論文
第67巻第6号 2020年6月 子育て期の女性における精神的健康の関連要因岩佐 一(イワサ ハジメ) 石井 佳世子(イシイ カヨコ)吉田 祐子(ヨシダ ユウコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) |
目的 子育て期の親においては,精神的健康が損なわれやすいとされ,支援の重要性が認知されている。子育て期の女性における精神的健康の関連要因について調査し,支援策の構築に資する知見を報告することは重要である。本研究は,子育て期の女性を対象として,就労状況,睡眠時間,疲労感,ソーシャルサポート,神経症傾向,認知的失敗と精神的健康の関連について検討した。
方法 インターネット調査会社に委託して調査を実施し,生後3カ月~6歳の児を養育する母親310人を分析の対象とした(25~45歳,常勤職員155人,主婦155人)。精神的健康(「ポジティブ感情」「ネガティブ感情」各6項目ずつ計12項目,5件法),就労状況,母親の年齢,末子の年齢,児の人数,世帯収入,ソーシャルサポート,育児サービスの利用状況,1日の睡眠・余暇時間,疲労感,神経症傾向,認知的失敗(15項目,5件法)を分析に用いた。精神的健康の関連要因を検討するため重回帰分析を行った。
結果 重回帰分析の結果,ポジティブ感情では,末子の年齢(β=-0.15),疲労感(β=-0.36),情緒的サポート(β=0.16),神経症傾向(β=-0.13)が有意な関連を示した。ネガティブ感情では,母親の年齢(β=-0.11),疲労感(β=0.20),情緒的サポート(β=-0.16),神経症傾向(β=0.17),認知的失敗(β=0.38)が有意な関連を示した。
結論 認知的失敗が高い者ほど精神的健康が低かった。認知的失敗を低減させるための方略(メモ等の外部記憶補助の使用等)を日常生活に導入することによって,母親の精神的健康を維持する可能性が示唆される。疲労感が高い者ほど,精神的健康が低かった。母親の精神的健康維持のためには,専門的なケア,ソーシャルサポート,育児・家事サービスの利用等によって,疲労を軽減する必要がある。神経症傾向が高い者ほど,精神的健康が低いため,神経症傾向の程度を予め把握し,精神的健康の防御要因(ソーシャルサポート等)を周産期に至る前に補強しておくことは,母親の精神的健康の維持に有用であると考えられる。情緒的サポートが高い者ほど,精神的健康が高かった。傾聴する,苦労をねぎらう等の母親に対する情緒面の支援が,母親の精神的健康維持に有用である。
キーワード 母親,子育て,精神的健康,認知的失敗,神経症傾向,情緒的サポート