論文
第65巻第11号 2018年9月 大都市圏における医療費の都府県内格差と都府県間格差皿谷 麻子(サラガイ アサコ) |
目的 本研究は,大都市圏の医療費の地域差要因として,①高度医療の集積,②医療サービスの供給量,③医療機関までのアクセス度(近さ),④健康診査の受診率,を示す変数に加え,人口当たりの⑤病院薬剤師数,⑥薬局薬剤師数を用いて都府県内と都府県間の差をマルチレベル分析によって明らかにすることを目的とした。
方法 大都市圏の13都府県の市(特別区を含む)単位のデータを使用し,入院および入院外それぞれの医療費の3要素(1人当たり診療件数・1件当たり診療日数・1日当たり診療費)を従属変数とし,説明変数に①可住地面積1000ha当たりの高度医療病院数(一般病床200床以上病院数,救命救急センター数,がん診療拠点病院数の合計),②人口1万人当たりの一般病院数,③可住地面積100ha当たりの一般診療所数,④大腸がん検診受診率,⑤人口1万人当たりの病院薬剤師数,⑥人口1万人当たりの薬局薬剤師数を設定して,切片と傾きに変量効果を導入したランダム係数モデルにて検証した。
結果 入院の医療費3要素との関連は,入院件数/人に対して一般病院数/1万人は統計的に有意な正の関連を,一般診療所数/100haは統計的に有意な負の関連を示した。入院日数/件に対しては高度医療病院数/1000haは統計的に有意な負の関連を,病院薬剤師数/1万人は統計的に有意な正の関連を示した。入院診療費/日に対しては高度医療病院数/1000haは統計的に有意な正の関連を,病院薬剤師数/1万人は統計的に有意な負の関連を示した。入院外の医療費3要素との関連は,入院外日数/件に対して一般診療所数/100haは統計的に有意な正の関連を,大腸がん検診受診率は統計的に有意な負の関連を示した。入院外診療費/日に対しては一般診療所数/100ha,大腸がん検診受診率,薬局薬剤師数/1万人はいずれも統計的に有意な負の関連を示した。他方,変量効果については医療費の3要素のすべてにおいて切片の分散が認められ,係数の分散は,一般病院数/1万人が入院件数/人との関連において,一般診療所数/100haが入院件数/人,入院外件数/人,入院外日数/件との関連において都府県間のばらつきが認められた。また,病院薬剤師数/1万人は入院日数/件との関連において,薬局薬剤師数/1万人は入院外診療費/日との関連において都府県間のばらつきが認められた。
結論 大都市圏の医療費の地域差は医療資源以外の要因も関連しており,都府県間でも地域差が存在しているだけでなく,関連の仕方も都府県間でばらついていることが明らかになった。また,入院外診療費の単価は,健康診査の受診よりもむしろ小まめに診察を受けられる環境や薬局薬剤師の薬学的介入が低下につながっている可能性が示されたが,薬局薬剤師数との関連の仕方には都府県間で差が存在しており,薬局薬剤師の薬学的介入による医療費への影響が都府県間で異なっている可能性が示唆された。
キーワード 医療費の地域差,医療費の3要素,大都市圏,マルチレベル分析