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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第54巻第5号 2007年5月

保健医療福祉分野における地方自治体の施策の目標と指標

橋本 修二(ハシモトシュウジ) 逢見 憲一(オオミケンイチ) 曽根 智史(ソネトモフミ)
遠藤 弘良(エンドウヒロヨシ) 浅沼 一成(アサヌマカズナリ)
中嶋 潤(ナカジマジュン) 浜田 淳(ハマダジュン) 三觜 文雄(ミツハシフミオ)
藤崎 清道(フジサキキヨミチ)

目的 保健医療福祉分野において地方自治体の施策の推進上,その目指す目標と実施状況について,複数の地方自治体を広域的な視点から比較することが重要と考えられる。ここでは,地方自治体の施策が目指す目標およびその実施状況を表す指標について,選定の基本的考え方を定めるとともに,具体案の作成を試みた。
方法 複数の専門家が議論を重ね,全員の合意によって選定の基本的考え方を定めた。その基本的考え方に従って,保健医療福祉のあるべき姿や地域差の状況などを考慮しつつ,同様の進め方により具体案を作成した。
結果 基本的考え方において,選定のねらいは保健医療福祉分野における地方自治体による施策の実施状況を把握し,今後の施策の推進に資することと定めた。目標の選定では地域住民の視点に基づくこと,基本的目標,目標,具体的目標の層的構造とした。指標の選定では具体的目標に対応すること,結果指標,中間指標,取り組み指標の層的構造とした。結果指標は具体的目標の達成状況を,取り組み指標は施策の投入した量と質を,中間指標はその中間段階の進捗状況を表すものとした。具体案において,基本的目標は「健康で安心して暮らせる地域社会」「生きがいと尊厳をもって暮らせる地域社会」「安心して子育てできる地域社会」の3つとした。基本的目標ごとに3つの目標,目標ごとに1~4の具体的目標とした。具体的目標ごとに,1~4の結果指標,0~5の中間指標,1~5の取り組み指標を定めるとともに,評価・留意点を示した。
結論 目標と指標の選定の基本的考え方と具体案を提示した。今後,実際の使用に向けて様々な面から検討を重ねることが重要であろう。
キーワード 指標,施策,保健医療福祉,地方自治体

 

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第54巻第5号 2007年5月

質問紙健康調査票THIに対する新総合尺度の特性と有効性

浅野 弘明(アサノヒロアキ) 竹内 一夫(タケウチカズオ) 笹澤 吉明(ササザワヨシアキ)
大谷 哲也(オオタニテツヤ) 小山 洋(コヤマヒロシ) 鈴木 庄亮(スズキショウスケ)

目的 質問紙健康調査票THI(Total Health Index)は,妥当性や信頼性の検討が数多くなされ,様々な疫学調査で応用されるとともに,職場・地域・学校における健康増進活動にも利用されてきた。THI調査に対するパソコン支援システムの開発を契機に,基準集団を見直し新基準集団を設定するとともに,従来の尺度に主成分分析を適用し構築した新総合尺度の利用を開始した。その後の調査で新総合尺度の有効性が確認できたので,死亡傾向との関連性も含め報告する。
方法 2003年に設定した新基準集団のデータを用い,「多愁訴,呼吸器,目と皮膚,口と肛門,消化器,直情径行,虚構性,情緒不安定,抑うつ,攻撃性,神経質,生活不規則」の12尺度に対し主成分分析を適用し,T1,T2の2主成分を導出した。必要な統計処理を行い,特徴を抽出するとともにその有効性を検証した。また,7年後の死亡・転出データに対しCoxの比例ハザードモデルを適用し,T1,T2と死亡傾向の関連性についても検討した。
結果 第1主成分T1は,全尺度の変動をよく吸収していた。特に,T1が5ptl(パーセンタイル値)未満あるいは95ptl以上の場合,12尺度の個人変動はほぼ平均的パターンに限定され,健康状態を総合的に判定する指標として好ましい性質を持つことが確認された。さらに,死亡傾向とも統計的に有意な関連性が認められ,T1が中央値から95ptlまで上昇する(健康状態が悪くなる)と死亡リスクが1.4倍になることが判明した。これに対してT2は,1尺度並の情報しか有しておらず,さらに,死亡との関連も明確ではなかったが,心と体の健康バランスを示しており,T1を補足する指標として活用できることが示唆された。
考察・まとめ パソコンを利用した支援システム「THIプラス」の開発を契機に,アドバイスシートの返却を開始した。その過程で,12尺度+3傾向値を要約する総合尺度が必要となった。今回構築したT1は,総合尺度としてふさわしい性質を持つばかりでなく,身体表現性障害とも密接に関連しており,意義深い尺度になっていることが確認された。また,T2は従来の尺度・傾向値にはない特徴を有しており,これらと併用できることが示唆された。今回の知見を活用し,個人の心の健康対策や生活習慣病の予防に役立つ,より有効なアドバイスシステムを構築していきたいと考えている。
キーワード THI,質問紙健康調査票,総合尺度,死亡リスク

 

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第54巻第4号 2007年4月

基準病床数制度による病床数への影響に関する研究

-入院需要量の変化に対する病床数の変化について-
溝口 達弘(ミゾグチ タツヒロ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 基準病床数制度が,病床数の増減に与えた影響を明らかにし,また,もし仮に,現状で基準病床数制度を廃止した場合に,どの程度病床が増床するのか検討することを目的とした。
方法 対象は,病床の種別にかかわらず病院における全病床および全入院患者とした。病床供給の検討は,入院需要量の変化を考慮した上で行うこととし,入院需要量の変化として,予想される入院患者数の年次推移を推計し用いることとした。推計は昭和59年,昭和62年,平成2年,平成5年,平成8年の5つの時点を基準として行った。推計された5つの入院患者数の年次推移を,それぞれ基準とした時点のモデルと呼ぶこととし,各モデルの比較検討,実際の人口との関連および実際の病床数との比較,基準病床数制度導入前のモデルから求めた平成16年の病床数と実際の病床数との比較を行った。
結果 5つのモデルは,いずれも年々増加する結果となった。平成16年時点において比較すると,多い方から,昭和62年モデル,平成2年モデル,昭和59年モデル,平成5年モデル,平成8年モデルの順であった。いずれのモデルにおいても,総人口との相関が強く,それ以上に65歳以上人口との相関が強かった。65歳未満人口とは負の相関が強かった。基準病床数制度導入前のモデルから算出された病床数と実際の平成16年の病床数との差は,53~62万床であった。
結論 必要病床数制度が制定されて以降現在に至るまで,入院需要は高齢化による影響で常に増加傾向にあり,介入等何らかの要因がない限り,病床数も増加しようとする傾向があったと考えられた。必要病床数制度導入以降,予想される入院需要の増加を上回る病床数の増加が一時的にあったものの,平成5年以降は,入院需要の増加に対して病床数は減少し,昭和59年時点と比べて限定された入院需要にしか対応できていないことが示唆された。また,基準病床数制度を撤廃すると,平成16年現在で,約50万床以上増床する可能性があることが示唆された。
キーワード 医療計画,病床規制,基準病床数,必要病床数,入院需要

 

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第54巻第6号 2007年6月

健康危機管理事件発生時のリスクコミュニケーションにおける
公的情報および報道内容の格差に関する研究

今村 知明(イマムラ トモアキ) 下田 智久(シモダ トモヒサ) 小田 清一(オダ セイイチ)

目的 過去の食品災禍事件における公的情報提供(文字情報)と報道内容の間に発生した情報格差を把握するとともに,その発生原因を分析することで,良好なリスクコミュニケーションの実施に資する。
方法 O157事件,BSE事件において,関係行政機関が提供した文字情報と国内主要紙の報道内容を比較し,格差の有無の確認,発生状況を把握・分析し,この原因について考察した。
結果 O157事件では,厚生省(当時)が中間報告したO157の感染源に関する調査結果について報告書の中で感染源の特定を否定したが,報道の中には「感染源が特定した」との印象を与えるものもあった。BSE事件では,スクリーニング検査陽性(確定検査では陰性)の検体の発生に関する情報提供について,「偽陽性」と「疑陽性」を混同した報道も散見された。
結論 公的情報提供と報道内容の格差は,「事実の捉え方の相違」や「報道機関の表現方法の選択」により発生するものと推測される。これらに起因する情報格差の発生を抑止するためには,関係行政機関が報道関係者と日頃からコミュニケーションを図るとともに,正確な情報伝達や発信情報の一元化を行うための体制の確立が必要である。
キーワード 大規模健康被害,健康危機管理,リスクコミュニケーション,報道

 

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第54巻第6号 2007年6月

無職世帯における乳児死亡・周産期死亡・死産

西 基(ニシ モトイ) 三宅 浩次(ミヤケ ヒロツグ)

目的 わが国の無職世帯における乳児死亡・周産期死亡・自然死産・人工死産の特徴を検討する。
方法 1995年から2004年までの10年間の乳児死亡・周産期死亡・自然死産・人工死産につき,人口動態統計の世帯主の職業別の統計資料を基に,無職世帯に着目して分析した。
結果 「勤労者2の世帯」が,これらの指標すべてで最低(最良)の値を示したのに対し,無職世帯はすべてで最高(最悪)の値を示し,かつそれらの値は突出して高かった。10年間の通算で,無職世帯の乳児死亡率は「すべての世帯」の4.2倍,周産期死亡率は2.3倍,自然死産率は2.6倍,人工死産率は8.4倍にのぼった。無職世帯のこれらの率が「すべての世帯」と同等であったと仮定すると,今回の10年間で2,300人余りの乳児死亡,1,700件余りの周産期死亡,5,500件余りの自然死産,34,000件余りの人工死産が,それぞれ減少傾向はうかがえるものの,過剰に存在したと推測された。母年齢階級別の検討では,若年における人工死産が多いことが目立った。
結論 世帯の収入が少ないことが,そうでなければ普通に出生・成長したであろう生命を喪失させる原因の1つと考えられ,無職世帯に対する経済的援助は,わが国の少子化を抑制する手段として有効であると思われた。
キーワード 無職,人口動態統計,乳児死亡,周産期死亡,死産

 

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第54巻第6号 2007年6月

日本語版「ソーシャル・サポート尺度」の信頼性ならびに妥当性

-中高年者を対象とした検討-
岩佐 一(イワサ ハジメ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ) 増井 幸恵(マスイ ユキエ)
稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) 河合 千恵子(カワアイ チエコ) 大塚 理加(オオツカ リカ)
小川 まどか(オガワ マドカ) 髙山 緑(タカヤマ ミドリ)
藺牟田 洋美(イムタ ヒロミ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ)

目的 本研究は,Zimet GDらが開発した「ソーシャル・サポート尺度」(Multidimensional Scale of Perceived Social Support)の日本語版を作成し,中高年者を対象として信頼性ならびに妥当性の検討,短縮版尺度の作成を行うことを目的とした。
方法 58~83歳の中高年者1,891人(男性760人,女性1,131人)を分析の対象とした。ソーシャル・サポート尺度は12項目から成り,回答は7件法(1:「全くそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で求め,ソーシャル・サポート尺度全体ならびに下位尺度ごとに平均値を算出し得点化した。得点が高いほどソーシャル・サポートが高いことを意味する。その他,居住形態,婚姻状況,親友の人数,親子関係満足度,夫婦関係満足度,General Health Questionnaire 28項目版(GHQ)を測定し分析に用いた。
結果 ソーシャル・サポート尺度の因子分析を行ったところ,原版と同様の3因子構造(「家族のサポート」「大切な人のサポート」「友人のサポート」)が確認された。内的整合性の指標であるクロンバックのα係数を算出したところ,ソーシャル・サポート尺度と3つの下位尺度におけるα係数は,それぞれ,0.91,0.94,0.88,0.90であり,十分な信頼性を有していることが示された。ソーシャル・サポート尺度ならびに3つの下位尺度と居住形態,婚姻状況,親友の人数,親子関係満足度,夫婦関係満足度,GHQ間には関連が認められ,上記要因を外部基準とした場合の妥当性を有していることが示された。また,7項目から成る「ソーシャル・サポート尺度短縮版」は,ソーシャル・サポート尺度12項目版と高い正の相関関係にあり,得点分布形状,性差ならびに年齢差は12項目版と同様の傾向を示し,信頼性ならびに妥当性を有していることが示された。
結論 ソーシャル・サポート尺度日本語版ならびに同短縮版は信頼性ならびに妥当性を備え,中高年者におけるソーシャル・サポートの測定指標として有用であることが考えられる。
キーワード ソーシャル・サポート尺度,中高年者,信頼性,妥当性,横断調査

 

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第54巻第6号 2007年6月

幼児期における子育ち環境が学童期の子どもの心身の健康に及ぼす影響

安梅 勅江(アンメ トキエ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
丸山 昭子(マルヤマ アキコ) 田中 裕(タナカ ヒロシ) 酒井 初恵(サカイ ハツエ)
宮崎 勝宣(ミヤザキ カツノブ) 小林 昭雄(コバヤシ アキオ) 宮本 由加里(ミヤモト ユカリ)
天久 真吾(アマヒ サシンゴ) 埋橋 玲子(ウズハシ レイコ)

目的 本研究は,幼児期の子育ち環境が学童期の子どもの心身の健康にどのような影響を及ぼすのか実証的な根拠を得ることを目的とした。
方法 対象は,2005年に全国19カ所の保育園の卒園児調査に参加した134名であり,2002~2004年にその保育園に在籍した際,保育園児調査に参加した者131名を対象とした。学童期の心身の健康に,幼児期に把握した保育専門職の評価に基づく発達状況,気になる行動,保育時間,保護者の回答に基づく育児評価,子どもと家族の属性が及ぼす影響を多重ロジスティック回帰分析により明らかにした。
結果 幼児期に「家庭で歌を歌う機会等に乏しい」場合,機会のある場合に比較して,学童期に「いらいらする」12.20倍,「不機嫌で怒りっぽい」15.69倍多くなっていた。幼児期に「同世代の子どもを訪問する機会に乏しい」場合,機会がある場合に比較して,学童期に「疲れやすい」4.83倍,幼児期に「育児支援者がいない」場合,いる場合と比較して,学童期に「疲れやすい」が5.65倍,幼児期に「育児相談者がいない」場合,いる場合と比較して,学童期に「あまり頑張れない」が44.05倍,幼児期に「配偶者の子育て協力が得られない」場合に,得られる場合と比較して,学童期に「勉強が手につかない」が33.54倍,幼児期に「保護者の育児への自信がない」場合に,ある場合と比較して,学童期に「誰かに怒りをぶつけたい」が7.03倍,多くなっていた。
考察 学童期の子どもの心身の健康と,幼児期の家庭における適切なかかわりや保護者へのサポートの関連性が示され,子どもと保護者を対象にした子育て支援の重要性が示唆された。
キーワード 学童,子育ち環境,コホート研究,子育て支援

 

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第54巻第6号 2007年6月

健康保険組合被保険者の医療受診における所得効果

川添 希(カワゾエノゾミ) 馬場園 明(ババゾノアキラ)

目的 医療アクセスが良いことで高い評価を得てきたわが国の医療制度において,医療費の抑制を目的とした患者自己負担の引き上げが行われてきている。公正な医療アクセスを保障することは国民皆保険制度において重要な課題であることから,医療受診における所得効果を検証することが重要である。平成14年度末の健康保険組合のデータを用いて,被保険者本人,家族,幼児について,入院,外来,歯科別の受診行動への所得効果に影響を与える指標を明らかにすることを目的として本研究を行った。
方法 被保険者本人,家族,幼児について,入院,外来,歯科別の受診率,1件当たり診療日数,1人当たり医療費を受診の指標として用いた。健康保険組合において受診に影響を与える組合特性としては,被保険者数,扶養率(扶養者数/被保険者数),老人加入率(老人加入者数/全加入者数),平均標準報酬月額,被保険者の平均年齢,性比(男性の被保険者数/女性の被保険者数)を選択した。受診指標を目的変数,組合特性を説明変数とし,強制投入法で重回帰分析を行った。影響は標準偏回帰係数によって定量化し,モデルは決定係数で検証した。統計解析には,SPSSのPC版(13.0J)を用いた。
結果 入院の受診指標については,被保険者本人,家族,幼児ともに平均標準報酬月額や扶養率との明らかな関連は認められなかった。外来と歯科の受診率については,平均標準報酬月額と正の相関,扶養率と負の相関,外来と歯科の診療日数については,平均標準報酬月額と負の相関が認められた。幼児の受診指標については,平均標準報酬月額との関連は認められなかった。
結論 外来や歯科受診において,所得が低ければ受診率が低くなり,受診日数が長くなる傾向が認められた。これは,自己負担が一層重くなった場合,低所得者の医療アクセスを確保しなければ,必要な受診が控えられる可能性があることを示唆している。また,生活習慣病など自覚症状に乏しい疾患では,自己負担が重くなると受診が抑制されることが予想され,予防事業などを充実させていくことが必要であると考えられる。
キーワード 受診指標,健康保険,強制加入,定率負担,高額療養費制度,所得効果

 

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第54巻第6号 2007年6月

メタボリック・シンドロームからみた生活習慣病対策の重要性

鈴木 賢二(スズキ ケンジ) 石塚 範雄(イシヅ カノリオ) 枡田 喜文(マスダ ヨシフミ)
富所 直美(トミドコロ ナオミ) 森 誠(モリ マコト)
荒井 親雄(アライ チカオ) 柏倉 義弘(カシワクラ ヨシヒロ)

目的 メタボリックシンドロームを対象とした生活習慣病予防対策の重要性を検討し,当該対策を実現するための具体的な方法を考察する。
方法 安定した結果を得るために職域大規模集団を対象として,メタボリックシンドロームの病態(①肥満:BMI≧25,②高脂血症:中性脂肪≧150㎎/dlまたはHDLコレステロール<40㎎/dl,③高血糖:空腹時血糖≧110㎎/dl,④高血圧:収縮期血圧≧130㎜Hgまたは拡張期血圧≧85㎜Hg)について集積パターンの発現率を求め,1995,2000,2004年度の年次推移と各集積パターンにおける冠動脈硬化・眼底動脈硬化の出現率を検討した。
結果 (1)いずれか1個保有群,2個集積群,3個以上集積群とも,1995~2004年度において増加傾向を示した。(2)心電図虚血性変化は,健常群に対して男性の3個集積群で8.2~14.5倍,4個集積群で10.6~31.7倍,眼底動脈硬化性変化は3個集積群で男性10.0~56.0倍,女性0~54.2倍,4個集積群では男性24.0~106.8倍,女性0~83.9倍のリスクを示した。(3)各集積パターンにおける心電図虚血性変化,眼底動脈硬化性変化の出現率は,男女とも全年齢層で集積数が多くなるに伴い高頻度となった。
考察 (1)各病態の程度が軽くてもその集積が単独より危険度を増し,冠動脈硬化・眼底動脈硬化を合併しやすく,脳心血管疾患発症の基盤として重要となる。(2)メタボリックシンドロームの予備群を抽出するための健診は各制度とも受診率が低く,健診会場に出向かなければ受けられない従来の健診では受診率アップに限界がある。
キーワード メタボリックシンドローム,動脈硬化性所見,生活習慣病予防対策,健診受診率

 

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第54巻第6号 2007年6月

小中学校における子ども虐待対応構造に関する考察

-子ども虐待に関する知識の組織内配分と意思決定手続きに注目して-
澁谷 昌史(シブヤマサシ)

目的 本研究は,公立小中学校において虐待対応に不可欠な法制度上の知識がどのように共有され,またどのように対応が進められているのかに焦点を当てながら,その虐待対応構造にかかる現状把握および提言を行うものである。
方法 全国の公立小中学校から5%の無作為抽出を行い(小学校1,158カ所,中学校515カ所),学校単位で回答する「基本調査票」「事例調査票」,教職員個人が回答する「意識調査票」の3種類の調査票を郵送法にて配布・回収した。調査期間は平成17年6月24日より同年7月末日とした。
結果 小学校1,013カ所,中学校439カ所から回答があった(回収率はそれぞれ87.5%,85.2%)。意識調査に回答した教職員は,小中学校あわせて17,056名であった。主たる結果から,校長や教頭が虐待対応の知識を比較的多く所有する傾向にあり,同時に校内における虐待対応方針決定の鍵を握っているものと考えられた(ただし,中学校の場合は生徒指導主事が意思決定の要となっている場合も多かった)。また,校内チーム体制と専門的知識の不足が,学校としての対応に不安定性をもたらしている可能性が示唆された。
結論 すべての教職員に対して研修機会を保障することで虐待対応の基本事項を周知するとともに,チーム体制整備の周知徹底や,虐待対応にかかる専門家派遣制度の創設など,小中学校における虐待対応構造に安定性をもたらす要素を加えていく必要があると提言した。
キーワード 子ども虐待,対応構造,小中学校

 

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第54巻第7号 2007年7月

都道府県介護支援専門員相談窓口の運営実態および医師・弁護士による関与

吉江 悟(ヨシエ サトル)

目的 全国の都道府県に設置されている介護支援専門員向け相談窓口の運営状況や医師・弁護士による関与状況についての実態把握を行い,より効果的・効率的な相談窓口のあり方を検討することを行うことを目的とした。
方法 2005年1~2月に,都道府県ケアマネジメントリーダー活動等支援事業による相談窓口を開設している機関の相談員47名(各県1名)を対象として郵送質問紙調査を実施し,36名から回答を得た。
結果 36都道府県中,29都道府県(81%)で介護支援専門員相談窓口が設置されていた。開設頻度や相談員の人数等,窓口の運営状況は多様であった。相談内容については,個人情報を記録に残している場合が半数以上であり,相談への対応方法の中で,少数ではあるが相談員が直接利用者・家族へ連絡するという対応も取られていた。専門職の関与状況については,医師・弁護士・臨床心理士といった介護以外の領域の専門職が関与している都道府県が少数ながらみられた。また,医師や弁護士の関与に対しては,回答者の6割以上がその必要性を感じており,既に医師・弁護士が関与している都道府県においては,その割合はより高かった。
結論 本研究により,全国における都道府県介護支援専門員相談窓口の多様な実態が明らかになったが,個人情報に関しては,基本的には相談の匿名性が確保された範囲で窓口を運営するのが望ましい。また,回答者の過半数が医師・弁護士の関与を望んでいた。関与の仕方については,導入としては相談員に助言をするという間接的な関わりで十分だと考えられるが,弁護士や臨床心理士については,相談者への助言や面接等の直接的関与が有効である可能性がある。
キーワード 介護支援専門員,ケアマネジメント,相談窓口,医師,弁護士

 

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第54巻第7号 2007年7月

保健医療福祉統計に基づく高齢者の平均自立期間の推移

加藤 昌弘(カトウ マサヒロ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)
林 正幸(ハヤシ マサユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 保健医療福祉統計に基づく要介護者割合を用いて,1995年の高齢者の平均自立期間が橋本・宮下らにより算定(以下,旧法)されたが,それ以後は調査内容の変更に伴って,同一の定義による要介護者割合を求められない。本研究では,いくつかの異なる定義による要介護者割合を用いて,1995年から2001年の平均自立期間の推移を検討した。
方法 資料は1995年・1998・2001の複数の統計から得た。要介護者の定義として,区分①(要介護の在宅者,医療施設の要介護入院者,老人保健施設と老人福祉施設の在所者),区分②(日常生活動作に影響ありの在宅者,医療施設の入院者,老人保健施設と老人福祉施設の在所者)などの7通りを用いた。区分①が旧法であり,区分②のみが1995年・1998・2001とも利用可能であった。7通りの要介護者割合を用いて旧法と同じ方法で,平均自立期間を都道府県別に算定した。
結果 1995年の65歳時の平均自立期間をみると,7通りの全国値は男で最長が区分①の15.1年,最短が区分②の13.9年であり,女でも同様にそれぞれが18.4年と16.9年であった。区分①と区分②による都道府県の値の相関係数は男で0.87,女で0.76であった。1995年から2001年において,区分②による65歳時の平均自立期間は男女ともにいずれの都道府県も延長しており,その延びは全国値で男が0.8年と女が0.6年であった。65歳時平均余命に占める平均自立期間の割合には上昇傾向が認められなかった。
結論 要介護の定義には問題があるものの,平均自立期間は1995年から2001年の間で延長していることが示唆された。今後,平均自立期間は介護保険の要介護度に基づいて算定することが考えられる。
キーワード 健康指標,健康寿命,平均自立期間,保健統計

 

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第54巻第7号 2007年7月

高齢者におけるQuality of Lifeの縦断的変化に関する研究

-静岡県高齢者保健福祉圏域別の検討を中心として-
久保田 晃生(クボタ アキオ) 永田 順子(ナガタ ジュンコ) 杉山 眞澄(スグヤマ マスミ)
藤田 信(フジタ マコト) 高田 和子(タカダ カズコ) 太田 壽城(オオタ トシキ)

目的 本研究は,静岡県における大規模縦断調査の結果を分析し,高齢者のQOLを構成する要素が,6年間でどのように変化するのか明らかにした後,本県内圏域別に6年間のQOLの変化を算出し地域格差を確認した。さらに,圏域別の6年間のQOLの変化と,社会生活指標との関連について分析を加え検討を行った。これらにより,高齢者のQOLの維持・向上を図るための社会的な計画や施策を立案する際の参考になる基礎的な資料を得ることを目的とした。
方法 1999年10月1日時点で静岡県内に在住していた65歳以上の者を,静岡県内の全市町村から,性・年齢階級(65~74歳,75~84歳)別に75人ずつ層化無作為抽出して調査対象者とし(計22,000人),同年12月に郵送留置法で,QOLとライフスタイルについて調査した。なお,有効回答が得られた者に対しては,3年後と6年後に再度,郵送留置法にて同内容を調査した。この調査で得られた結果を基に,QOLの状態を得点化し,性・年齢階級別および圏域別の経年的な変化を観察した。さらに,圏域別のQOLに関しては,社会生活指標との関連を分析した。
結果 高齢者のQOLは,6年間という比較的短い期間にも関わらず,加齢とともに低下することが明らかとなった。QOLを構成する要素では,生活活動力で年齢階級差,精神的健康で性差が顕著に認められた。また,QOLの変化が少なかった要素は,人的サポート満足感と経済的ゆとり満足感であった。一方,圏域別ではQOLの明らかな差は認められなかったが,圏域別のQOLの縦断的変化には,「保健師数」「高齢者のいる世帯割合」「ショートステイ年間利用日数」が有意な関連を示した。
結論 短期間でも低下しやすい高齢者のQOLの維持・向上を図るためには,家族や保健活動による支援を受けながら,可能な限り家庭で生活できるような圏域および地域づくりが重要ではないかと考えられた。
キーワード 高齢者,QOL,社会生活指標,圏域差,縦断調査

 

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第54巻第7号 2007年7月

保健師の支援による高齢者の食生活の変化および医療費推移との関連

神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) 小出 昭太郎(コイデ ショウタロウ)
川口 毅(カワグチ タケシ) 青木 啓子(アオキ ケイコ)

目的 保健師の高齢者に対する家庭訪問保健事業において行われた食生活指導について,高齢者の行動変容と医療経済効果の面から評価すること。
方法 三重県美里村(現,津市美里町)において行われた65歳以上の高齢者の全数訪問事業において,初年度と翌年の訪問時の保健師による食生活状況の記録と医療費データとを個人ごとにレコードリンケージし,高齢者の行動の変化および医療費の推移を追跡した。
結果 初年度に食生活指導があった者はなかった者に比べて,より大きな割合で食生活行動が変化していた。食事で気を付けているものがなかった男性では,翌年までの食生活行動の変化の割合が小さかった。食生活指導を受けて,翌年までに食行動が変化していた者は変化しなかった者に比べて,1人当たり累積医療費がより低く推移していた。
結論 保健師による高齢者に対する食生活指導が実際に高齢者の食生活行動を変化させていることが示唆された。また,食生活指導後の食生活行動の変化が医療費の削減に繋がる可能性が示唆された。
キーワード 食生活,高齢者,保健師,訪問指導,行動変容,医療費

 

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第54巻第7号 2007年7月

ケアワーカーの情報把握の構造とその関連要因に関する研究

-施設高齢者の精神心理状況の情報把握調査をもとに-
笠原 幸子(カサハラ サチコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究は,ケアワーカーが行う施設高齢者の精神心理状況に対する情報把握の構造とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とする。
方法 全国の介護老人福祉施設を無作為に600カ所抽出した。ケアプラン作成に携わっている施設のケアワーカー(各施設1名の介護福祉士)を対象に,郵送調査を行い346名より回答を得た。高齢者ケアにおいて必要な情報(精神心理状況に限定)を20項目設定し,4段階の回答選択肢でたずねた。精神心理状況の構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。さらに,関連する要因を明らかにするために重回帰分析を行った。
結果 因子分析の結果「思考傾向」「認知と意識の状態」「好み」の3因子が抽出された。さらに,上記3因子をそれぞれ従属変数とし,「対人援助職としての価値」「援助関係の形成」,基本的属性等を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,「援助関係の形成」等が高齢者の精神心理状況の情報把握に有意な要因であった。
結論 本研究の成果として,ケアワーカーが行う情報把握の実践は,高齢者との援助関係の形成と不可分の関係にあることが理解できた。また,「対人援助職としての価値」といった理念や視点ではなく,高齢者との「援助関係の形成」といった具体的な行動や態度が,ケアワーカーの実践に直結していると考えられる。
キーワード ケアワーカー,高齢者の精神心理状況,情報把握,援助関係の形成,アセスメント

 

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第54巻第7号 2007年7月

訪問介護サービス提供責任者の調整業務の質についての研究

-サービス調整業務のレベルが訪問介護計画の有効感に与える影響-
須加 美明(スガ ヨシアキ)

目的 訪問介護においてサービス提供責任者が行うサービス調整業務の質に影響する要因を明らかにするため,新規の利用者にサービスを開始する時の調整方法や自立支援の判断など責任者の業務内容の違いや事業所の業務実態などの影響を検討した。
方法 東京都A市の49訪問介護事業所のサービス提供責任者158名を対象に2005年12月に質問紙調査を行い,113件(72%)を回収,分析対象とした。サービス提供責任者が行う調整業務の質は,事業所の訪問介護計画がサービスの質の向上に役立つと感じる程度に何らかのかたちで関係していると仮定し,これを尋ねた訪問介護計画の有効感を従属変数とし,調整業務の内容を表す5変数,業務実態2変数,責任者の業務経験年数を独立変数として,クラスカル・ウオリスの検定およびカテゴリカル回帰分析によって影響を調べた。
結果 訪問介護計画の有効感は,調整業務の内容では「サービス内容の説明と同意」のレベルだけでなく,事業所として始めての利用者にどのようなやり方でニーズを把握し調整してから登録ヘルパーに仕事を引き継ぐか(新規開始時のサービスの調整方法)や,ある人には必要であるが制度外になるかもしれない仕事についての考え方(自立支援の判断)によっても影響されていた。また業務実態では,サービス提供責任者がどの程度,調整業務に専念できるかの違いによって訪問介護計画の有効感は影響されていた。さらに責任者としての業務経験の年数の違いも影響していた。
結論 訪問介護におけるサービス調整の質は,サービス内容の説明と同意や自立支援の判断など責任者個々の力量の違いに影響されるだけでなく,新規開始時にどれだけ手厚くサービス調整の手間をかけられるか,また定期訪問を兼務させず調整に専念できるような業務体制が確保されているかによって影響されている。訪問介護においてサービス調整の質を高めるためには,サービス提供責任者が,その本来の役割である調整業務に専念できる制度的な仕組みを整える必要が示唆される。
キーワード 訪問介護,サービス提供責任者,サービス調整,コーディネイト,訪問介護計画

 

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第54巻第8号 2007年8月

日本語版「WHO-5精神的健康状態表」の信頼性ならびに妥当性

-地域高齢者を対象とした検討-
岩佐 一(イワサ ハジメ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ) 増井 幸恵(マスイ ユキエ)
稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) 河合 千恵子(カワアイ チエコ) 大塚 理加(オオツカ リカ)
小川 まどか(オガワ マドカ) 髙山 緑(タカヤマ ミドリ)
藺牟田 洋美(イムタ ヒロミ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ)

目的 世界保健機関が精神的健康の測定指標として推奨する「WHO-5精神的健康状態表」(WHO5)の信頼性ならびに妥当性の検討を行った。
方法 64~89歳の地域高齢者1,098人(男性423人,女性675人)を分析の対象とした。WHO5は,日常生活における気分状態を対象者本人に問う5つの質問項目(例:「最近2週間,あなたは,明るく,楽しい気分で過ごすことができましたか」)から構成される。各質問項目について6件法で回答を求め,各項目の素点を加算しWHO5総得点を算出した(得点範囲:0~25点,得点が高いほど精神的健康が良好であることを意味する)。既存の精神的健康測定尺度(General Health Questionnaire28項目版(GHQ),Philadelphia Geriatric Center morale scale(PGCモラール尺度)),社会経済的要因(教育歴,ひとり暮らし,経済状態,ソーシャル・サポート),身体的要因(1年以内の入院有無,生活習慣病(脳卒中,心臓病,高血圧,糖尿病,がん),身体的痛み,高次生活機能(老研式活動能力指標で測定),握力,健康度自己評価)を測定し分析に用いた。
結果 WHO5の5項目におけるα係数は男女とも0.81であった。WHO5総得点には性差が認められなかった。WHO5総得点には年齢差が認められ,80歳以上の高齢者は64~69歳の高齢者よりも得点が低いことが示された。WHO5総得点と,既存の精神的健康測定尺度(GHQならびにPGCモラール尺度)や,社会経済的要因(教育歴,ひとり暮らし,経済状態,ソーシャル・サポート)ならびに身体的要因(1年以内の入院,生活習慣病,身体的痛み,握力,高次生活機能,健康度自己評価)との関連が見いだされた。
結論 WHO5は信頼性ならびに妥当性を有しており,地域高齢者の精神的健康を測定する簡易的尺度として有用であることが考えられる。
キーワード WHO-5精神的健康状態表,地域高齢者,信頼性,妥当性,横断調査

 

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第54巻第8号 2007年8月

福岡県における介護給付費増加の要因分析

西山 知宏(ニシヤマ トモヒロ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)

目的 介護給付費の増加要因について検討し,その状況にあった対策を考察することを目的とした。
方法 平成15年3月に県内20の単独保険者全市に調査票を送付し,回答の得られた13保険者(市)の平成13年5月と平成14年5月の介護給付の状況を調査した。その調査票をもとに,平成13年から14年にかけての介護給付費の増加要因を検討した。また,各自治体の高齢者の割合を含め,その増加要因を類似性のある保険者(市)ごとにまとめるため,クラスター分析と主成分分析を行った。
結果 各保険者(市)はその増加要因が,利用者割合(%)(以下,利用者割合)が大きく寄与しているか,利用者における1人当たり平均給付額(以下,1人当たり平均給付額)が大きく寄与しているかによって分類され,それによって地域の特性も明らかとなった。また,クラスター分析,主成分分析の結果により,各保険者(市)は,「利用者割合の増加の寄与が大きく,65歳以上人口割合が比較的大きい地域」「利用者割合の増加の寄与が大きく,65歳以上人口割合が比較的小さい地域」「1人当たり平均給付額が他と比較して顕著な保険者(市)」「総給付額が他と比較して顕著な保険者(市)」の4つに分類された。
結論 介護保険ですでに収集しているデータを用いることで増加要因とその対策の検討など,地域公衆衛生行政に役立つ分析が可能である。
キーワード 介護保険,サービス利用者の増加,財政の健全化,高齢者,介護給付費の増加要因

 

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第54巻第8号 2007年8月

介護保険統計を用いた都道府県別障害調整健康余命(DALE)と健康指標としてのその意義

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 中村 桂子(ナカムラ ケイコ)
渡辺 雅史(ワタナベ マサフミ) 高野 健人(タカノ タケヒト)

目的 本稿は,介護保険統計を利用した障害調整健康余命(DALE)および加重障害保有割合(WDP)の算出方法を紹介し,介護保険制度改革が本格的に実施された2006年4月直前の介護保険統計を用いて都道府県別に算出したそれぞれの値を提示する。さらに,これらの指標間の関連性を分析し,その健康指標としての意義について検討することを目的とした。
方法 先行研究より得られた介護度別の効用値(要支援=0.78,要介護1=0.68,要介護2=0.64,要介護3=0.44,要介護4=0.34,要介護5=0.21),年齢階級・介護度別認定者数,年齢階級別人口を用いて都道府県別年齢階級別WDPおよび年齢調整WDPを男女別に算出した。都道府県別65歳以上のDALEは性・年齢階級別WDPおよび生命表を用いてSullivan法により算出した。65歳平均余命(LE65),65歳DALE(DALE65),年齢調整WDPとの関連性を相関係数によって検討した。
結果 都道府県別DALE65は,男性15.07~16.93年,女性18.25~20.07年であった。DALE65の上位3県は,男性は,長野16.93年,熊本16.65年,山梨16.59年,女性は,福井20.07年,沖縄20.02年,山梨19.87年であった。下位3県は,男性は,青森15.07年,大阪15.33年,秋田15.43年,女性は,大阪18.25年,青森18.35年,秋田18.42年であった。年齢調整WDP(65~89歳,人口千対)は,男性48.11~74.05,女性53.82~91.04であった。上位3県は,男性は,山梨48.11,茨城49.24,宮崎49.87,女性は,福井53.82,茨城56.74,静岡57.03であった。下位3県は,男性は,大阪74.05,沖縄71.98,秋田70.27,女性は,大阪91.04,徳島87.23,青森86.33であった。DALE65とLE65および年齢調整WDPとDALE65は男女ともに有意な相関を示したが,年齢調整WDPとLE65は男性のみ弱い相関を示し,女性は有意な相関が認められなかった。
結論 本稿で提示した方法を用いることで,都道府県および市町村単位で継続的にDALEを算出することができ,短期的および長期的な保健医療福祉政策の策定に応用することが可能となる。また,年齢調整WDPとLE65は男性では有意な弱い相関があるものの,WDPはLEと独立した地域健康指標としても有用であると考えられた。
キーワード 健康余命,障害調整健康余命,加重障害保有割合,健康指標,効用値,介護保険認定率

 

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第54巻第8号 2007年8月

地域社会における子育て支援の拠点としての児童館の活動効果に関する研究

八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ) 小河 孝則(オガワ タカノリ) 田口 豊郁(タグチ トヨヒロ)

目的 地域における児童館の子育て支援の課題を探るために,3市の児童館の子育て支援活動の実態とその活動効果を明らかにし,児童館活動効果に影響を与える要因を検討した。
方法 3市の児童館の子育て支援活動に参加している保護者(母親)を対象に自記式調査用紙を配布し,留置き調査を行った。回収数733,回収率54.9%,有効回答数627,有効回答率85.5%であった。調査内容は,対象者の属性,子育て状況,子育て観,子育て不安やストレス,児童館利用状況,児童館活動効果に関する95項目であった。分析方法については,子育て不安と児童館活動効果に関するカテゴリカル因子分析(プロマックス回転)と段階反応モデルによる各因子の母数値の推定,属性,子育て状況,児童館利用状況と地域のクロス集計とχ2検定,子育て不安得点・ストレス得点・児童館活動効果得点と属性・子育てサポート・子育て観・児童館利用状況との一元配置分散分析,子育て不安・ストレス得点と児童館活動効果得点相関係数の算出,子育て不安得点・児童館活動効果得点を従属変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った。
結果 項目反応理論を用いた項目母数の検討を行った結果,子育て不安の4項目とストレス項目の1項目を除くことになった。地域差については,C市に比べB市の子育て状況や児童館利用状況が良好とはいえず,子育て不安得点も高く,児童館活動効果得点も低かった。母親の子育て不安を軽減するために,児童館の子育て支援活動が何らかの影響を与えていることが推察された。児童館での仲間や職員が児童館活動効果に影響を与えていることが明らかになった。
結論 地域の実情にあった児童館の子育て支援活動を展開していくためには,子育て支援の実践評価尺度の作成,子育て支援活動(プログラム)を創りだすための実践モデルの開発,ソーシャルワーカーとしての児童館職員の役割の重要性が示唆された。
キーワード 児童館,子育て支援,子育て不安,児童館活動効果,項目反応理論

 

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第54巻第8号 2007年8月

介護サービスにおける量的介護評価から質的介護評価の標準化と専門性

-量的介護評価の要介護認定から質的介護評価の総合介護認定の開発-
住居 広士(スミイ ヒロシ)

目的 介護保険制度では,要介護認定による施設介護サービスの介護時間である量的介護評価が重視されている。量的介護評価の介護時間で要介護認定するだけでなく,介護モデルに基づく身体介護・認知症介護・介護負担に対する質的介護評価である「総合介護認定」を開発する研究をした。
方法 要介護認定改訂版(2003年版)の方式に基づき,介護老人福祉施設における全介護職員13名と要介護者68名を対象とした24時間の自計式タイムスタディ調査と,さらに介護職員3名対調査員3名に対する1分間タイムスタディの他計式調査法にて,調査員と介護職員の認知症介護と介護負担に対する介護評価基準を同期しながら記録した。統計解析はSPSS 9.0 for WindowsでT検定とPearsonの相関係数,Amos 7.0で変数間の因果関係をパス図で解析した。
結果 要介護度が重度になるほど自計式の介護時間が増加傾向にあり,各要介護度と介護時間の統計的有意差を認め,その相関係数は0.444であった。要介護度別に有意差があった介護サービス業務は食事と移動移乗体位変換であった。パス図で要介護度には食事と移動移乗体位変換が直接関与し,日常生活自立度では障害老人は移動移乗体位変換,認知症高齢者は食事を介する間接関与が示唆された。他計式の介護時間の総数(n=540)における介護職員と調査員の認知症介護の有無の一致係数はKendall W=0.60(p<0.01)で,介護負担の有無の一致係数はKendall W=0.37(p<0.01)で,中等度前後の一致性が認められた。
結論 日常生活活動(ADL)介護サービスは,その大部分が身体介護サービスであるため,身体介護の介護時間が多くなると要介護度が重度になる傾向がある。要介護認定のケアコードが身体介護サービスを中心としたADLケアコードになっているために,認知症介護や介護負担が要介護度に反映されにくい。その介護評価基準によるタイムスタディで,認知症介護は介護負担に影響を与える,認知症介護は第三者でも捉えられる可能性がある,認知症介護と介護負担を捉えていく必要があることが示唆された。介護時間による量的介護評価の要介護認定から,身体介護・認知症介護・介護負担に基づく質的介護評価による総合要介護認定の総合化が求められる。
キーワード 介護サービス,介護評価,介護保険,要介護認定,介護時間,標準化,専門性

 

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第54巻第10号 2007年9月

禁煙意思に関するコンジョイント分析

後藤 励(ゴトウ レイ) 西村 周三(ニシムラ シュウゾウ) 依田 高典(イダ タカノリ)

目的 喫煙者の禁煙意思の詳細な分析を行うために,価格や健康リスクといった情報に対する喫煙者の反応について定量的に分析し,それらの反応がニコチン依存度によって異なるかどうかを検討する。
方法 対象は,モニター調査会社に登録している現在喫煙者である。FTNDテスト(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence)により高度喫煙者,中度喫煙者,低度喫煙者に分類された616名の被験者に対して,近年医療経済学での応用例の多いコンジョイント分析を実施した。コンジョイント分析では属性として,たばこの価格,喫煙による死亡リスク,公共の場所での喫煙に対する罰金,急性上気道感染症による自宅安静期間,たばこを吸わない家族に対する肺がんリスクを用いた。コンジョイント分析の属性以外に,年齢,性別,喫煙に関する知識の各変数を用いた。
結果 たばこの価格は喫煙者の喫煙継続確率を下げるのに重要な変数であり,その効果はニコチン依存度が高くなるほど小さくなった。価格以外の変数の影響は,ニコチン依存度によって大きく変わり,高度喫煙者に対しては有意な影響はみられなかった。中低度喫煙者に対する価格以外の変数の影響は,短期的なリスクの増加や,家族の健康リスクの増加は大きいものの,公的な場所での喫煙に対する罰金の導入や長期的な死亡リスクの増加については,その影響が少なかった。年齢や性別,喫煙に対する知識といった変数の影響もニコチン依存度を調整すれば一定のものではなかった。
結論 たばこの価格は喫煙確率の減少に重要な変数であるが,ある程度大規模な喫煙者の減少のためには大幅な価格増大が必要となる。また,特に高度喫煙者に関してはより高い価格でないと禁煙を行わないため,現在の緩徐な喫煙価格政策の限界を示唆する。健康リスクに対する反応はニコチン依存度によって大きく異なるため,喫煙の健康情報が禁煙意思に与える効果についてもニコチン依存度の違いが大きく関係している。
キーワード 禁煙行動,コンジョイント分析,健康リスク,たばこ価格,FTND

 

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第54巻第10号 2007年9月

肥満学生を対象とした生活習慣の行動変容支援プログラム
「ウエルカムホームベース型健康支援プログラム」

松園 美貴(マツゾノ ミキ) 戸田 美紀子(トダ ミキコ) 中山 博子(ナカヤマ ヒロコ)
山尾 玲子(ヤマオ レイコ) 田中 朋子(タナカ トモコ) 丸山 徹(マルヤマ トオル)
上園 慶子(ウエゾノ ケイコ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ)

目的 肥満は生活習慣病の要因として認識され,若い時代からの介入の必要性が説かれている。生活習慣の改善や疾病コントロールには,行動療法が応用されてきている。九州大学健康科学センターでは,平成13年度から肥満学生を対象として,生活習慣病予防を目的としたウエルカムホームベース型健康支援プログラムを実施している。プログラムは,本人が選択した行動目標を支援するものである。今回はプログラムに参加した学生の体重,BMI,体脂肪率,血圧を指標として,プログラムの有効性を検討することにした。
方法 対象者は,平成16年度の学生定期健康診断時にBMIが25以上であった学生で,5~7月までの10週間プログラムを継続した男子93名,女子28名の計121名とした。4月定期健康診断時と7月時の体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の変化を検討した。
結果 4月定期健康診断時と7月時の各測定値の変化は,体重は男性が81.1㎏から77.4㎏,女性が67.4㎏から64.6㎏に有意に減少した。BMIは男性が27.6㎏/㎡から26.3㎏/㎡,女性が26.7㎏/㎡から25.6㎏/㎡に有意に減少した。体脂肪率は男性が27.7%から24.1%,女性が36.3%から32.5%に有意に減少した。収縮期血圧は男性が138.9mmHgから124.4mmHg,女性が126.2mmHgから114.3mmHgに有意に低下し,拡張期血圧は男性が80.2mmHgから74.2mmHgに,女性が74.1mmHgから68.3mmHgに有意に低下した。体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の低下は,男・女,学部生・大学院生に関係なく観察された。また行動目標の選択の違いによる体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の低下に差はなかった。
結論 今回の結果では,プログラムに10週間参加した121名は,男・女,学部生・大学院生の区別なく,体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧が有意に低下していた。この結果から,10週間参加した大学生の短期的な評価では,ウエルカムホームベース型健康支援プログラムは有効であることが示唆された。今後は,長期的な評価や対照を用いた研究を行い,ウエルカムホームベース型健康支援プログラムの行動変容プログラムとしての有効性をより明らかにしていく必要がある。
キーワード 肥満,生活習慣病,行動変容プログラム,大学生

 

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第54巻第10号 2007年9月

最近のベイズ推定研究の小地域の人口動態指標推定への応用の研究

高橋 千尋(タカハシ チヒロ) 大竹 まり子(オオタケ マリコ) 赤間 明子(アカマ アキコ)
鈴木 育子(スズキ イクコ) 小林 淳子(コバヤシ アツコ) 叶谷 由佳(カノヤ ユカ)

目的 各都道府県における夜間を含む在宅支援サービスの整備状況とその関連要因について検討することを目的とした。
方法 全国47都道府県を対象に,既存の統計資料を用いた調査と質問紙調査を行った。調査期間は平成17年8月から11月である。既存の統計資料からの調査内容は,一般世帯数,高齢者のみの世帯数割合,三世代世帯数,三世代世帯数割合,共働き世帯数,共働き世帯数割合,平均寿命,介護保険第1号被保険者数,要介護(要支援)認定者数,傷病分類総患者数,在宅以外の療養場所数,病床在院日数などである。質問紙調査の調査内容は,夜間在宅支援サービスを含めた在宅支援に関わる事業所数,夜間在宅支援サービスについての自由記述などである。
結果 夜間の在宅支援サービスの中で最も少ないのは老人性認知症センターで,人口10万人対の平均施設数は0.2(±0.1)カ所であった。また,平均訪問介護事業所数は20.3(±5.5)カ所だが,平均24時間対応訪問介護事業所数は2.8カ所にとどまった。高齢者人口構成割合が高いほど短期入所生活介護実施事業所数,在宅介護支援センター数が多かった。要介護(要支援)認定者数が多いほど訪問看護ステーション数,緊急時訪問看護加算届出ありの事業所数,短期入所生活介護実施事業所数,短期入所療養介護実施事業所数,在宅介護支援センター数が多かった。24時間対応訪問介護事業所数を把握している都道府県は把握していない都道府県に比べて,65歳以上人口構成割合,75歳以上人口構成割合,三世代世帯数割合,共働き世帯数割合が高く,要介護4認定者数,脳血管疾患患者数,悪性新生物患者数が多かった。独自の夜間の在宅支援サービスとして,宿泊サービスを行っている自治体が5県あった。
結論 在宅支援のニーズが高いほど在宅支援に関わる事業所数が多くなっていた。しかし,平均24時間対応訪問介護事業所数が少なく,夜間の在宅支援サービスの整備状況は不充分であった。今後,夜間の在宅支援サービスの量と質を含めた整備と新たなサービスの定着が課題であることが示唆された。
キーワード 夜間介護,在宅支援サービス,整備状況,関連要因

 

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第54巻第10号 2007年9月

肥満および体重変化が10年後の終末期を除く医療費に及ぼす影響

-体重減少は健康に有益か?-
日高 秀樹(ヒダカ ヒデキ) 広田 昌利(ヒロタ マサトシ)

目的 肥満は生活習慣病の原因として重要であり,生命予後を含めた健康の悪化要因とされる。この肥満および体重変化が10年後の健康に及ぼす影響を,職域の定期健診結果と5年間の終末期を除く医療費を指標として検討した。
方法 対象は1992年度に定期健康診断を受けた40~59歳の男性で,2004年度末にも健在で健保に加入していた6,867名と,この間に死亡を理由に健保を脱退した182名である。医療費は終末期の高額医療費を除くために1999~2003年度の5年間の診療報酬明細書から医科と調剤を用いて算出した。
結果 1992~1994年度の3年間の平均体重で求めたBMIを5分位で検討すると,医療費はBMIが大きいほど高額であった。年齢調整累積死亡率が最も低かったのはBMI20.9~22.3の群であった。2001~2003年度までの10年間の体重変化を5分位で検討すると,体重減少が最も大きい群で医療費は高額であった。観察開始時のBMIで3群に分けて体重変化と医療費の関係をみても,体重の大きな減少は高額医療費と関連していた。最も医療費が少ないのは,観察開始時BMIが小さい群では約3㎏増加,大きい群では約1㎏低下する群であった。糖尿病では,観察開始時の肥満度に関係なく体重増加は高額医療費と関連した。高額医療費を示す主な保険主傷病名は,虚血性心疾患,脳血管疾患,悪性新生物,高血圧などであり,糖尿病では体重増加にしたがってこれらの疾患頻度は増加傾向にあった。喫煙に関しては,10年間の観察期間中の新たな禁煙群が最も医療費は大きかったが,この群で多くみられる体重増加は医療費に関係しなかった。
結論 肥満は10年後の終末期を除く医療費を高額とした。死亡率が低かったのはBMI21~22の群であった。10年間の体重の減少は医療費を高額とした。体重低下と高額の医療費は重大な疾患に罹患したための二次的なものと考えるのが妥当である。禁煙による体重増加は医療費を増加させなかった。これらから男性では,「中年までの肥満の予防が重要であること」「BMI22~23を目標とした体重管理が好ましいこと」「糖尿病では体重の増加は高額の医療費をもたらすこと」「意図した体重の管理が重要であること」などが示唆される。今後,意図した体重減少が長期的な健康に好ましいことを証明する研究が必要である。
キーワード 肥満,体重変化,定期健診,診療報酬明細書(レセプト),医療費,喫煙

 

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第54巻第10号 2007年9月

母子生活支援施設に入所中の母親支援の検討

-抑うつとの関連-
大原 美知子(オオハラ ミチコ) 妹尾 栄一(セノオ エイイチ)
今野 裕之(コンノ ヒロユキ) 近藤 政晴(コンドウ マサハル)

目的 近年,公衆衛生領域では周産期の母親へのメンタルヘルス支援を行い,効果を挙げているが,ドメスティックバイオレンス(以下,DV)など多くの困難な出来事にさらされることによるメンタルヘルスの影響や,その援助への検討はいまだに取り組まれていない。そのため様々な困難を抱えているであろう母子生活支援施設入所者を対象として,どのような支援が有効であるのかを明らかにすることを目的に調査を行った。
方法 東京都内母子生活支援施設(以下,支援施設)に入所中で調査協力の得られた母親を対象とし,自記式アンケート調査(匿名郵送回収)を行った。調査項目は,基本的属性,ソーシャルサポート,メンタルヘルス(うつ評価尺度・解離性体験尺度),母親の子どもへの愛着(愛着形成障害評価尺度),子どもへの不適切な育児,実家との関係,パートナーとの関係など多面的な項目を設定した。解析方法は抑うつの有無を独立変数に,従属変数として量的変数にはt検定,質的変数にはχ2検定(Exact-Test)を用いた。抑うつの要因については抑うつ傾向得点との関連が有意であった変数を独立変数,不適切な育児得点を従属変数として,強制投入法による重回帰分析を行った。
結果 143名から回答を得た。調査結果から対象者の半数(49%)に抑うつ傾向がみられた。また入所者の67.4%がパートナーからの被暴力経験を持ち,95%がパートナーとの関係に葛藤性を抱えていた。抑うつ傾向と各項目間では,ソーシャルサポート(がない),実家との関係(被虐待経験),解離傾向の有無,愛着障害得点,不適切な育児得点とに関連がみられた。抑うつ傾向は子どもへの愛着障害にも影響し,さらに子どもへの攻撃性や放置などの育児行為にも影響していた。
結論 支援施設入所者の就労割合は78.9%と高く,その約半数が抑うつ傾向を持ちつつ就労しており,生活・育児面にかなりの困難さを有しているであろうことが推測されたが,調査結果からも子どもへの愛着や不適切な育児への影響が確認された。DVなどをはじめ,様々な困難を抱える母親には,子どもへの影響および世代間連鎖を阻止する視点からも,メンタルケアを含め経済・生活面への総合的支援が必要であることが示された。
キーワード 母子生活支援施設,抑うつ,ソーシャルサポート,愛着障害,不適切な育児,メンタルケア

 

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第54巻第10号 2007年9月

特別養護老人ホームにおける小規模ケアの実施と介護職員のストレスの関係

長三 紘平(ナガミ コウヘイ) 黒田 研二(クロダ ケンジ)

目的 施設形態別の介護職員のストレス症状を把握するとともに,ストレス関連要因を検証する。また,ケア形態が多様化する中で介護ストレスを軽減させるために施設ではどのように対処すべきか,その基礎データの構築を目的とする。
方法 A府社会福祉協議会研修センターの平成16年度社会福祉専門ゼミナールへの参加者の属する施設の介護職員(常勤)を調査対象者とした。調査は郵送法による自記式質問紙調査で,2005年5月下旬から7月上旬に実施した。有効回収率は97.5%(14施設,313人)であった。調査項目は,施設属性,介護職員の基本属性,ストレス症状(蓄積的疲労兆候,バーンアウト)およびストレス関連要因(ストレッサー,組織特性,仕事特性)を設定した。回答施設を小規模ケア型と従来型に分け比較を行った。施設属性および介護職員の基本属性に関する変数は,両群の項目ごとの度数分布を調べ,χ2検定を実施した。ストレス尺度は各項目別に得点の平均値を算出し,t検定を行った。さらに,施設形態別のストレス関連要因がストレス症状にどの程度関連しているか,施設形態がストレスに影響を及ぼしているかを分析するために重回帰分析を行った。
結果 ストレッサーの事務的仕事の負荷,蓄積的疲労兆候の労働意欲の低下,バーンアウトの脱人格化,組織特性の施設長のリーダーシップの各項目において,小規模ケア型が従来型より平均値が高い傾向にあった。施設形態別のストレス症状とストレス関連要因の分析結果では,蓄積的疲労兆候に対して両群でストレッサーが正の関連を示し,さらに従来型では仕事特性が負の関連をみせた。バーンアウトに対しては,両群でストレッサーが正の関連,仕事特性が負の関連を示したことに加え,従来型では負の関連を示す要因として組織特性がそれぞれ統計学的に有意であった。さらに,施設形態がストレスに影響を及ぼしているかについての分析では,小規模ケアの実施はバーンアウトを促進する要因となりうる可能性を示唆した。
結論 介護職員の主観的ストレス感と施設全体のストレス要因に関して,小規模ケア型は従来型より介護職員のストレスを深刻化させる傾向にあった。しかしながら,調査方法に限界があり,多くの課題を残した。今後さらなる継続的な調査の必要性がある。
キーワード 介護職員,小規模ケア,主観的ストレス感,特別養護老人ホーム

 

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第54巻第11号 2007年10月

住宅改修が要介護認定者の在宅継続期間へ及ぼす影響

山田 雅奈恵(ヤマダ カナエ) 田村 一美(タムラ ヒトミ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)
新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ) 永森 睦美(ナガモリ ムツミ)
上坂 かず子(コウサカ カズコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 

目的 要支援から要介護3までの新規認定者を対象として,全体および要介護度別にみた住宅改修が在宅継続期間へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
方法 富山県のN郡(3町村)に居住し,2001年4月から2004年12月に自宅で新規認定を受けた要介護4,要介護5を除く第1号被保険者である1,316人を分析対象者とした。その間に住宅改修した209人(男性81人,女性128人)を「改修群」とし,住宅改修しなかった1,107人(男性367人,女性740人)を「非改修群」とした。介護認定審査会資料から初回認定時情報を把握し,介護保険利用情報より転帰(死亡,施設入所,転出)を把握した。主治医意見書に記載された診断名は,脳卒中,筋骨格系疾患(骨折含む),認知症,がんの記載の有無について調査した。まず,性別・要介護度別に在宅継続期間(在宅継続開始月から転帰月までの月数)をKaplan-Meier法を用いて25パーセンタイル値および50パーセンタイル値を算出し,有意性の検定にはlog-rank検定を用いた。次にCox比例ハザードモデルにより改修群と非改修群の在宅継続に対する中断のハザード比を求めた。
結果 要支援・要介護1の50パーセンタイル値,要介護2の25パーセンタイル値以外は,ほぼ改修群が長い在宅継続期間を示し,特に要介護3では全体で改修群に在宅継続期間が長い傾向が認められた(P<0.1)。しかし,その他の群間では顕著な差は認められなかった。改修群に比べ非改修群はハザード比が1.29と高い傾向が認められた(P<0.1)。つまり,性別,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度を調整しても住宅改修者に在宅継続期間が長かった。要介護度別の検討においては非改修群と改修群の在宅継続中断のハザード比に顕著な差は認められなかった。
結論 非改修群に在宅継続中断リスクが高く,性,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度を調整しても要支援から要介護3までの新規認定者の在宅継続期間は,改修群に長い傾向が認められた。要介護度別においては,非改修群と改修群の在宅継続中断のハザード比に顕著な差は認められなかった。今回,住宅改修の在宅継続期間を評価するために用いた25パーセンタイル値を算出する方法は,短期間の評価指標として有用であると考えられる。
キーワード 住宅改修,要介護認定者,在宅継続期間

 

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第54巻第11号 2007年10月

2004年の都道府県別在宅死亡割合と医療・社会的指標の関連

宮下 光令(ミヤシタ ミツノリ) 白井 由紀(シライ ユキ) 三條 真紀子(サンジョウ マキコ)
羽佐田 知美(ハサダ トモミ) 佐藤 一樹(サトウ カズキ) 三澤 知代(ミサワ トモヨ)

目的 わが国では,多くの一般集団および患者が終末期に自宅で療養すること,自宅で死亡することを望む。しかし,実際に自宅で死亡する割合は2004年では12.4%であり,希望と現実には大きな乖離が存在する。そこで本研究では,2004年の都道府県別在宅死亡割合と医療・社会的指標との関連の検討を行った。
方法 平成16年人口動態統計の死亡場所別にみた都道府県別死亡百分率から,2004年の自宅における死亡割合を把握した。厚生労働省等の全国統計資料および総務省統計局による「統計でみる都道府県のすがた2006」から,先行研究を参考に都道府県別在宅死亡割合に関連する可能性がある2004年または直近の医療・社会的指標を抽出した。単変量解析としてPearsonの積率相関係数を計算し,多変量解析として重回帰分析を行った。
結果 単変量解析の結果,都道府県別在宅死亡割合には病院数(人口10万対)がr=-0.66,病院・診療所病床数(人口10万対)がr=-0.67,病院病床数(人口10万対)がr=-0.64,診療所病床数(人口10万対)がr=-0.63,入院受療率(65歳以上人口10万対)がr=-0.74,平均在院日数がr=-0.67の関連を示した。重回帰分析の結果,都道府県別在宅死亡割合の独立した有意な関連指標と考えられたものは,老衰の死亡率(人口10万対,標準化偏回帰係数0.48,P=0.001),病院・診療所病床数(人口10万対,標準化偏回帰係数-0.66,P=0.001)であった。また,一般病院の100床当たり看護師・准看護師数(標準化偏回帰係数0.14,P=0.13)も最終的なモデルに含まれた。このモデルの決定係数(R2)は0.690であり,自由度調整済み決定係数(R2)は0.668であった。
結論 都道府県別在宅死亡割合は,老衰の死亡率(人口10万対)と有意な正の相関を示し,病院・診療所病床数(人口10万対)と有意な負の相関を示した。
キ-ワ-ド 終末期医療,緩和ケア,在宅死,指標,地域相関研究

 

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第54巻第11号 2007年10月

寝具におけるダニアレルゲン低減のための実用的対策

祝部 大輔(ホウリ ダイスケ) 有山 絵美(アリヤマ エミ) 池田 みのり(イケダ ミノリ)
金澤 要介(カナザワ ヨウスケ) 國土 将平(コクド ショウヘイ) 松本 健治(マツモト ケンジ)

目的 近年,気管支喘息などのアレルギー疾患が増加しており,多くの報告が室内アレルゲンと喘息の関連を示唆している。現在最も重要なダニアレルゲンの供給源として注目されているのが寝具類であり,その発症を防ぐには,室内・寝具等のダニアレルゲンレベルを下げる必要がある。今回,ダニアレルゲン量が多く,低減対策が求められている寝具類に重点を絞り,学校や家庭で応用できるダニアレルゲン低減対策の検証を目的とした。
方法 ダニアレルゲン量の測定には,マイティチェッカーを用い,A小学校,B中学校,C養護学校の保健室のベッドを対象に調査した。掃除方法(ハウスダスト除去剤,粘着ローラー,布団ローラーをつけた掃除機,付属のヘッドをつけた掃除機)による効果の違いや除湿剤の効果,天日干しの効果について検証した。
結果 A小学校とB中学校では,マットレスの表面はダニアレルゲンレベルが高く,マットレスの裏面は低かった。一方,C養護学校は,すべての寝具において「±」もしくは「-」と,全体的に非常に低かった。また,各掃除方法によるダニアレルゲンレベル低減効果について,ハウスダスト除去剤は,2例の「++」が「+」になったが,10例の「+」には変化がなかった。粘着ローラーは,1例の「++」が「+」に,また11例の「+」のうち2例(18.2%)のみが「±」になったが,9例には変化がなかった。布団ローラーは,2例の「++」が「+」に,また11例の「+」のうち4例(36.4%)が「±」になったが,7例(63.6%)は変化がなかった。付属のヘッドは,1例の「++」が「±」に,また12例の「+」のうち6例は変化がなかったが,6例(50.0%)が「±」になり,統計学的に有意(p=0.016)な低減がみられた。除湿シートは,ダニの繁殖できない湿度まで低下させることができるが,効果の持続性がない。天日干しは温度の上昇というより湿度を低下させることでダニの生存を阻むことは可能であるため,天日干しは黒ビニールで全体を覆わず,一般的な方法で行うことが効果的である。
結論 いずれの掃除方法でもダニアレルゲンレベルは,「-」にはならなかった。そのため,アレルギー疾患を持つ児童・生徒の寝具類では,低アレルゲンレベルを維持するために掃除機付属のヘッドを用い,こまめに掃除することが必要である。また,過度に神経質になることなく,無理なく実行できることを習慣づけていくことが大切である。
キーワード 学校環境衛生,ダニまたはダニアレルゲン,寝具

 

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第54巻第11号 2007年10月

介護保険制度下の要介護高齢者における認知症の特徴

筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 認知症高齢者の増加は,介護保険制度の運用において重要な課題となってきている。しかし,対策をすすめる上で必要と考えられる,介護を要する認知症高齢者の特徴を示す資料は,十分に提示されているとはいえない状況である。そこで本研究では,全国から収集された要介護認定に関わるデータを用いて,特徴を把握した。
方法 分析データは,2001年4月から2003年3月までの24カ月間に全国で要介護認定を受けた高齢者(以下,要介護高齢者)の年齢,性,要介護度,認知症の有無に関する月別のデータ(延べ22,074,815名分)である。要介護高齢者の性・年齢別分布の特徴を分析し,次に,要介護高齢者集団における認知症の特徴に関して性別,年齢階層別,要介護度別の分析を行った。
結果 要介護高齢者の特徴の第1は,71.3%が女性で,このうち75歳以上が56.4%で後期高齢層の女性の割合が高かった。第2に,男性は,女性に比べ75歳未満の前期高齢者の占める割合が高かった。第3に,要支援・要介護1の認定を受けた者は4割を超えていた。以上のことから,要介護高齢者集団の多くを占めているのは,80歳以上の要介護度が低い非認知症の女性であることが示された。次に,認知症は,これらの集団の47.6%と,ほぼ半数を占めており,この割合は,年齢と共に増加する傾向がみられた。認知症の人数は,男性が28.0%,女性が72.0%であり,認知症の女性の人数は,男性の2.6倍であった。また認知症の60.1%が75~94歳の高齢女性であった。ただし,性別にみた認知症の有症割合は,男性が46.5%,女性が48.1%であり,男女ともに認知症の有症割合は約5割であった。しかし,年齢が高くなる程に認知症は増加し,かつ,男性は平均寿命が短いため,人数としてみた場合,女性の有症数が男性よりも多くなっていた。
結論 高齢社会の最大の問題である介護の問題は,後期高齢女性における介護問題であることが示された。すなわち女性は平均寿命が長く,男性よりも要介護高齢者になる可能性が高く,その分,認知症の要介護者となるリスクも高いことが明らかにされた。このことから,わが国における介護の問題の解決のためには,女性の高齢期における健康政策を進めることが重要であると考えられた。
キーワード 認知症,要介護,高齢者,後期高齢者,介護保険制度

 

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第54巻第11号 2007年10月

日本の出生性比動向(1899~2004年)

羊 利敏(ヨウ リビン) 坂本 なほ子(サカモト ナホコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 この数十年間先進国において出生性比(男性の出生割合)が低下し続けているという報告がある。本研究では,1899~2004年の日本全体の出生性比,さらに都道府県別の出生性比の年次推移,地域特徴について検討する。
方法 出生数の資料は1899~2004年(106年間)の人口動態統計の性・都道府県別出生数である。出生性比は男性出生児数/女性出生児数×1,000によって算出した。また,アメリカのNational Cancer Instituteが経年的変化を捉えるために開発したJoinpoint回帰を用いて,出生性比の年次推移の有意な変曲点(Joinpoint)および変曲点間の平均年変化率を求めた。
結果 日本全国の出生性比は,1910年から1970年にかけて上昇し,1971年頃以降低下傾向がみられた。都道府県別では,多くの都道府県において1910年代から1970年頃にかけて出生性比上昇傾向がみられた。1970年代以降,有意な低下傾向を示す県は北海道のほか6都府県であった。一方,1970年代以降,有意に上昇し続ける県は青森県のほか23県であった。
考察 1970年代以降出生性比が有意に低下した県のうち,半数以上は京浜工業地帯,京葉工業地域など首都圏を囲んだ重化学工業地帯に分布しているという特徴がみられた。出生性比の低下は,農薬,大気汚染物質の曝露,メチル水銀,地震に伴うストレス,排卵誘発剤の使用など様々な要因との関連があると指摘されているが,どれも決定的ではなく,詳しい原因の究明を行う必要がある。
キーワード 出生性比,Joinpoint回帰

 

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第54巻第11号 2007年10月

日本人女性の出生動向における年齢・時代・世代影響と出生数の将来推計

小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ) 内田 博之(ウチダ ヒロユキ)

目的 ベイズ型age-period-cohort(APC)分析を使用して,1985年から2005年の期間の日本人女性(19~38歳)による出生動向に対する年齢,時代およびコホート(同年代出生コホート)の影響について明らかにし,さらに2006年から2018年までの出生数を推計することを目的とした。
方法 1985年から2005年までの人口動態調査によって得られた19歳から38歳の母の年齢別出生数と出生順位別出生数(第1子,第2子および第3子以上の合計)および人口推計年報に記載された各歳別日本人女子推計人口を使用して標準コホート表を作成した。これにベイズ型APC分析を適用して,出生動向に与える年齢,時代,コホートの各変数についてそれらの影響の大きさ(効果)を推定した。さらに,2006年から2018年の期間の当該年齢層の日本人女性の出生数について推計した。
結果 日本人女性の総出生の動向に対しては,3効果のうち年齢効果が最も大きく,28歳で出生への効果が最大であった。時代効果は1992年を変曲点として低減トレンド(トレンドは各効果の変化の方向性を指す)から増大トレンドへの転換が認められたが,効果の大きさは他の2効果と比べて相対的に小さかった。コホート効果は年齢効果に次いで大きく,1961年生まれ以降のコホートにおける低減トレンドが,1977年生まれを変曲点として,以降のコホートでは増大トレンドに転じていた。出生順位別の出生動向に対する分析結果においても年齢効果が最も大きく,効果が最大となる年齢は第1子で26歳,第2子で29歳,第3子以上では31歳であった。時代効果は他の2要因と比べて小さく,出生動向への影響は小さかった。コホート効果は,第1子の場合は1963年生まれ,第2子では1959年生まれ,第3子以上では1957年生まれ以降のコホートでの低減トレンドが,第1子と第2子の場合には1977年生まれ,第3子以上の場合には1973年生まれを変曲点として増大トレンドに転じていた。2006年から2018年の期間の年間出生数は,2005年の出生数102.2万人(実測値)から減少を続けて,2018年には約81.0万人(95%信用区間:54.1~118.8万人)にまで減少すると推計された。
キーワード 出生,ベイズ型age-period-cohort分析,日本人女性,少子化

 

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第54巻第11号 2007年10月

都市自治体における認知症高齢者の介護保険サービスパッケージ分析

平野 隆之(ヒラノ タカユキ) 奥田 佑子(オクダ ユウコ) 笹川 修(ササガワ オサム)
藤田 欽也(フジタ キンヤ) 中島 民恵子(ナカシマ タエコ) 

目的 認知症ケアモデルの確立と地域ケアの推進が,今日の介護保険政策上の命題となっているにもかかわらず,認知症高齢者に特化した介護保険サービスの利用実態の把握と分析は十分にされていない。本研究の目的は,認知症の有無等の状態像区分を加味した介護保険の利用データを分析することで,認知症高齢者,とりわけ「動ける認知症」のサービス利用の特性と2時点間での利用の変化を把握し,認知症高齢者の地域ケアの推進のための基礎的データを提供することにある。あわせて,より実態に即した介護保険事業計画策定を可能にする分析手法の提案を都市自治体に対して行うという意義をもつ。
方法 15保険者からの介護保険給付データと認定データを結合させ,認知症高齢者を特定しうるデータベース(50,434人分)の作成をもとに分析を行った。分析では,障害高齢者と認知症高齢者の日常生活自立度から,状態像を「虚弱」「動ける認知症」「寝たきり」「寝たきり認知症」の4つに分類し,比較することでサービス利用の特性を把握する。また,サービスの機能の組み合わせに着目した「サービスパッケージ」分類を用い,よりケアプランに近い利用の実態を把握することとした。また,15保険者のうちの4保険者については,2003年(16,667人分)と2005年(19,405人分)の2時点でのデータ比較を行い,2年間での状態像と利用の変化を把握した。
結果 認知症高齢者は,利用者数の50%以上,介護費用額の70%以上を占め,介護保険の主要な利用者となっている。認知症高齢者は他の状態像と比べて,通所系と居住系のサービス利用割合が高く,「動ける認知症」では通所系サービスの利用が60%を占めている。2年間の変化では,継続利用者の70%が動ける認知症を維持し,複数機能のサービスパッケージと居住系サービスの利用が伸びた。23%は「寝たきり認知症」に移行し,施設利用割合が大幅に増加した。
結論 「動ける認知症」は,通所系のサービス利用を中心に高い利用水準を示すなど,他の高齢者とは異なる利用パターンを示している。「動ける認知症」を施設入所に至ることなく,地域で支える上では認知症に対応した通所系サービスの充実と,複数の機能を組み合わせたサービスパッケージの増加,居住系サービスの充実が望まれる。こうしたサービスは地域密着型サービスに相当するが,自治体の計画策定においては,障害像に伴う利用特性に応じたサービス整備量の推計を行ったうえで,地域密着型サービスの整備をすすめ,地域で支えるための仕組みづくりを指向する必要がある。
キーワード 介護保険,動ける認知症,サービスパッケージ,地域密着型サービス,状態像変化

 

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第54巻第13号 2007年11月

2006/07年シーズンにおけるインフルエンザワクチンの需要予測

-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-
延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ)
三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 中井 清人(ナカイ キヨヒト)

目的 インフルエンザワクチンの計画的な供給に資することを目的として,2006/07年シーズンのインフルエンザワクチンの需要予測を行った。
方法 インフルエンザワクチン供給に実績のある医療機関など5,099施設を対象として,2005/06年シーズンのインフルエンザワクチンの購入本数,使用本数,接種状況および2006/07年シーズンの接種見込人数について調査を行い,2006/07年シーズンのインフルエンザワクチン需要見込本数の推計を行った。
結果 2006/07年シーズンのインフルエンザワクチン需要は,約2191万本から約2278万本と推計された。
結論 2006/07年シーズンのワクチンメーカーの製造予定数は最大で2300万本であり,ほぼ需要に見合う量の供給が行われるものと推測された。
キーワード インフルエンザワクチン,需要予測

 

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第54巻第13号 2007年11月

シックハウス症候群の有病状況の推計

-電話調査による東京特別区の2002年と2004年の経年差-
城川 美佳(キガワ ミカ) 岸 玲子(キシ レイコ) 長谷川 友紀(ハセガワ トモノリ)

目的 東京都特別区の居住者を対象に,シックハウス症候群(以下,SHS)の有病状況およびSHSに関する知識や行動,SHS様症状の特徴を調査し,2002年と2004年で比較した。
方法 対象は,東京都特別区に居住する成人である。調査は,Random Digit Dialing(RDD)法による電話調査により2002年11月と2004年12月に実施し,SHS様症状の有無とその特徴,SHSに関する知識およびSHS様症状の対処行動について回答を得た。
結果 有効回答数は2002年299,2004年305である(有効回答割合[回答/(回答+家族による拒否+本人による拒否)]は,それぞれ25%,26%)。2群で性・年齢階級別分布に違いはなかった。本研究では,SHS有病者を,厚生労働省が公表したSHSの主な8症状の1つ以上を過去1年間に経験しており,かつその症状が,建物の外に出ると軽減し,季節性が認められない者と定義した。SHS有病割合は,2002年で14%,2004年で6%であった。SHSについては,2002年では77%,2004年では90%が知っていると回答した。2002年では42%,2004年では20%が過去1年間にSHS様症状を1つ以上経験したと回答した。SHS様症状のうち,「皮膚が乾燥する,赤くなる,かゆくなる」は,両年とも回答者が最も多かった(2002年51%,2004年50%)。SHS様症状に対する医療機関受診や市販薬の利用は,ほとんど行われていなかった。
結論 東京都特別区では,SHSの有病割合は減少している,SHSについての知識はすでに相当普及している,建築基準法改正などの施策により有病割合が減少した可能性がある,SHSは医療機関受診や市販薬利用に至らない比較的軽症なQOL疾患と認識されている可能性があることが知見として得られた。
キーワード シックハウス症候群,シックビルディング症候群,地域対象研究,有病状況,電話調査

 

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第54巻第13号 2007年11月

飲食店における受動喫煙対策の現状と課題

-北海道「空気もおいしいお店推進事業」登録店の調査から-
北田 雅子(キタダ マサコ) 武藏 学(ムサシ マナブ) 中村 永友(ナカムラ ナガトモ)

目的 飲食店の受動喫煙対策を推進するのに必要な資料を得るため,対策を実施している店の現状を調査した。
方法 対象店は,北海道庁が2002年末より実施している「空気もおいしいお店推進事業」に登録している外食料理店(2006年1月4日時点の352件)である。調査方法は,登録店の店舗責任者を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を実施した。調査内容は,受動喫煙対策の内容,健康増進法について,利用者の状況,対策を実施した理由,対策を実施してのメリットやデメリット,登録店制度について等である。
結果 アンケート回収数は256件(回収率71%)であった。完全禁煙店は213件(88%),完全分煙店は29件(12%)で,その内訳はレストランと食堂(24.6%),ラーメン店とそば屋(21.3%)等であった。営業当初から対策を実施していた店は,110件(48.9%),途中から実施した店は115件(51.1%)であった。対策を実施した理由は,「料理の味や香りを大事にしたい(49.6%)」「お客様の健康に配慮(37.5%)」が多かった。また,途中から喫煙対策に踏み切った店では,営業当初から対策を実施していた店よりも「健康増進法を知ったから」「お客さんからの要望」という理由が有意に多かった。メリットは,「お店の評判アップにつながった(46%)」「働く環境としてよい(68.4%)」との回答が多く,自由記述では「従業員や自分の体調が改善した」「店内が清潔になった」「客の回転数がアップした」等の内容がみられた。デメリットに関しては,途中から対策を実施した店の20%が,客数や売り上げの減少について禁煙の影響を認めており,喫煙者からのクレーム対応に苦慮している様子が伺えた。全体では,8割以上の飲食店が,喫煙対策を実施してよかったと回答していた。道庁の推進する登録店制度については,登録申請を保健所から勧められたところが多い(39%)が,メリットを感じている店は約3割(29%)で,行政側の広報・宣伝が不十分であるとの回答は7割近くを占めた。
結論 今後,飲食店の禁煙を推進するためには,健康増進法のさらなる周知と有効な受動喫煙防止策について広く啓発する必要がある。禁煙店は,顧客のみならず,従業員の健康を守るために必要な対策であることから,行政側は,登録店を中心に,さらに積極的な広報宣伝を実施していくことが必要であると考えられた。
キーワード 飲食店,受動喫煙対策,登録店制度

 

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第54巻第13号 2007年11月

公立保育園における子育て支援

-東京都A区の場合-
塩田 公子(シオタ キミコ)

目的 児童福祉法の平成15年改正法により,市町村は,すべての子育て家庭に対する様々な子育て支援事業の充実を図ることになった。「平成16年子ども・子育て応援プラン」策定により,平成21年までの5年間に取り組む数値目標が設定された。A区の公立保育園において,どのような子育て支援がされているのか現状を知り,今後の課題を検討する。
方法 東京都A区の公立保育園における子育て支援の内容を知るために,A区統計資料,平成15年4月に行われた「保育サービス利用者アンケート報告書」およびA区行政情報室の資料を収集して検討した。
結果 A区の合計特殊出生率は,平成15年0.79と全国平均1.29と比較して低く,子育て支援の必要性を感じた。A区公立保育園数は,平成17年4月現在54カ所で,利用している在籍児数は5,046名,そのうち3~5歳が61%を占めている。また,0歳児保育は少なく,5%である。保育園を利用している85.8%の家が居宅外労働をしており,98.3%がほぼ毎日利用していた。A区による「平成15年子育て環境調査」によれば,保育園について71%が満足していた。今後利用したい子育てのサービスとしては,通常保育の他に,一時保育をあげた人が56.7%,延長保育42.4%,休日保育36.2%,病児保育34.5%,0才児保育28.6%であった。子育て相談は,54園すべての保育園で実施されていた。
結論 保育園は,保護者が安心して働けるように子どもを預かり,そして子育てをしている保護者の精神的な支援をする場所として,また,地域子育て支援センターとしての役割も担っているので,今後,保育園は,多様な保育サービスの充実や地域とのネットワークの取り組みが必要とされている。
キーワード 公立保育園,地域子育て支援センター,子育て支援

 

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第54巻第13号 2007年11月

体重の毎日測定・記録による中高年者の健康管理と健康教育の可能性

小林 正子(コバヤシ マサコ)

目的 体重を毎日測定して記録し,グラフにする,これを継続することが中高年者の健康管理に役立つか,また健康教育になり得るかについて検討する。さらに,体重変動の特徴を把握し,体重による健康管理のポイントを明らかにする。
方法 現在大きな健康問題のない56~84歳の男女12名(男性5名,女性7名)を対象として,全員に同一の体脂肪計付き体重計を配布し,各家庭において毎日,各自が決めた時間帯に体重を測定し記録してもらった。測定期間は1年1カ月を設定し,その間1カ月ごとにFAXで記録を送付してもらう。それをグラフに表すとともにコメントを付けて返信する。一方で,体重の推移と曜日ごとの変動に着目した分析を行った。
結果 体重の毎日測定・記録は脱落者もなく1年余継続し,ほぼ全員が毎日測定・記録を肯定する結果となった。単に測定するのみでなく記録しグラフに表すことで自らの生活を省みる契機となり,1カ月ごとに記録を送付することもあって健康について積極的に考えるようになる効果があった。また,体重の変動で1週間のリズム(週内変動)がみられたことから,週末に増加しないよう注意することで体重減少が促進された。
結論 体重の毎日測定,グラフ化は,日々の生活の仕方を省みたり,健康をより意識するようになるなど健康管理に効果があり,健康教育としても有効である。また,自らの体重変動の特徴を知ることや週内変動や季節変動などのリズムを把握することが体重管理に重要と考えられる。
キーワード 体重,中高年,健康管理,健康教育,週内変動,メタボリックシンドローム

 

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第54巻第13号 2007年11月

健常成人男性集団で体重が血圧に与える影響

-経年的測定データの多重レベル解析-
近藤 高明(コンドウ タカアキ) 上山 純(ウエヤマ ジュン) 木全 明子(キマタ アキコ)
山本 佳那実(ヤマモト カナミ) 堀 容子(ホリ ヨウコ) 

目的 職域での健常男性集団の4年間の健診データを用いて,肥満度と血圧との関連を明らかにするため多重レベル解析を実施し,職域健診で蓄積された定期健康診断結果を連結した縦断的観察データの有効な利用法を提示することを目的とする。
方法 対象集団は愛知県内の2つの職域で,1997年を観察開始時として2000年までに実施された4回の定期健康診断データを欠損なく入手できた40~59歳の男性である。観察開始時では自記式質問票による健康調査を行い,糖尿病か高血圧治療者を除外した4,588名の健診データを本研究に利用した。多重レベル解析には一般線形混合モデルを適用し,収縮期血圧と拡張期血圧を結果変数,4回の健診受診時のbody mass index(BMI)を説明変数として扱った。母数効果モデルには,共変量として健診受診時年齢,観察開始時での濃い味つけの好み,喫煙習慣,飲酒習慣,余暇身体活動,高血圧家族歴を組み入れた。また変量効果モデルでは,個人レベルでのBMIと血圧との関係を表す回帰直線の切片と傾きには,個人間変動があるとみなした。副分析として観察開始時BMI(<25㎏/㎡,≧25㎏/㎡)別,喫煙習慣別の多重レベル解析も実施した。
結果 BMIは収縮期血圧,拡張期血圧と有意な正の関連を示した。また変量効果の推定値から,この直線関係での切片と傾きで個人間の変動が有意に大きいことが示された。観察開始時BMI別解析,喫煙習慣別解析でもBMIの血圧に及ぼす効果は同様に有意であり,また切片での個人間変動も有意に大きかった。しかし喫煙歴の無い肥満群では,BMIと拡張期血圧には有意な関連が認められなかった。
結論 職場での定期健康診断データを縦断的観察とみなして多重レベル解析を行うことで,個人間の変動による影響を調整したうえでのBMIと血圧との有意な関連が示された結果は,個人内での追跡観察期間中のBMIの変動幅は小さくとも,その血圧に及ぼす効果は大きいと解釈される。本研究結果は,適正な体重を維持するための職域での保健指導の実践が,血圧管理にも有意義であることを示す根拠となる。
キーワード 縦断的観察,一般線型混合モデル,多重レベル解析,母数効果,変量効果,労働安全衛生規則

 

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第54巻第13号 2007年11月

医学部・医科大学設立後の医師供給の変化に関する検討

豊川 智之(トヨカワ サトシ) 兼任 千恵(カネトウ チエ)
井上 和男(イノウエ カズオ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ)

目的 新設医学部・医科大(以下,医学部)が設置された県(新設県)とそれ以前から設置されていた県(既設県)について,昭和55年以降の医師供給の年次変化について過疎市町村に焦点を当てて比較検討した。
方法 分析対象とした都道府県は,1県1医大政策以降に設立された医学部のある県で,それまで医学部のなかった「新設県」と,同制度以前から私大を含め医学部が1つのみあった「既設県」である。医師数については医師・歯科医師・薬剤師調査,人口については国勢調査の結果を用い,これらの調査年度が一致した昭和55年,平成2年,12年のデータを用いた。過疎市町村については,平成12年12月31日における行政区分および過疎地域自立促進特別措置法に基づいて分類した。
結果 昭和55年には,新設県は既設県に比べて人口10万対医師数で4.4下回っていたが,平成12年には新設県は既設県を0.1上回り,差はなくなっていた。過疎地域について新設県と既設県を比較すると,人口10万対医師数では,既設県過疎地域が36.4増加したのに対し,新設県過疎地域は30.9の増加であった。増加率はともに1.5倍程度であったが,過疎地域の人口減の影響を受けていた。非過疎地域についてみると,昭和55年では,新設県は既設県に比べて人口10万対医師数が少なかったが,平成12年には新設県・既設県ともに150を超え,新設県の人口当たり医師供給数は既設県以上となった。ジニ係数により人口に対する医師分布の状態を評価すると,既設県では,昭和55年0.304,平成2年0.299,平成12年0.300と,微減あるいはほとんど変化がみられなかった。他方,新設県は昭和55年0.302,平成2年0.309,平成12年0.312と微増しており,医師の地域偏在が進んだことが示された。
結論 医学部の新設県は,既設県に比べ医師数が相対的に多く増加し,平成12年時点で人口10万対医師数について差がなくなっていた。特に非過疎地域において新設県と既設県との差が解消された。一方,過疎市町村についてみると,新設県と既設県の人口10万対医師数の格差は広がる傾向がみられ,医学部新設による医師偏在への緩和効果は示されなかった。
キーワード 医師供給,地域偏在,へき地医療,1県1医大制度,ジニ係数

 

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第54巻第15号 2007年12月

処方された医薬品の患者満足度に関する共分散構造分析

塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ) 藤澤 弘美子(フジサワ クミコ) 岩井 高士(イワイ タカシ)
笹林 幹生(ササバヤシ ミキオ) 福原 浩行(フクハラ ヒロユキ)

目的 処方された医薬品に関する個別項目の患者満足度が,処方された医薬品に関する全体的な患者満足度に与える効果を検証した。
方法 東京都に在住する20歳以上の医療消費者を対象に2006年に行った医療および医薬品に対する満足度と製薬産業のイメージに関する調査から得られたデータを使用した。分析手法は因子分析と共分散構造分析を使用した。
結果 本研究のモデルにおいて,因子分析の結果から「効き目」「安全性」「品質」「飲みやすさ・使いやすさ」それぞれの患者満足度の背後に存在する潜在変数として「医薬品の属性」に対する患者満足度を設定し,「価格」「情報」「最新の医薬品の服用」「患者の意思尊重」それぞれの患者満足度の背後に存在する潜在変数として「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度を設定した。そして,これら2つの潜在変数から全体的な満足度指標である「処方された医薬品」の患者満足度へのパスを設定した。このモデルは共分散構造分析を用いて解析を行い,適合度指標の基準から採択されると判定された。「医薬品の属性」に対する患者満足度から「処方された医薬品」の患者満足度へのパス係数は0.504であり,1%水準で有意に正であった。「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度から「処方された医薬品」の患者満足度へのパス係数は0.257であった。値はやや小さいが1%水準で有意に正であった。
結論 本研究の分析により,処方された医薬品の全体的な患者満足度に対して個別項目の患者満足度が与える影響は,抽象レベルにおいて「医薬品の属性」に対する患者満足度と「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度の2つルートが存在することが定量的に明らかになり,前者の影響が後者の影響より大きいことが定量的に示された。
キーワード 医薬品,処方,患者満足度,因子分析,共分散構造分析

 

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第54巻第15号 2007年12月

小児救急医療の現状と問題点

-保護者の立場からの分析-
松村 多可(マツムラ タカ) 土田 賢一(ツチダ ケンイチ) 杤久保 修(トチクボ オサム)

目的 現在行われている小児救急医療体制の検討に役立てるために,保護者側からみた小児救急医療の問題点と保護者のニーズを分析する。
方法 調査場所は横浜市で,調査期間は平成16年5月から平成17年1月である。調査対象はこの期間に1歳6カ月あるいは3歳になる子どもの保護者で,3万人であった。小児急病と小児救急医療体制に関する質問票を送付し,子どもおよび保護者が子どもの定期健康診査を受けるために福祉保健センターを訪れた際に,記入した質問票を提出してもらい統計分析した。
結果 対象保護者3万人のうち,20,567人の保護者から回答が得られた(回収率68.6%)。かかりつけ医を持っているのは91.5%で,そのうち,小児科医は63.2%,小児科も診療する内科医が32.8%,それ以外の診療科医と不明をあわせて4.0%であった。過去1年間に子どもの急病やけがを経験しているのは63.3%で,そのときの症状は発熱,嘔吐,下痢の順であった。保護者が子どもの急病に気づいた時間は,18~20時をピークとした夕方から深夜にかけてであった。受診決定までの時間は,けが,けいれんでは,すぐに決定するケースが多く,それぞれ49.5%,66.8%が30分以内に受診を決断していた。一方,他の疾患にはこの傾向はみられなかった。救急医療機関の役割分担があることを知っていたのは10.8%であった。今後の小児救急医療について希望することは,専門の小児科医に診てほしいという意見が多く(47.8%),次いで24時間対応など時間の延長(42.8%)や,電話などでの医療職との相談(39.8%)であった。
結論 子どもの急病に保護者が気づくのは夕方から深夜に多く,また急病に気づいてから,受診を決定するまでの時間は,けが,けいれんを除いて,特定の傾向がなかった。今後,需要の多い時間での診療供給や,現在試行されている対策の適切な評価と,強化の検討が望まれる。
キーワード 小児救急,質問票,保護者

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第54巻第15号 2007年12月

基本健康診査受診者の14年後の死亡リスクと要介護リスクに関するコホート研究

武田 俊平(タケダ シュンペイ)

目的 老人保健法における基本健康診査(以下,基本健診)の受診者について,受診14年後の時点における生死および要介護・要支援(以下,要介護等)認定状況を分析することにより,死亡に関連する危険因子(以下,死亡リスク)および要介護状態に関連する危険因子(以下,要介護リスク)を明らかにする。
方法 仙台市若林区における1991年度基本健診受診者のうち,脳卒中治療中および既往歴のあった者等を除いた3,224名について,受診時における年齢,喫煙・飲酒習慣,肥満度,血圧,尿蛋白,尿潜血,血清総コレステロール値,肝機能,赤血球数,血糖値を独立変数とし,2005年5月1日(受診14年後)の時点における生死および要介護等認定(有病)の有無を従属変数として,男女別にロジスティック回帰分析を行った。
結果 基本健診受診者3,224名のうち,受診14年後の時点において,自立者は男572名(71.9%),女1,911名(78.7%),要介護等認定者は男47名(5.9%),女216名(8.9%),死亡者は男145名(18.2%),女176名(7.2%,市外転居者は男18名(2.3%),女85名(3.5%),転帰不明者は男13名(1.6%),女40名(1.6%)であった。つまり,死亡率は男が女の2.5倍であり,要介護等認定率は女が男の1.5倍であった。受診14年後の時点における生死に関して,ロジスティック回帰分析を行ったところ,男では,高齢,喫煙,貧血,高血糖が死亡と有意に関係し,女では,高齢,喫煙が死亡と有意に関係した。同様に,受診14年後の時点における要介護等認定の有無に関して,ロジスティック回帰分析を行ったところ,男では,高齢,貧血,高血糖が要介護等認定と有意に関係し,女では,高齢,喫煙,尿蛋白陽性が要介護等認定に有意に関係した。したがって,高齢を除くと,男では貧血と高血糖,女では喫煙が,死亡と要介護等認定の両方に関係しているところから,健康寿命との密接な関係が示唆された。
キーワード 高齢者,基本健康診査,死亡リスク,要介護リスク,ロジスティック回帰分析,コホート研究

 

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第54巻第15号 2007年12月

麻疹流行における予防接種と免疫低下の関連性の分析

-数理モデルによるシミュレーション-
古島 大資(フルシマ ダイスケ) 梯 正之(カケハシ マサユキ)
田中 政宏(タナカ マサヒロ) 大野 ゆう子(オオノ ユウコ)

目的 近年,予防接種を受けたにも関わらず麻疹に感染するケースが報告されている。この一因としては,予防接種の普及により麻疹流行が小規模になり,野生株によるブースター効果が弱まり,免疫の低下が起こる可能性が考えられている。これを防ぐための方法としてワクチンの2回接種方式が有効とされている。本研究では,数理モデルを用いて,予防接種方式の違いによる集団の免疫保有状態および麻疹流行の抑制効果に関する検討を行った。
方法 本研究ではシステムダイナミクス理論に基づくシミュレーションを行った。まず,人口集団を年齢階級ごとに感受性保持者・罹患者・免疫保持者・免疫低下者の4つの区分に分けたモデル(SIRDモデル)を構築し,幼児における罹患率を高めに設定した上で,その人口変化を微分方程式で表現した。既存の資料をもとにパラメータと初期条件を設定し,1回目のワクチン接種後における免疫低下と2回目のワクチン接種のブースター効果に関する一定の仮定の下で,①予防接種が実施されていない状態での麻疹流行の定常状態(平衡状態),②定常状態において,ワクチン1回接種法と2回接種法それぞれを実施した場合の,4つの区分それぞれの人口変化の検証を行い,接種方式・接種率の違いによる流行状況と免疫低下の関連性の分析を行った。
結果 シミュレーションの結果,定常状態における感受性保持者・罹患者・免疫保持者の人数の割合は,それぞれ1.26%,0.02%,98.7%であった。ワクチンの1回接種を行った場合,予防接種が実施されていない状態に比べ,罹患者数を大きく減少させることができたが,人口集団におけるウイルスの持続感染は存続し,感受性保持者数が増加した。特に成人期での感受性保持者数の増加が顕著であり,接種率を高いレベルにするほどこの傾向は強くなった。これに対し2回接種では,90%以上の接種率において麻疹ウイルスの持続感染はなくなり,感受性保持者数も低い水準に保たれた。しかし,2回接種においても個々の接種率が85%の場合,麻疹の流行は持続することが示され,また,1回目,2回目の接種率がそれぞれ(60%,90%)の場合は,(90%,60%)の場合と比べ,麻疹の罹患者数は高いレベルで維持された。
結論 本研究のモデルにおいては,従来の1回接種法では集団における麻疹流行の完全な防止は難しく,現行の2回接種法がより有効であると推定された。しかし,流行防止には接種率が大きく関係しているため,接種方式に関わらず接種率の向上が必要であり特に1回目の接種率の向上が強く望まれる。
キーワード 麻疹,数理モデル,予防接種,ブースター効果,免疫低下

 

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第54巻第15号 2007年12月

介護保険制度施行5年後の高齢者の介護サービス認知と利用意向

-全国調査(2005年)のデータ分析を通して-
和気 純子(ワケ ジュンコ) 浅井 正行(アサイ マサユキ)
和気 康太(ワケ ヤスタ) 武川 正吾(タケガワ ショウゴ)

目的 全国調査を通して,介護保険制度施行5年後の高齢者の介護サービスに関する認知と利用意向の実態と要因についてAndersenモデルを活用して分析する。
方法 層化2段抽出法によって全国100地点から抽出された65歳以上80歳未満の高齢者1,053名を対象に,14種類の介護サービスについて認知と利用意向を個別面接調査でたずねた。調査実施時期は2005年3月である。分析においては,個別サービスの認知と利用意向の単純集計を行ったうえで主成分分析を行い,利用意向については施設サービス利用意向と在宅サービス利用意向の2因子を抽出した。そのうえで,サービス認知,施設サービス利用意向,在宅サービス利用意向のそれぞれを従属変数として,Andersenモデルにおける個人要因を構成する素因,ニーズ要因,利用促進要因に帰属する計15変数を独立変数とする階層的重回帰分析を実施した。
結果 サービス認知ではグループホームなどの新しいサービスで認知度が低く,学歴,居住年数,世間体,保健行動,社会階層,ソーシャルサポートが統計的に有意な規定要因となっていた。一方,サービス利用意向は,施設サービス利用意向と在宅サービス利用意向の2因子構造になっており,後者の利用意向が前者に比較して高くなっていた。さらに,階層的重回帰分析の結果から,両者ともサービス認知が規定要因であることに加え,施設サービス利用意向では老親介護規範,IADL,社会階層,在宅サービス利用意向では年齢,保健行動,IADLが規定要因となっていた。
結論 介護保険制度施行5年後の時点で,新しいサービスについて認知が十分に図られていないことが判明した。またサービス認知を阻む要因として社会経済的格差や社会関係の希薄さが認められ,これらの改善を図る必要性が示された。介護サービスの利用意向では施設サービスと在宅サービスの利用意向が異なり,施設サービスでは依然として老親介護規範といった伝統的な意識の影響をうけるが,在宅サービスについてはそうした傾向は認められず,若い高齢者を中心に健康維持や介護予防の観点から利用が志向されていることが示唆された。
キーワード Andersenモデル,介護保険,サービス認知,サービス利用,全国調査

 

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第55巻第1号 2008年1月

青壮年層の地域住民が高齢者に期待する役割

高橋 和子(タカハシ カズコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) 芳賀 博(ハガ ヒロシ)

目的 青壮年層の地域住民が高齢者に期待する役割を明らかにする。
方法 対象は,福島県S市A地区在住の20~64歳の住民3,442人のうち,1/4を無作為抽出した861人である。調査方法は,自記式質問紙を用いて郵送法にて行った。調査内容は,対象者の属性および高齢者に期待する役割とした。「高齢者に期待する家での役割」は,食事の支度,掃除,孫の世話や保育などの16項目,「高齢者が参加したり重要な役割を果たすことができる団体・組織・会」は,町内会・自治会,老人会・高齢者団体,地域の文化・祭り関係の会などの16項目,「高齢者が参加したり重要な役割を果たすことができるボランティア活動」は,環境美化・整備活動,子育て支援等の活動,高齢者福祉関連活動等の11項目を挙げ該当項目を選択してもらった。分析は,Fisherの直接法にて性別比較と性・年齢別比較を行った。
結果 高齢者に期待する家での役割は,男女ともに「庭や花壇・菜園の管理」「留守番・電話番」の順であった。男女比較では「家計や財産の管理」で,男性の割合が高く,女性では「漬物・乾物・味噌作りなど」の割合が有意に高かった。参加や役割を果たせる団体・組織・会は,「老人会・高齢者団体」が男女ともに7割以上を占め,最も高い割合であった。ボランティア活動では,男女ともに「環境美化・整備活動」「子どもへの遊びの指導等」の割合が高く,男女比較では「農作業に関する活動」「子育て支援等の活動」「子どもへの遊びの指導等」で女性の割合が有意に高かった。性・年齢別の比較では,男性は年齢による差は認められなかった。女性は,年齢間での差があり,20~39歳では,子育て支援や子どもに関する活動,地域文化への関わりなど,40~59歳では,介護や高齢者福祉に関する役割期待が高かった。
結論 青壮年層が高齢者に期待する役割は,日常生活やその地域の中で実際に高齢者が行うことがイメージできる身近な内容が挙げられていた。高齢者が役割を持って地域での生活を続けていくためには,引退・隠居という社会的通念にとらわれずに,家庭内での役割の継続や高齢者が関われる地域活動を盛んにし,高齢者が主体的に担える役割を増やすことが重要である。
キーワード 青壮年,高齢者,地域住民,役割期待

 

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第55巻第1号 2008年1月

高齢期のケア付き住宅に団塊世代が期待する条件

佐々木 千晶(ササキ チアキ) 今井 幸充(イマイ ユキミチ)

目的 高齢者のニーズの変化に即した将来的なケア付き住宅のあり方を検討するための基礎的資料として,団塊世代がケア付き住宅に求める条件の構造を示し,それらに対する期待度の違いからケア付き住宅に対する志向タイプを分類することを目的とした調査を行った。
方法 東京都A区の住民基本台帳から無作為抽出した昭和22~25年生まれの男女3,039名(女性1,522名,男性1,517名)を対象とし,2006年2月6~20日にかけて郵送法によるアンケートを実施した。質問内容として高齢期のケア付き住宅に必要な条件40項目に対する期待度を7件法で尋ね,探索的因子分析により妥当な解釈が可能な因子構造を確認した。次に回答者の志向タイプを分類するために,設定された因子の因子得点によるクラスター分析を行ってそれぞれの志向タイプの特徴を検討した上で,志向タイプと個人属性の関連をχ2検定により検討した。
結果 回収された393名(回収率12.9%)のうち,年齢の項目で55~59歳と回答され,ケア付き住宅に必要な条件40項目に欠損値がない342名(有効回答割合11.3%)を分析対象とした。探索的因子分析の結果からはケア付き住宅に必要な機能として「安全・快適」「コミュニティ機能」「自律性」の3因子が示された。因子得点によるクラスター分析の結果では,「個人志向タイプ」「交流・快適志向タイプ」「平均タイプ」「独立・快適志向タイプ」「控えめタイプ」の5タイプに分けられた。回答者の属性とタイプとの関連では,性別とタイプとの関連に有意差が認められ,女性では男性よりも「交流・快適志向タイプ」が多く「控えめタイプ」が少なかった。健康状態が「良い」グループでも同様の傾向がみられた。
結論 団塊世代がケア付き住宅に求める機能として「安全・快適」「コミュニティ機能」「自律性」の3領域が示された。回答者のクラスター分析の結果では,全ての領域で期待度が高い「交流・快適志向タイプ」が全体の1/4を占め,特にケア付き住宅の利用者の多数派となる女性でこの割合が高かった。これらのことから,将来のケア付き住宅には「交流・快適志向タイプ」の要求を満たすサービス水準が必要になることが示唆された。
キーワード ケア付き住宅,団塊世代,高齢者,志向タイプ,利用者のニーズ

 

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第55巻第1号 2008年1月

日本の損失生存可能年数(YPLL)-10年間の推移-

今井 博之(イマイ ヒロユキ)

目的 1995年にわが国の死亡統計がICD-10に変更されて以降,2005年までの10年間に,損失生存可能年数(Years of Potential Life Lost:以下,YPLL)値がどのように変化したかについて調べた。
方法 該当する年の日本の人口動態統計から得た疾患別・年齢階級別の死亡数を用いて65歳未満のYPLLを算出した。また,この10年間に進行した少子高齢化の影響を排除するために,年齢調整YPLLについても検討した。
結果 日本の65歳未満YPLL値は,この10年間は減少傾向にあり,2005年のYPLL値は2,504,633年で,1995年と比較して19%減少した。疾患別YPLL値で最も高かったのは悪性新生物で,1995年は総YPLL値の26.9%を占め,2005年も27.1%とほとんど変化がなかった。外因死のYPLL値は,1995年の28.4%から2005年の30.0%へと増加の傾向がみられ,1998年に悪性新生物のYPLLを超えた。しかし,外因死のうち不慮の事故によるYPLL値はこの10年で約6ポイント低下したが,依然として10%以上を占めており,心疾患よりもわずかに高い値を示した。また,自殺によるYPLL値は約18%を占めており,10年間に8ポイント以上増加した。自殺のYPLLが不慮の事故のYPLLを越えたのは1998年であった。年齢調整YPLLについても上記の傾向とほぼ同様であった。しかし,年齢調整YPLLでは,総YPLLに占める悪性新生物の割合が21.5%であったのに対し,外因死が33.5%と,より大きな比重を占めていた。
結論 日本の総YPLL値は減少傾向にあるが,外因死によるYPLL値は心疾患を大きく上回っており,1998年以降は,単一で最大の原因である悪性新生物よりも高い値となった。この傾向は年齢調整YPLLでみるとさらに明らかで,2005年の年齢調整総YPLLに占める外因死の割合は33%を越えていた。外因死のうち,不慮の事故のYPLLは減少を続けている。一方,自殺のYPLLの増加は顕著であり,事故予防と自殺予防を包括した総合的な外傷防止対策が必要であることを示している。
キーワード YPLL,外因死,事故,自殺,safety promotion

 

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第55巻第1号 2008年1月

神経内科的疾患患者の在宅介護者に対する
「個別化された重みつきQOL尺度」SEIQoL-DWの測定

宮下 光令(ミヤシタ ミツノリ) 秋山 美紀(アキヤマ ミキ) 落合 亮太(オチアイ リョウタ)
萩原 章子(ハギワラ アキコ) 中島 孝(ナカジマ タカシ)
福原 俊一(フクハラ シュンイチ) 大生 定義(オオブ サダヨシ)  

目的 神経内科的疾患(パーキンソン病,脳梗塞,筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅介護者に対して,個別化された重みつきQOL尺度であるSEIQoL-DW(Schedule for the Evaluation of Individual QoL-Direct Weighting)を実施し,介護者のQOL評価に関するSEIQoL-DWの実施可能性とその性質を検討する。
方法 調査期間は2001年8月から2003年3月であった。調査対象はパーキンソン病3人,脳梗塞8人,筋萎縮性側索硬化症6人の合計17人であった。半構造化面接法により,SEIQoL-DWに関する質問を行った。倫理的配慮として,書面による説明と同意を行った。
結果 患者は男10人,女7人,平均年齢68±15歳であった。介護者は男4人,女13人,平均年齢62±14歳であった。SEIQoL-DWに関しては,17人の対象から合計79のキュー(大切な事柄)が挙げられた。キューの集計では,最も多かったものが「自分の健康」であり,順に「家族」「趣味」「経済」「将来」であった。SEIQoL-DWインデックスは平均59±24,最大値94,最小値17であり,ばらつきが大きかった。ADL(Barthel Index)が低いほどSEIQoL-DWインデックスが高い傾向にあった(r=-0.59,P=0.06)。他の背景要因との有意な関連はなかった。
考察 介護者に対するSEIQoL-DWを測定した研究はわが国で初めてである。神経内科疾患の介護者は,自分の健康に留意しながら,患者を含む家族を大切にしながら介護を行っていることが明らかになった。SEIQoL-DWインデックスは広く分布し,介護者のQOLを広い範囲で捉えることができる可能性がある。また,介護負担感尺度ZBIとは関連がなく,SEIQOL-DWは介護負担感とは別の視点からの介護者のQOLを測定できる可能性があることが示された。
結論 神経内科的疾患を在宅で介護する介護者17人に対し,SEIQoL-DW評価を行い,実施可能性と性質を確認した。今後は症例をさらに蓄積し,介護者のQOL測定に対する,SEIQoL-DWの有用性を検証することが課題である。
キーワード QOL,SEIQoL-DW,介護,評価,筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,脳梗塞

 

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第55巻第1号 2008年1月

Breslow健康指数と生活習慣病危険因子および食生活習慣との関連

早川 瑞希 (ハヤカワ ミヅキ) 井上 和男(イノウエ カズオ)

目的 Breslowの7つの生活習慣にもとづく健康指数(Health Practice Index: HPI)と生活習慣病危険因子および具体的な食生活習慣との関連を検討した。
方法 2002年に3事業所で職員健診を受診した891名のうち,必要なデータが得られた844名(男603名,女241名)を対象とした。Breslowの7つの生活習慣(喫煙,運動,飲酒,睡眠,肥満,朝食,間食)に基づいてHPIを算出し,対象群を低値群(HPI=0~3:301名),中値群(HPI=4:287名),高値群(HPI=5~7:256名)に分類した。3群間で生活習慣病危険因子を含む17項目(血圧および生化学的検査)の値,食生活習慣15項目(塩分,緑黄色野菜,果物,炭水化物,蛋白質食品,肉料理,揚げ物,海藻類や小魚,乳製品,インスタント食品,菓子類,ジュースや缶コーヒーの摂取,栄養バランスを考慮する,ゆっくり噛んで食べる,就寝前2時間は食事をしない)の頻度を比較した。生活習慣病危険因子については分散分析を行い,食生活習慣についてはχ2検定とロジスティック回帰分析を行った。
結果 生活習慣病危険因子に関しては白血球数,GPT,γGTP, HDLコレステロール,トリグリセリド,尿酸の検査値に3群間で有意差がみられ,いずれもHPIの高い群ほど検査成績は良好だった。食生活習慣に関しては,好ましい食習慣の頻度を性別比較すると10項目で女性の方が高かったのに対し,男性の方では1項目のみであった。好ましい食習慣の頻度をHPIで分類した3群間で比較したχ2検定では,ほとんどの項目において有意差がみられ,HPIの高い群ほど好ましい食生活習慣を有していた。ロジスティック回帰分析で低値群と中値群を比較すると7項目(緑黄色野菜,果物,炭水化物,乳製品,ジュースや缶コーヒー,栄養バランスの考慮,就寝前の食事)で有意差がみられ,低値群と高値群で比較するとさらに4項目(塩分,蛋白質,海藻類や小魚,ゆっくり噛んで食べる)でも有意差がみられた。
結論 HPIの高い群ほど生活習慣病危険因子の検査成績が良く,好ましい食生活習慣を有する傾向にある。BreslowのHPIは幾つかの生活習慣病危険因子との関連を有するとともに,食生活全般の健康度を推定する上でも有用な指標といえる。
キーワード Breslow, Health Practice Index,生活習慣病,食生活,健康診断

 

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第55巻第2号 2008年2月

居住費・食費の負担の見直しによる介護保険3施設への影響

-介護保険給付費実態調査月報から-
林原 好美(ハヤシバラ ヨシミ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト)
柏木 聖代(カシワギ マサヨ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ) 

目的 2005年10月に介護保険制度の施設給付の見直しとして実施された,居住費・食費の自己負担化が介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設(以下,介護保険3施設)施設数および入所利用人数に対してどの程度,影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的とした。
方法 厚生労働省が公表している介護給付費実態調査月報の2002年4月から2006年3月までの48カ月分のデータを用い,介護保険3施設それぞれにおける施設数,利用人数と1施設当たり平均利用人数を経時的に図示し,その傾向をみた。その上で,見直し前24カ月のデータから,見直し後の6カ月を予測し,実測値との差を検討することで見直し前後に有意な変化があったかどうかを検討した。
結果 施設給付の見直し前後で有意な減少があったのは,介護療養型医療施設の施設数と利用人数のみであった。さらにこの減少を利用人数の介護度別でみた結果,介護度5の利用人数が有意に減少していた。介護療養型医療施設において減少した利用者の行き先としては,医療療養型医療施設の可能性が示唆された。介護給付費実態調査は月報であり,本データによる分析では介護老人福祉施設,介護老人保健施設の利用人数に有意な減少は認められなかったが,実際にはこの2つの介護保険施設においても退所者が存在していたことが報告されている。介護老人福祉施設,介護老人保健施設では,今回の見直しにより退所者が発生したが,すぐに利用者が入所したことにより利用者人数に変化がみられなかった可能性が考えられる。
結論 施設給付の見直し前後における施設数と利用人数の変化をみることで,居住費・食費の自己負担化が介護療養型医療施設の施設数と利用人数,特に介護度5の利用人数減少の影響を与えていたことが明らかになった。
キーワード 介護保険制度,施設給付,介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設

 

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第55巻第2号 2008年2月

子育てネットワークと行政との関係に関する研究

-エンパワーメントプロセスからの分析-
中谷 奈津子(ナカタニ ナツコ) 橋本 真紀(ハシモト マキ) 西村 真実(ニシムラ マミ)

目的 本研究は,子育てネットワークと行政との関係を久木田のエンパワーメントプロセスに基づき調査した結果の再分析である。顕著な特徴の表れた,意志決定の段階と活動の独自性に着目し,組織を3分類した上で比較検討した。これら組織の特性を明らかにし,さらなるエンパワーメントプロセスについての分析を試みた。
方法 予備調査において乳幼児を対象として子育てネットワークを実施していると回答した218組織に質問紙調査を行った。回収は118票,回収率54.1%である。子育てネットワークと行政や専門職との関係を把握するため,エンパワーメントプロセスに沿って10項目の質問を設定し,組織の主観的状況を測定した。その結果,顕著な特徴を示した第8項目「意志決定の段階」と第10項目「活動の独自性」に着目しクロス表を作成した。意志決定協力型,独自性型,バランス型の3群に分類し,比較検討を行った。
結果 意志決定協力型はボランティア養成講座がきっかけとなり,市町村を運営主体とし,活動数,活動頻度も少なかった。会員がすべて女性である割合も高く,仕事を持たない会員が多かった。行政からの援助を多く受け,「あらかじめ決められたことに協力するよう依頼される」という面が強い。独自性型はNPOが多く,必要感を強く感じて発足する傾向にある。活動数が多く,活動頻度も高い。男性の参加率も高く,仕事を持つ会員の割合も高い傾向にあった。しかし行政からの援助は最も少なく「あらかじめ決められたことに協力するよう依頼される」という得点は低い。また「行政から特に意見を求められることはない」側面の強い組織であった。バランス型は相談・助言を多く実施し,仕事を持つ会員も多い傾向にあり,行政から資金援助を受ける傾向にあった。「行政から特に意見を求められることはない」とする得点は低く,「行政主催の会議などで意見を述べると,その決定権を共有していると感じることが多い」と感じる傾向が強いことが明らかになった。
結論 子育てネットワークにおいては,行政等と意志決定の段階から協力して活動を進めずとも,エンパワーメントプロセスをたどる組織が存在することが分かった。また一方で意志決定の段階から協力して活動を進める組織であっても,エンパワーメントプロセスをたどっているといいがたい組織も存在した。
キーワード 子育てネットワーク,エンパワーメントプロセス,行政,子育て支援,意志決定,活動の独自性

 

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第55巻第2号 2008年2月

三重県東紀州医療圏南部における救急医療の機能分担の現状

-搬送動向に関するロジスティック回帰分析を用いた検討-
岩城 孝明(イワキ タカアキ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ)

目的 住民の医療需要に見合った施設連携や医療資源の適正配置等を検討するためには,医療機能の分担状況を把握することが必要と考えられる。そこで,本研究では医療提供体制のうち救急医療体制について考えることとし,県境を挟んだ熊野保健所管内(三重県)と新宮保健所管内(和歌山県)の中核的な病院間での救急医療機能の分担状況,県境を越えて搬送される要因を明らかにすることを目的とした。
方法 熊野保健所管内にはA病院,新宮保健所管内にはB病院と中核的な病院が1施設ずつ存在する。A病院とB病院の間に位置する3町村から両病院へ搬送された傷病者について分析を行った。分析は,搬送先を従属変数とし,搬送者の性別,年齢,傷病程度,傷病分類(心疾患,脳疾患,呼吸器系,消化器系,精神疾患,その他の急病,診断名不明の急病,外因性傷病),現場到着から病院収容までの所要時間,救急車の出場先(搬送元)から両病院への道程距離差を独立変数として,単変量および多変量ロジスティック回帰分析を行い,A病院と比較してB病院への搬送されやすさを示すオッズ比とその95%信頼区間およびP値を求めた。
結果 B病院への搬送者には心疾患が有意に多く(オッズ比(95%信頼区間):2.38(1.56-3.63),P<0.01),また,精神疾患が搬送される傾向があった(1.62(0.71-3.66),P=0.25)。一方,A病院への搬送者には,外因性傷病が有意に多かった(0.55(0.38-0.78),P<0.01)。
結論 医療施設調査報告などの既存資料によって,医療圏における一定の救急医療機能の把握は可能であるが,より実質的な機能分担の状況は把握困難であった。本研究では救急搬送者の主要な傷病について病院間の機能分担の一端を明らかにした。保健医療計画策定などにおいて,住民の医療需要に見合った施設連携や機能分担を検討するための有用な基礎的資料のひとつになると考えられた。また,ロジスティック回帰分析は,危険因子と疾病の関連を明らかにするために用いられることが多いが,医療機能の分析にも有用であると考えられた。
キーワード 救急医療体制,病院機能,機能分担,ロジスティック回帰分析,医療圏,日常生活圏

 

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第55巻第2号 2008年2月

保健所における夜間HIV抗体検査を受ける
MSMのHIV・STD関連知識に関する研究

北川 信一郎(キタガワ シンイチロウ) 臼井 忠男(ウスイ タダオ) 土井 渉(ドイ ワタル)
松井 祐佐公(マツイ ユウサク)

目的 保健所で実施するHIV抗体検査を受けるMSM(Men who have sex with men)のHIV・STD関連知識を把握し,今後の検査・相談のあり方を検討する基礎資料とする。
対象と方法 平成18年5~10月に,京都市内の保健所で実施する夜間HIV抗体検査の受検者を対象に,自記式の質問票を配布した。
結果 受検者216人のうち,受検動機を「性的関係による感染を心配して」と答えた203人を有効回答とした(94.0%)。男性117人(57.6%),女性86人(42.4%)で,男性のうちMSMであると回答した者は12人であった。MSMを除く男性(非MSM)とMSMを比較したところ,属性では,平均年齢は非MSM群の方が高い傾向がみられたが,有意差はみられず,また,年齢別の分布,居住地にも有意差はみられなかった。HIV・STD関連知識では,①HIVに感染すると,すぐに抗体検査で陽性になる,②HIVに感染しても,早く病院を受診すれば,エイズの発症を抑えられる,④日本の若者の間で,淋菌・クラミジアなどの性感染症が広がっている,⑤性感染症に罹(かか)ると,必ず症状がでる,⑥フェラチオなど口を使ったSEXでクラミジアは咽頭(のど)に感染することがある,⑦性器クラミジア感染症は,女性の場合,不妊の原因になることがある,の6問では2群間に有意差はみられなかったが,③クラミジアなどの性感染症に罹っているとHIVに感染しやすくなる,⑧性感染症であるパピローマウイルスは子宮頸がんの原因となることがある,の2問でMSM群の正解率が有意に低かった。
結論 MSMは,非MSMと比較し,HIV・STD関連知識に関し異なる傾向があることがわかった。今後,MSMに対し,検査・相談の場でどのように正しい知識を提供し,どのような内容のカウンセリングを行うのか,詳細な研究と,根拠に基づいた質問票,配布資料,待合室での視覚教材等の開発が必要である。
キーワード HIV抗体検査,MSM,保健所,HIV・STD関連知識

 

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第55巻第2号 2008年2月

介護老人福祉施設高齢者の排泄自立に関連する要因の検討

原野 かおり(ハラノ カオリ) 濱口 晋(ハマグチ ススム) 柳 漢守(ユ ハンス)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 岡田 節子(オカダ セツコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 要介護高齢者の排泄に対する介入方法の指針を得ることをねらいとして,介護老人福祉施設高齢者を対象に,身体機能ならびに知的機能と排泄自立の関係性を明らかにすることを目的とした。
方法 調査は,A県内の介護老人福祉施設のうち協力の得られた39施設で実施した。調査内容は,基本属性(性,年齢,施設入所期間,要介護度),身体機能(粗大運動・微細運動),知的機能(認知機能),排泄自立の可否で構成した。統計解析には,回収された1,376名のデータのうち欠損値を有さない921名のデータを用いた。粗大運動2項目(移乗,歩行),微細運動4項目(「食事のときに茶碗を持ったままで箸が使える」「小さなボタンのかけはずしができる」「ひもを結ぶことができる」「タオルをきちんと絞ることができる」),MMSE6項目(「場所の見当識」「物品の復唱」「物品名の想起」「計算」「物品名の呼称」「文章の指示実行」)を独立変数として投入し,排泄の自立の可否を従属変数としてロジスティック回帰分析を行い,排泄自立に関連する要因を抽出した。次いで,集計対象を約50%ランダム抽出法で2群に分割し(A群:461名とB群:460名),ロジスティック回帰分析で得た偏回帰係数を用いてA群およびB群における予測値を算出し,それぞれの排泄の実測値における関係性を確認した。
結果 ロジスティック回帰分析の結果,「移乗」「ひもを結ぶことができる」「歩行」「小さなボタンのかけはずしができる」「物品名の想起」の5項目が排泄自立に統計学的に有意に関連することが明らかになった。排泄自立予測値(0.08で分割)と実測値との関係性をクロス表で確認した結果は,真陽性143名(自立と予測して実際に自立),真陰性661名(非自立と予測して実際に非自立),偽陽性108名(非自立であるが自立と予測),偽陰性9名(自立であるが非自立と予測)であり,感度94.1%,特異度86.0%であった。
結論 「移乗」「ひもを結ぶことができる」「歩行」「小さなボタンのかけはずしができる」「物品名の想起」の5項目が施設高齢者の排泄自立に関連し,かつ予測にも利用できる可能性が示唆された。
キーワード 介護老人福祉施設高齢者,排泄自立関連要因,排泄自立予測

 

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第55巻第3号 2008年3月

大学生の健康習慣と自己管理スキルおよび生活満足度との関連

鈴木 みちえ(スズキ ミチエ) 宇野木 昌子(ウノキ マサコ) 山本 るり子(ヤマモト ルリコ)
中丸 弘子(ナカマル ヒロコ) 鈴木 知代(スズキ トモヨ)
中野 照代(ナカノ テルヨ) 顧 寿智(コ ジュチ)

目的 青年後期にある大学生が好ましい健康習慣を獲得すること,自己の健康管理力を高めることは学業と匹敵するほど重要な課題である。そこで,健康学習支援の方法を検討するための基礎資料を得ることを目的に健康習慣と生活背景,保健行動実現のための自己管理スキルおよび学生生活満足度との関連について検討した。
方法 2006年度大学入学生327名を対象に生活背景,健康習慣,一般的自己管理スキル尺度,生活満足度に関する自記式質問紙調査を実施した。調査の時期は2006年11月である。有効回答が得られた18,19歳の者243名を分析対象とし基本統計量の算定,健康習慣と生活背景,自己管理スキル尺度,生活満足度との関連性について検討した。
結果 好ましくない健康習慣保有者は,運動しない63.8%,塩分をひかえていない47.3%,睡眠時間5時間以下27.6%,間食をほぼ毎日食べる23.9%,栄養バランスを考えない20.6%,1日の学業・アルバイト11時間以上14.0%,朝食を食べない7.4%,喫煙している4.5%,ほぼ毎日飲酒する1.6%,であった。サークル活動に参加していない者の方が運動しないが多く(p<0.01),家族と同居していない者の方に朝食を食べない者が多かった(p<0.01)。塩分をひかえていない,間食をほぼ毎日食べる,栄養バランスを考えないの3項目の好ましくない食習慣を有する者はそうではない者より自己管理スキル得点および自己向上と学習に関する満足度得点が有意に低かった。
結論 大学生の健康習慣には生活背景や自己管理スキル,生活満足度が関連することが明らかになり,好ましくない健康習慣を指摘し行動変容を働きかけるというより,学業も含めた学生生活全体を視野に入れた関わりの中で,いかに自己管理スキルを高めていくかが課題であり,特に,健康管理の基盤ともいえる食習慣に対する意識啓発の必要性が示唆された。
キーワード 大学生,健康習慣,自己管理スキル尺度,生活満足度

 

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第55巻第3号 2008年3月

大都市独居高齢者における子どもの有無,
子どもとの関係が日常生活満足度および全体的生活満足度に及ぼす影響

林 暁淵(イム ヒョヨン) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 大都市独居高齢者の子どもの有無,子どもとの関係が彼らの日常生活満足度および全体的生活満足度にどのような関連があるのかを明らかにすることを目的とする。
方法 調査対象は,無作為抽出による大阪市居住の65歳以上の独居高齢者1,020名であった。調査方法は,郵送による横断的調査法を用いた。有効回収率は,51.6%(526名)であった。分析方法は,①子どもの有無によって独居高齢者の日常生活満足度および全体的生活満足度に違いがみられるかを検討するため,子どもの有無を独立変数,日常生活満足度の各生活領域ごとの総得点および全体的生活満足度の得点を従属変数とするt検定を行った。②子どもとの関係が独居高齢者の日常生活満足度および全体的生活の満足度に与える影響をみるために,子どもとの関係とコントロール変数として性別,年齢,暮らし向き,主観的健康度を独立変数,日常生活満足度の各生活領域ごとの総得点および全体的生活満足度の得点を従属変数とする重回帰分析を行った。性別(男性=0,女性=1),暮らし向き(低位群=0,高位群=1),主観的健康度(低位群=0,高位群=1)はダミー変数を用いた。
結果 t検定の結果,子どものいる独居高齢者が子どものいない独居高齢者より,「対人関係(p<0.01)」「居住環境(p<0.01)」「食事(p<0.05)」領域における満足度が高いといった結果が示された。また,重回帰分析の結果,子どもとの関わりについて普段うまくいっていると認識しているほど,「対人関係(p<0.001)」「居住環境(p<0.01)」「食事(p<0.01)」「睡眠(p<0.05)」「家事(p<0.05)」領域における満足度と「全体的生活満足度(p<0.001)」が高いことが明らかになった。このような結果から,子どもの有無が高齢期の生活に密接に関連していること,子どもがいても子どもとの関係が断絶されることは,独居高齢者の生活にさまざまな困難をもたらす可能性が高くなることが示唆された。
結論 独居高齢者の生活の質を高めるために,子どものいない独居高齢者には補完システムを地域社会で作っていくこと,子どものいる独居高齢者には子どもとの情緒的連帯感を高められるような支援を配慮していくことが求められる。
キーワード 独居高齢者,子どもの有無,子どもとの関係,日常生活満足度,全体的生活満足度

 

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第55巻第3号 2008年3月

新型インフルエンザ大流行に備えた
危機管理研修教材の開発とその有用性の検討

-ゲーミング・シミュレーションを利用して-
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 吉川 肇子(キッカワ トシコ)
角野 文彦(カクノ フミヒコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)  

目的 新型インフルエンザ大流行に備えた危機管理研修教材を開発し,その有用性を検討することを目的とした。
方法 ゲーミング・シミュレーションであるクロスロードゲーム新型インフルエンザ編を作成し,地域における新型インフルエンザ対策会議において試用した。ディブリーフィング(ふりかえり)を経てゲーム終了後,記述式による質問紙調査を実施した。質問内容は,「まわりの人の決断で意外だったもの」「他の人の意見で,なるほどと感心した,あるいはためになると思った意見」そして感想である。また,参加が楽しかったか否かを「楽しかった」から「楽しくなかった」の5択で尋ねた。感想は,KJ法によって分析した。
結果 参加者30名全員から回答を得,「一生懸命考えたので苦しかった,頭が痛かった」と記述していた1名を除き,参加して「楽しかった」と感じていた。「まわりの人の決断で意外であったもの」「他の人の意見で,なるほどと感心した,ためになると思った意見」ともに,回答がある問題カードに集中するなどの偏りがなかった。感想は「手法に対しての感想」(3項目),「自覚させられたこと」(5項目),「手法の応用」の3つに分類された。
結論 危機管理は,ゲーミング・シミュレーションの教育目的に沿った能力が求められている。感想シートの分析結果から,このクロスロードゲーム新型インフルエンザ編は,ゲーミング・シミュレーションの目的に沿って学習がなされていると考えられた。また,それぞれが多くの質問カードに意外性をもつなど回答が寄せられたことから,問題カードの内容およびクロスロードゲームの実施が妥当であったと評価できる。参加者の楽しかったという回答から,積極的な参加が見込まれると考えられた。以上により,新型インフルエンザに関する危機管理の教材として有用と考えられた。
キーワード 新型インフルエンザ,危機管理,ゲーミング・シミュレーション,クロスロードゲーム

 

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第55巻第3号 2008年3月

精神障害者通院公費負担制度の利用者増加の要因

-平成12年度および17年度のレセプト調査の比較-
箱田 琢磨(ハコダ タクマ) 竹島 正(タケシマ タダシ) 三宅 由子(ミヤケ ユウコ)
泉 陽子(イズミ ヨウコ) 鷲見 学(スミ マナブ) 

目的 精神障害者通院医療費公費負担制度(通院公費)は昭和40年に創設されて以来,利用者数が増加してきたが,制度の趣旨をこえた利用の拡大の可能性も指摘されている。本研究は通院公費に関するレセプト調査(平成12年度調査,17年度調査)のデータを用いて,その間にどのような利用者が増加しているかを明らかにし,増加の要因を検討することを目的とした。
方法 対象は通院公費に関するレセプト調査において診療報酬明細書(医科レセプト)が収集された通院公費利用者とした(平成12年度調査1,759件,17年度調査3,674件)。性別,主たる傷病名(ICD-10による),生活保護の有無,医療機関の種類(病院,診療所)にはχ2検定,年齢にはt検定,診療報酬請求点数の解析にはマンホイットニーのU検定を用いて,平成12年度と17年度の対象者を比較した。なお,レセプトには院外処方箋の出ているもの(処方箋ありレセプト)と出ていないもの(処方箋なしレセプト)があり,それぞれについて解析を行ったが,診療報酬請求点数では処方箋なしレセプトでのみ行った。
結果 主たる傷病名では気分(感情)障害(F3)(気分障害)が増えていた(p<0.0001)。全レセプトでは診療所で診療された対象者の割合が有意に増加していたが(p<0.0001),処方箋なしレセプトにおいては病院が約7割のままであった。1件当たりの診療報酬請求点数では有意な増加がみられ(p<0.0001),症状性を含む器質性精神障害(F0)(器質性精神障害)と統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害(F2)(統合失調症),成人のパーソナリティ及び行動の障害(F6)(人格障害),てんかんの診療報酬請求点数が有意に増加していた。
考察 患者調査によれば平成11年から17年にかけて気分障害による推計外来患者数が大きく増加していることから,外来患者数の増加が通院公費利用者の増加の背景にあると考えられる。通院公費利用者の医療機関では,特に院外処方箋を出している診療所が増加しているものと考えられる。診療報酬請求点数の増加には器質性精神障害,統合失調症,人格障害の診療報酬請求点数の増加が関わっていると考えられる。
結論 通院公費利用者の属性は精神障害の入院外診療における推計外来患者数と同様の傾向を有しており,通院公費利用者増加の背景には通院精神医療全般の患者の増加があると考えられる。
キーワード 精神障害者通院医療費公費負担制度,診療報酬明細書(レセプト),自立支援医療

 

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第55巻第3号 2008年3月

禁煙した勤労者の生活習慣の変化

高田 康光(タカタ ヤスミツ)

目的 職場の分煙化が進み,禁煙する勤労者が増加しているが,禁煙後の体重増加の問題が発生している。禁煙した勤労者の健康維持を支援する方法を検討する。
方法 職場の分煙活動が展開された2002年度から2006年度までの期間に禁煙した男性勤労者(禁煙群)64名を対象とした。その生活習慣を健康診断結果より後ろ向きに調査し,同職場に在籍した同年代の269名の喫煙勤労者(喫煙群)を対照として比較した。
結果 禁煙開始前には禁煙群,喫煙群に喫煙・運動・飲酒習慣,血圧,Body mass index(BMI)に有意な差を認めなかった。ただし,禁煙群では寝る前に食事をする習慣の割合がより高く,睡眠時間が少なかった。観察終了時に,喫煙群では低下した週1回以上運動する割合が,禁煙群では有意に増加していた。また,観察開始時に認めた禁煙群と喫煙群の食習慣,睡眠時間の有意差はなくなっていた。一方,観察終了時の禁煙群のBMIと血圧は,喫煙群に比べ有意に高値を示した。また,禁煙群で運動頻度が週1回以上増加しないと,BMIが対照喫煙群に比べて,有意に増加していた。
結論 喫煙を継続した群に比べ,禁煙した勤労者でBMI,血圧が高くなっていたが,同時に食事,運動習慣の改善を認めた。特に運動頻度が増加していたが,運動頻度が増えなかった勤労者での体重増加が顕著であり,禁煙直後の運動指導を体重増加の予防方法として考慮する必要性を示した。
キーワード 禁煙,喫煙,運動習慣,肥満,健康日本21

 

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第55巻第4号 2008年4月

新潟県中越地震で被災した児童による
避難生活で体験した出来事の評価

永幡 幸司(ナガハタ コウジ) 守山 正樹(モリヤマ マサキ) 鈴木 典夫(スズキ ノリオ)
坂本 恵(サカモト メグミ) 金子 信也(カネコ シンヤ)

目的 新潟県中越地震で被災した児童が,避難生活で体験した出来事をどのようにとらえていたのかを明らかにすることを目的とした。
方法 新潟県中越地震の際,全村避難した地域である,旧山古志村の小学生47名(男児24人,女児23人)を対象とし,2次元イメージ展開法と呼ばれるワークショップの手法(避難生活で体験したと考えられる31種類の出来事を書いたラベルの中から,各児童にとって特に印象的な出来事を表すものを10枚以内で選択してもらい,それらを体験の「いやさ」「うれしさ」という観点から評価し,2次元座標平面上に展開することで,生活のイメージマップを作成する)を用いて,児童自身に避難生活を振り返ってもらった。
結果 児童が「避難生活で体験した特に印象的な出来事」として選択したラベルには,学年差,性差はほとんどみられなかった。各児童が作成したマップにおける,各出来事を表すラベルが布置した座標値を基に,出来事ごとのラベルの散布図を作成したところ,それらの布置は,①いやさの評価に関わらず,うれしさが一定の評価であるもの,②いやではないと評価されたものほど,同時に,うれしいと評価されるもの,③いやさの評価とうれしさの評価の間に関係性のみられないものの3通りに分類でき,その中で,特に①については,うれしさの評価が高評価のものと,低評価のものに分類できることがわかった。そして,①のうれしさが高評価のものには,支援物資や励ましの手紙をもらったことが,①のうれしさが低評価のものには,地震による被害に関する出来事が,②には学校に関する出来事と家庭生活に関する出来事が,③には避難行動に関する出来事と避難所での直接的支援活動に関する出来事が,主として分類された。
結論 避難生活中に児童が体験した出来事は,皆がうれしいと評価するもの,皆がうれしくないと評価するもの,うれしさといやさの評価の間に負の相関関係がみられるもの,うれしさといやさの評価の間に相関関係がみられないものの4種類に分類できる。被災児童への支援のうち,物資や手紙の送付は児童にとってうれしい出来事として評価されるが,被災地において児童と直接接するような活動は,児童のニーズにあわなければ,うれしくない活動として評価されてしまう危険性がある。
キーワード 新潟県中越地震,被災児童,避難生活,2次元イメージ展開法,支援活動

 

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第55巻第4号 2008年4月

在宅要介護高齢者の主介護者における
介護負担感とその関連要因に関する検討

岡本 和士(オカモト カズシ) 原澤 優子(ハラサワ ユウコ)

目的 在宅介護者の介護負担感と心理的・精神的および家族環境との関連を明らかにする目的で,通所介護施設を利用する主たる介護者を対象に留め置き法による自記式質問紙調査を実施した。
方法 対象は2006年6月に研究協力が得られた通所介護施設の利用者250名のうち,主たる介護者を持つ195名を対象に自記式質問紙を用いて実施した。質問紙の配布は施設スタッフが通所サービスの際,介護者に直接手渡しにて行い,回収は介護者が調査用紙を直接施設へ郵送した。質問紙の回収数は152名(回収率77.9%)であった。このうち,欠損値のなかった122名を今回の解析対象とした。介護者の介護負担感の測定にはZarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)の8項目を用い,その合計点を対象者全体の3分位に基づき,高位1/3(高負担群)とそれ以外(低負担群)の2群に分類した。介護負担感と各要因の関連の検討は,介護負担感を従属変数,性,年齢のほか検討に用いた要因を独立変数としたロジスティック回帰分析にて行った。
結果 単変量解析にて高負担群と低負担群の間で有意差を認めた要因(健康状態,感情抑制,生きがい感,ストレス,家族のサポート状況)について,それらの独自の関連の程度をロジスティック重回帰分析を用いて検討した結果,「生きがい感(なし)」のオッズ比のみ有意(オッズ比4.995%信頼区間1.118.5)な関連を認めた。生きがい感の介護負担感への関連の程度を調べる目的で直接的な関連と他の要因を介しての間接的な関連の程度を比較した結果,生きがい感が介護負担感に直接的に関連する割合(91.2%)は間接的な関連のそれ(8.8%)に比べ高かった。
結論 介護に対する生きがい感をもつことが,介護負担感の低減に重要な役割を有する可能性が推測された。本研究で得られた結果は生きがい感など心理的・精神的活動性の保持・向上を目的とした,医療関係者のみならず心理の専門家などの他職種らとの連携による包括的な支援体制の構築の必要性を示唆する知見と考えられた。
キーワード 介護者,介護負担感,心理精神的要因,生きがい感,横断的研究

 

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第55巻第4号 2008年4月

ハイリスク高齢者における「運動器の機能向上」を
目的とした介護予防教室の有効性

清野 諭(セイノ サトシ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 金 美芝(キム ミジ)
深作 貴子(フカサク タカコ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ) 奥野 純子(オクノ ジュンコ)
田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 現在,新予防給付とともに地域支援事業における特定高齢者施策が自治体レベルで展開されている。しかし,特定高齢者レベルの者を対象とした運動介入の効果に関する報告は少なく,特定高齢者施策における有益な知見の提供が待たれている。そこで本研究では,特定高齢者を含むハイリスク高齢者(将来的に要介護となる可能性の高い高齢者)を対象に,「運動器の機能向上」を目的とした介護予防教室の有効性を身体機能,運動習慣,生活機能の変化より検討した。
方法 ハイリスク高齢者27名(78.4±6.1歳,男性7名,女性20名)を対象とした。週1回のグループ運動と,在宅での運動プログラムからなる介護予防教室を計14週間開催し,事前事後で身体機能および運動習慣,生活機能への変化を比較した。また,運動日誌を配布し,教室中および教室終了後8週間の在宅運動実践状況を確認した。
結果 体力測定10項目中,長座体前屈,ステップテスト,5回いす立ち上がり,Timed up and go,タンデムバランス,タンデムウォーキングの6項目において有意な改善が認められ,運動機能の著しい低下がみられる者の割合も有意に減少した。また,運動習慣を有する者の割合と運動頻度が有意に向上し,介護予防教室終了後8週間にわたって追跡できた11名は,介護予防教室中に比べて一週間当たりの在宅運動実践回数が有意に増加していた。しかし,生活機能には有意な変化がみられなかった。
結論 ハイリスク高齢者における「運動器の機能向上」を目的とした介護予防教室は,身体機能の維持・改善および運動習慣の形成に有効であることが示唆された。その一方で,生活機能への好影響についてはさらなる検討の余地があり,運動に付随する社会的・心理的効果など,身体機能以外の要素をも包括した総合的プログラムによって検討していくことが肝要と考えられた。また,介入終了後も運動習慣および身体機能を維持できるかといった長期的な効果を検証し,3カ月という教室期間が適当であるかについても議論していく必要がある。
キーワード 特定高齢者,介護予防教室,身体機能,運動習慣,生活機能

 

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第55巻第4号 2008年4月

地域保健医療福祉の取り組みの評価に重要な統計指標

世古 留美(セコ ルミ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)
加藤 昌弘(カトウ マサヒロ) 松田 智大(マツダ トモヒロ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)
畑 栄一(ハタ エイイチ)

目的 地域保健医療福祉の取り組みの評価において,地域保健関係者からみて重要な統計指標を明らかにする。
方法 都道府県・特別区・指定都市の健康福祉担当部局主管課長85人と保健所長535人に対して,調査票を配布・回収した。調査票は,8分野の141統計指標の中から,地域保健医療福祉の取り組みの評価においてとくに重要なものを複数選択するように求めるとともに,それ以外に重要な統計指標を自由回答形式で質問した。
結果 都道府県・特別区・指定都市は73人(85.9%),保健所は436人(81.5%)から調査票が回収された。地域保健医療福祉の取り組みの評価において,とくに重要と回答された割合が大きかった統計指標は,母子保健分野で「乳児死亡率」「乳幼児健康診査受診人員」等,健康増進分野で「喫煙習慣」「肥満者割合」等,疾病対策分野(生活習慣病)で「悪性新生物の死亡率」「糖尿病の有病率」「基本健康診査の受診率」等であった。疾病対策分野(感染症,結核,エイズ),特定疾患・精神保健福祉・歯科保健分野,高齢者保健福祉分野,医療分野,その他の分野でもいくつかの統計指標が挙げられた。それ以外の重要な統計指標に関する多くの自由回答が得られたが,特定の統計指標への集中はみられなかった。
結論 地域保健医療福祉の取り組みの評価において,地域保健関係者からみて重要な統計指標が選定され,その多くは主要な取り組みと密接に関係していると考えられた。
キーワード 保健医療福祉,統計指標,母子保健,健康増進,生活習慣病

 

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第55巻第4号 2008年4月

都道府県別の職域定期健康診断有所見率と
脳心血管疾患死亡率との関連性

若林 一郎(ワカバヤシ イチロウ)

目的 全国の事業所における定期健康診断の法定項目には,血圧,血中脂質,血糖などの生活習慣病に関連する項目が含まれている。本研究では都道府県別の事業所定期健康診断有所見率の意義を知る目的で,定期健康診断の各項目間での有所見率の相関および各項目有所見率と脳心血管疾患死亡率との間の相関について検討した。
方法 労働衛生統計における都道府県別の事業所定期健康診断有所見率と人口動態統計における都道府県別の主な脳心血管系疾患分類(心疾患,虚血性心疾患,脳血管疾患,脳出血,脳梗塞,くも膜下出血)の粗死亡率および年齢調整死亡率との間の順位相関を分析した。
結果 都道府県別の血中脂質の有所見率は血圧,貧血,肝機能,心電図の有所見率との間で比較的強い相関を示した。また,貧血および心電図の有所見率は血中脂質をはじめ,血圧,肝機能,血糖,尿糖のいずれの項目とも有意な相関を示した。都道府県別の粗死亡率との相関では,都道府県別の貧血,肝機能,心電図の有所見率が,いずれも心疾患,脳血管疾患,くも膜下出血,脳梗塞の粗死亡率と有意な相関を示した。都道府県別の年齢調整死亡率との相関では,貧血および心電図の有所見率が脳梗塞の死亡率と有意な相関を示した。一方,血圧,血中脂質,血糖,尿糖の有所見率はいずれの脳心血管疾患粗死亡率および年齢調整死亡率とも有意な相関を示さなかった。
結論 職域定期健康診断における各項目間の都道府県別有所見率は比較的良く相関するが,このうち動脈硬化のリスク要因の有所見率はその時点の人口動態統計での都道府県別脳心血管疾患死亡率には反映されないことが示唆された。
キーワード 職域保健,動脈硬化,有所見率,脳心血管疾患,死亡率,定期健康診断

 

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第55巻第5号 2008年5月

都道府県別生命表による平均寿命の地域差分析

仲津留 隆(ナカツル タカシ) 大西 雄基(オオニシ ユウキ)

目的 平成12年と17年それぞれの各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の違い(地域差)に対して,年齢別・死因別に寄与分解を試みることで,地域差の要因とその経年変化を明らかにすることを目的とする。
方法 各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の差(地域差)に対する年齢別の寄与は,全国の死亡率を順次,各都道府県の死亡率に置き換えたときの平均寿命の差として算出した。死因別の寄与は各年齢に対し,死亡率を死因別に分解することで同様に死因別寄与を求め,全年齢で足しあげた。
結果 女で1位の沖縄県の地域差は,年齢別には70歳以上が大きくプラスに寄与しており,また,死因別には3大死因が大きくプラスに寄与している。しかし,平成12年と17年との地域差を比較すると,70歳以上および3大死因のプラスの寄与が小さくなっており,地域差が縮小している。男で47位の青森県の地域差は,年齢別には中年層を中心にほとんどの年齢階級でマイナスの寄与となっており,また,死因別には3大死因と自殺がマイナスの寄与となっている。また,平成12年と17年の地域差を比較するとほとんどの年齢階級でマイナスの寄与がさらに大きくなり,死因別には,悪性新生物と自殺のマイナスの寄与が大きくなっている。
結論 各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の差(地域差)を年齢別,死因別に分析するとそれぞれの都道府県ごとに特徴のあることがわかった。また,地域差の経年変化を年齢別・死因別に分解することで,地域差の変化や平均寿命の都道府県別順位の変化の要因を詳細に分析できることがわかった。
キーワード 都道府県別生命表,地域差,年齢,死因,寄与

 

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第55巻第5号 2008年5月

生命表と年齢調整死亡率の関係について

齋藤 重正(サイトウ シゲマサ) 武井 亜起夫(タケイ アキオ) 大西 雄基(オオニシ ユウキ)

目的 死亡状況を表す生命表と年齢調整死亡率の関係について明らかにする。
方法 生命表と年齢調整死亡率に係る各指標の相関について調べてみた。また,島根(女)と沖縄(女)の平均寿命,年齢調整死亡率について,年齢階級ごとの影響を比較することにより,両者の差異について調べてみた。
結果 生命表と年齢調整死亡率の相関の高さが確認された。また,年齢調整死亡率は,中年齢階級の及ぼす影響が大きく,島根(女)の方が高くなる一方,平均寿命は,高年齢階級の及ぼす影響が大きく,沖縄(女)の方が高くなる様子が確認された。
結論 年齢調整死亡率では,死因別の年齢調整死亡率を算出しており,死因別死亡状況を比較することができる。一方,生命表では,年齢別の平均余命を算出しており,当該年齢以上の死亡状況を比較することができる。それぞれの指標に特長があり,必要に応じて両者を使い分けて活用することができる。
キーワード 都道府県別生命表,年齢調整死亡率,生存数,平均寿命,定常人口

 

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第55巻第5号 2008年5月

市区町村別にみた死因別死亡率のベイズ推定について

長谷川 功(ハセガワ イサオ)

目的 市区町村別生命表のような小規模地域における死亡状況を表す指標を算出する際に死因分析を行うことを目標として,小地域の不安定性を解消し,かつ,全死因については従来の推定方法との整合性を持つような死因別死亡率の推定方法を導入し,算出結果を検討する。
方法 従来の市区町村別生命表において中央死亡率をベイズ推定する際に用いるモデル(尤度関数を二項分布,事前分布をベータ分布)を多変数に拡張したモデルとして知られている多項分布とディリクレ分布との組を死因別中央死亡率のベイズ推定モデルとすることを提案する。さらに,導入したモデルにより算出される死因別中央死亡率(ベイズ推定値)を用いて死因を除去した場合の平均余命の延びと死因別死亡確率を試算して,モデルの有用性を検討した。
結果 試算した2種類の指標について,人口規模の小さな市区町村に対しては偶然変動の影響を抑えた結果が得られ,その一方で,人口規模の大きな市区町村に対しては,ベイズ推定を用いない方法とほぼ等しい結果が得られた。
結論 本稿で作成したベイズ推定値は小地域の死亡状況の分析手法として今後検討を重ねて活用されることが期待される。また,生命表以外の死因分析についても本稿と同様な方法で指標を作成できるかどうか今後研究する価値がある。
キーワード 市区町村別生命表,ベイズ推定,死因分析,平均余命の延び,死因別死亡確率

 

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第55巻第5号 2008年5月

最近のベイズ推定研究の小地域の人口動態指標推定への応用の研究

中田 正(ナカダ タダシ) 齋藤 重正(サイトウ シゲマサ) 六車 史(ムグルマ フミト)

目的 人口動態統計のような全数調査であっても存在すると考えられる「モデル誤差」の概念を導入し,小地域の指標推定において,最近のベイズ統計学の手法を用いることで,モデル誤差を克服することを目的とした。
方法 平成10~14年の高知県における市区町村別標準化死亡比について,二次医療圏ごとにベイズ推定した結果および県全体でベイズ推定した経験ベイズ推定値を算出し,ベイズ推定しない結果と比較した。
結果 ベイズ推定することで,小地域間の偶然変動によるばらつきを,かなり小さくできるという結果を得たが,地域選定の判断基準を得るまでは至らなかった。
結論 コンピューターの処理能力の向上により,厳密な計算はできなくともシミュレーションにより近似値を得る方法(MCMC法)が開発され,ベイズ推定の応用範囲が事前分布の制約を受けないところまで拡大したが,シミュレーション結果の妥当性には注意が必要である。小地域人口動態指標における地域選定の考え方として,より広い地域を設定すれば得られる統計指標は安定するが,小地域特性の反映度は薄くなるので,行政的に意味のある結果が得られるよう設定することが重要である。今後の課題として,地域選定の判断基準の分析と,新たな指標を設定し,ベイズ推定法等による計算とその妥当性について,さらに研究する必要がある。
キーワード 小地域,人口動態指標,モデル誤差,市区町村別標準化死亡比,ベイズ推定

 

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第55巻第6号 2008年6月

横浜市K区における,健康づくりに関連した
定年前中高年者の定年後の意識について

-第2報:量的調査の結果より-
船山 和志(フナヤマ カズシ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 岡 利香(オカ リカ)
平 智子(ヒラ トモコ) 齋藤 博(サイトウ ヒロシ) 鈴木 敏旦(スズキ トシアサ)
丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 保健行政サービスにおける政策立案には,住民の現状を正しく把握することが前提である。われわれは事前に前期高齢者の健康づくりの現状を把握するために実施した質的調査で抽出された「定年」という用語から,これに関連する状況を量的に把握することを目的に質問紙調査を実施した。
方法 調査対象者は横浜市K区内在住の40歳以上の男女5,000人を無作為抽出した。調査方法はプリコード式質問紙調査で,郵送配布,回収した。質問項目は,健康づくりの意欲,職場での定年後の過ごし方に関する講座の有無,定年後の活動内容の決定,定年後の知識(情報)の取得,定年後に行いたい活動内容,である。
結果 定年前から定年後の活動を決めていたり,定年後の知識(情報)を得たいと考えている者ほど健康づくりの意欲が高かった。しかし,過半数の者が定年後の活動内容を決めておらず,多くの職場では,定年後の過ごし方に関する講座はなかった。性別にかかわらず,定年前から定年後の知識(情報)を得たいと7割以上が考えていた。定年後に行いたい活動では,「自治会・町内会活動」については6割以上の者が参加したくないと考えていた。「行政の主催する文化教養講座」「地域のボランティア活動」では,5~6割の者が参加したいと考えており,女性の方が参加したいと考えていた。
考察 定年前から定年後の活動を決めていたり,定年後の知識(情報)を得たいと考えている者ほど健康づくりの意欲が高いという結果は,事前の質的調査の結果と矛盾しなかった。多くの者が定年前から定年後の知識(情報)を得たいと考えているものの,職場に定年後の知識(情報)を得る講座などがない実態が明らかになった。このことから,今後は広範囲の産業保健活動と連携し,定年前からの定年後の社会活動参加の知識(情報)取得をサポートすることの重要性が,地域の健康づくりの観点から示唆された。また,「定年」は男性の生活背景として得られたものであるが,女性においても定年前からのサポートが重要と考えられた。
キーワード 保健行政,定年,健康づくり,質的調査

 

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第55巻第6号 2008年6月

利用者主体の福祉サービスに対する職員と利用者の認識の乖離

渡辺 修宏(ワタナベ ノブヒロ) 森山 哲美(モリヤマ テツミ)

目的 利用者主体の福祉サービスを提供すべき福祉施設において,その提供場面の職員と利用者の相互関係に焦点を当て,福祉サービスに対する両者の認識の乖離(かいり)を検討することを目的とした。
方法 調査対象はA県内の障害者支援施設14カ所(身体障害者療護施設)の職員451名(回収率74.1%)と利用者228名(回収率67.1%)であり,留置法か直接聞き取りのどちらかによる悉皆(しっかい)調査を,2005年6月から同年9月の期間に実施した。福祉サービスの実践場面を具体的に捉えるため,職員と利用者の関係を「かかわり」という言葉で表現した。そして,それに対する両者の認識を把握するための質問20項目を用意し,それらに対する回答を求めた。なお,それらの質問項目は3つのカテゴリー「職員の素養(7項目)」「職員間の関係(3項目)」「利用者への支援のあり方(10項目)」に区分した。
結果 「かかわり」に対する職員と利用者の認識を,現状評価の両者の比較,期待の両者の比較,職員の現状評価と期待の比較,利用者の現状評価と期待の比較,の4つの視点で分析した。結果,職員は,福祉サービスの実践に際し同僚との関係に意識を向け,利用者は,職員の資質や職員同士の関係よりも職員による利用者支援に目を向けているという乖離がみられた。また,「かかわり」に対する職員と利用者のそれぞれの現状評価と期待との比較から,両者ともかかわりが現状より良くなることを強く望んでいることがわかった。あるいは,現状のかかわりに彼らが満足していないと考えられ,両者とも改善の必要性を感じているといえた。しかし,利用者の現状評価と期待の乖離は,職員のそれよりも明確であった。
結論 本調査によって,かかわりに対する職員と利用者の認識に乖離が認められた。それは,職員は,利用者と比べて同僚との関係に意識を向け,利用者は,職員の資質や職員同士の関係よりも職員による利用者支援に目を向けているという乖離であった。また,かかわりに対する「理想と現実」のギャップは,職員よりも利用者のほうが大きかった。職員が考えている以上に,利用者は職員とのかかわりの改善を求めているといえるであろう。職員と利用者が,それぞれの立場からの視点をもち,その違い(乖離)を知って,双方向的な理解を深めることで利用者主体の福祉サービスが促進されると考える。
キーワード 利用者主体の福祉サービス,職員と利用者のかかわり,認識の乖離(かいり)

 

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第55巻第6号 2008年6月

効果的ながん対策による死亡減少効果の一試算

井岡 亜希子(イオカ アキコ) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ) 大島 明(オオシマ アキラ)

目的 大阪府におけるがん年齢調整死亡率は,1985年以来一貫して男女とも全国ワーストワンであり,大阪府では,がんの予防,診断,治療を含めた総合的かつ効果的ながん対策が,疾病対策上の最重要課題である。そこで,大阪府において効果的ながん対策が実現された場合に,大阪府全体でどの程度の死亡減少が見込めるかを試算する。
方法 がん対策として,①喫煙対策,②肝炎ウイルス検診体制の充実,③早期診断の推進,④がん医療の最適化,に注目し,各々が次に示す目標を達成したと仮定した場合の死亡減少割合を試算した。①については,喫煙率が半減した場合を仮定し,各部位(食道,胃,肝臓,膵臓,肺,子宮頸,膀胱,全部位)における死亡減少割合を試算した。②については,受診率が現状の20%から50%に向上した場合を仮定し試算した。③については,進行度分布が最も良い,すなわち限局割合が最も高い県(胃と肺では新潟県,大腸では長崎県,乳房では山形県,子宮では宮城県)の分布が大阪府で実現されたと仮定し試算した。④については,13部位(食道,胃,大腸,肝臓,胆のう,膵臓,肺,乳房,子宮,卵巣,前立腺,膀胱,リンパ組織)について,生存率分析の結果から受療が望ましいと判断される医療機関で当該がん患者全員が受療した場合を仮定し試算した。
結果 全部位の死亡減少割合は,喫煙率が半減した場合や早期診断が進んだ場合は各々10.8%,がん医療の最適化が実現した場合は9.8%であった。部位別にみると,死亡減少割合が20%以上であったのは,喫煙率が半減した場合では肺と食道,早期診断が進んだ場合では大腸,子宮,胃,がん医療の最適化が実現した場合では子宮,前立腺,リンパ組織であった。肝炎ウイルス検診の体制が充実した場合の肝がん死亡減少割合は10.8%であった。
結論 喫煙対策,肝炎ウイルス検診の体制の充実,早期診断の推進,がん医療の最適化,の4つの対策が達成された場合の死亡減少割合は大きく,これらががん対策として効果的であることが示唆された。
キーワード 喫煙対策,肝炎ウイルス検診,早期診断,がん医療,死亡減少割合

 

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第55巻第6号 2008年6月

岐阜県における国民健康保険からみた糖尿病による受診の動向

丹下 文恵(タンゲ フミエ) 日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 森 千夏(モリ チナツ)
冨田 孝子(トミダ タカコ)

目的 糖尿病による医療機関受診状況および受診に影響を及ぼす因子について分析し,地域における一次予防を中心とした糖尿病対策のための資料とする。
方法 岐阜県全体における国民健康保険での糖尿病による受診状況の推移,性・世代別による特徴,地域による特徴,受診に影響する因子について分析した。
結果 糖尿病による受診率および被保険者1人当たり医療費ともに,すべての性・年齢,地域において上昇を示した。出生コホート別に受診率を比較すると,すべての世代で加齢とともに高くなっており,糖尿病では若い世代ほど受診率が高くなっていた。地域別では,平野部の市およびその周辺で受診率が高くなっていた。男では人口密度が受診率と正の相関を示したが,男女とも人口10万対医師数または医療施設数との有意な関連はみられなかった。
結論 糖尿病による受療開始の低年齢化と加齢に伴う増加が顕著に認められ,すべての者を対象とした糖尿病の対策の強化は急務であると結論した。
キーワード 糖尿病,国民健康保険,受診率,医療費,出生コホート

 

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第55巻第6号 2008年6月

結核罹患率の高い地域の接触者は
潜在性結核感染の割合が高い

和田 雅子(ワダ マサコ) 原田 登之(ハラダ ノブユキ) 樋口 一恵(ヒグチ カズエ)
三澤 典弘(ミサワ ノリヒロ) 中坪 直樹(ナカツボ ナオキ) 塚本 和秀(ツカモト カズヒデ)
橋本 栄(ハシモト サカエ)

目的 QFT-2Gを用いた結核患者の接触者検診を行い,2保健所の陽性率の結果を比較し,結核対策の問題点を考察して,今後の結核対策に資する。
方法 肺結核喀痰塗抹陽性患者に接触した者で多摩立川保健所と川崎市川崎保健所で接触者検診を受け,研究に同意した者に対し患者診断2カ月後に,BCG接種歴,既往結核治療歴,胸部X線上の治癒痕の有無,既往の結核患者接触歴など必要な項目を調査票で調査し,同時にQFT-2Gの採血を行い,結果を比較した。発病の有無を調べるため接触者は6カ月ごと胸部X線撮影を行った。また,結核感染が疑われた者に対して,発病予防のためにイソニアジドの予防投薬を勧めた。
結果 研究期間中に研究に同意した者は多摩立川保健所,川崎市川崎保健所でそれぞれ308名,183名であった。以前に感染したと疑われた者は分析対象から除外した結果,それぞれの保健所で272名,138名が分析対象となった。QFT-2Gの陽性率はそれぞれ8.1%,18.8%であり,川崎市保健所の接触者の方が有意に高かった(P<0.01)。患者の背景を比較すると川崎保健所の患者は男性が多く,ホームレスまたは簡易宿泊所入所中の患者が40.4%と高く,胸部X線学会病型の広がり3の割合,喀痰塗抹3+の割合が高かった。
結論 本研究で川崎市保健所管内の接触者のQFT-2G陽性率が高かった理由は,喀痰塗抹3+の重症結核患者に狭い部屋で接触しているためと思われた。罹患率の高い地域ではハイリスク集団に対し効果的な検診を行い,感染性肺結核患者発見に努め,QFT-2Gを用いた接触者検診を行って,積極的に潜在性結核治療を開始し,服薬の完了を支援することが重要である。
キーワード 接触者検診,QFT-2G,塗抹陽性肺結核,結核罹患率

 

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第55巻第7号 2008年7月

クロスロードゲームを用いたリスクコミュニケーショントレーニング

-食の安全をテーマとして-
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 吉川 肇子(キッカワ トシコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 食の安全に関する教育ツールとしてリスクコミュニケーショントレーニングツールを開発し,その評価を行った。
方法 教育ツールとして,ゲーミング・シミュレーションを取り入れることとし,防災におけるリスクコミュニケーショントレーニングツールとして開発されたクロスロードゲームの食の安全編を作成した。このゲームを食の安全に関するステイクホルダーが参加した研修にて試用し,参加者を対象とした質問紙調査によって評価を行った。
結果 質問紙調査の結果から,参加者は,様々な意見があることを実感し,ゲームの実施が楽しく,ゲームの実施が有意義であると実感し,今後,実施をしていく必要性を感じている状況が伺えた。その結果,クロスロードゲーム食の安全編は,リスクコミュニケーショントレーニングのツールとして有用であると思われた。一方,ゲームで取り上げている内容については妥当性を検討し,食の安全に関する状況の変化に伴い改訂の必要があると考えられた。また,クロスロードゲーム食の安全編の普及が,リスクコミュニケーションの資料不足解消に貢献できると思われた。
キーワード 食の安全,リスクコミュニケーション,クロスロードゲーム,ゲーミング・シミュレーション

 

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第55巻第7号 2008年7月

GISを用いた都道府県単位の看護職員離職率の
地図化および地域格差の検討

岡戸 順一(オカド ジュンイチ) 坪井 塑太郎(ツボイ ソタロウ)

目的 本研究では,GISGeographic Information System:地理情報システム)を用いて,都道府県レベルで看護職員の離職率を地図化し,その地域格差について検討することを目的としている。
方法 看護職員の離職率に関するデータは,日本看護協会の病院における看護職員需給状況調査から取得している。GISを用いた地図化については,常勤看護職員では2003年度から2005年度までの離職率,新卒看護職員では2005年度の離職率にかかわる地図を作成し,都道府県および地域ブロックレベルにおける分布事象を考察している。さらに直近のデータである2005年度の離職率については,都道府県別の病院数および200床以上の規模の病院数の分布との比較から,類似の傾向が認められた常勤看護職員の離職率を予測変数,病院数,200床以上の病院数を説明変数とする多項式回帰モデルによる回帰分析を行っている。
結果 常勤看護職員の離職率については,東京圏と大阪圏において高い水準を維持しており,全体として西高東低に類する分布が見いだされた。一方,新卒看護職員の離職率については,東京圏を除く東北地方から近畿地方に至る太平洋側で低い傾向がみられた。また,病院数および200床以上の病院数については,常勤看護職員の離職率との関連性が認められ,離職率の決定要因としての可能性が示唆された。
結論 本研究から,看護職員の離職率について,地理的特性や空間的位相関係から検討することの可能性が示唆された。看護職員の離職率を検討する際には,適切な分析単位の設定が不可欠と考えられる。
キーワード GISGeographic Information System:地理情報システム),看護職員,離職率,地域格差

 

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第55巻第7号 2008年7月

入院外レセプトにおける主傷病の記載状況について

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 畝 博(ウネ ヒロシ)

目的 複数の傷病名が記載された診療報酬明細書(以下,レセプト)における主傷病の明示がどのように行われているかを把握した上で,現行の主傷病に基づいたレセプト調査およびレセプトのオンライン化に関する問題点を明らかにすることを目的とした。
方法 ある県の健康保険組合連合会の2007年5月診療分の被保険者本人の入院外レセプト7,819件について,主傷病を明示する事項が付加されたすべての傷病名を傷病名記載欄の各行ごとに連結不可能匿名化を実施した上でデータベース化した。各レセプトごとに主傷病を明示する事項を有する傷病名記載欄の行数,各行に記載されている主傷病数,主傷病を明示する事項を有する傷病名の総数を集計した。
結果 7,819件のレセプト中,主傷病名を明示する事項が付加されたレセプトは4,823件(61.7%)であり,6,462行の傷病名記載欄に主傷病を明示する事項が付加されていた。主傷病を明示する事項が付加された傷病名が複数認められたレセプトは合計で1,246件(15.9%)であった。複数の主傷病が記載されていた傷病名記載欄は全体の7.9%(509行)であり,主傷病を明示する事項が付加された傷病名数の最大値は6であった。複数の傷病名に主傷病を明示する事項が付加されていた傷病名記載欄を有するレセプトは447件(9.3%)であった。
結論 現行の紙媒体によるレセプトにおいて,主傷病の明示に区切り線を用いた場合には,診療開始日が同一の複数の傷病名のすべてが主傷病と判定される。診療報酬明細書等の記載要領等において主傷病および副傷病の明確な定義は存在しないが,診断群分類別包括評価方式におけるレセプトについては,医療資源を最も多く投入した傷病名および医療資源を2番目に多く投入した傷病名を記載することとなっている。現行の紙媒体におけるレセプトの現状と課題を十分把握したレセプト記載事項の設定を行った上でオンライン化が実施され,レセプト記載情報の全項目が利用可能となれば,レセプトを用いた統計調査がより医療現場の現実を反映可能になる。
キーワード 診療報酬明細書(レセプト),主傷病,副傷病,入院外

 

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第55巻第7号 2008年7月

高不安者における不眠傾向および運動習慣による
睡眠改善効果に関する研究

田口 雅徳(タグチ マサノリ) 寺薗 さおり(テラゾノ サオリ) 浜崎 隆司(ハマザキ タカシ)
平井 誠也(ヒライ セイヤ)

目的 今日,多くの先進諸国において睡眠障害は社会問題の1つになっている。睡眠障害の原因については,これまでにも種々の要因が検討されてきたが,本研究では性格的な不安傾向の強さ(特性不安)を取り上げ,不眠症状との関連を検討することとした。さらに,本研究では高不安者の不眠症状を改善しうる要因として運動習慣をとりあげ,その睡眠改善効果について明らかにすることを目的とした。
方法 調査対象は首都圏内の私立大学に通う大学生286名であった。大学内の教室において質問紙を配布し,調査への同意が得られた者に対してのみ回答を求めた。有効回答率は94.4%であった。特性不安については状態-特性不安尺度(STAI)を使用して測定した。質問項目にはこの他に,就寝・起床時刻,眠りの深さ,目覚めの気分,入眠や睡眠維持,寝不足感に関する項目,さらに日頃の運動頻度と運動時間を尋ねる項目などが含まれていた。
結果 STAIのうち特性不安尺度の得点に基づいて高不安群と低不安群を抽出した。両群間で睡眠に関する各指標に違いがあるかを検討した結果,高不安群では入眠潜時が長くて眠りが浅く,睡眠維持が困難であること,また,寝不足感が強く,目覚めの気分が悪いことが明らかとなった。つぎに,運動習慣による高不安者の睡眠改善効果について検討した。高不安群について,まったく運動しない非運動群と,ほぼ毎日または毎日60分以上運動する運動群に分けて,睡眠に関する各指標を比較した。その結果,特性不安が高い者であっても高い頻度で運動する者はまったく運動しない者に比べて睡眠時間が長く,目覚めの気分がよいことが示された。
考察 特性不安の高さも不眠を引き起こす1つの要因であることが示された。さらに,こうした特性不安が原因で起こる不眠症状は運動習慣を形成することによってある程度緩和される可能性があることが示唆された。
キーワード 睡眠障害,特性不安,運動習慣,大学生

 

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第63巻第5号 2016年5月

勤労者における介護の有無と
精神的健康度,身体活動量に関する検討

中原(権藤) 雄一(ナカハラ(ゴンドウ) ユウイチ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ) 甲斐 裕子(カイ ユウコ)
朽木 勤(クチキ ツトム) 内田 賢(ウチダ ケン) 永松 俊哉(ナガマツ トシヤ)

目的 介護を必要とする人は年々増加しており,今後働きながら介護をする人が多くなることが予想される。仕事を伴いながらの介護は,心身ともに負担が大きいと推察されるが,勤労者における介護の実態ならびに,その精神的健康度や身体活動量を調査した研究は見当たらない。そこで本研究は,勤労者を対象に精神的健康度と身体活動量を介護の有無別ならびに性差について検討することを目的とした。

方法 東京都内の健診センターにおける受診者のうち,有職者かつ調査データに不備がない9,119名を分析対象とした。質問紙により,学歴や経済状況などの属性項目,介護の有無,精神的健康度(K6ならびに睡眠時間),身体活動量(IPAQ-long)について質問を行った。質問に関する調査用紙は,受診日の約2週間前に本人宛に郵送し,健診当日に回収した。

結果 介護者の割合は,男性は5,045名中200名(4.0%),女性は4,074名中276名(6.8%)であり,男性よりも女性の方が介護を行っている割合は高かった。男女ともに介護者は非介護者に比してK6の点数が高く,精神的健康度が低かった。さらに女性の介護者は非介護者より睡眠時間が短かった。自宅での活動量は男女ともに介護者の方が非介護者よりも多かったが,この傾向は女性において顕著であり,特に自宅での活動量が40メッツ・時/週以上の者はそれ未満の者と比べK6の点数が高かった。また,総活動量においても,女性では介護者は非介護者に比して活動量が多かった。一方,仕事,移動,ならびに余暇での活動量は,介護の有無や性別による違いはみられなかった。

結論 介護者は非介護者と比べ精神的健康度が低く,自宅での活動量および総活動量が多いことがわかった。特に,女性介護者は睡眠時間が短く,総活動量が多く,男性介護者とは異なることが示された。勤労者における介護は,心身ともに負担が大きく,女性においてはその傾向は顕著であることが示唆された。負担軽減のためには,家族のサポートやフォーマルサポートの活用が必要であると思われる。

キーワード 勤労者,家族介護,精神的健康度,身体活動量

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第55巻第7号 2008年7月

介護保険法改正によるサービス利用制限
の影響と残された課題

-東京都の地域包括支援センターへの調査から-
大塚 理加(オオツカ リカ) 菊地 和則(キクチ カズノリ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ)

目的 制度改正に伴うサービス利用制限(特殊寝台を除く)が,利用者の生活に与えた影響を示し,今回の制度改正における未だ解決されていない問題点を明確化し,予防給付における適切な利用者支援のあり方を検討することを目的とする。
方法 東京都内100カ所の地域包括支援センターを対象とし,構造的な質問を用いた質問紙法で,要支援1,2となった利用者の制度改正後の生活への適応が困難な事例として,生活・身体機能の低下した事例,保険外サービス利用の増えた事例,予防給付サービスの利用を停止した事例,また,適応が良好な事例として,利用者支援を適切に実施できた事例について,それぞれ具体的な記述を求めた(郵送調査,回収率39%)。これらの事例について,それぞれの特性から類型化を試み,予防給付サービスへの適応に関連する要因を分析する。
結果 通所介護サービスの利用者において,不適応事例では,外出の機会が減少し,身体・生活機能の低下が生じていた。適応事例では,外出の機会の増加が認められた。また,訪問介護サービスの利用者では,不適応事例において,生活の維持に必要なサービスの不足が示された。しかし,適応事例では,ヘルパーの援助による生活機能の向上が認められた。
結論 今後の課題として,介護予防の認定基準の検討と,利用者の状況に即したサービスの質と量の確保が重要であると考えられる。
キーワード 介護保険制度,予防給付サービス,在宅サービス,生活機能,ブール代数分析

 

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第55巻第8号 2008年8月

老人福祉施設の経営指標に関連する要因の検討

柿本 貴之(カキモト タカユキ) 安部 猛(アベ タケル) 萩原 明人(ハギハラ アキヒト)

目的 老人福祉施設の経営に関しては,財務体質の強化につながる経営手法を見出すことが喫緊の課題である。さらに,適正な経営状態を保持するための要因を特定することも必要である。
方法 本研究では,A県内のそのうち老人福祉施設(73施設)を対象に,自記式質問票を用いた調査を行い,施設の経営状況に関連する要因を検討した。
結果 73施設中52施設から回答が得られた(回収率71%)。対象施設の施設入所利用率は8割を超え(84%),事業活動収入に占める人件費の割合は6割弱で(57%),従業者1人当たり事業活動収入は3.70から7.78百万円であった。施設の経営状態に関連する要因を特定するため,事業活動収入経常収支差額比率を目的変数とする重回帰分析を行ったところ,唯一,人件費率が有意な説明変数であった(p<0.01)。
結論 施設の経営状態は人件費に大きく依存しており,施設の入所利用率や待機率といった他の要因は関係していないことが示唆された。
キーワード 老人福祉施設,経営,事業活動収入

 

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第55巻第8号 2008年8月

農村地域住民の精神的健康度と首尾一貫感覚

畑山 知子(ハタヤマ トモコ) 本城 薫子(ホンジョウ カオルコ) 平野(小原)裕子(ヒラノ(オハラ) ユウコ)
白浜 雅司(シラハマ マサシ) 熊谷 秋三(クマガイ シュウゾウ)

目的 農村地域在住の中高年の精神的健康度と首尾一貫感覚(Sense of coherence; SOC)の実態を明らかにし,精神的健康・不健康と首尾一貫感覚の高低の組合せによって満足度や幸福感などの生活の質(Quality of life; QOL)に相違があるかどうかを,横断的デザインを用いて検討することとした。
方法 佐賀県旧神埼郡三瀬村在住の4069歳(2003年9月1日時点)のすべての村民618名を対象とした。平成15年9月に地区の自治会を通じて質問紙を配布し,回答方法は自記式郵送法とした。調査項目には,生活と健康に関する質問紙(基本属性,疾患および身体障害の有無,健康に関する意識,行動・生活習慣,満足感,主観的健康感,ソーシャルサポート),精神的健康度(General Health Questionnaire30項目版;GHQ30),首尾一貫感覚SOC尺度13項目版を用い調査した。
結果 有効回答数は336名(54.4%)であり,男性151名,女性185名であった。精神的不健康(GHQ≧7)と判定されたものは155名(46.1%)と高頻度であった。SOCの平均は59.3±12.5点であり,60点以上をSOC高値群,59点以下をSOC低値群と設定した。GHQの総合点とSOC得点の間には有意な負の相関関係が認められた(r=-0.527,p<0.01)。精神的健康・不健康とSOCの高低を組合せ,4群間の背景要因および住民の満足度や幸福感の状況について検討した。その結果,同居者がいること,疾患および身体障害(疾患によるものを含む)を有していること,主観的健康度,各種の満足度,幸福感,本音を話せる人がいる割合に有意差を認めた。満足度および幸福感に関しては,精神的健康かつSOCが良好である群の満足度が約80%であるのに対して,精神的不健康かつSOC低値群では4060%の範囲であった。一方,精神的不健康と判定されたものでも高いSOCを有しているものでは満足度は高く保たれていた。
結論 農村地域住民の精神的健康度は低く,その多くがストレス状態にあることが明らかとなった。また,精神的に健康である場合はSOCの高低はQOLに影響しないが,精神的不健康である場合にはSOCの高低がQOLの保持に関与する可能性が示唆された。
キーワード 地域中高年者,精神健康度,首尾一貫感覚,幸福感,満足度

 

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第55巻第8号 2008年8月

看護職の喫煙状況と医療の現場における
喫煙に関する意識の構造

佐藤 康仁(サトウ ヤスト) 加藤 種一(カトウ タネカツ)

目的 本研究は看護職を対象として,喫煙と健康に関する行動および意識について,喫煙状況によりどのように異なるのか,またその構造を明らかにすることを目的とした。
方法 調査は2007年1月に沖縄県にて准看護師を対象に行った。調査票は対象者が集合している状態で配布,記入,回収を行った。回収数は213人,回収率は93.0%であった。
結果 前喫煙者においては「医療従事者は率先してたばこの害を伝える(66.7%)」「医療従事者の喫煙は好ましくない(58.3%)」「医療従事者の喫煙は患者に悪い影響を与える(70.8%)」および「患者はたばこを吸わない方がよい(70.8%)」の割合が高くなっていた。非喫煙者においては「病院・診療所は全面禁煙にする(65.9%)」「医療従事者に対して喫煙防止教育を行う(44.2%)」「医療系学生に対して喫煙防止教育を行う(48.6%)」「患者に対して喫煙防止教育を行う(55.8%)」の割合が高くなっていた。多変量解析の結果,現在喫煙者と非喫煙者においては,喫煙状況は「医療従事者の喫煙は好ましくない(-0.24)」に直接的に関連しており,「医療従事者の喫煙は患者に悪い影響を与える(0.57)」「患者はたばこを吸わない方がよい(0.25)」には間接的に関連していた。現在喫煙者と前喫煙者においては,喫煙状況は「患者はたばこを吸わない方がよい(-0.35)」に直接的に関連していた。
結論 本研究より,喫煙状況の違いにより看護職の喫煙に関する意識や患者の喫煙について考え方が異なることが明らかとなった。看護職が健康増進・疾病予防活動や患者教育・健康教育に取り組む際には看護職の喫煙状況を考慮することで,より効果的な活動が期待できると考える。
キーワード 喫煙,健康,行動,意識,構造

 

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第55巻第8号 2008年8月

知的障害者施設職員の職業意識の実情と課題

三原 博光(ミハラ ヒロミツ) 松本 耕二(マツモト コウジ) 豊山 大和(トヤマ ヒロカズ)

目的 平成18年度の「障害者自立支援法」施行以降,知的障害者施設職員の職業意欲が低下したと福祉関係者によっていわれている。そこで,アンケート調査を通して,知的障害者施設職員の職業意識の実情と課題を明らかにすることを本研究の目的とした。
方法 山口県,広島県,岡山県,兵庫県内の知的障害者施設(通所授産・更生施設,入所更生施設など)の職員を調査対象者とし,質問紙によるアンケート調査を実施した。
結果 181名の職員から回答を得た。その結果,6割が現在の仕事に満足していると回答し,主な理由として,施設利用者との触れ合いをあげていた。仕事の将来の夢としては,「自分の実践の質を高めたい」「福祉のプロになりたい」などがあげられた。また,福祉職を希望する学生達へのアドバイスについて,「給与が安く,仕事はきついが,素晴らしい仕事」と3割が回答していた。しかし,7割が現在の給与には「不満足である」と回答し,8割が同年代の他の職業従事者に比べて給与が安いと感じていた。7割は,現在の仕事を継続したいと回答していたが,半数は転職も考えていると回答し,その理由として「給与が安い」「長期休暇などの休みが取れない」などをあげ,職員の揺れる気持ちが垣間見られた。また,半数は障害者自立支援法の「施設利用者1割負担」などを批判していた。
結論 施設職員は,利用者との関わりには満足しているが,給与や休暇などの待遇には不安を感じていた。特に障害者自立支援法に対しては,職員は強く不満を感じていた。今後,知的障害者施設職員の職業意欲の持続のためには,彼らに対する待遇の改善が必要であると考えられる。
キーワード 知的障害者施設,職員,職業意識,障害者自立支援法

 

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第55巻第8号 2008年8月

脳卒中発症登録を用いた在院日数に影響を与える要因の観察

渡辺 晃紀(ワタナベ テルキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 塚田 三夫(ツカダ ミツオ)
宮古 真奈美(ミヤコ マナミ) 青山 旬(アオヤマ ヒトシ)

目的 地域での脳卒中の医療連携体制の検討のために,県域での脳卒中発症登録の情報を用いて,主に急性期治療を担う専門的な医療機関での在院日数,および在院日数に影響を与える要因を観察することを目的とした。
方法 対象は,2005年1月~200712月(3年間)に栃木県内の脳卒中専門医療機関の協力により詳細な登録票で登録された5,360人のうち,死亡682人,診断病型がTIA(一過性脳虚血発作)または不明282人,在院日数不明282人を除いた4,114人(男2,289人,女1,825人)である。診断病型別に,在院日数の分布を観察し,在院日数の自然対数を目的変数とし,説明変数を性,年齢,初発再発の別,推定発症と受診の間隔,受診時意識障害,入院医療機関がDPC対象(診断群分類による包括評価)病院か,入院医療機関の回復期リハビリテーション病棟の有無,入院中のリハビリテーション実施とした重回帰分析を行った。
結果 在院日数の中央値は,くも膜下出血(n=371)では40日,脳出血(n=979)では38日,脳梗塞(n=2,764)では24日であった。重回帰分析で以下の説明変数が在院日数延長に寄与する有意な因子として抽出された。くも膜下出血では入院中のリハビリテーション実施,脳出血では入院中のリハビリテーション実施,受診時の意識障害,入院医療機関に回復期リハビリテーション病棟あり,性が女,年齢,脳梗塞では入院中のリハビリテーション実施,受診時の意識障害,入院医療機関に回復期リハビリテーション病棟あり,入院医療機関がDPC対象病院である,性が女,年齢であった。いずれの病型も入院中のリハビリテーション実施が比較的大きな影響として認められた。
結論 在院日数に影響する要因としては,受診時の意識障害などの病態に関する因子のほか,入院医療機関でのリハビリテーションの実施など医療機関の機能や特性に関する因子も認められた。医療計画など地域での医療連携体制を検討する場合には,地域の医療資源の特性を考慮する必要があることが示唆された。
キーワード 脳卒中,脳卒中登録,在院日数,リハビリテーション,DPC

 

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第55巻第10号 2008年9月

一保健所管内の小・中学生を対象とした喫煙行動と
関連要因に関する大規模調査研究(第3報)

-小・中学生の喫煙行動と保護者による養育状況との関連-
藤田 信(フジタ マコト)

目的 小・中学生の喫煙行動と両親による養育状況との関連性を明らかにして,小・中学生の喫煙の解消に資することを目的とする。
方法 静岡県A保健所管内の小学校35校,2,428名,中学校17校,2,316名に対して,無記名自記式の調査票によるアンケート調査を実施した。
結果 家族・友人からの喫煙の勧誘について,小学生では「兄姉」「友人」から喫煙を勧誘された者の喫煙経験率は36.8%,43.9%と比較的高く,「兄姉」から勧誘された者は現在喫煙率も10.5%と比較的高い傾向で,現在喫煙に兄姉の影響が大きかった。中学生では,「父母」「兄姉」「友人」から勧誘された者の喫煙経験率は42.3%,38.6%,35.5%,現在喫煙率はそれぞれ11.5%,11.3%,12.4%と比較的高く,現在喫煙への父母,兄姉,友人の影響はほぼ同等であった。同居する家族の禁煙者について,小学生では例数が少なくコメントできないが,中学生では「祖父」「父」「姉」が禁煙した者の前喫煙率は7.6%,7.4%,9.1%,現在喫煙率はそれぞれ2.3%,1.9%,なしと低い傾向であった。喫煙に対する両親のしつけ方と喫煙行動の関係について,中学生で統計上有意な関係が認められ(p=0.001),喫煙経験の割合は,「身体に悪い」21.4%,「子どもは吸うな」10.3%,「家の中で吸いなさい」100.0%,「何も言わない」31.6%,「知らない」18.1%であった。子どもに対する両親の一般的なしつけ方と喫煙行動について,小学生が喫煙経験,中学生が喫煙経験・現在喫煙に関して統計上に有意な関係が認められ,喫煙経験率と現在喫煙率が「叱る」から「怒鳴る」「殴る」になるにしたがって高くなり,「何もしない」は「怒鳴る」と同程度であった。両親の授業参観の出席と喫煙行動について,小学生が喫煙経験,中学生が喫煙経験・現在喫煙に関して統計上に有意な関係が認められ,小学生と中学生ともに「いつも来る」から「時々来ない」「来ないこと多い」「来ない」になるにしたがって前喫煙率と現在喫煙率が高くなった。「子ども部屋の有無」と喫煙行動について,小学生と中学生ともに「共有」に比べて「なし」「個室」の喫煙経験率が高い傾向であった。子ども部屋の施錠について,小学生と中学生ともに喫煙経験率と現在喫煙率に有意な変化はなかった。
考察 本研究の結果により,小・中学生の喫煙行動は同居家族と友人に大きく影響され,両親の喫煙その他に対するしつけ方が小・中学生の喫煙行動に関係していたことから,その喫煙防止のためには,家族等の周囲の関係者を含めて小学生から中学生,高校生までの一環した喫煙防止教育の実施が必要であるとともに,両親に対して小・中学生の喫煙防止に関して指導助言することが重要と考えられる。また,地域や企業を含めた社会全体の理解と支援の下に,両親が授業参観などの学校行事に参加することにより,学校教育,ひいては小・中学生本人への関心の深さを示す必要があると考えられる。
キーワード 小・中学生,喫煙行動,両親(保護者),喫煙の勧誘,しつけ方,授業参観

 

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第55巻第10号 2008年9月

介護保険に基づく平均自立期間の算定方法の検討

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 加藤 昌弘(カトウ マサヒロ)
林 正幸(ハヤシ マサユキ) 渡辺 晃紀(ワタナベ テルキ) 野田 龍也(ノダ タツヤ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 介護保険に基づく算定方法による平均自立期間について,2005年の全国と都道府県の値を試算するとともに,死亡率と要介護割合の改善に伴う変化および人口規模による推定精度を検討した。
方法 要介護は介護保険の要介護2~5と規定した。基礎資料には死亡率と要介護割合を,算定法にはChiangの生命表法とSullivan法を用いた。要介護割合は人口と介護給付費実態調査月報(平成1710月審査分)の要介護認定者数から求めた。対象集団の死亡率と要介護割合は2005年の全国を基準ケースとし,その改善に伴う平均自立期間の変化を観察した。対象集団の性・年齢階級別の人口構成,死亡率と要介護割合が2005年の全国と同じと仮定し,総人口の変化に伴う平均自立期間の95%信頼区間の幅を観察した。
結果 2005年の65歳の平均自立期間は,全国の男で16.7年(平均余命に占める割合が92%),女で20.1年(87%)と試算され,また,都道府県の間で男女とも1歳以上の違いがみられた。対象集団の死亡率と要介護割合が基準ケースの0.9倍と0.8倍に改善すると,男の65歳の平均自立期間はそれぞれ約0.9年と約2.0年延び,平均要介護期間はほぼ不変であった。男の65歳における平均自立期間の95%信頼区間の幅は,総人口が100万人では0.4年,15万人では1.0年であり,さらに人口規模が小さくなると極端に広くなった。
結論 平均自立期間の本算定方法は標準的なものと考えられた。その算定と算定結果の解釈に当たって,死亡率と要介護割合の改善に伴う変化および人口規模による推定精度が参考になると考えられた。
キーワード 健康寿命,統計指標,保健統計,要介護,介護保険

 

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第55巻第10号 2008年9月

C型肝炎検診の費用効果分析

朝日 健太郎(アサヒ ケンタロウ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ)

目的 無症候性キャリアに対するC型肝炎検診の経済評価を,マルコフモデルで構築した自然史や,現在標準的なインターフェロン(Interferon, IFN)治療や有効率を反映したモデルに基づく費用効果分析により実施した。
方法 無症候性キャリアを含む40歳の集団に,C型肝炎検診を実施した場合(検診群)とC型肝炎検診を実施しなかった場合(非検診群)のそれぞれについて,70歳まで追跡するモデルを構築した。モデルに組み込むパラメーターは文献報告等から推計した。検診群,非検診群のそれぞれについて,獲得生存年数(Years of life saved, YOLS)としての効果と,直接医療費としての費用を算出し,増分費用効果比(Incremental cost effectiveness ratio, ICER)を求めた。また,パラメーターの不確実性による結果の影響を検証するために,年間治療費用,IFN治療費用,自然史における年間推移確率やIFN有効率等に関して,一元感度分析を行った。
結果 検診群は非検診群と比較して,集団千人当たりYOLS3.44年優り,費用は検診群で718万円高くなり,検診により1年寿命を延長するために必要な費用としてのICER209万円となった。また,一元感度分析の結果,ICERの上限は費用対効果の解釈の閾値とした600万円を超えることはなかった。
結論 C型肝炎検診の費用効果分析を一定の仮説に基づいたモデルを設定して実施した。その結果,本検診は費用対効果の観点から行う価値があるものと解釈された。また,感度分析の結果より,この結論の頑健性も高いことが示唆された。
キーワード C型肝炎検診,費用効果分析,無症候性キャリア,マルコフモデル

 

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第55巻第10号 2008年9月

最近10年間のわが国における低出生体重児増加の分析

馬場 征一(ババ セイイチ) 野村 真利香(ノムラ マリカ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 最近10年間の日本における低出生体重児の出生率分布の地域差を見いだし,地域における増加の違いについて検討するため行った。
方法 1995年より2004年までの10年間において,人口動態統計から各都道府県における保健所管轄地域ごとに,低出生体重児出生率を算出し,都道府県における市町村の統廃合によりデータの解析が困難となるケースは除いた。低出生体重児出生率の上昇幅の高かった長野県・鹿児島県と上昇幅の低かった栃木県・佐賀県・山形県を検討した。
結果 日本において低出生体重児の数は,出生数の減少に関わらず,すべての都道府県において増加している。低出生体重児出生率の増加の多少に関わらず,10年間の低出生体重児出生率の推移が,それぞれの県における保健所管轄地域において異なる傾向を示した。
結論 低出生体重児の増加は,最近10年間において,保健所管轄地域において差を認める傾向にあり,その増加原因が妊婦の栄養としての側面や周産期医療の地域による格差,また経済問題など多岐にわたると考えられる。この対策として,全国画一的な政策のみならず地域の特性に即した対策も視野にいれる必要があると考える。
キーワード 低出生体重児,地域,栄養,周産期医療,出生

 

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第55巻第10号 2008年9月

短時間および長時間の過激な
運動負荷による酸化ストレスの影響

網中 雅仁(アミナカ マサヒト) 渡辺 尚彦(ワタナベ ヨシヒコ) 高田 礼子(タカタ アヤコ)
山内 博(ヤマウチ ヒロシ) 吉田 勝美(ヨシダ カツミ)

目的 過度の運動負荷から生じる酸化ストレスの生体影響を尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8OHdG)濃度の測定によって明らかにし,生体影響を数量化して評価する方法を検討した。
方法 本研究では過度な短時間運動負荷による生体影響と長時間運動負荷による生体影響を調べるために,2つの調査対象者群を設定した。短時間運動負荷はトレッドミルを用いた運動負荷実験を行った。対象者は負荷実験前後24時間の蓄尿と負荷実験直前後のスポット尿を採取した。また,負荷実験中はMasonLikar誘導法による12誘導心電図と血圧を測定し,Bruce法による運動負荷を用いて被験者の状態を判断しながら最大心拍数の90%(目標心拍数)程度に達した時点まで負荷実験を行った。一方,長時間運動負荷には,マラソン競技会参加者を対象者とした。対象者にはホルター血圧計を取り付け,マラソン走行時の運動負荷量を確認した。また,競技前後におけるスポット尿と血液を採取した。酸化ストレスの指標には尿中8OHdG濃度を測定し,評価した。
結果 短時間運動負荷の8OHdG濃度では,負荷直後が負荷前日や負荷直前と比較して低下傾向であった。また,負荷実験前日,直前,直後に有意差は認められなかった。一方,負荷実験後日の蓄尿では有意な上昇を認めた(p0.01)。長時間運動負荷のマラソン競技者における尿中8OHdG濃度は,競技前後で比較して約2.2倍の有意な上昇を認めた(p0.01)。また,競技後の尿中8OHdG濃度は健常者対照群の約2倍になり,運動負荷による有意な上昇が認められた(p0.01)。
結論 尿中8OHdG濃度の実測値では負荷直前が,負荷直後に比較して上昇傾向を示した。一方,尿中8OHdG濃度補正値では,短時間の運動負荷直後において低下傾向を示し,これは補正に用いたクレアチニン濃度が約12%上昇したためであった。短時間の運動負荷では,酸化ストレス指標である8OHdG濃度の上昇がクレアチニン濃度の上昇よりも遅延することが推察された。短時間の運動負荷では,クレアチニン補正の使用に注意が必要である。一方,マラソン競技者の尿中8OHdG濃度は,競技後急激に上昇し,約3時間の過度な有酸素運動が酸化的DNA損傷を生じさせた。また,酸化ストレス消去能には個人差のあることも推察された。尿中8OHdG濃度の測定は過度の有酸素運動を判断する指標として有用性が期待でき,個々の有酸素運動の適正な負荷量を数量化して判断する指標として今後さらに検討すべき課題であると考えられた。
キーワード 運動負荷,酸化ストレス,8OHdG,トレッドミル,マラソン

 

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第55巻第10号 2008年9月

医学部学生の麻しん,風しん抗体保有率

菊地 正悟(キクチ ショウゴ) 小幡 由紀(オバタ ユキ) 柳生 聖子(ヤギュウ キヨコ)
林 櫻松(リン インソン) 玉腰 暁子(タマコシ アキコ)

目的 麻しんの流行が最近観察されている世代の抗体保有率を明らかにするために,臨床実習前の医学部学生について麻しんと風しんの血清抗体を測定した。
方法 医学部4学年の学生104人を対象に,実習として採血を相互に行わせ,血清を分離した。この血清を用いて,麻しんと風しんの抗体を,市販キット,ルベラIgGII-EIA「生研」および麻疹IgGII-EIA「生研」を使用して能書記載のとおりに測定を行った。麻しん,風しんとも抗体価2.0未満を陰性,2.0以上4.0未満を判定保留,4.0以上を陽性とした。この結果を用いて男女別の麻しんと風しんの抗体保有率を計算した。
結果 麻しん抗体は98人(94.2%)が陽性,判定保留域は4人(3.8%),陰性は2人(1.9%),風しん抗体は,91人(87.5%)が陽性,判定保留域は1人(1.0%),陰性は12人(11.5%)であった。麻しん抗体保有率に男女差はなかったが,風しん抗体保有率は,男性58人(81.7%),女性33人(100%)が陽性であった。
結論 本研究の対象は臨床実習前とはいえ,医学部学生という偏った集団ではあるが,1980年前後に出生した世代で麻しんに感受性がある者の割合は6~10%,風しんに感受性のある者の割合は10%前後と推定される。主に小児がかかる感染症では,ワクチン接種率が高くなる過程で成人での流行が観察されるとされている。麻しんや風しんは成人が感染すると重症化する頻度が高く,女性が妊娠中に風しんに感染すると先天性風しん症候群をおこす恐れがある。麻しん,風しんとも,ワクチン接種によって予防していくべき疾患であり,目標は10代後半での抗体保有率がほぼ100%という状況である。そのためには,ワクチンの安全性と接種率の両者の向上が不可欠である。
キーワード 医学部学生,麻しん,風しん,抗体保有率,ワクチン

 

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第55巻第11号 2008年10月

障害高齢者の日常生活自立度における維持期間と
脳卒中および認知症の相乗影響

東海 奈津子(トウカイ ナツコ) 新鞍 眞理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ)
鳶野 沙織(トビノ サオリ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ) 山田 雅奈恵(ヤマダ カナエ)
田村 一美(タムラ ヒトミ) 山口 悦子(ヤマグチ エツコ) 永森 睦美(ナガモリ ムツミ)
上坂 かず子(コウサカ カズコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 障害高齢者の日常生活自立度(以下,障害自立度)はどのくらいの期間,維持されるのかを把握するため障害自立度維持期間の算出を試みた。さらに,障害自立度維持期間に脳卒中および認知症はどの程度影響するのかを検討する。
方法 T県Ⅹ地区において2001年4月1日~20061231日の期間に新規に要介護認定を受けた第1号被保険者のうち,障害自立度がJ1からB2であった高齢者を対象に,Kaplan-Meier法を用いて障害自立度維持期間の算出を行った。さらに,脳卒中および認知症の有無により分類した4群において障害自立度ごとに障害自立度の悪化に関するハザード比,障害自立度維持期間を算出した。
結果 障害自立度維持期間は,算出可能なものにおいては0.574.54年であった。また,脳卒中・認知症なし群を基準とした障害自立度の悪化に関するハザード比を算出した結果,ランクJにおいては脳卒中単独群では1.05(p=0.759),認知症単独群では1.33(p=0.016),脳卒中・認知症あり群では1.80(p<0.001)であり,ランクA,Bでも同順で脳卒中・認知症あり群が最も高い値を示した。脳卒中・認知症なし群の障害自立度維持期間を基準とした場合,脳卒中・認知症あり群の障害自立度維持期間は2~2.5倍短く,どの群よりも短かった。
結論 脳卒中と認知症は障害自立度の悪化に相乗して影響を与えることが明らかとなり,脳卒中と認知症が同時に存在することで障害自立度維持期間は最も短くなることが示された。
キーワード 障害高齢者の日常生活自立度,維持期間,脳卒中,認知症

 

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第55巻第11号 2008年10月

診療所勤務医の状況の変化と多相生命表の
原理を用いた医師数の将来推計について

小池 創一(コイケ ソウイチ) 勝村 裕一(カツムラ ユウイチ ) 児玉 知子(コダマ トモコ)
井出 博生(イデ ヒロオ) 康永 秀生(ヤスナガ ヒデオ) 松本 伸哉(マツモト シンヤ)
今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 医師需給についての考察をさらに深めるため,医師・歯科医師・薬剤師調査のデータを用いて診療所勤務医師(いわゆる開業医)の現状を明らかにするとともに,多相生命表の原理を用いて,医師の診療科間の移動の側面を考慮した医師の将来推計を行うことを目的とした。
方法 1972年から2004年調査までの医師・歯科医師・薬剤師調査データを用いて,各年度の調査について横断的に解析を行うとともに,医籍登録番号を用いて縦断的にデータを結合し,医師の勤務状況の変化について解析を行った。さらに,2002年と2004年調査から多相生命表の原理を用いて診療科別の医師数の将来推計を行った。
結果 診療所勤務医の年齢構成に経年的に変化が生じていることが明らかになるとともに,診療所勤務医を引退する年齢が上昇してきている可能性が示唆された。
   2002年から2004年の移動率,および2004年の新規登録医師数が今後も変わらないと仮定した場合の医師数は,2010年で内科10.7万人,小児科1.6万人,精神科1.4万人,外科5.3万人,産婦人科1.2万人,その他8.9万人で合計29.0万,2020年で内科11.8万人,小児科1.8万人,精神科1.6万人,外科5.3万人,産婦人科1.2万人,その他10.2万人で,合計32.0万人と推計された。
結論 本研究で用いた多相生命表の原理を用いれば,診療科別の将来推計に加えて,病院,診療所といった勤務の種別,都市部と地方といった医師の地域分布についても推計が可能であることが示唆され,医師需給の議論を深化させる上で有益な情報を提供しうることが示唆された。新臨床研修を終えた者が最初に届け出を行う2006年医師・歯科医師・薬剤師調査のデータを用いることが可能となり次第,今回の結果と比較することで,新臨床研修制度が医師の診療科の選択・診療科間の移動に与えた影響を評価した形での将来推計を行う等,さらなる研究が推進されることが期待される。
キーワード 医師需給,医師・歯科医師・薬剤師調査,多相生命表,将来推計,キャリアパス

 

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第55巻第11号 2008年10月

日本・英国・フィンランドの公務員における社会経済的状態と健康
:心理社会的ストレスと健康リスク行動の役割

関根 道和(セキネ ミチカズ) 立瀬 剛志(タツセ タカシ) 鏡森 定信(カガミモリ サダノブ)

目的 社会経済的状態による健康度の差が拡大傾向にある。そこで,社会経済的状態と健康との関係,社会経済的状態と健康リスク行動との関係,社会経済的状態と職域およびワーク・ライフ・バランスに関係した心理社会的ストレスとの関係,社会経済的状態と健康との関係における心理社会的ストレスの役割を検討することを目的とした。
方法 日本・英国・フィンランドの公務員を対象とした国際共同研究の中から,上記の目的に関連した研究を選択した。
結果 社会経済的状態と健康との関係は,身体的健康度については,一般に,男女とも社会経済的状態の指標としての職階が低いほど健康度が低かったが,日本の女性においては職階による健康度の差は小さかった。精神的健康度については,英国では職階と健康度に有意差がなかったが,日本では職階が低いほど健康度が低く,フィンランドでは職階が低いほど健康度が高かった。社会経済的状態と心理社会的ストレスとの関係は,一般に,男性では職階が低いほど心理社会的ストレスが多いのに対して,女性ではむしろ職階が高いほど心理社会的ストレスが多い傾向にあった。男性では,職階による健康度の差は,心理社会的ストレスを調整後に減少したが,女性では心理社会的ストレスを調整した後に,むしろ職階による健康度の差が拡大した。これは,心理社会的ストレスと職階との関係の性差に由来する可能性がある。社会経済的状態と健康リスク行動との関連や心理社会的ストレスと健康リスク行動との関連については,国家間や男女間で一貫した関連がなく,社会経済的状態による健康度の差への影響は限定的である可能性がある。
結論 社会経済的状態による健康度の差は,男性では,心理社会的ストレスによって,ある程度説明されることが示唆された。したがって,ストレス対策により健康度の差を縮小させることが可能であろう。女性では,心理社会的ストレスは,むしろ健康度の職階差を縮小させる方向に作用しており,健康度の職階差の縮小には男性とは異なるアプローチが必要である。精神的健康度の職階差は,国家間や男女間で異なっており,今後の検討が必要である。
キーワード 社会経済的状態(SES),Short Form 36SF36),ピッツバーグ睡眠調査票(PSQI),心理社会的ストレス,ワーク・ライフ・バランス,公務員

 

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第55巻第11号 2008年10月

東北における福祉制度対象者に関する
市町村別実態調査について

-東北の市町村社会福祉統計資料作成の試み-
都築 光一(ツヅキ コウイチ) 吉田 渡(ヨシダ ワタル) 阿部 裕二(アベ ユウジ)
田中 治和(タナカ ハルカズ) 増子 正(マスコ タダシ) 李 忻(リ シン)
関田 康慶(セキタ ヤスヨシ)

目的 市町村福祉行政において活用可能な統計資料の作成,統計資料の妥当な収集方法の整理,現状分析や評価等に活用可能なデータの標準化の方法に関する検討を通じて,社会福祉統計の必要性を明らかにすることを目的とする。
方法 研究者および市町村事務担当者により検討班を構成し,調査すべき項目として,人口,制度の対象者,社会資源,マンパワー,フォーマルな事業やサービス,福祉財政を選定した。この結果を踏まえて,東北6県および全市町村を対象に調査を実施した。
結果 今回調査協力を得た市町村に限定されるが,活用可能な社会福祉関係の統計資料を作成することができた。統計資料の妥当な収集方法として,現時点では各都道府県とすべての市町村に調査協力を依頼する方法のみであることが確認された。現状分析および評価のために活用する方法としては,データの標準化により比較可能になると思われた。
結論 東北の各県および市町村の社会福祉行政機関を対象として,社会福祉制度の対象者および委嘱ボランティアに関する実態調査を行い,活用可能な社会福祉統計の枠組みの検討と資料を作成し,必要性を確認した。
キーワード 社会福祉対象者,市町村社会福祉統計,東北地方

 

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第55巻第11号 2008年10月

メタボリックシンドローム危険因子に対する
行動変容技法を用いた生活習慣改善
プログラムの有効性:ランダム化比較試験

甲斐 裕子(カイ ユウコ) 荒尾 孝(アラオ タカシ) 丸山 尚子(マルヤマ ナオコ)
三村 尚子(ミムラ ナオコ)

目的 従来の地域保健の生活習慣病対策では,知識の提供を重視したプログラムが主流であったが,生活習慣改善を促すには行動科学にもとづくプログラムがより有効であるとされている。しかし,先行研究では比較対照となる知識提供型プログラムの介入の時間や頻度が行動変容型プログラムよりも少なく,両プログラムの効果の差が真に介入内容の違いによるかは不明である。本研究では両プログラムの介入の時間と頻度を同じにしたうえでメタボリックシンドロームの危険因子に対する効果の違いについて,ランダム化比較試験による検証を行った。
方法 横浜市磯子区在住の4070歳(57.4±8.3歳)の男女100名を行動変容型プログラム群50名,知識提供型プログラム群50名に無作為に割り付けた。行動変容型プログラムでは,目標設定やセルフモニタリングなどの行動変容技法を採用した。知識提供型プログラムでは,医師,健康運動指導士,栄養士が疾病予防や食事,身体活動についての講義と実習を行い,さらに体力測定とグループワークを行った。両プログラムとも集団介入であり,介入の実施時間,頻度,回数,期間(1回2時間,月1回,計4回,4カ月)は全く同じであった。測定項目は,肥満度,血圧,脂質代謝,糖代謝,インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)であった。
結果 介入前の各指標の平均値には両群間で有意差がなかった。教室への参加継続率は行動変容群94.0%,知識提供群86.0%であり有意差はなかった。すべての指標において介入前後の変化量に有意な群間差は認められなかった。しかしながら,BMI25以上の者について検討したところ,BMI,ウエスト周囲径,血糖値,インスリン濃度,およびHOMA-IRにおいて行動変容型プログラム群の方が有意に改善度が大きいことが認められた。
結論 行動変容型プログラムは,従来の知識提供型プログラムと比較して,介入の実施時間,頻度,回数,期間が同一の条件であっても,肥満者のメタボリックシンドロームの危険因子である肥満,糖代謝,およびインスリン抵抗性をより改善する。
キーワード 行動科学,生活習慣病,肥満,地域医療,ランダム化比較試験

 

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第55巻第13号 2008年11月

組合管掌健康保険の保険料率決定に関する分析

佐川 和彦(サガワ カズヒコ)

目的 組合管掌健康保険(以下,組合健保)では,一定の制約の下で個々の健康保険組合(以下,健保組合)は自由に保険料率を決めることができる。しかし,実際には各健保組合が財政状況に応じて保険料率を頻繁に変更するということはない。本稿では,各健保組合は潜在的な保険料率の変更幅が一定の限度を超えないと現実に変更を行わないと想定するモデルを用いる。実証分析によって,その限度の大きさを示すとともに,健保組合の保険料率の水準によって限度が異なることについても検証する。
方法 ある行動をひきおこす潜在的な要因があったとしても現実の行動にスムーズに結びつかない,すなわち,行動に摩擦(フリクション)が生じていると想定するモデルとして,フリクションモデルがある。本稿では,フリクションモデルを応用して,東京都の589組合を対象に実証分析を行った。保険料率の変更幅として用いたのは,2005年度の保険料率の対前年度変化分である。また,2004年度の保険料率の水準によって高低2群に分けた分析を行った。
結果 実際に保険料率の変更を行うか行わないかの分かれ目になる閾(いき)値の推定値は,モデルから予想されるとおりの符号であった(p<0.001)。さらに,保険料率別に分割した推定結果によれば,もともとの保険料率の水準が低いと,保険料率をさらに引き下げることに対してはフリクションがより大きくなった。反対に,もともとの保険料率の水準が高いと,さらに引き上げることに対してはフリクションがより大きくなった。このような保険料率の水準の高低による健保組合の決定の差異は,保険料率の引き下げの場合により顕著であり,引き上げの場合は小さかった。閾値の推定値(絶対値)は,保険料率の平均値を考慮にいれると,かなり大きな値であった。
結論 保険料率の引き下げが考えられる場合,あるいは,引き上げが考えられる場合も,潜在的な変更幅が一定の数値を超えるまでは実際に変更されることはなかった。これは,保険料率の変更についてフリクションが生じたことを意味している。
キーワード 組合管掌健康保険,保険料率,フリクションモデル

 

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第55巻第13号 2008年11月

横浜市の有床,無床,歯科診療所および助産所における
医療安全への取り組み状況について

船山 和志(フナヤマ カズシ) 青柳 晶子(アオヤギ アキコ) 加山 操(カヤマ ミサオ)
小川 信也(オガワ ノブヤ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 西川 美智子(ニシカワ ミチコ)
本吉 究(モトヨシ キワム) 鈴木 敏旦(スズキ トシアサ) 高岡 幹夫(タカオカ ミキオ)
大浜 悦子(オオハマ エツコ)

目的 平成19年4月の改正医療法の施行によって,病院だけでなく,有床,無床,歯科診療所および助産所の管理者に対し,医療に係る安全管理のための職員研修の実施等,医療の安全を確保する措置を講じることが義務づけられた。今回,それらの医療機関における医療安全への取り組み状況を把握し,行政における,より良い医療安全推進のサポートを検討するために調査を実施した。
対象と方法 調査対象医療機関は,横浜市に登録されているすべての有床診療所(157施設),無床診療所(2,622施設),歯科診療所(2,026施設)および助産所(81施設)とした。調査方法はプリコード式質問紙調査で,調査期間は平成19年9月である。質問項目は(1)医療法改正に伴う医療安全義務化の内容の主観的把握状況,(2)医療安全で取り組んでいること(複数回答),(3)医療安全への取り組み意欲,(4)横浜市医療安全相談窓口の周知状況,(5)医療安全推進で知りたい情報(複数回答),(6)医療安全の情報源(複数回答)の6問を設定した。
結果 医療安全で取り組んでいることでは,どの種類の医療機関でも,新たに義務づけられた項目は下位に位置していた。しかし,義務化の内容の主観的把握状況では,いずれも50%以上が把握していると回答しており,医療安全への取り組み意欲では,40%以上が既に取り組んでいると回答していた。医療安全推進で知りたい情報では,最近の医療安全知識が最も多く,いずれも約70%を占めていた。次に,横浜市医療安全相談窓口事例が,助産所を除くすべての医療機関で50%以上を占めていた。医療安全の情報源では,医師会等のそれぞれ関係団体広報が最も多く,70%から80%を占めていた。
考察 有床,無床,歯科診療所および助産所では,医療安全への意欲はあるが,医療法改正により求められている項目に,どのように取り組んで良いか戸惑っている状態が考えられた。このため,実施に向けた具体的なサポートが重要と考えられた。また,あらためて医師会など各種団体広報の情報伝達の手段としての重要性が認識され,今後,関係団体と行政が,医療機関への,より効果的で適切な情報提供の方策について協議,協働していくことが必要だと考えられた。
キーワード 改正医療法,医療安全,有床診療所,無床診療所,歯科診療所,助産所

 

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