論文
第54巻第2号 2007年2月 地区単位のソーシャル・キャピタルが主観的健康感に及ぼす影響藤澤 由和(フジサワ ヨシカズ) 濱野 強(ハマノ ツヨシ) 小藪 明生(コヤブ アキオ) |
目的 地区を単位としたソーシャル・キャピタル変数が全体的健康感に対してどの程度,影響を及ぼしているかに関して明らかにすることを目的とした。
方法 日本国内に居住する満20歳以上75歳未満の男女3,000人を調査対象者とし,抽出方法は層化二段無作為抽出法を用いた。2004年2月に調査員による面接調査を実施し,1,910人(男性870人,女性1,040人)から回答を得た(回収率63.7%)。分析方法は,相関分析および性別,年齢,慢性疾患の有無,暮らし向き,ソーシャル・キャピタル(6項目)を独立変数,全体的健康感を従属変数とする重回帰分析を行った。なお,分析においては,分析単位を地区としていることから,各変数について平均値および割合を用いて地区単位への集約を行った。
結果 全体的健康感と相関が示されたソーシャル・キャピタルは5項目であり,さらに重回帰分析を行った結果,「私の住んでいるこの地区はとても安全である」「私の近所の誰かが助けを必要としたときに,近所の人たちは手をさしのべることをいとわない」「急病の時など,すぐにかかれる医療機関があって安心できる地域である」「私の地域では,お互いに気軽に挨拶を交し合う」において統計的に有意な関連が示された(p<0.05)。なお,慢性疾患率および暮らし向きについても有意な関連が示された(p<0.05)。
結論 本結果から,地区単位のソーシャル・キャピタルは,他の変数とともに全体的健康感に一定の影響を与えていることが明らかとなった。慢性疾患率や暮らし向きなどの変数が全体的健康感に影響を与えているのは非常に理解しやすいものであるが,これらの変数と同様に複数のソーシャル・キャピタル変数が全体的健康感に同程度の影響を与えていた点が注目に値する。今後は,ソーシャル・キャピタル概念の理論的検討,その健康への影響プロセス,そして規定要因としての分析上の問題を克服する必要があると考えられる。
キーワード ソーシャル・キャピタル,主観的健康感