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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第69巻第4号 2022年5月

市町村国保の保健指導における1年後の効果の検証

-保健指導の有無による変化量の比較-
徳留 明美(トクトメ アケミ) 荒井 今日子(アライ キョウコ) 山田 文也(ヤマダ フミヤ)
藤井 仁(フジイ ヒトシ) 横山 徹爾(ヨコヤマ テツジ) 

目的 特定健康診査・特定保健指導は,生活習慣病のリスク要因の数に応じて,保健指導対象者を選定し,生活習慣の改善支援を行うものである。本研究は,特定保健指導結果を用い,保健指導の翌年度の健診結果を観察し,保健指導効果を検証したものである。

方法 平成22年度から28年度に埼玉県の市町村国民健康保険の特定健診を受診した者のうち,翌年度の特定健診を受診した者を対象とした。「保健指導を完了した群」の1年後の健診結果の変化量と,「保健指導を全く受けていない群」の1年後の健診結果の変化量を項目別,支援レベル別,性別に比較した。また,複数年度の観察期間により効果の経年的な傾向を検証した。

結果 解析対象者は積極的支援の男性6,864-7,501人,女性1,846-2,159人,動機づけ支援の男性17,473-20,068人,女性11,164-11,646人であった。体重,BMI,腹囲は,支援レベルや性別に関わりなく,保健指導あり群は保健指導なし群より有意に低下しており,保健指導の効果によると推察された。血糖に関する項目では積極的支援より動機づけ支援に保健指導の効果がよりみられた。中性脂肪,HDLコレステロールでは積極的支援の男性,動機づけ支援の男女で,保健指導の効果が推察されたが,LDLコレステロールでは効果はみられなかった。喫煙では動機づけ支援の女性で保健指導の効果が推察されたが,全健診年度を通した保健指導の効果の有意性は認められなかった(本研究の体重等の1年後の平均変化量は厚生労働統計協会ホームページを参照)。

結論 保健指導を受けた者の変化量から保健指導を受けていない者の変化量の差を保健指導による変化量と考え,保健指導の効果として検証した。体重,BMI,腹囲,中性脂肪,HDLコレステロールでは,保健指導の効果が推察できたが,LDLコレステロールは全く保健指導の効果がみられなかった。保険者として自治体が実施する保健指導の効果はみえにくいが,保健指導の効果の一端が示せた。特定保健指導は受診率の低さが課題ではあるが,被保険者が後期高齢医療制度の被保険者に移行する前にリスクを減らす保健活動に期待したい。

キーワード 特定健康診査,特定保健指導,市町村国保,効果の検証,経年的傾向

※本論文の結果の記述で、協会ホ-ムペ-ジを参照することとされている本研究の体重等の 1 年後の平均変化量の図表についてはこちらをご覧下さい。

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第69巻第4号 2022年4月

保育園児の足趾筋力と
平衡機能に及ぼすラダートレーニングの影響

杉浦 崇夫(スギウラ タカオ) 土肥 夏季(ドヒ ナツキ) 楠 美紗子(クス ミサコ)
川西 さおり(カワニシ サオリ) 溝部 京子(ミゾベ キョウコ) 山崎 美智子(ヤマサキ ミチコ)
舩場 大資(フナバ ダイシ) 曽根 涼子(ソネ リョウコ)

目的 最近,子どもの転倒による事故が増加し,中でも顔のけがが多発しているという。本研究は,4週間のラダートレーニングにより,幼児の足趾筋力ならびに平衡機能が改善されるか否かについて検討することを目的とした。

方法 トレーニングは,2020年11月に実施した。被験者は,O子ども園の年長児,男児6名,女児12名であった。トレーニング前後に被験者全員に開眼・閉眼片足立ちテスト,足趾筋力,開眼・閉眼での重心動揺を測定した。また,ビデオカメラを用いてトレーニングで行ったラダーステップ8種目のうち,4種目のラダー動作を撮影しステップの習熟度について検討した。トレーニングは基本的に1回あたり約45分間,週2回を4週(計7回)にわたって行った。

結果 ラダートレーニングの影響を検討した4種目のラダーステップの得点は,すべてにおいてトレーニング前よりも後に有意に高い値であった(p<0.05)。足趾筋力は,利き足ならびに非利き足ともにトレーニングにより有意に増加した(p<0.05)。また,重心動揺検査のパラメーターのうち,総軌跡長ならびに単位時間当たり総軌跡長はトレーニングにより有意に減少し(p<0.05),総軌跡長と単位時間軌跡長の視覚による姿勢の制御を評価するロンベルグ率(閉眼測定値/開眼測定値)はトレーニングにより有意に増加した(p<0.05)。さらに,足趾筋力に対する重心動揺の各パラメーターの関係では利き足と非利き足の足趾筋力と開眼総軌跡長,開眼単位時間軌跡長,閉眼外周面積,閉眼単位面積軌跡長との間に有意な相関関係が認められた(p<0.05)。

結論 これらの結果から,幼児期のラダートレーニングは足趾筋力と平衡機能を改善し,立位姿勢の安定化を促進し転倒予防として有効である可能性が示唆された。

キーワード 重心動揺,足趾筋力,ラダートレーニング,幼児,転倒予防,ロンベルグ率

 

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第69巻第4号 2022年4月

埼玉県における公立中学校2年生の
自己肯定感に関連する要因の検討

-学校生活・経済状況・家族関係の視点から-
保科 寧子(ホシナ ヤスコ)

目的 本研究では,埼玉県において自治体内のすべての公立中学校に調査用紙を配布・回収することのできた2自治体のデータを用い,中学2年生の自己肯定感に影響を与えている要因の整理と一般化を試みた。

方法 2018年時点で埼玉県内の「埼玉県子どもの生活に関する調査」(総調査用紙配布数21,673世帯,有効回収率79.0%)の対象として選定された自治体のうち,自治体内のすべての公立中学校への調査用紙配布と回収が行われた2つの自治体のデータのみを抽出した1,533件を分析対象とした。調査用紙は,自記式無記名で生徒が日常生活について回答する部分と保護者が家庭の経済状況などを回答する項目がある。そのなかで自己肯定感に関する「自分には自信がある」「がんばれば良いことがあると思う」という設問への回答と家庭の経済状況,学校等の交友関係,家族との関係などの質問への回答との関連をχ2検定および連関係数を用いて分析した。

結果 自己肯定感の高さは,教員に良いところを認めてもらっている,学校に行くことが楽しみであるという設問に肯定的な回答と相関があった。また友人や家族に受け入れられていると感じている生徒も自己肯定感が高い傾向がある。一方で家庭の経済状況と自己肯定感には相関は見られなかった。学校へ行くことが楽しみかどうかや将来の夢があるかどうかも経済状況との関連は見られなかった。

結論 本研究の結果では,生徒自身の家庭の経済状況よりも学校生活での教員や友人との関係のほうが自己肯定感との関連が強かった。日本の公立中学校に通う生徒は,学校で過ごす時間が長く,かつ親しい友人も学校の友人であることが多く,中学校のコミュニティで受け入れられていると感じることが自分自身を認めることにつながっていると推測される。

キーワード 自己肯定感,公立中学校,教員,友人,承認

 

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第69巻第4号 2022年4月

就労者における抑うつ状態の関連要因

-若年層および中高年層の比較-
岩田 由香(イワタ ユカ) 有本 梓(アリモト アズサ) 田髙 悦子(タダカ エツコ)

目的 就労者における抑うつは,就労者個人はもとより社会全体における喫緊の課題であるが,その影響および方策は若年層および中高年層では異なる可能性がある。しかしながら若年層および中高年層の層別にまた同時に検討したものはまだ十分とは言えない。就労者の抑うつに対する公衆衛生による介入をより適切にするためには,対象に応じた方策を検討する必要がある。そこで本研究では,若年層および中高年層の層別に抑うつ状態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,首都圏A大規模製造事業場に勤務する20~59歳の従業員543名(全数)であり,無記名自記式質問紙調査(留め置き法)を実施した。調査時期は,2016年9~11月である。抑うつ状態はK6を用いて評価し,関連要因として,基本属性,BMI,主観的健康感,生活習慣(Breslow),ヘルスリテラシー(伝達的・批判的ヘルスリテラシー)等を把握した。分析は,20~39歳の若年層と40~59歳の中高年層別に抑うつ群および非抑うつ群における関連要因の群間比較をCochran-Mantel-Haenszel検定および一元配置分散分析にて検討した。

結果 回答者数は417名(回答率76.8%)であり,K6,生活習慣,ヘルスリテラシーの項目に欠損のない有効回答者数387名(有効回答率71.3%)を分析対象とした。対象者の平均年齢は38.0±10.6歳,男性87.1%であった。抑うつ群は,全体では32.3%,若年層では33.9%,中高年層では30.2%であった。抑うつ状態の関連要因は,全体では,BMI,主観的健康感,Breslowの健康習慣得点,睡眠,軽度の身体活動,ヘルスリテラシー得点であり,若年層では,BMI,主観的健康感,間食習慣,睡眠,ヘルスリテラシー得点,中高年層では,主観的健康感,喫煙習慣,睡眠,軽度の身体活動であった。

結論 就労者の抑うつ状態の関連要因は若年層および中高年層の年齢階級別に異なることが明らかとなった。抑うつ状態の影響の緩和および予防の方策に向けては,就労者の年齢階級別の特性を考慮し,若年層ではヘルスリテラシーを勘案した組織レベルでの健康増進の取り組みや,中高年層では主観的健康感を勘案した個人・組織レベルでの生活習慣の変容に向けた取り組みなどの重要性が示唆された。

キーワード 抑うつ状態,就労者,若年,中高年,生活習慣,ヘルスリテラシー

 

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第69巻第4号 2022年4月

通所介護を利用する要介護者等の家族介護者における
社会との関わり状況と介護負担感の実態

-生活満足度との関連-
荒川 博美(アラカワ ヒロミ) 落合 佳子(オチアイ ヨシコ)
秋葉 喜美子(アキバ キミコ) 野呂 千鶴子(ノロ チズコ)

目的 通所介護を利用している要介護者等の家族介護者を対象に,社会との関わり状況と介護負担感の実態,生活満足度との関連を明らかにし,家族介護者の介護負担感の軽減,健康障害の予防を図り,要介護者本人の在宅生活継続に寄与する。

方法 2020年2月1日から7月30日までの間に,通所介護事業所を利用する要介護者等の家族介護者100人へ自記式質問紙を配布し,回収された65人(回収率65.0%)を分析対象とした。主要なアウトカムは,以下の①~③:①社会との関わり状況:社会関連性指標,②介護負担感:Zarit介護負担感尺度日本語版の短縮版(J-ZBI 8),③生活満足度,であった。分析方法は,すべての変数について記述統計量を算出し各変数の傾向を確認した。その後,生活満足度を生活満足度低群,生活満足度高群の2区分とし,すべての変数とのχ2検定,あるいはMann-WhitneyのU検定を行った。その後,関連がみられた項目について,多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 生活満足度と関連のみられた項目は「要介護者等との関係」「趣味を楽しむ」(p<0.05)であった。生活満足度と介護負担感の関連では,生活満足度高群で「要介護者等のそばにいると,気が休まらない」「介護により社会参加の機会が減った」と思わない人の割合が,生活満足度低群に比べて高かった(p<0.01)。また,生活満足度高群で「要介護者等の行動に困る」「要介護者等のそばにいると腹が立つ」「介護があるので,家族・友人と付き合いづらい」「介護を誰かに任せたい」と思わない人の割合が高かった(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析で,生活満足度に最も影響を及ぼしていたのは,介護負担感「要介護者のそばにいると,気が休まらない:思わない」(p<0.05,オッズ比2.15)であった。

結論 要介護者等と家族介護者との関係性を支援するためには,要介護者等と家族介護者双方への支援が望まれる。また,介護生活の中でも,家族介護者が趣味などを通じて「楽しい」と思えるような時間を作ること,家族介護者が社会参加や外出の機会を得て,他者と交流をすることが家族介護者の生活満足度を高めることが示唆された。

キーワード 生活満足度,家族介護者,通所介護,社会との関わり,介護負担感

 

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第69巻第4号 2022年4月

介護予防事業の包括的評価指標としての年齢調整WDP

-要介護認定者数を用いた「質」を含む高齢者健康指標による評価および可視化-
栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 星 旦二(ホシ タンジ)
石井 麻美(イシイ アサミ) 松本 敦子(マツモト アツコ) 小澤 多賀子(コザワ タカコ)
黒江 悦子(クロエ エツコ) 矢野 敦大(ヤノ アツヒロ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 要介護認定者数を用いて算出する「質」を加味した指標である加重障害保有割合(以下,WDP)を介護予防事業の包括的評価指標として活用することを推進するため,高齢者の健康度の推移を可視化し,提示することを目的とした。

方法 要介護認定者数,人口データ,効用値を用いて,全国の2010~2019年の10年間の年齢調整WDPを算出し,その年次推移を示し,同様に茨城県の2006~2019年の14年間の年齢調整WDPを算出し,その年次推移を示した。また,全国,茨城県ともに,最初の年と中間,中間と最後の年,最初と最後の年の平均の差を対応のあるt検定を用いて年比較を行った。さらに,地理情報分析支援システムMANDARAを用いて,全国と茨城県の年齢調整WDPの地域分布図を作成し,年齢調整WDPの2015~2019年の5年間の変遷と地域間比較を行った。

結果 年齢調整WDPの年次推移は,全国の男性は2015年47.53(±3.98)から2019年44.34(±4.08)まで減少し,女性も2015年56.59(±5.17)から2019年52.23(±4.88)まで減少した。茨城県の男性は,2006年39.14(±4.31)から2008年39.98(±4.51)まで増加し,2013年40.23(±3.88)から2019年37.42(±4.17)まで減少傾向にあった。女性は,2006年47.66(±5.20)から2013年の49.55(±3.76)まで増加傾向にあり,2014年49.45(±3.65)から2019年46.83(±4.19)は減少した。対応のあるt検定の結果,全国の男性は2010年と2019年は有意に減少した(p<0.001,p<0.001),女性は2010年と2014年は有意差は認められず,2014年と2019年,2010年と2019年は有意に減少した(p<0.001,p<0.001)。茨城県の男性は2013年と2019年,2006年と2019年は有意に減少し(p<0.001,p=0.043),女性は,2006年と2019年は有意差が認められなかった。全国の地域間比較を8地方区分で比較すると,男性は,2015年は,北海道,東北,近畿,中国,四国が高い傾向にあり,2019年は2015年と比較すると低下している傾向にあった。女性は年の経過とともに,低下する傾向があった。茨城県は5地域で比較すると,男性は,2015年は県南と鹿行が高い傾向にあり,女性は,2018年,2019年には県北,県央,県南,鹿行の一部は高いものの,2015年と2019年を比較すると2019年は低下している傾向にあった。

結論 「質」を加味した高齢者健康指標である年齢調整WDPの推移を可視化し,地域における介護予防事業の包括的評価指標としての有用性を提示した。可視化することで,政策,施策の策定の根拠として,国民,地域住民の理解が得られやすく,介護予防の自助,共助を促す一助となる。

キーワード 年齢調整WDP,包括的評価指標,要介護認定者数,高齢者健康指標,可視化

 

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第69巻第3号 2022年3月

国際生活機能分類普及推進のための語句検索システムの作成
およびそれに基づく生活機能調査の実施

向野 雅彦(ムカイノ マサヒコ)

目的 国際生活機能分類(以下,ICF)は心身機能から活動と参加までを包含する“生活機能”の包括的な分類として2001年に発表され,臨床への普及が進められている。これらの分類を臨床で使用するためには,多数の分類の中から患者の状態に対応する項目を選択する必要があるが,分類に慣れていないと適切な項目を選択するのに時間がかかることが問題となる。そのため,本研究では臨床で一般的に使われる言葉をICFに基づいて分類し,語句リストを作成することに取り組んだ。

方法 医師,療法士を中心に,186名の検討グループを形成し,語句の選定を実施した。語句の収集はICFの第2レベルの項目261項目を対象に,研究参加者それぞれに15項目ずつを割り当て,項目に関連して現場で使用している語句を記載させ,それをまとめて候補とした。さらにICF専門家からなる10名程度のレビューグループを形成し,語句の検証を実施した。さらに,当院回復期リハビリテーション病棟の入院患者20名を対象として,患者ごとに作成されたプロブレムリストを作成した語句リストに基づいてICFの項目に分類し,生活機能の問題の分布について調査を行った。

結果 ICFの第2レベルの項目の261項目に対し,それぞれ関連する語句のリストを作成した。専門家のレビューにおいては,リストに含む語句の種類,長さについて定義することの必要性が提起され,議論の上で定義が作成,それに基づいて語句リストのブラッシュアップがなされた。語句リストには計3,235の語句が登録された。また,この語句リストに基づき,20名の患者のプロブレムリストをICFに置き換えてその頻度を検討したところ,b730筋力の機能が100%,b510摂食機能,d450歩行,d530排泄,d540更衣の各項目がそれぞれ40%と高頻度であった。

結論 本研究によって,臨床で使用されている語句から,検索システムを用いて問題点を容易にICFに分類し,集計,分析を行うことが可能となった。このような仕組みはさらに,テキスト検索などの手法によって臨床の記録からの問題点の抽出に利用できる可能性がある。

キーワード 国際生活機能分類,ICF,語句リスト,リハビリテーション,生活機能,臨床応用

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第69巻第3号 2022年3月

正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得に関する研究

大山 篤(オオヤマ アツシ) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ)
石田 智洋(イシダ トモヒロ) 品田 佳世子(シナダ カヨコ)

目的 非正規雇用労働者は雇用が不安定で,年次有給休暇の取得は正規雇用労働者に比べて困難となりやすいとされる。今後の職域における保健活動を円滑に進める上でも,非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得状況の特性を知っておくことは,意義があると考えられる。本研究では正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得や通院による休暇の状況について,男女別に比較・検討することを目的とした。

方法 本研究におけるWeb調査は2017年2月に実施した。回答者はWeb調査会社の登録モニタのうち,20-60歳代の正規/非正規雇用労働者各420名であった。質問内容は最終学歴や事業所の従業員数等の属性,最近1年間の年次有給休暇の取得状況,および通院のために休暇を取得した日数等であった。分析については,年次有給休暇を取得しなかった者の割合や,年次有給休暇を取得した者の平均取得日数,通院による休暇日数等を男女の正規/非正規雇用労働者間で比較した。また,男女別に年次有給休暇取得の有無を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得の有無を調べたところ,非正規雇用労働者の方が年次有給休暇を取得した者の割合が低く,男性では2人に1人,女性では3人に1人が年次有給休暇を取得していなかった。しかし,年次有給休暇を取得した正規/非正規雇用労働者に限定して1年間の平均取得日数を比較すると,男女の正規/非正規雇用労働者間に差は見られなかった。通院のために仕事を休んだ平均日数に関しても,同様であった。男女別に年次有給休暇の取得の有無に関する多重ロジスティック回帰分析を行った結果,非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であり,さらに男性では第三次産業に従事し,大学卒業以上の学歴がない場合,女性では勤務場所(事業所)での従業員数が少なく,年齢が若い傾向にある場合に休暇が取りにくいことが示された。

結論 男女ともに非正規雇用労働者のなかには年次有給休暇の取得が難しい人がいる反面,年次有給休暇を取得していた場合には,正規雇用労働者とほぼ変わらない日数を取得できていた。非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であったが,年次有給休暇を取りにくい要因には男女差も見られた。

キーワード 非正規雇用,非正規雇用労働者,年次有給休暇,Web調査,産業保健,働き方改革

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第69巻第3号 2022年3月

第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)が
保険者間において地域間格差が生じる要因

久保寺 重行(クボデラ シゲユキ)

目的 第6期のすべての保険者の第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)を用いて地域間格差が生じる要因について明らかにすることを目的とした。

方法 「(第6期)保険者別保険料一覧」を用いてすべての保険者の第1号被保険者の介護保険料基準額を被説明変数とし,厚生労働省の「平成27年度介護保険事業状況報告(年報)」および「平成27年介護サービス施設・事業所調査」のデータを用いて,所得段階1の割合,後期高齢者割合などを説明変数として重回帰分析を行った。

結果 所得段階1の割合,施設定員率(特養),施設定員率(老健),居宅・施設・地域密着型利用率,要介護認定率は正に有意となっており,第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)を高める要因となっていた。一方,後期高齢者割合は負に有意となっており,第1号被保険者介護保険料基準額(月額)を低くする要因となっていた。また,施設定員率(療養)および2割負担割合は特に関連性はなかった。

結論 分析結果からは,①特別養護老人ホームと介護老人保健施設の定員増加は,第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)の増加につながるということ,②非課税などの低所得者の割合が高い保険者ほど第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)が高くなっていることから,介護保険料の算出において,所得段階別加入割合補正係数が機能していない可能性があることの2点が示唆された。

キーワード 第1号被保険者の介護保険料基準額(月額),地域間格差,所得段階1の割合,施設定員率,所得段階別加入割合補正係数

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第69巻第3号 2022年3月

高齢者のエイジング・イン・プレイス(地域居住)に
影響を与える要因

湯川 順子(ユカワ ジュンコ)

目的 エイジング・イン・プレイス(地域居住)とは,高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることである。本研究の目的は,インフォーマル・ケアに着目し,当事者である高齢者がエイジング・イン・プレイスに影響を与える要因についてどのように捉えているのかを明らかにすることである。

方法 先行研究を踏まえ,①生活支援・介護,②生活環境(客観的要因),③地域への思い(主観的要因)の大きく3つがエイジング・イン・プレイス(地域居住)に影響を与えていると仮定し,地域で居住する65歳以上の高齢者を対象とした自記式質問紙調査の結果から,地域居住意向を従属変数とした重回帰分析を行った。さらに分析を深めるために主成分分析を用いた。

結果 重回帰分析の結果,エイジング・イン・プレイスに①生活支援・介護の「頼れる程度(近隣・友人)」「家(家族による介護)」,③地域への思い(主観的要因)の「地域住民の利他性」「地域への愛着」「住みやすさ」が有意に関連していた。②生活環境(客観的要因)は,有意ではなかった。また,有意度が最も高かった「住みやすさ」の主成分を投入した重回帰分析を行ったところ,「地域への愛着」「家(家族による介護)」「頼れる程度(近隣・友人)」〈交通利便性のよい地域に居住〉が有意であった。

結論 エイジング・イン・プレイスには,住みやすさや地域への愛着という主観的要因が影響し,主観的要因には,社会的および物理的な生活環境が関係していた。また,近隣や友人に頼れる程度と家族に介護してもらいたいというインフォーマル・ケアが,エイジング・イン・プレイスに影響することがわかった。高齢者は自宅を「住み慣れた場所」と捉え,自宅での生活の継続を望んでいる。ただし,高齢者が自宅で家族による介護を望む背景については,さらなる分析が必要である。

キーワード 高齢者,エイジング・イン・プレイス,地域居住,地域包括ケア,インフォーマル・ケア

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第69巻第3号 2022年3月

病臥者の居場所の変遷

-1987年から2017年まで30年間の推移-
加藤 尚子(カトウ ナオコ) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ)

目的 医療機能分化施策が本格化した1980年代以降,30年間における病臥者の居場所の変遷を把握することを目的とした。各種の統計資料から施設・病床の区分ごとに,さらに長期入院・短期入院および高齢者・若年者の別に,詳細に病臥者数を分析した。本研究でいう病臥者とは,公的な医療福祉介護サービスによる何らかのケアを必要として療養している人のことであり,医師による診断治療中の患者には限定していない。

方法 1日当たりの入院患者数,介護福祉施設の在所者数,在宅療養者数を,厚生労働省が発行する各種の統計資料から抽出した。3年ごとに実施される患者調査のデータを主として,1987年から2017年までの30年間,計11回分の調査データを使用し,年齢は65歳以上と65歳未満,入院期間は3カ月以上と3カ月未満に区分した。他の統計資料のデータも患者調査の発行年に合わせた年次で収集した。

結果 1987年から2017年までの1日当たりの病臥者数の年次推移を見ると,病臥者総数は1.7倍に増加し,2017年には3,284,977人である。最も数が多いのは在宅療養者で病臥者総数の35.9%を占めている。一方,病院一般病床の入院患者数は減少しており,1987年に病臥者総数の43.7%を占めていたものが2017年には21.7%,713,300人になっている。病院一般病床の患者数の内訳をみると,最も患者数が多いのは入院期間3カ月未満・65歳以上のグループで,2017年時点で458,200人,全体の64.2%を占めていた。

結論 病臥者の居場所の変化をたどることで,機能分化施策に従って高齢者の居場所が細分化されていく経緯が明らかになった。1980年代には,病院・福祉施設・在宅というシンプルな構図の元,病院に偏っていた長期療養の高齢者が,30年の間に一般病床から療養病床へ,介護福祉施設へ,そして在宅へと分散していった経緯が見て取れる。機能分化施策が本格化する以前,1970年代に社会的入院として問題視された人たちは,病院の一般病床の長期・高齢者のグループに多く含まれていたと想定できるが,1990年代以降は著しく減少している。

キーワード 機能分化施策,長期入院,社会的入院,地域医療計画,病臥者,居場所

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第69巻第4号 2022年4月

Sense of coherence(SOC)における有意味感は高齢者の
Mental well-beingを促進する

大片 久(オオカタ ヒサシ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ)
矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 坂野 純子(サカノ ジュンコ)

目的 本研究では,高齢期のポジティブな精神的健康を表すMental well-being(MWB)を促進する心理社会的要因を検討した。中でも,Sense of coherence(SOC)の合計点(1因子)のみならず,3つの下位因子(有意味感,把握可能感,処理可能感)の得点がMWBに与える影響も検討した。

方法 2019年2~11月に,地域在住の60歳以上の高齢者567名を対象とし,自記式質問紙による横断調査を実施した。質問内容には基本属性(年齢,性別,教育歴,婚姻状況,就労状況,暮らし向き,同居家族の有無)の他,MWBを捉えるMental Health Continuum14項目短縮版(MHC-SF)とネガティブな精神的健康を捉えるK6,身体的健康状態(疾患の有無,運動器機能,低栄養状態,口腔機能),社会関係の豊かさを評価するSocial Provisions Scale(SPS)12項目短縮版およびSOC13項目短縮版を盛り込んだ。統計解析として,目的変数にMHC-SFの得点(また,補足解析としてK6の得点)を,説明変数に基本属性,身体的健康状態,社会・環境的要因(同居家族の有無,SPS得点),SOC得点(あるいは3つの下位因子得点)を段階的に強制投入した階層的重回帰分析を実施した。

結果 統計解析には,欠損のない543名のデータを用いた(有効回答率95.8%)。階層的重回帰分析の結果,ポジティブな精神的健康を表すMWBの促進に影響を与えていたのは,SOC(β=0.421,p<0.05)あるいは有意味感(β=0.401,p<0.05),SPS得点(SOC1因子時:β=0.115/下位3因子時:β=0.082,p<0.05),暮らし向き(SOC1因子時:β=0.086/下位3因子時:β=0.085,p<0.05)であった(SOC1因子時:R2=0.266/下位3因子時:R2=0.307)。一方,ネガティブな精神的健康(K6得点)の抑制に影響を与えていたのは,SOC(β=-0.558,p<0.05)あるいは有意味感(β=-0.125,p<0.05),把握可能感(β=-0.327,p<0.05),処理可能感(β=-0.203,p<0.05)であった(SOC1因子時:R2=0.369/下位3因子時:R2=0.376)。

結論 本研究により,ポジティブな精神的健康およびネガティブな精神的健康に対するSOCの影響は強く,また,それぞれに与える下位因子の影響は異なっていた。特に,高齢期のMWBの促進にはSOCの下位因子の中でも,有意味感が重要であることが明らかとなった。

キーワード 高齢者,ポジティブな精神的健康,Mental well-being,Sense of coherence,有意味感

 

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第69巻第3号 2022年3月

自治体レベルでの将来人口推計の検証

國澤 進(クニサワ ススム)

目的 日本の医療では,様々な課題が取り上げられ,将来に向けた対策が求められてきている。将来の医療需要や必要病床の推計には,地域ごとの将来の人口,特に年齢構成を考慮した将来人口の推計がその要となる。将来推計の全国人口については高い精度での推計がなされている一方で,自治体レベルでの推計値については,様々な要因で実際との差が生じやすいと考えられる。自治体レベルでの将来人口推計を利用する際に,生じ得る誤差とその傾向を提示する。

方法 2015年国勢調査における人口を実測値として,国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口・世帯数データアーカイブスで公開されている自治体レベルで行われている将来人口推計と比較した。

結果 2015年実測値に対する,各推計値と2015年実測値の差の比を比較指標値1とした場合,全国レベルでは1997年当時の推計値の比較指標値1でも-0.01とほとんど差がないが,都道府県レベルでは-0.23~0.16とばらつきがみられた。比較指標値1の最も大きい奈良県において,市町村レベルでは-0.11~0.35と,さらに大きなばらつきがみられた。また,県レベルで年齢階層別にみると,-0.13~0.44と大きなばらつきがみられた。

結論 自治体レベルでの将来人口推計を応用する際には,全国レベルの推計にはない誤差の考慮が望まれる。

キーワード 将来人口推計,医療政策,地域人口,都道府県

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第69巻第2号 2022年2月

国保データベース(KDB)システムの
レセプトデータ等を活用した要介護の要因分析

栗田 淳弘(クリタ アツヒロ) 戸山 久美子(トヤマ クミコ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 レセプトに記載されている傷病名等や健診受診有無,医療受療状況等の情報と要介護状態の発生リスクの関連等を分析し,要介護の要因を明らかにする。

方法 栃木県の後期高齢者医療の対象者(観察期間中の転出者,死亡者等を除く)を対象として作成された次の3つの統計データについて考察した。①2017年度の年齢階層別の対象者の分布と2019年度末に要介護2以上となった者の割合(以下,要介護リスク)。②2017年度の健診受診者におけるBMI別の対象者の分布と要介護リスク。③2017年度におけるレセプトの傷病名や医療受療状況,健診受診有無等を説明変数,2019年度末における要介護2以上を目的変数として算出した要介護オッズ比。

結果 対象者149,034人(男性64,875人,女性84,159人)について,2019年度末に要介護2以上となったのは7,605人(男性3,009人,女性4,596人)であり,解析対象者の5.1%(男性4.6%,女性5.5%)であった。76歳以降は,男女ともに年齢が高くなるほど要介護リスクが上昇した。BMIは,低値および高値で要介護リスクが上昇傾向となった。要介護オッズ比が特に高い要因は,年齢80歳以上,認知症およびBMI20㎏/㎡未満であり,要介護オッズ比が特に低い要因は,健診を受診している者と歯科医療費が発生している者であった。その他,要介護オッズ比が有意に高い要因は,その他の循環器系疾患,COPD,その他機能低下の関連疾患,筋骨格系疾患,および入院医療費が発生している者であった。

結論 国民生活基礎調査によると,要介護の主な原因は,認知症,脳血管疾患(脳卒中),骨折・転倒とされているが,本研究においても,認知症,その他循環器系疾患,筋骨格系疾患は要介護リスクが有意に高い結果となった。歯科医療費が発生している者については,歯科受診が要介護リスクの減少と関連しているものと考えられる。また,健診受診は,高齢者においても健康維持に寄与している可能性が示された。ただし,既に心身の状態が悪化している場合,健診や歯科診療を受けられない可能性もあることから,これらの因果関係については今後も検討が必要である。本研究で利用した統計データは観察期間が短く,死亡リスクも考慮していないことから,要介護の要因分析については,今後蓄積されるデータを活用し,分析を継続していく必要があると思われる。

キーワード KDB,レセプト,健診,後期高齢者,要介護

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第69巻第2号 2022年2月

認知症グループホームの施設特性と
栄養スクリーニング加算算定との関連

-施設単位の横断研究-
遠又 靖丈(トオマタ ヤスタケ) 高田 健人(タカダ ケント) 長瀬 香織(ナガセ カオリ)
榎 裕美(エノキ ヒロミ) 髙田 和子(タカタ カズコ) 大原 里子(オオハラ サトコ)
浅見 桃子(アサミ モモコ) 苅部 康子(カリベ ヤスコ) 谷中 景子(タニナカ ケイコ)
堤 亮介(ツツミ リョウスケ) 西宮 弘之(ニシミヤ ヒロユキ) 和田 涼子(ワダ リョウコ)
野地 有子(ノジ アリコ) 加藤 昌彦(カトウ マサヒコ) 小山 秀夫(コヤマ ヒデオ)
田中 和美(タナカ カズミ) 杉山 みち子(スギヤマ ミチコ) 三浦 公嗣(ミウラ コウジ)

目的 2018年度の介護報酬の改定より認知症グループホームにおいて「栄養スクリーニング加算」が新設され,利用者個々人の低栄養状態のリスクを把握することが制度化された。しかし,どのような施設特性を持つ認知症グループホームで栄養スクリーニング加算の算定割合が高いのか明らかでなかった。本研究の目的は,認知症グループホームの施設特性として特に併設サービスの種類に着目し,併設サービスの種類と栄養スクリーニング加算算定との関連について検討することである。

方法 日本全国の認知症グループホームから無作為抽出(3割)された施設を対象として2020年6月に郵送による自記式質問紙調査を実施した。説明変数に併設サービスの種類(「病院・診療所」「介護保険施設」「居宅介護支援事業所」)を,アウトカム変数に栄養スクリーニング加算算定の有無を用い,ロジスティック回帰分析で多変量調整オッズ比と95%信頼区間を算出した。共変量には,事業主体,ユニット数,要介護4以上の利用者の割合を用いた。

結果 解析対象1,289施設のうち,栄養スクリーニング加算を算定していた施設は9.5%であった。併設サービスについて,「なし」の群を基準とした場合の粗オッズ比は,病院・診療所,介護保険施設,居宅介護支援事業所のいずれでも「あり」の群で有意に高かったが(オッズ比の範囲:1.60~3.13),共変量をモデルに含めた場合(多変量調整モデル)では3つすべての併設サービスにおけるオッズ比に有意な差はみられなかった(オッズ比の範囲:1.22~1.49)。しかし併設サービスの組み合わせのパターンとして,「3つすべてなし」の群を基準とした場合の多変量調整オッズ比は,「3つすべてあり」で2.63(95%信頼区間:1.20,5.76)と有意に高かった。

結論 同一法人の併設サービスとして「病院・診療所」「介護保険施設」「居宅介護支援事業所」があることが栄養スクリーニング加算算定の促進因子であることが示唆された。

キーワード 介護保険,認知症グループホーム,施設特性,栄養スクリーニング加算,栄養管理

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第69巻第2号 2022年2月

市町村介護保険者における
地域密着型サービス利用の決定要因

金 吾燮(キム オソップ)

目的 地域密着型サービスの提供水準による市町村介護保険者の地域差を確認把握した上で,地域特性が地域密着型サービスの利用に与える影響を明らかにすることを目的とする。

方法 全国の市町村介護保険者(広域連合除外)を対象に,2018年度の「介護保険事業状況報告(年報)」と「市町村のすがた」のデータを用いて地域密着型サービスの利用に与える影響を分析する。地域密着型サービスの利用について,サービスの利用者割合が高い介護保険者(上位30%)と低い介護保険者(下位30%)を従属変数にする。説明変数は介護保険者の地域特性(8項目)と事業者参入要因(2項目),利用者要因(4項目)とし,t検定による地域差の検証および二項ロジスティック回帰分析の独立変数を抽出する。その上で,二項ロジスティック回帰分析を用いて,地域密着型サービスの利用要因を分析する。

結果 モデルの有意確率が0.00で,二項ロジスティック回帰モデルとしてふさわしいと判断された。Cox&Snellの寄与率とNagelkerkeの寄与率から,モデルの寄与率は0.16から0.21と考えられる。地域密着型サービスの利用者割合に影響を与える要因として,財政力指数(オッズ比:0.32,95%信頼区間:0.13-0.80,p<0.05),高齢者人口密度(オッズ比:0.99,95%信頼区間:0.99-0.99,p<0.01),一般病院数(オッズ比:1.04,95%信頼区間:1.00-1.07,p<0.05),一般世帯平均人数(オッズ比:0.18,95%信頼区間:0.10-0.33,p<0.01),地域の平均要介護度(オッズ比:6.68,95%信頼区間:3.77-11.85,p<0.01)が選択された。つまり,地域密着型サービスの利用率は,介護保険者の地域特性では財政状況が厳しいほど高く,事業者参入要因では高齢者人口密度が高いほど利用率が低く,一般病院数が多いほど利用率は高い。また,利用者要因の項目では一般世帯平均人数が少ないほど,地域の平均要介護度が高いほど利用率が高い。

結論 自治体の厳しい財政状況と近年の核家族化の進行による家族介護力の低下と高齢化に伴う要介護度の重度化により,地域密着型サービス提供の必要性はこれからさらに高くなると予想され,専門人材を確保できるよう地域における事業者参入が円滑に行われる環境整備が求められる。

キーワード 地域密着型サービス,介護保険サービス,利用要因,地域特性,事業者参入

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第69巻第2号 2022年2月

高齢者の社会参加に関する研究 その2
(地域包括ケアシステムの観点から)

-地域の実情にあった仕組みづくりを目指して-
亀井 美登里(カメイ ミドリ) 本橋 千恵美(モトハシ チエミ) 太田 晶子(オオタ アキコ)
小泉 沙織(コイズミ サオリ) 仁科 基子(ニシナ モトコ) 井上 直子(イノウエ ナオコ)

目的 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)の流行における高齢者を含む地域住民の生活状況,社会参加,支援活動への参加意向,支援活動への参加促進要因,防災意識等を明らかにし,支援活動の人的資源の確保・育成を含め,その推進に役立てることを目的とする。

方法 A市と埼玉医科大学との協働で,A市C地区に在住する30歳以上の全住民1,581人(施設入所者等を除く)を対象に,2020年9月に郵送による自記式質問票調査を実施した。質問票事項は,対象者の基本的属性,生活状況,支援活動の参加意向,防災意識,コロナ関連等である。

結果 調査票送付数1,581人,回収数785人(回収率49.7%),除外63人,有効回答数722人(45.7%)であった。高齢者の支援活動に参加意向のある者は335人(46.4%)であった。支援活動への参加のきっかけは,男女とも「知人・友人の誘い」76人(47.5%)が多く,男性では「自治会等を通じての参加募集」29人(37.2%)が多かった。支援活動に参加する場合の条件として,「参加の回数・時間・曜日の融通がきく」「自宅から近い」が重視されていた。防災意識については,ほぼすべての住民が何らかの方法で避難指示を入手しており,自治会や家族,知人から情報を入手している者も一定数認められた。コロナの流行においても,既存の支援活動が今までどおりであると回答した者が全体の2割弱あったことから,一定の割合で機能していることがわかった。

結論 本研究で,A市C地区における支援活動参加意向の実態や,参加を促進するための重要な要因をはじめ,台風等の自然災害や未知の感染症パンデミック等の有事に対する地域住民の状況が明らかになった。前回(2019年度)調査実施地区(B地区)で支援活動についてヒアリングを行ったところ,包括的なアウトリーチ支援が有効であることもわかった。その結果も踏まえれば,地域の実情にあった仕組みづくりこそが望まれる。「支え手」「受け手」という関係を超えて,コミュニティの機能を活用してそれぞれが連携しながら,バランスの取れた形で役割を果たし,個人の自律を支えるセーフティネットを充実させていくことが重要であると考える。

キーワード 超高齢社会,地域包括ケアシステム,地域支援活動,防災意識,新型コロナウイルス感染症,アウトリーチ支援

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第69巻第2号 2022年2月

高齢者の就労状況とQOLの関連性

-QALY試算による経済学的評価も含めて-
小牧 靖典(コマキ ヤスノリ) 平塚 義宗(ヒラツカ ヨシムネ) 池田 登顕(イケダ タカアキ)
柳 奈津代(ヤナギ ナツヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 

目的 本研究の目的は二つである。第一に,要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に,健康関連QOL尺度のひとつであるEQ-5D-5Lを用いて,現在の就労状況とQOL値の関連性を明らかにすることである。第二に,これまで最も長く勤めた職種(以下,最長職)別に,現在の就労状況とQOL値の関連性を明らかにすることである。

方法 本研究は日本老年学的評価研究(JAGES)が2016年に実施した「健康とくらしの調査」データを用いた。回答者のうちADLに支障がなく,かつ健康状態の調査項目(EQ-5D-5L)に回答のあった17,695人を対象に解析を行った。EQ-5D-5LのQOL値を算出するために,[歩行][着替え][ふだんの活動][痛み・不快感][不安・ふさぎこみ]の5つの項目を各5段階で評価した。得られた回答を日本語版EQ-5D-5Lの換算表(タリフ)を用いてQOL値に変換し,高齢者の就労状況とQOL値の関連性を解析した。さらに,最長職別に就労状況とQOL値との関連性を解析した。

結果 性別,年齢,教育歴,婚姻状態,世帯の資産,くらし向きを調整したうえでも,就労している群に比べて,退職した(就労していない)群のQOL値は有意に低かった(-0.010,p<0.01)。また,最長職別には,自営職(農林漁業以外)のみ就労している群に比べて,退職した(就労していない)群で有意に低かった(-0.067,p<0.01)。

結論 QOL値は就労している群に比べて,退職した(就労していない)群で有意に低かったことから,高齢者の就労継続は,高齢期のQOLの維持向上に寄与している可能性があることが示唆された。

キーワード 高齢者,就労,QOL,EQ-5D,QALY,職種

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第69巻第2号 2022年2月

高齢者を対象とした訪問指導と運動教室における
在宅運動プログラムが身体機能に及ぼす影響

井口 睦仁(イグチ ムツヒト)

目的 本研究では,在宅高齢者を対象にした訪問による運動の実施者と運動教室の参加者に対して,運動介入を3カ月間実施し,高齢者の身体機能にどのような影響を及ぼすのか検討した。また,訪問型,教室型の参加者に対して簡易運動を実施するように指示し,運動継続に及ぼす影響を検討した。

方法 2016年10月,H市在住の高齢者に介護予防運動研究参加者を募集し,応募のあった65名の内,選定基準を満たす49名を対象者とした。訪問群はスクワットと片足立ちを実施し,訪問日以外は,参加者自身が毎日運動を実施した。教室群は,90分間の運動教室(運動遊び,リズム体操,バランス運動,自重負荷トレーニングなど)を実施し,教室以外では,運動の指示はしなかった。対象者は訪問群(女性24名,70.3±1.8歳)と教室群(女性25名,70.2±1.8歳)に無作為にグループ分けした。測定項目は,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),最大一歩幅,Timed Up & Go Test(TUG),開眼片足立ちであった。

結果 両群ともにすべての項目で介入前より介入後に有意な向上が示された。群間の差異は,CS-30,TUGともに介入後において訪問群よりも教室群の方が有意に高い値であった。追跡調査の結果,訪問群では,TUGは3カ月後,6カ月後も維持されていることが確認された。CS-30,最大一歩幅,開眼片足立ちは3カ月後まで維持されていたが,6カ月後には有意に低下していることが確認された。一方,教室群では,開眼片足立ちは,介入後の効果が3カ月後まで維持されていたが,6カ月後には有意に低下していることが確認された。CS-30,TUG,最大一歩幅は3カ月後,6カ月後には有意に低下していることが確認された。また,簡易運動の実施状況については,訪問型の方が教室型よりも頻度が有意に多く,両群とも8~11週間後に低下した。

結論 本研究では,介入後に在宅で運動を実施しやすくするために教室群の介入中に簡易運動を実施したが,介入後の簡易運動の実施頻度は,訪問群の方が多かった。簡易運動には,多種目運動と同等の介入効果があり,種目数が2種目と少なく,数分でできるというメリットから,教室後の運動プログラムとして,その経済性が期待された。しかし,教室群では,1人で実施しなければならないという興味性の問題から,訪問型のように高い実施頻度を定着させることができなかったと考えられる。したがって,教室介入後に簡易運動を用いることは運動継続にあまり有効ではないことが示唆された。

キーワード 高齢者,訪問型運動指導,教室型運動指導,運動継続

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第69巻第1号 2022年1月

医科メディアスによる推計平均在院日数の動向と
新型コロナウイルス感染症による入院動向の変化

西岡 隆(ニシオカ タカシ)

目的 令和2年度の概算医療費の公表にあわせて,新たに公表をはじめたNDBの集計による「医科医療費(電算処理分)の動向」(医科メディアス)について,「推計平均在院日数」を取り上げ,その状況を解説する。

方法 平均在院日数には,「病院報告」の「平均在院日数」や「患者調査」の「退院患者の平均在院日数」があるが,レセプトの「件数」と「日数」を用いることで「推計平均在院日数」を計算することができる。医科メディアスの「推計平均在院日数」は疾患別に出すことができ,それを患者調査の結果と比較したところ,おおむね,その疾患ごとの特性を表すことができている。この指標は,毎月示すことができる点でもメリットがある。

結果 医科メディアスの疾患別の「推計平均在院日数」について,平成29年度から令和2年度の推移をみると,新型コロナウイルス感染症の影響を受けて,令和2年度は特徴的な変化が起きている。「呼吸器系の疾患」の場合,入院患者が減少する一方で,相対的に軽い患者の減りが大きく,「推計平均在院日数」が長くなり,「妊娠,分娩及び産じょく」の場合,入院期間を少しでも短くする動きが確認され,「新生物」の場合,各月でみると新型コロナウイルス感染症の流行期に減少幅が大きくなり,感染状況に応じて左右された傾向が確認された。

結論 「推計平均在院日数」はレセプトの件数と日数で計算されたものであるため,新型コロナウイルス感染症の流行期の保険請求の事務処理上の緊急対応でPCR検査の診療報酬を「書面により請求すること」とされたことにより,一時的に,従来から公表しているメディアスの数値に影響が出ていることに留意が必要である。

キーワード メディアス,病院報告,患者調査,推計平均在院日数,疾患別,新型コロナウイルス感染症

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第69巻第1号 2022年1月

1996年から2016年の20年間における薬剤師の就業動向

安藤 崇仁(アンドウ タカヒト) 井上 和男(イノウエ カズオ) 
木村 一紀(キムラ カズキ) 安原 眞人(ヤスハラ マサト)

目的 薬剤師は医療提供施設だけでなく医薬品開発や行政など様々な業種に従事しており,医師・歯科医師と比べて医療提供施設以外の業種に従事する割合が高い。そこで,業種別の薬剤師数を自治体規模別に20年間にわたり縦断的に分析し,わが国における薬剤師の就業動向を明らかにすることを目指した。

方法 1996年,2000年,2006年,2010年,2016年の5時点を対象として1996年から2016年の20年間の縦断分析を行った。調査時点の薬剤師数は,医師・歯科医師・薬剤師調査データを用い,各自治体の人口は国勢調査データを用いた。いずれものデータもe-Statから入手した。調査対象期間において多くの市町村合併が行われていることから,縦断分析における地理的条件を統一するため,各調査時点の自治体を2016年時点の自治体となるように処理した。医師・歯科医師・薬剤師調査で集計されている業種は調査時点ごとに違いがあるため,各調査時点で調査対象業種が共通となるように9種類(薬局薬剤師,病院薬剤師,大学勤務者,大学院生,製造業従事者,販売業従事者,行政従事者,その他,不詳)に分類した。また,薬局薬剤師および病院薬剤師を合わせて医療従事薬剤師とし,大学勤務者,大学院生,製造業従事者,販売業従事者,行政従事者を合わせて非医療従事薬剤師とした。各自治体を自治体規模で区分けし,各区分における人口10万人対薬剤師数を業種ごとに算出した。

結果 調査対象期間の20年間において,総薬剤師数は55.1%増加し,その増加分はほぼ薬局薬剤師数の増加(146.4%増)であった。大学院生(80.5%減)と販売業従事者(24.5%減)は減少していた。自治体規模別の人口10万人対薬剤師数は,薬剤師全体,医療従事薬剤師,非医療従事薬剤師のいずれも自治体規模が大きいほど多かった。前時点を対照とした人口10万人対薬剤師数の変化量は,医療従事薬剤師では自治体規模が大きいほど増加していたが,非医療従事薬剤師では一定の傾向はみられなかった。

結論 調査対象期間の20年間に薬剤師総数は増えており,各自治体規模の薬剤師の絶対数は増加していたが,人口10万人対薬剤師数は大規模自治体ほど多く,その格差は拡大する傾向にあった。

キーワード 薬剤師,医師・歯科医師・薬剤師調査,国勢調査,薬局,病院,市町村合併

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第69巻第1号 2022年1月

後期早産と妊娠・出産の満足との関連

-一般住民を対象とした横断研究-
上原 里程(ウエハラ リテイ) 秋山 有佳(アキヤマ ユウカ) 市川 香織(イチカワ カオリ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 松浦 賢長(マツウラ ケンチョウ)
山崎 嘉久(ヤマザキ ヨシヒサ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 後期早産(在胎週数34-36週)は,児の発達への影響とともに母親の産後の不安や抑うつとの関連が報告されている。3-4カ月児健康診査(以下,健診),1歳6カ月児健診,および3歳児健診を受診した保護者を対象として後期早産児を持つ母親の特性を明らかにすることを目的とした。

方法 健診時期の異なる集団を対象とした横断研究である。「健やか親子21」の最終評価を目的として2013年に「親と子の健康度調査アンケート」が実施された。調査対象は各都道府県の人口規模別に県庁所在地を1カ所含む各10市区町村(472カ所)で上記健診を受診した保護者である。回答者が母親かつ第1子に限定し,アンケートの共通項目について後期早産の母親と早期の早産(同22-33週)および正期産(同37-41週)を比較した。すべての健診時期で後期早産と有意な関連があった項目について,交絡要因を調整して後期早産が関連要因であるかどうかを確認した。

結果 後期早産児の母親は,3-4カ月児健診,1歳6カ月児健診,3歳児健診それぞれで4.2%(361/8,514),4.5%(513/11,398),4.6%(508/11,089)だった。すべての健診時期で,正期産,後期早産,および早期の早産の3群に有意な差が観察された項目は,出産時の母親の年齢と妊娠・出産の満足度だった。妊娠・出産の満足度を目的変数,在胎週数の3区分を説明変数,出産時の母親の年齢など交絡要因を共変量として多変量ロジスティック回帰分析を行うと,すべての健診時期において,後期早産は妊娠・出産の満足度と関連していた(満足していないことに対するオッズ比[95%信頼区間]:3-4カ月児健診2.21[1.50-3.26],1歳6カ月児健診2.55[1.90-3.41],3歳児健診3.79[2.92-4.93])。

結論 一般集団において,後期早産は妊娠・出産に満足していないことに関連していた。後期早産では正期産と比べて妊娠・出産に満足していない頻度が高いことから,後期早産を経験した母親に対して妊娠・出産時からの継続した支援が必要である。

キーワード 後期早産,妊娠,出産,満足,母親,健やか親子21

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第69巻第1号 2022年1月

女性が認識する就労時の
マタニティハラスメントの実態と対処行動

古屋 恭彩(フルヤ ヨシミ) 浦中 桂一(ウラナカ ケイイチ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)

目的 就労女性が,より少ないストレスで妊娠・出産・育児を継続できる示唆を得るために,就労妊産褥婦が受けたマタニティハラスメントの実態と対処行動を明らかにすることである。

方法 量的横断研究デザインにより,属性,妊娠中・産後の職場の状況とマタニティハラスメントの実態について無記名の自己記入式調査票を用いて,2019年11月から2020年5月に調査した。研究対象は,0~6歳の子どもをもつ就労経験のある女性796名であった。分析はハラスメント経験の有無と属性の2群でχ2検定を実施し,自由記載内容をカテゴライズした。

結果 調査票を796名に配布し,有効回答388部(有効回答率48.7%)を用いてデータ分析を行った。ハラスメントあり群165名(42.5%),なし群223名(57.4%)で,ハラスメントあり群は,なし群より妊娠合併症,産後1年以内の就労復帰者,子どもの通園施設保育園が有意に多かった。妊娠・出産による退職経験者は,42.8%であった。産前のハラスメント経験の内容は,肩身の狭さ52.7%,居心地の悪さ32.7%,心無い言葉26.7%であり,産後は肩身の狭さ51.5%,居心地の悪さ30.3%,冷遇23.0%であった。ハラスメントへの対処行動は,対処できなかった46.7%,家族に相談33.9%,上司・先輩・同僚に相談24.2%であった。ハラスメント経験時の情報提供ニーズは,特になし48%,妊娠・出産・育児に関する制度18%,ハラスメントを受けたときの相談場所14%であった。ハラスメント回避の対策として,周囲に感謝,謙虚な態度,異動,制度の利用が抽出された。

結論 子どもを育児中で就労経験がある女性の42.5%が,マタニティハラスメント経験者であった。ハラスメント経験の内容は肩身の狭さ,居心地の悪さ,心無い言葉,冷遇,誹謗中傷,退職催促であった。ハラスメントへの対処行動は,対処できなかった,家族に相談,上司・先輩・同僚に相談であり,ハラスメント回避の対策は,周囲に感謝,謙虚な態度,異動,制度の利用であった。

キーワード ハラスメント,妊娠期,産褥,実態調査,就労女性

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第69巻第1号 2022年1月

学校でのいじめ被害経験と
成人後に相談相手がいないこととの関連

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 学校でのいじめ被害経験は,成人後の抑うつ,自殺念慮,自殺未遂のリスクを上昇させることが報告されている。自殺対策としては悩んだときに相談することが重要である。本研究の目的は,学校でのいじめ被害経験と成人後に相談相手がいないこととの関連を悩み別に把握することである。

方法 東京大学社会科学研究所が2007年に実施した若年・壮年パネル調査の回答データを使用して二次分析を行った。分析対象者数は20~40歳の男女4,003人である。相談相手の有無を目的変数,学校でのいじめ被害経験の有無を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析により,「仕事・勉強の悩み」「求職の悩み」「人間関係の悩み」「金銭面の悩み」の各悩み別にオッズ比を算出した。調整変数は性別,年齢階級,婚姻状態,就業状態,教育歴,精神的健康状態とした。

結果 分析対象者のうち,学校でのいじめ被害経験がある者は907人(22.7%)であった。「人間関係の悩み」では,いじめ被害経験と成人後に相談相手がいないこととに有意な関連がみられた(調整オッズ比1.42(95%信頼区間:1.10-1.82))。その他の悩みでは有意な関連はみられなかった。

結論 学校でのいじめ被害経験がある者は,成人後に「人間関係の悩み」を抱えた際に相談できる人がいないリスクが高いことが示唆された。今後は,学校でのいじめ被害経験者が成人後に相談相手がおらずに孤立しないように,長期的視点での支援方法を検討する必要がある。

キーワード 学校でのいじめ被害経験,成人後,悩み,相談相手,オッズ比,長期的視点

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第69巻第1号 2022年1月

日本の脳出血治療の現状と将来像

光安 由利栄(ミツヤス ユリエ) 石原 礼子(イシハラ レイコ)

目的 脳血管疾患は日本の死因の上位で要介護4および5の原因疾患として第1位である。また,日本の脳出血の発症率は諸外国の2倍から3倍高く,突然死リスクや再発率が高いといった問題がある。今回,厚生労働省が公表する平成30年度DPCデータを用いて,日本の脳出血の疾患動向を明確にし,どのような治療が行われているのか分析することを目的とした。

方法 平成30年度「退院患者調査」の参考資料2(6)「診断群分類毎の集計」より,MDC01(神経系疾患)の内訳から010040(非外傷性頭蓋内血腫)を対象とした。性別,年齢,ICD10,治療法,退院時転帰,退院時死亡率,血腫除去方法について診断群分類番号別,重症度別,手術別のいずれかで件数や割合を比較した。割合の比較にはχ2検定を用いた。退院時死亡率は分母に退院患者数,分子に退院時転帰が「死亡」の患者数として算出した。

結果 非外傷性頭蓋内血腫(非外傷性硬膜下血腫以外)の件数は65,025件であった。軽症群は42,773件(65.8%),重症群は22,252件(34.2%)であった。男女別では男性で軽症群が68.3%,女性で62.8%となり,男性で有意に軽症群が多かった。80歳以上の割合は軽症群で28.0%,重症群で38.6%となり,有意に重症群で多かった。65歳以上の割合は軽症群で65.3%,重症群で72.8%となり,有意に重症群で多かった。ICD10の重症度別分布は「I610(大脳)半球の脳内出血,皮質下」が約7割を占めた。治療法は手術なしが軽症群で87.9%,重症群で66.8%となり,有意に軽症群で多かった。一方,手術あり群は重症群で有意に多かった。退院時転帰は「治癒・軽快」が78.0%を占め,最も多かった。退院時死亡率は全体で12.0%であった。血腫除去方法は開頭頭蓋内血腫除去術が全体で72.5%を占め,最も多かった。

結語 手術なしの重症群に死亡率が高く,開頭頭蓋内血腫除去術が多かった。開頭頭蓋内血腫除去術は一般的に多く用いられており,視野が広く血腫吸収率が高いが,侵襲が大きく,全身麻酔による術後合併症のリスクがある。その一方,内視鏡下脳内血腫除去術は手術技術習得に時間を要するが,低侵襲で血腫吸収率が高く,早期にリハビリテーションが出来るため,今後広く用いられることを期待する。さらに,日本で脳出血による血腫除去に特化した医療手術用ロボット技術はまだ導入されていない。将来,脳出血手術のためのロボット技術が開発・発表され,より安全で低侵襲な手術が可能になることを期待する。

キーワード DPC,高齢者,脳出血,非外傷性頭蓋内血腫,内視鏡下脳内血腫除去術

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第69巻第1号 2022年1月

福島市における地域在宅高齢者の
食品摂取の多様性の現状と関連する要因の検討

伊藤 佳代子(イトウ カヨコ) 森山 信彰(モリヤマ ノブアキ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)

目的 地域在宅高齢者の栄養状態を,食品摂取の多様性を評価する指標であるDietary Variety Score(以下,DVS)を用いて判定し,関連する要因を検討した。また,高齢者の低栄養状態を予防・改善し,健康づくりを進めるための施策の提言につなげることを目的とした。

方法 平成28年度「福島市民の健康と生活習慣調査」の結果を二次利用した。この調査では,福島市の住民基本台帳を基に18歳以上84歳以下の人口226,492人から,地区別・年齢別(5歳階級)・性別に偏りがないように人数を案分し,6,023人(65歳以上84歳以下は65,300人から1,736人)が抽出(抽出率2.66%)された。2016年に郵送法で自記式質問紙調査(項目:属性,健康に関する意識,栄養・食生活の状況,運動習慣・地域活動への参加等)を実施した。DVSは10食品群の摂取頻度から10点満点で算出し,合計得点が3点以下(低得点群)と4点以上(高得点群)の2群に区分した。65歳以上を対象として,DVSと各調査項目について単変量解析にて関連を検討した。さらにDVSを従属変数,単変量解析により有意差を認めた項目および年齢を独立変数とした二項ロジスティック回帰分析を性別で行った。

結果 郵送数1,736人,回収数1,256人(回収率72.4%)で,記載に不備のない797人(有効回収率45.9%:男369人,女428人)を解析対象とした。低得点群は398人(49.9%)で,男性210人(56.9%),女性188人(43.9%)だった。DVS(低得点群)と有意な関連を示したのは,男性では1日3食の摂取頻度〔オッズ比(OR):3.11,95%信頼区間(CI):1.28-7.58〕,栄養バランスに気をつけた食生活(OR:2.52,95%CI:1.00-6.38),塩分のとりすぎへの意識(OR:2.86,95%CI:1.50-5.47),運動習慣(OR:1.90,95%CI:1.12-3.24)で,女性では健康を維持するための心がけ(OR:2.11,95%CI:1.06-4.22),塩分のとりすぎへの意識(OR:2.71,95%CI:1.25-5.88)だった。

結論 福島市の地域在宅高齢者の栄養状態を食品摂取の多様性からみると,低い状態にあるものが全体の約半数で特に男性で多かった。この状態を改善するためには,塩分のとりすぎに気をつけ,男性では欠食せず,栄養バランスに気をつけるなどの望ましい食生活を心がけ,運動習慣を持つこと,また,女性では健康を維持するための心がけを持つことが重要であることが明らかになった。

キーワード 地域在宅高齢者,低栄養,食品摂取の多様性

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第68巻第15号 2021年12月

子どもをもたない有配偶成人の主観的幸福感とその関連要因

-就労形態による分析-
福島 朋子(フクシマ トモコ) 沼山 博(ヌマヤマ ヒロシ)

目的 子どもをもたない中年期有配偶者の主観的幸福感とそれに関連する要因について,就労形態による検討を行うことを目的とする。主観的幸福感に関連する要因としては,夫婦関係満足度,仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観,経済的ゆとり感を取り上げた。

方法 2018年10月および2019年1月にWeb調査を行った。調査会社にモニター登録している該当者に同社を通して調査依頼を行い,全国の子どものいない45~60歳の有配偶男女667名の協力を得た(女性461名,男性206名)。これらを女性フルタイム群,女性パートタイム群,女性家事専業群,男性フルタイム群の4群に分け,各変数の一元配置分散分析を行った。また,夫婦関係満足度,仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観,経済的ゆとり感を説明変数,主観的幸福感を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。

結果 4群について,まず一元配置分散分析を行ったところ,主観的幸福感,夫婦関係満足度,経済的ゆとり感については,有意な差は認められなかった。仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観では有意な差が認められ,仕事の満足度では男性フルタイム群より女性パートタイム群で高く,伝統的家族・ジェンダー観では女性フルタイム群・女性家事専業群より男性フルタイム群で高かった。また,階層的重回帰分析を行ったところ,主観的幸福感に対し4群すべてで夫婦関係満足度が有意な正の影響を,女性3群で経済的ゆとり感が有意な正の影響を,女性家事専業群のみにおいて伝統的家族・ジェンダー観が有意な正の影響が認められた。

結論 子どもをもたない中年期有配偶者において,夫婦関係満足度が主観的幸福感を高める重要な要因であることが示された。また,これ以外の要因については,性別や就労形態により異なっており,子どもをもたない成人の幸福感を調査するにあたり,性別や就労形態を含めて把握することの必要性が示唆された。

キーワード 子どもをもたない有配偶成人,主観的幸福感,就労形態,関連要因

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第68巻第15号 2021年12月

末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間

大塚 美耶子(オオツカ ミヤコ) 越智 真奈美(オチ マナミ) 可知 悠子(カチ ユウコ)
加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 新村 美知(ニイムラ ミチ) 竹原 健二(タケハラ ケンジ)

目的 父親が家事・育児に費やすことのできる時間を延ばすことを目的に,政府は父親の家事・育児関連時間を1日あたり150分にすることを目標として掲げている。しかし,まだその達成には至っていない。そこで,本研究では基幹統計のデータを用いて,父親の1日の生活時間の分布を記述し,父親の家事・育児関連時間を増やすための方策を提言するのに必要な基礎資料として提示することを目的とした。

方法 本研究では,総務省が実施している社会生活基本調査の2016年データを用いた。調査参加者176,285人のデータのうち,①父親,②夫婦と子どもの世帯,③末子が未就学児,④就業している,⑤調査日が「仕事の日」の条件をすべて満たす3,755人を対象に分析を行った。対象者の1日の生活時間を「(通勤を含む)仕事関連時間」「家事・育児関連時間」「(睡眠や食事などの)1次活動時間」「(娯楽などの)休息・その他の時間」の4つのカテゴリーに分類し,「仕事関連時間」の時間別の分布を調べた。次に1時間ずつ分けた「仕事関連時間」の長さごとに,その他3つのカテゴリーの平均時間を調べ,「仕事関連時間」と他のカテゴリーの時間との関連をみた。

結果 「仕事関連時間」は,12時間以上の割合が36%と最も高かった。「仕事関連時間」が長いと,「家事・育児関連時間」や「休息・その他の時間」が短くなる傾向がみられた。一方,「1次活動時間」は「仕事関連時間」の長さに大きく影響されず,1日平均10時間前後でほぼ横ばいであった。ただし,全体の36%を占める「仕事関連時間」が12時間以上の群では,「1次活動時間」「休息・その他の時間」の平均時間が他の群と比べて1時間ほど短かった。また,この群における「家事・育児関連時間」は,1日平均10分だった。

結論 父親の「仕事関連時間」が長いほど,「家事・育児関連時間」が短くなる傾向がみられた。仕事がある1日において,健康維持に必要だと思われる10時間程度の「1次活動時間」と最低2時間の「休息・その他の時間」を差し引くと,政府の目標とする父親の家事関連時間150分を達成するためには,父親の「仕事関連時間」が9.5時間未満となることが重要であると示唆された。この結果は,長時間労働をどこまで是正すればよいのか,その一つの具体的な目安になり得るものだと考えられる。

キーワード 父親の生活時間,長時間労働,家事・育児時間,少子化,社会生活基本調査,ワーク・ライフ・バランス

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第68巻第15号 2021年12月

愛媛県南宇和郡愛南町における地域医療の現状と課題

-地域住民ならびに医師へのアンケート調査から-
山下 薫(ヤマシタ カオル) 石川 真由(イシカワ マユ) 鄭 思青(テイ シセイ)
佐藤 准子(サトウ セツコ) 友岡 清秀(トモオカ キヨヒデ) 谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 高齢化が進むわが国において,地域医療の需要は各地域により多様であり,その実態に合わせて政策を進める必要がある。そこで本研究では,愛媛県南宇和郡愛南町の地域住民ならびに医師を対象に,地域医療ならびに在宅医療の現状と課題を明らかにすることを目的にアンケート調査を実施した。

方法 愛媛県南宇和郡愛南町(以下,愛南町)の地域住民(497人)ならびに医師(22人)を対象に,2019年7月に無記名自記式アンケート調査を実施した。主な内容として,地域医療の課題や今後必要とされる施策,在宅医療の需要,利用実態とその理由,そして終末期医療の需要について調査した。

結果 地域医療について,53.3%の地域住民が総合的な診療を望んでおり,59.1%の医師が総合診療科の充足を求めていた。在宅医療については,地域住民の67.0%,医師の72.7%が在宅医療のニーズがあると感じていた。53.5%の地域住民が在宅医療を希望する一方で実際に受けている人は1.6%であった。看取りの場所について,43.3%の地域住民が自宅を希望している一方で,実際に自宅で看取ることが多いと答えた医師は18.2%であった。

結論 愛南町の地域医療において,地域住民,医師双方から総合的な診療が求められていることが明らかとなった。また,在宅医療の需要が高い一方で,実際に利用する地域住民や取り組む医師の割合が少ないことが明らかとなった。

キーワード 地域医療,在宅医療,総合診療,高齢化,愛南町

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第68巻第15号 2021年12月

患者診療体験調査における
質問表現の回答への影響に関する比較調査

佐藤 三依(サトウ ミヨリ) 渡邊 ともね(ワタナベ トモネ) 市瀬 雄一(イチノセ ユウイチ)
松木 明(マツキ メイ) 脇田 貴文(ワキタ タカフミ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ)

目的 平成27年厚生労働省がん臨床研究事業としてがん患者と家族の診療体験に基づく評価のためにリッカート尺度の質問で第1回患者体験調査を行ったが,多くの質問で8割の患者が肯定的選択肢を選んだため政策等による変化を捉えられないと考えられた。近年評定尺度表現の変更による回答分布の操作も提案されたことを受け,第1回調査の肯定が2段階,中立が1段階,否定が2段階の選択肢を,第2回では3,1,1段階にしたが,回答が肯定側に誘導された可能性があった。そのため選択肢の変更前後で結果を比べ,第1,2回の調査の回答分布を比較する方法を提案し,さらに項目反応理論に基づき,評定尺度表現の適切性を評価することを目的とする。

方法 2020年3月2日~5日に調査した。1,635人が回答対象者,有効回答は728人(44.5%)であった。インターネット調査会社のパネル患者を2群(A,B)に分け,A群に5段階で中央が中立的選択肢を,B群に5段階で下位2つ目が中立と設定し,肯定の回答者の割合を比較し,比較補正係数を作成した。項目反応理論のパラメタ推定により選択肢間の心理的距離および測定精度を検証した。

結果 A群よりB群の方が天井効果は和らいだが,肯定的選択肢の患者の割合は増加した。潜在特性連続体上の各選択肢の尺度値の差異はみられなかったが,B群においてテスト情報量が増加した。

結論 第1,2回の患者体験調査の比較には,比較補正係数を用いることが必要と考えられた。選択肢変更後において天井効果が和らぎ,誤差が減少しテスト情報量が増加したことより,選択肢変更は選択肢内のばらつきを測定する,経時的な変化を捉えたい場合に有効であると示唆された。

キーワード リッカート法,評定尺度表現,項目反応理論,患者体験調査,比較補正係数

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第68巻第15号 2021年12月

わが国の労働者における新型コロナウイルス感染症の
検査を受ける動機づけに関連する因子

工藤 安史(クドウ ヤスシ) 後藤 由紀(ゴトウ ユキ) 柿原 加代子(カキハラ カヨコ)
吉田 和枝(ヨシダ カズエ) 榎本 喜彦(エノモト ヨシヒコ) 森 智子(モリ トモコ)
河野 啓子(コウノ ケイコ) 堤 明純(ツツミ アキズミ)

目的 新型コロナウイルスへの感染の疑いのある労働者がいた場合,新型コロナウイルス感染症の診断に必要な検査を受けてもらうことは,事業場での感染拡大を防止するために重要である。本研究では,「新型コロナウイルス感染症に対する労働者の意識」と「新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけ」との関連性を探る。

方法 2020年9月から12月までの間に,調査を実施した。36事業場が研究に参加し,解析対象者は2,056名であった。ヘルスビリーフモデルを参考にして,「新型コロナウイルス感染症に対する労働者の意識」に関連する項目を作成し,因子分析を行った。その後,「新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけ」を目的変数,年齢,性別,勤務形態,婚姻状態,「因子分析で抽出された各因子」を説明変数とする重回帰分析を行った。

結果 労働者の意識に対して因子分析を行った結果,「重篤な健康状態になる恐れ」「偏見にさらされない」「感染拡大防止に早期発見が重要」「生活の安定」「感染リスクの高さ」という5つの因子が抽出された。重回帰分析の結果,重篤な健康状態になる恐れを認識しているほど,感染拡大を防止するために早期発見の重要性を認識しているほど,感染しても生活の安定が確保できると考えているほど,新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけが高かった。また,既婚者は,未婚者よりも,新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけが有意に高かった。

結論 「重篤な健康状態になる恐れ」「感染拡大防止に早期発見が重要」「生活の安定」という意識や婚姻状態を考慮することで,検査を受ける動機づけを高めることができる。

キーワード 検査,新型コロナウイルス感染症,動機づけ,ヘルスビリーフモデル,労働者

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第68巻第13号 2021年11月

一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感に
関連する要因についての探索的研究

楊 暁敏(ヨウ ギョウビン) 神部 智司(カンベ サトシ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究では,一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感(以下,支援困難感)に関連している要因を探索的に検討することとした。

方法 大阪府下の居宅介護支援事業所と地域包括支援センターから2,500カ所を無作為に抽出した。各施設1人の一人暮らし高齢者を担当した経験がある介護支援専門員2,500人を対象に,自記式質問紙を用いた郵送調査を実施した。調査期間は平成31年1月30日から同年2月25日までであった。本研究では,回答欠損値のない644人(有効回答率:25.8%)を分析対象とした。尺度の信頼性と妥当性が検証された「一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感」尺度(24項目)を従属変数,仕事の状況,労働環境に対する評価,スーパービジョンの状況,性別,年齢,介護支援専門員の経験年数,主任介護支援専門員資格の有無を独立変数とする重回帰分析を行った。

結果 分析の結果,「業務量過多によるケアマネジメントの困難感」「サービスの制約によるケアマネジメントの困難感」が正の方向,「一人暮らし高齢者の見守りサービス状況」「(スーパービジョンを)職場外で受けている」「(スーパービジョンを職場内外の)両方で受けている」「介護支援専門員の経験年数」が負の方向で「支援困難感」との有意な関連を示した。

結論 本研究の結果から,一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感に対する対応策として,介護支援専門員自身の実践経験の内省的蓄積とともに,事務業務の簡素化などによる業務負担の軽減,地域資源の充実に向けた制度の見直し,事業所内外におけるスーパービジョン体制の整備などが必要とされる。

キーワード 一人暮らし高齢者,介護支援専門員,支援困難感,スーパービジョン,ケアマネジメント

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第68巻第13号 2021年11月

ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響

村松 容子(ムラマツ ヨウコ)

目的 近年,疾病構造が変化し,慢性疾患等,病気を抱えたまま日常生活を送る人が増えている。慢性疾患は,必ずしも完治を望めないため,主観的健康感が重要となる。一般に,主観的健康感は,加齢や疾病を経験することで下がるが,加齢も疾病も避けることはできない。一方,主観的健康感にはヘルスリテラシーも関連しており,ヘルスリテラシーが低下すると,主観的健康感が低下するといった報告がある。ヘルスリテラシーは,加齢や疾病発症後も向上しうることから,本研究では,主観的健康感を向上させるための試みとして,ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響を分析した。

方法 データは,ニッセイ基礎研究所が,20~69歳の男女個人を対象に2018年7月に実施したインターネット調査の結果である(有効回答数3,002)。分析は,主観的健康感とヘルスリテラシーの基本属性別分布を確認したうえで,主観的健康感を目的変数,ヘルスリテラシーや生活習慣,最近の治療歴や投薬の状況を説明変数とした重回帰モデルで推計を行った。

結果 主観的健康感を低下させる要因として加齢や疾病の発症があった。ヘルスリテラシーは加齢や疾病を経験することで向上していた。重回帰分析の結果,ヘルスリテラシーは,社会的経済環境,現在の生活習慣,治療歴や投薬の状況とは独立して,主観的健康感とプラスの相関関係があることが認められた。

結論 主観的健康感は,加齢や疾病の発症によって下がるが,ヘルスリテラシーは,年齢や社会経済的環境,治療歴等とは異なり,教育や経験によって向上することが望める。したがって,ヘルスリテラシーの向上によって,年齢や疾病経験による主観的健康感の低下を一定程度埋めることができる可能性がある。長寿化がますます進展する中,自分自身の健康状態について,過剰な不安を抱えずに暮らすためには,医療機関で治療を受けないで済む期間の延伸という視点での疾病の予防だけでなく,主観的健康感の向上が重要な課題と考えられる。

キーワード 主観的健康感,ヘルスリテラシー,疾病経験,加齢,生活習慣

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第68巻第13号 2021年11月

日本における主として麻酔科以外の診療科に従事している
麻酔科標榜医の配置状況

-2016年医師調査個票データによる分析-
石川 雅俊(イシカワ マサトシ)

目的 麻酔科については,厚生労働大臣の許可を得た麻酔科標榜医のみ標榜できる。麻酔科標榜医の実態についての先行研究はなく,2016年の医師・歯科医師・薬剤師調査において初めて麻酔科標榜医の数が明らかになった。外科などを専門とする主として麻酔科以外の診療科に従事している麻酔科標榜医(以下,非麻酔科の麻酔科標榜医)が麻酔科医の不足の緩和に貢献していると推察されるが,その実態は不明である。そこで本研究は,非麻酔科の麻酔科標榜医の配置状況について分析し,医療政策への示唆を検討することを目的とした。

方法 2016年末に実施された医師・歯科医師・薬剤師調査の個票データを,厚生労働省の許可を得て入手し,2016年時点の麻酔科標榜医の状況について記述した。次に,主として非麻酔科の麻酔科標榜医の特徴を明らかにするため,非麻酔科の麻酔科標榜医の有無を被説明変数,性,年齢,施設,地域分類,主として従事する診療科を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 麻酔科標榜医の4割は,非麻酔科の麻酔科標榜医であった。非麻酔科の麻酔科標榜医の特性として,男性,40歳以上,過疎地域,診療所勤務のオッズ比が有意に高いという特徴がみられた。

結論 非麻酔科の麻酔科標榜医は,過疎地域の麻酔科業務の充実に貢献するなど,麻酔科の充実に貢献している可能性が示された一方で,麻酔科専門医と異なり更新がないことから,教育制度の整備について検討が必要である。

キーワード 麻酔科標榜医,医師・歯科医師・薬剤師調査,医師偏在,更新制

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第68巻第13号 2021年11月

東日本大震災被災地における
高齢住民の孤独感の実態とその関連要因

山下 真里(ヤマシタ マリ) 清野 諭(セイノ サトシ) 野藤 悠(ノフジ ユウ)
菅原 康宏(スガワラ ヤスヒロ) 成田 美紀(ナリタ ミキ) 横山 友里(ヨコヤマ ユリ)
西 真理子(ニシ マリコ) 秦 俊貴(ハタ トシキ) 北村 明彦(キタムラ アキヒコ)
新開 省二(シンカイ ショウジ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ) 

目的 東日本大震災の被災地では,新しいコミュニティになじめず孤立や孤独に陥っている者への対策が喫緊の課題となっている。本研究では,被災地在住高齢者の孤独感の実態を把握し,孤独感と関連する可変的要因を横断研究にて明らかにすることを目的とした。

方法 2019年10月,気仙沼市在住の65-84歳の非要介護認定者(要支援者は含む)18,038名から,16社協区別に層化無作為抽出した9,754名を対象に自記式質問紙調査を郵送法により実施した。返送のあった8,150名(回収率83.6%)のうち欠損のない5,034名を解析した。孤独感の評価には,日本語版Three-Item Loneliness Scaleを用い,6点以上を高孤独感ありとした。高孤独感ありと関連する可変的要因として,週1日以上の運動習慣,長時間座位行動,同居人以外との週1回以上の対面交流と非対面交流,孤食,閉じこもり,社会活動(ボランティア,趣味・学習,自治会,交流サロン,スポーツクラブのいずれかに月1回以上参加),ソーシャルサポート(情緒的サポート,手段的サポート),震災後の相談環境の変化について尋ね,マルチレベルロジスティック回帰分析(全変数投入モデル)によりオッズ比(95%信頼区間)を算出した。調整変数は,性別,年齢,独居,婚姻状況,現在の住居,介護保険料の所得段階区分,就労状況,教育歴,既往歴,抑うつの有無,腰と膝の慢性疼痛の有無,移動能力制限,飲酒,喫煙を用いた。

結果 高孤独感を有する割合は,全体で18.2%(916名),男性で19.2%,女性で17.3%であった。また年齢区分別の高孤独感該当者は,前期高齢者で18.2%,後期高齢者で18.3%であった。男女に共通して高孤独感と関連していた可変的要因は,非対面交流なし,孤食あり,社会活動なし,手段的サポートいない,ネガティブな相談環境の変化であった。男性のみに見られた特徴としては無職と高孤独感との有意な関連が認められた。女性のみに見られた特徴としては,情緒的サポートいないと対面交流なしが高孤独感と有意な関連を示した。

結論 孤独感は,人との交流状況や食事環境,ソーシャルサポートと有意に関連していることが明らかになった。また,被災地の孤独の特徴として,震災後の相談環境のネガティブな変化が,現在の孤独感と強く関連していることが示された。被災地の取り組みとして,会食機会の提供等,食を通したコミュニティづくりが効果的であるかもしれない。

キーワード 東日本大震災,孤独感,日本語版Three-Item Loneliness Scale,コミュニティの再構築,身近な相談環境の改善

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第68巻第13号 2021年11月

不登校発生に関連する家族要因の検討

-子育て世帯全国調査データを用いて-
白片 匠(シラカタ タクミ) 平 和也(タイラ カズヤ)
長尾 青空(ナガオ セイキ) 伊藤 美樹子(イトウ ミキコ)

目的 児童生徒の不登校は,犯罪行為や様々な疾患との関連が報告されており,公衆衛生上も重要な課題である。しかし,成育環境の中心を担う家族要因と不登校との関連に関する研究はほとんどされていない。本研究では,不登校発生と家族要因との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 労働政策研究・研修機構が行った「第1回(2011年),第2回(2012年)子育て世帯全国調査」を二次利用し,子どもの人数が3人以下の世帯で,子ども全員が小学生から高校生に含まれ,不登校に関する質問に回答のあった1,884世帯を分析対象とした。ひとり親世帯とふたり親世帯を層化サンプリングしていることから,ひとり親・ふたり親の世帯別に分析を行い,不登校発生の有無を従属変数とし,独立変数には家族要因として子どもの人数や性別,世帯年収,しつけの厳しさ,子どもと過ごす時間を投入した多変量二項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 ひとり親世帯は789世帯で,うち不登校ありの世帯は99世帯(12.5%)であった。また,ふたり親世帯は,1,095世帯で,うち不登校ありの世帯は55世帯(5.0%)であった。多変量二項ロジスティック回帰分析の結果,不登校のリスクは,ひとり親世帯では,600万以上800万円未満(参照基準:世帯年収200万円未満に対するオッズ比(OR)=0.12,95%信頼区間(95%CI):0.02-0.98)が低く,しつけをやや甘やかしている(参照基準:とても厳しいに対するOR=8.19,95%CI:1.04-64.39)が高かった。一方,ふたり親世帯では600万以上800万円未満(OR=0.07,95%CI:0.01-0.43)と1000万円以上(OR=0.14,95%CI:0.03-0.75)が不登校のリスクが低かった(いずれも参照基準,200万円未満)。

結論 不登校発生に関連する家族要因として,全国平均の世帯年収よりも低いことやしつけの厳しさで甘やかしている家庭では,不登校発生のリスクが高いことが示唆された。

キーワード 不登校,家族要因,子ども,世帯年収,しつけ

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第68巻第13号 2021年11月

国民生活基礎調査データを用いた学歴と有配偶率との関連の分析

-2010-2019年-
奥井 佑(オクイ タスク)

目的 本研究では国民生活基礎調査のデータをもとに配偶状況と学歴との関連についての近年の動向を分析した。

方法 2010年から2019年までの国民生活基礎調査のデータを用いた。対象年齢について,20-24歳から75-79歳までの5歳刻みの年齢階級のデータを用いた。配偶者の有無は,調査時に配偶者を有しているか否かをもとに有配偶者と無配偶者に分類されている。学歴について,小学・中学・高校・旧制中,専門学校・短大・高専,大学・大学院卒の3区分に分け分析を行った。各学歴における有配偶率を年齢階級,性,調査年別に算出した。また,2010年の全対象者における年齢階級別人口を基準人口として,各調査年の年齢調整有配偶率を性および学歴別に算出した。加えて,学歴と所得との関連を確かめるため,役員以外の雇用者に対象を限定したうえで学歴と低所得者割合との関連について同様の分析を行った。

結果 学歴と配偶状況との関係は年齢階級により異なり,20代では男女とも小学・中学・高校・旧制中卒の有配偶率が最も高かったが,以降の年齢ではその他の学歴の方がより有配偶率が高い傾向がみられた。年齢調整有配偶率は,男性では調査年を問わず,大学・大学院卒,専門学校・短大・高専卒,小学・中学・高校・旧制中卒の順番に有配偶率が高くなり,調査年を経るごとに大学・大学院卒と小学・中学・高校・旧制中卒の差が拡大した。また,学歴を問わず年齢調整有配偶率は2010年から2019年にかけて減少した。女性では学歴による年齢調整有配偶率の差は調査年を問わず男性よりも小さかったが,2012年以降においては専門学校・短大・高専卒以上が小学・中学・高校・旧制中卒を上回る結果となっていた。また,雇用者に限定して,学歴と低所得者割合の関連を調べたところ,男女とも学歴が低いほど低所得者割合が高いことが示された。

結論 男性において有配偶率の減少が学歴を問わず顕著であるとともに,学歴による有配偶率の格差も拡大傾向であることが示された。女性では学歴による有配偶率の差は小さかったが,近年,学歴により有配偶率に差が生じ始めていることがわかった。

キーワード 国民生活基礎調査,有配偶率,学歴,公的統計,所得,低所得者割合

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第68巻第12号 2021年10月

日本の成人女性における院内助産システムに対するケアニーズ

黒﨑 直央(クロサキ スナオ) 宮﨑 文子(ミヤザキ フミコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)

目的 日本では助産師外来・院内助産の普及が推進されているが,その普及率は停滞している。本研究の目的は,院内助産システム推進の示唆を得ることを目指し,成人女性における院内助産システムに対するケアニーズを明らかにすることである。さらに助産所出産経験者(以下,助産所群)と,病院出産経験者および出産未経験者(以下,助産所以外群)におけるケアニーズの相違および院内助産システム認知の有無によるケアニーズの相違を明らかにした。

方法 関東地方の18~39歳の女性697名に対して,無記名自記式質問紙を用いて量的横断的研究を行った。調査内容は,院内助産システムに対するケアニーズおよび利用ニーズであった。分析は記述統計量算出およびχ2検定を実施した。

結果 有効回答は340部(有効回答率48.8%)であり,助産所群62部と,助産所以外群278部のデータを用いて分析した。助産師外来を知っている人は37.1%,院内助産を知っている人は13.2%であった。院内助産システムのケアニーズは,「助産師が誠実」86.8%,「助産師と医師のチームワークがよい」86.5%,「秘密やプライバシーの保持」86.5%,「助産師がよく話を聞いてくれる」84.4%の順に多かった。院内助産システムの利用交通ニーズは徒歩では10分以内と回答する人が55.0%で最も多く,院内助産の分娩費用ニーズは出産育児一時金と同額が54.7%と最も多かった。

結論 院内助産システムに対するケアニーズは,誠実,医師とのチームワーク,プライバシー保持,傾聴といった顧客コミュニケーションが上位を占めていた。助産所群は自然分娩,フリースタイル分娩,分娩部屋選択,産褥マッサージ,家族立ち会い出産という具体的なケアニーズが多く,助産所以外群は送迎バスの利用やスタッフの独自の白衣といったケア以外の利用ニーズが多かった。

キーワード 助産師,院内助産システム,ケアニーズ,助産師外来,横断調査

 

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第68巻第12号 2021年10月

市民後見人における受任調整の現状と後見活動時
に感じる困難さを規定する要因の検討

永野 叙子(ナガノ ノブコ) 小澤 温(オザワ アツシ)

目的 市民後見人の受任調整の現状を分析し,後見活動時に感じる困難さの内容と,困難さを規定する要因を明らかにすることを目的とした。

方法 2016年12月~2017年3月に,現任の市民後見人142名に対して質問紙調査を実施した。調査内容は,市民後見人の属性,被後見人等の概要,後見活動時に感じる困難さとした。有効回収票は113件(有効回収率=79.6%),分析対象は112件(1件辞退)であった。分析項目の独立変数は,①居所2群:「在宅,施設等」,②申立人2群:「親族(本人含),市町村長申立」,③介護度4群:「要支援1~要介護2,要介護3,要介護4,要介護5」,④受任経験:「有,無」,⑤資格所有:「社会福祉士,介護福祉士,看護師,税理士,教員,その他等の記入があった場合を有,記入なしを無」,⑥支援・監督組織の2群:「独自養成の実績がある3カ所の実施機関(2011年老人福祉法の改正ならびに,市民後見推進事業開始以前より市民後見人を独自研修プログラムで養成してきた成年後見実施機関),それ以外の7カ所の実施機関」とした。従属変数は,「活動時に感じる困難さ19項目」とし,独立変数①~⑥との関連性をみるためにχ2検定を行った。

結果 困難さを規定する要因のうち被後見人等の要件では,市町村長申立案件の場合に,「家族等との意見調整」を「困難である」と感じる傾向がみられた(p<0.05)。次に,市民後見人の要件では,受任経験がある者が「葬儀等の手配」(p<0.01),「財産の引き渡し」(p<0.05)を「困難でない」と感じる傾向がみられた。また,市民後見人を支援・監督する組織での検討では,独自養成の実績がある組織で支援・監督を受ける市民後見人は,「家族同様のかかわり」「保証人等を求められる」「家族等との意見調整」「緊急時の対応」に困難さを感じない傾向がみられた。

結論 死後事務は,1ケース1回限りの非日常的かつ個別性が高い活動であるが,市民後見人の受任経験が死後事務の手続き・手順への理解を促進し,見通しをもった活動につながると考えられた。一方,独自養成の実績がある組織で支援・監督を受ける市民後見人には,困難さを感じない傾向がみられたことから,当該機関は,受任後の市民後見人に対する継続的支援を推進していると考えられた。したがって,受任調整時には市民後見人の受任経験を考慮する一方で,支援・監督組織が市民後見人の育成・支援を通じて自らも実務経験を積みつつ,現任の市民後見人への継続的支援を推進することが,市民後見事業の普及・促進につながると考えられる。

キーワード 成年後見制度,市町村申立,市民後見人,受任調整,困難さ,成年後見制度利用促進基本計画

 

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第68巻第12号 2021年10月

世帯の社会的脆弱性尺度の開発
および信頼性・妥当性の検討

福定 正城(フクサダ マサキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)

目的 本研究は,世帯境界の概念を提示し,その境界を通したさまざまな刺激の出入りや,対人関係における距離感にかかわる評価尺度である世帯の社会的脆弱性尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討することを目的とした。

方法 先行研究から抽出した30項目で尺度原案(5件法)を作成し,表面妥当性の検討後,予備調査を行った。予備調査後に4件法への修正を行い,本調査では愛知県内すべての地域包括支援センターに質問紙を配布し,112カ所347名(有効回答307名)から回答を得た。調査期間は2020年6月〜8月であった。評価対象世帯は,①2名以上の世帯員がいる,②65歳以上の高齢者が1名以上含まれる,③生活に困難が生じているにもかかわらず自ら支援を望まない,これらすべてを満たす世帯と定義した。探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)で因子的妥当性を確認した後に,内的一貫性をクロンバックα係数で検討した。そして,社会的孤立,セルフ・ネグレクト,支援困難感にかかわる指標を外部基準とし,基準関連妥当性を検討した。また,世帯構成の違いによる尺度得点の相違について,一元配置分散分析後にScheffe法を用いた多重比較によって確認した。さらに,内容的妥当性を専門家へのヒアリングを行い検討した。

結果 探索的因子分析の結果,スクリー基準と因子の解釈可能性により3因子構造を採択し,第1因子「セルフ・ネグレクト」,第2因子「社会的不適応」,第3因子「社会的孤立」と解釈した。全項目が0.35以上の因子負荷量をもち,因子的妥当性は確保されていた。クロンバックα係数は,尺度全体が0.84,第1~3因子が0.73,0.70,0.78であり,尺度の信頼性が示された。外部基準と尺度得点との間に有意な相関が認められた。多重比較の結果,高齢者と未婚の子世帯は,高齢者夫婦世帯よりも尺度得点が有意に高い傾向が確認された。専門家4名全員から,主観的評価と尺度得点との間に矛盾は認められず,本尺度の項目は世帯の社会的脆弱性を測定するうえで必要な内容をカバーしているとの意見を得られた。

結論 本研究によって開発された世帯の社会的脆弱性尺度は,信頼性と妥当性を有する尺度であることが示された。本尺度は,対象世帯を支援する者にとって,有益な介入効果測定の指標となると考えられる。

キーワード 世帯の社会的脆弱性尺度,世帯境界,家族システム,社会的孤立,セルフ・ネグレクト,因子分析

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第68巻第12号 2021年10月

子ども虐待と子育て不安や就学前親子のニーズとの関連性

-岡山市の就学前親子の居場所に関する調査より-
八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ)

目的 本論文では,親子が安全・安心に過ごすことのできる岡山市の就学前親子の居場所のあり方を検討するために,岡山市の就学前の子どものいる世帯を対象に就学前親子が利用する居場所のニーズなどに関する質問紙調査を実施し,子ども虐待と子育て不安や就学前親子のニーズとの関連性について検討した。

方法 調査対象は,2019年5月現在の岡山市住民基本台帳から0歳から5歳までの子どもがいる36,742世帯から2,520世帯を無作為抽出し,同年6月7日~6月30日に郵送調査法による質問紙調査を実施した。1,275人から回答が得られた(有効回答率は50.6%)。子ども虐待意識・経験・子育て不安・居場所ニーズのスピアマンの順位相関係数を算出した。子ども虐待意識・経験については,家計状況・家族形態・子育て不安・居場所ニーズによる違いを検討するためにKruskal-Wallis検定を行った。「子どもをたたいた(経験)」を従属変数,子どもの月数・就園状況・家計状況・子ども虐待意識・子ども虐待経験・子どもの頃の虐待経験・子育て不安・居場所ニーズを独立変数とする重回帰分析を行った。

結果 「子どもをたたいた(経験)」と「子どもの頃親等にたたかれた(経験)」の相関はρ=0.295(p<0.01)で低い正の相関があったが,「子どもをたたいた(経験)」と「子どもの頃親等に怒鳴られた」の相関は,ρ=0.598(p<0.01)でかなり高い正の相関があった。余裕のある人より,普通・苦しい人の方が子どもをたたくことが多く,親等にたたかれた経験も多くなっていた。重回帰分析の結果,子どもの月数が多く,怒鳴ることに肯定的であり,子どもの頃親等にたたかれたり,怒鳴られた経験のある人ほど子どもをたたき,さらに,子育て困難感が高く,子育て相談・支援ニーズが低く,遊び場ニーズの高い人ほど子どもをたたく傾向があることが明らかになった。

結論 子どもをたたいたり,怒鳴ったりすることは体罰であり,しつけとして体罰を用いない,特に怒鳴らない子育ての方法を親子の居場所などで伝えていく必要がある。親子の居場所において,子育て不安が高く,子どもをたたく人や子どもを怒鳴る人,子どもの頃親等に怒鳴られた経験のある人,そして家計の苦しい人やひとり親家庭などを個別に把握し,寄り添っていく伴走的な子育て支援を実践するとともに,子育て支援プログラムや虐待治療プログラムなどを含む福祉サービスにつなげていくソーシャルワークに基づいた子育て支援が求められている。

キーワード 親子の居場所,地域子育て支援拠点,子ども虐待意識,子ども虐待経験,被虐待経験

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第68巻第12号 2021年10月

若年性認知症者の経済状況に応じた
介護支援専門員の社会保障制度の選定能力

竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 杉山 京(スギヤマ ケイ) 倉本 亜優未(クラモト アユミ)

目的 本研究では,居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象に,若年性認知症者の経済状況に応じた社会保障制度の選定能力について,事例問題を用いて明らかにすることを目的とした。

方法 近畿,中国(うち1県を除く),四国,九州・沖縄地方に設置されている居宅介護支援事業所16,345カ所(2017年7月時点)から層化二段階抽出法により選定した1,500カ所の事業所を対象に質問紙による郵送調査を行った。調査内容は属性,若年性認知症者の事例問題,社会保障制度の選定能力を確認する項目,事例問題における経済問題の軽減・解決のための相談先の意向等で構成した。調査期間は2017年10月から同年11月の2カ月間であった。

結果 回答は478名から得られ,統計解析には当該項目に欠損値のない386名の資料を用いた。事例問題に対する社会保障制度の利用の可否の回答を用いてクラスター分析を行った結果,5つのクラスターに類型化されると判断した。

結論 5つのクラスターいずれもが社会保障制度の選定能力に課題を有していたが,相談先の意向を確認すると,その選定能力を補完する援助要請を行っている可能性が示唆された。今後は,相談先の人・機関が適切な助言を行うことができているか否かについて確認することが課題である。

キーワード 若年性認知症者,社会保障制度,介護支援専門員,経済問題,経済支援,事例問題

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第68巻第12号 2021年10月

高齢者介護施設のケア従事者における
外国人介護職の受け入れへの期待と不安の実態

富永 真己(トミナガ マキ) 田中 真佐恵(タナカ マサエ)
矢吹 知之(ヤブキ トモユキ) 中西 三春(ナカニシ ミハル)

目的 本研究は,高齢者介護施設のケア従事者を対象に,現状の組織の受け入れの準備体制と,外国人介護職の受け入れへの期待と不安の実態について,仕事のストレスと人間関係に関わる職場環境の側面から明らかにすることを目的とした。

方法 倫理委員会の承認後,10府県の高齢者介護施設(N=30)のすべての介護士・看護師(N=1,060)を対象に,2019年9~10月に無記名の自記式質問調査票による量的調査を実施した(回収率71%)。調査項目は,基本属性,雇用・労働特性,施設と職場での外国人介護職の受け入れ状況,受け入れへの期待と不安の程度,仕事のストレス,「職場のソーシャル・キャピタルと倫理的風土」の3下位尺度を含めた。欠損のない583票を解析に用いた。外国人介護職の受け入れの有無の2群による期待と不安の回答割合および施設の受け入れの準備体制の有無の回答割合はχ2検定にて,受け入れへの低い期待と強い不安の有無の2群による仕事のストレスと「職場のソーシャル・キャピタルと倫理的風土」の3下位尺度の平均値の差はt検定にて検討した。

結果 対象者の平均年齢は42.6(±12.2)歳,女性が67%で,対象者の36%が現在の施設で,22%が職場で外国人を受け入れていた。施設の受け入れの準備体制について全7項目で「わからない」の回答が最も多かった。受け入れへの期待については対象者全体の8割が「多少・全くない」と回答し,受け入れの不安については3割が「非常に・かなり不安」と回答した。一方,外国人介護職が働く施設の者はそれ以外の者に比べ,施設と自分の職場での受け入れに対し,期待が「全くない」「非常に不安」との回答割合が有意に低かった。受け入れに対し期待が「全くない」者は,それ以外の者に比べ職場のソーシャル・キャピタルと倫理的リーダーシップの平均値が有意に低かった(p<0.05)。受け入れに非常に不安な者はそれ以外の者に比べ,仕事のストレスの平均値が有意に高く(p<0.01),職場のソーシャル・キャピタルの平均値は有意に低かった(p<0.05)。

結論 日本人という同質のケア従事者が異質の外国人を排斥するような職場風土より,むしろ現存する仕事のストレスや人間関係に関わる職場環境の課題が,外国人介護職の受け入れに対する低い期待度や強い不安を抱くケア従事者に認められた。課題の解決の取り組みとともに取り組みの周知の必要性が示唆された。外国人材の長期定着化に向け,受け入れ後の日本語や資格合格を目指した教育・訓練とともに,やりがいのある職場環境の構築がより一層,望まれる。

キーワード 高齢者介護施設,外国人,介護職,職場環境,不安,期待

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第68巻第11号 2021年9月

共働き世帯における母親の
ワーク・ライフ・バランスと児の社会適応との関連

細川 陸也(ホソカワ リクヤ) 桂 敏樹(カツラ トシキ) 平 和也(タイラ カズヤ)

目的 近年,子育て世帯における共働きの割合は増加傾向にある。しかし,共働き世帯を支える社会システムの整備はいまだ不十分であり,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進は重要な課題となっている。親のワーク・ライフ・バランスは,子どものメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性がある。本研究は,共働き世帯における母親のワーク・ライフ・バランスと学童期の児の社会適応との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 2019年10~12月に,愛知県内の小学5年生(10-11歳児)とその養育者1,414名を対象に自記式質問紙調査を実施した。主な調査項目は,親の雇用形態,家庭の世帯収入等とし,ワーク・ライフ・バランス尺度(Survey Work-Home Interaction-NijmeGen),児の社会適応(Child Social Preference Scale)尺度などを用いた。目的変数を児の社会適応,説明変数を母親のワーク・ライフ・バランス,調整変数を性別,家族構成,親の雇用形態,家庭の世帯収入として重回帰分析を行った。

結果 有効回答の得られた709名のうち,基準を満たす共働き世帯の児443名を分析対象とした。分析の結果,仕事から家庭へのネガティブな影響が大きいほど児の社会不適応のリスクが高くなる(シャイネス:β=0.180,p<0.001,社会的無関心:β=0.149,p=0.003)一方,仕事から家庭へのポジティブな影響が大きいほど社会不適応のリスクが低くなる(シャイネス:β=-0.130,p=0.008)傾向がみられた。

結論 母親のワーク・ライフ・バランスは,ネガティブな面でもポジティブな面でも,児の社会適応に関連していることが示唆された。仕事と子育てを両立するための積極的な取り組みは,児の社会適応にとって重要であると考える。

キーワード 共働き世帯,母親,ワーク・ライフ・バランス,学童期,社会適応

 

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第68巻第11号 2021年9月

後期高齢者率の高い地区と低い地区における
住民ボランティアの独居高齢者見守り活動状況の比較

泉 眞知子(イズミ マチコ) 池田 直隆(イケダ ナオタカ)
岡本 双美子(オカモト フミコ) 河野 あゆみ(コウノ アユミ)

目的 本研究は,後期高齢者率の高い地区と低い地区における住民ボランティアによる独居高齢者への見守り活動状況を比較することを目的とした。

方法 大都市近郊である大阪府寝屋川市の住民ボランティア全数である1,812名に対して自記式質問紙配布による調査を実施した。調査項目は,基本属性や見守り活動状況として,住民ボランティアが実施している見守り活動の対象者数と見守り関連活動の実施頻度を把握した。同市24小学校区において,2017年の全国の平均後期高齢者率である13.8%を基準として,後期高齢者率が13.8%以上の17小学校区を後期高齢者率が高い地区,13.8%未満の7小学校区を後期高齢者率の低い地区とした。後期高齢者率の高い地区と低い地区における住民ボランティアの基本属性,見守り活動の対象者数と見守り関連活動の活動頻度の違いについて,χ2検定により検討した。

結果 有効回答数は764名(42.2%)であった。基本属性は,後期高齢者率の高い地区の住民ボランティアは低い地区の住民ボランティアに比べて,ボランティア自身が75歳以上の者(p<0.05),男性(p<0.001),暮らし向きに余裕がある者(p<0.05),無職者(p<0.05)の割合が高かった。住民ボランティアの見守り活動の対象者数については,後期高齢者率の高い地区では低い地区に比べて,声かけ(p<0.05),ポストや明かりの確認(p<0.01),戸別訪問(p<0.01)の対象者数が0人である者の割合が高かった。一方,見守り関連活動は,後期高齢者率の高い地区の住民ボランティアは低い地区の住民ボランティアに比べて,会食・サロン・喫茶運営を実施していない者の割合が低かった(p<0.01)。

結論 本研究の結果より,後期高齢者率の高い地区では低い地区と比べて,住民ボランティアが実施している声かけ,ポストや明かりの確認,戸別訪問などの見守り活動は頻繁に行われていない一方,会食・サロン・喫茶運営などの見守り関連活動は活発に行われている可能性が示唆された。このことより,後期高齢者率の高い地区にあっても住民ボランティア自身の体力や意欲に応じたボランティア活動を継続していると考えられる。

キーワード 後期高齢者率,住民ボランティア,独居高齢者,見守り活動

 

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第68巻第11号 2021年9月

小規模多機能型居宅介護における認知症の人を支える
家族介護者の心理的支援の有効性に関する研究

-専門職による客観的観点から-
任 賢宰(イム ヒョンジェ)

目的 認知症の人を支える家族介護者への心理的支援に関する先行研究では,通所介護を主に訪問介護と短期入所介護の組み合わせ,つまり,小規模多機能型居宅介護の仕組みが有効としている。しかし,小規模多機能型居宅介護を対象とした有効性の検証はほとんどない。そこで本研究は,小規模多機能型居宅介護の専門職を対象に質的研究を行い,専門職の客観的観点から認知症の人を支える家族介護者の心理的支援の有効性に関する要因を明確にすることを目的とした。

方法 小規模多機能型居宅介護における,認知症の人を支える家族介護者の心理的支援の有効性を検討するために,2019年8月から2019年9月に調査を行った。全国における小規模多機能型居宅介護事業所の中で14カ所の専門職14人を対象に質的研究を実施した。調査方法は,半構造化面接によるインタビューの方法で実践体験や事例を自由に語ってもらった。分析にはテキストマイニング手法を行った。

結果 分析の結果,『安心した地域生活の連続』『理解を得る持続的な説明』『柔軟性に富んだサービス』『最期を支える』『臨機応変な支援』『認知症と家族の相互作用による関係性』『心理的支援への取り組み』『変化する状況へのアプローチ』という8つの有効な要因が示され,小規模多機能型居宅介護は併設型か,単独型かによって支援や関わり方の内容が一部異なっていることが明らかにできた。

結論 小規模多機能型居宅介護は他の在宅サービスと比べて緊急時の利用が可能で臨機応変な対応ができることと,いつでも支援を求めることが可能な接近性が容易であること,利用者のニーズによってサービスを組み合わせることができること,認知症の人と家族が必要な時に専門職から相談できる体制になっていること,看取りを支えることで人生の最期まで安心して住み慣れた地域で生活することができて,心理的安定にもつながっていた。

キーワード 認知症の人,家族介護者,心理的支援,小規模多機能型居宅介護,専門職

 

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第68巻第11号 2021年9月

周術期における術後せん妄アセスメントシートの検討

野末 波輝(ノズエ ナミキ) 斉藤 理恵(サイトウ リエ)
鷲見 由紀子(スミ ユキコ) 藤原 美樹(フジワラ ミキ)

目的 せん妄は病棟の種類を問わず入院患者の1割程度に発症している。急速に高齢化が進行しているわが国においては,今後ますます,せん妄患者が増加することが予想される。また,外科学の進歩に伴い高齢者が手術を必要とする疾患に罹患することも多くなると推測され,高齢者手術で最も多い合併症である術後せん妄の発症も増加すると予測される。術後せん妄は,患者の生命に大きな影響を及ぼすだけでなく,医療スタッフの負担となりマンパワー不足にもつながる。そのため,術後せん妄のリスクをアセスメントし,早期からの予防的介入に組織的に取り組むことは重要である。本研究では,当病棟で使用している簡便な術後せん妄アセスメントシートのリスク因子と因子数の妥当性を検討した。

方法 対象者は2019年6月~2020年3月までの手術予定患者301名とした。入院時,担当看護師が術後せん妄アセスメントシートを記載し,後日研究メンバーによってシートの回収を行った。その他関連因子については,研究メンバーによって情報取集した。各調査項目と術後せん妄の有無についてχ2検定を行った。カットオフ値を算出し,感度,特異度を算出,ROC曲線を作成した。

結果 調査項目のうち,年齢,要支援または要介護認定あり,日常生活自立度A以下,開腹手術,認知症ありまたはMMSE24点以下,脳血管障害の既往あり,ICU入室あり,抗精神病薬の定期内服あり,視覚,聴覚障害ありと術後せん妄に有意な関連がみられた。術後せん妄アセスメントシートのカットオフ値を2項目に設定した時の感度は,94.0%,特異度は76.5%であった。

結論 調査項目と術後せん妄の有無については過去の先行研究とおおむね一致した結果であった。術後せん妄アセスメントシートの感度,特異度が最大となるカットオフ値は2点であったことから,2項目以上にチェックの入る患者にはより注意して介入を行っていくことが必要である。今後も術後せん妄患者は増加することが予想されるため,せん妄予防の取り組みがより重要となると考えられる。

キーワード 術後せん妄,周術期,術後せん妄アセスメントシート,術後せん妄リスク因子

 

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第68巻第11号 2021年9月

季節調整法を応用した
新型コロナウイルス感染症の報告日別の新規陽性者数の変動分析

有田 帝馬(アリタ テツマ)

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の報告日別の新規陽性者数は,感染状況を判断する上で重要な指標である。そのトレンド(傾向・循環変動)をとらえる上で週単位の周期性や休日の影響が阻害要因となっている。経済統計の分析で利用される季節調整法を応用し,これらの阻害要因を分離できないか検討した。

方法 全国および東京都の報告日別の新規陽性者数の日次データ(2020年3月下旬~2021年2月上旬)を対象に,主要な季節調整法であるX-12-ARIMAプログラムの一部プロセスを日次データでも適用できるように修正したものを利用し,新規陽性者数の変動を,トレンド,暦による変動(週単位の周期性および休日の影響),不規則変動(一時点の要因による変動)に分離することを試みた。

結果 季節調整法の応用により,トレンド,暦による変動,不規則変動の分離に成功した。新規陽性者数の変動は前日比で約15%内のトレンド,週単位の周期性の約-30%~10%の振れ,不規則変動による約15%の振れで構成されることが確認された。

結論 本分析で行った季節調整法の日次データへの応用は,報告日別の新規陽性者数のトレンドを早期かつ的確にとらえるための有力な手法になると考えられる。

キーワード 新型コロナウイルス感染症,COVID-19,新規陽性者数,変動分析,季節調整法,X-12-ARIMA

 

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第68巻第11号 2021年9月

就寝時の「快眠音」が
不眠症疑いの労働者への睡眠潜時に与える影響

中田 ゆかり(ナカダ ユカリ) 柴田 英治(シバタ エイジ) 角谷 寛(カドタニ ヒロシ)

目的 本研究の目的は,不眠症の疑いのある労働者が就寝時に「快眠音」を聞くことにより,睡眠潜時(寝つくまでの時間)が短縮するのかを検証することである。

方法 研究デザインは,個々の研究対象者が「介入群(快眠音)」と「対照群(無音)」をもつランダム化比較試験とした。快眠音システムは音源内蔵スピーカー(ヤマハ社製ISX-80)とベッドマット下生体センサー(EMFIT社製EMFIT-QS)を用いた。日本企業4社の従業員1,185名を対象として事前にアテネ不眠尺度を用いてスクリーニングを行い,531名より回答を得た。不眠症の疑いのある6点以上の162名を抽出し,研究同意・データが得られた42名を対象に分析を行った。データ収集方法は,対象者が自宅に設置した快眠音システムを用いて就寝時にランダムに「快眠音」と「無音」を聞き,それぞれ平日5晩ずつ計10晩の睡眠潜時,睡眠時間,睡眠効率のデータを収集した。睡眠潜時のデータを主要評価項目とし,同様に睡眠時間および睡眠効率のデータを副次評価項目とした。分析方法は,「快眠音」と「無音」での対応のあるt検定を行った。

結果 睡眠潜時,睡眠時間,睡眠効率すべての評価項目において「快眠音」と「無音」で有意な差は認められなかった。

結論 「快眠音」は不眠症の疑いのある労働者に対する睡眠潜時の短縮効果は得られなかった。

キーワード 快眠,音,睡眠,労働者

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第68巻第8号 2021年8月

大学病院本院群の類型分類と
機能評価係数Ⅱに影響を及ぼす要因について

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ)

目的 大学病院本院群82施設の,診療件数とMajor Diagnostic Category(MDC)の疾患比率を用い,82施設の特徴と,機能評価係数Ⅱに影響する要因を検討した。

方法 調査項目をクラスター分析し,82大学病院をA~C群に分け,次にMDC比率をクラスター分析し,Ⅰ~Ⅵ群に分けた。そして,調査項目またはMDC比率の,主成分1・2の主成分負荷量と得点を用い,それぞれの群の特徴および機能評価係数Ⅱに影響する主成分を検討した。

結果 A群は,西日本の国公立の施設が多く,「放射線・化学療法-紹介」度と「産婦-筋骨格-新生児」度が高かった。B群は,東日本の国公立の施設が多く,「手術・全身麻酔-病床数-救急医療」度と「神経-新生児-乳房-循環器」度が低かった。C群は関東と近畿の私立の施設が多く,「手術・全麻-病床数-救急医療」度が高く,「放射線・化学療法-紹介」度と「産婦-筋骨格-新生児」度が低かった。機能評価係数Ⅱは,A群とC群は同等であるが,B群は低かった。Ⅰ群は国公立の施設が多く,「産婦-筋骨格-新生児」度が高かった。Ⅲ群は私立の施設であり,「放射線・化学療法-紹介」度と「産婦-筋骨格-新生児」度および「神経-新生児-乳房-循環器」度が低かった。Ⅴ群は「放射線・化学療法-紹介」度と「産婦-筋骨格-新生児」度が高く,「神経-新生児-乳房-循環器」度が低かった。Ⅵ群は「放射線・化学療法-紹介」度が低かった。そして,相関分析より「手術・全麻-病床数-救急医療」度と「神経-新生児-乳房-循環器」度が高い施設ほど,機能評価係数Ⅱが高かった。

結論 西日本・国公立の施設が多いA群は「放射線・化学療法-紹介」度が,関東・近畿の施設が多いC群は「手術・全麻-病床数-救急医療」度が高かった。そして「手術・全麻-病床数-救急医療」度と「神経-新生児-乳房-循環器」度が高いほど機能評価係数Ⅱが高い。

キーワード 大学病院本院群,機能評価係数Ⅱ,Diagnosis Procedure Combination(DPC)制度,クラスター分析,主成分分析

 

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第68巻第8号 2021年8月

主任介護支援専門員が行う
スーパービジョン実践活動とその構造

青山 貴彦(アオヤマ タカヒコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究では,主任介護支援専門員が行うスーパービジョン実践活動とその構造を明らかにすることを目的とした。地域包括支援センターの主任介護支援専門員を調査対象として,スーパービジョン実践に関する「スーパーバイザーの実践活動(意識・態度・行動)」について,実践程度に着目した量的調査を行った。

方法 近畿地方2府5県に所在するすべての地域包括支援センター(830カ所)を対象に,郵送による横断的調査を実施した。回収率は34.3%で,欠損値のない212票の回答を使用して分析を行った。分析においては,まず,探索的因子分析を実施し,そして,因子モデルの構成概念妥当性については,共分散構造分析による確認的因子分析により確認を行った。また,抽出された因子の下位尺度得点を算出し,基本属性との関連を調べるため,相関分析を行った。

結果 分析の結果,「スーパービジョンの実施に関する認識の共有」「バイザー自身の自己コントロール・自己点検」「バイジーの実践力アセスメント」「基礎的な価値,知識,技術に関する助言・指導」「支持的な関わり」「利用者本人に関するより深い理解の促進」「柔軟な思考の促進」という7因子が抽出された。確認的因子分析を行い,構成概念妥当性について検討したところ,一定の適合を示した。また,いずれの基本属性に関しても,スーパービジョン実践活動との相関はみられなかった。

結論 抽出された7因子をもとに,スーパービジョン実践活動の構造について,双方向のコミュニケーションによる「スーパービジョンの実施に関する認識の共有」を基盤として,「バイジーの実践力アセスメント」を行い,バイジーの状況や到達度合等に応じて,「基礎的な価値,知識,技術に関する助言・指導」を行う。さらに,「利用者本人に関するより深い理解の促進」によって,表面的な理解に留まらないよう手助けしたり,「柔軟な思考の促進」によって,より本質的な支援が行えるよう手助けしたりする。実践過程全体を通じて,「支持的な関わり」を基本的態度として保ち続けるとともに,「バイザー自身の自己コントロール・自己点検」を行い,自分自身にも目を向け続けると整理した。

キーワード 主任介護支援専門員,スーパービジョン,実践活動,実践の手がかり

 

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第68巻第8号 2021年8月

児童虐待相談件数の増加が児童相談所に及ぼす影響

小村 有紀(コムラ ユキ)

目的 近年,急速に児童虐待が増加しており,それに伴い児童相談所では,量的および質的に人員が不足していることが課題である。本研究の目的は,定量的な実証分析を行い,児童虐待相談件数の増加が,児童相談所に及ぼす影響を明らかにすることとした。

方法 分析対象は,児童福祉法において,児童相談所の設置が義務づけられている47都道府県とし,2015年度と2017年度の2期間によるパネルデータを構築した。児童虐待相談件数が児童相談所に及ぼす影響を分析するために,被説明変数には,児童相談所における未対応件数を採用した。また,児童相談所の専門性の程度を表す代理変数として,スーパーバイザー人数,児童相談所長の福祉職割合を採用し,被説明変数とした。

結果 被説明変数を児童相談所未対応件数とした場合の推計結果は,パネル・ポアソン回帰分析の場合,児童虐待相談件数,養護相談におけるその他の相談件数,視聴覚障害相談件数,重症心身障害相談件数,育児・しつけ相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,1%水準で有意であった。また,結果の頑健性を調べるために,被説明変数および説明変数を同様に設定し,パネル・負の二項回帰分析により分析した結果,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,5%水準で有意であった。さらに,被説明変数をスーパーバイザー人数および所長福祉職割合として,それぞれパネル・ポアソン回帰,トービット分析を行った。その結果,被説明変数をスーパーバイザー人数とした場合の推定結果は,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,1%水準で有意であった。また,被説明変数を所長福祉職割合とした場合の推定結果は,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスであり,10%水準で有意であった。

結論 推定結果を総合的に解釈すると,児童相談所は,近年急速に増加している虐待相談については,その経験が蓄積されておらず,技術の継承等がなされていないことから,虐待相談件数が増加すると,児童相談所における未対応件数が増加傾向となる。しかし,虐待相談件数が多い児童相談所においては,専門性が高いと考えられるスーパーバイザーを積極的に配置している。また,児童相談所長には,福祉等専門職による採用区分により採用されている者が多く起用されており,児童相談所における専門性の必要性を認識していることが推察される。

キーワード 児童虐待相談件数,児童相談所,専門性,スーパーバイザー,実証分析

 

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第68巻第8号 2021年8月

0歳児が受けた予防接種と
保護者の子どもに関する困りごと・相談の状況

-予防接種の接種群と未接種群の検討-
佐藤 玲子(サトウ レイコ) 関 美雪(セキ ミユキ) 服部 真理子(ハットリ マリコ)
石﨑 順子(イシザキ ジュンコ) 柴田 亜希(シバタ アキ)

目的 現在,わが国では感染症の重症化の回避,社会的な感染症防衛力を向上するために予防接種を推進している。予防接種を受けることは,小児期に限らず,生涯の課題でもあり,重要性が増している。本研究は,埼玉県内8市町の0歳児の予防接種の状況から,予防接種の推進のため対応を検討した。

方法 埼玉県で実施された「子どもの生活に関する調査(平成30年8月1日)」で得られた項目のうち,0歳児が受けた予防接種の種類,保護者の子どもに関する困りごと・相談の状況のカテゴリーを2群に分けχ2検定およびFisherの直接確率検定を行い,予防接種の接種群と未接種群に関連する内容を明らかにした。

結果 0歳児が受けた予防接種は,B型肝炎1,385人(92.6%),Hib感染症1,378人(92.2%),小児肺炎球菌感染症1,372人(91.8%),結核1,356人(90.7%)など約9割以上であり,日本脳炎は209人(13.9%)で少なかった。さらに予防接種の接種群と未接種群間で検討した結果,0歳児の保護者にとって「子どもの健康や発育に関する相談先の有無」(p=0.01)(Fisher),「離乳食で困っていることの有無」(p=0.02),保護者が「受診の必要性を感じていながら医療機関に連れて行かなかった経験の有無」(p=0.00),これら3項目が接種群と未接種群の2群に有意に関連した。

結論 埼玉県の8市町の予防接種の状況は,予防接種を受けた0歳児・保護者は約9割あった。一方,成長発達の著しい0歳児の育児であるため,保護者の困っている内容に対して,ニーズに即応しつつ対応方法を見いだせるよう相談機関や保健センターなどに結びつけることが重要である。また,居住地にかかりつけ小児科医師を得て,0歳児の体調に応じた健康管理を行い,予防接種を受けることがより重要になる。さらにワクチン接種について,接種スケジュールが滞る場合は,接種したワクチンの種類と回数の確認,接種に対して保護者の意向の確認を行うこと,予防接種の推進に向けて市町村予防接種担当部署や保健師につなぎ,個別的に解決する方向性を持ちながら保護者に対応することが必要だと考えられた。

キーワード 0歳児,保護者,予防接種の推進,保護者の困りごと・相談,母子保健,保健師

 

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第68巻第8号 2021年8月

女子高校生の親準備性の
検討:乳幼児とのふれあい体験有無別の比較

山田 晴奈(ヤマダ ハルナ) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ)

目的 本研究は,女子高校生の親準備性と過去の乳幼児とのふれあい体験(以下,ふれあい体験)の実態を明らかにし,ふれあい体験の有無別に親準備性等を比較することを目的とした。

方法 都内の一女子高等学校に在籍している高校生1~3年生245人を対象として,無記名自記式質問紙調査を留置法で2016年10月に実施した。親準備性として「子ども・子育てに関する意識」7項目,「対子ども社会的自己効力感」10項目を設定した。また,学童期から現在までのふれあい体験を尋ね,体験の有無別に,親準備性,将来の育児支援についての考え,乳幼児および妊婦とかかわった際の対応等の項目を比較した。

結果 有効回答者234人(95.5%)を分析した結果,ふれあい体験ありは187人(79.9%)であった。時期では,小学生162人(86.6%),中学生123人(65.8%),高校生91人(48.7%)の順に多かった。ふれあい体験ありと回答した187名のうち,ふれあった乳幼児の年齢は1~3歳(111人,59.4%),きっかけは親戚(86人,46.0%)が最も多かった。親準備性の項目では,「子ども・子育てに関する意識」の平均得点は2.4点,「対子ども社会的自己効力感」の平均得点は2.8点であった。また,ふれあい体験あり群と体験なし群の比較として,ふれあい体験あり群は,「弟妹」(p=0.036),「年下の親戚」(p<0.001)がいると回答した割合が統計的に有意に高かった。また,ふれあい体験あり群は,「子ども・子育てに関する意識」の平均得点(p<0.001),「対子ども社会的自己効力感」の平均得点(p=0.006)が有意に高かった。さらに,ふれあい体験あり群は「赤ちゃんとふれあう教室に参加したい」(p=0.026)と回答した割合が有意に高かった。

結論 乳幼児とのふれあい体験があった女子高校生は,親準備性が高いことが示唆された。少子化に伴い,学童期から青年期の対象が,乳幼児の弟妹等の世話をする機会が減少傾向にあることから,青少年が乳幼児とふれあう機会を地域や学校で意図的に設定することは,地域で子育てを支える社会環境を醸成するだけでなく,青少年自身のその後の妊娠・出産・育児への支援にもつながると考える。

キーワード 女子高校生,親準備性,乳幼児ふれあい体験,少子化,地域

 

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第68巻第8号 2021年8月

医師確保計画における
医師少数スポットの実態:無医地区との関係の検討

寺裏 寛之(テラウラ ヒロユキ) 小谷 和彦(コタニ カズヒコ)
 野原 康弘(ノハラ ヤスヒロ) 小池 創一(コイケ ソウイチ)

目的 日本の医師偏在対策の一つとして,都道府県は2020年度から医師確保計画を策定した。この計画では,医師確保に重点を置く地域として,各都道府県の二次医療圏よりも小さい単位で,局所的に医師が少ないとみなされる医師少数スポットが設定された。一方で,へき地を中心に無医地区は,医師確保策の一つとして以前から設定されている。医師少数スポットと無医地区の設定には,都道府県の実状や方針が反映される。本研究は,各都道府県の医師少数スポットの実態および無医地区との関係を観察した。

方法 各都道府県のホームページに公開されている医師確保計画の文書を収集し,医師少数スポットに関する記載を分析した。無医地区は平成26年度無医地区等調査結果を使用した。その面積は境界不明確な地区があり,地区の中心から半径4㎞の円の面積(50.3㎢)と一致すると仮定した。

結果 全都道府県の医師確保計画(47文書)が得られた。医師少数スポットを設定したのは26(55.3%)の都道府県であり,総数で313の医師少数スポットがあった。医師少数スポットの設定は市町村全域である場合が最多(103地域[32.9%])であった。都道府県の医師少数スポット数と無医地区数の中央値(四分位範囲)はそれぞれ15.0(10.0-25.0),20.0(14.0-38.0)で,医師少数スポット数の方が有意に小さかった(P<0.01)。医師少数スポットと無医地区とでは,地域の面積の中央値(四分位範囲)はそれぞれ69.0(44.4-189.5)㎢,50.3(50.3-50.3;無医地区の面積は一律と仮定した)㎢であり,医師少数スポットの方が有意に大きかった(P<0.01)。医師少数スポットと無医地区との重なりを分類したところ,両者が重複しない方が最多(245[78.3%])で,ほぼ重なって無医地区を包含する型が次いだ(43[13.7%])。

結論 医師少数スポットは,過半数の都道府県で設定され,その多くは無医地区を有さない市町村全域に設定されていた。無医地区と重複するような,都道府県独自の設定も認められた。

キーワード 医師少数スポット,医師確保,医師偏在,無医地区

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第68巻第7号 2021年7月

高齢者のエンド・オブ・ライフに対する態度尺度の開発

辻本 耐(ツジモト タイ) 川島 大輔(カワシマ ダイスケ) 田中 美帆(タナカ ミホ)

目的 エンド・オブ・ライフ(EOL)の充実に向けた基礎研究として,高齢者のEOLに対する態度を測定するための尺度を作成し,その信頼性と妥当性について検討することを目的とした。

方法 終末期医療・介護・葬儀・お墓・自らの人生の記録などEOLに関する14項目を作成し,文章で意思表示している場合(Advanced Directives:AD)と身近な人と話し合っている場合(Advanced Care Planning:ACP)の2つに分けて回答を求めた。対象者は,2018年1月にシルバー人材センターに登録している高齢者の男女167名であった。最終的に,回答に不備のなかった156名を分析対象とした(有効回答率93%)。尺度の内的構造を確認するために探索的因子分析を実施し,Cronbachのα係数を算出することで信頼性の検討を行った。そして,死に対する態度尺度および対人関係欲求尺度に加え,書字習慣および死に関するコミュニケーション能力を測定するための項目を新たに作成し,EOL尺度との相関分析を行うことで基準関連妥当性の検討を行った。

結果 探索的因子分析の結果から,ADにおいて「死後の儀礼と手続きおよびケアの希望」と「人生の意味」の2因子構造,ACPにおいて「死後の儀礼と手続き」と「人生の意味」,そして「ケアの希望」の3因子構造が確認された。信頼性の検討を行ったところ,各下位尺度のα係数は0.81~0.89であり,基準関連妥当性のために行った外的基準との相関分析では,弱から中程度(-0.16~-0.27,0.16~0.34)の有意な相関係数が認められた。

結論 EOLに対する態度尺度は,ADで2つの下位尺度,ACPで3つの下位尺度から構成され,十分な信頼性と一定の妥当性が確認された。この開発された尺度によって,わが国の高齢者のEOLへの態度の実態をより明らかにすることができると考えられる。

キーワード EOL(エンド・オブ・ライフ),高齢者,死,準備,態度,意思表示

 

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第68巻第7号 2021年7月

虐待ハイリスク家庭に対する
保育士の対応機能とその発揮に向けた課題

-発見・共有・連携を促進する要因を焦点に-
田中 聡子(タナカ サトコ) 松宮 透髙(マツミア ユキタカ)

目的 本研究の目的は,虐待の恐れがある家庭に対して,保育士がその発生予防や養育の改善に向けた機能発揮を促進する要因を明らかにすることにある。子ども虐待対策において保育所の機能が注目される中,子ども虐待予防や早期介入のために保育所における発見・共有・連携の促進に向けた課題を明らかにすることには,大きな意義がある。

方法 調査票は調査協力関係を結んだA市児童福祉担当課を介して,A市内16の公立保育所に勤務する保育士を対象としたアンケート調査を実施した。配票数は300とし,調査対象の地域特性に偏りが生じないよう各地域の利用児童数に基づいて配票数をあん分した。調査票の回収数は210ですべてを有効票として集計した。回収率は70.0%である。調査期間は2019年11月6日から12月20日であった。

結果 保育士が子ども虐待に早期対応ができていると評価することに影響するものは,1点目に保育士自身の従業上の地位や勤務環境である。2点目に虐待対応のマニュアルや発達に課題のある子どもへの対応マニュアルの整備,ヒヤリハット対応の仕組み,研修機会の確保など,ハイリスク家庭への支援について組織的なマネジメント体制である。3点目に保護者への対応について同僚や上司に相談しやすいことや保育士ひとりに責任を押しつけないスーパーバイズの体制整備である。

結論 虐待の恐れがある家庭に対して,保育士が子ども虐待の発生予防や養育の改善を促進するには,保護者のモニタリング機能や支援機能が発揮されることが重要である。そのためには,経験年数の長い非正規雇用の保育士や経験年数の少ない正規雇用の保育士がともに保育所内での認識共有や無理や不安なく要支援世帯とかかわれるよう支援環境の整備が必要と言える。加えて管理職のみならず全保育士へ要保護児童対策地域協議会をはじめとする他機関連携の促進について早急な対応が求められる。

キーワード 虐待,保育士,連携,保護者支援,要保護児童対策地域協議会,マネジメント

 

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第68巻第7号 2021年7月

山梨県における救急搬送患者の
搬送先医療機関が決定するまでの時間の要因検討

小林 克也(コバヤシ カツヤ) 大岡 忠生(オオオカ タダオ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 山梨県の救急医療体制における搬送先の選定時間に関わる要因を明らかにし,救急車内収容から病院決定までを短縮し救命率の向上に寄与することを目的とした。

方法 研究デザインは観察研究であり,研究対象は2018年4月1日から2019年3月31日までで山梨県内の消防本部に登録された救急搬送傷病者データ25,361例のうち,欠損値を除外した15,180例を集計対象とした。さらに,そのデータを用いて救急搬送時において搬送先医療機関の決定のための連絡開始から搬送先医療機関の決定までにかかる時間に関連する要因に関して,単回帰・重回帰それぞれの分析を用いて解析した。

結果 集計調査からは,覚知(傷病者発生を認知した)月,年齢分類,事故種別,疾患分類,傷病程度,Cardiopulmonary arrest(心肺停止)(以下,CPA)判定において,分類ごとに平均搬送先医療機関の決定時間の差が認められた。また,重回帰分析においても,季節,事故種別,疾病分類,傷病程度において有意差が認められた。曜日,平日と土日・祝日と連絡時間帯において,搬送先決定にかかる時間に差はなかった。

結論 山梨県における救急搬送時の搬送先医療機関の決定時間は,季節や傷病・事故の種類による違いは見られたが,時間帯や平日,土日・祝日とで明らかな差は認められなかった。今後,意識の有無やかかりつけ病院の有無などの因子を考慮した検討や患者の転帰との関連についてはさらなる検討が必要である。

キーワード 救急搬送,搬送時間,救急医療体制,搬送先医療機関の決定時間

 

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第68巻第7号 2021年7月

食べる速さとBMIに関するメタ分析

橋本 泰央(ハシモト ヤスヒロ) 小玉 麻由佳(コダマ マユカ)
上田 由喜子(ウエダ ユキコ) 小塩 真司(オシオ アツシ)

目的 食べる速さによるBMIの平均値差,およびその年齢による違いをメタ分析によって明らかにすることを目的とした。

方法 医中誌,Medlineから検索式「(食べる速さor食事速度or早食いor摂食速度)and(肥満or BMI)」「(eating rate or eating speed or eating rapidly or eating quickly or eating slowly or eating fast(NOT fasting))and(Odds of(overweight or obesity)or body mass index)」にて1,265本の論文を収集した。そこから①大学紀要などを除く査読付き論文で原著論文,②日本語または英語で書かれている,③健常者を対象としている,④食べる速さの尺度が速い,普通,遅いに分かれている,⑤食べる速さと肥満の関係がBMIまたはオッズ比で報告され,⑥過体重が成人ではBMI25,子どもは国際肥満タスクフォースで定められたカットオフ値で定義されている,⑦文献間でデータが重複していない25件(38研究)を分析対象とした。効果量には標準化されたBMIの平均値差を用い,変量モデルを採用した。効果量の異質性はQ統計量およびI2で計測し,対象者の年齢,性別,国籍ごとにサブグループ分析を行った。Egger法を用いて公表バイアスの有無を検定し,failsafe Nとtrim and fill法を用いて分析結果の頑健性を検討した。

結果 食べる速さが速い群と普通群の比較(38件)では速い群は普通群よりも有意にBMIが高く,年齢で分けても,さらに性別で分けて検討しても同様の結果であった。食べる速さが遅い群と普通群の比較(35件)では遅い群は普通群よりも有意にBMIが低かった。この傾向は年齢で分けても,さらに性別で分けて検討しても同様の結果であった。また,いずれの比較においても子どもの方が大人よりも効果量が大きかった。研究全体の異質性はどちらの比較においても高かった。公表バイアスが結果に及ぼす影響はいずれも小さいと考えられた。

結論 食べる速さが普通の群に比べ,速い群はBMIが高く,遅い群は低かった。群間のBMIの平均値差は子どもの方が大人よりも大きいことが示唆された。

キーワード 食べる速さ,BMI,メタ分析,効果量,肥満,やせ

 

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第68巻第7号 2021年7月

高齢の大腿骨骨折患者への支援に関する一考察

-患者の性別に着目した医療ソーシャルワーカーの支援の特徴-
畑 香理(ハタ カオリ)

目的 大腿骨骨折患者への指導や支援等に関する先行研究は医学的な観点から行われることが多く,ソーシャルワーカーによる退院前後の生活支援に着目した研究はほとんどみられない。そこで本研究では,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)による大腿骨骨折患者への支援内容を分析し,退院後の在宅生活を支える方法を明らかにしていきたい。また,先行研究では日常生活における活動や役割において性別による違いが認められていることから,本研究では患者の在宅復帰を支援する際に,性別による日常生活上の活動や役割の違いが支援の内容や量に影響を与えるかどうかについても検討していきたい。

方法 全国の回復期リハビリテーション病棟を有する医療施設で,2018年8~9月にかけて当該病棟を担当しているMSWを対象者とした。質問紙にて,①調査対象者の属性,②これまでに担当した大腿骨骨折患者のうち高齢入院患者の状況,③大腿骨骨折の高齢入院患者への支援内容,④業務全体の実施状況について質問を行った。調査票は1,181カ所の医療施設へ郵送し,有効回答の339名を分析対象とした。

結果 大腿骨骨折患者の支援では,高齢男性患者よりも高齢女性患者に対し,以下の項目がより多く行われていた。具体的に「家事全般(炊事・洗濯・掃除等)」「屋外活動(散歩・買い物や受診時の移送・庭仕事等)」「受傷前の家事役割維持」に関するサービスや支援の導入・調整,「再転倒の不安・恐怖の訴え」「家庭内で担っていた役割を果たせないもどかしさや情けなさ,同居家族への気遣いや気兼ね」「痛みや疲労感の訴え」などを傾聴し受けとめる,「生活の中で楽しみ・趣味活動を見つける手助け」「社会活動参加(近隣住民や町内会との交わり)の維持」に関する支援である。一方,患者の性別によって支援状況の違いが見られなかった主な項目は,社会資源や制度に関する情報提供や活用の仲介等があった。

結論 大腿骨骨折患者に対してMSWが行う支援の量は,患者の性別によって異なることが明らかになった。さらに,患者の性別の違いによって支援に差が生じる背景として,患者が入手するソーシャル・サポートの違いが関係していると考えられる。MSWは,これまで入手できていたソーシャル・サポートが骨折のため入手しづらくなった高齢女性患者に対し,その代替となるサービス導入・調整やさらなる充実という視点で支援を行っていると考えられる。

キーワード 大腿骨骨折,高齢患者,医療ソーシャルワーカー,性別,ソーシャル・サポート

 

 

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第68巻第7号 2021年7月

労働者のインターネット依存とマインドフルネスとの関連

廣江 陸(ヒロエ リク) 榊原 文(サカキハラ アヤ)

目的 インターネット(以下,ネット)の普及と一般化は,人々のライフスタイルに多くの変化をもたらした。その一方で,ネット使用を制御できず,人間関係や社会生活に悪影響をもたらすネット依存が問題視されている。労働者がこのようなネット依存状態になると,ネットに夢中になるあまり仕事に集中できず,生産性や効率の低下,ヒューマンエラーや事故の原因になることが考えられる。そこで本研究は,「今この瞬間に生じている出来事や経験そのものに気づきながら注意をとどめること」を示すマインドフルネスに焦点を当て,労働者のネット依存とマインドフルネスとの関連について明らかにすることを目的とした。

方法 2019年8~9月,島根県内のA製造業事業所の全従業員530名を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った。調査内容は,年齢,性別,勤務年数,生活習慣,精神状態,ネット依存度,マインドフルネスである。ネット依存度は,Young’s Diagnostic Questionnaire for Internet Addiction score(YDQ)の8項目を使用し,5点以上をネット依存と判定した。マインドフルネスは,Mindful Attention Awareness Scale(MAAS)の15項目を使用した。MAASの90パーセンタイル値である10点でカットオフし,10点以上をマインドフルネス低下と判定した。マインドフルネスを従属変数,ネット依存を独立変数とし,単変数ロジスティック回帰分析を行い,その後,朝食の欠食,睡眠時間,夜勤,気分の落ち込みを共変量として投入し,多変量ロジスティック回帰分析を行った。

結果 有効回収数(率)は384(72.5%)であった。MAASの平均点は5.32点,10点以上は54名(14.1%)であった。YDQの平均点は1.37点,5点以上は23名(6.0%)であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果,ネット依存とマインドフルネスとの間に有意な関連を認めた。ネット依存の従業員がそうでない従業員と比べてマインドフルネスが低下する調整オッズ比は,6.72(95%CI:2.53-17.89)であった。

結論 ネット依存の従業員はそうでない従業員と比較して有意にマインドフルネスが低下していることが示唆された。ネット依存の場合,ネットに夢中になるあまり,ネット以外のことに無気力,無関心になることがマインドフルネスの低下につながると推察される。

キーワード インターネット依存,労働者,マインドフルネス,産業保健,労働災害,事故

 

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第68巻第6号 2021年6月

難聴者の福祉と生活の質の評価に関する先行研究メタ分析

坂本 秀樹(サカモト ヒデキ) 永松 陽明(ナガマツ アキラ) 安川 文朗(ヤスカワ フミアキ)

目的 これまで難聴者の社会的機能や活動の機会がどのように捉えられ,福祉や生活の質との関係性においてどのような研究がなされてきたのか,国内外で発表された先行研究のレビューを行った。また,これに加えてテキストマイニングの手法を用い,より具体的に難聴者福祉に対する研究の潮流を示した。

方法 難聴の人々の生活の質や社会的機会との関係や影響,また社会モデル的視点からの議論がどの程度深められてきたのかを知るため,1990年から2019年の間に発表された難聴福祉に関する文献を対象にレビューを実施した。また,難聴福祉の理論と生活の質に関する研究の動向を理解するため,レビュー対象とした論文に対し,先行研究の中ではどのような語彙が用いられ,それぞれの関係性がどのように構成されているかを検証し,研究の関心がどの分野に所在するのか明らかにすることを目的として,日本語論文と英語論文それぞれを対象にテキストマイニングによる共起ネットワーク分析を行った。

結果 難聴と生活の質,あるいは福祉に関する日本と海外の先行研究調査の結果,難聴者福祉の視点からの福祉改善に関する研究は発見出来なかった。また,生活の質を測定するICECAP-Oなどの質問項目により難聴者のQOLを測定する試みがなされているが,それらが示す結果は一貫していない。日本語論文4編の共起ネットワーク分析の結果,対象とする文章数は2,048件であり,対象語彙数は1,615件であった。生成した共起ネットワークを見ると,難聴高齢者の生活やそのレベルをどう捉えるか,難聴が社会的ネットワークにどう影響するかに関する論議が中心となっていた。同様に,英語論文13編の文章数は2,304件であり,対象語彙数は5,415件であった。描かれた共起ネットワークによると,“hearing”,“loss”など直接難聴を示す語だけでなく,“health”と“capability”,“quality of life”,“social”など,社会生活を営む上での難聴者と周囲のかかわりに関する語が頻出していた。

結論 今回の分析により,難聴者福祉に関する研究において,日本と海外の潮流は異なることが示された。また,日本国内における難聴者福祉の研究に着目すると,難聴者の生活の質改善に関する論議は充分であるとはいえず,難聴者の視点に立ってその福祉を議論するためには,難聴当事者が必要としている支援や施策についての理解を深め,改善の指標としての生活の質を測定する手法も併せて検討することが必要である。

キーワード 難聴者福祉,生活の質,評価,共起ネットワーク,テキストマイニング,メタ分析

 

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第68巻第6号 2021年6月

発達障害児の避難時における
固有空間の必要性に関連する要因

中井 寿雄(ナカイ ヒサオ) 加賀野井 聖二(カガノイ セイジ)
岡村 綾(オカムラ アヤ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)

目的 発達障害児の障害特性および災害時の支援の必要性と,避難時における固有空間の必要性との関連を明らかにすることである。

方法 小児リハビリテーションを実施しているA病院に通院し,機能訓練を受けている(2018年1月)発達障害児の養護者56人を対象とした。調査方法は,訓練を担当している理学療法士2人に,聞き取り調査を依頼した。調査内容は,発達障害児の属性,主病名,必要な医療処置,投薬の有無,障害特性,避難時の支援の必要性等だった。分析は,避難時の固有空間の必要性と各項目との関連について,χ2検定もしくはFisher直接確率検定を実施した。避難時の固有空間の必要性を従属変数とし,大声をあげるへの支援,聴覚過敏への支援,共変量に年代,性別,主病名を強制投入し二項ロジスティック回帰分析を実施した。

結果 障害特性は,目が離せない32人(57.1%),大声をあげる26人(46.4%),偏食25人(44.6%),聴覚過敏20人(35.7%)等で,避難時に支援を必要としていたのは,目が離せないへの支援27人(48.2%),大声をあげる24人(42.9%),偏食21人(37.5%),聴覚過敏19人(33.9%)等だった。避難時の固有空間が必要であることに対して,大声をあげるへの支援が必要であることが関連している傾向(オッズ比(OR):4.32,95%信頼区間(CI):0.96-19.44)があり,聴覚過敏への支援が必要であることが有意に関連(OR 7.61,95%CI:1.23-47.11)していた。

結論 養護者は,固有空間であれば刺激を軽減し大声を防止できる可能性があること,聴覚過敏からの混乱による他者への迷惑を養護者が危惧している可能性が示唆された。

キーワード 発達障害児,災害,避難時の固有空間,聴覚過敏

 

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第68巻第6号 2021年6月

中堅前期・後期保健師の職務満足感に関連する要因の検討

玉井 公子(タマイ キミコ) 星野 明子(ホシノ アキコ)
志澤 美保(シザワ ミホ) 桂 敏樹(カツラ トシキ)

目的 地域保健活動の中核を担う役割を期待される中堅前期・後期保健師(経験年数4~20年目)を対象に,職務満足感に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。

方法 近畿圏の自治体に勤務する経験年数4年目以降の保健師を対象に,自記式質問紙調査(属性および職場特性,対人支援能力,地域支援および管理能力,自己効力感,自尊感情,職務満足感)を実施した。分析方法は,中堅前期(4~10年目)と中堅後期(11~20年目)の2群にわけて,それぞれ記述統計,2変数間関連分析(相関係数),および職務満足感を従属変数とした重回帰分析による要因分析を行った。

結果 調査票送付数986人のうち回収490人(回収率49.7%),有効回答数は473人(有効回答率48.0%)であった。回答者のうち,中堅前期(4~10年目)117人,中堅後期(11~20年目)109人を分析対象とした。単変量解析の結果,中堅後期は中堅前期に比較して職務満足感,専門職務遂行能力の対人支援能力,地域支援および管理能力のいずれも有意に高かったが,自己効力感,自尊感情は両群に有意差は認められなかった。職務満足感を従属変数として重回帰分析を行った結果,中堅前期はモデルとなる先輩保健師の存在(β=0.349),自尊感情(β=0.298),家庭訪問活動の有無(β=0.267)などが,中堅後期では組織横断的な保健師連携会議の有無(β=0.241),相談できる先輩や同僚がいる(β=0.210),専門職務遂行能力の対人支援能力(β=0.183)などが職務満足感を高めた。

結論 中堅期の前期と後期では,保健師の職務満足感に影響する要因が異なるため,その特徴を捉えた配置と職場における個別性を考慮した人材育成の検討が必要であると考える。中堅前期はモデルとなる先輩の存在が得られ,家庭訪問活動が実施できる部署への配置が望ましいと考える。一方で中堅後期は,専門職務遂行能力の対人支援能力が発揮でき,保健師連携会議や相談のできる先輩・同僚の存在など,チームで仕事を進める職場環境の充実が重要であると考える。

キーワード 中堅前期・後期保健師,職務満足感,専門職務遂行能力,自尊感情,自己効力感

 

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第68巻第6号 2021年6月

公立小学校教員の不眠症に関する業務時間分析

-公立小学校・中学校等教員勤務実態調査研究より-
堀 大介(ホリ ダイスケ) 青木 栄一(アオキ エイイチ) 神林 寿幸(カンバヤシ トシユキ)
クリスティーナ・シルビア・アンドレア 高橋 司(タカハシ ツカサ) 白木 渚(シラキ ナギサ)
池田 朝彦(イケダ トモヒコ) 池田 有(イケダ ユウ) 道喜 将太郎(ドウキ ショウタロウ)
大井 雄一(オオイ ユウイチ) 松崎 一葉(マツザキ イチヨウ) 笹原 信一朗(ササハラ シンイチロウ)

目的 わが国の公立小学校の教員は睡眠を犠牲にして働かなければならないほどに多忙である。多様な業務を担っていることがその一因であり,業務の明確化・適正化が課題である。これまでの研究で,総労働時間が不眠症と関連することが示されてきた。しかし,具体的にどの業務に費やされる時間が不眠と関連するかまでは十分に明らかにされてこなかった。本稿ではどの業務が不眠のリスク因子となりうるのかを所要時間の長さおよび発生時間に着目した解析を行うことで明らかにし,業務の所要時間の削減のための手段について検討することを目的とした。

方法 平成28年に実施された公立小学校・中学校等教員勤務実態調査のデータを二次利用した。同調査は全国の代表的な公立小中学校教員を対象に実施された大規模横断調査であり,無記名の自記式質問紙,および26種の業務を含む業務記録表が用いられた。回答者は月曜日から日曜日までの連続する7日間,どの業務に従事したかを30分単位で記録した。各業務に費やされた時間は四分位でカテゴリ化し,上位7種の業務を解析に含めた。学級担任を受け持つ60歳未満の公立小学校教諭のデータを解析対象にした。アテネ不眠尺度の点数が6点以上の者を不眠群,6点未満の者を健常群と定義した。各業務に掛けられた時間と不眠症との関連を,χ2検定および二項ロジスティック回帰分析を用いて検証した。

結果 3,674名(女性62.7%,平均年齢38.3±10.9歳)のデータが解析対象となり,41.3%が不眠群に分類された。授業準備の時間が最も短かった者と比較して,最も長かった者の不眠に対する調整オッズ比は1.54(95%信頼区間1.23-1.92)であり,統計学的に有意な正の関連を認めた。他の業務では統計学的に有意な関連を認めなかった。さらに,不眠群は健常群と比較し平日時間外に統計学的に有意に多くの時間,業務に従事していた。

結論 公立小学校教員の不眠症は,授業準備の所要時間,および平日時間外の業務の発生時間と関連を認めた。授業準備の時間を短縮するための対策について論考した。

キーワード アテネ不眠尺度,学級担任,教員,業務記録,長時間労働,時間外労働

 

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第68巻第6号 2021年6月

大学を拠点とした産後支援プログラムの実践と評価

-対象者背景による評価の相違-
小嶋 奈都子(コジマ ナツコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ) 
平出 美栄子(ヒラデ ミエコ) 加藤 知子(カトウ トモコ)

目的 育児中の母親に対して産後うつ病を防止する重要性が提唱されており,研究者らは大学を拠点とした継続的産後支援に取り組んでいる。本研究の目的は,乳児を育児中の母親に対する産後支援プログラムの実践を評価し,対象者の属性による評価の相違を明らかにした。

方法 実践内容はベビーマッサージ,母親へのアロマトリートメント,母乳相談,育児相談,座談会であった。対象者は乳児を育児中の母親であり,1回2時間の開催で,これまでの6回の催行において6~12組/回の母子の参加があった。実践後評価のために無記名自記式調査票で回答を得た。調査期間は2019年4月から2020年2月であった。調査内容は属性,参加目的,現在の悩み,実践に対するアウトカム評価およびプロセス評価であった。分析は記述統計量を算出し,属性による群間比較を単変量解析を用いて行った。

結果 育児中の母親63名に配布し,有効回答である58部を評価対象とした(回収率92.0%)。参加者は子どもが1人いる母親が58.6%であり,年齢は30~34歳の37.9%,乳児の月齢は5カ月の22.4%が最多であった。アウトカム評価は,リラックスできた100%,コミュニケーション増加93.1%,疑問解決82.7%,悩み軽減79.3%,育児仲間ができた75.9%であった。参加者の母親への満足度は8項目すべてにおいて高く,とても満足と回答した割合は,ベビーマッサージ96.6%,アロマトリートメント91.4%,交流89.7%であった。初産婦は経産婦に比べて離乳食の悩み,乳児の病気の悩みが多く,紹介による参加が少なかった。年齢の高い母親はコミュニケーション達成度が高く,乳児の月齢が高い母親はプログラムの時間配分に満足していた。

結論 産後支援プログラムは母親にとってリラックス感と満足度が高く,有用な実践であることが明らかになった。今後の課題は,参加者範囲と実践回数を拡大し,継続的な催行でプログラムを積み重ね評価すること,年齢の若い母親たちがコミュニケーションを取りやすいように配慮すること,低月齢の児を持つ母親たちのニーズに合った参加時間の対応をすることである。

キーワード 産後ケア,母親,プログラム開発,ピアサポート,産後支援プログラム

 

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第68巻第6号 2021年6月

医療系学部の未成年非喫煙学生における
新型タバコに対する意識:紙巻タバコとの比較

薬司 理紗(ヤクシ リサ) 小林 沙妃(コバヤシ サキ)
松下 太(マツシタ フトシ) 石井 美由紀(イシイ ミユキ)

目的 近年,急速に普及する新型タバコは,若年非喫煙者の喫煙へのゲートウェイとなる可能性が懸念されているものの,新型タバコの使用防止策について検討した研究は限定的である。本研究では,医療系学部の未成年非喫煙学生の新型タバコに対する意識を調査し,紙巻タバコに対する意識との差異を検討することにより,未成年非喫煙学生に対する効果的な新型タバコ対策の示唆を得ることを目的とした。

方法 研究デザインは単施設における横断研究である。A大学医療系学部1~2年次生の非喫煙学生224名をリクルートし,2018年8月に無記名自記式質問紙調査を行った。調査内容は,基本属性(5項目),心理的ストレス反応(18項目),新型タバコと紙巻タバコに対する意識(知識:6項目,肯定的な認識:6項目,否定的な認識:4項目,周囲の環境:4項目の計20項目)とした。基本属性による変数間の関連にはFisherの正確確率検定を,新型タバコと紙巻タバコに対する意識の各得点の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。

結果 分析対象は未成年非喫煙学生113名(有効回答率50.4%)であった。全対象者では,「タバコは使用者の身体に害があると思う」などの知識に関する6項目,「タバコの使用者に不快感を持つ」などの否定的な認識に関する4項目,「タバコの入手方法を知っている」の周囲の環境に関する1項目の得点について,新型タバコの方が紙巻タバコよりも有意に低かった。性別による比較分析の結果,女子学生では「タバコは肌荒れの原因になると思う」などの知識に関する6項目の得点について,新型タバコの方が紙巻タバコよりも有意に低かったが,男子学生では有意な差は認められなかった。

結論 本研究の分析対象者においては,新型タバコは紙巻タバコに比べて,1)タバコによる健康への影響は小さい,2)タバコそのものや使用者に対する嫌悪感・不快感を抱きにくい,3)やけどの危険性が低い,4)経済的な負担が軽い,と受け止められていた。これらの結果には新型タバコに関する正しい知識や情報が不十分であることが影響していると推察され,今後は未成年非喫煙学生に対して,エビデンスに基づく新型タバコの正しい情報の発信と普及の必要性が示唆された。また,性差による得点の差異が認められたことから,関心の寄せ方などの性差に配慮した新型タバコに関する情報の発信方法を検討する必要があると考える。

キーワード 未成年,大学生,非喫煙者,新型タバコ,紙巻タバコ,意識

 

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第68巻第5号 2021年5月

家庭内ケアと健診未受診との関連:国民生活基礎調査より

鈴木 有佳 (スズキ ユカ) 本庄 かおり(ホンジョウ カオリ)

目的 子育てと介護の両方を行うダブルケアを含む家庭内ケアを担う者の数が増加している。ダブルケアは家庭内ケア提供者に多くのニーズによる負担を与え,家庭内ケア提供者の健康診断(健診)受診を阻害する可能性がある。しかし先行研究では,家庭内ケアの組み合わせによる家庭内ケアの種類と健診未受診の関連については検討されていない。そこで本研究では,2013年国民生活基礎調査データを用い,家庭内ケアの種類と健診未受診の関連について検討を行った。

方法 2013年国民生活基礎調査データを用い,40-59歳の婚姻経験のある女性71,065名を対象とし,解析を行った。家庭内ケアの種類(ケアなし,子育てのみ,介護のみ,ダブルケア)による過去1年間の健診未受診のオッズ比(odds ratio:OR)をロジスティック回帰分析により推定し,さらに就業の有無によるサブグループ解析を実施した。

結果 子育てのみ群,介護のみ群,ダブルケア群の基本属性と社会経済的要因を調整した健診未受診のORは,ケアなし群と比較し,それぞれ1.09(95% CI:1.05-1.14),1.07(95% CI:0.99-1.16),1.49(95% CI:1.31-1.69)だった。ダブルケア群では子育てと介護の両方を行うことにより,健診未受診の追加リスクが生じていた。また,就業の有無によるサブグループ解析の結果,子育てと健診未受診の関連は就業の有無で異なったが,介護ならびにダブルケアと未受診の関連は就業の有無で変わらなかった。

結論 本研究は子育て,特にダブルケアを担う女性は,健診未受診割合が高いことを明らかにした。子育てやダブルケアを行う女性は,自身の健康管理についての優先順位が低い可能性や,健診受診に際して子どもやケアが必要な家族の預け先を見つけることが難しかった可能性が考えられる。健診実施率向上のためには未受診者の家庭内ケアの状況を把握し,それに対応した支援を実施することの必要性が示唆された。

キーワード ダブルケア,介護,子育て,家庭内ケア,特定健診,未受診

 

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第68巻第5号 2021年5月

離島・へき地における終末期ケアの現状と多職種連携

馬場 保子(ババ ヤスコ) 横山 加奈(ヨコヤマ カナ) 今村 嘉子(イマムラ ヨシコ)
赤水 れみ子(アカミズ レミコ) 坂本 雅俊(サカモト マサトシ)

目的 住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,終末期の過ごし方について比較的元気なうちから家族や多職種で共有することが必要である。人口規模や地域特性,在宅療養支援を行う職種によって,終末期ケアの実施状況や多職種連携行動が異なるかを明らかにした。

方法 調査対象は,東京都,愛知県,長崎県の1,013カ所2,026名(医師400名,訪問看護師426名,保健師400名,社会福祉士400名,介護支援専門員400名)に自記式質問紙調査を行い,調査期間は2019年8月~9月末とし郵送法にて回収した。調査内容は,基本属性の他に,担当地域の人口区分・地域区分,終末期ケアの実施状況,終末期ケアシステムの現状,在宅での看取りを困難にする要因,多職種連携行動尺度であった。『離島・へき地』『離島・へき地ではない』の2群間でマンホイットニーU検定を用いて比較し,多職種連携行動尺度の各因子について平均値を算出し,人口区分,職種でクロス集計を行い,全体の得点平均値を比較し傾向を把握した。

結果 対象者の505名から回答が得られた。終末期ケアの実施状況について,医師,訪問看護師の9割以上は実践経験があった。社会福祉士は終末期ケアの実践経験がある割合は低いが,患者の終末期の過ごし方に対する思いを知る機会は,介護支援専門員や保健師よりも高かった。終末期ケアシステムは,『離島・へき地』のほうが有意に整っていなかった。在宅での看取りを困難にする要因は,マンパワー不足,地理的に訪問困難な地域が多い,病院スタッフに在宅移行の視点がない等であった。在宅での看取りの困難さは,人口5万人未満と5万人以上の地域で境界があり,人口が少ないほうが困難であった。しかし,人口5千人未満の『離島・へき地』では,マンパワー不足や24時間の支援体制構築は困難であるが,医師の在宅での看取りの関心が高く,病院スタッフに在宅移行の視点が高く,医師の多職種連携行動が高いという特徴があった。

結論 離島やへき地で最期まで過ごすためには,地域の医療資源の活用だけでは限界がある。『離島・へき地』の医師が,在宅での看取りへの関心が高いことや多職種連携行動が高いことを活かすだけでなく,地域の強みを活かした疾病予防,介護予防に着目してアプローチすることが必要である。地域のニーズを把握している専門職は,地域住民に対して,比較的元気なうちから“人生の最後をどう過ごしたいか”意思決定支援を行うことなどのアドバンスケアプランニングを推進していくことが望ましい。

キーワード 離島・へき地,終末期ケア,看取り,多職種連携,地域の強み

 

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第68巻第5号 2021年5月

就労継続支援事業所を利用する
若年性認知症の人の実態

小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 齊藤 千晶(サイトウ チアキ)

目的 若年性認知症の平均発症年齢は働き盛りの51.3歳であり,発症によって休職や退職を余儀なくされると,本人・家族への影響だけでなく,有能な人材が失われるなどの社会的な影響も大きい。著者らは,現役で働く若年性認知症の人が退職した後の就労先として障害者施設が多いことをすでに報告した。今回は,すべての都道府県に若年性認知症支援コーディネーターが配置された時点で,就労継続支援事業所における若年性認知症の人の受け入れ実態と受け入れ・利用中・退所等に関して,事業所内での工夫や課題,外部の支援者との連携状況について詳細に把握することとした。

方法 全国の就労継続支援事業所A型・B型および就労移行支援事業所に調査票を郵送した。一次調査で該当者ありの事業所に二次調査票を郵送した。調査項目は運営主体,受け入れている若年性認知症の人数,性別,年齢,診断名,発症時期,診断時期,開始からの利用期間,日常生活自立度,認知症の程度,外部の支援者の利用,介護保険申請の有無,若年性認知症支援コーディネーターとの連携の有無等である。

結果 調査時に受け入れている,あるいは以前に受け入れていた若年性認知症の人のうち,詳細が判明した302人の状況について分析した。男性が約7割であった。利用開始年齢は,A型事業所では男性は55~59歳が多く,女性は50~54歳と60~64歳が多かった。B型事業所では男女とも60~64歳が最も多く,就労移行支援事業所では男性は55~59歳,女性は40~49歳が最も多かった。診断名では,いずれの事業所でも「アルツハイマー病」が最も多く約半数であった。利用開始から平均の利用期間は,全体では35.9カ月であった。(Ⅲa)以上の介護が必要な人は,利用開始時には35人であったが調査時には76人であった。外部の支援者の利用は,作業内容に関しては,いずれの事業所でも「あり」は4割以下で,支援者の内訳では「相談支援事業所」が最も多かった。認知症の症状に関する外部支援者の利用は,「あり」が半数以上であり,支援者の内訳では「利用者の主治医」が最も多く,次いで「若年性認知症支援コーディネーター」が多かった。

結論 就労継続支援事業所における若年性認知症の人の受け入れはまだ多くはなかったが,受け入れている事業所では様々な工夫がされており,外部の専門職との連携もみられた。今後は障害者だけでなく難病や認知症など様々な障害を持つ人に開かれた事業所が増えるよう,さらなる支援が必要である。

キーワード 若年性認知症,就労継続支援事業所,就労継続,外部の支援者,若年性認知症支援コーディネーター

 

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第68巻第5号 2021年5月

就労継続支援B型事業所における
農業を用いた就労支援の検討

前原 和明(マエバラ カズアキ) 後藤 由紀子(ゴトウ ユキコ) 八重田 淳(ヤエダ ジュン)

目的 就労継続支援B型事業所における農業を用いた就労支援の質的向上を図るため,本研究では園芸療法の観点から農業を用いた就労支援の有用性について明らかにすることを目的とした。

方法 秋田県に所在する全119の就労継続支援B型事業所に対して,2020年1月10日~2月20日の期間で郵送調査を実施した。調査票は,基本情報,園芸療法のプログラム評価表に基づいて作成した支援効果達成チェックリストと支援に対する考え方の質問項目から構成される。回答のあった60事業所のデータを分析に用いた。支援効果達成チェックリストへの回答について探索的因子分析を実施した。また,各因子の下位項目の平均得点を用いてクラスタ分析を実施した。クラスタ分析によって分類されたクラスタ間の支援に対する考え方について分散分析と多重比較を実施した。

結果 探索的因子分析を行った結果,「安心感」と「交流の場」の2因子構造が明らかになった。次に,この2因子を用いてクラスタ分析を行い,就労継続支援B型事業所を「居場所提供」「安心感提供」「提供未達成」の3つのクラスタに分類した。群間で支援に対する考え方を比較し,「利用者の希望や可能性を追求するための支援」と「他の支援機関との連携や支援制度の活用」の項目に認識の差がみられた。

結論 園芸療法の観点から就労継続支援B型事業所は,「安心感」と「交流の場」の2つの支援機能を持つことが明らかになった。そして,各事業所は支援機能に基づき「居場所提供」「安心感提供」「提供未達成」の3群に分類できた。特に,3群間は利用者の主体性の尊重と他機関との関わりについての支援に対する考え方で差があった。各群は安心感や居場所の提供に関する達成度と課題改善の認識状況から説明できると考えられた。以上より,就労継続支援B型事業所利用者の自己実現を図るための手段として,支援機能と支援に対する考え方に基づいて,どのように就労支援に農業を取り入れていくかが今後の課題であり,本研究の視点はそのための1つの視点となると結論づけた。

キーワード 農業,農福連携,就労継続支援B型事業所,園芸療法,就労支援,支援プログラム

 

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第68巻第5号 2021年5月

児童発達支援ガイドラインが推奨する
発達支援内容に関する全国実態調査

植田 紀美子(ウエダ キミコ)

目的 2017年に厚生労働省により児童発達支援ガイドライン(以下,ガイドライン)が制定され,児童発達支援の質の向上に向けた取り組みが望まれている。ガイドライン制定直前における,ガイドラインが推奨する発達支援内容の取組状況の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 全国の児童発達支援および医療型児童発達支援を行うすべての施設4,030カ所(2015年4月時点)に対して,記名式自記式質問票を用いた郵送調査法による実態調査を行った。調査内容は,発達支援内容,発達支援を提供する際の配慮などである。記述統計を行い,各項目について「積極的に取り組んでいる」割合が障害種別によって差があるかを統計学的に比較した。

結果 利用契約児の主たる障害状況に関して回答のあった836施設を解析対象とした。重症心身障害がある子ども(重心児)が主として利用する施設が90施設,肢体不自由がある子ども(肢体不自由児)が主として利用する施設が42施設,知的障害がある子ども(知的障害児)が主として利用する施設が324施設,発達障害がある子ども(発達障害児)が主として利用する施設が372施設,難聴がある子ども(難聴児)が主として利用する施設が8施設であった。重心児が主として利用する施設では,「健康状態を把握するための支援」「日々変化する健康状態に適切に対応するための支援」「生活リズム獲得のための支援」「感覚遊び」「歌遊び」に積極的に取り組んでいた。肢体不自由児や知的障害児が主として利用する施設では,「清潔,食事,着脱,排泄など生活習慣に関する支援」に積極的に取り組んでいた。発達障害児が主として利用する施設では,「友達との関わりを重視した支援」「役割を与えた活動の提供」「代替のコミュニケーションを用いた支援」に積極的に取り組んでいた。「地域社会との連携」を積極的に取り組む施設は少なかった。

結論 ガイドライン制定直前の児童発達支援センター等において,ガイドラインが推奨する発達支援内容の取組状況の実態を明らかにした。今後,ガイドラインの普及状況をモニタリングする上で重要と考える。各施設が積極的に取り組んでいる課題や配慮は,障害種別を反映した結果になっていた。子どもの成長や発達を促すためには,障害特性や発達過程に応じた支援の提供が重要であり,児の成長・発達に応じて,支援内容を定期的に見直すことが必要である。

キーワード 児童発達支援ガイドライン,障害児,発達支援,児童発達支援センター,実態調査

 

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第68巻第5号 2021年5月

経済開発協力機構(OECD)諸国の一般病院と
日本の急性期病院の違いに関する研究

-医療施設調査・病院報告,OECD保健統計を用いて-
鈴木 修一(スズキ シュウイチ) 小塩 篤史(コシオ アツシ) 加藤 尚子(カトウ ナオコ)
近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ)

目的 日本の一般病院はサービス提供形態が未分化であり,他のOECD諸国の一般病院と同様に急性期ケアを提供する病院群(急性期病院群)以外にも,異なるサービスを提供している病院の類型(療養型施設群,外来型施設群,ケアミックス病院群)があるといわれている。しかし,類型化されることならびに各類型の特徴は十分に検討されていない。本研究では,探索的に日本の一般病院がサービス提供形態別に4類型に分けられることを検討し,分けられた急性期病院群とOECD諸国の一般病院の特徴を比較して類似性や差異を検討した。

方法 2014年医療施設調査・病院報告の個票データを使用して,日本の一般病院のサービス提供における投入と産出等の違いを示す9指標を抽出し,Two Stepクラスター分析を用いて分け,サービス形態の特徴を基に4類型とクラスターを結びつけた。そして,急性期病院群とOECD諸国の一般病院の指標を比較し,差異を検討した。

結果 クラスター分析の結果,4類型に分けられ,急性期病院群は全病院の約2割,ケアミックス病院群は約3割,外来型施設群は約3割,療養型施設群は約2割であった。急性期病院群は,多くの急性期の入院サービスを提供し,日本の一般病院全体よりもOECD諸国の一般病院に近い特徴を有するものの,外来患者の割合が高く,資本集約的で平均在院日数が長い。また,ケアミックス病院群は,亜急性期・療養・外来サービスを,療養型施設群は急性期病床においても療養サービスを,外来型施設群は多くの外来サービスを,提供していた。

結論 日本は,1980年代より,病院機能分化施策を進めてきたが,急性期病院以外の病院が多く,機能分化が進むべき余地がいまだに大きいと考えられる。地域医療構想における「地域完結型」の医療の実現には,2025年の将来推計における急性期と慢性期病床の過剰と回復期病床の不足の是正が必要である。日本の急性期病院群における急性期病床数はOECD平均なみであることから,急性期病床は,急性期病院群における削減よりも外来型施設群における削減(有床診療所への転換や回復期や慢性期のサービス提供への転換)が必要である。また,療養型施設群における療養病床の削減(介護施設への転換や回復期から慢性期のサービス強化)が必要である。

キーワード 医療施設調査・病院報告,OECD保健統計,一般病院,急性期病院,機能分化,地域医療構想

 

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第68巻第4号 2021年4月

加熱式たばこに関する
ソーシャルメディアにおける質問の内容分析

仲下 祐美子(ナカシタ ユミコ)

目的 近年わが国では,加熱式たばこが急速に流行している。本研究の目的は,国内のソーシャルメディアに投稿された加熱式たばこに関する質問の分析により,加熱式たばこや禁煙に対する疑問や懸念を明らかにし,加熱式たばこの流行に対応すべき公衆衛生上の課題を検討することである。

方法 データ収集のソーシャルメディアはYahoo!知恵袋を用い,キーワードは「加熱式たばこ」「新型たばこ」「無煙たばこ」などとした。質問投稿日は,わが国での加熱式たばこ販売開始直後の2014年1月1日から2019年12月31日の6年間とした。分析対象は751件とし,テキストマイニング法による分析を行った。

結果 質問投稿数は2016年以降に増加がみられ,質問投稿者は約4割が加熱式たばこを現在使用しており,約1割は家族や周囲の者が加熱式たばこを現在使用している者,1割弱は投稿者が加熱式たばこを使用希望していた。加熱式たばこ使用希望の中には,紙巻たばこの過去喫煙者や非喫煙者からの投稿もあった。質問文の頻出上位語は「アイコス」「吸う」「たばこ」であり,投稿者が加熱式たばこ使用群では「禁煙」「症状」「悪い」「喉」「体」などが頻出語であり,質問内容は加熱式たばこ使用による体調変化,加熱式たばこの健康影響,加熱式たばこ製品,禁煙に関することであった。家族や周囲の者が加熱式たばこ使用群では受動喫煙の害に関すること,加熱式たばこ使用希望群では加熱式たばこの健康影響に関する質問内容が多かった。「禁煙」に関連する特徴語分析では「アイコス」「思う」「喫煙」の語のほか,投稿者が加熱式たばこ使用群では「変える」「害」「健康」,家族や周囲の者が加熱式たばこ使用群では「悪い」「健康被害」「子ども」,加熱式たばこ使用希望群では「検査」「治療」「病院」などが関連語であった。

結論 分析の結果,加熱式たばこの健康被害や健康影響,受動喫煙の害に関する疑問や懸念が多く,健康影響が解明されるまでは,加熱式たばこが安全ではないことや受動喫煙により健康被害の可能性があることを情報提供する必要性が示された。一方,加熱式たばこ使用への関心は,紙巻たばこの過去喫煙者や非喫煙者にもみられたことから,禁煙者に再喫煙させない,非喫煙者には手を出させないようにする必要性が示唆された。禁煙に関しては,加熱式たばこをやめる方法や紙巻・加熱式たばこ併用者から禁煙方法について意見を求めているものがみられ,たばこの多様化が進む中で効果的な禁煙促進の検討が重要な課題である。

キーワード 加熱式たばこ,禁煙,ソーシャルメディア,内容分析,健康影響,情報提供

 

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第68巻第4号 2021年4月

市町村保健師の平時における防災意識

-災害時活動の経験との関連-
川口 桂嗣(カワグチ ケイジ) 伊藤 俊弘(イトウ トシヒロ)

目的 本研究の目的は,人的資源確保の視点から高齢者雇用,腰痛対策,リフトの活用実態を組織特性や利用者像別に明らかにし,人口減少社会における資源運用(高齢者,介護福祉機器等)について提言を行うことである。

方法 高齢者雇用の実態,腰痛の発生状況,リフトの活用状況等を把握するためにWEBアンケート調査を実施した。また,リフトの活用に関する仮説を設定した。WEBアンケート調査のデータを用いて単純集計分析,比較分析,仮説の検証を試みた。比較分析と仮説検証は,介護老人福祉施設の施設特性,利用者像別で行った。仮説の検証方法は,データの確率分布から判断し,Mann-WhitneyのU検定を用いて行った。有意水準は5%とした。

結果 本研究の回答施設の属性は,全国調査と比較しても特異的なものではなかった。高齢者の雇用はほとんどの施設で行われていた。高齢者雇用をされている職員が身体介護(排せつ,入浴,食事介助)業務を担っている割合が62.3%,看護業務が53.2%,運転業務が41.8%であった。業務の実態分析から,若年層の代替資源,補完資源として介護職の不足解消への寄与が期待できる。何らかのリフトを導入している施設は36.6%であった。そのうち固定式(天井走行)リフトは9.9%,可動式(床走行)リフトは8.1%であった。また,何らかのリフトの導入をしている施設のほうがリフトを導入していない施設と比較して,車いす利用者の割合が有意に高かった(p<0.05)。リフトの導入有無別で介護職員の腰痛を有する職員割合に関しては有意な差はみられなかった。腰痛が発生すると考えられている業務はベッドの移乗で9割以上を占めた。しかし,実際のリフトの活用場面では入浴介助時が最も多く8割以上を占めた。ベッド移乗介助時は2割程度であった。腰痛を引き起こす実態と腰痛を緩和,予防するための機器の利用実態に齟齬がみられた。

結論 本研究から次の3点を提言する。第1に,今後の大幅な不足が予想される介護分野の人的資源確保策としての高齢者の積極的な雇用である。第2に,腰痛予防のためのリフトの積極的な活用である。正しい運用により移乗の負担を軽減し,介護本来の時間の確保につなげる必要がある。第3は,介護福祉士等の養成課程における教育プログラムの変革である。今後のさらなる人口減少社会を見据えた資源運用に関する価値観の変革と共有化が望まれる。

キーワード 人的資源,高齢者雇用,腰痛一次予防,リフト,人口減少社会

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第68巻第4号 2021年4月

人口減少と高齢化が進む中山間地域在住高齢者における
訪問看護認知度とその関連項目の検討

李 錦純(リ クンスン) 山本 大祐(ヤマモト ダイスケ) 真鍋 雅史(マナベ マサシ)
増野 園惠(マシノ ソノエ) 木村 真(キムラ シン)
牛尾 裕子(ウシオ ユウコ) 森 菊子(モリ キクコ)

目的 人口減少と高齢化が進む中山間地域在住高齢者における訪問看護に対する認知度を把握し,関連する項目について明らかにすることで,在宅医療人材不足が深刻な地域における,訪問看護の適正利用の促進と在宅ケア体制の整備に向けて,訪問看護に対する住民ニーズを探索する上での基礎資料とすることを目的とした。

方法 中山間地域であるA県北部の二次医療圏B地域の5市町在住の65歳以上の元気~虚弱高齢者を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した。質問項目は,訪問看護の認知度に関する項目(名称・サービス内容・サービス内容別認知度),基本属性,介護保険サービス利用に関する項目,健康要因に関する項目,社会関係要因に関する項目とした。訪問看護のサービス内容認知度と各項目との単変量解析およびロジスティック回帰分析により関連する項目について分析した。

結果 578件の有効回答のうち(有効回答率60.0%),訪問看護の名称は526人(91.0%)が認知していたが,サービス内容については375名(64.9%)の認知度であった。内容別では,「療養上の世話」(73.0%),「病状の観察」(64.0%)の順に認知度が高い反面,「精神障がい者の看護」(19.9%)と「ターミナルケア」(27.2%)の認知度が低かった。訪問看護サービス内容認知度の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析では,訪問リハビリテーションの認知度と,別居家族・親族とのソーシャルサポートが有意に影響していた。

結論 訪問看護サービスの内容別の認知度に差があり,認知度が低いながら社会的要請が高い精神障がい者やターミナルケアに対する訪問看護の意義と,地域住民へもたらす価値をいかに可視化し伝えていくかが課題として示された。訪問看護のサービス内容認知度には訪問リハビリテーションの認知度と別居家族・親族のソーシャルサポートが影響しており,背景として,訪問リハビリテーションを普及促進している地域医療体制の後押しによる住民ニーズの高まりと,地元を離れた別居家族の介護参加のあり方の一端がうかがえた。訪問看護サービスの具体的な内容の認知度向上により,地域住民の潜在ニーズの発掘と適正利用につながることから,リハビリテーション専門職とのさらなる連携強化と,別居家族・親族による介護体制の特徴を加味した情報発信上の工夫が必要である。

キーワード 中山間地域,過疎地域,高齢者,訪問看護,認知度,情報発信

 

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第68巻第4号 2021年4月

非行領域における家族支援内容と連携の実態

-連携対象・連携方法・評価方法・プログラムとの関連-
大原 天青(オオハラ タカハル) 萩生田 伸子(ハギウダ ノブコ)
笠松 将成(カサマツ マサナリ) 笠松 聡子(カサマツ サトコ)

目的 重篤な非行や行動上の問題を示し家庭外に措置される子どもの多くは,養育者との葛藤や逆境的体験などがあり,子どもと家族の双方に働きかけることが重要であるとされる。本研究では児童自立支援施設に焦点をあて,次の3点を明らかにする。まず,非行領域における家族支援の内容について整理し,次にそれらの支援内容と連携対象,連携方法,家族支援の評価方法との関連を明らかにする。最後に既存のプログラムとの関連を示し,非行領域における家族支援の実態と今後必要とされることを考察した。

方法 全国の児童自立支援施設58施設に勤務する子どもや家族の支援を担う職員を対象に家族支援に関する調査への協力依頼を行った(2019年11月~2020年2月)。本研究の分析対象は,直接日常生活を支援する職員による回答436部とした。分析は,家族支援に関する支援内容30項目について因子分析を行い,次に抽出された因子と関連する要因を明らかにするため,連携対象,連携方法,家族支援の評価方法,プログラムとの相関分析を行った。

結果 非行領域における家族支援に関する支援内容の因子分析の結果,4因子が抽出された。第1因子は『子どもの状態像の共有』,第2因子は『家庭復帰までのプランニングと共有』,第3因子は『養育に関する振り返りと共有』,第4因子は『過去の出来事の整理と共有』と命名した。次にこれらの支援内容と連携対象との関連を分析したところ,母親,父親,児童福祉司,原籍校,進学・就職先,児童心理司,児童養護施設,心理士等との関連が明らかになった。また連携方法では,電話,個別協議,関係者会議が活用されていた。次に家族支援に関する評価方法では,面接による評価や振り返り,ワークシートが活用されていた。しかし,既存のプログラムとの関連は弱い相関であった。

結論 本研究によって,非行領域における家族支援の内容として4つの因子が抽出され,連携対象,連携方法,評価方法,プログラムとの関連が明らかになった。これらの結果から,非行領域における家族支援に必要とされる4つの働きかけを含む,家族支援プログラムの開発や活用,普及が必要であることを示唆した。

キーワード 非行少年,家族支援内容,連携,児童自立支援施設,家族合同ミーティング

 

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第68巻第4号 2021年4月

健康保険組合における被扶養者向け特定保健指導事業の
効果的なプロセス・ストラクチャー

-データヘルス・ポータルサイト 平成30年度事業報告データによる検証-
濱松 由莉(ハママツ ユリ) 井出 博生(イデ ヒロオ)
中尾 杏子(ナカオ キョウコ) 古井 祐司(フルイ ユウジ)

目的 健康保険組合(以下,健保組合)では被扶養者における特定保健指導実施率向上が一つの事業課題となっている。本研究では保健事業のどのような実施方法・実施体制(以下,プロセス・ストラクチャー)が,特定保健指導実施率や指導による健康課題の解決に有意に関連しているのか,定量的に検証することを目的とした。

方法 「データヘルス・ポータルサイト」(以下,ポータルサイト)に蓄積された平成30年度の保健事業の実績データ(アウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度)および保健事業のプロセス・ストラクチャーに関するデータを用いた。各プロセス・ストラクチャーの実施で,被扶養者向け特定保健指導のアウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が有意に異なるか検証した。

結果 被扶養者向け特定保健指導事業であり,かつアウトプット指標が「特定保健指導実施率(%)」に相当する内容で実施された事業は,計172事業(160組合で実施)であった。172事業のうち,プロセスでは「専門職による対面での健診結果の説明」,ストラクチャーでは「専門職と連携(産業医・産業保健師を除く)」の実施の有無によって,アウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が双方とも有意に異なっており(有意水準10%未満,ウィルコクソンの順位和検定で検証),各プロセス・ストラクチャーを実施している事業ではアウトプット指標・アウトカム指標の目標達成度が有意に高かった。また健保組合の属性(形態,扶養率,加入者数,被扶養者における特定健診実施率)も考慮してアウトプット指標の目標達成度に各プロセス・ストラクチャーが影響を及ぼしているか,重回帰分析によって検証した。健保組合の属性を考慮しても,「専門職による対面での健診結果の説明」を実施している事業のほうがアウトプット指標の目標達成度が有意に高かった(偏回帰係数=0.26,p値=0.05,自由度調整済み決定係数=0.01)。

結論 「専門職との連携」と「対面で本人の健診結果を説明する」という要素を組み合わせることで,被扶養者向け特定保健指導事業の効果的な実施につながる可能性が高い。今後もポータルサイトのようなシステムおよびそこに蓄積された大規模データを活用し,医療保険者の保健事業を効果的なものにするプロセス・ストラクチャーを定量的に検証していくことが必要である。

キーワード 被扶養者,特定保健指導,プロセス・ストラクチャー,専門職,データヘルス

 

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第68巻第3号 2021年3月

高齢者の社会参加に関する研究
(地域包括ケアシステムの観点から)

亀井 美登里(カメイ ミドリ) 本橋 千恵美(モトハシ チエミ) 太田 晶子(オオタ アキコ)
仁科 基子(ニシナ モトコ) 井上 直子(イノウエ ナオコ) 

目的 本研究は,高齢者を含む地域住民の社会参加の意欲や参加実態,住民の持つ専門資格,生活状況,地域への愛着等を把握・分析する。地域包括ケアシステムの構築を進めていく際の重要な社会関係資本としての地域住民の自助,互助,支え合いの可能性とそのあり方を検討する際の有効な基礎資料として役立てることを目的とする。

方法 A市と埼玉医科大学との協働で,A市B地区に在住する30歳以上の全住民1,419人(施設入所者等を除く)を対象とし,2019年11月に,郵送による自記式質問票調査を実施した。質問票の項目は,対象者の基本的属性,専門資格の保有状況,生活状況,地域支援活動の参加意向,地域への愛着等である。

結果 調査票送付数1,419人,回収数543人(回収率38.3%),除外例107人,有効回答数436人(30.7%)であった。地域における高齢者の支援に関する活動に参加意向のある者は全体で255人(58.5%)であった。地域支援活動への参加のきっかけは,男女ともに「知人・友人の誘い」「市などの講習・講座への参加」と答えた者が多く,男では「自治会等を通じての参加募集」が多かった。地域支援活動の参加に期待できることは,「地域や人の役に立つことができる」が最も多く,次いで「地域に知り合いや友達ができる」「自分の健康づくり・介護予防になる」をあげる者が多かった。

結論 A市B地区における地域支援活動参加意向の実態や参加を推進するための重要な因子が明らかになった。今後,地域包括ケアシステムの構築に向けて,地域の前期高齢者等が高齢者を支える地域の担い手として,また行政は地域の活動を促す互助の橋渡しをする立場として機能することで,地域の社会関係資本になり得ることが示唆された。A市の関係する行政計画等に反映されることで,地域包括ケアシステムを補完することが期待される。

キーワード 超高齢社会,地域包括ケアシステム,Social Capital(社会関係資本),地域支援活動,担い手,互助

 

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第68巻第3号 2021年3月

地域在住高齢者に対する
包括的食料品アクセス評価尺度の開発と妥当性の検証

飯坂 真司(イイザカ シンジ) 小板橋 恵美子(コイタバシ エミコ) 河村 秋(カワムラ アキ)
根岸 貴子(ネギシ タカコ) 飯塚 讓(イイヅカ ユズル)
佐々木 莉奈(ササキ マリナ) 谷保 茉耶(タニホ マヤ)

目的 近年,日常の買い物が困難になる食料品アクセス低下が地域在住高齢者の社会問題となっている。この問題には,個人の身体要因,地理的環境,社会的要因が複合的に関与する。本研究の目的は,地域在住高齢者の食料品アクセスの状況を包括的に測定するための自記式尺度の開発と構成概念妥当性・基準関連妥当性の検証とした。

方法 文献レビューをもとに32項目4件法の尺度原案を作成した。首都圏の2政令市3地区の地域活動に参加する60歳以上の主に自立から要支援段階の住民を対象に,自記式質問紙による横断調査を実施した。探索的(最尤法,プロマックス回転)および確認的因子分析を用いて尺度の構成概念妥当性を検証した。また,基本属性,食・栄養関連指標,食料品店からの距離指標に対する基準関連妥当性を検証した。

結果 303名(平均年齢74.3歳,女性217名)を分析した。探索的因子分析の結果,固有値1以上の解釈可能な5因子構造とし,因子負荷量0.35以上の23項目を抽出した。5つの下位因子は「買い物自立度」6項目,「買い物しやすい環境」5項目,「食料品入手の社会的動機」6項目,「食生活面のサポート」3項目,「食生活の経済的余裕」3項目となった。内的整合性を示すCronbachのα係数は,第5因子0.57であったが,第1~4因子0.68~0.82であった。確認的因子分析による適合度は十分であった(GFI=0.902,AGFI=0.879,CFI=0.912,RMSEA=0.049)。基準関連妥当性では,「買い物自立度」は75歳以上,介護保険認定あり,運動器リスクのある者で低く,「食料品入手の社会的動機」は75歳未満,男性で低く,「食生活面のサポート」は独居世帯,介護保険認定ありの者で低く,「食生活の経済的余裕」は視覚障害ありの者で低かった(いずれもP<0.05)。また,「買い物しやすい環境」は,食料品店から500m圏にある居住地域の面積割合と有意な正の相関を示した(ρ=0.20,P=0.001)。

結論 地域在住高齢者に対して,「買い物自立度」「買い物しやすい環境」「食料品入手の社会的動機」「食生活面のサポート」「食生活の経済的余裕」の5因子23項目から構成される包括的食料品アクセス評価尺度を開発した。本尺度により,5つの視点から高齢者本人の食料品アクセスの状況を捉えることができ,個々人の適切な支援につながる。

キーワード 尺度開発,食料品アクセス,買い物,低栄養,介護予防,地域在住高齢者

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第68巻第3号 2021年3月

地域在住高齢者における軽度尿失禁に関する相談意向

 小島 みさお(コジマ ミサオ) 東畠 弘子(ヒガシハタ ヒロコ)

目的 本研究の目的は,不意に少量漏れてしまう軽度尿失禁を有する地域在住高齢者の実態,対応および相談意向について明らかにすることである。

方法 2018年6月~2019年3月に全国9都道府県33会場の健康づくりと排尿に関する地域の健康講座等に参加した地域在住高齢者のうち,要介護認定を受けていない60歳以上を対象とした。解析対象は482人(男性98人,女性384人)とした。調査方法は,自記式質問紙法により,基本属性,尿失禁経験の有無,現在の尿失禁の対応方法,今後の相談意向,尿失禁専用パッドの認知および使用経験,尿失禁用商品を販売するドラッグストアの利用頻度等について回答を得た。

結果 尿失禁経験率は全体で69.9%,男性58.3%,女性73.0%であった。尿失禁専用パッドの認知率は全体で87.4%,男性76.0%,女性90.3%で,尿失禁の対応は「特に何もしていない」が最多であった。男女で対応に差がみられ,男性は「特に何もしていない」割合が女性より多かった。女性は「尿失禁専用パッドを使用」「生理用ナプキンを使用」が男性よりも多かった。尿失禁についての相談意向ありは65.1%であった。尿失禁経験なしの者にも60.6%の相談意向がみられた。尿失禁経験者における尿失禁についての相談意向の影響要因についてロジスティック回帰分析を行った結果,性別に有意差は認めず,「ドラッグストア利用頻度」(オッズ比2.10,95%信頼区間:1.11-3.97)のみに有意差が認められた。

結論 地域在住高齢者自身が,状態像に合わせた尿失禁の具体的な対応方法や用品の選択と使用について知識を豊かにすることが必要であることが示唆された。地域生活の持続可能性を高めるために,尿失禁用商品を販売するドラッグストアも含め,地域で状態像に合わせた,個別の相談対応先の体制整備が重要である。併せて相談意向がない尿失禁経験者のスクリーニング体制の整備も重要と考える。

キーワード 尿失禁,地域在住高齢者,相談,意向,尿失禁専用パッド,個別支援

 

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第68巻第3号 2021年3月

地域在宅居住高齢者における13年間生存日数を
維持するための夫婦年間収入閾値額

星 旦二(ホシ タンジ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 児玉 小百合(コダマ サユリ)

目的 研究目的は,地域在宅居住高齢者における,夫婦年間収入額と生存日数との関連とともに一定の生存維持のための夫婦年間収入閾値額を明確にすることである。

方法 調査対象地域は九州中央に位置する自治体である。地域在宅居住高齢者を対象とし,1999年2月5日までの自記式質問紙を封書にて回収できた高齢者5,320人(回収率89.2%)が基盤調査である。転居者と65歳未満と85歳以上1,212人を除く,4,108人(男性1,806人,女性2,302人)を2011年8月31日まで最大4,670日間追跡し,その間の死亡日を自治体住民基本台帳で確認した。夫婦年間収入額別にみた生存日数との関連性と閾値を解析する方法では,一元配置分散分析を用いた。

結果 夫婦年間収入額が多くなる高齢者ほど生存日数が有意に維持される傾向が示された。一定の生存日数を維持するための夫婦年間収入閾値額は,性別を問わず年間200万円以上300万円未満であった。

結論 一定の生存日数を維持するための夫婦年間収入閾値額は,性別を問わず年間200万円以上300万円未満であった。詳細な収入状況を把握し,生存維持に関連する他の要因も含めて,他の地域と他の世代でも明確にするとともに,その因果構造を明確にすることが研究課題である。

キーワード 夫婦年間収入閾値額,生存日数,地域在宅居住高齢者,家庭間収入格差

 

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第68巻第3号 2021年3月

地域密着型介護老人福祉施設における
地域交流スペースの活用の実態

山中 克夫(ヤマナカ カツオ) 小松崎 麻緒(コマツザキ ナオ) 登藤 直弥(トウドウ ナオヤ)
野口 代(ノグチ ダイ) 内田 達二(ウチダ タツジ) 石川 愛(イシカワ アイ)

目的 本研究は多くの地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養)に設置されている地域交流スペースの活用の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 関東内の全地域密着型特養312施設を対象に郵送法による質問紙調査(平成29年7月~9月)を行い,返送された157件のうち完全無回答を除く155件を分析対象とした(有効回答率49.7%)。

結果 地域交流スペースを設置している施設は全体の72.9%であったが,十分活用していると回答した施設は12.9%であった。また,活用施設の利用回数(年間換算)の中央値は48回であり,分布は少ない方に偏っていた。活用使途の第1位は「入居者の交流を中心とした活動」(72.0%)であり,第2位は「施設の職員が参加する研修会や会議」(69.0%)であった。利用回数を目的変数とした重回帰分析では,併設・隣接の施設の種類(特別養護老人ホーム他)と活用使途の種類(介護予防,自治会の活動,地域のサークル活動や地域交流,入居者の交流)がプラスに影響し,立地(市)と他事業総数がマイナスに影響していた。独自な取り組みに関する自由回答では,子ども食堂をはじめ多くの例が挙げられた。活用促進のための周知方法では,「自治会や民生委員を通じて」(43.0%)が最も多く,次いで「特に何もしていない」(33.0%)が多かった。活用に関する意見(自由回答)では,特に利用回数が多い施設から,管理・運営上の問題(費用など)が指摘された。また,「あまり活用していない」「活用していない」と回答した施設に理由を尋ねたところ,「利用してくれる人がいない」が最も多く(63.6%),次いで「普段の業務が忙しく余裕がない」(61.4%)が多かった。

結論 地域交流スペースは全体の約4分の3の施設に設置されていたが,全体的に利用回数が少なく,活用使途は施設内の活動が多く,地域に向けた活用が少ない実態が明らかにされた。活用していない理由からは,職員の忙しさ等から施設だけで活用を推進していくことには限界があり,また施設の立地や地域交流スペースの構造等を踏まえた活用が重要であると思われた。地域交流スペースは今後介護予防・生活支援の拠点他で活用が期待されるが,そのためには地域密着型サービス連絡会などを介して組織的に運営の指針を検討したり,実際の運営に関しても生活支援コーディネーターをはじめ外部連携が必要であると考えられた。

キーワード 地域密着型サービス,地域交流スペース,地域密着型介護老人福祉施設,地域支援事業,生活支援体制整備

 

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第68巻第3号 2021年3月

地域在住高齢者における社会参加割合変化

-JAGES6年間の繰り返し横断研究-
渡邉 良太(ワタナベ リョウタ) 辻 大士(ツジ タイシ) 井手 一茂(イデ カズシゲ)
林 尊弘(ハヤシ タカヒロ) 斎藤 民(サイトウ タミ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 高齢者を対象に就労やグループ活動などの社会参加の推進が進められているが,社会参加割合の内訳を詳細に検討した研究は少ない。本研究の目的は性,年齢階層別に社会参加割合の変化を記述し,その特徴を明らかにすることである。

方法 日本老年学的評価研究(JAGES)の2010~11年度(以下,2010年)および2016年の2時点データを用いた繰り返し横断研究である。要介護認定を受けていない地域在住65歳以上高齢者を対象に郵送自記式質問紙調査を実施した。分析対象は2時点ともに悉皆調査を行った同一の10市町在住の日常生活動作が自立した男性9,567名,女性8,870名(2010年),男性10,038名,女性9,627名(2016年)とした。社会参加の定義は就労やグループ活動(ボランティアの会・スポーツの会・趣味の会)参加の有無とし,就労あり,またはグループ活動いずれか1つでも月1回以上参加で参加ありとした。2時点の参加割合を性・年齢階層別(5歳階層ごと)に記述し,χ2検定で2時点の割合を比較した。また,就労,グループ活動それぞれでも同様の分析を行った。

結果 2010年から2016年にかけて社会参加者割合は,男性で58.1%(5,557名)から61.5%(6,176名),女性で55.1%(4,891名)から62.1%(5,982名)といずれも増加を示した。年齢階層別でも全年齢階層で増加を示した(男性0.7~8.5ポイント,女性2.7~11.8ポイント増加)。内訳をみると就労割合は男女ともに65~69歳で特に増加を示した(6.6~9.0ポイント)。一方,グループ活動参加割合は約6年間で男性の65~74歳は2.1~9.0ポイント減少し,75歳以上で4.9~7.0ポイント増加,女性の65~69歳で1.3ポイント減少し,70歳以上で3.3~11.5ポイント増加していた。また,最もグループ活動参加している年齢階層は2010年で男性70~74歳,女性65~69歳に対し,2016年で男性75~79歳,女性70~74歳とより高年齢化していた。

結論 全国10市町の2010~16年の6年間における社会参加割合の変化を検討した。社会参加割合はすべての年齢階層で増加を示した。内訳をみると就労割合は65~79歳でより大きく増加し,グループ活動参加割合は後期高齢者でより大きく増加を示した。また,最もグループ活動参加している年齢階層が6年間で高年齢化していた。今後も高齢者の若返り,環境整備が進むことで就労割合は増加するとともに,グループ活動参加割合が高い年齢階層がより高年齢化する可能性がある。

キーワード ポピュレーションアプローチ,介護予防,就労,グループ活動,経年変化

 

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第68巻第2号 2021年2月

医療系大学の双方向型授業における
インフルエンザ感染拡大のリスクと対策

山本 隆敏(ヤマモト タカトシ) 田邊 香野(タナベ カノ) 登尾 一平(ノボルオ イッペイ)
水本 豪(ミズモト ゴウ) 川口 辰哉(カワグチ タツヤ) 池田 勝義(イケダ カツヨシ)
楢原 真二(ナラハラ シンジ) 上妻 行則(コウヅマ ユキノリ)

目的 大学教育における実習や演習などの双方向型授業はインフルエンザ感染集団発生のリスクとなることが考えられるが,感染拡大防止を目的とした授業停止の有用性についてはあまり論じられていない。本研究では,季節性インフルエンザ発生増加に伴い双方向型授業のみを停止する機会を得たことから,その感染拡大防止への効果を検証した。

方法 医療系K大学A学科2年次113名を対象に,2018/2019年シーズンのインフルエンザ感染症による出席停止者数を双方向型授業停止前後で約2週間モニタリングした。さらに全員に対してインフルエンザ感染の有無,インフルエンザワクチン接種の有無,感染時の症状,インフルエンザ感染への意識の計4項目のアンケート調査を行った。また,双方向型授業停止の実施時期の妥当性を検証するために過去のデータから基準値を設定し,分析した。

結果 調査対象集団のインフルエンザ感染による出席停止者数は経時的に増加し,出席停止者の割合が15%を超えた時点(113名中18名)で,6日間の双方向型授業のみの停止を実施した(一方向型授業は継続)。その結果,双方向型授業停止解除後の観察期間中の出席停止者の割合は1.8%(113名中2名)まで減少し,対象集団内の流行は収束した。アンケートは111名から回答が得られ(回答率98.2%),すべて有効回答であった。対象集団全体のインフルエンザワクチンを接種した割合は94.6%(111名中105名)と極めて高く,感染した割合は19.0%(111名中21名)であった。インフルエンザ感染者に限っても90.5%(21名中19名)はワクチンを接種していた。感染者の症状では発熱が最も多く(21名中19名),36.9℃以下から40.0℃以上と最高体温は幅広く分布していた。次に,今回行った双方向型授業のみの停止時期が妥当であったか検証したところ,今回の授業停止開始時には既にこの基準値を超えていたことが判明した。

結論 学内でのインフルエンザ感染拡大防止には,双方向型授業のみを感染拡大早期に停止することが効果的であることが明らかとなった。また,ワクチンを接種した割合は極めて高いが,ワクチンの効果に対する知識が乏しいことが明らかとなった。今後は,ワクチン効果の限界について学生への啓発が重要であると考えられた。

キーワード インフルエンザ,ワクチン接種,一方向型授業,双方向型授業,感染拡大防止

 

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第68巻第2号 2021年2月

高齢者における熱中症予防行動と
シール型温度計配布の介入効果

萱場(木村) 桃子(カヤバ モモコ) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 本田 靖(ホンダ ヤスシ)

目的 高齢者における熱中症予防行動の実態を明らかにし,さらにシール型温度計の配布が高齢者の熱中症予防における意識や行動を変容させるか評価することを目的とした。

方法 2013年7月に埼玉県A市の住民基本台帳から無作為抽出した65歳以上の高齢者2,124名に郵送で質問票を送付し,2012年夏季の熱中症予防行動について尋ねた。介入群(1,018名)にはシール型温度計を同封した。9月に同様の質問票を送付し,2012年と2013年の熱中症予防行動の比較,また,シール型温度計配布による介入効果を検討した。

結果 有効回答数は989名(有効回答率46.6%)であった。対象者は65-84歳(平均年齢72.5±4.9歳)の男性433名(43.8%),女性556名(56.2%)であった。2012年と2013年の行動を比較すると,エアコン使用時間,エアコン使用開始温度,エアコン設定温度,室温測定で差が認められた。飲水行動については,「喉が渇かなくても時々/定期的に水をよく飲むようにした」との回答が95%以上を占めており,2012年と2013年に差は認められなかった。シール型温度計を配布した介入群では対照群に比べ,2013年のエアコン使用開始室温「暑いと感じたら」,エアコン設定温度「一定の設定温度で決めていない」との回答が少なかった。また,対照群(62.1%)に比べ,介入群では2013年に温度計を「よく見る」と回答した人が75.1%と多かった。

結論 高齢者の熱中症予防行動の実態が明らかになった。シール型温度計配布による介入は高齢者の室温に対する意識を変化させる可能性が示唆された。安価で大量に作成および配布することが可能であるため,大規模集団における熱中症予防に向けた啓発に一定の効果はあると考えられるが,介入群の25%は温度計をあまり見ていなかったという結果を踏まえると,シール型温度計の配布だけでは高齢者の熱中症予防対策としては不十分である。今後,高齢者の熱中症予防行動の変容につながる効果的な介入方法について,さらなる検討が必要である。

キーワード 高齢者,熱中症,シール型温度計,エアコン使用

 

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第68巻第2号 2021年2月

年齢層別住民ボランティアの地域活動への認識の特徴

橋口 綾香(ハシグチ アヤカ) 池田 直隆(イケダ ナオタカ)
岡本 双美子(オカモト フミコ) 河野 あゆみ(コウノ アユミ)

目的 本研究では住民ボランティアの年齢層と地域活動への認識の関連を明らかにする。

方法 大阪府A市で地域活動を実施する住民ボランティア1,812名を調査対象者とし,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,基本属性,地域活動への認識である。地域活動を見守り活動とし,地域活動への認識として地域コミットメント,地域高齢者見守り自己効力感を把握した。

結果 回収者数1,121名のうち分析対象者は764名であり,64歳以下が177名(23.2%),65~74歳が381名(49.9%),75歳以上が206名(27.0%)であった。対象者の基本属性では,住民ボランティアの年齢層が上がるにつれて女性の住民ボランティアの割合は低くなり(p<0.001),64歳以下が最も就業していた(p<0.001)。また,住民ボランティアの年齢層が上がるほど居住年数や地域活動の活動年数が長かった(p<0.001)。年齢層別にみた対象者の見守り活動および見守り関連活動への認識は,地域コミットメント得点では年齢層と統計学的な有意差はみられなかった。地域高齢者見守り自己効力感得点では,年齢層が高くなるほど見守り活動への自己効力感が高かった(p<0.001)。多重比較の結果,64歳以下と65~74歳(p<0.01),64歳以下と75歳以上(p<0.001),65~74歳と75歳以上(p<0.01)の群間で有意差がみられた。

結論 住民ボランティアの性別は,女性の住民ボランティアの割合が,男性ボランティアの割合より高かった。女性の就業率が上昇する現代日本においては,就業と地域活動によって女性の住民ボランティアの役割が過重になる可能性があり,今後活動内容を工夫する必要があると考えられる。また,地域活動への自己効力感は年齢層が上がるにつれて高くなることが示されたが,地域コミットメントは年齢層と関連がなかった。地域活動の内容は,前・後期高齢世代のニーズや興味に合わせたものである可能性が高いため,幅広い年代の住民ボランティアに調査を実施し,年代のニーズに応じた地域活動の内容へと工夫する必要がある。

キーワード 住民ボランティア,地域活動,地域コミットメント,地域高齢者見守り自己効力感

 

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第68巻第2号 2021年2月

障害者手帳所持者数は,なぜ「推計」値か

-障害者手帳の交付および所持に関する情報等の管理運用の現況-
今橋 久美子(イマハシ クミコ) 北村 弥生(キタムラ ヤヨイ) 竹田 幹雄(タケダ ミキオ)
竹島 正(タケシマ タダシ) 飛松 好子(トビマツ ヨシコ) 岩谷 力(イワヤ ツトム)

目的 現在,身体・療育手帳の所持者数は,標本調査の結果から「推計」されている。平成28年の身体障害者手帳所持者数の推計値は436万人,交付台帳登載数(発行数)は515万人であり,後者が約80万人多い。交付台帳は発行者が管理しており,登載情報は死亡等により手帳が返還された場合に台帳から削除される。未返還により死亡が交付台帳に反映しきれないことが,所持者数の推計値と交付台帳登載数との乖離の原因となっている。もし動態情報を管理している市区町村において手帳交付情報との照合作業が行われていれば,推計に頼らずとも手帳所持数が得られることになる。そこで本研究では,将来的な障害保健福祉データベース構築のための基礎的な情報収集の一環として,手帳発行数と所持者数に違いが生じる背景要因を明らかにするために,市区町村における障害者手帳の交付および所持に関する情報等の管理運用に関する現況調査を行った。

方法 全国1,741市区町村の障害福祉担当部門に調査票を郵送配付した。質問内容は,①障害者手帳交付情報の主な管理方法,②死亡や転出等動態情報との照合状況,③他の制度とのデータ連携状況とした。

結果 1,445市区町村(83.0%)から有効回答を得た。管理方法は,①専用システムを導入し,住民基本台帳システムにおける死亡や転出の情報が自動的に反映される,②都道府県から紙媒体で市区町村に送られた決定内容や住民基本台帳システムの情報を手動で入力する,③動態を全く確認していない,の3つのパターンがあった。方法は一様ではないものの,有効回答のうち,98%は電子媒体で交付情報等を管理し,96%は動態情報と照合していた。動態把握は,手当等の適切な給付のためにも不可欠である旨が自由記述に記載されていた。なお3障害で管理方法や専用システム導入率に大きな差はなかった。

結論 本研究では,市区町村を対象に調査した。回答した市区町村の9割以上において交付情報と動態情報を照合していることから,管理運用上の課題を解決することにより,正確な所持者数の捕捉が可能であることが示唆された。一方で都道府県においては,返還届が進達されない限り,障害者手帳交付台帳に動態情報を反映することが制度上困難である。全国的には都道府県と市区町村との情報共有方法も一様でないことが推察されることから,都道府県における交付台帳の管理運用に関する調査も今後必要と考えられる。

キーワード 障害者手帳,障害者数,交付台帳,市区町村,人口動態,情報管理

 

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第68巻第2号 2021年2月

横浜市産婦健康診査の産婦健診補助券からみた
エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)の点数と
産婦の特性の関係

杉原 麻理恵(スギハラ マリエ) 丹野 久美(タンノ クミ) 岩田 眞美(イワタ マミ)

目的 近年,妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援の必要性が重要視され,横浜市では産後うつの予防や新生児の虐待予防等を図る観点から平成29年度より産婦健康診査事業を実施している。今回,横浜市産婦健診補助券に記載された内容を用いて,産婦健康診査の実施状況を分析し,さらに,エジンバラ産後うつ病質問票(以下,EPDS)の点数が産婦の支援にかかわる人に適切に解釈されるために,産婦の特性によるEPDSの推移の差に関する検討を行った。

方法 平成29年6月から平成30年3月までに横浜市産婦健診補助券を使用して産婦健康診査を受診した産婦15,605人の健診の実施内容・結果を分析した。さらに,2週間健診,1カ月健診の両方を受診し,両健診にてEPDSを使用した産婦8,880人を対象に,独立変数を健診時期(2週間と1カ月),産婦の特性(分娩歴,若年出産,高齢出産,多胎の有無),従属変数をEPDSの合計点数とし,反復測定二元配置分散分析を行い,産婦の特性の差によるEPDSの点数の推移について,有意な差異がみられるかを検討した。

結果 当該期間に2週間健診を受診した産婦は9,585人であった。2週間健診で「異常あり」とされた産婦は1,133人で,うち805人が9点以上であった。81人が区の福祉保健センターに報告され,7人が精神科に紹介された。2週間健診で9点以上だった産婦の32%が1カ月健診においても9点以上であったが,1カ月健診で9点以上であった産婦の約半数は2週間健診では低値であった。初産婦のEPDSの点数は2週間・1カ月健診共に経産婦に比べ有意に高く,高齢産婦の点数は,2週間健診では有意に低かったが,1カ月健診では有意差は認めなかった。いずれの要因でも,2週間健診のEPDSの点数が1カ月健診に比べて高値であった。2週間と1カ月健診の間での初産婦の点数の低下は顕著であり,他要因による交互作用が示唆された。分娩歴および高齢出産の有無による4層の層別解析では,2週間・1カ月健診ともに初産婦のほうが有意に高値であったが,高齢出産の有無による有意差は認めなかった。

結論 初産婦のEPDSの点数は経産婦と比較して一貫して高値であった。特に初産婦の産後2週間前後におけるメンタルヘルスの悪化は明確であるが,産後1カ月後には急速に回復する。EPDSの推移を参考にしながら,回復が遅れる初産婦の特性を把握し,早期介入に結び付けることが重要である。

キーワード 産婦健康診査,産後うつ,エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS),妊産婦のメンタルヘルス,産後の支援

 

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第68巻第2号 2021年2月

東京都の医師の近隣県への派遣の状況に関する検討

-2018年東京都が実施した調査に基づく分析-
山内 和志(ヤマウチ カズシ) 田口 健(タグチ タケシ)
森脇 睦子(モリワキ ムツコ) 河原 和夫(カワハラ カズオ)

目的 東京都から近隣県への医師の派遣の状況を明らかにする。

方法 東京都が実施した専攻医プログラムの基幹施設である都内の医療機関および基幹施設となっていない大学病院,分院を対象とした医師派遣に関する調査の再分析を通じて,他の医療施設に派遣された医師数の詳細を分析し,さらに都外に派遣された医師数がその県内の医師数の占める割合を診療科別に推計した。

結果 派遣された東京都の医師のおよそ半数は都外の医療機関で診療に派遣されていた。女性医師は男性医師と比較して派遣地域が東京都や埼玉県である割合や,派遣期間が6カ月~1年未満である割合は高い傾向を示した。派遣された医師は,その県の医師数の10%を超え,また病院に従事する医師数の20%を超える診療科もあった。この場合,最低でもその県の診療科医師の4~5人に1人は東京都内の医療機関からの派遣医師であることを示しており,近隣県において,特に病院診療において医師確保が都内医療機関から移動する医師を供給源として一定の割合を占めている状況が明らかになった。

結論 東京都と近隣県の医師の供給については,一つの都県内だけでなく地域全体の現状を含めて考えていくことの重要性が示唆された。

キーワード 医師派遣,地域医療,医師確保,東京都

 

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第68巻第1号 2021年1月

医療施設の曜日別診療状況と
患者調査の総患者数の推計方法

三重野 牧子(ミエノ マキコ) 橋本 修二(ハシモト シュ二ウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ) 久保 慎一郎(クボ シンイチロウ) 野田 龍也(ノダ タツヤ)
今村 知明(イマムラ トモアキ) 谷原 真一(タニハラ シンイチ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 患者調査の総患者数の推計方法は1990年頃の診療状況に基づくことから,見直しの必要性が指摘されている。最近の医療施設の曜日別診療状況を観察するとともに,推計方法の調整係数(平日の調査による再来外来患者数を1週間の平均再来外来患者数に調整する係数)について,1週間のうちで日曜が休診の想定による現行値(6/7),土曜の午後と日曜が休診の想定による代替値(5.5/7)の適切性を検討した。

方法 2005~2017年の患者調査と医療施設調査を利用した。患者調査による平日1日の再来外来患者数に対する,医療施設調査による1カ月間の平均再来外来患者数の比(調整係数の相当値と呼ぶ)を算定した。

結果 2017年の診療施設割合をみると,病院では午前・午後・18~19時ともに月~金曜でほぼ一定であり,土曜でそれより低かった。一般診療所と歯科診療所では午前・午後・18~19時ともに月・火・水・金曜でほぼ一定,木曜と土曜でそれより低かった。2005年と2017年の診療施設割合の差をみると,病院・一般診療所・歯科診療所,月~日曜と祝日の午前・午後・18~19時ともに-4~5%の範囲内であった。2005~2017年の調整係数の相当値は病院で平均6.2/7(範囲6.1/7~6.3/7),一般診療所で同5.8/7(5.7/7~6.0/7),歯科診療所で同4.7/7(4.4/7~5.0/7)であった。

結論 2005~2017年の曜日別診療施設割合は病院,一般診療所,歯科診療所の間に相違がみられたが,年次間ではほぼ一定傾向であった。調整係数としては,代替値への変更が支持されず,また,歯科疾患の推計に課題があるものの,現行値が比較的適切であると示唆された。

キーワード 医療施設調査,患者調査,総患者数,調整係数,保健統計

 

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第68巻第1号 2021年1月

現代日本における格差と貧困の所在地

平原 幸輝(ヒラハラ ユウキ)

目的 地域福祉の地域アセスメントにおけるニーズ調査として,どの地域において経済的な格差が大きく,貧困に直面している人々が多いのかという点を明らかにする。

方法 2018年の『住宅・土地統計調査』データから算出される所得関連指標を,2015年の『国勢調査』データから算出される社会経済指標によって説明するモデルを,相関分析と重回帰分析を通じて導く。そこで導かれた回帰モデルに基づき,『住宅・土地統計調査』にデータのある自治体(または政令指定都市の区。以下同じ)は実測値,データのない自治体は推定値を用いることで,日本全国の市区町村における所得関連指標を網羅する。そして,得られた所得関連指標の値をZ得点化した上で,極めて深刻な格差や貧困の問題に直面している自治体を明らかにする。

結果 各自治体における社会経済指標が所得関連指標に影響を与えていることが示される中で,経済的な格差の大きさを示すジニ係数には単独世帯比率が,貧困層の多さを示す年間収入200万円未満世帯比率には老年人口比率が,最も強い正の影響を与えていた。また,格差や貧困の状況が空間分布として示され,極めて深刻な格差や貧困の問題に直面している自治体も示された。特に,格差への対策が求められる自治体には都市部,貧困への対策が求められる自治体には離島地域,格差や貧困への対策が求められる自治体には町や村といった郡部の自治体が,それぞれ多く含まれていた。

結論 本研究を通じ,日本全国の市区町村における所得関連指標を網羅することが可能になり,格差や貧困に対する取り組みが必要となる自治体が明らかになった。そして,このマクロ的な統計分析によって,現代日本における格差と貧困の現状を把握することが可能となり,格差と貧困に関する地域アセスメントにおけるニーズの把握が実現された。

キーワード 福祉,地域福祉,地域アセスメント,格差,貧困,ジニ係数

 

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第68巻第1号 2021年1月

虚弱高齢者の自己決定を尊重した
介護福祉士の実践構造と関連要因

笠原 幸子(カサハラ サチコ) 畑 智惠美(ハタ チエミ)

目的 本研究では,超高齢社会を支えるために,専門職としての成熟が求められている介護福祉士が,虚弱高齢者の自己決定をどのように支援しているのか,介護福祉士の実践の構造を明らかにし,その実践に関連する要因を検討することを目的とする。

方法 A県介護福祉士会の会員を対象に自記式調査票を用い,2017年7月15~31日に郵送調査を実施した。分析は,第1に,虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践の構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。第2に,介護福祉士の実践の関連要因をとして有能感を取り上げ,その構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。第3に,介護福祉士の実践の構造に関連する要因を検討するために,従属変数には介護福祉士の実践の因子ごとの合計素得点を,独立変数は「職場外のスーパービジョン」「実践の振り返り」,介護福祉士の有能感の因子ごとの合計素得点等を投入し,強制投入法による重回帰分析を行った。

結果 第1の因子分析の結果,虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践は,「意向と主体性の把握」「主体的実行を引き出す支援」「関係づくり」の3因子が抽出された。第2の因子分析の結果,「業務の達成」「仕事上の予測と問題解決」「自己啓発と能力発揮」の3因子が抽出された.第3の重回帰分析の結果,「意向と主体性の把握」では,「仕事上の予測と問題解決」「実践の振り返り」「職場外のスーパービジョン」が正の有意な関連を示した。「主体的実行を引き出す支援」では,「自己啓発と能力発揮」「実践の振り返り」「介護福祉士としての経験年数」が正の有意な関連を示した。「関係づくり」では,「実践の振り返り」「自己啓発と能力発揮」が正の有意な関連を示した。

結論 虚弱高齢者の自己決定を尊重する介護福祉士の実践は,①「意向と主体性の把握」(虚弱高齢者の主体性を尊重しつつ意向を把握すること),②「主体的実行を引き出す支援」(選択肢の提示や待つこと等によって虚弱高齢者の主体的実行を引き出すこと),③「関係づくり」(自らの心を開いて接すること等によって虚弱高齢者との関係づくりをすること)の3領域が確認された。また,自らの実践を振り返っている,仕事上の予測と問題解決ができる,自己啓発と能力を発揮していると回答した介護福祉士ほど,虚弱高齢者の自己決定を尊重する実践ができていた。

キーワード 自己決定,介護福祉士,虚弱高齢者,量的研究,主体性,関係づくり

 

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第68巻第1号 2021年1月

有料老人ホームにおける虐待予防策への取り組みの実態と課題

-「介護付き」「住宅型」有料老人ホームと「特別養護老人ホーム」との比較をもとに-
松本 望(マツモト ノゾミ)

目的 本研究は,有料老人ホームのタイプ別に,虐待予防に向けた取り組みの実態と課題を明らかにすることを目的とした。

方法 調査は質問紙を用いて行い,A県にあるすべての有料老人ホーム,「特別養護老人ホーム」に書面にて調査への協力を依頼し,同意が得られた施設に勤務する全介護職員を調査対象として実施した。質問紙では,虐待予防策,基本属性について調査した。

結果 1,412名分の質問紙を回収し(回収率43.8%),そのうち「健康型」の有料老人ホームの3名分の回答と,欠損値のあった回答を除外した1,309名分を有効回答とした(有効回答率40.6%)。まず「虐待予防策」について探索的因子分析を行った結果,「職員の特性」「職場の人間関係」「上司の特性」「負担感のなさ」「職場の虐待への対策」の5因子が抽出された。次に,施設種別ごとに虐待予防策への取り組み状況を比較したところ,「職員の特性」「職場の人間関係」「職場の虐待への対策」の三つの因子に有意な差がみられた。まず「職員の特性」では,「住宅型」と「特別養護老人ホーム」(p<0.01),「介護付き」と「特別養護老人ホーム」(p<0.01)で有意な差がみられ,「住宅型」「介護付き」「特別養護老人ホーム」の順に得点が高かった。「職場の人間関係」では,「特別養護老人ホーム」と「介護付き」(p<0.05),「特別養護老人ホーム」と「住宅型」(p<0.05)で有意な差がみられ,「特別養護老人ホーム」「介護付き」「住宅型」の順に得点が高かった。最後に「職場の虐待への対策」では,「特別養護老人ホーム」と「住宅型」(p<0.01)で有意な差がみられ,「特別養護老人ホーム」「介護付き」「住宅型」の順で得点が高い傾向がみられた。

結論 「介護付き」「住宅型」の有料老人ホームにおいても実際に虐待が発生していることから,より質の高いケアを目指す必要がある。具体的な取り組みとしては,研修等により職員の知識や意識を維持・向上させるような取り組みや,職員同士が連携・協働できる体制づくり,施設全体で虐待の未然防止や相談・対応の体制整備に取り組むこと,そして経営層も含め施設全体の虐待に対する認識を高めていくことなどが求められる。

キーワード 介護付き有料老人ホーム,住宅型有料老人ホーム,特別養護老人ホーム,虐待予防策

 

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第68巻第1号 2021年1月

改正健康増進法の必要性

坂口 早苗(サカグチ サナエ) 坂口 武洋(サカグチ タケヒロ)

目的 近年,喫煙防止教育や活動の成果によって,喫煙率は確実に低下しているが,喫煙者のマナーは向上しているとはいえない。大学生の喫煙および受動喫煙に関する調査を実施し,実際にどのような迷惑が生じているかについて把握し,併せて健康増進法の改正がいかに必要であったかを示すことを目的とした。

方法 調査対象者は関東地方にある女子大学の学生1,274人のうち,年齢および喫煙経験の記載があった1,214人であり,調査時期は2008~2019年の毎年秋に,協力の得られた約100人ずつに対し,その場で質問紙およびデータ用紙に記入を依頼し回収した。調査項目は,自記式の質問紙調査,呼気中のCO量および手先の皮膚温度の測定である。

結果 調査対象者の喫煙未経験率は,91.9%であった。呼気中のCO量の平均値は2.0±2.2(±標準偏差)ppm,COHbの平均値は0.8±0.6%,手先の皮膚温度の平均値は30.9±2.5℃であった。タバコの有害性に関する認知度は「身体への有害性」「肺がん」「胎児への影響」および「子どもへの影響」が90%以上であった。一方,「中年太り」「女性の禁煙しにくさ」および「女性の易依存性」については50%以下であった。喫煙未経験者1,024人の呼気中のCO量は,5~6ppmが7.4%,7ppm以上が2.0%であった。直近の暴露場所はアルバイト先が26.7%,居間が24.2%,居酒屋および歩きタバコがそれぞれ8.2,8.1%であった。2018~2019年の対象者126人に追加質問した結果,三次喫煙の認知度は38.9%,「喫煙30分後まで呼気中に有害物質が排出」されることを知っている者は63.5%であった。受動喫煙により迷惑と感じた経験については,喫煙後の人がタバコ臭いと感じた者は96.8%,タバコの煙で食事がまずくなった経験を有する者は78.6%,自分の髪の毛や洋服がタバコ臭いと感じた者は69.8%であった。

結論 最初の1本を口にしないための喫煙防止対策はかなり充実してきているが,タバコが身近にない環境(受動喫煙防止,防煙)対策はいまだ進んでいないこと,分煙では受動喫煙防止に効果がないことが明白となった。改正健康増進法の遵守と同時に,飲食店従業員の健康を護る対策が引き続き求められる。

キーワード 改正健康増進法,呼気中CO量,受動喫煙,三次喫煙,受動喫煙防止条例

 

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第67巻第15号 2020年12月

奈良県における後期高齢者医療費と保険料水準の理論推計

西岡 祐一(ニシオカ ユウイチ) 野田 龍也(ノダ タツヤ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 今後の日本の人口と医療費の推移のモデルとして,奈良県の後期高齢者医療制度の悉皆(全数)調査である国保データベース(以下,KDB)を用いて奈良県の後期高齢者医療費の推移について推計し,今後の医療費と後期高齢者医療保険料水準について考察する。

方法 奈良県人口調査年報および奈良県年齢別人口調査を用いて,男女別年齢別人口を1歳刻みで調査した。2018年10月1日現在の奈良県の年齢別人口から,①奈良県と奈良県外との間の男女別年齢別人口の流出入が同じである,②男女別年齢別死亡率は2018年簡易生命表のもので不変である,と仮定してその死亡率を基に2019年から2093年までの75歳以上の人口の推計を行った。医療費については奈良県KDBを用いて75歳以上の医療費合計を集計し,後期高齢者医療保険制度の75歳以上の被保険者1人当たりの医療費を年齢別に集計した。最後に人口1人当たりの医療費と75歳以上の人口推計を掛け合わせて,2019年度から2093年度までの75歳以上の医療費を推計し,これを基に後期高齢者医療保険の被保険者1人当たりの医療費を推計した。

結果 奈良県の75歳以上人口は,2017年の197,702人から2028年の261,400人まで増加し続け,それを境になだらかな減少ないし横ばいに転じる。その後2050年には227,899人となり,その後さらに減少し続けた。死亡率,現状の医療・介護体制がこのまま継続したとすると,2030年度以降は奈良県における後期高齢者医療費は,およそ1人当たり87,000~90,000点の間で推移した。特に今後10年間,後期高齢者人口は急激に増加し,総医療費も増加傾向を示す。一方,保険料水準と強く相関する後期高齢者1人当たりの医療費は,後期高齢者人口が急激に増えるタイミングで一旦減少傾向を示し,その後再び増加傾向に転じると推測された。

結論 本研究は,奈良県における75歳以上の後期高齢者の人口,医療費についての推計手法・推計結果を提供し,保険料水準の推移について考察した。0~74歳の人口は既に決まっており,死亡率,医療費のデータを用いることで,今後の医療費や保険料水準の推移を精緻に推計できることを示した。これらの推計は今後の社会保障制度を考えるうえで重要な基礎資料となる。

キーワード 後期高齢者,医療費,KDB,国保データベース,奈良県

 

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第67巻第15号 2020年12月

ADL維持向上等体制加算における
リハビリテーション開始基準の検討

松岡 森(マツオカ シン) 山田 修(ヤマダ オサム) 中上 和洋(ナカウエ カズヒロ)
佐竹 裕輝(サタケ ユウキ) 上坂 建太(カミサカ ケンタ)
大洞 佳代子(オオボラ カヨコ) 本田 憲胤(ホンダ ノリツグ)

目的 消化器内科入院症例における入院日数が長期化する要因を明らかにし,ADL維持向上等体制加算におけるリハビリテーション(リハ)開始基準を検討した。

方法 対象は,2018年4月1日から9月30日の間に当院消化器内科に入院した396例を対象とした。今回の対象集団の入院期間の中央値である7日を基準とし,7日未満を短期入院群(S群),7日以上を長期入院群(L群)に分類し,患者因子(年齢・性別・入院方法:緊急/予定)・身体機能(入院時Barthel Index(BI)60点以上/未満・自立歩行可否)・社会的背景(独居有無・介護保険有無)・治療因子において比較・検討した。入院日数7日以上/未満により分類された2群を単変量解析し,単変量解析にて有意差を認めた項目を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析にて入院日数との関連性を検討した。

結果 対象期間に消化器内科に入院した症例は,S群196例/L群200例であった。単変量解析では,年齢・緊急入院・入院時BI60点未満・自立歩行不可・介護保険有は,L群で有意に高値を示した。独居有無・治療因子は,有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析では,入院日数7日以上は緊急入院(オッズ比=0.47,95%信頼区間:0.29-0.77,p=0.003),入院時BI60点未満(オッズ比=0.34,95%信頼区間:0.14-0.80,p=0.013)と関連を示した。

結論 消化器内科入院患者において,緊急入院・入院時BI60点未満の症例は入院期間が長期化しやすく,ADL維持向上等体制加算による早期リハ介入の適応基準となる可能性が示唆された。

キーワード ADL維持向上等体制加算,リハビリテーション開始基準,消化器内科,入院日数

 

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第67巻第15号 2020年12月

社会福祉施設における高齢者ボランティア受け入れの現状と課題

-地域活動への展開を目指して-
守本 友美(モリモト トモミ)

目的 本研究では,まず,近年着目されている「地域共生社会」の担い手として期待されている高齢者の実践活動を進めるために,ボランティア活動が誘因となるという仮説を立てた。それを証明するための前段階となる基礎的資料を提示するとともに,高齢者ボランティアの意識および活動の展開・発展につながる福祉施設による支援方法を考察することを目的とした。

方法 A市所管の介護老人福祉施設への質問紙調査を実施した。調査期間は2019年6月20日から7月31日であった。A市所管の介護老人福祉施設数は151施設であり,調査票回収数は58件で,回収率は38.4%であった。調査項目は,運営主体,開設からの年数,入所定員,職員数,ボランティアの受け入れの有無,ボランティア受け入れの目的,65歳以上のボランティアの受け入れ状況と募集の方法,ボランティア活動の内容,ボランティアを受け入れる際の課題,ボランティア受け入れ担当者の有無,ボランティアコーディネーションの内容とした。

結果 介護老人福祉施設におけるボランティア受け入れの現状から,87.9%の施設がボランティアを受け入れており,そのうちの86.3%の施設で高齢者が活動していることから,高齢者のボランティアが高齢者福祉分野で活躍していることがわかった。ボランティア受け入れ担当者については,37施設,63.8%の施設が配置をしている。ただし,ボランティアを受け入れている施設は51施設,87.9%という調査結果からみると,ボランティアを受け入れていても,担当者が配置されていない施設があるということがわかる。また,受け入れに際しては,活動内容・範囲などの配慮を行っていることが明らかになった。

結論 社会福祉施設で活動するボランティアが地域活動にも活動範囲を拡大していくためには,ボランティアが施設で受け入れられ,安定して活動を継続することから生まれる自信が必要になると考えられる。したがって,受け入れ施設の支援としては,ボランティア受け入れの体制を整え,ボランティアコーディネーションの内容を充実させることが必要になる。また,その上で,地域活動への展開のためにも,コミュニティソーシャルワークの視点も求められる。

キーワード 高齢者ボランティア,社会福祉施設,ボランティア受け入れ,ボランティアコーディネーション

 

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第67巻第15号 2020年12月

学童期におけるゲームに費やす時間と
食生活・生活習慣との関連

射場 百花(イバ モモカ) 内藤 義彦(ナイトウ ヨシヒコ)

目的 学童期は生活習慣の形成期であり,成人期の生活習慣に大きな影響を及ぼす大事な時期と考えられる。近年,ICTの生活全般への普及に伴い,学童期の日常生活におけるゲームに費やす時間(以下,ゲーム時間)の増加による様々な影響が危惧されており,望ましい生活習慣の形成を阻害するおそれがある。そこで,本研究では,一自治体の学童期の全員を調査対象として設定し,ゲーム時間と食生活および生活習慣との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 大阪府S市の全公立小学校に在籍しているすべての児童3,524人を対象とし,家庭における食生活と生活習慣に関する17項目からなる質問紙調査を実施した。このデータを用いて,ゲーム時間と児童の食生活・生活習慣との関連を,単変量および多変量ロジスティック回帰分析によりオッズ比と信頼区間を求め検討した。

結果 解析対象者は,年齢・性別等に記入漏れがなかった3,235人とした。解析対象者のうち,ゲーム時間が「2時間以上/日」の児童は,男子716人(44.1%),女子370人(23.0%)であり,女子より男子においてゲーム時間が長かった。食生活について,学年とは独立して男女ともに,朝食,野菜,間食,味が濃い料理の摂取頻度および食事の挨拶とゲーム時間との間に有意な関連を認めた。さらに男子では,共食,果物,カルシウムが多く含まれる食品,油の多い料理の摂取頻度でゲーム時間との間に有意な関連を認めた。他の生活習慣では,男女ともに身体活動,起床・就寝時刻との間に有意な関連を認めた。ゲーム時間が長いと就寝時刻が遅く,身体活動が少ない関連を認めた。

結論 ゲームに長時間費やしていることにより,就寝時刻が遅くなり,その結果,起床時刻も遅くなり,朝食の欠食,野菜の摂取頻度の低下や間食頻度の増加など食生活の乱れにつながることが示唆され,児童が健全な食生活および生活習慣を身につけるためには,ゲーム時間の制限が必要と考えられた。長時間ゲームに費やすことは,ゲーム依存という精神疾患に関係するという問題だけでなく,将来の生活習慣病のリスクを高めるおそれがあることにもっと注意をはらうべきである。なお,具体的対策としては,ゲーム時間の上限の設定および啓発が現実的であり,今後,上限の根拠の検討が必要になると考えられる。

キーワード 学童期,ゲーム,食生活,生活習慣,生活習慣病

 

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