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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第50巻第8号 2003年8月

地域住民の健康関連QOLに関する満足度の測定

中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) 香川 幸次郎(カガワ コウジロウ) 朴 千寓(パク キョンマン)

目的 本研究は,自身の健康と生活圏に対する満足度を測定する「健康関連QOL満足度指標」(Satisfaction Index of Health Related Quality of Life:SI-HRQOL)を開発し,その構成概念妥当性と信頼性を,地域住民の資料を基礎に検討することを目的に行った。
方法 統計解析に必要なデータは,O県F町在住の20歳以上の成人6,179人(2000年7月1日現在)から得た。構成概念妥当性の検討は,構造方程式モデリングによる同時因子分析で行った。信頼性の検討は,クロンバックのα信頼性係数で行った。
結果「SI-HRQOL」を構成する15項目の因子構造モデル,すなわち「環境快適因子」「環境利便因子」「身体的因子」「心理的因子」「社会関係因子」を一次岡因子,「健康関連QOL満足度」を二次因子とする二次因子構造モデルは,性別・、年齢階層別に分割した6標本すべてに適合した。また,本研究で取り上げた健康関連QOL満足度は,健康関連QOLと一般的QOLの中間的な概念として位置づけられることを明らかにした。さらに,「SI-HRQOL」の信頼性は,クロンバックのα信頼性係数で0.877となり,調査項目の加算性についても支持される結果を得た。その得点分布は,標本全体の平均が16.3点(標準偏差7.68),歪度が-0.087,尖度が-0.719と,ほぼ正規分布となっていた。
結論 本研究で取り上げた「SI-HRQOL」は,「地域住民の快適で利便性の高い生活圏の中で健康に生活する」ということについての満足度の測定尺度として.妥当性と信頼性を十分備えているものと推察された。
キーワード 健康関連QOL 妥当性,信頼性

 

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第50巻第8号 2003年8月

医療的ケアに関する介護福祉士
の対処の現状と意識

林 信治(ハヤシ ノブハル)

目的 日常生活を送るための医療行為(以下「医療的ケア」)を必要とする人々がいる。介護福祉士や訪問介護員(ホームヘルパー)等の介護職は法制上それを実施できない。しかし,実際には介讃職が医療的ケアを実施しているとの報告がある。今回介護福祉士の医療的ケアに関する対処の現状とその意識を明らかにすることを目的として調査を実施した。
方法 A県介護福祉士全会員485人を対象に郵送法で行った。調査期間は,平成13年11月10日から11月30日までである。
結果 回答は186人,回収率38・4%であった。調査項目に例示した12種の医療行為を1種でも実施した経験があるのは152例81・7%,現在所属している職場では139例80.3%であった。介謹福祉士の専門性から考えて,例示した医療行為を実施することについて,「必要ない」26例14.9%,「研修制度や医師・看護師による管理が保証されるなどの条件が整えばよい」128例73.1%.「現状のまま実施してよい」5例2.9%,その他3例1.7%であった。
介護福祉士の医療的ケア実施の要因は,①介護保険制度や福祉制度上看護職員定数が少ない,②看護職負や家族(介護者)の意識,③施設運営上の必要性,が考えられ,介護福祉士のみの意識や努力を超えた多岐にわたる問題の存在を示している。
介護福壮士の多数は,医療的ケアを実施せざるを得ない状況の中で,対症療法的ではあっても,利用者が日常生活を送れるような対応が行えることを望む意見であった。
結論 介護福祉士は「目の前に医療的ケアが必要な利用者がいるが,それに応える医療専門職員が不足している。しかし,自らは医療的ケアを実施することができない。利用者のこのこーズに応え,日常生活の継続を保障するためにはどうすればよいのか」というジレンマの中に存在している。現実として,自らが利用者の医療的ケアのニーズに応えざるを得ない状況にあるため,不安を感じながら,医療的ケアを実施している。
利用者が適切に医療的ケアのニーズを満たせる制度の整備が急務である。その際には,介護福祉士と医瞭専門職との連携のあり方や介護福祉専門職として,利用者主体の立場から医療的ケアと介護福祉士の専門性との関連についての検討を行うことが必要と考える。
キーワード 介護福祉土、医療的ケア,意識、専門職

 

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第50巻第10号 2003年9月

諸外国における生殖補助医療に係る
制度に関する研究

劔 陽子(ツルギ ヨウコ) 岩本 治也(イワモト ハルヤ) 棚村 政行(タナムラ マサユキ)
床谷 文雄(トコタニ フミオ) 松川 正毅(マツカワ ダダキ) 三木 妙子(ミキ タエコ)
菱木 昭八朗(ヒシキ ショウハチロウ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)

目的 近年,わが国においても生殖補助医療の発展ま著しい。 しかし,これまでのところわが国ではなんら法的な整備がなされておらず,既存の法律では生殖補助医療の発展に伴う様々な問題に対応しきれなくなってきている。こうした背景に鑑みて,本研究では諸外国の制度と実情を調査研究し,わが国に相応しい生殖補助医療の制度構築に資することを目的とした。
対象と方法 アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,スウェーデン,台湾・韓国における精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療(AⅡ),提供精子・卵子による対外受精,提供胚の移植および代理懐胎)に関する法律,規制を入手し,調査した。
結果 今回調査を行った国々では,生殖補助医療やそれに伴う親子関係について規定する何らかの法律や規制が存在し,詳細ま規定がなされていた。生姉補助医療に関する法令等の整備状況については,包括的な規制を行う法令その他の規制がない国(アメリカ,ドイツ,スウェーデン,韓国),人工授精や体外受精など特定の生殖補助医療に関する規制法を有している国(スウェーデン),広範な生殖補助医療関係の規制を含む法令を有している国(イギリス,フランス),実施上の技術的管理のための法的規制と倫理的指導を目的とした綱領などを有している国(台湾)など様々であった。包括的な法的規制がない固においでは,医師会等の専門的非営利団体のガイドライン等がみられるが,当該ガイドライン等は実務上の指針であり違反しても制裁措置があるわけではない。包括的な規制がない国においても,ヒト胚の取り扱いや代理懐胎についての規制法(ドイツ),親子関係,記録の保持,医療保険等に関する州法(アメリカ),生殖補助医療の適切な利用を担保するための技術的な法的規制や倫理的綱額(台湾)などの個別的法的規制を有している場合がほとんどであった。
結論 今回調査したほとんどの国においては,生殖補肋医療に関し,それぞれの国の文化的社会的背景を反映した何らかの法令等の規制か存在していた。近年の生殖補助医療の急速な進展を踏まえ,わが国においても,その文化的社会的背景に即した法令・制度の早期の構築が望まれる。
キーワード 生殖補助医療技術,法,欧米諸国,アジア

 

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第50巻第10号 2003年9月

1998年以降の自殺死亡急増の地理的特徴

藤田 利治(フジタ トシハル) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 三浦宜彦(ミウラ ヨシヒコ)

目的 自殺予防に向けて,1989年から1995年までの7年間と比較し,3万人を超える自殺死亡数が観察されている1998年から2000年までの3年間の自殺死亡急増にかかわる地域集積性について明らかにする。
方法 人口動態調査死亡票の情報を用いて,1989~1995年と1998~2000年との自殺死亡の発生状況について比較した。第1に,年齢階級別自殺死亡率を男女別に算出して,1998~2000年での自殺死亡急増の性・年齢階級別の特徴を整理した。第2に,都道府県間の自殺死亡増加の違いについて,両期間の粗自殺死亡率の差と比を用いて都道府県ごとの自殺死亡増加の状況を検討した。第3に,二次医療圈別の自殺死亡増加の違いを,粗自殺死亡率と年齢階級別自殺死亡率のベイズ推定値を用いて分析し,あわせて二次医療圈レベルの自殺死亡についての地図を作成した。
結果 年平均の自殺死亡数は、1989~1995年の20,556人から1998~2000年の30,849人へと1万人を超える急増がみられているが,その4分の3以上に相当する増加が15歳から69歳までの男において発生していた。特に45歳から69歳までの男での自殺死亡数の増加は,全増加の62%に相当する大きさであった。男での自殺死亡率の上昇は,従来から高率であった東北地域を含む日本海側および九州地域でも起きていたが,これまでやや自殺死亡率が低い傾向にあった関西および関東などの大都市部での増加が大きな関与を果たしていた。また,男と比較して女の自殺死亡数の増加はわずかではあるが,女の近年の自殺死亡数の増加が関西および関東などの大都市部において明らかであった。
結論 関西および関東などの大都市部における自殺死亡数の相対的増加は,社会・経済的要因の関与を推察させるものである。近年の自殺死亡急増の背景にはこれまでとは異なる要因の強い関与があると考えられ,自殺死亡急増こついてのさらなる構造的解明が必要とされている。また,都市部での自殺死亡増加という新たな事態に対して,的確な自殺予防対策を確立し推進することが強く求められている。

キーワード 自殺死亡,大都市,地域集積性,保健統計

 

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第50巻第10号 2003年9月

老人保健事業の参加状況と標準化死亡比(死因別),
入院・入院外受診率の関連

-北海道内市町村を対象として-
深山 智代(ミヤマ トモヨ) 桑原 ゆみ(クワバラ ユミ) 工藤 禎子(クドウ ヨシコ)
三国 久美(ミクニ クミ) 森田 智子(モリタ トモコ)

目的 老人保健事業評価の基礎資料として,保健事業参加状況の市町村による相異および参加状況と標準化死亡比(死因別),入院・人院外受診率の関連を明らかにする。
方法 北海道内208市町村の老人保健事業(健康教育,健康相談,基本健康診査等の保健事業)の参加率を変数としてクラスター分析を行い,参加状況を類型化した。人口5千,1万,5万,10万人で区切って市町村をグループに分け、グループごとに,参加類型間で標準化死亡比(脳血管疾思・急性心筋梗塞),循環器系疾患による入院・人院外受診率を比較した。
結果 保健事業の参加状況は7類型(Ⅰ~Ⅶ型)に分類された。ただし,人口5万人以上の市はほとんどが同一類型(Ⅶ型)であった。基本健康診査.健康教育,健康相談,訪問指導の参加率からみて,Ⅰ~Ⅳ型は基本健康診査に比して健康相談が多い。そのうちⅠ~Ⅳ型は訪問指導が,比較的多く,Ⅲ~Ⅴ型は健康教育が比較的多い。Ⅷ型は4保健事業とも少ない。参加状況と標準化死亡比(死因別)の関連について,人口5千人未満の町村グループでは,参加類型Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅵ型はⅦ型より,女性の標準化死亡比(脳血管疾患)が有意に低かった。標準化死亡比(急性心筋梗塞)と循環器系疾患による入院・人院外受診率に関しては,参加類型間に差がみられなかった。
結論 保健事業の参加状況(参加類型)に関して,市町村による相異がみられた。人口5千人未満の町村グループでは,参加類型と女性の標準化死亡比(脳血管疾患)の関連がみられ,基本健康診査,健康教育に加えて健康相談,訪問指導による個別的指導が脳血管疾患による死亡の相対的少なさに寄与する可能性が示唆された。循環器系疾患による入院・入院外受診率については,高齢化率との相関を踏まえ,年齢調整した受診率を指標とする必要性が確認された。老人保健事業の評価において市町村間比較を行う際,人口規模別に比較する必要性が示唆きれた。
キーワード 老人保健事業,標準化死亡比,脳血管疾患,循環器系疾患,受診

 

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第50巻第10号 2003年9月

ドラッグストアにおける禁煙支援者育成の試み

磯村 毅(イソムラ タケシ) 村手 孝直(ムラテ タカナオ)

目的 平成13年9月にニコチンガムがOTC(Ovcr-the-Counter)販売となるなど,薬局,ドラッグストアにおける禁煙支援者の育成が急務となっている。ドラッグストアにおける効果的な禁煙支援者育成の方法を検討した。
方法 ドラッグストアチェーンであるスギ薬局の新入社員97人に対し,講義形式60分,ロールプレイ20分による禁煙支援者育成セミナーを行った後,アンケートを実施した。
結果 過去に禁煙を勧めたことがある人は22%であったが,セミナー終了後に,今後,勧めると答えた人は78%に増加した。禁煙支援の能力について,やろうと思えばできた,だいたいできた,と答えた人は33%であったが,セミナー後は,できる,だいたいできると答えた人は78%に増加した。喫煙者と非喫煙者(過去の喫煙者含む)で比較すると,今までに禁煙を勧めた人の割合は,それぞれ順に20%,23%と低かった。セミナー後,勧めると答えた人は.両群ともに増加したが,喫煙者での57%と比べ,非喫煙者では85%となり有意に大きくなった(p=0.0052)。タバコ関連疾患について8問全部正解だった人は喫煙者の50%に比べ,非喫煙者では73%と多かった(p=0.028)。タバコを吸う動機について,喫煙者では「気持ちが休まる」と答えたものが22%であったが,非喫煙着では56%と多かった(p=0.0029)。上記のような違いは男女,出身学部によっては見いだされなかった。
結論 新入社員に対する禁煙支援セミナーの後,禁煙を勧めると答えた人が増加した。非喫煙肴に対し働きかけると,より効率よく禁煙支援者を得ることができる。喫煙者の場合,セミナーの直後でも,タバコの害を少なく見積もる傾向がある。非喫煙者では喫煙の理由について,実際の喫煙者と違うことを思い浮かべる場合が少なからずあり,両者の意思疎通の妨げになる。こうした違いは,性別,出身学部によっては認められず,タバコに対する態度は,喫煙者かどうかが決定的である。
キーワード 禁煙支援,ドラッグストア,OTC(Over-The-Counter)

 

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第50巻第10号 2003年9月

高齢者本人による雇宅福祉サービスの評価

早坂 聡久(ハヤサカ トシヒサ) 三田寺 裕治(ミタデラ ユウジ)

目的 本研究は,在宅福祉サービスを利用する要援護高齢者を対象に,高齢者本人が在宅福祉サービスをどのように評価しているのかを調査し,利用者評価と関連要因についての分析と今後の在宅福祉サービスのあり方について検討することを目的とした。
方法 千常県K市における平成12年11月現在の要介護認定者(施設サービス利肝者を除く)783ケースの認定結果と給付実績を基本データとし,以下の調査を実施した。①医療機関に入院している者を除き,調査可能な要介護認定者とその家族介護者704ケースに対する郵送調査(有効回答521ケース)。②要介護認定者のうち,在宅サービスを利用しており,調査可能な470ケースに対する訪問面接調査(有効回答369ケース)。調査期間は,①が平成12年11月6日~30日,②が平成12年12月1日~28日である。
結果 高齢者本人による主観的評価について,9項目からなる設問により測定した。その結果,在宅福祉サービスを利用することで,安心感や日常生活の張り合いなどの心理的な評価項目が高評価を得る傾向がみられた。要介護度との関連では,要介護重度群よりも軽度群において在宅福祉サービスを利用することで効果を認める回答が多く,また,サービスの利用との開運では,訪問系サービスや適所系サービスのみの利用に比べ,訪問系と適所系を併用している群で評価スコアが高い状況がみられた。また,友人・知人などの介護協力者や近隣からの協力が得られている場合や,高齢者本人が自立意欲や外出意欲をもっている場合に評価スコアが有意に高くなった。
結論 在宅福祉サービスに対する高齢者本人による主観的評価については,単一のサービスの提供よりも訪問系サービスと通所系サービスの効果的な組み合わせによるサービス提供が求められる一方で,介護協力者や近隣からのサポート等のインフォーマルな支援が総合的に提供される必要性がある。また,高齢者の主観的評価が自身の自立意欲や外出意欲等の生活意欲に影響を受けることからも、ケアプラン作成においては,生活目標の明確化と専門職による情緒的支援による生活意欲の向上の必要性が示唆される。
キーワード 要援護高齢者,在宅福祉サービス,評価

 

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第50巻第10号 2003年9月

家族介護者による在宅福祉サービスの評価

三田寺 裕治(ミタデラ ユウジ) 早坂 聡久(ハヤサカ トシヒサ)

目的 本研究では,在宅福祉サービスを利用した結果,介護者にどのような変化が生じたのかについてサービス利用者の主観的な尺度基準を用いて評価を行った。また,介護者の評価に関連する要因分析を通して,サービス効果を高めるためのサービス提供のあり方について検討した。
方法 千葉県K市における平成12年11月現在の要介讃認定者(施設サービス利用者を除く)783ケースの認定結果と給付実績を基本データとし,以下の調査を実施した。①医療機関に入院している者等を除き,調査可能な要介護認定者とその家族介護者704ケースに対する郵送調査(有効回答521ケース)。②要介護認定者のうち在宅サービスを利用しており,調査可能な者470ケースに対する訪問面接調査(有効回答369ケース)。なお,調査期間は,①が平成12年11月6日~30日,②が平成12年12月1日~28日である。
結果 介護サービスを利用した結果,介護者にどのような効果が現われたのか,8つの設問を用意し測定した。その結果,最も評価の高い項目は「介護サービスを利用できるという安心感」,逆に最も評価の低い項目は「金銭的負担軽減」であった。また,「サービス種類」「サービス給付量」「高齢者の要介護度」を関連要因として設定し,介護者の評価との関連性について検討した結果, 訪問系サービスでは.「身体的負担の軽減」「安心感」の2項目が,適所系サービスでは,「拘束時間の軽減」「友人との交流増加」の2項目の評価が有意に高くなっていた。サービス給付量と介護者の評価との関連では,「身体的負担の軽減」「精神的負担の軽減」の2項目において有意差(p<0.01)が確認され,それぞれサービス給付畳の多い群において介護者の評価が高くなっていた。要介護度と介護者の評価との開通では,要介護重度群の高齢者を介護している介讃者では「身体的負担の軽減」の評価が高く(p<0.01),要介護軽度群の高齢者を介護している介護者では「自由時間の増加」「友人との交流増加」の評価が高くなっていた。
結論 介護サービスを効率的かつ効果的に提供していくためには,利用者の生活全般の問題やニーズを収集・分析し,ニーズにマッチした多様で質の高いサービスが総合的に提供される必要性が示唆された。また,要介護度の高い高齢者を介護している介護者に村しては,在宅福祉サービス等の社会資源の拡充による物理的負担軽減とともに,専門職によるエンパワーメント・アプローチの重要性が示唆された。
キーワード  家族介護者,在宅福祉サービス,評価,効果

 

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第50巻第11号 2003年10月

奈良県内の事業所における事業所規模と産業看護職の
確保が産業歯科保健活動や喫煙対策に及ぼす影響

堀江 博(ホリエ ヒロシ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)

日的 労働安全衛生法第3条には職場における労働者の安全と健康の確保がうたわれている。歯科に関しては労働安全衛生法施行令第22条第3項で有害業務に対する歯科健診が兼務づけられている。また,旧労働省が実施した平成9年労働者健康状況調査では9.6%の者が歯周病を持病にもつことが報告されている。しかし,事業所における歯科保健の現状は都道府県レベルではほとんど把掘できていない状態であり,奈良県も例外ではなく,今後の施策立案のための基礎資料となる実態把握を目的に調査を実施した。また,近年,対策が推進されているたばこ対策についても調査を行った。
方法 県内の30人以上の事業所1,980か所から594か所(30%)を無作為抽出し,衛生管理者あて,調査票を返信用封筒等と共に郵送し,返送された調査票を集計分析した。調査期間は平成14年8月27日から9月30日までで行った。督促はハガキにて1回行った。
なお,事業所のデータは,平成11年事業所・企業統計調査(総務省)の結果を利用した。
結果 郵送した詞査票594通のうち26通が該当なし等で返送された(到達率95.6%)。370件の回答があり,そのうち白紙回答が2件あった(有効回答数368,有効回答率64.8%)。
労働安全衛生法施行令第22条第3項に規定する有害業務には12件(3%)が該当した。産業看護職を57件(15%)が常勤または非常勤で雇用していた。従業員の歯科保健に何らかの取り組みをしていると回答した事業所は25件(7%)であった。喫煙対策に取り組んでいると回答した事業所は222件く60%)であった。また,歯科保健事業実施の有無について,歯科衛生士の確保,歯科診療室の有無により有意に差がみられた。
たばこ対策実施の有無を従属変数とし,産業看護職の確保と事業所規模をカテゴリー変数としてロジスティック回帰分析を行った結果,決定係数は小さいものの産業看護職の確保と事業所規模が関与している可能性が示され,一方,歯科保健対策の有無については,歯科衛生士の確保と産業看護職の確保が関与している可能性が示された。
結論 事業所内の歯科診療室の設置,過去1年間の歯科衛生上の雇用,産業看護職の雇用,歯科保健活動の有無は事業所規模により差があった。また,喫棲対策の実施状況も事業所規模により差があった。80%以上の事業所が産業看護職を確保しておらず,それらについては従業員の歯科保健活動のみならず健康づくり活動全般に関しての窓口の把握が必要になることが示された。
キーワード 歯科保健,産業保健,たばこ,喫煙対策,産業看護職

 

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第50巻第11号 2003年10月

成人における現在歯数と高血圧症
との関連に関する後向きコホート研究

森谷 俊樹(モリヤ トシキ) 阿部 晶子(アベ マサコ) 南 健太郎(ミナミ ケンタロウ)
染谷 美子(ソメヤ ヨシコ) 米満 正美(ヨネミツ マサミ)

日的 本研究の目的は,現在歯数と高血圧症の関連を検討し,これを全身の健康と歯科保健の向上につなげることである。
方法 岩手県沢内村の総合成人病検診および60歳代検診の受検者のうち,1977~81年度,1995~99年度の2期間とも受検していた510人を選び出した。そのうち同意の得られた254人を対象として,高血圧症が現在歯数に及ぼす影響,ならびに現在歯数の減少が高血圧症に及ぼす影響について検討した。
結果 高血圧症が現在歯数に及ぼす影響を分析するために,1977~81年度と1995-99年度の2期間にわたる高血圧症の罷患経過により群分けし,それぞれの現在歯数の変化を比較した。その結果,1977-81年度の検診時に高血圧症に罹患していないが1995-99年度の検診時には罹患している者,ならびに1977-81年度と1995-99年度の両検診時とも高血圧症に罹患している者は現在歯数の減少が大きかった。また,年齢,喫煙,飲酒,BMIの影響を取り除くために,現在歯数(1995~99年度)を目的変数として重回帰分析をした結果,高血圧症の罹患経過は有意な説明変数となり,高血圧症に罹患することは現在歯数の減少を進行させることを示した。現在歯数の減少が高血圧症に及ぼす影響を分析するために,1977~81年度と1995~99年度にわたる現在歯数20本以上の有無の経過で群分けし,高血圧症の累積罹患率を比較した。その結果,現在歯数の減少が高血圧症に結びつく傾向は,男性においてのみ認められた。しかしながら,年齢,喫煙,飲酒,BMIの影響を取り除くために,高血圧症の有無(1995~99年度)を目的変数としてロジスティック回帰分析をした結果,現在歯数の経過と関連はみられたものの,現在歯数の減少が高血圧症の発症に結び付くことは認められなかった。
結論 高血圧症は,現在歯数の減少,すなわち歯牙喪失の危険因子である可能性が高かった。特に,長い期間罹患している者は,歯牙喪失のリスクが大きいと認められた。逆に,歯牙喪失が高血圧症の危険因子である可能性は低かった。
キーワード 8O20運動,後向きコホート研究,現在歯数,歯牙喪失,高血圧症,危険因子

 

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第50巻第11号 2003年10月

児童虐待対応に伴う児童相談所への保護者の
リアクション等に関する調査研究

才村 純(サイムラ ジュン)

目的 虐待の対応では,立入検査や職権による一時保護など,児童の安全確保と福祉を最優先した毅然たる措置が児童相談所に求められることから,時には保護者との間で熾烈な対立関係が生じることも珍しくない。本研究では,保護者による児童相談所への加害・妨害事件等の実態を把握することにより,児童相談所の円滑な業務運営および職員の被害防止を図るための提言を行うこととした。
方法 児童相談所を設置・運営するすべての都道府県・指定都市を対象に,保護者による児童相談所職員への加害・妨害事件等の実態に関する質問紙調査を実施した(調査対象年度は平成10年度~13年度上半期)。
結果 調査の結果,①加害妨害事件は3年半で352件発生しており,年々急増していること,②加害・妨害の対象は児童福祉司が9割を占めていること,③加害・妨害事件の過半数が一時保護に絡むものであること,④加害・妨害の内容は,暴言,脅迫,暴行などが多いこと,⑤被害の内容としては精神的なものが大半であるが,公務災害手続きがとられたのはごく一部であることなどの実態が明らかになった。
なお,保護者からの行政不服申立て,行政事件訴訟,民事訴訟,自己情報開示請求の状況についても調査を行ったが,これらのうち,行政不服申立て,自己情報開示請求は事案が急増していることが明らかになった。
結論 加害・妨害事件を防止する方策として,①組織的対応の徹底,②警察との連携の一層の強化,③保安体制・危機管理体制の確保,④強権的介入における新たな援助技術の確立と職員への技術的支援体制の強化,⑤保護者の立場を代弁し,保護者に代わって児童相談所と調整を行う代理人制度の導入,⑥被害職員等に対する精神的ケアのあり方に向けた検討の必要性などについて提言を行った。
キーワード 児童虐待,児童相談所、児童福祉司,加害・妨害事件,行政不服申立て,自己情報開示靖求

 

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第50巻第11号 2003年10月

Age-Period-Cohortモデルによる
日本人中高年の損失寿命に関する分析

小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ) 内田 博之(ウチダ ヒロユキ)

目的 日本人中高年(40~64歳)の早期死亡による損失寿命の過去35年間の推移に対する年齢,時代およびコホート(同年代出生コホ一ト)の影響について明らかにすることを目的とした。
方法 1960年から1994年までの全死因と主要死因(悪性新生物,心疾患,脳血管疾患,不慮の事故,自殺)の5年齢階級(40~44歳から60~64歳)のYPLL率を5年ごとの7期間について男女別に算出し,コホート表を作成した。それぞれのコホート表についてベイズ型Age-Period-Cohort分析を適用することにより,3要因(年齢,時代,コホート)の効果を分離して推定し,各要因の損失寿命に与える影響について考察した。
結果 全死因の損失寿命に対し,男性では後年生まれのコホートほど効果が減少する出生年代の影響が顕著であった。さらに50~54歳を最大とし,60~64歳で大きく低下する年齢の影響も認められた。これとは対照的に,女性では年齢やコホートの影響は小さく,むしろ時代進行に伴って一貫した減少を示した時代の影響が大きかった。死因別の分析結果では,脳血管疾患の損失寿命に対しては,男女ともに時代の影響が顕著であり,加えて,男性では1921-1925年生まれを底としたⅤ字状のコホートの影響が認められ,このコホート効果は同じ循環器疾患である心疾患の場合と類似していた。悪性新生物では,男性において50歳代における年齢影響が大きく,また,1921~1930年生まれ以降の効果減少を特徴としたコホートの影響を認めたが,女性では,3要因の影響は明瞭でなかった。不慮の事故についても,男性でのみ,年齢と時代の影響が強く認められたほか,1926-1935年生まれをピークとしたコホートの影響も認められた。自殺では,男女に共通して,年齢効果が相対的に大きく,若齢側の影響が大きかった。加えて,男性では1980~84年をピークとした時代の影響,さらには1916~1925年生まれから1936-1945年生まれにかけての効果の増大を特徴としたコホートの影響が認められた。
結論 ベイズ型コホート分析によって,日本人中高年の早期死亡による損失寿命の推移に対する年齢,時代および同年代出生コホートの影響が明らかにされた。とくに男性の場合,全死因の損失寿命に対してだけでなく,主要死因別の損失寿命に対しても同年代出生コホートの影響が明らかになった。一方,女性ではコホートの影響は小さく,むしろ全死因と脳血管疾患死亡の損失寿命に対する時代の影響が特徴として把握きれた。
キーワード 損失生存可能年数(YPLL),損失寿命,ベイズ型年齢-時代-コホート分析,日本人中高年,早期死亡

 

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第50巻第11号 2003年10月

訪問介護事業所におけるコーディネート実践に関連する要因

-サービス提供責任者による実践に焦点をあてて-
鳥海 直美(トリウミ ナオミ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

日的 訪問介護事業所のサービス提供責任者によるコーディネート実践の状況を把接し,その実践に影響を与える様々な要因を明らかこすることを目的とした。
方法 調査対象は訪問介護事業所のサービス提供責任者387名であり,調査方法は自記式質問紙による郵送調査である。調査期間は2001年9月であり,有効回答率は54.8%であった。
調査項目は,所属機関要因4項目,個人要因2項目,コーディネートに必要とされる業務として62項目を設定した。サービス提供責任者によるコーデイネート実践の状況を把握するため主成分分析から得られた因子ごとに単純集計を行った。そして,コーディネート実践こ影響を与える要因を明らかにするために,それぞれの因子の項目の合計得点を従属変数とし,所属機関要因と個人要因を独立変数とするt検定または一元配置の分散分析を行った。
結果 因子別単純集計の結果,コーディネート実践度の平均値は「パートナーシップづくりが」3.72で最も高く,次いで「サービス導入」が3.68であった。一方,最も低かった因子は「研修受講の促進」の2.85であった。t検定または一元配置の分散分析の結果,すべての所属機関要因とコ一デイネート実践度のそれぞれの間に関連がみられ,そのうち,関係機関と連絡をとり合う時間が保証されている事業所,マニュアルの整備されている事業所,研修が開催されている事業所は,「訪問介護計画の作成とモニタリング」「利用者とヘルパーの関係づくり」「関係機関との連携」などにおける実践の程度が高かった。個人要因については,サービス提供責任者としての経験年数が長い者,研修の参加頻度の高い者が「ケアマネジメントの補完」「研修受講の促進」「サービス導入」などにおける実践の程度に大きな影響を与えることが明らかになった。
結論 サービス提供責任者によるコーディネート実既の特徴は,ケアプランを訪問介護計画に置き換え,利用者のニーズを継続的に把握することであり,ケアマネジメント・システムにおけるモニタリング機能を担う者として位置づけていくことの重要性が示唆された。サービス提供責任者によるコーディネート実践を確立していくためには,サービス提供責任者の配置体制を整備するなど職場環境を整え,利用者のみならず,担当ヘルパーやケアマネジャーと十分に連結を取り合う体制づくりが求められる。さらに,研修機会を確保しながら機関内外における役割認識を明確化し,職場内で共通認識をもてるようにすることが必要である。そのためには.身体介護や生活援助の直接業務に限定された介護報酬を見直し,コーディネートに関する間接業務や研修の開催にかかわる財政基盤を整備することが政策的課題である。
キーワード ホームヘルプサービス,コーディネート,ケアマネジメント,サービスの質

 

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第50巻第13号 2003年11月

医療関係者の睡眠習慣実態について

草野 昌樹(クサノ マサキ) 藁谷 暢(ワラガイ ミツル) 金子 信也(カネコ シンヤ)
佐藤 晶彦(サトウ マサヒコ) 前田 享史(マエダ タカフミ)
佐々木 昭彦(ササキ アキヒコ) 田中 正敏(タナカ マサトシ)

目的 睡眠習慣は日常の生活習慣のベースをなすものであり,睡眠習慣の乱れによって心身の疲労が生じ,うっかりミスや事故にもつながりやすいと考えられる。医療関係機関では夜勤が必須で,医師,看護師などは夜勤や交替制勤務などによって睡眠習慣を崩しやすい。看護師の場命には交替制勤務体制をとっているが,医師の場合には明確に体制化されておらず,医療関係者のなかでも睡眠習慣等については差異が大きいものと考えられる。今回は医療関係者の健康保持,増進を図っていく上で重要な睡眠習慣等についての基礎資料を得ることを目的に,医療関係者を対象に睡眠習慣の状況を調査した。
方法 某医科大学付属病院に勤務する医師,看護師,そして対照群として職員.医学部学生を含め,計1.341人を対象として睡眠習慣についてのアンケート調査を実施し,グループ間で比較検討を行った。
結果 医師の睡眠時間は短く,看護師,職員,学生の睡眠時間との間に有意差がみられた。また,いずれのグループにおいても,「睡眠は足りていない」と申告する割合が高く,グループ間に有意差はみられなかった。交替勤務体制が行われている看護師では,睡眠を確保している傾向がみられた。10項目からなる生活習慣(睡眠,入浴,過労,肉体的疲労,精神的疲労,慢性疲労,うつ状態,野菜嫌い,休日,趣味)をスコア化した生活習慣スコアでは,学生に比べ医師と看護師が有意に悪かった。
考察 夜勤については,睡眠時間との関係から日内リズムをなるべく阻害しないように夜勤勤務時間を短時間にとどめ,当直後の休息を確保できる勤務時間間隔への配慮,交替制勤務の場合には,社会環境,職場環境の影響,家庭内の男女の役割分担などについての検討が重要と考える。一般的に医師の勤務に交代制は取り入れられていないが,睡眠不足,睡眠習慣の乱れに伴う過労や医療ミスにつながることも憂慮され,医療従事者,労働者として交替勤務体制の導入が必要と考える。全体的に医療従事者の睡眠,ライフスタイルについては,勤務体制の検討,効率的に疲労回復できる環境条件の確保が求められ,個人においては,休養の取り方,睡眠の取り方、休日の過ごし方などへの配慮が必要と考える。
キーワード 交替制勤務,医療関係者,睡眠習慣,アンケート調香,生活習慣スコア

 

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第50巻第13号 2003年11月

大阪府守口市での医師会会員と市民の
「がん告知」に関する意識調査

寺西 伸介(テラニシ シンスケ) 吉田 宗永(ヨシダ ムネナガ) 中村 泰清(ナカムラ ヤスキヨ)
森崎 堅太郎(モリサキ ケンタロウ) 佐藤 正(サトウ タダシ) 辻 瀧太郎(ツジ タキタロウ)

目的 古くより「がんの告知」の問題は,医師にとっては大きなテーマであり,時代の流れとともに,その意識に変化がみられる。今回,大阪府守口市において,死を目前にした末期がんを想定して医師会会員と住民に対し,そのような場合の「がん告知」に関する意識を調査し,比較することによって,地域医療を担う医師が「がん告知」の場に直面した際に,どのように対応すればよいのかを検討することを目的とした。
対象と方法 本調査の対象は守口市医師会開業医会員(会員)145人と守口市在住住民(市民)1.500人で,アンケート調査を行った。内容は会員と市民のいずれにも共通の調査項目を3問設定し,会員にはさらに1間を追加した。すなわち,「がん告知」対象が問1は自分自身の場合,間2はパートナーへの場合,開3は第三者への場合について質問調査した。間4は会員のみに対する質問で,現在,実際に告知するようにしているかを聞いた。
結果 自分自身が対象の立場では「告知を希望する」と答えた人は,会員が83%で,市民が74%と大半を占めた。対象がパートナーの場合では,「告知をする」という意見は会員が47%,市民が40%で,いずれも最も多数を占めた。しかし,「告知をしない」という割合は,会員が15%で市民が33%と,市民の方が2倍強も多かった。対象が第三者の場合では,会員と市民とで大きく差がみられ,第三者に「告知すべき」としたのは,会員が26%で市民が40%であり,市民の方が14ポイントも多かった。「告知すべきでない」とした人は,会員が54%で,29ポイントも市民を上回り,過半数を占めた。このように,市民はいずれの立場に立っても,告知を希望するという意識が現れていた。これらの告知希望の理由として,病気のことを十分知りたい,がんと戦いたいという回答が多かった。また,対象が本人の場合よりパートナーの場合,第三者の場合において,会員と市民の考え方が大きく相違していた。
結論 会員と市民との「がん告知」の意識の相違は医師にとって憤重な対応が過られるものである。患者の人権や自己決定棒を念頭におき,告知後の支援も考慮した上で,思いやりのある丁重を告知を患者の立場に立って,まず,本人に告知し,本人の希望があれば家族にも告知をすることが妥当であると考えられた。また,伝えた後.どのように患者に対応し,授肋していくかという告知の質についても考慮しなければならか、。
キーワード がん告知.アンケート調査,意識調査,自己決定権,インフォームド・コンセント

 

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第50巻第13号 2003年11月

レセプト全傷病分析による町村間 ならびに月間変動の分析

岡本 悦司(オカモト エツジ) 田原 康玄(タバラ ヤスハル)

目的 レセプトは複数の傷病名が記載されることが多く,傷病別の医療費や受療頻度(日数)を把揺することは因難であった。そこで傷病ごとに一定の「重み」を仮定し,複数傷病レセプトの日数,点数を重みに従って比例配分するPDM法とよばれる手法を愛媛県の2町村の高齢者外来レセプトに適用し,町村間ならびに月間の日数,点数の傷病割合を比較することを目的とした。
方法 データは愛媛県のA村 Z町の65歳以上外米レセプトであり,分析した情報は.性,年齢,日数,診療行為別点数,傷病名(全傷病)である。対象レセプトの日数,診療行為別点数をPDM法により傷病割合を推計した。
結果 両町村の全レセプトの総日数と総点数の傷病割合は,Z町では高血圧が総点数の15%を占め実地しているが,A村では各傷病はおおむね均等に分布しており,点数割合が最も大きいのは「症状,徽候及び異常臨床所見」で.高血圧は2位であった。同様の分析を月別に行い月間変動を分析したが,対象が高齢者で慢性疾患が多いこともあって大きな季節変動は認められなかった。診癌行為別点数をみると,A村では投薬が43%,Z町では診察指導管理が36.5%で最大であ.った。しかし投薬点数のみをとりだしてPDM法による傷病分析を行ったところ,その傷病割合に両町村間に大きな相違はなかった。
結論 PDM法は分類者の主観に左右されない分析法なので,異なった市町村間で,あるいは同一市町村における異なった月間で,傷病割合を客観的に比較することが可能になる。今回の分析の結果,同じ年齢層の高齢者の外来レセプトでも,その日数,点数の傷病割合にはA村とZ町とで大きな違いがあることが明らかになった。しかしながら,投薬点数のみをとりだして傷病分析を行うと両町村間で大きな相違はみられず,対象が高齢者で慢性疾患中心であることから日数や点数の傷病割合にも顕著な月間変動はみられなかった。
本分析は,国保全被保険者について,1年間にわたり全傷病を入力され、点数も診察行為別に細分して分析された初のケースとして特筆される。PDM法によって,これまで困難だったレセプト点数,日数の傷病割合の変動を客観的に把握することが可能になった。
キーワード レセプト,PDM法,傷病分類,老人医療費,地域差,薬剤費

 

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第50巻第13号 2003年11月

国民生活基礎調査と国民栄養調査のレコードリンケージ
に基づく自覚症状と生活習慣の関連

川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) 松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ)
小栗 重統(オグリ シゲノリ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 国民生活基礎調査の自覚症状と国民栄養調査の生活習慣の関連性について,両統計のレコードリンケージに基づいて検討を試みた。
対象と方法 平成7年の両統計を都道府県,地区,単位区,世帯,性.出生年月をキーとして個人単位にレコードリンケージした。自覚症状として44項目,生活習慣として10栄養素の充足率等と喫煙・飲酒・運動状況を用いた。20歳以上の7,233人について.男女ごとに,各自覚症状の有無を目的変数とし,各生活習慣と年齢を説明変数とするロジスティック回帰を行った。
結果 男女いずれかで,栄養素充足率等の1つ以上でオッズ比が有意であった自覚症状は23項目であったが,自覚症状と栄養素充足率等の組み合わせの中で男女ともにオッズ比が有意なものはなかった。喫煙習慣の「吸わない」に対する「吸う」のオッズ比では,男で歯が痛い、たんが出る,腹痛・胃痛,女で手足の動きが悪い,たんがでる,吐き気・嘔吐,発疹が有意に高かった。飲酒習慣の「飲まない」に対する「飲む」のオッズ比では,男では有意に高い項目がなく,女で眠れない,下痢,胃のもたれなど8項目で有意に高かった。運動習慣の「なし」に対する「あり」のオッズ比では、男でゼイゼイする,女で体がだるい,頭痛,胃のもたれが有意に低かった。
結論 上記の関連性については,今後詳細な検討を要するものであるが,個々の保健統計のみでは得られないことから,複数統計間のレコードリンケージの有用性を示唆するものと考えられる。
キーワード 自覚症状,生活習慣,レコードリンケージ,国民生活基礎調査,国民栄養調査

 

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第50巻第13号 2003年11月

障害者の介護に求められるもの

-障害者に対する介護労働に関する調査研究より-
中村 幸子(ナカムラ サチコ) 嶌末 憲子(シマスエ ノリコ)
山内 弥子(ヤマウチ ヒサコ) 石川 彪(イシカワ ヒョウ)

研究目的 障害者を支援する・介護(介助)は,平成15年度から措置から契約への転換という大きな変革を迎えようとしている。しかし,障害者介護労働の体系は,高齢者を対象とした介護保険下のものとは異なり,必ずしも明らかではない。そこで障害者の自立生活支援に寄与する介護職の役割について障害者団体の声をもとに明らかにし,「障害者を支援する介護労働等の特性に関する現状と課題」を整理する調査研究の基礎資料とする。
対象と方法 全国の障害者・患者団体7団体に調査依頼書とアンケート質問紙を送付し,38団体(54%)を有効回答として分析した。さらに協力の得られた団体にヒアリング調査を行った。調香期間は,平成14年3月から6月である。
調査結果および考察 ①マンパワーの資質・条件として,「対象者を埋解する態度」「人間尊重の価値観」が上位を占めている。「専門的技術・知識」も重視されたが,障害別のきめ細かい対応や,障害者の権利を守るための専門性が期待され,資格を介しての専門職性とは異なる。②サービス内容および利用状況は,障害により多彩であり,教育・就労・社会参加などの場面での支援をも求めていることが明らかになった。介護(介助)に求められるものも,身体介護という狭い対人サービス諭から脱却し,利用者の生活および人生を支える支援者としての認識と,熟練した技術が求められるようになったといえる。③実際に介肋を受けている状況として,家族介護に依拠している現実と.近隣への依頼も困難な状況があった。社会への権利意識の高まりはあるとはいえ,インフォーマルサポートへの期待は低くノーマライゼーション思想の理念と現実のギャップがうかがえた。
結論 障害者の介護にかかわるものとして,援助を撞供する対象として利用者を見ていくだけでなく,利用者の自立と社会参加のためにどのような支援と連携が必要であるか,あるいは資源開発まで含めて,利用者の立場から発想することが基本である。これは広くソーシャルワークの視点と,さらに利用者および家族をエンパワーメントしていくかかわりや,アドヴォケイトしていく重要性が示唆された。
キーワード 自立支援,社会参加,マイパワー、専門性,介護(介助)

 

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第50巻第15号 2003年12月

介護予防施策における対象者抽出の課題

高木 章子(タカギ アキコ) 味木 和喜子(アジキ ワキコ) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ)

目的 女性食道がんの発生率の高い大阪府において,口常生活習慣と女性食道がんとの関連を解明する。
方法 大阪府立成人病センターで1990~99年に入院患者に対して実施した日常生活習慣に関する自記式の調査票のなかから,女性食道がん患者34人と,がん.循環器疾患,肝疾患を除く女性患者178人とを抽出,同定し,飲酒,喫煙,熱い食べ物に対する晴好,歯磨き習慣をとりあげ,症例対照研究を行った。
結果 食道がんの多変量調整オッズ比は,「飲酒経験なし」を基準とした場合,「飲酒経験あり」3.0(95%信頼区間1.2-7.5),「喫煙経験なし」を基準とした場合,「喫蛭経験あり」1.7(0.7~4.3)であった。熱い食べ物の嗜好は,「嫌い・ふつう」に此し「好き」1.5(0.6~3.4),「歯磨き1日2,3回」は「1日1回以下」に比し0.4(0.1~1.1)となった。飲酒と喫煙の組み食わせ別にみた年齢調整オッズ比は,「飲酒あり・喫煙あり」が6.3(2.1-18.6),「飲酒あり・喫煙なし」が3.4(1.1-10.2),「飲酒なし・喫建あり」が2.7(0.9~8.6)となった。人口寄与危険割合は,「毎日飲酒」37%,「喫煙経験あり」が14%,「歯磨き1日1回以下」が21%と推計された。
結論 大阪府の女性食道がん高リスクは.大阪府の女性の飲酒・喫煙歴が全国と比べて高いことに起因している可能性が示唆された。食道がん発生の予防には,「飲酒を控える」,「たばこを吸い始めない」,「歯磨きを励行する」の3点を広く生活指導することが重要である。
キーワード 女性,食道がん,飲酒,喫煙,熱い食べ物,歯磨き習慣

 

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第50巻第15号 2003年12月

DaySurgery導入・MajorSurgery増加に
対応した手術室増設が病床稼働に与える
影響に関する一般解の作成

康永 秀生(ヤスナガ ヒデオ) 今村 知明(イマムラ トモアキ) 大江 和彦(オオエ カズヒコ)

日的 総合病院において手術件数の増大(Day Surgery(短期滞在型手術)の導入,Major Surgery(術後入院必要手術)の増加)に対応して手術室を増設した場命に,病床稼働率に与える影響を明らかにする。
方法 現在実施されている手術を,Day Surgery適応手術とそれ以外のMajor Surgelyに区分し,前者を積極的に導入する場合としない場合に分けて.手術件数増加に対応する手術室の必要増設数および年間延べ入院患者数・平均在院日数・病床稼働率について一般解を作成した。さらに,用いた変数に適当な数値を代入して,手術件数増加に伴う手術患者および外科系全体の平均在院日数の変化を観察した。
結果 手術室の必要増設数は,現在の手術件数,手術1件当たりの平均手術室滞在時間,および手術の増加件数に規定される。Day Surgeryを導入しない場合は,積極的に導入する場合と比較して,当初の平均在院日数は長くなる。いずれの場合も,手術件数増加に伴って全体の平均在院日数は漸増するが,病床稼働率が100%に達した時点で,逆に平均在院日数の低減を迫られる。Major Surgery単独で増加する場合に比べて,Day Surgery・Major Surgeryともに増加する場合の方が,平均在院日数の最大値は小さくなり,満床に至るまでより多くの手術が実施可能となる。
結論 手術件数増加に対応して,手術室の増設により手術患者の受け入れ体制が充足されると,逆に病棟に対する負荷が大きくなる。特にMajor Surgeryを増加させた場合.病棟は平均在院日数の長い患者がさらに増加することで病床数が不足し,平均在院日数の短縮を迫られる。Day Surgery導入を伴わない手術件数増加に比べ,Day Surgeryを導入しさらにMajorSurgeryも増加させるケースの方が,手術室1室当たりの年間延べ入院患者数を多く確保でき,病床稼働率が100%となるまでより多くの手術を実施できるため,病棟・手術室ともに効率的な運用が可能となる。
キーワード Day Surgery,Major Surgery,手術室,平均在院日数,病床稼働率

 

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第50巻第15号 2003年12月

保健医療情報の地図表示システムの構築

伊藤 武彦(イトウ タケヒコ) 関 明彦(セキ アキヒコ) 吉良 尚平(キラ ショウへイ)

目的 保健・医鰍こ関する情報を地図上に表示し,誰もが簡便に統計地図を作成・分析することを可能とするシステムの構築を目標として,ソフトウェア開発を行う。
方法 Microsoft社のWindows98および2000で動作するExcel2000(以下「エクセル」)のワークシート上に国土数値情報を用いた電子地図(行政界地岡)を描くプログラムを開発した。そして,市区町村単位,地域基本メッシュ単位で編成されたデータおよび保健医療機関等の位置などのポイントデータを扱えるように設計した。保健医療情報等は,エクセルのファイルとして保存しておき,そのデータをエクセル上で展開・階級分けを行った。別に作成しておいた行政界の白地図をエクセルのワークシート上に用意しておき,白地図の各要素,あるいはその背景に作成するメッシュ地図などの図形を,展開・階級分けしたデータをもとに彩色し,統計地図が作成できるようなシステムを構築した。
結果 岡山県の国勢調査結果(市町村別・地域基本メッシュ別)および保健医瞭機関の所在のデータをもとに,岡山県内の市町村の白地図上に統計地図が作成できるシステムを構築した。また.保健医療機関の所在地を地図上にプロットすることや,異なる地図を重ね合わせることも可能となった。
結論 エクセル上で,市区町村別など行政界別の統計地図と地域メッシュ統計地図の両方を作成できるシステムが構築された。これを用いれば,既存の保健・医療に関する統計情報を用いて簡便に統計地図を作成できるので,地域の医療保健情報が一層活用されることに資するものであると考えている。
キーワード 保健医療情報,地理情報システム,地域診断,国勢調査,統計地図,数値地図

 

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第50巻第15号 2003年12月

循環器疾患死亡除去によるコホート生命表への影響

-特定高齢者と要支援高齢者の階層的な関係の検証-
渡辺 智之(ワタナベ トモユキ) 水野 裕(ミズノ ユタカ) 大森 正子(オオモリ マサコ)
福田 博美(フクダ ヒロミ) 宮尾 克(ミヤオ マサル) 大沢 功(オオサワ イサオ)
佐藤 祐造(サトウ ユウゾウ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ)

目的 わが国の平均寿命は現在,非常に高い水準を維持している。この主な理由として,結核をはじめとする感染症などが激減し,脳血管疾息 心疾患などの「生活習慣病」に村する効果的な対策がとられたことがあげられるが,依然として循環器疾患(心血管疾患および脳血管疾患)による死亡は総死亡の約3割と高い割合を占めている。本研究では,コホート(世代)生命表(同時出生集団を追跡して作成された生命表)を用いて循環器疾患による死亡を除去した場合に生存数がどの程度増加するかを世代ごとに比較検討することにより,循環器疾患死亡が各世代に与える影響を分析した。
対象と方法 コホート生命表を用いて,1900-1904年出生コホート(5年間同時出生集団)から1960-1964年出生コホートまでの13集団の生存数の変化を検討した。本研究ではまず,小林・南條の方法に準拠して,期間生命表(観察集団による生命表)の年命表死亡率および循環器疾患死亡を除去した場合の生命表死亡率からコホート生命表の死亡率を算出した。次に,これらの死亡率を用いて循環器疾患死亡を除去した場合としない場合の生命表生存数をそれぞれ算出し,それらの差(生存数差)を比較することによって世代ごとの循環器疾患死亡による影響を定量的に分析した。
結果と考察 循環器疾患死亡除去によって最も生存数が増加したのは男女ともた1900-1904年出生コホートであった。経年的にみると,全体的に新しい牡代ほど生存数差は小さくなっており,時代とともに循環器疾患死亡が生存数に与える影響が大きく変わってきている。男女ともに同様の傾向を示しているが.1960年代後半以降は男性の方が生存教養は大きい。年齢別の検討では,4n歳代後半から世代間に生存数差に違いがみられ.高齢になるにつれて生存数差が急増する傾向がある。新しい山隼コホートほど牛存数差は小さくなっているが,団塊の仲代前後になると世代間の差はなくなりつつある。
結論 循環器疾患死亡を除去した場令の生存数の増加は,世代が新しくなるにつれて減少傾向にあり,循環器疾患好亡が生存数に与える影響は小さくなりつつあるが、世代間の差は消失しつつある。今後はさらに追跡を行い、近年の出生コホートにおける影響についても検討していく必要がある。
キャワード 牛命表,平均余命,コホート,循環器疾患,特定死因除去

 

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第50巻第15号 2003年12月

介護予防施策における対象者抽出の課題

-タイムスタディにもとづく「あり方」の研究-
副田 あけみ(ソエダ アケミ) 梅崎 薫(ウメザキ カオル) 小嶋 章吾(コジマ ショウゴ)

日的 業務実態調査をもとに介護保険下における支援センターのあり方, とくに居宅介護支援事業(居宅事業)と支援センター事業(支援事業)の兼務・専務問題や,それぞれの場合の条件等についていくつかの提案を行う。
方法 東京,横浜,石川,富山の計399の支援センターを調査対象に自記式タイムスタディを,東京の20の支援センターを対象にシャドーイング式タイムスタディを実施した。
結果 自記式調査の協力支援センタ一数は242(有効回答率61%),タイムスタディシート回答者数は305であった。地域型支援センター(基幹で地域を兼ねているセンターを含む)の自記式調査結果では,平均実労働時間(573分)に占める居宅介護支援業務時間の割合は59.8%,支援センター業務時間の割合は40.1%であった。支援センター業務の実施を阻書している要因とその程度を探るために,支援センターに帰属する要因である開設からの期間,母体施設または併設施設,運営主体,職員配置数,地域で調整した多重ロジスティック回帰分析を実施した結果,支援センター事業のみを担当する支援事業専務者は,支援センター事業と居宅介護支援事業の兼務者よりも,約16倍支援業務を実施する可能性のあること,ケアプラン作成はプラン数が10増えるごとに支援センター業務を31%阻害することなど明らかとなった。
結論 調査結果と関係者に対するフィードバックの結果を踏まえ,今後も居宅事業と支援事業の双方の実施を求められるはずの支援センターのあり方について,居宅事巣と支援事業とを分担すること,その場合には,主として,あるいは.専ら支援事業を担当する支援事業主担当者は,居宅事業主担当者とのチームワークの下に事業を実施すること,また,居宅事業担当者の給付管理業務削減戦略を採用すること,居宅事業と支援事業を分担せず,会員兼務でいく場合には,1人当たりのケアプラン作成数を月平均20-30に抑制すること,など12項目にわたって提案を行った。
キーワード 在宅介護支援センター,介護保険,ケアマネジメント,介護支援専門員,介護予防,ソーシャルワーク

 

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第50巻第15号 2003年12月

RM-ODPを用いた保健所参照情報モデルの開発

桐生 康生(キリュウ ヤスオ)

目的 保健所と医療機関とのインターフェースを定義する目的で,RM-ODP(ReferenceMode)for Open Distributed Processing)を用いた保健所参照情報エンタープライズ・モデルを開発した。
方法 職員に対するヒアリング,法律・制度の調査を通して,以下の手順でモデルを開発した。まず,保健所における業務のうち医療機関と関係する業務をroleとして抽出し,これらの業務からSubcommunityとenterprise objectを抽出した。次に,各roleのprocessを定義した。最後に,これらのenterprise objectやroleに関連するpolicyを定義した。
結果 立入り検査,保健統計,食中毒,結核・感染症,特定疾患などの業務がroleとして抽出された。保健所の各担当部門がsubcommunityとして抽出された。enterprise objectには各業務担当者が抽出された。これらのenterprise objectとro)eをもとに各業務担当者の業務手順がprocessとして定義された。医療機関の開設許可,結核予防法・感染症法に基づく届け出,病院報告など,法律・制度に基づく医療機関・医師の許認可・報告兼務がpolicyとして定毒された。また,食中毒調査義務等の各担当者の業務上の義務や権限がpolicyとして定義された。
保健所は医療機関に対する行政窓口になることが多いことから,本モデルは,電子カルテ等の病院情報システムと行政情報システムとのインターフェース定義に有用であると考えられた。特に,保健所は,医師等の医療従事者の免許申請や医療機関開設許可申請の窓口となっていることから,医療分野の認許局としての役割も考えられた。また,本モデルは,保健所間の業務
の相互比較に有用であると考えられた。
結論 RM-ODPを用いた保健所参照情報モデルを開発した。保健所の業務がrole,担当者がenterprise objectとして抽出され,法律・制度の義務や権限がpolicyとして定義された。本モデルは,情報システムの構築のみでなく,保健所問の業務の相互比較にも有用と考えられた。
キーワード 保健所,RM-ODP,参照情報モデル,エンタープライズ・モデル,標準化

 

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第51巻第1号 2004年1月

わが国の中高生の喫煙行動に関する全国調査

-2000年度調査報告-
尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 鈴木 健二(スズキ ケンジ) 和田 清(ワダ キヨシ)
山口 直人(ヤマグチ ナオト) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ) 大井田 隆(オオイダ タカシ)
土井 由利子(ドイ ユリコ) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 上畑 鉄之丞(ウエハタ テツノジョウ)

目的 2000年度におけるわが国の中高生の喫煙行動実態を明らかにするため,全国を代表するようなサンプリング方法に従った全国調査を実施した。
方法 断面標本調査を実施した。地域ブロックを層とし,全国の中学校と全日制高等学校をクラスターとする層別1段クラスター抽出により抽出された学校の在校生徒を調査対象とした。2000年12月から2001年1月にかけて,学校において無記名,自記式質問票による調査を実施し,中学校99校(学校協力率75.0%),高等学校77校(同75.5%)から回答があり,調査票107,907通が回収され,記入が不十分なものを除いた106,297通を解析対象とした。
結果 中学1年男子の喫煙経験者率は22.5%で学年が上がるにつれ上昇したが,中学での喫煙経験者率は1996年度調査(前回調査)より低下した。中学1年女子の喫煙経験者率は16.0%であり,学年とともに上昇した。初めての喫煙経験学年は前回調査と比較し差は認められなかった。月喫煙者率(現在喫煙者率)は,中学1年男子で5.9%であり,学年とともに上昇し,高校3年男子では36.9%にのぼった。毎日喫煙者率は中学1年男子で0.5%に過ぎなかったのが学年とともに急激に上昇し,高校3年男子では,25.9%に達した。女子の月喫煙者率は中学1年が4.3%で,学年が上がるにつれ上昇し高校3年では16.2%であった。毎日喫煙者率は,中学1年女子で0.4%に過ぎなかったのが高校3年女子では,8.2%に達していた。女子の喫煙率は前回調査よりやや高くなっていた。喫煙行動を前回調査と比較すると,1日平均喫煙本数が多い者(10本以上)の割合が上昇したこと,吸うたばこを自動販売機で買う者の割合,対面販売の場で買う者の割合が低下していないことが明らかになった。
結論 わが国の中高生の喫煙行動は依然高いレベルにあり,しかもいくつかの点で悪化している可能性が示唆された。より包括的で強力な未成年者への喫煙対策の推進と監視と評価のための全国規模での定期的な喫煙行動調査が必要である
キーワード 喫煙行動,未成年,全国調査,自己記入法

 

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第51巻第1号 2004年1月

福祉サービス第三者評価の試行と課題の概要

吉泉 秀典(ヨシイズミ ヒデノリ)

目的 平成15年度から障害福祉分野でも支援費制度が始まり,社会福祉サービスの多くの分野で,契約制度によるサービス提供が実施される。これは,選択の自由や事業の競争によるサービスの質の向上が最終的な到達目標として考えられたものだが,急激な施策転換は,様々な「変化のひずみ」を発生させる。需給関係のアンバランス等による契約当事者間の非対等性や公定料金制による競争性の低下等がそれである。本稿では,第三者事業者評価の実施によって,利用者に対する情報の提供と事業者間の競争の喚起を促し,当事者主体の福祉の実現が可能となるよう,江東区が試行した事業を紹介していくものである。
方法 第三者によるサービス評価の実施には,利用者が何を求めているかを把握した上でないと評価項目を設定できない。そこで,利用者満足度調査と並行実施しながら評価項目の設定を行った。これは,当事者主体を前提とする上で,重要な視点としてとらえた。対象となるサービスには,身体障害者ホームヘルプサービスと知的障害者生活寮とし,利用者満足度調査においては,利用者,家族,サービス提供者(ヘルパー・世話人)へのアンケート調査とした。評価項目の設定は,利用者調査の結果を受け,サービス向上と選択のための情報となる要素を選び設定した。
結果 利用者満足度調査では,満足への影響度と現状の評価を比較し,影響度が高く現状評価が低い事項を①問題項目とし,影響度,評価共に高い事項を②促進項目,影響度・評価共に低い事項を③注意項目,影響度が低く評価は高い事項を④現状維持項目とした,構造分析を行った。そして,評価項目抽出の優先順位を①→②→③→④として課題をとらえた。また,一方で,利用者と家族,本人と事業者,家族と事業者の各間の評価の差が20%以上のものを配慮事項とし評価項目を整理した。
結論 評価項目には,①利用者の意向への気づきマインドの要素,②法上の事業者の責務が訓示規定のため,事業者の資質の向上と消費者保護の役割,③当事者対等性と履行確認の方法等が取り入られることが重要であり,評価の実施にあたっては,評価者自身の資質が重要である。
キーワード 当事者主体の社会福祉,契約制度転換への変化のひずみ,対等性の補充,問題項目・促進項目・配慮項目,消費者保護と履行確認,評価者の資質

 

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第51巻第1号 2004年1月

精神病院での長期在院に関連する要因

-患者調査および病院報告に基づく検討-
藤田 利治(フジタ トシハル) 佐藤 俊哉(サトウ トシヤ)

目的 長期在院が問題視されている精神障害者の社会復帰・ノーマライゼイションを推進するため,在院患者における退院の発生率(incidence rate)である退院率を指標として,精神病院における長期在院にかかわる患者特性および病院特性を解明する。
方法 対象者は,「精神及び行動の障害」(ICD10:F00-F99)とてんかん(G40-G41)に分類された精神病院の15歳以上の在院患者および退院患者である。1999年の厚生労働省患者調査および病院報告を用いて,治癒・軽快による退院率と患者特性および病院特性との関連を,重み付きポアソン回帰モデルを用いて単変量解析および多変量解析により検討した。
結果 精神病院からの治癒・軽快による退院率は,精神疾患全体で56.4(/100人年。以下,単位省略),統合失調症等で41.5と推計された。精神病院からの治癒・軽快による退院の可能性が低いものの特性として,長期間の継続在院期間が最も強く関連していた。統合失調症等においては,治癒・軽快での退院の25%は継続在院期間が1か月未満のものであり,退院率は331.1と高いものであった。しかし,5年以上10年未満での退院率は3.6,10年以上では1.2であり,長期継続
在院している統合失調症等のものでは治癒・軽快による退院が極めて稀なことが示された。その他の要因で非退院リスクが高いものの特性として,男,高年齢,血管性等の痴呆,精神遅滞および統合失調症等,医師および看護師・准看護師1人当たりの在院患者数が多い,および病院開設者が個人ないし医療法人であることが明らかになった。
結論 治癒・軽快での退院可能性の低下に対して,入院以来の継続在院期間が長期間であることが強く関与している状況であり,治癒・軽快による退院が稀な長期継続在院患者に対する特段の対策を講じる必要性が定量的にも明らかになった。その他の退院可能性低下と関連する患者特性には,性別,年齢および診断があげられた。また,これまで退院との定量的な関係の検討がほとんどなされてこなかった病院特性についても,患者特性と比べて関連は弱いものの,医師および看護師・准看護師の不足が退院可能性低下と関連することを明らかにした。第四次医療法改正での職員配置基準が遵守されて退院可能性が高まることが期待されるとともに,医療の質を担保する取り組みが一層推進される必要性が示唆された。
キーワード 精神疾患,長期在院,退院率,精神病院,リスク要因,保健統計

 

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第51巻第1号 2004年1月

ホームヘルパーの就業実態

-都市部の指定訪問介護事業従事者-
石橋 智昭(イシバシ トモアキ) 佐久間 志保子(サクマ シオコ) 滝波 順子(タキナミ ノリコ)
西村 昌記(ニシムラ マサノリ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル)

目的 都市部の一自治体において訪問介護事業に従事するヘルパーを対象に調査を行い,介護保険施行後のホームヘルパーの就業実態を明らかにすることを目的とした。
方法 東京都町田市内の指定訪問介護事業所27か所に在籍し就業中のすべてのホームヘルパー1,264人を対象として配票自計式の郵送調査を行い,1,068人から回答を得た(回収率84.5%)。
結果 回答者の95.5%は女性で,また50歳以上が6割を占めた。全体の平均年齢は51.2歳であった。雇用形態については81.4%が「登録型」で就業していた。登録型ホームヘルパーのヘルパー業務による平均月収は5.5万円であり,常勤のヘルパーや社会保険への加入のあるパートタイマーとの差は大きかった。ただし,登録型ホームヘルパーの65.4%は,収入を扶養控除内におさめることを希望し,就業理由は生きがい・社会参加を目的とする人が多かった。ヘルパー業務の経験年数は,全体では1年未満が2割を占め,介護福祉士資格を有する者は全体の6.7%であった。
結論 介護保険制度の施行により安定的な雇用の創出やサービスの質の向上が期待されたが,ホームヘルプサービス従事者の大半は短時間就業の登録型ヘルパーであり,しかも従事者自身は多くの収入を求めていなかった。十分な経験や専門性をもつ従事者の割合は低く,サービスの質の向上については今後改善されるべき問題が残されている。
キーワード ホームヘルプ,訪問介護員,介護保険

 

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第51巻第1号 2004年1月

介護保険制度下の介護サービス評価に関する変化

-痴呆性高齢者に提供された介護サービスと経年的変化-
筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 居宅で生活する問題行動がある痴呆性高齢者に対応した介護サービスの提供方法に関する指針を得ることをねらいとして,介護保険制度の施行後,居宅で介護サービス提供を受けた問題行動がある痴呆性高齢者(以下「問題行動あり群」)と問題行動がない痴呆性高齢者(以下「問題行動なし群」)について,介護サービス提供実施から6か月後の状態像,要介護度,介護サービス利用回数の変動傾向を分析することと,問題行動の有無別の経年的な状態像の変化や介護サービスの提供実態の差異を分析することを目的とした。
方法 調査対象は,調査地域において要介護認定の申請を行い,調査を受けた者で,介護保険制度開始後の6か月後に認定更新のために再申請を行ったもののうち,転居せず同一地域で6か月間,居宅で生活をしていた高齢者333人とした。調査内容は,性別,年齢,初回申請時と6か月後の更新時の認定結果,介護サービス利用状況の変化,身体的・精神的状態像などの属性の変動である。分析は,これらのデータを問題行動あり群と問題行動なし群に分類して,介護サービス利用
状況の変化等を中心に,連続量についてはT検定と共分散分析を用い,離散量についてはχ2検定とMcNemar検定を行った。
結果 問題行動なし群に比べて問題行動あり群の方が悪化する高齢者の割合が高いことが明らかになり,しかも要介護認定項目のほとんどの項目(53項目)で悪化が示された。しかし,提供された介護サービスの種類や回数を問題行動なし群と比較した結果,「通所介護」にしか有意な差はなかった。さらに,問題行動あり群では,6か月間で状態は大きく悪化し,日常生活能力やIADLが有意に低下していたにもかかわらず,介護サービスの提供内容や提供回数は,変化して
いなかった。
結論 現在,利用されている介護サービスは,家族の介護を代替,補完するには不十分であり,このことが問題行動あり群の状態像を有意に低下させているとも考えられる。これらを科学的に解明するためには,第1に,全国的な疫学調査による痴呆の有病率,発生要因などに関する基礎的データの収集とそのデータベースの作成により経年的な変化を追跡する研究が一層,必要となる。第2に,痴呆性高齢者の家族介護の実態を明らかにしながら,その特徴や能力が痴呆の進行とともに変化することを明らかにするための研究を推進することが重要である。第3に,いわば痴呆の進行のステージごとに,「どのような」介護サービスが,「どの程度の」効果があるのかといった実証的な研究が実施され,多くのevidenceの蓄積が進められることが強く望まれる。
キーワード 介護保険制度,要介護度,痴呆性高齢者,介護サービス,経年的変化

 

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第51巻第2号 2004年2月

テレビドラマに見られる喫煙関連シーンに関する調査(2)

坂口 早苗(サカグチ サナエ) 坂口 武洋(サカグチ タケヒロ)

目的 1998(平成10)年4月1日のテレビでのたばこ個別銘柄の広告規制後に,ある人気タレントが主演するドラマでの喫煙シーンが増加していることを前報で報告した。その後も調査を継続し,調査対象ドラマ数を増やして,その現象を実証的に検証する。
調査方法 調査対象のドラマの収録ビデオから放送時間を計測し,その中から喫煙に関連したシーンの解析を行った。喫煙関連シーンは喫煙に関するすべてのシーンであり,喫煙シーンとセットの道具などの場面の合計である。喫煙シーンとは,実際の喫煙,たばこに火をつける,たばこの火を消す,副流煙,置きたばこ,銘柄描写シーン,せりふなどの場面である。セットの道具とは,火無したばこ,たばこ箱からたばこを出す,吸い殻,たばこ箱,灰皿などの場面である。調査対象ドラマは,広告規制後に制作され午後9時台に民放で放送された,ドラマ部門で週間高視聴率番組10位までに入ったことのあるドラマで,1998~2000年は4作品,2001年は9作品,2002~2003年は10作品の計23作品である。
結果 規制後のドラマにおける喫煙関連シーンの回数は1ドラマ当たり215.8回(1時間当たり24.4回)であり,そのうち喫煙シーンは111.1回(12.6回/時),実際の喫煙は68.9回(7.8回/時)であった。今回調査したドラマは,主人公が喫煙するシーンのあるドラマは全体で13/23番組(57%)であり,男性主人公の喫煙関連シーンは44.1回(5.0回/時)であった。一方,女性の喫煙シーンは4.0回(0.5回/時)であり,2002年以降増加した。銘柄描写シーンの回数は12.8回(1.4回/
時),1ドラマ当たりの平均描写時間は1分3秒,放送回数当たりの銘柄描写シーン回数は1.2回であった。
結論 テレビのたばこ銘柄広告が中止されることによって,憂慮されていたたばこ銘柄描写シーンの増加を確認した。すなわち,たばこ箱やカートンのアップシーン,銘柄の明らかに判読できるたばこ箱の描写シーン,判別できる銘柄たばこを喫煙するシーンが増加していた。また,女性出演者の喫煙シーンが増加していること,せりふの中に銘柄名が含まれる場面もあることも確認した。2003年のWHOの禁煙デーのスローガンともなっているように,テレビ番組制作者は
積極的に喫煙関連シーンのないテレビ番組の制作を実行し,国民は未成年者が喫煙行動をしにくい社会環境をつくりあげなければならない。
キーワード たばこ,喫煙シーン,ドラマ,広告,社会的環境

 

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第51巻第2号 2004年2月

わが国の中高生の飲酒行動に関する全国調査

-2000年度調査報告-
尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 鈴木 健二(スズキ ケンジ) 和田 清(ワダ キヨシ)
山口 直人(ヤマグチ ナオト) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ) 大井田 隆(オオイダ タカシ)
土井 由利子(ドイ ユリコ) 谷畑 健生(タニハタ タケオ) 上畑 鉄之丞(ウエハタ テツノジョウ)

目的 2000年度におけるわが国の中高生の飲酒行動実態を明らかにするために全国を代表するようなサンプリング方法に従った全国調査を実施した。
方法 断面標本調査を実施した。調査対象は全国の中学校と全日制高等学校であった。地域ブロックを層とし,学校をクラスターとする層別1段クラスター抽出により抽出された学校の在校生徒を調査対象とした。2000年12月から2001年1月にかけて,学校において無記名,自記式質問票による調査を実施し,中学校99校(学校協力率75.0%),高等学校77校(学校協力率75.5%)から回答があり,調査票107,907通が回収され,記入が不十分なものを除いた106,297通を解析対象とした。
結果 月飲酒者率(現在飲酒者率)をみると,男女とも学年が上がるにつれ上昇する傾向にあった。中学1年の男子で24.5%,女子で22.8%であった月飲酒者率が,高校3年では男子で53.4%,女子で45.2%となった。飲酒機会別の飲酒経験率をみると冠婚葬祭が男女とも高かった。家族と一緒のときも経験率が高かった。「クラス会,打ち上げ,コンパの時」「居酒屋,カラオケボックス,飲み屋で仲間と」「誰かの部屋で仲間と」飲んだとする者の割合は学年が上がるにつれ急激に上昇した。初めての飲酒年齢を1996年度調査(前回の全国調査)結果と比較すると特に男子で飲酒経験年齢の上昇がやや認められた。よく飲むお酒の種類は男子ではビールが最も多く,次いでアルコール度が低く甘いお酒(果物味などの甘いお酒;リキュール類),焼酎類であった。女子では果物味などの甘いお酒の方がビールよりよく飲まれていた。焼酎およびサワー類は低学年では多くはないが,男女とも学年に伴って急激に増加した。酒の入手経路のうち「コンビニエンスストア等の店で買う」「居酒屋等で飲む」「酒屋で買う」「自動販売機で買う」は,いずれも学年に伴って割合が急激に増加した。しかも男女差があまり認められなかった。お酒を飲
んで失敗した経験は「吐いた」「記憶が消えた」「親に叱られた」の順に多かった。親にお酒を勧められたことがあると回答した者は,男女とも学年が上がるにつれ増加し,高校3年生では男女とも4割以上であった。
結論 わが国の中高生の飲酒実態は既に深刻な状況にあり,女子の飲酒者率など一部では状況の悪化も心配される。他方,飲酒経験者率の低下や酒の入手経路の減少など良い変化の兆しも認められたので今後とも全国調査による継続的監視が必要である。
キーワード 飲酒行動,未成年,全国調査,自己記入法

 

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第51巻第2号 2004年2月

成人男性自殺率の現状と推計

-ベイズ型コーホートモデルによる3効果の分離-
安藤 仁朗(アンドウ ヒトアキ)

目的 人口動態統計から得られたデータをコーホート分析することによって,成人男性の自殺率の現状と今後の趨勢を把握することを目的とする。
方法 1990年から2002年までの,20歳から89歳の男性の年齢階級別自殺率からコーホート表を作成し,ベイズ型コーホートモデルを適用して,時代効果・年齢効果・コーホート効果を分離した。また,分離された各効果のパラメータ値を再構成することによって,今後の年齢階級別自殺率と男性全体の自殺率・自殺数を推計した。
結果 時代効果は,1998年以降高い値を示し,99年に最大となる。年齢効果は,加齢に伴う単調な増加ではなく,50歳代後半を中心に隆起が見られる。コーホート効果は,戦前・戦中・戦後生まれの3期間に分かれ,戦中生まれのコーホート効果が低い。
結論 年齢階級別自殺率は20歳代から30歳代では既にピークを越え,40歳代前半で現在ピークにあると推定される。また,40歳代後半から70歳代前半では今後上昇傾向を示し,70歳代後半と80歳代では数年の低下期を経て,上昇期を迎えることが予想される。現状の傾向が続くと,20~89歳の男性全体の自殺数は2020年には23,320人と最高値に達する。その後,人口減少に伴い自殺数は減少するが,自殺率は上昇を続け,2030年には50人を超える。
キーワード 人口動態統計,自殺率,ベイズ型コーホートモデル,時代効果,年齢効果,コーホート効果

 

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第51巻第2号 2004年2月

耐糖能異常が病型別脳卒中死亡に及ぼす影響

-日本人の代表的集団NIPPON DATA 80の19年間の追跡結果より-
小野田 敏行(オノダ トシユキ) 西 信雄(ニシ ノブオ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
齋藤 重幸(サイトウ シゲユキ) 上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ)

目的 日本人の代表集団において随時血糖値が脳卒中死亡に及ぼす影響を病型別に検討する。
方法 1980年に厚生省により全国から無作為抽出された300調査区の満30歳以上の全住民を対象に行われた循環器疾患基礎調査受検者10,897人を客体とした。同調査では病歴および生活問診ならびに身体計測,血圧測定,血液化学検査が行われた。1994年および1999年に追跡調査が行われ,生死が明らかとなった9,638人のうち,循環器疾患基礎調査受検時30歳以上75歳未満で随時血糖測定が行われ,かつ脳卒中既往なしの者9,074人を解析対象とした。観察期間中の死亡につ
いては死亡統計と照合して死因を特定した。
結果 解析対象者の平均観察年数は男17.3年,女17.9年であり,追跡期間中に観察された死亡は1,524人,うち脳卒中死亡は男126人,女104人であった。随時血糖値の上昇は男女とも有意に全脳卒中死亡を上昇させた。脳卒中の型別の検討では男において脳梗塞,女において脳出血が随時血糖値の上昇にともない有意に増加した。その他の脳卒中死亡と随時血糖値の間には関連はみられなかった。
結論 耐糖能異常が脳卒中死亡に及ぼす影響について全脳卒中や脳梗塞のみではなく従来明らかではなかった脳出血においてもみられたことから,今後脳卒中予防のためさらに糖尿病対策をすすめる必要性が確認された。
キーワード コホート研究,脳血管疾患,糖尿病,死因統計

 

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第51巻第2号 2004年2月

老人保健福祉計画と介護保険事業計画に
よる介護サービスの基盤整備状況に関する一考察

和気 康太(ワケ ヤスタ)

目的 本論は,2000年12月から2001年1月にかけて実施された「介護保険実施に伴う介護サービスの変化に関する調査」(以下「介護保険全国調査」)における関連質問項目のデータを用いて,老人保健福祉計画と介護保険事業計画によって介護サービスの基盤整備がどの程度図られたか,
あるいは図られようとしているか,またその特徴や関連する要因は何か,などについて分析・考察することを目的としている。
方法 介護保険全国調査は,全国3,252自治体(市区町村)の介護保険課または介護保険担当者を対象として,郵送調査(郵送配布,郵送回収)によって行われた。有効回収数は1,361自治体(市区町村),有効回収率は41.9%であった。なお,市部の回収率が高かったこと,また町村部は広
域連合で介護保険事業を実施しているところが多く,町村別のデータを把握しにくいという2つの理由から,本論では市部のデータに限定している。
本論では,介護保険全国調査を通して得られたデータに,既存のマクロ統計データをリンクさせて市区町村別のデータベースを作成し,それをもとに多変量解析法(重回帰分析)を用いてデータ分析を行った。
結果 老人保健福祉計画の達成率では,「ホームヘルプ」や「特別養護老人ホーム」などの5つの介護サービスで,また介護保険事業計画の見込み率では,「訪問介護」や「介護老人福祉施設」などの8つの介護サービスで,それぞれ特徴や違いがあることが分かった。さらに,本論では「パラレル仮説」と「トレードオフ仮説」という2つの仮設を立ててデータ分析を行った。その結果,介護保険事業計画の見込み率では施設サービスと在宅サービスの
間にはパラレル仮説が,また老人保健福祉計画の達成率と介護保険事業計画の見込み率の施設サービスの間にはトレードオフ仮説,在宅サービス(ホームヘルプと訪問介護)の間にはパラレル仮説が成り立つことが分かった。
考察 介護保険事業計画の見込み率には,老人保健福祉計画の達成率が様々な影響を及ぼしている。介護保険事業計画の見込み率を,老人保健福祉計画との「継続性」という視点から分析すると,施設サービスでは地域間格差が縮小していく可能性が,また在宅サービス(訪問介護)ではそれが拡大していく可能性があると考えられる。
キーワード 老人保健福祉計画,介護保険,介護サービス,介護保険事業計画,地域間格差

 

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第51巻第3号 2004年3月

口腔衛生教育が有効な勤労者の特徴

高田 康光(タカタ ヤスミツ) 前田 友希(マエダ ユキ) 礒田 千賀(イソダ チカ) 
中西 理恵子(ナカニシ リエコ)

目的 生活習慣病である歯周病の予防対策として実施する職域での口腔衛生教育がどのような特徴をもつ対象に有効であるか明らかにする。
方法 職域の40歳以下の勤労者全員を対象とし,歯科医師による歯科検診と歯科衛生士による衛生教育を定期健康診断と同時に2年間実施した。歯周病の程度はCommunity Periodontal Index Treatment Needs(CPITN)で評価した。問診票により調査した生活習慣と歯周病の改善度を比較検討した。

結果 歯科検診の受診率は1年目99.5%,2年目92.0%で,2年連続して受診した男性314人,女性195人の結果を分析した。CPITN値が3以上と重度の歯周病疑い例の割合は女性では初年度14%から2年目16%とほぼ不変だった。男性のそれは初年度43%と女性対象の約3倍認めたが,2年目には21%に低下した。CPITN値で評価した歯周病の重症度の説明因子を重回帰分析で検討した。男性群では歯周病改善因子に歯科受診の実施を,改善阻害因子に年齢,喫煙習慣を認め,歯周の健康維持因子には運動習慣,歯磨き時間を認めた。女性群では歯周の健康悪化因子に朝欠食習慣が,健康維持因子に歯科受診の実施が認められた。
結論 歯科検診結果にもとづく口腔衛生教育は定期的な歯科受診の動機づけとなり,40歳以前の特に男性対象の歯周病改善に有効に働いた。この教育効果が少ない男性群にはより年齢が高く,喫煙習慣が多く,運動習慣が少ない特徴を認め,職域の歯周病対策にこの習慣への教育も必要である可能性を示した。
キーワード 歯周病,口腔衛生,生活習慣病

 

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第51巻第3号 2004年3月

在宅療養高齢者の看取りを終えた介護者の満足度の関連要因

-在宅ターミナルケアに関する全国訪問看護ステーション調査から-
島田 千穂(シマダ チホ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 樋口 京子(ヒグチ キョウコ)
  本郷 澄子(ホンゴウ スミコ) 野中 猛(ノナカ タケシ) 宮田 和明(ミヤタ カズアキ)

目的 在宅ターミナルケアのアウトカム評価として,訪問看護師が介護者の満足度を推定して用いる際の留意点を検討するため,1)介護者本人が評価した満足度と,訪問看護師が推定した「介護者の満足度」との一致度を明らかにし,2)これら2つの満足度に関連する要因との比較を行うことを目的とした。
方法 3次に分けて行われた調査から得られたデータを統合し,訪問看護師を対象とした2次調査と介護者を対象とした3次調査の両方のデータが得られた65歳以上の高齢者229事例を対象とした。
結果 介護者本人が評価した満足度と,訪問看護師が推定した「介護者の満足度」とはおよそ7割が一致しているが,「悔い」については双方が一致していたのは3割であった。また,これら2つの介護者の満足度に関連する要因は異なることが明らかとなった。介護者本人が評価した満足度は,「できる限りの介護ができ(オッズ比5.0)」,「死への心構えや準備ができた(オッズ比3.0)」介護者ほど高くなり,看護師は,「死の時期の予測ができ(オッズ比3.4)」,「死亡場所が
自宅(オッズ比2.5)」であるほど「介護者の満足度」が高いと推定していた。
結論 介護者は,主観的な思いが満足度を高める要因であったのに対し,看護師は,客観的な指標に基づき「介護者の満足度」を推定していた。看護師の推定する「介護者の満足度」を在宅ターミナルケアの評価指標として生かすためには,看護師がずれを発生させる要因を自覚し,ケアの過程で本人や家族の思いが表出できる機会を作り受けとめたり,死後の介護者へのグリーフケアで心理的な援助をするとともに,介護者の思いを確認する機会とするなど,看護師の推定した満足度とのずれを縮小させる方法が必要と考えられる。
キーワード 在宅ターミナルケア,高齢者,介護者満足度,アウトカム評価

 

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第51巻第3号 2004年3月

岐阜県内市町村における健康診査受診率に影響する因子

篠田 征子(シノダ マサコ) 日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 山田 美奈子(ヤマダ ミナコ)
  金山 みずほ(カナヤマ ミズホ) 田中 耕(タナカ タガヤス)

目的 市町村が実施する基本健康診査およびがん検診の受診率に影響する因子について分析する。
方法 1984年度から2000年度までの4年ごとの岐阜県内市町村における健康診査(健診)受診率について推移を分析するとともに,社会参加率としての県知事選挙投票率との相関,および健診の個別・集団実施別の受診率から健診受診行動に関与する因子について分析した。
結果 1984年度から1992年度にかけては,基本健康診査,胃がん検診および子宮頚がん検診受診率の上昇がみられたものの,1992年度から2000年度までの後半期にはほとんど上昇は認められなかった。この間,市町村における各種健診受診率は知事選投票率と正の相関を示したが,その回帰係数は漸次低下した。
結論 健診受診率には社会参加意識が関与しているものの,近年はその程度が低下しており,健康づくりの意識に基づいた受診を増やすように働きかける必要がある。
キーワード 基本健康診査,がん検診,受診率,選挙投票率

 

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第51巻第3号 2004年3月

山村住民における性別年齢階層別
にみた生活習慣の特徴

畑下 博世(ハタシタ ヒロヨ) 笠松 隆洋(カサマツ タカヒロ) 弓庭 喜美子(ユバ キミコ)
  守田 孝恵(モリタ タカエ) 石川 由美子(イシカワ ユミコ) 松井 美帆(マツイ ミホ)

目的 山村地域における健康作り事業の基礎資料とするため,住民の生活習慣の特徴を性別年齢階層別に明らかにする。
方法 20歳以上の全住民を対象に自記式生活習慣調査を実施した。有効回答のあった男性87人,女性136人の計223人を解析対象として,性別年齢階層別に生活習慣の状況,年齢と肥満度との関連,性別年齢階層別にみた健康習慣得点の比較,性別健康習慣得点別にみた血液検査値,血圧,肥満度との関連性を検討した。
結果 男女ともに65歳以上群に比べて20~64歳群では濃い味付けを好む,野菜や乳・乳製品の摂取が少ない,運動不足など生活習慣に問題があった。なお,同じ年齢階層では女性に比べ男性の生活習慣は良くなかった。ライフスタイルを包括的に示す健康生活習慣8項目の平均得点は,20~64歳女性が5.5点と最も高く,以下,65歳以上女性が5.3点,65歳以上男性が4.9点,20~64歳男性が4.1点の順であった。性別健康習慣得点と血液検査値等との検討では,女性において健康習慣得点の高得点群に比べ低得点群で血糖値とBMIが有意に高値を示すと同時に,血糖値異常者率も高かった。男性においても有意差は認められなかったものの,高得点群に比べ低得点
群において中性脂肪,血糖,BMI値が高く,血糖値異常者率も高かった。
結論 性別年齢階層別の保健対策の必要性が示唆され,生涯を通じた健康づくりのために,特に男性の若年齢層に対して,生活習慣改善に向けての働きかけを強化することが重要である。
キーワード 山村住民,生活習慣,食生活,行動変容,肥満

 

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第51巻第4号 2004年4月

地域在住高齢者の生きがいを規定する要因についての研究

藤本 弘一郎(フジモト コウイチロウ) 岡田 克俊(オカダ カツトシ) 泉 俊男(イズミ トシオ)
森 勝代(モリ カツヨ) 矢野 映子(ヤノ エイコ) 小西 正光(コニシ マサミツ)

目的 地域在住高齢者の生きがいを規定する要因を明らかにし,充実した高齢者の生きがいづくり
を行っていくための基礎的な知見を得ることを目的とした。
方法 愛媛県重信町の60歳以上の住民5,660人を対象とする生活実態調査を行い,対象者本人から回
答が得られ,かつ,調査時点で寝たきりでなかった4,081人を分析対象として,生きがいの有無
を規定する要因を分析した。生きがいの規定要因の分析は,まず,各項目と年齢を独立変数,
生きがいの有無を従属変数とした多重ロジスティック・モデル解析を用いて行った。次に,上
記の分析で統計的に有意であった全項目と年齢を独立変数として投入し,ステップワイズ法に
よる多重ロジスティック・モデルを用いた多変量解析で生きがいの規定要因を分析した。
結果 上記の解析で,生きがいを規定する要因として採択されたのは,男性では,職業があること,
主観的健康感が良好であること,老研式活動能力指標得点が高得点であること,老人用うつス
ケール(GDS)得点が低いこと,運動やスポーツを実施していること,保健行動を多く行って
いること,同居家族外の情緒的サポート得点が高いこと,生活満足度尺度K(LSIK)得点が高
いこと,健康ボランティアへの参加意志があること,の9項目であった。女性では,低年齢で
あること,主観的健康感が良好であること,老人用うつスケール(GDS)得点が低いこと,よ
く眠れること,運動やスポーツを実施していること,同居家族内情緒的サポート得点が高いこ
と,生活満足度尺度K(LSIK)得点が高いこと,健康ボランティアへの参加意志があること,
の8項目が採択された。
結論 生活満足度と生きがいは正の関連を持ち,生きがいを保持することが高齢者にとってその
QOLを高くしていくために非常に大切であると考える。また,主観的健康感や保健行動の実施
状況等が生きがいと関連し,高齢者の健康づくりは生きがいの保持・向上にも重要である。
キーワード 高齢者,生きがい,QOL,健康づくり

 

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第51巻第4号 2004年4月

要介護高齢者の家族員における介護負担感の測定

東野 定律(ヒガシノ サダノリ) 桐野 匡史(キリノ マサフミ) 種子田 綾(タネダ アヤ)
矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 筒井 孝子(ツツイ タカコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 本研究は,要介護高齢者を介護する家族員の負担感を測定するための尺度の開発を目的とした。
方法 調査対象は,S県O市に在住し,平成14年4月1日現在で,要介護認定を受けた第1号被保険者である要介護高齢者5,189人の主介護者のうち,協力が得られた1,143人とした。主介護者の介護負担感は「要介護高齢者に対する拒否感情」「社会活動に関する制限感」「経済的逼迫感」を下位概念とする12項目(以下「介護負担感指標」)で測定した。介護負担感指標の構成概念妥当性は,「要介護高齢者に対する拒否感情」「社会活動に関する制限感」「経済的逼迫感」を一次因子,「介護負担感」を二次因子とする二次因子モデルのデータへの適合度を構造方程式モデリングを用いて検討し,介護負担感と主介護者の性,年齢,介
護継続期間と負担感の関係を背景変数を伴う確証的因子分析を用いて検討した。信頼性は内部一貫性をクロンバックのα信頼性係数で検討した。
結果 介護負担感を評価する尺度に関する因子モデルはデータに適合し,妥当性が検証された。また,この介護負担感指標によって測定された負担感は,介護者の性が関連しており,女性が男性に比べて得点が高く,女性の方が負担感を高く感じる傾向があることがわかった。クロンバックのα信頼性係数は0.87であった。
考察 本研究で開発した「介護負担感指標」の構造概念妥当性について議論した。
キーワード 要介護高齢者,介護負担,構成概念妥当性

 

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第51巻第4号 2004年4月

特別養護老人ホームは入居者の重度化に耐えられるか?

-タイムスタディに基づく最適入居者構成のシミュレーション-
小埜寺 直樹(オノデラ ナオキ) 大下 晋一(オオシモ シンイチ) 寺本 岳志(テラモト タケシ)
成行 貴久(ナリユキ タカヒサ) 高村 純一(タカムラ ジュンイチ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル)

目的 今後予想される入居者の重度化に,特別養護老人ホーム(特養)が,現在の労働力の範囲で,サービス水準の低下をきたすことなく対応できるか否か検討することを目的とした。
方法 6か所の特養で他記式1分間タイムスタディを実施し,介護職の業務を通して入居者が受けるサービスの量を計測して,要介護度別の「標準的介護時間」を算定した。全国の特養の要介護度平均入居者構成に「標準的介護時間」を乗じて算出した1施設当たりの日勤帯の総介護時間を上限として,介護報酬が最大となる要介護度別の入居者構成を試算した。試算は,入居者構成に条件を設けない試算(1)と,要介護1および要介護2の入居者がいないという条件を課した試算(2)の2つのケースについて行った。
結果 特養入居者の要介護度別に求めた「標準的介護時間」は,要介護1が23.39分,要介護2が30.12分,要介護3が49.96分,要介護4が59.05分,要介護5が71.96分であった。全国の特養の平均入居者構成に基づいて算出した1施設当たりの総介護時間は5,325分であった。試算(1)で介護報酬が最大になったのは,入居者の約半数を要介護5とし,残りの約半数を要介護2としたときであり,この場合,介護報酬は現在の全国平均より多かった。他方,試算(2)で介護報酬が最大
になったのは,要介護5をゼロとし,要介護3と要介護4を2対1の割合にしたときであったが,この場合でも介護報酬は現在の全国平均より少なかった。
考察 これらの試算結果は,現行の職員配置ではサービス水準の低下や介護職の労働強化をもたらさずに,入居者の重度化に対応するのが困難であることを示している。入居者の重度化に対応するためには,要介護度別の介護報酬の設定を実際の介護時間の長短に合った形に改め,介護職の増員によって,総介護時間の増加を図ることが不可欠である。
キーワード 特別養護老人ホーム,重度化,介護報酬,介護労働,シミュレーション

 

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第51巻第4号 2004年4月

介護者の自己効力感および介護負担感にかかわる関連要因の検討

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 宮林 郁子(ミヤバヤシ イクコ)
宮脇 美保子(ミヤワキ ミホコ) 仁科 祐子(ニシナ ユウコ)

目的 本研究は,在宅療養における介護者の自己効力感および介護負担感にかかわる要因について検討することを目的とした。
方法 4か所の訪問看護ステーションのいずれかを利用している介護者106人を対象に,自記式調査票による郵送調査を行った。調査内容は,自己効力感,介護負担感,介護期間,人間関係,介護の自信,生活満足感などである。自己効力感の測定には,坂野らの開発した「一般性セルフ・エフィカシー尺度」(16項目),介護負担感の測定には,中谷らの開発した「介護負担感スケール」(12項目)を用いた。
結果 自己効力感と介護の自信の間に有意な関連が認められた。また,介護に自信のある人ほど,家族関係に満足している傾向があった。介護負担感と年齢,介護期間,自由時間との間には有意な関連は認められなかった。関連があったものは,介護者の健康状態,生活満足感,家族関係の満足感などであった。また,介護
負担感と介護による健康への影響との間には有意な関連が認められ,介護によって健康が損なわれていると思っている人ほど介護負担を感じていた。
結論 介護に自信をもっている介護者のほうが,自己効力感が高くなっていた。看護者の立場からは,介護に対する自信がもてるようなかかわりが示唆された。
キーワード 介護者,自己効力感,介護負担感,介護継続意思,介護の自信

 

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第51巻第4号 2004年4月

ディーゼル車排出ガスとスギ花粉症

星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 川口 毅(カワグチ タケシ) 津村 智恵子(ツムラ チエコ)
山岸 善樹(ヤマギシ ヨシキ) 齊藤 祐磁(サイトウ ユウジ)

目的 スギ花粉症患者はディーゼル車排出ガス濃度の高いところにより多く居住しているかどうかを,オッズ比を用いて検討する。
対象と方法 都内6地区に居住する20歳から65歳未満の女性10,123人に調査票を郵送し,6,707人から有効回答(回収率66%)を得た。調査票の質問において,「医者から花粉症と診断された」と回答したものを症例,それ以外のものを対照とし,6地区に分けてロジスティック回帰分析を
行った。ディーゼル車排出ガスの各種指標(EC,PM2.5,SPM,NOx)を説明変数とし,年齢・花粉量調整オッズ比を求めた。説明変数は実測値をカテゴリ化しないでそのままモデルに投入する解析を行った。さらに補足的に濃度の濃いほうから10%,20%,それ以外の3カテゴリによっても解析を行った。また,ECについては4カテゴリの解析を行った。解析は地区ごとに行うものとし,6地区は,1:大田(上池台),2:大田(馬込),3:大田(山王),4:大森西,5:昭島,6:福生とした。大気汚染物質の推計は,地区内を走行する自動車から狭域モデルにより計算された大気汚染物質の予測濃度を広域の濃度分布に重ね,各地点の濃度を求めた。花粉濃度は,広域モデルによって求めた周辺地域の推定濃度を,境界条件として狭域モデルに導入し,花粉が対象地域に流入したときの,地区内でのより詳細な濃度分布を求めた。
結果 各種指標の年齢・花粉量調整オッズ比は1に近い値をとり,有意なものはなかった。
結論 花粉症患者のほうがそうでない人より,ディーゼル排ガス濃度の高いところにより多く居住しているという結果は得られなかった。
キーワード ディーゼル車排出ガス,スギ花粉症

 

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第51巻第5号 2004年5月

沖縄県と日本本土における胞状奇胎の発生頻度

前濱 俊之(マエハマ トシユキ)

目的 東アジアにおいて,台湾,フィリピン,インドネシアの胞状奇胎の頻度が日本より高いことが報告されている。この研究の目的は台湾に近い沖縄県の胞状奇胎の発生頻度を解析し,日本本土より高いかどうか比較検討することである。
方法 日本における全国的な絨毛性疾患の調査は日本産科婦人科学会が主導し,1974年に登録の実施が開始され,現在まで22の都道府県が参加している。本研究では沖縄県の1986年から1995年まで登録された絨毛性疾患の症例を検索し,人口10万人,出生1,000人に対する発生率を求めた。そして,日本本土の21の都道府県のそれと比較検討した。
結果 沖縄県において10年間で,417例の胞状奇胎が登録されている。また,同じ10年間で13,322例の胞状奇胎が21の都道府県で登録されている。人口10万人に対する胞状奇胎の発生率は日本本土より沖縄県において有意に高い(p=0.011)にもかかわらず,出生1,000人に対する発生率に有意差は認められなかった(p=0.81)。この10年間の沖縄県における胞状奇胎の頻度は徐々に減少し,1995年は出生1,000人に対し約1.5となっている。
結論 沖縄県の出生1,000人に対する胞状奇胎の発生頻度は日本本土と比較し高くないことが示された。この結果は,胞状奇胎発生に対して環境因子が人種因子より重要であるとは言えないことを示唆している。
キーワード 胞状奇胎,沖縄諸島,環境因子,人種因子

 

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第51巻第5号 2004年5月

栃木県脳卒中One Day調査の公的調査との整合性の検討

菅野 靖司(スガノ ヤスジ) 須賀 万智(スカ マチ) 杉森 裕樹(スギモリ ユウキ)
田中 利明(タナカ トシアキ) 高田 礼子(タカタ アヤコ)
吉田 勝美(ヨシダ カツミ) 中村 俊夫(ナカムラ トシオ)

目的 栃木県脳卒中One Day調査は,脳血管疾患の病院病床への負担と予後の経時的変化を明らかにすることを目的に,平成7年1月から行われている。本研究では,同One Day調査と公的調査との整合性を検討した。
対象と方法 栃木県脳卒中One Day調査は栃木県内のすべての病院(約120施設)を対象に毎年1月と8月に栃木県の委託を受け栃木県病院協会が実施している,郵送法による質問紙調査である。調査内容は,病床数,調査当日の入院患者数,入院患者のうち脳卒中患者の年齢,性別,診断名,初発/再発の別,状態,機能,予定等である。平成8年1月から平成14年1月までの計13回で,回答の得られた平均95.5施設について,病床数,脳卒中入院患者数を集計し,厚生労働
省の患者調査,同医療施設調査,栃木県脳卒中登録の値と比較した。また初発/再発別の割合についての年次推移,脳卒中登録との比較,1月と8月の比較,診断名別病床負担率についての年次推移,診断名の割合の脳卒中登録との比較,1月と8月の比較について検討を加えた。
結果と考察 13回のOne Day調査の結果,病院数は平均81.2%,病床数は平均80.4%と高い回収率が得られ,1病院当たりの平均病床数は188.2床であり,医療施設調査から求められる190.1床と近い値であった。栃木県の全病床に占める脳卒中患者の割合は平均13.1%であった。患者調査と医療施設調査から,栃木県の脳血管疾患患者の病床負担率を計算すると,平成8年10.7%,平成11年12.2%であり,一方One Day調査の結果は平成8年11.1%,平成11年13.2%と大きな
差異を認めなかった。また,One Day調査から得られた脳卒中患者数を医療施設調査の病床数で補正すると,平成8年2,483人,平成11年2,928人であり,患者調査の脳血管障害の推計入院患者数平成8年2,400人,平成11年2,700人に近い値が得られた。以上から,栃木県脳卒中OneDay調査は信頼性のおける調査と考えられた。初発/再発別の割合では初発の割合が平均62.6%であり,再発の割合が平均28.2%であった。脳卒中患者の病床負担率は増加傾向を認め,診断名の内訳は脳梗塞が69.1%,脳出血が17.9%,くも膜下出血が5.5%を占めた。One Day調査は,栃木県下の全病院を対象にした調査であり,脳卒中入院患者数の実数を把握することができ,救急医療や療養などの医療福祉資源の構築や配分を検討,計画していく上で有用性が期待される。
キーワード 脳卒中,疫学,One Day調査,病床負担,有病率

 

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第51巻第5号 2004年5月

わが国におけるDOTSの費用対効果分析

-大阪市住所不定者を1モデル集団として-
木村 もりよ(キムラ モリヨ)

目的 経済状態の悪化に伴い,結核は再興感染症として復活し,特に,住所不定者居住地区を中心とした都市部の罹患割合は高く,社会問題となっている。大阪市のあいりん地区は罹患割合535(人口10万対)とネパールに匹敵するほどである。このような地区の住所不定者における治療中断失敗割合は一般人口と比べて著しく高い。1999年,あいりん地区では病院・保健所間連携を強化した日本型DOTS(直接監視下短期治療)としてDOTSが開始され,大阪市全域に拡大しつつある。本研究では,大阪市の住所不定者,塗抹陽性初回登録患者を対象として非DOTS群とDOTS群の費用対効果分析結果を比較検討することを目的とする。
方法 1993年から1995年までの,あいりん地区塗抹陽性新登録患者529名を「非DOTS群」,2000年の大阪市住所不定者塗抹陽性新登録患者219名を「DOTS群」として費用対効果分析を行った。
結果 DOTSの導入により,治療失敗中断割合は25.7%から5.0%へ低下し,平均入院期間も5.5か月から2か月へ短縮された。失敗中断は40~49歳の年齢層で最も高く,年齢が上がるにつれて低下傾向にある。年齢調整を行った費用対効果分析では,非DOTS群に比べてDOTS群がQALY当たりの費用対効果が高かった。また,DOTS導入による1人年額約65万円,総数で約1億4000万円の費用節約が可能と計算された。分析結果は,DOTS群の中断失敗割合とDOTSの費用に対してセンシティヴであった。
結論 本研究での分析結果から,大阪市住所不定者,塗抹陽性初回登録者に対するDOTSは非DOTSよりも費用対効果が良いことが示された。この結果は,節約可能な費用をシェルター建設などの下層構造改善に役立てることにより,DOTSが結核問題の解決を促進することを提言しようとするものである。
キーワード 住所不定者の結核,DOTS,費用対効果分析

 

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第51巻第5号 2004年5月

韓国における外来看護師のバーンアウト

趙 敏廷(チョウ ミンジョン)

目的 看護師のストレスに関する先行研究を俯瞰すると,病棟看護師を対象にしたものは多いが,外来看護師に関するものは韓国においてもほとんどみられない。本研究では,外来看護師のメンタルヘルスの観点から,ストレスの典型例であるバーンアウトに焦点を置いて検討することを目的とした。
方法 韓国・ソウル市内の総合病院に勤める外来看護師に対して留置調査を行い,319人から得られた回答をもとに分析を行った。バーンアウト尺度はMBI(Maslach Burnout Inventory)を翻訳・修正した田尾・久保(1996)の尺度を用いた。
結果 因子分析の結果,いくつかの先行研究から支持を得ている「情緒的消耗感と脱人格化」,「個人的達成感の後退」の2因子が抽出された。階層的重回帰分析の結果,情緒的ネットワーク・サポート,コーピング,職務ストレッサーが「情緒的消耗感と脱人格化」,「個人的達成感の後退」へ及ぼす影響の有無について明らかになった。「情緒的消耗感と脱人格化」については,情緒的ネットワーク・サポートを構成する“仕事への支持者”とコーピングを構成する“問題回避型”“対人依頼型”,職務ストレッサーを構成する“業務遂行に関する対人関係”に有意な影響が認められた(β=-0.277,p<0.001;β=0.139,p<0.05;β=-0.145,p<0.05;β=0.264,p<0.01)。一方,「個人的達成感の後退」については,情緒的ネットワーク・サポートを構成する“仕事への支持者”とコーピングを構成する“認知操作型”“対人依頼型”,職務ストレッサーを構成する“業務遂行に関する対人関係”に有意な影響が認められた(β=-0.241,p<0.001;β=-0.132,p<0.05;β=-0.234,p<0.001;β=0.247,p<0.01)。
結論 韓国における外来看護師のバーンアウトの実態は,2~3割の者が要注意・危険領域に達していることが推察された。バーンアウトは2因子構造を示したが,より明確にする必要性が認められた。影響因として,問題回避型のコーピング,業務遂行に関する対人関係,仕事への支持者,対人依頼型コーピング,認知操作型コーピングが特定された。
キーワード 韓国,外来看護師,バーンアウト,ストレス,因子分析,階層的重回帰分析

 

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第51巻第5号 2004年5月

介護予防の経済評価に向けたデータベース作成

-高齢者の自立度別の医療・介護給付費-
吉田 裕人(ヨシダ ヒロト) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ) 熊谷 修(クマガイ シュウ)
新開 省二(シンカイ ショウジ) 干川 なつみ(センカワ ナツミ) 土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)

目的 増加を続ける老人医療費・介護給付費の削減に向けて,介護予防事業による効果が期待されている。本研究では,群馬県草津町を事例として,70歳以上高齢者の老人医療・介護給付費を自立度別に算出し,その将来推計を行い,介護予防事業の経済評価を行うためのデータベース作成を行った。
方法 群馬県草津町において,平成13年10月~11月に実施した高齢者健康調査(対象:70歳以上の全住民1,039人)の結果と,70歳以上高齢者の医療および介護保険の利用状況(平成13年10月~平成14年9月)をレコードリンケージし(個人情報保護のため,個人を特定できない形式で同町からデータを入手),総合的移動能力尺度(1=遠出可,2=近隣可,3=少しは動ける,4=あまり動けない,5=寝たり起きたり,6=寝たきり,7=入院・入所)別に老人医療・介護
給付費を算出した。次に,総合的移動能力尺度のランク1を自立,ランク2を要支援,ランク3~7を要介護者と仮に定義し,それぞれの群における老人医療費・介護給付費/人/月を,性・年齢階級別に算出した。最後に,健康調査で明らかになった性・年齢階級別の要支援および要介護者の出現率が今後とも一定と仮定して,平成12年簡易生命表をもとに推計した性・年齢階級別将来人口に掛け合わせることにより,要支援および要介護高齢者数の将来推計を行った。これらをもとにして,同町全体の老人医療・介護給付費の将来推計を行った。
結果 群馬県草津町の70歳以上高齢者における要支援および要介護者の人数割合は,それぞれ15.9%,19.6%に過ぎないが,同町の総老人医療費に占める割合は16.8%,47.0%,同介護給付費に占める割合は9.9%,85.3%であった。また,要支援・要介護高齢者の中でも障害のランクが高くなるほど,1人当たりの老人医療費と介護給付費はともに高くなっていた。老人医療費・介護給付費/人/月を性・年齢階級別にみると,男女ともに要介護へと自立度が低下することに
より,医療・介護給付費が大きく増加することが認められた。同町においては,10年後(平成23年)には,要支援および要介護者数はそれぞれ,244人(平
成13年に比べ約1.5倍),311人となり(同約1.6倍),これに伴って70歳以上の老人医療費は約11億円となり(平成13年に比べ約1.6倍),要介護者の老人医療費はその47.6%を占めると推計された。また,介護給付費は約3億円となり(同約1.6倍),要介護者の介護給付費はその85.0%を占めると推計された。
結論 自立を維持し,重篤化を先送りすることが高齢者の医療・介護コストの低減につながる可能性が示唆された。医療・介護給付費削減的な介護予防事業を実現するためには,地域で多くを占める自立した高齢者に対して生活機能の維持を働きかけるとともに,老年症候群(高齢による虚弱,転倒,痴呆,低栄養など)のハイリスク者の早期発見(スクリーニング)と早期対応が重要である。
キーワード 介護予防,経済評価,医療費,介護給付費,データベース,将来推計

 

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第51巻第6号 2004年6月

全国保健所におけるたばこ対策実施状況調査の
結果と分析 平成13年調査(第1報)

-たばこ対策の実施状況,喫煙実態調査の実施状況,保健所
職員および保健所長の喫煙状況とたばこ対策の実施状況との関連-
谷畑 健生(タニハタ タケオ) 尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)
川南 勝彦(カワミナミ カツヒコ) 黒沢 洋一(クロザワ ヨウイチ) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ)

目的 健康日本21において生活習慣病対策の一つとしてたばこ対策には重要な役割が与えられており,保健所が果たす役割は大きいと考えられる。全国の保健所を対象に昭和62年と平成3年に厚生省(当時)が,平成7~9年に国立公衆衛生院疫学部(当時)がたばこ対策実施状況調査(以下「前回の調査」)を行ったが,その後行われておらず,また健康日本21によってたばこ対策が変化していると考えられることから,全国の保健所におけるたばこ対策実施状況調査を行った。
方法 調査対象は全国592保健所(平成13年11月現在)とし,平成13年12月に自記式調査票を所長あてに郵送し,回答を求めた。督促を1回行った。回収率は94.4%(592保健所のうち559から回答)であった。
結果 (1)たばこ対策を実施した保健所は県型保健所(以下「県型」)の83%,県型以外の保健所(以下「県型以外」)の79%で前回の調査に比べて増加した。たばこ対策と喫煙実態調査を行った保健所は前回の調査に比べて増加し,県型は46%で,県型以外は33%であった。(2)たばこ対策の対象のうち最も多いものは,県型の76%が学校,県型以外の60%が地域であった。(3)保健所長の喫煙率は男22%,女3%,職員の喫煙率は男31%,女10%であった。所長の喫煙状況と保健
所のたばこ対策実施状況には関連はなかった。
結論 喫煙状況調査を行い,管内の喫煙実態を把握した上で,たばこ対策を実施している保健所は十分に多いとは言えない。保健所単独で実施できるたばこ対策は実施しているが,市町村,関連団体,事業所などとの調整,連携が必要なたばこ対策は十分に実施できていない。しかしながら保健所においてたばこ対策は劇的ではないが進みつつある。
キーワード 保健所,たばこ対策,実態調査

 

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第51巻第6号 2004年6月

2003/04年シーズンにおける
インフルエンザワクチンの需要予測

延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ) 三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 
中井 清人(ナカイ キヨヒト)

目的 インフルエンザワクチンの計画的な供給に資することを目的として,2003/04年シーズンのインフルエンザワクチンの需要予測を行った。
方法 インフルエンザワクチン供給に実績のある医療機関等5,245施設を対象として,2002/03年シーズンのインフルエンザワクチンの購入本数,使用本数,接種状況および2003/04年シーズンの接種見込人数について調査を行い,2003/04年シーズンのインフルエンザワクチン需要見込本数の推計を行った。
結果 2003/04年シーズンのインフルエンザワクチン需要は,約1244万本から約1308万本と推計された。
結論 2003/04年シーズンのワクチンメーカーの製造予定数は1445万本であり,需要に見合う量の供給が行われるものと推測された。
キーワード インフルエンザワクチン,需要予測

 

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第51巻第6号 2004年6月

居宅介護支援事業所の特性と介護保険における住宅改修

村上 浩章(ムラカミ ヒロアキ) 高木 安雄(タカギ ヤスオ) 萩原 明人(ハギハラ アキヒト)

目的 ケアマネージャーと建築事業者との連携によって,介護保険による住宅改修がどのように進められているかを把握するため,居宅介護支援事業所の特性と住宅改修に関する要因との関連を調査した。
方法 調査対象は,2003年9月時点で福岡市介護保険事業所検索システムで検索された居宅介護支援事業所(185か所)である。調査方法は,自記式質問票を用いた横断調査で,郵送法により行った。調査期間は,2003年10月9日から30日であった。調査項目は,居宅介護支援事業所の特性と住宅改修に関する要因である。居宅介護支援事業所の特性と住宅改修に関する要因との関
連をχ2検定によって検討した。
結果 有効回収率は47.0%(87事業所)であった。事業所の設立主体,所在地,規模(ケアマネージャー数)といった要因と,住宅改修に関する要因(セミナーや勉強会への参加,保険適用外分野の利用者ニーズへの対応,介護保険住宅改修費支給手続きの代行,クレーム対応等)との間に関連がみられた。さらに,ケアマネージャー1人当たりの平均改修件数が多い事業所ほど相談できる建築事業者数が多く,相見積もりを取る頻度が高かった。
結論 介護保険による住宅改修は,医療・福祉職が主であるケマネージャーにとって専門外であるにもかかわらず,ほとんどのケアマネージャーに関与の経験があり,相談できる建築事業者をもっていた。制度が始まってから日が浅いにもかかわらず,居宅介護支援事業所の規模や設立主体といった特性によって,住宅改修のプロセスで差異がみられた。本来,制度の趣旨は,住宅改修によって,利用者である要援護者やその家族に安価で質の高い住環境を提供することで
ある。今後,要援護者がたまたま利用することになった居宅介護支援事業所によって,提供さ
れる住宅改修の結果に差が生じることのないよう,行政や立法の関与が必要になると思われる。
キーワード 住宅改修,居宅介護支援事業所,ケアマネージャー,介護保険

 

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第51巻第6号 2004年6月

運動教室参加による「閉じこもり」改善効果

-精神健康度・体力との関連より-
奥野 純子(オクノ ジュンコ) 徳力 格尓(デリ ギリ) 村上 晴香(ムラカミ ハルカ)
  松田 光生(マツダ ミツオ) 久野 譜也(クノ シンヤ)

目的 「閉じこもり」は,将来,寝たきりや痴呆に発展する危険性が指摘されている。われわれの先の研究結果からも,「閉じこもり」者は精神健康度が低く,体力,特に歩行能力が低いことが示唆された。本研究では,運動教室が「閉じこもり」を解消するかどうか検討し,精神健康度・体力との関連を検討し,介護予防事業の資料とすることを目的とした。
方法 対象者は,3市町が実施する運動教室へ参加した,医師から運動を止められていない184名であった。参加者は個別プログラムを提供され,教室では筋力トレーニング,トレーニングバイクによる有酸素性運動,ストレッチングを週2回,自宅では筋力トレーニングとストレッチングを週3回実施し,ウォーキングは毎日行った。アンケート調査と文部科学省の体力テストを開始月と3か月目に実施した。血圧は教室参加時に測定し平均を求めた。アンケート項目は,
属性,外出頻度,老研式活動能力指標,精神健康度(GHQ-12),自己健康感,体力への不安であった。
結果 開始時,「閉じこもり」者は11名(6.0%),低い精神健康度の者は15名(8.2%)であった。運動開始3か月目には,約7割が「閉じこもり」を解消しており,低い精神健康度であった者も,全員,高い精神健康度に改善していた。悪化群は,改善群に比べて,男性・変形性膝関節症を治療中の者の割合が有意に高く,手すりや壁を使わず階段を昇ることができる者の割合が有意に低かった。「閉じこもり」改善群では,歩行数,体力が向上していたが,悪化群ではこれ
らの改善がみられなかった。
結論 地域高齢者が,個別プログラムに基づいた運動教室に参加することは,体力の向上・精神健康度の改善をもたらし,「閉じこもり」改善に効果があることが示唆された。さらに,男性や膝に問題のある者を対象としたプログラムを提供することも「閉じこもり」改善の対策として検討する必要があると思われた。
キーワード 閉じこもり,運動教室,体力,精神健康度,高齢者,介護予防事業

 

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第51巻第6号 2004年6月

虐待が子どもの発達に与える影響

-児童養護施設における発達検査結果の分析-
野津 牧(ノヅ マキ)

目的 本研究は,児童養護施設に入所している児童を対象に発達検査を実施することにより,不適切な養育環境で育った子ども,虐待を受けた子どもが発達面でどのような影響を受けているのかについて検証する目的で実施した。
方法 調査施設と調査期間;A児童養護施設(1996~2000年),B児童養護施設(2002年7月・2003年7月),C児童養護施設(2003年8月)。検査方法;A・B児童養護施設は新版K式発達検査,C児童養護施設は児童相談所が実施した田中ビネー式,WISC-R。対象と虐待の内訳;A児童養護施設15名,B児童養護施設36名,C児童養護施設17名。被虐待児46名,虐待以外の理由22名,計68名。虐待種別は,主たる虐待はネグレクト(保護の怠慢・拒否)32名,身体的虐待13名(各複数の虐待を含む),心理的虐待1名,性的虐待単独はなし。
結果 入所理由にかかわらず児童養護施設入所児童の発達指数は低い(平均81)。被虐待児と虐待以外の理由による入所の比較では,虐待を受けた子どもの発達指数が低い(同75:91)。また,虐待を受けた子どもは,認知面と言語面との差があるが,虐待以外の理由により入所した子どもでは差はみられなかった。虐待種別では,ネグレクト(保護の怠慢・拒否)の子どもの発達指数が低い(同71)。一定期間後に再検査した20名のうち,発達指数が10ポイント以上改善した児
童は3名で12名がほとんど変化なし,5名が10ポイント以上下がっており,養育環境が改善しても発達指数の面ではあまり改善がみられない。
結論 児童養護施設に入所している子どもの多くが発達面で影響を受けており,虐待を受けた子ども,特にネグレクトの子どもに顕著に現れている。また,情緒面で影響の大きいと思われる子どものなかに発達のバランスの悪い子どもが多くみられる。このことから,虐待を受けた子ども,不適切な養育環境のもとで育った子どもに対する援助では,発達という視点で援助に当たることが重要と思われる。
キーワード 児童養護施設,虐待,ネグレクト,発達

 

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第51巻第7号 2004年7月

福祉政策の費用・効果分析

-墨田区のショートステイを事例として-
塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ)

目的 黒田区のショートステイを取り上げ、イギリスで行われている「福祉の生産アプローチ」に基づく費用関数の推定を試み、費用対効果の観点からショートステイの有効性を検証した。
方法 墨田区に在住する介護保険の要支援・要介護の認定者を対象として2002年に実施された2回のパネル調査から得られたデータを用いて、福祉の生産アプローチに基づく分析を行った。具体的には、墨田区におけるショートステイの費用関数を重回帰式を用いて推定した。被説明変数に、要介護高齢者が利用したショートステイの費用を、説明変数に、要介護高齢者が利用したショートステイから主介護者が得る満足度の変化、その2乗、要介護者の初期のADLとその変化、主介護者の初期の健康状態とその変化を使用した。
結果 推定結果は以下のとおりである。(1)ショートステイから主介護者が得る満足度の差とショートステイの費用との間に有意に正の関係がある。(2)要介護者のADLとショートステイの費用との間には有意に負の関係がある。(3)主介護者の健康悪化とショートステイの費用との間には有意に正の関係がある。
結論 ショートステイの費用は、要介護者側の事情と主介護者側の事情の両方から影響を受けており、ショートステイへの費用投入は、主介護者の介護負担の軽減を通じて、主介護者の満足を増加させる可能性が示唆された。これによって、ショートステイの政策効果の有効性と介護サービスの政策評価に福祉の生産アプローチが有効に適用できる可能性が示された。
キーワード ショートステイ、福祉の生産アプローチ、費用・効果分析、政策評価

 

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第51巻第7号 2004年7月

健康関連QOLの向上を目指した健康づくりの展開

斉藤 功 (サイトウ イサオ) 伊南 冨士子(イナミ フジコ)
池辺 淑子(イケベ トシコ) 森脇 千夏(モリワキ チナツ)

目的 30歳以上の住民に対する悉皆調査から、健康関連QOL(クオリティー・オブ・ライフ)に関連する生活習慣等の要因を抽出し、その現状把握と今後の健康づくりの展開に資することを目的とした。
方法 大分県M町の住民基本台帳に基づく30歳以上人口3,108人(平成14年11月1日現在)のうち、入院中等を除く2,870人を調査対象とした。基本的事項(家族構成、職業)、生活習慣、食習慣、食物摂取頻度、健診受診状況、生活習慣病、ADL(日常生活動作能力)、IADL(老研式活動能力指標)、健康関連QOLに関する154項目からなる調査票を作成し、留置式アンケートを実施した(有効回答数2,695人、有効回答率93.9%)。健康関連QOLは、SF-36日本語版を用い、日常役
割機能(身体)、全体的健康感、活力、日常役割機能(精神)、心の健康の5つの下位尺度について標準化された偏差得点(基準値=50、標準偏差=10)を算出した。
結果 M町のSF-36下位尺度別の偏差得点は、男性の総数でみると、日常役割機能(身体)47.1点、全体的健康感48.2点、活力48.1点、日常役割機能(精神)48.3点、心の健康47.9点であった。女性の総数では、それぞれ46.3点、47.1点、47.3点、47.1点、47.4点であった。男女とも全国平均よりも低い得点であり、男性では65~74歳の各尺度の得点が比較的高かった。75歳以上になると、男女とも日常役割機能(身体)と日常役割機能(精神)が低下した。本調査から把握した各生活習慣等の項目と健康関連QOLとの関連を検討したところ、1)寝不足を感じている(男19.5%、女26.5%)、2)運動をほとんどしていない(男55.2%、女57.0%)、
3)多量飲酒(飲酒者のうち:男15.4%、女3.1%)、4)欠食をする(男23.6%、女16.4%)、5)20本以上の歯の喪失(男49.6%、女55.3%)、6)糖尿病治療中(男4.3%、女3.4%)、7)IADLの低下(65歳以上のうち:男14.7%、女21.8%)、を有する者の健康関連QOLが低下した。
結論 上記の7つの要因の改善へ向けた取り組みは、地域においてQOLの向上を目指した具体的な健康づくりを展開するためのキーになる。
キーワード 健康関連QOL、SF-36、地域住民、生活習慣

 

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第51巻第7号 2004年7月

「虐待」に関する保育者の意識と経験

土屋 葉(ツチヤ ヨウ) 春原 由紀(スノハラ ユキ)

目的 個々の虐待ケースに対応する保育者の意識と経験を分析し、保育者支援のあり方を探る。
対象と方法 千葉県、東京都の保育所に勤務する保育者2,000人を対象とし、両都県内の公立・私立保育所に返信用封筒を添付して質問紙を郵送、回収した。調査期間は2002年10月~12月である。
結果 約7割の保育者がなんらかの「虐待のきざし」に出会っていた。とくに「衣服や身体がいつも不潔な子ども」や「子どもに冷淡な態度で接している保護者」に多く出会っていた。一方、約4割の保育者が「虐待ケース」を担当した経験を有していた。保育者の多くは誰かに相談し、協力相手・機関を得ながら対応しており、多種多様な職種との連携もうかがわれた。通告を行った保育者は40.8%であった。通告をしなかった理由は「ほんとうに虐待なのかが判断できなかった」、「保護者と十分に話し合いをかさねて改善した」などであった。「手や足に不自然な傷が絶えない子ども」「服を脱ぐのを異常にこわがる子ども」「身体接触を
極端に嫌がる子ども」「「子どもが自分になつかない」と頻繁に口にする保護者」、「家族のなかで暴力を受けている保護者」「体罰を「しつけ」であると思っている保護者」は「虐待ケース」として認識されやすく、逆に「衣服や身体がいつも不潔な子ども」「食が細い、盗み食い、食べ過ぎなど食行動に問題をもつ子ども」「病気ではないのに身長や体重が増えない子ども」は「虐待ケース」としてみなされにくかった。「虐待ケース」に対応するなかでケース会議が開かれた
場合、保育所は他機関と連携していくことに困難を抱えていた。とくに情報共有にかかわる問題があった。
結論 「虐待」にかかわる保育者の困難は、「虐待」の発見・通告にかかわる困難、保護者・子どもへの支援にかかわる困難、他機関との連携にかかわる困難の3つがあることがわかった。これらはいわゆる虐待問題の広がりとともに、新たに設けられた保育者の役割にかかわるものである。保育者が対応していくためには、保育者を支えるための機能、保育所が他機関と連携していくためのコーディネート機能の設置が必要不可欠である。
キーワード 保育者、子ども、虐待、保育所、連携、児童相談所

 

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第51巻第7号 2004年7月

介護サービスに対する家族介護者の意識と評価に関する分析

黄 京蘭(ファン ギョンラン) 関田 康慶(セキタ ヤスヨシ)

目的 (1)介護保険導入前後における介護の社会化に関する家族介護者(以下「介護者」)の意識変化について明らかにする。(2)介護者の介護負担感軽減の程度を明らかにする。(3)介護の社会化に関する介護者の意識(「家族介護重視」「抵抗感」「世間体」)と介護負担感軽減程度の関連性を明らかにする。
方法 介護の社会化に関する介護者の意識と介護負担感軽減程度の関連性を「介護者の意識と評価DB001」データベース(2001年作成、介護者735名)を用いて分析する。分析項目は、前記の3つの介護者意識と介護負担感軽減の程度、介護者および要介護者の属性である。介護保険導入前後の意識変化を明らかにするために、導入前後の意識をクロス分析し、χ2検定を行った。また、介護者の意識と介護負担感軽減程度の関連性を明らかにするために、介護者の意識を4群(「家族中心の介護」群、「介護の社会化肯定」群、「介護の社会化肯定へ変化」群、「家族中心の介護へ変化」群)に分け、分布関数分析を行った。
結果 介護者の大部分が女性であり、65歳以上の介護者の34.8%が老老介護の状態であった。介護者の46.7%が「1日中ほとんど介護している」と回答し、重度(要介護度4、5)の要介護者を抱えている介護者も全体の5割を超えていた。介護保険のサービス利用により、介護者の意識は家族中心の介護観から介護の社会化を肯定する介護観に有意に変化していた(p<0.01)。同サービス利用により介護負担感が減ったと評価した介護者は全体の半数以上であった。介護者の意
識と介護負担感軽減程度の関連分析では、3つの介護者意識ともに、「介護の社会化肯定へ変化」群が他の群より介護負担感が減っていることが判明した。
結論 介護者が家族の絆を大切にしながら在宅介護を続けるために、介護負担を少しでも軽減することを目的としている家族介護支援事業の実施市町村の拡大や、事業対象者に対する広報活動、緊急時のショートステイ、小規模多機能施設の整備や活用などが求められる。また、従来の物理的支援に加え、精神的な支援など様々な活動を行うソーシャルサポートネットワークの地域支援情報システムの整備、活用、運営が必要であり、その拠点として在宅介護支援センターの整備や活動が重要である。ケアマネジャーには地域資源の有効な利用、地域社会との連携や統合などの機能向上が求められる。
キーワード 介護保険、介護の社会化、家族介護者、介護者意識、介護負担感、精神的支援

 

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第51巻第8号 2004年8月

医師臨床研修制度義務化に伴う地域医療への影響の検討

-福岡県メディカルセンターによる病院調査の結果から-
大河内 二郎(オオコウチ ジロウ) 堀口 裕正(ホリグチ ヒロマサ) 鍋島 史一(ナベシマ フミカズ)
佐藤 彰記(サトウ アキノリ) 横倉 義武(ヨコクラ ヨシタケ) 陣内 重三(ジンノウチ ジュウザブ)
松田 峻一良(マツダ シュンイチロウ) 伊東 清四郎(イトウ セイシロウ) 堤 康博(ツツミ ヤスヒロ)

目的 2004年4月から新医師卒後臨床研修が施行されると、研修医の病院外での勤務が制限される。福岡県メディカルセンターでは、新医師卒後研修の影響を明らかにする目的で、福岡県内の病院に対して、この新臨床研修への参加予定の有無および大学から派遣されている医師数、研修医数を調査した。この調査では、新臨床研修に参加する病院と参加しない病院の特徴や、これらの区分における大学派遣医数、研修医数を定量的に記述し、新臨床研修制度が地域医療を担
う医師数にどのような影響を与えるか推察した。
方法 福岡県の開設者別病院名簿(2003年1月現在)をもとに県内の全484病院に対し、2003年2月、郵送によるアンケート調査を行った。調査内容は、新臨床研修への参加予定状況、病院の属性、業態別(常勤、非常勤の外来、当直、日勤)の大学からの派遣医数、研修医数等であった。
結果 対象病院のうち324病院から回答を得た(回収率67%)。このうち、大学付属病院等9病院と回答に不備があった8病院を除いた307病院(県内全病院に対して63%)を用いて検討を行った。これらのうち48病院(16%)が新医師卒後臨床研修の指定を受ける予定であると回答した。これらの病院の73%は、現在臨床研修を行っているか、各種学会の臨床研修病院の指定を受けていた。回答病院における全常勤医師数は4,349人であり、このうち医科大学から派遣された医師は1,915
人(全常勤医の44%)であった。また大学から派遣された研修医は234人(同5%)であった。大学から派遣された医師に占める常勤の研修医の割合は12%であった。一方、新臨床研修の指定を受ける予定がない187病院(61%)における常勤医師数は1,339人で、このうち大学派遣医数は447人(全常勤医の33%)であった。これらの病院での大学派遣医に占める研修医の割合は、常勤6%、非常勤の外来診療8%、非常勤の当直15%、非常勤の日勤診療15%であった。
結論 研修医のアルバイトの禁止により影響を受ける医療機関は比較的少なく、新医師卒後臨床研修の実施に伴って勤務医師数が大幅に減る医療機関は例外的であると考えられた。一方、福岡県内の病院は派遣医師の多くを大学に依存していた。したがって、新卒後臨床研修の実施に伴い大学派遣医師の引き上げが起きれば、その影響は無視できないと推察された。
キーワード 医師数、研修医、卒後研修、病院、地域医療、大学病院

 

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第51巻第8号 2004年8月

国民栄養調査を用いたわが国の成人飲酒者割合、多量飲酒者割合の推計

尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 松下 幸生(マツシタ サチオ) 白坂 智信(シラサカ トモノブ)
廣 尚典(ヒロ ヒサノリ) 樋口 進(ヒグチ ススム)

目的 わが国の成人の飲酒者割合と多量飲酒者割合を、既存統計を活用して推計するために国民栄養調査の原データ(1990~1999年の10年間)を利用して解析を行った。
方法 研究に用いた資料は国民栄養調査の原データの磁気テープである。国民栄養調査のうち、保健師らが20歳以上の者を対象に問診して飲酒状況を把握した身体状況調査票に基づき飲酒者を定義した。飲酒者は、飲酒習慣があると回答した者、多量飲酒者は、飲酒量が平均3合(日本酒換算)以上の者とした。飲酒者割合等の算出には、直接法による年齢調整を実施した。基準人口には、1990(平成2)年の国勢調査確定数の総人口を用いた。
結果 国民栄養調査のデータのうち23%(1990~1999年)は飲酒習慣が不明であった。これらを除くと、1999年の年齢調整飲酒者割合は、男51%、女8%であった。1999年の多量飲酒者割合は、男7%、女0.4%であった。飲酒者割合の推計を行って以下のような問題点が指摘された。①調査の回答率が不明で調査の信頼性に問題がある、②飲酒習慣の定義が必ずしも国際的ではない、③都道府県によっては調査対象地域が1か所であるため都道府県別分析には適さない、④面接
調査であるにもかかわらず、「不明」が多い、⑤女性の多量飲酒者数が少なく詳しい解析ができない、⑥飲酒者割合が1995年に急増しており、理由がはっきりわからない、⑦地域ブロック別分析の結果が、一般常識的にみた酒どころに一致しない等であった。
結論 国民栄養調査を用いたわが国の成人飲酒者割合、多量飲酒者割合の推計には問題点が認められ、成人の飲酒者割合を明らかにするためには、それを直接目的とした全国を代表するような調査が必要であるといえる。
キーワード 飲酒、栄養調査、疫学、ライフスタイル

 

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第51巻第8号 2004年8月

家庭内暴力における暴力の双方向性と連鎖についての研究

-個人のライフコースの視点から-
山西 裕美(ヤマニシ ヒロミ) 山﨑 きよ子(ヤマサキ キヨコ)

目的 1980年代の日本では、子どもから親への暴力は家庭内暴力と呼ばれ、家庭病理現象として問題視された。しかし、今日、家庭内では、子どもから親への暴力だけでなく、ドメスティック・バイオレンスをはじめ、児童虐待・老人虐待など様々な種類の暴力が起こっていることが表面化してきた。本研究は、このような家庭内における暴力の仕組みについての解明と考察を行うことを目的とした。
方法 平成14年3月から7月にかけて、宮崎県内4市でアンケート調査を行い、家庭内暴力の被害と加害の現状などについて尋ねた。また、平成14年3月から平成15年3月の1年間にわたり、女性相談センターや市老人福祉課・在宅介護支援センター・児童養護施設などで聴き取りを行い、保護された女性や老人・児童などのケースについて検討を行った。
結果 ドメスティック・バイオレンスなど家庭内に暴力があることは、同時に子どもも暴力の対象となるだけでなく、子どもにとっては暴力の社会的学習の場となる危険性が高い。さらに、被害者である妻が、より弱者である子どもに対して、自分の受けたストレスを向けるといった“暴力の連鎖”の構造の問題がある。また、ドメスティック・バイオレンスは、年数の経過に伴って介護問題などが生じると老人虐待等の問題へ発展していくことが分かった。このように、家庭内における暴力は、個人のライフコースを通じ、色々な形態をとりながら連鎖する“暴力のスパイラル現象”を描いていくものである。
結論 現実には、家庭内で1つの問題だけが起こっているのではなく、多問題家族として問題が連鎖し、発展するという形をとっていることが判明した。しかし、現状は、老人・児童・女性に対し各機関がバラバラに対応し、情報の連携も取られてはいない。このような暴力から家族を救うためには、個人を対象とする今の支援方法から家族全体に対する支援の方法に切り替えていくべきではないかと考える。そのため、今後の課題としては、家族を対象とした相談窓口の設置が求められる。家族内で起こる様々な葛藤はどの家庭でも起こり得ることであり、このような初期の段階でのサポートによって問題の暴走を食い止めることができると思われる。
キーワード 家庭内暴力、暴力のスパイラル、暴力の連鎖、家族支援、ファミリーサポートセンター、家族保全

 

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第51巻第8号 2004年8月

在宅要介護高齢者の心身機能の変化と影響要因の検討
東京都S区のパネル調査を中心に

金 貞任(キム ジョンニム) 平岡 公一(ヒラオカ コウイチ)

目的 介護保険実施後の介護サービスを受けている在宅要介護高齢者の心身機能の程度と変化との関連や心身機能の変化に影響を与える要因を分析し、要介護高齢者の心身機能に関する課題を抽出することを目的とした。
対象と方法 2002年に東京都S区の在宅要介護高齢者を対象に訪問面接法により実施したパネル調査によって得られたデータを用いた。第1回調査の有効票は911票、パネル調査の第2回調査の有効回答は719票であり、要介護高齢者65歳以上のケース693票を分析の対象とした。分析方法として、相関関係分析とロジスティック回帰分析を用いた。
結果 ADL(日常生活動作能力)の程度が中間以上であった者はIADL(手段的日常生活動作能力)が低下しており、IADLが中間以上であった者はADLと痴呆症状が改善されていた。痴呆度が軽度であった者はADLが改善され、痴呆度が中度以上であった者はIADLが改善されていた。それらの層のなかに、改善と悪化のいずれの方向にも変化しやすい過渡的段階にある高齢者が含まれている可能性が示唆されている。また、ADL変化には、前期高齢者と訪問看護サービスの利用が有意な正の関連を示していた。IADL変化には、通所・リハビリ利用が有意な負の影響を及ぼしていた。痴呆度の変化には、短期入所の利用が有意な負の効果があった。
結論 本研究では、ADL、IADL、痴呆症状が特定の水準にある高齢者の状態を、改善と悪化の双方への変化の可能性をもつ動的な状態としてとらえることの必要性が確認された。サービス利用について、訪問看護利用を除く、他の介護サービスの利用が要介護高齢者の心身機能の変化に負の影響を及ぼしているという知見が得られた。こうした状況を踏まえ、要介護高齢者の心身機能を維持または改善できるような、新たなサービス体系の開発が今後の課題であると考えられる。
キーワード 要介護高齢者、心身機能、介護サービス、パネル調査

 

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第51巻第10号 2004年9月

全国市町村におけるたばこ対策実施状況

谷畑 健生(タニハタ タケオ) 尾崎 米厚(オサキ ヨネアツ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)
川南 勝彦(カワミナミ カツヒコ) 簑輪 眞澄(ミノワ マスミ)

目的 たばこ対策は国民の健康の保持と増進を図るための国の健康施策として重要とされている。本研究では,市町村がたばこ対策をどのように行っているのか,また,自治体が国の健康施策をどのように反映させているのかを明らかにするために,全国の市町村に対してたばこ対策実施状況調査を行った。
方法 調査対象は全国3,239の全市町村(平成14年11月1日現在)とし,平成14年11月に市町村保健衛生主管部局担当者に調査票を送付し,自記式郵送法により調査を実施した。未回答市町村への再依頼を1回行った。調査対象3,239のうち,2,723の市町村から回答を得た(回答率84.1%)。
結果 たばこ対策を実施した自治体は政令指定都市,中核市,保健所設置市に多く,市町村と特別区で少なかった。そのうち学校,職域などの対象別に行った自治体は多く,学校と地域を対象としたのは政令指定都市,中核市,保健所設置市に多かった。庁舎の分煙は十分ではなかった。また,未成年者がたばこを買いにくい環境を作っている自治体はほとんどなかった。
考察 たばこ対策は全国の市町村でまだ十分ではなかった。それは専門職の確保が困難であり,健康教育を行う適切な技術がないために健康教育を実施する上で自治体に問題がある可能性がうかがえた。このことから,現状では国の健康施策の1つであるたばこ対策は,住民の健康問題解決の方向として自治体に反映しているとはいえない可能性がある。
キーワード 市町村,たばこ対策,施策評価

 

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第51巻第10号 2004年9月

長時間保育が子どもの発達に及ぼす影響に関する追跡研究

-1歳児の5年後の発達に関連する要因に焦点をあてて-
安梅 勅江(アンメ トキエ) 田中 裕(タナカ ヒロシ) 酒井 初恵(サカイ ハツエ)
庄司 ときえ(ショウジ トキエ) 宮崎 勝宣(ミヤザキ カツノブ)
渕田 英津子(フチタ エツコ) 丸山 昭子(マルヤマ アキコ)

目的 1歳児の5年後の発達について,長時間保育を含む保育形態,育児環境,属性等の影響を明らかにする。
方法 全国認可保育園87園にて保護者と園児の担当保育専門職に質問紙調査と訪問面接調査を実施し,追跡可能であった91名を分析対象とした。
結果 5年後の子どもの発達への性別調整後の関連要因は,生活技術で相談者がいない場合にリスクが21.4倍,社会適応で相談者がいない場合にリスクが8.7倍,入園年齢が0歳の場合に0.2倍であった。全変数投入の多重ロジスティック回帰分析では,コミュニケーションで男児を1とした場合,女児のリスクは0.09倍,社会適応では入園年齢が1歳を1とした場合,0歳のリスクは0.08倍であった。5年後の子どもの発達への有意な関連要因として,保育時間はいずれの分析でも有意とならないことが示された。
結論 認可保育園という保育の質が保障された環境では,5年後の子どもの発達と社会適応に相談者の有無が有意に関連し,保育時間の長さは関連していなかった。子育て支援においては,今後さらに長時間保育を含む多様なニーズに柔軟に対応し,相談機能の充実等,保護者の子育て機能を支える地域に開かれたサービスの充実が期待される。
キーワード 発達,社会適応,長時間保育,育児環境

 

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第51巻第10号 2004年9月

累積接種率曲線導入による予防接種評価に関する研究

宮地 洋雄(ミヤジ ヒロオ) 豊田 誠(トヨタ マコト) 福田 夕紀(フクダ ユウキ)
岡林 久(オカバヤシ ヒサ) 一圓 四郎(イチエン シロウ) 横井 秀隆(ヨコイ ヒデタカ)
大野 賢次(オオノ ケンジ) 山脇 忠幸(ヤマワキ タダユキ) 山下 泉恵(ヤマシタ イズエ)

目的 予防接種累積接種率を算定するコンピュータシステムの開発により,予防接種の接種月齢から,実施方法と接種行動の関係を評価することを目的とした。
方法 市町村が利用する定期予防接種管理台帳に登録されている接種歴データから,標準接種期間終了時,各月齢での累積接種率などの接種状況を簡便に計算表示できるシステムを開発し,これにより累積接種率曲線を用いた予防接種評価の方法を検討した。
結果 疾病ごとの目標値達成度確認,早期接種の状況確認ができ,地域の実情に合わせた目標の設定や,市町村ごとの達成状況の確認が可能となった。また,累積接種率曲線を用いた予防接種評価方法として,各年齢での最終の接種率や標準接種期間終了時の接種率といった,ある特定の月齢での接種率を比較する方法と,どれだけ早い月齢での接種が増えているかといった,曲線の形状を比較する方法の2つが考えられた。
結論 モデル市町の状況では,実施方法や流行による保護者などの意識の違いにより接種率が大きく異なっていた。累積接種率曲線による予防接種評価は,市町村における現在までの実施方法の変更による接種機会の変化や通知方法,広報・啓発,地域での流行状況といったことを照らし合わせながら評価分析することが特に重要である。市町村の事業や対策により,目標時期の接種率や最適な時期での接種率などに効果があったのか,それらを今回の開発システムで視覚的に確認することができ,今後の対策をたてる上での指標とすることができる。
キーワード 予防接種,累積接種率,母子保健,健やか親子,計画,評価

 

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第51巻第10号 2004年9月

介護支援専門員に対する教育的・支持的
サポートのあり方に関する研究

-業務における悩み・困りごとに焦点を当てて-
窪田 悦子(クボタ エツコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 介護支援専門員が業務の中でどのような点で悩み困っているのか,また,どのような状況にある者が悩み・困りごとをもっているのかを明らかにし,今後のサポートにおける課題を述べることを目的とする。
方法 居宅介護支援事業所の介護支援専門員400名を調査対象として,2002年8月に自記式調査票を発送。有効回答数は269通,有効回収率は67.3%となった。調査項目は,介護支援専門員と所属機関の基本特性,さらに回答者の「仕事に対する考え」と「職場の状況・環境」を設定した。介護支援専門員の「悩み・困りごと」については,教育的側面と支持的側面から項目を設定した。
分析方法は,まず「仕事に対する考え」「職場の状況・環境」,そして「悩み・困りごと」の構造を明らかにするために,それぞれ因子分析を行った。さらに,悩み・困りごとに関連する要因を明らかにするために,各要因を独立変数,因子分析によって抽出された悩み・困りごとに関する意識の因子ごとの素得点合計を従属変数とする重回帰分析を行った。
結果 因子分析の結果,「仕事に対する考え」は『業務遂行への自信』『仕事への肯定的イメージ』『仕事の負担感』の3因子に,「仕事の状況・環境」は『職場内でのサポート』『利用者との肯定的関係』『収入の十分さ』『職場外でのサポート』『業務に対する職場理解』の5因子に分かれた。また,「悩み・困りごと」は,『対人援助職の価値観についての悩み』『コミュニケーションについての悩み』『社会資源の開発についての悩み』『困難時のサポート不足に対する悩み』『ケアプランの作成についての悩み』『制度の知識についての悩み』の6因子に分かれた。さらに重回帰分析の結果,複数の悩み・困りごとに関連する要因は,『業務遂行への自信』『仕事の負担感』『職場内でのサポート』であった。
結論 重回帰分析の結果から,業務遂行への自信,仕事の負担感,職場内でのサポートの3つの側面から介護支援専門員へのサポートを考えていく必要性が示唆された。業務遂行への自信を高めるために教育体制の整備や評価の実施が,仕事の負担感を減らすために雇用条件の整備や事務作業の簡略化が,職場内でのサポートを高めるために管理者の意識改革や連携体制の整備が必要だと考えられる。その中でも特に職場内のサポートについては,身近な今後の課題である。制度が施行されて初期の段階では行政から細かく指導された事柄も,今後は職場内で上司や先輩が新人へのアドバイスやサポート役割を担うよう期待される。地域や社会の規模で介護支援専門員へのサポート体制を整備する第一歩として,職場として彼らを支えていく体制を作っていかなければならない。
キーワード 介護保険,介護支援専門員,悩み・困りごと,教育的・支持的サポート

 

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第51巻第10号 2004年9月

保健機関が実施する母子訪問対象者の
産後うつ病全国多施設調査

鈴宮 寛子(スズミヤ ヒロコ) 山下 洋(ヤマシタ ヒロシ) 吉田 敬子(ヨシダ ケイコ)

目的 保健機関で実施されている母子訪問の対象者について,産後うつ病などのメンタルヘルスの実態を把握し,地域母子保健における精神保健対策の必要性を検討した。
方法 出産後120日以内の母親を対象とした母子訪問時に,エジンバラ産後うつ病質問紙票(以下「EPDS」),産後うつ病発症のハイリスク因子に関する質問票,赤ちゃんへの気持ち質問票および虐待のリスクに関連する追加設問に母親が自己記入した。
結果 全国12地域(38保健機関)から協力が得られ,総計3,370人が調査を完了した。全対象者中,産後うつ病スクリーニングの区分点とされているEPDSが9点以上であった母親の比率は13.9%であった。訪問時産後日数でみると,9点以上の高得点者(高得点群)の頻度は,出産後28日以内が19.2%と最も高かった。高得点群では,赤ちゃんへの気持ち質問票の全10項目中6項目で否定的な気持ちを表す母親の比率が有意に高く,ほとんどの項目は乳児への拒絶や怒りに関連していた。虐待のリスクに関する追加設問の結果は,虐待傾向を疑われた母親の割合は高得点群において3.2%で,低得点群の2倍近い頻度であった。
結論 産後うつ病を疑われるEPDS9点以上の母親は,出産後120日以内に13.9%存在し,EPDSの高得点者は産後早期ほど高い傾向にあった。EPDS高得点群では,愛着障害を示唆する赤ちゃんへの気持ち質問票得点が高く,『虐待傾向』を疑われる母親の頻度も有意に高い結果となった。保健機関のスタッフによる精神面支援の観点からは,母子訪問をより早い時期に実施することによって,母親の精神保健のニーズを早期に見いだし,時期を逃さず支援することが可能になると考えられた。
キーワード 産後うつ病,愛着障害,EPDS

 

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第51巻第11号 2004年10月

確率数理モデルを用いたSARS対策の評価

-大阪の事例の検討-
大日 康史(オオクサ ヤスシ) 菊池 宏幸(キクチ ヒロユキ)

目的 本研究では、2003年5月における台湾人医師の国内移動に伴う患者発生の可能性を、確率数理モデルを用いて検証し、公衆衛生的対応が感染抑制にどの程度貢献していたかを検討する。
方法 人口を一定とした確率モデルを用い、自然史や感染性R0は先行研究による。また、その対応として公衆衛生当局による接触者の捕捉をパラメーターとして用いて、国内での患者発生の可能性を評価する。また、公衆衛生当局が行うのは接触者の把握、健康状態の把握、前駆期、症状期の入院隔離までで、それ以上の、例えば未発症の接触者の隔離等は行わない。感応性分析として、接触者捕捉率を変化させる。なお、把握された接触者が前駆期に入った場合、および未把握の接触者が症状期に入って十分に期間が経過した場合の入院隔離率は100%とする。
結果 接触者捕捉率を日率50%、R0を3としたときの推定国内患者発生数は2.948人である。感応性分析の結果、接触者捕捉率が0%であれば3人以上の患者が発生していたであろう確率は90%以上であるが、接触者捕捉率が100%であればその確率は約10%未満まで低下する。
考察 SARSによる国内患者の発生数を0にすることはできない。これは初期段階の遅れによるところが大きい。つまり台湾人医師により国内で感染患者が発生しなかったのは、適切な公衆衛生対応の結果というよりは、むしろ偶然の産物である可能性のほうが強いと示唆される。
キーワード 感染症対策、SARS、確率数理モデル、政策評価

 

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第51巻第11号 2004年10月

勤労者の通勤時運動時間と
虚血性心疾患危険因子の関係

高田 康光(タカタ ヤスミツ)

目的 勤労者の通勤時の歩行あるいは自転車利用時間(通勤時運動時間)と虚血性心疾患危険因子の高血圧、高脂血症、糖尿病の発症率との関連を明らかにする。
方法 同一職場に属し、1998年度定期健康診断時の血圧、血清コレステロール、血糖の項目で精密検査の対象とならなかった者で、慢性疾患で治療中の者を除いた男性429名、女性61名、平均年齢50歳の計490名を5年間観察した。検査基準では、収縮期血圧160mmHg未満、拡張期血圧100mmHg未満、空腹時血清コレステロール値260mg/dl未満、空腹時血糖値110mg/dl未満、空腹時血清中性脂肪値300mg/dl未満のすべてを満たした者を対象とした。観察期間中に治療開始あるいは基準値を2回以上超えた場合を発症とした。通勤時運動時間とその他の運動習慣の頻度、飲酒、喫煙習慣、睡眠時間等の生活習慣を自己記入式問診票により調査した。通勤時運動時間が20分未満(A群:279名)、20分以上40分未満(B群:163名)、40分以上(C群:48名)の3群で、疾病発症件数、前後の健康診断結果を比較した。
結果 期間中に治療開始となった対象者は、高血圧6名、高コレステロール血症2名で、糖尿病はいなかった。検査値から発病したと判定したものは、高血圧1名、高コレステロール血症4名、糖尿病8名、境界型高血糖48名だった。疾病の81%、境界型高血糖の71%がA群に属し、通勤時運動時間とこれら虚血性心疾患危険因子となる疾患の発症率に有意な関連を認めた。健康診断結果では、BMI、血圧、血糖、血清コレステロール、肝機能検査のAST、ALT、GGTの平均値には各群間で有意差は認めなかった。しかし、AST/ALT比、GGT、BMI値は、A、B群でのみ5年後に有意な上昇を認めた。
結論 通勤時運動時間が長い群ほど高血圧、高コレステロール血症、糖尿病の発症が5年間、有意に低率だった。その機序としては、通勤時の運動がGGTの上昇で疑われる脂肪肝発症を抑制していることが考えられた。
キーワード 通勤時運動時間、生活習慣病、運動習慣、高血圧、糖尿病、高脂血症

 

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第51巻第11号 2004年10月

国民生活基礎調査における無回答データ等の
影響を考慮した調査設計に関する研究

新田 功(ニッタ イサオ)

目的 国民生活基礎調査による世帯数の推計値に無回答データが及ぼす影響を補正する方法について検討することを目的とした。
方法と結果 性別・年齢階級別人口について国民生活基礎調査の推計値と他の調査の推計値とを比較すると乖離がみられる。その原因は、国民生活基礎調査における無回答(面接不能等)世帯の増加にあると考えられ、国勢調査等との比較を行うと、国民生活基礎調査における無回答世帯が65歳未満の単独世帯、特に20歳代、30歳代の単独世帯に多いことが明らかになった。無回答世帯に起因する非標本誤差の影響を除去する方法として加重法と補完法があるが、国民生活基礎調査においては調査不能世帯の属性に関する情報が得られることから、この情報に基づいて、推計の際に用いる加重を調整する方法を検討した。数種類の加重を比較検討のうえ、世帯を、①65歳未満の単独世帯、②65歳以上の単独世帯、③2人以上世帯に区分し、それぞれのグループの回収客体数に国勢調査に基づいて決定した加重を乗じて推計値を求める方法を採用した。その結果、世帯を3種類に区分して異なる大きさの加重を乗じるこの補正方法により、国民生活基礎調査の世帯数の全国推計値の改善がみられた。
結論 国民生活基礎調査による世帯総数、単独世帯数等の推計値を実態に近づけるという点において、本研究の補正方法は有効である。しかし、この補正方法を利用する場合には、従来の方法による推計結果との接合方法等の検討が必要である。
キーワード 国民生活基礎調査、無回答、補正、加重法、世帯票、世帯数の推計

 

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第51巻第11号 2004年10月

重度身体障害者の孤独感に関する研究

―孤独感に対する社会福祉的援助の視点から―
村岡 美幸(ムラオカ ミユキ) 本名 靖(ホンナ ヤスシ)

目的 重度身体障害者の抱える孤独感を明らかにし、重度身体障害者がより充実した生活を送るために必要な、孤独感緩和へのアプローチ方法を社会福祉の視点から探究することを目的とした。
方法 1997年から2002年の間に3回、施設および在宅で生活している重度身体障害者について、自記式によるアンケート調査を実施した。対象者と実施期間は異なるものの、いずれの調査も改訂版UCLA孤独感尺度を使用して行った。また、孤独感と生活実態との関連を検討するため、日常生活の内容、日常の移動手段や外出頻度、介護者の接し方に対する満足度など、重度身体障害者の生活に日常的にかかわっていると考えられる項目を設定した。
結果 重度身体障害者の孤独感は、第一因子「自己の他者理解における孤独」、第二因子「他者の自己評価の反映における孤独」、第三因子「積極的交流のなさにおける孤独」の3因子ないし、第一因子と第二因子の2因子であることが明らかとなった。
   また、施設生活者の孤独感の要因を検討した結果、「職員の態度に対する満足度」「コール対応に対する満足度」「排泄・入浴介助に対する満足度」においては第二因子で有意な関連が認められ、「主観的健康観」「主観的外出頻度」では、第一因子と第二因子で有意な関連が認められた。
結論 孤独感へのアプローチとして、まず在宅で生活している重度身体障害者の場合には、通所サービスや外出付き添いサービス、移送サービスなどの利用による外出機会の増加を図り、他者との交流の機会をサポートしていく必要性が示唆された。次に、施設で生活している重度身体障害者の場合には、職員との直接的なかかわり(援助行為と人間関係)が利用者の孤独感を強める要因の1つとなっていることを施設職員各自が認識し、利用者1人ひとりの生活が尊重され、刺激がもたらされるような援助や介助ができるよう、現在の援助を見直していくことの重要性が示唆された。
キーワード 重度身体障害者、孤独感、社会福祉からのアプローチ、身体障害者療護施設

 

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第51巻第11号 2004年10月

出生コホート分析を用いた脳卒中罹患率の検討

―富山県脳卒中情報システム事業より―
三輪 のり子(ミワ ノリコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 富山県の1992~2000年における脳卒中全体および脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血の罹患率の現状について検討し、今後の脳卒中予防対策の基礎資料とすることを目的とした。
方法 富山県脳卒中情報システム事業の登録情報および死亡小票を利用して、1992~2000年における40歳以上の脳卒中罹患件数(明らかな再発ケースを除く)を把握した。脳卒中全体と主要病型の男女別罹患率の動向を、9年間の年齢群別罹患率、5歳年齢階級の出生コホート曲線および出生コホート間の平均罹患変化率により検討した。
結果 9年間の年齢群別罹患率は、脳卒中全体および脳梗塞・脳出血では、男女とも年齢群が上がるにつれて高くなり、特に70~74歳以上からは急激な上昇がみられた。クモ膜下出血では、女性は年齢群が上がるにつれて高くなる傾向がみられたが、男性はあまり明らかな傾向は示さなかった。9年間平均の40~84歳の罹患率(人口千対)は、脳卒中全体では男性4.0、女性2.8、脳梗塞では男性2.6、女性1.7、脳出血では男性1.0、女性0.7、クモ膜下出血では男性0.3、女性0.5であった。出生コホート別罹患率は、脳卒中全体および脳梗塞・脳出血では、男女とも1992~1998年はほとんどのコホートは加齢とともに上昇していたが、1999~2000年では一律に低下する傾向がみられた。クモ膜下出血では、全コホートに共通する傾向は認められなかった。出生コホート間の平均罹患変化率では、男女に共通して、脳卒中全体では1926~30年生まれ以前の出生コホートが、脳梗塞では1931~35年生まれ以前の出生コホートが、それぞれ直前の出生コホートに比べて有意に24~51%、17~63%減少していた。脳出血およびクモ膜下出血では、男女に共通する出生コホート間の変化は認められなかった。
結論 脳卒中全体および脳梗塞・脳出血では、加齢が罹患率の上昇に影響していた。脳卒中全体および脳梗塞では、おおよそ第2次世界大戦以前生まれのコホートにおいてそれぞれ直前コホートに比べて罹患率が有意に低下しており、世代が新しくなるにつれて罹患の少ないコホート特性に変化していると考えられた。しかし戦後生まれコホートでは、その特性に明らかな違いは認められなかった。
キーワード 脳卒中罹患率、脳卒中登録、コホート分析

 

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第51巻第13号 2004年11月

仙台市宮城野区内T地区における
独居高齢者の健康と生活実態に関する調査

鈴木 修治(スズキ シュウジ) 畑山 明美(ハタヤマ アケミ) 横田 節子(ヨコタ セツコ)
井上 知加子(イノウエ チカコ) 芳賀 博(ハガ ヒロシ)

目的 高齢化が顕著となった大都市の住宅団地において、必ずしも明確にされていない高齢者の身体状況や家庭と地域社会における生活の実態を明らかにし、高齢者の健康づくりや生活の質の向上を図る事業展開を考えるために、ひとり暮らし高齢者世帯を調査して日常生活活動や家庭および社会環境についての実態を把握することを目的とした。
対象と方法 仙台市宮城野区内の住宅団地T地区に居住している65歳以上でひとり暮らしの667名を対象に、在宅看護師12名が各世帯を戸別訪問のうえ、訪問指導記録票を用いて面接聞き取りによりアンケート調査を実施した。
結果 667名の対象者中、465名(69.7%)から回答を得た。このうち、全項目の回答者431名(64.6%)を解析対象者とした。日常生活自立度ではランクJが421名(97.7%)であった。介護の有無については411名(95.4%)が介護なしとの回答であった。主たる既往歴については高血圧症が102名(23.7%)と最も多かった。また、身体障害や何らかの自覚症状ありが、302名(70.1%)に上った。生活状況のうち社会参加については、近所付き合い、町内会活動、老人クラブ参加の順に多かったが、他方、町内会活動不参加が179名(41.5%)、近所付き合いなしが109名(25.3%)であった。居住環境では77%の人が公営住宅等の借家に居住している状況であった。
結論 仙台市内都市部に属するT地区は公営住宅が多い住宅団地であるが、この地区に居住するひとり暮らし高齢者は借家住まいが多く、何らかの疾病を有しながらも、介護を受けないでどうにか自立した生活をしている。また、社会参加では近隣との付き合いや町内会行事に参加をしている状況がみえてくるが、反面で町内会活動不参加が41.5%、近所付き合いなしが25.3%あり、地域コミュニティーネットワークの希薄化が考えられる。今後の行政施策にとっては、増加する高齢者に対して、希薄になってゆく地域コミュニティーを視野にいれながら、生きがいと心身の健康づくりの両面で高齢者の健康寿命の延伸と生活の質の向上を図るために、いかに支援していくかが課題と考えられる。
キーワード 高齢者、ひとり暮らし、身体状況、生活実態

 

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第51巻第13号 2004年11月

わが国における将来の出生・死亡低下
の長期的影響とその要因の分析

逢見 憲一(オオミ ケンイチ)

目的 わが国における少子化と高齢化の関連を知るため、将来の出生・死亡の変化が人口に与える影響の機序と要因を正確に理解することを目的とした。
方法 資料としては、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口 平成14年1月推計」を用いた。ここで推計されている人口、出生率、死亡率(生命表)を用いて、様々な前提からシミュレーションを行った。すなわち、コーホート要因法を用いて、基準年の2002年から100年後の2102年までシミュレーションを行った。
結果 出生・死亡とも2002年の水準で一定とした場合であっても、老年人口の割合は着実に増大し、2052年には34.0%に達していた。また、出生が「将来推計人口」の高位推計に従い死亡が改善しない場合でも、老年人口割合は2052年には30.2%と、総人口の30%以上が老年人口となると推計された。その一方で、出生が低位推計に従う場合、老年人口割合は、2052年に40.8%に達した後も増大を続け、2102年には44.5%となっていた。
出生、死亡という要因別に人口の変動をみると、死亡の改善による総人口の増加は601万8千人で、うち560万8千人とそのほとんどが老年人口の増加であった。出生が高位推計に従った場合、2052年には、総人口は1642万3千人増加し、2102年には2682万5千人増加していた。一方で、出生が低位推計に従った場合、総人口は、出生・死亡が一定であった場合よりも減少をしており、2052年には48万9千人、2102年には747万7千人減少していた。これは、出生変化による総人口減少が、死亡改善による総人口増加を上回った結果であった。
結論 出生・死亡とも2002年の水準で一定とした場合であっても、あるいは出生が改善した場合でさえ、老年人口の割合は21世紀中ごろまでに30%以上に増大することが示された。また、中・長期的にみると、出生の変化は、総人口の変動を通じて人口の高齢化に大きな影響を与えることが示された。「少子(・)高齢化」という場合、このような出生と死亡の関連についても、あらかじめ理解していることが必要であろう。
キーワード 少子高齢化、少子化、高齢化、人口推計、人口転換、第二の人口転換

 

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第51巻第13号 2004年11月

障害幼児の母親における情報源の利用と評価

種子田 綾(タネダ アヤ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 障害児通園施設を利用している母親を対象に、情報ニーズと情報源の利用および情報源の評価の関係を検討することを目的とした。
方法 調査は、S県とW県の障害児通園施設を利用する児の母親を対象として実施した。調査内容は、児の特性(性、年齢、療育手帳、障害者手帳)、母親の基本属性(年齢、児の数、家族構成、職業)、情報ニーズ、情報源の利用と評価で構成した。情報ニーズは、「The Family Needs Survey」のうちの情報に関連した7項目で測定した。情報源の利用と評価は、マスメディア4項目、障害児の療育にかかわりの深い専門家集団としてのパーソナルメディア5項目とそれ以外のパーソナルメディア4項目で測定した。統計解析では、情報源の評価に対する一次要因を情報源の利用、二次要因を情報ニーズとする因果モデルを仮定し、そのモデルのデータへの適合度を検討した。
結果 前記因果モデルのデータに対する適合度は、統計学的に許容される基準値を満たしていた。情報ニーズは、14点満点で平均値が12.6点(標準偏差1.9)であり、個別には、「子どもの発達に関する情報が知りたい」「将来利用できる福祉サービスに関する情報が知りたい」「子どもの障害に関する情報が知りたい」に関する、より専門的な情報ニーズの頻度が高かった。情報源の利用頻度は、専門家等のパーソナルメディア、その他のパーソナルメディア、マスメディアの順であった。また、情報源の評価は、その他のパーソナルメディア、専門家等のパーソナルメディア、マスメディアの順であった。情報源の利用と評価は密接に関連していた。
考察 専門家等のパーソナルメディアは、障害幼児の母親の情報ニーズの内容から判断すると、必ずしも十分な対応関係になく、今後、総合的かつ体系的な療育システムの一層の充実が望まれることが推察された。
キーワード 障害児、母親、情報源

 

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第51巻第13号 2004年11月

児童虐待の要因に関する研究

-乳幼児発達相談・発達訓練事業の事例対照研究-
横田 恵子(ヨコタ ケイコ) 今井 美香子(イマイ ミカコ) 吉留 慶子(ヨシドメ ケイコ)
渡辺 恵美子(ワタナベ エミコ) 桐生 康生(キリュウ ヤスオ) 樋口 和子(ヒグチ カズコ)

目的 児童虐待に関する問題が深刻化するなか、児童虐待の要因を明らかにし、今後の支援方策について検討することを目的とした。
方法 2002年度における甲府保健所の乳幼児発達相談・発達訓練事業の対象者110例から、事例群「親からの虐待が認められるかその恐れがある事例」16例と、対照群「親からの虐待が認められない事例」32例を抽出し、事例対照研究を行った。この2群について、ケース記録をもとに「児の状況」「母の状況」「家庭・家族の状況」「地域における状況」に関する合計43項目の説明変数を抽出し、オッズ比を求めるとともに、統計学的検定を行った。
結果 虐待事例の7割が男児で、年齢は3.2±1.2歳(平均±標準偏差)であり、母の年齢は、33.3±4.8歳であった。主たる虐待者は、実母が81%と最も多く、虐待の種類は、心理的虐待が50%と最も多かった。
児の状況について事例対照研究を行った結果、児の発達の遅れ、心理的問題、問題行動について有意差を認めた。母の状況については、被虐待歴、生育歴の問題、病気等の有無、妊娠・出産に関する問題、過大な育児負担、過大な育児不安、児とのかかわりの少なさ、家事能力の問題、性格的な問題について有意差を認めた。家庭・家族の状況については、経済的問題、家族の人間関係の問題、父の育児参加、親族からの孤立、他の兄弟への虐待について有意差を認めた。また、地域における状況として、近隣・友人からの孤立について有意差を認めた。
キーワード 児童虐待、要因、母親、家庭・家族、地域、事例対照研究

 

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第51巻第13号 2004年11月

国民の代表サンプルを用いた
高齢者日常生活動作の5年間の推移

早川 岳人(ハヤカワ タケヒト) 岡村 智教(オカムラ トモノリ) 上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ)
谷原 真一(タニハラ シンイチ) 岡山 明(オカヤマ アキラ)
喜多 義邦(キタ ヨシクニ) 藤田 委由(フジタ ヤスユキ)

目的 日本人の代表集団において、高齢者の5年間の日常生活動作(ADL)の推移を明らかにすることと、5年後のADL低下者数を算出できる簡易予測表の作成を試みることを目的とした。
方法 1980年に厚生省が実施した循環器疾患基礎調査の受診者のうち、1994年の時点で65歳以上の高齢者を対象として、居住地域の保健所を通じてADL追跡調査を実施した。その後、5年経過した1999年に同様のADLの追跡調査を実施し、1994年のADL区分ごとにADLの推移状況を検討するとともに、ADL低下者数を算出できる簡易予測表を作成した。
結果 断面で比較すると、1994年と1999年で生存者の各項目別のADL低下状況に大きな差はみられなかった。自立から5年の間に新たにADLが低下した者は、男性8.1%、女性13.2%であり、本集団における自立者からの5年間のADL低下の発症率は10%であった。また、自立者のうち5年間で死亡した者の割合は、男性が女性に比べ2倍高かった。1994年時のADL低下者のうち、5年後もADLが低下し続けている者の割合は、男性が女性に比べ1.5倍高かったが、1994年時のADL低下者のうち死亡した者の割合は、男性が女性に比べ1.5倍高かった。ADL低下者の5年間の死亡率は、自立者の死亡率に比べて2.5倍から3倍高かった。一方、ADL低下者のうち、約20%の者が5年間で自立状態まで回復することが明らかとなった。
本調査結果を利用し、年齢階級別にADL自立者とADL低下者の人数から、5年後のADL低下者数(要介護者数)を計算するための表(簡易予測表)を作成した。
結論 国民の代表集団の疫学資料を用いて、わが国における高齢者のADLの状況を明らかにし、さらにその5年間の推移を明らかにすることができた。本研究において、現在の年齢階級別の自立者と要介護者数から5年後の要介護者数を推計する式が作成され、今後、各市町村、都道府県における福祉保健計画の見直し等の基礎資料として活用することが可能である。
キーワード コホート研究、国民の代表集団、日常生活動作(ADL)、ADL低下者数簡易予測表、NIPPON DATA

 

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第51巻第13号 2004年11月

大都市に居住している在宅高齢者
の生きがい感に関連する要因

蘇 珍伊(ソ ジニ) 林 暁淵(イム ヒョヨン) 安 壽山(アン スサン)
岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 大都市に居住している在宅高齢者の生きがい感の現状を調査・把握し、生きがい感に影響を与えている様々な要因を明らかにすることを目的とした。
方法 (1)調査対象者は無作為抽出した大阪市A区に居住している65歳以上の高齢者1,000人であり、調査方法は、自記式質問紙を用いた郵送調査である。調査期間は、2003年2月18日~3月12日であり、有効回答率は62.7%であった。調査項目は、「基本属性」と「生きがい感」「健康感」「経済的満足感」「社会参加」「サポート受領」「サポート提供」「世代間の交流」「信仰の有無」を設定した。(2)分析方法は、まず、生きがい感の現状を把握するために、生きがい感の各項目の単純集計を行った。次に、生きがい感に関連する要因を明らかにするために、基本属性および設定した各項目を独立変数とし、生きがい感の合計得点を従属変数とする重回帰分析を行った。
結果 生きがい感の単純集計の結果、すべての項目で「かなりそう思う」と「まあまあそう思う」が半数以上を占め、肯定的な傾向がみられた。生きがい感に関連する要因を明らかにするための重回帰分析の結果、「社会参加」「世代間の交流」「サポート提供」「健康感」「経済的満足感」が高いほど、また、「年齢」が低いほど、生きがいを感じやすいことが明らかになった。なお、この重回帰モデルの決定係数は0.39であり、0.1%水準で有意であった。
結論 在宅高齢者は、社会参加、世代間の交流、サポートの提供といった人々とのかかわりの中で生きがい感を感じることが多いことがわかった。そのため、人々とのかかわりがもてるような機会の提供を通じて、高齢者の社会参加を促し、ソーシャルサポートの提供や世代間交流が活発に行えるような場の整備が必要であると考えられる。また、在宅高齢者の生きがい感を高めるためには、高齢期の経済的安定性と良好な健康状態を保持することが重要であることが明らかになった。そのためには、高齢者が安心できる年金制度の改革と高齢者に対する健康教育やヘルスプロモーションといった健康政策の充実が必要であると考えられる。
キーワード 大都市在宅高齢者、生きがい感、社会参加、ソーシャルサポート

 

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第51巻第15号 2004年12月

「医師・歯科医師・薬剤師調査」の現状に関する検討

-全保健所,全県,保健所設置市アンケート調査-
藍 真澄(アイ マスミ) 島田 直樹(シマダ ナオキ)
近藤 健文(コンドウ タケフミ) 下門 顕太郎(シモカド ケンタロウ)

目的 医師・歯科医師・薬剤師調査(以下「三師調査」)においては従来から届出漏れが生じている可能性があることが示唆されている。届出漏れの解消策を講じることが最終目標であるが,本研究では実際の調査上の問題点を明らかにする目的で,全国レベルでの実態調査を行った。
方法 平成14年の三師調査の実施直後に,日本国内582か所の全保健所に対して医師・歯科医師・薬剤師調査に関する業務の実態等についてアンケート調査を実施した。さらに,三師調査の調査票のとりまとめにおいて保健所から厚生労働省までの経路にある都道府県や保健所設置市にも同様のアンケートを実施した。
結果 アンケートの回収率(有効回答率)は保健所78%,設置市77%,都道府県94%と高値であった。本来,有資格者が自ら届け出ることになっているが,保健所に直接調査票をとりにきた有資格者は,医師,歯科医師,薬剤師の順にそれぞれ全体の0.1%,0.7%,2.4%と非常に少なかった。実際には主に保健所実務者による努力によって届出が維持されていた。また,彼らの努力によっても休職中の有資格者は把握が困難で,そこで生ずる届出漏れが大きな課題と認識されていた。さらに,届出率向上に対しては広報活動が重要であるという認識が示された。調査票の内容についても届出率に影響を与えている可能性が指摘された。
結論 保健所実務者がいかに有資格者を把握し,把握できた有資格者に調査票を提出させるかで届出率が規定される現状が明らかになった。現状の下で,届出漏れの解消策として以下の3点を提言する。第1点は広報活動として,三師調査が当該有資格者の法律で定められた義務であり,就職の有無にかかわらず届出義務があることを免許を与える時点で強調するとともに,マスメディアなどを通じた広報を行うこと。第2点は調査票の内容について,診療科目の記載について説明文を入れることや,届出義務者のプライバシーに関する項目については必要な理由等を調査票上に説明するなどの改善を図ること。第3点として実際の届出漏れ数を具体的に把握すること,すなわち,有資格者で届出がされていない対象者をある時点で国レベルで医籍などとの突合により調査することである。今後,このような改善により,届出義務者の自発的な届出が誘導されることが重要である。
キーワード 医師・歯科医師・薬剤師調査,届出率,保健所,休職者

 

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第51巻第15号 2004年12月

受療のための地域間患者移動に影響する要因の検討

寒水 孝司(ソウズ タカシ) 浜田 知久馬(ハマダ チクマ) 吉村 功(ヨシムラ イサオ)

目的 患者が受療のために地域(医療圏)間を移動する要因を,疾病,医療施設の種類(病院・一般診療所),受療の種類(入院・外来)ごとに明らかにする。
方法 平成11年患者調査データと平成11年医療施設静態調査データから,三次医療圏を単位とした患者の流入・流出割合を「疾病大分類」ごとに計算し,その中でみられた特徴的な患者移動を取り上げる。次に,取り上げた患者移動に影響する要因を,上記データ,関連する統計データ,文献,医師の見解等に基づいて検討する。最後に,得られた結果の一般性を確かめるために,平成8年の調査データについて同様の検討を行う。
結果 どの疾病においても大都市部への患者の流入割合が高いことがわかった。典型的な大都市部圏とその周辺の二次または三次医療圏について,推定流入患者数を目的変数,通勤・通学者数(平成12年国勢調査データ)を説明変数とした単回帰分析を行ったところ,2つの変数間に直線関係がみられた。これは,患者がある一定の割合で通勤・通学先の医療施設を利用しているためであると考えられる。大都市部への通勤・通学者数は多いので,結果として大都市部への患者の流入割合が高くなったと解釈できる。隣接する三次医療圏の患者を除いた流入・流出割合を調べたところ,「新生物」においては,大都市部に患者が流入する傾向がみられた。これは,大都市部に集中する高度な医療技術・設備が患者移動に影響しているためであると解釈できる。「耳及び乳様突起の疾患」の患者の流入割合がある医療圏で高いこと,「精神及び行動の障害」「神経系の疾患」「妊娠・出産に関連した疾病」の患者の流入割合が一般に高いことがわかった。これらの現象は,患者居住地と施設の距離,ドクターショッピング,里帰り出産,という要因によるものと解釈できる。
結論 疾病と地域によって多少の違いはあるが,患者が受療のために医療圏間を移動するのには,①通勤・通学,②高度な医療技術・設備の有無,③患者居住地と施設の距離,④ドクターショッピング,⑤里帰り出産,という要因が影響していると考えられた。各医療圏における患者数を利用するときには,このような要因が影響していることに注意すべきである。
キーワード 患者移動,医療圏,患者調査,医療施設静態調査,医療計画

 

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第51巻第15号 2004年12月

慢性閉塞性肺疾患死亡の性差,年齢差,地域差と年次推移

山本 真梨(ヤマモト マリ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ)
栗田 秀樹(クリタ ヒデキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) 

目的 慢性閉塞性肺疾患の死亡について,性差,年齢差,地域差と年次推移を記述するとともに,2020年までの死亡数の推計を試みた。
方法 基礎資料として,1982~2001年における性・年齢階級別の慢性閉塞性肺疾患死亡数と人口,2000年における性・都道府県別の慢性閉塞性肺疾患の年齢調整死亡率,2005・2010・2015・2020年における性・年齢階級別の将来推計人口を用いた。慢性閉塞性肺疾患について,2001年の性・年齢階級別死亡率,1982~2001年の死亡数・粗死亡率・年齢調整死亡率の推移,および2000年の性別年齢調整死亡率の都道府県分布を観察した。1982~2020年の性・年齢階級別死亡率が毎年一定倍で変化するという仮定の下で,2005・2010・2015・2020年における慢性閉塞性肺疾患の死亡数を推計した。
結果 粗死亡率(人口10万対)は男15.7,女5.3であり,年齢階級別死亡率は男女とも年齢とともに指数関数的に上昇していた。1982~2001年において,死亡数は男で2.26倍,女で1.94倍,粗死亡率は男で2.13倍,女で1.81倍と増加していたが,年齢調整死亡率は男で1.04倍,女で0.70倍であった。2000年の都道府県別年齢調整死亡率は,同年の全国値と比べて男で0.75~1.74倍,女で0.45~2.6倍であり,西日本に高い府県が多い傾向がみられた。2020年の推計死亡数は男で19,700人,女で4,800人と推計され,2001年と比べて男で約2.0倍,女で約1.5倍であった。
結論 慢性閉塞性肺疾患の死亡には,性差,年齢差と地域差が認められた。最近20年間の死亡数の推移は人口の高齢化の影響を強く受けており,また,今後20年間で死亡数は約2倍になると推計された。
キーワード 慢性閉塞性肺疾患,死亡,人口動態統計,記述疫学

 

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第51巻第15号 2004年12月

脳神経外科クライエントに対するソーシャルワークの実践

-早期介入の有用性と意義に関する一考察-
田中 希世子(タナカ キヨコ)

目的 急性期医療機関における脳神経外科入院患者やその家族をはじめとするクライエントに対するソーシャルワーク支援の主内容を明確にし,クライエントにとって有意義なソーシャルワーク方法について検討することを目的とした。
対象と方法 急性期医療機関A病院における脳神経外科入院患者を対象として,平成14年4月から平成15年12月までの21か月間に所属のソーシャルワーカーが行った退院支援の追跡調査である。本稿ではA病院のソーシャルワーカーが退院支援を行った脳神経外科入院患者36名における在院要因と退院支援経過等について分析を行った。
結果 脳神経外科入院患者に対するソーシャルワークに関する調査の分析から,「突然の発症・入院にまつわるクライエントの精神的不安」と「ソーシャルワーク介入頻度が極めて高いこと」,「在院長期化とそれに伴う生活上の諸問題の多発と多様化」との間に有意の関係が見いだされた。
結論 脳神経外科疾患は,発症後,クライエントの社会生活に重篤かつ多様な影響を長期にわたって及ぼすことが考えられ,ソーシャルワーカーは個人と社会環境との関係性に着目し,クライエントを取り巻く環境の整備,家族関係の調整,社会資源に関する情報提供,クライエントにとって有益な社会資源の活用への支援等を実施することが重要となる。このようにソーシャルワーカーはクライエントの生活を総合的にとらえる視点から,問題の解決,緩和にかかわるところに特徴があるが,充実したソーシャルワーク支援を行うため,早期かつ適時のソーシャルワーク介入が重要な課題である。
キーワード ソーシャルワーク介入の時期,心理・社会的支援,クライエント本位

 

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第51巻第15号 2004年12月

難病患者のQOLと医療・保健ニーズとの関連

小寺 さやか(コテラ サヤカ) 丹治 和美(タンジ カズミ) 渡邊 愛子(ワタナベ アイコ)
横田 昇平(ヨコタ ショウヘイ) 中村 昇(ナカムラ ノボル) 弓削 マリ子(ユゲ マリコ)

目的 難病患者の主観的QOLに影響する要因(医療・保健ニーズ)を明らかにし,地域難病ケアシステムの構築と保健所難病対策の充実を図る上での基礎資料とする。
方法 京都府中部地域の特定疾患医療受給者計665人を対象に自記記名式の郵送調査を実施した。分析対象は,回収した525人のうち川南らの開発した「難病患者に共通の主観的QOL尺度」の全項目に回答があった411人とした。
結果 主観的QOLと療養上の困難・医療の満足度との間に有意な関連が認められ,療養上の困難を抱えている者や医療に満足していない者ほど主観的QOLが低かった。
保健所難病事業との関連では,主観的QOLと医療相談や保健師等による訪問事業の利用との間に有意な関連が認められた。また,属性では,年齢,疾病群,療養場所,外出時の介助の必要性,補装具の使用,医療処置の有無と有意な関連が認められ,神経系難病患者や歩行障害等で外出が制限される者,医療処置が必要な重症難病患者で主観的QOLが低かった。
結論 主観的QOLは,療養困難を抱えている者や神経系難病患者,外出が困難な者,医療処置が必要な重症者で低く,保健所の個別支援は主観的QOLの低い者に実施されていた。今後,歩行障害をきたし重症化しやすい神経系難病を中心に難病対策の充実を図るとともに,患者のニーズに応じた地域難病ケアシステムを構築していく必要がある。
キーワード 難病,主観的QOL,医療ニーズ,保健ニーズ,地域難病ケアシステム

 

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第52巻第1号 2005年1月

既存の統計資料を用いた推計による
マクロ的医療経済効果の評価

-関節リウマチの新規治療薬導入-
須賀 万智(スカ マチ) 吉田 勝美(ヨシダ カツミ)

目的 新規治療薬を導入するにあたり,医療経済的側面からの評価は治療薬の利用可能性を表し,導入の根拠になる。国家単位の新規治療薬導入の効果を検討する場合,マクロ経済的評価が有用である。また,DALYやQALYなど質的調整変数を指標にする一方,疾患内の重症度を補正することも評価の妥当性を高めると考えられる。本研究では,関節リウマチ(RA)の新規治療薬導入による医療経済効果をマクロ経済的観点から試算した。
方法 患者調査の患者数と総務省統計局の推計人口から2000年のRA患者数を算出した。障害による損失年(YLD)は,患者数と障害度の重み付けの積により時間割引や年齢補正なしに算出した。RA患者の重症度分布の情報は,日本リウマチ財団リウマチ登録医を対象にした質問票調査から収集した。重症度別構成割合とQOLスコアの積を係数にして重症度別の患者数とYLDを算出した。厚生省研究班の推計によるYLDと国民医療費から効果単価(万円/YLD)を算出した。コクランライブラリーのメタアナリシスを参照して,アメリカリウマチ学会の評価基準による20%改善(ACR20),50%改善(ACR50),70%改善(ACR70)を指標にしたオッズ比を係数にしてレフルノミド導入によるYLDや医療費の変化を算出した。なお,レフルノミドは中等症以上が投与対象になると仮定した。
結果 レフルノミドの投与対象患者数は64,760人(20.8%)と推計された。レフルノミド導入によるYLDの減少は,ACR20を指標にしたとき3,172YLD(5.8%減),ACR50を指標にしたとき9,394YLD(17.3%減),ACR70を指標にしたとき12,469YLD(23.0%減)と推計された。全体および1患者当たりの医療費の削減は,ACR20を指標にしたとき136億円,21.0万円,ACR50を指標にしたとき403億円,62.2万円,ACR70を指標にしたとき535億円,82.6万円と推計された。感度分析の結果から,1患者当たりの医療費の削減は投与対象患者数が少ないほど大きく,上記の推計値の安定性が示された。
結論 モニタリングの費用や副作用のスクリーニングの費用などの必要経費を考慮すべきであるが,概してレフルノミド導入の経済的妥当性が示された。本研究の手法は各種疾病,各種治療法の医療経済効果をマクロ経済的観点から試算するために応用可能である。
キーワード 関節リウマチ,抗リウマチ薬,障害による損失年,医療費,費用対効果

 

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第52巻第1号 2005年1月

虚血性心疾患死亡数年次推移における
心不全死亡診断基準の改訂による影響

入野 了士(イリノ サトシ) 池上 直己(クリハラ ユキオ)

目的 虚血性心疾患死亡数の近年の年次推移は,健康日本21における高脂血症の減少目標設定における重要な根拠となっているが,1995年に実施された心不全診断基準の大きな改訂は虚血性心疾患死亡数の年次推移に影響を及ぼしている。そこで,この影響を補正した虚血性心疾患死亡数の年次推移曲線を推計することを試みた。
方法 心不全診断基準の改訂前後の虚血性心疾患死亡数と心不全死亡数との年次推移を比較することにより,改訂前に心不全死亡とされていた虚血性心疾患死亡の数を推計した。その推計値を1995年以前の虚血性心疾患死亡数に加えることにより,心不全診断基準の改訂の影響を除いた虚血性心疾患死亡数の年次推移曲線を求めた。
結果 提案した算出方法により,現在の心不全死亡診断基準を過去に適用した場合の虚血性心疾患死亡数が推測でき,一貫した死亡診断基準で虚血性心疾患死亡数の推移をみることが可能となった。
結論 推計された虚血性心疾患死亡数の年次推移曲線は緩やかな増加を示しており,健康日本21に言われている大きな増加は確認できなかった。
キーワード 高脂血症,虚血性心疾患,死亡統計,死亡年次推移,疾病予防

 

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第52巻第1号 2005年1月

「健康日本21」地方計画策定状況
に関する全国市町村調査成績

三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 萱場 一則(カヤバ カズノリ) 國澤 尚子(クニサワ ナオコ)
若林 チヒロ(ワカバヤシ チヒロ) 服部 真理子(ハットリ マリコ) 田口 孝行(タグチ タカユキ)
加藤 朋子(カトウ トモコ) 新村 洋未(シンムラ ヒロミ) 川島 美知子(カワシマ ミチコ)
坂田 清美(サカタ キヨミ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 「健康日本21」の策定から3年経過した2003年6月現在の市区町村における「健康日本21」地方計画策定状況,計画の内容,および健康づくり関連事項の現状を明らかにするために,「健康づくりに関する市区町村の現状調査」を実施した。本研究の目的は,全国の状況を各市区町村に提供し,健康づくり事業の推進に役立てることである。
方法 調査は,2003年7月現在の3,207市区町村を対象として郵送法により実施し,未回答市町村には2回の調査再依頼を行った。
結果 調査時点の地方計画策定状況は,策定済み24.3%,策定中13.6%,策定予定18.3%,策定予定なし41.5%であり,都道府県別に策定済みと策定中を合わせてみると,80%超から10%未満までと都道府県格差が認められた。策定された地方計画に含まれる分野をみると,栄養・食生活が最も多く93.2%,このほかに身体活動・運動,たばこ,心の健康,歯の健康が80%以上の高率を占めていた。また,アルコール,休養が70%台であり,循環器病,がん,糖尿病も半数以上であった。「健康日本21」の各論に取り上げられている分野のうち,栄養・食生活に関する項目,身体活動・運動に関する項目,休養・こころの健康づくりに関する項目,喫煙に関する項目,飲酒に関する項目を取り上げ,現状把握と目標値の設定状況について質問を行った結果,各分野とも基本的な項目に関しては,ほぼ60%以上の市町村で現状把握が出来ていることが示唆された。目標設定に関しても同じ項目が取り上げられていたが,その割合は現状把握と比べて,かなり低い値にとどまっていた。
結論 「健康日本21」で求められている目標値の設定に関して,管轄保健所,都道府県,公衆衛生関係の専門家などの協力を得て,できるだけ早く科学的な根拠に基づく目標値を設定すべきと考えられた。
キーワード 健康日本21,地方計画,目標値

 

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第52巻第1号 2005年1月

介護保険制度による介護資源の指標と死亡場所との関連

-高齢社会にマッチした介護保険制度による資源の充実を求めて-
定村 美紀子(サダムラ ミキコ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ)

目的 高齢者の多くは自宅での死を望みながら病院で亡くなっているという現実がある。介護保険制度が要介護状態にある高齢者の在宅ケアの推進を目的としていることを考えれば,介護保険の資源が充実すれば,死亡場所に影響を与える可能性がある。本稿は,介護給付費実態調査から介護保険制度による資源の充足状況を把握し,各都道府県における介護保険制度の資源と死亡場所との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 目的変数を各都道府県の死亡場所の割合(病院,診療所,自宅)とし,説明変数として介護保険制度による資源の指標(在宅サービス・短期入所サービス・施設入所サービス受給者数,老年人口割合,がん死亡割合,脳卒中死亡割合,一般病床数,持ち家割合,平均世帯人数)を用いた重回帰分析を行った。
結果 ①在宅サービスの資源の指標は,病院死亡割合と強い負の関連を示し,在宅サービスの資源が病院死亡を減少させる可能性があることを示唆した。また,診療所死亡とも強い正の関連があり,在宅サービスと診療所との連携が病院死亡割合を減少させる鍵となる可能性が示唆された。②短期入所に関する資源の指標は,診療所死亡と強い負の関連,自宅死亡と強い正の関連を示しており,短期入所は診療所死亡を減少させ,自宅死亡を増加させる可能性があることが示唆された。③施設入所に関する資源の指標は,病院死亡割合に影響を与えておらず,自宅死亡割合との強い負の関連が示された。
考察 介護保険による資源が死亡場所に影響を与えていることが考えられた。このことから,在宅で終末期ケアを行うためにも介護保険サービスの充実が必要であると考える。特に,在宅で医療依存度が高い者の介護を継続するために,病院や診療所の連携が必要である。また,在宅で介護を行う者を支援するためには,短期入所を利用しやすい環境を整えていくことが重要であると考える。
キーワード 介護保険,高齢者,死亡場所,終末期医療,重回帰分析

 

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第52巻第1号 2005年1月

市区町村別平均寿命の全国順位からみた
都道府県別平均寿命の解析

竹森 幸一(タケモリ コウイチ) 三上 聖治(ミカミ セイジ) 工藤 奈織美(クドウ ナオミ)

目的 各都道府県における市区町村別平均寿命の全国順位の変化から,各都道府県の平均寿命の特徴を明らかにすることを目的とした。
方法 1985年,1990年,1995年および2000年の市区町村別平均寿命を用いて2005年の市区町村別平均寿命を予測した。各年の全国市区町村の平均寿命について,平均寿命の長いものから1,2というように順位を付けた。各都道府県における市区町村の全国順位の中央値(以下「中央値」)を求め,1985年から2000年までの中央値の回帰係数(以下「回帰係数1」)と1985年から2005年までの中央値の回帰係数(以下「回帰係数2」)を計算した。回帰係数1と1985年から2000年までの都道府県別平均寿命の延び(年)との相関係数を求めた。また,回帰係数1と1985年の中央値との相関係数を求めた。
結果 回帰係数1は都道府県により異なり,男の場合,回帰係数が正で有意な都道府県は東京都,岐阜県,島根県,愛媛県,沖縄県で,負で有意な都道府県は長崎県であった。女の場合,回帰係数が正で有意な都道府県は青森県,千葉県,東京都,神奈川県で,負で有意な都道府県は富山県,広島県であった。回帰係数が正の都道府県では,はじめ順位の低い方に市区町村が集中していたが,次第に順位の高い方に移行している様子を視覚的にとらえることができた。回帰係数1と1985年から2000年までの都道府県別平均寿命の延び(年)の間に負の有意な相関がみられた。回帰係数1と1985年の中央値の間にも負の有意な相関がみられ,1985年の中央値が高い都道府県は中央値が次第に低下し,逆に1985年の中央値が低い都道府県は中央値が次第に上昇する傾向がみられた。
結論 都道府県別平均寿命の特徴をみるには平均寿命自体より市区町村別平均寿命の全国順位の中央値の変化で観察する方が,特徴をよりよく把握できることが示された。
キーワード 都道府県別平均寿命,市区町村別平均寿命,平均寿命の延び,平均寿命の全国順位,平均寿命の予測

 

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第52巻第2号 2005年2月

高齢者におけるウエスト身長比の適性と判定基準

中山 晃志(ナカヤマ テルユキ) 藤澤 洋徳(フジサワ ヒロノリ) 緒方 可奈子(オガタ カナコ)

目的 肥満指標の1つにウエスト身長比(=ウエスト周囲径╱身長,以下「WHt比」)があり,0.5が肥満の判定基準として用いられている。しかし,加齢に伴い腹筋力の低下や腹部脂肪のゆるみによるウエスト周囲径の増加は避けられず,高齢者のWHt比は若年・中年者に比べて大きくなる傾向にあると考えられるため,高齢者における肥満指標としてのWHt比の適性と判定基準について検討することを目的とした。
方法 基本健康診査の実施時に協力の得られた男性228人(うち65歳以上181人),女性421人(同290人)を対象として,回帰分析を使用した年齢によるWHt比の差異,ロジスティックモデルを使用したWHt比と肥満に関連する健診項目(収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪,血糖,HbA1c)の検査値との関連,WHt比およびBMIと各検査の要指導・要医療者出現に関するオッズ比について比較検討した。
結果 男女ともに高齢者のWHt比は若中年者よりも大きい傾向にあり,回帰分析およびロジスティックモデルの両面でWHt比0.55が肥満を判定するための1つの値として得られた。男女の血圧および女性の中性脂肪では,WHt比0.55を肥満の判定基準とした場合に有意なオッズ比が認められ,WHt比0.5を基準とした場合に男性の総コレステロールと中性脂肪で有意なオッズ比が認められた。また,男性のHDLコレステロールと女性の総コレステロールでWHt比によるオッズ比がBMIによるオッズ比よりも高かった。女性のHbA1cではBMIで有意なオッズ比が認められた。
結論 高齢者においてWHt比は血圧や血液検査の要指導・要医療の判定に対してBMIよりも敏感に反応しており,高血圧症や高脂血症といった肥満に伴う疾患へのリスク予測指標として優れていることが示唆される。しかし,性別および検査項目によって適切な肥満指標および判定基準は異なるため,WHt比とBMIの併用による保健指導や健康の自己管理が望まれる。
キーワード 高齢者,肥満,ウエスト身長比,BMI

 

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第52巻第2号 2005年2月

OECD A System of Health Accounts準拠の
国民保健計算に関する研究
(第2報)2000~2001年度の推計結果

-介護保険部分を中心に-
坂巻 弘之(サカマキ ヒロユキ) 池崎 澄江(イケザキ スミエ) 山崎 学(ヤマザキ マナブ)
速水 康紀(ハヤミズ コウキ) 井上 崇(イノウエ タカシ)

目的 経済開発協力機構(OECD)により作成された「国民保健計算National Health Account(NHA)」の推計方法である「国民保健計算の体系A System of Health Accounts(SHA)」に準拠したわが国の保健医療支出の推計を行った。特に2000年度に導入された介護保険の下での保健医療支出額の推計手法の確立を主たる目的とし,2000年,2001年度の推計を行った。
方法 SHAマニュアルに基づき,国民医療費,介護給付等の状況ならびに各種衛生関係公表資料を用いて推計を行った。
結果 2001年度の「総保健医療支出Total Expenditure on Health」の推計値は,39兆5251億円であった。このうち,「設備投資分」1兆2938億円を除いた「総経常保健医療支出」は38兆2313億円であった。この値を2001年度の国民医療費との比較でみると,国民医療費は31兆3234億円であり,総保健医療支出では約26%,総経常保健医療支出で約22%多い金額であった。
結論 国際基準に基づく国民保健計算の推計手法を確立したことにより国際比較の質についての改善が図られた。また,介護保険部分についても多次元テーブルでの推計が可能になったことで,医療行政の政策利用の可能性をより高めることができた。今後も,保健医療費支出の多岐にわたる分析を踏まえた医療制度改革の方向性を検討することが重要であり,継続的な研究が必要と考えられた。
キーワード 保健医療支出,国民保健計算,国民医療費,OECD,A System of Health Accounts(SHA),介護保険

 

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第52巻第2号 2005年2月

一保健所管内の小・中学生を対象とした喫煙行動
と関連要因に関する大規模調査研究

藤田 信(フジタ マコト)

目的 本研究は,小・中学生の喫煙行動に関する実態調査を実施し,その関連要因を明らかにして,小・中学生の喫煙対策の企画立案に資することを目的とする。
方法 静岡県A保健所管内の小学校35校,2,428名,中学校17校,2,316名に対して,無記名自記式の調査票によるアンケート調査を実施した。実施場所は学校の教室で,調査期間は,平成15年1月7日から2月17日までの間とした。回答用紙は,あらかじめ配布した封筒に回答者が封をしてクラス単位および学校単位にまとめ,郵送により回収した。
結果 小学生の非喫煙者は95.8%(男子94.7%,女子96.9%),前喫煙者は3.9%(男子4.9%,女子2.9%),時々喫煙者は0.2%(男子0.3%,女子0.2%),習慣的喫煙者は0.0%(男子0.1%,女子なし),中学生の非喫煙者は90.5%(男子87.4%,女子93.7%),前喫煙者は7.0%(男子9.1%,女子4.9%),時々喫煙者は1.4%(男子2.0%,女子0.8%),習慣的喫煙者は1.1%(男子1.5%,女子0.6%)であった。小学生,中学生ともに20歳時に自分が喫煙していると「思わない」者は「思う(かもしれない)」者より喫煙経験者率が有意に低く,喫煙の習慣性が高くなるに従って「思う(かもしれない)」者が多くなる傾向であった。また,小学生,中学生ともに初めて喫煙した時の感想が「おいしかった」「気持ちよかった」「気分スッキリ」であった者は,「吐き気がした」「苦かった」であった者と比べて喫煙の習慣性の高い者が多い傾向であった。また,喫煙による健康影響について,ほとんどの項目で男女差はなかったが,「低出生体重児」で小学生,中学生ともに女子は男子より知っている者が多い傾向であった。また,小学生,中学生ともに朝食を食べないことがある者は,いつも食べる者と比べて喫煙経験者率が有意に高く,喫煙の習慣性の高い者が多い傾向であった。
結論 ①20歳時に自分が喫煙していると思わない者には非喫煙者が多く,喫煙の習慣性が高くなるに従って,思う(かもしれない)者は多くなる傾向がある。②家庭,地域,学校の少なくとも1つが(すべてが理想であるが),子どもたちにとって楽しい場であることは,喫煙防止の一助になるのではと考えられる。③喫煙防止教育では,身近な健康影響の危険性について説明することは重要である。④生活習慣の1つである朝食摂取が身に付いていない者には喫煙経験者が多く,喫煙の習慣性の高い傾向がある。
キーワード 小・中学生,喫煙行動,質問紙調査,現在喫煙者率,食習慣,喫煙防止教育

 

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第52巻第2号 2005年2月

地方における新しい救急医療体制

-日南町方式救急自動車医師同乗システム-
細田 武伸(ホソダ タケノブ) 渡辺 勝也(ワタナベ カツヤ) 高見 徹(タカミ トオル)
谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 黒沢 洋一(クロサワ ヨウイチ) 能勢 隆之(ノセ タカユキ)

目的 本研究は,平成13年から鳥取県西部の日南町において導入した,救急自動車医師同乗システムの現状を把握し,運用方法の改善を模索するために行った。
方法 まず,本システム実施期間内(各年度5月7日~2月28日,平日13時~18時まで)の医師が同乗したケースと同乗しなかったケースの救急活動報告書により,年齢,性別,事故種別,傷病程度,傷病名(初診時),救急隊の日南病院滞在時間を調べた。病院滞在時間は,医師同乗ケースと非同乗ケースで比較した。次いで,救急救命処置記録により,同乗した医師と救急救命士の主な処置内容を調べた。最後に,急病による救急搬送者の抑制に関与していると思われる過去5年間の日南病院の訪問診療と訪問看護の件数および急病による救急搬送件数,人口を調べた。
結果 平成13年度の対象地区対象時間内の医師同乗件数は,36件中26件(72.2%)であり,平成14年度の同件数は,34件中25件(73.5%)であった。医師同乗では事故種別は,急病によるものが約半数を占めていた。傷病程度は,中等症以上の者の占める割合が,平成13年度は73.1%, 14年度は88.0%であった。65歳以上の搬送者の割合は,平成13年度53.8%,平成14年度72.0%であった。これに対し非同乗では,急病の占める割合が平成13年度は70.0%,14年度は77.8%であった。傷病程度は,中等症以上の者の占める割合が,平成13,14年度ともに100%であった。65歳以上の搬送者の割合は,平成13年度は80.0%,14年度は77.8%であった。医師同乗,非同乗時の各種指標(性,年齢,事故種別,傷病程度,収容先)をFisherの直接法で比較したが有意差はなかった。病院滞在時間中央値は,平成13年度は医師同乗あり13.0分,なし19.0分でありχ2にて5%の有意差があった。平成14年度は医師同乗あり10.0分,なし14.0分であり有意差はなかった。医師が同乗時の処置内容は,応急処置ならびに病院についてから本格的な治療行為に移行するための準備処置が多かった。訪問診療件数は,平成11年度の2,591件に比べて平成14年度は1,699件と大きく減少していた。訪問看護は,平成11年度が1,872件,平成14年度が1,409件であり,往診の減少を補ってはいなかった。往診が減少した年度は,急病による救急搬送が増加している年度もあった。
結論 医師同乗は効果があった。しかし,有意差こそなかったが医師非同乗のケースが同乗のケースより重症度が高くかつ高齢者の割合も高いため,医師同乗率をより高めることが望ましいと思われた。日南病院滞在時間は,医師同乗ケースが,非同乗ケースより短かった。客観的な評価方法を模索したが現状では見つからなかった。日南町方式の医師同乗システムは地域医療の一端であるので,日南町における地域医療全体と合せて評価する必要があると思われた。
キーワード 救急車,病院前救護体制,ドクターカー,救急救命士

 

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第52巻第2号 2005年2月

介護者における老親扶養義務感と人口学的要因の関係

東野 定律(ヒガシノ サダノリ) 桐野 匡史(キリノ マサフミ) 種子田 綾(タネダ アヤ)
矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 筒井 孝子(ツツイ タカコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 在宅要援護高齢者の介護者のデータを用い,老親扶養義務感と人口学的要因の関連性について検討する。
方法 調査に必要なデータは,S県O市に在住し,平成14年4月1日現在,要介護認定を受けた第1号被保険者5,189名の要介護高齢者のうち,協力が得られたその主介護者1,143名を調査対象に実施した「高齢者を介護する家族の健康と生活の質に関するアンケート調査」から抜粋した。抜粋した項目は,主介護者の性,年齢,介護期間,要援護高齢者との続柄,老親扶養義務感とした。主介護者の性,年齢,介護継続期間が老親扶養義務感に与える影響をMIMICモデリングで検討した。このとき,性については女性を「0」,男性を「1」とカテゴリ化し,年齢は60歳未満を「0」,60歳以上を「1」,さらに継続期間は48か月未満を「0」,48か月以上を「1」とカテゴリ化した。
結果 老親扶養義務感には,性差のみが統計学的に有意な水準で差が認められ,女性に比べて男性が老親扶養義務感の得点が高い傾向を示した。なお,老親扶養義務感の下位因子との関連では,男性は女性に比べて「経済安定のための援助」と「保健のための身体的補助」に関連する得点が高く,また年齢が高いほど「経済安定のための援助」の得点は高かった。
考察 本研究では老親扶養義務感の下位概念(因子)別に前記要因の関連性を検討したが,性差は特に「経済安定のための援助」と「保健のための身体的補助」に関連する傾向を示していた。このうちの「保健のための身体的補助」に関しては,男性の半数は伴侶としての妻の介護を行っており,男性の特性が関与しているものと推察される。また,「経済安定のための援助」の義務感が男性で高かったことは,男性の社会的役割を前提にした傾向と推察されるが,さらに年齢が高い者ほど「経済安定のための援助」に影響していたことは年代差も影響している結果と推察された。
キーワード 要援護高齢者,介護者,老親扶養義務感

 

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第52巻第4号 2005年4月

大都市部における後期高齢者の
「閉じこもり」に関連する要因

―階層的地位と家族的地位に着目して―
原田 謙(ハラダ ケン) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 杉原 陽子(スギハラ ヨウコ)
斎藤 民(サイトウ タミ) 浅川 達人(アサカワ タツト)

目的 本研究は,大都市部における後期高齢者の閉じこもりに関連する要因を明らかにすることを目的とした。
対象と方法 墨田区に居住する75歳以上の男女1,000人(二段階無作為抽出)を対象に,2001年7月に調査を行った。調査は,訪問面接法によって行い,618人から回答を得た(回収率61.8%)。閉じこもりは,外出頻度や生活の行動範囲を指標とする「空間面」,社会関係や社会参加状況を指標とする「対人関係面」,孤立感を指標とする「心理面」の3側面から定義し,2つ以上の閉じこもりが重複しているか否かを総合指標として用いた。分析は,空間面・対人関係面・心理面の閉じこもりの有無と総合指標からみた閉じこもりの有無を従属変数とし,学歴,所得,世帯構成,生活機能障害の有無,疾患の有無,視力障害の有無,聴力障害の有無,性別,年齢を独立変数として投入したロジスティック回帰分析によって行った。閉じこもりの出現率の分析は,測定指標に欠測がない577人を分析対象とし,関連要因の分析は,投入する独立変数に欠測がない557人を分析対象とした。
結果 空間面の閉じこもりに該当した者の比率は11.3%,対人関係面では23.9%,心理面では21.8%であった。総合指標(2つ以上の閉じこもりの重複)からみた閉じこもりの比率は12.3%であった。ロジスティック回帰分析の結果,空間面の閉じこもりに関連する要因は,世帯構成(無配偶・同居子あり),生活機能障害,視力障害,高齢であった。対人関係面では,低所得,世帯構成(無配偶・同居子あり),生活機能障害,性別(男性)であった。心理面では,学歴,低所得,世帯構成(単身),生活機能障害,罹患であった。総合指標では低所得,世帯構成(無配偶・同居子あり),生活機能障害,罹患であった。
結論 階層的地位に関して,低所得の者ほど,対人関係面・心理面の閉じこもり,および2つ以上の閉じこもりが重複しているリスクが高い点が確認された。家族的地位に関して,無配偶・同居子ありの者は,空間面・対人関係面の閉じこもりのリスクが高い傾向,単身者は,心理的閉じこもりのリスクが高い点が示された。本研究の結果は,外出を促すものなのか,社会参加を促進するものなのか,孤立感の解消を目指すものなのかといった,閉じこもり予防の主要な目的によって,その介入対象が異なることを示唆している。
キーワード 閉じこもり,後期高齢者,所得,世帯構成

 

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第52巻第4号 2005年4月

日本人渡航者のマラリア予防対策についての状況

川上 桂子(カワカミ ケイコ) 木村 幹男(キムラ ミキオ) 橋本 迪子(ハシモト ミチコ)
青木 和子(アオキ カズコ) 浜田 勝(ハマダ マサル) 谷畑 健生(タニハタ タケオ)

目的 日本人渡航者が,マラリアに対する基本的知識,渡航先の流行の有無,帰国後にマラリア発症を疑うときの対処方法などについて認識できているかを明らかにし,日本人渡航者にはどのようなマラリア対策が必要なのかを検討する。
方法 2001年10月末から12月中旬の期間に,東京検疫所と大阪検疫所に予防接種を受けに来所した16歳以上の日本人渡航予定者に対して,自記式質問紙票を用いた調査を行った。調査内容は,渡航歴,渡航形態,渡航頻度,マラリアに対する基本的な知識(病名・症状・感染経路・予防法)の有無,渡航先のマラリア流行状況の把握の有無とその情報源,マラリアに関する知りたい情報,帰国後風邪症状が続く場合の対処行動,帰国後マラリアが疑わしい場合の相談先の把握の有無など,計25項目とした。
結果 調査依頼数468通のうち,回収数(率)は284通(60.7%)であった。そのうち,渡航国にWHOが規定するマラリア流行地を含む248通(53%)を有効回答とした。85%の者がマラリアの感染経路を「蚊」と正解回答し,83%の者がマラリアの主な症状を「発熱」と正解回答したが,マラリアの第1の予防法について「蚊に刺されないこと」と正解を答えた者は69%であった。渡航先でのマラリア流行の有無について「知っている」と回答した者の割合は41%と少なかった。渡航先のマラリア流行の有無の情報源は,「旅行の本・雑誌・ガイドブック」が最も多く,「旅行会社」は少なかった。また,80%の者は,帰国後マラリアが疑わしいときの相談先を「知らない」と答えていた。
結論 日本人渡航者のほとんどは,マラリアの病名,感染経路,主な症状についての知識は有していた。しかし,マラリアの予防法である渡航先の流行状況についての情報の入手,マラリアが疑わしいときの対処行動および相談先など,渡航者が自分で身を守るために必要な知識,態度が不足していた。今後,⑴渡航者が自分で身を守るという意識改善を目指す効果的な啓発を行うこと,⑵旅行会社が渡航者にマラリアについての正しい情報提供を行うことと,そのための公的機関(検疫所,保健所など)による支援が行われること,⑶国内各地でのマラリアを扱う医療機関が広く認知されること,が望まれる。
キーワード 渡航者,マラリア,予防,情報提供

 

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第52巻第4号 2005年4月

介護保険サービスの給付費用増加の要因分析

-次期介護保険事業計画策定における利用者ニーズの反映-
牧野 雅光(マキノ マサミツ)

目的 介護保険サービスの給付費用は,認定率の上昇によりその費用を大幅に増加させてきたが,サービスによっては各サービスに対する利用者の選好が著しく高まった影響により,費用が増加しているケースもあると考えられる。また,サービス間の代替が各サービスの選好率に対しても影響を及ぼすと考えられる。したがって,次期介護保険事業計画の策定においては,これまで以上に利用者の意向を反映したものにする必要があり,それによって昨今介護保険特別会計が赤字になっている市町村が増えているが,それに歯止めをかけることを目的として,調査分析を行った。
方法 厚生労働省と国民健康保険中央会が公表する介護保険サービスにかかわる給付費用などのデータを用い,それを各構成要素に要因分解することで,どのサービスの寄与度が費用増加に大きく寄与していたかを比較した。また,利用したいサービスが利用できなかった場合に利用したであろう副次的なサービス需要については,サービス間の代替を各サービスの選好率の相関をみることで分析した。
結果 総じて認定率の上昇が各サービスの給付費用の増加をもたらしているものの,居宅の3サービスにおいて利用者の選好が高まったことが大きく費用増加に影響を及ぼしていた。また,3サービスのうち福祉用具貸与と痴呆対応型共同生活介護は通所系や介護保険施設から,特定施設入所者生活介護は訪問系やショートステイから,それぞれサービスの代替がある可能性が認められた。
考察 サービスによっては認定率よりも選好率の高さが費用増加に大きく寄与しており,選好率の高いサービスで介護需要の大半を担っている市町村では介護保険財政が逼迫する恐れがある。また,これらの選好率が高かったサービスは他のサービスが利用できなかった二次的な潜在需要が顕在化したものと考えられる。したがって,次期介護保険事業計画においては利用者の意向の調査に際して,直接的なサービス需要のみならず,利用したいサービスが利用できなかった場合の二次的なサービスの需要についても捕捉することが望まれる。
キーワード 介護保険,給付費用,需要,要因分析,サービス代替,介護保険事業計画

 

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第52巻第4号 2005年4月

HIV抗体検査受診者の特性についての保健所間差

渡辺 晃紀(ワタナベ テルキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 城所 敏英(キドコロ トシヒデ)
梅田 珠実(ウメダ タマミ) 長谷川 嘉春(ハセガワ ヨシハル) 田村 嘉孝(タムラ ヨシタカ)
谷原 真一(タニハラ シンイチ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 保健所で実施するHIV抗体検査受診者の特性について保健所間差を記述する。
方法 任意の協力を得た全国131保健所における検査を受診した者を調査の対象とした。調査対象期間である2001年4月~2002年3月の検査受診者14,900人のうち8,972人に調査票を配布し,5,079人から回答を得,同時期に行われたHCV抗体検査目的とされる者を除いた4,102人を解析対象とした。保健所別の解析では,解析対象者が20人以上であった56保健所を対象とした。
結果 各指標の保健所別の分布を25パーセンタイル値~75パーセンタイル値の範囲で観察すると,男の割合が55.8~67.6%,25歳未満の若年者の割合が16.7~30.3%,再受診者の割合が21.5~30.9%,不特定多数との性的接触経験者が32.3~46.0%,男性同性間性的接触経験者の割合が3.7~9.9%であった。これらの保健所別の分布は地域ブロックによって違いがみられ,設置主体によってもいくつかの指標では違いがみられた。
結論 保健所のHIV抗体検査受診者の特性は,保健所間で差が認められた。地域や保健所の特性により検査受診者の特性が異なる可能性が考えられ,それらを考慮した感染防止対策の必要性が示唆された。
キーワード HIVAIDSHIV抗体検査,保健所

 

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第52巻第4号 2005年4月

札幌市営地下鉄における投身事故の疫学

西  基(ニシ モトイ)

目的 札幌市営地下鉄で発生した投身事故に関し,疫学的な解析を行う。
方法 1994年4月1日から2004年3月31日までの10年間に札幌市営地下鉄で発生した99件の投身事故に関し,札幌市交通局がその都度報道機関へ発表したデータの提供を受け,これを解析した。
結果 1カ月を上旬・中旬・下旬に分けると,冬季休暇・春期休暇・夏季休暇明け(1月中旬,4月上旬,8月下旬)に発生頻度が有意に高まり,中2旬または中1旬おいた2月中旬,4月下旬,9月下旬に有意に低下する(件数はゼロ)という,明らかな傾向が認められた。朝の通勤・通学の時間帯(6時00分~9時59分)においては,件数は全体の24.2%を占め,かつ札幌市の中心から3㎞以上離れた駅で多かった。ターミナル駅での件数は,他の交通機関との接続のため利用客が多いにもかかわらず,有意に少なかった。1回の投身事故につき,平均16.7本の地下鉄が運休し,平均8,916.9人の利用客に影響が出た。
結論 日ごろ地下鉄を利用している者が,長期休暇が明けるなどして,通勤・通学などで地下鉄を利用しなければならない状況になって駅へ行き,衝動的に投身する場合が少なくないものと思われた。運休本数や被影響人員数から推定して,1回の投身事故で平均数千万円の経済損失が発生すると思われた。ターミナル駅での件数が少ないことについては,今回の資料のみでは合理的な説明ができず,投身者の特性などのデータにより,今後分析すべき課題と考えられた。
キーワード 疫学,時間的要素,自殺,地下鉄,投身事故

 

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第52巻第3号 2005年3月

電算システムによる標準接種年齢時点における
接種率を用いた小児予防接種事業の評価

樺澤 禮子(カバサワ レイコ) 田辺 直仁(タナベ ナオヒト) 関 奈緒(セキ ナオ)
片桐 幹雄(カタギリ ミキオ) 松井 一光(マツイ カズミツ) 古俣 修(コマタ オサム)
齋藤 君枝(サイトウ キミエ) 鈴木 宏(スズキ ヒロシ) 

目的 わが国の小児予防接種事業は,感染症の好発年齢などを考慮して標準的な接種年齢が設定されている。予防接種事業の評価に際し,標準的な接種年齢終了時点での接種率を用いる有用性を明らかにする。
対象と方法 新潟県M地区7町村における平成12 年生まれの児のうち,転入・転出者を除外した838名を対象とした。複数回接種が必要なポリオワクチン(ポリオ)と三種混合ワクチン(三混)の接種率を, マイクロソフトエクセルのワークシートで作成した接種率計算プログラムにより計算し,町村ごとの予防接種の実施方法と対比することにより予防接種事業を検 討した。その際,ポリオは満18月,三混は満12月における接種率を用いた。
結果 ポリオ2回目の接種率は65.9~89.2% と町村間に大きなばらつきがみられた。80%を超えたのは3町村のみであり,さらなる接種活動の促進が望まれた。三混3回目の接種率でも 9.3~75.0%と低く,しかも大きなばらつきがあった。9.3%と特に低かったD町では集団接種の初回が満9~13月と実施月齢に問題があった。また D町を除いた集団接種と個別接種の町村間で3回目の接種率は,集団接種町村において高く,しかも年間の実施回数が多いほど高い傾向であった。ポリオ,三混 の初回接種月齢は,標準的な接種年齢での接種完了者(ポリオ:6.0±2.2月,三混:6.2±1.9月)が非完了者(ポリオ:11.1±5.8月,三 混:11.1±3.4月)に比べて有意に低かった(p<0.001)。
結論 標準的な接種年齢終了時点でのポリオ,三混両者の接種率は低値であり,初回の接種を早く行うように保護者と接種担当者への啓発活動を行う重要性が示唆された。また,接種率による各町村での予防接種事業の評価の普及が強く望まれた。
キーワード 予防接種,接種率,予防接種台帳,ポリオワクチン,三種混合ワクチン

 

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第52巻第3号 2005年3月

勤労世代男女の死生観と終末期のケアへの期待

日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 田中 耕(タナカ タガヤス) 和田 明美(ワダ アケミ)

目的 自己の死と終末期のケア・医療環境についての勤労世代住民の意識およびそれに関連する因子を明らかにする。
方法 二段抽出法により無作為抽出した30~59歳の岐阜県岐阜地域住民1,200人に対し,死に対する意識,終末期のケアおよび医療への期待について面接調査を実施した。回答率は77.2%であった。
結果 死についてどう感じているかという質問に対し,「考えたことがない」と回答した者の割合は30 歳代では約4割であり,40歳代と50歳代では約1/4であった。臨終立会経験のある者ではその割合は低かった。予後不良の疾患の告知希望に関与する因子 として,「低年齢」「臨終立会経験」「死を恐れていないこと」「死を受け入れようと努力していること」「死について気になるが恐れていないこと」が選択さ れた。自己の死を迎える場所として約8割が自宅を希望しており,現状との大きな乖離がみられた。
結論 死を取り巻く現状を知り,自己の死についての考察を深めることによって,住民に終末期のケアに関して真剣に考えてもらうようにすることも必要と考えられた。
キーワード 終末期,死,死生観,告知

 

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