含まれている。世代によって取り組みによる影響の受け方は異なることが考えられ,世代の観点から地域格差を捉えることは高リスク戦略の1つにつながる。

方法 脳血管疾患,肺炎,自殺の死亡数(人口動態統計)と国勢調査人口に基づく47都道府県の性別死亡率(15~90歳)を,ベイズ型ポワソンAge-Period-Cohortモデルにより,総平均効果,年齢効果,時代効果,世代効果に分離した。これらのうち,世代効果に総平均効果を足して死亡率に戻した「世代死亡率」を用いて,全体(男女別47都道府県)と性別(47都道府県)でみたジニ係数を世代別(1861~1995年生まれ,5年区切り世代)に算出した。また,世代死亡率の高さで3分類した都道府県マップを作成した。

結果 脳血管疾患では,ジニ係数(全体)は1888年前後生まれから1923年前後生まれにかけて低くなったが,1928年前後生まれ以降,再び高くなっていた[0.16-0.20]。1886~1900年生まれ女性の地域格差が目立ち,福井の死亡率が高かった。1981~1995年生まれは,男女に共通して栃木・他2県の死亡率が高かった。肺炎では,ジニ係数(全体)は新しい世代ほど高くなる傾向がみられた[0.15-0.26]。1888年前後生まれと1971~1995年生まれ女性の地域格差が大きく,前者は青森・岩手・他5県,後者は青森・秋田・他5県で死亡率が高かった。自殺では,ジニ係数(全体)は1913年前後生まれを底にして,それ以降の世代で高くなり[0.14-0.31],地域格差に加えて,性別格差の拡大を認めた。1886~1895年生まれと1981~1995年生まれ女性の地域格差が大きく,前者は岩手・他7県,後者は秋田・他8都府県の死亡率が高かった。

結論 世代死亡率に基づくジニ係数では,各世代の地域格差の程度と世代間の差異,性別格差を捉えることができる。都道府県マップでは,都道府県レベルで各世代がもつリスクの程度を俯瞰できる。これら指標は,日本全体あるいは地域における取り組みの成果を地域格差の観点で評価し,高リスク戦略でターゲットとすべき世代や地域の把握,世代がもつリスク因子や背景因子の検討に活用できる可能性が示唆された。

キーワード 地域格差,死亡率,世代効果,ジニ係数,健康施策,高リスク戦略

 

 

 

第65巻第15号 2018年12月

まき網漁船乗組員の長期船内生活が
下肢パワーと身体活動量に及ぼす影響

阿野 忍(アノ シノブ) 久佐賀 眞理(クサガ マリ)
飛奈 卓郎(トビナ タクロウ) 平野 かよ子(ヒラノ カヨコ)

目的 健康日本21(第二次)では身体活動・運動対策の指標として,「日常生活における歩数の増加」「運動習慣者の割合の増加」が掲げられている。まき網漁船乗組員は東シナ海を主な漁場とするまき網漁船に乗船しており,1カ月のうち約22日間を船内で生活する。出港から帰港まで長期航海を行う乗組員は,陸上生活者とは労働環境,生活条件,ライフスタイルに大きな違いがある。そこで本研究は大中型まき網漁船従業員の下肢パワーと漁船乗組員の船内での身体活動量を測定し,長期の船内生活が身体に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

方法 本研究の調査対象をN県内のS水産(株)従業員とした。下肢パワーについては,まき網漁船に乗船している乗組員27人と陸上勤務者である網師6人計33人の下肢パワーを測定し,生活環境による属性で3群に分け,一元配置分散分析と多重比較をTurkyHSDを用いて分析した。身体活動量については,乗組員11人と網師6人に活動量計を7日間装着してもらい,1週間あたりのメッツ・時と1日平均の歩数についてt検定を用いて分析した。

結果 下肢パワーについては労働環境や生活環境による違いが認められた。また,身体活動量については乗組員のメッツ・時/週と歩数が網師のそれに対して有意に低いことが認められた。

結論 身体活動量の低下が及ぼす健康障害予防のため,運動がしやすい船内環境整備が必要であることが示唆された。

キーワード まき網漁船乗組員,網師,長期航海,下肢パワー,身体活動量

 

 

 

第65巻第15号 2018年12月

介護職員の介護実践に関する研究

-介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士の勤務年数による比較-
武田 啓子(タケダ ケイコ) 久世 淳子(クゼ ジュンコ) 藤原 秀子(フジワラ ヒデコ)
水谷 なおみ(ミズタニ ナオミ) 丹羽 啓子(ニワ ケイコ)
間瀬 敬子(マセ ケイコ) 高木 直美(タカギ ナオミ)

目的 本研究は介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士資格を所持する介護職員を対象に勤務年数による介護実践能力を明らかにすることを目的とする。

方法 A県内の実習施設として登録されている特別養護老人ホーム,介護老人保健施設および障害者支援施設の計35施設に勤務する介護職員を対象に自記式質問紙調査を行った。対象者554名のうち介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士130名を分析対象とした。調査項目は性別,年齢,所持資格,勤務先の種別,勤務年数,雇用形態,職位の有無,および介護実践23項目を設定した。勤務年数について,5年未満,5年以上10年未満,10年以上を3群とし,3群間の差を確認するために,連続変数では一元配置分散分析および多重比較(Bonferroni法)による分析を,離散変数にはχ2検定を用いて検討した。

結果 5年未満群は43名(33.1%),5年以上10年未満群は36名(27.7%),10年以上群は51名(39.2%)であった。介護実践23項目のうち,3群間で有意差が認められたのは「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」など11項目(47.8%)であった。多重比較の結果では,「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」について,3群間すべてに有意差が認められた。その他10項目について,5年未満群と5年以上10年未満群間では有意差はみられなかった。

結論 介護福祉士養成課程を卒業した介護職員の勤務年数5年未満群と5年以上10年未満群では有意差が認められたのは,1項目のみであった。介護福祉士養成課程を卒業することにより,勤務年数5年未満の介護職員も,介護実践力の基盤が育まれている状況を示した。勤務年数を経るごとに「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」は向上し,勤務年数10年以上の介護職員は高い介護実践能力を示した。

キーワード 介護職員,介護実践,介護福祉士養成課程,介護福祉士,勤務年数

 

 

 

第65巻第15号 2018年12月

地域高齢者の食品摂取の多様性を形成する
食品摂取パタンと介護予防活動への応用

熊谷 修(クマガイ シュウ)

目的 高齢者の介護予防のための栄養改善活動の主要テーマとして食品摂取の多様性の増進がある。しかし,食品摂取の多様性を形成している食品摂取パタンが明らかにされておらず改善手段の開発が十分ではない。本研究の目的は食品摂取の多様性得点を形成する食品摂取パタンを明らかにし,その特性に着目した栄養改善手段を立案することにある。

方法 分析対象は秋田県大仙市に在住する地域高齢者,男性7,199名,女性9,372名,計16,571名である。食品摂取の多様性得点を形成する食品摂取パタンの探索は,食品摂取の多様性評価票による10食品群摂取頻度調査結果にもとづく因子分析によった。

結果 分析対象の平均年齢(標準偏差)は男性74.2(6.7)歳,女性74.8(6.8)歳,全体では74.5(6.7)歳であった。食品摂取の多様性得点の性,年齢調整後の平均値は4.37点であった。探索的な因子分析は因子数が4のときに最適解が得られ,第1因子は,芋類(0.777),海藻類(0.706),果物類(0.663),第2因子は肉類(0.747),油脂類(0.729),卵(0.628),第3因子は緑黄色野菜類(0.726),魚介類(0.683),大豆・大豆製品(0.682),第4因子は牛乳(0.947)が正の高い因子負荷量を示し累積寄与率は60.7%であった。したがって,第1因子は植物食品摂取パタン,第2因子は欧米食パタン,第3因子は日本食パタン,第4因子は牛乳摂取パタンと解釈され,食品摂取の多様性は4つの食品摂取パタンで形成されていることが示された。そこで食品摂取の多様性得点を各食品摂取パタンで高い因子負荷量を示した食品群でグループ化し4つの下位得点を作成した。第1因子にもとづく下位得点を植物食品得点,第2因子は欧米食得点,第3因子は日本食得点,第4因子は牛乳得点とした。重回帰分析の結果,各因子の因子得点と下位得点の間には強い正の関係が認められ,作成した各下位得点は表出した因子の特性を反映した変数であることが確認できた。本研究集団の植物食品得点,欧米食得点,日本食得点,牛乳得点の性,年齢調整後の平均値はそれぞれ0.83点,0.98点,2.07点,0.47点であり,食品摂取の多様性得点の47.3%が日本食得点に依拠していた。

結論 地域高齢者の食品摂取の多様性の形成が日本食パタンに大きく依存していることが明らかになった。介護予防のための栄養改善活動では欧米食パタンと植物食品摂取パタンを促す食事様式に着目した活動が必要になると考えられる。

キーワード 地域高齢者,食品摂取の多様性得点,食品摂取パタン,栄養改善活動,介護予防

 

 

 

第65巻第15号 2018年12月

男性の育児参加が次子の出生に与える影響

-三世代同居との交互作用の検討-
加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 福田 節也(フクダ セツヤ)

目的 長年に渡る少子化の結果,わが国はすでに人口減少のフェーズに入っている。政府は,希望出生率1.8を目標に出生率回復に向けて様々な案を掲げているが,それらの案の有効性については明らかになっていない。本研究では,大規模縦断調査を用いて男性の育児参加および三世代同居と出生行動との関連を検証した。

方法 本研究では,厚生労働省が実施している21世紀出生児縦断調査の2001年コホートを用いた。2001年に第一子が生まれた17,329世帯と同年に第二子が生まれた13,154世帯に分けて分析を行った。主な説明変数として,生まれた子どもが6カ月時点での男性の育児参加度(高・中・低の三群)と初回調査から第三回目調査までの三世代同居の有無(同居なし・父方の祖父母との同居・母方の祖父母との同居の三群)を用いた。被説明変数として,第一子もしくは第二子出生から6年の間に次子の出生があったかどうかを用いた。分析には,多変量ロジスティック回帰分析を用い,母親の年齢や学歴などを調整した。

結果 2001年に第一子が生まれた世帯の68%において,その後6年の間に第二子が生まれており,第二子が生まれた世帯のうち22%において第三子が生まれていた。第一子の世帯においては,男性の育児参加度を低群と比較した場合,中群と高群では次子出生のオッズ比が有意に高かった[中群の調整オッズ比=1.4]。第二子の世帯でも同様の傾向がみられた。三世代同居に関しては,次子の出生のオッズに対して第一子の世帯では正の影響がみられなかったが,第二子の世帯では,父方の祖父母との同居に正の影響がみられた[調整オッズ比=1.3]。また,第二子の世帯において,男性の育児参加度が低くかつ三世代同居していない群と比較した場合,男性の育児参加度が中群でかつ父方の祖父母と同居している群が第三子出生の確率が最も高かった[オッズ比=1.6]。

結論 男性の積極的な育児参加と次子出生に関しては第一子および第二子の世帯で正の影響がみられたが,三世代同居は,世帯の子どもの数などの状況によって影響が異なる可能性が示された。今後,有効な少子化対策の根拠となりうる知見を提供するためにさらに分析を進めていく必要がある。

キーワード 男性の育児参加,三世代同居,少子化,育児支援,21世紀出生児縦断調査

 

 

 

第65巻第15号 2018年12月

地域高齢者における新たな生活機能指標の開発:
JST版活動能力指標の測定不変性ならびに標準値

岩佐 一(イワサ ハジメ) 吉田 祐子(ヨシダ ユウコ) 稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ)
増井 幸恵(マスイ ユキエ) 島田 裕之(シマダ ヒロユキ) 菊地 和則(キクチ カズノリ)
大塚 理加(オオツカ リカ) 野中 久美子(ノナカ クミコ)
吉田 裕人(ヨシダ ヒロト) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ)

目的 近年の高齢者は以前よりも健康状態が向上しているという知見や,高齢者を取り巻く生活環境の変化をかんがみるに,より高いレベルの生活機能指標の開発が必要である。本研究では,「JST版活動能力指標」の計量心理学的特性の検討の一環として,①因子構造の交差妥当性の検証,②測定不変性の検証,③標準値の報告,④性差・年齢差の検討を行った。

方法 本研究では,2つの集団のデータを解析に使用した。層化二段無作為抽出法により選出した全国に居住する高齢者2,000人(65~84歳男女)に対する留置き調査を2回実施した(それぞれ,1,333人,1,274人が参加)。上記2,607人のうち,データに欠損値を含まない者2,573人(男性1,196人,女性1,377人)を分析対象者とした。JST版活動能力指標は,4つの下位尺度各4項目(二件法),計16項目から構成される。対象者基本属性を記述するため,独居,教育歴,経済状態自己評価,健康度自己評価,移動能力,老研式活動能力指標を用いた。①2つの集団間で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。②性別(男性vs.女性),年齢(前期高齢者vs.後期高齢者),老研式活動能力指標(低群[10点以下]vs.高群[11点以上]),都市規模(21大都市居住者vs.その他地域居住者)で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。③5歳刻み年齢で対象者を分割し(65~69歳,70~74歳,75~79歳,80~84歳),性別(2水準)と組み合わせ8群ごとに標準値(平均値,95%信頼区間,標準偏差)を報告した。④性別(2水準)×年齢(4水準)の2要因分散分析を実施し,性差・年齢差を検討した。

結果 ①2つのサンプル間で測定不変性が確認され,先行研究と同じ4因子解が再現された。②いずれの基準変数においても測定不変性が確認された。③性別・年齢ごとに標準値を算出した。④性差・年齢差が認められ,男性のほうが得点が高いこと(偏η2=0.01),年齢が高いほど得点が低いこと(偏η2=0.11)が認められた。

結論 JST版活動能力指標は,因子構造の交差妥当性が認められ,安定した4因子構造であることが示された。性別,年齢,老研式活動能力指標,都市規模を基準とした場合に測定不変性を有し,これら変数において構成概念は同質であることが示唆された。男性のほうが女性よりも得点が高かったが,効果量は小さいためJST版活動能力指標の性差は大きくないことが考えられた。顕著な年齢差が認められ,JST版活動能力指標は年齢を経るほどに生じる生活機能の低下を反映することが示唆された。

キーワード 地域高齢者,生活機能,JST版活動能力指標,測定不変性,標準値,交差妥当性

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

X線CT検査に従事する診療放射線技師の
需給状況および将来の需要予測

岡野 員人(オカノ カズト)

目的 X線CT(CT)検査に従事する診療放射線技師の需要状況について医療施設(静態・動態)調査・病院報告を基に調査し,将来の需要予測について検討した。

方法 2008年,2011年,2014年の医療施設(静態・動態)調査より医療施設数,外来患者延数,新入院患者数,CT装置の設置台数(CT装置数),CT検査を実施した患者数(CT検査数),診療放射線技師数をまとめ,総患者延数(外来患者延数と新入院患者数の合計)に対するCT検査数の割合(CT検査実施割合),CT装置1台に対する検査数(CT装置稼働実績数),CT装置1台に対して診療放射線技師が1名必要であると仮定したときの全診療放射線技師に対するCT検査に従事する診療放射線技師の割合(CT従事技師割合)を算出した。CT検査に従事する診療放射線技師の将来需要は,CT検査数の予測値とCT装置稼働実績数より算出した必要なCT装置数と将来のCT従事技師割合より算出した。

結果 全国の病院数や外来患者延数が減少している一方で,全国に設置されているCT装置数やCT検査数は増加しており,診療放射線技師数も増加傾向にあった。CT検査に従事する診療放射線技師の需要予測は,現在のCT検査実施割合の増加が続いた場合は2040年に21,091人に達し,CT従事技師割合は27.1%から29.7%と現状より高くなる予測となった。一方,CT検査実施割合を一定とした場合では,CT検査数の大幅な増加はみられず,CT従事技師割合は年々減少し,2040年では19.6%と大きく減少する予測となった。

結論 現在のCT検査数の増加が継続されれば,診療放射線技師不足が続く恐れがある。しかし,CT装置の有効活用などの対策を施すことで診療放射線技師不足の解消に期待ができる。また,将来の診療放射線技師の需要は,医療需要の変化よりもCT装置の発展や診療放射線技師を取り巻く環境により変化する可能性がある。

キーワード X線CT,診療放射線技師,医療施設調査,需要予測,医療需要

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

東日本大震災後の在宅介護における介護困難の特徴と
その変化についての一考察

岩渕 由美(イワブチ ユミ) 佐藤 嘉夫(サトウ ヨシオ) 狩野 徹(カノウ トオル)
田中 尚(タナカ ヒサシ) 湊 直司(ミナト ナオシ)
大冨 和弘(オオトミ カズヒロ) 二瓶 さやか(ニヘイ サヤカ)

目的 東日本大震災から6年半が経過した被災地の介護者の生活と介護の実態と課題を明らかにし,著者らが過去2回行った被災地の介護者調査と比較しつつ,震災後の介護困難の変化とその要因を明らかにする。

方法 調査対象地域は,東日本大震災被災地の岩手県沿岸4市町で,調査対象は,地震,津波,火災等の被災者と,被災しなかった人が,ほぼ6対4の割合になるよう10カ所の居宅介護支援事業所に任意に抽出してもらった。調査方法は,留置き,自記式,無記名アンケートで,450名に配布し,郵送により回収した。調査期間は平成28年11月~平成29年2月である。

結果 調査票の回収率は78.4%(回収数353),有効回答率は77.8%(有効回答数350)で,性別は男女比21対79,年齢は50歳未満(11%),50歳代(29%),60歳代(36%),70歳以上(23%)である。震災により約8割が物的・心的に大きなダメージを受け,また,約半数が現在も暮らし向きが厳しい状況にある。被介護者は中・重度化し,介護時間も長くなっていることで介護負担は軽減せず,体の不調が増している。介護からの解放希求も高く,利用しているサービスは通所(施設利用)型サービスに偏重している。今後の介護の継続意向は高いが,暮らし向きや介護負担の厳しい状況と介護の継続意向の高さにはギャップが感じられる。

結論 被災地全体の暮らし向きの厳しさと,震災の影響による居住地の移動を含む生活環境の変化が,買い物や通院等のアクセスの不便さを招いただけでなく,近隣,友人,親戚等との疎遠による社会関係の断裂も加わり,家族介護は,長時間介護が必要な,高齢化,中・重度化した被介護者を,同居の介護者が,拘束感と介護負担の過重化の中で行っており,介護から派生する複雑で多様な生活課題を自力で解決していくのは非常に困難な状況にあることが明らかになった。また,そういった状況が,多様な介護サービスの効果的な組み合わせで介護負担を軽減させる考え方に目を向ける余裕を失わせ,通所(施設利用)型サービスの利用や入所型サービス希望への偏重を招いていると考えられる。被災地の家族介護者支援には,単なる介護サービス利用のマネジメントにとどまらず,複雑な介護ニーズを抱えた被介護者とその家族の生活状況や思いをくみ取り,必要な支援へとつなげるソーシャルワーク的支援機能の強化とシステムづくりが求められている。

キーワード 東日本大震災,家族介護者,介護保険サービス,ソーシャルワーク

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

ドイツで老後を迎える日本人高齢者の健康意識の検証

三原 博光(ミハラ ヒロミツ) 金井 秀作(カナイ シュウサク)
國定 美香(クニサダ ミカ) 岡村 和典(オカムラ カズノリ)

目的 ヨーロッパ諸国のなかで,英国に次いで在留邦人の多いドイツで老後を考えている日本人高齢者の健康意識について検証することが目的である。検証の内容は社会生活,生活機能全般,運動器機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知機能,うつに関してであった。

方法 2015年5月から2016年1月の期間,質問紙調査を実施した。質問紙の内容は,日本のことをよく思い出すか,ドイツの老人ホームの入所希望などの社会生活の質問項目と厚生労働省による介護予防事業の基本チェックリストであった。調査はミュンヘン,ハンブルグ市などの在留邦人に対して実施された。

結果 調査対象者の106名から回答を得た。調査対象者の多くは日本のことをよく思い出しながらも,日本での老後は考えておらず,ドイツの老人ホームへの入所も望んでいなかった。また,介護予防が必要な特定高齢者に該当する人はいなかった。特に,栄養については良好な結果となった。

結論 調査対象者の多くは,異文化での老後生活であるが故に,健康に配慮し,介護予防の生活を送っている。しかし,今後,老化が進み,在宅での生活支援が困難になったとき,日本的文化に配慮した支援サービスが課題となろう。

キーワード ドイツ在留邦人,老後,健康意識,調査,日本文化

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

在宅強化型の介護老人保健施設における自宅復帰の実態

中村 豪志(ナカムラ ゴウシ)

目的 在宅強化型の介護老人保健施設(以下,老健)は,在宅復帰率が50%超でなければならないが,純粋な自宅だけでなく,在宅系施設への退所も在宅復帰に含まれる。在宅強化型老健の自宅退所数がどの程度であるかは明らかにされていない。在宅強化型老健において,純粋な自宅と在宅系施設への退所者数の実態を把握することと自宅復帰を阻害している要因を考察することを目的とした。

方法 公益社団法人全国老人保健施設協会ホームページにて,平成29年4月15日現在で在宅強化型老健である352施設を対象とした。平成28年度の1年間の在宅復帰,加算取得状況,自宅復帰できなかった利用者の要因に関して,郵送による質問紙調査を行った。

結果 有効回答は121通だった(有効回答率34.4%)。総退所者のうち自宅へ退所した利用者数の割合は46.9%だった。また,自宅への退所のみで50%超の要件を満たしている施設は38.8%だった。加算取得状況では,通所リハビリテーションにおける認知症短期集中リハビリテーション等の実施が少なかった。自宅退所できなかった利用者の要因として,家族介護者の介護意欲が十分でないという項目が最も高い指標を示し,利用者の介護意欲がないという項目と比較して有意に高かった。また,利用者の認知機能の低下が2番目に高い指標を示した。

結論 在宅強化型老健は増えているが,自宅退所のみで在宅復帰率50%超の要件を満たしている施設は多くないことがわかった。自宅への退所を促進するために,通所リハビリテーションにおける認知症リハビリテーションの実施,家族介護者への支援が重要だと考えられた。

キーワード 介護老人保健施設,在宅強化型,自宅退所

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

特定健診受診者を対象とした服薬治療群
と非服薬治療群の3年間の体重変化

-2008~2011年度と2012~2015年度の比較-
上村 精一郎(カミムラ セイイチロウ) 宮脇 龍一郎(ミヤワキ リュウイチロウ) 柴田 優子(シバタ ユウコ)
榎本 亜里沙(エノモト アリサ) 水野 真希(ミズノ マキ) 鳥飼 恵子(トリカイ ケイコ)
今任 拓也(イマトウ タクヤ) 畝 博(ウネ ヒロシ) 

目的 特定健診受診者を対象として2008年度と2011年度,並びに2012年度と2015年度の3年間の体重変化を服薬治療群と服薬治療を受けていない群(非服薬治療群)に分けて比較分析した。

方法 対象は2008年と2011年の両年度(前期),並びに2012年と2015年の両年度(後期)の特定健診をともに受診した40~59歳の男性それぞれ2,313人と3,715人である。対象者をメタボリック症候群の診断基準に従ってメタボリック症候群(メタボ群),メタボリック症候群の予備群(予備群),非該当群に分類するとともに,服薬治療群と非服薬治療群に分けて3年間の体重変化について比較した。

結果 前期についてみると,メタボ群では非服薬治療群の体重変化は-0.493㎏と有意な減少であったが,服薬治療群は+0.094㎏と横ばいであった。後期では非服薬治療群の体重変化は-1.095㎏,服薬治療群のそれは-0.679㎏でともに有意な体重減少が認められた。前期後期ともに,非服薬治療群の体重の減少幅は服薬治療群より大きかった。体重変化の前期と後期の比較ではメタボ群の非服薬治療群と服薬治療群ともに,後期の方が体重の減少幅が有意に大きかった。

結論 特定保健指導の対象者であると考えられるメタボ群の非服薬治療群では前期と後期ともに有意に体重が減少しており,その減少幅も服薬治療群より大きかったことは特定健診・特定保健指導の効果を示唆するものであった。メタボ群の非服薬治療群と服薬治療群ではともに,後期の方が前期より体重減少の幅が有意に大きかった。このことは時間の経過とともにメタボリック症候群に注目した特定健診・特定保健指導の概念が広く浸透して行っていることを示しているのではないかと考えられた。

キーワード 特定健診・特定保健指導,3年間の体重変化,生活習慣の改善,メタボリック症候群

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

後期高齢者における歯数と医療費との関連

-三重県後期高齢者医療広域連合歯科健診の結果とレセプトデータから-
齋藤 瑞季(サイトウ ミズキ) 嶋﨑 義浩(シマザキ ヨシヒロ)
野々山 順也(ノノヤマ トシヤ) 田所 泰(タドコロ ヤスシ)

目的 高齢者における医療費の増加は重大な社会問題であり,医療費の抑制および適性化が課題となっている。これまで,口腔の健康と全身の健康との関連については数多く報告されているが,歯数と医療費との関連についての報告は少なく,情報が限られている。本研究は,後期高齢者に対する歯科健診結果およびレセプト情報をもとに,歯数と医療費との関連について検討した。

方法 平成26年度に三重県後期高齢者医療広域連合が実施した歯科健診の結果およびレセプト情報を用いた。歯科健診の対象者は75歳および80歳の被保険者で,歯科健診を受診した4,984人のうち分析に用いるデータに欠損がなく,レセプト情報との突合が出来た4,799人(男性2,184人,女性2,615人)を分析対象とした。第3大臼歯を除く健全歯,未処置歯,処置歯の合計を現在歯数とした。医療費については,レセプト情報をもとに,対象者ごとの1年間の医科診療医療費,歯科診療医療費およびそれらを合わせた医科・歯科診療医療費を算出した。現在歯数を28歯,20-27歯,10-19歯,0-9歯の4群に分け,各医療費を25パーセンタイル値と75パーセンタイル値により3群(低位,中位,高位)に分け,相互の関連について分析を行った。各医療費を3群に分けたものを従属変数,現在歯数およびその他の変数を独立変数とした多変量多項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 現在歯数20-27歯および10-19歯群は,28歯群と比較して,年齢,性別,喫煙およびBMIで調整したうえで,医科診療医療費および医科・歯科診療医療費が低位に対する高位である調整済みオッズ比が有意に高かった。現在歯数0-9歯群は,28歯群と比較して医科・歯科診療医療費が低位に対する中位および高位のオッズ比が有意に高かった。歯科診療医療費については,28歯群と比較して,10-19歯および20-27歯群の歯科診療医療費が低位に対して中位または高位である調整済みオッズ比が有意に高い一方で,0-9歯群の医療費が低位に対する中位である調整済みオッズ比は有意に低かった。

結論 歯を喪失している後期高齢者は,歯科医療費だけではなく医科の医療費も高いことから,高齢期まで多くの歯を維持することは,医療費の抑制に貢献できる可能性が示唆された。

キーワード 後期高齢者,歯数,医療費,レセプト情報

 

 

 

第65巻第13号 2018年11月

東京都内に保険証住所地がある
在宅医療患者への都外医療機関による訪問診療

石崎 達郎(イシザキ タツロウ) 光武 誠吾(ミツタケ セイゴ) 寺本 千恵(テラモト チエ)
清水 沙友里(シミズ サユリ) 井藤 英喜(イトウ ヒデキ)

目的 東京都は人口密度が高く,交通網が発達していることから,隣県の医療機関が都内への訪問診療に参入している可能性が考えられる。東京都における在宅医療のあり方を検討する際には,都内の医療機関だけでなく,都外医療機関から訪問診療を受けている患者数と医療機関数の把握も必要であるが,その実態は明らかにされていない。そこで本研究は,東京都後期高齢者医療広域連合の被保険者である75歳以上の高齢者のうち,2014年8月に訪問診療を受けた患者を対象に,在宅医療提供医療機関の所在地を把握し,都外医療機関から訪問診療を受けた患者数とその特徴を分析することを目的とした。

方法 本研究で使用したデータは,東京都後期高齢者医療広域連合から提供された匿名化済み医科レセプトデータである。2014年8月に訪問診療を受けた75歳以上の在宅医療患者を分析対象とした。まず,二次保健医療圏別に在宅医療患者数を把握し,75歳以上の全被保険者数に占める在宅医療者の割合を,性,年齢階級別に集計した。次に,保険証住所地の二次保健医療圏別に,訪問診療提供医療機関の所在地を把握し,都外医療機関から訪問診療を受けた患者数を把握した。最後に,都外医療機関による訪問診療を受けた患者特性をχ2検定と多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

結果 都内に保険証住所地がある75歳以上の在宅医療患者(2014年8月診療分)は71,312人(全被保険者の5.4%)で,うち11,085人(全在宅医療患者の15.5%)が都外医療機関から訪問診療を受けていた。都外医療機関の所在地は神奈川県,埼玉県,千葉県がほとんどであった。居住系施設等で訪問診療を受けた患者は,その27.1%が都外医療機関による訪問で,居住系施設等への同時訪問は都外医療機関による訪問診療提供と極めて強く関連していた(調整済みオッズ比18.0,P<0.001)。

結論 東京都における在宅医療の提供体制を検討する際,都外医療機関による在宅医療の提供を把握すると同時に,在宅医療患者の実際の居住地を都道府県や市区町村レベルで把握可能な仕組みを構築し,在宅医療の需要と提供医療機関数の過大評価を避ける必要がある。

キーワード 後期高齢者,在宅医療,訪問診療,居住系施設,住所地特例,東京都

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

自治体による市民後見人養成の現状と問題点

-市民後見推進事業を実施した自治体に対する質問紙調査の結果から-
松下 啓子(マツシタ ケイコ) 黒田 研二(クロダ ケンジ)

目的 成年後見制度は判断力の不十分な人々の権利を擁護するための制度として重要な役割を果たしてきている。これまで親族後見人や専門職後見人が後見人を受任してきたが,急激な人口高齢化により認知症高齢者が増え,後見人不足が問題となっている。そこで新たな担い手として注目されているのが市民後見人である。本研究は市民後見人養成の実態を調査することにより,実際に活動している市民後見人の数や活動実態を明らかにし,現状における市民後見人養成が進まない要因を見いだすことを目的とした。

方法 2011年度から行われた市民後見推進事業を1回以上実施した全国190カ所の自治体に質問紙調査を行った。配布と回収は郵送または電子メールで行った。期間は2017年1月から3月までである。103カ所の自治体から質問紙を回収し,回収率は54.2%であった。自由記載はKJ法を参考に分析を行った。

結果 市民後見推進機関を設置している自治体は74.8%であり,市民後見人の募集については自治体広報紙のほか,地元ラジオなど多様な方法で行われていることがわかった。また,家庭裁判所や専門職団体と半数以上の自治体が連絡を取っており,努力の様子がうかがえる。しかし,5年間に新たに活動を始めた市民後見人の数を人口10万人当たりに換算し,平均すると1つの自治体当たり3.2人で極めて少ないことが明らかとなった。自由記載を分析した結果,市民後見人の養成過程を6つにグループ化することができた。その中から①資源の不足,②マッチングの難しさ,③心理的なハードルの高さの3つの阻害要因を抽出した。

結論 現状の市民後見人養成の仕組みでは市民後見人を増やすことは困難である。人口の少ない過疎地では高齢者が多く,応募者が少ない。市民後見人の定義を再検討し,専門職をリタイアした市民等を含む範囲に広げていくことも必要である。せっかく,後見人養成研修を修了しても責任の重さによる心理的なハードルが高く,登録まで至らない人がかなりある。また,それを乗り越えて登録しても,市長申し立てに限るなどの制約があるために実際の受任に結びついていない。それらを改善するにはチームで活動し支援することにより市民個人の負担を軽減する必要がある。現状では法人後見人と連携して法人後見支援員として活動する方法や日常生活自立支援事業の生活支援員として活動する方法が考えられる。

キーワード 市民後見人,市民後見推進事業,法人後見人

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

山梨県における中高生の受動喫煙の実態調査

岩佐 景一郎(イワサ ケイイチロウ) 渡邊 瑞穂(ワタナベ ミズホ)
横道 洋司(ヨコミチ ヒロシ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 山梨県における中高生の受動喫煙の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 平成28年11月から12月に実施した「子どもの喫煙等母子保健関係調査」において,山梨県下10校の公立中学校の全生徒4,172名と県内すべての全日制高等学校40校より各学年1学級の生徒計4,235人を対象に,無記名の自記式直接回収方式による調査を実施した。

結果 中高生の8,120人より回答が得られ(回収率96.6%),そのうち家族に喫煙者がいる割合は全体の50.8%であった。最近1カ月の間に受動喫煙で不快な思いをした人は51.7%で,家庭内喫煙者の有無により受動喫煙で不快な思いをしている人の割合を比較すると,家庭内喫煙者ありの群の中学生56.9%,高校生58.5%であり,家庭内喫煙者なし群の43.9%,46.9%と比べて有意に高かった(いずれもp<0.01)。受動喫煙の場所については,路上(49.7%),飲食店(41.2%),家庭(36.1%)の順に高く,家庭での受動喫煙の割合については,家庭内喫煙者あり群で有意に高いが,路上,飲食店等における受動喫煙は,家庭内喫煙者なし群で有意に高かった(いずれもp<0.01)。また,家庭内喫煙者あり群の72.7%が家族にたばこをやめてほしいと回答し,15.3%がやめてほしいかどうかわからないと回答した。

結論 中高生の半数以上が受動喫煙で不快な思いをしている現状が明らかになった。家庭内喫煙者あり群の方が,家庭内喫煙なし群に比べて路上や飲食店等における受動喫煙で不快な思いをした割合が有意に低かったことは,家庭内喫煙者あり群において受動喫煙で不快な思いをする閾値が高くなっている可能性が考えられる。よって,受動喫煙による不快感の割合は実際の受動喫煙の被害を過小評価している可能性がある。また,家庭内喫煙者あり群の15.3%が家族に喫煙をやめてほしいかどうかわからないとしていることは,やめてほしい気持ちと家族の行動を否定したくないという気持ちが混在している可能性が考えられる。家族に喫煙をやめてほしいと考えている人が7割を超えることと併せて,子どもたちの健康を守るためには,家庭での喫煙対策が喫緊の課題である。

キーワード 受動喫煙,未成年(中学生,高校生),家庭内喫煙者

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

インフルエンザ定点当たりの患者報告数に関する地域間比較

青野 実(アオノ ミノル) 野﨑 直彦(ノザキ ナオヒコ)
大久保 一郎(オオクボ イチロウ) 後藤 寛(ゴトウ ユタカ)

目的 近年,インフルエンザ定点当たりの患者報告数(以下,患者報告数)を用いて,地域を色別した地図上に流行状況を表示している自治体等が散見される。観測値の集計単位である各地域の定点の数および質が,地域間比較に影響を及ぼすとの考えがあり,筆者らは,ある一定の基準を満たすことで,おおむね良好な地域間比較ができると考えた。県単位や主要都市部の比較,横浜市18区における統計学的分析を行い,患者報告数における地域間比較の可能性について考察したので報告する。

方法 感染症発生動向調査から還元される関東地方や主要都市部(横浜市含む)のデータ,横浜市における定点数や定点医療機関からの報告状況,医師数のデータ,関東信越厚生局(平成28年)の医療機関数,平成22年,27年国勢調査,横浜市ポータルサイトのデータを用いて,統計学的な分析を行った。特に,平成27年国勢調査では,昼間人口や夜間人口の違いに着目して地域間の分析を行った。主な分析方法は,等分散性の検定(Levene検定),Welch検定,一元配置分散分析,多重比較,t検定,正規性の検定(Shapiro-Wilk),単回帰分析である。

結果 患者報告数の最大値や総患者報告数について,関東地方における県単位の地域間比較では,等分散性の検定で有意な差は認められなかった。横浜市における18区の地域間比較では,等分散性の検定で有意な差が認められ,昼間人口が夜間人口より70,000人以上多い2つの区(西区,中区)では,患者報告数が1999年観測以降低値を示している傾向がわかった。また,他の主要都市部でも,平成22年国勢調査において,昼間人口と夜間人口の差が70,000人以上でかつ,昼間人口と夜間人口の比が1.3以上を示している地域では,2006年~2015年シーズンにおける患者報告数の最大値の平均値が低値を示す傾向があり,有意な差が認められた。

結論 県単位の地域間比較では有意な差は認められないが,主要都市部レベルでは,有意な差が認められ,昼間人口の顕著な増加により,2006年~2015年シーズンにおける患者報告数の最大値の平均値が,有意に低値を示す地域があることがわかり,流行状況が過小評価されることに注意する必要があると考える。

キーワード 感染症発生動向調査,インフルエンザ,定点当たりの患者報告数,昼間・夜間人口,統計学的分析

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

都道府県別全がん死亡率に及ぼす生活習慣要因の影響度分析

-自治体のがん対策の視点から-
田辺 和俊(タナベ カズトシ) 鈴木 孝弘(スズキ タカヒロ)

目的 国の指針「第3期がん対策推進基本計画」(2017~22年度)に盛り込まれなかった死亡率削減の数値目標について,いくつかの都道府県が独自に設定する方針であるとされている。本研究では,自治体の実情を踏まえたがん対策に有用な情報を提供するために,都道府県別の全がん死亡率に及ぼす生活習慣要因の影響度分析を試みる。

方法 平成27年の全がんの年齢調整死亡率の都道府県別データを目的変数とし,24種の生活習慣要因を説明変数とする重回帰分析を行い,全がん死亡率に対して統計的に有意な影響を及ぼす要因を探索し,その影響度を推定した。

結果 47都道府県の全がん死亡率を下げる防御要因としてスポーツ行動者率,がん検診受診率,乳卵類と果物の摂取量の4要因,死亡率を上げる危険要因として健康無関心者率,喫煙率,飲酒率,食塩摂取量の4要因,計8種の影響要因を見いだした。さらに,国内でがん死亡率が突出して高い青森県について要因の影響度を分析した結果,健康意識の向上が死亡率の低下に不可欠であり,そのための方策を提案した。

結論 自治体のがん対策だけでなく,コホート研究や症例対照研究の検討要因についても有用な情報が得られた。

キーワード 全がん死亡率,都道府県差,生活習慣要因,影響度分析,重回帰分析

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

自覚的ストレスは体重増加と関連するか

-人間ドック受診者を対象とした検討-
田尻 絵里(タジリ エリ) 吉村 英一(ヨシムラ エイイチ)

目的 近年,日本人の約半数が悩みやストレスを抱えていることが報告されている。体重増加は様々な疾患の発症と関連することが報告されているが,日本人において自覚的ストレスが体重増加に影響を及ぼすかどうかは明らかになっていない。本研究は,日本人の人間ドック受診者を対象に自覚的ストレスが体重増加と関連するか明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,2013年および2016年の両方の人間ドック受診者の中で,脳卒中,心臓病,慢性腎臓病を有する者を除いた30~65歳の男女7,257名であった。自記式質問票を用いて,年齢,自覚的ストレス,食習慣(腹八分目,食べる速度,食事時間,朝食欠食,夕食時間,夕食後の間食),身体活動量,睡眠時間を評価した。また,13項目の食品群の摂取頻度を因子分析(最尤法,バリマックス回転)し,因子負荷が0.4以上であった5項目の食品群(果物,魚,大豆,牛乳,野菜)を健康食パターンと定義し,合計点から低得点,中得点,高得点に区分した。統計解析は,多重ロジスティック回帰分析を用いて従属変数に体重増加の有無(≧5㎏,<5㎏),独立変数にModel1は健康食パターン,自覚的ストレス,食習慣,身体活動,睡眠時間,Model2はさらに年齢,2013年の肥満(BMI≧25㎏/㎡)の有無を投入し分析した。さらに,一元配置の分散分析を用いて,自覚的ストレス別に体重変化量を比較した。

結果 体重増加≧5㎏と関連があった項目は,Model1は,男性で自覚的ストレス(オッズ比[95%信頼区間]:高ストレス;1.73[1.25-2.40]),食習慣(悪い;1.83[1.16-2.88]),睡眠時間(6時間以上7時間未満;1.40[1.03-1.89]),女性で健康食パターン(低摂取頻度;2.15[1.37-3.37],中摂取頻度;1.75[1.07-2.87]),自覚的ストレス(高ストレス;1.62[1.05-2.51])であった。さらにModel2は,男性で自覚的ストレス(高ストレス;1.64[1.18-2.77]),女性で健康食パターン(低摂取頻度;1.81[1.15-2.87]),自覚的ストレス(高ストレス;1.59[1.02-2.48])と関連が認められた。一元配置の分散分析の結果,男女とも粗分析および年齢やベースラインの肥満,健康食パターン,食習慣,身体活動量,睡眠時間を調整した推定周辺平均体重変化量の両方で自覚的ストレスが高い群は低い群と比較して有意に体重が増加していた。

結論 男女ともに自覚的ストレスが体重増加に関連している可能性が示唆された。今後,自覚的ストレスと体重増加との関連についてさらなる検討が必要である。

キーワード 自覚的ストレス,体重増加,生活習慣

 

 

 

第65巻第12号 2018年10月

患者調査における総患者数の
推計の妥当性と応用に関する研究

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ)
齊藤 千紘(サイトウ チヒロ) 三重野 牧子(ミエノ マキコ) 久保 慎一郎(クボ シンイチロウ)
野田 龍也(ノダ タツヤ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)
谷原 真一(タニハラ シンイチ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 患者調査の総患者数の推計方法について,最近の診療状況の詳しい解析結果によって変更の必要性が結論され,また,具体的な変更案(平均診療間隔の算定対象を現行の30日以下から13週以下へ拡大)が示されている。この新規方法による総患者数について,患者調査以外の情報に基づいて患者数の指標としての妥当性を確認し,その応用として傷病の「総患者数/人口」(総患者の受療率)の年次推移を検討した。

方法 2005~2014年の患者調査を統計法33条による調査票情報の提供を受けて利用し,新規方法による24傷病の総患者数,「総患者数-入院患者数」(総外来患者数)と総患者の年齢調整受療率を算定した。その妥当性を確認するため,国民生活基礎調査の7傷病の通院患者数および文献からの悪性新生物と5部位の5年有病数を用いた。

結果 新規方法による総外来患者数は国民生活基礎調査の通院者数と比べて,5傷病(糖尿病,高血圧性疾患,脳血管疾患,喘息,骨折)で0.88~1.23倍と比較的一致し,慢性閉塞性肺疾患と高脂血症であまり一致しなかった。5年有病数と比べて,悪性新生物と4部位(胃がん,大腸がん,肝がん,肺がん)で0.78~1.25倍と比較的一致し,乳がんであまり一致しなかった。新規方法による総患者の年齢調整受療率は多くの傷病で年次とともに上昇傾向であり,その2014年/2005年の比は糖尿病が男性1.31倍と女性1.20倍,高脂血症が男性1.44倍と女性1.33倍などであり,一方,結核やウイルス肝炎などで低下傾向であった。

結論 慢性閉塞性肺疾患と高脂血症では国民生活基礎調査の通院患者数に,乳がんでは5年有病数に課題があると考えられることから,主な傷病における新規方法による総患者数について,患者数の指標としての妥当性が確認されるとともに,動向把握への応用の有用性が示唆された。

キーワード 患者調査,総患者数,患者数,推計方法,保健統計

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

自治体における3歳児検尿委託化後の
二次検尿受検率の変化について

東 健一(ヒガシ ケンイチ) 辻本 愛子(ツジモト アイコ) 齋藤 有香(サイトウ ユカ)
濱井 俊充(ハマイ トシミツ) 佐藤 眞理代(サトウ マリヨ) 

目的 横浜市では3歳児検尿の一次検尿および二次検尿を区福祉保健センターで実施していたが,平成25年度から一次検尿を検査機関に委託し,有所見者については書面での医療機関受診勧奨に方式が変更となった。このことが二次検尿の受検率にどのような影響を与えたかについて,質問票調査の結果を用いて明らかにすることを目的とした。

方法 平成25年度から28年度までの期間に横浜市A区で3歳児健診を受診し,尿検査を受けた者のうち,尿糖・尿蛋白・尿潜血のいずれかの項目が(±)~(2+)であり,紹介状を発行されていない50名に対し質問票を送付し回答を得た。結果については,まず年度ごとの尿検査有所見率について単純集計を行った。次に,委託化以前の二次検尿受検率として平成21~24年度の情報を入手し,委託化前後の二次検尿受検率の比較をχ2検定で行った。平成25~28年度に関してアウトカムは医療機関受診率であるが,二次検尿受検率の代替指標であると考えて比較を行った。

結果 質問票は44名(88.0%)から有効回答が得られた。3歳児検尿の結果を見たと回答した者が61.4%いる一方,「見なかった」「覚えていない」と回答した者も36.4%に上った。委託化以前においての陽性者数および二次検尿受検率が48.4~53.8%であるのに対し,委託化以後については「一次検尿結果を見て,その結果を受けて医療機関を受診した」者の割合は29.5%であり,差を少なく見積もった場合でも統計的有意差を認めた(p=0.026)。

結論 3歳児検尿における二次検尿受検率が委託化以後低下していることが推定された。その原因として,文面での勧奨の効果が不十分なことが考えられた。平成29(2017)年度から文字サイズ等の改善が行われたが,今後も受検率の増加が認められないようであれば,さらなる二次検尿受検勧奨方法の改善が必要と考えられる。

キーワード 3歳児検尿,委託化,二次検尿,受診勧奨

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

大都市圏における医療費の都府県内格差と都府県間格差

皿谷 麻子(サラガイ アサコ)

目的 本研究は,大都市圏の医療費の地域差要因として,①高度医療の集積,②医療サービスの供給量,③医療機関までのアクセス度(近さ),④健康診査の受診率,を示す変数に加え,人口当たりの⑤病院薬剤師数,⑥薬局薬剤師数を用いて都府県内と都府県間の差をマルチレベル分析によって明らかにすることを目的とした。

方法 大都市圏の13都府県の市(特別区を含む)単位のデータを使用し,入院および入院外それぞれの医療費の3要素(1人当たり診療件数・1件当たり診療日数・1日当たり診療費)を従属変数とし,説明変数に①可住地面積1000ha当たりの高度医療病院数(一般病床200床以上病院数,救命救急センター数,がん診療拠点病院数の合計),②人口1万人当たりの一般病院数,③可住地面積100ha当たりの一般診療所数,④大腸がん検診受診率,⑤人口1万人当たりの病院薬剤師数,⑥人口1万人当たりの薬局薬剤師数を設定して,切片と傾きに変量効果を導入したランダム係数モデルにて検証した。

結果 入院の医療費3要素との関連は,入院件数/人に対して一般病院数/1万人は統計的に有意な正の関連を,一般診療所数/100haは統計的に有意な負の関連を示した。入院日数/件に対しては高度医療病院数/1000haは統計的に有意な負の関連を,病院薬剤師数/1万人は統計的に有意な正の関連を示した。入院診療費/日に対しては高度医療病院数/1000haは統計的に有意な正の関連を,病院薬剤師数/1万人は統計的に有意な負の関連を示した。入院外の医療費3要素との関連は,入院外日数/件に対して一般診療所数/100haは統計的に有意な正の関連を,大腸がん検診受診率は統計的に有意な負の関連を示した。入院外診療費/日に対しては一般診療所数/100ha,大腸がん検診受診率,薬局薬剤師数/1万人はいずれも統計的に有意な負の関連を示した。他方,変量効果については医療費の3要素のすべてにおいて切片の分散が認められ,係数の分散は,一般病院数/1万人が入院件数/人との関連において,一般診療所数/100haが入院件数/人,入院外件数/人,入院外日数/件との関連において都府県間のばらつきが認められた。また,病院薬剤師数/1万人は入院日数/件との関連において,薬局薬剤師数/1万人は入院外診療費/日との関連において都府県間のばらつきが認められた。

結論 大都市圏の医療費の地域差は医療資源以外の要因も関連しており,都府県間でも地域差が存在しているだけでなく,関連の仕方も都府県間でばらついていることが明らかになった。また,入院外診療費の単価は,健康診査の受診よりもむしろ小まめに診察を受けられる環境や薬局薬剤師の薬学的介入が低下につながっている可能性が示されたが,薬局薬剤師数との関連の仕方には都府県間で差が存在しており,薬局薬剤師の薬学的介入による医療費への影響が都府県間で異なっている可能性が示唆された。

キーワード 医療費の地域差,医療費の3要素,大都市圏,マルチレベル分析

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

地域包括支援センターと関係機関等との
連携状況に関する基礎的分析

-長崎純心大学医療・福祉連携センターによる全国調査結果を踏まえて-
吉田 麻衣(ヨシダ マイ) 潮谷 有二(シオタニ ユウジ) 永田 康浩(ナガタ ヤスヒロ)
奥村 あすか(オクムラ アスカ) 宮野 澄男(ミヤノ スミオ)

目的 本研究では,医療介護総合確保推進法の施行後の地域包括支援センターと関係機関等との連携状況を把握するために,地域包括支援センターと市区町村,福祉事務所をはじめとする26種の関係機関等との連携頻度について,地域包括支援センターの設置主体による差異も視野に入れて記述的に明らかにすることを目的とした。

方法 全国の地域包括支援センター(4,622カ所)の社会福祉士またはそれに準ずる者を対象に質問紙を用いた自計式の郵送調査を平成28(2016)年3月30日から同年4月末日に実施した(回収数981件,回収率21.2%)。分析方法は,各種変数における記述統計量の算出および地域包括支援センターと関係機関等との連携頻度に関する分析を行った。

結果 総合相談支援業務および権利擁護業務における26種の関係機関等との連携頻度の平均値を算出した結果,両業務に共通して連携頻度の高い関係機関等は,市区町村,居宅介護支援事業者,病院,民生委員・児童委員であった。次に,2つの業務別に地域包括支援センターの設置主体を独立変数,26種の関係機関等との連携頻度を従属変数とする一元配置分散分析を行った結果,総合相談支援業務では4種の関係機関等に,権利擁護業務では2種の関係機関等に有意水準0.1%で統計的に差がみられた。

結論 本研究の結果から,医療介護総合確保推進法の施行後の26種の関係機関等との連携状況について,地域包括支援センターの設置主体による差異も視野に入れて記述的に明らかにすることができたが,地域包括支援センターの設置主体によって連携頻度に差異が生じている理由については,合理的に説明できるまでには至っておらず,今後の課題となった。

キーワード 地域包括支援センター,地域包括ケア,多職種連携

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

困窮度による子どもの健康格差

-大阪府子どもの生活に関する実態調査より-
駒田 安紀(コマダ アキ) 嵯峨 嘉子(サガ ヨシコ) 小林 智之(コバヤシ トモユキ)
山下 剛徳(ヤマシタ ヨシノリ) 所 道彦(トコロ ミチヒコ) 山野 則子(ヤマノ ノリコ)

目的 本研究では,「大阪府子どもの生活に関する実態調査」の中で,貧困による子どもの健康格差を明らかにした。貧困を測る指標として等価可処分所得を基に区分した「困窮度」を用い,健康に関わる行動や習慣,自覚症状,肥満度との関係を分析した。

方法 大阪府全域における小5・中2とその保護者を対象に質問紙調査を実施した。調査期間は,2016年6月27日~9月30日であった。80,130世帯160,260人に調査票を配布し,99,809人から回答を得た(回収率62.3%)。回答者内訳は,小5:26,540人,中2:23,558人,学年不明の子ども:8人,小5保護者:26,342人,中2保護者:23,323人,学年不明の保護者:38人であった。分析にあたっては,貧困の程度を示すために,困窮度Ⅰ群(等価可処分所得の中央値50%未満),困窮度Ⅱ群(同50%以上60%未満),困窮度Ⅲ群(同60%以上中央値未満),中央値以上群の4区分を設けた。分析は,困窮度を独立変数とし,起床,就寝,睡眠,朝食摂食についてはχ2検定および残差分析,経済的理由による経験,自覚症状については単純集計を行った。肥満度については,身長と体重からローレル指数を算出し,分散分析および多重比較を行った。

結果 生活習慣の面では,困窮度が高まるにつれて起床・就寝の規則性が失われるとともに睡眠時間も一定でなくなり,朝食の摂取頻度も低くなっていた。また,中央値以上群の睡眠時間は小5では長いのに対し,中2では短い傾向にあった。経済的な理由による経験はいずれも,困窮度が高まるにつれ,該当する割合が徐々に高くなっていた。ただし,「子どもを医療機関に受診させることができなかった」では,困窮度が高くなっても割合の伸びは緩やかであった。子どもの感じる自覚症状を12の具体的な症状から把握したところ,困窮度が高まるにつれて自覚症状を感じる子どもの割合は高くなった。小5と中2とで該当する割合の高い項目が異なり,困窮度が高いほど,小5では掻痒のある割合が高く,中2では頭痛,腹痛,不安,イライラなど,精神的な症状を抱える傾向にあった。肥満度については,中2男子の中央値以上群においてやせぎみであったことを除いては,すべて正常の範囲に含まれていた。性別に関わらず,おおむね,困窮度が高まるにつれて肥満度は高くなり,困窮度Ⅰ群において中央値以上群よりも有意に高かった。

結論 困窮度4区分において健康に関わる習慣・健康状態を比較したところ,生活習慣,経済的な理由による経験,自覚症状,肥満度すべての項目において,困窮度による子どもの健康格差が明らかとなった。また,具体的な自覚症状をたずねたことで,中2において精神面の症状を抱える割合が高まる傾向を得ることができた。

キーワード 大阪府,子ども,貧困,困窮度,健康格差

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

世帯における社会経済的要因と
食物摂取および栄養摂取状況,健康状態の関連

清原 昭子(キヨハラ アキコ) 福井 充(フクイ ミツル)
山口 道利(ヤマグチ ミチトシ) 上田 由喜子(ウエダ ユキコ)

目的 本論文では,政府統計を用いて日本における世帯の社会経済的要因と,世帯員(成人)の食物・栄養摂取状況および健康状態との関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 厚生労働省の「国民生活基礎調査」と「国民健康・栄養調査」の個票データのうち,両調査が接続可能な世帯別データ3,308件を用いて,世帯の社会経済的要因が,世帯員の食物・栄養素の摂取,身体状況に与える影響を検討した。分析対象とした人の属する世帯の調整済み家計支出額(等価家計支出額)を説明変数とし,エネルギー,総たんぱく質,総脂質,炭水化物,ナトリウム,ビタミンA,レチノール,コレステロール(栄養素摂取量),穀類,いも類,野菜類,果実類,魚介類,肉類,卵,乳類,嗜好飲料類の摂取量(食品群摂取量),BMIと血圧の値(身体状態)を目的変数として重回帰分析を行った。また,調整済み家計支出(等価家計支出額)を説明変数とし,BMI,血圧(最高・最低),糖尿病といわれたか,血圧を下げる薬,脈の乱れを治す薬,インスリン注射または血糖を下げる薬,コレステロールを下げる薬の服薬の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った。いずれの分析でも,性別,年齢,市町規模,世帯構造,同居する65歳以上の世帯員数,同居する18歳未満の未婚者数,本人の教育歴を調整変数とした。

結果 重回帰分析の結果から,野菜,果実,肉類,嗜好飲料類の摂取量,エネルギー,総たんぱく質,総脂質等の栄養素の摂取量について世帯の等価家計支出額と有意な正の相関がみられた。穀類の摂取量は等価家計支出額と有意な負の相関がみられた。一方,いも類等の摂取量,BMI,血圧の値と家計支出の間に有意な相関はみられなかった。また,ロジスティック回帰分析の結果,インスリン注射または血糖を下げる薬の服薬と等価家計支出額の間に弱い負の相関がみられた。

結論 本研究の結果から,経済力がある世帯に属し,教育歴が長い者ほどそうでない者に比べて果実類や野菜類,乳類を取り入れた食生活を送り,たんぱく質や脂質の摂取量に恵まれる傾向にあると言える。一方,社会経済的要因が人々の身体・健康状態に与える影響については,明確な関連はみられなかった。今後は,経済力や教育歴といった要因がどのような経路で食生活に影響を与えるのかについての検討,そして社会経済的要因は相互にどう関係して,食生活に影響を与えるのかについての検討が必要である。

キーワード 社会経済的要因,食品摂取量,栄養素摂取量,国民生活基礎調査,国民健康・栄養調査

 

*本論文末尾のコメントにあるすべての結果表については、こちらをご覧下さい。

 

 

 

第65巻第11号 2018年9月

在宅療養支援診療所の発展と医療費の伸び率との関連

伊藤 敦(イトウ アツシ)

目的 在宅医療は,医師が患者の居住地まで出向いて診療する医療形態であるが,昨今ではこの在宅医療を発展させることで医療費を抑制することが期待されている。そこで,2006年の診療報酬改定で新設された「在宅療養支援診療所」(以下,在支診)に注目し,「在支診」の増加率(以下,発展)と医療費の伸び率との関連について解明した。

方法 まず,在支診の統計が公開された2008年から最新の公開年である2014年までの6年間に着目して,国全体の「在支診」,「在支診」以外で在宅医療を提供する診療所(以下,在宅医療診療所)や病院(以下,在宅医療病院)の数と全医療費,入院医療費,外来医療費(以下,医療費3指標)の推移について概観した。次に,在宅医療施設と医療費の関係を明らかにするために,これらの指標を都道府県別に集計し,基本統計量(平均値,標準偏差)とスピアマンの相関行列を算出した。また,「在支診」の発展と医療費との関連を解明するために,医療費3指標を目的変数,在宅医療施設を説明変数とした重回帰分析を実施した。さらに,「在支診」の増加率が高い地域と低い地域に分類した上で,両地域の医療費および在宅医療費の伸び率の相違について分析した。

結果 第一に,この6年間で「在支診」が26%増加する他方で,全医療費が10.8%増加し,さらには全医療費に占める在宅医療費が41.9%と大幅に増加した。第二に,「在支診」は医療費3指標と正の相関が認められた。「全医療費」が0.60,「入院医療費」が0.53,「外来医療費」が0.43であった。第三に,重回帰分析を実施した結果,「在支診」の増加率が「医療費」の伸び率に正の影響を及ぼしていた。「在支診」は「全医療費」に対して正に有意で,自由度調整済み決定係数が0.372であった。第四に,「在支診」の増加率が高い地域と低い地域では,「全医療費」の伸び率に1.4倍,「入院医療費」の伸び率に1.5倍,「外来医療費」の伸び率に2.9倍の差があった。これらの分析結果より,この6年間で「在支診」が急増した地域ほど医療費が大幅に上昇していることが明らかになった。

結論 「在支診」の発展と医療費の伸び率には正の相関があり,「在支診」の増加率が高い地域ほど医療費の伸び率が大きい。それゆえ,「在支診」の発展が,医療費抑制に寄与するとはいえない。

キーワード 在宅療養支援診療所,在宅医療,医療費,伸び率,診療報酬

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

薬害スモン患者の現状と課題,発症年齢による比較

小長谷 正明(コナガヤ マサアキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) 田中 千枝子(タナカ チエコ)
久留 聡(クル サトシ) 藤木 直人(フジキ ナオト) 千田 圭二(チダ ケイジ)
亀井 聡(カメイ サトシ) 祖父江 元(ソブエ ゲン) 小西 哲郎(コニシ テツロウ)
坂井 研一(サカイ ケンイチ) 藤井 直樹(フジイ ナオキ) 

目的 1970年に,スモンは整腸剤キノホルムの薬害として確定した。スモンの後遺症,ADL,福祉介護状況,若年発症スモン患者の問題点などを明らかにする。

方法 2016年度全国スモン患者検診受診者620人(男女比174:446,80.3±8.7歳(平均年齢±標準偏差),平均罹病期間48.9±4.2年)を対象とし,発症年齢が20歳以下の若年発症群75人と,21歳以上の成年発症群645人の2群に分けて,臨床症状・障害程度や福祉状況について検討し,各群間で比較した。

結果 歩行障害は,歩行不能ないしは車イスは発症時には全体の59.1%,2016年度検診時現在では21.2%であり,歩行障害の強い割合は,発症時は若年発症群の方が,2016年度検診では成年発症群の方が有意に高かった。視力障害は,全盲あるいは高度障害は発症時に全体で25.2%,2016年度現在では8.6%で,いずれも若年発症群の方が視力障害の強い患者の割合が高かった。2016年度の異常知覚は,高度異常知覚は全体で20.8%であったが群間に有意差がなかった。合併症のうち,ADLに影響を及ぼす脳血管障害,心疾患,認知症は成年発症群に有意に高かったが,関節疾患,脊椎疾患,抑うつは群間に有意差はなかった。成年発症群は,ADL指標のBarthel Index低得点,1日の生活が屋内に限られている人,病院・施設への長期入院・入所者の割合が有意に高く,同居家族数,未婚の割合が有意に低かった。障害者手帳は全体の88.4%が取得しており,介護保険は成年発症者を中心に55.8%が認定を受けていた。主に家計を支える人は,若年発症群で配偶者と両親の割合が有意に高かった。主な介護者は両群とも配偶者の割合が44%前後だったが,若年発症群では両親や兄弟,成年発症群では子どもとその配偶者,介護専門職の割合が高かった。今後の介護についての不安は,全体の60.0%が訴え,各群間に差はなかった。自由記載では,介護者の高齢化,介護者の疲労や健康,身近に介護者がいないなどが多かった。

結論 スモンは,治療効果が乏しい重篤な障害が後遺症として残っている。恒久対策として医療費の全額負担など医療面での対応はなされてきているが,福祉・介護面での患者の不安や要望は少なくない。高齢化による家族の少人数化や独居患者の増加,社会体験や経済力が乏しく,未婚率の高い若年発症患者群の今後の療養支援が課題である。円滑な公的サービスの受給,就労支援など,適切な対応が必要である。

キーワード スモン,キノホルム,後遺症,福祉,介護,介護保険

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

食品群別摂取量に対する食物摂取頻度調査票
(厚生労働省「乳幼児栄養調査」)の妥当性

-仙台市認可保育所における横断研究-
鎌田 由香(カマダ ユカ) 倉澤 範子(クラサワ ノリコ) 遠又 靖丈(トオマタ ヤスタケ)
丹野 久美子(タンノ クミコ) 小野 道子(オノ ミチコ) 小林 香織(コバヤシ カオリ)
張 姝(チョウ シュ) 辻 一郎(ツジ イチロウ) 平本 福子(ヒラモト フクコ)

目的 近年,わが国では,子どもの食生活の課題が指摘されている。施設や地域といった集団レベルでの食生活の課題を検討する方法としては,子どもを対象とした全国的な実態調査である,厚生労働省「乳幼児栄養調査」による食物摂取頻度調査票(以下,厚労省乳幼児FFQ)を用いて相対比較を行うことが挙げられるが,厚労省乳幼児FFQは妥当性が報告されていない。そこで本研究では,厚労省乳幼児FFQの妥当性を検証するため,厚労省乳幼児FFQと食品群別摂取量(食事記録法)との相関関係を確認した。

方法 平成27年10~12月に調査を実施した。仙台市内の認可保育所に通う4歳児の保護者に対し,厚労省乳幼児FFQを含む質問票を配布した。有効回答者2,139人のうち食事調査の研究協力に関する同意が得られた198人中,厚労省乳幼児FFQと食事調査の両方に欠損がない187人を解析対象とした。食事調査は保育所に通う3日間について食事記録法(目安法)と写真法を併用し,食品群別摂取量は厚労省乳幼児FFQ13品目のうち主要な10品目に対応する食品群の摂取重量を算出した。統計解析には,相関分析(Spearmanの順位相関係数)を用いた。

結果 厚労省乳幼児FFQと食品群別摂取量には,牛乳・乳製品の相関係数が最も高く(r=0.43),次いで卵(r=0.38),果汁など甘味飲料(r=0.37),大豆・大豆製品(r=0.30),野菜(r=0.26),菓子など甘味食品(r=0.26),果物(r=0.25),お茶など甘くない飲料(r=0.25)に弱い相関がみられた。一方,肉(r=0.10)では相関がみられず,次いで魚(r=0.18)の相関係数が低かった。エネルギー調整した場合でも,ほぼ同様の結果であった。男女別にみると,男児では全体と同様の食品に有意な相関がみられたが,女児では5品目(卵,大豆・大豆製品,牛乳・乳製品,お茶など甘くない飲料,果汁など甘味飲料)であった。

結論 厚労省乳幼児FFQのうち主要な食品について,基準関連妥当性を確認した。厚労省乳幼児FFQは,幼児を対象として集団レベルでの主要な食品に関する習慣的な摂取状況を把握するための有用なツールであり得ることが示唆された。

キーワード 乳幼児栄養調査,食物摂取頻度調査票,食品群別摂取量,集団レベルでの食生活

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

医療機関における多職種連携の状況を
評価する尺度の開発

藤井 博之(フジイ ヒロユキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)

目的 病院における多職種連携の状況と職場環境の関係をみるためのツールとして,職場における多職種連携状況の評価尺度を開発した。

方法 農村と都市の2病院の職員6職種20人への聞き取り調査で抽出した20の質問項目で質問紙(4件法)を作成し,A病院の全職員2,336人に配布し,1,325人(回収率56.7%)から回答を得た。探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)で因子的妥当性を確認した後に,確証的因子分析(完全情報最尤法)で因子モデルのデータへの適合度を確認し,尺度の内的整合性をCronbachのα係数で検討した。最後に基本属性のうち職種の経験年数の違いによる本尺度得点の相違について,一元配置分散分析を用いて確認した。

結果 探索的因子分析の結果,3因子モデル(累積寄与率58.2%)が抽出され,第1因子「患者中心の職場のまとまり」,第2因子「職員間の協働性」,第3因子「連携のための活動」と解釈した。因子間には強い相関関係を認めた(r=0.69以上),3因子は独立したものではないと確認された。確証的因子分析では3因子と2次因子「職場の多職種連携状況」をおく解釈モデルで,完全情報最尤法による解析を行い,データとの適合性が示された。Cronbachのα係数はいずれの因子でも十分に高い値を得た。基本属性のうち職種の経験年数による尺度得点は,第1〜3因子と全因子合計のすべてで有意な違いを認めた。

結論 探索的因子分析で抽出された3つの因子は,尺度を構成した質問項目の3カテゴリー(患者,職場,働き手)にほぼ対応していた。全項目が0.37以上の因子負荷量をもち,構成概念の妥当性は確保されていた。開発した評価尺度は,急性期から在宅ケアまで全職種を対象にし,職場の連携の全体的な状況を把握しようとした点で,先行する尺度と異なる。外的基準との比較を行うこと,連携状況と個人要因,環境要因との関係性の検証に活用すること,医療現場で使いやすいより項目数の少ない尺度を開発することが,今後の課題である。

キーワード 多職種連携,職場の多職種連携状況評価尺度,探索的因子分析,確証的因子分析,一元配置分散分析

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

生後3-4か月の子どもを持つ母親の育児困難感と
ソーシャル・キャピタルとの関連

-都道府県単位の生態学的研究-
榊原 文(サカキハラ アヤ) 濱野 強(ハマノ ツヨシ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 秋山 有佳(アキヤマ ユウカ)
中川 昭生(ナカガワ アキオ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ) 尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ)

目的 少子化,核家族化といった家族形態の変化や,地域とのつながりの希薄化により,育児困難感を抱えている母親が増加している。この状況に対して,「健やか親子21(第2次)」では,重点課題として「育てにくさを感じる親に寄り添う支援」,基盤課題として「子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくり」が示された。そして,地域との信頼関係や相互扶助の意味を包含するソーシャル・キャピタル(SC)の醸成と活用により,すべての親子を支える重要性が明確に打ち出された。しかし,SCが子育てのどのような状況に有益な影響を及ぼすのかについては,定量的な知見が十分に示されていない。そこで本研究では,育児困難感とSCとの関連を都道府県単位の生態学的研究により明らかにすることを目的とした。

方法 各都道府県のSCは,平成19年に日本総合研究所がWeb方式で行った全国アンケート調査結果を用いて,一般的な信頼度,地縁的な活動への参加状況,スポーツ・趣味・娯楽活動への参加状況をSC指標として選定した。育児困難感を抱えている割合は,平成25年「健やか親子21」の最終評価において,3-4か月健診の調査結果のうち,「ゆったりとした気分でお子さんと過ごせる時間がありますか(いいえの割合)」「育児に自信が持てないことがありますか(はいの割合)」「子どもを虐待しているのではないかと思うことがありますか(はいの割合)」の項目を用いた。各都道府県のSC指標を独立変数,育児困難感を抱えている割合を従属変数,父親の育児参加がない割合,子育ての相談相手がいない割合,6歳未満の世帯員のいる世帯の母子世帯割合,20歳以上喫煙率,育児をしている女性の有業率を共変量としてロジスティック回帰分析を行った。解析では,育児困難感を抱えている割合の第3四分位に基づき2値に分類した。なお,各都道府県のSC指標を算出する際のサンプル数が10未満であった3県を除く44都道府県を分析した。

結果 多変量ロジスティック回帰分析の結果,「育児に自信が持てない割合」と一般的な信頼度に有意な関連を認めた(オッズ比=0.03,95%信頼区間(0.00-0.56),p=0.018)。

結論 一般的な信頼度が高い都道府県は,「育児の自信が持てない割合」が低いことが示された。他者への信頼感が高いと,他者との良好な関係の中で,育児認識をポジティブに捉えられることが,育児の自信につながると考えられた。

キーワード 育児困難感,ソーシャル・キャピタル,生態学的研究

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

高齢者福祉施設における介護人材の共感疲労
およびレジリエンスの構造

松田 美智子(マツダ ミチコ) 南 彩子(ミナミ アヤコ) 北垣 智基(キタガキ トモキ)

目的 日本では介護現場における人材確保が喫緊の社会的課題となっている。介護現場従事者のストレスを低減し,レジリエンスを高めることで離職防止に繋がるのではないかと考えた。本研究は,高齢者福祉施設で従事する介護人材の共感疲労やレジリエンスを構成する要因を因子分析によって明らかにするとともに,その傾向を探ることを目的とする。

方法 本研究は2016年8月1日~9月6日の期間,高齢者介護福祉施設・事業所の職員697名に対して,留め置き法のアンケート調査を実施した。調査項目については,松田らによるインタビュー調査と文献による既存の尺度を参考に,共感疲労・レジリエンスを問う下位項目をそれぞれ25項目作成し,探索的因子分析を行った。

結果 調査対象者の総数(質問紙配布数)は697名であり,最終的に調査票551部を回収した(有効回収率79.1%)。またデータクリーニングとチェックを行った結果,有効回答数は537,無効回答数は14であった(有効回答率97.5%)。共感疲労・レジリエンスに関して23項目・5因子を抽出することができた。共感疲労については「精神的消耗感」「援助者としての規範意識へのとらわれ」「利用者との対応場面でのストレス」「援助者としての感情管理」「心身のストレス反応」の5因子,レジリエンスについては「前向きな気持ちへの切りかえ」「人的サポート」「自己肯定感」「職場のサポート」「困難への対処法」の5因子が抽出された。各5因子の因子得点について回答者の「性別」および「仕事を辞めたいと思ったことの有無」別でT検定による検討を行った結果,共感疲労の得点が高い者は離職意向を有する傾向があった。共感疲労については男性よりも女性の方が高い傾向にあった。レジリエンスが高い人は職場に踏みとどまろうとする傾向があった。

結論 今後は因子分析により抽出された下位尺度を手掛かりとしながら,介護人材の離職を防止するための評価指標を用いた「介護現場で働く人材の離職防止のためのマニュアル」を作成し,共感疲労に伴う心身のストレスついて高齢者介護福祉現場での理解を深め,職員自身が共感疲労の度合いを自己評価し,さらにはレジリエンスを高めていけるようなツールを開発していきたい。職員に対する教育・研修等の場でこうしたツールの活用を進めていくことが,介護人材の離職をくい止めるための解決策の一助となると考える。

キーワード 共感疲労,レジリエンス,因子分析,介護人材の離職防止

 

 

 

第65巻第8号 2018年8月

都道府県における気分障害の受療率と社会的要因の分析

中本 奈那(ナカモト ナナ) 大道 麻依(オオミチ マイ) 北川 明(キタガワ アキラ)

目的 日本の気分障害患者数は1996年の約43.3万人から増加傾向にあり,2014年には約111.6万人に達した。これまでに気分障害は社会的関連要因があることが指摘されているが,その要因を地域比較から明らかにしたものはない。本研究では,2014年の気分障害の入院,外来受療率について,社会的要因との関係を男女別に分析した。

方法 都道府県別の気分障害の入院,外来受療率は,平成26年の患者調査より得た。社会的要因の25指標は各官公庁の統計資料より得た。気分障害の男女別入院受療率および外来受療率を従属変数とし,25指標のうち指標間の相関係数の高いものを排除した残りの指標を独立変数として,性別,入院・外来受療率別に重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。

結果 25指標のうち有意な関係を認めた指標は,入院受療率(男性)で第1次産業就業者比率(β=0.455,p<0.01)と年間日照時間(β=-0.399,p<0.01),外来受療率(男性)で単独世帯の割合(β=0.310,p<0.05),入院受療率(女性)で身体障害者手帳交付割合(β=0.421,p<0.01)と1世帯あたりの負債現在高(β=-0.325,p<0.05)と負債保有率(β=0.367,p<0.01)であった。また,外来受療率(女性)では有意な指標を認めなかった。自由度調整済決定係数は,入院受療率(男性)が0.490,外来受療率(男性)が0.076,入院受療率(女性)が0.526で,外来受療率(男性)では十分な精度が得られなかった。

結論 気分障害と関連する社会的要因として,入院受療率(男性)で第1次産業就業者比率と年間日照時間,入院受療率(女性)で身体障害者手帳交付割合と1世帯あたりの負債保有率,負債現在高が示された。

キーワード 気分障害,社会的要因,都道府県別,受療率

 

 

第65巻第7号 2018年7月

就業している独居高年齢者における日常生活に関する意識の特性

鈴木 直子(スズキ ナオコ)

目的 日本では高年齢者の就業が促進されており,高年齢者の就業者数,就業率が年々増加している。また,独居の高齢者数が増加していることから,就業している高年齢者においても独居が増加していることが推測できる。本研究では,高年齢者の健康を支援する際の一助とするために,就業している独居高年齢者に関する基礎的データを得ることを目的とした。

方法 「平成26年度高齢者の日常生活に関する意識調査」のデータを用い,二次分析を行った。60歳以上の高年齢者で現在就業している644人を分析対象とした。就業している独居の群(以下,就業独居群)と就業している非独居群(以下,就業非独居群)に分類し,属性,健康状態,現在の経済的な暮らし向きの心配,将来の不安,近所付き合い,活動への参加経験,日常生活全般の満足感,生きがい,食生活,情報について比較を行った。

結果 就業独居群は,68人(男性29人,女性39人),就業非独居群は576人(男性359人,女性217人)であった。就業独居群は就業非独居群に比べ,女性の割合が有意に高かった。また,住居の種類では賃貸の割合,現在の経済的な暮らし向きで心配ありの割合が有意に高く,近所付き合いをしたい割合,活動への参加経験の割合,日常生活全般に満足している割合,生きがいを感じている割合,食生活に満足している割合が有意に低かった。食生活について気になる点は,栄養のバランスがとれていない,調理が十分にできない,パックの食品の量が多くむだが出る割合が有意に高く,家族との食事の時間が合わない割合,気になる点が特にないと回答した割合が有意に低かった。情報端末を利用している割合が有意に低く,情報取得の手段として友人,近所の人,ラジオの割合が有意に高く,家族,新聞(タウン紙含む)の割合が有意に低かった。

結論 本研究では,就業している独居の高年齢者は就業している非独居の高年齢者に比べ,日常生活における支援が必要であることが示唆された。就業している現在の状況だけではなく,将来の健康につながる身体・精神・社会面における健康支援が重要と考える。

キーワード 就業者,独居,非独居,高年齢者,高齢者,二次分析

 

 

 

第65巻第7号 2018年7月

地域包括支援センターにおける
地域ケア会議実施に関する調査報告

平澤 園子(ヒラサワ ソノコ) 王 吉彤(オウ キットウ)
樋田 小百合(トイダ サユリ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)

目的 地域包括支援センターにおける地域ケア会議の実施状況の現状と課題を検証することが本研究の目的である。

方法 全国から無作為に抽出した1,604センターの職員を対象に地域ケア会議の実施状況に関する自記式質問紙調査を2016年3~5月に実施し,403件(回収率25.1%)の回答を得た。その中で無効回答が顕著なケースを除く368件を解析対象とした。統計検定にはχ2検定を用い,統計的有意水準は5%とした。

結果 地域ケア会議の実施率は96.2%であり,そのうち検討事項別の地域ケア会議実施状況では,個別事例の検討のみ実施している支援センターが42.1%,地域課題の検討のみ実施している支援センターが4.9%,両方の課題検討を実施している支援センターが49.2%であった。地域独自の課題を検討する地域ケア会議には主に,「介護支援専門員」「行政職員」「民生委員」「介護サービス事業者」「社会福祉協議会職員」が参加していた。地域ケア会議を実施したことによって発見された地域の課題は,「地域で高齢者を見まもるネットワークの不足」「認知症高齢者が利用できる地域資源が少ない」「認知症高齢者家族への支援が不足」「認知症に対する知識と理解の不足」の順に多かった。また,地域課題が検討された場合においては,個別事例の検討だけが行われた場合より,「認知症高齢者家族への支援が不足」が統計的に有意に多く,課題として抽出されていた。

結論 地域課題を検討する地域ケア会議の実施により,「認知症高齢者家族への支援が不足」の課題がより多く抽出されたことは,個別事例検討に加えて地域が抱える課題を検討することにより,認知症高齢者本人だけでなく家族が抱える課題にまで目が向けられたことを意味する。一方,半数以上のセンターでは,個別事例検討のみ実施し地域課題の検討会議を実施しておらず,改善が望まれる。また,「地域で高齢者を見まもるネットワークの不足」「認知症高齢者が利用できる地域資源が少ない」が課題として多く抽出されたことは,地域住民を含む多様な関係者が地域ケア会議に参加することの必要性が示唆された。

キーワード 地域包括支援センター,地域ケア会議,個別課題,地域課題,認知症支援

 

 

 

第65巻第7号 2018年7月

社会的自立支援に特化した
介護サービスのアウトカム尺度の開発

小室 貴之(コムロ タカユキ) 渡辺 明子(ワタナベ メイコ)
佐藤 満(サトウ ミツル) 弓川 大地(ユミカワ ダイチ)

目的 介護サービス提供によってもたらされた対象者の主体的な選択による社会的活動の再獲得に関連する成果を測定するアウトカム尺度を構築する。

方法 3つの下位尺度「参加」「活動」「主体性」を11項目で測定する社会的自立支援アウトカム尺度を開発し,通所介護施設利用者104名を対象として,その妥当性と信頼性を評価した。分析方法は項目分析,因子分析を用いた構成概念妥当性,判別妥当性,内的整合性と再検査信頼性を検討した。

結果 11項目のうち「運動習慣」が除外対象となった。残る10項目による探索的因子分析で「参加」「活動」にそれぞれ3項目,「主体性」に4項目が当てはまり,この因子モデルによる確証的因子分析のモデル適合度指標は良好な値を得た。下位尺度「主体性」は要介護度による有意な得点差がなく,身体的自立状況に依存しない指標と考えられた。内的整合性と再検査信頼性は良好な値を得た。

結論 質問紙としての自立支援アウトカム尺度の妥当性と信頼性が確認された。要介護度やADLなどの身体的自立指標と異なり,自立支援アウトカム尺度は慢性期や状態悪化に向かう対象者でも良質なサービス提供の成果を測定可能と考えられた。援助者が自立支援アウトカム尺度を対面聞き取りに使用することで,社会的生活の再獲得に向けた可能性発見と援助計画の立案,その達成に向けた方策を共有するためのツールとなると見込まれた。

キーワード 自立支援アウトカム尺度,介護サービス,社会参加,高齢者

 

 

 

第65巻第7号 2018年7月

就業動機と賃金の関係における男女間の差異

-介護労働者を対象とした回帰分析-
加藤 善昌(カトウ ヨシマサ)

目的 介護現場は離職率が高い。離職率の解消策として第一に賃金の引き上げがあげられるが,それが離職率の抑制に貢献するかどうかは先行研究によって異なる。だが,職務に対する意欲の刺激は離職率の抑制に有効であると,多くの先行研究において共通して指摘されている。また,介護現場の特徴として,女性労働者が多いことがあげられる。これらを背景としたうえで,介護労働者の就業動機と賃金の相関関係,そして,それが男女間においてどのように異なるのかを明らかにすることが本研究の目的である。

方法 介護労働安定化センターによって収集された「介護労働実態調査」の平成25年度版の労働者の個票データを用いたうえで,最小二乗法によって回帰分析を行った。なお,推定においては,労働者全体を対象としたうえで推定し,さらに,男女ごとに労働者を分けた場合においても推定を行った。また,就業動機について,男女間において特定の差異が確認されるかどうかもt検定によって検証した。

結果 就業動機については,女性の方がやりがいやスキルを重視して就業先を選択することと,男性の方が社会貢献の可能性を考慮して就業先を選択することが確認された。そして,最小二乗法による推定の結果,組織の理念に共感した労働者は,他の労働者に比べて賃金が低いというDonated Labor Hypothesis(無償労働供給仮説)が確認された。さらに,これは女性において発生する現象であることも確認された。したがって,日本の女性の介護労働者において,組織の理念に共感しているために,他の労働者に比べて無償労働を行う傾向が強いというMotivated Agent(動機づけられた依頼者)が存在すると考えられる。

結論 賃金の引き上げが有効に作用する可能性もあるが,介護労働者の就業動機は多様であり,また,女性の方が無償労働を行う傾向が強いと考えられる。さらに,地域や法人形態によっても,労働者の行動が異なる可能性が強いと考えられる。これらを考慮したうえで適切な報酬形態を設定することが,今後のわが国の介護産業において重要であるだろう。

キーワード 介護労働者,賃金,就業動機,無償労働供給仮説,動機づけられた依頼者

 

 

 

第65巻第7号 2018年7月

介護老人福祉施設において
職員のケア行為に影響を与える職務環境要因

任 貞美(イム ジョンミ)

目的 本研究の目的は高齢者福祉施設の職務環境が職員のケア行為に及ぼす影響を明らかにすることである。これらの結果は,職員が働き続けることのできる職務環境の構築および質の高い介護サービスを提供するための介入策の提案に有用な基礎資料になると考えられる。

方法 全国の介護老人福祉施設の介護職員5,000人を調査対象とし,欠損値を除外した1,143人を分析に用いた。調査は郵送法による自記式質問紙調査で,調査期間は2012年10月11日から25日までであった。調査項目は介護職員の基本属性,客観的職務環境,主観的職務環境とケア行為を設定した。統計分析は記述統計分析と階層的回帰分析を用いた。

結果 職務環境に関して,介護職員は1日の担当高齢者数が多いと回答している反面,給与水準は低いと回答していた。また,職場の人間関係に対するよりも利用者に介護を提供する際に,より強くストレスを感じていることがわかった。階層的回帰分析の結果では虐待予防研修,仕事への自律性,給与,業務量が職員のケア行為に有意な影響を与えていた。また,ストレス要因が他の要因と比べてケア行為に強い影響を与えていた。

結論 質の高いケア行為を提供するためには,虐待予防研修,仕事への自律性の付与,業務量に合わせた給与の査定が必要であると考えられる。利用者および同僚との関係によるストレスを緩和し得る介入,例えば対応困難事例や職場の人間関係に対処し得るコーピングスキルの涵養が求められる。

キーワード 高齢者福祉施設,ケア行為,職務環境,介護ストレス,介護職員

 

 

 

第65巻第7号 2018年7月

特別養護老人ホームの介護職による
看取り介護に関連する環境要因の検討

小松 亜弥音(コマツ アヤネ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)の介護職が行う看取り介護に関連する環境要因を実証的に検討することを目的とした。

方法 都市部6都府県の看取り介護加算を算定している特養1,000件を無作為に抽出した。各施設1名の看取り介護の経験があり介護福祉士の資格を持つ介護職1,000名を対象に,自記式調査紙を用いた郵送調査を実施した。有効回答数は166件(16.6%)であった。まず,探索的に設定した「看取り介護に関する介護職ピアサポート」の因子分析を行った。その後,「特養の介護職による終末期高齢者を支える日常的介護実践」の各因子を従属変数,「看取り介護に関する介護職ピアサポート」の各因子と,他職種の看取り介護への姿勢,デスカンファレンス開催頻度,労働環境,性別,年齢,役職を独立変数とする重回帰分析を行った。

結果 「看取り介護に関する介護職ピアサポート」の探索的因子分析の結果,「介護職の同僚や上司による実践面への支援」と「介護職の同僚や上司による情緒面への支援」の2因子が抽出された。重回帰分析の結果,複数の「看取り介護実践」に関連した要因は,「介護職の同僚や上司による実践面への支援」と他職種による「介護職の意見・情報の重視」,そして労働環境の「勤務フロア/ユニット利用者数」であった。

結論 重回帰分析の結果から,介護職の同僚や上司による実践面への支援,他職種による介護職の意見・情報の重視,そして勤務するフロアもしくはユニットの利用者数が関連していることが明らかになり,これらの側面から看取り介護に従事する介護職へのサポートを考えていく必要性が示唆された。また,同職種や他職種に実践が評価されることや重視されることで,介護職は自らの看取り介護への自信や,看取り介護に自らの専門性が役立っているという実感を得ることが明らかになった。

キーワード 看取り介護,特別養護老人ホーム,介護職,労働環境,ピアサポート

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

重症心身障害児者短期入所の施設種別利用実態

-医療型短期入所事業所の全国調査から-
平野 恵利子(ヒラノ エリコ) 竹内 文生(タケウチ フミオ) 柏木 公一(カシワギ キミカズ)

目的 重症心身障害児者(以下,重症児者)の短期入所の実態を明らかにするために,重症児者施設以外の一般病院・診療所,介護老人保健施設(以下,老健施設)を含めて,利用状況等の実態調査を行った。

方法 全国の医療型短期入所事業所388カ所を対象に質問紙調査を行った(調査期間:2016年5月~6月)。調査内容は,回答者属性,受入体制(施設属性,受入条件・取り決め等),受入状況(利用件数,需給状況)だった。単純集計の後,施設種別,利用制度別(医療型短期入所における介護給付とレスパイト入院),重症度別(超・準超重症児とそれ以外)に集計・分析した。

結果 分析対象は234施設(有効回答率60.3%)で,重症児者施設156カ所,一般病院53カ所(診療所3カ所含む),老健施設25カ所だった。重症児者施設も一般病院も,人工呼吸器を含めてほとんどの医療的ケアに対応可能だった。老健施設も呼吸管理が必要な場合を除いては対応可能であるところが多かった。年間利用件数の93%は重症児者施設だった。障害者総合支援法成立の2012年以降,一般病院・診療所や老健施設を中心に参入施設が72カ所(31%)増えているが,ここから回答のあった利用件数は全体の12%だった。2014-15年では41施設(18%)の新規参入があったが,ここから回答のあった利用件数は全体の2%だった。重症児者施設の一部では利用待機者を抱えるほどに申込が集中している一方で,一般病院の27%,老健施設の46%は「新規申込がほとんどない」と答えた。短期入所をレスパイト入院として受け入れる場合がある施設が,一般病院で42%,重症児者施設で24%あり,理由は「検査や処置を生じる可能性があるから」が一番多かった(53%)。利用件数のうちレスパイト入院の占める割合は,一般病院17%,重症児者施設6%,重症度別には超・準超重症児12%,それ以外5%だった。

結論 医療型短期入所事業所として一般病院・診療所,老健施設の参入が増えているが,利用は重症児者施設に集中しており,他施設での受け入れは広がっていなかった。一般病院での受入促進のためには,医療依存度の高い重症児者の受入は医療型短期入所の制度では受入にくい現状があることを踏まえ,医療型短期入所とレスパイト入院の制度・報酬面での差の解消が必要であることが示唆された。

キーワード 重症心身障害児者,短期入所,医療型短期入所,レスパイト入院,介護給付

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

在宅要介護高齢者を介護している家族における自記式うつ尺度
の分布の考察と回答欠損者の抑うつ状態の評価について

平 和也(タイラ カズヤ) 伊藤 美樹子(イトウ ミキコ)

目的 わが国では,高齢化が進展し,在宅療養支援が進められている状況において,家族介護者の増加およびその高齢化も進展している。家族介護者のQOLの保持・増進は重要である。本研究では,日本語訳CES-D短縮版(11項目)(以下,CES-D11)に着目した。①CES-D11の欠損値の出現状況と得点の分布を観察し,多重代入法による欠損値の補完前後におけるCES-D11得点の特徴を欠損値の有無別に評価した。以上より,②欠損値がうつの評価に与える影響について考察し,介護者のうつ状態の発見やスクリーニングの精度の向上に関する示唆を得ることを目的とした。

方法 2008年に東大阪市で要介護認定を受けている要介護者を,要介護度別に3,808件を無作為抽出し,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。有効回答の中で,介護者が家族であった1,016件を用いた。CES-D11に含まれた欠損値は,MICEアルゴリズムによる多重代入法によって補完した(代入値の収束確認のため,5回実施)。補完値代入後のCES-D11の修正得点(Modified CES-D11,以下,M_CES-D11)の分布を観察し,Shapiro-Wilkの正規性の検定を行った。また,CES-D11の欠損値の有無別にM_CES-D11得点を比較し,Wilcoxon順位和検定を行った。

結果 分析に用いた変数の欠損値の割合は,5.4-23.5%の範囲にあり,CES-D11に欠損値を1つでも含む割合は22.8%であった。多重代入法による欠損補完後のM_CES-D11のヒストグラムは直感的に二峰性様の分布を示し,Shapiro-Wilk検定の結果,0.979≦W≦0.980,p<0.01となり正規性が否定された(5/5回)。CES-D11の欠損値の有無別にみたM_CES-D11のWilcoxon順位和検定の結果は,98714.5≦W≦99071.0,p<0.05(3/5回)となり,欠損値有群が有意に高かった。

結論 欠損値の補完方法によらず,介護者という対象者の特性が分布に影響し,CES-D11が二峰性様の分布が確認された。また,欠損値有群のほうがうつ傾向が強くなっていることから,欠損値の処理の仕方によって,うつ傾向にあるハイリスク対象者を分析から除外してしまうことにつながるため,欠損値の扱いには留意が必要である。

キーワード 在宅要介護高齢者,介護者,うつ尺度,多重代入法,CES-D

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

都市部居住の若年者の過去1年間の
自殺念慮経験と心理社会的特徴の関連

-性差に着目した分析-
成田 太一(ナリタ タイチ) 勝又 陽太郎(カツマタ ヨウタロウ) 中川 拓也(ナカガワ タクヤ)

目的 都市部に居住する若年者の過去1年間の自殺念慮経験と心理社会的特徴の関連を明らかにし,今後地域において自殺予防対策を推進する上での示唆を得ることを目的とした。

方法 調査会社にWeb調査を委託し,6つの政令指定都市に居住する18~39歳のモニター登録者1,714人から調査協力を得た。調査項目は,デモグラフィック要因,過去1年間の自殺念慮経験の有無,援助に対する認知傾向,味方になってくれる人や機関,日常生活上の悩み,過去の体験,一般的信頼感,うつ・不安の程度(K6),心理的対処であった。分析は,男女別に,過去1年間の自殺念慮の有無と心理社会的特徴の関連について,調査項目の頻度または平均値の比較をそれぞれχ2検定あるいはt検定を用いて行った。また,男女間での関連要因の違いを検討するため,男女別にロジスティック回帰分析を行った。

結果 多重ロジスティック回帰分析によって調整済みオッズ比を算出した結果,男女ともに自殺の相談を受けた経験があること,うつ・不安の程度の高さ,および肯定的未来志向得点の低さが過去1年間の自殺念慮経験と有意に関連していた。これに加え男性では,身体の悩みの小ささ,不登校経験があることが,過去1年間の自殺念慮経験と有意に関連していた。また,女性では,自分の味方になってくれる中学以前からの友人がいないこと,家族とのコミュニケーションや恋人とのつき合いにおける悩みの大きさ,友人とのつき合いにおける悩みの小ささおよび有意味感得点の低さが過去1年間の自殺念慮経験と有意に関連していた。

結論 過去1年間の自殺念慮経験の関連要因の特徴としては,特に,女性では過去の体験に加え,家族とのコミュニケーションや恋人とのつき合いに関する悩みとの関連がみられるなど,日常の悩みの程度との間に関連がみられた。男女とも過去1年間の自殺念慮経験あり群の方が肯定的未来志向の程度が低く,うつ・不安の程度が高い傾向がみられたことから,都市部の若年者の自殺予防対策においては,肯定的未来志向の低さやうつや不安の程度の高さを自殺関連行動のセカンダリアウトカムとして設定し,多様な支援方法を検討してくことが必要と考えられる。特に,家族や友人以外に相談できる窓口の普及啓発を進めることや,自殺リスクの高い若年者に対してより早期にアウトリーチ活動を実施していくことで,必要な支援につなげ自殺予防を推進していく必要がある。

キーワード 都市部,若年者,自殺念慮経験,心理社会的特徴,アウトリーチ

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

第2回NDBオープンデータにおける
喫煙・禁煙に関連する項目を用いた都道府県比較

吉見 逸郎(ヨシミ イツロウ)

目的 第2回NDBオープンデータで公開された,特定健診における必須の問診項目や医療管理等の算定回数の集計データおよび国民生活基礎調査の集計データ等を活用し,喫煙率や禁煙に関する資源の状況について,都道府県別の比較を目的とした集計を行った。

方法 ホームページ上から入手できる,第2回NDBオープンデータ,国民生活基礎調査,日本禁煙学会によるニコチン依存症管理料算定機関のデータを利用した。

結果 第2回NDBオープンデータの特定健診の問診項目を用いた,都道府県別,性・年齢別(40-74歳)の喫煙率は,国民生活基礎調査とほぼ同様の傾向を示した。喫煙者あたりのニコチン依存症管理料の初回算定数は1%程度にとどまり,禁煙したいという喫煙者が約3割とのデータに比べて非常に低かった。ただし,実施状況や機関数は都道府県間でばらついた。

結論 今回,喫煙に関する事項について,NDBオープンデータの公表値を用い,既存の公的統計と比較した。40-74歳の都道府県別の特定健診受診者における喫煙率は,国民生活基礎調査と同様の傾向を示していた。今後,各保険者などでの業種別・支所別などでの喫煙状況等と比較して,禁煙支援を含めた具体的な保健事業の必要性を認識し企画につなげたり,都道府県保険者協議会レベルでも喫煙関連のデータを集計・分析して地域・保険者レベルでの認識や取り組みが促されていくことを期待したい。禁煙については,機関数の存在・実施状況には都道府県間のばらつきがあった。しかし全国集計でみると,喫煙者の1%程度しか1年に禁煙治療を開始しておらず,禁煙したいと思う喫煙者の割合が約3割前後であることを踏まえても,圧倒的に低い値であることがわかった。喫煙という行為は非常に再発しやすいものであるが,禁煙支援をめぐる状況については,禁煙治療に関する量的な面も含め,まだ課題が残っている。

キーワード 喫煙率,第2回NDBオープンデータ,国民生活基礎調査,ニコチン依存症管理料算定機関,禁煙治療,禁煙支援

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

在宅療養者の緊急入院時に
地域包括ケア病棟は足りているのか

-「地域包括ケア病棟の受け入れ指標」による検討-
前川 一恵(マエカワ カズエ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル)

目的 在宅医療の充実が政策として示され,2014年度診療報酬改定で在宅療養者の緊急入院時の受け入れ体制の機能を有する地域包括ケア病棟が創設された。一方で,在宅医療の課題として「緊急時に入院できる病床の確保困難」が指摘され,地域包括ケア病棟が不足していることが推察できるが,1つの地域包括ケア病棟が担う可能性のある在宅療養者数やその充足度は具体的に示されていない。そこで,本研究において,1つの地域包括ケア病棟が担う可能性のある在宅療養者数を指標として示し,全国の地域区分ごとに地域包括ケア病棟の充足度を検討した。

方法 2017年8月に,厚生労働省と総務省統計局が公開しているアクセス可能な統計データを利用し,在宅療養者数を地域包括ケア病棟のある病院数で除した指標を「地域包括ケア病棟の受け入れ指標」と呼ぶことにした。全国の地域を政令指定都市・中核市,その他の市,町村部,市町村が合併した広域連合・組合の4つに区分した151カ所について,この指標を用い充足度を検討した。この指標の数字が小さいほど,1つの地域包括ケア病棟の担う可能性のある在宅療養者数が少なく,緊急入院時の受け入れ体制が整っていることを示している。

結果 全国の在宅療養者3,885,446人に対して,地域包括ケア病棟は1,960病院あり,1つの地域包括ケア病棟が担う可能性のある在宅療養者の全国平均値は1,982人であった。「地域包括ケア病棟の受け入れ指標」の最も小さい大分県町村部(479人)と,最も大きい沖縄県中核市(9,819人)を比較すると約20倍もの差があった。また,7つの地区に地域包括ケア病棟の設置がなかった。

結論 本研究で用いた指標によって地域包括ケア病棟の充足度を検討した結果,地域包括ケア病棟の設置は全国でいまだ大幅に不足しており,在宅療養者の緊急入院時受け入れ体制の未充足が明らかとなった。

キーワード 在宅療養者,地域包括ケア病棟,緊急入院,地域包括ケア病棟の受け入れ指標

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

退院計画に関わる病院スタッフの支援プロセスと
患者アウトカムとの関連についての研究

-A病院の自宅退院後調査の取り組みから-
林 祐介(ハヤシ ユウスケ)

目的 A病院(回復期リハビリテーション病棟)の自宅退院後調査の取り組みから,入院中には予測できなかった自宅での患者と家族の不安・困り事の把握,および患者の退院計画に対する満足度と生活満足度の評価等を通して,退院計画に関わる病院スタッフによる支援プロセスの不備が,患者アウトカムにどのような影響を及ぼしているのかを示すことを目的とした。

方法 退院後の訪問調査協力が得られた112例が対象である。退院後3カ月経過した日から14日以内の間で患者宅へ訪問し,退院日から退院後3カ月時点までの状況を確認するために,構造化された質問紙を用いた面接調査を実施した。また,調査項目によっては,退院直前(退院までの7日以内の間)または退院時点から退院後3カ月経過時点までの時間経過による変化を捉えることを目的に,退院直前または退院時点のデータを収集した。これらの調査を通じて,対象事例の基本情報,退院計画の中で評価されていた以外の不安・困り事の有無,医療・介護サービス計画の変更箇所数,退院計画に対する患者の満足度,自宅退院後の患者の生活満足度の増減に関するデータを得た。分析は,退院計画に関わる病院スタッフによる支援プロセスと患者アウトカムに関わる変数を投入した重回帰分析を行った。

結果 重回帰分析の結果,以下の3点が示唆された。①退院計画の中で評価されていた以外の不安・困り事があると,医療・介護サービス計画の変更が生じやすい。②上記の不安・困り事や医療・介護サービス計画の変更があると,退院計画に対する患者の満足度が低下しやすい。③退院計画に対する患者の満足度が低いと,自宅退院後の患者の生活満足度が低下しやすい。

結論 退院計画の中で評価されていた以外の不安・困り事の発生,および医療・介護サービス計画の変更といったプロセスの不備が,退院計画や自宅退院後の患者の満足度といったアウトカムの低下につながっている一連の流れを,量的データにより実証的に示すことができた。これにより,退院計画における評価や医療・介護サービス計画の作成を単に行えばいいというわけでなく,その中身が伴っていないと,患者アウトカムの向上につながらない可能性があることを示すことで,病院スタッフ自らの実践を振り返るきっかけになると考える。

キーワード 退院計画,退院後調査,病院スタッフ,支援プロセス,患者アウトカム,満足度

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

都市部保健所におけるHIV抗体検査受検者の特性

塩野 徳史(シオノ サトシ) 市川 誠一(イチカワ セイイチ)
金子 典代(カネコ ノリヨ) 佐々木 由理(ササキ ユリ)

目的 都市部保健所のHIV抗体検査受検者の特性を把握し,HIV陽性判明報告のある検査施設とHIV陽性判明報告のない検査施設の受検者特性の差異を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都17施設,愛知県16施設,大阪府17施設の都市部保健所で実施されているHIV抗体検査受検者を対象に無記名自記式質問紙調査を,2012年1月から12月まで実施した。3都府県別に1年間にHIV陽性判明報告のあった施設の受検者となかった施設の受検者間で有意差のあった項目について,多変量解析を行った。統計的有意水準は5%とした。

結果 3都府県における調査協力施設のHIV抗体検査件数は,東京都6,023件,愛知県5,457件,大阪府8,031件であり,東京都4,086件(有効回収率67.8%),愛知県3,764件(同69.0%),大阪府4,848件(同60.4%)の有効回答を得た。調査の実施期間,実施施設におけるHIV陽性率は,東京都0.38%,愛知県0.31%,大阪府0.31%であった。東京都内保健所の受検者は,東京都在住82.4%,再受検者46.3%,MSM(Men who have sex with men)13.8%であった。愛知県内保健所の受検者は,愛知県在住91.8%,再受検者45.2%,MSM15.0%であった。大阪府内保健所の受検者は,大阪府在住88.9%,再受検者45.4%,MSM11.9%であった。多変量解析の結果, 各都府県で最も強く影響していたのは,東京都では,東京都以外の在住者(オッズ比(OR)1.84),MSMであること(OR1.70)であった。愛知県では,愛知県以外の在住者(OR10.65),MSMであること(OR2.02)であった。大阪府では,MSMであること(OR1.96),大阪府以外の在住者(OR1.61)であった。HIV陽性判明報告のあった施設の受検者におけるMSM割合は,東京都16.2%,愛知県16.2%,大阪府13.5%であった。

結論 HIV陽性判明報告のある都市部の保健所の受検者特性として,MSMであること,当該地域以外の在住者であることが明らかとなった。HIV抗体検査事業が,効果的にHIV感染の早期発見につながっていることを評価するために,1年間の受検者におけるMSM割合が15%以上であることが指標となりうる可能性と広域的に検査・支援体制を整備する必要性が示唆された。

キーワード HIV感染症,AIDS,保健所,HIV抗体検査

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

市町村保健センターにおける
住民に生じたアクシデント・インシデントの内容

鳩野 洋子(ハトノ ヨウコ) 島田 美喜(シマダ ミキ) 弓場 栄嗣(ユバ エイジ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 増田 和茂(マスダ カズシゲ)

目的 市町村保健センターにおける住民に生じたアクシデント・インシデントの内容を明らかにすることを目的とした。

方法 全国の1,741市区町村の保健・健康増進等を担当する部署の課長・課長相当職に対して,郵送自記式質問紙調査を実施した。過去に経験したアクシデント・インシデントについて,発生した事象,発生場所,発生した状況について,3事例まで記載を求めた。記載事例のうち,保健事業中に住民に何らかのアクシデント・インシデントが発生した事例を抽出し,事業別にそれぞれの発生内容をコードに整理し,類似した内容をカテゴリとして分類した。コードを『』,カテゴリを[]で示す。

結果 1,231通の有効回答(有効回答率70.7%)のうち,489自治体から814事例の記載が得られ,うち,392事例が住民に生じたものであった。最も記載数が多かったのは予防接種時で,結果的に投与してはいけないワクチンを投与した[誤接種]や,『針刺し事故』等の[接種手技の誤り]が生じていた。次いで乳幼児を対象とした健診時であり,中でも[転落][転倒]や,児の人や物に対する[衝突]が多く記載されていた。成人・高齢者を対象とした健診・検診では,[転倒]のほか,胃透視検査時の[誤嚥],バリウムの排せつ不良といった[副次的な症状の発生]などの記載がみられた。そのほか健康教室や窓口での相談や保健指導時,家庭訪問時においてもアクシデント・インシデントの発生が起こっていた。生じたものの中には,感染症の集団発生や,胃透視後にバリウムによる腸閉塞が生じ人工肛門の装着となったもの,アレルギー食品の接種によるアナフィラキシー状態の発生等,生命の危険性を伴うような重篤な事例もあった。

結論 アクシデント・インシデントは,保健事業の種別を問わず生じており,中には重篤なものもあった。これらには予防可能なものもあるが,予防的な行動をとったにも関わらず生じているものもみられていることから,予防的行動の強化とともに,発生することを想定した準備の必要性が考えられた。

キーワード アクシデント・インシデント,市町村保健センター,住民,保健事業

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

地域在住高齢者が転出に至る要因の研究

-望まない転出を予防するために-
中村 廣隆(ナカムラ ヒロタカ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)
 中川 雅貴(ナカガワ マサタカ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 本研究は,地域在住高齢者を対象として転出する前の状況から転出に至った経緯を縦断的に分析して,転出に至る要因を明らかにし,望まない転出を予防する要因の示唆を得ることを目的とした。

方法 調査は2010年と2013年に全国24市町村にて実施した。65歳以上の要介護認定を受けていない地域在住高齢者131,468人を対象に郵送調査を行い,86,005人(回収率65.4%)から回答が得られた。このうち,最長1,374日間(平均1,152日間)追跡ができた81,810人の中から,767人(男性0.84%,女性1.0%)が転出した。身体状況や機能状態,心理・社会的,社会経済的,社会参加,地域環境や外出頻度を自記式質問紙で調査した。Cox比例ハザードモデルを用いて,転出と上記調査項目との関連について,ハザード比と95%信頼区間(以下,95%CI)を算出した。

結果 分析の結果,人口密度が10分の1になるにつれて1.32(95%CI:1.19-1.47)倍の転出をしていた。環境要因では,1人暮らしだと2.22(95%CI:1.85-2.68)倍,等価所得が200万円未満(400万円以上と比較)だと1.35(95%CI:1.00-1.82)倍のリスクがあった。社会参加・活動の要因では,老人クラブに参加していないと2.27(95%CI:1.79-3.53)倍,スポーツの会に参加していないと1.53(95%CI:1.24-2.68)倍,趣味の会に参加していないと1.32(95%CI:1.11-2.87)倍,趣味がないと1.44(95%CI:1.23-1.89)倍のリスクだった。生活状況の要因では,野菜果物の摂取が週1回未満であると2.20(95%CI:1.14-4.24)倍,肉魚の摂取が週1回未満であると1.55(95%CI:1.03-2.34)倍のリスクだった。主観的な要因では,主観的健康感が悪いと1.40(95%CI:1.18-1.66)倍,地域への愛着がないと3.02(95%CI:2.59-3.53)倍のリスクだった。健康状態の要因では,半年以内に体重減少があると1.36(95%CI:1.12-1.65)倍のリスク,過去1年以内に転倒した経験があると1.45(95%CI:1.14-1.85)倍のリスクだった。し好品の要因では,タバコを吸っていると1.39(95%CI:1.05-1.85)倍のリスクだった。疾病状況では,がんの治療中だと1.43(95%CI:1.03-2.00)倍,心臓病治療中だと1.38(95%CI:1.10-1.72)倍,糖尿病治療中だと1.28(95%CI:1.03-1.60)倍のリスクだった。

結論 高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるためには,積極的な社会参加をすること,地域に愛着をもってもらうこと,健康状態が主観的にも客観的にも保たれていること,食事や所得など生活状態が安定していることが示唆された。

キーワード 地域在住高齢者,転出,社会参加,縦断分析,生活状態

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

生活保護受給者における健診受診関連要因

-基本属性調査を対象として-
齋藤 順子(サイトウ ジュンコ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 高木 大資(タカギ ダイスケ)

目的 生活保護受給者の特性に応じた健康管理支援をすすめるための基礎資料として,生活保護受給者の基本属性調査を用いて,健診受診の関連要因を明らかにすることを目的とした。

方法 A市の生活保護管理システムデータと健診データを結合したデータセットを用い,2015年3月1日~2016年3月31日の間に,A市にて生活保護を受給していた40歳以上75歳未満の者のうち,生活保護受給期間(以下,受給期間)が365日未満や入院・入所中の者(225人)などの除外基準に該当しない2,736人を対象とした。目的変数を健診受診の有無,説明変数を年齢,性別,世帯人数,世帯類型,障害・傷病の状況,受給期間,保護開始前の医療保険の種類としたロジスティック回帰分析を行い,オッズ比および95%信頼区間を算出した。受給期間は2016年4月1日時点における保護開始年月日からの日数とし,すでに保護を廃止・停止している者については廃止・停止年月日までの日数とし「1年以上5年未満」「5年以上10年未満」「10年以上15年未満」「15年以上」の4区分とした。

結果 対象者の平均年齢は59.5歳,世帯の受給期間は平均3,015日(約8年3カ月)であった。対象者全体の健診受診割合は8.2%で,男性に比べて女性の方が高かった(男:6.2%,女:9.9%)。ロジスティック回帰分析の結果,「女性」「障害あり(障害・傷病なしを基準)」が健診受診と正の関連を,「受給期間が10年以上(1年以上5年未満を基準)」「保護開始前の医療保険が未加入・その他(国民健康保険を基準)」が健診受診との負の関連を認めた。受給期間については,「1年以上5年未満」の者に比べて,「10年以上15年未満」の者は調整オッズ比が0.64(95%信頼区間:0.42-0.96),「15年以上」の者は調整オッズ比が0.57(95%信頼区間:0.35-0.91)であった。

結論 生活保護受給者において,保護開始前の医療保険が未加入であること,また受給期間が5年以上と長いほど,健診を受診しにくくなることが示唆された。これらの要因そのものに介入することは困難であるが,保護開始前の医療保険未加入者や受給期間が5年以上と長い受給者は,健診未受診のハイリスク群と捉え,受診勧奨を含めた健康管理支援を進めていくことが効果的である可能性がある。

キーワード 生活保護受給者,生活保護受給期間,健康診査受診,健康管理支援

 

 

 

第65巻第5号 2018年5月

終末期の療養場所の選定における性差の検討

大宮 朋子(オオミヤ トモコ) 福井 小紀子(フクイ サキコ) 中島 梨枝子(ナカジマ リエコ)

目的 終末期を過ごす場所に関する意向について,男女で違いがあることが明らかにされているが,その理由や関連要因についてはこれまで検討されてきていない。本研究は,療養場所の選定について,男女別に関連する要因を検討し,在宅医療推進への提言を得ることを目的とした。

方法 層化2段階無作為抽出した全国の40歳以上80歳未満の男女2,000名を対象に,無記名自記式質問紙郵送調査を2010年3月に実施した。基本属性,慢性疾患の有無や自身の受療,介護・看取り経験,終末期に希望する療養場所(自宅,医療機関,ホスピス・緩和ケア病棟(PCU),老人ホームや民間のケア施設等(公的・私的施設)の4群),療養場所を選択する際に重視する事柄21項目について尋ね,単純集計,因子分析,希望する療養場所3群(レファレンスカテゴリ:自宅)を従属変数とした男女別多項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 有効回答1,019名を分析した結果,療養・死亡場所として男性の51.5%,女性の36.6%が自宅を希望した。療養場所を選択する際に重視する事柄は,「Ⅰ療養における家族への負担」「Ⅱ医療やケア体制の充実度」「Ⅲ医療制度やケアの積極的利用意向」「Ⅳ自分の望んだ環境で自分らしく過ごすこと」「Ⅴ自分の死を経験する家族へのサポート」の5因子のほとんどの項目で男性より女性の得点が高かった。65歳以下で,娘がいる男性は医療機関より自宅を希望し,男性では身近な人のがん死経験があること,女性ではかかりつけ医がいることが医療機関選択と関連していた。女性は死後の家族のサポートを重視する場合,自宅ではなく医療機関や公的・私的施設を選んでいた。

結論 女性は男性より終末期の療養場所について慎重に検討する傾向があり,それには介護経験が関連している可能性がある。娘と同居している男性は自宅療養を希望していたことから,今後娘の介護負担の増大が懸念され,支援を考えていく必要がある。また,女性は自分の死後に残された家族への支援体制を充実させることで,終末期の在宅療養を推進していくことが可能になると考えられる。男女ともに,訪問看護やレスパイト施設,地域包括ケア病棟など在宅療養を支える選択肢の拡大とそれらを有効活用する方法について,医療関係者が情報発信を行っていく必要がある。

キーワード 終末期,療養場所,自宅,医療機関,性差,全国調査

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

特別養護老人ホームの「地域における公益的取組み」
の実施状況と関連要因

島﨑 剛(シマサキ ツヨシ)

目的 本研究は,社会福祉法人の「地域における公益的取組み」について,特別養護老人ホーム(以下,特養)に焦点をあて,その実態を明らかにし,実施の有無に関連する要因を検討することを目的とした。

方法 調査方法は,全国の特養9,495箇所より,都道府県別に2,000箇所を層化無作為抽出し,公益的取組み担当者あてに,無記名自記式質問紙を用いた郵送調査を実施した。分析方法として,すべての項目で単純集計を行い,公益的取組みの実施有無に関連する要因について,仮説を「実施群と未実施群では,実施体制と推進状況が異なる」とし,公益的取組みの実施群と未実施群の2群でクロス集計を行い,χ2検定およびMann-WhitneyのU検定を実施した。その後,公益的取組みの実施有無を従属変数とし,各検定で有意差のあった変数を独立変数とした二項ロジスティック回帰分析を実施した。回収数は365部(有効回収率18.3%)で,欠損値が多いものを除き,最終的な分析対象は357部とした。

結果 本調査で得られた実施群(225件)における公益的取組みの内容は「交流の場の提供」や「福祉教育」が多かった。また,「災害時対応」や「総合相談」「生活困窮者支援」など,制度の狭間の生活課題への対応や高齢者に限定しない取組みもみられた。さらに,公益的取組みの対象としては高齢者のみが最も多かった。公益的取組みの実施有無に関連する要因は,実施群と未実施群で実施体制と推進状況に有意差がみられた。特に,住民との話し合い,住民との取組みの計画策定が関連していた。

結論 本調査結果から,公益的取組みの内容として,特養が従来から担ってきた施設機能が生かされていたものが多く,今後対象を拡大する必要性が示唆された。また,本調査では回収率が18.3%であったことから,公益的取組みの担当者が不在で,未実施の施設も多くある可能性が示唆された。一方で,公益的取組み実施の関連要因として,住民との協議の場を持ち,計画段階から協働する体制を整えることが公益的取組みの推進に寄与すると考えられることから,施設全体の組織的な体制づくりと住民との協働による取組み推進の必要性が示唆された。

キーワード 社会福祉法人,特別養護老人ホーム,地域における公益的取組み,地域福祉実践

 

 

 

第65巻第6号 2018年6月

健康寿命に影響を与える年齢階級別医療費および
要介護度別介護費用についての検討

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 加藤 里香(カトウ サトカ)
松川 晃子(マツカワ アキコ) 鳥海 弥寿雄(トリウミ ヤスオ)

目的 健康寿命の延伸に医療費と介護費が有効に費やされているかを検討した。

方法 2013年の健康寿命推定値,1人当たり市町村国民健康保険医療費(以下,国保)・後期高齢者医療制度医療費(以下,後期高齢)・介護費を用いて,⑴健康寿命と国保・後期高齢・介護費との相関関係,⑵健康寿命を目的変数,国保・後期・介護費を説明変数とした重回帰分析を行い,検討した。

結果 ⑴健康寿命と年齢階級別国保・後期高齢・介護費との相関関係の検討において,国保総計は男女①「日常生活に制限のない期間」・男③「健康であると自覚している期間」とは負,女②「日常生活に制限のある期間」④「健康であると自覚していない期間」とは正,後期高齢総計は男女①③とは負,男女②④とは正,介護費総計は男女①女③とは正,男女②④男⑤「日常生活動作が自立している期間」とは負の相関を示した。国保年齢別では男①は幼〜中年期,③は幼・少年と壮年〜前期高年期,⑤は幼年と青〜中年期で負,女①③は幼年と中・前期高年期で負,②④は中・前期高年期で正,後期高齢では女①男・女③は前・中後期高年期で負,男②男・女④女②は前・中後期高年期で正の相関を示した。介護費では男②は要支援2・要介護1〜3,④は要支援2,⑥「日常生活動作が自立していない期間」は要支援2・要介護1〜5,⑤は要介護3〜5,女⑥は要介護1〜2で負,男①は要介護1〜2,女①は要介護1〜3,女⑤は要介護1〜2で正の相関を示した。⑵健康年齢を目的変数,年齢階級別国保・後期高齢・介護費を説明変数とした重回帰分析においては,男①が目的変数では要介護1の回帰係数は正,15〜19歳・要介護5は負,男②では80〜84歳は正,要支援2は負,女①では65〜69歳・要介護1は正,70〜74歳・80〜84歳は負,女②では70〜74歳・80〜84歳は正,男③では0〜4歳・100歳〜は負,男④では10〜14歳・50〜54歳・70〜74歳・80〜84歳は正,20〜24歳・要支援2は負,女③では65〜69歳は正,10〜14歳・70〜74歳・75〜79歳は負,女④では70〜74歳・80〜84歳は正,20〜24歳は負,男⑤では0〜4歳は負,男⑥では要介護2は負,女⑤では要介護1は正,女⑥では要介護2は負であった。

結論 相関関係より①③の延伸に「低医療費・高介護費」,②④の延伸に「高医療費・低介護費」であった。そして重回帰分析より国保では男②⑥と女⑤⑥,後期高齢では男①⑤⑥と女⑤⑥,介護費では男③⑤と女②③④で医療費・介護費が有効に費やされていない結果であった。

キーワード 健康寿命,医療費,介護費,市町村国民健康保険,後期高齢者医療制度

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

個人および地域レベルにおける要介護リスク指標と
ソーシャルキャピタル指標の関連の違い

-JAGES2010横断研究-
井手 一茂(イデ カズシゲ) 宮國 康弘(ミヤグニ ヤスヒロ)
中村 恒穂(ナカムラ ツネオ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 地域づくりによる介護予防を推進する上で地域診断が重要とされ,ソーシャルキャピタル(Social Capital,以下,SC)が注目されている。地域診断指標の課題に生態学的錯誤(地域レベルの変数間の関連から個人レベルの関連を誤って推論),個人主義的錯誤(個人レベルの変数間の関連から地域レベルの関連を誤って推論)が挙げられる。地域診断に用いるSC指標にはこの両者がないことが望ましい。本研究の目的は,個人・地域の両レベルにおいて2つの錯誤がない要介護リスクと関連を示すSC指標を抽出することを目的とした。

方法 本研究は,日本老年学的評価研究(JAGES)2010に参加した25保険者31市町村の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者98,744名を分析対象とした。個人レベルのロジスティック回帰分析(有意水準5%)の目的変数には,基本チェックリストの要介護リスク指標である生活機能低下,フレイル,運動機能低下,低栄養,口腔機能低下,閉じこもり,認知機能低下,うつの8指標を使用した。説明変数は,SC指標(社会的サポート,社会参加,社会的ネットワーク,SaitoのSC指標)の頻度別35指標(280モデル)とした。調整変数は,年齢,性別,教育歴,等価所得,疾病の有無,主観的健康感,婚姻状態,家族構成とした。地域レベルの分析単位は校区とし,Spearmanの順位相関分析(有意水準5%)を実施した。変数は個人レベルと同様とし,年齢(前期・後期高齢者)による層別化を実施し,1校区あたり30名以上の前期349校区,後期287校区を分析対象とした。

結果 個人レベルではSC指標が高いほど要介護リスク全8指標が有意に低い保護的な関連が28/35指標(80.0%)でみられた。しかし,地域レベルではSC指標が高いほど要介護リスクが高い非保護的な関連が20/35指標(57.1%)で1つ以上みられた。生態学・個人主義的錯誤がなく,要介護リスクに保護的なSC指標は,社会的サポート,社会参加のうち,ボランティア(週1回,月1~2回),スポーツ・趣味(週1回,月1~2回,年数回),就労ありとSaitoのSC指標(社会参加,連帯感)の15/35指標(42.9%)に留まった。

結論 生態学・個人主義的錯誤は20/35指標(57.1%)でみられ,2つの錯誤がなく要介護リスク抑制を示唆する地域診断指標は,社会的サポートやボランティア・趣味・スポーツ・就労など一部(42.9%)のSC指標に留まった。

キーワード ソーシャルキャピタル,介護予防,地域づくり,地域診断,生態学的錯誤,個人主義的錯誤

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

臨床研修制度導入以降における
ジニ係数を用いた医師の地域偏在に関する検討

石川 雅俊(イシカワ マサトシ) 福本 大悟(フクモト ダイゴ)

目的 2004年4月に臨床研修制度が導入されて以降,地方の医師不足問題を顕在化させたという指摘がある。厚生労働省は,地域の医師確保の観点から,臨床研修募集定員の適正化や医学部入学定員における地域枠の増員などの対策を行っている。一方で,医師の総数は増加傾向にあり,地方においても一定程度,医師数が増加しているものと推察される。本研究の目的は,2004年度に卒後臨床研修制度が新たに導入されて以降,医師の地域偏在が変化したかについて,全二次医療圏の人口10万人あたり医師数(以下,人口あたり医師数)やその平等性の観点から定量的に検証することである。

方法 平成16年と平成26年の医師・歯科医師・薬剤師調査および人口動態統計の結果を用いて,平成28年4月1日時点の全二次医療圏における医師数や人口などを集計したうえで,人口あたり医師数やジニ係数の推移を検証した。

結果 医師数は,平成16年256,668人から平成26年296,812人と,40,144人(増加率15.6%)増加していた。また,人口あたり医師数は,平成16年198.6人から平成26年226.7人と,28.1人(増加率14.1%)増加していた。一方,人口あたり医師数のジニ係数は,平成16年0.211に対して平成26年0.212と,ほとんど変化していなかった。二次医療圏でみると,人口や人口密度が大きいほど,人口あたり医師数が多くなる傾向がみられた。経年的には,人口や人口密度が大きいほど人口あたり医師数の増加率が高くなる傾向がみられた。ジニ係数は,人口や人口密度がそれぞれ第3四分位を上回る群で減少傾向にあったのに対して,その他の群では増加傾向にあった。

結論 医師の地域偏在の解消にあたっては,各地域の実情を踏まえたより効果的な偏在対策の実施が求められている。

キーワード 医師の地域偏在,二次医療圏,ジニ係数

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

長時間労働とウェル・ビーイング

-社会企業家を対象としたデータ分析からの示唆-
松島 みどり(マツシマ ミドリ)

目的 本研究は,長時間労働とウェルビーイングの関係について仕事特性と個人特性の一致を考慮して定量的に明らかにし,人々の働き方への示唆を得ることを目的とした。

方法 本研究で用いるデータは,2015年に社会企業家リーダーを対象に実施したアンケート調査の回答者(427名)である。アンケート内に社会企業家特性を測定することが可能となる設問を設けることで,社会企業家特性を考慮に入れた分析を行っている点が本研究の特徴である。分析には順序プロビットモデルを用い,被説明変数にはウェルビーイングの指標として,幸福度,主観的健康感,満足度(仕事,余暇の過ごし方,家計の状態,家族関係,友人関係)を使用,着目変数として労働時間と社会企業家特性を加えた。

結果 分析の結果,社会企業家特性を考慮に入れない場合には,労働時間の長さは主観的健康感,余暇の過ごし方,家計の状態への満足度と負の相関を示し,それ以外の指標については統計的に有意な関係は示されなかった。一方で,社会企業家特性を考慮すると,社会企業家特性が弱い,つまり仕事特性と一致しない場合には労働時間とすべてのウェルビーイング指標が負の相関関係を示したのに対して,社会企業家特性が強い場合には,労働時間が長い人ほど高い幸福度,主観的健康感,仕事満足度を選択する確率が高くなっていた。ただし,社会企業家特性が強い場合でも,余暇の過ごし方や家計の状態,家族関係,友人関係などについては,労働時間が長いと満足度が低下する傾向が確認された。

結論 一般的には長時間労働はウェルビーイングに負の影響を与えるものの,仕事特性と労働者の特性が合致している場合には,その限りではないことが明らかとなった。ただし,特性の一致に関わらず,長時間労働者は仕事以外の生活満足度については低い満足度を示しており,私的な時間については長時間労働の負の影響が認められる。本研究の結果は社会企業家の一部のデータを用いた分析結果であるため一般化には注意を要するが,長時間労働の心身への影響を考える上でも一定の示唆を与えるものと考えられる。

キーワード 長時間労働,幸福度,主観的健康感,満足度,社会企業家

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

静岡県が設定する健康づくりの新三要素(運動・栄養・社会参加)
を取り入れた教室の効果に関する比較試験

久保田 晃生(クボタ アキオ) 岡本 尚己(オカモト ナオキ) 野中 佑紀(ノナカ ユウキ)
萩 裕美子(ハギ ユミコ) 松本 正敏(マツモト マサトシ) 稲益 大悟(イナマス ダイゴ)
村井 美保子(ムライ ミホコ) 間瀬 由里子(マセ ユリコ) 佐藤 圭子(サトウ ケイコ)

目的 運動と栄養の指導に加え,社会参加の指導および実践の場面を意図的に取り入れた教室を考案し,健康づくり,介護予防関連の評価指標への効果を介入研究で検証した。

方法 非無作為割付による並行群間比較試験である。静岡県下田市の65歳以上の高齢者で,地域包括支援センターの協力で研究参加者を募り,介入群21人(76.2±4.7歳),対照群24人(78.0±4.7歳)で実施した。介入群には運動,栄養,社会参加を取り入れた教室(以下,教室)を実施した。全14回で1・14回目は,効果を評価する測定会を行った。測定会では運動面(5m最大歩行時間,開眼片足立ち,握力,下肢筋力,Timed Up & Go,運動自己チェック),栄養面(食生活自己チェック),社会参加面(社会関連性指標,社会参加自己チェック)を測定した。2回目から13回目は,運動は毎回,栄養と社会参加は隔週で指導および実践を取り入れた。なお,運動は,自体重を用いた筋力トレーニングや体操を実施した。栄養は,塩分摂取に重点を置き指導した。社会参加は,社会参加活動の情報提供と,グループ活動を行った。グループは,3~4人程度で3つの課題(ウォーキングマップの作成,健康づくり・介護予防のチラシづくり,グループ体操の作成)に取り組んだ。対照群は,介入群の測定会のみ同様に行った。介入効果の検証は,時点と群の2要因による反復測定の分散分析を実施し,2要因間の交互作用を検討した。また,対応のあるt検定で群内比較を施した。

結果 介入群では運動面の開眼片足立ち,Timed Up & Go,栄養面の食生活自己チェック,社会参加面の社会参加自己チェックで,群内の有意差(p<0.05)が認められた。一方,対照群では,運動面の開眼片足立ち,Timed Up & Goで,群内の有意差(p<0.05)が認められた。いずれも好ましい変化を示した。2要因による反復測定の分散分析を実施したが有意な交互作用は認められなかった。

結論 本研究は社会参加を強調した新たな健康づくり教室であったが,実施上の課題も多く,交互作用は認められず介入効果を強く支持できないこともあり,評価指標や内容の改善が必要である。

キーワード 運動,栄養,社会参加,健康づくり教室

 

 

 

第65巻第4号 2018年4月

ホームヘルパーの自己成長感に関連する要因

-個別ケアの実践度に焦点をあてて-
広瀬 美千代(ヒロセ ミチヨ)

目的 在宅介護においてホームヘルパーは,非常にストレスフルな状況にあるといえるが,ネガティブな状況下においても学びや成長を感じる等の肯定的な側面を見いだせているかといった価値的側面を探求することが求められる。本研究においては,ホームヘルパーの自己成長感に関する要因を適切なアセスメントと突発的な支援ができるという個別ケアに焦点をあてて検討することを目的とした。

方法 A県内の訪問介護事業所から無作為抽出した,600名を対象とする自記式郵送調査を行った。調査票の有効回収数は149通,有効回収率は24.8%となった。質問項目は「自己成長感」,性別,年齢,ヘルパー経験年数,仕事継続意識,および「新たな気づきと突発的支援」であった。統計分析においては「自己成長感」について,「新たな気づきと突発的支援」を潜在変数とする1因子モデルを設定し,確証的因子分析を行った。また,構造方程式モデルを用いて適合度と各変数間の関連性を確認した。

結果 欠損値のない131人のデータを用いて,「自己成長感」3項目および「新たな気づきと突発的支援」7項目による1因子モデルを設定し,構造方程式モデリングを用いて確証的因子分析を実施した結果,統計学的な水準を満たし,構成概念妥当性が支持された。また,「新たな気づきと突発的支援」が「自己成長感」を規定するとした因果関係モデルのデータに対する適合度は,χ2(df)=73.863(72),RMSEA=0.014,CFI=0.999と統計学的な許容水準を満たしていた。また,尺度のCronbachのα係数は,すべての因子において0.870以上を示した。さらにヘルパーの経験年数と「新たな気づきと突発的支援」,仕事継続意識と「自己成長感」の間には,有意な関連が確認された。

結論 本研究におけるホームヘルパーの「自己成長感」は,信頼性と構成概念妥当性が得られたことから尺度として使用可能であると判断した。また,「新たな気づきと突発的支援」は「自己成長感」と関連がみられた。本研究結果から,ヘルパーとしての経験を積み,様々な気づきを通じて突発的な対処能力が高まることで個別ケアが可能となると,学びや成長を自覚していく可能性があることが示唆された。今後の課題としては因果関係の明瞭さを高めるため,質問項目を吟味し,調査対象者を拡大して実施することが求められる。

キーワード ホームヘルパー,自己成長感,個別ケア,ヘルパー経験年数,仕事継続意識,構造方程式モデリング

 

 

 

第65巻第3号 2018年3月

障害福祉制度へのつながりにくさに関する一考察

-北海道内ホームレス支援施設利用者調査結果の分析から-
山口 大輔(ヤマグチ ダイスケ)

目的 本研究の目的は,北海道内のホームレス支援施設利用者の障害者手帳の取得状況と支援課題の関連について検討し,利用者の障害福祉制度へのつながりにくさについて考察することである。

方法 調査は,北海道内の7カ所のホームレス支援施設を対象として,ホームレス支援施設で利用者支援に従事している支援者に利用者個々の情報を記載する転記票調査を実施した。転記の範囲は「2015年6月30日」に施設を利用していた利用者全員とした。調査項目は,基本属性,入所直前の生活場所,入所につなげた人や機関,障害者手帳の取得状況(手帳の取得時期と障害の疑いの有無),支援課題などである。

結果 分析の視点として,利用者の障害者手帳の取得状況に着目し,①「入所前」に障害者手帳を取得した事例,②「入所後」に障害者手帳を取得した事例,③障害の「疑いあり」の事例の三つに区分した上で,支援課題との関連について検討した。その結果,上記の三つのタイプに共通しているのは,支援課題として「日常生活支援」の必要性と同時に,「障害福祉の支援拒否への対応」という要因が見いだされた。そのなかで,障害者手帳の取得にまでつながっていかない事例と手帳取得につながり,制度につながったとしても,一時的なものであり,制度利用をして支援を受け続けるという状態が「長続きしない」という事例が明らかとなった。さらに,その背景には,利用者の「精神的な不安定さ」「対人関係の困難さ」という要因が影響していたと考えられる。

結論 障害のある人に対して障害者手帳の取得,つまり障害認定の申請につなげて,障害福祉制度・サービスを利用するという支援が一般的な考え方ではあるが,困難や不利が複雑化している利用者にとっては,制度がうまくつながっていかない現状が示されたといえる。障害があるため,フォーマルな制度である障害福祉制度へつなげるという支援の方法では,背景が複雑である生活困窮者に対する支援の方法としては狭い捉え方であり,インフォーマルな支援の構築という視点に基づいたきめ細かい支援対応が必要になると考えられる。

キーワード ホームレス支援施設利用者,障害者手帳,障害福祉制度,支援課題,生活困窮者

 

 

 

第65巻第3号 2018年3月

介護福祉施設への介護ロボット導入効果と
今後の課題および可能性に関する質的検討

佐野 千尋(サノ チヒロ) 渡邊 久実(ワタナベ クミ) 酒寄 学(サカヨリ マナブ)
宇留野 功一(ウルノ コウイチ) 宇留野 光子(ウルノ ミツコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,介護ロボットを導入した社会福祉法人の職員を対象にフォーカスグループインタビューを実施し,介護ロボット導入による効果と今後の課題および可能性を明らかにすることを目的とした。

方法 茨城県の社会福祉法人Hにおいて介護ロボットを使用する職員6名(理学療法士1名,作業療法士1名,介護福祉士1名,介護支援員1名,生活支援員2名)を対象に,フォーカスグループインタビューを実施した。分析は逐語記録より重要アイテムの抽出,類型化を行い,重要カテゴリーを抽出した。

結果 対象者全員が介護ロボット導入によるポジティブな変化や効果について述べていた。セラピー用アザラシ型ロボット導入の主な効果は,職員のストレス軽減やコミュニケーションの促進,利用者の言動の活発化や認知症の周辺症状の緩和等であった。介護支援ロボットスーツ導入の主な効果は,職員の身体的負担の軽減やリクルート活動への影響であった。また,介護ロボットの使用に際する今後の課題および可能性では,介護ロボットを使いこなすための技術の習得の重要性や新たな使用法の検討,使用についてアドバイスし合える環境づくりなど多様な意見が聞かれた。

結論 介護ロボット導入による効果として利用者や職員,環境でのポジティブな変化が聞かれた一方で,さらなる有効活用に向けた使用体制の構築や新たな活用の検討等の工夫展開が必要であると考えられる。本研究の成果をもとに,実践における介護ロボットの有効活用が期待される。

キーワード 介護ロボット,フォーカスグループインタビュー,質的研究

 

 

 

第65巻第3号 2018年3月

血液透析患者を対象とした心理状態の類型化とその特徴

竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 杉山 京(スギヤマ ケイ) 仲井 達哉(ナカイ タツヤ)

目的 血液透析患者の抑うつ状態の早期発見に有用な資料を得るために,血液透析患者の視点から心理状態を類型化し,抑うつ状態のリスクの高い心理状態を探索することとした。

方法 A県内の透析施設に通院する血液透析患者2,000名を対象に,無記名自記式の質問紙調査を実施した。調査内容は属性,心理状態,抑うつ状態などで構成した。統計解析は,心理状態について潜在クラス分析を用いて類型化を行い,次いで各クラスの特徴を確認するため,属性,抑うつ状態(K6)などについて有意差検定を行った。

結果 解析には,回収された1,137名の調査票のうち当該項目に欠損値のない862名の資料を用いた。血液透析患者は心理状態により6つのクラスに類型化され,年齢や透析歴,抑うつ状態においてクラス間に有意差が確認された。なかでもK6に関しては,クラス3の平均得点が最も低く,多重比較の結果,クラス3はクラス1,クラス2,クラス4,クラス6との間に有意差が確認された。

結論 クラス3以外の5つのクラスが抑うつ状態の可能性のある患者の割合が高い集団であると考えられた。本調査研究は単県の透析患者を対象としたものであることから,今後は他の地域での追試が課題である。また,透析患者の抑うつ状態の評価に関してはK6を用いた研究が僅少であり,後続研究との比較が課題である。

キーワード 血液透析,心理状態,類型化,潜在クラス分析

 

 

 

第65巻第3号 2018年3月

3歳児歯科健診からみたう蝕の地域格差について

藤山 友紀(フジヤマ ユキ) 田代 敦志(タシロ アツシ)

目的 3歳児におけるう蝕の地域格差について,地理情報システム(GIS)を用いて国勢調査の小地域統計データを活用した分析を行い,背景にある個人要因と環境要因を可視化し,う蝕との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 新潟市A区における平成23年度の3歳児の歯科健診受診者613人を対象に,「う蝕の有無」を目的変数,「性別」「おやつの回数」「甘味飲料摂取の有無」「歯磨剤使用の有無」「フッ化物歯面塗布の有無」を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。次に同区の平成21~23年度の健診受診者1,835名を対象に,う蝕を有する者の割合と統計解析で有意な影響を認めた個人要因の分布状況をGIS上で可視化し,両者の関連について地理空間上で比較を行った。さらに,環境要因として,居住地の「人口密度」「産業別人口比率」「歯科医院から居住地までの直線距離」および「地域住民の学歴割合」を取り上げ,小地域統計データを用いてう蝕有病率との関係を分析した。

結果 ロジスティック回帰分析の結果,甘味飲料摂取の有無とフッ化物歯面塗布の有無にう蝕との関連が認められ,それぞれのオッズ比は1.66(95%信頼区間(CI)1.08-2.56),0.55(95%CI 0.35-0.88)であった。GISを用いた可視化により,行政区域に関わらないう蝕の有病状況と個人要因の分布が捉えられた。環境要因との比較において,人口密度では密集地区と過疎地区に比較して中間地区でう蝕有病率が低い傾向が認められ,産業人口比率では2次産業の割合が30%以下の地域でう触有病率の低い傾向が認められ,歯科医院から居住地までの直線距離についても,距離に依存してう触有病率が高くなる傾向にあったが,χ2検定において有意差は認めなかった。さらに,地域住民の大学卒業割合が高い地域では,有意にう蝕が少ない結果が得られたが,う蝕に関連する変数について級内相関係数を求めた結果,地域差の多くは個人レベルで説明されると考えられた。

結論 3歳児におけるう蝕とその要因の広がりをGISにより地理空間上で初めて可視化し,う蝕の背景にある地域性を分析し,居住する地域の環境要因とう蝕有病率の関係を明らかにした。今後は,分析結果をもとにう蝕有病率の低下に向けて,地域の実情に合った取り組みが必要と考えている。

キーワード う蝕,地域格差,小地域統計,GIS,個人要因,環境要因

 

 

 

第65巻第3号 2018年3月

訪問・通所リハビリテーション利用者の
特性と課題に関する実態調査

曽根 稔雅(ソネ トシマサ) 中谷 直樹(ナカヤ ナオキ) 遠又 靖丈(トオマタ ヤスタケ)
辻 一郎(ツジ イチロウ) 川越 雅弘(カワゴエ マサヒロ)

目的 本研究の目的は,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)利用者と通所リハビリテーション(以下,通所リハ)利用者における特性や課題の違いを明らかにすることに加え,それぞれの利用者が抱えている課題を要介護度別に分析することである。

方法 本研究の対象者として,各事業所に勤務するリハビリテーション(以下,リハ)担当者1名当たり1名の利用者の抽出を依頼し,訪問リハは2016年1月1日時点,通所リハは2015年10月1日時点での調査を実施した。調査項目は,利用者の特性,ケアマネジャーが考える解決すべき課題,リハ計画書の作成者が設定した日常生活上の課題であった。利用者の特性と課題について,訪問リハ利用者と通所リハ利用者との差を検討するため対応のないt検定およびχ2検定を実施した。また,要介護度別の傾向性を検討するためCochran-Armitage検定を実施した。

結果 訪問リハでは1,266事業所の利用者3,989名,通所リハでは467事業所の利用者1,840名から回答を得た。利用者の特性として,訪問リハ利用者は,通所リハ利用者より要介護度が重度の者,日常生活自立度の低い者が多かった。課題として,訪問リハ利用者は,起居動作やADLにおける身辺動作,介護負担軽減,買い物,余暇活動の課題が多く,通所リハ利用者は,歩行・移動,閉じこもり予防,社会的参加支援の課題が多かった。要介護度別に検討した結果,訪問リハ利用者と通所リハ利用者共通の課題として,要介護度が重度になるほど,ADLや介護負担軽減の課題が多く,IADL維持・向上,社会的参加支援の課題が少ないことが示された。また,筋力向上,筋持久力向上,歩行・移動,階段昇降,閉じこもり予防の課題は,訪問リハ利用者で要介護度が重度になるほど少なくなるのに対し,通所リハ利用者では要介護度における違いは示されなかった。さらに,身体機能に関する課題は,活動や社会参加に関する課題より多いことが示された。

結論 訪問リハは利用者の生活環境で実施されること,通所リハは機器が整備され,他の利用者との関わりを通じた支援ができる環境にあることから,それぞれの特性が活かされた形で課題が挙げられていた。また,身体機能に関する課題は依然として多いことが示され,高齢者個々人のQOLの向上を目指すためには,さらに活動や社会参加に関する課題に目を向けていく必要があると考える。これら課題の特徴を踏まえることは,利用者の居宅サービスにおけるリハの均てん化に向けた重要な視点になるものと思われる。

キーワード 訪問リハビリテーション,通所リハビリテーション,実態調査

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

医療・福祉関係統計調査の現状と体系的整備に関する研究

増田 雅暢(マスダ マサノブ)

目的 本研究は,厚生労働省が実施している医療・福祉関係の基礎的な統計調査について,その現状を体系的に整理するとともに,行政担当者や地方自治体の関係者に対するヒアリング等を行うことにより,その課題を抽出し,今後の改善方策を提案することをねらいとした。研究対象としては,国民生活基礎調査や21世紀出生児縦断調査等の縦断調査,社会福祉施設等調査,医療施設調査,患者調査,社会医療診療行為別統計等,厚生労働省の旧統計情報部が所管している10本の統計調査を選択した。

方法 研究方法としては,学識経験者による委員会を組織し,定期的に意見交換を行う会議を開催したほか,委員の間で分担を決めて,各統計調査の現状と課題等を整理した。また,厚生労働省の統計調査の担当者に意見聴取を行ったほか,地方自治体へのヒアリングを行った。

結果・結論 10本の統計調査に関する現状と課題について,それぞれ個別に指摘した。例えば,国民生活基礎調査の課題として,回収率の低下とその対応策,行政記録の利用とその可能性,外国人の増加への対応,介護・医療に関する調査項目の追加等について言及した。10本の統計調査の現状と課題を踏まえた統計調査全体の今後の課題として,①予算上の制約に対応するために,統計調査の担当部局が,統計調査に関連する省内の関係部局と密接な連携を図り,関係部局の援護も受けながら予算確保に努める必要があることや,調査内容・項目の変更・追加等について,統計調査の担当部局がイニシアチブをとってもよいこと,②調査内容や調査結果の集計・公表方法について,統計調査に協力している地方自治体や統計調査のユーザーである研究者等の意見を反映する必要があること,③地域包括ケアシステムの構築や福祉人材の確保問題,在宅医療と介護の連携強化など,こうした新しい政策の流れや,オンライン調査やビッグデータの活用など,新たな調査方法に対応していく必要があることを指摘した。

キーワード 基幹統計,一般統計,縦断調査

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

中山間地域住民の食事・買い物の状況からみた
自宅生活継続のための方策の検討

長谷 亮佑(ハセ リョウスケ) 山口 奈津(ヤマグチ ナツ) ホセイン マハブブ(ホセイン マハブブ)
髙橋 秀和(タカハシ ヒデカズ) 小林 敏生(コバヤシ トシオ) 田邉 剛(タナベ ツヨシ)

目的 わが国では急速な高齢化が進み,社会保障費の増大も続く中,できるだけ長く住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう地域包括ケアシステムの構築が目指されている。地域での生活を継続するためには,必要な条件が様々あるが,生活の中での日々の食事摂取は最も重要なものの一つで,そのための買い物も欠かせない。本研究の目的は,高齢化が進み,地区内に商店もない中山間地域住民の食事摂取と買い物の状況などを分析し,自宅生活継続のための方策を検討することである。

方法 山口県岩国市錦地域で,行政と関係機関などで構成される錦地域住民支援連携会議が主体となって,2012年11月から2015年3月までの間に3つの地区の計194人の住民に住民生活・健康調査が行われた。調査員の全戸訪問による聞き取りアンケート調査で,質問項目は,性別,年齢,職業,世帯構成といった基本的属性,食事の頻度や内容,買い物や交通手段といった日常生活の実態等であった。

結果 回答者の年齢の中央値は78(範囲29-101)歳で,高齢化率は87%であった。食事摂取状況は「毎日規則正しく食事を摂っている」が190人(98%),「困らない程度に食べている」が3人(2%),「食事が摂れずに困っている」が1人(1%)であった。13人の独居男性も含めた191人(98%)は自炊もしくは同居の家族が作る食事であった。主な買い物手段は自家用車・バイクが120人(62%)と最も多く,家族に依頼27人(14%),宅配サービス21人(11%),移動販売車10人(5%),路線バス8人(4%)であった。

結論 中山間地域の住民は,野菜を自給し,独居の高齢男性でも自炊するなど個々の生活能力が高いため,近くに商店や飲食店がなくても生活を継続できている。しかし,今以上に高齢化し,新たに要介護状態になる者も出てくる中で,中山間地域の住民の多くが他の地域に移転せざるを得なくなる可能性も考えられる。移動販売車や宅配サービス,配食サービスなどにより自宅生活が継続しやすくなるかもしれないが,今後もさらに人口減,高齢化が進む中山間地域では今ある民間サービスの継続さえ厳しいと思われる。一方で,地域調査や住民説明会をきっかけに,住民ボランティアの助け合い組織が活性化したり,解散していた老人会が復活したりしており,地域住民が自ら地域課題に取り組む動きが出てきている。その中で,車の乗り合わせを地域内でさらに促進するなど,住民の互助を促進するような取り組みが活発になることを期待したい。

キーワード 地域包括ケアシステム,中山間地域,食事摂取,買い物,互助

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

高校におけるヤングケアラーの割合とケアの状況

-大阪府下の公立高校の生徒を対象とした質問紙調査の結果より-
濱島 淑恵(ハマシマ ヨシエ) 宮川 雅充(ミヤカワ マサミツ)

目的 日本におけるヤングケアラーの実態把握は,諸外国と比較して,遅れているのが現状である。本研究では,高校におけるヤングケアラーの実態を,高校生自身の主訴,認識に基づいて把握することを目的とした。

方法 2016年1~12月に,大阪府下の公立高校において,生徒を対象とした質問紙調査を実施した。

結果 10校の協力を得ることができ,合計で5,671票の調査票が回収された。そのうち,本研究の分析対象は,5,246票となった。別居している家族も含め,家族にケアを必要としている人がいるかを尋ねた結果,5,246名のうち664名(12.7%)がいると回答していた。さらに,325名(6.2%)が,回答者自身がケアをしていると回答していた。なお,そのうち,53名は,幼いきょうだいがいるためという理由のみでケアをしていた。325名から,この53名を除外した結果,272名がヤングケアラーと考えられ,その割合は5.2%であった。ケアの内容に関する回答結果からは,高校生のヤングケアラーは,ケアを要する家族に,直接,身体的なケアを行っている場合もあるが,家事を担う,年下のきょうだいの世話をする,感情面でのサポートをする,特定の場面で力仕事や外出時の介助・付き添いをするといったケア役割が回ってきやすいことが示唆された。また,ケアの期間については,中央値が3年0カ月,75パーセンタイルが6年5カ月であり,ケア役割が常態化,長期化しつつあるケースが一定数存在することが示唆された。ケアの頻度,1日のケア時間に注目して,負担がより大きいと考えられるヤングケアラーの割合を求めた結果,週4,5日以上ケアをしている者は2.3%,学校がある日に1日2時間以上のケアをしている者は1.2%,学校がない日に1日4時間以上のケアをしている者は1.2%,学校がある日に1日2時間以上,かつ,学校がない日に1日4時間以上のケアをしている者は1.0%存在すると考えられた。

結論 日本の高校においても,ヤングケアラーは存在し,負担が大きいと考えられるケースもそこには含まれていることが示された。また,彼らの担うケアの特徴から,その存在は潜在化しやすいことが示唆された。家庭内でのケア役割を担うことが彼らに過度な負担を強い,将来の可能性を狭める経験とならないように,ヤングケアラーの支援体制を社会的に構築する必要があると考えられる。

キーワード ヤングケアラー,若年介護者,介護者支援,家族支援,高校生,質問紙調査

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

身体活動とレジリエンスの関連

-自衛隊員における検討-
小島 令嗣(コジマ レイジ)

目的 うつ病の有病率は増加傾向にあり,大きな社会問題である。ストレス回復力であるレジリエンスの向上は,うつ病対策の一つとして挙げられる。また身体活動は,レジリエンスとの関連が示唆されているがその検討は少ない。本研究は身体活動とレジリエンスの関連に用量反応関係があるかを明らかにするため,自衛隊員を対象に横断研究を行った。

方法 2015年度生活習慣病検診を受けた,35歳以上の男性自衛隊員16,358名を解析対象とした。身体活動量は,国際標準化身体活動質問票(IPAQ),レジリエンスは,Tachikawa Resilience Scale(TRS;範囲10-70)にて評価した。身体活動量をIPAQの値で四分位群(Q1~Q4)に分け,4群間におけるTRSの値を共分散分析にて,婚姻,睡眠時間,喫煙,飲酒,BMI,最終学歴,年齢,階級で調整し比較した。

結果 対象者の年齢は44.2±5.9歳(平均値±標準偏差),IPAQ区分ごとのTRS(平均値(95%信頼区間))は,Q1;46.6(46.3-46.9),Q2;47.5(47.2-47.8),Q3;47.9(47.6-48.2),Q4;48.2(47.9-48.5)であり,IPAQが高値であるほどTRSが高かった(傾向性検定p<0.01)。

結論 身体活動量とレジリエンスの間には,正の用量反応関係がみられた。習慣的な身体活動量を多くすることで,レジリエンスを高められる可能性が示唆された。

キーワード 身体活動,レジリエンス,自衛隊員

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

高槻市におけるゲートキーパー養成研修の効果について

田渕 紗也香(タブチ サヤカ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ) 加藤 美幸(カトウ ミユキ)
的場 輝世(マトバ カヨ) 木村 直也(キムラ ナオヤ)
森定 一稔(モリサダ カズトシ) 髙野 正子(タカノ マサコ)

目的 自殺対策における人材養成(ゲートキーパー養成)はわが国が掲げる重点施策の1つである。本研究では高槻市職員を対象として,ゲートキーパー養成研修の自殺対策の取り組みに対する効果について検討することを目的とした。

方法 市職員3,717人(正規職員2,687人,非常勤職員1,030人)を対象者に,無記名自記式アンケート調査を行い,回答が得られた2,653人のうち性別・年齢が不明な者を除いた2,633人を解析対象者とした。質問項目は仕事や職場での生活や,自殺対策の取り組みに関する項目とした。自殺対策の取り組みについてはゲートキーパー養成研修受講の有無との関連を,χ2検定を用いて比較検討した。

結果 仕事や職場での生活に関することについての相談相手は上司・同僚が1,132人(43.0%),家族・友人が1,249人(47.4%)と多かった。さらに,上司・同僚に相談した者の85.4%,家族・友人の86.5%が相談後にメンタルヘルスケア効果有りであった。ゲートキーパー養成研修受講者は403人(15.3%)であった。ゲートキーパー養成研修受講有りの方が93.1%と有意に高い割合で自殺対策の必要性を理解していた。またセルフケア実施の割合や,職場の上司・同僚・部下等,家族・友人等,市民,それぞれに対する周囲へのケアを実施している割合も受講有りの方が有意に高い割合を示した。

結論 高槻市職員における研究からゲートキーパー養成研修受講は自殺対策の取り組みに関連することが示された。とりわけ,市民対応時に自殺対策の取り組みを有意に高い割合で実施していることが明らかとなり,ゲートキーパー養成研修の意義が示された。しかし,本研究は,市職員対象に行ったものであり,本結果の外的妥当性については今後さらに検討が必要である。

キーワード 自殺対策,ゲートキーパー養成,研修,市職員,メンタルヘルスケア

 

 

 

第65巻第2号 2018年2月

EPA送り手国の看護師と受け入れ国である
彼らの指導者の看取り観の比較研究

-看取り観に関連する要因-
後藤 真澄(ゴトウ マスミ)

目的 EPA外国人看護師と日本における彼らの指導者の看取り観の差異および看取り観に関連する要因を探り,異文化間ケアの在り方を考える一助とする。

方法 2008~2014年に派遣されたEPA外国人看護師を受け入れた411施設(全数)に対して,EPA外国人看護師全員とその指導者を施設ごとに1人の合計3,258人に郵送調査を実施した。看取り観の測定にはFATCOD-Form B-Jを用いて,看取り観を従属変数として,国籍,個人の属性,社会文化的特性,死生観(死生観の測定には臨老式死生観尺度を使用)を独立変数として,重回帰分析を実施した。調査期間は2015年10月~12月である。

結果 回答施設は121施設(29.4%)で,有効回答者は503人(15.4%)であった。EPA送り手国(フィリピン,インドネシア,ベトナム)と日本とで看取り観の比較を行った。国ごとの看取り観の比較を行った結果,「ケアの前向きさ」に関しては,日本が有意に高く,「ケアの認識」に関しては,フィリピンの得点が他の3カ国に比べて有意に高く(p<0.001),日本の得点が他の3カ国に比べて有意に低い。「総得点」に関しては,フィリピンの得点が他の3カ国に比べて有意に高い(p<0.05)。死にゆく患者に対するケアの前向きさは,「国」による差はなく,「経験年数」「職種」「看取り経験」「死からの回避」「人生の目的意識」に関連がみられた。ケアの認識に関しては,「国籍」「経験年数」「人生の目的意識」「死への関心」が関連要因となっていた。

結論 看取り観に関連する要因は,死にゆく患者への「ケアの前向きさ」に関しては,国籍による差はなく,経験を積み重ね,死を回避せず,人生の目的意識を持つ死生観を育むことで,看取りケアができるようになっていく。しかし,「ケアの認識」に関しては,日本が他の3カ国に比較して有意に低く,国籍による差がみられた。これに関連する要因については,今後も引き続き異文化間ケアへの検討が必要である。

キーワード EPA,外国人看護師,看取り観,死生観,異文化間ケア,エンドオブライフ・ケア

 

 

 

第65巻第1号 2018年1月

認知症対応型共同生活介護事業所の平成26年度
地域密着型外部評価におけるサ-ビス改善計画
の状況と4年間の推移

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 福祉や介護のサービスの質の確保が必要である。本研究は認知症対応型共同生活介護事業所(GH)がサービスを改善するため,平成26年度の地域密着型外部評価で公表した目標達成計画を調査して,問題点・課題のあった項目と,その改善計画をとりまとめ,以前のデータと合わせて4年間のデータとし,その推移を検証してGH全体の「見える化」を推し進め,サービスの質の向上に資することを目的とした。

方法 ワムネットと2県の情報提供から,平成26年度に外部評価を実施した,東京都と山梨県を除く45道府県のGHの目標達成計画を参照し,自己評価68項目において問題点・課題があった項目の数と割合および問題点・課題が多かった項目の改善計画内容の分類と区分を算出し,平成23~25年度の過去の調査データを利用して平成23~26年度の4年間のデータとした。

結果 平成26年度の外部評価で以下が明らかになった。実施したGHは8,328ヵ所で,問題点・課題があった項目は17,068件であった。問題点・課題が多い項目は,1位「災害対策」,2位「運営推進会議」,3位「地域つきあい」,4位「介護計画とモニタリング」,5位「重度化や終末期」であった。改善計画内容の区分で割合が大きかったのは「災害対策」では「地域へのはたらきかけ」,「運営推進会議」では「多様な参加者」,「重度化や終末期」では「職員の資質向上」であった。

結論 問題点・課題があった項目の4年間の推移から,「災害対策」「運営推進会議」「重度化や終末期」「地域つきあい」「介護計画とモニタリング」等への集中が続いていることがわかった。問題点・課題が多かった項目の改善計画の推移からは「災害対策」と「運営推進会議」でGHと地域との関係づくりが続いていることが示され,「重度化や終末期」では職員教育の必要性が継続していると考えられた。今後は「地域つきあい」「介護計画とモニタリング」「運営に関する利用者,家族等意見の反映」「日常的な外出支援」等の項目も改善計画を内容分析して可視化を広げることが望ましい。また,目標達成計画に68項目の番号表記がないものがある,介護業界の用語が散見される等の情報開示のうえでの課題がある。今後のGHのサービスの質とホスピタリティの向上のため,外部評価調査員の質の担保や人数の確保が期待される。

キーワード サービスの質,認知症対応型共同生活介護事業所(GH),地域密着型外部評価,問題点・課題,改善計画

 

 

 

第65巻第1号 2018年1月

日本における小児患者数の推移と疾病構造の変化

内山 有子(ウチヤマ ユウコ) 田中 哲郎(タナカ テツロウ)

目的 近年の日本では,少子化にともなう15歳未満の小児患者数の減少や医療の進歩により,小児が受診する疾病構造に変化が見られている。そこで,小児の患者数や疾病構造の変化,傷病別医療費などの年次推移より小児医療の現状を分析し,小児医療の課題について検討を行った。

方法 厚生労働省が公表している国民医療費,患者調査,人口動態統計を用いて,年齢階級別の推計患者数,受療率,医療費と小児の傷病別入院患者数を算出した。

結果 0~14歳の1日あたりの推計入院患者数は,1984年~2014年の30年間で約4割に減少した。また,入院受療率,外来患者数ともに約7割に減少したが,外来受療率は1.2倍に増加していた。1人あたりの年間入院医療費は1986年から2014年の30年間で約3倍に,入院1件あたりの医療費は約4倍に,入院1日あたりの医療費は約5倍に増加していた。また,2014年の0~14歳の1人あたりの年間外来医療費は15~44歳よりは高いが,45~64歳,65歳以上よりは低く,受診1回あたりの外来医療費は他の年齢階級の中で最も低かった。0~14歳の1人あたりの年間外来医療費は1986年から2014年の30年間で約2.5倍に,受診1回あたりの外来医療費は約2倍に増加しており,傷病別入院患者数は1996年から2014年の20年間で周産期における病態が増加し,呼吸器系の疾患が減少していた。

結論 この30年間で小児の1日あたりの推計入院患者数,入院受療率,1日あたりの推計外来患者数は減少したが,外来受療率は増加し,小児科の診療が外来を中心としたものとなり入院と外来のバランスに変化が生じている傾向がみられた。また,2016(平成28)年に行われた診療報酬の改定によりNICUなどの設備があり周産期および先天奇形の診療を行っている病院の診療報酬は高くなるが,新生児の診療を積極的に行っていない小児科や呼吸器・感染症等を中心に診ている小児科にとってはこの改定による利益は少ないことがわかった。今後,安定した小児科診療を継続していくためには,一般の小児科病院にも目を向けた診療報酬の改定等が望まれる。また,近年の行われている小児入院施設の集約化は,病院の体制強化や専門能力の向上により重症患者の治療成績を向上させることにつながるが,極端な集約化が進められると,地域によっては近くに小児医療施設がなくなる可能性があるため,少子化対策,育児支援という観点からも国民的議論として再考していく必要があると思われた。

キーワード 推計入院患者数,推計外来患者数,受療率,入院医療費,外来医療費,疾病構造

 

 

 

第65巻第1号 2018年1月

インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動発症例における
使用薬剤の組み合わせが不明であった症例の検討

中村 裕樹(ナカムラ ユウキ) 大日 康史(オオクサ ヤスシ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ)
谷口 清州(タニグチ キヨス) 宮﨑 千明(ミヤザキ チアキ)
桃井 眞里子(モモイ マリコ) 岡部 信彦(オカベ ノブヒコ)

目的 インフルエンザ罹患時における異常行動の発症について,過去の研究では,調査対象薬剤のいずれかの使用状況が不明であった症例が多数存在した。本研究では,調査対象薬剤のいずれの使用状況も明らかになるように調査を行い,それらの割合を用いて,過去の症例数を割り戻すことで改めて薬剤ごとの異常行動発症に関する検討を行った。

方法 オセルタミビル,アマンタジン,ザナミビル,アセトアミノフェン,ペラミビル,ラニナミビル,テオフィリンを調査対象薬剤とし,2012/2013シーズンから2014/2015シーズンの3シーズンでの,いずれかの使用状況が不明であった症例数を,いずれの使用状況も明らかになるように調査を行った2015/2016シーズンの症例数を元に割り戻し,それぞれの使用例での異常行動症例数を正確確率検定(厳密検定)によって比較した。

結果 異常行動発症例において使用が認められたオセルタミビル,ザナミビル,ペラミビル,ラニナミビル,アセトアミノフェンにおいて,シーズン間で使用した患者の割合に有意差はなかった。また,それらの使用薬剤の組み合わせが不明であった症例を割り戻しても同様の結果となった。

結論 使用薬剤の組み合わせが不明であった症例数を考慮に入れても,異常行動の発症と使用薬剤との特定の関連がある,とは言えないことが示された。ただし,本研究での症例数は2015/2016シーズンのみの結果を反映したものであるため,今後も引き続き検証が必要であると考えられる。

キーワード インフルエンザ,異常行動,ノイラミニダーゼ阻害剤,オセルタミビル

 

 

 

第65巻第1号 2018年1月

回復期リハビリテーション病院に入院した脳卒中患者の
認知機能の回復とリハビリテーション提供単位数は関連するか?

梅原 拓也(ウメハラ タクヤ) 田中 亮(タナカ リョウ) 恒松 美輪子(ツネマツ ミワコ)
村中 くるみ(ムラナカ クルミ) 井上 純子(イノウエ ジュンコ)
村上 恒二(ムラカミ ツネジ) 梯 正之(カケハシ マサユキ)

目的 本研究は,入院時の認知機能の程度を基に脳卒中患者を分類し,理学療法,作業療法,言語聴覚療法の提供単位数に着目して,療法の効果の有無を区別するカットオフ値を算出してその精度を評価することを目的とした。

方法 対象者は,脳卒中患者とした。入院中に実施された理学療法,作業療法,言語聴覚療法の単位数を調べた。認知機能の評価にはFIMを使用した。入院時の認知機能の障害の程度により患者を低群,中群,高群の3群に分類した。認知機能のより大きな回復に関連する単位数を検討し,カットオフ値や確率を明らかにするために,ロジスティック回帰分析とROC分析を行い,変数ごとに事後確率を求めた。

結果 3群に共通して抽出された因子は,言語聴覚療法の総単位数であった。この変数のカットオフ値・陽性尤度比・陰性尤度比・事後確率は,低群で208単位以上・2.33・0.56・64.0%であり,中群で123単位以上・1.16・0.22・51.0%であり,高群で98単位以上・1.83・0.81・61.0%であった。

結論 本研究の結果から,FIM認知項目合計点の回復に言語聴覚療法が関連することと,その介入量が示唆された。ただ,予測精度は高くないので,さらに検討が必要である。

キーワード 回復期リハビリテーション,脳卒中,認知機能,介入量,ロジスティック回帰分析

 

 

 

第65巻第1号 2018年1月

自治体における母子健康手帳と綴込型松井式便色カードの
印刷および交付・説明の状況に関する全国調査

顧 艶紅(コ エンコウ) 大森 豊緑(オオモリ トヨノリ) 松井 陽(マツイ アキラ)

目的 2012年度から松井式便色カード(以下,便色カード)が母子健康手帳に綴じ込まれており,各自治体からの交付により,胆道閉鎖症のスクリーニングとして活用されている。便色カードによるスクリーニングは先天性代謝異常症等のマススクリーニング検査と異なり,行政による保護者・医療関係者への周知とカードの色調精度管理がその効果を大きく左右するため,厚生労働省通知で使用法・交付と説明や色調精度管理に関する技術的助言等が示されている。今回,母子健康手帳と便色カードの印刷および交付・説明の状況を把握するため,導入後初めての全国調査を行った。

方法 都道府県を通して,2015年10月末現在で全国の1,741自治体へ調査票を送付し,横断調査を行った。

結果 調査票の回収率は80.6%(1,404),母子健康手帳見本の回収率は65.9%(1,148)であった。現在使用している母子健康手帳について1,303自治体は計21の業者から購入し,97自治体は計23の印刷業者で独自に印刷していた。便色カード印刷可能業者リストに掲載されている業者が印刷した手帳を購入または印刷を依頼した自治体は1,016であった。また,35の自治体が競争入札によって毎年購入先や印刷業者を替えていた。一つの自治体を除き,母子健康手帳と便色カードの購入先や印刷業者は同一であった。また,母子健康手帳の省令様式内に綴じ込まれていない,あるいは規格外の用紙に印刷されている便色カードもあった。なお,上述の厚生労働省通知について,「知っている」と答えた自治体は80.5%(1,098/1,364)であった。718の自治体が市町村役場の窓口で母子健康手帳を交付しており,交付時に母子健康手帳と便色カードについて説明していたのはそれぞれ85.2%と42.1%であった。支所・出張所で母子健康手帳を交付していたのは358自治体で,交付時に説明していたのはそれぞれ61.5%と27.9%であった。保健所・保健センターで母子健康手帳を交付していたのは877自治体で,交付時に説明していたのはそれぞれ97.3%と57.8%であった。また児童館や公民館などその他の施設で交付していたのは70自治体で,交付時(新生児・乳児訪問時を含む)に説明していたのはそれぞれ82.9%と78.6%であった。

結論 便色カードによる胆道閉鎖症のスクリーニングの効果を上げるため,印刷可能業者リストに掲載されていない業者で印刷されたカードの精度管理を図るとともに,母子健康手帳の交付時に便色カード使用法についての説明を行うことを周知徹底する必要がある。

キーワード 母子健康手帳,自治体,松井式便色カード,精度管理,マススクリーニング

 

 

第65巻第1号 2018年1月

母親の年齢と職業の妊娠の結果への影響

-人口動態職業・産業別調査を用いて-
仙田 幸子(センダ ユキコ)

目的 人口動態職業・産業別調査の出生票データおよび死産票データと,人口動態調査の死亡票データのうち乳児死亡のデータを用いて,妊娠の結果(自然死産,人工死産,乳児死亡,生存)に母親の職業と年齢がどう影響しているのかを明らかにする。

方法 1995年度,2000年度,2005年度,2010年度の人口動態職業・産業別調査の出生票データと同時期に調整した人口動態調査の乳児死亡のデータを10の指標を用いてリンケージしたうえで,人口動態職業・産業別調査の死産票データを追加して分析データを作成した。従属変数として妊娠の結果(自然死産,人工死産,乳児死亡,生存),独立変数として死産時または出生時の母親の年齢と職業,加えて,児の体重,単産・複産の別,出産経験,死産または出生の発生月,死産または出生の発生した年度を統制変数として投入し,従属変数の基準を生存として,多項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 母親の年齢も職業も妊娠の結果に影響を示す。30代で自然死産や人工死産になりにくい。児の生存の確率が最も高いのは30~34歳である。職業の影響は年齢の影響より概して高い。自然死産と人工死産については,すべての職業で無職より発生確率が高い。乳児死亡は,専門技術職,事務職,販売職,サービス職で無職より発生確率は低く,管理職,保安職,農林職,運輸職は無職と同程度の発生確率である。

結論 出生に関する厚生の指標として母親の職業は重要である。

キーワード 自然死産,人工死産,乳児死亡,児の生存,リンケージデータ

 

 

 

第64巻第15号 2017年12月

保育ソーシャルワークの構成概念と尺度開発

-保育士や保育所の実践環境に着目して-
山城 久弥(ヤマシロ ヒサヤ)

目的 今日,少子化や核家族化の進行,地域とのつながりの希薄化などの大きな社会変化を背景に,児童やその家庭を取り巻く環境が厳しい状況の中,保育士や保育所は地域やその家庭の子育て支援を担うためにソーシャルワーク機能を果たすことが求められている。そこで,本研究では,保育士個人として必要な支援スキルだけでなく,保育所組織としての実践環境に着目した保育ソーシャルワークの構成概念を明らかにし,実践環境をアセスメントするための尺度を開発することを目的とした。

方法 2017年2月15日~3月31日にかけて調査を実施した。先行研究から,保育ソーシャルワークに関する40項目の質問項目を採用し,長野県保育園連盟保育部会に所属する保育園に在籍している保育士480名を対象に郵送留置調査法を実施し,回収数は350名(回収率72.9%)であった。その中から,保育ソーシャルワークに関する項目において,無回答数が全体の5%以下(2項目以下)の346名を分析対象者とした。分析方法として,保育ソーシャルワークの項目に対し探索的因子分析を行った。信頼性については,内的整合性(Cronbachのα係数)を算出した。

結果 保育ソーシャルワークの探索的因子分析の結果,「権利侵害の知識とその対応方法」「子育て支援のための知識と活動」「家庭・保護者との援助関係」「支援の限界と専門機関との連携の理解」「保育所内における情報共有」「保育所内における職員の連携」の6つの下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.61~0.85であり,6因子構造が示された。さらに,6つの下位尺度を構成する項目が同一因子に0.4以上の因子負荷量を有し,構成概念の妥当性をある程度確保していることも示唆された。

結論 本研究において抽出された因子は,先行研究から得られた理論的構造とほぼ一致しており,ある程度の信頼性と妥当性が確認された。とくに,専門機関との連携においては,その認識として保育士や保育所の支援の限界を理解することに相関がみられ,連携のあり方についての示唆が得られた。今後の課題としては,尺度の改良を重ね,さらなる信頼性と妥当性の確保や実際の保育現場で活用されるよう実用化のためのツール開発もあわせて行っていく必要がある。

キーワード 保育ソーシャルワーク,実践環境,構成概念,保育士,保育所

 

 

 

第64巻第15号 2017年12月

障害者グループホーム職員による
地域との関係形成支援の現状と課題

-グループホーム職員の地域関係形成支援に関する調査より-
船本 淑恵(フナモト ヨシエ)

目的 本研究は,障害者の地域生活実現のために,地域との関係形成に関してグループホーム職員が行っている支援の現状と特徴を明らかにし,その課題を提示することを目的とした。

方法 調査方法は,自記式アンケートの郵送調査である。調査対象者は,「福祉・保健・医療総合情報サイト(WAMNET)」から「指定共同生活援助事業」の主たる事業所を全国の市区町村から各1事業所を選定した。調査・回収期間は,2016年3月1日から4月30日とした。

結果 配布総数1,334通,有効回収数633通,回収率47.5%であった。地域関係形成に関してほぼすべての事業所が行っていると回答した。「地域住民との交流」はあいさつや立ち話などの割合が高い。「自治会等との交流」は清掃活動や行事への参加の割合が高かった。「入居者の関わり支援」は商店や行事への同行が高い。「理解の促進」はトラブルへの対応の割合が高い。「事業所としての取り組み」は情報共有が高かった。グループホームが対象とする障害種別,回答者別に取り組み状況の回答割合は異なっていた。

結論 地域との関係形成に関するグループホーム職員の取り組み状況は,住民との交流ではお互いが都合を合わせる必要のある関わりは少なく,自治会等との交流は参画の程度が低い。トラブルへの対応や回避を重視している。そして,実際に行っていることと必要な支援が乖離していると感じている。グループホーム職員は地域との関係を形成する支援に関わりきれていないことが明らかとなった。入居者への直接的な日常生活上の支援に時間が割かれていることと業務としての共通認識の低さにあると指摘できる。グループホームに入居する障害者を孤立させないためにも,「地域との関係」に関する支援を業務として共通理解を図ることが課題であり,それを実現するための制度的な裏付けが必要となる。

キーワード 障害者,地域生活,グループホーム,グループホーム職員,地域関係形成支援,業務

 

 

 

第64巻第15号 2017年12月

「出前・イベント型まちの保健室」に
参加した住民の健康意識に関する調査

稲田 千明(イナダ チアキ) 荒川 満枝(アラカワ ミツエ) 高田 美子(タカタ ヨシコ)
田中 響(タナカ ヒビキ) 近田 敬子(チカタ ケイコ)

目的 2010年には高齢化率が28%を超え,人口減少が続いている鳥取県倉吉市において,鳥取看護大学は地域貢献として様々な形態の「まちの保健室」を企画・運営している。そのうち気軽に参加可能な「出前・イベント型まちの保健室」参加者の,健康状況と健康意識や健康行動について明らかにすることを目的とした。

方法 調査期間は2015年8月から11月で,鳥取看護大学が実施している「出前・イベント型まちの保健室」で健康に関する質問紙を配布し,参加者に記入していただくとともに,研究協力に同意のあった参加者の健康チェックデータを転記し,属性と健康データや健康に関する意識との関係について解析を行った。

結果 質問紙は528枚を配布し,493枚が有効回答(93.4%)であった。65.4%が女性で,70代が最も多く,体脂肪率,収縮期血圧は年齢とともに増加し,特に20~30代から40~50代での変化が大きかった。健康への自己評価は,約55%が「健康」「まあまあ健康」と答え,男女でも年齢層でも大きな違いはなかった。食事への気づかいについては,男女,年齢層別,イベントの種類別でも違いがみられた。運動については,男女共に半数の人が運動しており,60代から大幅に割合が増加していた。食事や運動以外で気をつけていることについては,年齢が高くなるにつれて気をつけている人が増え,その内容として,男女ともに「睡眠」と答えた人が多く,「ストレスをためない」などの対処法や「前向きに考える」など気持ちの持ち方,「友達と会う」「おしゃべりをする」などという積極的な行動の記述があった。「健診を受けようと思うか」の質問へは,スポーツ系イベントの人は93%が肯定しており,健康への意識の高さがうかがえた。まちの保健室の参加については,約90%の人が「良かった」と答えていた。

結論 40~50代の生活習慣病関連データは,30代に比して急激に悪化し,自身を「健康」だと明言できる割合も低く,健康への意識改革を勧めやすい年代と考えられた。まちの保健室に参加する人の割合が,50代から増えている。この健康意識が高まる時期にまちの保健室を開催することで,介護予防に寄与する可能性も考えられた。今回明らかとなった健康意識・行動の特徴を踏まえ,本人の健康行動から実行可能な行動目標を本人とともに言語化していくことが必要である。

キーワード まちの保健室,健康意識,健康データ,出前・イベント,健康行動

 

 

 

第64巻第15号 2017年12月

地域包括ケアシステムの評価指標としての在宅期間

-8年間の全国介護レセプトデータによる検討-
植嶋 大晃(ウエシマ ヒロアキ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト) 野口 晴子(ノグチ ハルコ)
川村 顕(カワムラ アキラ) 松本 吉央(マツモト ヨシオ)
森山 葉子(モリヤマ ヨウコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ)

目的 重度要介護高齢者の在宅日数は,地域別に算出することで地域包括ケアシステムの達成状況の評価指標となりうる。本研究の目的は,全国介護レセプトデータを用いて在宅日数を都道府県別に算出し,観察期間前後の打ち切り(以下,観察の打ち切り)を考慮して地域を比較する指標としての可能性を示すことである。

方法 厚生労働省の承認を受けて8年間の全国介護レセプトデータを用いた。対象者は65歳以上で要介護4または5の認定を受け,要支援または要介護認定を受けていた期間に介護保険サービスを利用した者とした。観察期間における在宅日数が0日の対象者を在宅ゼロ群,在宅日数が1日以上の対象者を在宅群とし,在宅ゼロ群の人数の割合(以下,在宅ゼロ者割合)および在宅群の在宅日数平均値(以下,平均在宅日数)を算出した。次に在宅群を,打ち切りなし群,開始時打ち切り群,終了時打ち切り群,両側打ち切り群に分類して在宅日数を算出し,各群の割合を都道府県別に算出した。また,在宅ゼロ者割合と,平均在宅日数を都道府県別に算出し,両者の相関係数および散布図を示した。さらに,特定施設入居者生活介護等のサービス利用期間も在宅で生活した期間とした在宅日数(以下,介護保険在宅日数)を算出し,在宅日数との比較を行った。

結果 対象地域は1,630市区町村(全市区町村の93.6%)で,対象者数は3,598,809人であった。在宅ゼロ者割合は37.8%,平均在宅日数は362.6日であった。打ち切りなし群,開始時打ち切り群,終了時打ち切り群,両側打ち切り群の人数(割合)はそれぞれ1,653,443人(45.9%),240,136人(6.7%),331,533人(9.2%),15,013人(0.4%),在宅日数平均値は247.8日,672.1日,610.6日,2570.9日であり,各群の人数の割合は都道府県により異なっていた。都道府県別の在宅ゼロ者割合の最大値と最小値は54.2%,30.3%で,平均在宅日数の最大値と最小値は475.5日,292.4日であった。在宅ゼロ者割合と平均在宅日数の相関係数は-0.55であった。在宅日数と介護保険在宅日数の差は,都道府県によって異なっていた。

結論 在宅ゼロ者割合および平均在宅日数は,「観察の打ち切り」の影響を考慮する必要があるものの,両者を組み合わせることにより,地域の指標として利用可能であると考えられた。

キーワード 高齢者,在宅介護,地域包括ケアシステム,全国介護レセプトデータ,在宅期間,地域指標

 

 

 

第64巻第15号 2017年12月

市町村における母子保健対策の取り組み状況:「健やか親子21」
の推進状況に関する実態調査を用いた都道府県別観察

上原 里程(ウエハラ リテイ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 秋山 有佳(アキヤマ ユウカ)
市川 香織(イチカワ カオリ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 松浦 賢長(マツウラ ケンチョウ)
山崎 嘉久(ヤマザキ ヨシヒサ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現に向け2015年度から実施されている「健やか親子21(第2次)」では,都道府県の役割として市町村等の関係者間の連携を強化することと県型保健所の役割として市町村に対して積極的に協力・支援することが明記されている。これらの役割を果たすためには,都道府県や保健所が市町村の母子保健に関する課題を認識することが重要である。市町村の母子保健対策の取り組み状況を知ることは課題把握に寄与すると考えられることから,本研究では母子保健対策に関する市町村の取り組み状況について都道府県別の観察を行った。

方法 2013年に実施された「『健やか親子21』の推進状況に関する実態調査」のうち,政令市および特別区を除く市町村(以下,市町村)を対象とした調査票に設定されている27項目の母子保健対策の取り組み状況を分析した。これらの項目に関して,2010年以降の取り組みの充実について市町村が回答した5つの選択肢(充実,ある程度充実,不変,縮小した,未実施)に未回答を加えた6区分の頻度を都道府県別に観察した。取り組み状況の選択肢のうち「充実」と「ある程度充実」を合わせた回答を本研究での「充実」と定義した。さらに,都道府県に対しても市町村と同様の調査が実施されていたため,市町村の取り組み状況と都道府県の取り組み状況との関連を検討した。

結果 27項目の母子保健対策のうち,「予防接種率の向上対策」「発達障害に関する対策」「乳幼児期のむし歯対策」「食育の推進」「児童虐待の発生予防対策」「産後うつ対策」は全国1,645市町村の50%以上が取り組みを充実させていた。各都道府県の管内市町村で取り組みを充実させた頻度の分布を観察すると,「予防接種率の向上対策」では100%の市町村が取り組みを充実させた都道府県もあれば取り組みを充実させた市町村が52%に留まっていた都道府県もあり,多くの項目で都道府県によって管内市町村の取り組み充実頻度の幅が大きかった。母子保健対策に関する市町村の取り組み状況と都道府県の取り組み状況の関連について,「発達障害に関する対策」「産後うつ対策」「妊娠中の喫煙防止対策」「母乳育児の推進」「思春期の心の健康対策」「十代の人工妊娠中絶防止対策」は取り組みを充実させた都道府県において,取り組みを充実させた管内市町村の頻度が有意に高かった。

結論 管内の市町村がどのような母子保健対策を充実させたかについては都道府県によって差異があった。また,母子保健対策の項目によっては市町村の取り組みの充実と都道府県の取り組みの充実が関連していたことから,都道府県が取り組みを充実させることで市町村の取り組み状況に影響を与える可能性が示唆された。

キーワード 健やか親子21(第2次),母子保健,連携,都道府県,市町村

 

 

 

第64巻第13号 2017年11月

ネグレクトで育った子どもたちへの虐待防止ネットワーク

-10代親への支援の実態調査より-
加藤 曜子(カトウ ヨウコ) 安部 計彦(アベ ケイヒコ) 佐藤 拓代(サトウ タクヨ)
畠山 由佳子(ハタケヤマ ユカコ) 三上 邦彦(ミカミ クニヒコ) 

目的 ネグレクトの環境下で育った10代の被虐待児の実態を理解し支援するため特定妊婦に焦点をあてた。わが国では,10代の特定妊婦は要保護児童対策地域協議会の進行管理ケースとなっていることから,地域の各関係機関間の連携状況を検討してその課題を抽出した。特に0歳児死亡分析においては,その26.6%が10代親であり,ネットワーク支援の在り方が問われている。

方法 2015年9月,全国の市区966カ所の要保護児童対策地域協議会の調整機関担当者あてにアンケート調査を行った。調査項目は本研究の協力者と検討を重ね,選択回答と自由回答をとることにした。なお10代親を中学,高校,および無所属の16-19歳の3区分とした。また倫理的配慮として,大学倫理委員会へ申請し,個人情報保護に十分配慮することとした。

結果 回答を得た対象となる371事例のうち,被虐待歴は4割を占めた。被ネグレクト経験の占める割合は,複数回答で,中学生,高校生,16-19歳いずれも6割を超えた。背景要因は「経済的困窮」「養育支援者がいない」「児の心身状態に問題がある」「望まない妊娠」が高かった。高校生,16-19歳と年齢があがるにつれ経済的困窮や養育支援者がいない割合が高かった。虐待防止ネットワークとして直接支援者が集まる個別ケース検討会議においては,被ネグレクト経験のある中学生は63.6%であり,高校生50.0%や無所属16-19歳47.3%に比べると高い割合であった。機関連携では,高校の退学問題など学業継続の課題が68.8%該当した。16-19歳では居所不安定の割合や養育者がいない割合が高く,出産後も住居不安定になるなど支援する側の困難点も明らかになった。

結論 高校は要保護児童対策地域協議会活動の理解に乏しく,調整機関との連携が十分でなく,退学せざるを得ないなど,10代妊娠・出産を応援する体制になっていない。無所属の16-19歳においては,妊娠・出産からの子育て環境の整備と,子育てと親の自立へ向け要保護児童対策地域協議会での医療・保健・福祉・教育・司法など関係機関間連携強化,とりわけ,当事者参加を含めた個別ケース検討会議を利用した継続的支援体制の充実が求められる。特定妊婦に関して,要保護児童対策地域協議会の調整機関の認識が低く,母子保健に依存している地域もあるため体制強化が望まれる。

キーワード 虐待防止ネットワーク,ネグレクト,10代特定妊婦,要保護児童対策地域協議会

 

 

 

第64巻第13号 2017年11月

社会福祉士後見人の成年被後見人に対する
権利擁護に関する研究

-後見業務の分析を通じて-
林田 哲弥(ハヤシダ テツヤ) 佐藤 ゆかり(サトウ ユカリ) 香川 幸次郎(カガワ コウジロウ)

目的 成年後見制度が創設されてから17年目を迎え,その重要性は益々高まってきているが,実際の現場で成年被後見人に対して行われている後見業務内容や,その重要性の実態については明らかになっていない。そこで,社会福祉士後見人に焦点をあて,後見業務の重要性と構造を解明し,成年被後見人に対する支援の方向性を検討する。

方法 予備調査では「社会福祉士後見人の成年被後見人に対する後見業務の重要度調査」の質問項目案を作成するため,アイテムプールの作業を行い,全50項目の質問項目案を作成した。次に本調査では予備調査で作成した調査項目を用い,公益社団法人日本社会福祉士会ホームページ上の独立型社会福祉士名簿登録者一覧402名のうち,住所,氏名が公開されており郵送可能な301名に対して郵送調査を行った。回収されたデータは因子分析を行い,因子抽出には重み付けのない最小2乗法とプロマックス回転を用いた。

結果 送付者301名のうち,188名より返信があり(回収割合62.5%),そのうち,分析対象は回答に欠損を有するもの,回答選択がすべて同一のものを除いた137名の回答とした。因子分析の結果,5因子が抽出され重要度が高い順に,「財産管理と身上監護」「ソーシャルワーク技術を活かした支援」「法的事案に対する支援」「本人の意向尊重」「法的権限を越えた支援」と命名した。

結論 成年被後見人に対する後見業務において,重要性という観点から分析した結果,5つの因子で構成されていることが確認できた。「財産管理と身上監護」と「ソーシャルワーク技術を活かした支援」は因子間の多重比較の結果,有意な差は認められず並列の関係にあり,中心となる因子である。「法的事案に対する支援」は,因子として独立しながらも「財産管理と身上監護」と「ソーシャルワーク技術を活かした支援」の2つの因子に関連性を持つものであり,「本人の意向尊重」は,後見業務全体を覆い,すべての因子に関与するものである。「法的権限を越えた支援」は,法への規定もなく成年後見人は権限を持たないため,他の因子とは少し離れた位置づけであると考えた。また,専有性有無の観点から5因子を検討した結果,前者は法的な支援であり,後者は社会福祉的な支援であることが確認された。成年被後見人への「あるべき支援」を検討する際には,社会福祉的な支援の必要性についても十分考慮されるべきである。

キーワード 成年後見制度,権利擁護,社会福祉士後見人,成年被後見人,後見業務,因子分析

 

 

 

第64巻第13号 2017年11月

大都市圏地域の類型化による
医療費の地域差要因について

皿谷 麻子(サラガイ アサコ)

目的 本研究は医療費に関連する医療資源,保健活動,居住地環境を示す変数を用いて大都市圏の市をグループ化し,各グループの医療費の差から医療費に影響する要因の違いを分析する。

方法 政府統計調査および日本医師会が公表している市町村別データから,医療資源,保健活動,居住地環境を示す変数を用いて,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,愛知県,京都府,大阪府,兵庫県,福岡県の市に対し,階層的クラスター分析によるグループ化を行い,各グループの医療費の差を分散分析する。

結果 大都市圏の市は5つのグループに分類できた。各グループの医療費の平均値は年齢構成を調整した地域差指標でみても入院,入院外ともに1人当たり医療費には有意差はみられなかったが,1日当たり医療費(医療費/診療日数)でみると入院,外来ともに有意差が認められ,医療機関へのアクセシビリティ変数が高いグループ,大病院変数が高いグループでは入院医療費が高く,保健衛生費が高いグループでは外来医療費が高い傾向を示した。また,1件当たりの診療日数でも入院,外来ともに有意差が認められ,入院日数は1日当たりの入院医療費が平均値よりも低いグループの方が高いグループよりも日数が長かった。

結論 大都市圏における医療費の地域差は,医療費の単価(1日当たりの診療費)に存在し,居住環境と保健活動の投入資源によって医療費の単価に影響する要因は異なっていることが明らかになった。1日当たりの入院医療費は,入院医療サービスの供給量よりもむしろ居住地から医療機関までの距離や大病院数が関係し,1日当たりの外来医療費では,保健活動が入院医療に代替している可能性が示唆された。

キーワード 医療費,地域差,大都市圏,クラスター分析

 

 

 

第64巻第13号 2017年11月

高齢ボランティアによる介護予防体操の
普及活動が要介護認定状況に及ぼす影響

小澤 多賀子(コザワ タカコ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ)
清野 諭(セイノ サトシ) 小室 明子(コムロ アキコ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 人口減少・少子高齢化が進展するわが国では,団塊の世代が75歳以上となる平成37年を見据えて,地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題とされている。介護予防の充実に向けては,住民同士の支え合い(互助)による取り組みが希求されており,住民ボランティアによる体操などの通いの場づくりの醸成が期待されている。しかしながら,住民ボランティアによる体操などの通いの場づくりが,地域の介護予防へ及ぼす効果を検討した報告は少ない。そこで,本研究では市町村における高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動と軽度の要介護認定者(要支援1・2および要介護1)の割合および介護保険料との関係を明らかにすることを目的とした。具体的には,高齢のボランティアが担う介護予防体操教室の開催実績と軽度の要介護認定者の割合の増減および介護保険料との間に関係がみられるかについて検討した。

方法 茨城県では平成17年からシルバーリハビリ体操指導士養成事業を開始し,地域在住高齢者へ介護予防体操を普及する高齢のボランティアを養成している。本研究の対象は,本事業を展開する茨城県内の全44市町村とした。分析に用いたデータは,市町村ごとの体操教室開催実績として事業開始10年経過時(平成17~26年度の総数)における高齢者人口1,000人(要介護4・5を除く)あたりの教室延べ開催数および住民参加延べ人数,地域の要介護認定状況として9年間(平成18~26年度)の軽度および重度(要介護2~5)の要介護認定者の割合の増減,介護保険料(第6期(平成27~29年度)第一号保険料),平成26年度の高齢化率とした。分析は,市町村ごとの体操教室開催実績と軽度の要介護認定者の割合の増減および介護保険料との関連について,Pearsonの相関係数により検討した。

結果 44市町村において,軽度の要介護認定者の割合の増減については,住民参加延べ人数(r=-0.30,P=0.048)と,介護保険料については,教室延べ開催数(r=-0.32,P=0.032)および住民参加延べ人数(r=-0.36,P=0.016)と,有意な負の相関がみられた。

結論 本研究の結果から,高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動は,軽度の要介護認定者の割合および介護保険料の増加抑制に対して有用である可能性が示唆された。

キーワード 介護予防,高齢のボランティア,体操普及活動,軽度の要介護認定者の割合,介護保険料

 

 

 

第64巻第13号 2017年11月

社会医療診療行為別調査と健保組合レセプトデータ
における傷病大分類別人口当たりレセプト件数の比較

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 辻 雅善(ツジ マサヨシ) 川添 美紀(カワゾエ ミキ)
山之口 稔隆(ヤマノクチ トシタカ) 志村 英生(シムラ ヒデオ)

目的 被用者保険の診療報酬明細書(以後,レセプト)から被保険者・被扶養者あたりの傷病大分類別レセプト件数を被保険者・被扶養者の性・年齢構成を調整した上でナショナルデータベース(NDB)から得られる人口あたり傷病大分類別レセプト件数と比較することで特定の保険制度におけるレセプトデータを用いた研究成果を日本全体に適用させる上での問題点を明らかにする。

方法 NDBによる調査として,平成26年社会医療診療行為別調査から年齢階級別傷病大分類別(主傷病)のレセプト件数を総務省統計局による人口推計(平成26年5月1日現在(確定値))に基づく総人口(0~74歳)に基づいて,人口10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数を算出した。これを,複数の健康保険組合における性・年齢階級別被保険者・被扶養者10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数を総務省統計局による人口推計(平成26年5月1日現在(確定値))に基づく性・年齢階級別人口に乗じた値を合算する直接法にて推計した人口10万人あたりレセプト件数と比較した。

結果 被用者保険の被保険者・被扶養者では30~69歳の者で男の割合が約56%となっていたことや65歳以上の者が占める割合が3%未満であったことなどの点で,総務省統計局による人口推計と性・年齢構成が異なっていた。NDBによる推計人口10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数と健保組合の被保険者・被扶養者10万人あたりの傷病大分類別レセプト件数比は,性・年齢調整を行うことで,入院の「Ⅴ精神及び行動の障害」を除き,全体的により1に近い値となった。これらの比は大半の傷病大分類で統計学的に有意な差が認められたが,比の絶対値は1.1前後と,あまり大きくはなかった。

結論 被用者保険の被保険者・被扶養者の性・年齢構成は日本全体とは異なっていたが,年齢調整を行うことで人口当たりのレセプト件数の格差は小さくなる傾向が認められた。疾病大分類によっては性・年齢調整後においても統計学的に有意な差が認められたが,差の絶対値は大きいとはいえず,検定の結果以外に,影響の指標の絶対値や信頼区間を確認することによって,レセプトを用いた大規模データベースを用いた研究から得られた結果を適切に解釈し,研究成果を現実社会により適切に還元することができると考えられる。

キーワード ナショナルデータベース(NDB),被用者保険,診療報酬明細書,性・年齢調整,有病率

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

児童養護施設入所児のQOLにおける虐待の影響

中富 尚宏(ナカトミ タカヒロ)

目的 国際連合は,日本の社会的養護を必要とする子どもに,里親や小集団施設養育のような家庭的養育を提供するよう日本政府に勧告している。児童養護施設入所児の生活の質であるQOLの実態は,いまだ十分に明らかとなってはいない。全国の児童養護施設入所児の約60%が被虐待児である。本研究の目的は,児童養護施設入所児のQOLにおける被虐待経験の影響を検討することとした。

方法 児童養護施設入所児の4~15歳で,大舎制児童養護施設2施設37名,小舎制児童養護施設2施設8名の計45名を調査対象とした。QOL質問紙のKINDLを使用した。本研究で使用したKINDLは,身体的健康,精神的健康,自尊感情,施設内対人関係,友達,学校生活の6つの尺度と各尺度の合計からなるQOL総得点で構成されている。対象者を被虐待経験の有無で2群に分け,QOL総得点および6つの尺度においてWelchのt検定を行った。

結果 対象者の平均年齢は8.4歳(標準偏差=2.8)であり,約33%が被虐待児であった。被虐待経験がある児童養護施設入所児は,被虐待経験がない児童養護施設入所児よりもQOL総得点,自尊感情,施設内対人関係,学校生活のQOLが有意に低かった。有意差のあった各尺度ともに,おおむね効果量は大であった。

結論 これらの結果は,被虐待経験が児童養護施設入所児のQOLに負の影響を与えることを示唆している可能性がある。本結果は,虐待発生の予防がいかに重要かということを示した。

キーワード 児童養護施設,QOL,虐待,社会的養護,KINDL,虐待発生の予防

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

朝食に菓子パンのみを食べる人の食生活に関する調査

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 朝食に菓子パンのみを食べる人の食生活を,理想的な朝食を食べる人および朝食に何も食べない人と比較することを目的として調査を行った。

方法 名古屋市が2012年1月に実施した『健康に関する市民アンケート』のうち,朝食および食生活に関する設問の回答結果について分析を行った。朝食の摂取頻度が「ほとんど毎日食べる」であり,かつ朝食の内容が「ご飯類中心」または「パン類中心」である人を理想食群,朝食の摂取頻度が「ほとんど毎日食べる」であり,かつ朝食の内容が「菓子パンのみ」である人を菓子パン群,朝食の摂取頻度が「ほとんど食べない」であり,かつ朝食の内容が「食べていない」である人を欠食群と定義した。

結果 理想食群が1,289人,菓子パン群が19人,欠食群が95人であった。菓子パン群は理想食群と比較して野菜,果物,旬の食材やカルシウムを摂取することを心掛けている人の割合が有意に低く,間食をよくする人の割合が高い傾向があり,1日のうち少なくとも1食は栄養バランスがとれた適量の食事を摂取している日の頻度も有意に低かった。菓子パン群は,欠食群と比較して野菜をたくさん摂取することを心掛けている人の割合が有意に低かった。

結論 朝食に菓子パンのみを食べる人は,単に朝食の栄養バランスが悪いだけに留まらず,昼食や夕食など他の時間帯の食事においても食事内容が好ましくない状態にある可能性が考えられる。したがって,朝食に菓子パンのみを食べる人に対しては,昼食や夕食において,野菜の摂取など栄養バランスがとれた食事を食べるように啓発する必要があると考えられる。

キーワード 朝食,菓子パン,食生活,欠食,栄養バランス

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

市町村国民健康保険による
特定保健指導対象者のヘルスリテラシーに関する調査

鈴木 みちえ(スズキ ミチエ) 岩清水 伴美(イワシミズ トモミ) 酒井 太一(サカイ タイチ)
土屋 陽子(ツチヤ ヨウコ) 神庭 純子(カミニワ ジュンコ) 山村 江美子(ヤマムラ エミコ)

目的 特定保健指導対象者が,メタボリックシンドローム(以下,MetS)に関する情報や知識を活用して自己の力で生活習慣を改善することができるよう支援することが必要である。本調査では,MetSの基礎知識,健康管理行動,健康情報把握行動で構成する「MetS改善のためのヘルスリテラシー」(以下,ヘルスリテラシー)の獲得状況と関連要因について検討した。

方法 S県中部F市の平成24年度特定保健指導対象者1,196名全員を対象に,平成25年12月に自記式質問紙調査を実施し,有効回答を得た452名(回答率37.8%)のうち,24・25年度継続受診した386名を分析対象とした。調査内容は,属性,背景およびMetSの基礎知識・健康管理行動・健康情報把握行動である。大学倫理委員会の承認を得て,回答は無記名とするが,調査票に任意の番号を記載し,行政機関の協力で,性別,年齢,2年間の健診結果と照合した。基本統計量の算定,「知識正答数」「良好健康管理行動数」「良好健康情報把握行動数」の3変数を用いてクラスター分析を行った。基礎統計量算出,各クラスターと属性・背景・健診結果との関連を検討した。

結果 MetSの基礎知識の正答者は「MetSと生活習慣病との関連」44.0%,「生活習慣病の診断基準との違い」21.2%であった。健康管理行動では「喫煙習慣なし」86.5%,「適正飲酒」65.5%であるが,「検査値変化注意」33.9%,「毎食野菜摂取」19.2%であった。健康情報把握行動は「健康関連のテレビ,新聞記事,行政機関の広報誌,リーフレットから得る」が高く,「インターネット・講演会や学習会」は低かった。ヘルスリテシ―はクラスター分析の結果「良好群」24.6%,「中間群」54.9%,「不良群」20.5%に分類された。「良好群」は女性,職業無し,一緒に運動する人がいる,保健委員の経験有りの割合が高く,翌年の健診結果の体重,BMI,腹囲,LDLが有意に減少し,HDLは有意に増加した。「不良群」は男性,職業有りの割合が高く,体重,腹囲で有意な減少があった。

結論 「MetSに関する知識」の獲得状況は好ましいといえず,良好な食習慣保有者も少なく,健康情報はテレビ,新聞,行政機関の広報誌等から得ていた。また,ヘルスリテラシ―の高低と検査値改善との有意な関連が認められた。ヘルスリテラシ―向上には,わかりやすく活用しやすい広報誌の配布,保健委員活動への参加促進によるポピュレーションアプローチが有効であると示唆を得た。さらに,有職男性には,商工会議所や農業団体等との連携による啓発活動の強化が有効ではないかと思われる。

キーワード 特定保健指導対象者,ヘルスリテラシー,ポピュレーションアプローチ,クラスター分析

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

社会経済的要因と特定健診結果の関連について

-市町村単位の生態学的研究-
中島 富志子(ナカジマ トシコ) 萱場 一則(カヤバ カズノリ) 延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ)

目的 メタボリックシンドロームの対策を主目的とした特定健康診査・特定保健指導では,食事や運動などの個人の生活習慣が重視されているが,健康に影響を与える要因として,環境因子である社会経済的要因も注目されている。そこで本研究では,社会経済的要因に関する5つの指標と特定健診結果との関連について検討を行った。

方法 埼玉県内市町村の財政力指数,1人当たり市町村民所得,就業者1人当たり市町村内純生産,生活保護率および完全失業率を社会経済的要因の指標とし,同県市町村国民健康保険加入者の平成23年度の特定健診結果との関連を,人口規模で調整した偏順位相関係数により生態学的に検討した。特定健診結果からは,生活習慣項目として食習慣,運動習慣,歩行または身体活動,歩行速度,体重の増減,喫煙,飲酒,睡眠に関する質問項目,身体計測項目・血液検査項目としてBMI,腹囲,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロール,HbA1c,γ-GT,判定項目として高血圧,糖尿病,脂質異常,メタボリックシンドローム判定を抽出し,いずれも男女・65歳未満/以上別に区分して平均値・該当者割合を市町村ごとに集計し,分析に供した。

結果 財政力指数および市町村民所得については,これらの指標値の高い市町村ほど,すなわち社会経済的要因の指標が良好な市町村ほど,食生活を中心に生活習慣が好ましくない状態であり,BMI,腹囲およびγ-GTもおおむね不良で,65歳以上の男では糖尿病,脂質異常,メタボリックシンドローム判定の割合が高くなっていた。一方,一般に社会経済状態の悪い指標とみなされる生活保護率についても,高い市町村ほど特定健診結果は不良の傾向がみられたが,財政力指数および市町村民所得と正の相関がみられるなど,生活保護率の高さは,必ずしも当該市町村の社会経済状態との悪さを直接反映するものではないことが示唆された。また,市町村内純生産および完全失業率と特定健診結果との間には,関連はみられなかった。

結論 財政状況が良好で生活保護率が高い自治体では,特定健診の結果が好ましくない傾向がみられた。健康状態の指標値が市町村国保加入者の平成23年度の特定健診の受診者のものであることや生態学的研究デザインであることなどの制約はあるが,自治体の社会経済状態が住民の健康状態に影響を与えている可能性が示唆された。

キーワード 特定健康診査,社会経済状態,健康格差,市町村国民健康保険

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)における
患者突合(名寄せ)手法の改良と検証

野田 龍也(ノダ タツヤ) 久保 慎一郎(クボ シンイチロウ) 明神 大也(ミョウジン トモヤ)
西岡 祐一(ニシオカ ユウイチ) 東野 恒之(ヒガシノ ツネユキ) 松居 宏樹(マツイ ヒロキ)
加藤 源太(カトウ ゲンタ) 今村 知明(イマムラ トモアキ) 

目的 レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下,NDB)とは,わが国における保険診療の悉皆データである。NDBには,同一患者の複数レセプトを紐付ける変数として,「ID1」と「ID2」が用意されているが,就職・転職や氏名の表記ゆれ等で容易に変わり得る。本研究は,NDBにおける現行の名寄せ手法を改善し,種々の工夫により名寄せの効率を高めた新たな個人ID(ID0)を提案するとともに,その妥当性を検証することを目的としている。

方法 平成25年4月~平成26年3月の医科入院レセプト,医科入院外レセプト,DPCレセプト,調剤レセプト全体を対象とし,ID1,ID2,診療年月,転帰区分を利用した新しい名寄せアルゴリズムを開発した。アルゴリズムの妥当性を検証するため,従来のID1による名寄せとID0による名寄せを,平成25年10月1日時点の推計人口と比較した。

結果 男女とも,ID0による性年齢階級別患者数はID1による患者数を下回っており,ID1による患者数を男性で6.2%,女性で7.1%,圧縮することができた。ID1により名寄せされた患者数は,小児や高齢者,若年女性において推計人口を大きく上回っていたが,ID0により名寄せされた患者数はおおむね推計人口の範囲内に収まった。

結論 本研究で提案した新たな名寄せID(ID0)は,従来の名寄せで用いられてきたID1や,ID1とID2の併用に比し,名寄せの精度が向上した。現状ではID0が最善の名寄せ手法であり,今後,患者数の推計にはID1ではなくID0を用いることが望ましい。

キーワード NDB,レセプト,診療報酬データ,名寄せ,突合,データベース

 

 

 

第64巻第12号 2017年10月

喫煙歴とがん検診未受診および未受診理由との関連

-協会けんぽ大阪支部大規模調査-
山田 恵子(ヤマダ ケイコ) 藤村 昌子(フジムラ アヤコ) 諸冨 伸夫(モロトミ ノブオ)
谷 智代(タニ チヨ) 今野 弘規(イマノ ヒロキ) 磯 博康(イソ ヒロヤス)

目的 がん検診の受診率向上はがん対策の重要な課題の1つである。また,喫煙者の健康意識や健康行動を把握することは,たばこ対策の施策上,大変重要である。協会けんぽ大阪支部が実施した健康に関する大規模調査データを用い,喫煙習慣とがん検診未受診,およびがん検診未受診の理由との関連を検討した。

方法 被用者保険被扶養者全員に特定健診の受診案内と共に無記名アンケートを送付し,健診時に回収した。回答者23,122名(回答率不明)のうち,がん検診受診の有無について回答した18,609名(女性18,221名,男性388名)を解析対象とした。説明変数として喫煙歴(現在喫煙者,非喫煙者)の2値を用いた。分析方法は,①がん検診受診者に対する未受診者,②未受診の理由について,それぞれ,性別ごとに多変量調整ロジスティック回帰分析を用いた。調整変数は年齢,Body Mass Index,運動習慣の有無,就労形態とした。

結果 喫煙率は全体で8.0%(女性7.6%,男性23.2%),過去1年以内のがん検診未受診率は全体で49.9%(女性49.2%,男性81.2%)であった。非喫煙者に対して喫煙者が,がん検診未受診であるオッズ比(以下,OR)(95%信頼区間)は女性1.5(1.3-1.6,p<0.001),男性2.1(1.0-4.4,p<0.05)と有意に高かった。未受診理由については,非喫煙者に対して喫煙者が,「がんとわかったら怖い」と答えたORは女性1.7(1.3-2.0,p<0.001),男性2.4(1.0-5.8,p<0.05)と両性において有意に高かった。その他の未受診理由として,非喫煙者に対して喫煙者が,お金がかかる,受診する時間がない,予約が面倒,どこで受けられるかわからないと答えたORは,女性において,それぞれ1.5(1.3-1.8,p<0.001),1.2(1.0-1.4,p<0.05),1.3(1.2-1.5,p<0.001),1.5(1.2-1.8,p<0.001)といずれも有意に高く,男性では同様の傾向がみられたものの,有意差は認めなかった。

結論 特定健診を受診している者において,喫煙者は非喫煙者と比較してがん検診については未受診である可能性が高い。また,未受診の理由として,男女とも非喫煙者は喫煙者と比べてがんが怖いと回答した者の割合が高く,それに加えて女性ではお金がかかる,受診する時間がない,予約が面倒,どこで受けられるかわからないと答える傾向も認められた。

キーワード 喫煙,がん検診,未受診,理由

 

 

 

第64巻第11号 2017年9月

評価指標を用いた評価活動の成果と課題

-組織における実践知の形式知化の過程-
森本 典子(モリモト ノリコ) 平野 かよ子(ヒラノ カヨコ)

目的 著者らが開発した「保健師による保健活動の質を評価するための評価指標」を用いて保健師が保健活動の質を話し合い評価することにより,保健師個人あるいは保健師集団,さらに保健師が所属する組織にもたらす効用と課題を明らかにすることを目的とした。

方法 著者らが開発した評価指標を用いて保健活動を評価したことの効用と課題について,検証協力自治体および事業所の計60機関の保健師を対象に,質問紙調査を実施した。

結果 評価指標を用いて評価したことで「役に立った」あるいは「役立ちそうだ」と思われたことについての結果は,「よくあてはまる」「ややあてはまる」をあわせると,全項目で8割以上が「役に立った」あるいは「役立ちそうだ」と回答があった。この結果を経験年数別に比較すると,新人期保健師は,すべての項目が8割を占めていたが,中堅期保健師は,「部署,組織」「他部署,関係機関との連携」のカテゴリーの項目の回答が相対的に低い傾向がみられた。最も効用があったと回答された項目は,「1.活動を見直す機会となる」であった。保健活動の評価を継続することについての意向は,思う:97%,思わない:2%,その他:1%であり,「思う」の中には,“適切な人員体制がないと継続が難しい”という意見や“継続するためには業務に位置づけられることが課題である”という意見があった。

結論 実際に評価指標を用いて取り組んだことで,最も「役に立つ」として挙がった項目は,「活動を見直す機会となる」「保健活動の評価が共有できる」であり,個人および集団にとっての評価することの意義が示せた。また,それと同時に,「個人」の実践知が「組織」としての知とされる過程を示し,評価指標を用いて組織内で対話して評価することが,組織としての成熟を促し,この評価指標がその成長過程を見える化させることを明らかにした。組織内の合意を得て評価指標を用いて評価することの今後の課題は,第一に評価することの重要性を保健師自身が自覚し継続することである。また,組織で評価することに取り組みやすくするためには,より評価指標の簡便化を図ることと考える。

キーワード 保健師,評価指標,保健活動評価,組織,実践知・形式知