論文
第67巻第4号 2020年4月 都市部高齢者における
田中 泉澄(タナカ イズミ) 北村 明彦(キタムラ アキヒコ) 横山 友里(ヨコヤマ ユリ) |
目的 高齢期の精神的な健康に寄与する要因の一つとして食品摂取に着目し,都市部の高齢者の精神的健康度と食品摂取多様性の関連について,経済的要因としての所得等を考慮して検討した。
方法 対象は,東京都大田区に在住し要介護認定を受けていない65歳以上の男女である。15,500名に自記式調査票を郵送し,回答を得た11,925名のうち,本研究の条件を満たす10,266名を解析対象とした。精神的健康度はWHO-5(日本語版)により,食品摂取多様性は10品目からなる食品摂取多様性スコア(DVS)によりそれぞれ評価した。DVSおよび所得と精神的健康度との関連は,目的変数を精神的健康度,説明変数を等価所得区分およびDVS区分とし,その他の関連因子を強制投入した二項ロジスティック回帰分析を用いた。
結果 低DVS群に比べて高DVS群では,精神的健康度が良好である多変量調整オッズ比(OR)は,男性で1.99(95%信頼区間:1.73-2.30),女性で1.73(1.52-1.96)であった。また,等価所得が最も低い群に比べて高い群では,精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比は,男性で2.27(1.95-2.64),女性で1.37(1.19-1.58)であった。DVSと等価所得を組み合わせた検討では,低所得・低DVS群を基準とすると,男性では低所得・高DVS群(OR 1.54),中所得・高DVS群(OR 1.83),高所得・高DVS群(OR 1.73)の精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比が有意に高値であった。女性では,中所得・高DVS群(OR 1.56),高所得・低DVS群(OR 1.47),高所得・高DVS群(OR 2.16)において,精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比が有意に高かった。
結論 都市部在住の高齢者において,DVSおよび等価所得は精神的健康度と有意に関連し,等価所得を考慮した上でもDVSが高い群では精神的健康度が良好であることが明らかとなった。本研究より,多様な食品を摂取することは精神的な健康と関連している要因の一つとなる可能性が示された。
キーワード 高齢者,食品摂取多様性,都市部,等価所得,精神的健康度