論文
第66巻第6号 2019年6月 悩みや不安を感じている者の割合と
神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) |
目的 日本における悩みや不安を感じている者の割合と失業率との時系列相関分析を行うことを目的とした。
方法 「悩みや不安を感じている」者の割合は,内閣府および旧総理府による「国民生活に関する世論調査」から得た。失業率は,総務省の「労働力調査」から完全失業者数と労働力人口を得,前者を後者で除することで得た。回答者全体と性・年齢階層別に,「悩みや不安を感じている」者の割合やそれぞれの回答者(「悩みや不安を感じていない」「わからない」者も含む)の中での各々の具体的な悩みや不安を持つ者の割合と失業率との時系列での単相関分析を行った。
結果 悩みや不安を感じている者の割合と失業率との相関係数は,回答者全体で0.82であった。性・年齢階層別では,男性の20歳代から50歳代および女性の30歳代以上において0.7以上と高かった。特に,男性の30歳代・40歳代と女性の40歳代では0.8を超えていた。悩みの具体的な項目では,期間中に最も高い割合が認められたものは同年代の男女では共通しており,20歳代では「自分の生活上の問題について」で,30歳代では「今後の収入や資産の見通しについて」で,40歳代・50歳代・60歳代では「老後の生活設計について」であった。それらと失業率との相関係数は,20歳代・30歳代の男性,40歳代・50歳代の男女,60歳代の女性で0.6以上であった。
考察 失業の増減が,悩みや不安を感じている者の割合の増減の直接の原因であることは考えにくい。しかし,失業率がより高い社会経済状況下では,たとえ自身が失業者とはならなくとも,失業の不安を感じたり,所得の減少や伸び悩み等に直面することで,悩みや不安を持つ者の割合が増加することは十分に考えられる。悩みや不安を感じている者の割合という主観に関する指標と失業率という客観的指標を関連づけたところに本研究の意義があると考えられる。
キーワード 悩み,不安,失業,自殺,経済,時系列相関分析