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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第52巻第3号 2005年3月

急性期と終末期の患者が混在する
病棟における終末期医療の問題点

佐藤 康仁(サトウ ヤスト) 有賀 悦子(アルガ エツコ) 大堀 洋子(オオホリ ヨウコ)
長井 浜江(ナガイ ハマエ) 篠 聡子(シノ サトコ) 木村 桂子(キムラ ケイコ)
猪熊 京子(イノクマ キョウコ) 東間 紘(トウマ ヒロシ) 

目的 本研究は,急性期と終末期の患者が混在する大学病院の一般病棟において,終末期医療にどのような問題が生じているのかを,医療従事者の立場から明らかにすることを目的とした。
方法 調査は,2001年12月中旬から2002年1月中旬にかけて,東京都内のA大学病院本院に勤務する全医師と全看護師を対象として行った。回収率は,医師35.3%(n=338),看護師86.8%(n=1,082)であった。
結果 医師については,「一般病棟は終末期患者が過ごす場として適切ではない(71.9%)」 「一般病棟は終末期患者の家族への配慮ができにくい(71.6%)」「終末期医療の知識・技術が不足であると感じる(68.9%)」の割合が高くなってい た。看護師については,「終末期医療の知識・技術が不足であると感じる(75.7%)」「急性期と終末期の患者が混在することによりストレスや疲労が増す (65.5%)」の割合が高くなっていた。グラフィカルモデリングの結果,医師と看護師に生じる問題点について,ほぼ同様のモデルが得られた。
結論 本研究から,大学病院の一般病棟において急性期と終末期の患者が混在することによる問題点が明らかとなった。質の高い医療の提供を実現するためには,大学病院における終末期医療について本格的な取り組みを行う必要があることが明らかとなった。
キーワード 大学病院,緩和ケア病棟,終末期医療

 

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第52巻第3号 2005年3月

医療機関における院長と事務長の意識の違い

-疾患に注目して-
真野 俊樹(マノ トシキ) 水野 智(ミズノ サトシ) 小林 慎(コバヤシ マコト)
井田 浩正(イダ コウセイ) 山内 一信(ヤマウチ カズノブ) 

目的 院長と事務長では,患者の医療機関選択についての認識に相違があるという仮説の検証を試みた。もし,認識に違いが生じていれば,患者の医療機関選択における医療情報提供に対する姿勢が異なっている可能性があり,ひいては患者の望む医療情報を提供していない可能性がある。
方法 調査対象を日本病院会会員病院(2,621施設)の事務長および院長とし,調査方法は無記名式質問紙郵送調査で行った。回収は1,090通で,回収率は21%であった。
結果(成績)  「患者さんが風邪と思われる症状の場合に何を基準に医療機関を選ぶと思われますか」という問いに有意水準5%で有意差がみられた。すなわち,患者が風邪と 思われる症状の場合では,事務長は専門性を重視したが,院長は重視しなかった。一方,「風邪」「吐血」「糖尿病の疑い」「糖尿病の診断」の各々の問いに は,院長の回答,事務長の回答ともに,「糖尿病の疑い」「糖尿病の診断」についての組み合わせを除き,x2検 定で有意差がみられた。結論風邪という軽症疾患を除いて,上述の仮説は成立していない。医療機関は必ずしも消費者が必要な情報を発信していない理由とし て,院長と事務長の認識の差であるという要因の関与は,重症疾患では,本研究の結果からは少ないといえる。しかしながら,軽症疾患,あるいは予防といった 領域では,異なった結果が出る可能性もあるので今後の研究が重要である。
キーワード 医療情報,事務長,院長,医療機関選択

 

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第52巻第3号 2005年3月

在宅要介護高齢者の主介護者における
介護負担感と心理的虐待の関連性

桐野 匡史(キリノ マサフミ) 矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 柳 漢守(ユ ハンス)
筒井 孝子(ツツイ タカコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) 

目的 高齢者虐待の早期発見あるいは予防に向けた取り組みに資することをねらいとして,在宅要介護高齢者の主介護者を対象に,彼らの介護負担感の各側面と心理的虐待の関連性を明らかにすることである。
方法 調査対象は,平成14年4月1日現在,S県O市内に居住し,かつ要介護認定を受けていた65歳以上の高齢者(第1号被保険者)の主介護者5,189名であり,そのうち,協力が得られた1,143名に対して質問紙法による調査を実施した。介護負担感の測定にはFamily Caregiver BurdenInventory(FCBI)を使用した。FCBIは, 介護負担感を「社会活動に関する制限感」「要介護高齢者に対する拒否感情」「経済的逼迫感」の3つの側面から評価する尺度である。心理的虐待の測定には, 既存の研究を参考に,著者らが独自に作成した測定尺度を使用した。この尺度は,要介護高齢者に対する「言語的攻撃」と「拒絶」の2領域計10項目で構成した。統計解析には構造方程式モデリングを使用し,介護負担感の3つの側面(因子)を独立変数,心理的虐待を従属変数とする多重指標モデルを検討した。
結果 介護負担感を測定するFCBIの3つの側面のうち,「要介護高齢者に対する拒否感情」因子と「経済的逼迫感」因子は「心理的虐待」因子と有意な関連性を示した。特に,要介護高齢者に対する拒否感情は心理的虐待と強い関連性を示した。介護負担感の3つの下位因子の「心理的虐待」因子に対する説明率は47.9%であった。
考察 本 結果から,早急に介護負担感を軽減するための対策,たとえば介護者のメンタルケアや介護状況の改善を企図した支援はもとより,虐待の早期発見・早期介入に 向けた支援体制の確立が求められる。さらに,高齢者虐待の予防・早期発見といった観点を強調するなら,単に虐待発生要因を探索するのみならず,虐待発生ま でのメカニズムをとらえるためのモデルの拡張と洗練が必要である。
キーワード 高齢者,介護負担感,心理的虐待,在宅介護,家族介護者

 

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第52巻第4号 2005年4月

株式会社等の病院経営参入問題

-開設主体による意識の相違-
堀 真奈美(ホリ マナミ) 真野 俊樹(マノ トシキ)

目的 株式会社による医療機関への経営参入が議論されるようになっているが,十分な資料に基づき議論がなされているとは言いがたい。そこで株式会社などの経営参入問題について,開設主体(「国公立・公的病院」「個人・医療法人」「その他」)による意識の相違など実態把握を目的に調査を実施した。
方法 2003年1月,日本国内病院2,621施設の院長あてに「医療機関における営利・非営利性問題」の意識を問うアンケート調査を実施し,開設主体による意識の相違の有無を検討した。
結果 (1)「総論として株式会社の病院経営」は反対が多い(64.1%)。個人・医療法人では賛成が22.9%と多く,開設主体間に有意差が認められる(p0.01)。「既存病院が株式会社化して病院経営を行う」「病院が株式を上場する」にも,個人・医療法人は他より好意的で,開設主体間に有意差がある(p0.01)。(2)「病院が株式会社化したときのメリット」として,個人・医療法人は「資金調達が容易になる」をあげ,開設主体間に有意差が認められる(p0.01)。(3)現行の医療法人制度について,国公立・公的病院は「現行のままでいい」が多い(59.1%)。個人・医療法人は「若干の手直しが必要」40.8%,「根本的な改革が必要」29.9%が多く,統計的に有意である(p0.01)。「現行のままでいい」以外の病院に対して,「他の制度がよい」「持分を廃棄すべき」「財団法人になるべき」「特定医療法人になるべき」「特別医療法人になるべき」「持分限度額法人になるべき」の是非を尋ねると,「どちらとも言えない」が多い。「他の制度がよい」以外では開設主体間の差は統計的に有意である(p0.01~0.05)。(4)カテゴリカル主成分分析により,2つの軸(「医療機関をとりまく競争環境」と「医療機関の意識と規模」)が認められる。
結論 株式会社の病院経営については,いずれの開設主体でも反対意見が多いが,個人・医療法人病院の中には,経営健全化の手段として,株式会社の病院経営や医療法人制度の改革に少なからず関心を持っているものもある。その場合でも,外部からの参入に関しては否定的である。一方,国公立・公的病院は,株式会社の病院経営に関しては否定的であるが,医療法人制度については,当事者でないためか意見が中立的である。ただし,開設主体と医療機関をとりまく競争環境・病床規模に密接な関係がみられたため,意見の相違が開設主体によるものなのかその他の要因によるものなのか厳密に区分することができず,今後の課題である。
キーワード 医療機関,株式会社等の病院経営参入,開設主体,医療法人制度,非営利性,アンケート調査

 

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第52巻第6号 2005年6月

救急搬送者の追跡調査

細田 武伸(ホソダ タケノブ) 藤田 利治(フジタ トシハル) 谷畑 健生(タニハタ タケオ)
武本 和之(タケモト カズユキ) 足立 三紀(アダチ ミキ) 亀崎 幸子(カメザキ サチコ)
小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 黒沢 洋一(クロサワ ヨウイチ) 能勢 隆之(ノセ タカユキ)

目的 本調査は,救急搬送車の救急車要請要因および傷病程度別分類(重症,中等症,軽症)と実際の傷病程度別分類の定義による入院期間の一致の割合,救急車の要請要因(一般的属性,特異的属性),救急車が有料になった場合の使用の是非等について把握することを目的として実施した。
方法 調査対象は,鳥取県広域行政管理組合消防局の救急搬送記録に記載されている鳥取県西部地区(2市12町村)で搬送された平成13年の救急搬送者6,948人から,その他(医療機関の要請による転院搬送者),死者,海外居住者,住所不定者,重複利用記録分を除外し,残った5,450人を傷病程度別に分け,系統抽出法により2分の1を抽出した,2,725人(重症474人,中等症1,080人,軽症1,171人)とした。平成14年8~9月に,郵送法による自記式無記名の質問紙調査を行った。督促を1回行った。不配達分を除いた回収率は,56.3%であった。
結果 傷病程度別分類と救急車要請要因でクロス表を作成し比較した。χ􌛌検定にて有意であった項目は,「要請するまでの時間」(p<0.05),「居住形態」(p<0.01),「年齢」「居住地区」「住居形態」「要請者」「要請手段」「要請原因」「要請理由」(いずれもp<0.001)であった。「病気の症状が発生してからまたはけがにあってから要請するまでの時間」の項目では,重症の者ほど,その時間が長い傾向があることが推測された。「搬送先医療機関希望の有無」では,56.1%の者が搬送先の医療機関を指名し搬送を希望しており,重症の者ほど,搬送先を希望する傾向があった(p<0.05)。搬送者が搬送時に区分された傷病程度別分類と分類の定義に従った実際の入院期間は,重症で21日以上入院または入院中に死亡した者は63.4%,中等症で1~20日入院した者は38.4%,軽症で実際に入院をしなかった者は65.2%であった。「有料使用の是非」では,軽症の者は14.4%が有料になったら救急車を使用しないと答えていた。
結論 現行の傷病程度別分類を用いて傷病者の増加・減少を論ずるには一考を要すると思われた。救急搬送された高齢の者は,重症でかつ予後も悪い傾向にあることが示唆された。疾病の予防や介護も含め高齢社会に対応した救急医療体制を構築することが急務と思われた。
キーワード 救急搬送車,救急車,追跡調査

 

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第52巻第6号 2005年6月

日本におけるがん生涯リスク評価

加茂 憲一(カモ ケンイチ) 金子 聰(カネコ サトシ) 吉村 公雄(ヨシムラ キミオ)
祖父江 友孝(ソブエ トモタカ)

目的 今日のがんリスクを一般国民にとってわかりやすい形で示すことは,効果的ながん対策を行うにあたって非常に重要な役割を果たすと考えられる。そのための指標の1つとして,わが国における生涯がん罹患(死亡)リスクと,年齢を限定しての累積リスクを推定した。生涯がん罹患(死亡)リスクとは,一生涯のうちにがんに罹患(死亡)する確率の推定値である。また年齢を限定しての累積リスクとは,がん未発症年齢と到達年齢を限定しての罹患(死亡)確率の推定値である。
方法 わが国における1975年から1999年のデータを用い,がんリスクを推定した。リスク推定には人口,全死亡数,がん死亡数,がん罹患数を用いた。粗罹患率,粗死亡率を用いて,がん罹患(あるいは死亡)に関する生命表を作成した。その際にリスクの過大評価を避けるために,がん以外の死亡率を組み込んだ。また最高齢の階級に対しては,人年計算による補正を行った。この生命表をもとに,生命表上でのがん罹患数(死亡数)を求め,生涯リスク,あるいは年齢を限定しての累積リスクを推定した。
結果 1999年の生涯がん罹患リスクは男性で46.3%,女性で34.8%,同年の生涯がん死亡リスクは男性で29.4%,女性で20.5%と推定された。経年的には1975年以降,罹患,死亡リスクともほぼ単調に増加し,1999年には男性で罹患リスクが1.8倍増,死亡リスクが1.6倍増となり,女性で罹患リスクが1.7倍増,死亡リスクが1.5倍増となった。部位別にみると,生涯罹患リスクは男女とも胃がんが最も高く,男性で10.5%,女性で5.6%であった。生涯死亡リスクが最も高かったのは,男性では肺がんで6.6%,女性では胃がんで3.4%であった。
考察 1999年の生涯リスクから,男性の約半分,女性の3人に1人ががんに罹患し,男性の3人に1人,女性の4人に1人ががんにより死亡することがわかる。経年的にも生涯リスクは増加しており,この指標により今日のがんリスクの高さが直感的でとらえやすい形になったと考えられる。一方で,がん未発症年齢と到達年齢を限定してのリスク表から今後のリスクの変遷を知ることができる点も,国民にとってこの指標はリスクを直感的に認識しやすいものにしたと考えられる。今後は,競合リスクやがん因子の曝露を組み込んだ「発展形」によるリスク評価が期待される。
キーワード 生涯罹患リスク,生涯死亡リスク,生命表,DEVCAN

 

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第52巻第6号 2005年6月

認知症高齢者のケアマネジメントにおける
介護支援専門員の社会保障制度の理解と活用状況

-医療職と福祉職との比較を通して-
竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 内藤 絵里(ナイトウ エリ) 馬塩 智恵子(マシオ チエコ)
宗好 祐子(ムネヨシ ユウコ) 橋本 智江(ハシモト チエ) 濱口 須美(ハマグチ スミ)
忠田 正樹(チュウダ マサキ) 堀部 徹(ホリベ トオル) 香川 幸次郎(カガワ コウジロウ)

目的 介護支援専門員の研修を企画・実施する基礎資料を得るため,認知症高齢者のケアマネジメントにおける社会保障制度の理解と活用状況について,医療職と福祉職との比較を通して,実態を明らかにすることを目的とした。
方法 調査対象者は岡山県内の指定居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員1,234名とし,郵送調査法により調査を実施した。調査内容は,属性,認知症高齢者が活用できる17の制度の活用状況,理解していない制度の有無,社会保障制度活用の能力不足感で構成した。統計解析には,各調査項目に欠損値のないものを用いた。解析方法として,医療職と福祉職の群間比較にはχ2検定を用い,社会保障制度の活用状況にはクラスター分析を用いて類型化し,コンボイモデルを用いて模式化した。
結果 回答は502名(回収率41%)から得られた。認知症高齢者のケアマネジメントにおいて,社会保障制度の活用状況では医療職と福祉職との間に有意差は認められなかったが,両職種ともに医療系サービスを利用する上で最も有効と考えられる通院医療費公費負担制度ですら理解されていないことが判明し,概して福祉職に比べて医療職は制度を理解していない傾向がみられた。また,両職種ともに多くの者が社会保障制度活用に対して能力不足を感じていることが明らかとなった。
結論 事例を通した制度活用の演習,医療職の理解度に重点を置いた制度概要の講義の実施,センターの医療ソーシャルワーカーによる助言・情報提供の体制づくりが必要であると考えられた。
キーワード 認知症高齢者,ケアマネジメント,社会保障制

 

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第52巻第6号 2005年6月

虚血性心疾患の男性入院患者における
退院後の喫煙行動とその関連要因

蓮尾 聖子(ハスオ セイコ) 田中 英夫(タナカ ヒデオ) 脇坂 幸子(ワキサカ サチコ)
藤井 照代(フジイ テルヨ) 大島 明(オオシマ アキラ)
目的 虚血性心疾患に罹患し入院を経験した男性喫煙患者の退院後の喫煙行動とその関連要因を調べ,それらに対する効果的な禁煙支援方法を検討する際の基礎資料とする。
方法 対象者は,1998年6月~2002年3月の間に大阪府立成人病センターに入院した虚血性心疾患の男性喫煙患者(入院当日に喫煙中または禁煙後31日以内であった者)290名とした。全入院患者に依頼する自記式の入院時問診票に,喫煙状況調査票とエゴグラム調査票を添付して配布した。看護師が全数を回収し,添付した調査票を著者らが病棟から回収した。回収日から約6ヵ月後(6ヵ月調査)と12ヵ月後(12ヵ月調査)に自記式の喫煙調査用往復葉書を自宅へ郵送し,把握された喫煙行動と入院時ベースラインデータとの関連を調べた。
結果 喫煙調査の返信者割合は6ヵ月で67.2%(195/290),12ヵ月で70.0%(203/290)であった。両調査とも,返信者と未返信者の属性に有意な違いを認めなかった。両調査時点における断面禁煙率をみると,6ヵ月調査では返信者で46%,未返信者をすべて喫煙者とみなすと31%であった。同様に12ヵ月調査では45%と31%であった。次に,退院後となる6,12ヵ月の各調査時点の喫煙行動と関連する要因を調べた。6ヵ月調査では,在院日数,入院日喫煙状況,ニコチン依存度,自己効力感の4要因との有意な関連がみられ,12ヵ月調査では,在院日数と入院日喫煙状況との有意な関連がみられた。退院後の禁煙状態に関連する要因をロジスティック回帰分析で調べると,「在院日数が15日以上であること」と,「入院の前日までに禁煙していたこと」が6ヵ月後の禁煙に有意に関連しており(オッズ比,順に3.6,5.6),その関連は12ヵ月後でも同様に認められた(同2.1,4.4)。退院後の喫煙行動と特定のパーソナリティには,明らかな関連は認められなかった。
結論 当施設に入院を経験した虚血性心疾患の男性喫煙患者の少なくとも5割は退院後に喫煙を続けていたと推測された。また,在院日数が長くなることは,退院後の禁煙状態を継続させやすい要因であることが示された。
キーワード 喫煙患者,禁煙支援,虚血性心疾患,エゴグラム

 

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第52巻第5号 2005年5月

筋萎縮性側索硬化症患者における
QOLの変化とその関連要因に関する検討

岡本 和士(オカモト カズシ) 紀平 為子(キヒラ タメコ) 近藤 智善(コンドウ トモヨシ)
阪本 尚正(サカモト ナオマサ) 小橋 元(コバシ ゲン) 鷲尾 昌(ワシオ マサカズ)
三宅 吉博(ミヤケ ヨシヒロ) 横山 徹爾(ヨコヤマ テツジ) 佐々木 敏(ササキ ビン)
稲葉裕 (イナバ ユタカ)

目的 筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」)患者におけるQOL(生活・生命の質)の維持・確保のための精神的支援を含めた本人・家族と医療・福祉従事者との間の支援体制の構築が急務とされている。そこで,本研究の目的は,ALS患者のQOLを1年前の状況との比較から評価するとともに,その変化に関連する要因を明らかにすることである。
対象と方法 2004年9月に,愛知県内に居住するALS患者258名に郵送による質問票調査を行い,回答の得られた98名(回収率:38.0%)を解析対象とした。QOL関連要因として「身体の痛み」「精神的安定度」「食欲」「睡眠状況」「コミュニケーション」を用い,1年前との比較からQOLの変化の状況を評価した。QOLの変化の指標として,各々の要因について変化の程度(悪化=1点,不変=0点,改善=-1点)を合計して求めたQOL低下度を用いた。
結果 5つのQOL関連要因のうち1年前と比べ悪化したと答えた者の割合が最も高かった要因は「精神的不安定の増加」で,次いで「身体の痛みの増加」であった。QOL低下度と性,年齢,発症時年齢およびADLとの間に有意な関連はなかった。QOL低下度は精神的活動性の高いものほど有意に小さかった。また,人工呼吸器非装着者のQOL低下度は装着者に比べ有意に大きかった。
結論 ALS患者のQOLの維持・確保のために,患者家族や地域の医療担当者を含めた包括的な精神的活動性および食事量の維持・確保のためのサポート体制を構築する必要性を示唆する知見を得た。
キーワード 難病,筋萎縮性側索硬化症,QOL,ソーシャルサポート

 

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第52巻第5号 2005年5月

患者調査における病院での
詳細調査率削減についての考察

寒水 孝司(ソウズ タカシ)  浜田 知久馬(ハマダ チクマ)
吉村 功(ヨシムラ イサオ)

目的 患者調査では,施設あたりの調査数が多いことで,大規模な病院に大きな負担がかかっている。平成11 年の調査では,出生の日が奇数の患者については,性別,出生年月日,疾病名,診療科名など複数の項目を詳細調査し,出生の日が偶数の患者については,性 別,出生年月日,入院・外来の種別のみを簡易調査している。そこで,大規模病院での詳細調査率を削減する調査シナリオを考える。そのような調査シナリオが 患者数の推定精度に与える影響を評価し,標本設計の改善を試みるのが本稿の目的である。
方法 詳細調査数を削減し,これを簡易調査で補えば,調査票の記入者負担が軽減される。そこで,詳細調査率を現在の1/2 から1/3または1/4に削減することを考える。まず,詳細調査率削減の適用条件・非適用条件を設定し,詳細調査率を削減する施設を選ぶ。適用条件につい ては2つの基準を想定する。次に,適用条件と詳細調査率の各組み合わせによる調査シナリオを平成11年患者調査データに適用し,各疾病の患者数の推定精度 の変化をシミュレーションによって評価する。最後に,推定精度低下の許容範囲を設定し,どの調査シナリオが適当であるかを評価する。推定精度の指標には標 準誤差率を用いる。
結果 適用条件を「医療施設静態調査の在院患者数が200 以上の施設」にすると,詳細調査率を1/3に削減できるのは32都道府県,1/4に削減できるのは21都道府県であった。さらに,適用条件を「医療施設静 態調査の在院患者数が300以上の施設」にすると,詳細調査率を1/3に削減できるのは39都道府県,1/4に削減できるのは34都道府県であった。これ より,患者数の推定精度をある程度維持した下で,すべての都道府県を対象に調査シナリオを適用するのであれば,適用条件を「医療施設静態調査の在院患者数 が300以上の施設」,詳細調査率を1/3にするのが適当であることが分かった。このとき,詳細調査率削減の対象とする母集団施設数は,9,286施設中 802施設(8.6%)であった。
結論 患 者数の推定精度をある程度維持した下で,詳細調査数を削減することは可能である。患者数の推定精度は都道府県ごとに異なるので,都道府県ごとに詳細調査率 削減の適用の可否を設定できるのであれば,患者数の推定精度が低い都道府県では,詳細調査率の削減は避けるべきである。
キーワード 患者調査,記入者負担,詳細調査率

 

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第52巻第5号 2005年5月

ポピュレーション・ストラテジーのための評価指標の開発

須賀 万智(スカ マチ) 吉田 勝美(ヨシダ カツミ)

目的 ポピュレーション・ストラテジーによる健康増進対策を進めるにあたり,優先課題を選定する基準や各種健康増進対策の効果を測定する基準が必要である。本研究では,集団の分布の違いを包括的に表わす評価指標を開発した。
方法 東京都内の某健診機関から,2001年に実施された労働安全衛生法による定期健康診断のデータ136,524名(20~59歳;男性84,592名:女性51,932名)を収集した。全体を基準集団,そのうち3事業所(集団T382名;集団S1,858名;集団K2,345名)を対象集団にした。BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,総コレステロール,空腹時血糖,尿酸,GOT,GPT,γGTP,ヘモグロビンの11項目について,性年齢階級別の平均と有所見率と分布を求め,4種類の指標,すなわち,⑴平均,⑵有所見率,⑶分布カテゴリーに単純増加する重みを乗じた値(分布単純型),⑷分 布カテゴリーにJ字増加する重みを乗じた値(分布J字型)により,対象集団における上位3項目(基準集団に比べ,好ましくない方から3項目)を選定した。 平均による上位3項目とそれ以外の3種類の指標による上位3項目を比較して,一部の項目のデータが不足している集団Sの20歳代男女を除いた22性年齢階級66項目のうち両者が一致した割合(一致率)を求めた。
結果 平均による上位3項目を基準にした一致率は,有所見率が50% (33/66),分布単純型と分布J字型が62%(41/66)であり,分布単純型と分布J字型の方が大きかった。実際の分布から,平均,分布単純型,分 布J字型による上位3項目において,観察度数分布は期待度数分布よりも右方シフトしていることが確認された。4種類の指標の統計学的特性や臨床的妥当性を 比較検討した結果,分布J字型が推奨された。
結論 分布カテゴリーにJ字増加する重みを乗じるという本研究の指標は対象集団において優先課題を選定する基準を提供して,ポピュレーション・ストラテジーによる健康増進対策を支援すると期待される。
キーワード ポピュレーション・ストラテジー,健康増進,評価指標

 

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第52巻第5号 2005年5月

東京都定点HIV検査相談センターにおける
HIV非感染受検者の動向,1993-2002

橘 とも子(タチバナ トモコ) 阿保 満アポ ミツル) 杉下 由行(スギシタ ヨシユキ)
前田 秀雄(マエダ ヒデオ) 山口 剛(ヤマグチ ツヨシ) 永井 正規(ナガイ マサノリ)
谷畑 健生(タニハタ タケオ) 市川 誠一(イチカワ セイイチ)  

目的 東京都定点HIV検査相談センターにおける既存情報の分析結果から受検者情報の活用に要する改善案を考察し,今後のHIV検査相談推進策の一助とすることが目的である。
方法 対象期間は1993年9月1日~2002年12月31日,対象情報は東京都定点HIV検査相談センターを受検した非感染者のうち日本語質問票への自記式回答協力者延べ67,804人分である。
結果 定点センター受検HIV抗体陰性者の基本属性について年次推移を分析した。男性:女性=7:3であり,「20 歳代」と「勤務者」の回答割合が多かった。一方,「初回」受検者は数・割合とも年々減少し,複数回受検割合は年々増加していた。受検動機となった感染不安 内容は「不特定パートナー」との「異性間性的接触」であり,感染不安から受検までの期間は1年以内が多く,年々増加傾向であった。
結論 定点センター受検者は,「20歳代」と「勤務者」が多いと推定され,都内保健所において平日昼間開設のHIV検査相談利用不可能層を補完する利便性改善が図られていると考えられた。今後,個人の行うHIV/AIDS予防行動を一層きめ細かく支援できる具体的施策立案の根拠として情報を活用し,住民や団体と協働で取り組むヘルスプロモーションの媒体としての利用を提案する。
キーワード 自発的HIV検査相談,HIV血清抗体検査,受検行動,匿名,施策企画立案

 

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第52巻第5号 2005年5月

医療経営からみた医療事故および
必要となる費用に関する研究

今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 医療事故に関する民事裁判で必要となる経費および医療事故での民事裁判の現況を明らかにする。
方法 東 大病院において医療訴訟を維持していく上で蓄積された情報,最高裁判所の公表情報,公的に損害賠償の基準の1つになっている自動車損害賠償責任保険の保険 金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準をもとに,医療裁判に必要となる経費を分析する。また,最高裁判所の資料等をもとに医療裁判の現況を 調査する。
結果 医療事故に関する民事裁判にかかる経費のうち,裁判費用と弁護士費用については,国や弁護士会等において基準が定められており,その詳細を示した。最も大きな金額となったのは損害賠償金額であり,死亡のケースで逸失利益を除く慰謝料だけで2000~2800 万円程度,後遺障害については状況により100~3000万円程度となった。医療裁判の現状として,一般的に通常民事事件における原告勝訴率が85%程度 であるのに対し,平成2年以前の民事医療過誤訴訟事件における原告勝訴率は35%程度である。近年,原告勝訴率は50%程度まで上昇してきていると考えら れている。また,現状では和解が64%程度,認容が18%程度となっており,病院からすると何らかの賠償金を支払ったとみられるケースは全体の82%に達 すると考えられた。
結論 安全対策に道義的上限はないが,病院経営の視点からすれば,人の命や障害を換金して考えることに社会的抵抗があるものの,最終的に安全性と経済性のバランスをとる必要があり,この判断は各医療機関の責任者の最も重要な使命であると考える。
キーワード 医療経営,医療事故,費用,医療裁判

 

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第52巻第7号 2005年7月

認知症ケアに関する施設管理職の意識

人見 裕江(ヒトミ ヒロエ) 寺田 准子(テラダ ジュンコ) 中村 陽子(ナカムラ ヨウコ)
畝 博(ウネ ヒロシ) 小河 孝則(オガワ タカノリ) 斎藤 美智子(サイトウ ミチコ)
郷木 義子(ゴウギ ヨシコ) 岡 京子(オカ キョウコ) 森山 美恵子(モリヤマ ミエコ)
廣野 祥子(ヒロノ ショウコ)  

目的 グループホームを除く介護保険施設(以下「介保施設」)および老人性痴呆疾患治療病棟(以下「病棟」)における管理者の認知症ケアに関する意識を明らかにすることを目的とした。
方法 山陰地方および大阪市に登録されている介保施設である介護老人保健施設,介護老人福祉施設,介護療養型医療施設および全国老人性痴呆疾患治療・療養病棟一覧(平成13 年)から抽出した病棟における,看護および介護直属の管理者を対象とした質問紙調査を実施した。介保施設は依頼した226施設のうち57施設(25%), 病棟は依頼した191施設のうち43施設(23%)の管理者から回答を得た。調査内容は,施設の概要,認知症のある利用者の状況のほか,認知症ケアに関す る施設管理者の意識,すなわち,認知症の判断,認知症ケアに関するスタッフへの特別の指示,事故防止対策,自助グループ育成についてである。介保施設と病 棟との2群を比較検討し,管理者の意識についてはFisherの直接確率で有意差の有無を調べ,自由記載項目については内容を分析した。
結果 事故防止対策を介保施設と病棟の2群で比較すると,病棟で非常によく対策をとっており,有意差(p<0.05) が認められた。また,自助グループ育成活動を2群で比較すると,有意差は認められなかったものの病棟で積極的に推進している可能性があった。認知症ケアに 関するスタッフに対する特別の指示は病棟で有意に多く,その内容は抑制や拘束に関するものが多い傾向が示された。また,介保施設では,病棟に比べ事故対策 が徹底していた。
結論 施設の法的枠組みも考慮した,対象の人権を保障する管理者の意識改革が必要である。
キーワード 管理者,認知症ケア,施設,身体拘束,自助グループ

 

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第52巻第7号 2005年7月

日常生活の関心の志向性と主観的生活の質が
高齢者の主観的健康感に及ぼす影響

-地域,性,年齢別の検討-
早坂 信哉(ハヤサカ シンヤ) 後藤 康彰(ゴトウ ヤスアキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 主観的健康感の分布の地域差を観察し,主観的健康感を規定する因子としての日常生活の関心の志向性や主観的生活の質(主観的QOL)が主観的健康感に及ぼす影響を,社会文化的環境が異なる地域で,性,年齢別に比較検討する。
方法 全国16 の市区町村で,65歳以上の高齢者を500人ずつ無作為(一部任意)抽出し,8,364人を対象として,2002年7~10月に留置法により調査した。調 査項目のうち,目的変数として主観的健康感を用いた。説明変数としては,調査した16項目の日常生活の関心の志向性を再編した4つの「日常生活の関心の志 向性」,および調査した16項目の主観的QOLを再編した5つの「主観的QOL指標」を評価した。対象を,男女別,年齢によって前期・後期高齢者,居住地域によって都市部・郡部に分け,合計8群にし,各群を主観的健康感によって「健康群」「非健康群」の2群に分けた。χ2検定を用いて各説明変数について単変量解析を行い,非健康群に対する健康群のオッズ比と95%信頼区間を求めた。
結果 調査票の回収率は80% (6,699人)であった。解析はすべての項目に回答のあった5,627人を対象とした。このうち健康群は70%,非健康群は30%で,健康群の割合は後 期高齢者,郡部居住者で低かった。日常生活の関心の志向性については,高いオッズ比が観察された項目は主に地域別によって異なっていた。都市部では男女と も安楽悠々志向以外の多くの項目で有意に高いオッズ比が観察されたが,郡部では女の後期高齢者を除けば自己実現志向のみでオッズ比が有意に高かった。主観 的QOL指標については,主に性,年齢別に高いオッズ比が観察された項目が異なっていた。男の前期高齢者では生活のハリの項目で,男の後期高齢者では自立の項目でオッズ比が高く,女では満足感や心理的安定の項目でオッズ比が高い傾向にあった。
結論 地域によって主観的健康感の分布が異なっていた。また,性別,年齢別,居住地域ごとに主観的健康感に影響を与える日常生活の関心の志向性や主観的QOL指標が異なっていた。このことから,高齢者に一様に接するのではなく高齢者一人一人の背景因子を考慮し,これらの関連の強い主観的QOL指標を高めるように留意しながら高齢者に対応することによって主観的健康感の向上,あるいは維持につながると思われた。
キーワード 高齢者,主観的健康感,日常生活の関心の志向性,主観的生活の質,年齢差,地域差

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第52巻第7号 2005年7月

A市における乳幼児健康診査の受診
および育児支援事業の利用に関連する要因

-育児環境に対する母親の認知および抑うつ状態に焦点をあてて-
林 亜希子(ハヤシ アキコ) 萱間 真美(カヤマ マミ) 近藤 あゆみ(コンドウ アユミ)
妹尾 栄一(セノオ エイイチ) 大原 美知子(オオハラ ミチコ)

目的 乳幼児健康診査の受診の有無と育児支援事業の利用の有無に関連する要因の探索を目的とし,育児環境に対する母親の認知および抑うつ状態に焦点をあてて検討した。
方法 研究の対象は,3歳前後の子どもを末子にもつA市在住の母親400名とした。期間は2003年1月9日~2月9日,方法は無記名自記式調査票の郵送配布・訪問回収法で,分析対象者は231名(57.8%)であった。
結果 3回の乳幼児健康診査(4ヵ月・7ヵ月・1歳6ヵ月)のうち1回以上未受診であることには「気が合わない子どもがいる」という母親の認知が関連していた(オッズ比3.85)。 一方,5種の育児支援事業(訪問指導・育児講座・育児サークル・面接相談・電話相談)について,利用経験の有無に関連する要因は各事業ごとに異なり,それ ぞれの特性とニーズが示唆された。訪問指導・育児講座・育児サークルの利用に共通して関連していたのは,母親仲間からのねぎらいや援助に対する期待であ り,面接相談の利用に関連していたのは,夫婦関係の困難さ,否定的な母性意識であった。また,電話相談の利用に関連していたのは,母子・夫婦・隣人関係の 困難さ,否定的な母性意識,そして母親の抑うつ状態であった。
結論  「子どもと気が合わない」という母親の認知が乳幼児虐待の危険因子であることを踏まえ,乳幼児健康診査未受診の家庭を対象とした積極的なフォローアップ体 制を整備していく必要性が示唆された。育児困難ケースのスクリーニングという観点からも,今後は,乳幼児健康診査の受診・未受診状況を活用することが有用 であろう。また,各種の育児支援事業ごとに異なる利用者特性を踏まえた事業運営の重要性が示唆された。特に相談事業においては,育児困難を抱える母親や抑 うつ状態にある母親が利用している可能性を前提とし,必要に応じた個別の介入が求められよう。
キーワード 乳幼児健康診査,母子関係,メンタルヘルス,育児

 

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第52巻第7号 2005年7月

うつ1次スクリーニングにおける
「初期陽性反応」と「1次陽性確定」との比較・検討

中俣 和幸(ナカマタ カズユキ) 相星 壮吾(アイホシ ソウゴ) 西 宣行(ニシ ノブユキ)
宮ノ下 洋美(ミヤノシタ ヒロミ) 五田 貴子(ゴダ タカコ) 宇田 英典(ウダ ヒデノリ)

目的 鹿児島県では平成14 年度から各種保健事業の場を活用して「うつ状態」の1次スクリーニング(以下「うつスクリーニング」)を5保健所管内で実施している。その中で,基本健康 診査(老人保健事業)(以下「基本健診」)の場を活用して実施したうつスクリーニングは受診者数が最も多いことから,判定結果と各設問ごとの回答状況につ いての基礎資料を得る上で基本健診での状況を分析することが最も有用であると考え,性・年齢別の分析と各設問の回答状況の分析を行うこととした。
方法 平成14 年度と15年度にうつスクリーニングを受診した者のうち,基本健診とその結果報告会の場で受診した5,492人を調査対象として,うつスクリーニングの 「1次陽性確定者」の性・年齢別の出現状況およびうつスクリーニングの8項目の設問ごとの性・年齢別の回答状況について分析した。
結果 全体の「1次陽性確定者率」は7.1% で,性・年齢別では4.8%から13.6%までの幅があった。40歳代・50歳代を除いた年代で,陽性者率は女性の方が男性よりも高かった。男女ともに年 齢が増すにつれて陽性者率は低下する傾向が認められた。うつスクリーニングの8調査項目ごとの「初期陽性反応率」は1.3%から20.2%の範囲であっ た。特に高かった項目は,「自分は役に立つ人間だと考えることができない」(20.2%)で,「以前は楽にできていたことが,今ではおっくうに感じられ る」(19.4%)と続いていた。8項目すべてによる総合的な評価である「1次陽性確定率」の評価と共に,各設問ごとの「初期陽性反応率」を求めることに より,より詳しい「こころの健康」状態の把握が可能となると考えられた。
結論 うつスクリーニングの「1次陽性確定者」は40 歳代・50歳代の男性で比較的多く出現しているが,鹿児島県ではこの年代の基本健診受診率は他の年代の受診率よりも低い現状である。今後の「こころの健康 づくり」活動を展開する上で,この年代層の基本健診受診率向上対策が求められる。性・年代によって「生きがい維持を主としたアプローチ」「身体機能維持を 主としたアプローチ」「うつ気分への対応方法を主としたアプローチ」を適宜組み合わせてプログラムを企画するなどの工夫が,対策を考える際により効果的で あろうとの示唆を得た。
キーワード うつスクリーニング,基本健康診査,こころの健康づくり,1次陽性確定者率,初期陽性反応率

 

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第52巻第7号 2005年7月

介護充実感尺度の開発

西村 昌記(ニシムラ マサノリ) 須田 木綿子(スダ キウコ) Ruth Campbell(ルース キャンベル)
出雲 祐二(イズモ ユウジ) 西田 真寿美(ニシダ マスミ) 高橋 龍太郎(タカハシ リュウタロウ)

目的 高齢者を介護する家族介護者の介護体験への肯定的認知評価を測定するための尺度として「介護充実感尺度」(Caregiving Gratification Scale)を開発し,その構成概念妥当性(因子的妥当性),交差妥当性(因子不変性)および信頼性の検証を行った。
方法 東京都葛飾区および秋田県大館市・田代町に在住の65 歳以上の要介護認定者(施設サービス利用者を除く)を介護する家族(主介護者)を対象に訪問面接調査を行い,それぞれ655人,381人から回答を得た (回収率は各62.0%,73.3%)。尺度の妥当性の検討には構成方程式モデリングを用いた。まず,地域別に因子的妥当性を検討した。次に,両地域の同 時分析を行い,地域間における因子構造の異同,すなわち交差妥当性の検討を行った。尺度の信頼性の検討には,信頼性係数αおよび多因子構造を前提とした信頼性係数ωを算出した。
結果 地域別の分析の結果から,「介護役割における自己達成感(達成感)」と「被介護者との通 じ合い(一体感)」の2因子各4項目からなるモデルの適合度が受容水準を十分に満たしていることが明らかになった。両地域の同時分析の結果から,因子負荷 量,因子の分散共分散,誤差分散を等値制約した2因子モデルが採択され,両サンプルの共分散構造の相等性が確認された。信頼性係数αおよびωは,いずれも十分な値を示した。
結論 本研究で開発された「介護充実感尺度」は,構成概念妥当性,交差妥当性および信頼性を有する尺度であることが示された。
キーワード 家族介護者,介護充実感,構成概念妥当性,交差妥当性,信頼性

 

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第52巻第7号 2005年7月

新基準集団における質問紙健康調査票THIの
尺度得点・傾向値のデータ分布

浅野 弘明(アサノ ヒロアキ) 竹内 一夫(タケウチ カズオ) 笹澤 吉明(ササザワ ヨシアキ)
小山 洋(コヤマ ヒロシ) 鈴木 庄亮(スズキ ショウスケ) 

目的 東大式自記健康調査票Todai Health Index(THI)が開発されてから,約30年が経過した。従来,THIにおける個人得点の判定は,1975年に調査を実施した都内某大手商社員集団のデータをもとに行われてきたが,時代の推移を考慮し,THI処理用新システムの開発を契機に新たに基準集団を設定することとした。本稿では,この新基準集団とそこにおけるTHIデータ分布の概略について報告する。
方法 1993年,群馬県のS市とK村において,40~69歳の地域住民を対象とした「寝たきりとボケを予防するための健康調査」の一環として,THIを用いた健康調査を実施した。両地域合わせて12,630名の対象者中,11,565名(91.6%)の有効回答を得た。THIは,肯定・否定・中間の3選択肢をもつ130の質問から構成され,12の健康尺度得点と3つの傾向値(判別値)を計算することができる。今回,各得点の信頼性に配慮して,有効回答者のうち総未記入数が5問以下の者10,596名を新基準集団とし,このデータに対して各種統計指標を算出した。
結果 各 健康尺度得点の平均値は,多くの尺度において男女差が小さくなっていた。また,男性,女性のいずれにおいても,平均値が従来より低くなる傾向が認められ, 特に,女性において顕著であった。累積相対度数分布も,平均値同様に,低い値にシフトしていた。年齢区分別の平均値を分散分析により比較した結果,多くの 尺度において,年齢とともに有意に低下する(健康状態の自己評価が良くなる)傾向が認められた(p<0.05)。
結論 新基準集団による尺度得点などの評価は,従来と比較し,特に女性において,みかけの陰性者を少なくする判定結果をもたらすことになる。これは,THIの利用目的である,不健康者の早期発見にもつながることであり,2004年から運用を開始したパソコン用THI処理システムにおいては,新基準集団でのデータを採用している。これらシステムも活用しながら,新基準集団の妥当性について,今後様々な角度から検討していく予定である。
キーワード THI,Total Health Index,質問紙健康調査票,データ分布,平均値,累積相対度数

 

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第52巻第6号 2005年6月

全国の市町村における「健康日本21」地方計画の策定と評価

若林 チヒロ(ワカバヤシ) 國澤 尚子(クニサワ ナオコ) 新村 洋未(シンムラ ヒロミ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 川島 美知子(カワシマ ミチコ) 萱場 一則(カヤバ カズノリ)
三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 全国の市町村における「健康日本21」地方計画の策定と評価の現状について明らかにすることを目的とした。
方法 全国3,207市町村(2003年3月現在)を対象に行った「健康づくりに関する現状調査」(2003年6月実施)で回答のあった2,570市町村のうち,市町村合併が行われなかった2,516市町村を対象に,2004年3月,自記式質問紙による郵送調査を行った結果,1,641市町村から回答があった(回答率65.2%)。
結果 「健康日本21」地方計画を策定済みまたは策定予定の市町村は72.6%に達していたが,都道府県別の開きが大きく,人口規模の小さい市町村で策定率が低かった。地方計画の最終評価時期は2010年または策定から10年後と位置づけており,中間評価もそれに合わせて予定していた。評価方法は,健診結果の利用または質問調査の実施とした市町村が多かったが,人口規模の小さい市町村では質問調査の実施予定率が低く,評価方法の種類も少なかった。
結論 「健康日本21」地方計画の策定状況,中間および最終評価の実施予定,評価に用いる資料について,人口規模別の違いを明らかにした。中間・最終評価の実施に当たっては,地域の保健所,大学などの支援が必要である。
キーワード 健康日本21,市町村,地方計画,評価

 

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第52巻第8号 2005年8月

認知症高齢者の家族介護者における家族からの
心理的サポートニーズ充足状況と主観的QOLの関係

北村 世都(キタムラ セツ) 時田 学(トキタ ガク) 菊池 真弓(キクチ マユミ)
長嶋 紀一(ナガシマ キイチ)  

目的 認知症高齢者の家族介護者を対象に,①非認知症高齢者の家族介護者とQOLを比較すること,②家族(配偶者・子ども・親族)からの心理的サポートの認知(心理的サポートニーズ充足状況)と主観的QOLはどのように関係しているかについて,介護者と要介護者の続柄ごとに明らかにする。
方法 対象は東北地方のI市在住の在宅要介護認定者の家族介護者7,500名で,平成15年1月に郵送法により質問紙調査を行った(回収率61.0%)。そのうちの有効回答2,544名を分析対象とした。質問紙の内容は,①介護者・要介護者の基本属性,②介護者の心理的サポートの現状とニーズ,③介護者の主観的QOL尺度(石原ら,1992)の3項目とした。なお,心理的サポートニーズ充足状況について,ニーズと現状との組み合わせから,サポートの提供者ごとに充足・不足・過多・非関与の4群に分類した。
結果 QOL尺度を従属変数,認知症の区分(3区分)と介護者の続柄(8種)を独立変数とした二元配置分散分析および認知症家族介護者のみについて介護者の続柄ごとに行ったQOL尺度を従属変数,サポートニーズ充足状況を独立変数とした一元配置分散分析の結果,以下のことが明らかとなった。①認知症介護者は非認知症介護者よりQOLが全般に低い。②子どもからの心理的サポートはQOLを低下させていた。③実親の介護者は親族からの過剰なサポートでQOLを低下させていた。④夫を介護する妻は要介護者本人からの情緒的サポートがQOLを高めていた。⑤義母を介護する嫁はQOLが高く,配偶者のサポートがQOLをさらに高めていた。⑥介護者の続柄によりQOLを高めるサポート種は異なっていた。
結論 認知症家族介護者のQOLは要介護者に認知症がない場合に比べて低いことが示された。さらに,介護者と要介護者の関係の近さが介護者のQOL低下と関係があること,特に実子による同性の親の介護では介護者の年齢が中年期から老年期への移行期であり,介護を通じて介護者が自分自身の生涯発達課題に直面する可能性があることを指摘した。今後は認知症介護のもつ特殊性などを質的に分析することが必要である。
キーワード 認知症家族介護者,心理的サポート,QOL,生涯発達,続柄

 

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第52巻第8号 2005年8月

最近のわが国の低体重児割合の上昇要因
に関する人口動態統計による分析

角南 重夫(スナミ シゲオ) 勝山 博信(カツヤマ ヒロノブ)

目的 最近のわが国の低体重児割合の上昇の原因を探る。
方法 わが国の昭和55年から平成12年までの21年間の人口動態統計を用いて,①死産率,複産割合,妊娠期間別出生割合,出生順位別出生割合,母の平均年齢,非嫡出割合のそれぞれと低体重児割合との相関,②同期間の低体重児割合の変化と,死産率,複産割合,妊娠期間,出生順位,母の年齢,非嫡出割合の変化との比較,③低体重児割合の変化に対するこれらの要因の寄与率を調べた。
結果 最近のわが国の低体重児割合の上昇と,死産,複産,妊娠期間,出生順位,母の年齢,非嫡出に関連が認められたが,これに対する寄与率は,死産,複産,妊娠期間が比較的大きかった。
結論 最近のわが国の低体重児割合の上昇に死産の減少,複産の増加,妊娠期間の短縮の関与が考えられる。
キーワード 低体重児,死産,複産,妊娠期間,人口動態統計

 

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第52巻第8号 2005年8月

精神的健康度と受診行動との関連について

-レセプト情報を活用した保健事業の推進-
八尋 玄徳(ヤヒロ モトノリ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ) 西岡 和男(ニシオカ カズオ)
石原 礼子(イシハラ レイコ) 亀 千保子(カメ チホコ) 

目的 精神的健康度を1つの健康指標とした保健事業を展開することが医療経済的観点から効果があることを示すために,レセプト情報等を用いて精神的健康度と受診行動との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 対象者を精神的健康度に問題ある群,問題ない群の2群に分類し,2群間で入院外医療費,診療実日数,レセプト件数等について対応のないt検定を行った。また,同様に,1人当たり複数・多・重複受診件数,PDM法を用いて算出した生活習慣病における1人当たり傷病別診療実日数・傷病別医療費についても対応のないt検定を行った。さらに,入院外医療費,診療実日数,レセプト件数を従属変数とし,栄養,運動,休養といった一般的な健康指標とGHQ30得点結果を独立変数として重回帰分析を行った。この際,性,年齢,家族形態,就業状況を独立変数に含めることで交絡因子の影響を調整した。
結果 精神的健康度に問題ある群は問題ない群に比べ,入院外医療費,診療実日数,レセプト件数が有意に高く,年間の1人当たり複数受診件数と多受診件数が多い傾向が認められ,また,傷病分析により,精神的健康度が生活習慣病の中でも内分泌,栄養及び代謝系の疾患の傷病別医療費に影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに,重回帰分析により,GHQ30得点が入院外医療費,診療実日数,レセプト件数に対して有意な影響要因であるとの結果を得た。
結論 精神的健康度と受診行動との間に何らかの関連がある可能性が示唆された。これにより,多受診や複数受診を対象とした保健事業においてメンタルヘルス面の施策を行うことが医療経済的に効果がある可能性が示唆されたものと考えられる。
キーワード 精神的健康度,GHQ30,レセプト,複数受診,重複受診

 

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第52巻第8号 2005年8月

静岡県における在宅特定疾患患者の状況

林 敬 (ハヤシ タカシ)

目的 静岡県内在宅特定疾患医療費受給者(以下「特定疾患患者」)の生活や災害対応の状況を明らかにすることにより,同県における難病施策向上の参考にする。
方法 平成15年度の特定疾患制度改正時に,国(46疾患),県(3疾患)指定の医療費公費負担の新規および更新申請者を対象に,療養状況,生活自立度,医療処置,障害者認定と介護保険認定の状況,QOL(痛み,不安,社会との接触),災害時の対応について,記名自記式アンケート調査を行った。
結果 筋萎縮性側索硬化症に加え,スモン,パーキンソン病関連疾患,広範脊柱管狭窄症,後縦靱帯骨化症,脊髄小脳変性症,悪性関節リウマチなどの平均年齢が高い疾患(以下「高齢疾患」)において,日常生活に何らかの支障がある者が多く,QOLの各指標が低かった。その他,特発性間質性肺炎では,酸素療法などの在宅医療処置を受けている者が多く,QOLの中の社会との接触が減っている者が多かった。主要な高齢疾患においては,生活に支障がある者の75%以上が障害者(身体障害者手帳所持)または介護認定を受けていた。災害対応について,全体の14%が本人または家族で避難が困難としており,筋萎縮性側索硬化症や高齢疾患に多かった。このうち約6割が,個人情報の市町村等への提供について行ってもよいと回答していた。
結論 静岡県における在宅特定疾患患者の状況として,原疾患に加えて加齢による日常生活の支障やQOLの悪化への影響が示唆された。また,筋萎縮性側索硬化症のほかにも,呼吸器系の疾患において支援強化の必要性が考えられた。生活に支障がある多くの患者が障害者や介護保険の認定を受けていたことから,難病患者にかかわる居宅生活支援事業などに加え,介護保険や障害にかかわるサービスも充実させる必要がある。災害対策については,平常時から患者自らによる防災対策の推進に加え,個人情報の保護に配慮した要援護者台帳の関係機関での共有が必要である。
キーワード 難病,特定疾患,高齢化,呼吸器系疾患,災害対策,個人情報

 

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第52巻第8号 2005年8月

HIV感染者の社会福祉施設利用受け入れに
影響するサービス提供者側の要因について

小西 加保留 (コニシ カホル)

目的 HIV感染者が社会福祉施設サービスを利用しようとするときに,サービス提供者側が抱える不安や課題となる要因を明らかにするとともに,どのような要因がサービス提供や受け入れ意向に影響を及ぼしているかを分析することを目的とした。
方法 調査対象は,重度身体障害者更生援護施設,身体障害者療護施設,知的障害者更生施設,児童養護施設,精神障害者生活訓練施設の全数(計2,377)で,調査方法は自記式質問紙を用いた郵送法,調査期間は2003年10~11月とした。調査項目は,①基本属性,②環境要因,③HIV感染者の受け入れに関連する83項目,④受け入れ意向にかかわる2項目であり,分析は,単純集計,因子分析,一元配置分散分析,重回帰分析により行った。
結果 22施設においてHIV感染者の受け入れ経験があった。受け入れに関連する因子として,抗体検査実施義務,性への陽性価値観,他者への対応困難感,感染対応理解困難,医療体制,性への対応困難感,性支援システム,法的責任,感染発生時不安,健康管理,自慰行為容認,コスト保障の12因子が抽出された。各因子のうち,性への陽性価値観,感染対応理解困難,医療体制は,施設間で有意な差がみられなかった。受け入れに際して阻害要因となりうる因子は,他者への対応困難感,感染発生時不安,感染対応理解困難,抗体検査実施義務,コスト保障,健康管理であり,促進要因となりうる因子は,性への陽性価値観,性支援システム,自慰行為容認であった。受け入れ意向に影響を与えている因子は,施設間で差がみられた。
結論 今後のHIV感染者の受け入れを促進するには,マイナス要因を解決し,プラス要因を促進するような働きかけが重要である。例えば,「性に関する価値観や支援システム」に関する学習の機会の提供,「感染発生時の不安」に対する的確な知識の提供,「他者への対応困難感」に関する具体的な場面を想定した理解や組織のリーダーシップのあり方の検討,福祉・医療の制度全体にかかわる課題としての「コスト」の問題の考察などである。また,利用者の特性や対応への不安の程度など,施設種別による個別の課題への方策の必要性も示された。
キーワード HIV感染者,社会福祉施設,サービス利用,受け入れ意向,阻害要因,促進要因

 

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第52巻第10号 2005年9月

市区町村別平均寿命の全国順位の変化からみた
長野県と沖縄県の平均寿命の解析

竹森 幸一(タケモリ コウイチ) 三上 聖治(ミカミ セイジ) 工藤 奈織美(クドウ ナオミ)
浅田 豊(アサダ ユタカ) 

目的 平均寿命の年次推移に特徴がある長野県と沖縄県について,市区町村別平均寿命の全国順位の変化から,両県平均寿命の特徴を明らかにすることを目的とした。
方法 1985 年,1990年,1995年,2000年の市区町村別平均寿命を用いて2005年の市区町村別平均寿命を予測した。各年の全国市区町村の平均寿命につい て,平均寿命の長いものから,1,2,...というように順位を付けた。長野県,沖縄県それぞれの各市町村の平均寿命全国順位について,1985年から 2000年までの回帰係数(回帰係数1)と1985年から2005年までの回帰係数(回帰係数2)を計算し,p値を求めた。回帰係数1と回帰係数2の相関 を男女別に計算した。回帰係数1と1985年から2000年までの市町村別平均寿命の延び(年)との相関係数と回帰式を求めた。
結果 市区町村平均寿命の全国順位の回帰係数は長野県・男の場合,負の市町村が多く,県全体の順位中央値では1985 年の299から2000年の234と順位が改善された。女の場合も下降すなわち順位がよい方に移行した市町村が多く,県全体の順位中央値では1985年の 808から2000年の578と順位が改善された。沖縄県・男の場合,順位が上昇すなわち順位が悪い方に移行した市町村が多く,県全体の順位中央値では 1985年の436から2000年の1753と順位が悪化した。女の場合,男の場合と同様に上昇すなわち順位が悪い方へ移行した市町村が多く,県全体の順 位中央値では1985年の29から2000年の91と順位が悪化した。沖縄県・女の場合,市区町村別平均寿命の全国順位の中央値が指数関数的に悪化し,将 来,順位が急速に悪化することが予測された。長野県,沖縄県の男女とも回帰係数1と回帰係数2に有意の相関がみられた。1985年から2000年までの市 区町村別平均寿命の全国順位の回帰係数1と同期間の市町村別平均寿命の延び(年)の間に負の有意の相関がみられた。
結論 長野県は男女とも市区町村別平均寿命の全国順位が改善した市町村が多かった。一方,沖縄県は男女とも順位が悪化した市町村が多く,特に女は将来急速に順位が悪化することが予測された。
キーワード 都道府県別平均寿命,市区町村別平均寿命,平均寿命の延び,平均寿命の順位,平均寿命の予測

 

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第52巻第10号 2005年9月

OLAPによるDPCデータの解析

伏見 清秀(フシミ キヨヒデ)

目的 平成15年にわが国独自の診断群分類DPC(Diagnosis Procedure Combination)を用いた包括評価が導入されているが,制度設計上議論となる点が残っており今後の改善が必要とされている。そのためには,毎年7月から10月にDPC包括評価対象病院から収集される膨大な調査データの効率的で正確な解析が不可欠であるが,その手法は確立されていない。本稿では,DPC調査データの解析にOLAP(On Line Analytical Processing)を活用する方法を検討し,その実効性を検証することを目的とした。
方法 調査データからリレーショナルデータベースと多次元データキューブを構築し,ネットワークおよびローカルファイルを介してクライアントソフトを用いてOLAP解析を実施した。OLAPキューブは定義表の項目に沿って7から26個の集計軸を設定し,病名集計軸に関してはICD10コード,DPC傷病名分類,MDC分類レベルの3段階の粒度で集計する設計とした。副傷病は併存症と続発症に分けてその影響度を集計した。
結果 システム構築,分析の実施,データの配布の実現可能性と有用性が確認された。対話的な分析により,手術グループの差異による在院日数への影響の違い,化学療法,放射線療法などの在院日数,診療報酬点数への影響の違いなどが示された。また,副傷病の解析では,DPC傷病分類レベルの集計によって,循環器系疾患においては呼吸不全,腎不全の影響が大きく,消化器系疾患においては肺炎の影響が大きいなど,主たる疾患によって医療資源必要度に影響を与える副傷病が異なることが示された。
結論 DPC調査データの解析におけるOLAP法の活用の実現可能性と有用性が示された。特に現在のDPC定義表では十分に整理されていない副傷病の評価については意義が大きいと考えられる。DPCの恒常的な見直し作業にOLAP法が活用され,データに基づく医療評価の1つのツールとしての地位が確立されることが期待される。
キーワード 包括評価,診断群分類,医療費,医療評価,探索的分析

 

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第52巻第10号 2005年9月

市町村合併が市町村の地域保健サービスに
及ぼす影響と県の支援策に関する研究

安武 繁(ヤスタケ シゲル) 名越 雅彦(ナゴシ マサヒコ) 烏帽子田 彰(エボシダ アキラ)

目的 市 町村合併の進展により,県が実施している保健事業が市町村に移譲される動きがある状況下で,市町村合併が市町村の地域保健サービスに及ぼす影響の見通しな どの実態を把握し,市町村合併による市町村の地域保健活動の機能強化,県の支援のあり方について検討することを目的とした。
方法 平成14年12月に中国地方5県の36カ所の県型保健所を対象として,郵送によるアンケート調査を実施した。調査内容は,管内における市町村合併の進ちょく状況と地域保健業務に及ぼす影響,県が実施している専門的事業の市町村への移譲の可能性,県の広域的取り組みなどである。
結果 中国地方5県において市町村合併後の管内市町村数までわかっている23 の県型保健所では平均で3.0市町になることが分かった。また,市町村合併が予定どおり進んだ場合,管内市町村数が1ないし2になる保健所では,組織体 制,予算配分などの点において現状のままでは合併自治体間におけるアンバランスが生じる可能性があると認識している傾向が認められた。合併後の県の専門的 事業のあり方との関係では,ひきこもり対策において,合併後でも管内市町村数が5以上と比較的小規模の合併が予定されている保健所で,今後も県が実施すべ きという傾向が認められた。
結論 市町村合併が進展する時代にあって,地方機関としての県の保健所は高度な専門的機関へと特化することが求められる。市が新たに保健所を設置する場合の要件として人口30 万人がその目安となっている。この人口要件については,検査体制の整備や健康危機管理事案に対する人材の養成,事案の発生頻度,あるいは現在の一般の市町 村で実施可能な保健サービスの内容を勘案すると,効率性や技術水準の担保の視点からも人口要件を緩和することは適当でないと考えられる。また,今後も市町 村合併が進展すれば,特に比較的中規模の市については,県は地域保健サービスの展開にあたり,県の有する保健所,総合精神保健福祉センター,試験研究機 関,学術団体(大学)など相当高度な専門機関の技術力を背景とした機能強化を踏まえて,市と協働した,広域的な幅広い分野で先駆的な課題と調査研究に取り 組み,充実展開を図ることに重点を置くべきと考えられる。
キーワード 市町村合併,地方分権,保健所

 

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第52巻第10号 2005年9月

障害有病率に入院患者数を
加味して算定した健康寿命の検討

丸谷 祐子(マルタニ ユウコ) 京田 薫(キョウダ カオル) 伊藤 美樹子(イトウ ミキコ)
三上 洋(ミカミ ヒロシ) 

目的 切明らが提唱する介護保険データのみを用いたdisease(disability)-free life expectancy(以下「DFLE」)と,介護保険データに入院患者を加味した新たなDFLEを算定し,標準誤差,構成概念妥当性という点から比較,検討することを目的とした。
方法 まず,都道府県,性,年齢階級別の平成11年患者調査の入院患者および平成14年10月の介護保険認定者を年齢調整した上で,Sullivan法を用いて都道府県,性,65歳,75歳,85歳の年齢階級別にDFLEを算定した(以下「DFLE 」)。その比較対照として,介護保険認定者のみを用いて同様にDFLEを算定した(以下「DFLE 」)。次に,年齢階級別の静岡県男性DFLE , の標準誤差と,人口規模をシミュレーションさせた場合の標準誤差を算定し,それぞれの値を比較,検討した。最後に,65歳における都道府県・性別のDFLE , と死亡や受療,高齢者の活動性を示す指標などとの相関関係から構成概念妥当性を検討した。
結果 65歳静岡県男性の標準誤差はDFLE が0.011年,DFLEⅠが0.010年であった。シミュレーションした人口規模の比較では,DFLEⅠ, ともに28万人から2.8万人に,2.8万人から2,800人に変化させたとき,標準誤差はそれぞれ約3倍増加したものの標準誤差自体は小さかった。また,DFLEⅠ,Ⅱとも標準化死亡比や入院・外来患者数とr>-0.3の負の相関がみられ,高齢者の活動性を示す指標とはr>0.3の正の相関がみられた。さらにDFLEⅠは,1人当たり老人医療費と負の相関を示し,老人クラブ参加者割合,入院患者数との正の相関係数はDFLEⅡより高かった。
結論 DFLEⅠは人口規模が小さい場合でも標準誤差が小さかった。また,健康指標との相関関係の結果から,DFLEⅠはDFLEⅡより妥当性が高いことが示唆された。これらのことから入手可能な既存データを用いたDFLEⅠの算定は有用であると考えられた。
キーワード DFLE,介護保険認定者,入院患者,標準誤差,構成概念妥当性,地域指標

 

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第52巻第10号 2005年9月

児童館の利用が子どもの遊びや生活に与える影響

八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ)

目的 子どもの遊びの実態を明らかにするとともに,児童館の利用が子どもの遊びや生活にどのような影響を与えているのか検討することを目的とした。
方法 平成15年6~7月,小学3年生950人を対象に子どもの遊びや生活について,留め置き自計によるアンケート調査を実施した。有効回答数は917人(有効回答率97%)であった。子どもの遊びや生活に関する15項目を得点化し,児童館利用との関連性を検討した。
結果 子 どもは,小人数の同年齢(同じクラス)の友達と,屋外ではスポーツや運動,屋内ではパソコン・テレビ・ゲームで遊んでおり,受動的な遊び方と能動的な遊び が共存していることが明らかになった。遊び友達の人数は男子の方が多かった。児童館を利用している子どもは3割弱と少なかったが,男女差は認められなかっ た。子どもの遊び・生活に関する15 項目については,女子の平均点が高く,因子分析の結果から得られた「共感性得点」「自主性得点」「表現・鑑賞得点」のいずれも女子の方が高かった。児童館 を利用している子どもと利用していない子どもの遊び・生活の平均得点については有意差が認められなかったが,得点の高い群に児童館を利用している子どもが 多く,有意差が認められた。単回帰分析の結果,児童館の利用頻度が高いと共感性が高くなり,遊び友達の人数が多くなると推察された。しかし,重回帰分析の 結果からは,子どもの遊び・生活得点に影響を与える要因は,性別,塾・習い事,遊び友達の人数であり,児童館利用頻度との間に関連性は認められなかった。 また,遊び友達の多い子どもほど児童館をよく利用していることが推察された。
結論 児 童館を利用する子どもは遊び友達が多く,また,児童館を利用することによって遊び友達も多くなることが明らかになった。遊び友達が多い子どもほど子どもの 遊び・生活得点が高くなっており,子どもの仲間集団の重要性が示唆された。今日,地域社会の遊びの拠点として位置づけられた児童館は,子どもが豊かな遊び を展開し,子ども同士・子どもと大人の相互行為を通じて,社会力や対人関係能力を育てることができる場として重要な役割を担っていると言える。
キーワード 児童館,遊び,児童健全育成,仲間集団,社会力

 

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第52巻第10号 2005年9月

静岡県における健康寿命と要介護疾患

渡辺 訓子(ワタナベ ノリコ) 久保田 晃生(クボタ アキオ) 鈴鹿 和子(スズカ カズコ)
赤堀 摩弥(アカホリ マヤ) 藤田 信(フジタ マコト) 

目的 要介護となる原因疾患を分析し,健康寿命の延伸対策に資するための基礎資料を作成する。なお,この研究では,「健康寿命」を要介護でない期間,「障害期間」を介護の必要とする期間とし,要介護状態の人員は介護保険制度の利用者とした。
方法 健 康寿命と障害期間の算出は切明らが開発した計算式を使用した。要介護の人員は国民健康保険団体連合会による確定給付統計の人員とした。要介護疾患の特定は 介護保険関係書類の転記と分析によった。その際,「疫学研究に関する倫理指針」に基づき,県内7市町のデータ提供者に承諾を求めた(男性526人,女性1,148人)。
結果 静岡県の健康寿命は,平成16 年では男性77.0年,女性80.0年であった。7市町での健康寿命は65歳以上の介護保険認定割合が低いほど長くなる傾向があり,男性は0.82,女性 は0.61の負の相関がみられた。要介護となる原因疾患は,単一の疾患では男女ともに脳梗塞が最も多く,男性では27.5%,女性では20.7%を占め た。三大要介護疾患についてその占める割合をみると,脳血管疾患は男性で39.5%,女性で27.6%,筋骨格系疾患は男性で18.6%,女性で 34.8%,認知症は男性で8.1%,女性で14.0%であった。
結論 介 護保険制度利用者数を健康寿命算出に用いる場合は,制度利用率により結果が左右されるため,同一の自治体で比較することが適当である。また,介護保険申請 書類からは要介護となる原因疾患やその発病年齢や介護度が判明し,介護予防の事業根拠や評価に利用できることが示唆された。介護保険データを保健事業に定 例的に還元するためには,還元データを最小限にし,原因疾患をコードに変換するなど簡素化することが課題と考えられた。
キーワード 健康寿命,疫学研究に関する倫理指針,介護保険,三大要介護疾患

 

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第52巻第11号 2005年10月

高齢者における多受診,重複受診と薬剤処方に関する研究

小川 裕(オガワ ユタカ)

目的 地方都市の無床診療所で受診した高齢者について,多受診,重複受診に関する実態とそれに伴う薬剤処方上の問題点について検討する。
方法 65 歳以上の診療所受診者を対象として,性,年齢,日常生活動作能力,受診時の主訴,他医療機関受診の有無,受診ありの場合は受診先,診療科,診断(症状)名 とその認識度,使用中の薬剤とその認識度,薬剤の受領先などについて,記録票をもとに診療録からの転記と問診を行った。
結果 記録票作成完了者は,男性80 人(37%),女性134人(63%)の計214人であった。受診目的(主訴)は男女とも「慢性疾患継続治療中(定期受診)」が最も多く,次いで「急性疾 患」であった。当診療所受診時に他医療機関受診継続中の者は男性49人(61%),女性83人(62%)で,そのうち「病院受診あり」は男性23人,女性 28人,「診療所受診あり」は男性36人,女性67人であった。受診している診療科は男性では歯科,眼科,内科,女性では眼科,内科,歯科の順であった。 他医療機関で処方を受けていた者は男性35人(44%),女性73人(54%)と分析対象者の約半数を占めた。薬剤の受領先は,「2カ所以上の院外薬局」 が男性17人,女性39人と処方薬ありの者の約半数を占め,次いで「院内薬局と院外薬局」が男性9人,女性22人で,「1カ所の院外薬局」は男性8人,女 性8人のみであった。また,記録票作成時に他医療機関での処方内容が何らかの根拠で把握できた者は,男性19人(処方薬ありの者の54%),女性26人 (36%)のみであった。
結論 複 数の医療機関受診者の他医療機関での処方内容を受診時に把握することが困難な例が多く,処方上のトラブルを回避するためには,個々の診療場面や地域保健活 動を通じて注意を喚起するとともに,調剤薬局でのチェック機能を強化するなど,多面的な対策を講じる必要があると考えられた。
キーワード 高齢者,多受診,重複受診,医薬分業

 

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第52巻第11号 2005年10月

保健統計に基づく糖尿病と高血圧の
受療者数と有病者数の年次推移

村田 沙和美(ムラタ サワミ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ)
栗田 秀樹(クリタ ヒデキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) 亀井 哲也(カメイ テツヤ)
松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ) 小栗 重統(オグリ シゲノリ)  岡山 明(オカヤマ アキラ)
 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 柳川 洋 (ヤナガワ ヒロシ)

目的 保健統計に基づいて,糖尿病と高血圧の受療者数と有病者数について,1995~2002年の年次推移を観察した。
方法 患者調査と国民生活基礎調査から,1995~2002 年における糖尿病と高血圧の1日患者数,総患者数,通院者数と主傷病通院者数を算定した。糖尿病実態調査から1997年と2002年の糖尿病有病者数を, 国民栄養調査と循環器疾患基礎調査から1995年と2000年の高血圧有病者数を受療の有無別に算定した。
結果 糖 尿病の年次推移では,通院者数と主傷病通院者数が増加傾向,総患者数と1日患者数がほぼ横ばい傾向であった。高血圧の年次推移では,通院者数が増加傾向, 主傷病通院者数,総患者数と1日患者数が減少傾向であった。人口の年齢構成を調整すると,通院者数は糖尿病で増加傾向,高血圧でほぼ横ばい傾向となった。 有病者数は両疾患ともに増加傾向であり,人口の年齢構成を調整すると糖尿病で増加傾向,高血圧で減少傾向となった。有病者の受療割合は両疾患ともに20%程度で,やや上昇傾向であった。
結論 糖尿病と高血圧の受療者数と有病者数について最近の推移傾向を記述した。両疾患ともに有病者の受療割合が高くないと示唆された。
キーワード 保健統計,糖尿病,高血圧,有病者,受療者,年次推移

 

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第52巻第11号 2005年10月

国民生活基礎調査における健康のとらえ方
に関する基礎的検討

-特定高齢者と要支援高齢者の階層的な関係の検証-
橋本 英樹(ハシモト ヒデキ)

目的 公的統計調査における自覚的健康状態の測定方法や,健康状態に影響する社会環境因子の測定法などについて検討を行うとともに,測定結果をもとに計算されうる地域健康指標について内外の事例をもとに実用可能性について考察する。
方法 国 民生活基礎調査健康票と米国・英国などの健康・世帯面関連公的統計質問票について自覚的健康状態などの測定尺度を比較した。内外の大規模疫学調査などで用 いられた実績があり,日本語版の妥当性評価がなされている健康尺度について,その適応・内容・長所短所などを比較した。健康余命をはじめとする地域健康指 標概念についてはMurrayら(2000)の概念整理をもとに分類し,現在入手可能な公的統計を用いた場合の実施可能性などを比較した。
結果 こ れまで内外で用いられてきた5段階の自覚的健康度評点尺度は,死亡率などの予測因子としては意義が認められているものの,事実上2値変数として取り扱われ ることが多く,健康量を連続量的にとらえるには問題がある。また「こころの健康」やストレスの状況についてはこれまで取り扱いが不十分であり,今後,大規 模疫学調査で実績をもつ既存尺度の導入や,測定項目の理論的再整理などが必要である。地域健康指標については様々な指標が試算・発表されてきているが,入 手可能な統計の範囲と指標の解釈可能性を考えると,実施可能性の高い尺度は限られている。地域健康指標を計算する上でも,自覚的健康度の測定は内外の統計 との比較可能性や信頼性・妥当性検証の状況を考慮し,既存の健康尺度の導入を考える必要がある。健康に影響する社会因子として社会的支援や社会関係資本な どの測定項目を加えることについても検討の余地がある。
結論 公 的統計における健康状況の測定尺度については世帯面調査で「健康」「こころの健康」を調査する目的を明確にした上で,比較可能性・妥当性の高い既存尺度か ら選択する必要があると考えられた。各種地域健康指標にもそれぞれ長所短所がみられるため,データ入手の可能性,政策的解釈の実用性などから,選択的・戦 略的に尺度を選ぶことが重要と思われる。また健康の測定方法については内外の統計間の互換性・整合性についても配慮が求められる。
キーワード 自覚的健康,こころの健康,地域健康指標,公的統計,国民生活基礎調査

 

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第52巻第11号 2005年10月

SMRの経験的ベイズ推定量についての検討

-奈良県市町村別死因統計を用いて-
佐伯 圭吾(サエキ ケイゴ) 岡本 希(オカモト ノゾミ) 森田 徳子(モリタ ノリコ)
車谷 典男(クルマダニ ノリオ)

目的 市町村別の年齢調整死亡率の検討には,標準化死亡比(Standardized Mortality Ratio。以下「SMR」)が多く用いられるが,死亡数の偶然のばらつきによってSMRは大きく変動する。こうしたばらつきの調整方法として,SMRの経験的ベイズ推定量(Empirical BayesEstimateof SMR。以下「EBSMR」)の有用性が示され,ハイパーパラメータの推定方法が異なる2つのEBSMRの算出方法も紹介されている。本稿は,奈良県の市町村別死因統計を用いて,SMRとEBSMRの差と期待死亡数との関連を観察するとともに,奈良県で多く発生する胃がん死亡を例に,SMRを含めたこれら3つの統計量の比較を目的とした。
方法 奈良県の市町村別に,主な40死因のSMRを算出し,Poisson-Gammaモデルのベイズ推定法に基づく丹後の方法に従って,モーメント推定量(ME)に基づくmeEBSMRと,死亡数の周辺尤度の最尤推定量(MLE)からmleEBSMRを求め,SMRと2つのEBSMRの差との期待死亡数の関係を検討した。続いて,男性の胃がん死亡について,奈良県下47市町村別に1969~2002年の5年ごとの期間それぞれのSMR,meEBSMR,mleEBSMRを求め,3つの統計量に関する分散,平均値の推移と,それぞれの統計量で示した疾病地図を比較検討した。
結果 SMRと2つのEBSMRの差についての検討では,meEBSMRとmleEBSMRの両者はともに,期待死亡数が増加するとSMRに近似し,期待死亡数が減少すると差が大きくなる関係を認めた。EBSMRを用いた奈良県男性胃がん死亡についての検討では,SMR,meEBSMR,mleEBSMRの3つの統計量では,その分散がSMR>meEBSMR>mleEBSMRの順に小さくなった。また,MLEの解が収束しないためにmleEBSMRが欠損値となる場合が,奈良県性別市町村別の主要な40死因のうち18死因(45%)でみられたほか,期待死亡数が小さい死因ではmleEBSMRが得られにくい傾向がみられた。
結論 市町村別疾患別の死亡状況の集積性の検討には,欠損値がなく,SMRの偶然変動が調整され,疾病地図で地域の相対危険の変化の傾向が評価しやすいmeEBSMRが好ましいと考える。
キーワード 経験的ベイズ推定量,EBSMR,標準化死亡比,SMR,モーメント推定量,最尤推定量

 

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第52巻第11号 2005年10月

スクールソーシャルワーク実践モデルの構築に関する研究

-「学級崩壊」を経験した保護者への仲介モデルの検証-
大塚 美和子(オオツカ ミワコ)

目的 「学級崩壊」を経験した保護者への援助実践モデル(仲介モデル)の構築とその検証を行い,スクールソーシャルワークの実践モデルの作成を試みた。
方法 先行研究や「学級崩壊」経験者に対するインタビュー調査の結果,また,それに基づく予調査の結果を参考に,学校と家庭の関係,両者の仲介役,「学級崩壊」に関する自己記入式質紙を作成し,京阪神地区在住の小中学生の保護者660 人を対象として郵送によるアンケート調査を実施した。有効回答数(率)は241(37%)で,今回は,そのうち「学級崩壊」経験者63人のデータを分析対 象とした。因子分析により抽出された「学校への危機意識」「教師への信頼度」「親の教育参加」「親の学校協力」「親の無力感」「仲介」の6因子を採用して 親と学校間の仲介モデル(仮説モデル)を構築し,共分散構造分析を用いてそのモデルの検証を行った。
結果 本モデル全体については,χ􌛌値は88.037(自由度82),適合度指標のCFIは0.986,RMSEAは0.034であり,仲介モデルとデータはほぼ適合しており,妥当性が確認された。モデル内の潜在変数間に有意な関連がみられたのは,「教師への信頼度」から「学校への危機意識」,「学校への危機意識」から「親の無力感」,「仲介」から「親の教育参加」であった。
結論 1)本モデルは当事者の視点とニーズを取り入れた実践モデルであることが検証された。2)本モデルは,親と学校の葛藤の解決方法として,仲介のタイミングとその役割を明示した。3)本モデルは,学校関係者や援助者に対して親の学校離れのプロセスを示唆した。
キーワード スクールソーシャルワーク,仲介モデル,学級崩壊,親の無力

 

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第52巻第8号 2005年8月

家族介護者の介護に対する肯定的評価に関連する要因

広瀬 美千代(ヒロセ ミチヨ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究の目的は,要介護高齢者を在宅で介護する家族が感じる介護に対する肯定的評価に関連する要因を,家族介護者が受けるサポートの頻度やサポートに対する満足度という視点から明らかにすることである。
方法 調査対象者は,大阪府内の介護家族の会連絡会や老人介護者家族の会会員440人であり,調査方法は,自記式質問紙を用いた郵送調査である。調査期間は2003年7月30日~8月31日であり,有効回収率は55.2%であった。研究目的を達成するための分析方法は,“介護充足感”や“肯定的感情”を従属変数とする重回帰分析である。“介護充足感”を従属変数とする重回帰モデルにおいては,「ホームヘルプサービス利用頻度」「訪問看護利用頻度」「家族会参加頻度」「家族会満足度」が独立変数として選択され,“肯定的感情”を従属変数とする重回帰モデルにおいては,「ホームヘルプサービス利用頻度」「訪問看護利用頻度」「ショートステイ利用頻度」「インフォーマルサポート満足度」が独立変数として選択された。なお,独立変数の選択は相関分析に基づいて行われた。
結果 ⑴“介護充足感”を従属変数とした重回帰分析においては,介護者年齢,訪問看護利用頻度,家族会満足度とに有意な正の関連がみられた。“肯定的感情”を従属変数とした重回帰分析においては,インフォーマルサポート満足度のみに有意な正の関連がみられた。
結論 家族会に対する満足度が高く,また,訪問看護を利用する介護者ほど,介護に対する“介護充足感”が高くなる傾向があることが示された。また,家族や近隣などからのインフォーマルサポートに高い満足度を感じている介護者ほど,“肯定的感情”が高くなる傾向があることが示された。以上のことから,家族会から受ける満足度の高いサポートや看護師の訪問によるサポートは,家族介護者の介護に対する受容を表す“介護充足感”を高めるのに役立ち,家族や近隣などから得る介護者の満足度の高い情緒的および手段的サポートは,要介護高齢者に対する好意的な感情を表す“肯定的感情”を高めるのに有効であることが示唆された。
キーワード 家族介護者,介護に対する肯定的評価,要介護高齢者,家族会

 

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第52巻第13号 2005年11月

埼玉県川口保健所管内における自殺死亡の現状

山田 ひろみ(ヤマダ) 木野田 昌彦(キノダ マサヒコ)

目的 川口保健所管内の自殺の現状を明らかにするとともに,2003年の自殺死亡の増加の要因を検討し,地域の自殺予防対策の基礎資料とする。

方法 人口動態統計を用い,自殺死亡数・死亡率の年次推移について回帰分析を行った。2001~2003年の3年次における埼玉県川口保健所管内(川口管内)の人口動態調査死亡小票のうち,死因が自殺による349人分について,年齢階級別死亡率,月別死亡数,手段別死亡数および配偶関係別死亡数について検討した。

結果 川口管内の2003年の自殺死亡数は過去最高の140人であり,男の死亡率は全国と埼玉県の値を上回っていた。1991年以降,川口管内,埼玉県および全国の自殺死亡数・死亡率は直線的増加傾向が認められ,回帰分析の結果,2013年には川口管内で180人以上,全国で44,000人以上の死亡数が予測された。年齢階級別死亡率の年次推移では,3年次とも55~64歳の年齢階級で最も高く,2003年では,35~44歳,45~54歳の年齢階級で前年の2倍に増加したことが認められた。2003年の月別死亡数では,2~6月で平均死亡数の1.6倍に増加し,手段別死亡数の割合ではガスが増加したことが認められた。ガスは,2001年,2002年には皆無であった練炭等によるものが6%,従来の排ガス等によるものが5%であった。

結論 長期的には自殺死亡の直線的増加傾向が認められた。2003年の急増については,月別死亡数,手段別死亡数の検討から,練炭等を使用した自殺の報道が手段の模倣にとどまらず自殺死亡を引き上げたのではないかと示唆された。地域の自殺の現状を把握し,自殺予防対策を推進する必要があろう。

キーワード 自殺,人口動態統計,手段別死亡数,練炭

 

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第52巻第13号 2005年11月

2004/05年シーズンにおける
インフルエンザワクチンの需要予測

延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ) 三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ)
中井 清人(ナカイ キヨヒト )

目的 インフルエンザワクチンの計画的な供給に資することを目的として,2004/05年シーズンのインフルエンザワクチンの需要予測を行った。

方法 インフルエンザワクチン供給に実績のある医療機関など 5,158施設を対象として,2003/04年シーズンのインフルエンザワクチンの購入本数,使用本数,接種状況および2004/05年シーズンの接種見込人数について調査を行い,2004/05年シーズンのインフルエンザワクチン需要見込本数の推計を行った。

結果 2004/05年シーズンのインフルエンザワクチン需要は,約1817万本から約1898万本と推計された。

結論 2004/05年シーズンのワクチンメーカーの製造予定数は2061万本であり,需要に見合う量の供給が行われるものと推測された。

キーワード インフルエンザワクチン,需要予測 

 

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第52巻第13号 2005年11月

わが国における認知症患者数の推計
および受療医療機関の特性

三浦 大(ミウラ ダイ) 旭 伸一(アサヒ シンイチ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)
中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 林 正幸(ハヤシ マサユキ) 加藤 昌弘(カトウ マサヒロ)
福富 和夫(フクトミ カズオ) 川戸 美由紀(カワト ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 現在,わが国は高齢化が急速に進んでおり,認知症の高齢者も増加している。認知症は入院や介護負担を要することが多く,重要な社会問題を引き起こす原因の1つとなっていることから,全国規模および都道府県別で認知症患者数を推計し,受診している入院および外来患者受診医療機関の特性を明らかにすることを目的とした。
方法 平成8年の患者調査と医療施設静態調査をデータ結合し,解析した。その際,認知症患者は主傷病名が認知症であるものに限定した。入院認知症患者数,外来認知症患者数をそれぞれ年齢階級別に推計し,入院または外来受診医療機関の病床数階級別に検討を加え,全国および都道府県間で比較した。また,受診医療機関の精神科を有する割合も検討した。
結果 全国の入院認知症患者数,外来認知症患者数はそれぞれ43.3千人,10.5千人であった。病院に入院している認知症患者のうち65.2%にあたる28.0千人が精神病床に入院していた。入院認知症患者の入院医療機関および外来認知症患者の外来受診医療機関は,年齢が高くなるほど病床数や精神科を有する割合が低くなる傾向にあった。各都道府県の入院,外来認知症患者数は,各都道府県の人口10万人当たりの精神病床数,精神科を有する施設数とそれぞれ相関関係がみられた。
結論 入院認知症患者,外来認知症患者の入院または外来受診施設は患者の年齢によって異なる傾向があり,患者が高齢なほど医療施設規模は小さくなり,精神科を有する割合も低下した。
キーワード 認知症,アルツハイマー病,血管性認知症,患者調査,医療施設静態調査,精神病床

 

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第52巻第13号 2005年11月

地域保健行政活動の評価について

糸数 公(イトカズ トオル) 福永 一郎(フクナガ イチロウ)

目的 地域で行われている保健行政活動をその業務量を用いて分析し,保健衛生活動の指標の標準化を行い,市町村活動の強化と健康政策事業の拠点としての保健所機能強化に資する。
方法 平成13年度地域保健事業・老人保健事業報告に計上されている保健衛生活動の業務量を統計学的に分析した。母子保健,精神保健福祉,老人保健など保健衛生活動の領域別の業務量を,保健所においては設置主体別に,市町村においては保健所設置の有無,設置主体別,保健所非設置市町村については人口規模別に算出し,その特性や差異について分析を行い,さらに領域別の業務量について,その分野を代表しうる指標を用いて設置主体別,市町村別の比較を試みた。
結果 市町村業務量については,保健所を設置している指定都市,中核市,政令市,特別区で,企画調整機能と精神保健福祉や難病対策の業務量が高く,保健所を設置していない市町村では,人口規模が小さいほど業務量が高い結果であった。保健所業務量については,健診や保健指導などの一次的直接業務は,都道府県型を除く保健所で広く行われていた。都道府県型は,難病などの専門的直接業務は比較的優位で,企画調整的機能も業務量が高い結果であった。その他の設置主体では,一次的直接業務は高いが,企画調整的機能において実績の低いところも一部みられた。
結論 市町村規模別,保健所の有無別,各領域の事業や総業務量に関して,各々の活動の特性や自治体間の格差が明らかになった。
キーワード 地域保健・老人保健事業報告,業務量分析,保健衛生活動指標

 

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第52巻第13号 2005年11月

ホームヘルパーの業務専門性とサービス評価に関する韓日比較

張 允楨(チャン ユジョン)

目的 ホームヘルプサービスに求められる専門的力量を業務専門性という概念でとらえ,業務専門性とサービス評価との関連を明らかにしたうえで,その結果について韓日比較を行い,業務専門性の重要性を実証的に検証することを目的とした。さらに,業務専門性に関連する要因の分析を行い,今後,ホームヘルプサービスの質の確保と向上を図るための条件を検討した。
方法 2003年7月から10月の間に,韓国210人,日本303人のホームヘルパーを対象とし,郵送法による自記式質問紙調査を行った。調査内容は,業務専門性の領域(知識・技術,利用者の情報把握),サービス評価の領域,その他の領域(対象者の基本属性,雇用・労働の実態,仕事上のトレーニング・業務管理)によって構成した。
結果 ①日本のホームヘルパーは韓国のホームヘルパーより知識・技術,利用者の情報把握,サービス評価においてより高いレベルにあった。②韓国日本両国において,知識・技術および利用者の情報把握とサービス評価には統計学的に有意な関連が認められた。③知識・技術に関して,韓国は個人レベルにかかわること(年齢,私的介護の経験)が,日本は制度的システムの中で行われていること(主な援助内容,資格,研修会の参加,援助内容の記録,マニュアルの確認)が関連する要因として見いだされた。また,利用者の情報把握には,両国とも仕事上のトレーニング・業務管理が統計学的に有意に関連していた。
結論 韓国と日本のホームヘルプサービスにおける制度的背景の違いは,両国におけるホームヘルパーの業務専門性とサービス評価の差をもたらした要因とみられた。また,業務専門性の向上には,研修会や事業所単位で行われる仕事上のトレーニング・業務管理が重要であることが示唆された。
キーワード ホームヘルパー,業務専門性,サービス評価,韓日比較

 

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第52巻第15号 2005年12月

上手な老いかたと生活状況の関連

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 黒沢 洋一(クロサワ ヨウイチ)
細田 武伸(ホソダ タケノブ) 仁科 祐子(ニシノ ユウコ)

目的 地域高齢者を対象に,上手に老いる(サクセスフル・エイジング)と生活状況との関連を明らかにすることである。
方法 鳥取県N町の60 歳以上の全住民3,021人を対象に記名自記式調査票により質問紙調査を実施した。調査内容は基本的属性,健康状態,生活に関する満足度,サクセスフルエ イジングを実感しているかどうか等である。サクセスフル・エイジングは「加齢とともに,上手に年をとったと思われますか」という問いに対して,4つの回答 肢から1つを選択させた。これを本研究での目的変数とした。説明変数は,既往歴,健康状態,健康のために心がけていること,食生活,生活の満足度,生活の はり,心の健康状態などである。サクセスフル・エイジングに関連する因子を明らかにする目的で,単変量解析で有意な変数すべてを説明変数にして強制投入す る多変量ロジスティック回帰分析を行った。
結果 有効回答数(率) は2,219人(73.5%)であった。男性886人,女性1,314人,不明19人を分析対象とした。平均年齢は72.6±6.7(中央値72.0)歳 であった。年齢階級は60~64歳が282人(12.7%),65~69歳が483人(21.8%),70~74歳が594人(26.8%),75~79 歳が482人(21.7%),80~84歳が257人(11.6%),85歳以上が121人(5.5%)であった。解析対象者2,219人のうち,上手に 年をとったと思われますかという質問に「非常にそう思う」と回答した者が67人(3.0%),「まあそう思う」と回答した者が1,291人 (58.2%),「あまりそう思わない」と回答した者が612人(27.6%),「思わない」と回答した者が159人(7.2%),無回答あるいは回答不 明が90人(4.1%)であった。以下の解析は回答が得られた2,219人から「上手に年をとったと思われますか」という質問に有効な回答が得られなかっ た90人を除いた2,129人で行った。多変量ロジスティック回帰分析の結果,サクセスフル・エイジングに関連した項目は,生活のはりがある,生活の満足 感,健康である,ひとりで楽しく生きていく自信がある,家族関係の満足感,運動・スポーツをする,非常に人から頼られている,これからもすばらしいことが ある,であった。
結論 健康感を持ちながら,生活のはりがあり,生活にも満足していることがサクセスフル・エイジングに有意に関連した。本研究では,60歳以上の全住民を対象としたが,入院・入所している人が除外されている可能性があり,研究結果をそのまま地域高齢者一般に当てはめるには限界がある。
キーワード サクセスフル・エイジング,生活状況

 

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第52巻第15号 2005年12月

働き盛り世代における脳卒中発症の
生活背景要因に関する研究

巴山 玉蓮(トモヤマ ギョクレン) 藤田 幸司(フジタ コウジ) 五十嵐 久人(イガラシ ヒサト)
白鳥 啓子(シラトリ ケイコ) 星 旦二(ホシ タンジ) 

目的 長野市における働き盛り世代の脳卒中発症の生活背景要因を明らかにする。
方法 脳卒中発症の対象年齢を働き盛り世代(40 歳以上65歳未満)とした。40~64歳で脳卒中を発症し,脳卒中情報システムおよび保健師が把握している現在74歳以下の者250人をケース(脳卒中発 症群)とし,現在40~64歳でこれまで脳卒中を発症していない長野市在住の約1,200人(対象人口の1%)をコントロール(健常群)としてケース・コ ントロール研究を行った。脳卒中発症群については,保健師が個別面接により本人から聴取し,健常群については郵送法によりアンケート調査を実施した。
結果 脳 卒中発症群と健常群との比較において有意な差がみられた因子について,独立した影響力を明らかにするために,多重ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比 を算出した。脳卒中の発症に独立して寄与することが明らかとなったリスクファクターとそのオッズ比は,①高血圧である(12.6),② 喫煙している(8.8),③揚げ物・炒め物など油を使う料理をほぼ毎日食べている(8.3),④味付けの濃い物をほぼ毎日食べている(5.7),⑤自分の 判断で仕事の量や期限を調整できない状況にある(5.3),⑥卵・卵料理をほぼ毎日食べている(5.3),⑦年齢が高い(3.8),⑧近親者に脳卒中を発 症した人がいる(3.0)であった。地域的な特色と考えられた川魚,イナゴなどの食習慣については,脳卒中との関連が認められなかった。
結論 今 回の調査によって,働き盛り世代にある人の脳卒中の発症に独立して寄与する要因が明らかとなった。加齢や,近親者に脳卒中を発症した人がいるという遺伝的 要因は個人で制御できるものではないが,①高血圧を上手にコントロールすること,②喫煙をしないこと,③食生活では,揚げ物や油や卵料理をとりすぎないよ うにし,薄い味付けを心がけること,④生活面では,仕事の量や期限を調整しながら,過労やストレスを制御し,楽しく継続的に運動することは,個人・企業・ 地域レベルの取り組みや専門家の支援によって制御可能と考えられる。これらの科学的なエビデンスを児童生徒や学生を含めた市民に還元し,働き盛り世代にお ける脳卒中をこれまで以上に減少させ,その発症を遅らせることが大切であることが示唆された。
キーワード 脳卒中,働き盛り,ケース・コントロール研究,リスクファクター,多重ロジスティック分析

 

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第52巻第15号 2005年12月

社会福祉士養成教育の専門性と現場実習の効果の分析

-国家試験合否との関連から-
清重 哲男(キヨシゲ テツオ)

目的 社会福祉士一般養成課程について,入学時の属性,成績評価を要因とし,国家試験合否との関連性から養成教育の専門性と現場実習の水準を明らかにし,今後の養成教育の方向性を示すことを目的とした。
方法 研究対象は,平成13年,14年に入学した460人中,規定年限2年で修了し国家試験を受験した学生321人とした。国家試験合否を従属変数とし,学生の性別,年代,職業,履修20科目評価,現場実習評価を独立変数とする二項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 20 科目評価と年代は,国家試験合否に強い有意の相関が認められ,大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。また20科目評価と実習評価の間に見かけの正の有 意な関係が確認された。実習免除者は,実習履修者より20科目評価が低く,国家試験合格率も低かった。入学時の職業が直接福祉業務に関与しない福祉系以 外,無職・学生,およびその他福祉系の者は成績評価,国家試験合格率が優れていた。
結論 1年次,2年次の各科目を優秀な成績で履修することは,養成教育の基本であり最も重要なことである。実習免除者の実務経験が科目成績と国家試験の合格にマイナス要因となり,今後の養成教育の重要な課題となった。一方,30歳代の成績評価と合格率が最も低い理由は,今後の研究課題としたい。
キーワード 社会福祉士,社会福祉士養成,国家資格,現場実習,ソーシャルワーク

 

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第52巻第15号 2005年12月

国民生活基礎調査における所得分布の精度について

石井 太(イシイ フトシ) 古屋 裕文(フルヤ ヒロフミ)

目的 国民生活基礎調査の実施により得られる所得分布に関する情報提供の充実に資する観点から,同調査の所得分布に関する精度について検討を行う。
方法 国民生活基礎調査における所得分布に関する誤差情報について,ブートストラップ法などを用い,所得分位値,所得階級別構成割合,ジニ係数の各標準誤差(率)に関する評価を行った。
結果 中央値の標準誤差率は大規模年では1.3%, 中間年では2.4%となっており,他の分位値とともに,概して平均値よりも誤差率が高かった。所得階級(100万円階級)別構成割合については,1%の幅 を許容すれば95%の確率で利用できるものと考えられた。ジニ係数の標準誤差は,平成16年調査では0.0027ポイント,平成15年調査では 0.0050ポイントであった。
結論 従来,評価が困難であった分位値などに関する精度の定量的評価がブートストラップ法を用いることにより可能となり,対前年比較や結果の信頼性など,所得分布に関する各種指標や統計表の見方に関する豊富な情報を提供することができる。
キーワード 所得分布,分位値,標準誤差,ブートストラップ法,ジニ係数

 

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第52巻第15号 2005年12月

介護保険施設における介護報酬改定に対する
意識および経営意識などに関する研究

藤林 慶子(フジバヤシ ケイコ) 小山 秀夫(コヤマ ヒデオ)

目的 介護保険施設における平成15年4月の介護報酬改定への意見や経営意識などを分析し,介護報酬改定後の施設の状況と経営意識に関する今後の課題を明らかにすることを目的とした。
方法 埼玉県下の介護保険施設300 施設(介護老人福祉施設169施設,介護老人保健施設89施設,介護療養型医療施設42施設)に対して,郵送記入方式の調査を実施した。調査期間は,平成 15年3月初旬から中旬の2週間程度であった。有効回答数(率)は,全体で99施設(33.0%),その60%以上が介護老人福祉施設であった。
結果 平成15 年の介護報酬改定によって経営に影響が生じるとする意見は項目によって差違があり,介護老人保健施設の「リハビリテーション機能の強化加算」では「大変影 響がある」70.0%であった。介護報酬改定への対応については,「現状で対応が可能」とする回答が「全施設共通:退所(退院)前連携加算の新設」で 44.4%,「介護老人保健施設,介護療養型医療施設:退所(退院)時情報加算の新設」で62.5%であった。「介護老人福祉施設:小規模生活単位介護福 祉施設サービス(ユニットケア)の新設」については,「対応するつもりはない」が61.8%であった。介護報酬改定後の経営方針では,全体として「具体的 な対応策あり」が90%を超えており,「高要介護者の入院・入所」の項目においては,「大変そのように考えている」「ややそのように考えている」をあわせ て67.0%であった。居宅介護支援報酬改定への意見としては,「要介護度別単位廃止による一律給付」は賛成が94.8%,「4種類以上の居宅サービスを 定めたケアプラン作成加算」「居宅介護支援に対する諸条件設定による減算」は,賛成と反対がほぼ同数であった。経営管理状況については,各項目について 「実施している」とする回答が多かった。
結論 介 護報酬改定後の施設の状況については,介護保険施設として経営的に厳しいととらえた意見もあり,何らかの対応が必要であると考えていることが明らかになっ た。今後の課題としては,一般企業と保健医療福祉分野の経営マネジメントがどのような点で異なり,どのような点で類似しているかなどを明確にすることが必 要である。そして経営マネジメント概念を取り入れることは,介護保険施設の経営管理だけではなく,高齢者保健・医療・福祉施策の再構築のためにも重要であ ると考える。
キーワード 介護報酬改定,介護保険施設,経営意識,マネジメント

 

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第53巻第1号 2006年1月

要援護高齢者の主介護者における精神的健康

東野 定律(ヒガシノ サダノリ) 筒井 澄栄(ツツイ スミエイ) 矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 筒井 孝子(ツツイ タカコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 在宅で要援護高齢者を介護している主介護者の精神的健康をGHQ-12で測定し,GHQ-12の構成概念妥当性を因子モデルおよび基本属性との関連性で明らかにすることを目的とした。
方法 調査対象はS県A市に在住し,平成14年4月1日現在,要介護認定を受けた第1号被保険者5,189人の要援護高齢者のうち,協力が得られたその主介護者1,143人であった。調査員は介護支援専門員とした。調査内容は,要援護高齢者の性,年齢,主介護者の性,年齢,介護期間,続柄,精神的健康で構成した。精神的健康はGHQ-12で測定した。統計解析では,GHQ-12の因子モデルは1因子モデルとして設定し,さらにその精神的健康に対する主介護者の性,年齢,介護期間がGHQ-12の調査項目に与える影響をMultiple Indicators Multiple Causes(モデリング)で検討した。
結果 想定した英国版GHQ-12の1因子モデルのデータへの適合度は,統計学的な許容水準をほぼ満たしていた。また,その信頼性は,KR-20係数で0.85であった。さらに,MIMICモデリングで検討した主介護者の性,年齢,介護期間と精神的健康との関連性については,主介護者の精神的健康には性別が関連し,女性が男性に比べて精神的健康度が劣悪な状態であった。
結論 英国版GHQ-12は下位概念(因子)を想定せず,そのまま観測変数の合計点をもって,精神的健康度の程度とみなせることを支持する結果と解釈できた。また,女性が男性に比べて精神的健康度が劣悪な状態にあるという結果は性的役割社会化仮説を支持する知見と推察された。
キーワード 高齢者,家族介護者,負担感,精神的健康

 

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第53巻第1号 2006年1月

一般高齢者と入院高齢患者における
終末期ケアの意向に関する比較調査

松井 美帆(マツイ ミホ)

目的 一般高齢者と入院高齢患者の終末期ケアに関する意向について比較検討することを目的とした。
方法 広島市,宇部市における65歳以上の老人クラブ会員である一般高齢者313名と大学病院内科病棟入院患者52名を対象とし,終末期の療養場所の希望,延命治療の意向,リビング・ウイル(書面による生前の意思表示)の支持に関する自記式質問紙調査を行った。
結果 対象者の平均年齢は,一般高齢者75.4±5.4歳,入院患者72.7±4.7歳で一般高齢者が有意に高く,性別は共に男性が55%であった。終末期ケアの意向に関して両群の意向を比較検討した結果,終末期の療養場所の希望については,一般高齢者では自宅が44.6%と最も多かったのに対して,入院高齢患者では今まで治療を受けた病院が52.1%と高い割合を示した。延命治療の意向に関して,回復の見込みが難しい状況における心肺蘇生法,人工呼吸器,人工栄養について,一般高齢者では「医師の判断に任す」が44.3~45.9%と最も多かったのに対して,入院高齢患者では「希望しない」とした回答が49.0~53.0%と,人工呼吸器,人工栄養では有意な差を認めた。さらに,リビング・ウイルの支持については,一般高齢者で賛同するものが72.8%であったのに対して,入院高齢患者では55.8%と有意に低かった。
結論 終末期ケアに関する意向について一般高齢者と入院患者では相違を認めた。入院患者では話し合いが難しくなることも予測されるため,健康な時から自らの意向を考え,家族やかかりつけ医などと話し合っておくことが重要と考えられる。
キーワード 終末期ケア,高齢者,延命治療,リビング・ウイル

 

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第53巻第1号 2006年1月

介護サービスの質の確保策に影響を与える要因の検討

-自治体の質問紙調査データを用いて-
金 貞任(キム ションニム) 平岡 公一(ヒラオカ コウイチ) 山井 理恵(ヤマノイ リエ)

目的 介護保険制度実施後の初期段階における自治体による介護サービスの質の確保策について,その取り組み状況に影響を及ぼす要因を分析し,介護サービスの質の確保策に関する課題を抽出する。
対象と方法 2000年12月から2001年1月に全国の市区町村介護保険担当課に対して実施した質問紙調査により得られたデータを用いた。有効回収数(率)は,1,361(41.9%)であり,それらを分析対象として,自治体の介護サービスの質の確保策に関する5指標を従属変数とし,自治体人口などに関する8つの変数を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。
結果 1)人口は「独自のサービス評価システム」「アンケート調査の実施」の指標に関して有意となった。2)財政力指数は,「苦情情報の活用と公開」「ケアプランの内容把握」「ケアプランの改善対策」「独自のサービス評価システム」「アンケート調査の実施」に関して有意であった。3)ケアマネジメントに関する問題の認知度は,「ケアプランの内容把握」「ケアプランの改善対策」のみで有意であった。
結論 人口,財政力,ケアマネジメントに関する問題の認知度といった要因が,自治体によるサービスの質の確保策に関する複数の指標に有意な影響を及ぼしていることが明らかになった。こうした状況を踏まえ,各自治体の取り組み事例の収集と分析なども行い,サービスの質の確保策への取り組み状況を総合的に把握できる枠組みを構築する必要がある。
キーワード 介護保険,サービスの質,地方自治体,ケアマネジメント

 

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第53巻第1号 2006年1月

わが国における過去の大規模健康被害に関する主要事例分析

今村 知明(イマムラ トモアキ)  下田 智久(シモダ トモヒサ)

目的 過去の大規模健康被害事例の分析に基づき,わが国における健康危機管理の制度・体制に係る課題を整理する。
方法 わが国における過去50年の大規模健康被害の主な事例17件から被害の拡大要因と国民の不安の拡大要因を抽出し,分析した。
結果 大規模健康被害の経緯として,原因判明あるいは初動対策実施までの時間,被害者あるいは患者数,課題,原因,初動,具体的対策を整理した。またこれらの調査から,被害の拡大要因として,原因究明の長期化や短期間での被害の拡大,原因究明後の対策不足が抽出された。健康被害に係る国民の不安の拡大要因として,企業倫理の低下,将来の予期できぬ危険性への不安,風評被害が抽出された。
結論 被害の未然防止の観点から,健康危機管理情報等の収集・分析・提供の体制の整備が必要である。特に,被害の拡大防止の観点から,あいまい情報の積極的な収集・分析とこれを初動対応につなげる体制・制度の整備とともに,風評被害等への対策の確立が必要である。
キーワード 大規模健康被害,健康危機管理,過去の健康被害

 

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第53巻第1号 2006年1月

新障害者プラン遂行業務に携わる市町村障害福祉
担当職員の「障害者の自立支援」に関する意識

橋本 卓也 (ハシモト タクヤ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 橋本 力(ハシモト チカラ)
井上 照美(イノウエ テルミ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 新障害者プラン遂行業務に携わる市町村障害福祉担当職員の障害者の自立(自律)支援に対する意識を把握し,その意識に影響を与えている要因を明らかにすることを目的とした。
方法 調査対象者は,近畿2府4県342市町村の新障害者プラン遂行業務に携わる障害福祉担当職員であり,調査方法は自記式質問紙を用いた郵送調査である。調査期間は2003年12月2日から12月25日であり,有効回答率は43.9%であった。調査項目は,基本属性と「自立および自立支援」に関連する項目とし,そのうち担当職員の意識を測定する尺度として17項目を設定した。分析は,まず,バリマックス回転を伴う因子分析(主因子法)を行い,そこから得られた4つの因子ごとに単純集計を行った。次に,担当職員の意識に影響を与える要因を明らかにするため,「資格の有無」「福祉職歴の有無」を独立変数とし,各因子の項目の合計得点を従属変数とするt検定を行った。「現在の職場経験年数」「医療・福祉業務等における経験年数」と各因子との相関については,ピアソンの相関分析を用いて分析を行った。
結果 「資格の有無」や「福祉業務に関する職歴経験」等が,障害福祉担当者の意識に影響を与えていることが明らかになった。t検定および相関分析の結果,資格を有している職員,および福祉業務に関する職歴経験のある職員は,自己決定・自己選択等を自立の概念としてとらえる自立観や,インクルーシィヴな教育環境に関する意識が高いことが明らかになった。また,医療・保健・福祉に関する業務年数が長い職員は,上記以外に「障害者の性」に関して意識が高いことが明らかになった。
結論 新障害者プランの基本理念を施策に反映させていくためには,障害者の自立観や教育環境,および性と結婚などに対する市町村障害福祉担当職員の意識変革が重要な課題になる。そのためには,業務経験年数や職員の意識レベルに応じた研修体制の確立,フィールドワークの導入などを含めた研修方法の見直し,および各職員の意識向上・変革において欠かすことのできないスーパーバイザーの育成が求められる。また,有資格者や福祉関連職歴を有している職員,および業務経験年数の長い職員と新人職員とのバランスを考慮した職員配置を行うなど,受けてきた専門教育や研修などが十分に生かされ有資格者や業務経験年数の長い職員の意見が反映されるような職場環境や人員配置が望ましいと考えられる。
キーワード 新障害者プラン,市町村障害福祉担当職員の意識,自立観,障害児(者)の教育環境,障害者の性,エンパワメント

 

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第53巻第2号 2006年2月

基本健康診査受診者のがん罹患と生命予後に関する研究

後藤 順子(ゴトウ ジュンコ) 沼沢 さとみ(ヌマザワ サトミ)

目的 老人保健法による基本健康診査受診者のデータを用いて,死亡やがんの罹患の関連要因を検討し,高齢化社会に対応した保健指導を考えることを目的とした。
方法 対象は山形県内の2町の住民で,1993年度から2001年度の9年間に老人保健法に基づく基本健康診査を受診した実人員6,466人とし,データは,検査結果として8項目(BMI,赤血球数,血色素,総コレステロール,中性脂肪,尿酸,空腹時血糖,動脈硬化指数),問診項目として4項目(喫煙習慣,飲酒習慣,既往歴(心臓病,眼底出血,高血圧,脳卒中,がん,腎臓病,肝臓病,貧血,高脂血症,糖尿病の有無),家族歴(がん,脳卒中,高血圧,心臓病,糖尿病の有無))とした。これらの初回受診時のデータをベースラインデータとし,この受診者コホートを2002年11月30日現在の全死因死亡と2000年1月1日現在のがん罹患との発生について追跡した。この受診者をがん罹患と全死因死亡をエンドポイントとして追跡し,各要因との関連を検討した。
結果 男性では,BMIが18.5未満,空腹時血糖が126(mg/dl)以上であることが死亡のリスクを有意に高めていたが,中性脂肪150(mg/dl)以上では死亡のリスクを有意に低下させていた。女性では,有意な項目はなかった。既往歴と全死亡との関連では,男女とも高血圧治療中が死亡のリスクを有意に高めていた。がん罹患との関連では,男性は血色素18(g/dl)を超える,中性脂肪150(mg/dl)以上,心臓病の治療中が大腸がん罹患のリスクを有意に高め,女性では赤血球数450(10 /mm )を超える,総コレステロール220(mg/dl)以上,中性脂肪150(mg/dl) 以上,動脈硬化指数4.5以上が大腸がん罹患のリスクを有意に高めていた。
結論 基本健康診査の検査結果,問診項目とがん罹患および総死亡との関連を検討した結果,総死亡は高血圧の治療などとの関連があり,がん罹患は部位によってリスクファクターが違い,これらを予防していくためには,各要因の複合的な関連を示すmetabolic syndrome(代謝症候群)への指導の必要性が示唆された。今後,若年世代からの生活習慣病予防教育の展開,産業保健との連携による壮年期全体の指導体制の確立,高齢者を対象とした健診や指導の検討が課題である。
キーワード 基本健康診査,metabolic syndrome,生活習慣,累積死亡率,累積がん罹患率

 

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第53巻第2号 2006年2月

介護認定と入院を考慮した新しい健康余命とその特徴

京田 薫(キョウタ カオル) 丸谷 祐子(マルタニ ユウコ)
伊藤 美樹子(イトウ ミキコ) 早川 和生(ハヤカワ カズオ)

目的 入手可能な既存データを用いて算定が簡便な新たな地域指標を提案することを目的とし,介護認定の有無と入院受療の有無を用いた健康余命DFLE(Osaka University DFLE:OUDFLE)をSullivan法によって都道府県別に推定し,既存の健康余命との比較からその特性を検討した。
方法 健康の定義を「介護認定または入院受療の有無」と規定し,直接法によって標準化した上で,Sullivan法に基づくOU-DFLEを,性,65歳,75歳,85歳の年齢階級,都道府県別に算定した。OU-DFLEと既存の4つの健康余命との比較には,性・年齢別にKruskal-Wallisの検定を行い,ボンフェローニの不等式を用いて多重比較を行った。さらに,都道府県単位ごとに求めたOU-DFLEと4つの比較対照の健康余命を用いて,健康余命を従属変数とし平均余命で回帰させ,決定係数(R )を検討した。最後に,すべての健康余命をOU-DFLEを基準にして都道府県順位に並び替えて観察し,それぞれの健康余命の質の特性を検討した。
結果 OU-DFLEの健康余命/平均余命比は,65歳時,男性87.87%,女性89.23%,75歳時,同80.15%,84.34%,85歳時,同68.56%,80.91%と,性別では女性が大きく,男性では75歳から85歳の間で著しく低下した。また,OU-DFLEは75歳男性を除く各年齢階級において男女ともすべての既存値と有意差が認められた。次に,健康余命を従属変数とし平均余命で回帰させた結果,OU-DFLEの決定係数(R )は,4つの比較対照の健康余命と比べて男性では0.33,女性では0.42と低かった。
結論 4つの比較対照の健康余命には,相互に類似性が認められたのに対し,OU-DFLEには,女性の健康余命/平均余命比が大きく,平均余命との弁別性が高いという特徴が明らかになった。データ入手が容易で,地域の実情を反映しやすいOU-DFLEは,市町村や二次医療圏といった小規模な地域の指標として用いるのには適していると言える。
キーワード DFLE,高齢者,Sullivan法,介護保険認定,入院受療,地域指標

 

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第53巻第2号 2006年2月

福岡県における長期入院高齢者の介護保険法施行後の動向

馬場 みちえ(ババ ミチエ) 今任 拓也(イマトウ タクヤ )  馬場園 明(ババゾノ アキラ )
谷原 真一(タニハラ シンイチ) 宮崎 元伸 (ミヤザキ モトノブ)
西岡 和男 (ニシオカ カズオ) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 介護保険法施行により,高齢者の長期入院者および長期入院の医療費がどの程度低下したかを明らかにするとともに,1999年度に300日以上長期入院した者(長期入院者)の介護保険法施行後の動向について調査し,そのまま入院を継続した者と長期入院から介護施設に移動・移行した者の死亡リスクについて検討した。
方法 資料として1999~2003年度の診療報酬明細書と2000~2003年度の介護給付費請求明細書を用い,長期入院者数とその診療費を計算した。生命予後については,介護保険法施行後に介護施設に移動・移行した者,そのまま長期入院を継続した者,および対照群として特別養護老人ホーム入所者の標準化死亡比を算出し比較した。標準化死亡比は,福岡県における2001年の性別年齢階級別死亡率を基準として計算した。また,介護保険法施行後に介護施設に移動・移行した者と対照群に関しては,Coxの比例ハザードモデルを用いて,その死亡リスクについて比較した。
結果 300日以上の長期入院者は介護保険法施行後約半分に,また,全体の入院診療費に占める長期入院者の診療費は約2/3に低下した。1999年度長期入院者のうち,介護保険法施行後の2000年度には約1/3がそのまま長期入院を継続し,約1/3が介護施設に移動・移行して300日以上の長期入所者となった。1999年度長期入院者の大部分は2003年度までの5年間,病院に入院あるいは介護施設に入所し続けており,家庭復帰する者はほとんどいなかった。介護保険法施行後に介護施設に移動・移行した者の死亡リスクは対照群とほとんど変わらなかった。しかし,介護保険法施行後も長期入院を継続した者の標準化死亡比は対照群より高かった。
結論 介護保険法施行により,1999年度長期入院者のうち,約1/3の者が介護施設に移動・移行し,長期入院者は約半分に,また長期入院診療費の割合は約2/3にまで低下した。2000年度から2003年度の4年間の累積死亡率は男で61.1%,女で47.3%であった。長期入院から介護施設に移動・移行した者の死亡リスクは,当初から特別養護老人ホーム(介護施設)に入所していた者とほとんど変わらなかった。これらのことから,長期入院者の多くは,治療より生活を快適に過ごすための介護サービスが与えられるべき人たちだったと考えられる。介護保険は,こうした治療より介護が必要な長期入院者に本来必要としている介護サービスが受けられることを制度として可能にした点で評価できるのではないかと考えられた。
キーワード 高齢者,介護保険,長期入院,長期入所,死亡リスク

 

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第53巻第2号 2006年2月

WHO-FICネットワーク会議の東京開催について

首藤 健治(シュトウ ケンジ) 及川 恵美子(オイカワ エミコ) 鐘江 葉子(カネガエ ヨウコ)

はじめに
2005年10月16日~22日,厚生労働省大臣官房統計情報部が事務局となり,WHO-FICネットワーク会議が開催された。筆者らはこの会議に出席する機会を得たので,近年ますます活発な活動を行っているWHO-FICネットワークの状況と会議の概要について報告する。

 

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第53巻第2号 2006年2月

出生日を用いた標本抽出法についての一考察

髙田 崇司(タカダ タカシ) 石井 太(イシイ フトシ)

はじめに
厚生労働省では,医療施設や社会福祉施設など厚生労働行政に関係する様々な施設に対する統計調査を行っている。施設の基本的な情報については全数調査が行われることが多いが,施設の利用者などについては,全数調査ではなく,対象から一定の大きさの標本を抽出して行う標本調査が多い。この標本抽出に当たっては,まず(一定数の)施設を標本抽出した後,客体となった施設における利用者などからさらに標本抽出して調査を行う,二段抽出法がよく用いられる。このとき,施設の標本抽出は全数調査により作成された名簿があるため,これを用いて厚生労働省側で標本抽出を行うことが可能であるが,一般的に施設の利用者などは調査時点での対象者が事前に把握できないため,各施設において標本抽出を行う必要が生じる。これを行うためには,最も簡易な系統抽出法の場合でも,利用者等の名簿を整備して一定間隔で客体を抽出するなどの手間が必要になるとともに,実務的に複雑な作業を行うことから生じるミスなどによる標本の無作為性のクオリティ低下が起きる危険性がないとはいえない。
そこで,厚生労働省が実施する標本調査では,施設において利用者などを標本抽出する際,「出生日が奇数の利用者のみを客体とする」など出生日の特性を利用して標本抽出を行うという標本抽出法が採られているものがいくつかある(患者調査,社会福祉施設等調査,介護サービス施設・事業所調査,地域児童福祉事業等調査など)。このような方法を採ることにより,施設などの現場でも比較的容易に標本抽出を行うことが可能になるとともに,(後述するように,一定の条件の下で)標本の無作為性についても一定のクオリティが担保されることとなる。
ところで,標本調査には抽出された標本が全体とは異なることから生じる標本誤差があり,この標本誤差を一定の精度に管理する標本設計が必須のものとなる 。「統計行政の新たな展開方向」(平成15年6月各府省統計主管部局長等会議申合せ) の中でも,指定統計については達成誤差などの誤差情報を提供していくこととされたほか,既に情報提供している統計調査についても「その内容の充実を図ることとし,承認統計や届出統計についても指定統計に準じて情報提供を図ること」とされており,すべての官庁統計について,標本調査における誤差情報提供の一層の充実は,まさに必須の重要課題である。さて,出生日を利用した標本抽出法の理論的整理を試みようとすると次のような問題があることに気がつく。すなわち,ある調査日における利用者の出生日は,母集団において既に確定しているのであるから,施設を抽出すると同時に客体となる利用者も決定しており,利用者を標本抽出することによる確率的な変動はない。したがって,通常,誤差情報として提供を行っているsampling designによる標本誤差は,二段目の標本抽出については考えられないのではないかという問題である。この点については,平成17年患者調査(指定統計第66号)計画案の審議の場においても,「標本設計の面で,最初から生年月日の末尾でもって配り分けられるべき調査票というのが分かれてしまっているという形になっています。だから,ランダムな過程が入っていないので,(中略)たとえ全数調査をしたとしても,簡単な調査票を配った方の人については詳しい情報はわからないという形になっているわけです。(中略)ただ,恐らく調査されている項目と生年月日との間にはあまり関係はないであろうという大きな前提条件があって,その条件の下では,このように調査したとしても標本誤差の評価というのが可能になって,多分,そういう整理になると思われます」との問題提起がされている 。このように,出生日を利用した標本抽出は,通常の標本抽出とは理論的に異なった側面をもっていると考えられるが,この場合の推定量やその精度に関し,標本調査論における理論的な位置づけと,これら厚生労働省の実際の調査を直接的に関連づけて整理を行った論文はあまり多くない。本稿は,厚生労働省で実際に行われている調査に近い例を用いて,出生日を利用した標本抽出法の理論的な位置づけの整理を試みるとともに,具体的な数値シミュレーションによる評価を行ったものである。

 

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第53巻第3号 2006年3月

基本健康診査未受診の高齢者における
生命予後へのリスク要因の検討

中野 匡子(ナカノ キョウコ) 矢部 順子(ヤベ ジュンコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)

目的 老人保健法の基本健康診査未受診の高齢者の生命予後と関連する要因を明らかにし,未受診群への健康教育の重点項目を示すことを目的とした。
方法福島県須賀川市の満70歳以上の在住者から3分の1抽出した2,718人を対象とし,ベースライン調査として自記式調査票を用いた郵送アンケート調査を実施した。質問項目は,身長,体重,疾病の有無,健康度自己評価,閉じこもりの有無,Breslowの7つの健康習慣(BMI,睡眠,喫煙,飲酒,朝食,運動,間食)とした。HPI(健康習慣保有数)として,睡眠,BMI,運動,喫煙,飲酒の5習慣の得点を合計した。有効回答者2,019人(74.3%)の平成12年度の基本健診受診の有無を確認し,住民基本台帳に基づき3年4カ月間の死亡・転出状況を調査した。受診の有無とアンケート項目のクロス集計,Kaplan-Meier法による累積生存率の算出,コックスの比例ハザードモデルによる多変量解析を行った。
結果 .ベースライン調査:基本健診未受診群は,疾病がある,健康度自己評価が悪い,閉じこもり,喫煙する,運動が週1回以下の者の割合が有意に高かった。.死亡状況:累積生存率は,受診群が未受診群に対し有意に高かった。コックスの比例ハザードモデルによる解析では,受診の有無を共変量とすると,未受診群の死亡のリスクが高く,性,年齢,健康度自己評価,閉じこもりの有無,HPIに死亡と有意な関連がみられた。受診群と未受診群に分けて,年齢,性,健康度自己評価,閉じこもりの有無,疾病の有無,HPIを共変量とすると,受診群では,性,健康度自己評価が死亡と有意な関連がみられた。これに対し,未受診群では,高年齢,男性,閉じこもり,HPIが低い者が死亡のリスクが有意に高かった。HPIに代えて7つの健康習慣の各々を共変量とすると,受診群では性のみが,未受診群では,年齢,性,閉じこもりの有無,BMI,運動が有意に死亡と関連していた。受診群,未受診群ともに疾病の有無は死亡と有意な関連がなかった。
結論 .高齢者での基本健診未受診群は,受診群に比べ,生命予後,生活習慣,健康度自己評価が悪い。.未受診群の男性高齢者は,疾患があっても「良い生活習慣の複数維持,運動奨励,BMI適正化,閉じこもり予防」で死亡のリスクを減らしうる可能性があり,これらの項目について重点的な支援が必要である。
キーワード 高齢者,基本健康診査,未受診者,運動,閉じこもり,コホート研究

 

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第53巻第3号 2006年3月

北海道における他殺の疫学

西 基(ニシ モトイ) 三宅 浩次(ミヤケ ヒロツグ)

目的 北海道において1979年から2002年までの24年間に人口動態統計で「他殺」に分類された死亡につき,疫学的に検討する。
方法 北海道保健統計年報の資料から,1979年から2002年までに北海道において他殺(ICD-9基本分類E960-E969,ICD-10同X85-Y09)に分類された死亡を対象とし,解析を行った。
結果 24年間の通算で北海道の他殺による死亡は970例(人口10万対0.71),全国を標準集団とした標準化死亡比は男性96.9%,女性101.2%とほぼ全国の平均であった。殺害手段は男性が被害者の場合,刃物(男性全体の37.9%)が絞首(20.2%)の約2倍だったが,女性の場合は逆に絞首(女性全体の41.6%)が刃物(25.2%)の1.5倍以上を占めた。また,被害者の年齢が15歳未満または65歳以上では,男女とも刃物の頻度が低下し,絞首の頻度が上昇した。年齢層別では,0歳児の他殺死亡率(出生10万対7.88)は全国(4.51)より有意に高く,かつ他殺全体の11.3%(総計110人)を占め,これは全国の6.7%をはるかに上回った。他殺0歳児の56.4%は出生当日か翌日に殺害されていた。0歳児の他殺死亡率を地域別に検討したところ,札幌市で出生10万対8.88と,札幌市以外の地域(7.44)と比較して高かった。遺棄により殺害された割合が札幌市で有意に高く(42.1%対23.6%),これが同市の0歳児他殺死亡率を押し上げる要因となっていた。0歳児他殺は3月中旬・4月下旬・8月上旬に多かった。
結論 性と年齢による殺害手段の相違は,抵抗力の強弱が凶器を用いるか否かに結びついた結果と考えられた。寒冷な自然条件と大都会での人間関係の希薄さが,児が死んでいく様子を見ずに済む方法である遺棄による殺害を決意させる要因となっている可能性も考えられた。0歳児殺害は卒業・大型連休・お盆などで祖父母などに会う時期の直前に多いと言え,不本意な妊娠の処理手段として児殺害が選択されている場合が多いと推測された。
キーワード 他殺,疫学,嬰児殺害,手段

 

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第53巻第3号 2006年3月

Zarit介護負担尺度日本語版の短縮版
(J-ZBI-8Y)における妥当性と信頼性の追試

上村 奈美(ウエムラ ナミ)  新田 静江(ニッタ シズエ) 飯島 純夫(イイジマ スミオ)
望月 紀子(モチヅキ ノリコ) 清水 祐子(シミズ ユウコ) 佐田 知子(サダ トモコ)

目的 在宅介護の実践で,家族介護者の負担感を的確に把握するために活用しうる妥当な質問項目を提言していくために,Zarit介護負担尺度日本語版の短縮版の妥当性と信頼性の追試を行うことである。
方法 居宅サービス利用高齢者と同居し,家族介護者と自己認識している222名を対象とし,調査票を用いた個別面接にてデータを収集した。分析には,最尤法Varimax回転にて因子分析を行い,選択した項目の妥当性(構成概念妥当性・併存的妥当性)と信頼性(内的整合性)を確認し,確証的因子分析(因子的妥当性)のために共分散構造分析を行った。
結果 因子分析にて抽出された第1因子(role strain)から5項目と第2因子(personal strain)から3項目の計8項目を選択し,短縮版(J-ZBI-8Y)とした。妥当性は,構成概念妥当性として,家族介護者が健康であると認識しているほど負担感得点は低く,J-ZBIJ-ZBI-8Yのいずれでも有意差がみられた。また,就業している場合の負担感得点は高くJ-ZBIJ-ZBI-8Yで有意差がみられたが,その他の概要(高齢者の性別・年齢・介護区分,家族介護者の性別・続柄・副介護者の有無)には有意差はみられなかった。併存的妥当性を示すJ-ZBIJ-ZBIの項目22とJ-ZBI-8Y間の相関は0.90,0.63であった。J-ZBI-8Yの共分散構造分析の結果,モデルの適合度は十分であり(CFI0.99),信頼性を示すα係数は,0.84であった。
結論 J-ZBI-8Yは,構成概念妥当性,併存的妥当性,確証的因子分析による因子的妥当性と信頼性が確認され,既存の短縮版(J-ZBI 8)と同様に短縮版として有用であると考える。J-ZBI-8YJ-ZBI 8において一致して抽出された項目は,personal strainで3項目とrole strainで2項目の合計5項目であり,これらは負担感を測定するJ-ZBIの短縮版作成には,不可欠な項目と推察される。今後は,J-ZBI-8Yで抽出された項目とJ-ZBI 8で抽出された項目との相違の検証が課題である。
キーワード 要介護高齢者,介護負担尺度,家族介護者,因子分析,妥当性,信頼性

 

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第53巻第3号 2006年3月

富山県における花粉症発症に関連する
生活習慣と環境要因の疫学的横断研究

内田 満夫(ウチダ ミツオ)  寺西 秀豊(テラニシ ヒデトヨ) 加藤 輝隆(カトウ テルタカ)
 稲寺 秀邦(イナデラ ヒデクニ)

目的 富山県において,花粉症に影響すると予想される生活習慣と環境因子について横断的に調査し,統計学的に検討して発症予防につなげる。
方法 平成16年の8月から12月,富山県の市町村保健センター25カ所の協力を得て,センター職員と来所者を対象に自己記入式アンケートを実施した。質問内容は,住所,回答者を含む家族全員の性別,年齢,職業,花粉症の診断歴,毎年の花粉症発症月,現喫煙習慣,回答者本人のストレス度,運動習慣,ペットの所持,自宅の気密性と道路までの距離,食習慣としてインスタント食品,コンビニエンスストアの弁当,スナック菓子,肉類,魚介類,野菜類,卵大豆類,乳製品などの摂取頻度とした。また環境因子として平成16年の空中花粉飛散数,気温,風速,日照時間,降水量,森林面積,大気汚染データ,居住地の海岸線からの距離について検討した。
結果 アンケート回答者は1,341人,家族を含めた全対象者は4,468人であった。花粉症有病者は,回答者では212人(15.8%),全対象者では532人(11.9%)であった。月別空中花粉飛散数と月別発症数の間に有意な相関を認めた(r0.884,P0.005)。花粉症有病者については性差がなかったが,年齢差(P0.0001),職業差(P0.0001)が認められた。生活習慣では,ストレス度(P0.01),ペットの所持(P0.05),インスタント食品(P0.005)において有意な差を認めた。環境因子では,居住地の海岸線からの距離において有意な差を認めた(P0.001)。
結論 ストレスの増加,ペットの所持,インスタント食品の摂取,居住地の海岸線からの距離の項目に花粉症有病率と有意な関係を確認した。これらの生活習慣や環境因子をコントロールすることが花粉症予防につながると期待される。
キーワード 花粉症,生活習慣,環境,横断調査

 

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第53巻第3号 2006年3月

サテライトケアが要介護高齢者の精神機能に及ぼす影響

池田 志保子(イケダ シホコ)

目的 認知症高齢者の施設ケアでは,より在宅生活に近い居住環境を整えた「ユニットケア」に代表される,個別ケアが重視されているものの,こうした小規模集団ケアと従来の大規模集団ケアの比較先行研究は少ない。筆者らは,本体施設から離れた場所にある民家をサテライトケア拠点(「海の家」)と位置づけ,個別性を重視したケアを実施している。この「海の家」は,施設入所者が施設外のケア施設に通う点からみて「逆デイサービス」ともいえる。この「海の家」によるケア提供が精神機能へ与える影響を検討することにより,小規模集団ケアの有効性を考察する。
方法 特別養護老人ホーム(特養)7名,老人保健施設(老健)10名,グループホーム(GH)7名の合計24名に対し,月に1~2回(計8回程度),「海の家」において昼食作りや趣味活動など,個別性の高いケアを実施した。介入前後の精神機能の評価は精神機能障害評価票(MENFIS)によって行った。
結果 全体では動機づけ機能において有意な改善を認めたが,認知機能には改善は認められなかった。施設間の比較では,老健と特養において全機能合計得点に改善傾向がうかがわれるものの,GHではむしろ増悪傾向がみられた。
結論 「海の家」での個別性を重視したケアによって,MENFISにおける動機づけ機能が改善し,小規模集団によるケアにおける意欲賦活効果が示唆された。なお,GH群においてMENFISの増悪がみられた理由としては,居住するGHと「海の家」が環境として類似しており,GHと「海の家」を行き来することから生じる,地誌的要因によって混乱をきたしたと考えられた。しかしながら,「海の家」が他施設群にとっては良好な影響を与えることからみると,逆説的には,GHにはすでに認知症高齢者の生活環境として良好な条件が備えられているとも考えられる。これは,小規模集団によるケア提供の有効性の傍証になるものと思われた。
キーワード サテライトケア,逆デイサービス,小規模ケア,認知症,MENFIS,精神機能

 

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第53巻第4号 2006年4月

介護予防施策における対象者抽出の課題

佐川 和彦(サガワ カズヒコ)

目的 小児科を取り巻く環境の変化がかなり大きくない限り,病院はその廃止や開設については二の足を踏み,現状維持のままを選ぶであろう。しかし,それが一定の限度を超えた場合には,廃止あるいは開設に踏み切ると想定できる。本稿では,このような行動パターンが実際に存在するかどうかを検証する。
方法 都道府県単位で集計した小児科を標榜する一般病院数を分析の対象とし,1990年以降の期間を3年ごとに区切って,それぞれの期間中の各都道府県における変化率を調べた。環境の変化に対して,病院が滑らかに行動を変化させているのではなく,摩擦(フリクション)が生じて実際の行動の変化がおこりにくくなっていることを説明するために,フリクションモデルを応用した。
結果 各都道府県で小児科を標榜する一般病院数を変動させるような環境の変化がおこったとしても,1990~1993年についてはその変動の大きさが±1.34%の範囲内であるならばフリクションが生じ,実際には小児科を標榜する一般病院数は変動しなかった。この範囲を超えたところから実際の変動が始まった。1993~1996年についてはこのような範囲が±0.767%に狭まったが,これ以降の期間はその範囲が拡大し,変動がおこりにくくなった。
結論 病院が小児科の廃止や開設を検討するような事態に至ったときに,フリクションモデルが想定するような行動パターンをとっている可能性は高い。
キーワード 少子化,小児科を標榜する一般病院,フリクションモデル

 

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第53巻第4号 2006年4月

日本における死因構造の推移(1950~2000)

-平均寿命の性差への寄与-
吉永 一彦(ヨシナガ カズヒコ) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 戦後,日本の平均寿命の伸長は目覚しく,これに伴いその性差も拡大し,1950年で3.50年,1970年では5.35年,1980年で5.41年,2000年では6.88年といずれも女性の方が長い。その性差の推移について年齢分布と主要な死因構造の差異から観察する。
方法 年次ごとにJ.H.Pollard法により,平均寿命の性差の年数を年齢階級および各主要死因による寄与年数に分割する。
結果 平均寿命の性差への寄与年数は,1950年では結核0.54年,脳血管疾患0.38年,不慮の事故0.76年であり,1970年では結核0.24年,悪性新生物0.83年,脳血管疾患1.30年,不慮の事故1.15年となり結核の寄与が減少し,悪性新生物と脳血管疾患は増大した。1980年では悪性新生物がさらに増大し1.31年,脳血管疾患0.86年,不慮の事故0.69年である。2000年では悪性新生物が大きく突出して2.24年,虚血性心疾患0.51年,脳血管疾患0.62年,肺炎0.65年,不慮の事故0.57年,自殺0.51年でほぼ同程度である。年齢層では65~74歳をピークとした55歳以降の中高齢層での格差が大きく,年次とともにそれらはより顕著になり,また高齢へとシフトしている。また,20歳前後の寄与もやや大きい。
結論 平均寿命の性差の背景として,1950~1970年では結核,不慮の事故および脳血管疾患による寄与が大きく,その後,特に1980年以降では悪性新生物による寄与が急激に増大し,今後の性差の推移に大きな影響を与えると思われる。また,年齢層では20歳前後の不慮の事故と特に55歳以降の中高齢層での格差が拡大し,さらに高齢へとシフトしている。しかしながら,1999年以降,格差の伸びが急速に減衰している。その推移についてはまだ資料不足のため今後の課題とするが,この現象は今後の男女の寿命および性差の予測を困難にしている。
キーワード 平均寿命,性差,寄与年数,主要死因別死亡率

 

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第53巻第4号 2006年4月

歯科医療関係者の法に基づいて
行われる届出状況について

-歯科・医科大学病院に対する調査-
末高 武彦(スエタカ タケヒコ) 石井 瑞樹(イシイ ミズキ) 長谷川 優(ハセガワ ユウ)

目的 医師・歯科医師・薬剤師調査における歯科医師の届出率は,若年齢の者において低いと報告されている。また,この届出は多くが医療施設を介して行われているが,その実態は明らかでないことから,若年齢の歯科医師が多く勤務する大学附属病院での届出に関する実態,その問題点を明らかにする。
方法 2005年2月に歯科・医科大学附属病院92施設を対象として,著者らが作成した調査票を郵送法で送付し,届出票の入手ルート,病院内での回収方法,保健所への提出率などについて調査を行った。
結果 調査票の回答施設数(率)は74(80%)であった。届出票はそのほとんどを保健所から入手しているが,必要枚数を入手できたのは半数ほどの施設であった。歯科医療関係者から届出票を回収する際には81%の病院が「催促して」提出率向上に努めている。100%提出している病院は,歯科医師分80%,臨床研修歯科医師分91%,歯科衛生士分88%,歯科技工士分92%であり,「催促している」病院で多い。
結論 歯科医療関係者の届出票はその入手から提出まで保健所と病院との協力関係で行われており,病院に多くの人手をわずらわせている。保健所への提出率を高めるには,保健所から病院に必要枚数を送付し,病院は催促して届出票を回収する手間が必要である。また,歯科医師臨床研修が必修化する際には,臨床研修歯科医師に対する教育での徹底も重要である。
キーワード 医師・歯科医師・薬剤師調査,届出票

 

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第53巻第4号 2006年4月

老人保健福祉計画で用いられる健康指標の活用と
地域保健情報システムに関する研究

-特定高齢者と要支援高齢者の階層的な関係の検証-
北澤 健文(キタザワ タケフミ) 北島 勉(キタジマ ツトム) 野山 修(ノヤマ オサム)

目的 近年,保健所や地方衛生研究所が中心となって,地域保健情報システムが構築されつつある。本研究では,老人保健福祉計画(介護保険事業計画を含む)で用いられる健康指標の活用について,市町村,保健所,地方衛生研究所の間で,情報の提供と分析に関する支援関係は確立されているのかについて調査した。
方法 2002年9月,東京都と神奈川県の90区市町村の老人保健福祉計画担当者,73保健所の保健情報担当者を対象として郵送法でアンケート調査を行った。区市町村には,計画作成過程における健康指標の使用状況と今後の意向を聞き,保健所には,重要な死亡指標の算出や,高齢者に関する調査の実施状況などを聞いた。また,両都県における人口動態統計表の還元方法や,地方衛生研究所の機能についてヒアリング調査を行った。
結果 アンケートの回収率は区市町61.1%,保健所67.1%であった。区市町が健康指標を使用した割合は,介護保険や社会参加など(50%以上),老人医療費やがん検診の有所見割合など(25~50%),医療施設数や老人の死亡統計(25%未満)で,保健所が扱う健康指標の使用割合が最も小さかった。しかし,使用する健康指標を拡充する必要があるとする区市町は80.0%であった。健康指標の分析で県型保健所の支援を受けた例は1件だけであったが,保健所の支援を今後は希望するという回答は60.0%であった。保健所が行った分析は,老人保健事業に関するものが最も多く(58.3%),管内の年齢調整死亡率などの算出は半数以下(43.8%)であった。これらの分析実施は,管内自治体からの問い合わせの有無と関連していた。これらの分析で,地方衛生研究所と協力した例はなかった。人口動態統計の死亡データは,都県レベルでは,性・年齢階級・死因別の死亡数が公表されていた。区市町村レベルでは,東京都は,性・年齢階級・主要死因別の死亡数を公表していた。神奈川県はそれを公表しておらず,各保健所が指定統計の目的外使用の手続きをする必要があった。
結論 市町村は,老人保健福祉計画で種々の健康指標を活用することに積極的であり,その過半数が保健所の支援を望んでいた。保健所が管内高齢者の死亡統計を活用するためには,区市町村の死亡データを経年的・電子的に維持・管理する方法を確立する必要がある。そのためには市町村,保健所,地方衛生研究所それぞれの役割と機能を明確にした地域保健情報システムを確立し,制度面からそれを支援する必要があると考えられる。
キーワード 老人保健福祉計画,健康指標,市町村支援,保健所,地方衛生研究所

 

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第53巻第4号 2006年4月

日本人高齢者における身体機能の
縦断的・横断的変化に関する研究

-高齢者は若返っているか?-
鈴木 隆雄 (スズキ タカオ) 權  珍嬉(クォン ジンヒ)

目的 同一の地域に在住する高齢者(65歳以上)に対する長期縦断研究から,特に身体機能について1992年,1998年,2002年のコホートのデータを用い,1)1992年の高齢者コホートにおける10年間の加齢変化,2)1992年と1998年の高齢者コホートにおける4年間の加齢変化の比較,3)1992年と2002年の高齢者コホートにおける横断的比較,4)2002年の高齢者コホートは1992年コホートのいずれの年齢階層と相同の分布を示すか,の4点について検証を行う。
方法 東京都老人総合研究所が1991年から継続して行っている「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」(TMIG-LISA)のフィールドのひとつである秋田県南外村(現:大仙市南外地区)における65歳以上の地域在宅高齢者を研究対象者とした。1992年の初回調査時における対象者は748名(男性300名,女性448名)であり,2002年の調査時には1,327名(男性549名,女性778名)である。TMIG-LISA<4SP>は会場に招待しての医学調査と面接調査からなっているが,今回の分析では,高齢者の生活機能を規定する重要な要因のひとつである身体的運動能力(握力,開眼片脚起立時間,通常歩行速度,最大歩行速度)と栄養学的指標(BMI,血清アルブミン,血清総コレステロール)の7項目について分析した。
結果 1)1992年の高齢者コホートにおける10年間の加齢変化については,男女とも前期および後期高齢者での変化のパターンはほぼ同じ状態を示していたが,後期高齢者での低下がより明瞭であった。2)1992年と1998年の高齢者コホートにおける4年間の加齢変化の比較については,(血清アルブミンと血清総コレステロールを除き)両群ともほぼ等しい変化パターンを示し,4年間で有意な低下を示す項目が多かった。3)1992年と2002年の高齢者コホートの横断的比較では,男女とも2002年コホートで有意に高値を示す項目が多く,運動機能,栄養指標ともに2002年コホートで著しく向上していることが明らかとなった。4)2002年の高齢者コホートは1992年コホートのいずれの年齢階層と相同の分布を示すかを分散と平均値から検証した場合,1992年コホートに相等する分布を示すのは,測定項目により異なるが男性で(最小)69歳以上から(最大)76歳以上となり,女性では(最小)68歳以上から(最大)76歳以上となっていた。
結論 地域在宅高齢者における最近10カ年の身体機能の加齢変化を示した。一般に前期高齢者に比べ,後期高齢者での機能の減衰がより大きいことが示された。また1992年の高齢者コホートと2002年の高齢者コホートを比較した場合,後者では最小で3歳から最大で11歳の分布のズレが認められ,いわば相当の若返りが認められた。少なくともわが国の高齢者は平均寿命の延伸とともに,身体機能は改善・向上していることが示唆された。
キーワード 地域高齢者,縦断研究,横断的比較,若返り

 

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第53巻第5号 2006年5月

住民参加型の保健福祉活動の推進に向けた
コミュニティ・エンパワメントのニーズに関する研究

杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 住民と保健福祉専門職に対するフォーカス・グループインタビュー(グループインタビュー)を実施し,コミュニティ・エンパワメントに関するニーズを質的に把握し,住民参加型の保健福祉活動の推進への一助とすることを目的とした。
方法 大都市近郊農村T自治体住民と保健福祉専門職4グループに対するグループインタビューを実施した。対象の内訳は男性14名,女性15名,合計29名で,年齢は3070歳代,内容はコミュニティ・エンパワメントのニーズであった。各グループのインタビューから得られた結果をカテゴリー化し,その共通点,相違点,背景要因に注目してコミュニティ・エンパワメントのニーズを抽出し,特性を分析した。
結果 地域エンパワメントの条件は「個の領域」「相互の領域」「地域システムの領域」の3つに分類された。主要な要件は「地域の魅力化」「安心・安全なシステムづくり」「地域で支え合う人材育成」「情報支援の充実」の4点であった。
結論 コミュニティ・エンパワメントに関する住民と専門職の生の声を質的に分析した結果,今後さらに住民と専門職が協働してサービス企画や運営に関わる体制作りの重要性が示された。そのためには,住民リーダーの育成や専門職のコミュニティ・エンパワメント技術,コーディネート技術の向上に向けた教育システムの構築が期待される。
キーワード コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,ニーズ,健康長寿,住民参加

 

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第53巻第5号 2006年5月

福岡県の一般診療所・歯科診療所の
地理的分布の地域格差とその推移

山本 武志(ヤマモト タケシ)

目的 医師の地理的分布の地域格差については,諸外国においても医療政策上重要な課題とされており,分布の平等性に関する多くの研究がみられる。わが国では一般診療所・歯科診療所は年々増加の傾向にあるが,診療所数の増加は地域格差を逆に拡大させる可能性もある。本研究では診療所の地理的分布の平等性について,福岡県の15年間の推移について検証した。
方法 一般診療所数・歯科診療所数は,医療施設調査(厚生労働省)から福岡県内の全市区町村の1985年,1990年,1995年,2000年の15年間,4時点のデータを用い,人口10万人対診療所数の変動係数およびジニ係数を算出し,ローレンツ曲線を描いた。また,市区町村の人口規模別に人口10万人対診療所数の推移を分析した。
結果 人口10万人対診療所数のジニ係数の値は,一般診療所が0.2111985年)から0.2122000年)へと横ばいだったが,歯科診療所は0.2711985年)から0.2092000年)へと減少しており,市区町村間格差が縮小していた。自治体規模による比較では都鄙(とひ,都会と田舎)間の格差が縮小する傾向がみられ,一般診療所では,人口規模が小さい市区町村において30%を超える増加が認められ,歯科診療所では,人口規模の大きい市区町村において伸びが小さかった。ただし,人口規模が小さい自治体では人口減の影響が大きいと推測された。
結論 福岡県の診療所の地理的分布はおおむね平等な状態が保たれており,歯科診療所については15年間で地理的分布の格差が縮小していた。一般診療所については,市区町村間での格差の変動はみられなかったが,小規模自治体ではとくに人口10万人対診療所数が増加していた。ただし,人口減による影響が認められるため,長期的な観点から診療所医療の需給の動向を見守る必要性がある。
キーワード 一般診療所,歯科診療所,地理的分布,ジニ係数

 

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第53巻第5号 2006年5月

生活保護現業員の困難経験とその改善に関する研究

-負担感・自立支援の自己評価を中心に-
森川 美絵(モリカワ ミエ) 増田 雅暢(マスダ マサノブ) 栗田 仁子(クリタ ジンコ)
原田 啓一郎(ハラダ ケイイチロウ) 谷川 ひとみ(タニガワ ヒトミ)

目的 本稿の目的は,生活保護制度における援助業務の困難状況を,生活保護担当の現業員の意識の面から,業務の実施体制と関連づけて計量的に把握するとともに,業務の実施体制という位相における困難改善のあり方を検討することにある。
方法 国内の全福祉事務所(平成1512月1日時点,1,240カ所)につき1名の生活保護担当現業員を対象に,「業務全般への負担感」と「自立助長の援助に対する自己評価」からなる概括的な業務困難意識と,意識の下位側面(業務量,ケース特性,現業員特性,組織的支援)の構成を尋ねた(自記式郵送調査,有効回答率57.5%)。負担感と自己評価の構成要素のうち,実施体制にかかわる要素である業務量,専門性について,対応する客観的変数(1人当たり担当ケース数,経験年数,所持資格)と,負担感および自立助長援助の自己評価との関連を,クロス集計により分析した。
結果 負担感が高い場合は,業務量過多という認識が強く,専門性不足という認識は弱かったのに対し,負担感が低い場合は,業務量過多の認識は低く,専門性不足の認識が強かった。「非常に負担」の割合は,担当ケース数別では,91以上で46.1%,50以下で24.7%であり,経験年数別では,5年以上10年未満で40.3%,2年未満では34.7%であった。自立助長の援助が「不十分」な理由は,主に,担当ケースが多く十分なかかわりがもてないことや,相談援助の専門性が不足していることであった。担当ケース数が91以上の場合,援助「不十分」の割合は77.7%,「不十分」な理由として「援助方針が不明確」に同意した者が44.3%に達した。また,社会福祉士資格を持つ者は,援助の自己評価が低かった。
結論 1人当たりの担当ケース数が90を超える場合,援助を振り返る余裕もなく,援助関係作りや援助方針の設定も困難になっていた。また,新任職員のみならず中堅層職員が多様な負担要素を抱えている可能性,社会福祉士が低い自己評価にさいなまれる可能性が示唆された。実施体制という側面から現業員の困難状況を改善するためには,現業員が援助について振り返るゆとりの確保,業務量軽減への本格的対応,中堅層を含めた支援の整備,援助実践の評価基準の共有化,という視点が重要である。
キーワード 生活保護,福祉事務所,現業員(ケースワーカー),負担感,自立助長,評価

 

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第53巻第5号 2006年5月

高齢化社会時代の死亡率の年次変化に関する考察

牧野 国義(マキノ クニヨシ)

目的 高齢化社会が高齢社会へと進行する中で,高齢者への健康対策が重視されている。その指標の一つである死亡率について,通常,経年変化による増減が判断材料とされてきた。しかし,本来,死亡率の年次変化の検討は同一集団で行う必要があるが,現実には異なってくる。そこで,基準年を設定し,その死亡傾向が継続するとしたとき,実際の死亡傾向とどのように異なるかを検討し,高齢者への健康対策の評価に資することを目的とした。
方法 わが国の年齢調整死亡率の基礎となる昭和60年(1985年)を基準年として,以降もこの年における年齢階級別死亡率を一定とした人口集団を考えた。5歳ごとの年齢階級では,1990年,1995年,2000年の年齢階級では1つずつ上の階級へ移行する。もし,上記年齢階級別死亡率が一定であると,その後の人口集団は実際とは異なった集団となる。このときに,その主要死因における死亡率(仮定死亡率)を実際の死亡率と比較し,その相違について検討した。
結果 19852000年における5年ごとの50歳以上の人口変化は,男女とも全年齢階級が増加傾向で,年齢階級別の死亡数分布は高齢者ほど近年に増加した。人口変化を仮定人口と比較すると,仮定人口でも増加傾向にはあるが,85歳以上の高齢者人口の増加が著しかった。主要死因別にみると,悪性新生物では,粗死亡率は実際の死亡率の方が男女とも上昇傾向が著しかったが,女子の年齢調整死亡率については,実際の死亡率の方が仮定死亡率より低く,上昇傾向にもなかった。心疾患や脳血管疾患について,仮定死亡率は粗死亡率,年齢調整死亡率の男女とも上昇傾向,実際の死亡率は年齢調整死亡率が男女とも低下傾向であった。肺炎について,粗死亡率では男女とも実際の死亡率の方が上昇が著しかった。一方,年齢調整死亡率では1990年には両死亡率に差がなかったが,2000年には実際の死亡率が仮定の死亡率よりも低下した。肝疾患については,男女の粗死亡率,年齢調整死亡率とも,仮定死亡率は上昇傾向,実際の死亡率は低下傾向を示した。不慮の事故,自殺については,いずれも顕著な傾向がなく,実際と仮定の両死亡率間でも明確な相違は認められなかった。
結論 女子の悪性新生物や男女の心疾患,脳血管疾患,肝疾患の死亡については,1985年の時点に比べてわが国の健康対策に効果のあったことが推察された。肺炎については効果は1995年以降に認められた。一方,不慮の事故,自殺においては1985年の時点と変化の傾向が明確でないために効果が明らかでなく,死因により効果の違いが推察された。
キーワード 高齢者,死亡率,経年変化,人口変化

 

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第53巻第5号 2006年5月

受療状況が要介護認定率の地域差に及ぼす影響

中村 秀恒(ナカムラ ヒデチカ)

目的 介護給付費と強い相関のある要介護認定率には都道府県格差があり,特に軽度要介護認定率において地域格差が大きいが,生活習慣病は高齢期以前にも発症し後遺症を残すなど,後の高齢期における要介護状態のリスクとなると考えられ,要介護認定率の地域格差に影響を及ぼしている可能性が考えられることから,生活習慣病の患者の多さを表す指標の1つである高齢期前の受療率や要介護認定率に影響を与えると考えられるその他の要因について,要介護認定率との相関を調べ,地域格差の要因について明らかにすることを目的とした。
方法 要介護認定率の地域格差に影響を及ぼすと考えられる要因として,病床数,介護保険3施設数・定員数,居宅介護サービス登録数,高齢単身者割合,2次判定変更率について,都道府県別の軽度・重度要介護認定率との相関を検討した。次に,厚生労働省「患者調査」から,要介護状態に結びつく可能性の高い傷病大分類(新生物,精神障害,循環器系の疾患,高血圧性疾患,虚血性心疾患,脳血管疾患,筋骨格系疾患,糖尿病,骨折)について,調査7回分平均の受療率(65歳未満)と都道府県別の軽度・重度認定率との相関を検討した。
結果 軽度要介護認定率については,施設関連の指標,居宅介護サービス登録数の一部,高齢者単身者割合,2次判定軽度変更率,外来受療率(総数,新生物,糖尿病),入院受療率(高血圧性疾患,糖尿病)と正の相関が,2次判定重度変更率と負の相関がみられた。重度要介護認定率については,外来受療率(新生物,精神障害,循環器系の疾患,高血圧性疾患,脳血管疾患),入院受療率(総数,新生物,循環器系の疾患,高血圧性疾患,脳血管疾患,筋骨格系疾患,糖尿病)と正の相関が,居宅介護サービス登録数のうちでショートステイ(医療)のみと負の相関がみられた。重度要介護認定率と入院受療率(循環器系の疾患,脳血管疾患)でやや強い相関関係がみられた。
結論 要介護認定率の地域差について,軽度要介護認定率についてはサービス供給状況,申請率,審査判定,単身,受療率などの人為的因子や社会背景などの違いが要因の可能性として考えられたが,重度要介護認定率については違う要因が考えられ,高齢期以前の循環器系の疾患や脳血管疾患などの生活習慣病の発生・悪化によって影響を受ける可能性があると考えられた。また,要介護者の増加や重度化を防ぐためには,高齢者に対する介護予防事業のほかに,高齢期以前の生活習慣病の発症予防や重症化予防のための対策の有効性が示唆された。
キーワード 要介護認定率,受療率,地域格差,介護保険,生活習慣病,介護予防

 

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第53巻第6号 2006年6月

高次脳機能障害と社会福祉施設の利用に関する研究

進士 恵実(シンジ メグミ) 中村 考一(ナカムラ コウイチ) 寺島 彰(テラシマ アキラ)

目的 高次脳機能障害とは,頭部外傷や脳血管障害などによる脳の損傷の後遺症として記憶障害や遂行機能障害などが起きることである。本研究では,全国の社会福祉施設を利用している高次脳機能障害者の現状や具体的な支援の内容を検討した。
方法 一次調査では,全国の身体障害または精神障害施設(計428施設)に対して高次脳機能障害者の有無と人数,施設概要などに関する調査票を郵送した。次に,一次調査において高次脳機能障害のある人がいると答えた施設に対する二次調査として,その高次脳機能障害者1人1人に関する属性や支援内容などに関する調査票を郵送した。
結果 一次調査では294施設から調査票を回収した(回収率69%)。高次脳機能障害者がいると答えた施設は218施設,いないと答えた施設は76施設であった。高次脳機能障害者がいると答えた218施設中,20人未満の施設が139施設であった。入所と通所の合計利用人数に占める高次脳機能障害者の割合が0~19%の施設は82施設(38%),20~39%の施設は66施設(30%)であった。二次調査では,一次調査において高次脳機能障害者がいると答えた施設の対象者(2,553名)中,1,235名から回答が得られた。施設で実施されている様々な支援に関して,支援の必要な人の割合を施設別に検討したところ,更生施設では「金銭管理」「服薬」「訓練・作業に関する動機付け」において割合が高かった。授産施設のうち,身体障害者通所授産施設と重度身体障害者授産施設では「訓練・作業に関する動機付け」に関する支援が多く必要とされ,重度身体障害者授産施設と身体障害者授産施設では「服薬」などの健康管理に関する項目と「金銭管理」に関して支援が多く必要とされていた。身体障害者療護施設では,身体介助や生活援助や健康管理の多くの項目で支援を必要としている人が多かった。
結論 わが国において高次脳機能障害のある人が既に様々な施設で支援を受けている状況が明らかになった。また,当事者のコミュニケーションスキルや発動性を高めるための支援や服薬管理を中心とする健康管理が必要とされていることが明らかになった。
キーワード 高次脳機能障害,社会福祉施設,支援内容

 

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第53巻第6号 2006年6月

保育園を利用する2歳児の発達・社会適応・
問題行動・健康状態への複合的な関連要因

-母親のストレスに焦点をあてて-
丸山 昭子(マルヤマ アキコ) 大関 武彦(オオゼキ タケヒコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 保育園を利用する2歳児の発達・社会適応・問題行動・健康状態について,母親のストレスに焦点をあてて,保育サービスの特性,育児環境,インフォーマルサポート,保護者の特性,子どもの特性の複合的な関連を明らかにする。
方法 全国の認可保育園87カ所において,保護者と園児の担当保育専門職に質問紙調査を実施し,両者のデータが揃った2歳児394名を分析対象とした。
結果 (1)母親のストレスと有意な関連が認められた項目は,育児環境の「本を読み聞かせる機会」「子どもをたたく頻度」「知人との交流の機会」,インフォーマルサポートの「育児相談者の有無」「配偶者と子どもの話をする機会」,保護者の特性の「育児に対する自信」,子どもの特性の「きょうだいの有無」であり,ストレス高群に育児環境,インフォーマルサポート,育児に対する自信におけるリスクの割合が多かった。きょうだいにおいては,ストレス非高群に一人っ子が多かった。(2)性別調整後の関連要因は,「保育時間」が11時間以上の場合に「理解」のリスクが0.3倍,「入園年齢」が1歳未満の場合に「対人技術」のリスクが0.4倍,「コミュニケ-ション」のリスクが0.2倍,「理解」のリスクが0.4倍,「一緒に遊ぶ機会」がめったにない場合に「粗大運動」のリスクが39.7倍,「一緒に歌う機会」がめったにない場合に「生活リズムの乱れ」のリスクが15.5倍,「配偶者の育児協力」がめったにない場合に「対人技術」のリスクが3.7倍,「微細運動」のリスクが4.3倍,「育児相談者」がいない場合に「対人技術」のリスクが10.2倍,「育児支援者」がいない場合に「対人技術」のリスクが2.9倍,有意に高くなる関連を示した。(3)多重ロジスティック回帰分析では,1歳以上の入園を1とした場合,1歳未満の入園では「生活技術」のリスクは0.1倍,「対人技術」のリスクは0.3倍,「コミュニケーション」のリスクは0.2倍,「理解」のリスクは0.4倍であった。きょうだいがいる場合を1とした場合,一人っ子では「対人技術」のリスクは0.4倍,育児相談者がいる場合を1とすると,いない場合は「対人技術」のリスクは12.4倍であった。また,子どもと一緒に歌を歌う機会がある場合を1とすると,めったにない場合では「生活リズムの乱れ」のリスクは13.6倍であった。
結論 母親のストレスには,育児環境やインフォーマルサポート,育児に対する自信,子どものきょうだいの有無と強い関連がみられた。複合分析では,保育の特性の入園年齢や子どもの特性のきょうだいの有無,インフォーマルサポート,育児環境の人的かかわりが,子どもの発達や健康状態に強く関連していたことから,子育て支援においては,相談機能の充実に加え,バラエティに富むかかわりが持てるような育児環境の整備や育児に対する自信が持てるよう,母親のストレス軽減に向けた援助が必要である。
キーワード 子どもの発達,母親のストレス,育児環境,育児に対する自信,保育サービス

 

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第53巻第6号 2006年6月

2005/06年シーズンにおける
インフルエンザワクチンの需要予測

延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ)
三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 中井 清人(ナカイ キヨヒト)

目的 インフルエンザワクチンの計画的な供給に資することを目的として,2005/06年シーズンのインフルエンザワクチンの需要予測を行った。
方法 インフルエンザワクチン供給に実績のある医療機関など5,083施設を対象として,2004/05年シーズンのインフルエンザワクチンの購入本数,使用本数,接種状況および2005/06年シーズンの接種見込人数について調査を行い,2005/06年シーズンのインフルエンザワクチン需要見込本数の推計を行った。
結果 2005/06年シーズンのインフルエンザワクチン需要は,約2087万本から約2155万本と推計された。
結論 2005/06年シーズンのワクチンメーカーの製造予定数は最大で2150万本であり,ほぼ需要に見合う量の供給が行われるものと推測された。
キーワード インフルエンザワクチン,需要予測

 

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第53巻第6号 2006年6月

介護職員に起因するストレスが施設高齢者の
精神的健康に与える影響

桐野 匡史(キリノ マサフミ) 柳 漢守(ユ ハンス) 濵口 晋(ハマグチ ススム)
矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 金 貞淑(キム チョンシュク) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 施設高齢者に対する精神保健的なアプローチの確立に向けた基礎的資料を得ることをねらいに,介護職員に起因するストレスが施設高齢者の精神的健康に与える影響を検討する。
方法 調査対象は,S県内の介護老人保健施設51カ所と介護老人福祉施設13カ所に入居している高齢者のうち,施設職員によって自記式質問紙に回答できると判断された296人であった。調査内容は,施設高齢者の性,年齢,施設利用年数,介護職員に起因するストレス,精神的健康で構成した。介護職員に起因するストレスは,著者らが独自に作成した15項目で測定した。精神的健康の測定には,抑うつ性尺度であるZung's Self-Rating Depression Scale(SDS)を使用した。統計解析は,介護職員に起因するストレスを独立変数,精神的健康(抑うつ性)を従属変数とする因果関係モデルを構築し,構造方程式モデリングにより検討した。
結果 介護職員に起因するストレスは,施設高齢者の抑うつ性と強く関連することが明らかになった。また,施設高齢者の性,年齢,施設利用年数,介護職員に起因するストレスの抑うつ性に対する説明率は56.7%であった。
結論 介護職員によるストレスの軽減,すなわち施設高齢者に対する精神保健上の配慮が介護職員においてより強く望まれることが示唆された。施設高齢者の人権保障や生活の質の向上を図るうえで,利用者の精神保健上の配慮を強調した総合的な施設環境整備を推進していくことが必要である。
キーワード 施設高齢者,対人ストレス,精神的健康,介護職員

 

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第53巻第6号 2006年6月

脳卒中データバンク(JSSRS)による
脳梗塞患者のアルコール摂取量と重症度の関連

汐月 博之(シオツキ ヒロユキ) 大櫛 陽一(オオグシ ヨウイチ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ)
岸 玲子(キシ レイコ) 久野 紀子(ヒサノ ノリコ) 小林 祥泰(コバヤシ ショウタイ)

目的 脳卒中発症患者におけるアルコール摂取量と重症度の関係についての報告はほとんど見かけないことから,全国規模の脳卒中患者データベース(JSSRS)による患者データを用いて,脳梗塞発症患者の過去の飲酒量と入院時重症度,退院時重症度,そして退院時の認知症との関連を調べることを目的とした。
方法 JSSRSの登録患者データ中,脳梗塞発症患者9,991例を対象として,過去のアルコール摂取量を,「0:ほとんど飲まない,1:機会飲酒,2:毎日1~2合,3:毎日2~3合,4:毎日3合以上,5:大酒家」と順序データ化し,アルコール摂取量と入院時重症度,退院時重症度,退院時の認知症発症の関係について,統計的手法により有意なアルコール摂取量を特定した。その際,多重比較の欠点を補うため,p<0.001を真の有意差とした。
結果 (1)入院時重症度は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で良くない傾向があった(p<0.05)。(2)退院時重症度は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で良くなかった(p<0.001)。(3)退院時の認知症発症は,アルコール摂取量が「ほとんど飲まない,大酒家>機会飲酒,毎日3合以上>毎日1~2合,毎日2~3合」の順で高かった(p<0.001)。
結論 アルコール摂取量と入院時重症度の明確な関連はみられなかったが,退院時重症度と退院時の認知症の存在はアルコール摂取量との間にJカーブ(Uカーブ)現象を示し,適度な飲酒(毎日1~3合まで)をしていた者は退院時の重症度や認知症への影響が有意に低かった。また,これらの者は在院日数も有意に短かった。
キーワード 脳梗塞,アルコール,予後,重症度,Jカーブ,リスク

 

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第53巻第7号 2006年7月

救急救命士の疲労とストレスに関する基礎調査

細田 武伸(ホソダ タケノブ) 谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 原口 由紀子(ハラグチ ユキコ)
仁科 祐子(ニシナ ユウコ) 宮階 ひとみ(ミヤガイ ヒトミ) 渡辺 勝也(ワタナベ カツヤ)
橋本 健治(ハシモト ケンジ) 武本 和之(タケモト カズユキ) 細田 多紀子(ホソダ タキコ)
穆 浩正(ムー コウセイ) 小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 黒沢 洋一(クロザワ ヨウイチ)
能勢 隆之(ノセ タカユキ)

目的 近年の救急出場件数の増加により,救急隊員という職域集団の身体的・精神的疲労やストレスの増大が問題となっている。このため,鳥取県西部広域行政管理組合消防局の救急救命士(救急専従職員)を対象として健康状態,疲労,ストレスと救急出場件数および夜間出場件数との関連を調査することを目的とした。
方法 ストレス尺度と質問項目を選ぶため,平成16年7月に調査対象者(救急救命士)の中から年齢,勤続年数,前年度出場件数等が平均的である5名に半構造化面接による事前調査を行った。その結果をもとに「NIOSH職業性ストレス調査票」から14の尺度と88の質問項目を抽出した。次に疲労とストレスを調査するため,平成16年9~10月に消防署および出張所において,勤務前後に健康調査,アンケート調査「自覚症調べ」「CFSI(疲労徴候インデックス)」「NIOSH職業性ストレス調査票(事前調査で抽出した項目)」,フリッカーテストおよび血圧測定を行った。救急出場件数は,後日,救急活動報告書から調べた。
結果 救急出場件数が増加すると休憩・仮眠時間も少なくなり,勤務明けに一般的な疲労を訴えていた。また日常的に一般的な疲労と身体不調を訴えており精神的に不安兆候にある者が多かった。反面,慢性疲労の訴えは少なく労働意欲の低下を訴える者も少なかった。対象者は,勤務期間が最低でも15年の既婚者の男性集団であり,上司,同僚,家族・友人からのサポートが良好であり,かつ職場満足度も高いことから,現状の健康を維持していることが推測された。今後は,さらなる救急業務の増加と隊員の高齢化に備える必要があると思われた。
結論 現状では,すぐに入院加療を要するほどの者はいなかった。しかし,今後,職員の高齢化や業務の多忙さにより,疲労とストレスの程度は増加することが予想され,実態の把握を続けるとともに,消防職員委員会を活用して現場の実態を上層部に届けやすくするなど,業務および勤務状態の改善を図っていく必要があると思われた。
キーワード 救急救命士,疲労,ストレス

 

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第53巻第7号 2006年7月

介護保険3施設における施設内医療処置の状況

-公表統計データを用いた検討-
竹迫 弥生(タケザコ ヤヨイ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 梶井 英治(カジイ エイジ)

目的 介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設の介護保険3施設内で医療処置を受けている者の在所者全体に対する割合を医療処置の種類別に明らかにする。
方法 厚生労働省が2001年に行った全国調査の公表データをもとに,施設種別ごと,要介護度別に,介護保険3施設内で行われた医療処置の状況について比較検討した。
結果 医療処置を受けている者の在所者全体に対する割合は,介護老人福祉施設と介護老人保健施設で約2割,介護療養型医療施設で約4割であった。3施設ともに,要介護1~4の在所者では,医療処置を受ける者の割合は全体の3割以下であり,処置の内容としては,疼痛管理,モニター測定,点滴,膀胱カテーテルなどが高かった。一方,要介護5の在所者では,介護老人福祉施設と介護老人保健施設で3割,介護療養型医療施設で6割の者が医療処置を受けており,処置の内容としては,経管栄養と喀痰吸引の割合が高かった。また,経管栄養と喀痰吸引の処置を受けている者の割合は,在所者全体でも,要介護5の在所者のみでも,介護老人保健施設より介護老人福祉施設の方が高かった。
結論 施設内で何らかの医療処置を受けている在所者の割合は,介護療養型医療施設が介護老人福祉施設および介護老人保健施設の約2倍であった。しかし,経管栄養と喀痰吸引の処置を受けている在所者の割合は,医療職員の少ない介護老人福祉施設の方が介護老人保健施設より高く,今後の課題と考えられた。
キーワード 介護保険施設,ナーシングホーム,医療処置,経管栄養,疼痛,褥瘡

 

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第53巻第7号 2006年7月

地域がん登録事業におけるがん患者の
登録拒否に関する法的,実務的,倫理的検討

田中 英夫(タナカ ヒデオ)

目的 個人情報保護法制定に伴い,保健,衛生分野における個人情報の第三者提供のあり方に対する関心が高まっている。地域がん登録事業におけるがん患者の登録拒否に関し,法的,実務的,倫理的側面から検討する。
方法 個人情報保護法の内容を医療・介護関係事業者用のルールとしてまとめられた「医療・介護ガイドライン」を法的検討の対象とする。次に,地域がん登録事業にかかわる当事者間で扱う個人情報の流れを踏まえ,もし同事業に患者の登録拒否の意思表明を反映させる(オプトアウト)とすると,実務面でどのような状況が起きるかについて検討した。また,登録拒否という行為を,複数の倫理的価値の対立面から考察した。
結果 「医療・介護ガイドライン」が示す個人情報の第三者提供に際しての本人同意原則の除外事例(地域がん登録でのがん患者,がん検診の精度管理での要精検者,児童虐待での親,医療事故調査での被害患者)は,いずれも共通してオプトアウトの容認と事業目的の遂行が両立し難い性質のものであると考えられることから,ガイドラインの意図に沿えば,同意認定手段としてのがん患者の拒否の有無の確認の効力は発生していないと考えられた。オプトアウトを地域がん登録事業に導入すると,その実効性の確保のためには拒否者の個人識別情報を登録する必要が生じ,また拒否の内容,範囲によって,情報の取り扱いに関する相当の負担を医療現場に強いることが予測された。倫理的価値の対立としては,①オプトアウトの権利を行使した患者の自律性と,事業成果の減損およびオプトアウト制度の維持にかかるコストの負担とのバランス,②オプトアウトの権利を行使する患者と行使しない患者の間に生じる受益と負担のバランスの不平等が考えられた。
結論 地域がん登録事業におけるオプトアウトの容認は,現行法の枠内では予定されない考えであると思われた。また,もし実行に移した場合,実務面での障害が相当程度生じることが予測されるとともに新たな倫理的価値の対立を生むことが予想された。
キーワード 地域がん登録事業,個人情報保護法,第三者提供,オプトアウト,本人同意原則,倫理

 

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第53巻第7号 2006年7月

食事の多様性と生活習慣,食品・栄養素摂取量との関連

-厚生労働省研究班による多目的コホート研究-
小林 実夏(コバヤシ ミナツ) 津金 昌一郎(ツガネ ショウイチロウ)

目的 住民ベースの大規模コホート研究(JPHC Study)5年後調査の断面データを用いて,多様な食品を摂取することと生活習慣,食品・栄養素摂取量との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 対象者は1995年から1999年の間に4476歳であった全国11保健所管内に居住する42,227名の男性と51,345名の女性である。自記式質問票により,既往歴,飲酒,喫煙状況,運動習慣,食習慣,食品摂取量などの情報を収集した。質問票に掲載されている133食品項目について,1日に何食品を摂取しているか算出した。1日に摂取する食品の種類を5分位に分類し,群ごとの生活習慣,食品・栄養素摂取量を比較した。
結果 摂取食品数が多くなるほど,肥満ややせが少ない,喫煙率が低い,飲酒量が少ない,朝食の欠食率が少ない,習慣的な運動習慣があるなど,健康的な生活習慣との関連が明らかになった。また,摂取食品数が多くなるほど,一人暮らしの割合が少ない,生活を楽しいと感じている人が多いなどの特徴が明らかになった。一方,多様な食品を摂取する群ほどエネルギー摂取量は多く,栄養素・食品群摂取量も多く摂取しているものが多かったが、炭水化物,穀類,砂糖類の摂取は低く,アルコールや嗜好飲料の摂取も低かった。
結論 1日に摂取する食品に多様性があることは,健康的な生活習慣と関連があることが明らかになった。また,多様な食品を摂取することと食物・栄養素摂取状況との関連も明らかになった。
キーワード 食事の多様性,生活習慣,食品・栄養素摂取,コホート

 

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第53巻第7号 2006年7月

特別養護老人ホームの待機者の
入所希望時期に影響する要因の分析

岸田 研作(キシダ ケンサク) 谷垣 靜子(タニガキ シズコ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)の待機者の入所希望時期に影響する要因を明らかにすること。
方法 対象は,中国地方のA市に在住する無作為に抽出された500の特養待機者世帯である。調査時期は200410月で,調査方法は郵送自記式である。分析は,入所希望時期を被説明事象,世帯属性を独立変数とする順序ロジスティック回帰分析で行った。
結果 解析の対象となったのは,必要な変数に欠損値がない199世帯である(有効回収率39.8%)。在宅の待機者は,27.6%であった。入所希望時期の内訳は,「すぐにでも入所したい」(30.2%),「できるだけ早く入所したい」(23.1%),「しばらくは待つことができる」(17.6%),「将来,必要になったときに入所したい」(29.1%)であった。早期の入所希望と関連していたのは,待機場所が老人保健施設または一般の病院であること,要介護度が3以上であることであった。待機者本人の性別,年齢,世帯形態,待機期間,調査票記入者の属性と入所希望時期との関連はみられなかった。
考察 「将来,必要になったときに入所したい」と答えた者は,入所の順番が現時点でまわってきてもすぐには入所しないと考えられる。したがって,入所希望時期を尋ねることで予約的な入所申請者を把握することは,計画的な施設整備を行う上で有益である。老人保健施設や一般の病院での待機者世帯が早期の入所を希望する理由として,病院・施設から退所勧告を受けている可能性が考えられる。また,要介護度が高い場合に早期の入所を希望した。これは,在宅待機者の場合,家族の介護負担が大きいことを反映し,在宅外待機者の場合,要介護度が高い者の家族がすでに在宅介護を断念していることを反映していると考えられる。
キーワード 特別養護老人ホーム,待機者,入所希望時期,順序ロジスティック回帰分析

 

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第53巻第8号 2006年8月

家族の介護意識と要介護者の自己決定阻害の関係に関する研究

-高齢者虐待の予防に向けて-
安梅 勅江(アンメ トキエ) 鈴木 英子(スズキ エイコ) 

目的 高齢者虐待の予防のため,要介護者の自己決定阻害に焦点をあて,住民の介護意識,要介護者の自己決定阻害に関する意識および両者の関連を明らかにすることを目的とした。
方法 平成12年に中部地方の大都市近郊の農村Sに在住する20歳以上の全住民を対象に質問紙調査を実施し,2,998名(有効回答率84.7%)から回答を得た。調査内容は,要介護者の自己決定の阻害に関連する意識と考えられる3項目(要介護者は「家族の意見に従うべき」「我慢すべき」「自己主張すべきでない」),介護意識4項目(「介護受容」「家族介護負担感」「世間体意識」「家族優先意識」),属性,介護の要不要,家族内の要介護者の有無,身体症状,入院・通院歴,日常生活動作能力,社会関連性,体力イメージ,サービス満足度,過去1年間のライフイベントであった。
結果 1)年齢・性別,要介護者の有無別,介護状態別に分析した結果,自己決定の阻害に関連する意識の割合は高年齢世代,介護経験あり,世間体を気にする場合に多くなっていた。2)自己決定の阻害に関連する意識を目的変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,いずれも「介護受容」「世間体意識」「家族介護負担感」「家族優先意識」のある場合に,ない場合に比較して要介護者は「家族の意見に従うべき」「我慢すべき」「自己主張すべきでない」とするオッズ比が高くなっていた。
結論 すべての地域住民を対象とした要介護者の自己決定を尊重するための啓発や,介護負担を軽減するためのサポート,介護の理解を深めるための情報提供や教育などが,地域における虐待リスクの軽減に有効である可能性が示唆された。
キーワード 高齢者虐待,自己決定,家族介護,予防

 

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第53巻第8号 2006年8月

パンデミック時の抗ウイルス剤およびワクチンの
使用優先順位に関する調査研究

大日 康史(オオクサ ヤスシ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 谷口 清州(タニグチ キヨス)
岡部 信彦(オカベ ノブヒコ)  

目的 新型インフルエンザのパンデミック時には,抗インフルエンザウイルス薬や新型インフルエンザ用のワクチンが不足することが予想され,そのために治療あるいは予防のための薬剤の使用に関する優先順位付けを事前に行っておくことが重要となることから,現状での国民の意思を把握するために,一般住民調査を通じて優先順位について検討した。
対象と方法 2005年4月上旬に全国において実施された調査における回答を分析した。調査内容は,12種類の人ロ集団に対して,優先順位付けを1位から12位まで行うことを求めた。分析は優先順位について各順位での支配的な人口集団の分析と,代表的な人ロ集団である「高齢者」「妊婦,乳児の母親」「乳幼児・小学生」の最優先人口集団の選択に関する分析を行った。
結果 調査票は880世帯に送付し,772世帯の20歳以上の成人1,220人から回収を得た。優先順位付けに関しては,賛成,反対,わからないがほぼ同数であった。1つ目の分析である優先順位は,第1位「乳幼児・小学生」,第2位「妊婦」,第3位「乳児の母親」,第4位「医療従事者」,第5位「60歳未満の慢性肺疾患患者,心疾患患者,腎疾患患者,代謝異常患者,免疫不全状態の患者」,第6位「特別養護老人ホーム・老人保健施設などの従業員」,第7位「健康な高齢者(65歳以上)」,第8位「警察・消防関係者」,第9位「通信・交通・電力・エネルギー業界関係者」,第10位「行政担当者」,第11位「他の項目に当てはまる人を除く健康な13歳以上65歳未満の人」,第12位「60歳以上の慢性肺疾患患者,心疾患患者,腎疾患患者,代謝異常患者,免疫不全状態の患者」,の順で選択されていた。また,医療従事者と60歳未満の慢性肺疾患患者,心疾患患者,腎疾患患者,代謝異常患者,免疫不全状態の患者,特別養護老人ホーム・老人保健施設などの従業員と健康な高齢者(65歳以上),警察・消防関係者と通信・交通・電力・エネルギー業界関係者の間には有意な差はないので同じ順位であった。また,この順位は抗インフルエンザウイルス剤,ワクチン接種の場合で共通であった。2つ目の分析である代表的な人口集団における最優先人口集団に関する推定結果は,抗インフルエンザウイルス剤とワクチン接種において,優先順位で「幼児・小学生」を最優先とする確率は,幼児・小学生の同居家族はそうでない場合よりも,抗インフルエンザウイルス剤では9.7ポイント,ワクチン接種では8.0ポイント高かった。逆に,「高齢者」を最優先とする確率は,高齢者はそうでない者よりも抗インフルエンザウイルス剤では4.7ポイント,ワクチン接種では4.8ポイント高かった。
結論 調査結果は,オランダでの優先順位に関する研究とは整合的であるが,新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会報告での提言内容とは必ずしも整合的ではなかった。
キーワード パンデミックインフルエンザ,抗ウイルス剤,ワクチン,使用優先順位,パンデミックプラン

 

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第53巻第8号 2006年8月

介護保険制度を利用した埼玉県の健康寿命の算出

池田 祐子(イケダ ユウコ) 生嶋 昌子(イクシマ マサコ) 長谷川 紀美子(ハセガワ キミコ)
徳留 明美(トクトメ アケ ミ) 高野 眞理子(タカノ マリコ) 峰岸 文江(ミネギシ フミエ)
丹野 瑳喜子(タンノ サキコ) 三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 

目的 埼玉県では,新たな健康づくり行動計画「すこやか彩の国21プラン」を策定し,平成22年度を目標年とした健康づくり運動を推進中であり,このプランの達成度や効果が把握できる健康の総合指標として「埼玉県の健康寿命」を算出し,また同指標の算出が簡単に行えるソフトの作成を目的とする。
方法 生命表の作成にはChiangの方法を用い,「障害発生時点」を「介護保険制度における要介護等認定を受けた時点」としてとらえ,「要介護等認定を受けないで生活できる期間」を「健康寿命」とした。また,平均余命に対する健康寿命の割合を健康割合とし,埼玉県全体と県内医療圏(13)別に分析した。健康寿命算出ソフトの作成は,エクセルVBAマクロと関数を利用して行った。
結果 埼玉県の健康寿命は,65歳男性で14.73年,75歳で7.78年,65歳女性で16.35年,75歳で8.13年であった。65歳,75歳では女性の方が健康寿命が長いが,85歳になると,男性3.09年,女性2.43年と逆転した。健康割合は,65歳男性で84.5%,75歳で73.1%であるが,女性はそれぞれ73.4%,57.4%で,65歳,75歳ともに女性の方が低かった。医療圏別では,65歳健康寿命は男性が14.16~15.05年,女性が16.01~16.94年で,男女とも県南・県南東部で低かった。65歳健康割合は,男性が83.4~86.2%,女性が71.1~76.7%で,男女とも県北部で高かった。作成した健康寿命算出ソフトは,「埼玉県の健康寿命」をはじめ,平均寿命(余命)や健康割合などが医療圏別,市町村別に算出可能であり,最新データを追加することによって,今後も継続して活用することが可能である。
結論 介護保険制度を基に算出する健康寿命は,1)既存の統計資料の活用が可能であるため,継続的に算出可能で,経年評価ができる,2)全国的に統一された手順と基準に沿って要介護度の認定作業が行われていることから,自治体間の比較が可能である,3)健康づくり事業の達成度や効果が把握できる,などの特徴をもつ指標である。また,作成した健康寿命算出ソフトは,エクセル上で稼働し,低コスト,簡単操作であり,集団の健康指標算出ツールとして利便性が高いものと言える。
キーワード 介護保険制度,健康寿命,健康割合,健康寿命算出ソフト

 

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第53巻第8号 2006年8月

家庭における乳幼児のタバコ曝露の実態

-尿中ニコチン代謝物測定による検討-
矢野 公一(ヤノ コウイチ) 花井 潤師(ハナイ ジュンシ) 福士 勝(フクシ マサル)
菅原 有希(スガワラ ユキ) 毛利 優子(モウリ ユウコ) 高本 厚子(タカモト アツコ)
伊澤 栄子(イザワ エイコ) 藤田 晃三(フジタ コウゾウ) 

目的 家庭における乳幼児のタバコ曝露の実態を,尿中ニコチン代謝物の測定によって明らかにすることを目的とした。
方法 2004年9~11月,札幌市南保健センターでの乳幼児健診児を対象に,36家族(38児)の母と児の尿中ニコチン代謝物(コチニン)を測定した。
結果 喫煙する27家族中6家族の児がコチニン陽性であった。陽性児の母はすべて喫煙者で,コチニン陽性であった。母がコチニン陽性の児は20人で,このうち母乳栄養の9児中5児がコチニン陽性であった。一方,非母乳栄養の11児では1児のみがコチニン陽性であった。さらに,生尿と濾紙抽出液中の尿中コチニン濃度は良好な相関を示した。
結論 ①尿中ニコチン代謝物測定によって,乳幼児のタバコ曝露が明らかとなった。②ニコチンあるいはコチニンが母乳を介して児に移行することが示唆された。③濾紙尿を用いて乳幼児の尿中コチニンを測定することが可能となった。
キーワード 乳幼児,タバコ曝露,尿中コチニン,母乳栄養

 

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第53巻第8号 2006年8月

施設入所高齢者におけるインフルエンザワクチンの
有効性と医療費削減効果の総合評価(予備解析結果)

井手 三郎(イデ サブロウ) 児玉 寛子(コダマ ヒロコ) 高山 直子(タカヤマ ナオコ)
堤 千代(ツツミ チヨ) 山崎 律子(ヤマサキ リツコ) 丸山 正人(マルヤマ マサト)
朔 義亮(サク ヨシスケ) 友田 信之(トモダ ノブユキ) 廣田 良夫(ヒロタ ヨシオ)

目的 インフルエンザワクチンの臨床的効果のみならず,個人レベルで実際の費用と効果に関するデータを積み上げて,ワクチン接種の医療費削減効果を検討する。
方法 福岡県久留米市内の同一医療機関が設置する介護老人保健施設の入所者(2002/03シーズン)および医療型療養病棟の入院患者(2003/04シーズン)を対象として,インフルエンザ様疾患に対するワクチン接種の効果を生存時間解析により検討するとともに,罹患後の医療費削減効果を検討した。介護老人保健施設では89人(接種75,非接種14)を2003年1~3月の間,医療型療養病棟では92人(接種12,非接種80)を2003年12月~2004年3月の間,追跡観察した。
結果 1) 2002/03シーズンの介護老人保健施設では,インフルエンザ様疾患に対するワクチンの有効性は境界域の有意性を示した(ハザード比=0.41,95%信頼区間0.14-1.17,p=0.095)。医療行為の実施率や超過医療費は,接種群において低い傾向を示したが,有意差を検出するには至らなかった。2) 2003/04シーズンの医療型療養病棟では,ワクチン接種によりインフルエンザ様疾患の罹患率の低下傾向を観察したが,有意差を認めるには至らなかった(ハザード比=0.59,95%信頼区間0.07-4.73,p=0.619)。また超過医療費の削減傾向も観察された。3) 両シーズンの観察結果をプールした解析において,インフルエンザ様疾患に対するワクチンの有効性は境界域の有意性を示した(ハザード比=0.44,95%信頼区間0.17-1.12,p=0.084)。またワクチン接種は,インフルエンザ様疾患に関連する超過医療費を削減する傾向も観察された。その他,ハイリスク者においては超過医療費が増大することが観察された。
結論 例数は不十分であるものの,インフルエンザワクチンは施設入所高齢者のインフルエンザ様疾患罹患防止に約40~60%の有効率であることが示唆された。また,インフルエンザ様疾患に関連する医療費の削減が期待される。
キーワード インフルエンザワクチン,有効性,費用対効果,医療費削減効果,後ろ向きコーホート研究,疫学

 

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第53巻第10号 2006年9月

要介護認定者の日常生活自立度と生命予後との関連

寺西 敬子(テラニシ ケイコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ) 新鞍 眞理子(ニイクラ マリコ)
山田 雅奈恵(ヤマダ カナエ) 田村 一美(タムラ ヒトミ) 廣田 和美(ヒロタ カズミ)
神谷 貞子(カミヤ サダコ) 岩本 寛美(イワモト ヒロミ) 上坂 かず子(コウサカ カズコ)
成瀬 優知(ナルセ ユウチ)  

目的 要支援を含む新規要介護認定者において,性・年齢階級別に日常生活自立度と生命予後との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 富山県のN郡3町村に居住し,2001 年4月から2004年12月に新規に要支援または要介護認定を受けた65歳以上の住民1,700人(男性616人,女性1,084人)を対象とした。介護 保険認定審査会資料より初回認定時の情報として性,年齢,障害老人の日常生活自立度(ランクJ,A,B,C),主治医意見書に記載された診断名,2005 年3月現在の転帰(生存,転出,死亡)を把握した。初回認定時の日常生活自立度別の累積生存率を,性・年齢階級別(65~74歳,75~84歳,85歳以 上)にKaplan-Meier法を用いて算出した。生存曲線の有意性の検定にはlog-rank検定を行った。また,性・年齢階級別に診断名と初回認定 時の年齢を共変量としたCoxの比例ハザードモデルを用いて,ランクJを基準とした日常生活自立度の死亡に対するハザード比を求めた。
結果 男性の65~74 歳,75~84歳,85歳以上の各年齢階級において日常生活自立度の違いによって累積生存率は有意に異なっていた。同様に女性の各年齢階級においても有意 に異なっていた。性・年齢階級別にそれぞれのランクJを基準として各日常生活自立度の死亡ハザード比を求めると,男女共に85歳以上以外の年齢階級で,ラ ンクCが最も高い死亡ハザード比を有意に示すことが共通して明らかとなった。一方で,日常生活自立度の程度の低下による死亡ハザード比の上昇は性・年齢階 級別に異なる特徴を示し,年齢階級が上がると日常生活自立度の低さによる死亡ハザード比の上昇の程度が小さくなる傾向が,女性は男性よりも日常生活自立度 の違いによる死亡ハザード比の格差が小さい傾向が明らかとなった。
結論 要支援を含む要介護認定者の初回認定時の日常生活自立度の程度は,性・年齢階級別に解析し,診断名を調整しても生命予後と関連していることが明らかとなった。また,その関連は性・年齢階級別に異なっていた。
キーワード 要介護認定,日常生活自立度,生命予後

 

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第53巻第10号 2006年9月

グループホームにおける“家庭的”
要素に関する介護提供者の認識

前田 享史(マエダ タカフミ) 金子 信也(カネコ シンヤ) 永幡 幸司(ナガハタ コウジ)
大友 昭彦(オオトモ アキヒコ) 福島 哲仁(フクシマ テツヒト)

目的 グループホームの施設職員が認識する“家庭的”な生活・環境を構成する 要素を,“家庭”を構成する要素と比較検討することによって,どのような生活・環境要素がグループホームにとって必要なのか,また,それらの要素間でどの ような関係性があるのかを明らかにすることを目的とした。
方法 宮城県グループホーム協議会に所属するグループホームの管理者および主任介護員5名を対象とし,ブレインストーミングを用いて,“家庭”と“家庭的”に関する要素(ことば・単語・行為・環境など)の抽出を行い,分類整理した。
結果 “家庭”と“家庭的”の要素は,食,入浴・トイレ,睡眠,生活様式,外出,買い物,場,趣味・嗜好,物,交流,関係性,絆などに分類され,さらに自由,役割・義務,愛着対象,人間関係,その他の5つに大きく分類された。自由は,“家庭”で16 要素,“家庭的”で38要素が抽出された。「外食ができる」は,“家庭”のみでみられた。役割・義務は,“家庭”で10要素,“家庭的”で6要素,愛着対 象は,“家庭”で18要素,“家庭的”で9要素,人間関係は,“家庭”で51要素,“家庭的”で20要素であった。“家庭”では,家族や家族との交流や絆 を表す要素が多く抽出された。一方,“家庭的”では「一緒に~する」という行為を表す要素が多く抽出された。また,“家庭”では笑いや未来のことを表す言 葉が挙げられていた。心配してくれる人の存在を表す要素は,“家庭”と同様“家庭的”でも抽出された。その他では,“家庭”では家族旅行などの非日常的な 事柄が抽出されたが,“家庭的”では逆に「大規模な行事をあまりしない」が抽出された。また,“家庭”では「ストレス解消できる」という意見が抽出され た。
結論 “家庭的”では,「自由」を連想させる要素が多く含まれたのに対し, “家庭”では,「家族」「人間関係」「交流」を連想させる要素が多く含まれた。グループホームの環境づくりにおいて,施設管理者などの自由に対する認識の 高さを反映していると考えられた。また,外食も含めた近所や周辺地域との積極的な交流や入所者である認知症高齢者のストレスマネジメントの必要性が考えら れた。
キーワード 認知症高齢者,ホームライク,QOL,ブレインストーミング,KJ法

 

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第53巻第10号 2006年9月

老人医療費と介護費の類似した
地域差の発生要因に関する分析

堀 真奈美(ホリ マナミ) 印南 一路(インナミ イチロ) 古城 隆雄(コジョウ タカオ)

目的 肥満は生活習慣病の原因として重要であり,生命予後を含めた健康の悪化要因とされる。この肥満および体重変化が10年後の健康に及ぼす影響を,職域の定期健診結果と5年間の終末期を除く医療費を指標として検討した。
方法 対象は1992年度に定期健康診断を受けた40~59歳の男性で,2004年度末にも健在で健保に加入していた6,867名と,この間に死亡を理由に健保を脱退した182名である。医療費は終末期の高額医療費を除くために1999~2003年度の5年間の診療報酬明細書から医科と調剤を用いて算出した。
結果 1992~1994年度の3年間の平均体重で求めたBMIを5分位で検討すると,医療費はBMIが大きいほど高額であった。年齢調整累積死亡率が最も低かったのはBMI20.9~22.3の群であった。2001~2003年度までの10年間の体重変化を5分位で検討すると,体重減少が最も大きい群で医療費は高額であった。観察開始時のBMIで3群に分けて体重変化と医療費の関係をみても,体重の大きな減少は高額医療費と関連していた。最も医療費が少ないのは,観察開始時BMIが小さい群では約3㎏増加,大きい群では約1㎏低下する群であった。糖尿病では,観察開始時の肥満度に関係なく体重増加は高額医療費と関連した。高額医療費を示す主な保険主傷病名は,虚血性心疾患,脳血管疾患,悪性新生物,高血圧などであり,糖尿病では体重増加にしたがってこれらの疾患頻度は増加傾向にあった。喫煙に関しては,10年間の観察期間中の新たな禁煙群が最も医療費は大きかったが,この群で多くみられる体重増加は医療費に関係しなかった。
結論 肥満は10年後の終末期を除く医療費を高額とした。死亡率が低かったのはBMI21~22の群であった。10年間の体重の減少は医療費を高額とした。体重低下と高額の医療費は重大な疾患に罹患したための二次的なものと考えるのが妥当である。禁煙による体重増加は医療費を増加させなかった。これらから男性では,「中年までの肥満の予防が重要であること」「BMI22~23を目標とした体重管理が好ましいこと」「糖尿病では体重の増加は高額の医療費をもたらすこと」「意図した体重の管理が重要であること」などが示唆される。今後,意図した体重減少が長期的な健康に好ましいことを証明する研究が必要である。
キーワード 肥満,体重変化,定期健診,診療報酬明細書(レセプト),医療費,喫煙

 

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第53巻第10号 2006年9月

地域在住高齢者における車両スピード認知
と身体能力との関係

内田 勇人(ウチダ ハヤト) 朝居 由香里(アサイ ユカリ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)
新開 省二(シンカイ ショウジ)

目的 近年,公衆衛生領域では周産期の母親へのメンタルヘルス支援を行い,効果を挙げているが,ドメスティックバイオレンス(以下,DV)など多くの困難な出来事にさらされることによるメンタルヘルスの影響や,その援助への検討はいまだに取り組まれていない。そのため様々な困難を抱えているであろう母子生活支援施設入所者を対象として,どのような支援が有効であるのかを明らかにすることを目的に調査を行った。
方法 東京都内母子生活支援施設(以下,支援施設)に入所中で調査協力の得られた母親を対象とし,自記式アンケート調査(匿名郵送回収)を行った。調査項目は,基本的属性,ソーシャルサポート,メンタルヘルス(うつ評価尺度・解離性体験尺度),母親の子どもへの愛着(愛着形成障害評価尺度),子どもへの不適切な育児,実家との関係,パートナーとの関係など多面的な項目を設定した。解析方法は抑うつの有無を独立変数に,従属変数として量的変数にはt検定,質的変数にはχ2検定(Exact-Test)を用いた。抑うつの要因については抑うつ傾向得点との関連が有意であった変数を独立変数,不適切な育児得点を従属変数として,強制投入法による重回帰分析を行った。
結果 143名から回答を得た。調査結果から対象者の半数(49%)に抑うつ傾向がみられた。また入所者の67.4%がパートナーからの被暴力経験を持ち,95%がパートナーとの関係に葛藤性を抱えていた。抑うつ傾向と各項目間では,ソーシャルサポート(がない),実家との関係(被虐待経験),解離傾向の有無,愛着障害得点,不適切な育児得点とに関連がみられた。抑うつ傾向は子どもへの愛着障害にも影響し,さらに子どもへの攻撃性や放置などの育児行為にも影響していた。
結論 支援施設入所者の就労割合は78.9%と高く,その約半数が抑うつ傾向を持ちつつ就労しており,生活・育児面にかなりの困難さを有しているであろうことが推測されたが,調査結果からも子どもへの愛着や不適切な育児への影響が確認された。DVなどをはじめ,様々な困難を抱える母親には,子どもへの影響および世代間連鎖を阻止する視点からも,メンタルケアを含め経済・生活面への総合的支援が必要であることが示された。
キーワード 母子生活支援施設,抑うつ,ソーシャルサポート,愛着障害,不適切な育児,メンタルケア

 

論文

 

第53巻第11号 2006年10月

一保健所管内の小・中学生を対象とした喫煙行動と関連要因に関する大規模調査研究(第2報)

-小・中学生を対象とする禁煙外来のあり方について-
藤田 信(フジタ マコト)

目的 喫煙する小・中学生の禁煙外来に対する考えを明らかにして,禁煙外来受診を促進し,小・中学生の喫煙の解消に資することを目的とする。
方法 静岡県A保健所管内の小学校35校,2,428名,中学校17校,2,316名に対して,無記名自記式の調査票によるアンケート調査を実施した。
結果 過去に禁煙を試みた者は,小・中学生ともに約8割で,そのうち小学生で95%,中学生で78%の者が禁煙を達成していた。過去に禁煙を試みたとき,誰にも相談しなかった者は小学生の男子女子ともに69%,中学生男子で71%,女子で75%であった。現在の禁煙を試みる意思は,「今すぐ」「1カ月以内に」「3カ月以内に」やめたいとする者が,合わせて小学生の男子で69%,女子で57%,中学生の男子で43%,女子で38%であった。禁煙外来受診時に希望する付き添いは,「父母」が小学生男子で34%,女子で27%,中学生男子で14%,女子で20%,「行きたくない」が同様に23%,23%,13%,11% であった。禁煙外来に希望する担当医は,小学生では「学校医」と「顔見知りの医師」が比較的多く,中学生では「顔見知りの医師」と「顔見知りでない医師」 とでほぼ二分された。禁煙外来受診の希望日時は,概して日曜日・祝日や夏休みなどの長期休業期間が多かった。禁煙外来を安心して受診できる条件は,「学校 や氏名が分からないように」が小学生男子で44%,女子で46%,中学生男子で76%,女子で60%,「診察室は別で話が他に聞こえない」が同様に29%,36%,30%,34%であった。保護者への喫煙と禁煙の告知について,「できない」が小学生男子で6%,女子で5%,中学生男子で20%,女子で11%,「話すつもりはない」が同様に9%,なし,27%,18%であった。
結論 小・中学生を対象とする禁煙外来は,匿名とし診察室を別にして話が他に聞こえない必要があり,診療日は日曜日・祝日または長期休業期間が望ましく,担当する医師は小学生では顔見知りの医師とすることが望ましい。
キーワード 禁煙外来,小・中学生,保健所,質問紙調査,喫煙の習慣性

 

論文

 

第53巻第10号 2006年9月

主観的健康感と職業性ストレスとの関連について

-MYヘルスアップ研究から-
豊川 智之(トヨカワ サトシ) 三好 裕司(ミヨシ ユウジ) 宮野 幸恵(ミヤノ ユキエ)
鈴木 寿子(スズキ トシコ) 須山 靖男(スヤマ ヤスオ) 井上 まり子(イノウエ マリコ)
井上 和男(イノウエ カズオ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ) 

目的 金融保険系企業の従業員を対象としたMYヘルスアップ研究における調査により,労働者の主観的健康感(Self-Rated Health: SRH)と職業性ストレス,特に仕事の要求度とコントロールとの関連について検討した。
方法 職業性のストレス要因を,「高ストレイン」「パッシブ」「アクティブ」「低ストレイン」の4つに分け,これらを独立変数,SRH を従属変数とするロジスティック回帰分析モデルにより分析した。共変量として年齢,職区分,婚姻状態,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,睡眠時間,現在治療 中の病気の有無,過去に治療した病気の有無を含め,「基本モデル」とした。次に,周囲からの支援による,ストレスとSRHとの関連の変化を示すため,上 司,同僚,家族・友人からの支援を共変量としてモデルに入れ「支援ありモデル」とした。
結果 回帰モデル(支援ありモデル)によるオッズ比(OR) では,職業性ストレスについて,高ストレイン(男性OR;1.88,女性OR;1.70),パッシブ(男性OR;1.23,女性OR;1.40),アク ティブ(男性OR;1.28,女性OR;1.20)は,低ストレインと比較してSRHが低いことが示された。女性では営業職が事務職に比べSRHが低いこ とが示された(OR;1.85)。男性では家族・友人からの支援(OR; 1.80)がない場合,女性では上司(OR;1.37)からの支援がない場合にSRHが低かった。
結論 仕事の要求度とコントロールによるストレスの違いに焦点を当てて分析を行った結果,高ストレインの労働者のSRH が低いことが明らかになった。ストレスに関与する要因の中で,男性では家族・友人からの支援を得られない場合に,女性では上司や同僚からの支援を得られな い場合にSRHが低いことが示された。男性では単身赴任していること,女性では独身でいることが低SRHと関連することが示され,これらの社会的関係性が SRHと結びついていることが示された。
キーワード 主観的健康感,職業性ストレス,カラセックモデル,社会的関係性

 

論文

 

第53巻第11号 2006年10月

家族介護者の介護負担感と関連する因子の研究(第1報)

-基本属性と介入困難な因子の検討-
平松 誠(ヒラマツ マコト) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 梅原 健一(ウメハラ ケンイチ)
久世 淳子(クゼ ジュンコ) 樋口 京子(ヒグチ キョウコ)

目的 介護負担感の関連因子を探る基礎作業として,年齢や性別などの介護者の基本属性,介護期間などの介入困難な因子について検討した。
方法 対象は,A県下の7保険者において,介護保険の在宅サービスを利用していたすべての要介護者の介護者(7,278人)である。回収数(率)3,610(49.6%)のうち,主介護者によって回答された3,149人を分析対象とした。主観的介護負担感(8点から32点で,得点が高いほど介護負担感が高い)と主介護者の基本属性(性別,年齢,続柄),および介入困難な因子(要介護者の障害老人の日常生活自立度,認知症老人の日常生活自立度,要介護度,1日の平均介護時間,目の離せない時間,介護期間)の9因子との関連を検討した。
結果 介護負担感は,介護者が女性で,高齢,続柄が妻の場合に,有意に高かった。しかし,例えば,男性の介護負担感の平均値は26.3±5.3,女性は27.2±5.4で,その差は0.9点 と小さかった。また,どの年齢・性別においても,障害が重く,介護時間が長くなるに伴い,介護負担感が有意に高くなる傾向がみられた。ただし,その結果 は,介護負担感スケールで何点以上を「高い」とするのか,平均値でみるのかという変数の扱い方によっても変動した。介護期間については,長いほど介護負担 感が高い傾向を示したが,統計学的な有意差は65歳未満の女性でのみみられた。
結論 介護負 担感は,介護者が女性で,高齢,続柄は妻で有意に高く,障害の重症度が重い群,もしくは介護時間が長い群で,介護負担感が高くなるという傾向が確認され た。今後の介護負担感研究においては,介護負担感との間に統計学的に有意な関連が認められた(介護期間を除く)8つの交絡因子を考慮して分析を行うことが 望ましいと考えられた。
キーワード 要介護高齢者,家族介護,介護負担感,日常生活自立度,性差

 

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第53巻第11号 2006年10月

藤沢市における個別健康支援プログラムの有効性の検討

鈴木 清美(スズキ キヨミ) 小堀 悦孝(コボリ ヨシタカ) 相馬 純子(ソウマ ジュンコ)
小野田 愛(オノダ アイ) 齋藤 義信(サイトウ ヨシノブ) 尾形 珠恵(オガタ タマエ)
李 廷秀(リ チョンスウ) 森 克美(モリ カツミ) 川久保 清(カワクボ キヨシ)

目的 藤沢市が厚生労働省から委託を受けて実施した「国保ヘルスアップモデル事業」(平成14~16年度)は,対象とする生活習慣病とその予備群を選定の上,健康度という概念と指標を設定し,個別健康支援プログラムの開発・実施と事業効果の分析・評価を行うものである。本研究は,開発した藤沢市個別健康支援プログラムの有効性を検討することを目的とした。
方法 プログ ラムの有効性を検討するため,年1回の健康診断と健康相談を受けるコース1,コース1の内容に加えて半年後の効果測定と食生活相談を受けるコース2,コー ス2の内容に加えて週1回の運動トレーニングを行い,総合的に健康づくりを行うコース3の3種類のコースを設定した。各コースについて,健診結果と生活習 慣調査結果のデータにより,正味2年間の介入前後の比較,事業に参加した介入群(979人)と対照群(4,570人)の変化量の比較を行った。
結果 介入群における介入前後の比較で数値データの変化をみると,コース2,3とも,体重,BMI,血清HDLコレステロール値が改善した。またコース2では中性脂肪値が改善し,コース3では血圧値が改善した。対照群との比較では,コース2,3とも,体重,BMI,収縮期血圧,血清総コレステロール値の変化が有意であった。またコース2では中性脂肪値に,コース3では収縮期血圧,拡張期血圧,血清LDLコレステロール値に有意差があった。生活習慣についてはコース1,2,3とも介入前後の比較で改善を示し,コース2,3は対照群との比較でも有意差があった。
結論 藤沢市 個別健康支援プログラムは,生活習慣の改善,身体状況の改善の両者において有効であることが実証された。特にコース2参加者は中性脂肪値の改善が有意であ り,コース3参加者は血圧値の改善が有意であることが明らかになったことから,今後,この結果を踏まえた食生活および運動習慣を配慮した総合的健康づくり システムを構築していく方向性が示された。
キーワード 国保へルスアップモデル事業,個別健康支援プログラム,生活習慣病

 

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第53巻第11号 2006年10月

地域福祉活動の住民満足度分析に関する研究

-地域福祉活動計画への活用-
増子 正(マスコ タダシ)

目的 地域福 祉は,住民の生活の満足度を向上させるという目標を有している。本研究では,市町村社会福祉協議会が実施している地域福祉事業への住民満足度に影響を与え ている要因を分析して,地域福祉計画,地域福祉活動計画策定に反映させることで,住民ニーズに立脚した計画の策定とアカウンタビリティ(説明責任)確保の 遂行に寄与することを目的としている。
方法 著者が日本学術振興会の科学研究費補助を受けて開発した「ベンチマーク方式による社会福祉協議会の事業評価」の手法を活用して,秋田県A町在住の18歳以上の男女1,197名を対象に,同町社会福祉協議会が実施している地域福祉事業に対する住民意識調査の結果からデータベースを構築し,地域福祉活動や事業に対する住民の満足度に影響を及ぼしている要因を分析した。
結果 事業に対する満足度と,周知度,居住地,居住年数,年齢との関係を分析した結果,活動や事業に対する住民の周知度の違いが,それぞれの事業への期待度と満足度に大きく影響を及ぼしていて,事業に対する周知度が低い集団で満足度のスコアが極端に低いことがわかった。
結論 地域福祉計画,地域福祉活動計画の策定段階で,住民満足度を的確に分析し,ニーズ把握に活用することは,計画のアカウンタビリティ確保に有用であり,事業に対する住民の周知度を高めることが住民の生活の満足度の向上に寄与することが検証された。
計画策定の目標のなかに,地域福祉活動や事業に対する住民の認識度を向上させるための情報提供システムを再構築することの重要性が示唆された。
キーワード 地域福祉活動,住民満足度,地域福祉計画,地域福祉活動計画,事業評価

 

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第53巻第11号 2006年10月

がん終末期患者の在宅医療・療養移行の課題

-病状説明,告知の現状-
沼田 久美子(ヌマタ クミコ) 清水 悟(シミズ サトル) 東間 紘(トウマ ヒロシ)

目的 終末期がん患者が在宅での医療・療養継続を希望した場合に,急性期病院(以下「急性期」)医師と地域での医療を担う(以下「地域」)医師の連携に重要となる課題およびそれぞれの役割を明らかにする。
方法 第7回日本在宅医学会大会に参加した医師を対象に調査用紙を配布・回収した。医師は,急性期医師と地域医師の2群とし,それぞれ自記式での回答を求めた。
結果 調査対象医師数は185人で,回答者数123人(急性期医師35人,地域医師88人),回収率66.5%であった。急性期医師は年齢45.7±9.2歳,医師経験18.7±9.0年,在宅移行経験88.6%,訪問診療経験77.1%,地域医師は年齢47.2±8.9歳,医師経験20.9±9.2年,訪問診療経験93.2%,在宅看取り経験93.2%であった。急性期医師の告知に関する回答は「病名はするが余命告知はしない」25.7%,「病名・余命の告知をする」28.6%,「家族の希望に沿う」が42.9%であり,特に,訪問診療経験のない急性期医師は経験のある医師と比較して,余命告知をする割合が低かった(p<0.05)。また,「余命の告知をしないことで患者への対応に困難を感じた」との回答は急性期医師71.4%,地域医師77.3%とそれぞれ高率であった。病状理解について,「退院時に患者・家族は病状理解ができている」と回答した急性期医師は85.7%,地域医師では58.0%と認識に差がみられたが,患者・家族の病状理解が不十分な時には急性期医師の80.0%,地域医師では83.0%が対応困難と感じていた。また,「急性期医師よりの病状申し送り内容と患者の病状理解が一致していない」と地域医師の51.2%が回答し,その医師は全員,対応困難を感じていた。地域医師の回答で,退院時に「患者・家族が不安に思っていること」は「夜間の医療対応」71.6%,「緊急時の病院対応」68.2%,「介護への不安」46.6%,「病状」が27.3%であった。
結論 急性期医師の1/4 は「余命告知をしない」と回答し,特に,訪問診療経験のない急性期医師は告知をしない割合が高いことから在宅療養における告知の重要性の認識が薄いと考え られた。多くの地域医師は,患者が余命告知をされていないことや病状理解が不十分なために対応困難を抱えており,患者・家族も退院に当たって病状について 大きな不安を抱いている。急性期医師は在宅での医療・療養の特性を理解した上で,対応困難が生じると思われる事項を患者の入院中に改善し,患者・家族の置 かれている状況や療養上必要な情報を地域医師へ的確に引き継ぐことが重要である。その上で,患者・家族の不安を地域医師と共有し,それぞれの役割を生かし た連携を行うことが望まれる。
キーワード 在宅医療,がん終末期患者,アンケート調査,在宅移行連携,医師の認識

 

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第53巻第13号 2006年11月

昭和ヒトケタ男性の寿命

-世代生命表による生存分析-
岡本 悦司(オカモト エツジ) 久保 喜子(クボ ヨシコ)

目的 1980年代に社会的関心を集めた「昭和ヒトケタ短命説」について,その寿命への影響を世代生命表を用いて30歳以降の生存率により定量的に検証した。
方法 1920~1949年出生の男性コホートについて,戦争などの影響を受けていない30~55歳の年齢別死亡率から生存率を算出し推移を観察した。さらに,戦争などの影響を受けなかったと仮定した場合の生存率の改善を傾向線で表現し,昭和ヒトケタを中心とした世代の観察された生存率と傾向線との差から,戦争などによるコホート効果を65歳までの生存率で定量的に推計した。
結果 1926~1938年に出生した男性において,30歳以降の生存率の停滞が明瞭に観察され,その相対的低下は1932年生まれにおいて最も顕著であった。この年に出生した男性の30歳のうち65歳まで生存した者の割合は,戦争などの影響がなかったとしたら辿ったであろう生存率と比較して1.87%低かった。この世代の30歳時人口が約82万人であったことから,65歳まで到達できた者が約1.5万人,あるべき数より少なかったことを意味する。1926~1938年間全体では30歳男性1037万人に対して65歳到達者は,あるべき数より11.7万人少なかった(1.1%)。また,30歳以降の生存率は,世代を追うごとに改善されてきたが,1929年出生者については,わずかながら前世代を下回る現象が確認され,さらに終戦時に乳幼児だった1942~1944年出生世代でも,30歳以降の生存率にわずかながら停滞現象が観察された。
結論 発育期を戦争中に過ごしたという「負い目」は30歳から65歳までの生存率を1%以上低下させる影響をもたらした。戦後生まれ世代との格差は彼らが老齢に入るにつれてますます拡大している。彼らがまだ中年だった頃に初めて発見された現象は一時的なものではなく,人生最後までつきまとう「この時期に生まれたるの不幸」であった。
キーワード 世代生命表,コホート効果,生存率,中高年死亡

 

論文

 

第53巻第13号 2006年11月

訪問介護サービスを利用している独居高齢者の主観的健康感に
影響する社会関係要因とその独居年数による相違

中尾 寛子(ナカオ ヒロコ) 平松 正臣(ヒラマツ マサオミ)

目的 独居で介護保険の訪問介護サービスを利用している要援護高齢者の主観的健康感に影響する社会関係要因を明らかにし,さらに独居年数によってどのように異なるのかを検証する。
方法 対象は,中国地方のA県B市内4カ所のホームヘルプステーション(訪問介護事業所)で介護保険の訪問介護サービスを利用している独居高齢者51人である。対象者の自宅を調査員が訪問介護員に同行訪問して,調査票を用いた個別の面接聞き取り調査を行い,年齢,婚姻歴,子どもの有無,要介護度,独居年数などの属性と主観的健康感,QOL(生活満足度尺度K)および社会関係についての情報を得た。独居年数が明らかでなかった2人を除く対象者を独居年数が10年未満(短期)群(n=20)と10年以上(長期)群(n=29) の2群に分けて,グループごとに主観的健康感に関連する要因を社会関係の中から探り,その結果を2群間で比較した。単変量解析とカテゴリカル回帰分析を実 施し,カテゴリカル回帰分析の従属変数は主観的健康感(よい[1]~よくない[4]),説明変数は年齢,性,要介護度,社会関係指標とした。
結果 カテゴリカル回帰分析から,両群ともに有意な関連が認められた。独居年数10年未満群では「男性」「デイサービス・デイケアを利用」「近所づきあいに満足」「閉じこもり傾向なし」が,独居年数10年以上群では,「女性」「近所づきあいに満足」が主観的健康感を有意に高める傾向にあることを示した。また,両群ともに「年齢」「要介護度」と主観的健康感との間に有意な関連はなかった。主観的健康感に最も有意な関連性をもつのは「近所づきあいの満足度」であった。
結論 独居期間が短い要援護高齢者の心身の健康にとっては,「デイサービス・ デイケアの利用」や「閉じこもり予防事業への参加」がより高い効果を発揮する可能性が示された。また,独居年数にかかわらず,独居要援護状態の高齢者の主 観的健康感には,離れて住む子どもや友人よりもむしろ「近隣住民との関係性」のほうが強い影響を及ぼすことが明らかになった。これらのことから,デイサー ビス・デイケアや閉じこもり予防事業などの地域福祉サービスを独居開始の早い時点つまり「適切な時期」に利用につなげる援助と,本人自身が近隣住民と満足 できる関係性を築くことへの援助の両方が,要援護高齢者にとって高い健康感をもちながらひとり暮らしを続けるためには特に重要であると考えられた。
キーワード 独居要援護高齢者,主観的健康感,社会関係,独居年数,近所づきあいの満足度

 

論文