論文
第66巻第2号 2019年2月 犯罪被害者支援における多機関連携の実態-被害者支援を担う部署に対する全国調査をもとに-伊藤 冨士江(イトウ フジエ) 大岡 由佳(オオオカ ユウカ) |
目的 犯罪被害者支援は,2006年犯罪被害者等基本法の施行により,官民挙げての取り組みが推進され大幅に進展してきた。2016年4月より第3次犯罪被害者等基本計画が始まり,地方公共団体等にて,犯罪被害者等に関する専門知識・技能を有する専門職の養成・活用,支援活動における福祉・心理関係の専門機関等との連携の充実などが喫緊の課題とされている。しかしながら,各部署の担当者の勤務状況や対応姿勢,実際に被害者支援においてどのような連携を行っているかについて把握できていない部分も多い。そこで,犯罪被害者等の対応にあたる部署に対して全国調査を実施し,その実態と連携における課題を明らかにした。
方法 犯罪被害者等の対応にあたる,全国の①警察・犯罪被害者支援室の担当職員,②民間被害者支援団体の支援統括責任者,③地方自治体・被害者対応窓口担当者,④医療機関のソーシャルワーカー(無作為抽出),⑤女性センターの相談担当者などを対象に,調査協力の依頼書,調査の実施要領と自記式質問票等を郵送し,紙媒体もしくは電子媒体での回答を依頼した。調査期間は2017年5月1日~6月5日であった。
結果 担当者の属性や対応については,被害者担当経験の長い者は警察と民間被害者支援団体に多い,全担当者の4割近くは支援・援助の資格を有していたが,市区町村では有資格者が少ない,面接や付き添い等の直接対応を行っているのは民間被害者支援団体と医療機関で多いことなどが明らかになった。多機関連携については,全体では仲介型や集中型の支援が多く,中長期支援は民間被害者支援団体と医療機関で多いが,支援の方針会議等を行ったのは全体の約4割であり,とくに司法関連機関と医療・福祉機関の連携上の分断がみられた。
結論 支援全般を充実させるためには,各機関・団体の被害者対応部署における有資格者の配置や研修会等を通した専門性の向上が必須であり,多機関連携においてはケアマネジメントの発想にもとづく体制整備を目指す必要があることが示唆された。
キーワード 犯罪被害者等,被害者支援,多機関連携,生活支援,情報共有