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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第61巻第8号 2014年8月

中年期における特定健康診査の受診行動と
関連する要因の検討

西田 友子(ニシダ トモコ) 舟橋 博子(フナハシ ヒロコ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 国民健康保険による特定健康診査の受診率向上を目指し,健診受診率の最も低い40~50歳代の特定健康診査対象者を対象に,健診受診に影響を与える要因を明らかにすることとした。

方法 愛知県A市の国保被保険者のうち,40~50歳代の特定健康診査対象者全員を対象とし,郵送による質問紙調査を行った。健診受診と関連する要因として,年齢,最終学歴,配偶者の有無,家族との同居,職業,経済状況,世帯収入,定期的な医療機関への通院,かかりつけ病院の有無,健康状態,心の健康状態(K6),ソーシャルサポート,睡眠状況,朝食摂取,運動習慣,喫煙状況,飲酒習慣について検討した。回答が得られた660人(回収率25.2%)のうち,市町村国保以外で健診・人間ドックを受けている者は除外し,健診受診群263人,未受診群263人を対象に解析を行った。

結果 男女別に健診受診の有無と学歴や配偶者の有無,経済状況,生活習慣などの調査要因との比較を行い,関連がみられた項目を説明変数に用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。結果,男性では,配偶者の存在,かかりつけの病院があること,朝食を毎日食べることが健診受診行動に影響する要因であった。女性では,最終学歴が高いこと,かかりつけの病院があること,喫煙しないことが健診受診を高める要因であった。

結論 本研究では健診受診と関連する要因として,男性では配偶者の存在が影響することが明らかとなった。この結果から,男性の健診受診行動は配偶者など身近な者の影響を受けやすく,周囲からの勧めによって健診受診を促すことが出来ると期待される。今後,健診対象者本人への受診勧奨だけでなく,例えば夫婦や家族そろっての健診受診を勧めるなど,身近な者を通して受診を促すようなアプローチの検討も重要であると考える。また,本研究では,男女ともに,かかりつけの病院の存在が健診受診に関連していることが明らかになった。かかりつけ病院という身近な医療機関の存在は,予防行動を促し健診受診を高める要因になると考える。一方で,身近な医療機関のない者にも焦点を当てた,受診機会の拡大についても,今後検討が必要である。

キーワード 中年期,特定健康診査,受診行動,配偶者,かかりつけ病院

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第61巻第8号 2014年8月

日本の自殺率上昇期における地域格差に関する考察

-1973~2002年全国市区町村自殺統計を用いて-
岡 檀(オカ マユミ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
椿 広計(ツバキ ヒロエ) 山内 慶太(ヤマウチ ケイタ)

目的 筆者らは,これまでに行った自殺に関する地域研究により,たとえ経済問題のような危険因子に等しく曝露されたとしても,「自殺希少地域」においては何らかの自殺予防因子が機能することによって,自殺率の発生が抑制されるという知見を持つに至った。わが国では1980年代と1990年代の2回,経済危機を背景とした全国規模の自殺率急上昇が起きている。先行研究を踏まえれば,過去の経済危機において全国一律に自殺率が上昇したわけではなく,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」では,その上昇度に差異が生じていた可能性がある。本研究は,その仮説を検証することを目的としている。

方法 解析には1973~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。自殺SMRの高低により,全国市区町村を4群に分類した。まず,これら4群の30年間の自殺率の推移を概観した。次に,過去2度の経済危機時の,前後5年間の人口10万対自殺率平均値を算出し,前後2つの差を求めて「自殺率上昇度」の指標とした。自殺率の高低により分類した第1群「自殺希少地域」~4群「自殺多発地域」の,自殺率上昇度の傾向について,χ2検定を行って比較した。4群ごとに,箱ひげ図を描いて自殺率上昇度の分布を確認した。また,自殺率上昇度の平均値をプロットした。

結果 30年間を通じて,第1群「自殺希少地域」は一貫して,4群中最も低い自殺率で推移し,第4群「自殺多発地域」は最も高い自殺率で推移していた。2度の経済危機時ともに,「自殺希少地域」は上昇度が最も小さく,有意差があった。また,「自殺希少地域」の上昇度は他の群に比べ,ばらつきが小さかった。1980年代に比べ1990年代は,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」の上昇度の差がより小さかった。

結論 経済の悪化は,自殺率を高める最大要因の一つとして考えられている。しかし,経済苦という危険因子そのものを減らすことの他に,危険因子に対する耐性を強めるという視点を加えることが,新たな自殺対策をひらく手掛かりになると考えられる。

キーワード 経済危機,自殺率上昇,自殺希少地域,自殺多発地域,自殺予防因子,自殺危険因子

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第61巻第8号 2014年8月

壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える
職場・家庭・地域要因の検討

寺内 千絵(テラウチ チエ) 田口(袴田) 理恵(タグチ(ハカマダ) リエ)  田髙 悦子(タダカ エツコ)
今松 友紀(イママツ ユキ) 有本 梓(アリモト アズサ)
臺 有桂(ダイ ユカ) 塩田 藍(シオタ アイ)

目的 近年,壮年期就労者の自殺・うつ病の増加が問題となっている。壮年期就労者は職場・家庭で多重責務を担い,そのメンタルヘルスは職場・家庭・地域のストレッサー,ストレス緩衝要因に影響されると考えられる。このため,本研究は壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える職場・家庭・地域要因を検討した。

方法 首都圏A市B区の住民基本台帳から30~65歳の男女1,190名を年齢層化無作為抽出し,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。抑うつ状態はK6で評価した。ストレッサーの職場要因として組織風土を,家庭要因として家事・育児の忙しさ等7項目を把握した。ストレス緩衝要因としては,職場・家庭・地域のソーシャルサポートに加え,趣味・習い事,ソーシャルキャピタル等を把握した。χ2検定,Mann-Whitney検定を用いて抑うつの有無における2群間比較を行った。

結果 調査票は412名から返送があり(回収率34.6%),就労者でK6に欠損のない215名を分析対象とした。対象者の平均年齢は48.0±10.0歳,男性105名(48.8%)であった。抑うつ群68名(31.6%),非抑うつ群147名(68.4%)であった。抑うつ状態との関連性がみられた基本属性は,世帯状況,暮らし向き,主観的健康感,生活満足度であった。ストレッサーの職場要因では,伝統性尺度,組織環境尺度が,家庭要因では,家事・育児の忙しさ,子の教育上の問題,家族や親戚との人間関係上の問題,家族の健康問題,金銭面の問題で抑うつ状態との関連性がみられた。ストレス緩衝要因に関して,職場要因では抑うつ群の上司・同僚のソーシャルサポートが低得点であった。地域要因では,趣味・習い事なし,ソーシャルキャピタルの助け・あいさつ等で抑うつ状態との関連性がみられた。

考察 壮年期就労者の抑うつ対策には,職場での上司・同僚からのソーシャルサポートの充実,地域での趣味・習い事の充実,ソーシャルキャピタルの醸成が有効であることが示唆された。また,これらの対策を効果的に実施するためには,職場,家庭,地域の連携体制の構築が必要と考えられた。

キーワード 抑うつ状態,壮年期就労者,職場,家庭,地域

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第61巻第11号 2014年9月

介護現場における外国人介護労働者の評価と意欲

-インドネシア第一陣介護福祉士候補者受け入れ施設のアンケート調査をもとに-
伊藤 鏡(イトウ キョウ)

目的 インドネシアからの第一陣の介護福祉士候補者が,受け入れ施設で行う介護実務研修を通じて,日本人職員と同等の介護技術等を身につけているか,さらに研修修了後も日本の介護福祉士として継続就労する意欲を持ち得ているかについて明らかにすることを目的とした。

方法 「インドネシア第一陣受入れ施設一覧」にある全53施設の施設長,指導責任者,候補者それぞれに異なる内容の無記名自記式調査票を用いた郵送調査を2013年2月中旬から3月下旬にかけて実施した。候補者が介護技術の習得にかかる期間を介護技術20項目で指導責任者に問い,候補者が研修修了時に日本人職員と同等の介護技術等を身につけているかを,介護技術を含む9項目および総合評価で施設長に問うた。また,同一施設における施設長および候補者の今後の就労に対する意向調査を行った。

結果 回答のあった19施設(回収率35.8%:施設長19名,指導責任者15名,候補者14名)を分析対象とした。「介護記録」を除く19項目で,候補者がその習得に最も時間を要したのは「認知症の方がいつもと違う行動を行った場合に対応ができる」の11.5カ月であったのに対し,最も短期で習得できたのは「食事前の準備を行うことができる」の6.3カ月であった。また「介護記録」については17.0カ月を要した。候補者の介護技術20項目の平均習得期間は約8.7カ月であり,日本人職員のそれは約4.8カ月であった。他方で,3年間の研修修了時の施設長による介護技術を含む総合的評価において,候補者は9項目中7項目で日本人職員を上回る評価を得ていた。また候補者の合格後の就労希望期間は,短期(2~3年:46%)と長期(5年以上:54%)に分かれたが,候補者全員が研修施設での就労継続を希望する一方で,1施設を除いてほとんどの施設長が長期の雇用(5年以上:94%)を希望していることがわかった。

結論 候補者は介護技術習得に最長17.0カ月を要し,最長7.2カ月で習得する日本人職員に後れをとるが,その後の研修の間に逆転が生じ,国家試験の合否に関わりなく,日本人職員を上回る高い評価を得ており,それゆえ受け入れ施設がおおむね外国人介護福祉士の長期の雇用継続を希望していることが明らかになった。また,候補者の半数以上が研修施設での長期就労を希望しており,さらには候補者全員が日本の介護業務に働きがいを感じていることも明らかになった。

キーワード 経済連携協定(EPA),インドネシア人介護福祉士候補者,介護実務研修,介護技術,介護記録

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第61巻第11号 2014年9月

独居高齢者と非独居高齢者の特徴に関する大規模調査

久保 温子(クボ アツコ) 村田 伸(ムラタ シン) 上城 憲司(カミジョウ ケンジ)

目的 わが国は超高齢社会へと進む中で,世帯形態も変化し,独居高齢者が急増している。地域で暮らす独居高齢者は,出来る限り自宅での生活を続けることを望んでいるが,独居高齢者は,非独居高齢者と比較して,日常生活での見守りや支援が得られにくいことが想定される。独居高齢者が住み慣れた地域で健康で自立した生活を継続することは,わが国の地域社会を中心としたヘルスプロモーションを進めるうえでも重要な問題となる。しかし,現在,独居高齢者を対象とした支援体制が十分に整備されているとはいえない。そこで本研究では,地域在住高齢者の独居世帯に焦点をあて,独居世帯高齢者の支援につなげるため,独居高齢者の特徴を総合的に検討することを目的とした。

方法 65歳以上の地域在住高齢者に質問紙にて、基本属性(年齢,性別,身長,体重),家族構成(独居・非独居),老研式活動能力指標,主観的健康感,経済状況,収入有無,転倒有無,地域参加有無,生きがい有無,運動機能,閉じこもり,物忘れについて回答を求めた。各項目値を「独居群」と「非独居群」の2群間について比較した。

結果 独居高齢者は350名で全体の19.4%であり,非独居高齢者は1,451名であった。これら2群間では男女差が認められ,女性高齢者で独居が多かった。年齢には有意差は認められなかった。独居高齢者は非独居高齢者と比較して有意に地域活動への参加が少なく,運動機能においては,有意に低い値を示した。また,独居高齢者は生きがいを得られず,閉じこもり傾向にあった。

結論 独居高齢者は非独居高齢者と比較して,地域活動に参加しておらず閉じこもり傾向があることが明らかであり,地域活動への参加や隣人との接触が独居高齢者と非独居高齢者の身体機能に有意差を認めた要因の一つかもしれない。独居高齢者に対して,地域活動参加促進,生きがいを持つことが出来るような場や機会の提供,友人や近隣人との交流を図る場の提供など,ソーシャルサポート,ソーシャルネットワークの充実を図ることが重要であることが示唆された。

キーワード 独居高齢者,非独居高齢者,地域在住高齢者,地域活動,生きがい,ソーシャルサポート

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第61巻第11号 2014年9月

がん検診の受診行動規定要因に関する検討

大原 賢了(オオハラ ケンリョウ) 佐伯 圭吾(サエキ ケイゴ) 根津 智子(ネヅ サトコ)
大林 賢史(オオバヤシ ケンジ) 冨岡 公子(トミオカ キミコ)
岡本 希(オカモト ノゾミ) 車谷 典男(クルマタニ ノリオ)

目的 がん検診の受診行動に影響する要因を明らかにし,受診率向上のための効果的な対策のあり方を検討することを目的とした。

方法 2012年9月に奈良県が実施した「平成24年度なら健康長寿基礎調査」の個票データを分析に用いた。胃,大腸,肺のがん検診の過去1年間の受診の有無について回答した3,226人,子宮がん検診については2,462人,乳がん検診については1,791人をそれぞれ対象とし,各がん検診受診の有無と,調査票で把握された各種説明変数との関連を,多重ロジスティック回帰分析により検討した。

結果 がん検診受診につながりにくい有意な要因は,がん検診の種類で調整オッズ比にばらつきがあったものの,ほぼ共通して,職業が会社員・公務員に対してそれ以外であること(特に自営業・農林水産業(調整オッズ比 大腸がん2.08~乳がん3.69)),がんに対する心配度が「たいへん心配である」に対して「全く心配していない」こと(肺がん3.30~乳がん6.74),健康づくりに取り組んで「いる」に対して「いない」こと(胃がん1.46~大腸がん1.62),非喫煙に対して現在喫煙していること(肺がん1.39~乳がん2.59),医科医療機関に通院「している」に対して「していない」こと(大腸がん1.19~胃がん1.46),地域や組織での活動に参加「している」に対して「していない」こと(肺がん1.25~胃がん1.40)であった。一方,現在の健康状態,健康上の問題での日常生活への影響,過去の大きな病気やケガの経験は,がん検診受診につながりにくい要因とはいえなかった。

結論 がん検診の受診率向上のためには,特に職業の違いによる受診格差が大きいことから,個人にがん検診受診を促す取り組みだけでは不十分であり,対象者が参加しやすいがん検診の実施が不可欠である。また,地域や組織活動への参加者を増やすための取り組みを一層工夫する必要があると考える。

キーワード がん検診,受診率,職業,健康づくり,ソーシャルキャピタル

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第61巻第11号 2014年9月

AGESプロジェクトのデータを用いたGDS5の
予測的妥当性に関する検討

-要介護認定,死亡,健康寿命の喪失のリスク評価を通して-
和田 有理(ワダ ユリ) 村田 千代栄(ムラタ チヨエ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ)
近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)
植田 一博(ウエダ カズヒロ) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 本研究では,高齢者抑うつ尺度(Geriatric Depression Scale)の短縮版であるGDS5の日本語版について,高齢者を対象とした調査(AGESプロジェクト)の縦断データを用いて,要介護認定,死亡,要介護認定または死亡(健康寿命の喪失)のリスクを評価する際の予測的妥当性を検証した。

方法 2003年10月,東海地方の介護保険者6自治体の協力を得て,各市町に居住する65歳以上高齢者29,374名を対象とした自記式アンケート郵送調査を行った。調査回答者14,286名(回収率48.6%)のうち,年齢または性別のデータが無効な者(n=1,533),あるいは歩行,入浴,排泄のうち1つ以上が自立していない,または無回答の者(n=1,295)を除いた 11,753名を4年間追跡した。目的変数として,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失を用いた。説明変数はGDS5とした。調整変数として,年齢,性別,教育年数,等価所得,治療中の疾病の有無,主観的健康感を用いた。Cox比例ハザード回帰分析を用いて,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失についてのハザード比を求めた。

結果 年齢,性別,教育年数,等価所得,治療中の疾病の有無,主観的健康感について調整した上で,GDS5と要介護認定,死亡,健康寿命の喪失との関連をみたところ,いずれについても「うつなし」に対して「うつ傾向(要介護認定:HR=1.263,死亡:HR=1.331,健康寿命の喪失:HR=1.292)」が有意に高いハザード比を示した。

考察 GDS5の日本語版について,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失のリスクを評価する際の予測的妥当性を示すことができた。

キーワード 高齢者,抑うつ,GDS,要介護認定,健康寿命

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第61巻第11号 2014年9月

大災害時における医療施設へのアクセシビリティ評価

讃岐 亮(サヌキ リョウ) 佐藤 栄治(サトウ エイジ)
熊川 寿郎(クマカワ トシロウ) 鈴木 達也(スズキ タツヤ) 吉川 徹(ヨシカワ トオル)

目的 災害発生時には様々な施設へのアクセシビリティが低下するとともに,施設のサービス供給量には上限があるため,需要者全員がサービスを受けられない事態が容易に起こり得る。特に医療は,災害発生時においてその需要が著しく高くなるサービスの一つである。本研究では,災害発生時における医療施設へのアクセシビリティについて検討し,災害時の傷病者の搬送の在り方を考究する。

方法 東日本大震災被災地の宮城県の2次救急医療施設を対象として,震災前後のアクセシビリティ変化を分析するとともに,それら医療施設の受容可能人数を想定し,傷病者が同時大量発生する際の受療可能施設へのアクセシビリティの分析を行う。分析に際しては,アクセシビリティを道路距離と読み替え,地理情報システム(GIS)を用いて道路距離を計測する。さらに,災害時の傷病者搬送は一般車によるものが多数を占めることを踏まえた上で,搬送行動のシナリオとして,傷病発生地点から最も近い医療施設に行き,そこで受け入れ拒否された場合はそこから最も近い他の医療施設に向かうという探索シナリオと,事前に決められた施設に向かう割当シナリオの2つを設定して,搬送行動パターンの違いによるアクセシビリティの差異を分析する。

結果 誘導型施策として想定した割当シナリオに従えば,探索シナリオと比べて平均距離について30%短縮すること,最大距離については42%短縮することを示した。また,10㎞以上の長距離移動となる人口が6%減少することを示した。

結論 災害時には需要が施設容量を超えて,平時よりも遠い施設の選択もあり得る。そうした中での搬送行動のシナリオとして,事前に行く先を割り当てておく誘導型施策に明確なアクセシビリティ改善効果があることを確認した。全体の平均距離を短縮しつつ,アクセシビリティの著しく低下する人口を減少させるという2つの側面で効果があることも確認した。

キ-ワ-ド 災害,救急搬送,宮城県,GIS,アクセシビリティ,道路距離

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第61巻第12号 2014年10月

若年性認知症電話相談の実態

-若年性認知症コールセンター2年間の相談解析から-
小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 鈴木 亮子(スズキ リョウコ)

目的 全国唯一の若年性認知症電話相談窓口として,平成21年10月に開設された「若年性認知症コールセンター」に寄せられた相談内容を,記録票に基づき集計・解析し,実態を把握するとともに,若年性認知症の人や家族,介護者の支援に資するデータを抽出した。

方法 平成22年1月から平成23年12月までの2年間に寄せられた,延べ3,359件および重複を調整した2,205件の相談者,介護対象者の属性,さらに認知症と診断された865件について,その原因疾患や,社会制度・サービスの利用状況,相談内容などを解析した。

結果 相談は全都道府県からあり,大都会を擁する都道府県からが多かった。相談者は男性30.1%,女性69.9%,年代は50~59歳が最も多く,次いで39歳以下であった。内訳では介護者が最も多く,次いで本人であった。親族1,152人の内訳は,妻が最も多く,次いで娘であった。介護対象者は男性が50.2%,女性は42.2%であり,年代は50~59歳が最も多く,次いで60~64歳であった。認知症と診断されている865人では,男性63.8%,女性35.4%,年代は60~64歳が最も多く36.8%であった。原因疾患はアルツハイマー病が最も多く54.2%であり,次いで認知症25.3%であった。認知症の行動・心理症状(BPSD)がみられるのは36.5%であり,内容では暴言が最も多く,次いで徘徊,暴力であった。年金や手帳などの社会資源利用状況は,利用ありが26.4%,利用なしが43.4%であった。介護保険については,認定済み46.5%,申請中5.2%であり,未申請35.0%であった。認定済みの402人の要介護度は,要支援1:20人,要支援2:15人,要介護1:92人,要介護2:72人,要介護3:71人,要介護4:39人,要介護5:40人であった。59.5%が介護サービスを利用していた。

結論 若年性認知症の電話相談では,認知症高齢者の電話相談と比べ,本人からや男性からの相談が多く,介護対象者も男性が多かった。相談内容も介護の悩みや介護者の心身疲労だけでなく,症状,社会資源,施設に関する相談・問い合わせが多かった。これらの実態は今後の若年性認知症支援の方向性を示すデータとなりうる。

キーワード 若年性認知症,電話相談,記録票の解析,社会的支援

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第61巻第12号 2014年10月

介護予防評価における介護保険統計の有用性と限界

-草津町介護予防10年間の評価分析を通して-
野藤 悠(ノフジ ユウ) 新開 省二(シンカイ ショウジ) 吉田 裕人(ヨシダ ヒロト)
西 真理子(ニシ マリコ) 天野 秀紀(アマノ ヒデノリ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)
谷口 優(タニグチ ユウ) 成田 美紀(ナリタ ミキ) 松尾 恵理(マツオ エリ)
深谷 太郎(フカヤ タロウ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)
干川 なつみ(ホシカワ ナツミ) 土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)

目的 本研究は,群馬県草津町における10年間の介護予防共同研究事業の効果を要介護認定率(以下,認定率)の推移から評価するとともに,それを通して,介護保険統計を用いて事業評価を行う際の留意点を考察することを目的とした。

方法 全国,群馬県,草津町の2001年度から2009年度における認定率の推移を,年齢構成および介護保険カバー率(生活機能障害者のうち要介護認定を受けている者の割合)の変化を加味して評価した。年齢構成に関しては,全国,群馬県,草津町の国勢調査データを用いて把握した。介護保険カバー率に関しては,同町で2003年,2005年,2007年,2009年の各年度に実施した悉皆調査データ(「非自立」の有無)を,介護保険統計データ(認定の有無)とリンケージして算出した。

結果 草津町では全国や群馬県に比べ後期高齢者の増加割合が小さかったため,前期高齢者・後期高齢者別に認定率の推移を評価したところ,草津町の認定率は2004年度頃から全国や群馬県と異なる動きを示し,特に後期高齢者において減少傾向にあることが確認された。ここで,三者とも前期高齢人口における年齢構成に大きな変化は認められなかったのに対し,群馬県や草津町では後期高齢者の中でも80歳代以上の割合が年々増加傾向にあったことから,群馬県や草津町の後期高齢者における認定率の経年変化は,高齢者人口の高齢化による影響を受けていると考えられる。一方で,草津町における後期高齢人口の年齢構成の変化は群馬県と同様であったことから,草津町における後期高齢者の認定率の経年変化は,群馬県とは比較可能であることが確認された。介護保険カバー率に関しては,特に軽度の生活機能障害者において年度によるばらつきが認められたため,介護保険カバー率の変化が認定率に影響している可能性が否めなかった。しかし,中等度以上(要介護2以上)の認定に限定しても,草津町では後期高齢者の認定率が低い水準で推移していることが確認された。

結論 本研究を通して,認定率の経年変化を評価したり他市町村と比較したりする際には,65歳以上人口における年齢構成や介護保険カバー率の変化を考慮した分析が必要であることが確認された。草津町の認定率の推移は,これらの要因を加味しても全国や群馬県と異なることから,10年間にわたる介護予防共同研究事業の成果と考えられた。

キーワード 介護保険,介護予防,要介護認定率

論文

 

第61巻第12号 2014年10月

地域で生活している精神障害者の居場所感と
主観的Quality of Lifeとの関連

大場 禮子(オオバ レイコ) 米山 奈奈子(ヨネヤマ ナナコ)

目的 本研究は,地域で生活している精神障害者の居場所感と主観的QOLの関連を明らかにすることを目的とした。

方法 A県内の病院デイケアや作業所などの通所施設31カ所の利用者を対象に自記式質問紙調査を実施した。調査内容は対象者の属性,居場所感尺度,主観的QOL(WHO/QOL26),ソーシャルサポート,偏見・差別を感じたこと(認知)の有無とした。まず,QOL26全体の得点の四分位値から4群にカテゴリー化し,各群間で基本属性,居場所感尺度得点,心理・社会的要因に関連する項目の比較を行った。カテゴリー変数はχ 検定,数量変数は一元配置分散分析および多重比較を用いた。次に,居場所感の主観的QOLに対する効果を明らかにするために,QOL26の全体得点および下位尺度別の得点それぞれを従属変数,居場所感尺度得点を独立変数,主観的QOLとの間に有意な関連がみとめられたソーシャルサポート,偏見・差別の認知を統制変数とし,重回帰分析を行った。

結果 居場所感尺度得点とQOL26全体得点との間には有意な正の相関がみとめられた(r=0.38,p<0.01)。また,居場所感尺度得点とQOL26下位尺度との相関係数は,身体的領域(r=0.19,p<0.01),心理的領域(r=0.39,p<0.01),社会的関係(r=0.31,p<0.01),環境領域(r=0.31,p<0.01)と,いずれも有意な正の相関がみとめられた。重回帰分析を行った結果,QOL26の全体得点および下位尺度別の得点を従属変数としたモデルすべてにおいて,居場所感尺度得点は有意な正の関連を示したことから,ソーシャルサポートの有無や偏見の認知といった変数の影響を除去しても,居場所感が高いほど主観的QOLが高い正の相関関係が明らかとなった。「自分の病気について偏見を感じたことがある」は,QOL26の全体得点および下位尺度別のいずれにおいても有意な負の相関が示されたことから,障害者が偏見や差別を感じることは主観的QOLを低下させる要因である。

結論 精神障害があっても居場所感が高ければ,地域においてQOLが高く,いきいきとした生活を送ることができることが明らかとなった。また,精神障害者の地域生活移行の推進には,地域住民の理解を得るための普及啓発や偏見・差別のない社会・地域づくりが重要である。

キーワード 精神障害,居場所感,QOL,偏見,差別

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第61巻第12号 2014年10月

コンジョイント分析を用いた子宮頸がん検診
受診行動の決定に影響する要因分析

恒松 美輪子(ツネマツ ミワコ) 川﨑 裕美(カワサキ ヒロミ)
升岡 優子(マスオカ ユウコ) 梯 正之(カケハシ マサユキ)

目的 子宮頸がん検診の受診行動を決定する際に,相対的に重視している検診の実施条件とその効用を明らかにし,検診受診率向上を図るための受診環境づくりについて検討した。

方法 広島県A町在住の20~69歳の女性3,200人を対象に質問紙調査を行った。調査項目は,個人特性,子宮頸がん検診の受診状況,仮想的な子宮頸がん検診条件への受診希望とした。コンジョイント分析を使用し,検診を構成する4つの属性について,それぞれ2つの水準を設定した:①費用(安い:500円,高い:4,200円),②担当者(女性,男性),③場所(医療機関,検診バス),④時間(1時間,3時間)。これらを組み合わせた複数の仮想的な検診条件に対する受診希望について,5段階評価で回答を得て,各属性の平均相対重要度などを算出した。

結果 回答率は40.0%(=1,280/3,200)であった。子宮頸がん検診の受診者は651人(53.2%),未受診者は573人(46.8%)であった。受診率は20歳代(36.3%),パート・アルバイト(46.5%),学生(25.0%)で低かった。コンジョイント分析の結果,全サンプルでの各属性の平均相対重要度は,費用(31.6%),担当者(27.9%),場所(21.3%),時間(18.6%)であった。未受診群は最も担当者(31.8%)を重視し,受診群と比較すると7.6ポイント高かった。回答者は費用4,200円より500円,担当者が男性より女性,検診バスより医療機関,3時間より1時間を高く評価していた。

結論 「担当者が女性」「安価」「短時間で終了する」「医療機関での検診」は最も好まれ,担当者と費用は,子宮頸がん検診の受診行動の決定に影響する条件であった。検診受診率の向上を図るためには,検査への羞恥心に配慮した受診環境と様々な生活環境にある受診者が適切な自己負担費用で受診できる体制を優先的に検討することが必要である。

キーワード 子宮頸がん検診,コンジョイント分析,受診行動,検診受診環境

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第61巻第12号 2014年10月

がん患者数計測資料としてのレセプト情報等の利用可能性

柴田 亜希子(シバタ アキコ) 片野田 耕太(カタノダ コウタ) 松田 智大(マツダ トモヒロ)
松田 彩子(マツダ アヤコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ) 祖父江 友孝(ソブエ トモタカ)

目的 がん患者が何人いるかは社会の関心事であるが,実測値は存在しない。日本では,がん患者数として,患者調査に基づく推計値である総患者数や,罹患数と生存率や死亡率から推計する期間有病数が用いられているが,それぞれに特徴と限界がある。著者らは,厚生労働省が平成23年度から提供を開始したレセプト情報等を用いて,新たながん患者数の指標を得られる可能性を期待して分析を行った。

方法 レセプト情報に基づく月平均レセプト件数,患者調査に基づく総患者数,および推計罹患数と5年生存率から推計した5年有病数を,性,年齢,都道府県,がんの部位別に比較した。レセプト情報等については平成22年4月から23年3月の期間に,悪性新生物,上皮内新生物,良性または性状不詳の脳腫瘍及び性状不詳の血液腫瘍の傷病名でレセプトが請求されたレコードの提供を受けた。患者調査の総患者数については,平成20年調査結果を用いた。がん有病数については,推計罹患数と5年生存率を用いて推計された2010年から2014年における年平均の5年有病数を利用した。

結果 全部位の悪性新生物について,月平均レセプト件数は約240万件,総患者数は約150万人,5年有病数は約230万人であった。総患者数と比較した場合,レセプト件数は,性別,年齢別,都道府県別,部位別に,すべて総患者数を1~2.9倍上回った。年齢別には,高年齢層ほど総患者数とレセプト件数のかい離が大きい傾向がみられた。部位別には,罹患数の多い部位では,総患者数と比べて,レセプト件数は約2から2.4倍,5年有病数は約1.5から2倍であった。

結論 新たに利用できるようになった電子レセプト情報等について,日本のがん患者数計測資料としての可能性を,患者調査の総患者数と推計5年有病数との比較において記述した。総患者数は,調査対象が調査期間と調査施設に依存する標本調査であること,有病数は,限られた資料源を用いた推計値であることに加えて,他の指標と異なり,受療割合が反映されていない値であることを考慮する必要がある。毎月自動的に,一定の様式で,ほぼ全数調査に近いデータが蓄積されるレセプト情報は,既存資料を利用した日本のがん患者数計測資料として一定の利用可能性があると考えられた。

キーワード がん,患者数,有病数,レセプト

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第61巻第12号 2014年10月

戦後におけるがんの世代別影響

-コホート生命表による分析-
渡邉 智之(ワタナベ トモユキ)

目的 わが国の平均寿命は現在もなお高い水準を維持している一方で,死因構造の中心は第二次世界大戦を境に感染症から生活習慣病に転換した。このように,日本人の死因構造は大きく変化しており,特に日本人の死因第一位であるがんは戦後のわが国の平均寿命の変化に影響を与えていると考えられる。そこで,本研究は死因構造が転換した戦後に焦点を当て,戦後生まれのがんによる死亡を除去した場合の生命表生存数に与える影響を,コホート(世代)生命表を用いて世代別に比較し,検討した。

方法 本研究は,1950-1954年から2005-2009年までの12の出生コホート(5年間出生集団)を対象とした。2010年までの期間生命表データを用いてコホート生命表死亡率および生存数を算出し,がん死亡を除去した場合の期間生命表死亡率からコホート生命表死亡率および生存数を求めた。これらの生命表生存数を用いて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化を算出し,がん死亡を除去した場合に生命表生存数がどの程度変化するかを世代別に検討した。

結果 男女ともに年齢が高くなるにつれて,がん死亡除去による生命表生存数変化は大きくなり,世代が新しくなるにつれて小さくなっていたが,女性については男性よりも世代間の違いは小さかった。また,最も大きく生命表生存数が増加した世代は,30歳未満では男女ともに1955-1959年出生コホートであったが,30歳以上では1950-1954年出生コホートであった。世代間で生命表生存数の変化に違いが生じ始める年齢は30歳代後半から40歳代前半にかけてであり,どの出生コホートにおいても40歳未満では男性の方が生命表生存数の変化が大きいが,40~54歳では女性の方が大きく,年齢によって性別で特徴がみられた。

結論 戦後の出生コホートにおいて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化は,男女ともに世代が新しくなるにつれて漸減しており,がん死亡による世代影響は徐々に小さくなりつつある。また,年齢階級別にみると男女ともに30歳代後半から40歳代前半にかけて世代間に差が生じ始めており,40歳代から50歳代前半にかけては女性の方ががん死亡による影響が大きいことが明らかになった。

キーワード がん,生命表,平均余命,コホート,戦後

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第61巻第13号 2014年11月

通所型二次予防事業実施状況の地域格差に関連する要因の検討

-施設立地状況とマンパワーに着目して-
相馬 優樹(ソウマ ユウキ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ)
立山 紀恵(タチヤマ キエ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 現在,全国の地方自治体において,要介護状態へ移行するリスクの高い高齢者に対し,運動器の機能向上,栄養改善,口腔機能の向上等を目指した二次予防事業が実施されており,一定の成果をあげている。しかしながら,その実施状況には地域差があることが考えられ,今後さらに二次予防事業を効果的に広めていくためには,地域の実情を把握し,地域差に関連する要因を検討する必要がある。そこで,各都道府県の二次予防事業の実施状況や,実施状況に影響すると考えられる施設と地域包括支援センターの保健師数に焦点を当て,それらの関連を検討することを目的として研究を行った。

方法 全国47都道府県を対象とし,人口統計,ジニ係数,病院・診療所数,公民館数,地域包括支援センターの保健師数,二次予防事業実施状況について,各省庁や政府統計の総合窓口においてWeb上で公開されているデータを用いて分析した。さらに,相関分析によって二次予防事業実施状況と病院数,診療所数,公民館数,地域包括支援センターの保健師数との関連を検討した。

結果 それぞれのプログラムの,高齢者人口10万人当たりの参加実人数の3年間の平均値は,運動器の機能向上プログラム(単独:128~870人,複合:198~1,059人),栄養改善プログラム(単独:2~51人,複合:28~531人),口腔機能の向上プログラム(単独:9~236人,複合:59~636人)のそれぞれで都道府県間に地域差がみられた。また,運動器の機能向上プログラム実施状況の地域差に関連する要因として,人口当たりの病院数(β=0.24~0.39,p<0.10)および公民館数(β=0.27~0.36,p<0.10)が抽出された。高齢者人口当たりの地域包括支援センターの保健師数は抽出されなかった。

結論 二次予防事業の実施状況には地域差がみられた。また,運動器の機能向上プログラムに関しては病院数と公民館数が多い自治体ほど実施状況が良く,今後これらの施設を活用した事業の展開が重要となってくることが考えられる。

キーワード 二次予防事業,地域差,公民館,病院,運動器の機能向上プログラム

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第61巻第13号 2014年11月

サポートベクターマシンを用いた
世界各国の平均寿命の決定要因の実証分析

田辺 和俊(タナベ カズトシ) 鈴木 孝弘(スズキ タカヒロ)

目的 平均寿命の決定要因を解明するために,世界各国の平均寿命のデータを目的変数,多種多様な指標を説明変数として用い,非線形回帰分析手法であるサポートベクターマシン(SVM)により解析する大規模実証分析を試みる。

方法 世界161カ国の平均寿命について健康,経済,政治・社会,教育・文化,地理・環境の5分野の42種の指標を用いてSVMモデルを学習し,感度分析法により指標を最適化した。

結果 13種の指標で世界161カ国の平均寿命を平均二乗誤差(RMSE)2.39,決定係数(R2)0.926という高い精度で再現するモデルを作成できた。

結論 13種の要因の中では乳児死亡率や医療費等の影響度が全体の過半を占め,長寿には健康要因が最も重要であることが明らかになった。

キーワード 平均寿命,決定要因分析,非線形重回帰分析,サポートベクターマシン

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第61巻第13号 2014年11月

都道府県の類型化からみる
医療費適正化計画についての一考察

佐藤 影美(サトウ エミ)

目的 本研究は,医療費に関連する医療供給量に関する指標,患者の動向,地域の経済活動等の指標を用いて各都道府県の医療資源を分析し,都道府県の類型化を試みることによって,医療費適正化計画についての現状を考察する。

方法 総務省や厚生労働省が公表している都道府県の指標から14変数を選定し,医療資源指標,患者指標,年齢指標,社会経済指標に4分類して用いた。初めに,各地域の傾向を主成分分析によって検討した。次に,得られた都道府県別の主成分得点を用いて,階層的クラスター分析を行い,都道府県の類型を可視化した。

結果 主成分分析の結果は,第3主成分までを採用し,第1主成分を「医療提供に関連する傾向」,第2主成分を「サービス業地域に関連する傾向」,第3主成分を「製造業地域に関連する傾向」とした。階層的クラスター分析を行った結果,47都道府県は第1階層で15クラスター,第2階層で8クラスター,第3階層で5クラスター,第4階層で3クラスター,第5階層で2クラスターを構成した。

結論 本研究において,平均寿命の格差以上に医療提供体制に格差が生じている傾向が明らかになった。医療提供体制が整い医療資源を多く備える都道府県が,必ずしも平均寿命が長いという傾向は認められなかった。医療費適正化計画を遂行する際には,他の都道府県の医療提供情報を参考にし,地域産業の特徴をもかんがみて検討することが望ましいと思料する。

キーワード 医療費適正化計画,都道府県,医療資源,平均寿命,主成分分析,階層的クラスター分析

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第61巻第13号 2014年11月

高齢者向け家事援助ボランティアに対する意識と潜在供給力

奥田 将己(オクダ マサキ) 星野 悠哉(ホシノ ユウヤ) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 インフォーマルサービス提供においてNPO法人が抱える主な課題として,財政上の問題(活動資金の工面が困難なこと)や,従事者(ボランティア)が確保できていないことがあげられる。本研究ではその課題を受け,従事に必要な経験と時間を持っている可能性が高い者の抱いている,家事援助を中心とする高齢者支援のボランティア活動へのイメージや参加意向についての調査を行った。

方法 家事援助に従事可能な経験と時間を持っている可能性が高い,配偶者等の扶養に入っている全国の40歳代から60歳代の女性に対してインターネットアンケートを行った。その結果のうち,年齢,労働日数,世帯所得,同居家族,高齢者向けボランティア(主に家事援助)への興味・イメージ・参加意向についての回答を利用して,各作業内容ごとに参加意向を持つ者の特徴を分析するためのロジスティック回帰を行った。

結果 ボランティア参加意向を持つ者の属性においては,無償であることが前提の場合「60歳代」の参加意向が強い一方で,有償になることでは「60歳代」の参加意向は高まらない傾向もみられた。有償であることで参加意向の高まる傾向は,作業内容では「清掃・洗濯」,属性では「等価所得200万円より多く300万円以下」の層に顕著であった。また,仕事を持つ者に参加意向の強さがみられる部分があり,特に「移送・送迎」で「労働日数週4日以上」の者が興味を示している傾向にあった。

結論 作業内容によっては半数以上が参加意向を示しているものもある一方で,現状のボランティア参加割合が低いこと踏まえると,かなりの数の潜在的な従事者が活用できていない可能性が示唆された。また先行研究の特徴と合わせても,60歳代の無償ボランティアにおいての参加意向は注目に値するものと考えられる。

キーワード インフォーマルサービス,家事援助,ボランティア,高齢者支援

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第61巻第13号 2014年11月

高齢者における「世代間のふれ合いにともなう感情尺度」作成の試み

-高齢者の心身の健康との関連-
村山 陽(ムラヤマ ヨウ) 高橋 知也(タカハシ トモヤ) 村山 幸子(ムラヤマ サチコ)
二宮 知康(ニノミヤ トモヤス) 竹内 瑠美(タケウチ ルミ) 鈴木 宏幸(スズキ ヒロユキ)
野中 久美子(ノナカ クミコ) 深谷 太郎(フカヤ タロウ) 谷口 優(タニグチ ユウ)
西 真理子(ニシ マリコ) 新開 省二(シンカイ ショウジ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)

目的 高齢化を背景に「世代間交流」に対する社会的関心が高まる中で,子どもとのふれ合いが高齢者の健康に及ぼす効果の機序の解明が求められており,そのためには行動の背後にある高齢者の心の動きを検討することが重要であると考えられる。そこで,本研究では子どもとのふれ合いにより生じる高齢者の感情状態を明らかにするとともに,それを測定する「世代間のふれ合いにともなう感情尺度」(以下,世代間ふれ合い感情尺度)を作成し,子どもとのふれ合いによる感情と高齢者の心身の健康との関連を検討することを目的とした。

方法 65歳以上の高齢者47名に行った半構造化インタビュー調査を元に15項目からなる「世代間ふれ合い感情尺度」案を作成し,群馬県A町在住の65歳以上の高齢者を対象に質問紙調査を実施した。調査協力者291名の中で,日常的に子どもとのふれ合いがある高齢者204名(男性84名,女性120名)を分析対象者とした。因子分析により「世代間ふれ合い感情尺度」の下位尺度を構成し,α係数を算出して信頼性を検討した。また,尺度の構造的検討を行うために確証的因子分析を行い,因子モデルの適合度の比較を行った。さらに,開発された尺度と個人属性および健康関連の変数間との得点差から妥当性を検討した。

結果 「世代間ふれ合い感情尺度」は,因子分析の結果から「被承認感」「高揚感」「自己充足感」の3つの下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.68~0.78であり,3因子構造が示された。各下位尺度得点において,子どもとのふれ合い志向が低い者よりも高い者の方が高いことが示された。また,子どもとふれ合う頻度が少ない者よりも多い者,心臓病の既往がある者より既往のない者の方が「被承認感」「高揚感」が高いことが認められた。さらに孫と同居していない者より同居している者は「高揚感」,外出頻度が少ない者より外出頻度が多い者の方が「被承認感」がそれぞれ高いことが示された。

結論 高齢者は子どもとのふれ合いを通して,ポジティブな感情を抱きやすく,それが高齢者の子どもとふれ合いたいという欲求や行動および心身の健康に影響する可能性が示唆された。今後,「世代間ふれ合い感情尺度」を用いて知見を蓄積していく中で,子どもとの交流が高齢者の心身の健康に及ぼす効果の機序を明らかにしていくことが期待される。

キーワード 世代間のふれ合いにともなう感情,世代間交流,高齢者,ポジティブ感情,心身の健康

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第61巻第15号 2014年12月

高齢者終末期ケアに携わる関係職種の
死生観と看取り観について

後藤 真澄(ゴトウ マスミ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 間瀬 敬子(マセ ケイコ) 塚本 利幸(ツカモト トシユキ)

目的 病院以外の介護施設で死亡する高齢者が増加しつつある。そこで,各介護施設においては質の高い高齢者の終末期ケアが必要とされている。本研究では高齢者ケア関連施設や事業所に勤務する関係職種の「死生観」や「看取り観」の共通点や相違点を明らかにし,どのような要因が影響しているのかを探り,介護施設で終末期ケアを担当する職員の教育,チームケアのあり方の改善に役立つ基礎データを得ることを目的とした。

方法 研究対象者は,本研究者の所属する大学の介護実習関連施設・事業所で施設長の承諾が得られた15施設の看護職,介護職,相談職とした。無記名・自記式の質問票によるアンケート調査を行った。測定には,死生観では,臨老式死生観尺度を,看取り観には,FATCOD-Form B-Jを用いた。有効回答312票を分析対象とし,各因子,各尺度の職種間の相違,対象者の宗教,年齢,現在勤務する施設での経験年数と死生観,看取り観との相関関係を解析した。

結果 死生観では,介護職は看護職より「死からの回避」の得点が高い傾向がみられた。また介護職は「看取り観の前向きさ」の得点が低く,両職種に差がみられた。年齢,宗教,経験年数と死生観,看取り観の関係については,宗教と「死後の世界観」「人生における目的意識」および年齢との間に負の相関がみられた。年齢と正の相関がみられるのは,「寿命感」であり,年齢の高い人ほど,自分の寿命を受け入れている。宗教および年齢と看取り観の間には,大きな相関は確認できなかった。経験年数と死生観との間に大きな相関は確認できなかったが,看取り観との間には,「看取り観の前向きさ」で比較的大きな正の相関が認められた。経験年数の長い人ほど,死にゆく患者に前向きなることが明らかになった。

結論 今回の研究の対象者は,看護職では年齢が高くキャリアを積んでいる人が多く,介護職では比較的年齢が若い人が多く,経験年数にも幅がみられた。こうしたことから,看護職より介護職の方が「死からの回避」の得点が高い傾向がみられ,「看取り観の前向きさ」の得点が低い傾向がみられたと考えられる。死生観には,宗教の有無と年齢が影響していた。看取り観の前向きさには,経験年数の差が影響したと考えられる。看取り観の形成にあたっては,経験を重ねることが重要であり,終末期ケア教育にあたっては,よりよい経験の機会が必要であることが示唆された。

キーワード 終末期ケア,死生観,看取り観,介護,看護

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

児童福祉施設入所児童への家庭復帰支援と
親のメンタルヘルス問題

松宮 透髙(マツミヤ ユキタカ) 井上 信次(イノウエ シンジ)

目的 児童福祉施設における,親にメンタルヘルス問題がみられる入所児童への家庭復帰支援の現況を明らかにし,その促進に向けた課題を提示することが本研究の目的である。

方法 中国地方5県に所在する児童福祉施設(児童養護施設,乳児院,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設)に対し,所属する家庭支援専門相談員(FSW)への質問紙調査を行った。質問紙では入所する全児童の個々について,属性,被虐待経験の有無,親や世帯の状況などをたずね,家庭復帰の見込みおよび支援実施状況との関連性を統計的に分析した。

結果 入所児童の45.6%,とくに被虐待経験のある入所児童の68.8%の親にメンタルヘルス問題がみられた。家庭復帰支援自体活発ではないが,とくに親にメンタルヘルス問題がある場合,FSWは家庭復帰の見込みを困難と認識する傾向が明らかになった。一方で,入所期間は親のメンタルヘルス問題と必ずしも関連しておらず,その他の要因によって規定されている可能性が示唆された。また,精神科医療機関との連携も不十分な状況にあることが明らかになった。

結論 児童福祉施設に入所する児童,とりわけ被虐待児童の親にメンタルヘルス問題がみられる割合は高い。一方で,FSWからみたその家族復帰の見込みは厳しく,働きかけも積極的とはいえない。安定的な家庭復帰のためには,とりわけ親のメンタルヘルス問題に対応できる支援方策の開発や体制整備が必要である。これらを欠いたまま表面的な家庭復帰が促進されることのないよう,早急に対策を講じるべきである。

キーワード 児童福祉施設,家庭復帰支援,メンタルヘルス問題,家庭支援専門相談員(FSW)

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

中核市における介護予防事業の評価について

-通所型介護予防プログラム参加の評価-
渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ) 草開 俊之(クサビラキ トシユキ)
林田 一志(ハヤシダ イツシ) 河野 公一(コウノ コウイチ) 谷川 ルツ子(タニカワ ルツコ)
清水 有里子(シミズ ユリコ) 玉置 淳子(タマキ ジュンコ)

目的 本研究では,基本チェックリストを用いたスクリーニングのハイリスク者(二次予防事業対象者)のうち,通所型介護予防プログラムに3~6カ月間参加した者(教室参加者),参加しなかった者(教室不参加者)において,1年後の要介護認定に差異があるかどうかを検討した。

方法 平成23年3月1日~10月30日に二次予防事業対象者と認め,ハイリスク者として教室案内を郵送した8,586人を対象者とした。調査項目は基本チェックリスト項目と要介護認定の有無である。要介護認定は平成25年3月末日までの認定有無を使用した。教室終了後から要介護認定までの期間は10カ月から1年6カ月であった。

結果 対象者8,586人中,教室参加者は503人(5.9%),不参加者は8,083人(94.1%)であった。基本チェックリスト項目の特性は,教室参加群では運動器の機能低下が,不参加群では生活機能の低下,閉じこもり,全般的な機能低下が認められた。追跡後の要介護認定者は772人(9.0%)で,認定率は男性8.9%,女性9.0%であった。その内,要支援1,2が約60%を占めていた。教室参加の有無と要介護認定では,教室参加群の要介護認定率は6.2%,不参加群は9.2%で教室参加群が有意に低かった。女性および75~84歳において,教室参加群の要介護認定率が有意に低かった。年齢や基本チェックリスト項目を共変量としたロジスティック回帰分析から,女性では,教室不参加による要介護認定のオッズ比は1.71(1.02-2.85)であった。

結論 本研究では,短期間の追跡にもかかわらず,通所型介護予防プログラムの参加が女性において,要介護認定を減少させる効果があることを実証した。

キーワード 介護予防事業,二次予防事業,通所型介護予防プログラム,要介護認定

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第61巻第15号 2014年12月

分娩歴別,年齢別の出産体験満足度と母性意識について

-Web調査における3歳未満の児を持つ母親を対象に-
石橋 千佳(イシバシ チカ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ)
角倉 弘行(スミクラ ヒロユキ) 稲田 英一(イナダ エイイチ)

目的 出産体験自己評価尺度,母性意識尺度を用いて,分娩歴別,出産年齢別の特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,100万都市のある11都道府県の3歳未満の児を持つ20〜40歳代の女性1,017人とした。方法はWebサイトを利用した質問紙調査である。質問内容は,対象者の属性,児の情報,出産状況の他,出産体験の満足度と母性意識として,出産体験の自己評価尺度(5件法)および母性意識尺度(4件法)を用いて実施した。

結果 初産婦585人,経産婦432人の計1,017人,平均出産年齢は,31.2±5.8歳であった。出産体験の自己評価の総得点の平均値は,初産婦3.56±0.68,経産婦3.81±0.58と経産婦の方が,有意に満足度が高かった(P<0.01)。出産年齢別(P<0.01)および初産婦の出産年齢別(P<0.01),経産婦の年齢別(P<0.05)では,20〜24歳で高く有意な差を認めた。母性意識の総得点の平均値は,肯定感が初産婦3.15±0.56,経産婦3.05±0.59で初産婦が有意に高かった(P<0.01)。否定感は初産婦2.22±0.52,経産婦2.31±0.52で経産婦が有意に高かった(P<0.01)。出産年齢別および初産婦の出産年齢別では,肯定感について20〜24歳で有意に高く(P<0.05),経産婦の出産年齢別では,否定感について40歳以上で有意に低かった(P<0.05)。

結論 本研究において,分娩歴別,年齢別で,出産体験の満足度と母性意識が異なることが明らかになった。出産や子育てに関する母親へのサポートは,分娩歴や年齢を考慮し,出産体験の満足度や母性意識に配慮することが効果的であると示唆された。

キーワード 出産体験,自己評価,母性意識,分娩歴,年齢,Web調査

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

知的障害児の増加と出生時体重ならびに母年齢との関連

岡本 悦司(オカモト エツジ)

目的 知的障害児の増加の原因として出生時体重と母年齢との関連を経年推移から明らかにするとともに知的障害児の増加を説明する数理モデルを構築する。

方法 福祉行政報告例(療育手帳の新規交付件数,特別児童扶養手当の新規認定数)ならびに学校統計(学校基本調査)を経年的に分析して知的障害児の増加状況を明らかにする。また出生時体重ならびに母の平均年齢との経年的な関連を明らかにする数理モデルを構築し,今後,高齢出産がさらに進んだ場合の知的障害児の発生率を予測する。

結果 1973~2012年度の40年間で,知的障害児の出生千当たり発生率は重度では増加していなかったが中軽度障害で増加がみられ,1993年頃を境に最近の20年間の増加が著しかった。40年間の出生時体重と母年齢との関連をみると,母年齢が29歳を越えると出生時体重が急減するという逆ロジスティックカーブが観察され,1993年を境に知的障害児の発生率が急増した原因として,母年齢の上昇と出生時体重の減少による相乗効果が示唆された。母年齢と出生時体重の2要因と特別児童扶養手当の中程度知識障害の新規認定率との関連を数理モデルで検討したところ,きわめて高い適合(R2:0.995)が得られた。

結論 1973~2012年度の40年間で,母の平均年齢は4.2歳上昇し,出生時体重は200g減少した。その間,知的障害児の発生率は,中軽度を中心に確実に増加した。各年の中程度知的障害の発生率は,数理モデルを適用することにより母の平均年齢と出生時体重の2要因だけで,ほぼ完全に説明される。近年では出生時体重の減少は止まっているが,母年齢の高齢化はなおも進行しており,知的障害児の割合は今後も増加すると予想される。

キーワード 知的障害,高齢出産,低体重児,特別支援教育,数理モデル,不妊治療

 

論文

第62巻第1号 2015年1月

地域子育て支援拠点の利用状況による
幼児の生活リズム・習慣の違いの検討

及川 直樹(オイカワ ナオキ)

目的 地域子育て支援拠点(従来のひろば型)の利用状況により,幼児の生活リズム・習慣が異なるかどうか検討することを目的とした。

方法 長野県のA市内にある地域子育て支援拠点(以下,ひろば)のBひろばを利用する未就園の幼児と,その母親90組を対象とした。幼児は,0歳18名,1歳34名,2歳33名,3歳5名の計90名(男児38名,女児52名),月齢は5~41カ月(平均21.7±9.2カ月)であった。母親に対し,幼児の基本属性と平日の生活リズム・習慣に関する無記名の質問紙調査を実施した。ひろばの利用日数をもとに,週に1日以上利用するケースを定期利用群(53名,58.9%),それより少なく利用するケースを不定期利用群(37名,41.1%)とし,幼児の生活リズム・習慣の各項目における2群間の差を分析した。

結果 ひろばの定期利用群の方が不定期利用群よりも,ひろばを午前から利用することが多かった(p<0.05)。夜間の就寝・起床時刻と睡眠時間,昼寝の開始・終了時刻と睡眠時間,メディアの視聴時間といった幼児の生活リズムに関する項目において,起床時刻は定期利用群の方が不定期利用群よりも早い傾向が認められたが(p<0.10),その他の項目では有意な差が認められなかった。朝食摂取頻度,運動実施状況,主な遊び場所といった幼児の生活習慣に関する項目については,運動実施状況で定期利用群の方が不定期利用群よりも,積極的に体を動かすことが多かった(p<0.01)。主な遊び場所では,定期利用群の方が不定期利用群よりも,室内と戸外で同じくらい遊ぶことが多かった(p<0.01)。

結論 ひろばを定期的に午前から利用することは,ひろばの開所時刻に合わせた家庭生活を送ることにつながり,幼児の起床時刻に影響する可能性が示唆された。さらに,ひろばの豊かな物的・人的環境を定期的に利用することは,積極的に体を動かしたり,室内と戸外でバランスよく遊んだりするといった望ましい遊び方を幼児に定着させることが推察された。

キーワード 地域子育て支援拠点,利用頻度,未就園児,生活リズム,生活習慣

論文

 

第62巻第1号 2015年1月

男性勤労者における身体活動と環境要因との関連

河原 賢二(カワハラ ケンジ) 萩 裕美子(ハギ ユミコ) 久保田 晃生(クボタ アキオ)

目的 本研究は男性勤労者を対象に,健康づくりで推奨される身体活動の実施と環境要因との関連を検討し,勤労者における身体活動推進のための資料を得ることを目的とした。

方法 静岡県内のN社K製造所で,本研究に協力の得られた男性勤労者を対象者とした。質問紙調査で身体活動の状況,対象者の自宅周辺の環境,基本属性を調査した。身体活動の状況は国際標準化身体活動質問紙(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)短縮版を用いた。対象者の自宅周辺の環境は,国際標準化身体活動質問紙環境尺度(International Physical Activity Questionnaire Environmental Module:IPAQ-E)を用いた。また,基本属性は年齢,身長,体重,配偶者,同居,雇用形態,勤務形態,役職,教育年数,主観的健康観,生活満足度を調査した。統計解析は,ロジスティック回帰分析を用いて,個人の特性を調整し,推奨される23METs×時/週以上の身体活動量を満たすことに関連する環境要因のオッズ比および95%信頼区間を算出した。

結果 調査の協力を得られた810名のうち,調査項目に欠損値が1つでもあった294名を除いた516名を分析対象者とした。516名の分析対象者のうち,1週間の身体活動量が23METs×時以上の者は218名(42.2%)であった。23METs×時以上の身体活動量と関連が認められた環境要因は,自宅周辺の景観が好ましいことであった(オッズ比1.83,95%信頼区間1.21-2.77)。

考察 本研究の結果,自宅周辺の景観が好ましいことが,勤労者における健康づくりのための身体活動基準2013が推奨する身体活動の実施と関連した。これは,国内外の多くの先行研究と一致した。先行研究では,景観が余暇における歩行や総身体活動と関連した報告が多く,街の景観を良くすることが勤労者における身体活動の推進に貢献する可能性が示唆された。しかし,本研究は横断研究であること,調査項目が質問紙による主観的な評価であるなどの限界があり,縦断研究や客観的な指標による評価など,さらなる研究が必要である。

キーワード 勤労者,身体活動,環境要因,景観

論文

 

第62巻第1号 2015年1月

小児任意予防接種における未接種者の出生順位別の特性について

津田 侑子(ツダ ユウコ) 渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ)
藤田 愛子(フジタ アイコ) 中津留 有子(ナカツル ユウコ) 河野 公一(コウノ コウイチ)
小坂 美也子(コサカ ミヤコ) 髙栁 香里(タカヤナギ カオリ) 玉置 淳子(タマキ ジュンコ)

目的 任意予防接種行動に影響を与える因子を検討するために,児の出生順位に注目し,出生順位別にみた「受けない理由」などを明らかにすることを目的とした。

方法 2011年7~12月にかけて,大阪府高槻市に在住する1歳6カ月健診を受診する子ども1,477人の保護者を対象に,アンケート調査を実施した。質問項目は,基本属性,保護者の定期および任意予防接種に対する認知度,接種状況,ワクチン情報の入手経路,受けない理由等とした。

結果 回収した1,172部(回収率79.4%)のうち,回答者の続柄の記載がない5部を除いた1,167部を解析対象とした。対象者全体(n=1,167)における定期,任意の予防接種の認知度と接種率を明らかにした後,「未接種者」群(n=503)に対して児の出生順位別に集計した。任意予防接種を受けない理由は,出生順位に関わらず,「費用がかかる48.3%」「副反応が心配39.0%」が上位を占めていた。第1子では「副反応が心配」「予防接種の知識が少なく不安」など,予防接種そのものに対する不安感があった。第3子以上では「打っても病気にかかる」「自然感染によって抵抗力をつけていくものだと思う」など経験によるものが受けない理由となっていた。情報源として,家族や友人は出生順位に関わらず,情報源の第1位であった。より正確な情報源として母子健康手帳や予防接種手帳,保健師からの情報などが考えられるが,本研究では,母子健康手帳29.2%,予防接種手帳25.4%であり,乳幼児健診時に保健師,保健師等の家庭訪問はいずれも1.2%と著明に低かった。第1子では育児本,第2子ではテレビ,ポスター・ちらし,第3子以上では,かかりつけ小児科,ポスター・ちらしが多かった。

結論 本研究において,未接種理由の第一は費用であったが,それ以下の理由は,出生順位によって異なっていた。しかし,どの群においても,適正な情報が得られていないことが未接種行動の原因と考えられる。任意予防接種の接種率向上のためには,予防接種の費用補助と共に,母子健康手帳や予防接種手帳に任意予防接種の情報を記載すること,さらに,各種の保健活動において,専門職である保健師が積極的に介入することが必要と考える。

キーワード 任意予防接種,予防接種率,小児,出生順位,未接種理由

 

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第62巻第1号 2015年1月

女子看護学生の子宮頸がん予防に関する意識調査

-ワクチンの副反応報告を受けて-
村澤 秀樹(ムラサワ ヒデキ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ)
今野 良(コンノ リョウ) 荒川 一郎(アラカワ イチロウ)

目的 2013年の改正予防接種法において,子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)が新たに定期の予防接種の対象とされたが,同年6月,厚生労働省による積極的な接種勧奨を行わない旨の通知がなされた。本研究では,この積極的接種勧奨中止後の,女子看護学生の子宮頸がん予防に関する意識を調査することにより,今後の効果的な子宮頸がん予防対策の探索への活用を目的とした。

方法 子宮頸がん予防に関する意識を把握するため,がんの予防や治療に関する医学的知識の習得状況を踏まえ,女子看護学生に対する無記名自記式質問紙によるアンケート調査を行った。内容はヒトパピローマウイルス(HPV)の知識,予防可能性,検診受診,HPVワクチン接種に対する意識について,自由記述を含む計5問の調査を2013年10月に行った。

結果 対象女子看護学生174名中,回答者136名(回答率78.2%)。このうち,有効回答130名(有効回答率95.6%,3年生62名,4年生68名)を得た。χ2検定で各問の回答の学年間比較を行ったところ,HPVの知識に関する質問を除き,学年間の回答の有意差(p<0.05)は認められなかった。「子宮頸がんの発生にはHPVが関わっている」ことを「良く知っている」「聞いたことはある」と回答した者は97%を占め,子宮頸がんの原因としてのHPVの高い認知が認められた。「子宮頸がんが予防可能である」との回答は70%,子宮頸がん検診について「受診したことがある」または「受診したい」との回答は92%であり,検診の受診意思が高い傾向が認められた。一方で,HPVワクチンを接種したいと思うかの設問に対し,「接種したことがある」「接種したい」が68%,「接種したくない」「わからない」が32%であり,先行研究に比べて低率であった。HPVワクチンを「接種したくない」「わからない」理由として,「メディアで副作用の問題を知って」など,副反応に対する懸念の記述が7割を占めた。

結論 子宮頸がん検診については,引き続き,普及啓発,費用助成および受診しやすい機会を設けることが求められる。一方,HPVワクチンによる予防については副反応への懸念が示された。今後,副反応への検証結果に対応した説明を行うことが求められる。

キーワード 子宮頸がん,ワクチン,検診,女子看護学生,HPV

 

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第62巻第1号 2015年1月

特定高齢者が要介護1以上認定となるまでの期間

一島 志伸(イチシマ シノブ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)
中林 美奈子(ナカバヤシ ミナコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 特定高齢者と判定された人の,要介護1以上と認定されるまでの期間を求めることとした。

方法 2008年4月から2011年3月の間に,生活機能評価によって特定高齢者と決定された3,539人を対象者とした。最初に決定された時の属性,運動器機能・栄養状態・口腔機能,さらに2012年1月末日現在の転帰(要介護認定状況,転出,死亡)を把握した。特定高齢者と決定されてから要介護1以上に初めて認定されるまでの期間については,男女別に対象者の25%が認定された月数として25パーセンタイル値を算出し,累積認定率をKaplan-Meier法で求めたのちに男女別に年齢階級による違いをlog-rank検定で比較した。加えて,要介護1以上の認定に対する年齢階級のハザード比を,男女別に機能低下の有無(運動器機能,栄養状態,口腔機能)を共変量としたCox比例ハザードモデルを用いて算出した。

結果 男性の25パーセンタイル値は41カ月であり,累積認定率は女性に比べて有意に高かった(p<0.05)。85歳以上では男性31カ月,女性26カ月であった。男性の65~74歳,女性の65~74歳,75~84歳では36カ月時点での累積認定率が0.20以下と認定者が少なく,25パーセンタイル値は算出できなかった。要介護1以上認定に対する年齢階級のハザード比は,年齢階級が高くなるほどハザード比は大きく,65~74歳を基準とした時に85歳以上のハザード比は男性で2.55(95%信頼区間:1.57-4.12),女性で12.20(95%信頼区間:7.68-19.37)と有意なハザード比を示した。

結論 最初に特定高齢者と決定された時から,要介護1以上認定となるまでの期間として25パーセンタイル値を求めた。その結果,85歳以上では男女別に算出でき,男性は31カ月,女性は26カ月であった。認定発生率の低さから,今回の期間ではすべての年齢階級での算出はできなかった。

キーワード 特定高齢者,要介護認定,期間,機能低下

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第62巻第1号 2015年1月

医療の地域差基礎データを用いた都道府県別平均余命の検討

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 長澤 薫子(ナガサワ カオコ)
小林 英史(コバヤシ エイジ) 横田 邦信(ヨコタ クニノブ)

目的 医療の地域差基礎データと都道府県別平均余命を用い,平均余命に都道府県の医療状況がどの程度影響しているかを検討した。

方法 平成22年都道府県別生命表を用い,男女別平均余命の相関を検討した。平成22年度市町村国民健康保険(国保)および後期高齢者医療制度(後期高齢者)の地域差基礎データより,都道府県別の1人当たり医療費,受診率,1件当たり日数,1日当たり医療費を抽出し,都道府県別男女別平均余命との相関を検討した。Mahalanobis-Taguchi(MT)法を用い,男女別平均余命上位10府県の医療制度別1人当たり医療費,受診率,1件当たり日数,1日当たり医療費のデータで4種類の単位空間を作成し,それぞれに対し残り37都道府県のMahalabinosの距離(D2)を求め単位空間からの乖離を検討した。単位空間と距離が乖離する都道府県間データの有意差を検討した。MT法の項目選択で寄与する項目を検討した。

結果 男女別平均余命はr=0.682と有意な正の相関を示した。都道府県別女性平均余命と国保の1人当たり医療費と1日当たり医療費,および後期高齢者の1人当たり医療費は有意な正の相関を示した。男性単位空間の国保で12都道県,後期高齢者で7道県,女性単位空間の国保で9都道県,後期高齢者で5都道県が乖離した。男性単位空間の後期高齢者では1人当たり医療費が有意に高く,女性単位空間の国保では1人当たり医療費が有意に低く,後期高齢者では受診率が有意に高かった。項目選択では1人当たり医療費および1日当たり医療費が最も有効であった。

結論 平均余命が長くなる要因として1人当たり医療費と1日当たり医療費が高額であることが明らかになった。D2が単位空間と変わらない都道府県は平均余命に今回の項目以外の要因が関与していると思われるが,D2が乖離している都道府県では平均余命上位10都道府県に比べ1人当たり医療費が過剰か不足,受診率が過剰である医療状況が見いだせた。項目選択でも1人当たり医療費および1日当たり医療費が最も寄与する項目であり,長寿には後期高齢者の医療費の関与が大きいと思われた。

キーワード 医療の地域差,平均余命,Mahalanobis-Taguchi(MT)法,Mahalabinosの距離(D2

 

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第62巻第2号 2015年2月

統計調査における費用対効果の検証方法に関する調査研究

阿部 正浩(アベ マサヒロ) 高畑 純一郎(タカハタ ジュンイチロウ) 坂爪 洋美(サカヅメ ヒロミ)

目的 近年,厳しい行財政改革の下で的確な統計調査の実施には限界が生じつつあり,加えて政策評価の観点から,統計調査についてその有効性や効率性について評価すべきとの指摘がなされている。しかしながら,公的統計の分野においてはこれまで政策評価の観点から有効性や効率性が検討されたことはなく,そのための明確な概念や評価指標はこれまでのところ存在していない。そこで本研究では,統計調査に関する費用対効果など一定の効果測定の考え方と手法の具体化を目的に調査研究を行った。

方法 統計調査の場合,費用が調査手法や調査対象者数でおおむね自動的に決まってしまうため,これを検討する意味はあまりない。一方,統計調査の効果については,金銭的な効果を測定ないし推計することは一般には困難であり,金銭的効果以外の国民の便益を評価できる指標を作成する必要がある。そこで,従来から用いられている政策評価手法を整理し,統計調査にも有用な評価手法を研究し,国民の便益を評価する指標についての開発を試みた。

結果・結論 まず公的統計が広く公共財と指摘されている記述を紹介し,公共財の持つ性質を説明する。経済理論的には,社会的に望ましい政府によって供給されるべき公共財の水準と,実際に各家計の意思決定に任せた場合の社会全体で供給される公共財の水準とでは,後者の方が小さくなることを理論的に示した。また,公的統計の公共財としての性質を考慮しつつ,既存の政策評価手法に関してレビューについても行った。公共投資や環境評価で主に利用されてきた手法について紹介し,公的統計の評価への適用可能性について検討した。その結果,公的統計を評価するには従来の評価方法を適用することは難しく,アンケートによる評価,すなわち仮想評価法が有力な手法としてあげられそうだとの結論に達した。さらに,公的統計の政策評価に仮想評価法が適用可能かどうかを検証するため,アンケートを試行的に実施し,調査内容と調査結果の解釈の方法について検討した。具体的には,厚生労働省が調査している代表的な公的統計の結果の一部を回答者に見せた後で,それぞれの統計の必要性や有用性などを尋ね,その結果から仮想評価法の有用性について検討した。

キーワード 公共財としての公的統計,公的統計の政策評価,政策評価手法,仮想評価法,フリーライダー問題

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第62巻第2号 2015年2月

内視鏡胃がん検診プログラムへの参加要因

新井 康平(アライ コウヘイ) 後藤 励(ゴトウ レイ)
謝花 典子(シャバナ ミチコ) 濱島 ちさと(ハマシマ チサト)

目的 がん検診受診者が近くのかかりつけ医で検診を受けられることは,利便性が高いといえるだろう。そこで,診療所での検診プログラムの普及についての探索的な研究を行う。具体的には,診療所が,内視鏡胃がん検診プログラムへの参加を決定する要因を明らかにした。

方法 内視鏡胃がん検診を診療所で実施している米子市において,内科か外科を標ぼうしているすべての診療所を対象とした郵送自記式の質問票調査を実施した。この質問票では,医師のプロファイル情報や診療所の状況についての変数が含まれている。全体で90施設に質問票を送付した。

結果 56施設から質問票の返信を得た(回答率62.2%)。検診参加・不参加別の無回答バイアスは存在しなかった。過去に内視鏡の経験があること,院長の年齢が若いこと,鳥取大学消化器内科(第二内科)医局出身であること,診療所の継承予定があることの4点が,プログラムへの参加に影響していた。

結論 内視鏡経験以外にも,人的ネットワークや診療所の存続可能性が検診プログラムの普及と関連することが示唆された。

キーワード 内視鏡,胃がん検診,質問票調査

 

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第62巻第2号 2015年2月

静岡県健康長寿プログラム(ふじ33プログラム)が
社会参加にもたらす効果

尾関 佳代子(オゼキ カヨコ) 筒井 秀代(ツツイ ヒデヨ) 野田 龍也(ノダ タツヤ)
中村 美詠子(ナカムラ ミエコ) 佐藤 圭子(サトウ ケイコ) 稲葉 やす子(イナバ ヤスコ)
平山 朋(ヒラヤマ トモ) 宇津木 志のぶ(ウツギ シノブ)
赤堀 摩弥(アカホリ マヤ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 静岡県では県民の健康寿命の延伸を目指し,働き盛り世代からの生活習慣改善を図る「ふじ33プログラム」を開発した。このプログラムの柱である運動・食生活・社会参加の3項目から社会参加に焦点を当て,プログラムの効果を検討した。

方法 ふじ33プログラムは3人1組で3カ月間行う健康増進プログラムであり,2012年に実施され,延べ109人の参加者があった。プログラム参加前後に記入を行った自己チェック票から,社会参加に関する項目の実行割合を求め,前後値の比較のためにマクネマー検定を行った。また,プログラム参加前後のMedical Outcomes Study Short Form 36-Item Health Survey (SF-36)の下位尺度[身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,社会的機能,日常役割機能(精神),心の健康]の平均値を用いて,役割/社会的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコア(Role-social component score:RCS)の平均値を求め,それの前後値の比較のために対応のあるt検定を行った。

結果 プログラム参加前後における社会参加の割合は「この3カ月間に家族以外の人と運動(スポーツ)をした」(プログラム参加前64.9%→プログラム参加後74.2%),「この3カ月間に家族以外の人とレクリエーションをした」(64.9%→78.4%),「この3カ月間に家族以外の人と奉仕活動を行った」(46.4%→57.7%),「職場や地域の趣味・文化・教育サークルに参加している」(44.9%→53.1%),「防災活動(地域防災訓練,防災組織,消防団等)に参加している」(51.5%→63.9%)が有意に増加していた。また,参加者全体のRCSの平均値の変化(53.65→55.44)は境界域有意であり,増加の傾向を示した。女性(52.53→55.30),60歳以下(54.65→56.65)においては有意に増加していた。実施後アンケートにおいても1人でプログラムを行うよりも3人1組のグループで行ったことが良かったという回答が多くみられた。

結論 プログラム修了後に社会参加に関して有意に増加した項目が複数あったことから,グループで励ましあいながら実施する「ふじ33プログラム」は,参加者の社会参加意欲を向上させる効果があったと考えられる。

キーワード 健康寿命,社会参加,健康長寿プログラム,グループ参加,SF-36,Role-social component score(RCS)

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第62巻第2号 2015年2月

児童養護施設における支援類型の作成

-子どもと保護者のニーズに着目して-
大原 天青(オオハラ タカハル)

目的 本研究の目的は,児童養護施設に入所する子どもの情緒と行動のニーズと入所の背景となる保護者の状態像という2つの軸から,ニーズ類型を作成することである。それによって必要とされるサービス・モデルの設定を試みた。

方法 関東圏内の児童養護施設を対象に,本研究の趣旨・目的・方法・倫理的配慮等を記載した調査票への記入を依頼した。各施設の直接支援職員を対象として,担当する小中学生の中から名前順で1名を選択してもらい,その子どもについて回答を求めた。調査票には,虐待の有無および種類,Child Behavior Checklist(以下,CBCL),入所の背景となる保護者の状態像,子どもの生活の安定度に関する項目を設けた。

結果 対象となった子ども815名(男子439名,女子376名)の平均年齢は10.5歳(標準偏差=2.6),平均入所期間は4.7年(標準偏差=3.1)であった。被虐待体験のある子どもの割合は517名(64.1%)であった。入所理由となる保護者の状態像は,Ward法によるクラスター分析によって,「家庭内の不和と未熟群(CL1)」152名(18.7%),「経済的困窮群(CL2)」138名(16.9%),「依存・知的障がい群(CL3)」270名(33.1%),「精神疾患群(CL4)」138名(16.9%),「虐待行為群(CL5)」117名(14.4%)の5類型となった。子どもの情緒と行動のニーズは,CBCLの内向尺度と外向尺度のカットオフ値から,「内向・外向正常域」209名(25.7%),「内向臨床域」123名(15.1%),「外向臨床域」158名(19.5%),「内向・外向臨床域」322名(39.7%)の4類型に分類した。以上の結果から,保護者の状態像の5分類と子どものニーズの4分類によって20類型を作成した。

結論 本研究の結果,児童養護施設に入所する子ども,およびその保護者の状態像の類型から,必要なサービス内容を策定できる可能性が示された。今後は児童養護施設におけるサービス内容を標準化するためのニーズ調査やそれに対応するサービス内容とそれを提供するための制度が担保される必要がある。

キーワード 児童養護施設,子どもと保護者の状態像,類型化,サービス内容

 

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第62巻第2号 2015年2月

運動中心の介護予防教室を修了した
高齢者のための受け皿事業

-自治体が実施している事業の形態および内容-
重松 良祐(シゲマツ リョウスケ) 大久保 善郎(オオクボ ヨシロウ) 大須賀 洋祐(オオスカ ヨウスケ)
 中田 由夫(ナカタ ヨシオ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ)
沖 直哉(オキ ナオヤ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 二次予防事業は,要支援・要介護に陥るリスクの高い高齢者を早期に発見し,早期に身体活動・運動を実施させるなどの対応により状態を改善し,要支援状態となるのを遅らせることを目的としている。この事業が修了した後も,運動継続を支援することは重要である。しかし,どのような要因が継続に重要であるかについては,事業者である自治体の視点からは十分に検討されていない。本研究では,運動継続を支援している自治体の取り組み事業(以下,受け皿事業)の形態や内容を把握することとした。

方法 受け皿事業を「二次予防事業の修了後も身体活動・運動を継続していけるような場の設定やボランティアの育成など,修了生の受け皿となる環境整備事業」と定義した。全国から500自治体を抽出し,受け皿事業の実施の有無および形態・内容を尋ねる質問紙を郵送した。実施している場合は,目的と目標,概要,成果と課題を尋ねた。

結果 全体の42.2%に相当する211自治体より回答を得た。受け皿事業の実施自治体は121(211自治体の57.3%),非実施自治体は86(同40.8%),中断自治体は4(同1.9%)であった。受け皿事業の主な形態と内容は次のとおりである。①自治体は運動機会確保を目的にしつつ,交流・外出の増加や,介護・疾病の予防を目標に掲げている。②年間予算額は50万円未満か200万円以上に分散していた。③指導者や自治体職員が修了生対象の教室(直接支援型事業)への参加を呼びかけている。④教室は月1回以上の頻度で,公共施設で開かれる。⑤健康運動指導士や医療従事者が運動を30~90分間,指導する。⑥運動内容は筋力トレーニングや,ストレッチ,軽体操である。⑦参加者の主な移動手段は車やバイク,徒歩である。⑧参加者に対して様々に配慮している。このような受け皿事業を実施することで,交流・外出に効果が得られていた。多くの自治体では参加延べ人数が500人未満と限られていたが,5年以上も受け皿事業を継続できていた。一方,参加者の移動手段の確保や,スタッフ数の確保が課題に挙げられた。

結論 これら受け皿事業の形態や内容は多様であるが,自治体が高齢者の運動継続を支援する施策を講じる際の参考になると思われる。

キーワード 二次予防事業,身体活動,質問紙調査

論文

 

第62巻第2号 2015年2月

全国医科電子レセプトを用いた薬局サーベイランスの
都道府県別インフルエンザ推定患者数の評価

中村 裕樹(ナカムラ ユウキ) 川野原 弘和(カワノハラ ヒロカズ) 亀井 美和子(カメイ ミワコ)

目的 都道府県ごとのインフルエンザ患者数の推定は,感染症発生動向調査では行われておらず,薬局サーベイランスによってのみ行われているため,外的な評価を行うことができなかった。本稿では全国の医科電子レセプトの情報(NDB)を用いて薬局サーベイランスによる推定患者数の評価を行い,その推定の調整を検討した。

方法 期間は2010年9月から3シーズン分のデータを都道府県ごとに集計して用いた。NDBでの患者数と薬局サーベイランスの推定患者数から乖離率を計算した。また,両者の期間全体を通しての比較から薬局サーベイランスの推定患者数の調整を行った。さらに,薬局サーベイランスの推定患者数を用いて,薬局サーベイランスの内的妥当性の検定を行った。

結果 NDBでの患者数と薬局サーベイランスの推定患者数とのシーズンごと・都道府県ごとの乖離率の平均値および中央値はそれぞれ24.92%,18.68%であった。調整によってこの乖離率の平均値および中央値はそれぞれ9.73%,10.19%となり,大幅に改善した。また,調整後の薬局サーベイランスの推定患者数は,内的妥当性を満たしていないという仮説は確認されなかった。

結論 NDBでの患者数に対する薬局サーベイランスの都道府県ごとの患者数の過大推定および過小推定は,調整によって多くの都道府県で改善された。しかし,3シーズンの間で他のシーズンに比べて大きな過大推定もしくは過小推定が起きていたり,過大推定および過小推定の両方が起きていた場合は,この調整法では調整しきれないことが示唆された。今後は,NDBの公表時期に合わせて,1シーズンごとに取得したNDBのデータから調整率を求め,次のシーズンの推定患者数の調整を行うべきであると考えられる。

キーワード 薬局サーベイランス,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB),インフルエンザ,都道府県分析,乖離率

 

論文

第62巻第3号 2015年3月

医療施設調査に基づく東日本大震災前後の
医療施設の廃止・休止状況

川戸 美由紀(カワド ミユキ) 三重野 牧子(ミエノ マキコ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)
山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 岩手県,宮城県,福島県の3県における東日本大震災前後の医療施設の廃止・休止状況について,医療施設調査に基づいて検討した。

方法 平成20~23年医療施設調査を統計法33条による調査票情報の提供を受けて利用した。東日本大震災前の2008年10月~2011年2月と震災後の2011年3~9月において,各月の開設・再開と廃止・休止の医療施設数を観察するとともに,震災後の超過の廃止・休止の医療施設数およびその在院患者数と外来患者数を推計した。

結果 3県において,各月の廃止・休止の医療施設数は,震災前では震災直前の施設数の0.0~0.5%であったが,震災後に沿岸部の市町村で著しく増加した。沿岸部の市町村では,震災後の超過の廃止・休止医療施設数は約250施設(震災直前の医療施設の12.3%),その在院患者数は約2,140人/日(同11.2%)と外来患者数は約8,840人/日(同11.3%)と推計された。沿岸部以外の市町村では,震災後の超過の廃止・休止医療施設数,在院患者数と外来患者数はそれぞれ震災直前の医療施設の1.2%,0.1%,0.8%と見積もられた。

結論 3県の沿岸部の市町村では,東日本大震災後に医療施設の廃止・休止が著しく増加し,その超過分は震災直前の医療施設の10%を超えると推計された。

キーワード 医療施設調査,東日本大震災,医療施設,保健統計

 

論文

第62巻第3号 2015年3月

災害後に高齢者が社会活動を再開する時期と
その促進要因に関する検討

松田 美祥(マツタ ミサキ) 呉 珠響(オウ チュヒャン) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ)

目的 本研究は,災害発生前から高齢者が参加していた社会活動について,災害発生後に再開して継続できる要因を再開時期別に検討することを目的とした。

方法 東北地方のA県B市内在住の高齢者を対象としたサークル参加者140名を対象に,自記式質問紙による調査を実施した。調査項目は,基本属性に関する10項目,震災後のサークル活動の参加再開に関する6項目,日頃のサークル活動に関する11項目,外出状況に関する3項目,日頃の社会活動に関する6項目を設定した。分析では,参加再開時期で2群に区分し,2群間で各変数の関連を検討するため,名義尺度についてはχ2検定,Fisherの正確確率検定を,順序尺度についてはMann-Whitney検定を行った。

結果 2012年9月時点の会員140名のうち,49名(回収率35.0%)から回答が得られ,有効回答は45名(有効回答率91.8%)であった。年齢は70歳代(40.0%)が最も多く,次いで60歳代(35.6%),80歳代(6.7%)であった。家族構成については,配偶者と二人暮らし(37.8%)が最も多く,同居者ありが独居を大幅に上回った。主観的健康については,健康と思っている人の割合(62.2%)が,健康と思っていない人の割合(13.3%)を大幅に上回った。参加再開時期について回答があった41名を分析対象とし,災害後に活動を初回より参加を再開していた人(以下,初回再開群)と,それ以降に順次参加を再開した人(以下,順次再開群)の2群に区分し,再開時の状況について比較した。その結果,初回再開群は順次再開群と比較し,再開した理由として会への責任があると回答した人,来会手段が自転車,自動車を自分で運転,徒歩と回答した人の割合が統計的に有意に高かった。また,順次再開群は初回再開群と比較し,友人に誘われたと回答した人の割合が有意に高かった。

結論 初回再開群では,会への責任感などによる主体的な参加や会場までの移動手段が再開に関連していることが示唆された。本研究の結果より,災害後早期に社会活動を再開することが困難な人に対しては,周囲からの勧誘や移動への支援があることが,活動参加の再開に有効であると考えられた。

キーワード 社会活動,参加再開,災害,高齢者

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第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災が市町村の要介護認定率に与えた影響

大澤 理沙(オオサワ リサ)

目的 本稿の目的は,東日本大震災が高齢者の健康状態に与えた影響を,要介護認定率の変化に着目して明らかにすることである。要介護認定率には地域差があることが知られているため,要介護認定率に影響を与える要因をコントロールしたうえで,震災による影響があるのか,あるとしたらどの程度であるのかを定量的に分析した。

方法 東日本大震災が要介護認定率に与えた影響を測定するために,DID推定量を用いて分析を行った。震災によるショックを処置と考え,被災地域を処置群,非被災地域を対照群として,震災が要介護認定率に与えた影響を明らかにするため重回帰分析を行った。使用したデータは,市町村単位で集計された2009年度と2011年度の要介護認定率,介護施設定員数,病床数,高齢化率,人口密度,所得である。

結果 65歳以上要介護認定率を被説明変数,説明変数に震災ダミー,被災地ダミーのほかコントロール変数を用いた推計を行った。その結果,DID推定量は0.61となり(p<0.05),65歳以上の要介護認定率の震災前後の変化が,非被災地に比べて被災地で平均0.61ポイント高いことがわかった。また,年齢階級別では,65~74歳要介護認定率では統計的に有意な値は得られなかったが,75歳以上要介護認定率では有意に正の値が得られている。そして要介護度別の推定では,中度要介護度では統計的に有意な正の値が得られている一方で,軽度要介護度,重度要介護度では正の値が得られているものの統計的に有意な値ではなかった。

結論 本稿では,東日本大震災が市町村の要介護認定率に与えた影響を明らかにするため,DID推定量を用いた分析を行った。分析の結果,震災以外の地域的な要因をコントロールしたうえでも,震災後被災地では要介護認定率が高くなっていることが明らかになった。特に年齢階級別では,震災によって75歳以上要介護認定率が平均1.1ポイント高くなっていること,また,要介護度別では,震災によって中度要介護認定率が上昇していることが示された。

キーワード 東日本大震災,高齢者,要介護認定率,市町村,DID推定量

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第62巻第3号 2015年3月

疾病や障害をもつ被災地住民の震災後の症状と
医療資源利用の実態

横山 由香里(ヨコヤマ ユカリ) 坂田 清美(サカタ キヨミ) 鈴木 るり子(スズキ ルリコ)
小野田 敏行(オノダ トシユキ) 小川 彰(オガワ アキラ) 小林 誠一郎(コバヤシ セイイチロウ)

目的 東日本大震災で被災した地域住民のうち,難病,アレルギー,がん,身体障害者手帳,療育手帳を有する者を対象に,震災後の症状や障害の変化と医療資源の利用実態を把握する。

方法 被害が甚大であった岩手県山田町,大槌町,陸前高田市,釜石市下平田地区の住民を対象とした。2011年に18歳以上の全住民に対し,健康診査の案内に調査への協力依頼文書を添えて郵送配布した。

結果 健診を受診した11,123人中10,469人が調査に同意した(同意率94.1%)。同意者のうち,疾病や障害のある者には追加調査を実施した。難病患者56人中8人が震災後に症状が悪化したと回答した。難病患者とアレルギー患者において,震災1カ月以内に受診に影響が出た主な要因は,かかりつけ医の被災であった。本研究に参加したがん患者301人中,治療計画の変更が生じたのは18人であった。震災前より障害が悪化したと回答した身体障害者手帳所持者は182人中27人(14.8%)であった。療育手帳所持者では,大きな変化は報告されなかったが,パニックの回数や状態が増悪したとの回答が約1割を占めた。

結論 地域で生活している難病患者,アレルギー患者,がん患者,身体障害者手帳所持者,療育手帳所持者の一部で,東日本大震災後に症状や障害が悪化したことが示された。難病患者,アレルギー患者の受診に最も影響を与えていたのは,かかりつけ医の被災であった。

キーワード 東日本大震災,患者,障害者,症状や障害の変化,受診中断,かかりつけ医の被災

 

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第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災被災地岩手県大槌町における精神的健康

-居住形態ごとのQOLの比較-
白神 敬介(シラガ ケイスケ) 川野 健治(カワノ ケンジ)
立森 久照(タチモリ ヒサテル) 竹島 正(タケシマ タダシ)

目的 東日本大震災の被災地域において,QOLを中心とした住民の精神的健康状態を把握し,地域でのこころの健康づくりを推進するための基礎資料の解析を行うことを目的とした。特に仮設住宅やみなし仮設といった居住形態と住民の精神的健康との関連に焦点を当てた。

方法 東日本大震災によって大きな被害を受けた,岩手県大槌町で実施された住民健康調査で得られたデータを分析した。住民健康調査は,大槌町に居住する18歳以上の者を対象とし,2012年8月から同年10月に行われた。精神的健康状態の把握のため,SF-36とK6が用いられた。

結果 調査票の回収率は33.2%であった。全体の傾向として,調査対象者の精神的健康が低い状態にあることが示された。SF-36に基づくQOLの指標では,特に身体的側面が低い傾向が示された。居住形態別の分析から,仮設住宅居住者は一般住宅居住者と比べた場合,精神的側面のQOLが低い,平均睡眠時間が短い,相談できる人物がいない,居住地の利便性において不便を感じるといった回答の割合が高い傾向がみられた。

結論 震災発生から1年半後の状況での,被災地の全般的な精神的健康状態の低さが確認された。また,居住環境によってQOLの程度が異なり,特に女性,高齢者のリスクの高さが示された。こうしたハイリスク者への継続的な支援が可能となるよう,被災地の個別の状況に応じた援助のあり方を検討していく必要がある。

キーワード 東日本大震災,QOL,居住形態,住民健康調査,精神的健康

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第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災における避難場所の違いによる
生活習慣の実態と電話支援の取り組みについて

-福島県「県民健康管理調査」-
堀越 直子(ホリコシ ナオコ) 大平 哲也(オオヒラ テツヤ) 結城 美智子(ユウキ ミチコ)
矢部 博興(ヤベ ヒロオキ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
県民健康管理調査 平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」グループ

目的 福島県立医科大学では,県からの委託を受け,東日本大震災後の原子力発電所事故に伴う放射線の健康影響を踏まえ,将来にわたる県民の健康管理を目的として平成23年度から「県民健康管理調査」を実施している。そのうち,同年の「こころの健康度・生活習慣に関する調査」回答者で,生活習慣関連の支援の必要があると判断された者に,状況確認,助言および医療機関につなぐことを目的に,保健師・看護師等による電話支援を行った。

方法 国が指定した避難区域等の13市町村の住民(区分:一般)180,604人を対象とした。電話支援の選定基準は,睡眠障害,高血圧,または糖尿病の診断を受けたが通院していない者,自覚症状が災害後悪化した者,多量飲酒が認められる者とした。

結果 有効回答数73,433人(女性56.0%,県外避難者19.1%)のうち,生活習慣支援候補者は68,785人であった。そのうち,電話支援対象者は2,882人(4.2%)で,女性は54.0%であった。また,県外避難者は,県内避難者に比べ,電話支援の選定基準に該当する項目数が有意に多く(オッズ比(OR)=1.36,p<0.001),また,「睡眠障害」(OR=1.75,p<0.001)および「自覚症状」(OR=1.44,p<0.001)のある者が有意に多かった。電話支援対象者のうち,電話番号の未記載や留守等910人(31.6%)を除く,1,972人(68.4%)に電話支援を実施した。支援の結果,受診勧奨または,健康相談等をした者の割合は,県外避難者が41.3%で,県内避難者31.5%に比べて有意に多かった(p<0.001)。

結論 県外避難者は,県内避難者と比べ電話支援対象者に該当する割合が多く,避難生活が生活習慣に影響している可能性が考えられる。また,県外避難者は,「睡眠障害」に該当する者の割合が多く,震災後早期より睡眠状況を把握し,良好な睡眠を確保できるよう助言をし,適切な支援につなげることの意義は大きい。アクセスしやすい電話支援は,避難場所を問わずに状況確認や健康相談を実施することができ,広域にまたがる避難の場合,有用な支援方法の一つと考えられた。ただし,本調査で実施した電話支援は,調査票の回答があった者のみに限定している。そのため,今後,健康づくり等に資する活動を推進していくうえで,市町村との連携を強化していくことが必要であると考える。

キーワード 東日本大震災,避難,生活習慣,支援,睡眠,危険因子

 

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第62巻第4号 2015年4月

OECDヘルスデータ担当者会合(2014)の報告

中山 香保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,「OECD医療統計」としてオンライン・データベースを毎年公表している1)。データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当官会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2014年10月23,24日に開催された会合(於パリ,参加者数約110名)の議論について報告する。
Ⅱ 2014年OECDヘルスデータ担当者会合について

OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,参加国が提示された議論のポイントについて発言する形式をとる。議長は,米国のFrancis Notzon氏が務めた。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる(表1)。

今回は,多岐にわたる議論の中から,医療の購買力平価,乳児死亡および医療の効率性に関するOECDの取り組みについて紹介させていただきたい。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイト2)から参照可能である。

 

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第62巻第4号 2015年4月

障害者雇用推進に向けた支援の条件に関する研究

-支援専門職のフォーカス・グループインタビューを用いて-
有岡 栞(アリオカ シオリ) 徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 酒寄 学(サカヨリ マナブ)
宇留野 功一(ウルノ コウイチ) 宇留野 光子(ウルノ ミツコ) 高山 忠雄(タカヤマ タダオ)
安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,障害者の就労支援に携わる専門職を対象としたフォーカス・グループインタビューを実施し,障害者雇用推進に向けた支援の条件を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,障害者雇用に携わる福祉施設の相談員5名および介助員6名であり,フォーカス・グループインタビュー法を実施した。内容は,相談員および介助員としての活動と経験,障害者の楽しみやニーズ,障害者雇用の可能性について,であった。ICレコーダーに録音された記録から正確な逐語録を作成した。観察記録による参加者の反応を加味し,複数の研究者および専門職で確認しながらテーマに照合して重要な言葉(重要アイテム)を抽出した。抽出した重要アイテムからサブカテゴリーを抽出し,コミュニティ・エンパワメントの7原則を用いて演繹的アプローチにより整理した。

結果 障害者雇用推進に向けた支援の条件について語られた内容から,相談員グループでは24個,介助員グループでは23個の重要アイテムを抽出した。コミュニティ・エンパワメント実現の7つの要素に基づき[目標の明確化][関係性を楽しむ][共感のネットワーク化][変化を加える][柔軟な参加様式][先を見据える][活動の意味づけ]の7つの重要カテゴリーに整理した。さらにその中でサブカテゴリーを抽出した。

結論 障害者の就労支援に携わる専門職を対象としたフォーカス・グループインタビューにより,障害者雇用の推進に向け,強みを引き出す支援,社会性を育む支援,対象者を総合的に捉えた継続的な支援の重要性が示唆された。

キーワード 障害者雇用,コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,支援

 

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第62巻第4号 2015年4月

国民生活基礎調査の匿名データによる
女性と家族の喫煙状況の解析

世古 留美(セコ ルミ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
永松 千華(ナガマツ チカ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 女性の喫煙状況について,世帯の種類および配偶者・父親・母親の喫煙状況との関連性を,平成16年国民生活基礎調査の匿名データに基づいて解析した。

方法 統計法36条に基づく匿名データを利用した。20歳以上の女性から,喫煙状況が不詳の3,510人と過去喫煙の415人を除く37,772人を解析対象者とした。女性の現在喫煙割合について,世帯の種類,配偶者・父親・母親の喫煙状況別に算定・比較した。年齢構成の影響を調整して比較するために,女性の現在喫煙者数の観察値を分子,その期待値を分母とする比(女性の現在喫煙割合の年齢調整比)を算定した。

結果 女性の現在喫煙割合は20~44歳で18.3~22.9%で,その後,年齢とともに低下した。女性の現在喫煙割合の年齢調整比は女性全体で1に対して,三世代世帯と夫婦と未婚の子のみの世帯で有意に小さく,ひとり親と未婚の子のみの世帯と単独世帯で有意に大きく,夫婦のみの世帯で有意でなかった。配偶者が非喫煙での女性の現在喫煙割合の年齢調整比は三世代世帯,夫婦と未婚の子のみの世帯,夫婦のみの世帯で0.27~0.49と有意に小さかった。母親が現在喫煙での年齢調整比は三世代世帯,夫婦と未婚の子のみの世帯,ひとり親と未婚の子のみの世帯で1.57~2.15と有意に大きく,父親が現在喫煙での年齢調整比はひとり親と未婚の子のみの世帯のみで有意に大きかった。

結論 女性の喫煙状況について,世帯の種類で異なること,配偶者と母親の喫煙状況と強く関連することが示唆され,匿名データ利用に有用性があると考えられた。

キーワード 国民生活基礎調査,匿名データ,喫煙,世帯の種類

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第62巻第4号 2015年4月

認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所の
地域密着型外部評価結果における問題点・課題と改善の考察

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 地域密着型サービスの認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所は住み慣れた地域での暮らしを支える介護サービスであり,サービス改善のための地域密着型外部評価が課されている。本調査は外部評価で事業所がたてた目標達成計画を調査して全国,地方,都道府県の実態を明らかにし,事業所のサービス向上に資することを目的とした。

方法 平成24年度に外部評価を実施した45道府県の事業所を対象に,ワムネットと2県の評価情報提供からサービス改善の目標達成計画を参照して,問題点・課題のあった評価項目の割合を算出し,上位3項目については具体的な計画内容を分類,区分した。参照時期は2013年10月6日から2014年2月23日であった。

結果 外部評価を実施した事業所は10,530カ所,目標達成計画は22,818件で特定項目に集中し,上位3項目「災害対策」「運営推進会議を活かした取り組み」「重度化や終末期に向けた方針の共有と支援」が3分の1を占めた。災害対策の割合は北日本ほど大きく,割合の大きい計画内容「地域へのはたらきかけ」では地域住民に働きかけようとする姿勢が示された。運営推進会議の割合は目立った片寄りはなく,割合の大きい計画内容「多様な参加者」では災害対策同様に地域からの協力が課題であった。重度化や終末期の割合は最小と最大の差は小さいものの,道府県では北日本ほど割合が増していて,割合の大きい計画内容は「利用者・家族との対話」であった。

結論 評価項目は68だが,問題点・課題は上位3項目の「災害対策」「運営推進会議」「重度化や終末期」等,特定の項目に集中している。災害時の協力を得たり運営推進会議の協力者を確保するため,地域住民への積極的なアプローチが求められる。重度化や終末期については,明確な方針・手順が用意され職員が理解して利用者・家族の気持ちを聞く機会が設けられ,事業所の対応を説明できる体制が望まれる。 第三者評価が義務化された施設もあり,外部評価への関心が高まると思うが評価手法の検証・見直しは欠かせず,利用者・家族のホスピタリティ向上や評価調査員の質の担保が求められる。また,情報公開は日常的な言葉と表現で閲覧者が読みやすいことが肝要で,目標達成計画の表記に配慮が必要である。

キーワード 地域密着型外部評価,認知症対応型共同生活介護(GH),小規模多機能型居宅介護(小規模),災害対策,運営推進会議,重度化や終末期

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第62巻第4号 2015年4月

一人暮らし高齢者における
他者への信頼と互酬性に関する個人の認識と健康との関連

-世間一般と居住地域に対する認識のかい離に着目して-
長谷部 雅美(ハセベ マサミ) 小池 高史(コイケ タカシ) 深谷 太郎(フカヤ タロウ)
野中 久美子(ノナカ クミコ) 小林 江里香(コバヤシ エリカ) 西 真理子(ニシ マリコ)
村山 陽(ムラヤマ ヨウ) 鈴木 宏幸(スズキ ヒロユキ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)

目的 他者への信頼や互酬性に関する個人の認識を高め,地域の認知的ソーシャルキャピタルを醸成するには,個人の認識の特徴を詳細に把握することが重要である。そこで本研究では,一人暮らし高齢者を対象に「一般他者への信頼と互酬性」および「居住地域への信頼と互酬性」に関する認識の度合いにおいてかい離があるのか,かい離がある群(ない群)は諸特性や健康との関連においてどのような特徴があるのかを明らかにした。

方法 2011年9月に,東京都大田区A地区の一人暮らし高齢者2,569名を対象に,郵送による質問紙調査を実施した。分析対象者は,実質独居で信頼と互酬性の設問にすべて回答した980名(38.1%)とした。分析では,一般他者と居住地域への信頼(互酬性)が両方高いA群,一般他者の方が高いB群,居住地域の方が高いC群,両方が低いD群を設定した。分析手順は,4群の構成比率を算出し,各群と諸特性との関連をχ2検定(性別,暮らし向き,教育歴,居住形態,孤立状況),多重比較(年齢,居住年数),Kruskal-Wallis検定(老研式活動能力指標)を用いて検討した。個人の認識と健康指標との関連は,4群を独立変数,主観的健康感と日本語版WHO-5を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。

結果 個人の認識にかい離があった人は,信頼で16.7%,互酬性で16.6%であった。A群は,D群に比べて高次生活機能が自立,社会経済的地位が高く,孤立の割合が低いという特徴が示された。B群はD群に比べて高次生活機能が自立,C群は他の3群に比べて居住年数が長く,高次生活機能がA群・B群よりも低下していた。D群を基準カテゴリとしたロジスティック回帰分析(すべての諸特性を調整)の結果,主観的健康感の良好さに対する各群のオッズ比はすべて統計的に有意ではなかった。一方,WHO-5の良好さに対しては,A群のオッズ比が信頼で2.03(95%信頼区間1.33-3.10,p=0.001),互酬性で1.79(95%信頼区間1.18-2.72,p=0.007)であった。

結論 個人の認識にかいり離があった人の割合が少ないという結果は,加齢と共に生活圏が縮小するため,一般他者と居住地域への認識が一致する傾向にあることを示唆する。また,一般他者と居住地域への信頼と互酬性が両方高いことが生活状況や精神的健康の良好さと関連する一方で,居住地域への互酬性の高さが主観的健康感の良好さと関連する可能性も示唆された。そこで,一人暮らし高齢者においては,健康維持や孤立予防のために,社会参加等を通じた地域互酬性の醸成が求められる。

キーワード 認知的ソーシャル・キャピタル,信頼,互酬性,一人暮らし高齢者,主観的健康感,日本語版WHO-5

 

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第62巻第4号 2015年4月

要介護認定における主治医意見書の医療機関別の分布

森山 葉子(モリヤマ ヨウコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 宮下 裕美子(ミヤシタ ユミコ)
中野 寛也(ナカノ ヒロヤ) 松田 智行(マツダ トモユキ)

目的 要介護認定における主治医意見書の医療機関区分別の実態およびその特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都文京区で2012年3月の介護認定審査会において審査された,申請者が65歳以上であり,主治医意見書が医療機関所属の医師により記載されており,かつ現在の状況が居宅である598件の主治医意見書および介護認定審査会資料を対象とした。これらの個人情報(氏名,住所等)がマスクされた資料をもとに,主治医意見書が記載された医療機関区分別の分布および申請者の属性,さらに医療機関区分別主治医意見書の記載の有無やチェック項目の数等の特徴を分析した。

結果 医療機関区分別の分布は,診療所が53.7%,特定機能病院が13.7%,200床以上の一般病院が13.4%,200床未満の一般病院は10.7%,療養病床のある病院は6.4%であった。記載内容では,診療所および療養病床のある病院に比べ,200床未満の一般病院では自由記述の欄における未記載が多かった。また,特定機能病院および一般病院では,投薬の有無,身長・体重,特記事項等の自由記述の記載のみならず,チェックをする項目数も,少ない傾向にあった。

結論 本研究より,当該対象地域において主治医意見書の記載が最も多かった医師の所属は診療所であったが,2番目に多いのは特定機能病院であり,高度な医療を求められる特定機能病院や大規模な一般病院においても一定割合で主治医意見書が記載されていることが明らかとなった。診療所および療養病床のある病院の医師により記載された主治医意見書は,他医療機関の医師に比べ記載が充実していた。また,これらの医療機関では,作成回数が1回目より2回目以降が多く,継続した診療を通じて申請者の日常の生活状態を把握した上で主治医意見書に記入をしていることがうかがえた。200床未満の一般病院は地域医療の中心的役割を果たす病院も存在すると考えられるが,自由記述欄の未記載が多かった。特定機能病院と200床以上の一般病院では未記載項目が多く,その理由の1つとして,高齢者の日常生活を含めた状態の把握ができていない可能性が示唆された。介護保険における主治医の役割分担および住民の大病院志向に対して,医療機関選択に関する教育の検討が必要であると考える。

キーワード 主治医意見書,要介護認定,介護保険,医療と介護の連携,主治医

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第62巻第5号 2015年5月

第16回OECDヘルスアカウント専門家会合

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌においては,OECD(経済協力開発機構)の第10回ヘルスアカウント専門家会合からの議題・検討内容を報告してきた。今回は,2014年10月22日~23日に開催された第16回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。
Ⅰ は じ め に

毎年,OECD本部(フランス・パリ)で行われるヘルスアカウント専門家会合では,様々な議題が検討されるが,この数年は2016年から切り替わる国民保健計算(National Health Ac­c­ounts)のガイドラインであるSHA(A System of Health Accounts)の改訂版(SHA2011)の議論が主である。

国民の保健医療支出は,傷病の治療に要する医療費に加えて,健康増進・疾病予防,健康管理,あるいは医療保障の運営費,設備整備費なども含めて捉える必要がある。こうした保健医療に関する支出は国民保健計算とよばれ,医療政策を評価するための指標の一つとなっている。

OECDは,1980年代に加盟国の国民保健計算の推計値の収集を行い,OECD Health Dataとして公表をはじめた。しかし,この時に収集したデータは,加盟国が自国の政府統計資料や国民経済計算(SNA)を活用して独自推計したものであった。そのため,各国の保健計算を,医療政策の立案・分析に利用できるように国際比較が可能なガイドラインとして,OECDが2000年に公表したものがSHA1.0であった1)。その後,多くの国で複雑化した保健医療システムをより正確にモニタリングするため,2011年にSHA1.0の改訂版がSHA2011として公表された2)。将来は,WHO加盟国の利用も想定されており,SHA2011はさらに幅広い国々に活用されていくことなる。

論文

 

第62巻第5号 2015年5月

介護老人福祉施設職員の「介護実習指導を通じての学び」の
内容に関する研究

山本 綾美(ヤマモト アヤミ)

目的 介護老人福祉施設の職員の「介護実習指導を通じての学び」の内容を明らかにし,実習に対する関心や,職員の自己成長を促す実習の体制を構築するための資料を得ようとした。

方法 首都圏の介護老人福祉施設250施設の職員(「窓口者」「フロア長」「一般職員」各施設1人ずつ)を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を実施した。本研究では,「フロア長」を“学生が実習を行うフロアの長”,「一般職員」を“フロア長以外の実習を担当する介護職員”とした。

結果 有効回答は82施設の164人であった(有効回答率32.8%)。因子分析の結果,「介護実習指導を通じての学び」の内容として,“実践の振り返り”“施設の評価と職員教育”“利用者支援の新たな視点”“指導方法”“養成校とのパイプ”“仕事への愛着”の6因子が抽出された。相関分析の結果,実習指導継続希望は6因子すべてと正の相関がみられ,“仕事への愛着”とは中程度の相関がみられた。また,「フロア長」「一般職員」を独立変数にt検定を行った結果,6因子のいずれにおいても有意な差はみられなかった。

結論 施設職員の「介護実習指導を通じての学び」を促していくことで,実習指導継続の希望,実習に対する関心を高められる可能性があることが示唆された。実習指導に携わる職員の学びを促す実習体制の構築が今後の課題である。

キーワード 介護実習指導を通じての学び,実習指導者,介護職員,介護老人福祉施設

 

論文

第62巻第5号 2015年5月

介護老人福祉施設における褥瘡対策に関する
職員教育の実態とその関連要因

三谷 佳子(ミタニ ヨシコ) 永野 みどり(ナガノ ミドリ)
緒方 泰子(オガタ ヤスコ) 岡本 有子(オカモト ユウコ) 五十嵐 歩(イガラシ アユミ)

目的 介護老人福祉施設での褥瘡推定発生率は1.21%だが,半数は重度の褥瘡だと指摘されている。介護老人福祉施設は他の介護保険施設と比べ,介護に最も重点をおいた施設だが,介護職の褥瘡ケアに関する知識不足や,褥瘡処置技術に対する不安が報告されている。介護老人福祉施設における褥瘡対策状況を見直し,そこに勤める職員への教育について検討することは,介護老人福祉施設のケアの質や入所者のQOLの観点からも重要である。そこで本研究では,介護老人福祉施設における褥瘡ケアに関する職員教育の実態とその関連要因を検討することを目的とした。

方法 全国の特別養護老人ホーム5,800施設を対象に,郵送法にて質問紙調査を行った。回収数は2,731件で,そのうち褥瘡対策状況に関して回答のあった2,723件を有効回答とし分析を行った。

結果 回答者は看護職員が1,920人(70.5%),開設主体は社会福祉法人が2,309施設(90.3%)であり,褥瘡有病割合は3.0%であった。褥瘡対策チームのある施設は1,275施設(51.0%),褥瘡対策のための職員教育を実施している施設は1,283施設(49.1%)であった。職員教育で取り上げられているテーマは「褥瘡発生予防の勉強会」「褥瘡予防の用具等に関する事」「褥瘡処置・ケアの手順の実技」が多かった。職員教育の手法で最も多かったのは「講義」(31.3%)であった。職員教育の有無と,施設状況,加算算定状況,褥瘡対策状況,入所者の状況,職員状況との関連を検討した結果,職員教育あり群では「同一法人または関連法人が開設・運営する医療機関」を有する割合が有意に多かった(p=0.002)。職員教育の有無は,褥瘡対策チーム・褥瘡対策指針の有無と有意に関連していた(p<0.001)。また,職員教育あり群の方が円座の使用割合は有意に少なかった(p=0.01)。しかし,一方で職員教育あり群でも554施設(54.8%)では円座を使用していた。

結論 職員教育の実施には医療機関との連携体制が関わっており,他の医療機関のサポートが重要であると考えられる。また,褥瘡対策への取り組み状況に施設間で差があることが確認された。一方で,職員教育は褥瘡ケアの新しい知識の普及に有用だが,実際の褥瘡ケアに有用かつ新しく正しい情報が教育されていない,もしくは職員教育を実施しているにも関わらず実際の褥瘡ケアに教育内容が反映されていない施設が少なくないことも示唆された。

キーワード 褥瘡,職員教育,介護老人福祉施設,ケアの質

論文

 

第62巻第5号 2015年5月

グループホーム入居者の退去先の決定要因

岸田 研作(キシダ ケンサク) 谷垣 靜子(タニガキ シズコ)

目的 グループホーム(以下,GH)入居者の退去先の決定要因を明らかにすることとした。

方法 全国のGHから無作為に抽出された6,064の事業所を対象に調査を行った。最終的に分析対象となったのは,1,415のGHの入居者および過去1年間の退去者(計11,787人)である。退去先の決定要因を多項ロジットモデルで分析した。

結果 看護師を配置しているGHでは,老人保健施設への退去が少なかった。看取りに取り組む意向があるGHでは,一般病院への退去が少なかった。母体法人が医療機関や介護施設を持つGHでは,医療機関や介護施設への退去が多かった。

結論 看護師の配置は,老人保健施設への退去確率を低下させるものの,療養病床や一般病院への退去確率に影響しなかったことから,医療依存度が高い者の入居継続を促進する効果は限定的であると考えられる。看取りに取り組む意向があるGHでは,医療依存度が高い入居者でも受け入れることにより,一般病院への退去が少ない。母体法人が医療機関や介護施設を持つGHでは,重度化した入居者を母体法人が有する医療機関や介護施設に入院・入所させている可能性がある。

キーワード グループホーム,退去者,看取り

 

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第62巻第5号 2015年5月

小児科定点医療機関における内科標ぼうの有無による
報告患者年齢構成の違いについて

船山 和志(フナヤマ カズシ) 田代 好子(タシロ ヨシコ)飛田 ゆう子(トビタ ユウコ)
段木 登美江(ダンギ トミエ) 高井 麻実(タカイ アサミ) 上原 早苗(ウエハラ サナエ)
畔上 栄治(アゼガミ エイジ) 水野 哲宏(ミズノ テツヒロ)

目的 感染症発生動向調査事業における小児科定点医療機関(以下,小児科定点)からの報告において,内科標ぼうの有無による患者の年齢構成の違いを検証した。

方法 横浜市における小児科定点から報告された感染性胃腸炎患者の年齢構成を,全小児科定点および小児科定点のうち,小児科を有する一般診療所(主たる診療科が小児科)において,内科標ぼうの有無でそれぞれ比較した。

結果 全小児科定点と小児科定点のうち,小児科を有する一般診療所(主たる診療科が小児科)のどちらにおいても,内科標ぼうの有無で年齢構成に有意な違いがみられた。

結論 地域によって内科標ぼうのある小児科定点の割合が異なる可能性が考えられることから,全国や地域間における患者の年齢構成の比較や,年齢ごとの罹患数を推計する際には,定点の内科標ぼうの有無についても考慮する必要があると考えられた。

キーワード 感染症発生動向調査,小児科定点医療機関,内科標ぼう,年齢構成

 

論文

第62巻第5号 2015年5月

インフォームド・コンセントと
インフォームド・チョイスの理想と現実

-患者の性差による分析-
塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ)

目的 患者調査から得られたデータを使用して,治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスの理想と現実において,患者の属性が影響しているかを検証した。患者の属性として,性別,年齢,学歴を取り上げたが,性別のみに一貫した傾向がみられたので,患者の属性のうち,性別に限定した分析結果を報告する。

方法 2004年に関東,中部,近畿の各地方の患者を対象に実施された『患者さんの「医療への参加」に関する意識調査』のうち,治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスの理想と現実に関する質問と患者の属性に関する質問から得られたデータを使用し,クロス集計表による分析およびMann-Whitney検定による分析を行った。

結果 治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスにおいて,女性のほうが男性よりも患者の意向を重視した決定を望んでおり,現実においても女性のほうが男性より患者の意向を重視した決定がなされていると感じていることが示された。

結論 上記の結果が得られた理由として,女性は,防衛的で損失回避的な性質があることが考えられた。医師と対面する場合でも,損をしないように,危害を加えられないようにしたいため,より自分の意思を尊重してもらいたいという希望が強く,医師と対面する場面でも,男性は余計なコミュニケーションをしないが,女性は安心を得られるような丁寧なコミュニケーションを求めていると考えられる。そして,現実の場面でも,女性のほうが不安解消のために積極的にコミュニケーションをとるため,より患者の意思を尊重してもらう機会が増え,実際にもそうなっていると考えられる。

キーワード インフォームド・コンセント,インフォームド・チョイス,性差,治療方法,薬の選択

 

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第62巻第5号 2015年5月

北海道における脳梗塞アルテプラーゼ静注療法拠点病院への
自動車アクセス時間と地域格差改善

西條 泰明(サイジョウ ヤスアキ) 中木 良彦(ナカギ ヨシヒコ) 川西 康之(カワニシ ヤスユキ)
吉岡 英治(ヨシオカ エイジ) 伊藤 俊弘(イトウ トシヒロ) 吉田 貴彦(ヨシダ タカヒコ)

目的 北海道内の居住地域から,脳梗塞アルテプラーゼ静注療法の実施できる脳卒中急性期医療拠点病院への自動車アクセス時間について地理情報システム(GIS)ソフトウエアを用いて推定し,またアクセス時間を短縮することで改善するための拠点病院配置案を示すことを目的とした。

方法 北海道医療計画に掲載されている61医療機関を脳卒中急性期医療拠点病院とし,平成22年国勢調査における町丁字別人口に1人以上の居住者が存在する地区ごとに,直近の拠点病院への自動車アクセス時間を推定した。二次医療圏・市町村ごとのアクセス時間は町丁字別人口居住者数の重み付けをした平均値として算出した。またアクセス時間を改善するための拠点病院配置案については,二次医療圏ごとにアクセス時間上位の二次医療圏へ,7医療機関を新たに割り当てたアクセス時間改善案の検討も行った。

結果 61拠点病院へのアクセス時間について,平均60分以上となる二次医療圏が6医療圏存在し,うち90分以上は5医療圏であった。アクセス時間を改善するための拠点病院追加案については,①二次医療圏でアクセス時間が平均60分以上であり,医療圏内に拠点病院が設定されていない6医療圏,②アクセス時間60分以上に該当する人数が,約7万4千人と医療圏では2番目に多い1医療圏に1拠点病院を追加したと仮定した。以上,計68拠点病院とした場合の二次医療圏ごとのアクセス時間を計算すると,平均60分以上は1医療圏のみとなった。

結論 本研究では,GISソフトウエアを用いて,特に二次医療圏ごとの拠点病院への平均アクセス時間を示した上で,北海道の現状を考えた脳卒中急性期医療拠点病院の例を示した。脳梗塞急性期治療については,二次医療圏や自治体ごとのアクセス状況を検討し,地域の現状を考えて改善案を考えていく必要があると考える。

キーワード 脳梗塞,遺伝子組み換え組織プラスミノゲンアクチベーター(rt-PA,アルテプラーゼ),拠点病院,地理情報システム(Geographic Information System:GIS),アクセス時間

 

論文

第62巻第6号 2015年6月

施設入居後の高齢女性の主観的幸福感について

-友人関係と高齢期の生き方を中心に-
鈴木 依子(スズキ ヨリコ)

目的 施設入居後の環境適応について,高齢期の望ましい生き方に対する志向の違いによって,友人関係の形成に差があるかどうかを検討した。また,主観的幸福感が,高齢期の望ましい生き方の認識や施設入居後の友人関係形成に関連があるかどうかを検討することを目的とし,今後,高齢期に住み替えを行う場合の基礎資料を得ることとした。

方法 対象者は東京都のケアハウスの居住者で,都内のケアハウスに調査協力を依頼し,生活相談員を通して調査趣旨に賛同の得られた居住者に対して,調査票を配布し無記名での回答を求め,郵送により回収した。有効回収数は428,有効回収割合は71%であった。施設職員による代理回答は求めなかった。このうち配偶者のいない女性278名のデータのみを用いた。調査内容は,基本属性,高齢期の生き方,友人関係,主観的幸福感とした。

結果 「変化・挑戦志向」的生き方をしている者は,主観的幸福感が高かった。提供サポートと受領サポートには主観的幸福感との関連が見られなかった。ただ,生き方が消極的な群で提供サポートに満足している場合に主観的幸福感が高かった。

結論 消極的な生き方の者が主観的幸福感を得ることができるように,彼らが施設内の友人に対して,サポートを提供できるような環境を整えることの重要性が示唆された。

キーワード ケアハウス入居者,高齢期の生き方,友人関係,主観的幸福感

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第62巻第6号 2015年6月

柔道整復師が介入する被災地における訪問機能訓練事業の効果

若井 晃(ワカイ アキラ) 豊嶋 良一(トヨシマ リョウイチ) 櫻田 裕(サクラダ ユタカ)
松本 浩二(マツモト コウジ) 早坂 健(ハヤサカ タケシ) 中川 裕章(ナカガワ ヒロアキ)
三谷 誉(ミタニ ホマレ) 藤田 章一(フジタ ショウイチ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル)

目的 東日本大震災後,被災地では環境の大きな変化から閉じこもり状態となる傾向にあるという。閉じこもりから生活不活発病につながり要介護状態へと移行するといわれ,最終的には死亡のリスクとなり得る。こうしたリスクを表面化する以前に食い止める方法が求められている。宮城県柔道整復師会では,柔道整復師が閉じこもり予防,支援の一つとしての訪問機能訓練を実施して,身体機能の向上,心理・社会的機能の向上を図り,活動意欲向上の実現を試みている。この試みが被災者の要介護・要支援への移行防止に役立つかどうかを検討することを目的とした。

方法 仙台市,石巻市,塩竈市,気仙沼市,および東松島市にて各地域包括支援センターから紹介された,もしくは接骨院に通院している者のうち,①被災した者,または被災した家族,②二次予防事業対象者に該当された者,または候補の者(自立判定を含む),③65歳以上で膝痛,腰痛の既往があり,生活不活発病に該当した者のいずれか1つに該当する者28名とした。柔道整復師による訪問機能訓練を実施して,心身機能および構造分野,健康に関する体力要素分野,ADL,IADL分野,QOL分野の4項目分野に改善がみられるかどうかを訓練前後で比較した。調査期間は,平成25年1月10日~3月17日とした。

結果 心身機能分野では,筋力,持久力,痛みについて有意に改善を認めた(p<0.05)。また健康に関する体力要素分野では,握力,開眼片脚起立時間,Timed Up&Go,5回椅子立ち上がりテスト,すべての項目において有意に改善を認めた(p<0.05)。ADL,IADL分野では,ADLに対する自己効力感の改善を認めた(p<0.05)。QOL分野では,一つずつの項目では有意差はみられなかったものの,QOLの項目合計を表す自己効力感に有意な改善を認めた(p<0.05)。

結論 柔道整復師が介入した訪問機能訓練によって,身体機能,健康に関する体力要素,日常生活や外出・参加に対する自信などの向上が図られたことから,これにより閉じこもりが解消され,対象者の望む生活を取り戻せる可能性が示唆された。

キーワード 被災地,柔道整復師,訪問機能訓練,閉じこもり状態,生活機能

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

孤独感による自殺死亡と同居人の有無の関連

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 孤独感を原因・動機とする自殺死亡と同居人の有無の関連について,性・年齢別に明らかにすることを目的とした。

方法 自殺統計原票データを内閣府において特別集計した結果を分析に使用した。分析対象は,2009~2011年における自殺死亡者とし,自殺の原因・動機として「孤独感」が選択された者を孤独感による自殺死亡と定義した。自殺死亡率は,2009~2011年における自殺死亡数を2010年国勢調査人口の3倍で除して算出した。自殺死亡率比は,同居人の状況が「なし」の者(以下,独居群)の自殺死亡率を,「あり」の者(以下,同居群)の自殺死亡率で除した比として算出した。

結果 2009~2011年における自殺死亡数は男性65,879人,女性28,310人であり,そのうち孤独感による自殺死亡数は男性1,186人,女性627人であった。独居群では,男女とも,年齢が高くなるにつれて孤独感による自殺死亡率が上昇していた。一方,同居群では,孤独感による自殺死亡率は80歳未満では年齢による明らかな変化はみられなかったが,80歳以上では上昇していた。独居群,同居群ともすべての年齢において,男性の方が女性より孤独感による自殺死亡率が高かった。孤独感による自殺死亡率比は,男性では70~79歳,女性では60~69歳で最大であり,70歳以上では男性の方が女性より大きかった。

結論 独居は,性・年齢に関わらず孤独感による自殺死亡の危険因子であり,その影響は70歳以上では男性の方が女性より大きい可能性が示唆された。また,独居群,同居群ともに高齢者では孤独感による自殺死亡率が上昇していることから,同居人の有無に関わらず高齢者の孤独感の解消を行うことが自殺対策として必要になると考えられた。

キーワード 自殺死亡,孤独感,同居人,自殺統計原票

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

妊婦健康診査における公費負担と母子保健衛生に関する地域相関研究

中野 玲羅(ナカノ レイラ) 佐藤 拓代(サトウ タクヨ) 磯 博泰(イソ ヒロヤス)

目的 妊婦の経済的負担の軽減を図り,安心して妊娠・出産ができる体制を確保することを目的として,平成21年より受診が望ましいとされる妊婦健康診査14回分の公費負担が行われている。しかしながら,都道府県ごとの公費負担額にはばらつきがあり,最大で3倍もの格差が生じている。また,近年,分娩が開始して初めて医療機関を受診する,あるいは救急隊要請を行う未受診妊婦あるいは飛び込み出産と呼ばれる事例が顕在している。未受診妊娠は流早産,低出生体重児,NICU入院も多く,母子ともに医学的にリスクの高い事例であるが、未受診の理由としては経済的問題が最も多く,約3割を占めている。このことから,妊婦健康診査における公費負担は,健診受診の促進につながり,ハイリスクな未受診妊娠を減少させる可能性があると考え,平成21年から23年までの都道府県ごとの公費負担額と母子保健衛生指標との関連を分析した。

方法 妊婦1人当たりの健診受診回数,満11週以内の妊娠届出割合,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率,人工妊娠中絶実施率について,それぞれ全14回分の公費負担が開始された平成21~23年前後の値を用い,妊婦健診1人当たりの公費負担額との相関関係を調べた。さらに,妊娠届出週数に対する母の年齢の影響についても検討した。

結果 都道府県ごとの妊婦健診1人当たりの公費負担額は,満11週以内の妊娠届出割合との間に正の相関(r=0.15~0.31)を,人工妊娠中絶実施率とは負の相関(r=-0.19~-0.31)を示した。妊婦1人当たりの健診受診回数,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率は公費負担額との間に明らかな相関はみられなかった。満11週以内の妊娠届出割合は出生時の母の平均年齢との間に正の相関(r=0.27~0.36)がみられた。

結論 妊婦健康診査における公費負担額の拡充は,妊娠早期の妊娠届出を促進し,人工妊娠中絶を抑制する可能性が示された。また,低年齢の妊婦に対する妊娠届出の重要性に関する啓発が必要と考えられた。

キーワード 母子保健,妊婦健康診査,公費負担,妊娠届出,人工妊娠中絶

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

在宅ケアにおける医療・介護職の多職種連携行動尺度の開発

藤田 淳子(フジタ ジュンコ) 福井 小紀子(フクイ サキコ) 池崎 澄江(イケザキ スミエ)

目的 本研究では,在宅ケアにおける医療職と介護職を含めた多職種による連携行動を評価できる尺度を開発し,その関連要因を検討することを目的とした。

方法 先行研究をレビューし,医療職や介護職との討議,さらにプレテストを経て作成した,多職種連携行動尺度について,3地域で在宅ケアを提供している医師,看護職,薬剤師,介護支援専門員,訪問介護従事者を対象とした質問紙調査を実施した。

結果 配布した1,526票中,665票の回収が得られ362票を分析に用いた。項目分析と因子分析(主因子法,プロマックス回転)の結果より項目の取捨選択を行い,最終的に“意思決定支援”,“予測的判断の共有”,“ケア方針の調整”,“チームの関係構築”,“24時間支援体制”の5因子構造の17項目からなる尺度を作成した。信頼性として,Cronbachのα係数は0.94,再テスト法による相関係数は0.91であり,内的一貫性および再現性が確認された。併存的妥当性として,地域の連携基盤やチームの連携達成度に関する自己評価とは,いずれも0.40以上の有意な相関を示した。また,関連要因として,多職種連携研修会や在宅終末期ケア研修受講がある場合,または過去1年間に終末期ケアを経験していた場合は,多職種連携行動の得点が有意に高かった。

結論 開発した尺度は,多職種連携行動を測定する尺度としての信頼性,妥当性を有すると考えられた。また,連携を高めるためには,実践的な知識や経験が必要であり,こうした機会を積極的に地域でつくりだす必要がある。今後は,本尺度を在宅ケアに従事する医療職と介護職の連携の評価とし,地域内での改善策を検討する際に活用することも可能と考える。

キーワード 多職種連携,在宅ケア,行動尺度,連携評価

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第62巻第7号 2015年7月

市区町村単位の既存統計資料を活用した地域特性の把握

-地域診断に備えて-
安藤 実里(アンドウ ミノリ) 嶋田 雅子(シマダ マサコ) 若林 チヒロ(ワカバヤシ チヒロ)
 新村 洋未(シンムラ ヒロミ) 笹尾 久美子(ササオ クミコ) 加藤 朋子(カトウ トモコ)
島田 美喜(シマダ ミキ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 政府が公表している市町村単位の統計資料を用いて,「健康日本21(第二次)」などの健康づくり計画の策定と実績を評価するための簡便なツールを作成し,地方自治体が実施する健康づくり政策策定のための基礎資料を効率的に収集し,活用することを目的とした。

方法 総務省統計局のe-Statや各府省のホームベージに掲載されている統計資料と一般財団法人厚生労働統計協会などの団体が刊行している統計資料のうち,市町村単位の集計成績が利用できるもののリストを作成する。さらに,このリストを用いて簡便に市町村の地域特性を把握するための評価シートを作成した。

結果 利用可能な市町村単位の統計資料のうち,健康づくり政策の策定に役立つものを選定し,①基礎データ項目(e-Statを含む),②人口動態・寿命に関するもの,③保健・医療・福祉に関するものの3つのカテゴリーに分けて,それらの名称,所在先(リンク先アドレス),収録資料の内容の総覧を作成した。その上で,選定した統計資料を用いて,対象とする自治体の値と全国,都道府県の平均値(標準値)とを比較するための簡便な評価シートを作成した。時系列データが利用できる資料については,標準値との比較の際に偶然のばらつきによる判断の誤りや年齢構成の影響を避けるために,可能な範囲で単年ではなく5年間の発生数の合計や標準化死亡比などを利用することとした。具体例として,1つの自治体(市レベル)を取り上げて,人口高齢化に関する項目を中心にして,評価シートにデータを入力し,作成した指標の妥当性を検証した。

結論 今回作成した市町村別統計資料リストと評価シートを用いることにより,基本的な地域特性を把握するための地域診断を,より効率的かつ簡便に行うことができると考える。しかし,政府が公表している市町村単位の統計資料には限りがあり,ここに示したリストとシートだけでは十分ではない。対象とする自治体および都道府県がもっている統計資料も有効活用することにより,地域診断の内容と精度を充実させたい。

キ-ワ-ド 既存統計資料,地域診断,健康日本21,e-Stat,地域特性評価シート,市町村別指標

 

論文

第62巻第7号 2015年7月

介護サービス情報公表システムを用いた
岐阜県の高齢者入所施設のケアの質に関する研究

小島 愛(コジマ メグミ) 大久保 豪(オオクボ スグル)

目的 本研究の目的は介護サービス情報公表システムの運営状況チェック項目のうち,実施割合の低いものを明らかにすること,そして他者視点での評価(利用者アンケートや第三者評価)の実施状況を明らかにした上で,実施割合の低い項目との関連を明らかにすることとした。

方法 2014年4月から5月にかけて,介護サービス情報公表システムから岐阜県の高齢者入所施設の情報を収集した。調査対象の施設は介護老人福祉施設(以下,特養)114施設,介護老人保健施設(以下,老健)67施設の計181施設とした。調査対象の項目は,事業所の詳細および運営状況に掲載されているチェック項目とした。運営状況チェック項目について項目ごとの実施割合を計算し,50%未満であった項目を抽出した。ここで抽出した項目について,入所者アンケート実施の有無および第三者評価実施の有無とのクロス集計を行い,Fisherの直接確率検定を行った。

結果 入所者アンケートを行っていたのは84.5%,第三者評価を行っていたのは12.2%であった。運営状況チェック項目149項目のうち,102項目は実施割合が80%以上であった。実施割合が50%未満の項目は「成年後見制度又は日常生活自立支援事業を活用した記録がある」(入所者アンケートの有無による違いp=0.098;第三者評価の有無による違いp=0.005),「食事の開始時間を選択できることが確認できる」(0.665;0.096),「食事の場所を選択できることが確認できる文書がある」(1.000;0.008),「地域の研修会に対する講師派遣の記録がある」(0.071;0.133),「介護相談員又はオンブズマンとの相談,苦情等対応の記録がある」(0.013;0.171),「第三者委員との会議記録がある」(0.628;0.002),「地域の消防団,自治体等との防災協定書がある」(0.837;0.256),「自ら提供するサービスの質について,自己評価を行った記録がある」(0.536;0.037),「介護及び看護の記録について,利用者又はその家族等に対する報告又は開示を行った記録がある」(0.319;0.298),「精神的ケアに関する従業者研修の実施記録がある」(0.047;0.075),「在宅で療養している要介護者が緊急時に入所することについて記載があるマニュアル等がある」(0.259;0.356),「在宅で療養している要介護者が緊急時にショートステイを利用することを定めている文書がある」(0.281;0.318)であった。

結論 運営状況チェック項目のうち,実施割合が50%未満のものは12項目あり,一部の項目では入所者アンケートや第三者評価といった他者視点での評価を行っている施設で実施割合が高くなっていることも示唆された。

キーワード 介護の質,高齢者入所施設,質の向上,介護保険

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第62巻第7号 2015年7月

低出生体重児出生率の地域差に関する検討

芹澤 加奈(セリザワ カナ) 扇原 淳(オオギハラ アツシ)

目的 低出生体重児は,生活習慣病等の発症リスクが高いことが知られているが,2000年代以降,わが国では,低出生体重児出生率が増加している。低出生体重児の出生に関連する要因の中でも,時間的空間的な特徴は明らかになっていない。そこで本研究では,都道府県レベルでみた低出生体重児出生率の年次推移について検討し,低出生体重児出生の時間的空間的な偏在とその特徴について明らかにすることを目的とした。

方法 厚生労働省,総務省統計局公表の都道府県別指標データから,1975年,1992年,2009年の2,500g未満出生率を抽出した。3つの年次の低出生体重児出生率を白地図上に色分けし,視覚化した。次に,抽出した年次データを用いて,都道府県別に低出生体重児出生率の増加率を算出した。

結果 1975年では,低出生体重児出生率の高かった上位5県は沖縄県,佐賀県,宮崎県,熊本県,高知県で,九州沖縄地方に集中していた。低い県上位5県は,青森県,宮城県,山形県,長野県,埼玉県で東北地方に多かった。1992年では,沖縄県,福岡県,静岡県,栃木県,佐賀県の順で高かった。2009年では,山梨県,沖縄県,島根県,鹿児島県,宮崎県の順で高かった。1975年を基準年とした2009年の低出生体重児の増加率は,山梨県(206.6%),長野県(193.9%),島根県(188.8%),青森県(187.2%),栃木県(183.1%)の順で高かった。

結論 わが国の低出生体重児出生率は周産期医療体制の整備とともに増加していった。都道府県別の低出生体重児出生率は,1975年には九州沖縄地方に多く,1992年には九州沖縄地方に加えて静岡,栃木といった本州の県で高い傾向がみられた。2009年には,再び九州沖縄地方で高い傾向がみられた。低出生体重児出生率の増加率(2009年/1975年)が高かった県は,周産期医療に関わる資源が高い可能性が考えられた。今後,低出生体重児出生率のリスク要因の分析に際しては,正・負双方の要因に注意した分析が求められる。

キーワード 低出生体重児,出生率,都道府県,年次推移

 

論文

第62巻第7号 2015年7月

1歳半児の咀嚼力と養育者の児への食事提供の実態

上野 祐可子(ウエノ ユカコ) 佐伯 和子(サエキ カズコ) 良村 貞子(ヨシムラ サダコ)

目的 子どもの咀嚼力低下が問題視され,口腔発達に合わせた食事提供が重要視されるようになった。しかし,口腔発達に合った硬さの食事や大きめの物を食べていない状況があり,養育者の食事提供の視点から成長発達に合った食事支援について検討する必要がある。そこで本研究では,1歳半児の咀嚼力と養育者の食物の硬さと大きさに対する認識および児への食事時の声かけとの関連を明らかにすることを目的とした。

方法 2013年6~10月,北海道内の4市で行われた1歳6カ月児健康診査を受診した児の養育者を対象に,無記名自記式質問紙を配布し,郵送法で回収した。調査票は児の咀嚼力,養育者の児への食事の与え方で構成した。咀嚼力は「よく噛んでしっかり飲みこむ力」と定義した。分析には,児の咀嚼力との関連を検討するため,各変数のカテゴリーを2群に分け,χ2検定,Fisherの直接確率検定を行った。統計的有意水準はP<0.05とした。

結果 調査票配布は501部,うち有効回答者200人(有効回答率39.9%)であった。咀嚼力がある児は128人(64.0%)であった。養育者は,食物の硬さの目安として大人に近い硬さを29.2%が,大人と同じ硬さを11.2%が与えており,硬いものを入れる頻度は,「いつも入れる」「たまに入れる」を合わせて77.4%であった。普段から噛み切って1口サイズにする大きさの食物を提供している養育者は16.2%と少なく,普段から細かく数個をまとめて1口で食べる大きさを目安としている者は9.0%であった。声かけの頻度は,「いつもかける」「たまにかける」合わせて164人(82.0%)であった。養育者が硬いものを児の食事によく取り入れ(P=0.005),噛み切って1口サイズにするような大きなものを児の食事に取り入れている群(P=0.037)は有意に咀嚼力があった。また,硬いものや大きなものをあげた時に噛むよう声をかける群は有意に咀嚼力があった(P=0.002,P=0.014)。

結論 咀嚼力がある1歳半児は6割程度であった。養育者は,硬いものを与える意識が高いが,児の発達段階より硬すぎるものを目安として提供する傾向にあること,切歯で噛み切る必要のない大きさの食べ物を与える傾向にあることが示唆された。1歳半児には,発達に合わせた硬さ・前歯で噛む必要がある大きめな物を提供し,摂取時にしっかり噛むよう児へ声かけするよう提案する必要性が示唆された。

キーワード 咀嚼力,食物の硬さ,食物の大きさ,声かけ,1歳半児

論文

 

第62巻第7号 2015年7月

大学生における早食いと肥満の関係

山根 真由(ヤマネ マユ) 江國 大輔(エクニ ダイスケ) 森田 学(モリタ マナブ)

目的 多くの横断研究では早食いと肥満との関連が示唆されているが,縦断研究で若年者を対象に早食いと肥満との関連を調べたものはあまりない。本研究の目的は,日本の大学生を対象に早食いと肥満との関連を縦断研究で調査することである。

方法 2010年4月に,岡山大学で行われた入学時の健康診断および3年後の健康診断を受診した1,396名のうち,BMIが25㎏/㎡未満の正常な体重の1,314名(男性676名,女性638名)を分析対象とした。早食いを含む生活習慣に関する自己記入式質問紙調査を行った。3年後の追跡調査時にBMIが25㎏/㎡以上だった者を「過体重/肥満群」,18.5㎏/㎡以上,25㎏/㎡未満だった者を「正常群」,18.5㎏/㎡未満だった者を「やせ群」と定義した。2群間(やせ群/正常群と過体重/肥満群)の食習慣の比較にχ2検定,「過体重/肥満群」の有無を従属変数,性別,早食い,油物をよく食べるを独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。

結果 本研究では38名(2.9%)が3年後に過体重/肥満群となった。ロジスティック回帰分析では過体重/肥満群になるリスクは,男性でオッズ比2.77倍(95%信頼区間:1.33-5.79,P<0.01),早食いでオッズ比4.40倍(95%信頼区間:2.22-8.75,P<0.001)であった。

結論 日本の大学生において,早食いは肥満のリスクになることが示唆された。大学等で毎年実施されている健康診断の際に,BMIや食べる速さを調べること,および早食いの改善のために保健指導を取り入れることで,将来のBMI増加予防および生活習慣病予防に役立つことが期待される。

キーワード 早食い,大学生,肥満,縦断研究,BMI

論文

 

第62巻第7号 2015年7月

地域の高齢者における友人の獲得とつながりの維持に関する縦断研究

岡本 秀明(オカモト ヒデアキ)

目的 地域の高齢者のつながりづくりやつながりの維持に関して友人に焦点をあて,縦断調査データを用いて,友人を獲得している者,友人と会う機会を維持している者,親しい友人・仲間をもち続けている者の特性の3点を明らかにすることを目的とした。

方法 千葉県都市部4市に在住する高齢者(65~79歳)2,000人を無作為抽出し,初回調査を2010年に,追跡調査を2013年に実施した。分析対象者数は,610人であった。分析には,二項ロジスティック回帰分析を用いた。従属変数は,友人を獲得している者の特性の検討では,初回調査時に友人の獲得がない者のみを抽出し,追跡調査時における友人の獲得の有無とし,友人と会う機会を維持している者の検討では,初回調査時に友人と会う機会がある者のみを抽出し,追跡調査時における友人と会う機会の有無とし,親しい友人・仲間をもち続けている者の検討では,初回調査時に親しい友人・仲間がいる者のみを抽出し,追跡調査時における親しい友人・仲間の有無とした。

結果 二項ロジスティック回帰分析の結果,友人を獲得している者の特性は,人間関係を広げる志向の得点が高い,趣味の会等仲間内の活動をしている,学習の場に参加している,であった。友人と会う機会を維持している者の特性は,人間関係を広げる志向の得点が高い,趣味の会等仲間内の活動をしている,老人クラブ活動をしている,であり,外出や活動参加に誘われるに有意傾向(p<0.1)がみられた。親しい友人・仲間をもち続けている者の特性は,人間関係を広げる志向の得点が高い,趣味の会等仲間内の活動をしている,学習の場に参加している,であり,女性に有意傾向がみられた。

結論 友人の獲得,友人と会う機会の維持,親しい友人・仲間の維持のそれぞれの関連要因が明らかになり,これらすべてに共通していた関連要因は,人間関係を広げる志向が強い,趣味の会等仲間内の活動をしていることであった。

キーワード 社会的ネットワーク,友人関係,友人の獲得,つながりの維持,高齢者,縦断研究

 

論文

第62巻第8号 2015年8月

児童虐待問題を抱える家族の特徴に関する研究

-児童相談所の虐待実態調査に関するクラスタ分析比較を通して-
加藤 洋子(カトウ ヨウコ)

目的 本研究は,児童相談所が対応している児童虐待事例に関する2つの実態調査の2次分析から虐待問題を抱える家族の特徴を明らかにし,虐待を深刻化させない対策を検討することを目的とした。

方法 「児童相談所が対応する虐待家族の特性分析」(2003年)と,全国児童相談所長会による「全国児童相談所における虐待の実態調査」(2008年)の2次分析(個別票データ)より,虐待が起こっている家族を類型化し比較を行った。2003年調査は,世帯別の416ケース(児童数501人)を分析対象とした(3都道府県内にある児童相談所に質問紙を送付・回収した。調査期間は2002年12月~2003年1月とし,2002年度中に一時保護し,一定の方針が立ったケースになる)。2008年調査は,全国の児童相談所(195/197カ所回収)が受理した虐待またはその疑いがあるケースを調査対象としている(2008年4月1日~6月30日までの期間に新規に受理したケース)。世帯別では7,256ケース(虐待相談として受理した児童数9,895人)になる。分析は多重コレスポンデンス分析の次元得点を利用したクラスタ分析を行った。

結果 類型は,「両親型」「ひとり親型」「祖父母同居型」「内縁型」に分かれ,どの家族形態(世帯)においても虐待が認められた。「ひとり親型」「祖父母同居型」の類型では,世帯の経済状況・就労状況の厳しさが明らかになり,「ひとり親型」では保護者が精神疾患に罹患しているケースが多いことがわかった。各類型とも身体的虐待,ネグレクトが大きな割合を占めており,次に心理的虐待の割合が高かった。2003年調査と2008年調査で経年の変化を確認したが,家族の特徴は大きく変化していなかった。

結論 本研究より「ひとり親型」「祖父母同居型」は経済的な状況が厳しい傾向が強く,経済的支援が欠かせないことが明らかになった。また「ひとり親型」では「ネグレクト」への配慮を十分に行うことが不可欠であり,保護者の精神疾患にも留意しなければならないことがわかった。それらを踏まえ,「ひとり親型」の家族には精神面と家事等における援助が必要であり,その施策の拡充がさらに求められるであろう。個々の家族を支援するソーシャルワークの必要性と,類型からみた家族の特徴をとらえた対応を同時に意識すること,またそれに合わせた施策の整備を行うことが現場では求められ,虐待死につながるような重篤な虐待を防ぐためには,これらの類型から導き出され重なり合っている注意すべき項目を見逃さず家族を支援しなければならない。

キーワード 児童虐待実態調査2次分析,虐待家族の特徴,クラスタ分析, 類型化の比較

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第62巻第8号 2015年8月

認知症対応型生活介護(グループホーム)における看取りの実態と課題

-運営法人別の特徴について-
小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 鷲見 幸彦(ワシミ ユキヒコ)

目的 認知症対応型共同生活介護(GH)は,介護保険法の施行後,施設数が増加し,GHにおける看取りも増えている。近年,増加が著しい営利法人運営のGHを含めた運営法人別の看取りの実態と課題を明らかにする。

方法 愛知・岐阜・三重3県のGH840カ所に調査票を郵送した。内容は,GHの運営主体,本体施設の有無とある場合の施設種類,ユニット数,利用者の診療体制,急変時や看取りに関するマニュアルの有無,急変時の医師への連絡体制,看取りへの協力の有無,過去の看取りの経験とその評価,今後の看取りに対する意見等である。調査期間は平成25年10月1日から11月末日までであった。

結果 522カ所のGHから有効回答を得た(回収割合:62.1%)。法人別で最も多かったのは株式会

社,次いで有限会社であった。これらとその他の会社法人を合わせて営利法人とした。解析は,営利法人,医療法人,社会福祉法人の3群で行った。単独型は全体で56.6%,社会福祉法人および医療法人では単独型はそれぞれ12.9%,11.8%であったが,営利法人では80.3%であった。併設型の場合の本体施設は,医療法人では病院と診療所,社会福祉法人では特別養護老人ホームが多かった。ユニット数は2ユニットが最も多く,次いで1ユニットであった。社会福祉法人では1ユニットが50.5%であり,医療法人と営利法人では2ユニットがそれぞれ62.3%,67.1%であった。本人や家族がGHでの看取りを希望した場合,「協力する」と答えたのは40.8%,「協力しない」は10.8%,「条件により協力する」は47.9%であった。社会福祉法人では「協力しない」が20.2%であったのに比べ,医療法人と営利法人ではそれぞれ9.3%,8.4%であった。GHでの看取りの経験は,59.0%のGHで「ある」と答えた。社会福祉法人では51.0%で経験がなかったが,医療法人と営利法人ではそれぞれ55.3%,63.0%の経験があり,3群間で有意な違いがみられた。看取りの回数は2~4回が最も多く,次いで1回であり,10回以上のGHもあった。医療法人と営利法人では5~9回がそれぞれ19.5%,19.1%であり,医療法人では10回以上が17.1%であったが社会福祉法人では2.2%であった。

結論 医療法人のGHは本体が医療施設であることから,医療との連携は十分であり,看取りの経験豊富な事業所が増えていた。一方,社会福祉法人では医療との連携はやや薄いながら,看取りに関する職員や家族の満足度が高く,質の良い看取りが行われていると考えられた。GHでの看取りの実態には,運営法人の背景に基づく特徴が反映されていた。

キーワード 認知症対応型共同生活介護(グループホーム),看取り,営利法人,医療法人,社会福祉法人

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第62巻第8号 2015年8月

セーフコミュニティに向けた基礎的研究

-都市在住高齢者における傷害予期不安と関連要因の検討-
田髙 悦子(タダカ エツコ) 田口 理恵(タグチ リエ) 有本 梓(アリモト アズサ)
臺 有桂(ダイ ユカ) 今松 友紀(イママツ ユキ)
鹿瀬島 岳彦(カセジマ タケヒコ) 塩田 藍(シオダ アイ)

目的 都市在住高齢者における傷害予期不安の実態を把握するとともに関連要因を検討することにより,地域レベルで安心・安全の向上に取り組むセーフコミュニティ推進に向けた基礎資料を得ることとした。

方法 対象は,首都圏A市a行政区に在住する65歳以上の住民31,150名(全数)のうちから,1/50割合で無作為抽出された623名である。方法は無記名自記式質問紙調査(郵送法)である。調査内容は,基本属性,身体心理社会的特性,主観的健康感,外出頻度,抑うつ(K6尺度),ソーシャルネットワーク(Lubben Social Network Scale:LSNS),ならびに主要傷害(“自然災害”“交通事故”“犯罪”“転倒・転落”“外傷・脱水”“誤えん・窒息”)に対する今後5年間における予期不安の有無である。各傷害種別の予期不安を従属変数とし,各要因を独立変数とする重回帰分析を行った。

結果 回答者は381名(61.2%),有効回答者は359名(94.2%)であった。対象者の平均年齢は73.5(標準偏差=6.1)歳,うち男性が183名(51.0%),世帯状況は配偶者と同居している者が173名(48.6%)となっていた。予期不安を有する者の割合は,“自然災害”が66.9%と最も多く,次いで“犯罪”61.6%,“転倒・転落”が53.7%,“交通事故”49.0%,“誤えん・窒息”17.0%,“外傷・脱水”13.1%となっていた。また関連要因については,①すべての傷害に年齢および主観的健康感が有意に関連し,②“自然災害”“交通事故”“犯罪”については近所付き合いおよびソーシャルネットワーク,③“外傷・脱水”“誤えん・窒息”については当該傷害経験,抑うつ,外出頻度,④“転倒・転落”については当該傷害経験,抑うつ,外出頻度,近所付き合いおよびソーシャルネットワークが,おのおの有意に関連していた。

結論 都市在住高齢者における傷害予期不安は総じて高く,個人要因と環境要因が関連していたことから,今後,保健,医療,福祉はもとより,警察,消防,職域,教育,交通等における地域の諸領域のネットワークによりセーフコミュニティづくりを推進し,安心・安全を保障することが必要である。

キーワード 都市,傷害,高齢者,セーフコミュニティ,安心・安全,ネットワーク

 

論文

第62巻第8号 2015年8月

医師の大幅な増員を仮定した場合の将来の医師数

-女医の増加とその就業率に着目して-
園田 智子(ソノダ トモコ) 森 満(モリ ミツル)

目的 近年,医師不足が問題化してきたが,医師数が現状維持でも,長期的にみると医師不足は解消されるという報告がなされてきた。医学部新設などによって,今後恒常的に医師が増員された場合に,医師は供給過剰に陥ってしまうのか。そのかぎを握るのは女性医師の増加であると考えられる。そこで,男性医師と女性医師の年齢別死亡率と就業状況の違い,将来の人口の減少を考慮して,医師が大幅に増員された場合の将来の医師数を予測した。

方法 1980年から2060年までの10年ごとの男女別・年代別の医師数を求めた。国家試験合格者が,現状とほぼ同じく毎年9,070人の場合と,医学部新設または定員増により2030年以降,毎年最大10,000人の場合について,それぞれについて将来の医師数を予測した。国家試験合格者に占める女性の割合を35%と40%に設定した。さらに,年齢・性別の就業率の違いで修正した医師数も算出した。

結果 医師の増員がなければ,2060年の人口10万人当たり医師数は454.1~454.8人,全医師数に占める女性の割合は38.5~43.6%となる。2010年と比較して,男性医師数は変化なし,またはやや減少し,女性医師数は2.7~3.1倍となる。医師を増員して2030年以降に毎年10,000人の医師が誕生すると仮定すると,2060年の人口10万人当たり医師数は489.0~491.6人,全医師数に占める女性の割合は約38.0~43.4%となる。男性医師数は1.1倍に微増,または変化なし,女性医師数は2.9~3.3倍となる。医師の増員の有無に関わらず,60歳以上の女性医師は8~9倍に増加する。男女別・年代別の就業率の違いで医師数を修正すると,毎年10,000人の医師が誕生した場合でも2060年の医師数は2010年の1.4倍である。

結論 医師の増員の有無にかかわらず,①60歳以上の女性医師の増加が著しい,②男性医師数は横ばい,またはやや減少する,③人口10万人当たり医師数は日本の人口の減少によって2050年以降に増加率が増すが,受療率の高い高齢者の増加によって患者数は増えるため,患者当たりの医師数が増加するとは限らない。毎年10,000人の医師が誕生すると,④医師数はかなり増加するが,その主な増加分は女性である,⑤女性と高齢医師の就業率の低さのため,実際に就業する医師の増加は緩やかである。

キーワード 医師増員,医師数予測,女医,就業率

論文

 

第62巻第8号 2015年8月

日豪の特別養護老人ホームにおける介護労働の比較研究

-介護労働軽減プログラムと腰痛・筋骨格系の愁訴について-
三宅 眞理(ミヤケ マリ) 上田 照子(ウエダ テルコ) Claire Emmanuel(クレア エマニエル)
下埜 敬紀(シモノ タカキ) 神田 靖士(カンダ セイジ) 西山 利正(ニシヤマ トシマサ)

目的 高齢化の進展から高齢者介護施設の需要も高まり,2025年には237~249万人の介護職員が必要とされている。本研究では,介護労働環境の異なる日本とオーストラリアの特別養護老人ホームの施設と職員に対し質問紙を用いて調査し,介護労働環境が介護職員に与える影響について検討した。

方法 対象は日本の近畿地方にある特別養護老人ホーム20施設(以下,JN)と,オーストラリアのビクトリア州にあるナーシングホーム7施設(以下,AN,日本の特別養護老人ホームにあたる施設)である。対象施設の代表者には調査票Ⅰを配布し,人員配置や給料,労働環境や労働安全教育などの基本情報を得た。調査票Ⅱは同施設の介護職員とし,JNの474人とANの324人を対象に,介護労働軽減プログラムとしての電動移乗介助機器(以下,リフト)の使用,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用の3つの介助動作の状況や腰痛および筋骨格系の愁訴などについて,各々日本語版と英語版の調査票を用いて尋ねた。

結果 JNはANに比較して腰痛や筋骨格系の愁訴が高率であった。その背景として,入居者のADLが低いことや介護職員1人当たり入居者数が多いこと,また,移乗介助や排泄介助などにおける作業が,ANとは異なり1人での介助が主となっていることが考えられた。JNでは,リフトの使用状況,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用が少なく,両群に有意な差が認められた。

結論 JNでは移乗介助や排泄介助において,ANとは異なり1人での介助が主となっていることや,介護労働負担軽減プログラムとしてのリフトの使用,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用が少ないなど,介助における身体的負担が大きく,腰痛や筋骨格系の愁訴が高率となる要因として考えられた。ANでは,No Lift Policy「人力のみによって患者を移乗することを禁止した指針」を推進している。これにより移乗,排泄介助には必ず複数人での介助とリフト機械を利用することが義務づけられている。わが国の介護労働負担軽減のための介護労働環境の改善が必要であり,これらの見直しは喫緊の課題である。

キーワード 高齢者介護福祉施設,介護労働負担軽減,介護職員,腰痛,筋骨格系の愁訴,オーストラリア

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第62巻第8号 2015年8月

地域別将来人口・患者数分析ツールの開発および医療計画策定への応用

村松 圭司(ムラマツ ケイジ) 酒井 誉(サカイ ホマレ)
久保 達彦(クボ タツヒコ) 藤野 善久(フジノ ヨシヒサ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)

目的 人口構造の変化に伴い,各地域の医療需要が変化すると考えられる。限られた医療資源を有効に活用するためには,将来の医療需要を推計し適正に配置する必要がある。また,各地域で現状有する医療機能や隣接医療圏との関係など様々な事情が異なるため,画一的な将来患者推計結果の共有だけでなく,多様な切り口での分析を可能とする仕組みが必要である。今回著者らは既存のソフトウェアを用いて任意の地域および疾患の将来患者数推計を実現したので報告する。

方法 2011年患者調査の傷病分類別にみた都道府県別受療率および国立社会保障・人口問題研究所の人口推計を用いて,将来患者数を推計した。可視化にあたっては多くの自治体・医療機関で既に導入されているMicrosoft Excelのみを用いた。

結果 作成したツールを用いて北九州医療圏における将来人口・患者数推計の結果の可視化を行った。総人口は1990年から減少が続いており,2040年には約90万人となると推計されている。人口減少の主たる原因は高齢者の死亡によるもので,医療需要の増加が想定される。また,高齢者の人口が増加するため,医療の提供方式の見直しも必要と考えられる。将来患者数推計では入院・外来ともに2030年頃をピークに2010年のおよそ1.1~1.2倍に患者数が増加すると推計される。特に脳血管疾患,虚血性心疾患,肺炎,骨折の患者増が見込まれる。

結論 将来患者数推計の結果を活用することでより具体的な医療計画の策定が可能になることが示された。

キーワード 将来患者数推計,医療計画,地域医療構想

 

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第62巻第11号 2015年9月

東日本大震災時に実施された避難所サーベイランスの評価と今後に向けた準備

杉下 由行(スギシタ ヨシユキ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 大日 康史(オオクサ ヤスシ)
島谷 直孝(シマタニ ナオタカ) 高橋 琢理(タカハシ タクリ) 安井 良則(ヤスイ ヨシノリ)
中島 一敏(ナカシマ カズトシ) 砂川 富正(スナガワ トミマサ) 神谷 信行(カミヤ ノブユキ)
灘岡 陽子(ナダオカ ヨウコ) 谷口 清洲(タニグチ キヨス) 岡部 信彦(オカベ ノブヒコ)

目的 2011年3月11日の東日本大震災後に避難所での感染症の流行を早期に把握するため,症候群を用いた避難所サーベイランスが導入された。本研究の目的はこの避難所サーベイランスの評価を行うことである。

方法 評価は,石巻市,東松島市,女川町を管轄する宮城県石巻保健所で実施した。避難所サーベイランスは2011年3月に国立感染症研究所が提案し,石巻保健所管内の避難所では,2011年5月からWebページ入力によるシステムを用いて開始された。2011年7月,保健所の避難所サーベイランス担当職員から実施状況を聞き取りし,「報告の過程」「避難所でサーベイランスに携わる者の症候群への理解」「迅速なシステム変更の可否」「専門職が報告を担当している避難所の割合」「避難所の参加率」「参加避難所からの自発的な報告率」「市町別の避難所参加率」「発症から報告までにかかる時間」「予定外のシステム機能停止の回数」「データ処理に要する時間」について評価を行った。

結果 避難所が保健所に報告し,保健所がデータ入力する運用であったため報告の過程は単純ではなかった。避難所でサーベイランスに携わる者の症候群への理解は十分であった。これまで稼動実績のある症候群サーベイランスシステムを導入しており新たな症候群の追加等には迅速に対応できる状態であった。保健師,看護師等の専門職が報告を担当している避難所の割合は約25%であった。避難所の参加率は41%,参加避難所からの自発的な報告率は20%であった。市町別の避難所参加率は,石巻市60%,東松島市2.5%,女川町46%であった。発症から報告までにかかる時間は1週間以内であった。予定外のシステム機能停止の回数は0回であり,データ処理は瞬時に行われた。

結論 将来の災害に備えるために,今後は避難所でサーベイランス情報を入力できる環境を作り上げ,教育や訓練を実施していくことが重要である。

キーワード 自然災害,サーベイランス,避難所,評価

 

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第62巻第11号 2015年9月

ユニット型介護老人福祉施設における
共同生活室の利用状況と関連要因の分析

石橋 洋次郎(イシバシ ヨウジロウ) 石井 敏(イシイ サトシ) 三浦 研(ミウラ ケン)

目的 ユニット型の介護老人福祉施設(以下,ユニット型特養)における共同生活室の利用割合の関連要因を把握し,施設の設備等の状況と利用割合との関連性を明らかにするとともに,個別ケアがやりやすい環境について考察する。

方法 平成25年度に実施した「ユニット型施設の生活空間等の状況および運営等のコストに関する調査」の入居者単位のデータ(胃ろうの有無,QOL等)に,施設単位のデータ(設備等の状況)を結合したデータ13,167件を分析対象とした。最初に,χ2検定,t検定,Cochran-Armitage傾向検定による関連性の評価を行い,共同生活室の利用割合の関連要因を抽出した。次に,関連要因間の相関係数を算出して変数を整理して,説明変数を選定した。最後に,高頻度で共同生活室を利用しているか否かを被説明変数として,ロジスティック回帰分析を行った。

結果 ユニット型特養の入居者の87%が,食事の時に「毎日毎食」共同生活室を利用していた。胃ろうで栄養摂取している入居者に限れば,「毎日毎食」の利用は17%であった。検定の結果,胃ろう以外にも,QOLスコア,喀痰吸引等が関連していたが,性(男女)および年齢との関連は認められなかった。また,設備等に関する要因としては,『居室内にトイレが設置されている』等の4項目が関連していたが,他の10項目は関連していなかった。要因間の相関は,例えば『胃ろう・腸ろう等』と『喀痰吸引』との相関係数は0.76となり,強い相関関係がみられたので,利用割合との関連が強い『胃ろう・腸ろう等』で代表させた。ロジスティック回帰分析の結果,食事時の共同生活室の利用割合は,入居者の状態との関連が強く,胃ろうの有無が最も影響する要因であった。一方,利用割合との関連が認められた4つの設備等の状況の影響は相対的に小さく,いずれも利用割合を下げる要因となっていた。

結論 入居者の重度化あるいは医療必要度の増大は,共同生活室の利用を減らす要因であったが,要介護4の89%,要介護5の73%が実際に「毎日毎食」利用しており,重度者の多くが共同生活室を利用していることが確認できた。また,『入口に玄関があり,ユニット内外が明確になっている』等の4項目の設備等の状況下では,同程度の状態像の入居者に対して,食事の場所の選択がより個別的になされているものと考えられる。個別ケアがやりやすい環境を検討する際に考慮すべきである。

キーワード ユニット型,介護老人福祉施設,共同生活室,QOL,ロジスティック回帰,個別ケア

論文

 

第62巻第11号 2015年9月

ホームヘルパーの楽観的態度に関連する要因の検討

-構造方程式モデリングを用いて-
広瀬 美千代(ヒロセ ミチヨ)

目的 在宅介護においてホームヘルパーへのニーズは年々高まる一方であるが,その業務は個別性が高く,より複雑で柔軟な対応が求められる。本研究においては,このようなことをかんがみ,業務を楽観的に捉え,ストレスフルな状況をプラスに変えていけるような態度や価値観にはどのような要因が関連しているのかに関して検討することを目的とした。

方法 A県内の訪問介護事業所から無作為抽出した600人を対象とする自記式郵送調査を行った。有効回収数は149通,有効回収率は24.8%となった。質問項目はホームヘルパーの「介護業務において感じる困難性を肯定的,楽観的に解釈する態度,および人生における価値や学びを見いだす姿勢」を測定する尺度である「ヘルパー業務楽観的態度」15項目,性別,年齢,最終学歴,研修への自主的な参加の有無,ヘルパー業務継続に対する意識であった。統計分析においては「ヘルパー業務楽観的態度」について,「困難の楽観的解釈」「人生における利得感」「自己成長感」を潜在変数とする3因子2次因子モデルを設定し,確証的因子分析を行った。また,構造方程式モデルを用いて適合度と各変数間の関連性を確認した。

結果 欠損値のない131人のデータを用いて,「ヘルパー業務楽観的態度」に対して確証的因子分析を実施した結果,統計学的な水準を満たし,構成概念妥当性が支持された。また尺度のCronbachのα係数はすべての因子において0.855以上を示した。さらに「ヘルパー業務楽観的態度」と「最終学歴」「研修への自主的な参加の有無」「ヘルパー業務継続に対する意識」の間には,有意な関連が確認された。

結論 本尺度はホームヘルパーの利用者に対する支援や業務で起こりうる出来事に対して取り組む際の肯定的な見方や楽観的態度を測定する尺度として十分な妥当性と信頼性を有しているといえる。また,自発的に学ぶ姿勢があると研修参加によって獲得することが多く,そのような視点で業務を遂行することで困難状況にあっても楽観的なあるいは柔軟的な解釈や態度が身につくと予測される。さらに業務継続に対する強い意志があるとこのような楽観的態度が養われていくのではないかと考える。今後の課題としては因果関係の明瞭さを高めるため,質問項目を吟味し,調査を拡大して実施することが求められる。

キーワード ホームヘルパー,楽観的態度,肯定的側面,自己成長,研修参加,仕事継続意識

 

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第62巻第11号 2015年9月

女子高校生の子宮頸がん予防ワクチン接種行動に関する心理社会的要因

-修正版HBMに基づくパス解析による検討-
小林 優子(コバヤシ ユウコ) 朝倉 隆司(アサクラ タカシ)

目的 女子高校生の子宮頸がん予防接種行動を予測するHBM(Health Belief Model)の心理社会的な構成要因を測定する尺度開発を行い,その上でそれらを組み入れたHBMに基づいたパスモデルを用いて接種行動のメカニズムを明らかにすることを目的とした。

方法 神奈川県内の女子高校生1~3年生を対象に自記式質問紙調査を行った。因子分析の対象は項目に欠損値のない1~3年生2,463名であり,パス解析の対象は子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業の対象学年であった1~2年生1,606名に限定した。子宮頸がん・予防接種に対する態度32項目に対し探索的因子分析を行い,8因子を抽出した。その後,確認的因子分析により8因子モデルの妥当性,各因子の構成概念妥当性を検討した。8因子および家族背景などの変数を用いて,まずHBMに基づくパスモデルを統計ソフトM-plusにより構築した。次いで思春期の保健行動を説明するためには,この時期に特徴的な要因である「調整力」が重要であると判断したため,「接種に向けた調整力」を加えてHBMに修正を加えたパスモデルを解析した。

結果 子宮頸がん・予防接種に対する態度としては,「家族の健康意識」「ワクチン接種の話題との接触」「接種に向けた調整力」「子宮頸がんの脅威」「ワクチン接種への肯定感と関心の高さ」「ワクチン接種への消極的態度・困難感」「ワクチンに対する不安」「ワクチン接種の時間と費用のバリア」の8因子が抽出された。HBMに基づく解析の結果,HBMの仮定どおりワクチン接種へのバリアが高いほどワクチン非接種の確率が高く,逆にワクチン接種への肯定感が高いほどワクチン接種の確率が高かった。そして,HBMの理論に反し「子宮頸がんの脅威」はワクチン接種を抑制していた。また,「ワクチンに対する不安」を説明する要因は特定できなかった。そこで,「接種に向けた調整力」を組み込んだ修正版HBMでは,HBMで特定されなかった「ワクチンに対する不安」の要因が明確になった。「子宮頸がんの脅威」は,直接的に接種行動を抑制する関連にあるが,「接種に向けた調整力」が媒介変数となり間接的に接種行動を促進するパスもあり,抑制と促進の両方の関連が明らかになった。なお,接種行動の説明率は25.2%から26.0%と「接種に向けた調整力」を加えたことによる大きな改善はみられなかった。

結論 オリジナルHBMに「接種に向けた調整力」を追加したことにより,女子高校生のワクチン接種行動をより明確に説明することができた。

キーワード 女子高校生,子宮頸がん予防ワクチン,接種行動,HBM,自律性

 

論文

第62巻第11号 2015年9月

地域在住高齢者の歯の状態と
身体機能および転倒経験との関連性

藤井 啓介(フジイ ケイスケ) 神藤 隆志(ジンドウ タカシ) 相馬 優樹(ソウマ ユウキ)
北濃 成樹(キタノ ナルキ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 地域在住高齢者の歯の状態(残存歯数と義歯の使用の有無)と身体機能および転倒経験との関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 2013年に茨城県笠間市で開催された健診事業に参加した地域在住高齢者205名(平均年齢74.1±4.5歳;男性49.8%)を対象とした。自記式質問紙により残存歯数と義歯(入れ歯やインプラント等)使用の有無を調査し,「残存歯数20本以上」「残存歯数19本以下かつ義歯有り」「残存歯数19本以下かつ義歯無し」の3群に分けた。握力,5回椅子立ち上がり時間,開眼片足立ち時間,Functional Reach,重心動揺軌跡長,Timed Up & Go,5m通常歩行時間により身体機能を評価した。また,過去1年間の転倒経験の有無を調査した。主たる統計解析には,従属変数に各身体機能評価項目または転倒経験の有無,独立変数に歯の状態を投入した共分散分析およびロジスティック回帰分析を用いた。各分析の共変量には年齢,性,教育年数,経済的な暮らし向き,Body Mass Indexを使用した。

結果 「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数20本以上」群に比べ重心動揺軌跡長が有意に長かった(p<0.05)。Timed Up&Goにおいては,「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数20本以上」群および「残存歯数19本以下かつ義歯有り」群に比べ有意に遅い値を示した(p<0.05)。「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数19本以下かつ義歯有り」群に比べ5m通常歩行時間が有意に遅い値を示した(p<0.05)。「残存歯数20本以上」群と比べ,「残存歯数19本以下かつ義歯が無し」群は,過去に転倒歴を有している割合が有意に高かった(オッズ比=5.80,95%信頼区間=1.74-19.37)。

結論 地域在住高齢者の身体機能は歯の状態によって異なり,さらに歯の状態と転倒経験に関連があることが示唆された。特に「残存歯数19本以下かつ義歯が無い」高齢者はバランス能力,歩行能力の低下が生じていることや,転倒リスクが高い可能性がある。

キーワード 地域在住高齢者,口腔機能,残存歯数,義歯,転倒,身体機能

 

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第62巻第11号 2015年9月

労働者の収入とメンタルヘルス

-職の不安定性による媒介効果に注目して-
堤 明純(ツツミ アキズミ) 井上 彰臣(イノウエ アキオミ) 島津 明人(シマヅ アキヒト)
 高橋 正也(タカハシ マサヤ)川上 憲人(カワカミ ノリト) 栗岡 住子(クリオカ スミコ)
 江口 尚(エグチ ヒサシ) 宮木 幸一(ミヤキ コウイチ) 遠田 和彦(エンタ カズヒコ)
小杉 由岐(コスギ ユキ) 戸津崎 貴文(トツザキ タカフミ)

目的 収入の低い集団は高収入の集団に比してメンタルヘルス不調のリスクが高いとされるが,労働者における収入とメンタルヘルス不調の関係,およびその媒介要因を検証した研究はわが国では少ない。労働者の健康格差の実態とそのメカニズムを解明することを目的として行われているパネル研究のベースラインデータを用いて,労働者の収入とメンタルヘルスの関連,その媒介要因としての職の不安定性の影響を検討することを目的とした。

方法 労働者の健康格差のメカニズム解明を目的とした多目的パネルのベースライン調査参加者の男性7,645人,女性2,241人を対象とした。税込みの世帯収入を世帯員数で調整した世帯収入の下位3分位を低収入とした。将来の職の安定性,季節雇用,過去および将来の失業の可能性を尋ねる4項目の得点和の上位5分位以上を職の不安定とした。K6得点の13点以上をメンタルヘルス不調とした。男女別に,低収入群がメンタルヘルス不調に陥るリスクを,年齢,教育歴,職業,労働時間を調整したロジスティック回帰分析を用いて算出した調整後オッズ比,および95%信頼区間で推定した。低収入群とメンタルヘルス不調の関連を,職の不安定性がどの程度説明するかを,それぞれの変数を投入したオッズ比を求めて検討した。

結果 男女とも,低収入はメンタルヘルス不調と関連していた。低収入の男性労働者がメンタルヘルス不調に陥るリスク(属性・就業状況を調整したオッズ比)は1.26で,女性では1.62であった。職の不安定性を調整すると,メンタルヘルス不調に対する低収入のリスクは男女ともに約9%減弱し,男性において低収入とメンタルヘルス不調の関連は統計的有意ではなくなった。職の不安定性とメンタルヘルス不調の関連性の変化は,低収入を調整してもわずかであった。

結論 日本人労働者において,低収入は労働者のメンタルヘルス不調と関連することが観察された。低収入の労働者におけるメンタルヘルス不調のリスク増加の一部は職の不安定性によって説明され,職の安定の確保は,労働者のメンタルヘルスの所得格差を軽減する方策となる可能性が示された。

キーワード 収入,職の不安定性,メンタルヘルス,パネルデータ,労働者

 

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第62巻第12号 2015年10月

過疎地域に居住する高齢者の介護サービス利用に関する分析

杉井 たつ子(スギイ タツコ)

目的 過疎地域と過疎地域以外における在宅高齢者の介護サービスの利用状況を把握し,生活環境と介護サービスの利用状況の関連を分析することをとおして在宅ケアの課題を明確にする。

方法 平成23年社会生活基本調査を利用した。回答者から65歳以上を抽出し,過疎地域と過疎地域以外に分別した。生活環境は,世帯・家族,住居の種類,自家用車の所有,世帯収入の4項目で比較した。介護サービスは,利用の有無と利用状況について比較した。さらに,介護の必要性が高いことが想定される後期高齢者と高齢者単独世帯の利用状況を比較した。

結果 96,141人(うち過疎地域13,814人,過疎地域以外82,327人)のデータを分析した。過疎地域は,後期高齢者が多く,女性が多い特徴があった。高齢者のみ世帯(単独・夫婦世帯)は,過疎地域以外に多かった。過疎地域では,子どもとの同居率が高く,子どもが同一市区町村内にいない割合も高かった。また,家や自家用車の所有率が過疎地域で高く,年間世帯収入100万円未満の割合が過疎地域で高かった。介護サービスの利用の有無には差がなかったが,過疎地域では,週に3日以下の介護サービスの利用が多く,週4日以上の利用が少ない状況にあった。後期高齢者では,過疎地域でサービス利用率が低く,週1日以上の日常的な利用においても少なかった。高齢者単独世帯では,サービス利用の有無で差は認められなかったが,過疎地域で週1日以下の介護サービスの利用が多かった。

結論 介護サービスの利用については,過疎地域において週1日未満の見守り的なサービスが多く,週4日以上の日常的な介護サービスを利用する高齢者が少なかった。全体的に,1人当たりの介護サービスの利用回数が低いことが明らかとなった。特に,後期高齢者や高齢者単独世帯の介護サービスの利用については,過疎地域で介護サービスの利用が低い状況にあった。この要因として,子どもとの同居率が高いことや世帯収入が低い世帯が多いことが考えられる。過疎地域では,子どもとの同居率が高い反面,子どもが近隣や同一市区町村内にいない割合が高く,日常的な支援が受けにくい高齢者が多い。過疎地域では,日常生活支援が必要な高齢者に適切な介護サービスが提供されているかを検証する必要がある。

キーワード 介護サービス,地域格差,地域ケア,過疎地域

 

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第62巻第12号 2015年10月

NPO法人の活動分野における保健・医療・福祉の特性

武村 真治(タケムラ シンジ)

目的 ソーシャル・キャピタルの醸成において重要な役割を担う特定非営利活動法人(NPO法人)の活動分野の1つとしての「保健・医療・福祉」の特性を明らかにし,国民の健康・福祉の向上に資するNPO法人の活動を促進するための方策を検討した。

方法 内閣府が運営管理する「NPO法人ポータルサイト」において所轄庁(都道府県,政令指定都市)の認証を受けて登録されているNPO法人のうち,解散または認証取り消しがなされておらず,活動分野が明示されている49,319法人を対象として,活動分野(保健・医療・福祉,社会教育,まちづくり,観光,農山漁村・中山間地域,学術・文化・芸術・スポーツ,環境の保全,災害救援,地域安全,人権・平和,国際協力,男女共同参画社会,子どもの健全育成,情報化社会,科学技術の振興,経済活動の活性化,職業能力・雇用機会,消費者の保護,連絡・助言・援助,条例指定)などの登録データを分析した。

結果 保健・医療・福祉を活動分野とするNPO法人は約6割であった。保健・医療・福祉以外を活動分野とするNPO法人は他の複数の分野の活動を実施していたが,保健・医療・福祉を活動分野とするNPO法人は他の分野で活動していない傾向がみられ,保健・医療・福祉分野単独で活動している割合が大きかった。保健・医療・福祉を活動分野とするNPO法人は,職業能力・雇用機会,人権・平和,地域安全,男女共同参画社会,災害救援,消費者の保護,条例指定の分野で活動している傾向がみられたが,それ以外の分野の活動を実施していない傾向がみられた。活動分野の有無を変数とした因子分析の結果,保健・医療・福祉,人権・平和,男女共同参画社会に共通する因子が抽出された。

結論 NPO法人の活動分野の中で保健・医療・福祉は最も多く,今後もNPO法人が一定の役割を担っていくことが可能であると考えられるが,保健・医療・福祉は専門性が高いため,他の活動分野からの参入が阻害されている可能性がある。保健・医療・福祉の行政部門は,その連携体制を人権・平和,男女共同参画社会などに拡大し,保健・医療・福祉分野のNPO法人が関与する他の活動分野でも行政との協働が可能になるように支援する必要がある。

キーワード 特定非営利活動法人(NPO法人),ソーシャル・キャピタル,保健・医療・福祉,人権擁護

 

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第62巻第12号 2015年10月

小児科標ぼう医不在町村における
乳幼児健診・予防接種の実施について:全国調査

江原 朗(エハラ アキラ)

目的 小児科標ぼう医不在町村における小児保健事業の実施方法については,十分な知見がない。これまで,筆者は北海道内の小児科標ぼう医不在53町村について調査を行った結果,多くの町村が乳幼児健診は集団健診,予防接種は個別接種として実施していることが明らかになった。今回の研究では,調査対象を全国の小児科標ぼう医不在町村に拡大し,乳幼児健診や予防接種の実施方法を明らかにする。さらに,これらの町村における乳幼児健診受診割合,健診における異常判定割合および予防接種割合を小児科標ぼう医がいる市町村と比較する。

方法 各市町村における小児科標ぼう医の有無は,平成22年医師・歯科医師・薬剤師調査によった。小児科標ぼう医がいない町村における乳幼児健診および予防接種の実施方法,担当する医師の標ぼう診療科および医師の派遣元について,各町村の母子保健部局にアンケート調査を行った。また,乳幼児健診および予防接種の対象者数,受診・接種者数,ならびに乳幼児健診における異常判定割合は,平成23年度地域保健・健康増進事業報告から引用した。

結果 乳幼児健診は,ほとんどすべての町村が集団健診を実施しており,約7割の町村が外部の医療機関から小児科医(主たる小児科標ぼう医)の派遣を受けていた。一方,三種混合,ポリオおよび麻しん・風しんワクチンは,約8割の町村が個別接種を行っていた。しかし,担当する医師の診療科を小児科標ぼう医に限定する町村は集団接種・個別接種ともに約3割であった。各市町村の1歳6カ月児健診や3歳児健診の受診割合は,小児科標ぼう医の有無で大きな差異を認めなかったが,1歳6カ月児健診における異常判定割合は小児科標ぼう医不在町村でわずかに低かった。また,小児科標ぼう医不在町村の平成23年度における接種割合は,標ぼう医のいる市町村と比べて,三種混合ワクチン1期追加やポリオワクチン2回目では低く,麻しん・風しん2期ではわずかに高い傾向がみられた。

結論 小児科標ぼう医のいない町村の多くは,乳幼児健診については集団健診を実施し,小児科標ぼう医の派遣を他の市町村から受けていた。一方,予防接種では各医療機関に個別接種を委託し,担当医を小児科標ぼう医に限定している町村は少なかった。乳幼児健診の受診割合は標ぼう医がいる市町村と比べて大差がないが,予防接種割合については三種混合,ポリオワクチンでは低く,麻しん・風しんワクチンではわずかに高い傾向が認められた。

キーワード 小児科標ぼう医,乳幼児健診,予防接種,医師不足,小児保健事業

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第62巻第12号 2015年10月

大都市圏の高齢単身世帯における
要介護高齢者の施設等移行に関する要因

中島 民恵子(ナカシマ タエコ)中西 三春(ナカニシ ミハル)
沢村 香苗(サワムラ カナエ) 渡邉 大輔(ワタナベ ダイスケ)

目的 本研究は,65歳以上の単身世帯(以下,高齢単身世帯)のうち,調査時点で在宅生活を継続している要介護高齢者と施設等へ移行した要介護高齢者の比較を通して,高齢者が在宅生活から施設等に移行する要因を明らかにすることを目的とした。

方法 大都市圏の6つの自治体の居宅介護支援専門員を対象に,担当している事例に関する質問紙調査を実施した。分析に使用する変数すべてに回答があった在宅継続224事例,施設等移行82事例を対象に,在宅継続か否かの種別を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。

結果 在宅継続の事例(以下,継続事例)の男性の割合は27.7%と施設等移行の事例(以下,移行事例)の35.4%に比べると低く,要介護高齢者本人のADLの自立度,認知症自立度については継続事例の方が良い状態であった。サービス利用に関しては,支給限度額割合は継続事例が74.1%と移行事例の66.8%と比べると高い一方,家族による身体介護の月間実施数は移行事例が6.7回と継続事例の3.8回に比べて高い状況であった。在宅継続意思は,本人の意思および家族の意思に関しては「あり」は継続事例が89.7%,51.8%と移行事例(65.9%,30.5%)よりも高かった。ロジスティック回帰分析の結果,要介護高齢者本人が男性であり,ADLの自立度が低く,認知症自立度が低く,本人および家族の在宅継続意思が低い方が施設等移行に該当しやすく,介護保険利用の支給限度額に対するサービス費用の比率が高い方が在宅継続に該当する傾向がみられた。

結論 本研究では,高齢単身世帯の要介護高齢者の施設等の移行の要因について,本人,家族,サービス(環境)の側面から明らかにした。さらに都市部において増加が見込まれる高齢単身世帯の自宅での生活支援のあり方に関する検討に貢献するものである。今後はパネル調査等を通して,在宅の継続のプロセスや規定要因等も詳しく検討していくことが望まれる。

キーワード 高齢単身世帯,要介護高齢者,在宅継続,施設・病院移行

 

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第62巻第12号 2015年10月

都市部におけるセーフスクール推進に向けた
学童の傷害とリスク要因の検討

臺 有桂(ダイ ユカ) 田髙 悦子(タダカ エツコ)田口 理恵(タグチ リエ)
有本 梓(アリモト アズサ) 今松 友紀(イママツ ユキ)
塩田 藍(シオタ アイ) 山辺 智子(ヤマベ トモコ)

目的 今日の都市部において,成長発達の過程にある学童の心身の健康や生活上の安心・安全を脅かす主要な事象として「傷害(injury)」があげられ,その発生は障害や死など重大な結果を招く恐れがある。そこで,本研究では,都市部在住の学童における,主要な傷害の実態およびリスク要因を把握・検討した。

方法 首都圏A市a行政区内4中学校に在籍する2年生全数459名に対して,無記名自記式アンケートを用いたクラス単位の集合調査法を実施した。 調査項目は①基本属性,傷害リスク要因として②環境要因,③個人要因(認知的ソーシャルキャピタル,ストレス対処能力,ライフスキル,生活習慣),④主要傷害である「スポーツ・運動中のけが」「転倒・転落」「溺水」「犯罪」「暴力・虐待」「交通事故」の過去1年間の受傷経験(ヒヤリハットを含む)の有無である。分析は,ロジスティック回帰分析を用いて,傷害とリスク要因の関連について検討した。

結果 対象者459名のうち有効回答450名(98.0%)であった。対象者は,男子232名(51.6%),女子218名(48.4%)であった。対象者における過去1年間の受傷経験では,「スポーツ・運動中のけが」263名(58.4%)が最も多く,次いで「転倒・転落」138名(30.7%),「犯罪」71名(15.8%)であった。傷害とリスク要因間では,スポーツ・運動中のけがで「性別」(オッズ比(OR)=2.07),溺水で「生活習慣:就寝時間」(オッズ比(OR)=2.77)「生活習慣:平均睡眠時間」(OR=2.48),犯罪で「地域環境の満足度」(OR=0.78),暴力・虐待で「性別」(OR=3.91)「認知的ソーシャルキャピタル(SC)」(OR=0.91)「ストレス対処能力(SOC)」(OR=0.95)が有意であった。

考察 傷害の受傷経験に「地域環境の満足度」「認知的SC」「SOC」の低さ,生活習慣の睡眠が関連していることが示唆された。学童を傷害から守るには,心身の健康の保持や危険を回避するスキル習得のための教育をはじめ,セーフスクールの理念に基づき,傷害の発生防止に向けた他分野と協働したコミュニティ・ネットワークの構築が必須であるといえる。

キーワード 傷害,リスク要因,セーフスクール,セーフコミュニティ,学校,学童

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第62巻第12号 2015年10月

市町村単位の転倒者割合と歩行者割合に関する地域相関分析

-JAGES2010-2013連続横断分析より-
長嶺 由衣子(ナガミネ ユイコ) 辻 大士(ツジ タイシ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 2015年4月からの第6期介護保険事業計画では,地域づくりによる介護予防に重点がおかれ,以前にも増して地域診断の重要性が高まっている。本研究では,市町村単位の地域診断の参考指標を探索するため,高齢者の1日平均30分以上などの歩行者割合(以下,歩行者割合)と転倒者割合の間に相関があるか,経年変化でも歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合は減少したか,高齢者の歩行者割合と関連する地域要因は何かについて,地域相関研究を行った。

方法 本研究は2010年に全国31市町村,2013年に全国30市町村で実施された日本老年学的評価研究(JAGES)から,両時期に参加した23市町村を対象とした。前期高齢者・後期高齢者は層別化した。転倒者割合と歩行者割合についてスピアマンの順位相関分析にて相関係数を算出し,続いて歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合は減少したかを明らかにするため,2010年から2013年への3年間の両変数の変化量間の相関係数を算出した。最後に,対象者の属性,環境等の変数の集計値と歩行者割合の相関係数を算出した。

結果 歩行者割合は2010→2013年で,前期高齢者70.9%→79.1%,後期高齢者59.8%→71.0%と増加していた。両年で前期高齢者・後期高齢者とも,歩行者割合と転倒者割合の間に負の相関が認められた(ρ=-0.18~-0.67)。3年間の両変数の変化量間の相関では,歩行者割合が増加した市町村ほど転倒者割合が減少していた(前期高齢者ρ=-0.53,後期高齢者ρ=-0.37)(ρ<0.05,ρ<0.1)。歩行者割合と繰り返し有意な相関を認めた要因は,前期高齢者でスポーツ組織参加,趣味の会参加,自宅から1㎞以内に運動・散歩に適した歩道あり,で正の相関,等価所得200万円未満で負の相関を認めた。後期高齢者では,自宅から1㎞以内に運動・散歩に適した歩道あり,で正の相関を認めた。

結論 歩行者割合が高い市町村では転倒者割合が低く,歩行者割合が増加すると転倒者割合は減少するという経時的変化も確認された。同時に,歩行者割合と関連するいくつかの地域要因も認めた。今後,市町村を単位として高齢者の転倒状況や歩行状況を把握し,さらにそれらの経年変化を評価することは,地域診断や市町村の転倒予防事業の評価を行う際に有益と思われた。

キーワード 地域診断,転倒,1日平均歩行時間,経年変化,社会参加,建造環境(built environment)

 

論文

第62巻第13号 2015年11月

青森県民の食塩摂取量の推移に関する考察

熊谷 貴子(クマガイ タカコ) 伊藤 治幸(イトウ ハルユキ) 真野 由紀子(マノ ユキコ)

目的 青森県民の平均寿命は,男性の場合で30年以上前からわが国で最も短く,その原因としてがん,心疾患,脳血管疾患による高い死亡率が報告されている。これらの疾患の一因に食塩摂取量が関連することから,減塩対策が実施されている。今後,より一層の減塩活動を推進するうえで食塩摂取量の推移を検証することは重要である。そこで本研究では,青森県内において国ならびに県が実施した栄養調査,尿中塩分排泄量調査報告書のデータから食塩摂取量の推移を性・年齢階級別に検討し,その変化を考察することを目的とした。

方法 1980年から2010年に実施された国民栄養調査,国民健康・栄養調査,青森県県民健康・栄養調査報告書のうち,満1歳以上の食事調査結果を用いた。また,尿中塩分排泄量は,2001年と2005年の青森県県民健康・栄養調査から20歳以上の結果で検討した。性・年齢階級別の食塩摂取量の推移は,食事調査および尿中塩分排泄量の双方で青森県県民健康・栄養調査結果を用い,年齢区分が統一されている2001年,2005年,2010年の満1歳以上から検討した。

結果 食事調査による青森県の1日当たりの食塩摂取量の推移は,近年は減少傾向がみられ,2010年には10.2gと全国平均値と同値になった。性別にみると男性は12.4g(2001年)から11.0g(2010年)へ,女性は11.0g(2001年)から9.6g(2010年)へ減少し同時にエネルギー摂取量も減少していた。男性の15~19歳ではエネルギー摂取量が増加し続けており,食塩摂取量も増加傾向だった。女性の7~14歳ではエネルギー摂取量が減少しても食塩摂取量は増加していた。尿中塩分排泄量では,男性で14.3g(2001年)から14.2g(2005年),女性では13.1g(2001年)から12.7g(2005年)であった。

結論 食塩摂取量の推移は,食事調査では減少傾向にあり,現在は全国平均と同程度であるが,尿中塩分排泄量でみれば食事調査結果より多い可能性がある。性・年齢階級別では,食事調査および尿中塩分排泄量の双方で年齢により増減がみられた。食塩摂取量の把握においては,食事調査と尿中塩分排泄量を同時に調査し,性・年齢階級別に把握することが重要である。

キーワード 食塩摂取量,尿中塩分排泄量,エネルギー摂取量,県民栄養調査,青森県

 

論文

第62巻第13号 2015年11月

中高年男性における禁煙後の体重変化が
メタボリックシンドロームの危険因子に及ぼす影響

道下 竜馬(ミチシタ リョウマ) 松田 拓朗(マツダ タクロウ) 清永 明(キヨナガ アキラ)
田中 宏暁(タナカ ヒロアキ) 森戸 夏美(モリト ナツミ)檜垣 靖樹(ヒガキ ヤスキ)

目的 本研究では,中高年男性における禁煙後の体重変化がメタボリックシンドロームの危険因子に及ぼす影響について検討した。

方法 2008年に特定健康診査を受診し,喫煙習慣があり5年間追跡可能であった男性66名を対象とした。本研究では,2009年の特定健康診査において禁煙が達成でき,2013年まで禁煙を継続できた者のうち,2009年の体重が2008年の体重よりも増加した者を体重増加群(n=10,平均年齢55.9歳,体重66.5㎏),体重が維持・低下していた者を体重維持・低下群(n=12,平均年齢53.1歳,体重66.3㎏)とし,2008年から2013年まで喫煙を継続した者を喫煙継続群(n=44,平均年齢53.3歳,体重65.1㎏)とした。LDL-コレステロール,HDL-コレステロール,中性脂肪,空腹時血糖,ヘモグロビンA1c(HbA1c),身長,体重,腹囲,安静時血圧を測定し,3群間におけるベースライン時と1年後,5年後の各危険因子の変化について検討した。

結果 追跡1年後,いずれの群においても各危険因子の有意な変化は認められなかったが,体重増加群は体重維持・低下群,喫煙継続群に比べて体重,腹囲の変化量が有意に大きかった(p<0.05)。追跡5年後の結果,体重増加群,体重維持・低下群ともにベースライン時に比べて各危険因子の有意な差は認められなかったものの,喫煙継続群では収縮期血圧,HbA1cが有意に増加し(p<0.05),HDL-コレステロールが有意に低下した(p<0.05)。また,喫煙継続群は体重増加群,体重維持・低下群に比べて収縮期血圧,HbA1c,HDL-コレステロールの変化量が有意に大きかった(p<0.05)。各群における体重の変化量と各危険因子の変化量との関係について検討したところ,腹囲を除く危険因子との間には有意な相関関係は認められなかった。

結論 本研究の結果より,禁煙に伴い一時的に体重が増加することがあるが,長期的には禁煙することによってメタボリックシンドロームのリスクを軽減させることが可能であるため,禁煙が達成できるよう支援する必要があると考えられる。

キーワード 禁煙,体重変化,メタボリックシンドローム危険因子,特定健康診査

 

論文

第62巻第13号 2015年11月

手術室看護師の特性的自己効力感,
領域固有の自己効力感に関する研究

平 尚美(タイラ ナオミ) 柏木 公一(カシワギ キミカズ) 小澤 三枝子(オザワ ミエコ)

目的 自己効力感とは,ある結果を見いだすための行動を自分はどの程度うまく行うことができるかの確信である。高い自己効力感はストレスを緩衝し,看護師の職業継続意思に関連する。自己効力感には,特定の課題や場面に特異的に影響を及ぼす「領域固有の自己効力感(SSE)」と,具体的な状況に依存せず,より一般化した日常生活場面における行動に影響する「特性的自己効力感(GSE)」の2つがある。本研究の目的は,手術看護に関する領域固有の自己効力感を測定する尺度を開発することと,特性的自己効力感と領域固有の自己効力感が手術室勤務継続意思に及ぼす影響を明らかにすることである。

方法 特定機能病院31施設の手術室に勤務する看護師・准看護師1,206名を対象に無記名自記式質問紙調査を行った。調査内容は「特性的自己効力感」「領域固有の自己効力感」「手術室勤務継続意思」「自己効力感に関連する因子」などである。調査票の配布は看護部に依頼し,郵送で回収した。

結果 回収数628(回収率52.1%)のうち,有効回答618名(51.2%)を分析対象とした。手術看護に関する領域固有の自己効力感5項目のクロンバックのα係数は0.87で内的整合性を確認した。また特性的自己効力感6項目を合わせた11項目で因子分析を行った結果,2因子に分かれ弁別的妥当性を確認した。特性的自己効力感との相関係数は0.57で併存的妥当性を確認した。その後,特性的自己効力感・領域固有の自己効力感・手術室勤務継続意思の3つの関連について共分散構造分析(n=493)を行った結果,手術室勤務継続意思に影響するのは,領域固有の自己効力感であった。領域固有の自己効力感には,手術室内のソーシャルサポートや患者との関係,手術看護に関する教育などが関連していた。

結論 手術看護に関する領域固有の自己効力感は,本研究によって開発された5項目の尺度によって測定可能と考える。手術室看護師の勤務継続意思に影響するのは,特性的自己効力感より,手術看護に関する自己効力感であることが示唆された。手術室看護師が現在所属する手術室で勤務し続けようとする意思を保つには,領域固有の自己効力感を高めることが有効である可能性がある。

キーワード 手術室,看護師,特性的自己効力感(GSE),領域固有の自己効力感(SSE),勤務継続意思

 

論文

第62巻第13号 2015年11月

日本人高齢者の孤食と食行動およびBody Mass Indexとの関連:
JAGES(日本老年学的評価研究)の分析結果

谷 有香子(タニ ユカコ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 日本人高齢者の孤食と食行動およびBody Mass Indexとの関連を世帯状況ごとに検討することを目的とした。

方法 JAGES(日本老年学的評価研究)のデータのうち,食事状況の質問項目が含まれ,かつ除外基準に該当しない65歳以上の男性38,690人および女性43,674人を対象とした。食事状況,世帯状況,身長・体重等を自記式質問票で調査した。世帯状況は同居または独居,食事状況はひとりで食事をしている(孤食)または他者と食事をしている(共食)の2区分とした。ポアソン回帰分析を用い,食行動(欠食,野菜・果物の低摂取頻度)とBody Mass Index(BMI:肥満,過体重,低体重)について年齢,教育歴,等価所得,疾病の有無,残存歯数を調整したAdjusted-Prevalence Ratio(APR)および95%信頼区間を算出した。

結果 同居群では男性5.1%,女性7.9%が孤食であったのに対し,独居群では男性87.9%,女性81.7%が孤食であった。世帯状況で層化して解析した結果,孤食が食行動に与える影響は独居群よりも同居群において大きい傾向が認められた。世帯と食事状況で4群に分けて解析した結果,同居かつ共食群と比較すると,男性では独居かつ孤食群でのみ肥満(BMI>30.0㎏/(m)2以上)が有意に多いのに対し,女性では同居かつ孤食群で有意に多かった。一方,同居かつ共食群と比べると,男性のみ世帯に関わらず孤食と低体重(BMI<18.5㎏/(m)2)との有意な関連が認められた。

結論 男性では独居で孤食であること,女性では同居で孤食であることが不適切な食行動(欠食,野菜・果物の低摂取頻度),肥満,低体重のリスクが高い可能性が示唆された。高齢化に伴う世帯状況の変化に介入することは困難であるが,家族や友人,近隣の人をまきこんで共食を進めることが高齢者の食行動や体重管理に効果的かもしれない。

キーワード 孤食,欠食,野菜・果物摂取,肥満,低体重

論文

 

第62巻第13号 2015年11月

産業保健の政策と学術の国際動向

堀江 正知(ホリエ セイチ)

目的 産業保健に関して,わが国では労働安全衛生法に基づき企業が労働者の健康管理を行う体制が確立されてきたが,国際的には新しい動きもある。そこで,産業保健の政策と学術に関する国際動向を調査してわが国の現状と比較することを目的とした。

方法 ILO,WHO,ISO,EU,アメリカ合衆国およびわが国が近年公表している産業保健に関する文書から政策動向をまとめ,産業医学に関係する学術誌に最近掲載された論文から学術動向をまとめ,これらの結果から課題を検討した。

結果 ILOは,国がすべての労働者を対象とした職場の産業安全,産業保健,職場環境で一貫した政策の策定,実施,評価を行い,労使と独立の立場から産業保健を供給し発展させること,また,企業が職場の有害要因による健康障害を予防することを求めている。WHOは,「ワーカーズ・ヘルス」という世界行動目標を提唱し,産業保健の知見を一般の疾病予防や健康増進活動に広げて「健康職場」を構築し,雇用,経済,貿易,環境保護の政策とも関連づけようとしている。ISOは,労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格化を検討している。EUは,「労働安全衛生分野の戦略的枠組」で2020年までに先端産業技術や高齢化への対策のほか各国における法制度の調整と簡素化等を推進している。アメリカ合衆国は,「ヘルシーピープル2020」の中で国家安全衛生研究計画(NORA)による成果の社会実装を推進している。わが国は,第12次労働災害防止計画や健康日本21(第二次)で長時間労働,メンタルヘルス,腰痛,熱中症等の対策を重点的に推進している。一方,最近1年間に産業医学関係の18誌に掲載された1,861論文は,職場・作業が労働者の健康,症状,疾病に与える影響を探究したものが大半で,物理化学的な要因に加えて心理的,社会経済的な要因も活発に研究されていた。

結論 産業保健は,労働政策と保健政策の重複領域として体系化されてきたが,両政策には視点や手法の相違がある中で,近年,産業保健の枠組みを活用した保健政策の推進が企図されている。産業医学の特徴である曝露の概念を家庭,学校,地域にも適用することによって保健政策を活性化できる可能性がある。また,わが国の法令には小規模事業場への適用やハイジニストの活用が不十分といった課題がある。欧米では,労働市場の国際化から,法令の簡素化,統一化とともに自律的なリスクアセスメントの推進による成果重視への政策転換が進んでおり,わが国の政策も国際標準との整合性を図る必要がある。

キーワード 産業保健,労働衛生,健康政策,ILO,WHO,ワーカーズ・ヘルス

 

論文

第62巻第15号 2015年12月

医薬品と特定保険医療材料(医療機器)の
価格決定に関する定量的な手法の研究

野田 龍也(ノダ タツヤ) 田倉 智之(タクラ トモユキ) 中村 哲也(ナカムラ テツヤ)
小林 江梨子(コバヤシ エリコ) 成川 衛(ナルカワ マモル) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 医薬品と特定保険医療材料(医療機器)の価格決定に関する定量的な手法を検討した。

方法 医療用医薬品の保険償還価格(薬価)における原価計算方式の「営業利益率」の補正率,および特定保険医療材料の支給に要する保険償還価格(基準材料価格)における類似機能区分比較方式の「画期性・有用性加算」と「改良加算」の加算率について,チェックリスト形式の定量化基準を作成した。作成にあたっては,過去の算定事例との整合性に留意しつつ,専門家による妥当性の検討を加えた。

結果 薬価の原価計算方式については,原価計算方式により薬価が算定された42品目について加算的または減算的補正の定量化基準を構築し,補正率は-50~100%の範囲となった。この補正率算出のルールに従って算出した補正率と,実際に適用された補正率の差はおおむね±10%の範囲内に収まった。基準材料価格の類似機能区分比較方式については,画期性加算および有用性加算,改良加算について加算要件の定量化基準を構築した。特定保険医療材料74件につき,本研究の方式による加算率と過去の実際の加算率を比較したところ,加算率の分布状況は5割以上が一致する傾向にあった。特定保険医療材料においては,製品の多様性や術者による効果の違い,長期的な耐久性など,医薬品にはない特性があり,これらの特性を定量化基準に盛り込むこととなった。

結論 本研究では,薬価および基準材料価格の算定ルールに基づき,個別の新製品が一定の加算または減算の対象に該当すると判断された場合に,その細分化した要件項目への該当/非該当をチェックシート形式により確認することで補正率(%)が一意に定まる定量化基準を提案した。これらの定量化基準を利用することで,薬価および基準材料価格について,予見性や透明性の高い補正ルールの運用が可能となると考えられる。

キーワード 薬価,基準材料価格,定量化基準,原価計算方式,類似機能区分比較方式

論文

 

第62巻第15号 2015年12月

超高齢団地の居住者が抱える生活上の不安・困難と支援課題

-全戸調査の自由記述回答分析-
佐藤 惟(サトウ ユイ) 児玉 桂子(コダマ ケイコ)
菱沼 幹男(ヒシヌマ ミキオ) 大島 千帆(オオシマ チホ)

目的 全国平均を大幅に上回るスピードで高齢者世帯と単身世帯の増加する大規模団地において,居住者自身が感じている様々な生活ニーズを明らかにすることで,年齢・居住年数・経済階層など多様なバックグラウンドを持つ人々が,共に支え合い暮らしていくために必要な地域生活支援の手掛かりを得ることを目的とした。

方法 2013年12月1日から20日にかけて,団地の全居住者を対象に実施したアンケート調査の自由記述回答を分析した。はじめにKH Coderを用いた計量テキスト分析から頻度分析を行い,データの大まかな全体像を明らかにした上で,出現頻度の高い言葉を中心に,回答内容を精査した。さらに,性別,住居形態,居住年数,年齢などの外部変数に着目し,各属性別に言及率の高い言葉についても抽出を行った上で,自由記述回答の原文を参照しながら考察を行った。

結果 3,100世帯に調査票を配布し,白紙等を除き1,002件(32.3%)の回答を得た。分析の結果,「高齢」「一人」「不安」「エレベーター」「階段」等の言葉が,上位に抽出されていた。このほか,「団地内」「自治会」「活動」「参加」といった身近な地域のことに関する言葉は,居住年数が10年未満の比較的新しく入居してきた層や40代以下の若年世代,60代の定年を迎える世代で言及率が高く,「家賃」「年金」といった経済的内容は賃貸部分の居住者による記述が多い傾向にあった。階段昇降の負担やエレベーターの設置を訴える声では,買い物や荷物の運搬が困難であることへの言及が多かった。将来的な地域活動への参加意向や,地域レベルでの協力体制,近隣とのより密な交流を望む声が多数聞かれる一方,世代や居住年数による感覚の違いなどから,近所付き合いに難しさを感じる者も多い様子がうかがえた。

結論 一人暮らしの者が増え緊急時等への不安が増している一方,住民による支援意識も高まっている。特に比較的最近になって入居した者や,仕事を退職した者への呼びかけを強化することが,居住者の地域参加を促す上で有効な支援策となる可能性がある。また,分譲に比べ賃貸居住者では経済的な不安を述べている者が多く,地域住民との関係をとり結び,助け合い活動を喚起するためには,様々な所得階層の者が集う「ミクストコミュニティ」を目指す必要性が示唆された。

キーワード 団地,生活ニーズ,地域生活支援,自由記述,計量テキスト分析

 

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第62巻第15号 2015年12月

わが国における専門医の地理的分布等に関する検討

堀岡 伸彦(ホリオカ ノブヒコ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 坂上 裕樹(サカガミ ユウキ)
丸井 英二(マルイ エイジ) 谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 わが国の専門医の地理的分布並びに標ぼうする診療科と専門医資格との関連を明らかにする。

方法 平成22年医師・歯科医師・薬剤師調査に基づき,医師,専門医の地理的分布について分析を行った。専門医数と人口密度,医学部入学定員,臨床研修医在籍数との関連についてスピアマンの順位相関係数を求めた。さらに,人口密度ごとに標ぼうする医師数の増加率の低い診療科と高い診療科の専門医数の比を求めた。また,各診療科を標ぼうする専門医数を各診療科別医師数で除し,「専門医取得率」を計算した。

結果 都道府県別の人口10万人当たりの医師数と専門医数は,いずれも約2倍の偏在が認められた。二次医療圏別では,医師数で15倍,専門医数では67倍もの偏在が認められた。一方,人口密度ごとの医師数の増加率の低い診療科と高い診療科の専門医数の比は,人口密度との関連は認められなかった。また,都道府県別の専門医数は,臨床研修医在籍数と強い正の関連が認められた(p<0.001)。各診療科別の専門医取得率で最も高いのは脳神経外科の76.3%,低いのは内科の12.1%であった。外科は病院医師の方が診療所医師よりも高い専門医取得率を示していた。

結論 二次医療圏別の専門医は,医師よりも偏在が大きく,専門医の診察を受けることを希望する患者にとって公平性が保たれていないことが示された。医師よりも専門医の偏在が大きい原因として,標ぼうしている医師数が増加している診療科の専門医が人口密度の高い地域に集中している可能性を予想していたが,今回の分析結果からは否定された。一方,都道府県別の専門医と医師の偏在は同程度であり,都道府県単位では一定レベルで専門医へのアクセスが確保されていると考えられた。都道府県ごとの専門医数は,医学部入学定員よりも臨床研修医在籍数と関連が強く,専門医の地域偏在をさらに解消するためには,臨床研修医在籍数の増加を促進する取り組みが有効である可能性が示された。また,専門医取得率は多くの科で40%から60%程度であり,内科は12%と最も少なかった。今回の結果から,相当数の医師が専門医を取得せずに,その診療科を標ぼうしていることが示された。本研究は,専門医の地理的分布を全国的に分析した初めての研究である。各分野の専門医の適切な養成,配置は医療政策上重要な課題であり,今後も様々な観点から継続的に分析し,全国民が専門的な医療に公平にアクセスできるような施策を実施することが重要と考えられる。

キーワード 医師・歯科医師・薬剤師調査,専門医,総合診療医,医師数,地域偏在,研修医

 

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第62巻第15号 2015年12月

介護支援専門員によるインフォーマル・サポート活用に

影響を与えるケアマネジメント実践の検討

橋本 力(ハシモト チカラ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究では,介護支援専門員によるインフォーマル・サポート活用に影響を与えるケアマネジメント実践について明らかにすることを目的とした。

方法 東京都,横浜市,名古屋市,大阪市,神戸市の居宅介護支援事業者のうち,800カ所を無作為に抽出し,各事業者につき1名,計800名の介護支援専門員を対象とした。調査方法は,自記式調査質問紙を用いた無記名の郵送調査を行った。調査票の回収数は379通,回収率は47.4%であった。分析方法として強制投入法による重回帰分析を用いた。この分析では,介護支援専門員によるインフォーマル・サポート活用を3つの合成変数として算出した「家族の活用」「近隣・友人の活用」「地域のインフォーマル団体等の活用」を従属変数とし,関連要因として想定した性別,年齢,経験年数,情報把握や情報収集に関わる合成変数を独立変数とした。

結果 「家族の活用」では,「家族に関する情報把握」(β=0.362)および「要援護者の支援時における多方面からの情報収集」(β=0.234)が,それぞれ0.1%水準で有意な関連を示した。「近隣・友人の活用」では,「近隣・友人に関する情報把握」(β=0.514)が,0.1%水準で有意な関連を示した。「地域のインフォーマル団体等の活用」では,「地域のインフォーマル団体等に関する情報把握」(β=0.363)および「地域のインフォーマル団体等との交流」(β=0.342)が,それぞれ0.1%水準で有意な関連を示した。

結論 インフォーマル・サポートの活用においては,アセスメントでのインフォーマル・サポートに関する情報把握が有効であることが明らかとなった。介護支援専門員は,アセスメントにおいてインフォーマル・サポートの情報を的確に把握することで,その活用につなげていくことが求められる。また,家族から支援の協力を得る際は,家族の情報把握に加え,多方面からの情報収集が有効であることが明らかとなった。介護支援専門員は,他職種のワーカーや以前のサービス記録,また家族本人など,多方面からの情報を収集することで,家族の状況を正確に理解し,その上で,支援の協力を求めていくことが必要である。さらに,地域のインフォーマル団体等に関しては,インフォーマル団体等との交流が,その活用に影響を与えていることが明らかとなった。介護支援専門員は,活用の可能性が期待できる地域のインフォーマル団体等に関しては定期的な交流を行っていくことが求められる。

キーワード 介護支援専門員,ケアマネジメント,インフォーマル・サポート活用,アセスメント

 

論文

第62巻第15号 2015年12月

高齢者介護施設の介護職員の感染予防方法の実施状況と

呼吸器感染症および感染性胃腸炎への罹患との関連

佐々木 晶世(ササキ アキヨ) 佐久間 夕美子(サクマ ユミコ) 大竹 まり子(オオタケ マリコ)
加藤 綾子(カトウ アヤコ) 叶谷 由佳(カノヤ ユカ) 佐藤 千史(サトウ チフミ)

目的 高齢者介護施設での感染予防対策は重要であるが,介護職員の実際の感染予防方法の実施状況と介護職員自身の感染症罹患との関連についての報告はない。そこで,本研究は高齢者介護施設職員の感染予防方法(マスク・手洗い・うがい・エプロン)の実施状況と介護職員の呼吸器感染症および感染性胃腸炎への罹患との関連について調査することを目的とした。

方法 特別養護老人ホーム10施設に勤務する介護職員269名を対象とし,自記式質問紙調査を2012年6~7月に郵送法で実施した。調査項目は年齢,性別,経験年数,勤務しているフロア,インフルエンザワクチンの接種の有無と接種時期,通勤方法,定期的に立ち寄る場所,本人または家族のインフルエンザ罹患の有無と罹患した場合の対処方法,インフルエンザ以外に罹患した感染症(感染性胃腸炎や感冒等)の有無,手洗い・うがい・マスク着用を行う状況と方法,エプロンの使用頻度と洗濯回数とした。感染症罹患の有無と業務中の感染予防方法の実施状況との関連について,χ2検定および多重ロジスティック回帰分析で検討した。

結果 調査対象者269名中,217名から返送を得た(回収率80.7%)。感染症有の者の方が「下膳後」に手洗いをしていない者が多かった(p<0.05)。一方,うがいに関して,感染症有の者の方が「業務開始時」「フロア移動前」にうがいをしている者が多かった(p<0.05)。感染の有無でエプロン洗濯回数に有意差がみられ,感染症有の者はエプロンの洗濯回数が少なかった。感染症の罹患に関連する要因について,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,「業務開始時のうがい」(OR[オッズ比]:4.13,95%CI〔95%信頼区間〕:1.07-15.95),「配膳時のマスク」(OR:12.11,95%CI:1.80-81.29)に有意差が認められた。

結論 高齢者介護施設の介護職員の感染症罹患に関連する要因として,業務開始時のうがいと配膳時のマスク着用が挙げられた。感染症罹患者の方が業務開始時のうがいと配膳時のマスク着用を行っていたことから,感染症罹患の経験により,業務開始時のうがいおよび配膳時のマスク着用といった感染予防方法につながった可能性が示唆された。

キーワード 高齢者介護施設,介護職員,感染,手洗い,うがい,マスク

論文

 

 

第62巻第15号 2015年12月

喀痰吸引に関わる訪問介護員と訪問看護師の協働の実際

橘 達枝(タチバナ ミチエ) 吉田 浩子(ヨシダ ヒロコ)

目目的 社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により,2012年4月から「介護職員等による喀痰吸引等実施のための制度」が施行され,地域包括ケアシステムに関わる介護職の医行為の実施には,訪問介護員と訪問看護師の連携の強化が必要とされるが,その実態は今だ不明である。そこで本研究は,介護職と看護職のより良い協働の在り方を検討するための新たな実証的知見を得ることを目的として,医行為を手がかりに都市部の在宅療養者の介護・看護を担う訪問介護員と訪問看護師の協働の実態を調査し,その結果からより効果的な協働の手法を検討した。

方法 2013年10月から12月に,首都圏A県の訪問介護員と訪問看護師各1,000人のうち,同意が得られた対象者に,無記名自記式質問紙調査を行った。対象の背景,改正法前後の喀痰吸引の状況,訪問介護員の喀痰吸引に対する意向,協働の経験・内容について,職種の関連を検討するため,χ2検定を用いて分析した。

結果 訪問介護員454人,訪問看護師361人(回収率:45.4%,36.1%)の回答から,誤記や無回答を除外し,訪問介護員194人,訪問看護師213人(有効回答率:19.4%,21.3%)の回答を分析対象とした。訪問介護員(n=194)において,喀痰吸引経験者の割合が同制度施行後に減少しており(同制度施行前9.3%,施行後は8.2%),訪問看護師(n=213)においても,訪問介護員の喀痰吸引を支援した経験がある者の割合が同制度施行後に減少した(施行前18.3%,施行後14.1%)。また,訪問介護員の喀痰吸引実施について肯定的な考え(やむを得ない・必要である)を表明した割合は,訪問介護員(56.2%)が訪問看護師(94.4%)に比べ有意に少なく,制度施行後の訪問介護員の喀痰吸引に対する姿勢は消極的であった。一方,両職種ともに約3割は,自分の家族の喀痰吸引の依頼先として,経験豊富あるいは認定を受けた訪問介護員を選択し,技術の習得により訪問介護員の医行為に対する抵抗感が緩和される可能性が示唆された。また,利用者宅で利用職種が偶然居合わせた場合は積極的に情報交換が行われていることがわかった。

結論 本調査結果から,訪問看護師が計画的に訪問介護員と利用者宅を同行訪問し,指導・支援することで訪問介護員の医行為の習得が可能になり,訪問介護員の医行為の実施促進につながる可能性が示唆された。実践の場で訪問看護師が訪問介護員の行う喀痰吸引等への教育・支援ができる協働の仕組み作りが現状の改善に有効である。

キーワード 訪問介護員,訪問看護師,医行為,協働,地域包括ケアシステム,都市部高齢化

論文

第63巻第1号 2016年1月

国民生活基礎調査における
日常生活に影響のある者の割合に対する無回答の影響

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 平成22年と25年の国民生活基礎調査における生活影響あり割合(健康日本21(第二次)の健康寿命の基礎資料)に対する生活影響の無回答の影響を評価した。

方法 同調査を統計法33条による調査票情報の提供を受けて利用した。自覚症状と通院の有無ごとに,生活影響ありと生活影響の回答なしの年齢調整割合を算定した。生活影響の無回答者における生活影響の有無を自覚症状と通院の回答状況から推計し,生活影響あり年齢調整割合について,調査対象者(生活影響の無回答者を含む)の推計値と生活影響の回答者の調査値を比較した。年齢調整の標準人口には平成25年の調査対象者を用いた。

結果 生活影響の回答なし割合は平成22年が13%で25年が2%であった。自覚症状または通院がありの場合は,なしの場合と比べて,生活影響あり年齢調整割合は著しく大きかったが,生活影響の回答なし年齢調整割合はほぼ一致した。生活影響あり年齢調整割合について,通院と自覚症状の回答状況による調査対象者の推計値は生活影響の回答者の調査値とほぼ一致し,平成22年では男性12.6~12.7%と女性15.2%,25年では男性12.1%と女性14.6%であり,推計値と調査値の比が1.002~1.005倍であった。

結論 平成22年と25年の生活影響あり割合に対して,生活影響の回答なしがほとんど影響しなかったと示唆された。

キーワード 健康寿命,健康日本21(第二次),日常生活に制限のある期間の平均,国民生活基礎調査,保健統計

 

論文

第63巻第1号 2016年1月

熊本市およびその近郊における主介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因研究

-主介護者の性格特性を加味して-
松村 香(マツムラ カオリ) 沼田 加代(ヌマタ カヨ) 畠山 玲子(ハタケヤマ レイコ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 工藤 明美(クドウ アケミ) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 在宅で要介護高齢者を介護している介護者が,介護状況をどのように捉えるかは,その人の性格特性によって異なってくる。本研究は,要介護高齢者を介護する主介護者(以下,介護者)の抑うつ状態に影響を及ぼす要因について,介護者の性格特性と経済的側面を加味して検討を行うことを目的とした。また,本研究に先行して首都圏においても類似の調査を行っているが,地域を変えても同様のことがいえるのか,その結果の普遍性を探ることも目的とした。

方法 熊本市およびその近郊にある居宅介護支援事業所,訪問看護・介護ステーション,デイサービスの合計965カ所のうち,研究の協力が得られた14カ所の事業所を利用している要介護高齢者の介護者161名を対象として自己記入式質問票調査を実施した。

結果 回答が得られた136名(回収率84.5%)から,調査項目に欠損値を持たない121名を有効回答として解析対象とした(有効回答率89.0%)。解析にはt検定,一元配置分散分析,相関係数ならびに階層的重回帰分析を使用した。階層的重回帰分析の結果,介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因として,介護者の「性別」「介護負担感」の高さ,介護者の性格特性のうち「神経質」の高さ,「調和性」の低さの4要因が関連していた。

結論 介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因として,「介護負担感」の高さや介護者の「神経質」な性格特性の高さが,地域が違っても同様の結果が得られていることは,その結果に普遍性があると考える。介護者の抑うつ状態の予防には,「介護負担感」の軽減に加えて,介護者自身の「神経質」などの性格特性にも焦点を当て,対象者に合わせた介入や援助を展開することによって,抑うつ状態の予防につながる可能性があると考える。

キーワード 主介護者,抑うつ状態,要因,介護負担感,性格特性,神経質

 

論文

第63巻第1号 2016年1月

A市地域子育て支援拠点事業の利用者評価

-2012年度評価における満足度分析-
小野セレスタ 摩耶(オノセレスタ マヤ) 

目的 地域子育て支援拠点事業(以下,拠点事業)を利用している保護者への利用者評価調査から,①利用者満足度を構成する要因を明らかにした上で,②利用者満足度を構成する要因と総合満足度との関連を明らかにする。

方法 調査対象者は,近畿地方A市(人口約20万人)の拠点事業(全8カ所)を調査時に利用している保護者である。調査実施方法は,利用者評価票を各事業実施場所に100枚ずつ留め置き記入を依頼し,回収箱に投函する形式をとった。調査期間は,2012年10月2~20日である。分析方法については,研究目的①では探索的因子分析を,研究目的②では,研究目的①より得られた領域別満足度がそれぞれどの程度総合満足度(紹介意向,継続利用意向,全体的満足)に影響するのかを明らかにするために,重回帰分析を行った。

結果 配布800件のうち有効回収数は381件(有効回答率47.6%)であった。研究目的①では,13項目3因子となり,それぞれ「スタッフの対応」(α=0.915),「交流・仲間づくりの機会」(α=0.925),「サービスの提供環境」(α=0.711)と名付けた。研究目的②では,いずれも1%水準で有意なモデルとなった。

結論 本研究では,満足度を構成する因子やそれら因子と紹介意向や継続利用意向,全体的満足との関係性を探索的に明らかにした。拠点事業の満足度を向上するためには,親子の交流や子育ての仲間ができたと感じられるような支援が必要である。そのためは,継続的な利用が必要であり,その際サービスの提供環境は重要な役割を果たすと考えられる。また,親子の交流や子育ての仲間づくりを推進して行くためには,スタッフの対応が重要な役割を果たすといえる。拠点事業に限らず,サービスや事業は利用者の満足度によってのみ評価されるべきものではなく,実施者視点(自己評価等)と利用者の評価が組み合わされ,客観的に評価され初めて説得力が出る。拠点事業は今後さらに保護者のニーズや地域特性に合った運営や支援方法が求められていく。その際,実施者・支援者の視点で運営や支援の在り方等の研究を積み上げていくとともに,利用者評価を取り入れながら方向性を検討することは,利用者視点の重視やサービスの質の向上に欠かせない。さらに多変量解析等詳細な分析を実施し,評価票の精緻化に取り組む必要がある。

キーワード 子ども・子育て支援,地域子育て支援拠点事業,利用者評価,利用者満足,利用者視点

 

論文

第63巻第1号 2016年1月

健常者と認知症者における手指機能と認知機能の性・年齢別変化

坪井 章雄(ツボイ アキオ) 林 隆司(ハヤシ タカシ)
大橋 幸子(オオハシ サチコ) 目黒 篤(メグロ アツシ)

目的 健常者の手指機能は,加齢に伴い低下することが知られている。健常者と認知症者の手指機能と認知機能に関する研究は少なく,手指機能と認知能力の関連は報告されているものの,年齢別の検討は不十分である。本研究では,健常者と認知症者の認知機能と手指機能の変化について性別,年齢群ごとに比較検討した。

方法 45歳以上の健常者と認知症者に対して,認知機能の指標として改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を,手指機能の指標としてIPU巧緻動作検査(Ibaraki Prefectural University Finger Dexterity Test:IPUT)を用いた。

結果 45~94歳の健常者670名(男性242名,女性428名),および45~102歳の認知症者917名(男性206名,女性711名)について,HDS-RとIPUTを測定した。HDS-RおよびIPUTの年齢群別平均値は健常者・認知症者ともに50歳代より徐々に低下する傾向が示された。認知機能および手指機能ともに加齢によって低下していたが,認知症者においては年齢との関連が小さくなっていた。

結論 健常者および認知症者ともに,全体としては認知機能の指標としたHDS-Rと手指機能の指標としたIPUTで有意な負の相関が示された。しかし,認知症者では健常者に比べ弱い傾向が示された。このことは,認知症者では疾病の重症化によりHDS-Rの個人差が大きくなるため,HDS-RとIPUTの関連が小さくなったと考えられる。

キーワード 健常者,認知症者,認知機能,ペグボード,手指機能

 

論文