メニュー

論文記事:日本の対策型検診における直近5年度分の偶発症頻度について 201907-03 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

m header btn

一般財団法人 厚生労働統計協会

サイトポリシープライバシーポリシー

pmark     お問い合わせ

論文

論文

第66巻第7号 2019年7月

日本の対策型検診における直近5年度分の偶発症頻度について

町井 涼子(マチイ リョウコ) 高橋 宏和(タカハシ ヒロカズ) 中山 富雄(ナカヤマ トミオ)

目的 がん検診は診療と異なり無症状の健康な人を対象としているため,受診者の不利益を最小化することが最も重要である。がん検診の不利益の一つである偶発症について,日本の対策型検診(住民検診)での発生頻度を明らかにする。

方法 国の地域保健・健康増進事業報告のデータを利用し,2011~2015年度に発生した重篤な偶発症数および偶発症頻度(検診/精検10万件あたりの偶発症割合)を集計した。対象のがん種は国の指針に基づく5種類(胃,大腸,肺,乳がん検診は40歳以上,子宮頸がん検診は20歳以上)とし,各々検診時と精検時における偶発症数を把握した(大腸がん検診では精検時の偶発症のみ)。また精検時の死亡例について,具体的な精検方法や死亡までの経緯を自治体に照会した。

結果 5年間の偶発症数合計は,検診時では胃がんが最も多く(210件),次いで乳がん(46件),子宮頸がん(39件),肺がん(28件)の順に多かった。精検時では大腸がん検診で最も多く(168件),次いで肺がん(69件),胃がん(53件),乳がん(39件),子宮頸がん(15件)の順に多かった。これらの偶発症数と検診受診者数の年齢階級別分布はほぼ一致しており,検査件数の増加に伴って不利益も増えることが示された。発生頻度(検診/精検10万件対)としては,検診時では胃がんが最も高く(1.13),次いで乳がん(0.30),子宮頸がん(0.17),肺がん(0.07)の順に高かった。精検時では肺がんが最も高く(9.41),次いで大腸がん(7.99),子宮頸がん(4.79),胃がん(4.07),乳がん(3.88)の順に高かった。検診と精検を合わせた検診プログラム全体の偶発症頻度は,5部位のがん共通で,高齢者(75歳もしくは80歳以上)で高かった。精検時の死亡例は5年間で17件報告されたが,そのうち1件を除き,医療記録の保管期限が過ぎているなどの理由により詳細が確認できなかった。

結論 日本の対策型検診における偶発症頻度を初めて明らかにし,75歳もしくは80歳以上の高齢者で偶発症割合が高いことを明らかにした。高齢者における検診の不利益を減らすためには,諸外国での対応を参考に,日本でも検診対象の上限年齢を新たに設定する必要があると考えられるが,当面の対策としては,検診の不利益を事前に十分に説明するなど,検診受診の意思決定を適切に支援していく必要がある。

キーワード がん検診,偶発症,地域保健・健康増進事業報告,対策型検診,不利益

 

論文