論文
第66巻第8号 2019年8月 企業等における若年性認知症の人の就労継続の実態-業種別,従業員人数別の検討-小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) |
目的 65歳未満で発症する若年性認知症は現役世代であり,疾患の進行により退職すると経済的問題が生じ,居場所がなくなって社会的な役割が果たせなくなる。退職してしまうと収入が減少するので,可能な限り現在の職場で継続して勤務することが望ましい。しかし,企業の,若年性認知症に対する理解や就労継続する上での配慮等については,十分であるとは言い難い。そのため,企業における若年性認知症の人の雇用状況や,継続雇用を実現させるために必要な支援等を把握するために企業における若年性認知症の人の就労に関する調査を行った。
方法 全国の従業員500人以上の企業等6,733カ所に対し,調査票を郵送した。調査項目は,企業の属性(業種,従業員の人数,平均年齢等),障害者雇用(障害者雇用の有無,障害者雇用率),介護している従業員(介護している従業員の有無,介護離職者等),若年性認知症(若年性認知症の認知度,若年性認知症の従業員の有無,人数,就労状況,該当者を把握した経緯,該当者に対する企業の対応,今後,該当者がいた場合の企業の対応,若年性認知症に係る相談機関の認知度,制度・サービスの認知度と利用状況)等である。
結果 有効回答は938件であった(回収割合:13.9%)。若年性認知症について,「知っていた」と「聞いたことはある」を合わせると96.2%と高かった。従業員に若年性認知症等の人がいるのは,以前にいた企業が39社,現在いる企業が26社であった。現在いる企業では,就労中の若年性認知症の人は5人,休職中が7人,就労中の若年性認知症疑いの人および休職中の人はそれぞれ4人,就労中の軽度認知障害の人は3人,休職中は1人であった。把握した経緯では,会社からの受診勧奨が最も多く,次いで本人からの相談・申し出であった。会社の対応中,業務内容については,「他の業務・作業に変更した」が最も多く,報酬・雇用に関しては「作業能力低下でも報酬維持した」が最も多かった。就労継続支援に関する相談機関では,約5割で市町村の相談窓口,4割で障害者職業センターを把握していた。該当者が利用できる制度やサービスでは,「障害者手帳」は7割以上で知られていた。
結論 企業で働いている若年性認知症の人数はわずかであったが,配置転換,報酬維持など一定の配慮が払われていた。しかし,企業における認知症に対する理解はまだ不十分であり,該当者があった場合の対応にも不安があると考えられた。
キーワード 若年性認知症,企業,就労継続,支援,現役世代