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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第57巻第5号 2010年5月

首都圏内在住中年成人における腹囲測定に基づく
内臓脂肪型肥満と軽症うつとの関連

古畑 公(フルハタ タダシ) 橋詰 直孝(ハシヅメ ナオタカ) 高橋 佳子(タカハシ ヨシコ)
鈴木 和春(スズキ カズハル) 樫村 修生(カシムラ オサム) 豊川 智之(トヨカワ サトシ)

目的 内臓脂肪型肥満は,うつをはじめとした心理学的・精神医学的状態と関連があると言われている。両者はともに現代社会の象徴する健康問題であり,その関連について評価する意義は高い。本研究では首都圏内の一般成人を対象とした健診データを用いて,腹囲測定に基づいた内臓脂肪型肥満と軽症うつとの関連について検討した。
方法 首都圏内のI市における成人病基本健康診査受診者のうち,40歳から59歳までの4,039名を対象にアンケートを送付した。軽症うつについては,潜在性微量栄養素欠乏発見システムに含まれる体調・不定愁訴問診表セットを用いた。男性は腹囲85㎝以上,女性は腹囲90㎝以上を内臓脂肪型肥満ありとした。
結果 返答されたアンケート(2,164枚)のうち分析項目においてデータに欠損のある者を除いた1,831名(男性388名,女性1,443名)を分析対象とした。女性の内臓脂肪型肥満に軽症うつが有意に多くみられた(オッズ比3.4,P<0.05)。食事非適量を調整したオッズ比は1.6と減少し,統計学的有意性も消失していた。多重ロジスティック回帰モデルでは,男女とも内臓脂肪型肥満は有意な関連を示さなかった。
結論 女性の内臓脂肪型肥満により軽症うつが高い関連が2変数間ではみられたが,食生活,特に食事非適量による交絡が示唆された。食事を適量に保つことを中心とした食生活指導により,腹囲とうつ症状が改善する可能性について,今後も検討を重ねる意義が示された。
キーワード メタボリックシンドローム,腹囲,軽症うつ,中年成人

 

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第57巻第5号 2010年5月

愛知県における若年認知症の就業,日常生活動作および介護保険利用状況

小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 渡邉 智之(ワタナベ トモユキ)

目的 若年認知症の生活の実態を明らかにするため,愛知県において,医療機関,介護福祉施設,行政関係機関を網羅した調査を行った。
方法 愛知県内の医療機関,介護福祉施設,行政関係機関等に対し,2段階によるアンケート調査を行った。1次調査で若年認知症ありとした施設や機関に,本人の属性,認知症の原因疾患,合併症,家族歴,既往歴,認知症の程度,就労状況,日常生活動作(ADL)能力,認知症の行動と心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD)の有無と内容,介護認定状況,サービス利用状況,障害者手帳・年金受給状況および現在の問題点などからなる調査票を送り回収した。
結果 調査時点で65歳以上の人を含めて,2次調査で重複を調整した後の総数は1,092人で,男性569人(52.1%),女性520人(47.6%),性別無回答3人であった。ADLのうち歩行と食事に関しては,それぞれ全体の42.9%,46.2%と約半数が自立していた。しかし,排泄(30.6%),入浴(20.2%),着脱衣(24.2%)の自立度はこれより低く,日常生活に何らかの介助が必要な人が多かった。就労や社会福祉制度の利用率は必ずしも高くなかった。
結論 若年認知症者の生活は,ADLや介護福祉サービスの利用状況などからは生活が厳しい現状であることが明らかとなった。介護保険の認定は40歳以上の約80%が受けているが,サービスは十分には利用されていない。社会福祉制度の周知や利用の促進を含め,若年認知症に対応する医療・介護福祉関係者や行政担当者の理解が不可欠である。
キーワード 若年認知症,生活実態調査,愛知県,就労状況,ADL,介護保険サービス

 

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第57巻第5号 2010年5月

マネジメントサイクルに基づく
市町村公衆栄養活動のための目標設定に関する検討

近藤 今子(コンドウ イマコ) 酒井 映子(サカイ エイコ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 今日,重要性が一層高まっている市町村公衆栄養活動がマネジメントサイクルに基づき実施されるために,先行調査で鍵を握ることが示唆された目標設定の状況および関連要因を明らかにし,目標設定の方法を検討することを目的とした。
方法 愛知,岡山,静岡県の政令市を除く市町村の行政栄養士147人に対し平成19年11,12月に郵送により自記式無記名でアンケート調査を行い,113人(回収率76.9%)から得た回答を分析した。調査内容は目標設定の状況,目標設定への指示,実態把握,相談機関,研修,評価に関する項目である。項目間の検討にはピアソンのχ2検定,さらに有意の項目にスピアマンの順位相関を用いた。p<0.05を有意とした。
結果 目標設定の状況は,3県間に差はなく,「ほとんど設定」と「設定のほうが多い」で46.4%,設定の必要性は75.7%が有るとしていた。評価は「ほとんど実施」と「実施のほうが多い」で53.2%であった。目標の設定と評価の実施は有意に関係していた。実態把握に関して,情報の活用は市町村独自で実施する調査等の労力を要するもので低く,プリシード・プロシードモデルに対応する各項目の把握は行動とライフスタイル,環境,準備・強化・実現因子で低かった。いずれも,目標設定をしているほうが良好であった。目標設定は,良い経験の有無,組織内の目標設定の指示の有無,指示がある場合の目標設定の意識,評価の実施,目標設定の必要性の意識,研修の活用,目標の設定方法が分からないとの間に有意な関連を認めた。また,指示がある場合の目標設定の意識は,良い経験の有無,評価の実施,目標設定の必要性の意識,組織内の目標設定の指示の有無との間に,さらに,目標設定の必要性の意識は,良い経験の有無,困った経験の有無,研修の受講との間に有意な関連を認めた。目標設定に関する研修は49.6%が受け,研修を活用できたとする約6割の目標設定は良好であった。
結論 目標設定の関連要因は,「組織の指示と指示への対応」「目標設定にかかる経験」「専門能力」「資質向上のための支援」に大別できた。指示は目標設定を促し,目標設定による良い経験が,より積極的な目標設定につながると推察される。さらに,目標設定に必要なスキルを確保できる研修や支援が目標設定の実現には必要である。
キーワード マネジメントサイクル,市町村公衆栄養活動,目標設定,評価,指示,専門能力

 

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第57巻第5号 2010年5月

介護労働者の介護態度自己評価に関連する要因

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 岸田 研作(キシダ ケンサク)

目的 介護労働現場における介護態度に注目をし,介護労働者の介護態度自己評価に関連する要因を明らかにすることである。
対象と方法 対象は,A団体に加盟する66の特別養護老人ホームに勤務する正規職員または非常勤フルタイムの介護職員1,570名である。調査は,職員を対象とした郵送自記式で実施した。介護態度自己評価を従属変数とし,年齢,性別,雇用形態,資格,勤務時間,施設管理者のリーダーシップ,職場の人間関係,性格等を独立変数とする重回帰分析を行った。
結果 分析対象者の平均年齢±標準偏差は,35.9±11.9歳であった。性別では,対象者の77.1%が女性であった。正規職員は,75.4%であった。介護態度の自己評価得点の平均値±標準偏差は,17.9±3.0点であった。施設管理者のリーダーシップ得点の平均値±標準偏差は,22.6±5.5であった。属性等による介護態度評価得点の比較では,「雇用形態」「シフト希望」「相談者の有無」「性格」で平均値の差があり,「仕事満足度」「利用者の立場にたつ」「職場の人間関係」「仕事継続意思」で傾向性の検定における順位相関が有意であった。重回帰分析の結果では,介護態度評価得点に影響する要因は,「年齢」「利用者の立場にたつ」「穏やかな性格」「仕事継続意思」「仕事満足度」であった。
結論 今回の調査によって,介護労働者の自己介護態度評価は,介護労働の環境よりも,介護の仕事に対する姿勢や介護に対する肯定観などが関連した。こうした影響要因が,質の高い介護実践に結びついたものであるかどうか,今後検討を要するところである。
キーワード 介護労働者,介護態度,評価,特別養護老人ホーム

 

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第57巻第5号 2010年5月

基本健診項目からみた死亡に対する集団寄与危険割合
(血圧,HbA1c,HDLコレステロール)

朝倉 幸代(アサクラ ユキヨ) 島崎 忠美(シマザキ マミ) 柳瀬 香織(ヤナセ カオリ)
多比木 佳子(タビキ ケイコ) 西 直子(ニシ チカコ) 村井 明子(ムライ アキコ)
瀧波 賢治(タキナミ ケンジ) 黒澤 豊(クロサワ ユタカ) 須永 恭子(スナガ キョウコ)
成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 富山市全体の健康状況の把握を健康指標である死亡から捉えることとし,市全体の死亡に影響する要因を明らかにするため,性・年齢階級別集団寄与危険割合を算出した。また,この分析で示された結果とこれまで市で実施してきた保健事業の内容と整合しているかどうかを確認し,今後も同様に保健対策を継続していくことが必要かどうか脳卒中対策事業の基礎情報として検討した。
方法 平成12年度健診受診者のうち40~84歳までの38,112人(男性11,357人,女性26,755人)を対象とした。この中から健診結果を有し,平成12年4月1日~平成17年11月末日までに発生した病死2,164人(男性1,276人,女性888人),生存35,882人(男性10,041人,女性25,841人)を分析対象とした。血圧は区分値を設定し5カテゴリーに分けた。HbA1cは5%ごとに5カテゴリー,HDLコレステロール(以下,HDL)は10㎎/dlごとに5カテゴリーに分けた。各健診項目の死亡に関わるリスク比は,それぞれ年齢4群で性別にCoxの比例ハザードモデルにてハザード比を算出した。各健診項目における性別,年齢階級別の各カテゴリー別構成割合を平成19年9月末日の富山市の40~84歳の人口での推計人口を算出した。次に,この推計人口に死亡のリスク比を乗じ,年齢階級ごとのカテゴリー別に推計死亡数を算出し,年齢階級別集団寄与危険割合を算出し,かつ各カテゴリー別にその構成値を示した。
結果 血圧では,男性の40~54歳,55~64歳の壮年期で集団寄与危険割合はそれぞれ6.5%,13.5%,女性の壮年期,前期高齢者では4.1%,9.9%,11.9%と高値を示した。HbA1cでは,男性の55~64歳を除くすべての性・年齢階級で高い集団寄与危険割合を示し,その値は10~16%であった。しかし(4.9%以下)の構成値も計で男性4.3%,女性5.5%と正の値を示した。HDLでは,男性の64歳以下を除くすべての性・年齢階級で高い集団寄与危険割合を示し,その値は7~39%であった。
結論 市全体の死亡を減らすという新たな視点で保健対策について検討した結果,男性の壮年期,女性の壮年期および前期高齢者の高血圧対策,HbA1c高値,HDLコレステロール低値への対策が有効であることが示された。今後も長期的に情報を集約,分析し,市民の健康状態を把握するとともに保健施策の成果を適切に評価し,効果的な保健事業の実施へつなげていくことが重要であると考えられる。
キーワード 健康指標,集団寄与危険割合,保健対策

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第57巻第7号 2010年7月

定年退職を控えた地方公務員における職業性ストレス,
ストレス対処能力,精神的健康度の特性と関連についての実証研究

宇佐見 和哉(ウサミ カズヤ) 笹原 信一朗(ササハラ シンイチロウ) 吉野 聡(ヨシノ サトシ)
友常 祐介(トモツネ ユウスケ) 羽岡 健史(ハオカ タケシ) 松崎 一葉(マツザキ イチヨウ)

目的 平成19年以降いわゆる団塊世代が大量に定年退職を迎えるなど社会的にも注目されている。定年退職は老年期における重要なライフイベントとして以前から知られるが,この時期の労働者の職業性ストレスを検討した研究はほとんど認められない。今回,定年退職を直前に控える地方公務員の職業性ストレスとストレス対処能力の特性と精神的健康度との関連について検証し,定年退職を直前に控える労働者の職業性ストレスモデルを明らかにし,職場におけるメンタルへルス対策に資することを本研究の目的とした。
方法 某地方自治体に勤務する公務員のうち,平成21年3月に定年退職する者に対し実施された,定年退職者セミナーに参加した職員1,351名を対象とした。調査方法は,平成2010月に実施された定年退職者セミナー内において,研究実施担当者が本調査に関する趣旨説明を行った後,記名自記式質問紙を配布,後日郵送にて回収した。調査項目には年齢,性別などの基本属性のほか,職業性ストレスの指標として職業性ストレス簡易調査票(BSJS: Brief Scales for Job Stress),ストレス対処能力の指標として首尾一貫感覚(SOC: Sense of Coherence29項目版,そして精神的健康度の指標としてSDSSelf-Rating Depression Scale)をそれぞれ用いた。
結果 回収数は713名(回収率52.8%)で,質問項目に欠損値のない552名を解析対象とした。性別は男性447名(81.0%),女性105名(19.0%)であった。SOC平均得点は132.8±18.8点で,SDS平均得点は29.3±7.2点であった。SDS得点を目的変数,SOC得点およびBSJS下位項目得点を独立変数とした重回帰分析を行ったところSDS得点にはSOCが非常に強い影響を与え,また職業性ストレスのうち「質的負荷」が強く影響していることが明らかになった。
結論 定年退職を控える労働者においては,ストレス対処能力は高く,職業性ストレスは軽度であり精神的健康が良好に保たれていることがわかった。また職業性ストレスのうち,「質的負荷」の急激な増大が精神的健康度の悪化に影響する可能性が示唆された。
キーワード 定年退職,首尾一貫感覚(SOC),ストレス対処能力,精神的健康度,職業性ストレス

 

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第57巻第7号 2010年7月

日本の高齢女性における死因構造の推移(1955~2005年)

-前期高齢者と後期高齢者の死亡率・死亡割合の推移-
吉永 一彦(ヨシナガ カズヒコ) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 近年,日本人の死亡率は,生活環境の改善,医薬品・医療技術の開発,生活水準の向上などを背景に著しく低下し,高齢者についても同様であるが,75歳を境とする前期高齢者と後期高齢者においては,その死因構造と推移に相違がうかがえ,50歳以上の高齢者について1955年以降の主要死因の経年推移を分析する。
方法 19552005年における5099歳の主要死因の死亡率と死亡割合について経年推移を観察する。
結果 全死因の死亡率の著しい低下現象が,1955年以降60歳辺りから80歳辺りへ経年的に推移していた。死因別死亡率では胃腸炎,結核,高血圧性疾患,脳血管疾患が全高齢者で低下したが,悪性新生物と肺炎は前期高齢者では低下していたが,後期高齢者は逆に上昇していた。このうち前期高齢者での悪性新生物の低下はわずかであったが,肺炎の低下は大きい。また,自殺は65歳以下で女はほとんど変わらないが男は上昇していた。後期高齢者では男女ともに低下していた。死亡割合では胃腸炎,結核,高血圧性疾患が著しく減少し,1%にも満たなくなった。脳血管疾患は1955年では6569歳をピークとし35%ほどを占めていたが前期高齢者で著しく減少し,10%程度となった。悪性新生物は全年齢で凸状に増大し,2005年ではピークは女で5054歳で56%,男は6569歳で46%を占めていた。肺炎は後期高齢者での上昇が大きく,9599歳では20%と大きな割合を占めていた。全体的に,死亡割合では悪性新生物が全年齢で増加し,脳血管疾患は1975年までは大きな割合を占めていたがその後高齢へ移行しながら減少した。また心疾患,肺炎も後期高齢者で大きな割合を占めていた。
結論 高齢者の死亡率は経年とともに著しく低下しているが,その中でも前期高齢者における結核,脳血管疾患の低下が大きく,75歳付近における死亡率の変曲現象への影響が大きいと思われた。死因の年齢分布では前期高齢者と後期高齢者とがおおむね大別されるように思われる。すなわち,前期高齢者から後期高齢者の前半にかけては悪性新生物が大きな死亡割合を占め,後期高齢者では悪性新生物,心疾患,脳血管疾患,肺炎の死亡割合が大きく,その内,悪性新生物は前半で大きく,加齢とともに減少し,心疾患,脳血管疾患は近年では減少しつつもまだ大きな割合を占め,肺炎は経年的にも増加していた。
キーワード 死亡率曲線,変曲現象,死因構造,前期高齢者,後期高齢者

 

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第57巻第7号 2010年7月

都市在宅高齢者に対する
自記式質問紙調査回答割合の関連要因と選択バイアス

星 旦二(ホシ タンジ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 中山 直子(ナカヤマ ナオコ)
高 燕(コウエン ハセガワ) 長谷川 卓志(タカシ タカハシ) 高橋 俊彦(トシヒコ トモヤマ)
巴山 玉蓮(ギョクレン サクライ) 櫻井 尚子(ナオコ ) 
 
目的 高齢者に対する様々な調査が数多くの自治体や研究機関で実施され,回答においては選択バイアスが内在するものの,その実態は必ずしも明確ではない。研究目的は,都市に居住する高齢者に対する自記式質問紙調査への回答割合の関連要因と選択バイアスの実態を明確にすること,および質問紙調査を本人が記載した場合と,家族が記載した場合とに分けて調査結果を比較し,その特性を明らかにすることである。
方法 分析対象者は,都市郊外A市に居住する高齢者を調査対象にして2001年に自記式質問紙調査に回答した13,066人である。調査内容は,受療状況,社会ネットワーク,生活習慣,生活活動能力である。回答割合の関連要因と選択バイアスを分析する方法は,住民基本台帳人口と自治体報告要介護者数を基準とし,質問紙調査結果でみた性別年齢階級別回答者数と介護度別要介護者数とを比較して求めた。
結果 本調査結果により,回答割合を低下させる関連要因は,80歳以上であることと要介護度低下であり,要介護者をより少なく推定するという選択バイアスが存在する可能性が示された。
キーワード 自記式質問紙調査,回答割合,都市在宅高齢者,選択バイアス

 

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第57巻第7号 2010年7月

特定健診データと医療費データからみる
特定保健指導対象者の検討

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ) 福田 敬(フクダ タカシ) 古井 祐司(フルイ ユウジ)

目的 本研究は,2008年4月から医療保険者に実施が義務化された特定健診データと医療費(レセプト)データを用いて,特定保健指導対象者の実態を把握し,今後の医療保険者における対象者選定および予防施策のあり方の検討に資する情報を提示することが目的である。
方法 6つの保険者(健康保険組合および市町村の国民健康保険)から特定健診データ,医療費データを入手し,「標準的な健診・保健指導プログラム」に基づき階層化(「情報提供群」「動機付け支援群」「積極的支援群」)を行うことで特定保健指導対象者のステップごとの人数の推移を観察すると同時に,突合分析を行うことで医療費との関係を検討する。
結果 階層化の結果,特定保健指導の対象となる「積極的支援群」の割合は,健康保険組合の17.2%に対して国民健康保険では3.7%と少ない。医療費は,特定保健指導の対象外となっている「情報提供群」が大きな割合を占め,健康保険組合では約7割,国民健康保険では約9割であった。「情報提供群」の中でも「服薬中の者」の医療費が全保険者で共通して最も大きな割合を占めた。突合分析による1人当たり医療費および重回帰分析からも,「服薬中の者」の医療費が一番高額であった。
結論 服薬者の除外規定により,特に,国民健康保険では特定保健指導の対象者が大きく減少する。服薬により生活習慣病の悪化防止が期待できるが,必ずしも継続的な受診や自己管理が十分ではない患者が少なくないことが想定されることから,今後,服薬者でリスクを有したままの群がこれ以上重症化しないための予防プログラムの必要性が示唆された。
キーワード 特定健診,特定保健指導,突合分析,医療費,標準的な健診・保健指導プログラム

 

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第57巻第5号 2010年5月

今後の国民生活基礎調査の在り方についての一考察(第2報)

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
橋本 英樹(ハシモト ヒデキ)

目的 国民生活基礎調査に平成19年調査より採用された心の健康指標(K6)の表章のあり方について検討を行う。また,自覚的健康状態の報告バイアスについて検証する。
方法 旧統計法のもとで平成19年国民生活基礎調査の世帯票・健康票・介護票・所得票・貯蓄票について,目的外利用申請を行いデータを入手した。K6については,先行研究にならいスコア化したうえで5点をカットオフとして心理的ストレスの有所見割合を年齢・性・各票項目とクロスさせて推計した。自覚的健康状態(5件法)を年齢・性・罹患疾患・日常生活影響・心理的ストレス有無・10地域ダミーでordered probit modelで回帰したのち,推計値を求めなおし,これを自覚的健康状態の回答結果と対比してバイアスの有無を検証した。
結果 心理的ストレスの有所見割合は,身体的健康や世帯構成,就労や所得・資産の保有状況など,個人を取り巻く様々な世帯面要因と関連が認められた。また,年齢層や性別によって,世帯面要因との関連は異なることが観察された。自覚的健康状態と推計された標準化健康指標との間には性差・地域差によるずれはみられなかったが,高年齢ほど推計値よりも低い健康状態を報告する傾向が明瞭にみられた。これは疾病や日常生活動作の障害などで表現される以外の,生理的加齢による影響を反映している可能性が考えられた。
結論 心理的ストレスは,ジェンダー役割やライフステージによってストレッサーが異なり,それに応じた評価分析や対応が必要であることが示唆された。そのためには年齢・性別に加えて,世帯票・介護票・所得票各票の項目とのクロス集計が必要であると考えられた。自覚的健康状態は,健康状態の客観的指標として年齢層ごとに地域比較や属性比較を行うには,十分機能していることが確認された。年齢による影響についてはさらなる検討が必要である。
キーワード 国民生活基礎調査,K6,表章のあり方,自覚的健康状態,報告バイアス

 

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第57巻第6号 2010年6月

特別養護老人ホームを対象とした質問紙調査における依頼と回答の実態

-アンケートがもたらす業務への支障-
大西 次郎(オオニシ ジロウ)

目的 質問紙調査(アンケート)は発信側にとって取り組みやすく,低コストで広範にデータを収集できる反面,十分に吟味されない調査が少なからず実施されることで,受信側にとって回答の作成・返送が重荷となる危険性をはらむ。他方,介護施設は高齢者の生活の場であるとともに,福祉の実践,社会保障政策の反映の場でもあり,複数の学術領域から関心を持たれている。とくに,最大数の定員を擁する特別養護老人ホーム(以下,特養)への調査は,その規模からアンケートの形をとりやすい。そこで特養を対象にしたアンケートの実態と,業務に与える影響を検証するため,あえて一片の質問紙調査を行った。
方法 兵庫県下の全特養(251施設)へ無記名,自記式の調査票を郵送し,記載を依頼した。休止1と移転1を除く249施設のうち,総回収数(率)は183施設(73.5%)であった。調査へ協力しない,ないし協力するが公表に同意しない意思を表明した23施設を除く160施設(64.3%)を総分析対象とした。調査期間は2008年10月から同年12月までである。
結果 2007年11月から2008年10月までの1年間で,中央値11~15件(最頻値6~10件)のアンケートの依頼があり,109施設でその半数以上へ返送(回答)を行っていた。ほとんど返送できないとした施設の数は7にとどまった。一方,154施設で返送に負担を感じており,123施設は業務に支障をきたす可能性があるとした。しかし,今後の対応は110施設において従来と同様か,それ以上に返送を続けると判断していた。
結論 アンケートに対する回答は,多くの特養において重荷となっている可能性がある。その上での返送には,施設の経営や職場環境の改善へ向けた願いがあり,発信側には質問量と内容を厳選し,かつ同種調査の重複を避けるといった受信側への配慮とともに,調査の社会的価値を高めていく努力が求められる。
キーワード 質問紙調査,アンケート,特別養護老人ホーム,介護福祉施設,調査技術

 

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第57巻第6号 2010年6月

要介護認定を受けた認知症高齢者の日常生活自立度の変化と
認知症に関連する症状項目の変化

鳶野 沙織(トビノ サオリ) 新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ)
東海 奈津子(トウカイ ナツコ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ) 山田 雅奈恵(ヤマダ カナエ)
田村 一美(タムラ ヒトミ) 山口 悦子(ヤマグチ エツコ) 永森 睦美(ナガモリ ムツミ)
上坂 かず子(コウサカ カズコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知症自立度)の変化を明らかにすることを目的とした。さらに中核症状や周辺症状といった認知症関連症状項目についてもその変化を明らかにし,これらの症状と認知症高齢者が要介護認定を受けた場所や歩行能力との関連を検討した。
方法 T県X地区において2001年4月1日~2007年6月30日の期間に新規に要介護認定を受けた第1号被保険者のうち,認知症自立度ランクⅠ-Ⅲと判定された1,717人を対象とした。そして,要介護認定2回目更新時の認知症自立度が改善した者,維持した者,悪化した者の割合を算出した。次にランクⅠ-Ⅲ別の改善群・維持群・悪化群に分け,認知症関連症状項目ごとに初回と2回目更新時の有所見者の割合を算出し,その割合の差が大きかった関連症状項目を抽出した。さらに割合の差が大きかった関連症状項目のうち,初回認定調査実施場所が「自宅であった者における有所見者の割合」と「自宅外であった者における有所見者の割合」および「歩行可能であった者における有所見者の割合」と「歩行不可能であった者における有所見者の割合」を算出し,それぞれにおいてその割合の差を求めた。
結果 対象の60.7%が認知症自立度を維持し,12.0%が認知症自立度を改善させていた。中核症状やひどい物忘れの有所見者の割合は高く,また2回目更新時の改善や悪化における変化も大きかった。中核症状やひどい物忘れは,必ずしも認定調査実施場所が自宅や歩行可能な場合に有所見者割合が低いという事はなく,場所や歩行能力によって特定の方向性を示す事はなかった。
結論 認知症の中心となる中核症状であっても,大きく症状が改善したり悪化したりする可能性が示唆された。
キーワード 介護保険制度,認知症高齢者の日常生活自立度,認知症の症状

 

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第57巻第6号 2010年6月

首都圏A市在宅高齢者の知的能動性と
5.9年間追跡生存予後に基づく認知症見逃し割合

-家族が認知症と認識している群とそれ以外の群との比較から-
山本 千紗子(ヤマモト チサコ) 星 旦二(ホシ タンジ)

目的 地域在宅高齢者の基礎調査時の知的能動性と5.9年間追跡した生存・死亡状況との関連から,認知症見逃し割合を明らかにすることとした。
方法 2001年9月に実施した65歳以上在宅高齢者全数対象の生活実態調査(回収割合80.2%)に基づき,13,058人を分析対象とし,家族が代理回答で「理解力なし(認知症あり)」を選択した場合を,家族が同居高齢者の認知症を認識している群(以下,家族認識認知症群),それ以外の群を「家族認識以外群」とした。2004年と2007年に生存死亡状況を調査し,12,143人について5.9年間追跡した。知的能動性活動として「預貯金の出し入れ・年金等の書類記入・新聞書物を読む」を用いて得点化し,ROC曲線(受診者動作特性曲線)により低得点群と高得点群に分割した。家族認識以外群をさらに低得点・高得点群に分け,家族認識認知症群と家族認識以外2群の死亡割合の関連から認知症見逃し割合を検討した。
結果 家族認識認知症群の低得点群は男性95.1%,女性96.2%,家族認識以外群の低得点群は男性6.3%,女性9.3%であった。5.9年間の累積死亡割合は,家族認識認知症群が56.7%(男性63.5%,女性54.0%),家族認識以外低得点群は49.4%(男性55.6%,女性45.6%),家族認識以外高得点群が11.6%(男性15.3%,女性8.1%)であった。5.9年間の死亡者の死亡時平均年齢は,家族認識認知症群が男性85.6歳,女性90.1歳,家族認識以外低得点群は男性84.8歳,女性90.2歳,家族認識以外高得点群では男性79.6歳,女性80.2歳であった。
結論 家族認識以外低得点群である男性6.3%,女性9.3%は,先行研究の結果と同様に,死亡割合が高く,死亡時平均年齢が家族認識認知症群とほぼ等しいことによって,認知機能低下があるにもかかわらずその症状が見過ごされている認知症見逃し割合に等しいことが示唆された。さらに,家族も本人も認知症と認識していない場合であっても,知的能動性を測定して低得点者を識別する意義が大きい可能性が示された。
キーワード 家族認識認知症群,知的能動性,家族認識以外低得点群,認知症見逃し割合,累積死亡割合,死亡時平均年齢

 

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第57巻第6号 2010年6月

小規模地方自治体における医療費関連指標に関する地域診断と相関分析

-総務省類型による町村Ⅰ-1を対象として-
上岡 洋晴(カミオカ ヒロハル) 岡田 真平(オカダ シンペイ) 武藤 芳照(ムトウ ヨシテル)
本多 卓也(ホンダ タクヤ) 森山 翔子(モリヤマ ショウコ)

目的 本研究は,総務省が平成19(2007)年度に分類した小規模自治体を対象として,老人医療費,地域差指数,介護費,介護認定率,平均寿命についての地域診断を実施すること,介護費および老人医療費に関連する因子との相関を明らかにすることを目的とした。
方法 総務省はすべての地方自治体を人口と産業構造によって35分類しているが,このうち農山村が主に含まれる「町村Ⅰ-1(人口5,000人未満で,第2,3次産業従事者が80%以上,第3次産業従事者55%未満)」を対象とした。最新の平成19年度の分類では,32町村が該当した。医療関連,介護関連,健康関連の指標は,平成17(2005)年度分公開統計を利用した。具体的には,国民健康保険(国保)における老人(65歳以上)1人当たり医療費と地域差指数,65歳以上1人当たり介護費,人口(人口,世帯数),高齢化状況(高齢化率,高齢者に占める後期高齢者割合,生産人口比率,高齢単身・夫婦・同居の各世帯割合),産業構造(第1次・2次・3次の各産業従事者割合,人口に占める就業者割合,飲食店数),医療福祉サービス供給(人口対医療福祉業従事者数),介護依存実態(要介護認定率,介護費用に占める居宅介護費用割合),健康関連指標(平均寿命),人口対病院数・診療所数,人口対常勤保健師数であった。地域診断では,各町村における老人医療費,地域差指数,介護費,介護認定率,平均寿命の5項目を全国平均と比較してレーダーチャートで示した。その上で,老人医療費と介護費を目的変数とした重回帰分析を行った。
結果 地域診断では,神恵内村は介護費が安価だが老人医療費が高価な型であった。若桜町と球磨村は,介護費が高価だが老人医療費が安価な型であった。その他の町村は,5項目が安定あるいは良好な型であった。老人医療費と介護費の単相関係数は,r=-0.13で有意ではなかった。重回帰分析の結果,老人医療費との標準回帰係数の大きい順に相関の高かった因子は,1人当たり入院費,1人当たり入院外費であった。介護費では,世帯数,第2次産業比率であった。
結論 総務省類型の小規模自治体(町村I-1)においては,老人医療費と介護費との相関係数は低く,類似・相互補完関係など多様であった。小規模町村の評価には,保健・福祉事業の詳細を把握するような質的分析の必要性が示唆された。
キーワード 地方自治体,老人医療費,介護費,過疎,高齢化

 

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第57巻第7号 2010年7月

市町村合併が保健(師)活動に及ぼした影響

-人口規模別の比較検討-
都筑 千景(ツヅキ チカゲ) 桝本 妙子(マスモト タエコ) 生田 惠子(イクタ ケイコ)
平野 かよ子(ヒラノ カヨコ) 石川 貴美子(イシカワ キミコ) 烏帽子田 彰(エボシダ アキラ)

目的 200611月,全自治体1,840市町村(特別区を除く)を対象に行った質問紙調査をもとに,合併を行った自治体について,合併が保健(師)活動に与えた影響を人口規模別に比較検討した。
方法 事前に電話で協力を依頼し,了解が得られた974市町村の保健活動の責任者(保健師)に,郵送で調査票を配布し,記名により郵送で回収した(回収率52.9%)。このうち平成元年以降に合併を実施した329市町村(調査時点での全国合併市町村の58.4%)を分析した。使用した項目は,市町村の概況,保健部門の組織基盤,保健師配置と確保状況,保健事業および保健師活動に関する項目である。
結果 合併後の旧保健センターの機能位置づけは,どの人口規模も「変化なし・対等」が一番多かった。「本所と分所」は人口規模が大きいほど多く,「1カ所に集約」は人口規模が小さいところが多かった。保健事業に関する権限は,どの人口規模も「所管課に集中化」「ほぼ集中」が多数で約80%を占めた。旧市町村の保健師配置は,3万人以上の市町村では「支所に配置」が62.878.4%,3万人未満では半数程度であった。旧市町村で展開していた質の高い事業は,1万人未満で「当該地域で継続」が一番多く,「全市町に拡大して実施」は1~3万人未満が50%と一番高かった。合併後の保健師の業務形態は,「地区分担制」5%,「業務分担制」9.5%,「地区分担・業務分担の併用」82.3%であり,1万人未満の市町村で「業務分担制」が23.1%と一番多かった。保健師の担当分野が「合併後に専門分化された」のは3~5万人未満で一番多く,「専門分化ではなく他領域を対象とする傾向」が1万人未満で一番多かった。
結論 多くの新市町で保健事業に関する権限は支所になく,保健師の配置も十分でない状況が明らかになり,広範囲の地域を対象とした住民ニーズの把握方法や関係機関との連携・協働のあり方を検討していくことが必要であると考えられた。新市町において,保健師は地域診断を行って地域特性や課題を把握し,課題解決に向けて実現可能な活動について職場で共有し,質の高い活動を展開していくことが必要であり,そのための手法の確立が今後の課題であると考えられた。
キーワード 市町村合併,保健(師)活動,人口規模,保健事業

 

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第57巻第8号 2010年8月

転倒・転落死亡率の統計的分析(1950~2006年)

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
今泉 洋子(イマイズミ ヨウコ) 屋久 真寛(ヤヒサ マサヒロ) 鐘ヶ江 葉子(カネガエ ヨウコ)

目的 転倒・転落死亡率の長期変動を調べると共に,これらの死亡率に影響を及ぼした要因について分析を行い,転倒・転落死の実態を明らかにすることである。
方法 1950~2006年の人口動態統計資料を用い,転落・転倒死亡率の統計的分析である。
結果 転倒・転落死の男子年齢調整死亡率は1970年から2006年までに半減,女子の値は1966年から2006年までに1/3近くまで減少した。死亡率の男女格差は1958~2006年まで3倍前後で推移していたが,0~4歳と70歳以上の死亡率は男女とも同程度,特に男女格差が大きいのは30~39歳で10倍以上と高いが,1995年以降は4倍前後と男女格差は縮小している。主要3死因の中で特に男女の「階段及びステップからの転落及びその上での転倒(W10)」と男子の「建物又は建造物からの転落(W13)」の年齢調整死亡率の減少率は大きい。W10とW13の傷害発生場所が家庭内の割合は男子では年次と共に上昇,女子W10の家庭内割合は70%以上,W13の値は50~70%と横ばいで推移している。一方「スリップ,つまずき及びよろめきによる同一平面上での転倒(W01)」の男子の死亡率は1950年から2006年にわたり年次変動はあるが上昇傾向がみられた。女子のW01死亡率は1974年まで上昇,翌年から1990年まで減少後は横ばい傾向にある。なお,男女共にW01年齢調整死亡率の減少率が低いのは高齢化率の上昇と関係していた。
結論 W01年齢調整死亡率の減少が始まった年次は男女で異なるが,1966~1979年まで男女の死亡率は同程度であり1990年まで減少している。1990年までの死亡率の減少はバリアフリーの整備や医療水準の向上によるが,1991年以降の男子死亡率の上昇や女子の横ばい傾向は,わが国の高齢化率の上昇と関係しているので,高齢者向けの居住環境の整備が必要であろう。男子W13死亡率の減少は工業用地域での従業中の死亡率の低下によるものである。この減少は環境整備や医療水準の向上によるものと思われる。なお,男子W13死亡率の急速な減少が転倒・転落死の男女格差の縮小をもたらしている。男子のW10とW13死亡率の家庭内割合が上昇したのは,高層住宅の普及と関係があると思われる。
キーワード 転倒・転落死亡率,人口動態統計,長期変動,傷害発生場所,男女格差

 

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第57巻第8号 2010年8月

学生の介護職のイメージ

-介護福祉実習体験の違いによる意識の比較-
津田 理恵子(ツダ リエコ)

目的 介護に対する社会的イメージが悪い中で,介護福祉士養成施設における学生の定員割れは深刻な課題となっている。そこで,介護福祉士養成施設で学ぶ学生に,介護職のイメージなどについてアンケート調査を実施し,介護福祉実習経験を重ねることでその意識に差があるのか比較検討し,その結果をもとに,介護現場が抱える課題を整理することで,介護福祉士養成施設における学生への価値教育に役立てたいと考えた。
方法 調査対象は4年制大学介護福祉コースの学生81名で,2009年4月4日~4月15日の期間に,介護職のイメージや働きがい,介護福祉実習体験による介護職のイメージの変化,将来の就職希望職種などの質問紙を作成し,学年ごとに一斉に配布し自己記入方式,無記名で回答を得た。介護福祉実習経験を重ねた者による意識を比較するためにSPSS15.0を使用し,学年ごとの回答を記述統計処理し,自由記述回答は,回答内容をカテゴリー化して整理した。
結果 介護職は働きがいがあると感じているにも関わらず,介護に対するイメージは良いとはいえず,「介護の質」「人材不足」「給料面」での課題を感じていることが明確になった。介護福祉実習を重ねることで,介護現場の課題を認識したうえで,現場の表面的な大変さだけでなく,介護者としての喜びを実感し介護職を希望する学生が増える傾向があることが明確になった。
結論 専門職者として理論と実践の統合を目指した介護福祉実習では,学生が利用者との関わりから,生活支援を通して働きがいがある職種としてその喜びが実感できるよう,学生自身の成功体験を導く教授内容を展開する必要である。そして,社会における介護職のイメージ回復に向けた取り組みにより,介護のイメージの負のスパイラルは断ち切れると示した。
キーワード 介護職のイメージ,学生,介護福祉実習,実践現場の課題,養成教育

 

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第57巻第8号 2010年8月

行政事業協力型保健ボランティア活動における
ファシリテーション技術とその関連要因の検討

奥野 ひろみ(オクノ ヒロミ)

目的 行政事業協力型保健ボランティア活動における協働のためのファシリテーション技術と,それを促進する担当者の要因を明らかにする。
方法 調査は,全国市町村保健センター要覧より系統抽出を実施した1,175区市町村保健センターに対し,自記式質問紙の郵送法により行った。調査項目は,ファシリテーション技術,担当者の保健ボランティア活動への積極性,ヘルスプロモーション活動に関する意識,住民参加の認識,自己研鑽,担当者の属性,ボランティアの選出方法である。分析は,ファシリテーション技術の尺度点を用いて因子分析を行い,ボランティアの選出方法間でファシリテーション因子得点の差異を確認した。ファシリテーション技術を促進する担当者の要因は,ファシリテーション技術高群と低群の2群間で確認した。
結果 対象1,175区市町村保健センターのうち,606区市町村から回答が得られた(51.6%)。そのうち保健ボランティア活動を実施し有効回答の得られた478市町村(40.7%)で分析を行った。ファシリテーション技術は,「円滑なコミュニケーション」「メンバーの自己決定への配慮」「住民とのパートナーシップ」「成果の公表」「メンバーの確保」の5因子が抽出された。自薦のボランティアグループは,ファシリテーション技術の「メンバーの自己決定への配慮」「住民とのパートナーシップ」「成果の公表」「メンバーの確保」で因子得点が高値であった。ファシリテーション技術高群は低群に比して,活動への積極性,ヘルスプロモーション活動に対する意識の高さがみられた。
考察 ファシリテーション技術は,事前準備,グループ・プロセスのサポート,継続に向けての意欲の向上という一連の流れの中での技術と捉えることができる。また,これらを促進するためには担当者のヘルスプロモーション意識の向上が重要であることが示唆された。
キーワード 保健ボランティア活動,ファシリテーション技術,ヘルスプロモーション

 

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第57巻第8号 2010年8月

がんと精神科医療

-DPCデータに基づく検討結果から-
松田 晋哉(マツダ シンヤ) 藤森 研司(フジモリ ケンジ) 桑原 一彰(クワバラ カズアキ)
石川 ベンジャミン光一(イシカワ ベンジャミンコウイチ) 堀口 裕正(ホリグチ ヒロマサ)

目的 がん医療においては抑うつや不安などに対する精神科的ケアの重要性が高い。しかしながら,がん診療の入口となる急性期入院医療の現場で精神科的ケアがどの程度行われているのかは明らかでない。そこで,現在急性期病院を対象に行われているDPC調査で収集されているデータをもとに,がん医療における精神科医療の状況を分析し,今後の在り方を考究することを試みた。
方法 平成20年度に厚生労働科学研究費研究事業「包括払い方式が医療経済及び医療提供体制に及ぼす影響に関する研究」に参加した855病院から収集したDPCデータから乳房の悪性腫瘍(090010)で,分析に必要な必須項目の入力に問題のない36,047例(女性症例のみ)を抽出し,併存症・続発症としてのうつ関連疾患(ICD-10でF3$,F4$)の発生状況を分析した。
結果 F3$,F4$の記載割合はともに1.8%で,年齢階級別では30~39歳で最も高かった(F3$:3.1%,F4$:2.6%)。手術と化学療法の組合せ別にF3$とF4$の出現割合をみると,手術なし群では化学療法「なし群」で「あり群」より有意にF3$の出現割合が高く(3.6%と1.7%;p<0.001),手術あり群では化学療法「あり群」が「なし群」より有意にF3$の出現割合が高く(3.1%と1.4%;p<0.001),またF4$の出現割合も有意に高かった(2.6%と1.2%;p<0.001)。精神科的治療の内容の分析結果では,F3$の記載のある症例の19.6%で抗うつ剤による治療,9.8%で精神科専門療法,0.9%で緩和ケアが行われていた。
考察 本研究の結果は,わが国の急性期入院医療においては,がん患者のうつに対して十分な精神科的対応が行われていないことを示唆しており,今後の急性期病院における精神科の在り方について検討が必要であると考えられた。
キーワード DPC,乳がん,うつ,がん医療,精神科医療

 

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第57巻第8号 2010年8月

権利擁護としての日常生活自立支援事業の現状と課題

-専門員・生活支援員の支援活動と地域連携を中心に-
濱島 淑恵(ハマシマ ヨシエ) 加藤 薗子(カトウ ソノコ) 谷口 真由美(タニグチ マユミ)

目的 日常生活自立支援事業は,利用制度をベースとした現在の社会福祉制度下において,判断能力が不十分な者の権利擁護を行う極めて重要な事業である。本研究では,日常生活自立支援事業の担い手である専門員および生活支援員の支援活動の実態および地域の社会資源との連携の現状を明らかにし,権利擁護としての当事業の課題を検討することを目的としている。
方法 2008年6月から7月,近畿・東海圏の3府県下の社会福祉協議会を通して,日常生活自立支援事業を担当している専門員および生活支援員に対し,調査票を配布した。回答は無記名で行い,回収は郵送法で行った。調査票の配布数は専門員56名,生活支援員673名とし,回収数は専門員40名(回収率71.4%),生活支援員387名(回収率57.5%)であった。なお,対象者には調査目的や個人情報が特定できないことを文書で示し,質問紙の回収をもって調査への同意を得たものとみなした。
結果 専門員は国家資格保持者や年齢層の比較的若い世代が多く,生活支援員は国家資格保持者が極めて少なく,年齢層が高い者が多かった。また専門員は正規雇用の者が非常に多く,生活支援員は非正規非常勤で低報酬の者が多かった。次に支援活動の状況では,新規ケースが非常に少ないこと,専門員は他の業務と兼務している者が多いことが示された。さらに支援の内容では,事業が規定している範囲外の支援を行っている者が専門員,生活支援員ともに多くみられ,また両者の支援内容には重複があることが示された。地域連携の状況については,専門員と生活支援員間の連携はよく行われていたが,その他の地域の社会資源との連携については,インフォーマルとの連携が手薄であり,縦割りの連携を行う傾向がみられた。
結論 日常生活自立支援事業の周知,利用の促進,専門性を発揮する重要な役割を担うことが期待される専門員の人員配置の充実,事業の支援内容の範囲とその柔軟性,分業体制のあり方についての再検討,地域連携に向けた総合的な取り組みの必要性を今後の課題として挙げた。
キーワード 日常生活自立支援事業,地域福祉権利擁護事業,専門員,生活支援員,権利擁護

 

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第57巻第8号 2010年8月

岩手県花巻市における特定健診未受診者の未受診理由と健康意識

久保田 和子(クボタ カズコ) 大久保 孝義(オオクボ タカヨシ) 佐藤 陽子(サトウ ヨウコ)
廣瀬 卓男(ヒロセ タクオ) 今井 潤(イマイ ユタカ)

目的 基本健康診査の地域における受診率は40%程度に過ぎなかった。特定健診受診率の最終目標は市町村国保で65%とされており,今までよりかなり高い数値を求められている。本研究では市町村国保加入者における特定健診未受診者を対象に,未受診理由と健康意識についての調査を行った。
方法 岩手県花巻市における平成20年度の特定健診対象国保加入者20,519人のうち,10,043人が特定健診を受診した(受診率49%)。末受診者のうち施設入所者・人間ドック受診者等397名を除いた10,079人を対象に,平成21年1月に郵送で未受診理由・健康意識等に関するアンケート調査を実施した。
結果 特定健診未受診者10,079人のうち,4,840人より回答が得られた(回収率48%)。健診未受診の理由としては,他機関での受診や医療機関での受療などを除くと,「自分は健康だから」「時間の都合がつかない」と回答した者が多かった。また健診所要時間に対する許容範囲は非常に短く,「待ち時間を含めて1時間未満」と答えた者が7割に達していた。メタボリックシンドロームについての認知度はかなり高く,名前だけ知っている人まで勘案するとほぼ90%が「知っている」と回答していた。しかし「内容も知っている」と答えた人は3分の2程度であった。回答者の5割強程度が保健指導への参加を希望していた。しかし希望者においても費用負担をする概念はほとんどなく,5割は「無料」を希望し,「有料でも参加」と回答した場合であっても,その希望単価の平均は男性で1,700円,女性では1,200円程度であった。
考察 特定健診未受診理由としては「自分は健康だから」および「時間の都合がつかない」と回答した者が多かった。それぞれ地域啓発と柔軟性の高い受診機会の提供が主な対策となる。未受診者の健診所要時間への要望は現実とはかけ離れており,健診の効率化など行政側の工夫と住民の意識啓発が重要であると考えられた。
キーワード 特定健診受診率,健診未受診理由,医療機関受療,健康意識,メタボリックシンドローム認知度

 

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第57巻第10号 2010年9月

茨城県全市町村の加重障害保有割合(WDP)と
障害調整健康余命(DALE)の経年的算出と地域間比較

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 大高 恵美子(オオタカ エミコ)
澤田 宜行(サワダ ノブユキ) 宮田 正雄(ミヤタ マサオ) 星 旦二(ホシ タンジ)
大田 仁史(オオタ ヒトシ)  

目的 茨城県の介護予防施策と健康づくり施策の立案と評価のための基礎資料を得ることを目的に,茨城県全44市町村の2006年,2007年,2008年の65歳以上の介護保険統計を用いた加重障害保有割合と障害調整健康余命を算出し,地域間比較を行った。WDPは障害の程度によって重みづけをした障害者の割合,DALEは平均余命(生命表)とWDPを使って算出される健康寿命のひとつである。
方法 性・年齢階級別WDPは,性・年齢階級別・介護度別の認定者数,性・年齢階級別人口,および介護度別の効用値(要支援1=0.80,要支援2=0.72,要介護1=0.71,要介護2=0.61,要介護3=0.46,要介護4=0.30,要介護5=0.20)を用いて算出した。性・年齢階級別DALEは性・年齢階級別WDPと生命表を用いてSullivan法で算出した。地域間比較は,地理情報分析支援システムMANDARAを用いて分布図を作成し,行政区分(県北,鹿行,県南,県西,県央)で行った。
結果 茨城県全体では,年齢調整WDPは男女とも年々高くなり,6569歳のDALEは男女とも年々短くなっていた。WDPの地域間比較は,6569歳の男性は鹿行が3年とも高い傾向にあり,女性は県南が高くなる経年的傾向を示した。DALEの地域間比較は,6569歳の男性は県北が3年とも長い傾向にあり,男女とも鹿行が短い傾向にあった。また,女性は県央が長い傾向にあった。
結論 WDPを低下させ,健康余命を延ばす取り組みを行う場合は,画一的ではなく,それぞれの地域特性に合った取り組みを行う必要がある。そのためには,WDPDALEの背景にある地域の健康要因(例えば,3大死因,その他の疾病の死亡率),社会経済要因(医療環境,就業率,所得),人口学的要因(独居高齢者,生活保護世帯)などについて分析し,課題を抽出した上で,施策を策定することが望ましいと考えられた。
キーワード 加重障害保有割合,障害調整健康余命,地域間比較,地域特性

 

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第57巻第10号 2010年9月

児童養護施設の施設形態に関する実証的分析

大原 天青(オオハラ タカハル)

目的 今日,児童虐待相談対応件数は年々増加の一途をたどり,それとともに社会的養護を必要とする子どもの数が増加してきた。そうした中で,児童養護施設に入所する子どものニーズに適した施設形態の議論が行われている。ところが,児童養護施設の施設形態に関する実証的分析は非常に少ない。そこで本研究は,児童養護施設に入所する子どもの基本属性を示したうえで,施設形態ごとの子どもの特徴を統計的に示すことを目的とする。
方法 調査対象は,A県管轄のすべての児童養護施設25カ所に調査依頼を行い,承諾の得られた10施設に入所する児童128人である。各児童を担当する直接支援職員に,Child Behavior Checklist/4-18(子どもの行動チェックリスト,以下,CBCL)の9尺度(「引きこもり」「身体的訴え」「不安・抑うつ」「社会性の問題」「思考の問題」「注意の問題」「非行的行動」「攻撃的行動」「その他の問題」)の中から各6項目程度を選択した合計54項目と,児童の性別・入所期間・虐待の有無等の質問票に回答してもらった。調査期間は,2008年8月~9月である。
結果 本研究では,A県という限られた地域を対象としたが,全国児童養護施設入所児童調査と比較して性別や年齢でほぼ一致した結果が得られた。3つの施設形態(小舎制・中舎制・大舎制)ごとのCBCL得点は,「身体的訴え」「不安・抑うつ」内向尺度で中舎制より小舎制が高かった。さらに,「非行的行動」「攻撃的行動」外向尺度で大舎制よりも小舎制が高得点を示した。
結論 施設形態によるCBCL得点の違いについて,措置の判断や職員の精神的負担感,集団力動による表出の違いが関係していることを考察した。また,職員の自己覚知の必要性や精神的負担感の軽減,職員の配置基準の問題を解決していく必要性が示唆された。
キーワード 児童養護施設,CBCL,施設形態,小舎制,情緒と行動,直接支援職員

 

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第57巻第10号 2010年9月

世帯分類別の異状死基本統計

-東京都区部における孤独死の実態調査-
金涌 佳雅(カナワク ヨシマサ) 森 晋二郎(モリ シンジロウ) 阿部 伸幸(アベ ノブユキ)
谷藤 隆信(タニフジ タカノブ) 重田 聡男(シゲタ アキオ) 福永 龍繁(フクナガ タツシゲ)
舟山 眞人(フナヤマ マサト) 金武 潤(カネタケ ジュン) 鈴木 恵子(スズキ ケイコ)

目的 福祉保健上の問題である孤独死について,行政上対策に資することのできる基本統計を提供することを目的に,東京都区部における単身および複数世帯別の異状死の調査を行った。
方法 昭和62年から平成18年までに東京都監察医務院で取り扱った自宅死亡の異状死のうち,特別区居住者を単身世帯,複数世帯に区分した。調査項目としては,世帯・性別死亡数,世帯・性・年齢階級別死亡数と死亡率,年齢調整死亡率,世帯・性別平均死後経過時間,世帯・性・死後経過時間別死亡数構成比とした。
結果 調査対象例は77,938例であった。世帯・性別死亡数は,各群で死亡数は年々増加していたが,男性単身群は平成9~11年にかけて急激な増加があった。世帯・性・年齢階級別死亡数は,男性単身の4069歳群で死亡数が突出する傾向が,経年的に顕著であった。世帯・性・年齢階級別死亡率は,いずれの群でも年齢と共に死亡率の上昇が認められたが,特に男性単身群では40歳以降に死亡率の上昇が特徴的であった。年齢調整死亡率は,男性単身群,女性単身群,男性複数群,女性複数群の順で,これに経年変動はなかった。平均死後経過時間は,複数群は各年で変動はなく,単身世帯者は経年増加する傾向があった。世帯・性・死後経過時間別の死亡数構成比は,死後経過時間の進行と共に急激に減少しており,3日以内の死後経過は,単身群で5~7割,複数群で9割以上であった。
結論 本調査において,死亡数・死亡率ともに40歳代以降の男性で深刻な状況であることが示された。孤独死対策では,男性の高齢者のみならず40歳代以降の中年層に対する対策が必要であると示唆される。年齢調整死亡率で著明な経年変動はなかったが,高齢化社会の進行から,孤独死の数は今後増加することは確実であろう。そのために,行政上の対策が求められるが,本調査研究からは,孤独死の予防可能性の行政上の対策に資する基本統計の提供が可能と考えられる。
キーワード 孤独死,孤立死,監察医,行政解剖,死体検案

 

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第57巻第10号 2010年9月

地域高齢者における死亡予測因子の検討

-高齢者健診と基本健康診査から-
金子 知香子(カネコ チカコ) 中野 匡子(ナカノ キョウコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)

目的 老人保健事業の見直しに伴い,高齢者を対象に実施する健康診査の項目について,どのような健診項目が適切であるかの検討は重要である。今回著者らは,死亡の発生を評価指標としてアンケート調査,体力測定,従来の基本健康診査項目を評価することを目的とした。
方法 福島県大玉村在住者で満70歳以上に達する者のうち,介護保険認定者(要介護2以上)および入院中の者を除いた1,347人を対象とし,平成16年7月の基本健康診査実施時に高齢者健診(アンケート調査・体力測定)を実施した。高齢者健診の非受診者の訪問によるアンケート調査・体力測定を行った。会場受診群443人,訪問受診群395人について3年間の死亡・転出状況を観察した。
結果 会場受診群と比較し訪問受診群は年齢が高く,日常生活自立度が低い,歩行・入浴が要介護の状態である,老研式活動能力指標得点が低い,健康度自己評価で健康でない,生活体力Motor fitness scaleMFS)の得点が低い,脳卒中の既往がある,栄養摂取頻度が低い,うつ傾向がある,外出頻度が週1回未満,長座位立ち上がり時間が長い者の割合が高いといった特徴を認め,3年間での死亡者の割合が高かった。転帰は会場受診群は生存421人,死亡21人,転出1人であった。訪問受診群は生存351人,死亡42人,転出2人であった。死亡と有意に関連がみられた項目は,①会場受診群では尿糖陽性,総コレステロール低値,②訪問受診群では高齢,男性である,脳卒中の既往がある,MFSの得点低値であった。③受診者全体では高齢,男性である,脳卒中の既往がある,MFSの得点低値,高齢者健診の未受診群であった。
結論 受診者全体,訪問受診群でMFSが死亡に有意に関連していたことから,MFSが高齢者健診の項目として有効な可能性がある。また,会場受診群では従来からの基本健康診査項目のうち尿糖,総コレステロールの有効性が認められ,疾病対策の重要性が示された。地域在住高齢者の死亡発生は会場受診群で低く,会場受診群と訪問受診群では危険因子が異なることが示された。行政の側から健診未受診者の把握は容易である。健診未受診群が全体の死亡の危険因子であることから未受診者対策が高齢者において重要であり,一層の対策が望まれる。
キーワード 死亡予測因子,地域在住高齢者,生活体力(Motor fitness scale),基本健康診査

 

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第57巻第10号 2010年9月

児童虐待と親のメンタルヘルス問題

-児童福祉施設への量的調査にみるその実態と支援課題-
松宮 透髙(マツミヤ ユキタカ) 井上 信次(イノウエ シンジ)

目的 本研究は,児童福祉施設入所児童におけるメンタルヘルス問題のある親による児童虐待の実態を把握するとともに,そのソーシャルワーク支援のニーズおよび支援体制構築に向けた課題を明確化することを目的とする。
方法 児童福祉施設(児童養護施設,乳児院,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設)の全数を対象に,家庭支援専門相談員等への郵送による質問紙調査を行った。質問紙は施設入所児童数等に関するデータ,回答者の属性,その意識に関する5件法の設問とで構成した。
結果 児童福祉施設に入所する児童の49.1%は被虐待児童であり,被虐待児童の46.1%はメンタルヘルス問題のある親による虐待を受けていた。虐待した親のメンタルヘルス問題としては感情障害,虐待種別としてはネグレクトの割合が最も大きかった。当該事例への支援において回答者は困難やストレスを感じている一方,ソーシャルワーカーとしての国家資格所持者は回答者の19.1%,メンタルヘルス問題に関する十分な研修受講者も16.6%にとどまっていた。さらに,精神科医療機関や精神保健福祉士との連携体制は不十分であり,当該問題へのソーシャルワーク支援機能を果たすには体制上の課題があることも明らかになった。
結論 児童福祉施設における精神保健福祉ニーズは非常に高い半面,施設機能および機関連携上その支援体制は不十分である。児童福祉施設と精神保健福祉機関・専門職との連携体制の構築や支援方策・社会資源の開発などが緊急の課題であると言える。
キーワード 児童福祉施設,児童虐待,メンタルヘルス,ソーシャルワーク,家庭支援専門相談員(FSW

 

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第57巻第10号 2010年9月

認知症早期発見を目的とした集団検診の継続意義と
検診からの脱落者の追跡調査の有用性

杉山 智子(スギヤマ トモコ) 丸井 英二(マルイ エイジ) 松村 康弘(マツムラ ヤスヒロ)
林 邦彦(ハヤシ クニヒコ) 山本 精一郎(ヤマモト セイイチロウ) 須貝 佑一(スガイ ユウイチ)

目的 認知症の早期発見は,認知症の重症化や進行予防,介護予防の方策を考える上で重要な課題になりつつある。今回,各自治体で実施されている高齢者健康診査に物忘れ関連項目を加えた簡易な検診システムを考案追加し,2002年度から追跡調査を行った。しかし,この検診事業の中で年ごとに検診に来なくなる高齢者が次第に増加することが観察された。そのため,この群の中に高い割合で認知症や障害の発症があるのではないかとの仮定から集団検診脱落群に焦点をあてて検診未受診者の追跡調査をすることとした。
方法 対象は,都内A病院に区委託の高齢者検診を目的として来院し,本研究の趣旨の説明を受け,同意したものとした。調査内容は,認知機能をMMSEで測定したほか,頭部X線CT,生活習慣調査を行った。また,2008年度に行われた検診に未受診であった者で,本人または家族の連絡で未受診の理由が把握できた以外の者に対し,2008年ならびに2009年2月に電話調査を行い,検診未受診の理由を尋ねた。分析対象は,2003年度の検診事業へ参加した者とした。このうち,2008年度に受診したものを継続群,2008年度を含む3年間連続で未受診であった者を脱落群とし,MMSE得点の比較と脱落群の検診未受診となった理由をその内容に応じて分類し,集計を行った。
結果 2003年度において検診を受診した者は409名であった。対象者の属性は,2003年当時の平均年齢75.8歳,性別は女性の方が多く,256名(62.6%)であった。対象のうち,継続群は289名(70.7%),脱落群は120名(29.3%)であった。2003年度調査時のMMSE得点は,継続群28.1±2.9点,脱落群26.3±5.3点であり,脱落群は継続群よりMMSE得点が有意に低かった(t=3.61,p<0.05)。また,年齢においても脱落群の方が高く,受診年齢で差が認められた。脱落群の未受診理由で最も多かったのは,記載されていた電話番号が使われていない「不通」が23名(21.3%)であり,身体的理由は42名(38.9%)であった。検診未受診理由別のMMSE得点において,身体的な理由(24.2±7.7点)は,元気であると回答した者(28.6±1.4点)よりも得点が有意に低かった(t=-3.54,p<0.05)。
結論 脱落群への追跡調査や脱落をエンドポイントとして検討することの重要性が示唆され,この種のコホート研究にエンドポイントとして何かしらの理由による脱落を設定しておくことは変化の解釈に有効であると考えられた。
キーワード 認知症,早期発見,脱落群,集団検診,MMSE,検診未受診理由

 

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第57巻第12号 2010年10月

国民年金と生活保護に関する実質的受給額の比較

-高齢者単身世帯および高齢者2人世帯を例にして-
和田 一郎(ワダ イチロウ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ)

目的 国民年金を納付しなかった(できなかった)人が,老後に生活保護受給者になった場合,その受給額が国民年金(老齢基礎年金)受給額より厚いのではないかといわれている。しかし受給額を計量的に比較した研究はほとんどない。本研究は,生活保護の高齢者モデルケースをもとに,平成18年度のデータを用いて,そのケースが生活保護を受給せずに国民年金のみ受給している場合の額と被保護者として支給される受給額を,住宅や医療,介護の支出を考慮した実質的受給額として単純比較することを目的とする。
方法 モデルケースである(A)高齢者単身世帯(68歳女),(B)高齢者2人世帯(68歳男,65歳女)を用いた。国民年金受給額(満額,平均額)には医療費・介護費の自己負担額がない高齢者「元気な高齢者」とその自己負担額を考慮する高齢者「一般的な高齢者」,生活保護受給額には生活扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助を考慮してそれぞれの月額の実質的受給額を比較した。
結果 (A)高齢単身世帯:「元気な高齢者」では,国民年金の実質的受給額は満額(平均額)61,856円(43,435円)であった。これに対して生活保護受給額は最低級地(最高級地)で80,568円(98,458円)であり,国民年金受給額の満額は18,712円(36,602円),平均額は37,133円(55,023円)下回っていた。(B)高齢者2人世帯:「元気な高齢者」では,国民年金の実質的受給額は満額(平均額)123,712円(86,870円)であった。生活保護受給額は最低級地(最高級地)で131,066円(158,126円)であり,国民年金受給額の満額は7,354円(34,414円),平均額は44,196円(71,256円)下回っていた。「一般的な高齢者」では医療費自己負担額11,455円(( )内は高齢者2人世帯の額:22,910円),介護費自己負担額1,829円(3,658円)の合計13,284円(26,568円)または介護費自己負担額を0円とした合計額が,それぞれの国民年金の実質的受給額からさらに減じられる形になる。
結論 比較したすべてのパターンで,実質的な国民年金受給額は生活保護受給額より低額であり,福祉における再分配はゆがんでいる可能性がある。この問題への対応や今後の福祉政策立案・施行は,科学的に裏打ちされた根拠に基づいて行う必要がある(根拠に基づいた福祉:Evidence-Based Welfare,EBW)。
キーワード 国民年金,生活保護,比較,不公平感,根拠に基づいた福祉(Evidence-Based Welfare,EBW)

 

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第57巻第12号 2010年10月

被虐待児の育児環境の特徴と支援に関する研究

望月 由妃子(モチヅキ ユキコ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
童 連(トン レン) 平野 真紀(ヒラノ マキ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ)
田中 笑子(タナカ エミコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ) 恩田 陽子(オンダ ヨウコ)
川島 悠里(カワシマ ユリ) 安梅 勅江(アンメ トキエ) 

目的 本研究は,虐待に関連する養育者側および子ども側要因を経年的な分析により明らかにし,虐待の早期発見・早期支援に向けた支援への一助とすることを目的とした。
方法 全国の認可夜間および併設昼間保育園(18園)に在籍する2~6歳の子どもと保護者2,050名が対象であり,担当保育専門職より「気になる子ども」と評価された40名の園児のうち,2006年度における虐待の聞き取り調査で「虐待」の「確定」「疑い」と評価された6名を対象とし,基準年(2005年)と1年後(2006年)のデータ双方から育児環境と発達状況を分析した。担当保育専門職には「子どもの気になる行動」「園児用発達チェックリスト」の記入とともに,「虐待やネグレクトの有無」について聞き取り調査を行った。
結果 虐待の聞き取り内容では,「疑い」5名,「確定」1名であった。子どもの発達は1年後に「リスクあり」が増加しており,子どもの発達リスクと虐待との関係が示された。その中で1名は1年後に発達が好転しており,背景に保護者の昼間勤務への転職による生活の改善があった。乳幼児の発達に「規則正しい生活リズム」と「情緒的安定」が重要であることが示された。育児環境では「父・母の協力が乏しい」「子どもを持つ友人との交流が乏しい」が基準年および1年後ともに高い割合であり,保護者は配偶者や友人のサポートが得られず孤立した中で子育てをしていた。子どもの失敗への対応に「たたく」と答えた2名は,「精神的に不安定な母親」と「しつけに厳しい父親」であった。また「先週子どもをたたいた回数」は「1~2回以上」が半数以上おり,虐待のグレーゾーンを示していた。「たたいた」と基準年および1年後に回答した保護者のうち3名は同じ人で,子どもの失敗に対し「たたく」と答えた2名と「母子家庭で高校生の姉が面倒を見ているケース」であった。保護者特性では,「育児の自信がない」と半数が基準年および1年後に回答しており,保護者の背景要因に即した適切な支援が求められている。「保育園に行くのを楽しみにしている」は基準年および1年後ともに全数であり,保育園は家庭でのかかわりを日常的に補完する役割を担っていた。
結論 児童虐待の早期発見・早期支援のために,保育園等乳幼児期の子どもの支援機関で活用可能な根拠のある支援技術の普及と地域や家庭における子育て支援システムの構築が期待される。
キーワード 児童虐待,子どもの発達,早期発見・早期支援,子育て支援

 

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第57巻第12号 2010年10月

介護保険を利用する長期療養者におけるADLの経時的変化

-要介護認定調査の中間評価項目第2群(移動)の慢性透析群と非透析群における比較-
清水 詩子(シミズ ウタコ)

目的 わが国では慢性透析の長期化と透析者の高齢化が顕著になりつつあり,透析者の日常生活動作(ADL)の把握が急務である。目的は,要介護認定調査のうち中間評価項目得点を用いて,透析者の移動に関するADLの経時的変化の特徴を透析群と非透析群との比較によって明らかにし,透析者に必要なサービス検討のための基礎資料とすることである。
方法 調査対象は,2009年3月末時点で新潟市に在住する要介護(要支援)認定者のうち,過去14日間に受けた医療で「透析あり」に該当する者すべてと,対照群として「透析なし」の者,合計1,000名の,2003年4月から2009年3月までのデータである。分析対象は,透析群・非透析群とも,4年以上の認定調査結果がある「介護保険を利用する長期療養者」を男女別,年齢区分別(69歳以下と70歳代)に分けた。そして,直近の認定調査結果を4回目とし,1年遡るごとに3回目,2回目,1回目とし,各回の中間評価項目第2群(移動)の平均得点を算出した。
結果 2009年3月31日現在,新潟市において「透析あり」(透析群)は234名(男性113名,女性121名)であり,うち,4年以上の調査結果がある者は,69歳以下の男性10名,女性9名,70歳代の男性15名,女性13名であった。一方,非透析群で4年以上の調査結果があり,かつ過去14日以内に受療しなかった者は,69歳以下の男性9名,女性6名,70歳代の男性38名,女性36名であった。中間評価項目第2群の平均得点の経時的変化は,69歳以下の男女で認定調査回数4回とも透析群が非透析群を下回り,70歳代女性で認定調査回数4回とも透析群が非透析群を上回った。また,透析群の69歳以下男性の中間評価項目第2群の平均得点は,認定調査回数の4回すべてで最も低値であった。
結論 透析者では,69歳以下の比較的若年であっても,移動に関するADLの低下がみられた。透析者は透析合併症によりADLが低下する可能性を考慮し,透析年数別にADLの経時的変化を調査する必要がある。
キーワード 介護保険制度,中間評価項目,日常生活動作(ADL),慢性透析者

 

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第57巻第12号 2010年10月

仙台市泉区内における妊婦を対象とした意識調査

鈴木 修治(スズキ シュウジ) 庄子 俊江(ショウジ トシエ) 田崎 香菜子(タザキ カナコ)

目的 住宅団地の多い仙台市泉区内における妊娠・出産の状況と妊婦の子育てへの意識や夫婦の役割に関する考え方等を調べた。そこから仙台市のような大都市に共通する核家族化と少子化指向社会の中で,子育てにおける夫婦の役割や行政の支援のあり方を明らかにする事を目的とした。
方法 母子健康手帳の交付を受けに泉区保健福祉センター(保健所)に来所した妊婦に調査の趣旨を口頭で説明し協力依頼した。調査への協力の有無で本人には不利益がないことを付言した。同意を得た人に質問票をわたし,退所時に本人が記入した質問票を539人から回収した。無記名方式による調査である。
結果 調査時点では妊婦が理想とする子ども数が実際の出生児数より若干多く今後妊娠・出産適齢層が子どもを持つ可能性は残った。心配な事柄では母子の健康(56.6%)や出産時の費用(36.2%)が多かった。夫やパートナーには育児の分担(77.6%)と家事の分担(69.6%)を多く期待していた。出産予定は近隣の医療機関(52.7%)や里帰りと思われる場合(36.6%)が多かった。
結論 核家族化が進む大都市での育児環境の変化から生じる不安の軽減や少子化対策には,夫婦が協力し育児の出来る環境整備と育児負担の軽減を図る行政の支援が必要である。安心して妊娠・出産に臨むには近隣の医療機関の確保も必要となる。
キ-ワード 妊娠・出産,妊婦の負担感,育児環境と費用,夫婦の育児協力

 

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第57巻第12号 2010年10月

人間ドック受検者の飲酒量が検査値に及ぼす影響と介入効果

石川 信仁(イシカワ ノブヒト) 山門 桂(ヤマカド カツラ) 繁田 正子(シゲタ マサコ)

目的 生活習慣病の進展や関与を指摘されながら,支援や指導への情報が少ない飲酒の問題について,飲酒量による検査値への影響とドックでの介入効果を明らかにする。
方法 対象は2005年に当院ドックを受検した男性5,403名のうち,2007年に再受診した男性3,633名(明らかなアルコール依存症や誤記を除く)とした。問診票より1日当たりの飲酒量に1週間当たりの飲酒日数を掛け,7で割ったものを1回の飲酒量とし,非飲酒群(以下,ND)959名,少量飲酒群(LD:1.0単位/日以下)1,574名,中等量飲酒群(MD:1.1~3.0単位/日以下)943名,多量飲酒群(HD:3.1単位/日以上)157名の4群に分け,検査値との関連を分散分析により検討した。人間ドック当日にCAGE法と久里浜スケールを組み合わせたアルコールアンケートを行い,医師と看護職・栄養士が連携して様々な介入を行い,2年後の飲酒量や検査値の推移を分析した。
結果 各群のγ-GTP(IU/ℓ)の平均値および標準偏差は,ND:34.9±1.2,LD:44.5±1.2,MD:66.7±5.4,HD:96.0±5.8となり,すべての群間で有意差を認めた。その他,中性脂肪,収縮期血圧,BMIが飲酒量に相関して高値であった。適量を超える飲酒量のMDとHDを合せた1,100名において,2年後のγ-GTP,HbA1c,1日当たりの飲酒量,1週間当たりの飲酒日数が有意に低下していた。
結論 健康な成人が受検する人間ドックでさえ,3割の男性は適量超える飲酒,1割は多量飲酒していた。適量を超える飲酒は肝機能や代謝に明らかに悪影響を及ぼしているが,支援や指導により継続受検者では飲酒量の減少が認められ,介入の有効性が示唆された。
キーワード 保健指導,人間ドック,γ-GTP,血圧,中性脂肪,飲酒習慣

 

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第57巻第12号 2010年10月

首都圏の大規模集合住宅における
単身高齢者の生活の現状と生活支援に関する研究

-都営住宅と公社分譲住宅の比較を通して-
福島 忍(フクシマ シノブ) 坂井 圭介(サカイ ケイスケ)

目的 高度経済成長期に多く建設された大規模集合住宅において,住民の高齢化および単身化を背景に孤独死の増加が指摘されている。本研究では,大規模集合住宅に居住する単身高齢者の生活の現状を明らかにし,また同じ大規模集合住宅内における賃貸・分譲ごとの住宅形態別による比較検討を通して,孤独死予防のための環境整備や生活支援について考察した。
方法 対象者は,東京都新宿区A集合住宅B地区に居住する単身高齢者である。調査は無記名自記式質問紙法であり,各世帯への質問紙の配布と回収は各棟の自治会役員が行った。質問紙の配布は単身高齢者を含めた全世帯を対象に行い,質問紙配布数610,回収数186(回収率30.5%)であった。そのうち分析対象者である単身高齢者は58人(男性6人,女性52人)であった。調査時期は平成20年5月下旬から6月下旬である。調査項目は,基本的属性の他にエレベーターの有無,要介護認定調査,主観的健康度,外出頻度,親族や友人・知人と会うまたは電話する頻度,緊急連絡先の有無とその内訳,親しくしている親族,親しい友人・知人の有無,楽しみや気晴らしにしていること,団地の生活で困っていること,地域活動の活動状況や参加意向,利用しているサービス等である。住宅形態の比較としての「分譲住宅」に居住する人と「都営住宅」に居住する人の2群の差の検討では,年齢についてはT検定,入居年数についてはマンホイットニー検定を行い,その他の項目についてはχ2検定を行った。
結果 高齢者のいる世帯における単身高齢者世帯の割合は42.6%であった。平均年齢は76.49歳であり,住宅形態は「都営住宅」が65.5%,「公社分譲住宅」が34.5%であった。要介護認定調査を受けている人の割合は「都営住宅」の方が「分譲住宅」に比べて有意に高く,自分が健康であると考えている人の割合は「分譲住宅」の方が有意に高かった。また,「親しい親族」において「子ども」をあげた人の割合が「分譲住宅」で有意に高かった。
結論 きっかけがあれば地域活動を行う意向のある高齢者が団地内に多く居住しており,孤独死予防策として,自立した高齢者が身体機能の低下した高齢者の支え手として機能する可能性が十分にあること,また「都営住宅」に居住する単身高齢者において,「分譲住宅」に居住する人に比べ健康状態や子どもとの関係において課題があると考えられたことから,より多様な人材,サービスによる重層的な生活支援の充実が求められると考えられた。
キーワード 単身高齢者,大規模集合住宅,住宅形態,賃貸・分譲,生活支援,孤独死予防

 

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第57巻第13号 2010年11月

障害児を養育する家族のエンパワメント測定尺度
Family Empowerment Scale(FES)日本語版の開発

涌水 理恵(ワキミズ リエ) 藤岡 寛(フジオカ ヒロシ) 古谷 佳由理(フルヤ カユリ)
宮本 信也(ミヤモト シンヤ) 家島 厚(イエジマ アツシ) 米山 明(ヨネヤマ アキラ)

目的 情緒障害を抱えた子どもを地域で養育する家族のエンパワメントを測定する尺度であるFamily Empowerment Scale(以下,FES)日本語版を作成し,その信頼性と妥当性の検証を行うことである。
方法 都市部と郊外の施設(計3施設)に外来通院中である5~18歳の情緒・発達障害児を養育している保護者を対象に自記式質問紙調査を実施した。回答結果から,FES日本語版の内的一貫性・再テスト信頼性・収束妥当性・弁別妥当性・因子妥当性・自己効力感尺度および自尊感情尺度との併存的妥当性・社会参加活動状況の異なる2群での既知集団妥当性について統計学的に検証した。
結果 十分な内的一貫性(Cronbachs α:0.81-0.87)と再テスト信頼性(級内相関係数:0.79-0.82)が示され,尺度の信頼性が確認された。また収束妥当性,弁別妥当性の検討では,尺度化成功率は90%以上であった。併存的妥当性の検討では自己効力感尺度および自尊感情尺度との有意な正の相関がみられ,既知集団妥当性の検討ではFES全下位尺度得点において社会参加活動「あり」の群が「なし」の群を上回った(p<0.0001)。
結論 本研究より,FES日本語版の高い信頼性と妥当性が示され,わが国における情緒障害児の養育者を対象とした調査や研究,あるいは看護介入や長期フォローアップの評価指標として使用可能であることが示唆された。
キーワード 障害児,家族,エンパワメント,尺度,信頼性,妥当性

 

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第57巻第13号 2010年11月

居宅介護支援事業所における診療情報の入手の実態と影響要因

五十嵐 歩(イガラシ アユミ) 山下 悦子(ヤマシタ エツコ) 山田 ゆかり(ヤマダ ユカリ)

目的 ケアマネジメントにおいて利用者の診療情報を得ることは重要であるが,現状では医療機関と居宅介護支援事業所間の情報共有が円滑に行われていない実態がある。本研究では,利用者の入退院時における居宅介護支援事業所による診療情報の入手の現状と情報入手に対する影響要因を明らかにし,医療機関・居宅介護支援事業所間の情報共有を促進する方策を検討した。
方法 WAM NETより無作為抽出した全国150居宅介護支援事業所を対象に,自記式質問紙による郵送調査を実施した。調査項目は,事業所特性(法人種別・併設事業・利用者数・過去1年間の入院利用者数・実働介護支援専門員(以下,ケアマネ)数),ケアマネの基礎資格,診療情報入手の必要性,診療情報入手の程度,診療情報の入手方法とした。
結果 90事業所(回収率60%)のケアマネ226人より返送を得た。医療系ケアマネは100人(44%),福祉系ケアマネは126人(56%)だった。ほぼすべてのケアマネが利用者が入退院した際の診療情報を必要と考えているにも関わらず,実際に診療情報を「十分得られる」「得られる」と回答した者は合わせて54%であった。入手方法は,「利用者・家族に聞く」(94%),「入院先に直接出向く」(68%)が多かった。診療情報の入手の程度を従属変数とし,事業所特性および各入手方法の有無を独立変数とするロジスティック回帰分析の結果,医療系ケアマネでは診療情報の入手への有意な関連要因はなかったが,福祉系ケアマネでは医療系事業所に所属していること(p=0.003)と入院先に直接出向くこと(p=0.015)が,情報入手に有効であった。
結論 医療機関・居宅介護支援事業所間の診療情報の共有には,ケアマネの医療機関へのアクセスを促進させる施策を充実させるとともに,利用者を介した情報伝達の体制づくりも有効であると考えられる。
キーワード 医療と介護の連携,介護支援専門員,居宅介護支援事業所,医療機関,診療情報の共有

 

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第57巻第13号 2010年11月

歯科医療費からみた事業所における歯科検診の有効性

馬場 みちえ(ババ ミチエ) 畝 博(ウネ ヒロシ) 谷原 真一(タニハラ シンイチ)
今任 拓也(イマトウ タクヤ) 吉永 一彦(ヨシナガ カズヒコ)

目的 事業所における歯科検診が歯科医療費の抑制に有効であるかどうかを明らかにすることである。
方法 対象はA企業のB事業所に所属している22~59歳の従業員1,636人である。2003年から2006年までに行われた歯科検診を4回連続して受けた4回受診者419人,1~3回受診者765人,非受診者452人の3群に分けて,2003年~2006年の診療報酬明細書を用いて,歯科診療費(調剤費を除いた歯科医療費)について比較検討した。
結果 対象者100人当たりの年間歯科受診率では,最も多いのが1~3回受診者で120.0,次が4回受診者で116.4,最も少なかったのが非受診者で110.3であった。レセプト1件当たりの平均受診日数は,非受診者が2.98日,1~3回受診者が2.82日,4回受診者が2.61日で,歯科検診受診回数が少ない群ほど有意に多く,また,1日当たりの平均歯科診療費は,非受診者が6,443円,1~3回受診者が5,822円,4回受診者が5,368円で,歯科検診受診回数が少ない群ほど有意に高かった。対象者1人当たりの年間歯科診療費は,非受診者が18,333円,1~3回受診者が18,353円で,両者の間にはほとんど差がなかったが,4回受診者では15,355円と,非受診者や1~3回受診者より約3千円安かった。
結論 対象者100人当たりの年間歯科受診率,レセプト1件当たりの受診日数,1日当たりの歯科診療費の結果から,歯科検診を受けることにより,歯科診療所への受診回数は多くなるが,異常が早期に発見され,早期に治療されるために,1回当たりの治療期間は短く,かつ1回当たりにかかる歯科医療費は安くなると考えられた。また,1人当たりの年間歯科診療費も,毎年受診した4回受診者では非受診者や1~3回受診者より安く,歯科検診を毎年受診することにより,歯科医療費が抑制されることが示唆された。
キーワード 費用対効果,歯科医療費,歯科検診,産業歯科保健

 

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第57巻第13号 2010年11月

わが国における受動喫煙起因死亡数の推計

片野田 耕太(カタノダ コウタ) 望月 友美子(モチヅキ ユミコ) 雑賀 公美子(サイカ クミコ)
祖父江 友孝(ソブエ トモチカ)

目的 受動喫煙は,肺がんや虚血性心疾患への因果関係が科学的に認められている。諸外国では受動喫煙起因死亡数の推計が行われているが,わが国では報告がない。本研究は,わが国における受動喫煙の人口寄与危険割合および受動喫煙起因死亡数を推計することを目的とした。
方法 先行研究から,能動喫煙と受動喫煙の曝露割合と相対リスクを抽出した。能動喫煙の曝露割合および相対リスクに基づいて,集団全体の死亡者に占める非喫煙者の割合を求め,さらに受動喫煙の曝露割合および相対リスクから受動喫煙の人口寄与危険割合を求めた。受動喫煙起因死亡数は,人口寄与危険割合を,平成20年(2008年)人口動態統計死亡数に乗じて求めた。対象疾患は肺がん,虚血性心疾患,および乳幼児突然死症候群(SIDS)とし,対象集団は,肺がんおよび虚血性心疾患については日本人女性,SIDSについては日本人全体とした。
結果 わが国の女性における家庭での受動喫煙の人口寄与危険割合は,肺がんおよび虚血性心疾患でそれぞれ6.2%および4.8%,肺腺がんで20.8%であった。女性における職場での受動喫煙の人口寄与危険割合は,肺がんおよび虚血性心疾患でそれぞれ1.9%,4.3%であった。SIDSにおける親の喫煙の人口寄与危険割合は,父親で36.3%,母親で14.0%であった。これらの人口寄与危険割合に基づくと,わが国の女性における受動喫煙起因年間死亡数は,家庭での受動喫煙については,肺がん1,131人,肺腺がん2,554人,および虚血性心疾患1,640人,職場での受動喫煙については,肺がん340人および虚血性心疾患1,471人と推計された。受動喫煙起因年間SIDS死亡数は,男女計で,父親の喫煙起因が61人,母親の喫煙起因が24人と推計された。
結論 わが国における受動喫煙起因死亡数は多く,女性肺がん死亡数に占める割合では米国の約4倍に相当する。米国などの喫煙対策先進国と同様に,公共の場所および職場での禁煙法制化,家庭での屋内喫煙防止対策など,受動喫煙を防ぐ総合的な対策を進める必要がある。
キーワード 受動喫煙,人口寄与危険割合,肺がん,虚血性心疾患,乳幼児突然死症候群

 

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第57巻第13号 2010年11月

知的障害者のグループホームにおける職員の業務に関する考察

中野 加奈子(ナカノ カナコ) 田中 智子(タナカ トモコ)

目的 障害者自立支援法が制定以後,従来の障害者福祉施策は新たな事業体系へ大きく変化した。その中で,障害者の生活の職住分離を目指し,日中活動の場,生活の場という考えが示され,生活の場としてグループホーム・ケアホーム(以下,GHCH)への期待は高まっている。大規模施設での生活から小集団の家庭的な生活,施設内で完結する生活から地域の中に溶け込んだ生活へと移行することによる豊かな「暮らし」の実現がGHCHによって可能になると考えられているのである。しかし,障害者の地域生活を支えるGHCHの運営や支援の実際は,いまだ十分には把握されていない。本稿では,各GHCHに委ねられているのが現状であり,利用者の障害程度,年齢,職員の配置状況,支援の方法などは多様化している。
方法 調査は「タイムスタディ調査」と「生活支援業務調査」の2種類を実施した。調査対象は,グループホーム・ケアホーム(以下,GHCH)を運営する76カ所,およびその他近畿圏内の協力事業所6カ所,合計82事業所へ調査依頼を行い,各事業所のホーム数合計99カ所を調査対象とした。回収数は2008年8月18日現在,75事業所,ホーム数合計77カ所で,回答職員数は171人であった。
結果 本調査では,利用者の平均障害程度区分は約4で比較的障害が重度の利用者が多くみられたこと,加齢への対応も必要となってきているホームがあった。またGHCHの職員は非正規の者が多く,また労働時間も長時間化している傾向が伺えた。各GHCHにおいて各種マニュアルが整備されているものの,マニュアルに沿った対応が必ずしも実行できる状況とはいえないことや,個別支援計画の職員間の共有が困難な状態であること等が明らかになった。
結論 現在のGHCHでは利用者像は多様化しており,かつ個別性・専門性の高い支援が必要な者が多く利用しているにも関わらず,学生のアルバイトやフリーター層,主婦層による短期間の労働サイクルによって支援が担われていることが推測され,専門性の追求につながりにくい条件を持つ者が中心となっていた。また,GHCHでは夜間を中心とした支援体制が取られ,職員の労働時間の長時間化していた。また,夜間支援体制は必要に応じた加算方式であり,報酬単価は認知症GHと比較すると低い設定であった。
キーワード 知的障害,グループホーム・ケアホーム,職員配置,報酬単価

 

論文

 

第57巻第13号 2010年11月

女性労働者の子宮がん検診受診行動に関わる要因

-MYヘルスアップ研究から-
兼任 千恵(カネトウ チエ) 豊川 智之(トヨカワ サトシ) 三好 裕司(ミヨシ ユウジ)
鈴木 寿子(スズキ トシコ) 須山 靖男(スヤマ ヤスオ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ)

目的 金融保険系企業職員を対象としたMYヘルスアップ研究における調査結果をもとに,女性労働者の子宮がん検診受診行動に関連する要因を明らかにすることを目的とした。
方法 2004年10月に実施したアンケート調査と同年の定期健康診断問診票のデータを用いて,子宮がん検診の定期的受診(1~2年ごと)の有無に関連する可能性のある要因を多変量ロジスティック回帰分析により検討した。分析項目は,年齢,職種,月経の状況,肥満度,生活習慣(飲酒,喫煙,運動,健康行動,朝食欠食),主観的健康感,仕事のストレス,現病歴(婦人科疾患,がん),既往歴(婦人科疾患,がん),家族歴(がん),家族形態(配偶者・子どもの有無,親との同居)とし,分析対象は20~59歳の女性職員とした。
結果 1~2年ごとに子宮がん検診を受診していると回答した者の割合は25.8%(6,227/24,150)であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢が高い者,運動習慣・健康行動がある者や禁煙した者,婦人科疾患やがんの現病歴・既往歴のある者,がんの家族歴のある者,配偶者や子どものある者などは,定期的に子宮がん検診を受診していることが示された。一方,やせや肥満,現在の喫煙,朝食欠食などがある場合は,子宮がん検診を定期的に受けない傾向があった。また,年齢を調整すると,閉経前の者と比較して閉経後の者は検診を受診しない傾向にあった。
結論 年齢や生活習慣,本人および家族の病歴,家族形態,閉経などが,子宮がん検診の受診行動に関連していることが示唆された。
キーワード 子宮がん,がん検診,受診行動,受診率,女性

 

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第57巻第15号 2010年12月

北海道鹿追町における歯科保健施策と医療費増加抑制

西 基(ニシ モトイ) 三宅 浩次(ミヤケ ヒロツグ) 袰岩 由美子(ホロイワ ユミコ)
菅原 裕美(スガワラ ヒロミ) 荻野 弘子(オギノ ヒロコ) 

目的 北海道鹿追町において実施された歯科保健施策と同町民の歯科保健関係の指標の好転,およびそれに付随して認められた国民健康保険医療費増加の抑制について記述疫学的報告を行う。

方法 鹿追町における2001年からの保健施策の最重要課題として,歯科保健を取り上げ,町民への歯磨きの励行や歯科検診受診等の勧奨を行った。2001,2004,2007年に,それぞれ町民の約1割を層化無作為抽出し,歯科関係の指標を含む諸項目につき,自記式アンケートによる調査を実施した。同町の国民健康保険医療費の資料は,同町の資料によった。また,この調査の参加者を歯科検診毎年受診者とそれ以外に分け,国保医療費を比較した。

結果 歯磨きを行う者の割合等の歯科保健関係の指標は,年を追うごとに改善された。医療費は,2003年から,全国の変化を元に算出した期待値より低くなり,かつ絶対額も2002年には低下した。1999年には,実際の医療費は期待額より4700万円余り高かったが,2005年には1億9300万円余り低くなった。歯科検診毎年受診者の医療費は,それ以外の者より低かった。

結論 鹿追町の歯科保健を最優先とした保健施策が,同町の医療費逓減に対し一定の寄与をしたと思われる。今後,わが国の医療費抑制に対して,歯科保健は1つのカギになりうると思われ,また目下実施中の特定健診には歯科検診が含まれいていないため,今後,取り入れることを積極的に検討すべきと思われた。

キーワード 鹿追町,歯科保健,医療費,衛生行政

 

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第57巻第15号 2010年12月

地区単位のソーシャル・キャピタルの測定尺度の妥当性に関する検討

-エコメトリックな視点による「近隣効果尺度」の日本語版の開発-
大賀 英史(オオガ ヒデフミ) 大森 豊緑(オオモリ トヨノリ) 近藤 高明(コンドウ タカアキ)
小山 修(オヤマ オサム)

目的 ソーシャル・キャピタルと地域住民の健康度との関連を評価する指標として,「近隣効果」が注目されている。この近隣効果を生活する環境の視点から測定するスケール(近隣効果尺度)が米国で考案されており,その妥当性について検証するとともに,わが国の地方自治体レベルでの活用の有用性について検討した。

方法 近隣効果尺度(美観,歩行環境,健康的な食品の入手,安全,暴力,社会的密着性,近隣づきあいの7尺度)の日本語版,自覚的健康度,健康不安,K6(うつ・不安のスケール)などを含む調査票を作成し,平成19年9月に,東京都内近郊都市で活動するまちづくりの市民団体が,住みよいまちづくりの資料とする目的を地域住民に説明し,同意が得られた住民から回答を得た。生活環境をとらえる指標として産業施設数,人口密度,緑地・公園数,無人野菜販売所などの値と,調査で得られた市民250人分の個人別データから居住地区別(23地区)の平均値との相関分析を行った(両側検定,p<0.05)。また,7尺度の地区別平均値をマップ化し,都市計画図や地域別犯罪マップ(警視庁作成)などとの照合により,質的な検討を行った。

結果 7尺度の値と地区の事業所数との有意な関連は,「歩行環境」尺度の値が低い地区は卸売・小売業が多く,「暴力」尺度の値が低い(暴力が多い)地区は飲食・宿泊業が多く,また人口密度が低く,「近隣づきあい」尺度の値が高い地区は,教育・学習支援業が少なく,人口密度が高かった。都市計画図との照合では,「美観」尺度の値が高い地区は区画整備された地域と緑地保全緑地がある地区であり,準工業地域が多い地区,ゴミ焼却用を有する地区は得点が低かった。「歩行環境」尺度の値が高い地区は緑地保全地域やウォーキングコースが整備された河川を有する地区であった。「暴力」尺度の値が低い(暴力が多い)地区は駅周辺の鉄道沿線であり,地域別犯罪マップの「粗暴犯」の多い地区と地理的な分布に関連があった。「安全」「社会的密着性」「近隣づきあい」の各尺度の値が高いほど健康不安が高く,「近隣づきあい」尺度の値が高い地区ほど,うつ・不安を示すK6の値が低かった(いずれもp<0.05)。

結論 米国で考案された近隣効果尺度は,地区単位の平均値という簡便な方法であっても,わが国の地方自治体における各地区の特徴をとらえ得ることが確認できた。

キーワード ソーシャル・キャピタル,エコメトリック,近隣効果尺度,地区単位

 

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第57巻第15号 2010年12月

居住系施設における医療のあり方と看取りに関する研究

金子 さゆり(カネコ サユリ) 濃沼 信夫(コイヌマ ノブオ) 伊藤 道哉(イトウ ミチヤ)
尾形 倫明(オガタ トモアキ) 三澤 仁平(ミサワ ジンペイ) 千葉 宏毅(チバ ヒロキ)
森谷 就慶(モリヤ ユキノリ)

目的 グループホームなど居住系施設における療養について,看取りに関する情報提供がどのように行われているか,その実態を明らかにし,利用者の安心や信頼を確保するための居住系施設における医療のあり方とその普及・促進の方策について検討する。

方法 全国の在宅療養支援診療所の中から年間看取り数が10件以上の実績がある178診療所を抽出し,電話にて調査協力の同意が得られた126診療所を対象に,居住系施設における訪問診療・往診の現状について調査した。調査にて44診療所の医師より回答が得られ,この時点で訪問診療・往診を受けている居住系施設127施設とその利用者629人と家族629人を対象にアンケート調査を実施した。

結果 居住系施設の調査は109施設(85.8%)から回答が得られ,うち看取り体制・方針を定めている施設は55.9%であった。1施設当たり定員数は28.5人,訪問診療・往診の利用者数は10.4人であり,1施設当たり年間死亡数3.8人のうち,施設看取り数は2.5人であった。また,訪問診療・往診を受けている居住系施設の利用者356人(56.6%),家族344人(54.7%)の回答が得られた。利用者の平均年齢は84.5歳,女性が76.0%を占め,利用者の90.2%に認知障害がみられた。施設からの説明について,急変時の対応に関して利用者本人は「説明を受けた」36.0%,「説明を受けたが理解できなかった」24.5%であり,家族は「説明を受けた」85.8%であった。看取りに関して利用者本人は「説明を受けた」23.2%,「説明を受けたが理解できなかった」20.6%であり,家族は「説明を受けた」67.0%であった。

結論 現状は施設看取りが定着しつつあると考えられる。しかし,看取りに関する説明を受けた割合は,家族は73.5%,利用者は43.8%,そのうち利用者の約半数が説明を受けたが理解できなかったと回答していることから,利用者や家族の意向を尊重した施設看取りを実現するためには,家族だけでなく,利用者へ対してわかりやすい説明と工夫が求められる。また,看取りについて十分な説明を受けた場合は,そうでない場合に比べて,最期を迎える場所として医療機関を選択する割合が減ることが示唆された。

キーワード 居住系施設,看取り,救急搬送,情報提供

 

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第57巻第15号 2010年12月

早期乳幼児期の麻疹ワクチン接種率に関連する因子

-埼玉県70市町村の分析から-
相崎 扶友美(アイザキ フユミ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 岸本 剛(キシモト ツヨシ)
古島 大資(フルシマ ダイスケ) 田中 政宏(タナカ マサヒロ) 柏木 聖代(カシワギ マサヨ)
金子 道夫(カネコ ミチオ)

目的 2012年麻疹排除達成に向け,乳幼児の麻疹ワクチン接種率が低い集団における接種率向上が課題である。そこで,埼玉県内全70市町村におけるワクチン接種率データを用い,早期乳幼児期の麻疹ワクチン接種率の関連要因を明らかにする。

方法 埼玉県予防接種事業実施状況調査を基に,2006年度,2007年度,2006年度から2カ年の,早期乳幼児期の麻疹ワクチン1期接種率を算出した。また,2006年から2カ年の,市町村の麻疹ワクチン1期接種率を従属変数とし,国内の公表統計データより得た市町村特性を独立変数として,市町村を単位とした単回帰分析を行った。

結果 2006年度および2007年度における,市町村の麻疹ワクチン1期接種率の平均は,88.9%および91.8%であった。また,2006年度から2カ年の間の麻疹ワクチン1期接種率の平均値±SD,中央値(レンジ)は,90.3±5.0,90.5(74.3-99.2)(%)であった。単回帰分析では,世帯当たりの平均課税対象所得(万円/年)は回帰係数(β)=0.035,p=0.052であった。また,この他に,関連を示す傾向を認めた独立変数は,5歳未満人口割合(%)(β=1.006,p=0.192)と65歳以上人口割合(%)(β=-0.282,p=0.140)であった。

結論 2006年度と2007年度の接種率分布からは,日本全体の接種率の推移と同様に埼玉県においても,麻疹ワクチン1期接種率が年々上昇したが,一方で,市町村間で接種率に差が存在していた。市町村の麻疹ワクチン1期接種率と市町村特性の単変量の関係をみた限りでは,統計学的有意性に至った特定項目はなかったが,「低所得世帯の乳幼児」と「乳幼児が少なく,高齢者の多い地域に住む乳幼児」が麻疹ワクチン低接種率のハイリスク群である可能性が示唆された。今後は,さらに他の関連要因の影響も考慮し,ハイリスク群を明らかにする必要がある。また,予防接種事業に関する実証研究が乏しいわが国においては,接種率関連要因を明らかにするとともに,接種率向上の具体的な取り組みを検証し,さらにその結果を自治体間と共有することで,実証に基づく麻疹予防接種政策を実施することが望まれる。

キーワード 麻疹ワクチン,乳幼児,市町村,所得,接種率,乳幼児・高齢者人口割合

 

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第57巻第15号 2010年12月

東北4県における地域福祉課題の動向について

-平成17・20年の東北の民生委員調査結果から-
都築 光一(ツヅキ コウイチ) 細田 重憲(ホソダ シゲノリ) 杉岡 直人(スギオカ ナオト)
吉田 渡(ヨシダ ワタル) 李 忻(リ シン)

目的 少子高齢化が著しい東北の4県(青森・秋田・岩手・山形)において,平成17年と平成20年に民生委員を対象として実施した調査結果に基づき,入所施設の必要性,高齢期になって必要な小売店,障害者との交流意識を中心に,地域福祉課題の動向を明らかにする。

方法 調査は,平成17・20年ともに質問紙による配票留置法にて各県の民生委員協議会を通じ,各県の民生委員全員を対象に配布し回収した。また同時に,4カ所の地方公共団体にてインタビュー等の関連調査を実施した。

結果 回収率は平成17年が88.5%,平成20年が84.6%であった。調査結果を比較すると,入所施設の必要性と介護者支援の必要性が高くなってきていた。これについては,インタビュー等関連調査結果により,高齢者の単独世帯や高齢者夫婦世帯で,要支援要介護状態になる高齢者が増加していることや,居宅サービスと施設サービスの総合化等,施設を望む声が高いことが確認された。また,高齢期になって生活に必要な物資の調達のために,コンビニエンスストアの必要性が高まっている。この理由は,高齢者になって移動が困難になったり,自動車免許証を返還した後の移動手段が失われていることが理由として考えられた。さらに,障害者の地域移行が進んでいると考えられたが,むしろ地域においては,障害者との活動面で,交流意識に躊躇傾向がみられた。

結論 今後,若年世帯との世帯分離が一層進むことが予想されることから,高齢者世帯の増加に伴い,ますます入所施設の必要性が高くなることが懸念され,これに対する対応のあり方が課題と思われた。次に高齢者世帯の家族人員の減少により,家事負担が大きくなってきているところから,衣食住を含めた総合的な生活支援のあり方が課題と思われた。さらに,障害者の地域移行の達成のために,地域に密着した活動プログラムのあり方が課題と思われた。これらを踏まえ,新たな地域の運営システムをデザインする必要があると考えられた。

キーワード 地域福祉課題,パネルデータ,民生委員,東北4県

 

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第57巻第15号 2010年12月

児童生徒と両親の生活習慣病危険因子の相関に関する研究

藤井 千惠(フジイ チエ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 教育委員会および学校との連携により,親子を対象に健康調査を実施してその関連について明らかにし,学校における生活習慣病予防教育のあり方について検討した。

方法 平成18年に長野県のある町の子どもの健康調査を受診した小学校第5学年(小学生)と中学校第2学年(中学生)計340人のうち,家族の健康調査への参加を保護者が同意した小学生117人,中学生99人計216人とその父親197人,母親213人を対象とした。親子相関の解析には,小中学生は子どもの健康調査結果を利用し,両親は職場や地域における健康診断結果と生活習慣についての自記式質問紙調査を実施してその結果を用いた。さらに,子どもの健康調査結果に対する保護者の意識について質問紙調査を実施した。

結果 体格では両親と小中学生のBMIで有意な正の相関がみられ,血圧では父親と小学生の収縮期血圧で有意な関連がみられた。血液検査結果では両親と小中学生のHDLコレステロールで有意な関連がみられ,さらにLDLコレステロールなどの血清脂質や母子間ではヘモグロビンA1cなどとの有意な関連もみられた。遺伝的な背景を踏まえた上で生活習慣の積み重ねによる影響を考える必要がある。就寝・起床時刻,睡眠時間では,母親と小中学生で有意な正の相関がみられたが,父親とは生活時間が異なるために有意な関連はみられなかった。運動頻度では,父親と小学生で有意な関連がみられた。食習慣では両親と小中学生の朝食,野菜,インスタント食品,清涼飲料水の摂取頻度で有意な正の相関がみられた。さらに,母子間では間食・夜食,スナック菓子の摂取頻度で有意な関連がみられ,小学生の方が母親の食習慣が大きく影響していた。満腹まで食べる傾向では両親と小中学生で有意な関連がみられ,食事の内容とともに食べ方についても親子で注意する必要がある。子どもの健康調査結果に対して保護者は関心を示し,ほぼ全員が家族全員で生活習慣を見直すことが大切であると回答した。

結論 児童生徒とその両親では,体格,血圧・血液検査結果,生活習慣で有意な正の相関が認められ,児童生徒の健康状態には遺伝的な背景とともに生活習慣の積み重ねによる影響が示唆され,さらに子どもの生活習慣には親の生活習慣が大きく影響を与えていることが明らかになった。健康調査結果を見ることは家族の生活習慣を見直す機会につながることが示され,子どもと保護者を主体とする家族の生活習慣病予防教育を家庭・学校・地域連携により協働で実践する必要性が示唆された。

キーワード 生活習慣病危険因子,親子相関,児童生徒,予防教育,家庭・学校・地域連携

 

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第63巻第4号 2016年4月

協会けんぽのレセプトデータを用いた期間統計の方法による
外来医療費の診療エピソード統計について

-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その2)-
村山 令二(ムラヤマ レイジ) 仲津留 隆(ナカツル タカシ)
伏見 惠文(フシミ ヨシフミ) 野々下 勝行(ノノシタ カツユキ)  

Ⅰ は じ め に

「電子レセプトによる保健・医療統計の改善に向けて-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その1)-」(本誌28年3月号)1)(以下,前稿)では,電子レセプト統計について,社会医療診療行為別調査の向上のため,新たな期間統計の方法による診療エピソード統計を提言している。そして,その統計の概念規定や計算方法の詳細,さらには全国健康保険協会のデータを用いた統計作成のデモンストレーションは別稿で紹介するとしており,本稿はその別稿にあたる。本稿では,

・これまでのレセプト統計の考え方・分析方法と患者単位,患者の動向分析のための統計としてみた時の課題

・期間統計の方法による診療エピソード統計の考え方・分析手法の概要

・全国健康保険協会のデータを用いた統計作成のデモンストレーションの方法と結果

を述べる。

現在,医療提供体制の分野では地域医療構想とそれを含む医療計画が,また,医療保険分野では医療費適正化計画があり,その医療費適正化対策の一つとして保健分野の特定健康診査・特定保健指導が実施されている。さらに,各医療保険者はデータヘルス計画を策定し実施することとされている。これらの施策にレセプトデータを活用するとされているところであるが,期間統計の方法による診療エピソード統計は,従来のレセプト統計と異なり,患者単位で,患者の発生・受診の継続・受診の終了といった患者の受診動向を把握できるため,医療提供体制・医療費・保健の各分野との関連づけが容易であり,これらの政策立案・実施状況把握・評価にも有用と考えられる。

 

Ⅱ これまでのレセプト統計の考え方・分析手法と課題

 

電子レセプト導入以前のレセプト統計は,大量の紙レセプトを処理するという制約と審査支払優先のため,毎月得られるデータはレセプト件数,診療実日数,点数(医療費)に限られ,それらを用いた統計であり,以下の2つの考え方により構築されている。その1番目の考え方は,

・1枚のレセプトは,医療機関が暦月1カ月中に対応した患者ごとの入院,入院外,歯科別の調査票であり,記載されている診療実日数と点数は調査票の調査項目と考えることであり,レセプトを調査の調査票と考えるものである。

具体的には,この調査では,レセプト件数は標本数(調査票枚数に相当),診療実日数・点数(医療費)は調査項目であり,1件当たり日数・1件当たり点数は,診療実日数・点数を件数で割った標本平均である。

論文

 

第63巻第4号 2016年4月

重回帰分析を用いたDPC対象病院の
機能評価係数Ⅱに影響する要因の検討

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 長澤 薫子(ナガサワ カオコ)
小林 英史(コバヤシ エイジ) 横田 邦信(ヨコタ クニノブ)

目的 機能評価係数Ⅱと構成する6指数に対してDiagnosis Procedure Combination(DPC)データがどのように影響しているか重回帰分析し,さらに機能評価係数Ⅱの予測式を作成して検討した。

方法 対象はⅠ群80,Ⅱ群90,Ⅲ群1,326病院であり,平成24年DPCデータのうち,多重共線性を避けるため強い相関を示す項目を除外して手術有,化学療法有,放射線療法有,救急車搬送有,在院日数平均値を選び重回帰分析の説明変数とした。また平成25年機能評価係数Ⅱと構成する6指数のうち,χ2適合度検定による正規性の判定よりⅠ,Ⅱ群の効率性指数,複雑性指数,カバー率指数,救急医療指数,およびⅠ,Ⅱ,Ⅲ群の機能評価係数Ⅱは正規分布であった。よってこれらの指数を重回帰分析の目的変数とした。そして重回帰分析を行い,目的変数の予測に有用な説明変数を選択し,さらに回帰係数より機能評価係数Ⅱの予測式を作成した。

結果 目的変数である機能評価係数Ⅱに対し,選択された説明変数は,Ⅰ群では救急車搬送有,放射線療法有,手術有,在院日数平均値,Ⅱ群では救急車搬送有,放射線療法有,在院日数平均値,Ⅲ群では救急車搬送有,在院日数平均値,放射線療法有,手術有,化学療法有であり,それぞれ在院日数平均値と手術有の回帰係数が負の値を示した。また次の予測式を作成した。

Ⅰ群:機能評価係数Ⅱ=3×10-6×救急車搬送件数+1×10-5×放射線療法件数−1×10-6×手術件数−5.22×10-4×在院日数平均値+0.027

Ⅱ群:機能評価係数Ⅱ=3×10-6×救急車搬送件数+8×10-6×放射線療法件数−5.29×10-4×在院日数平均値+0.024

Ⅲ群:機能評価係数Ⅱ=5×10-6×救急車搬送件数−2.96×10-4×在院日数平均値+3×10-6×放射線療法件数−1×10-6×手術件数+1×10-6×化学療法件数+0.022

次に予測式と機能評価係数Ⅱとの相関をSpearman順位相関係数検定で検討した。その結果,Ⅰ群r=0.527,Ⅱ群r=0.614,Ⅲ群r=0.610,と有意に正の相関を示した。

結論 重回帰分析で病院群別に機能評価係数Ⅱの予測式を作成した。その結果,予測値は実測値と相関し,機能評価係数Ⅱの評価に有用であった。

キーワード DPC,機能評価係数Ⅱ,重回帰分析

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第63巻第4号 2016年4月

在宅重症心身障がい児家族の支援ニードと
専門職による重要度および実践度評価

-看護職および行政職を対象としたデルファイ法による調査より-
涌水 理恵(ワキミズ リエ) 藤岡 寛(フジオカ ヒロシ) 沼口 知恵子(ヌマグチ チエコ)
西垣 佳織 (ニシガキ カオリ) 佐藤 奈保(サトウ ナホ) 山口 慶子(ヤマグチ ケイコ)

目的 在宅で生活する重症心身障がい児家族(以下,在宅重症児家族)の支援ニードを明らかにし,彼らと日常的に関わる看護職および行政職の支援ニードに対する重要度の認識および実践の現状を明らかにし,今後取り組むべき課題を同定することである。

方法 首都圏近郊の在宅重症児家族にインタビュー調査を行い,質的内容分析法により支援ニード項目を作成した。またデルファイ法により,看護職および行政職に2度のアンケート調査を実施し,各立場からの重要度および実践度について,項目ごとの中央値・四分位範囲(IQR)・IQR%を算出した。

結果 在宅重症児家族25組計56名へのインタビューより支援ニード41項目を作成した。デルファイ1次調査対象者は看護職29名,行政職97名で行い,2次調査対象者は看護職19名,行政職52名であった。重要度の特に高かった項目は,看護職で23項目,行政職では18項目であり,看護職・行政職ともに重要度が高いと見なした項目は「医療者は家族に在宅療養においてできることを的確に伝えてほしい」「将来を見据えたケアや療育アドバイスがほしい」などの6項目であった。実践度の高かった項目は,看護職で15項目中3項目,行政職で13項目中3項目であった。実践度と重要度に乖離があった項目は看護職が「サービスの利用方法がわからないときに相談に乗ってほしい」などの5項目,行政職が「災害時に迅速に対応できるようにしてほしい」「家族だけで頑張りすぎないでいいことを伝えてほしい」の2項目であった。

結論 看護職および行政職ともに,家族の支援ニードを支持する姿勢を有しており,重症心身障がい児の成長に合わせて家族の将来の見通しが立てられるよう,サービス利用情報や療育アドバイスを充実していくことの重要性を認識していた。重要度および実践度に乖離がみられた項目への対策として,看護職では在宅重症児家族に必要なサービス利用や家族会等の情報を部局内で周知・共有すること,他職種と協働して各家族や児の個別性をアセスメントしつつ在宅療養への助言,将来を見据えた助言,家族へのサポートを行う組織としての体制や機会を作ること,行政職では地域の状況を考慮した災害への具体的な備えの検討,家族との対話とねぎらいを行うことが取り組むべき課題として提示された。

キーワード 重症心身障がい児家族,在宅生活,支援ニード,デルファイ法,看護職,行政職

論文

 

 

第63巻第4号 2016年4月

特別養護老人ホームにおける
ユニットケア定着のプロセスに関する一考察

-教育的介入とその効果-
大久保 幸積(オオクボ ユキツム) 三浦 力(ミウラ チカラ)
大久保 有慶(オオクボ ナオチカ) 足立 啓(アダチ ケイ)

的 ユニットケアを導入する特別養護老人ホームは増加しているがユニットケアが定着するための効果的な研修方法は未だ確立されていない。本研究では,新規に開設するユニット型特養を対象に「教育的介入」を試み,その有用性を検証することを目的とした。

方法 教育的介入群の2特養に対して,厚生労働省が定めるユニットリーダー研修のプログラムと同一の内容である「ユニットケア定着研修」を開設前に実施した。また,開設から半年後に各特養の管理職を対象とした「コーディネーター養成研修」を行った。これらの研修の実施を本研究における「教育的介入」とした。ユニットケアの定着を測定するために,介入群2特養と非介入群の5特養に対して厚生労働省が定める調査票を用いた現地調査,その後,介入群に対する同様の再現地調査,再々現地調査の結果により,教育的介入の効果を検証した。なお,非介入群は,開設1年以上3年未満の特養が2施設,開設3年以上の特養が3施設とした。

結果 介入群の現地調査の結果は平均53.0点であった。非介入群の現地調査結果は,開設1年以上3年未満の特養で平均37.0点,開設3年以上の特養で平均49.0点であった。介入群の2施設ともに現地調査から再現地調査で大きく得点が上昇した(+18.5点,+20.0点)。1年後の再々現地調査においても点数が維持されていた。

結論 これらの結果から,ユニットケア定着研修およびコーディネーター養成研修を行う教育的介入の有用性が示唆された。今回対象となった介入群のように,ユニットケアに新規に取り組む特養の多くの職員がユニットケア定着研修を受講し,コーディネーター養成研修を受講したコーディネーターが,ユニットケアの推進役を果たすことで,短期間であってもユニットケアが定着する可能性が示唆された。

キーワード ユニットケア,ユニットケア定着研修,コーディネーター養成研修,特別養護老人ホーム

論文

 

第63巻第4号 2016年4月

介護保険サービスの利用と家族介護者の抑うつ症状の推移

-パネル調査データによる検討-
菊澤 佐江子(キクザワ サエコ)

目的 パネル調査データを用いて,高齢者を介護する家族介護者の抑うつ症状と介護保険サービスの利用状況の推移を把握するとともに,両者の関連について検討を行った。

方法 公益財団法人家計経済研究所が2011年10月と2012年7月に実施した「在宅介護のお金とくらしについての調査」データを用いた。分析対象は,2011年10月調査時点から2012年7月時点にかけて同居する要介護の親(または義理の親)を介護している主介護家族で,分析に用いた変数に欠損値がみられなかった207人(女性145人,男性62人)である。分析は,介護者の抑うつ症状(K6)の変化(良好/不良)を被説明変数とし,各介護保険サービスの利用状況の変化,被介護者の身体的障害,精神的障害(認知症)の程度,介護者の性別を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。

結果 介護者のうち,2時点間で,抑うつ症状が「良好」な推移をたどった者は35.8%,「不良」な推移をたどった者は64.3%であった。介護保険サービス利用については,2時点間でサービス利用に変化がないケース(「継続して利用がない」または「同程度の利用を継続」)が多いものの,サービス利用を増加・減少させているケースも各々8~17%程度みられた。ロジスティック回帰分析によって,介護者の抑うつ症状の変化(良好/不良)との関連を検討した結果,介護保険サービス利用については,2時点間で「同程度の通所介護利用を継続」「同程度の短期入所利用を継続」の回帰係数が,5%水準で正の方向に有意であった。このほか,性別ダミー(女性=1,男性=0)の回帰係数と,被介護者の精神的障害(認知症)の程度についての回帰係数が,それぞれ5%水準,1%水準で負の方向に有意であった。

結論 短期入所や通所介護を継続して同程度利用している場合には,利用していない場合に比べて,介護者の抑うつ症状が「良好」な推移をたどる確率が高いことが示されたが,こうしたサービスの利用による介護者の抑うつ症状軽減効果は弱いものにとどまっていることから,これらのサービスの供給体制をより充実させることが課題の1つと考えられた。また,被介護高齢者の精神的障害(認知症)の程度が重い場合,介護者の抑うつ症状が「良好」な推移をたどる確率が低いという傾向がみられたことから,認知症のある高齢者が利用できる介護保険サービスを広げることも重要な課題であると考えられた。

キーワード 介護保険サービス,家族介護,ストレス,抑うつ,パネル調査データ

 

論文

第63巻第4号 2016年4月

臨死期におけるケアの場の移行を回避する看取りケア体制の関連要因

島田 千穂(シマダ チホ) 石崎 達郎(イシザキ タツロウ) 高橋 龍太郎(タカハシ リュウタロウ)

目的 特別養護老人ホームの看取りケアは定着しつつあるが,施設間格差は大きい。本研究では,死亡時の診断体制に着目し,看取りケア実施状況との関連分析から,医療との連携に基づく看取りケア体制構築の課題を検討した。

方法 関東地域の全特別養護老人ホーム1,777カ所を対象とし,郵送調査を行った。調査内容は,定員数,要介護度別入居者数,人工栄養実施人数,看取りケア方針の有無,平成25年1年間の退所者数とその内訳,死亡時の診断体制であった。看取りケア実施状況は,退所者数内訳から退所者数に占める看取りケア実施後の死亡者の割合から定義した。死亡時の診断体制は,①死亡時往診,②対応可能時往診,③病院搬送に分類した。

結果 有効回答数539(30.3%)を分析の対象とした。施設内死亡者数の退所者数に占める割合の平均値は39.2%,看取りケア実施者数の割合の平均値は29.9%であった。死亡時の診断体制は,死亡した時間帯に関わらず医師が診断する施設は27.6%,医師が対応できる時間帯に診断する施設が36.7%であった。看取りケア実施状況を「施設内死亡無」「施設内死亡有・看取り無」「看取り割合低」「看取り割合高」に分け,「施設内死亡有・看取り無」を基準カテゴリーの目的変数として多項ロジスティック回帰分析を行った。その結果,いずれのカテゴリーでも「死亡時の診断体制」が有意に関連していた。死亡診断を病院で行う体制の施設では,看取りケア実施施設が有意に少なく,死亡時往診と,対応可能時往診との間には,看取りケア実施状況において有意差はなかった。

結論 今後特別養護老人ホームで,臨死期の入院をできるだけ回避し,最期まで入居者へのケアを提供するためには,死亡時の診断体制整備に着目することが重要と考える。

キーワード 看取りケア,特別養護老人ホーム,死亡診断,医療との連携,ケアの質

 

論文

第58巻第2号 2011年2月

要介護度の経年変化

-同一集団における要介護度分布の9年間の変化-
長田 斎(オサダ ヒトシ) 原田 洋一(ハラダ ヨウイチ) 畦元 智惠子(アゼモト チエコ)
和久井 義久(ワクイ ヨシヒサ)

目的 一自治体における一時点の要介護者集団について,要介護度の分布や生死等の中長期的な経年変化を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都杉並区において,平成13年4月1日の時点で要介護認定を受けていた要支援・要介護者の全員を対象者として,6カ月ごとの要介護度,転出,死亡の情報を平成22年4月1日までの9年間分抽出し,要介護度等の分布の変化を観察した。また,Cutler-Ederer法により対象者全体および要介護度別に生存率を推計した。

結果 対象者全体では,観察期間の前半の4.5年経過後までにほぼ半数が死亡したが,9年後でも約25%は生存しており,死亡確率は観察期間の前半・後半ともおおむね同程度であった。要介護度別にみると,いずれの群でも当初の要介護度を維持している者は観察開始直後に急激に減少し,1年から2年の間に半減していた。またいずれの群も当初の要介護度から軽度に移行した者が認められたが,要介護2以上の群では観察開始6カ月後をピークにその後徐々に減少していた。平成18年4月の制度改正を契機に要支援が増加し要介護1が減少したが,同時に要介護2も増加していた。要支援・要介護1では,要介護2以上に比して,重度に移行した者の割合は少なかった。生存率曲線は,要介護度が重度な場合ほど下降する指数曲線状の形態となり,5年後に最大の差が認められた。

結論 本研究により,要介護者のnatural historyの基礎となるべき状態像の変化を示すことができた。また同一集団の要介護度の維持・改善率や生存率など,介護保険事業を比較的簡易かつ効果的に評価していくための示唆を得ることができた。

キーワード 要介護者,要介護度,経年変化,生存率

 

論文

 

※論文中で言及されている参考表のデータはこちらからダウンロードして下さい。

 

第58巻第2号 2011年2月

組合管掌健康保険の保険料率と加入者の受診行動について

佐川 和彦(サガワ カズヒコ)

目的 組合管掌健康保険(以下,組合健保)の加入者は保険料率に対応して,合理性,損失回避の心理や権利意識,コスト意識にもとづいた受診行動をとると想定した3つの仮説(それぞれ,仮説A,仮説B,仮説C)を立てた。本稿では,これらの仮説の検証を行う。

方法 東京都の606の健康保険組合を対象にして,2004~2006年度(一部の変数については2003年度から使用)のパネルデータを使用することにより,受診率関数の推定を行った。年齢構成のデータが公表されていないため,特定の年齢層に限定した受診率(本稿では,3歳未満の被扶養者の受診率)を被説明変数として用いることにした。保護者の医療機関受診に対する考え方が乳幼児の受診率に反映するから,得られた検証結果の持つ意味は決して小さくはならないであろう。本稿の分析の特徴は,受診率関数の説明変数として保険料率の変化分を加えたことである。また,もとの保険料率が高い場合とそうでない場合に,保険料率の変更に対して反応が異なる可能性があることを考慮に入れて,係数ダミーを用いることにした。

結果 パネルデータの分析にあたって,モデル選択,系列相関,不均一分散に関する検定を行った。本稿では,これらの検定結果を受けて,必要と考えられる対策を講じながら,変量効果モデルと固定効果モデルの両方の推定を行った。入院外については,保険料率の変化分に対応するパラメータは統計的に有意ではなかったが,これに係数ダミーをかけたものに対応するパラメータの符号はマイナスであり,5%の有意水準で有意であった。

結論 入院外について,前年度の保険料率が高い水準に達していなければ,組合健保の加入者は保険料率の変更に対して合理的に対応する。しかし,前年度の保険料率が高くなると,もともと有していたコスト意識のほうが強くなり,仮説Cで想定されるような受診行動をとるようになる。すなわち,保険料率が高いとき,コスト節約のために入院外の受診をなるべく控えようとするのである。

キーワード 組合管掌健康保険,保険料率,合理性,損失回避の心理,コスト意識,パネルデータ

 

論文

 

第58巻第2号 2011年2月

在宅療養支援診療所による看取り数に
影響する地域特性

岸田 研作(キシダ ケンサク) 谷垣 靜子(タニガキ シズコ)

目的 在宅療養支援診療所(以下,在支診)による在宅での看取り数に影響する地域特性を明らかにすることを目的とした。

方法 データはすべて厚生労働省による都道府県単位の二次データである。65歳以上の死亡者数に占める在支診による在宅での看取り数が占める割合(以下,在宅看取り割合)を被説明事象とするロジット分析を行った。独立変数は,高齢者当たり在支診数,人口密度,高齢者当たり療養型医療機関の病床数,高齢者当たり訪問看護ステーション数,同居割合,1人当たり住宅床面積である。

結果 死亡者1万人当たりで評価した在宅看取り割合の平均は260人であった。在宅見取り割合が一番高い東京都(594人)と一番低い高知県(39人)を比較すると15倍もの差があった。高齢者当たり在支診が多いこと,人口密度が高いことは,在宅看取り割合が高いことと関連していた。高齢者当たり療養病床数が多いことは,在宅看取り割合が低いことと関連していた。

結論 人口密度が高いことは,在宅看取り割合が高いことと関連していた。このことは,在支診と患者宅の距離が近いほど往診が効率的に行えるため,在宅死が行いやすいことを示していると考えられる。高齢者当たり療養病床数が多いことは,在宅看取り割合が低いことと関連していた。このことは,療養病床が少ない地域では在支診がその受け皿の役割を果たし,在宅での看取りが多くなる可能性を示唆していると考えられる。ただし,受け皿となる在支診の整備や家族介護の支援体制がないまま病床数を削減すると,いわゆる介護難民が発生するだけでなく,適切な終末期医療を受けることができない可能性があることには充分注意を払う必要がある。

キーワード 在宅療養支援診療所,在宅での看取り,療養型医療機関

 

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第58巻第2号 2011年2月

子ども医療センター開設から約1年半における
小児整形外科外来新患患者動向

渡邉 英明(ワタナベ ヒデアキ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 吉川 一郎(キッカワ イチロウ)
丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 医療法が定める三次保健医療圏を担う役割をもつ子ども医療センター(以下,センター)開設当初からの小児整形外科外来新患患者の状況を分析し,医療供給体制の問題点や小児整形外科患者の特徴を把握することである。

方法 2006年10月より2008年3月までに,センター小児整形外科を受診した外来新患患者474人を対象とした。診療録にある住所,初診年月日,来院経路,外来患者の年齢,性別,疾患について分析した。

結果 年齢は平均5.8±0.3歳で0から23歳までであり,年齢別でみると0歳(24.3%)が最も多かった。1日当たりの平均初診患者数は26.3人であり,月別にみると,開院より2007年2月までは月15人以下であったが,3月より徐々に増え始め,2007年6月以降は,しばしば月約40人の初診患者数となった。居住地を地域別にみると,センターのあるT県は373人で全体の78.7%であった。T県の二次保健医療圏内でみると,センターがあるA医療圏が最も多く196人(52.5%),次いで隣接する県庁所在地のあるE医療圏103人(27.6%)であった。来院経路は,院外より紹介38.4%,院内より紹介28.3%,紹介なしが33.3%であった。1年を4期に分けて紹介率をみると,62.5%(2007年7~9月)から78.2%(2006年10~12月)の範囲であった。診療科別でみると,整形外科が125人(39.6%)と最も多く,続いて小児科が123人(38.9%)で,これら2科で全体の約80%であった。ICD-10大項目分類による分類をみると,最も多い疾患はQ6(先天奇形,変形及び染色体異常;筋骨格系の先天奇形及び変形:股関節,足,多指<趾>)で118人(24.9%)であった。

考察 今回の分析によって,センター小児整形外科は,疾患の特徴から三次保健医療機関として特に小児科への啓発と,小児整形外科医療をより効果・効率的に提供するにあたり,季節性を考慮した医師の配置および疾患の特徴からみた専門性が必要であることが明らかになった。

キーワード 子ども医療センター,小児整形外科,外来患者,新患患者動向

 

論文

 

第58巻第2号 2011年2月

乳がん検診に対する態度の測定

関 愛子(セキ アイコ) 平井 啓(ヒライ ケイ) 長塚 美和(ナガツカ ミワ)
原田 和弘(ハラダ カズヒロ) 荒井 弘和(アライ ヒロカズ) 狭間 礼子(ハザマ アヤコ)
石川 善樹(イシカワ ヨシキ) 濱島 ちさと(ハマシマ チサト) 斎藤 博(サイトウ ヒロシ)
渋谷 大助(シブヤ ダイスケ)

目的 日本人の乳がん検診に対する態度を測定する尺度を作成し,対象者の心理的特性と受診行動の関連を明らかにすることを目的とした。

方法 40代~50代女性331名を対象にインターネットによる質問紙調査を行い,有効回答の得られた310名(平均年齢48.68±5.82歳,40代155名,50代155名)を対象に分析を行った。

結果 乳がん検診に対する態度を測定する尺度として4因子を抽出し,十分な妥当性および信頼性が確認された。Trans-theoretical Modelに基づく行動変容ステージと本尺度の因子得点の関連を調べた結果,検診を定期的に受診している人ほど「受診前の障害」「重要性の低さ」「受診時の障害」の得点が低く,「主観的規範」の得点が高いことが明らかになった。また,乳がんに対する不安や心配が強い人は受診ステージが高く,乳がん検診の重要性を高く評価していることが示された。

結論 本研究により,40~50代女性の乳がん検診受診行動の実態が一部把握された。本研究で作成した尺度は,受診率向上を目的とした今後の介入研究に向けて,対象者の心理特性を測定するために有用であると考えられる。

キーワード 乳がん検診,Trans-theoretical Model,受診率,マンモグラフィ,行動変容,不安

 

論文

 

第58巻第2号 2011年2月

体力水準の異なる高齢者に対する,
短期間,低頻度の運動介入の効果

-Square-Stepping Exerciseを中心とした運動介入-
角田 憲治(ツノダ ケンジ) 尹 智暎(ユン ジヨン) 辻 大士(ツジ タイシ)
鴻田 良枝(コウダ ヨシエ) 真田 育依(サナダ イクエ) 村木 敏明(ムラキ トシアキ)
三ッ石 泰大(ミツイシ ヤスヒロ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 市町村レベルで行う短期間の介護予防教室では,会場確保の困難さや自治体の負担の大きさを考えると週1回以下の介入頻度による教室運営が現実的であると考えられる。短期間かつ週1回の介入頻度による運動介入では効果が得られないとする報告は多いが,介入効果の判定に影響すると予想される介入前の体力水準について十分な検討はなされていない。本研究では,体力水準の異なる高齢者間で,短期間,週1回の運動介入の効果検証を行い,短期間かつ週1回の介入頻度で効果の得られる体力水準について検討した。

方法 要支援・要介護認定を受けていない女性の在宅高齢者62名(71.8±5.1歳)を対象に,主成分分析によって算出された身体機能総合得点を用いて3分位を行い,体力水準別に3群を作成した。すべての対象にSquare-Stepping Exerciseを中心とした週1回,11週間の運動介入を行い,体力水準別に介入効果の違いを比較した。

結果 5回椅子立ち上がり時間,ペグ移動,全身選択反応時間,身体機能総合得点で運動介入による主効果が認められた。年齢調整後も交互作用が認められた身体機能評価項目は,Timed up and go,身体機能総合得点の2項目であり,身体機能総合得点において下位群のみに有意な向上効果が認められた。

結論 短期間かつ週1回の運動介入でも,低体力な高齢者に関しては運動効果が期待できる。中~高体力水準にある高齢者において,短期間の運動介入で向上効果を得るには,従来の報告のように介入頻度を週あたり複数回に増加させたり,運動強度を上げる必要がある。

キーワード 高齢者,体力水準,運動介入,低頻度,Square-Stepping Exercise

 

論文

 

第58巻第2号 2011年2月

小規模多機能型居宅介護事業所の有効性に関する研究

-全国における事業所の現状調査-
野田 毅(ノダ タカシ) 糟谷 昌志(カスヤ マサシ)

目的 地域の拠点として,在宅介護を支援することが期待されている小規模多機能型居宅介護事業所について,在宅認知症高齢者の在宅介護支援機能ならびに在宅介護支援を行う地域の拠点施設機能の現状を明らかにする。

方法 WAM-NETに登録されている介護保険の指定小規模多機能型居宅介護事業所全数の中から,ランダムサンプリングで500カ所を選び,2008年7~8月に調査票を郵送にて配布した。そのうち186カ所から回答を得て,回収率は37.2%であった。分析方法は,SPSSを用いての単純集計分析にて行った。

結果 小規模多機能型居宅介護事業所における認知症高齢者の受け入れは,約5割の事業所が積極的に受け入れると回答しており,在宅で認知症高齢者を支えるためのサービスとして機能しているといえる。さらに認知症高齢者の行動的心理的徴候(behavioral and psychological symptoms of dementia:以下,BPSD)の種類別の受け入れについて,一部暴力や攻撃性など,他の利用者に対して直接的な影響を与える場合には受け入れについて検討するという結果であったが,BPSDの種類別の受け入れ方に大きな違いは認められなかった。また,かかりつけ医の把握や友人関係など,利用者本人がこれまで築いてきた地域の社会資源を把握しており,他の福祉事業所よりも医療機関との連携が取れていた。

結論 小規模多機能型居宅介護事業所は,在宅認知症高齢者を支える役割を果たしており,近隣地域の住民や関係機関・団体との連携も取れていた。特に医療機関との連携が強く取れており,このことは,利用者の状態が急変した際の対応として,日頃からの関係が必要であるという認識の現れであるといえる。

キーワード 小規模多機能型居宅介護事業所,認知症,地域

 

論文

 

第58巻第3号 2011年3月

日本の医療費対GDP比率についての認識とその対策

-大阪府医師会調査から-
島田 永和(シマダ ナガカズ) 安田 光隆(ヤスダ ミツタカ) 鈴木 隆一郎(スズキ タカイチロウ)
中村 正廣(ナカムラ マサヒロ) 武田 温裕(タケダ アツヒロ) 澤村 昭彦(サワムラ アキヒコ)
酒井 英雄(サカイ ヒデオ) 酒井 國男(サカイ クニオ) 

目的 日本の医療は,GDPに占める医療費の割合が諸外国と比較して低く,安い費用で高い成果を得ていると総括されている。この効率の良さには医療従事者の献身的な勤務が大きく関与していると推測されるが,1980年代から政府が進めた社会保障費抑制により,その体制も限界に達し,地域医療の現場にて綻びが散見され,放置できない状況となっている。改革に当たっては,国民が現状を認識することが前提となり,より一層の広報や啓発活動が求められる。その資料となるようアンケート調査から現状の認知度についてまとめた。

方法 大阪府医師会は,平成7年より府民調査,昭和46年より医師会員調査を隔年実施している。府民調査は,エリアサンプリング(調査会社の調査員が訪問し記入を依頼(1,320名))および地区医師会配布(地区医師会の医師会員が配付し記入を依頼(1,311名))の2通りで実施した。医師会員調査は,大阪府医師会の会員約2万人を診療所長,病院長,勤務医に区分し,3,017人に調査票を配付した。有効回収率は65.2%であった。

結果 わが国のGDPに占める総医療費の割合が低いことを認識している府民は少なく,窓口での支払いは「高い」と感じている。国の医療費抑制政策についても反対意見が多いが,「わからない」との回答率も高い。一方,医師会員調査では,日本のGDPに占める総医療費の割合が低いことの認識が顕著に高く,低医療費政策が医療現場に与えている影響の大きさを伺わせる結果となった。

結論 国民の医療に対する期待は高く,これらのニーズに対応した質の高い医療を提供し続けるには医療費の増大は避けられない。また,医師が過重労働による「医療ミス」の可能性に不安を感じている事実は,医療を受ける側にも直結する問題であり,早急な改善が不可欠である。まずは,総医療費が低いという理解を浸透させるため,広報・啓発活動の充実・工夫が望まれる。

キーワード アンケート調査,医療の質,国民医療費,国際比較,地域医療体制

 

論文

 

第58巻第3号 2011年3月

救急搬送を伴った高齢者の転倒の実態調査

-人口規模別の検討-
吉本 好延(ヨシモト ヨシノブ) 三木 章江(ミキ フミエ) 浜岡 克伺(ハマオカ カツミ)
大山 幸綱(オオヤマ ユキツナ) 佐藤 厚(サトウ アツシ)

目的 本研究の目的は,全国各地の消防本部の救急搬送記録を用いて,救急搬送を伴った高齢者の転倒状況を人口規模別に検討することであった。

方法 調査期間は平成19年の1年間であった。対象は,全国の消防本部50機関(6.2%)において救急隊員により搬送が行われた高齢者(65歳以上)の中等症以上の転倒(死亡または入院加療を必要とするもの)延べ13,372件(男性4,078件,女性9,294件)とした。調査項目は,受傷者の性別,年齢,転倒の発生場所,発生季節の計4項目とした。対象機関は,人口20万人以上の市町村を含む12機関(大都市),人口20万人未満の市町村で構成されている38機関(小都市)に分類した。人口規模別の転倒搬送件数は,住民基本台帳人口要覧を用いて,人口10万人当たりの搬送件数を各消防本部で男女それぞれ算出し,大都市と小都市の間で比較した。人口規模別の転倒の発生場所および発生季節は,転倒搬送の割合をそれぞれ算出し,大都市と小都市の間で比較した。

結果 人口10万人当たりの女性の転倒搬送件数は,小都市より大都市で有意に多かった。住宅での転倒の割合は,大都市と小都市で有意差はなかったが,大都市・小都市ともに男性より女性に高い傾向を示した。屋外での転倒の割合は,大都市と小都市で有意差はなかったが,大都市・小都市ともに女性より男性に多かった。転倒の発生季節は,大都市と小都市で有意差はなかったが,秋季・冬季の割合が全体的に高い傾向にあり,特に小都市における女性の冬季の割合は29.0%と最も高かった。

結論 女性高齢者の転倒搬送件数は小都市より大都市で多いことが明らかになったが,転倒の発生場所と発生季節は大都市と小都市で差はなく,人口規模別に特徴的な発生状況を明らかにすることはできなかった。今後は,分析的研究を用いた仮説の検証が必要である。

キーワード 救急搬送,高齢者,転倒,人口規模

 

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第58巻第3号 2011年3月

回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者の
入院早期のADL得点変化と10週間後歩行状態回復との関連

-入院時病棟内歩行ができない患者を対象として-
池西 和哉(イケニシ カズヤ) 倉持 玲子(クラモチ レイコ) 五十嵐 美千代(イガラシ ミチヨ)
西岡 みどり(ニシオカ ミドリ) 小澤 三枝子(オザワ ミエコ) 

目的 本研究の目的は,回復期リハビリ病棟に入院した脳卒中患者の入院から2週目までのADL得点の変化と,入院から10週間後の歩行状態の回復との関連を明らかにすることである。

方法 2施設の入院患者のうち入院時に歩行できなかった脳卒中患者136人を対象とし,入院から2週間後のFIM(Functional Independence Measure)得点の変化と,入院から10週間後の歩行状態の判定を行った。入院時FIM得点,年齢,下肢BRS得点,発症から回復期リハビリ病棟入院までの期間の4因子を制御した多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 入院から2週間の更衣上半身FIM得点変化(OR:2.810,95%CI:1.242-7.448),入院時FIM得点(OR:1.085,95%CI:1.051-1.129),下肢BRS得点(OR:2.791,95%CI:1.661-5.140)が10週間後の歩行状態の回復に有意な因子であった。

結論 上半身の更衣に関するADL回復への看護介入が,入院10週間後の歩行状態の回復に有用である可能性が示唆された。

キーワード リハビリテーション看護,脳血管障害,歩行状態,FIM(Functional Independence Measure),BRS(Brunnstrom Recovery Stage),回復期リハビリテーション病棟

 

論文

 

第58巻第3号 2011年3月

都道府県別の肥満者割合と社会経済格差について

長谷川 卓志(ハセガワ タカシ)

目的 肥満者の割合はわが国のみならず世界各国でも上昇を続けており,健康問題としてその実態解明と対策には多くの研究と実践が進んでいる。肥満は,生物学的にはカロリーの過剰摂取,運動量の低下などがその要因に挙げられており,多くの研究ではそれらの対策に焦点が当てられてきた。しかしながら,疾病を取り巻く各種の社会経済状態,特に格差について,海外では研究テーマとして盛んに取り上げられているものの,わが国における研究,報告は少ない。本研究では47都道府県の資料をもとに,地域の肥満者割合が,社会経済状態を示す各指標によりいかに説明されるものか検討したものである。

方法 都道府県の肥満者の割合を従属変数,ジニ係数,高等学校卒業者の大学等進学率,1人当たり県民所得,老年人口割合,65歳平均余命,完全失業率,1日の歩数,保有自家用車数を独立変数として分析,重回帰分析(変数増減法)を行った。

結果 重回帰分析の結果,男性では完全失業率(β,0.561,p<0.001),保有自家用車数(β,0.350,p<0.001),女性では大学等進学率(β,-0.507,p<0.001),ジニ係数(β,0.310,p<0.01),保有自家用車数(β,0.243,p<0.05)などが有意な関連を認めた。

結論 都道府県の肥満者割合とその地域差を規定する因子として経済格差,学歴格差が重要な役割を演じている可能性を示唆する結果であった。肥満を格差とその社会環境からとらえることが,予防対策を推進させるにあたりますます重要となるであろう。

キーワード 体格指数,肥満者割合,経済格差,学歴格差,ジニ係数

 

論文

 

第58巻第3号 2011年3月

都道府県別合計特殊出生率の実態について

石井 憲雄(イシイ ノリオ)

目的 厚生労働省「人口動態統計」で公表されている都道府県別合計特殊出生率(Total Fertility Rate,以下,TFR)の算出方法の問題点を洗い出し,近年における都道府県別TFRの動向の実態を把握することである。

方法 山形県を例にとり,「人口動態統計」の都道府県別TFRの算出方法が国勢調査年と非国勢調査年で異なることが,TFRにどのような影響を及ぼしているか分析した。次に,「2005年人口動態統計」の「概数」と「確定数」の乖離を基に,非国勢調査年の各都道府県のTFRがもつ誤差の測定を行った。さらに,2000年から2009年までの非国勢調査年について,分母に用いる年齢階級別女子人口の定義を国勢調査年と統一するなどして改善した補正TFRの推計を試みた。

結果 「人口動態統計」の非国勢調査年の都道府県別TFRは,分母に用いる女子人口に外国人人口が含まれる影響や,推計人口の推計誤差の影響により,全都道府県で国勢調査年に比べ相当低い水準となっていることが判明した。そこで,補正TFRを推計した結果,大部分の都道府県において,2005年のTFRが2000年から2009年における最低値となっており,2006年以降回復基調にあることが示された。

結論 時系列でみると,「人口動態統計」の都道府県別TFRの動向は,その分母に用いる女子人口の問題から,その分子である出生数の動向との関係に一部整合性がみられない。したがって,都道府県別TFRの動向を正確に把握する必要がある地方自治体や,研究者においては,非国勢調査年の値については,本研究で示した手法を利用するなどして,独自に推計することが推奨される。

キーワード 合計特殊出生率,TFR,人口動態統計,推計人口,都道府県,国勢調査

 

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第58巻第3号 2011年3月

共働き世帯の父親の育児参加と
母親の心理的well-beingの関係

桐野 匡史(キリノ マサフミ) 朴 志先(パク ジソン) 近藤 理恵(コンドウ リエ)
佐々井 司(ササイ ツカサ) 高橋 重郷(タカハシ シゲサト) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 本研究は,就学前の児を養育している若い共働き世帯を対象に,父親の育児参加が母親の心理的well-beingに及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。

方法 K県C市とO県K市内の保育所を管轄している市の担当課等を通して協力が得られた保育所15カ所を利用している1,000世帯(C市:6保育所500世帯,K市:9保育所500世帯)の両親を対象に「ワーク・ライフ・バランスに関する調査」を実施した。本研究では,前記調査のうち,統計解析に必要なデータとして,父親の回答からは年齢,収入(月収),就業形態,父親の育児参加を抜粋し,また母親の回答からは年齢,子どもの数,末子の年齢,就業形態,父親の情緒的育児サポートに関する母親の認知,夫婦関係満足感,精神的健康,健康関連QOLを抜粋した。統計解析には,回答が得られた共働き世帯である334世帯のうち,分析に必要なすべての変数に欠損値を有さない278世帯のデータを用いた。なお,本研究では,「父親の育児参加は,父親の情緒的育児サポートに関する母親の認知を通して母親の心理的well-being,すなわち夫婦関係満足感と精神的健康(抑うつ傾向)に影響し,夫婦関係満足感は,直接的に,または精神的健康を通して間接的に,健康関連QOLに影響する」とした因果関係モデルを仮定し,そのモデルのデータに対する適合度と変数間の関連性を構造方程式モデリングにより検討した。

結果 因果関係モデルのデータに対する適合度は,CFIが0.983,RMSEAが0.052と統計学的な許容水準を満たす結果であった。また,分析の結果,父親の育児参加は,父親の情緒的育児サポートに関する母親の認知を通じて間接的に夫婦関係満足感に影響し,夫婦関係満足感は,直接的に,または精神的健康を通して間接的に,健康関連QOLに影響していた。

結論 本研究の結果,早急に父親の育児参加に関連した仮説を取り込んだ新たな理論の検証を総合的に行っていく必要性が示唆された。また,未就学児を育児している共働き家庭にあっては,質の高いワーク・ライフ・バランスが維持できる家族形成支援を,根本的には,いかにして父親の育児参加を促すかといった問題に立ち戻って解決されるべきであることが推察された。

キーワード 父親,母親,育児サポート,夫婦関係満足感,ワーク・ライフ・バランス

 

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第58巻第4号 2011年4月

今後の国民生活基礎調査の
在り方についての一考察(第3報)

橋本 英樹(ハシモト ヒデキ)

目的 国民生活基礎調査の現行のサンプリングデザイン・実施体制について,回収率向上や匿名化データセット作成の観点から問題点を整理した。

方法 国民生活基礎調査室の担当数理官へのインタビューを行い,サンプリングならびに比推定の手法について質疑応答を通じて取材した。また実施の状況について,某都道府県担当部局を通じて,調査実施担当者数名からのグループインタビューを実施させていただいた。匿名化データセットの作成に関する問題点については,平成21年度厚生統計協会研究委託「国民生活基礎調査の匿名データ化に関する研究会」に筆者が参加した際の議論も一部踏まえつつ,問題点を整理した。

結果 大調査年では都道府県別表章の誤差範囲を均一化すること,実施体制・コストの制限から地点抽出・地点内悉皆調査により比推定に基づく母数推計が行われている。全国値の算出にあたって分散の違いが考慮されておらず,確率抽出を採用している小調査年統計値との整合性を再検討する余地がある。また比推定は回収率低下によるバイアスの影響を受けやすいことから,実施体制の見直し,特に実施系統の一本化・調査員の教育・情報普及など検討すべきである。匿名化データ作成にあたっては現行のサンプリングデザインに制限を考慮すれば,世帯員レベルでのリサンプリングが匿名性を保ちつつ地域情報を含めるうえでは自由度が高いと思われた。

結論 国民生活基礎調査は,世帯面の基幹統計として,変化する調査環境・ユーザーとそのニーズの多様化に対応するには,統計の継続性を確保しつつも,常にその内容や実施方法について大胆な変革を見通した議論を継続していく必要がある。対象者である国民に対して「国民の共有財産としての統計」としての正当性を明確に説明できることが求められる。

キーワード 国民生活基礎調査,サンプリングデザイン,調査実施手法,回収率向上,匿名化データセット

 

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第58巻第4号 2011年4月

勤労者における抑うつ状態と体力との関連の縦断的研究

久保田 晃生(クボタ アキオ) 竹内 亮(タケウチ リョウ) 原田 和弘(ハラダ カズヒロ)
笹井 浩行(ササイ ヒロユキ) 甲斐 裕子(カイ ユウコ) 高見 京太(タカミ キョウタ)

目的 勤労者を対象に抑うつ状態と体力との関連を縦断的調査結果から検討し,職域のメンタルヘルスケアの向上を効果的に推進する基礎的資料を得ることである。

方法 静岡県内のN社K製造所に勤務し,ベースライン調査および1年後の追跡調査に協力の得られた男性277人を分析対象者とした。ベースライン調査では,握力,長座体前屈,上体起こし,反復横とび,立ち幅とびの測定と,質問紙で推定最大酸素摂取量,抑うつ状態(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)日本語版),身体活動量のほか,年齢,配偶者,学歴,睡眠時間,夜勤,喫煙習慣,飲酒習慣,現病歴の状況を把握した。また,同時期の健診結果からBMIを把握した。追跡調査では抑うつ状態を把握した。「うつ病の治療中」「解析項目に1つ以上の欠損値」「体力項目のいずれかが平均値+標準偏差×3以上の値」「CES-Dで逆転項目の回答が不十分」である69人を除いた208人を最終解析対象者とした。解析は,CES-D得点の変化から4群に分け体力および交絡因子を比較した。次に抑うつ状態への変化と体力との関連を検討した。さらに,ベースライン調査が非抑うつ状態で追跡調査が抑うつ状態であった群と,両調査時点が非抑うつ状態であった群の2群を目的変数,ベースライン調査の各体力項目を説明変数,ベースライン調査の年齢,配偶者,学歴,睡眠時間,夜勤,喫煙習慣,飲酒習慣,現病歴,BMIを調整変数としたロジスティック回帰分析(強制投入法)を施した。各体力測定値は関連の強さを比較検討するため,それぞれ標準偏差で除し解析に用いた。

結果 解析対象者(208人)のCES-D得点の平均値は,ベースライン調査で14.5±7.7点,追跡調査で13.4±7.8点であった。ベースライン調査が非抑うつ状態で追跡調査が抑うつ状態であった群は17人(8%),両調査時点が非抑うつ状態であった群は112人(54%)であった。抑うつ状態への変化と体力との関連を検討するために行ったロジスティック回帰分析の結果,目的変数と有意な関連が認められた項目は,立ち幅とび(オッズ比0.48)のみであった。

結論 抑うつ状態と関連が認められた項目は立ち幅とびであった。立ち幅とびのような複合的な体力を向上させるためには,体力全般の向上を図ることが重要かもしれない。しかし,本研究は課題も多く,今後も研究を蓄積することが必要である。

キーワード 抑うつ状態,CES-D,体力,身体活動量

 

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第58巻第4号 2011年4月

保健予防対策の重点支援地域の発見

-ベイズ推計による補正を施した受診指数と死亡率データの活用-
古城 隆雄(コジョウ タカオ) 黒島 テレサ(クロシマ テレサ) 印南 一路(インナミ イチロ)

目的 本研究の目的は,第一に脳血管疾患患者と脳血管疾患の危険因子である高血圧患者を対象に,複数の指標を用いて国や都道府県が重点的に支援するべき市町村(重点支援地域)を対策度別に明らかにすることである。第二に,階層ベイズ法を用いて市町村レベルの受診指数を推定し,SAEの問題に対する階層ベイズ法の有用性を確認することである。

方法 脳血管疾患SMR,脳血管疾患受診指数,高血圧受診指数の3指標を用いて,医療費が低い3県(山形県,長野県,静岡県)と医療費が高い3府県(大阪府,広島県,高知県)の市町村を,脳血管疾患の重度化と発症予防の観点から要対策度別に5段階に分類した。脳血管疾患受診指数,高血圧受診指数を作成する際には,SAEの問題を回避するため,階層ベイズ法(ポアソン対数正規モデル)による指数の推定を行い,指数の推定精度を高めた。

結果 まず,高血圧と脳血管疾患の受診指数を,階層ベイズ法による補正前と補正後で比較してみると,補正後の値が基準値1に集約される形で安定化した。特に,受診件数が少ない脳血管疾患,そして小規模自治体の受診指数が強く補正されていた。次に,保健予防上の要対策度別に6府県の市町村を分類し,6府県の特徴を明らかにした。山形県と高知県は,脳血管疾患SMRと脳血管疾患受診指数が共に高い要対策度5の市町村が59%を占める。長野県は,脳血管疾患SMRが高く,脳血管疾患受診指数が低い要対策度4の市町村が75%に達する。広島県は,脳血管疾患SMRの値は低いが,脳血管疾患の受診指数は高い要対策度3に67%の市町村が該当する。大阪府は,83%の市町村が,脳血管疾患SMR,脳血管疾患の受診指数が低い要対策度2と1に分類された。静岡県は,要対策度2~5に分類される市町村がそれぞれ一定程度存在する混在型であった。

結論 疾患がまれな疾病で受診率が低い場合や小規模自治体で指数を算出する際には,ベイズ統計による指数の補正を行うことが必要であろう。医療費の水準が低いことや平均在院日数が低いことから長野県を目指すべきモデルとして扱う傾向があるが,長野県は脳血管疾患SMRの値が高く,要対策度4の市町村が75%を占めており,決してモデル地域とはいえない。保健予防対策を考える際には,医療費の高低だけでなく,死亡率や医療機関への受診状況など複数の指標を考慮し,支援するべき市町村の包括的な優先順位を付すべきである。

キーワード 重点支援地域,SMR,受診指数,階層ベイズ,ベイズ統計

 

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第58巻第4号 2011年4月

老衰死はどのように変化してきているのか

-人口動態統計を利用した記述疫学的検討-
今永 光彦(イマナガ テルヒコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 「老衰死」に関して,人口動態統計を利用して戦後から現在までの記述疫学的な検討を行い,過去から現在にかけてどのように「老衰死」が変化してきているのかを考察するとともに,今後の老衰死亡者数の推計を試みた。

方法 基礎資料として,昭和25年(1950年)から平成20年(2008年)までの人口動態統計と2005年人口動態特殊報告・都道府県別年齢調整死亡率,平成18年12月推計日本の将来推計人口を用いた。老衰死亡率(人口10万対死亡率,性別年齢調整死亡率)の推移,年齢別にみた老衰死亡者数の推移,性別にみた老衰死亡者数の推移,老衰死亡者の死亡場所の変化についてそれぞれ検討を行った。1975年と2005年における老衰の性・都道府県別年齢調整死亡率を用いて,各都道府県の性別年齢調整死亡率の全国値に対する比を算出し,地域差があるかどうかの検討と各都道府県の変化を比較した。老衰の年齢階級別死亡率が2008年と同率で推移すると仮定して,2015年と2025年の老衰死亡者数の推計を試みた。

結果 戦後から減少傾向にあった老衰死亡率は,近年,人口10万対死亡率は増加しているが,年齢調整死亡率は横ばいである。性別ではどの年代でも女性の死亡者数が多い。老衰死の年齢構造や亡くなる場所の変化をみると,過去は現在よりも若年で老衰死と診断され,自宅で亡くなっている方が多い。近年は病院や施設など亡くなる場所が多様化している。各都道府県別の比較では,1975年・2005年ともに地域差を認めており,男女とも,中部地方で増加,近畿地方で減少している。県別では沖縄県が著明に減少している。老衰死亡者数の推計では,2008年と比較して,2015年で約1.5倍,2025年で約2.6倍になると推計された。

結論 今後,老衰死亡者数が増加することが予測され,死亡場所に関しても,自宅に限らず病院・施設と多様化していることを考えると,臨床医が「老衰死」に遭遇する機会は増えることが考えられる。

キーワード 老衰,老衰死,高齢者医療,超高齢者,人口動態統計,記述疫学

 

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第58巻第5号 2011年5月

社会福祉施設におけるボランティア受け入れの現状と課題

守本 友美(モリモト トモミ)

目的 本研究は,開かれた施設づくりの一側面としてのボランティアの受け入れに関する実態を把握し,ボランティアの主体性を支援し,ボランティア活動を通して施設と地域社会をつなぐ役割を担うボランティアコーディネーター(ボランティア受け入れ担当者)の必要性を明らかにすることを目的とした。

方法 三重県社会福祉施設名簿に掲載されている社会福祉施設のうち,保育所,助産施設,在宅介護支援センター,訪問看護ステーションを除いた施設937施設に対して自計式調査票を用いた郵送調査を実施した。調査時期は2009年9月1日から10月15日である。回収数は390件で,回収割合は41.6%であった。本研究では,「施設の概要」「ボランティア受け入れの状況」「ボランティアコーディネーターの配置状況」「ボランティアコーディネーションの内容」に焦点を絞って調査項目を作成した。

結果 290施設(74.4%)がボランティアを受け入れているが,そのボランティアを支援し,施設と地域社会とを結び相互の関係を築いていくための役割を担う専門職であるボランティアコーディネーターの配置がされているのは,26.7%にすぎなかった。そして,ボランティアコーディネーターが配置されていないことから,ボランティアを受け入れ,支援していくために必要な内容の実施割合が低いことも明らかになった。「ボランティア受け入れのためのマニュアルを作成している」「ボランティアのための部屋を用意している」などの物的環境整備については,そのなかでも比較的実施割合が高い内容であったが,ボランティアへの直接的支援については,実施割合の高いものと低いものとの差が見られた。特に,ボランティアコーディネーターの重要な役割となる「ボランティアへのスーパービジョン(相談)を行っている」の実施割合が10%にも満たないことは,ボランティアへの支援が十分には行われていないことを示している。

結論 施設は施設利用者にサービスを提供することのみにとどまらず,地域からのボランティアを受け入れ,住民の自発的な福祉活動を支援することなどを通して地域福祉推進の機能も期待されている。この機能を果たしていくためには,施設におけるボランティアコーディネートの手法の導入と組織体制の整備が急務であり,ボランティアの受け入れに対する考え方を明確に打ち出し,コーディネーターの役割を担う担当者を養成し配置する必要がある。

キーワード 社会福祉施設,ボランティアコーディネーター,ボランティア受け入れ,ボランティア活動

 

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第58巻第5号 2011年5月

大都市圏住民のメンタルヘルス,生活ストレスと自殺関連体験

-大阪市「市政モニター質問書」調査結果を中心に-
高梨 薫(タカナシ カオル) 吉原 千賀(ヨシハラ チカ) 清水 新二(シミズ シンジ)

目的 自殺対策基本法成立によって自殺対策は総合的な対策,取り組みへ軸足を移しつつある。しかし自殺対策はその中核にこころの問題がとらえられており,うつ病の早期発見という具体的,対症療法的施策もこれまでどおり重要である。そこで自殺者実数が最も多い大阪市調査データを使用し,自殺関連体験とメンタルヘルス状況,およびメンタルヘルス関連要因を検討した。

方法 大阪市市政モニター600人を対象に平成20年9月,市政モニター調査を自記式郵送法で実施し,558の調査票を回収,回収割合は93.0%であった。自殺関連体験は過去1年間の自殺念慮および自殺企図を尋ね,メンタルヘルスはCES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression)スケールを使用した。メンタルヘルス関連要因としては暮らし向き,地域の人との交流とソーシャルサポートを尋ねた。この他,悩み・ストレスの相談について尋ねた。これらを集計検討したうえで,CES-Dを従属変数とした重回帰分析を欠損値のあるものを除いた432人(男子238人,女子194人)を対象に行った。

結果 過去1年間に自殺念慮をもった回答者は男子8.8%,女子12.8%,全体10.8%と,市民10人に1人が何らかの程度で自殺念慮を体験し,同様に過去1年間に実際に自殺を試みた体験を持つ者は男女とも1.8%,およそ市民50人に1人の割合であった。またCES-Dは平均13.9,標準偏差9.0で,男子13.5±9.4,女子14.4±8.5となっていた。年代別では20歳代が最も高かった(15.7±10.0)。CES-Dを従属変数とした重回帰分析では性別で関連要因が異なり,男子では暮らし向き,地域の人との交流,職場関係サポートが,女子では暮らし向き,地域の人との交流,家族サポートが有意となった。おのおの暮らし向き「ゆとりがある」,地域の人との交流「よくある」方,職場関係,家族サポートの多い方でCES-D点数は低くなっていた。

結論 自殺念慮,企図体験者の割合は厚生労働省調査と比較し著しく高かった。また市民のメンタルヘルスには暮らし向きが大きな影を落としているものの,地域の人との交流,家族(女子において)や職場(男子において)のサポート効果が示唆された。地域,職場のサポートや,悩み・ストレスの相談のしやすさなどについての改善工夫,これまでのうつ病対策とともに総合的なメンタルヘルス対策と生活支援の取り組みが望まれる。

キーワード 自殺対策基本法,自殺念慮,自殺企図,メンタルヘルス,社会関係資本

 

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第58巻第5号 2011年5月

高齢者の要介護認定有無別医療費の比較分析

安西 将也(アンザイ マサヤ) 延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ)

目的 近年,医療・介護保険者にとって,医療・介護の制度における給付の状況を把握し,介護予防や疾病予防のための方策の在り方を中心とした健康づくり事業の支援に向けた取り組みが重要となっている。そこで,本研究では,滋賀県国民健康保険団体連合会の電算データから,国保高齢者の医療給付状況(介護給付状況を含む)を把握し,要介護認定の有無別に比較分析した。

方法 滋賀県下26市町の国民健康保険および長寿(後期高齢者)医療制度の被保険者のうち,平成20年8月31日現在65歳以上で,平成20年6~8月に医科レセプトが1件以上ある者213,346人を対象とし,平成20年6~8月の医療給付費および介護給付の状況について分析を行った。

結果 滋賀県の65歳以上すべての被保険者241,170人のうち,医療を受けた割合をみると,全体で88.5%であった。また,滋賀県すべての要介護認定者44,728人のうち,医療を受けたものは,全体で83.6%であった。介護給付の有無別にみたところ,介護給付ありが81.1%,介護給付なしが18.9%であった。要介護認定を受けていながら介護サービスを受けていない者が2割近くいることがわかった。要介護認定あり(介護給付なし)の1人当たり金額は要介護認定のない者よりも調剤,外来・調剤,入院において有意に高かったこと,また,要介護認定あり(介護給付あり)は要介護認定のない者よりも調剤および外来・調剤において有意に高いことが明らかとなった。傷病別にみたところ,要介護認定あり・なしにかかわらず,生活習慣病の件数が多いことがわかった。

結論 種々の結果から,要介護認定者は介護依存が高いだけでなく,要介護認定のない高齢者よりも医療依存が強いことから,医療機関と連携したケアプランの作成などの工夫が必要であること,また,医療費適正化の観点から,一般高齢者だけでなく,要介護高齢者に対しても生活習慣病予防・介護予防や健康維持・向上の支援の必要性を示唆していた。

キーワード 医療保険制度,医療費,介護保険,要介護認定,入院外来,傷病

 

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第58巻第5号 2011年5月

日本の禁煙強化政策に対する喫煙者の反応

依田 高典(イダ タカノリ) 高橋 裕子(タカハシ ユウコ) 後藤 励(ゴトウ レイ)

目的 近年の禁煙強化政策にどのように反応しているか,喫煙者の禁煙意思の詳細な分析を行うために,価格や健康リスクといった情報に対する喫煙者の反応について定量的に分析し,それらの反応がニコチン依存度によって異なるかどうかを検討する。

方法 対象は,モニター調査会社に登録している現在喫煙者と現在非喫煙者である。さらに,FTNDテスト(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence)により高度喫煙者,中度喫煙者,低度喫煙者に分類された600名の喫煙者に対して,コンジョイント分析を実施した。

結果 第1に,最近の禁煙強化政策に関して,予想通り,喫煙者は反対し,非喫煙者は賛成している。第2に,たばこ事業法の変更に関して,喫煙者は慎重であり,非喫煙者は前向きである。第3に,2006年調査と同じ設定でたばこ価格値上げに対する喫煙継続確率に対するコンジョイント分析を実施したところ,高度喫煙者の禁煙意思は大幅に増加している一方で,低度喫煙者の禁煙意思は低下している。

結論 禁煙成功割合が現行の仮定である50%程度にとどまり,たばこ価格が欧米価格以下にとどまる限り,たばこ税の安定的税収確保というたばこ事業法の目的は達せられるが,禁煙成功割合が大幅に改善したり,たばこ価格が欧米価格以上に引き上げられたりする場合,たばこ税収は減少に転じることもあり得る。

キーワード 禁煙行動,コンジョイント分析,健康リスク,たばこ価格,FTND

 

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第58巻第5号 2011年5月

「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測

深澤 友恵(フカザワ トモエ) 清原 昭子(キヨハラ アキコ) 北風 真衣(キタカゼ マイ)
福井 充(フクイ ミツル) 上田 由喜子(ウエダ ユキコ)

目的 本研究では,個人の食物選択が社会に影響を及ぼすことの理解は,食に対する意識や行動に影響を与えると考え,「食生活改善行動の採用」を評価する尺度の開発と行動変容へと導くモデルを提案することを目的とする。

方法 対象は40歳から62歳の被雇用労働者の男性200名とし,調査は平成21年9月に行った。データ収集方法は,インターネットを利用した間接的な自記式質問紙調査とした。質問紙の信頼性については,反応分布の検討,次にG-P分析を行い,各項目得点の高群と低群で平均値の差が顕著でない(p≦0.05)項目は除外した。さらに,I-T相関分析を行い,項目と全体得点の相関が低い(<0.25)項目は除外した。最後に因子分析(主成分分析)を繰り返し,因子を抽出した。質問紙の妥当性および「食生活改善行動の採用」モデルの予測については,特定保健指導に参加した成人男女82名を対象に,同年12月に調査を行った。仮定した因子構造モデルのデータへの適合度は,パス解析を用いて検討した。

結果 44項目の反応分布から27項目5因子が残り,これを「食生活改善行動の採用」測定尺度とした。Cronbachのα係数は全体としての尺度が0.908,下位尺度では0.628から0.830を示し,内的整合性が確認された。外的基準である新しい食物選択動機調査票の下位尺度やecSatter調査票の一部の項目との関連により,一定の収束的妥当性も認められた。また,「個人の食物選択が社会に影響を及ぼす」と理解することから,食に関する意識や行動への影響については,「食事バランスへの意識」が0.676(p<0.001),「食生活変化の受容態度」は0.664(p<0.001),「食物選択動機の合理性」には0.913(p<0.001)の因果関係がみられ,モデルの適合度もそれぞれ受容可能な値が示された。

結論 栄養教育において食物選択と社会へのつながりを理解させることは,彼らの食意識に影響を与え,改善行動の採用に導くための有効なアプローチとして成り立つと考えられる。

キーワード 尺度,妥当性,行動変容,食環境

 

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第58巻第6号 2011年6月

地域における健康危機管理コンピテンシーの
習得レベルに関する研究

-デルファイ法を用いたすべての公衆衛生従事者に求められる職種別・職位別質的調査-
橘 とも子(タチバナ トモコ) 荒田 吉彦(アラタ ヨシヒコ) 大原 智子(オオハラ トモコ)
大熊 和行(オオクマ カズユキ) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ) 奥田 博子(オクダ ヒロコ)
佐藤 加代子(サトウ カヨコ) 豊福 肇(トヨフク ハジメ) 鈴木 晃(スズキ アキラ)
曽根 智史(ソネ トモフミ)

目的 地域における健康危機管理を担うすべての公衆衛生従事者に求められる健康危機管理コンピテンシーの習得レベルを,実務者のコンセンサスを得つつ,職種別・職位別に明らかにする。

方法 デルファイ法による。調査対象は,すべての保健所・地域保健担当部局・地方衛生研究所の管理者および層別抽出職種の職員(744カ所,合計1,899人)。第2回調査集計結果に対してデルファイメンバー16名によるラウンドテーブルディスカッションを行い,最終意見集約を行った。

結果 質問紙調査回答は第1回1,016件(53.5%),第2回756件(対象992件中76.2%)。回答の中央値・最頻値は多くの項目で一致した。両者不一致の習得レベルは,歯科医師・歯科衛生士6項目,薬剤師2項目,管理的立場の事務職2項目,非管理的立場の事務職2項目などにみられた。中央値・最頻値が不一致の項目および事前調査で賛意50%未満の項目を中心とする検討により,すべての職種・職位に対して求められる健康危機管理コンピテンシーの習得すべきレベルが意見集約された。

結論 習得すべき健康危機管理コンピテンシーのレベルは,職種・職位により特徴を有する分布パターンであった。医師の回答には職位「管理的立場の専門職」がバイアス因子となっている可能性が考えられた。本研究の調査結果は,すべての地域における健康危機管理を担う公衆衛生従事者に対して,求められる「健康危機管理コンピテンシーの『習得しておくべきレベル』についてコンセンサスを得つつ意見集約した結果となっている。今後,地域における健康危機管理体制の整備に必要な「人材育成」を,地域の実情に応じて企画・立案・実施・評価していく際に,本研究成果を活用すべきであると思われた。

キーワード 公衆衛生行政職員,健康危機管理コンピテンシー,習得レベル,デルファイ調査,ラウンドテーブルディスカッション,職種

 

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第58巻第6号 2011年6月

診療報酬明細書における性感染症の記載状況に関する検討

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 岡本 悦司(オカモト エツジ) 今任 拓也(イマトウ タクヤ)
百瀬 義人(モモセ ヨシト) 宮崎 元伸(ミヤザキ モトノブ) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 感染症サーベイランスシステムから得られる情報が実態をどの程度反映しているかを定期的に評価することは現実に即した感染症対策を実施する上での基本である。本研究は医療機関からの届け出割合の影響を受けない情報源の一つである診療報酬明細書(以下,レセプト)による情報を用いて性感染症サーベイランスの評価を行う上での課題を明らかにすることを目的とした。

方法 複数の健康保険組合における被保険者本人および被扶養者で2006年5月に入院外診療を受けた126,433人(男65,434人(51.8%),女60,999人(48.2%))の入院外レセプト169,622件に記載された傷病名の総数442,010件の中から,社会保険表章用疾病分類表(厚生労働省保険局)の中分類の「性的伝播様式をとる感染症」に該当する傷病名を抽出した。その後,各傷病名を国際疾病分類第10版の2003年改訂版(以後,ICD-10)により再分類し,各傷病名ごとの主傷病と副傷病の割合および疑い病名が占める割合を比較した。

結果 レセプトに記載された傷病名442,010件のうち,性的伝播様式をとる感染症に該当するものは820件(0.2%)であった。そのうち,主傷病は153件(18.7%),副傷病は667件(81.3%)であった。疑い病名は331件(40.4%)であった。主傷病のうち26件(17.0%),副傷病のうち305件(45.7%)が疑い病名であり,統計学的に有意(p<0.001)に副傷病に占める疑い病名の割合は主傷病よりも高くなっていた。傷病名別の検討ではクラミジア(ICD-10:A56),淋菌(同:A54),梅毒(同:A51,A52,A53)では統計学的に有意(p<0.05)に副傷病の疑い病名の割合は主傷病より高くなっていた。しかし,性器ヘルペス(ICD-10:A60)およびその他の性的伝播をとる感染症(同:A58,A63,A64)では副傷病と主傷病の間の疑い病名の割合に統計学的有意差は認められなかった。

結論 レセプトに記載された情報は保険診療である限り,医師の届け出に左右されないという特徴を持つために,性感染症サーベイランスシステムから得られる結果の評価や改善に有益である。傷病名をICD-10によって詳細に分類することと主傷病および副傷病の区分並びに疑い病名に関する検討を行うことは,現在のレセプト分析では十分実施されておらず,レセプトに記載された情報を性感染症サーベイランスの評価や改善に用いる上での課題である。

キーワード 診療報酬明細書(レセプト),サーベイランス,性感染症,主傷病,副傷病,疑い病名

 

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第58巻第6号 2011年6月

情報サービス産業で働く日本人システムエンジニアの
蓄積疲労と労働環境の関連

丹羽 俊子(ニワ トシコ) 呉 珠響(オウ チュヒャン) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ)

目的 本研究は,情報サービス産業で働く開発技術者の蓄積疲労の実態を把握し,労働環境との関連を明らかにすることを目的とする。

方法 東京都内の情報サービス産業で働く開発技術者160人を対象として質問紙調査を行った。調査項目は,基本的属性,職場・労働環境,蓄積疲労度とした。分析は,疲労蓄積度高群と低群の比較として各変数間でχ2検定を行った。

結果 分析対象とした120人中,蓄積疲労度が高い人の割合は55.9%であった。また,1カ月の平均残業時間が45時間超の割合は22.5%であり,負担と感じる割合が高かった項目は,仕事内容のあいまいさ,仕事の難しさ,納期の時間的切迫などであった。疲労蓄積度高群と低群を比較して,高群が有意に高かった項目は,通勤時間60分以上,勤務場所が出向先,平均残業時間45時間超,長時間労働,仕事量の多さ,仕事の難しさ,納期の時間的切迫,納品後のトラブル,コミュニケーションの少なさ,室内(気温・湿度)の不快,仕事中の休憩頻度の不足,眼の痛み・疲れ,首・肩のこり・痛みであった。

結論 本調査の結果,仕事による負担度が高いと回答した人は約6割であった。蓄積疲労度と労働環境の負担感の関連では,蓄積疲労度が高い群の方が,労働環境で負担と感じる10項目について有意に割合が高かった。産業看護職は開発技術者の労働環境の特性に応じて,主観的な負担度などを考慮した助言・指導が必要であることが示唆された。

キーワード 開発技術者,情報サービス,労働環境,ストレス,蓄積疲労

 

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第58巻第6号 2011年6月

ケアマネジメント業務自己評価尺度の開発

-介護支援専門員が業務遂行のために必要とする技能修得度の測定-
西村 昌記(ニシムラ マサノリ) 小原 眞知子(オハラ マチコ) 大和 三重(オオワ ミエ)
小西 加保留(コニシ カホル) 村社 卓(ムラコソ タカシ)

目的 介護支援専門員が業務遂行のために必要とする技能の修得度を簡便に自己評価するための尺度として「ケアマネジメント業務自己評価尺度」を開発し,その構成概念妥当性(因子的妥当性),基準関連妥当性(判別的妥当性),および信頼性の検証を行った。

方法 兵庫県社会福祉協議会主催の専門研修に参加した介護支援専門員600名と主任介護支援専門員研修に参加した主任介護支援専門員492名を対象に集合調査を行い,それぞれ538名,389名から回答を得た(回収率は各89.7%,79.1%)。分析対象は実務経験2年未満の者と分析に関連する質問項目に欠損値のあった者を除く769名とした。探索的因子分析より析出した共通因子を第1次因子,総合的評価にあたる第2次因子を仮定した2段階の因子構造よりなる分析モデルを設定し,構造方程式モデリングにより解析を行った。尺度の信頼性の検討には,信頼性係数αを算出した。判別的妥当性の検証には,経験年数を外的基準として,尺度得点の比較を行った。

結果 探索的因子分析の結果,「制度理解」「ニーズ尊重」「利用者主体」「情報活用」「環境開拓」の5因子が析出された。15項目の観測変数と5つの第1次因子,1つの第2次因子よりなる高次因子分析モデルを構築し,構造方程式モデリングを行った結果,モデルの適合度は受容基準を満たしていることが明らかになった。また,15項目を単純加算した総合的評価および5つの下位尺度の信頼性係数αは,いずれも受容基準を満たしていた。経験年数を外的基準とした判別的妥当性の検証においては,総合的評価といずれの下位尺度とも,経験年数の長い層の方が平均得点が有意に高いことが明らかになった。

結論 本研究で開発された「ケアマネジメント業務自己評価尺度」は,構成概念妥当性,基準関連妥当性,および信頼性を有する尺度であることが示された。

キーワード 介護支援専門員,ケアマネジメント,自己評価,技能修得度,尺度開発

 

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第58巻第6号 2011年6月

補完代替医療の利用における心理社会的要因の影響

三澤 仁平(ミサワ ジンペイ)

目的 補完代替医療(以下,CAM)の利用について調査し,心理社会的要因を考慮に入れて,CAMの利用における関連要因のメカニズムを明らかにすることを目的に検討した。

方法 無作為抽出された仙台市に居住する20歳から69歳までの男女1,500名を対象に郵送調査を行った「健康と暮らしに関する意識調査」データを用いた(調査期間:2009年5月~7月)。過去1カ月間のCAM利用の有無を応答変数として,個人属性や健康関連QOL(SF-8),心理社会的要因(健康不安,将来における経済不安)を投入して,一般化線形モデルを用いて解析した。

結果 CAMを利用したことのある対象者は,全体の60.9%であった。個人属性のみを投入したモデルでは,性別(女性)(オッズ比=1.50[95%信頼区間:1.06-2.13]),年齢(40歳代)(OR=1.76[95%CI:1.02-3.05])が,CAM利用と有意に関連した。つぎに,健康関連QOL(SF-8)を追加したモデルでは,世帯収入(中位)(OR=1.54[95%CI:1.03-2.31])に有意なCAM利用との関連が認められた。SF-8の日常役割機能(RP)(OR=2.07[95%CI:1.31-3.31]),体の痛み(BP)(OR=1.46[95%CI:1.06-2.02])が有意な正の関連,身体機能(PF)(OR=0.62[95%CI:0.39-0.97])が有意な負の関連を示した。心理社会的要因を投入したモデルでは,健康不安(OR=1.66[95%CI:1.19-2.32])が有意にCAMの利用と関連していたが,将来における経済不安(OR=0.85[95%CI:0.55-1.29])は関連が認められなかった。また,年齢(40歳代)の関連が消失した。

結論 CAM利用の予測因子として性別は大きな要素であると考えられる。身体に関する軽度な健康問題を抱えていることはCAMの利用に関連するものの,あまりに健康状態がよくない場合にはCAMの利用へはつながらないと思われる。年齢(40歳代)は,健康不安を介して,CAM利用の有無に関連していると考えられる。このことは,年齢が中年期であることがCAMの利用につながるという直接的な関係があるのではなく,中年期の人は健康に関する不安を覚えやすく,そのことによってCAMを利用するという間接的な心理社会的なメカニズムが働いているのではないかと思われる。健康社会を目指すほど,健康不安が増長される可能性が指摘されているため,現代社会の健康づくりのあり方を検討することや,CAMに関するエビデンスを構築し,適切に報じることが求められる。

キーワード 補完代替医療,CAM,心理社会的要因,健康不安,将来における経済不安,SF-8

 

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第58巻第7号 2011年7月

高齢者支援に向けたコミュニティ・エンパワメント
展開のためのニーズ把握

-フォーカス・グループインタビューを用いて-
平野 真紀(ヒラノ マキ) 川島 悠里(カワシマ ユリ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 童 連(トン レン)
田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
恩田 陽子(オンダ ヨウコ) 森田 健太郎(モリタ ケンタロウ) 石井 享子(イシイ ユキコ)
伊藤 澄雄(イトウ スミオ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,住民と保健福祉専門職に対するフォーカス・グループインタビューを実施し,高齢者支援に向けたコミュニティ・エンパワメント展開のための当事者のニーズを抽出することを目的とした。

方法 大都市近郊農村自治体住民と保健福祉専門職4グループに対するフォーカス・グループインタビューを実施した。対象の内訳は男性22名,女性20名,合計42名で,年齢は30~70歳代であった。各グループのインタビューから得られた結果をシステム理論に基づきカテゴリー化し,コミュニティ・エンパワメントに関するニーズを抽出した。

結果 『個・相互・地域システム』のシステム構造に基づいて高齢者支援に向けたコミュニティ・エンパワメント展開のための当事者のニーズを抽出した結果,次のニーズが明らかになった。まず『個』の領域においては,「生きがい,楽しみ」「健康な生活への主体的な取り組み」「保健福祉サービスの活用」が,次に『相互』の領域においては,「交流の必要性」「相互支援体制の整備」が,また『地域システム』の領域においては,「地域の魅力化」「安心・安全な地域システムづくり」「地域で支え合う人材育成」「健康に関する支援の充実」のニーズである。

結論 健康は,単にヘルスサービス供給にとどまらず,保健活動に関する意思決定における住民参加の原則に基づいて増進される。今回得られた住民の「なまの声」をもとに,当事者のニーズを活かした保健福祉活動の今後の発展が求められる。

キーワード コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,質的研究

 

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第58巻第7号 2011年7月

初期の体重減少は保健指導効果の予測因子となる

渡邉 美穂(ワタナベ ミホ) 市川 太祐(イチカワ ダイスケ) 大橋 健(オオハシ ケン)
倉橋 一成(クラハシ イッセイ) 古井 祐司(フルイ ユウジ)

緒言 特定保健指導実施者は,対象者の体重変化等をモニタリングし,必要があれば支援計画を見直す必要がある。本研究では,初回面接時に得られた情報と,保健指導開始後1カ月の体重から,保健指導を開始して3カ月の体重変化を予測できるかを検証し,効果的な保健指導の検討に資することを目的とした。

方法 解析対象は,2008年度に特定保健指導の積極的支援を受けた,9健康保険組合の男性の被保険者とした。解析方法は,初回面接から90日前後1週間の体重変化比を目的変数とし,「年齢」「減量等の経験」「ストレスの有無」「生活習慣改善が重要だと思うか」「行動変容ステージ」「初回面接時BMI」と初回面接から30日前後1週間の体重変化比を説明変数として,重回帰分析を行った。

結果 解析対象者は199名であり,平均年齢は50.1±6.3歳,平均初回面接時BMIは26.0±2.4であった。30日体重変化比の平均は0.98±0.02,90日体重変化比の平均は0.97±0.03だった。「年齢」「減量等の経験」「ストレスの有無」「生活習慣改善が重要だと思うか」「行動変容ステージ」「初回面接時BMI」は,除外され,「30日体重変化比」のみが説明変数として選ばれた。

結論 年齢や,取り組み前の体格,態度に関わらず,取り組みを始めて初期の段階で効果が出た方が,その後の効果も期待できると考えられる。

キーワード 特定保健指導,減量,初期の体重減少,支援

 

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第58巻第7号 2011年7月

介護支援専門員の基礎資格は主治医との連携に影響を及ぼす

鳴釜 千津子(ナルカマ チヅコ) 陳 君(チン クン) 吉井 初美(ヨシイ ハツミ)
庄司 和義(ショウジ カズヨシ) 佐藤 キヨ子(サトウ キヨコ) 森田 定一(モリタ サダイチ)
菅村 佳美(スガムラ ヨシミ) 赤澤 宏平(アカザワ コウヘイ) 田城 孝雄(タシロ タカオ)

目的 本研究では,介護支援専門員の基礎資格を看護系と介護系に分けて,主治医とのコミュニケーションのとり方に違いがあるかどうかを,アンケート調査に基づき統計学的に分析した。

方法 アンケートの調査時期は2006年11月であり,対象地域は1県4市の合計5カ所である。対象者は居宅介護支援事業所の介護支援専門員であり,その基礎資格を看護系と介護系の2種に大別した。群間における主治医との連携の違いを調べるために,アンケート調査票の中で「主治医との連携」に関連のある4項目を選び比較検討を行った。

結果 ケアマネジメント業務での相談相手としては,看護系,介護系ともに「サービス事業者」と「職場の上司・同僚」が高率であった。「主治医」との相談は看護系で有意に高かった。サービス担当者会議に関しては,その開催にあたり「参加を呼びかけた人」は,両群ともに「サービス事業者」「家族」「利用者」が高率であった。また,看護系において有意に高かった項目は,「主治医」であった。さらに,開催にあたり困難を感じる理由としては,両群ともに「サービス事業者との日程調整」の割合が高かった。「主治医が出席できない」を理由として挙げた人の割合は介護系で有意に高かった。介護系の介護支援専門員が考える,医師がサービス担当者会議に参加しない理由としては,「介護支援専門員自身が主治医に出席を呼びかけていない」「介護支援専門員と主治医との信頼関係が確立されていない」「主治医と連絡がつかない」の3項目であった。

結論 看護系と介護系の2群間で主治医との連携には大きな違いがあることがわかった。両群ともに,医療との連携が十分とはいえないが,看護系は介護系に比べ主治医との連携が良好であった。このことは,各介護支援専門員の基礎資格,すなわち,それぞれの異なる教育課程や経験に起因するものと考えられる。看護系の介護支援専門員が減少し,介護系の介護支援専門員が増加している現状を踏まえ,基礎資格別の教育システムの導入が必要と考える。同時に医療関係者の介護保険制度に対する認識を深める施策も重要である。

キーワード 介護保険制度,介護支援専門員,主治医,基礎資格,サービス担当者会議,ケアマネジメント

 

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第58巻第7号 2011年7月

クルマ依存脱却に向けた公共交通・自転車利用の阻害要因

-地方中枢都市の住民を対象として-
難波 秀行(ナンバ ヒデユキ) 山口 幸生(ヤマグチ ユキオ) 武田 典子(タケダ ノリコ)

目的 日常生活の移動手段において,クルマから電車やバスなどの公共交通や自転車の利用にシフトすることは身体活動の増加につながる。近年,クルマ依存社会からの脱却は,モビリティ・マネジメント(以下,MM)の取り組みとして注目されている。しかしながら,MMによる身体活動促進の可能性については明らかになっていない。本研究では,クルマの代わりに公共交通・自転車を利用することの阻害要因を明らかにし,啓発冊子により運動習慣者のない者に対する身体活動促進の可能性を検討することを目的とした。

方法 調査地域選定の条件は,地方中核都市の都心部から約5㎞離れ,自動車所有率の高い一戸建住宅の集中地区とした。さらに,地下鉄沿線の特定駅から半径500m以内に限定して,住宅地図から対象世帯を事前に抽出し,留置法により質問紙調査を実施した。分析対象は,男性176名(平均58.3±標準偏差13.5歳),女性211名(54.5±13.8歳),計387名(56.2±13.8歳)であった。

結果 クルマの代わりに公共交通・自転車を利用することの阻害要因として,荷物が多いことが120名(31.0%)と最も多く,時間がかかることが107名(27.6%)と続いた。「荷物が多いこと」の阻害要因では女性(37.4%)が男性(23.3%)よりこの割合が有意(p<0.05)に高かった。「時間がかかること」の阻害要因では,通勤者(34.7%)が非通勤者(20.4%)よりこの割合が有意(p<0.05)に高かった。さらに,通勤手段をクルマに依存しているものは,クルマ以外の交通手段で通勤している者に比べ,徒歩を苦痛に感じている割合が有意(p<0.05)に高かった。運動習慣がない156名において公共交通を利用したいと「とても思う」「思う」と回答した者が合わせて75名(48%)であり,MMによる身体活動促進の可能性が示された。

結論 本研究により公共交通利用の阻害要因が明らかとなり,対象者の基本属性により阻害要因の割合が異なることが明らかとなった。さらに運動習慣がないものに対しても,公共交通利用の啓発冊子により身体活動を促進できる可能性が考えられた。

キーワード 公共交通,モビリティ・マネジメント,阻害要因,ウォーキング,自転車,身体活動量

 

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第58巻第7号 2011年7月

特定高齢者における介護予防サービスへのアクセスの阻害要因

杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 杉原 陽子(スギハラ ヨウコ)

目的 特定高齢者の候補者を対象に,介護予防サービスへのアクセスの阻害要因について,通所型と訪問型のサービスニーズの重複およびサービスの利用意向の乏しさの2側面から検討する。

方法 対象は,東京都下の市に在住の65歳以上の高齢者を対象とした郵送調査の回答者の中から,厚生労働省が作成した生活機能の基本チェックリストに基づき特定高齢者の候補者として選定された900人であった。分析は以下2つの視点から行った。第1の視点は,通所型と訪問型のサービスニーズの重複割合を分析することであった。通所型サービスニーズのある人とは,運動器の機能向上,栄養改善,口腔機能の向上であり,訪問型サービスニーズのある人とは,うつの予防・支援,閉じこもりの予防・支援,認知症の予防・支援のいずれかに該当するものとした。第2の視点は,介護予防サービスの利用意向の乏しさを分析することであり,介護予防サービスの中心となっている各通所型サービスについて,ニーズがある人を対象に利用意向のない人の割合と利用意向に影響する要因を分析した。要因の候補には健康度,介護予防の認知度,社会的ネットワーク,医療機関への通院を位置づけた。

結果 通所型サービスニーズは99%の人がもっていたが,通所型と訪問型のサービスニーズが重複している人は特定高齢者の候補者全体の71%にみられた。利用意向については,3種類の通所型サービスのいずれも,ニーズがあるにもかかわらず利用意向がない人が約80%いた。利用意向の要因をニーズの多かった運動器の機能向上と口腔機能の向上について分析したが,いずれのサービスとも地域組織への参加頻度が低い人で利用意向のない人の割合が有意に高かった。

結論 介護予防サービスに対する特定高齢者のアクセスを阻害する要因の一つとして,訪問型と通所型のサービスニーズの重複が考えられた。アクセスを向上させるには訪問型サービスの拡充を図ることが重要であることが示唆された。さらに,通所型サービスについては,利用意向が低いこともサービスへのアクセスを阻害する要因の一つであった。利用意向を高めるためには,地域組織への参加など特定高齢者の社会的ネットワークの拡充を図ることが重要であることが示唆された。

キーワード 特定高齢者,サービスへのアクセスの阻害要因,通所型サービス,訪問型サービス,サービスの利用意向

 

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第58巻第7号 2011年7月

北海道の周産期医療における病院アクセスと周産期アウトカム

西條 泰明(サイジョウ ヤスアキ) 中木 良彦(ナカギ ヨシヒコ) 伊藤 俊弘(イトウ トシヒロ)
杉岡 良彦(スギオカ ヨシヒコ) 吉田 貴彦(ヨシダ タカヒコ)

目的 北海道内の各市町村から産婦人科・小児科救急拠点病院へのアクセス時間について地理情報システム(Geographic Information System,以下,GIS)ソフトウエアを用いて推定し,それらの周産期アウトカムの影響を検討することを目的としている。

方法 市町村ごとの平成15~19年の乳児死亡数,新生児死亡数,周産期死亡数から,5年間平均の乳児死亡率,新生児死亡率(出生千対),周産期死亡率(出産千対)を計算した。産婦人科医と小児科医の常勤医がそれぞれ2名以上勤務する28施設を今回の産婦人科・小児科拠点病院とした。各市町村から28産婦人科・小児科拠点病院のうち直近の施設への乗用車でのアクセス時間を推定するためArcGIS9.3(ESRI,NYC)のNetwork analyst解析を用いた。各市町村からのアクセス時間を説明変数として乳児死亡率の第4四分位,新生児死亡率の第3三分位,周産期死亡率の第4四分位となるオッズ比についてロジスティック回帰分析を用いて算出した(新生児死亡率のみ分布が低値に偏っているため四分位に適さず,三分位とした)。

結果 対象医療機関への到達時間の中央値は48.4分,平均値57.3分(標準偏差39.0),最小値,0.3分,最大値は181.0分で,90分以上の市町村は40(22.7%)に認め,そのうち13市町村(7.4%)が120分以上となっていた。ロジスティック回帰分析では,乳児死亡率ではアクセス時間による有意な差を認めなかった。新生児死亡率については,アクセス時間が60分以上90分未満の群が30分未満の群に比べて有意に減少していた(オッズ比(OR)=0.22,95%信頼区間(CI):0.07-0.73,P=0.013)。また,90分以上の群では上昇する傾向を認めた(OR=4.33,95%CI:0.17-1.09,P=0.076)。また,周産期死亡率はアクセス時間が30分以上60分未満の群において有意の上昇を認めた(OR=2.61,95%CI:1.04-6.58,P=0.041)。

結論 新生児死亡率では60分以上90分未満で有意にオッズ比の低下を認めたが,90分以上でオッズ比の上昇傾向を認めた。しかし,周産期死亡率では,30分以上60分未満でオッズ比の上昇を認めた。都市部の未受診妊婦の増加などの影響も考えられ,アクセス時間は単純にはアウトカムに関係しなかったと考えられるが,90分以上のアクセス時間は問題である可能性もあり,今後も検討を重ね,道路やドクターヘリの整備,医療機関の効率的な配置などを考えていく必要がある。

キーワード 乳児死亡率,新生児死亡率,周産期死亡率,拠点病院,地理情報システム(Geographic Information System:GIS),到達時間

 

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第58巻第8号 2011年8月

特定健診未受診者へのアンケート調査からみた
未受診の要因と対策

後藤 めぐみ(ゴトウ メグミ) 武田 政義(タケダ マサヨシ) 開沼 洋一(カイヌマ ヨウイチ)
水上 由美子(スイジョウ ユミコ)

目的 平成20年4月から医療保険者に実施が義務づけられた特定健診の未受診者を対象に未受診の要因を調査し,健診受診率向上のための方策について検討することを目的とした。

方法 山形県尾花沢市において,平成17年度から市の健診を一度も受診していない国保被保険者1,492人に対し,アンケートにて性,年齢,居住地区,職業の有無,主観的な健康状態,通院の有無と疾患名,健康づくりへの取り組みの有無とその内容,前年度の健診受診状況,特定健診未受診の理由,特定健診への希望を調査した。調査票回収後,数年または今まで基本健診や特定健診を受診しておらず定期通院もしていないと回答した者に対して電話や訪問で受診勧奨を行った。

結果 アンケート回答者は1,214人で回答割合は81.4%であった。健診未受診の理由は「定期的に通院中」が回答者の半数を超え,年齢別にみた場合,49歳以下では「仕事や家事が忙しい」が最も多かったが,50歳以上では「通院中」が多くなっていた。健診への希望は44~64歳では「健診を受けられる期間を長くする」「夜間や土日も受けられる」といった実施期間や時間設定への希望割合が高く,65歳以上では「市保健センター以外でも受けられる」や「送迎あり」といった会場の利便性や出向く手段への希望が多かった。受診勧奨では,電話より訪問の方が健診受診に結びつく割合が高かった。

結論 年齢により特定健診未受診の理由に違いがみられたことから,受診率向上には年齢別,未受診理由別の対応が有効と考えられた。また,未受診理由として「通院中」が多くあげられたことから,治療中の者が特定健診を受診することの有効性を検討する必要があると考えられた。

キーワード 特定健診,受診率,未受診者,受診勧奨,国民健康保険

 

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第58巻第8号 2011年8月

騒音職場勤労者の喫煙習慣と聴力

高田 康光(タカタ ヤスミツ) 内田 智子(ウチダ トモコ) 祝迫 麻衣(イワイサコ マイ)
谷口 友理(タニグチ ユリ)

目的 喫煙習慣は聴力障害の危険因子であるとともに騒音性の聴力障害を増悪させる因子として疑われている。騒音障害が管理されている騒音職場の勤労者の聴力に喫煙習慣がどのような影響を及ぼしているかを検討した。

方法 勤労者の騒音健康診断と定期健康診断結果を用いて年齢,性別,聴力閾値レベル,職場騒音暴露年数,余暇での騒音暴露の有無,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣を調査した。

結果 平均年齢42歳の男性304名,38歳の女性51名の対象でそれぞれ,平均18年間と16年間の騒音職場勤務歴を認めた。男性では1000Hz,4000Hz,6000Hz,女性では6000Hzの聴力の悪化と年齢に有意な関連を認めたが喫煙習慣とは有意な関連を認めなかった。一方,男性勤労者で余暇にパチンコをする習慣がある群は,ない群に比べ4000Hzの聴力が有意に悪化し,また,喫煙習慣をもつ者が多かった。

結論 保護具による暴露予防と衛生教育が継続されていた騒音職場では,男女の勤労者の聴力は年齢とは関連していたが,喫煙習慣の有無では差を認めなかった。しかし,聴力障害の予防には職場外の生活環境での騒音暴露を減らすことがさらに必要であり,その暴露には喫煙習慣が関連している可能性を認めた。

キーワード 聴力障害,騒音,喫煙

 

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第58巻第8号 2011年8月

定期健康診断有所見率の上昇と労働者の高齢化との関連

牧野 茂徳(マキノ シゲノリ)

目的 わが国の定期健康診断有所見率は上昇している。有所見率の上昇の一因として健康診断を受診する労働者の高齢化も関与している。そこで,定期健康診断有所見率の上昇と労働者の高齢化との関連について検討した。

方法 基準となる有所見率は都産健協が2007年に実施した性,年齢別有所見率調査結果を利用した。1990年から2008年までの性,年齢別就業者数は総務省統計局が実施した労働力調査の資料を用いた。基準となる有所見率と各年次の性,年齢別就業者数から性,年齢別の有所見者数を計算し,さらに合計の有所見者数を計算した。そして,合計の有所見者数と合計の就業者数を用いて,1990年から2008年の有所見率を計算した。

結果 1990年から2008年の就業者の平均年齢は男性が42.8歳から45.3歳に上昇した。女性は42.0歳から44.1歳に上昇した。55歳以上の就業者の割合は,男女とも増加している。1990年から2008年の間に所見のあった者の割合は2.4ポイント上昇した。聴力検査(4,000Hz)が2.0ポイント,血圧測定が1.8ポイント,血中脂質検査が1.2ポイント,胸部X線検査が1.1ポイント上昇した。

結論 胸部X線検査,心電図検査,血圧測定の有所見率の上昇は高齢化の影響を受けている。所見のあった者の割合の上昇は高齢化の影響は大きくない。

キーワード 有所見率,定期健康診断,労働者の高齢化

 

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第58巻第8号 2011年8月

水痘ワクチンの定期接種化に関する医療経済分析

須賀 万智(スカ マチ) 赤沢 学(アカザワ マナブ) 池田 俊也(イケダ シュンヤ)
五十嵐 中(イガラシ アタル) 小林 美亜(コバヤシ ミア) 佐藤 敏彦(サトウ トシヒコ)
白岩 健(シロイワ タケル) 杉森 裕樹(スギモリ ヒロキ) 田倉 智之(タクラ トモユキ)
種市 摂子(タネイチ セツコ) 平尾 智広(ヒラオ トモヒロ) 和田 耕治 耕治(ワダ コウジ)

目的 水痘ワクチンの定期接種化を医療経済学的に評価するため,水痘ワクチンの1歳時皆接種を導入したときに期待される費用対効果と,導入後10年間の医療経済への影響を,日本の既存の疫学データを用いて推計した。

方法 費用対効果の推計:出生コホート110.1万人において,水痘ワクチンの1歳時皆接種を導入する前(任意接種)と導入した後(定期接種)で,14歳までに生じる,水痘によるDALY(障害調整生存年),水痘関連医療費,予防接種費を推計した。費用と効果はいずれも割引率3%にて現在価値に割り引き,費用対効果の指標として罹患接種費用比と1DALY回避費用を求めた。導入後10年間の医療経済への影響の推計:水痘罹患リスクがある1~14歳人口1607.5万人において,水痘ワクチンの1歳時皆接種を導入した翌年から10年後まで,各年の水痘関連医療費と予防接種費の推移を推計した。医療経済への影響の指標として増分費用を求めた。

結果 費用対効果の推計:皆接種導入前,出生コホートの95.3%(104万9565人)が水痘に罹患し,水痘によるDALYは4,238,水痘関連医療費は123億235万円にのぼると推計された。皆接種導入後,予防接種費は51億7789万円に増加するが,その効果として,罹患数,入院数,死亡数は大幅に減少し,水痘によるDALYは1,438(66%減),水痘関連医療費は41億9313万円(66%減)になると推計された。罹患接種費用比は2.15であり,水痘関連医療費の減少額が予防接種費の増加額を上回った。1DALY回避費用は134.8万円であった。導入後10年間の医療経済への影響の推計:皆接種導入前,水痘によるDALYは4,407,水痘関連医療費は121億4915万円であったが,10年後に罹患数は71%減少し,その結果,水痘によるDALYは1,191,水痘関連医療費は34億6825万円に減少すると推計された。増分費用は,接種単価5,000円とした場合,4年後にマイナスに転じて,10年後にはマイナス17億3154万円(水痘関連医療費の減少額>予防接種費の増加額)に達したが,接種単価7,500円とした場合,10年後にもプラス8億3106万円(水痘関連医療費の減少額<予防接種費の増加額)にとどまった。

結論 水痘ワクチンの定期接種化は医療経済的観点から導入の根拠があると考えられた。

キーワード 水痘,予防接種,医療経済分析,費用対効果

 

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第58巻第8号 2011年8月

スクエアステップが高齢者の運動継続に及ぼす効果

北角 俊(キタズミ スグル) 重松 良祐(シゲマツ リョウスケ)

目的 日本の高齢化率が20%を超える一方で,生活習慣病や寝たきりになる人も増加している。それらの予防には運動する必要があるが,プログラムの種類が少なく,各自にあったプログラムを選択できないために運動に結びつかないことが多いとされている。そこで本研究では,新しく考案されたスクエアステップというプログラムが高齢者の運動行動の変容を促す因子(運動媒介変数)に及ぼす影響と,その後の運動習慣について検討することとする。

方法 65~74歳の男女68名を,実験群としてのスクエアステップ群(SSE群32名,うち女性18名,平均年齢68.6±2.4歳)と,対照群としてのウォーキング群(W群36名,うち女性25名,平均年齢69.3±3.1歳)に無作為に割り付けた。両群とも1回70分のプログラムを3カ月間にわたって,SSE群は週に2回,W群は週に1回それぞれ集まって運動した。スクエアステップは,薄いマット(100㎝×250㎝)を線で40個の正方形に区切り,その上をステップしながら進んでいく運動である。W群には日常生活における歩数を増やすように指示した。3カ月間の介入前後に,4種類の運動媒介変数を質問紙にて調査した。また,介入が終了してから約17カ月後に電話にて運動実施状況を調査した。

結果 媒介変数である運動セルフエフィカシー,運動ソーシャルサポート,行動的スキル,意志決定バランスのいずれの項目も,3カ月間の介入によって有意に改善した。行動的スキルでは有意な交互作用が認められ,W群で顕著に改善していることが示された。介入期間中の歩数に有意差はみられなかった。介入終了17カ月後に電話で調査した結果,運動習慣を有している者はSSE群93.3%,W群83.3%であり,有意ではないもののSSE群の方が多く運動習慣を有していた。

結論 SSEを用いた3カ月間の介入によって,運動媒介変数を有意に改善させることができた。また,その改善度は行動スキル以外でW群と同程度であった。介入終了後における運動継続は両群で違いがなかった。以上のことから,SSEを用いた介入は高齢者の運動継続に有効であることが明らかとなった。

キーワード 行動変容,運動継続,運動プログラム

 

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第58巻第8号 2011年8月

女性医師割合の高い診療科(眼科・皮膚科・麻酔科)に
おけるキャリアパスについて

児玉 知子(コダマ トモコ) 小池 創一(コイケ ソウイチ) 松本 伸哉(マツモト シンヤ)
井出 博生(イデ ヒロオ) 康永 秀生(ヤスナガ ヒデオ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 本研究では,医師・歯科医師・薬剤師調査(以下,三師調査)コホートデータを用いて比較的女性医師割合の高い眼科,皮膚科,麻酔科における女性医師のキャリアパスを検討し,医籍登録後(以下,登録後)の就業における動態を把握する。

方法 1984年,1994年,2004年の三師調査において診療科の女性医師割合を年齢階級別に比較した。さらに,医籍登録番号で統合されたコホートデータを作成し,女性医師割合の高い眼科,皮膚科,麻酔科について,1984年医籍登録者と1994年医籍登録者における女性医師の就労継続,復職,休職,診療科の届け出変更について分析した。

結果 2004年調査における女性医師割合は,眼科36.8%,皮膚科38.0%,麻酔科29.1%と高率であった。1984,1994,2004年時の女性医師割合を年齢階級別に比較したところ,すべての年齢階級において眼科には有意差がなく,皮膚科,麻酔科では有意な女性医師割合の増加がみられた。特に29歳以下の若年齢層においては眼科51.5%,皮膚科68.4%,麻酔科46.8%と高率であった。1984年医籍登録者と1994年医籍登録者の登録後10年時における在職率の比較では,眼科において1994年登録者で有意に高かった。1984年登録者の20年後の在職率は,眼科で95%,皮膚科で107%(中途参入含む),麻酔科で55%であった。麻酔科では登録後4~6年時で診療科の変更が多く,眼科から他科への変更は1%未満と低率であった。隔年調査での平均復職率は,眼科12%,皮膚科18%,麻酔科10%であり,麻酔科で休職率が復職率を上回っていた。

結論 眼科,皮膚科,麻酔科においては女性医師の割合が高く,特に眼科,皮膚科では登録後20年時の在職率が非常に高いことが明らかとなった。離職のピークは眼科,皮膚科においては登録後8~10年であり,麻酔科においては明らかなピークは認めなかった。女性医師の継続就労,休職,復職パターンは診療科によって異なる可能性があることが示唆された。

キーワード 女性医師,キャリアパス,医師・歯科医師・薬剤師調査,眼科,皮膚科,麻酔科

 

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第58巻第11号 2011年9月

訪問看護利用者数および訪問看護師必要数の推計

中島 民恵子(ナカシマ タエコ) 八巻 心太郎(ヤマキ シンタロウ) 吉池 由美子(ヨシイケ ユミコ)
井ノ口 珠喜(イノクチ タマキ) 福田 敬(フクダ タカシ) 新野 由子(ニイノ ヨシコ)

目的 本研究では,2020年までの訪問看護サービス利用者数の推計を行うことで,今後必要とされる訪問看護師数を把握することを目的とする。

方法 本研究では,訪問看護利用者数および訪問看護師必要数の推計を行うための枠組み構築を行うとともに,必要なデータを収集し,推計を行った。訪問看護利用者数については,2つのシナリオを設定して推計を行った。また,訪問看護師必要数については,処遇改善等の要件を変化させた場合の訪問看護師必要数の推計を行った。

結果 現状の要介護認定率と訪問看護利用率をベースとし,訪問看護利用者数を推計したところ,訪問看護利用者数は2009年時点の340.4千人(うち介護保険277.8千人,医療保険62.6千人)から,2020年には少なくとも489.5千人(うち介護保険414.7千人,医療保険74.7千人)まで伸びることとなり,全体として149.1千人分の利用ニーズが増加することとなった。施設サービス利用率を下げたシナリオで訪問看護利用者数を推計したところ,443.9千人(介護保険のみ)の利用ニーズが見込まれた。一方,医療保険の訪問看護については,2020年までの現状ベースでの伸び(1.19倍)を1.5倍または2.0倍と仮定して推計を行ったところ,1.5倍の場合は93.9千人,2.0倍の場合は125.2千人の利用ニーズが生じた。これらの訪問看護利用者数に対する訪問看護師必要数については,2009年時点の36,687人から,現状の労働時間の場合は2020年に52,756人,労働時間を1,800時間に改善した場合は63,158人が必要となった。

結論 2020年の訪問看護利用者数は増加が見込まれ,それらに対応するための訪問看護師は,2009年の時点と比較すると,2020年の時点では,約16,000人(処遇改善した場合は約26,500人)の訪問看護師が不足することがわかった。今後,増加する訪問看護の利用ニーズを満たすために必要な訪問看護師の確保は,喫緊の課題である。

キーワード 訪問看護利用者数,訪問看護師の確保,推計,利用ニーズ

 

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第58巻第11号 2011年9月

地域高齢者における3年間にわたる閉じこもりの変化と
移動能力・日常生活活動・活動能力の推移に関する検討

森 裕子(モリ ヒロコ) 佐藤 ゆかり(サトウ ユカリ) 齋藤 圭介(サイトウ ケイスケ)
香川 幸次郎(カガワ コウジロウ)

目的 介護予防の観点から近年注目されている閉じこもりは,要介護状態や活動能力の低下をもたらすことが報告されている。しかし,閉じこもりは改善することもあり,その変化と身体機能や活動能力の推移との関連は明らかにされていない。本研究では,地域高齢者を対象とした追跡期間3年・3時点の調査をもとに閉じこもりの変化について類型化し,移動能力・日常生活活動・活動能力の推移との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 A県B町の65歳以上の高齢者全員2,274名を対象に2002年12月に初回調査を実施し,次いで入院入所者,調査拒否・不能者を除く1,901名に対し,2004年6月と2005年12月に追跡調査を実施した。集計対象は,地域生活が自立している高齢者を対象とするため,要介護1~5の者,歩行不可能な者,初回調査時点より閉じこもりの者,追跡不能者を除外した699名とした。3時点の変化から,閉じこもりの観点より「脱却群」「継続群」「発生群」「非閉じこもり維持群」の4群に類型化し,移動能力(Rivermead Mobility Index)・日常生活活動(Katz Index)・活動能力(老研式活動能力指標)の継時的な変動の有無を二元配置分散分析により確認した上で,各群における得点推移の特徴について検討を行った。

結果 集計対象699名の閉じこもり類型の内訳は,脱却群が11名(1.6%),継続群が7名(1.0%),閉じこもり発生群が39名(5.6%),非閉じこもり維持群が642名(91.8%)であった。これら4群における移動能力・日常生活活動・活動能力の得点推移について検討した結果,いずれも統計的に有意に変動することが示され(p<0.01),非閉じこもりから閉じこもりになると各得点は低下し,閉じこもりを脱却すると各得点は改善する特徴が示された。

結論 地域高齢者を対象に閉じこもりの観点から3年間の継時的な推移の関連を検討した結果,閉じこもり脱却群,継続群,発生群,非閉じこもり維持群の4群が同時に存在することが確認された。そして,非閉じこもり状態を維持すると移動能力・日常生活活動・活動能力は維持されるのに対し,閉じこもり状態になるといずれも低下,閉じこもり状態を脱却するといずれも向上していた。以上の知見は,閉じこもりに関する変化と移動能力・日常生活活動・活動能力との密接な関連を示唆するものである。

キーワード 地域高齢者,閉じこもり,移動能力,日常生活活動(ADL),活動能力,類型化

 

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第58巻第11号 2011年9月

在宅要介護高齢者の介護者における介護負担感とその関連要因

-日本と韓国の比較を通じて-
金 東善(キム ドンソン)

目的 在宅要介護高齢者の介護者における介護負担感に影響する要因について日本と韓国を比較し,それぞれの国の事情を勘案して在宅介護者の介護負担の軽減について考察をする。

方法 在宅で65歳以上の高齢者を主に介護している者とした。日本では2009年5月12日~6月6日まで168部の質問紙を配布し,各自返送する方法で回収した。韓国では2009年11月1日~30日まで329部の質問紙を配布し,各自返送する方法で回収した。介護者の基本属性,要介護高齢者の基本属性,介護者の介護時の悩み,介護負担感の項目などを設定した。介護負担感については,日本語版Zarit介護負担感尺度を用いて,妥当性と信頼性を検証した。

結果 日本では63.1%が回収され,韓国では62.0%が回収された。日本と韓国の介護者の悩みについて主成分分析(バリマックス回転)を行った結果,「家事援助に関する悩み」と「身体的援助に関する悩み」の2因子が抽出された。介護者と要介護者の基本属性,介護者の悩みの2因子を独立変数とし,介護負担感を従属変数とした重回帰分析の結果,日本では介護者の健康状態が良い,要介護者に認知症がある,家事援助に悩みがあることが,介護負担感を増加させているという結果がみられた。一方,韓国では介護者の健康状態が悪い,介護者の1日の介護時間が長い,要介護者が女性,要介護者に認知症がある,家事援助に悩みがあることが,介護負担感を増加させているという結果がみられた。

結論 両国の介護者は,要介護者が認知症を抱えていることで介護負担感への影響は大きいことが共通していた。日本と韓国ともに身体的援助に関する悩みより家事援助に関する悩みの方が介護負担感への影響は大きかった。特に,家事援助に関する悩みの介護負担感への影響は,日本より韓国の方が高かった。介護者は介護をもっと頑張らないといけないという思いから献身的になってしまい,介護も家事も長く一人で抱え込んでしまった結果,介護負担感は高くなっている。介護負担軽減のためには,介護サービスなどの社会資源を利用するとともに,介護者の崩れている日常生活を取り戻せることが大事であると考えられる。

キーワード 在宅要介護高齢者,介護者,介護家族,介護負担感

 

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第58巻第11号 2011年9月

自殺死亡に対する職業および配偶関係の相乗的関連

山内 貴史(ヤマウチ タカシ) 藤田 利治(フジタ トシハル) 立森 久照(タチモリ ヒサテル)
竹島 正(タケシマ タダシ) 稲垣 正俊(イナガキ マサトシ)

目的 本研究は,配偶関係と職業の有無を組み合わせた各カテゴリーについて年齢の影響を調整した自殺死亡の相対リスクを算出することにより,自殺死亡に対する配偶関係および職業の関連を明らかにすることを目的とした。

方法 1995年度,2000年度および2005年度の人口動態調査死亡票および国勢調査を用いて分析を実施した。年度別・性別に配偶関係・職業の有無別の自殺死亡数および死亡率を算出した。また,年度別・性別にポアソン回帰モデルにより,配偶関係と職業を組み合わせた各カテゴリーの相対リスクを求めた。

結果 1995年度から2000年度にかけて,自殺死亡数では有職・無職を問わず有配偶者での増加が大きかったが,増加率では離別と無職が重なった男性で2倍超の上昇と顕著であった。また,男女ともに,いずれの年度も離別と無職が重なった者の自殺死亡率が極めて高くなっていた。ポアソン回帰モデルにより,有配偶の有職者を基準とし,年齢の影響を調整した自殺死亡の相対リスクを算出したところ,調査年度間で各カテゴリーの相対リスクに大きな相違はみられず,男女ともに離別と無職が重なった者の相対リスクが一貫して極めて高いこと,および女性では未婚と無職が重なった者の相対リスクも一貫して高いことが確認された。

結論 配偶関係と職業の有無を組み合わせた各カテゴリーについて年齢の影響を調整した自殺死亡の相対リスクを算出したところ,調査年度を問わず男女ともに離別および無職は一貫して自殺のリスクを高めうること,とりわけ離別と無職が重なった状態は極めてハイリスクであることが示唆された。

キーワード 自殺,リスク因子,配偶関係,職業,相対リスク,人口動態調査

 

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第58巻第11号 2011年9月

大規模住民調査による生活機能評価未受診者の特性の解析

大渕 修一(オオブチ シュウイチ) 河合 恒(カワイ ヒサシ) 小島 成実(コジマ ナルミ)
小島 基永(コジマ モトナガ)

目的 本研究では,大規模住民調査により,生活機能評価(以下,健診)未受診者の特性を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都A区において,要介護認定者を含む高齢者の約10%にあたる3,500名を,性,居住地区別に層化のうえ無作為に抽出し,これらの対象の,①健診受診の有無,②要介護度,③基本チェックリスト,④介護予防の認知,⑤体や頭の衰えを予防できる自信,⑥主観的健康感,⑦移動能力,⑧外出頻度,⑨孤立感などについて,調査用紙を郵送して回答を求めた。回収割合は60.3%,有効回答割合は52.2%であった。これらのデータを,受診者と未受診者の2群に分け,クロス集計にて未受診者の特性を分析した。さらに,健診受診有無を従属変数,健診受診有無と統計学的に有意な関連が認められた指標を独立変数とした多重ロジスティック解析を行い,それぞれのオッズ比を検討した。

結果 未受診者は受診者と比較して,介護予防の認知,体や頭の衰えを予防できる自信,主観的健康感が低く,孤立感を感じている者が多かった。移動能力や外出頻度も未受診者において低かったが,交通手段によってひとりで外出できる者は79.0%,家庭内や隣近所ではほぼ不自由なく動き活動できるが,ひとりで遠出はできないと回答した者が9.7%と高い割合を占めていた。多重ロジスティック解析の結果,介護予防の認知(「よく知っていた」者に対して「全く知らなかった」者では1.6倍(95%信頼区間(CI):1.1-2.3),主観的健康感(「とても健康だ」と回答した者に対して「健康ではない」と回答した者では2.9倍(95%CI:1.7-5.0)),移動能力(「交通手段によってひとりで外出できる」者に対して「起きてはいるが,あまり動けない」者では3.9倍(95%CI:1.7-9.3))が未受診に関連する独立した要因であった。

結論 未受診に関わる要因として,移動能力の低下,主観的健康感の低下,介護予防の知識の不足が挙げられた。従って,健診受診者の拡大には,送迎サービスや出張サービス等の健診受診のための手段的な支援や,在宅で知識を向上させるための取り組みが必要と考えられた。

キーワード 地域住民調査,生活機能評価,介護予防

 

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第58巻第12号 2011年10月

平均割引期間や平均年齢の分析手法を
社会保障に係る費用の分析へ拡張すること

-平均割引期間(債券や負債のデュレーション,感応度分析),
人口の平均年齢,年金平均年齢等の分析からの拡張-
武藤 憲真(ムトウ ノリマサ)

目的 「平均割引期間(Average Discounted Terms)」の概念を用いれば,賦課方式を基本としつつ,積立金を保有し運用する年金制度において,金利の高低による効率性の分岐点を表現することができる。これを拡張して,この概念や人口の平均年齢などの分析手法が基本形となり,医療費などの社会保障に係る費用を定量的に分析する際に,同様の手法が適用されることを解説していきたい。

方法 各種の分析手法(平均割引期間の分析手法,人口(安定人口,現実人口)の平均年齢の分析手法,年金平均年齢の分析手法,世代間移転の分析手法)を検証し,これらには同様の手法が適用され,いずれも共通の計算式構造で表現できることを確認する。さらには,その他の分野へ拡張される可能性を検討する。

結果 医療費平均年齢および負債的な概念の医療費への拡張を試みた。具体的には,年金平均年齢の議論における年金受給者の年金額ベースの平均年齢の代わりに,医療費ベース(年齢階級別1人当たり医療費のカーブを用いる)の平均年齢を用いると,年金と同様の平均年齢が計算できる。さらに,「将来の医療費の一時金換算合計-将来の医療費負担の一時金換算合計」は,「負担重心(負担者の平均年齢)と給付重心(受給者の平均年齢)との差としての平均回収期間に,年間保険料収入を乗じたもの」で表現できる。

結論 分析を通じてわかったことは,例えば,第1に安定状態の下での,将来の費用等の一時金換算合計は,「現在の費用等×平均年齢」で表現が可能,第2に上記の年齢軸で見た平均年齢は,時間軸で見た平均割引期間(デュレーション)と同様の機能をもち,人口増加力や利力を介在させることにより,その感応度分析が可能,第3に「①:現在の給付×給付の平均年齢」と「②:現在の負担×負担の平均年齢」の大小関係で給付と負担の大局的構造の観測が可能などである。いずれの分野における議論においても共通構造があり,このためさらに統一的な表現ができる可能性も秘められている。

キーワード 平均割引期間,負債のデュレーション,感応度分析,安定人口,平均年齢,年金平均年齢

 

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第58巻第12号 2011年10月

地域生活移行による居住環境の変化に伴う
知的障害者の生活満足度の比較に関する研究

森地 徹(モリチ トオル) 村岡 美幸(ムラオカ ミユキ) 水嶌 友昭(ミズシマ トモアキ)

目的 昨今の日本の障害者政策において,その政策課題に掲げられている障害者入所施設からの地域生活移行のうち,知的障害者入所施設からの地域生活移行において,地域生活移行が移行者の生活満足度に及ぼす影響を検証することを本研究の目的とする。

方法 Healらによって作成された生活満足度尺度であるLifestyle Satisfaction Scale(LSS)の28項目を用いて,同一施設の入所者で地域住居に移った群(以下,地域群)と入所施設に残った群(以下,施設群)の生活満足度の比較を横断調査により行った。調査は倫理的配慮を行ったうえで実施し,地域群24名と施設群36名から回答を得た。また,分析においては,t検定と数量化Ⅲ類を用いた。

結果 地域群でも施設群でも住居,食事,外出,仕事に対して高い満足度が感じられる様子が認められた。また,地域群では個別での生活が志向される傾向があり,入所施設には戻りたくないと考える傾向があった。

結論 知的障害者入所施設からの地域生活移行に伴い,個別での生活が保障されることで,移行者の生活満足度が高まる可能性がある。そして,個別での生活が保障されることによって移行者の生活満足度が高まり,施設に戻りたくないと考える傾向があった。これらのことから,地域生活移行に際して個別での生活を保障することが移行者の高い生活満足度につながり,そのための取り組みを行うことが必要になると考えられる。

キーワード 地域生活移行,生活満足度,比較研究,ノーマライゼーション理念,個別性

 

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第58巻第12号 2011年10月

都市在住高齢者における
生活実態に関する郵送調査未返送者の特徴

鳩野 洋子(ハトノ ヨウコ) 前野 有佳里(マエノ ユカリ)

目的 都市在住高齢者における郵送調査未回答者の健康状態や生活状態を記述することを目的とした。

方法 A市の2地区の65歳以上の全住民4,968名に郵送法による質問紙調査を行い,調査期限内に回答しなかった対象に対して保健師が訪問を行い,質問紙への回答を依頼した。調査内容は,属性,特定高齢者への該当状況(運動機能,口腔機能,認知機能),身体・精神状況,社会的状況,健康づくりに関する状況である。調査期間は,郵送調査は平成21年8月12日~31日,訪問は同年9月28日~12月10日の間に実施した。得られた回答から,回答の欠損の多い者,在宅以外の者,要介護認定を受けている者(申請中の者も含む)を除外し,回答期限内に回答した者(期間内回答群)と,そうでない者(期間外回答群)の回答割合を比較した。比較にはχ2検定を用い,有意水準5%で差がみられた場合を有意差ありとした。

結果 4,641名から回答が得られ,最終的に期間内回答群3,207名,期間外回答群438名を分析対象とした。2群に差がみられた項目は,「年齢」(期間外回答群が若い),「家族形態」(期間外回答群が独居・高齢世帯が少ない),「治療中の病気」「既往歴」(期間外回答群のほうが「有り」の割合が少ない),「地域活動への参加」「近所との交流」(期間外回答群のほうが実施していない),「閉じこもりと寝たきりの関係の知識」(期間外回答群のほうが保有割合が少ない)であった。特定高齢者への該当状況の割合に差はみられなかった。

結論 期間内回答群と期間外回答群は保有している健康上のリスクの質に違いがみられた。期間外回答群は,身体的な健康状態は期間内回答群に比較して保たれているが,社会的な面から,将来的な健康上のリスクを有している集団と考えられた。質問紙調査の結果を解釈する際には,両群の違いを考慮することの必要性が示唆された。

キーワード 質問紙調査,高齢者,未返送者,健康状態,生活状態

 

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第58巻第12号 2011年10月

インターネットにおける
検索エンジン利用とインフルエンザの流行との関連

-日本におけるデータを用いた検討-
末木 新(スエキ ハジメ)

目的 わが国におけるインフルエンザに関する検索およびインフルエンザの流行に関する指標を用いて,インフルエンザの流行とインターネット上の検索行動との関連の追試を実施するとともに,検索行動がインフルエンザ流行の先行指標として機能するかを調査する。この際,インフルエンザに関する検索行動をいくつかのクラスタに分割した上で検討する。

方法 インフルエンザに関する検索状況に関するデータは,Google Insights for Searchを利用して収集した。インフルエンザの流行の指標としては,国立感染症研究所感染症情報センターのインフルエンザ様疾患発生報告(学校欠席者数など)を利用した。インフルエンザに関する検索語をクラスタ分析を利用して分類した上で,インフルエンザの流行の指標との相互相関を検討した。

結果 インフルエンザに関する日本語の検索語は大きく「予防」と「対処」の2つに分類されること,「対処」に関する検索がインフルエンザの流行と強い相関(r>0.80)を持つことが示唆された。また,検索を先行させた際の相関(相互相関)は,中程度から強い相関を示していた(0.34<r<0.85)。

結論 海外のデータで指摘されていたインフルエンザの流行と検索エンジン利用との関連についてわが国のデータを用いて追試を行った結果,先行研究の内容は支持された。「対処」に関する検索の増加は,その後の流行の増加と関連することが示唆されたが,「対処」に関する検索とインフルエンザの流行は同期的に変化していると考えられた。

キーワード インフルエンザ,インターネット,情報疫学,検索エンジン,相互相関

 

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