論文
第66巻第2号 2019年2月 中国・内陸都市における高齢者の認知症
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目的 本研究では中国・成都市を対象とし,高齢者の認知症に対する認識の現状と対応の在り方を明らかにし,今後どのような認知症対策が必要かを検討することを目的とした。
方法 本研究では,成都市において訪問介護サービスを受けている60歳以上の高齢者を対象に,訪問介護スタッフを通じて無記名の質問紙調査票を直接配布し,その場で回答してもらったうえで回収した。
結果 本研究では500部の調査票を配布した。回収された499部のうち,高齢者本人が回答した331部を分析対象とした(回収率99.8%)。認知症を知っていると回答した人が7割近くであるが,具体的な認知症の症状についての認識はいずれの項目も5割以下にとどまっており,正確に理解していない人が一定の割合を占めていることが把握できた。7割近くの回答者は認知症になっても自宅での生活を希望し,家族による介護を強く願っていた。質問項目を回答者の属性別に解析した結果,認知症を知っている群は知らない群より具体的な認知症症状についてよく認識しており,認知症への心配の度合いも高かった。また,認知症が心配になった時,大型総合病院を相談先として選ぶ傾向が強く,身近な行政機関である社区相談窓口は相談先として認識されていないことが示された。
結論 中国・成都市においては,認知症を正確に認識している高齢者がまだ少ないことがわかった。また,認知症をよく認識している人ほど,認知症への心配の度合いが高いことが把握できた。さらに,認知症が心配になった時に,身近な相談先が十分ではないことがわかった。この結果から,今後,中国において認知症高齢者の数が増えていく中では,高齢者が認知症の症状を正確に認識するように取り組む必要がある。また,社区に身近な認知症の相談先を整備することにより,認知症予防の取り組みや認知症の早期受診などを促進することが求められる。
キーワード 認知症の症状,認知症の相談先,介護の場所,認知症予防