論文
第67巻第4号 2020年4月 ヒトT細胞白血病ウイルス1型キャリア支援に
滝 麻衣(タキ マイ) |
目的 本調査研究の目的は,ヒトT細胞白血病ウイルス1型(以下,HTLV-1)のHTLV-1感染者(以下,キャリア)を対象とした健康関連QOL(以下,HRQOL)実態調査を行うことで,HTLV-1総合対策におけるキャリア支援体制の確立に向けた布石とすることである。
方法 対象は,関西地区に存在するHTLV-1専門外来で経過観察中のキャリアのうち,2017年11月から1年の期間内に調査協力が依頼できた120名とした。調査項目は基本属性,キャリアと診断された際の経緯や思いに関する質問およびHRQOL測定のためのMOS Short-Form 36-Item Health Survey Ver.2(以下,SF-36)を用いた。得られた回答の度数分析はExcelを用いて集計し,HRQOL平均得点や変数間の比較においてはRを用いたt検定を実施した。
結果 有効回答53件のうち女性が84.9%,50代が35.8%を占めていた。キャリアであることを知ったきっかけは「献血後の通知」が最も多く47.2%,次いで「妊婦健診」が28.3%であった。その他の回答には,術前検査や,家族の関連疾患発症をきっかけに検査を勧奨された者も含まれていた。キャリア診断後は家族やパートナー,医療者に相談したとの回答が多い一方,18.9%は「誰にも相談できなかった」と回答していた。96.2%は医師に相談したいと回答しており,必要なHTLV-1関連情報は「専門的な知識」が最も多かった。HRQOL得点は,全体では男性より女性の方が低い傾向にあり,女性では50歳未満において全体的健康感(p<0.05),活力(p<0.01),こころの健康(p<0.05),精神的健康感(p<0.01)が50歳以上の女性および健康成人女性の国民標準値より有意に低かった。
結論 女性の回答者割合が多かったのは全国的な男女比に合致していた。回答者の大半が「医師」による「関連疾患の発症や治療に関する情報」を必要としていたのは,キャリアが相談窓口で期待する情報を入手できなかった経験や,一般診療では関わることのない臨床心理士の役割を知らないなどの可能性が考えられた。HRQOL得点で50歳未満の女性キャリアが50歳以上の女性および同年代における健康成人女性の国民標準値より有意に低かったのは,出産・子育て世代の女性特有のストレスに加え,キャリア診断後の支援体制が十分とは言えないことが不安材料となっている可能性が高いと考えられる。HTLV-1総合対策が推進するHTLV-1母子感染対策協議会の設置や研修,普及・啓発活動が行われていない都道府県も少なくないが,キャリアが少ない地域こそ徹底した母子感染・水平感染防止策を講じる必要があるといえ,抗体価検査後の確定検査を含む相談・支援体制の整備を図る必要があると考える。
キーワード ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1),ヒトT細胞白血病ウイルス1型感染者(キャリア),健康関連QOL(HRQOL),実態調査,HTLV-1総合対策,キャリア支援