論文
第67巻第15号 2020年12月 奈良県における後期高齢者医療費と保険料水準の理論推計西岡 祐一(ニシオカ ユウイチ) 野田 龍也(ノダ タツヤ) 今村 知明(イマムラ トモアキ) |
目的 今後の日本の人口と医療費の推移のモデルとして,奈良県の後期高齢者医療制度の悉皆(全数)調査である国保データベース(以下,KDB)を用いて奈良県の後期高齢者医療費の推移について推計し,今後の医療費と後期高齢者医療保険料水準について考察する。
方法 奈良県人口調査年報および奈良県年齢別人口調査を用いて,男女別年齢別人口を1歳刻みで調査した。2018年10月1日現在の奈良県の年齢別人口から,①奈良県と奈良県外との間の男女別年齢別人口の流出入が同じである,②男女別年齢別死亡率は2018年簡易生命表のもので不変である,と仮定してその死亡率を基に2019年から2093年までの75歳以上の人口の推計を行った。医療費については奈良県KDBを用いて75歳以上の医療費合計を集計し,後期高齢者医療保険制度の75歳以上の被保険者1人当たりの医療費を年齢別に集計した。最後に人口1人当たりの医療費と75歳以上の人口推計を掛け合わせて,2019年度から2093年度までの75歳以上の医療費を推計し,これを基に後期高齢者医療保険の被保険者1人当たりの医療費を推計した。
結果 奈良県の75歳以上人口は,2017年の197,702人から2028年の261,400人まで増加し続け,それを境になだらかな減少ないし横ばいに転じる。その後2050年には227,899人となり,その後さらに減少し続けた。死亡率,現状の医療・介護体制がこのまま継続したとすると,2030年度以降は奈良県における後期高齢者医療費は,およそ1人当たり87,000~90,000点の間で推移した。特に今後10年間,後期高齢者人口は急激に増加し,総医療費も増加傾向を示す。一方,保険料水準と強く相関する後期高齢者1人当たりの医療費は,後期高齢者人口が急激に増えるタイミングで一旦減少傾向を示し,その後再び増加傾向に転じると推測された。
結論 本研究は,奈良県における75歳以上の後期高齢者の人口,医療費についての推計手法・推計結果を提供し,保険料水準の推移について考察した。0~74歳の人口は既に決まっており,死亡率,医療費のデータを用いることで,今後の医療費や保険料水準の推移を精緻に推計できることを示した。これらの推計は今後の社会保障制度を考えるうえで重要な基礎資料となる。
キーワード 後期高齢者,医療費,KDB,国保データベース,奈良県