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第54巻第4号 2007年4月 生活習慣病予防事業による医療費への影響亀 千保子(カメ チホコ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ) 石原 礼子(イシハラ レイコ) |
目的 現在,多くの自治体で生活習慣病予防事業が行われているが,無作為比較対照研究による介入前後での医療費抑制効果の報告はされていない。そこで,本研究では,無作為比較対照研究による予防事業の介入前,介入中,介入後での医療費とその変化を比較し,介入による医療費への影響を明らかにすることを目的とした。
方法 対象者を目標達成型プログラム介入A群,従来型プログラム介入B群の2群に無作為抽出法により割付け,2群間および両群合わせた全体で,介入前々年,前年,介入年の介入前中後の3期間における平均入院外医療費(歯科は除く)についてウィルコクソン符号付順位検定により比較を行った。なお,医療費は年齢に比例して高くなるため,医療費変化を介入前中後で比較し,増加抑制効果をみることで年齢による影響を考慮した。群間差の比較は,ウィルコクソン順位和検定を行った。介入中期間においては,傷病マグニチュード按分法(PDM法)ver.3を用いて,傷病別にも同様の解析を行った。さらに,複数・多・重複受診件数およびこれら受診件数の変化についても同様の解析を行った。
結果 介入中期間の平均入院外医療費は,両群および全体において平成14年度と比べて15年度には有意に増加,平成15年度と比べて16年度には,有意差はないが減少傾向がみられた。医療費変化では,介入中期間の全体においてのみ有意な増加抑制が認められた。有意な増加抑制は他の期間ではどの群においても認められなかった。介入中期間における傷病別分析では,両群および全体で有意な入院外医療費減少と増加抑制が認められた傷病に重症な傷病は含まれていなかった。
結論 両群および全体において重症でない疾患の有意な平均入院外医療費減少と増加抑制につながり,複数受診件数も介入A群と全体において有意な増加抑制が認められた。しかしながら,4カ月間の介入では,有意差をもって平均入院外医療費減少は示せず,介入中期間では全体における増加抑制効果は有意差をもって示せたもののプログラムA,B間の差を有意に示すに至らなかった。生活習慣病におけるこれらの効果を明らかにするためには,無作為比較対照試験での長期間の追跡が必要であると考えられる。
キーワード 生活習慣病予防事業,保健事業,医療費,レセプト,複数受診,無作為比較対照試験