論文
第65巻第15号 2018年12月 地域高齢者における新たな生活機能指標の開発:
岩佐 一(イワサ ハジメ) 吉田 祐子(ヨシダ ユウコ) 稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) |
目的 近年の高齢者は以前よりも健康状態が向上しているという知見や,高齢者を取り巻く生活環境の変化をかんがみるに,より高いレベルの生活機能指標の開発が必要である。本研究では,「JST版活動能力指標」の計量心理学的特性の検討の一環として,①因子構造の交差妥当性の検証,②測定不変性の検証,③標準値の報告,④性差・年齢差の検討を行った。
方法 本研究では,2つの集団のデータを解析に使用した。層化二段無作為抽出法により選出した全国に居住する高齢者2,000人(65~84歳男女)に対する留置き調査を2回実施した(それぞれ,1,333人,1,274人が参加)。上記2,607人のうち,データに欠損値を含まない者2,573人(男性1,196人,女性1,377人)を分析対象者とした。JST版活動能力指標は,4つの下位尺度各4項目(二件法),計16項目から構成される。対象者基本属性を記述するため,独居,教育歴,経済状態自己評価,健康度自己評価,移動能力,老研式活動能力指標を用いた。①2つの集団間で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。②性別(男性vs.女性),年齢(前期高齢者vs.後期高齢者),老研式活動能力指標(低群[10点以下]vs.高群[11点以上]),都市規模(21大都市居住者vs.その他地域居住者)で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。③5歳刻み年齢で対象者を分割し(65~69歳,70~74歳,75~79歳,80~84歳),性別(2水準)と組み合わせ8群ごとに標準値(平均値,95%信頼区間,標準偏差)を報告した。④性別(2水準)×年齢(4水準)の2要因分散分析を実施し,性差・年齢差を検討した。
結果 ①2つのサンプル間で測定不変性が確認され,先行研究と同じ4因子解が再現された。②いずれの基準変数においても測定不変性が確認された。③性別・年齢ごとに標準値を算出した。④性差・年齢差が認められ,男性のほうが得点が高いこと(偏η2=0.01),年齢が高いほど得点が低いこと(偏η2=0.11)が認められた。
結論 JST版活動能力指標は,因子構造の交差妥当性が認められ,安定した4因子構造であることが示された。性別,年齢,老研式活動能力指標,都市規模を基準とした場合に測定不変性を有し,これら変数において構成概念は同質であることが示唆された。男性のほうが女性よりも得点が高かったが,効果量は小さいためJST版活動能力指標の性差は大きくないことが考えられた。顕著な年齢差が認められ,JST版活動能力指標は年齢を経るほどに生じる生活機能の低下を反映することが示唆された。
キーワード 地域高齢者,生活機能,JST版活動能力指標,測定不変性,標準値,交差妥当性