論文記事
第63巻第6号 2016年6月 認知症の人の在宅生活を支援する地域包括ケアに関する研究-地域包括支援センターの調査に基づいて-原 直子(ハラ ナオコ) 佐藤 ゆかり(サトウ ユカリ) 香川 幸次郎(カガワ コウジロウ) |
目的 認知症の人の在宅生活を支えるには,医療・介護・生活などを一体的に支援する地域包括ケアの必要性が指摘され,地域包括支援センターが中核となりその推進を目指しているが,具体的な方向性を描けていないのが現状である。そこで,認知症の人の在宅生活支援に対する具体的な方向性を提示することを目的とした。
方法 調査対象者は,兵庫県下の地域包括支援センター198カ所の職員のうち,保健師等,社会福祉士,主任介護支援専門員(以下,三職種)とした。調査期間は,2014年8月18日~同年9月4日で,自記式質問紙法を用い郵送による配布回収を行った。調査項目は,先行研究や報告書,ケアマニュアルをもとに,認知症の人の在宅生活を支えるために必要と指摘されている事項を検討し,認知症の人の在宅生活を支えるために必要な117項目をアイテムプールし,予備調査による検討を経て,60項目とした。分析方法は,職種間の差の検定をχ2検定で行い,三職種が重要と捉える認知症の人への支援内容の構造を明らかにするために,最尤法とプロマックス回転による探索的因子分析を行った。これにより,三職種が重要と捉える認知症の人への地域支援の活動内容について,構成要素と重要度を検討した。
結果 63カ所のセンター(回収率31.8%)より174人の回答が得られた。認知症の人の在宅生活を支える活動に関する職種間比較では,有意差が認められた項目は,60項目中1項目のみであった。探索的因子分析の結果では,7つの因子を抽出し,「細やかな配慮」「家族会と擁護の視点」「地域の人の理解」「多職種連携」「医療体制」「家族の理解」「相談体制」と命名した。重要性の高い順に,「家族の理解」「相談体制」「地域の人の理解」「多職種連携」「細やかな配慮」「医療体制」「家族会と擁護の視点」であった。重要性に関する順位には,有意差が認められたが,因子ごとの職種による有意な差は,どれも認めらなかった。
結論 認知症の人の在宅生活支援に重要な7つの要素を確認することができた。本人に身近な支援から広域的な支援までが構成要素として抽出され,これらを統合してケアが展開されることで,認知症の人への在宅生活支援や地域包括ケアが,実のあるものになると思料される。
キーワード 認知症,在宅生活,地域包括ケア,地域包括支援センター,因子分析
第63巻第6号 2016年6月 児童相談所で把握される自殺の実態と自死遺児支援の状況白神 敬介(シラガ ケイスケ) 竹島 正(タケシマ タダシ) 川野 健治(カワノ ケンジ)小野 善郎(オノ ヨシロウ) 藤林 武史(フジバヤシ タケシ) 川崎 二三彦(カワサキ フミヒコ) 白川 教人(シラカワ ノリヒト) 勝又 陽太郎(カツマタ ヨウタロウ) 大塚 俊弘(オオツカ トシヒロ) |
目的 児童相談所を対象に自死遺児の実態とその支援の状況を明らかにすることを目的として調査を実施した。また,自死遺児への支援において,児童相談所が認識する課題について検討を行った。
方法 全国207カ所の児童相談所を対象に調査票を配布し,平成25年度中に同居家族等に自殺既遂がみられた事例等の数,児童相談所に統合もしくは併設されている他の専門機関との組織的関連付け,児童相談所における自死遺児支援サービスの実施有無,自死遺児への支援もしくは自殺対策を行ううえでの困難について回答を求めた。
結果 160の児童相談所から回答を得た(回収率76.9%)。平成25年度中に児童相談所で把握された同居家族等の自殺を経験した児童の数は,138人であった。自死遺児支援としてのサービスを実施している児童相談所は,5.6%(9/160)であった。児童相談所において自死遺児への支援もしくは自殺対策を行う場合の困難として,最も多かった回答は「人材の確保」であった。
考察 本調査より,自死遺児あるいはその同居家族等のうちの自殺者が児童相談所において一定数把握されていることが示された。一方で,自死遺児向けのサービスを実施していると回答した児童相談所は一部に限られており,児童相談所における自死遺児支援の実施には困難が存在することが示唆された。今後,児童福祉領域における自殺リスクの高さを踏まえ,児童相談所において人材の確保や専門家養成を進めるとともに,児童福祉領域全体で自死遺児支援への共通理解を形成し,仕組み作りを行っていくことが必要であると考えられる。
キーワード 自殺,自死遺児,児童相談所,児童福祉,自殺対策,自死遺児支援
第63巻第6号 2016年6月 都市部在住の自立高齢者の社会関連性の実態と関連要因の検討紅林 奈津美(クレバヤシ ナツミ) 田髙 悦子(タダカ エツコ) 有本 梓(アリモト アズサ) |
目的 本研究は,都市部在住の自立高齢者の社会関連性の実態と関連する高齢者の個人特性と地域環境特性について明らかにすることとした。
方法 研究対象は,A政令市B区在住の65歳以上の自立高齢者であって,同区地区センターの利用者308名である。方法は,自記式無記名質問紙調査であり,調査項目は基本属性,社会関連性指標,個人特性として抑うつ,主観的健康管理能力,地域コミットメント,地域高齢者見守り自己効力感であり,地域環境特性として包括的環境要因,健康情報希求行動のための情報源の種類,住み心地である。
結果 対象者の平均年齢は73.1±5.7歳,男性41.7%,女性58.3%であり,社会関連性指標の平均点は15.3±2.7点であった。社会関連性指標の得点の高さは,基本属性では年齢が低いこと(β=-0.151,p=0.021),個人特性では主観的健康管理能力が高いこと(β=0.230,p=0.001),地域コミットメントが高いこと(β=0.156,p=0.048),地域高齢者の見守り効力感が高いこと(β=0.199,p=0.008)が有意に関連していた。また,地域環境特性では,包括的環境要因における安心安全を強く感じていること(β=0.243,p<0.001),健康情報希求行動のための情報源の種類が多いこと(β=0.299,p<0.001)が社会関連性の高さにおいて有意に関連していた。
結論 高齢者の社会関連性を高めるためには,高齢者が自身の健康への関心や,地域への関心をもてるような方策を講ずるとともに,高齢者が安心して生活を送れるための地域づくりや情報授受のあり方等を勘案することが重要である。
キーワード 高齢者,地域環境,個人特性,地域づくり,社会関連性
第63巻第5号 2016年5月 地域高齢者におけるライフスタイルと
宮原 洋八(ミヤバラ ヒロヤ) 楠 正和(クス マサカズ) 深堀 辰彦(フカホリ タツヒコ) |
目的 地域高齢者のライフスタイルと,生活機能・社会的属性などの要因との関連を明らかにすることで,サクセスフル・エイジングに対する介入研究の基礎資料とすることを目的とした。
方法 佐賀県3町自治体の呼びかけで参加した65歳以上の女性128人(平均年齢:80.1±7.8歳)を対象とした。ライフスタイルに関する22項目,生活機能に関する13項目を測定した。
結果 ライフスタイル全項目の通過率(「はい」という回答の比率)では,「ボランティア」が26.6%で最も低く,次いで「挑戦」47.7%,「美化活動」52.3%が低かった。反対に通過率が高かったのは,「健康診断」89.1%,「明るく考える」85.9%,「庭いじりなどの軽い運動」85.9%の順であった。調査した項目のうち,家族構成や転倒歴によって分けても,群間にライフスタイル得点に有意差は認められなかった。一方,年齢では,後期高齢群の社会的,心理的ライフスタイル得点が前期高齢群より有意に低い値を示した。ライフスタイル3尺度と老研式指標3尺度の偏相関では,すべての項目間で有意な相関がみられた。
結論 本研究で調査した佐賀のライフスタイル各項目の通過率は,社会的ライフスタイルでは26.6-84.4%,心理的ライフスタイルでは47.7-85.9%,身体的ライフスタイルでは53.9-89.1%であった。また,家族構成や転倒歴によって分けても,群間にライフスタイル得点に有意差は認められなかった。本研究で対象とした高齢者は,教室に自ら参加できる者であったことから比較的元気な高齢者集団と考えられる。従って家族構成や転倒歴による差が認められなかった可能性がある。ライフスタイルを調査することが高齢者の自立性の指標となり,ライフスタイル得点の高い高齢者が,サクセスフル・エイジングの獲得や維持に関連していることが示唆された。
キーワード 地域高齢者,ライフスタイル,生活機能,生活の質,サクセスフル・エイジング,コンピーテンス
第63巻第5号 2016年5月 看護職における新生児蘇生法の普及の現状と課題樋貝 繁香(ヒガイ シゲカ) 菱谷 純子(ヒシヤ スミコ)橋爪 由紀子(ハシヅメ ユキコ) 立木 歌織(タチキ カオリ) |
目的 看護職における新生児蘇生法(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation:以下,NCPR)の普及の現状を明らかにし,課題を検討することとした。
方法 平成25年5~9月に関東近県の病院や診療所26施設の看護職651名を対象とした無記名自記式質問紙調査を実施した。
結果 有効回答は242名(有効回答率37.2%)であった。施設の内訳は病院159名(65.7%),診療所83名(34.3%)であった。対象属性は助産師131名(54.1%)であった。NCPR2010年版の受講者は139名(57.4%)であり,このうち施設内での受講は73名(53.3%)であった。NCPR2010年版への更新者は10名(4.1%)に対し,未更新者は27名(11.2%)であった。産婦人科病棟での勤務の看護職は施設外での講習会受講が有意に多かった(p<0.001)。新生児蘇生法を知っていた165名で職場の勉強会をきっかけとする者が104名(63.0%)と最も多かった一方で,知らない人は77名(31.8%)であった。施設や所属領域と認知や受講の有無の関連は認めなかったが,認知と職種(χ2=13.96,p=0.01)では関連を認め,助産師の認知度が高かった。受講への要望は,受講料の助成78名(32.2%),勤務調整76名(31.4%)であった。
結論 新生児蘇生法の普及には,職場を中心とした情報提供により認知度を上げ,チーム医療の視点を持ちながら地域における講習会の開催が必要である。
キーワード 新生児蘇生法(NCPR),看護職,普及の現状,講習会
第63巻第5号 2016年5月 娘による母親の介護と義理の娘による義母の介護の比較-つくば市におけるアンケート調査結果から-桑名 温子(クワナ アツコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 森山 葉子(モリヤマ ヨウコ)堤 春菜(ツツミ ハルナ) 柏木 聖代(カシワギ マサヨ) |
目的 家族介護の状況,特に子世代による介護状況を把握することは,今後の介護政策展開の上で重要である。日本ではこれまで,介護者の続柄に焦点をあてた研究は行われてきたが,続柄を娘と義理の娘に限定し,かつ被介護者の要介護度と性別を考慮した上で介護状況を比較した研究はない。そこで,本研究では娘と義理の娘による介護に関し,被介護者の性別を女性に限定した上で,被介護者の要介護度で層別化し,介護期間,介護への考えおよび介護負担感などの状況を比較することとした。
方法 つくば市保健福祉部高齢福祉課が2011年2月に実施したアンケート調査を二次データとして分析した。サンプリングは層化抽出法により,在宅療養中の65歳以上の要支援・要介護認定者1,400名とその主介護者とした。分析対象は介護者が娘または義理の娘である165名のうち,被介護者が女性の115名とした。介護期間や介護者の心情などを比較した後,要介護2以下と要介護3以上で層別化をして同様に分析した。さらに,続柄による違いがあった要介護2以下の層において,年齢や副介護者の有無等を考慮して負担感を検討するために多変量解析を行った。
結果 要介護度で層別化すると,全体で有意差があった項目のほとんどが,要介護2以下の層においてのみ有意差があり,その項目は,娘および義理の娘において,被介護者の年齢(中央値84歳vs88歳),介護期間が3年以上(60.0%vs32.6%),経済的負担がある(22.9%vs4.3%),介護方針の決定に自分の意見が反映される(91.4%vs72.7%)などであった。加えて,住居が持家(88.2%vs100%),介護負担感が高い(31.2%vs54.8%)は,全体ではなく要介護2以下でのみ有意差があった。多変量解析の結果,要介護2以下の層では介護者の年齢,被介護者のIADL,副介護者の有無を考慮しても,義理の娘の方が娘よりも負担感が高かった(オッズ比:3.47,95%信頼区間:1.11-10.88)。
結論 娘と義理の娘という介護者の続柄の違いにより,要介護度が低い場合にのみ被介護者の年齢,介護期間,経済的負担などに違いがみられ,要介護度が高い場合には介護状況にあまり差がないこと,また,義理の娘は年齢や副介護者の有無などの交絡要因を調整しても,被介護者の要介護度が低い場合に娘より負担感が高いことが明らかになった。義理の娘が義母を介護する場合には,要介護度が低くても負担感を軽減するための支援が必要と考えられる。
キーワード 介護者,娘,義理の娘,要介護度,介護負担感,在宅介護
第63巻第5号 2016年5月 出生率の都道府県格差の分析田辺 和俊(タナベ カズトシ) 鈴木 孝弘(スズキ タカヒロ) |
目的 現在,わが国の最重要課題の1つである少子化の原因を探るため,生活環境や社会経済的要因との定量的な関係を数理統計モデルに基づいて検討する実証研究を試みた。
方法 47都道府県別の合計特殊出生率のデータを目的変数とし,人口,住居,経済,医療,福祉,教育,生活分野の68種の指標を説明変数として用い,非線形回帰分析手法の1つであるサポートベクターマシン(SVM)により解析した。さらに,それらの候補説明変数の中から感度分析法により決定要因を探索した。
結果 都道府県別の出生率について13種の指標のみを用いて,平均二乗誤差(RMSE)0.042,回帰決定係数(自由度調整済)0.875という高い精度で再現するモデルを構築できた。13種の決定要因の中では,婚姻率,男性失業率,女性管理職等の既検証要因が出生率に大きな影響を与えることを確認した。既検証の要因の他に,女性の喫煙率,デキ婚率,病床数等の決定要因も出生率に大きな影響を与えることを新たに見いだした。
結論 出生率に対する多くの決定要因について先行研究とは異なる結果が得られたが,この原因は,先行研究では限定的な少数の説明変数の中から決定要因を探索しているためであると推測される。
キーワード 少子化,合計特殊出生率,都道府県格差,決定要因分析,サポートベクターマシン
第63巻第5号 2016年5月 在宅重度要介護高齢者の
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目的 短縮版Zarit介護負担感尺度8項目(J-ZBI_8)の下位尺度であるPersonal strainとRole strainという2因子構造を用いて,要介護4以上の重度要介護高齢者を対象として,在宅介護期間別による介護者の介護負担感への関連要因を明らかにすることを目的とした。
方法 A県B市ほか2市において,社会福祉法人や社会福祉協議会が提供する在宅介護サービスを利用しながら在宅生活を継続している重度要介護高齢者とその介護者173組に,2013年7月から12月までに調査を実施した。調査内容は,重度要介護高齢者は属性,状況,居宅介護サービスの利用内容,介護者は属性,状況,意識である。分析は重度になってからの在宅介護期間を「1年未満」「1年以上から3年未満」「3年以上」に区分し,Personal strainと Role strainの2因子それぞれの合計値を従属変数とした重回帰分析を行った。
結果 居宅介護サービスの利用は,いずれの在宅介護期間においても,Personal strainとRole strainでみた介護者の介護負担感を軽減する要因とはなっていなかった。むしろ「1年未満」のPersonal strainと「1年以上から3年未満」のRole strainでは入所系サービスが,「1年以上から3年未満」のPersonal strainでは通所系サービスの利用が有意な正の相関を示し,サービスの利用が介護者の介護負担感を増大させていた。介護生活への充実感や満足感を持っていることは,「1年以上から3年未満」のみ介護者の介護負担感を軽減させていた。重度要介護高齢者との関係性の良さについては,Personal strainでは在宅介護期間に関係なく,また,Role strainは「1年以上から3年未満」で,重度要介護高齢者との関係性が良好であることが介護者の介護負担感を軽減していた。
結論 居宅介護サービスの利用が介護者の介護負担感を軽減することにつながっていないことと,重度要介護高齢者と介護者の関係が良好であることが介護者の介護負担感を軽減していることは,今後の対策を検討する上で重要であろう。今後の課題としては,本研究が横断的調査であることから,縦断的調査による分析により,介護者の介護負担感の経時的変化を検証していくことも必要である。
キーワード 重度要介護高齢者,介護負担感,介護者,Personal strain, Role strain