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第61巻第12号 2014年10月 戦後におけるがんの世代別影響-コホート生命表による分析-渡邉 智之(ワタナベ トモユキ) |
目的 わが国の平均寿命は現在もなお高い水準を維持している一方で,死因構造の中心は第二次世界大戦を境に感染症から生活習慣病に転換した。このように,日本人の死因構造は大きく変化しており,特に日本人の死因第一位であるがんは戦後のわが国の平均寿命の変化に影響を与えていると考えられる。そこで,本研究は死因構造が転換した戦後に焦点を当て,戦後生まれのがんによる死亡を除去した場合の生命表生存数に与える影響を,コホート(世代)生命表を用いて世代別に比較し,検討した。
方法 本研究は,1950-1954年から2005-2009年までの12の出生コホート(5年間出生集団)を対象とした。2010年までの期間生命表データを用いてコホート生命表死亡率および生存数を算出し,がん死亡を除去した場合の期間生命表死亡率からコホート生命表死亡率および生存数を求めた。これらの生命表生存数を用いて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化を算出し,がん死亡を除去した場合に生命表生存数がどの程度変化するかを世代別に検討した。
結果 男女ともに年齢が高くなるにつれて,がん死亡除去による生命表生存数変化は大きくなり,世代が新しくなるにつれて小さくなっていたが,女性については男性よりも世代間の違いは小さかった。また,最も大きく生命表生存数が増加した世代は,30歳未満では男女ともに1955-1959年出生コホートであったが,30歳以上では1950-1954年出生コホートであった。世代間で生命表生存数の変化に違いが生じ始める年齢は30歳代後半から40歳代前半にかけてであり,どの出生コホートにおいても40歳未満では男性の方が生命表生存数の変化が大きいが,40~54歳では女性の方が大きく,年齢によって性別で特徴がみられた。
結論 戦後の出生コホートにおいて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化は,男女ともに世代が新しくなるにつれて漸減しており,がん死亡による世代影響は徐々に小さくなりつつある。また,年齢階級別にみると男女ともに30歳代後半から40歳代前半にかけて世代間に差が生じ始めており,40歳代から50歳代前半にかけては女性の方ががん死亡による影響が大きいことが明らかになった。
キーワード がん,生命表,平均余命,コホート,戦後