情報提供
第59巻第15号 2012年12月 認知症高齢者に合わせた
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目的 認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける回想法の技法を活用したコミュニケーションをロールプレイで再現した授業を展開し,思い出に働きかけるコミュニケーション技法が習得できたかを確認することを目的とした。
方法 調査対象は,4年制大学介護福祉コースの1回生23名とした。方法は講義後,認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける関わり方についてロールプレイを取り入れた演習を行い,記名式で演習前後に,思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールを作成し使用して調査を行った。さらに,演習後のみコミュニケーションの習得度に関する意識について調査を実施した。
結果 演習前後の思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールの得点は,25項目すべてにおいて得点が有意に上昇していた。演習後のコミュニケーションの習得度に関する意識では,演習を通してコミュニケ-ション能力が向上し,ロールプレイが学びにつながったと答えた者が多かった。コミュケーションの特徴として「返答の際にあいづちしかうっていない」と答えた者が多く,演習を通してあいづちのみの返答では相手の言葉を引き出せないことを理解し,普段の生活の中でも「あいづちの後に言葉を付け足すようになった」と答えた学生が多かった。
結論 認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法を習得するため,回想法の技法を活用したコミュニケーションを授業に取り入れた結果,演習後に思い出に働きかけるコミュニケーションスキルは向上することが示された。その際,ロールプレイやモデリングを取り入れることが有効で,代理的経験から成功経験が得られるよう導くことで,望ましい行動を引き起こす正の強化につながることが明らかになった。また,認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法の習得を目指すことは,学生にとっては必要な対人支援スキルであり,介護実践現場においても介護職員のストレス軽減につながる可能性がある。さらに,学生や介護職員にとどまらず広く回想法の技法を活用したコミュニケーション技法を啓蒙していくことで,認知症高齢者が懐かしい思い出を語る機会が増え,認知症高齢者にとっては安心した生活の実現につながっていく可能性がある。
キーワード コミュニケーション,認知症高齢者,回想法の技法,ロールプレイ