情報提供
第60巻第3号 2013年3月 乳幼児をもつ女性保護者の育児ストレスの
池田 隆英(イケダ タカヒデ) |
目的 育児をめぐる事件は,注目されて久しく,今日もなお絶えない。その背景に育児ストレスとの関連が指摘されてきたが,従来の実証研究では要因分析が十分に行われていない。そこで,乳幼児をもつ女性保護者を対象にして,育児に関するアンケート調査を行った。本稿では,労働形態別に育児ストレスの要因分析を行うことで,子育て支援の課題を明らかにすることを目的とした。
方法 調査は,2007年11~12月,乳幼児をもつ保護者1,911名に調査票を配布して実施した。回収数1,219部,回収率63.8%,有効回答1,156部,有効回答率60.5%であった。本稿では女性保護者(n=1,125)を分析対象とした。質問項目のうち,気になる様子,子育て環境,自尊感情,子育て状況を独立変数,ストレス反応を従属変数に,重回帰による労働形態別の多母集団同時分析を行った。
結果 ストレス反応に対して,特に,気になる様子や自尊感情が,3つの労働形態に共通して有意な影響をもつ。また,子育て環境や子育て状況の一部の因子は,2つの労働形態あるいは1つの労働形態だけで,有意な影響をもつ。しかも,労働形態のすべてに共通する要因,フルタイムとパートあるいはパートと専業主婦に共通する要因,専業主婦に固有の要因があることがわかった。すなわち,賃労働を行うフルタイムやパートタイムの場合,「暴力の表出」をするほどストレス反応が現われやすい。フルタイムの労働ではないパートタイムや専業主婦の場合,子どもと離れた「1人の時間」がないほどストレス反応が現われやすい。賃労働を行っていない専業主婦の場合,社会的なサポートのある「良好な環境」がないほど,ストレス反応が現われやすい。
結論 育児ストレス反応に対する相対的影響は,労働形態と単純に対応しているわけではない。今後,育児ストレス反応の要因分析では,労働形態別の複雑な相対的影響を丹念に分析する必要がある。また,労働形態は経済階層や文化階層と関連が深いことから,育児ストレス反応が階層性と関連することを考慮して,より実態に即した子育て支援策が必要であると考えられる。
キーワード 乳幼児,女性保護者,育児ストレス,労働形態,育児行動,多母集団同時分析