論文
第66巻第2号 2019年2月 保育所における保育者の防災に取り組む姿勢-災害危険度への認識レベルが異なる地域間比較を通して-岡本 和花(オカモト カズカ) 白神 敬介(シラガ ケイスケ) |
目的 保育所が所在する地域による違いに着目し,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢との関連について明らかにすることを主な目的とした。
方法 郵送法による自記式アンケート調査を実施し,調査期間は2016年11月中旬から12月末であった。対象者は,新潟県・栃木県・静岡県の3県にある保育所の園長22名並びに保育者293名であった。設問は,「訓練」「教育」「共通認識」「防災に取り組む態度」「災害発生を想定した時の危機感」「知識」などの項目から構成され,園長のみに尋ねた項目もあった。分析は,統計的検定における有意水準5%を基準とし,各県の保育所における避難訓練の実態と知識問題の平均正答数では一元配置分散分析と多重比較Tukey法を用い,その他ではχ2検定と残差分析を用いた。
結果 調査対象者からの回収率は85.1%であり,災害危険度への認識レベルが異なる3県の比較では,次の3点において違いがみられた。「豪雨」と「洪水」を想定した避難訓練の実施状況では,ともに新潟県での実施が有意に多く(p<0.01),静岡県での実施が有意に少なかった(p<0.05)。保育所で行われる防災に関する活動である「職員が防災について話し合う機会」は,新潟県では「いつも参加している」保育者(p<0.01),栃木県では「ときどき参加している」保育者が有意に多く(p<0.05),新潟県では「ときどき参加している」保育者が有意に少なかった(p<0.01)。また,保育者の防災に関する知識の平均正答数では,静岡県における保育者が他県よりも有意に多かった(p<0.05)。
結論 保育所が所在する地域による違いは,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。一方,保育者の防災に関する知識には,保育所が所在する地域による違いの影響がみられた。つまり,保育者の防災に取り組む姿勢は保育所が所在する地域による違いではなく,別の要因が影響を及ぼしている可能性が高い。しかしながら,保育所における避難訓練で想定されている自然災害の種類や実施回数では地域差が確認された。また,ほとんどの保育者が意識の強さや参加頻度に違いはあるものの,日頃から災害対策を意識し,施設における防災に関する活動に参加していることが読み取れた。
キーワード 保育所,保育者,防災意識,災害危険度,地域差