論文
第68巻第8号 2021年8月 児童虐待相談件数の増加が児童相談所に及ぼす影響小村 有紀(コムラ ユキ) |
目的 近年,急速に児童虐待が増加しており,それに伴い児童相談所では,量的および質的に人員が不足していることが課題である。本研究の目的は,定量的な実証分析を行い,児童虐待相談件数の増加が,児童相談所に及ぼす影響を明らかにすることとした。
方法 分析対象は,児童福祉法において,児童相談所の設置が義務づけられている47都道府県とし,2015年度と2017年度の2期間によるパネルデータを構築した。児童虐待相談件数が児童相談所に及ぼす影響を分析するために,被説明変数には,児童相談所における未対応件数を採用した。また,児童相談所の専門性の程度を表す代理変数として,スーパーバイザー人数,児童相談所長の福祉職割合を採用し,被説明変数とした。
結果 被説明変数を児童相談所未対応件数とした場合の推計結果は,パネル・ポアソン回帰分析の場合,児童虐待相談件数,養護相談におけるその他の相談件数,視聴覚障害相談件数,重症心身障害相談件数,育児・しつけ相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,1%水準で有意であった。また,結果の頑健性を調べるために,被説明変数および説明変数を同様に設定し,パネル・負の二項回帰分析により分析した結果,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,5%水準で有意であった。さらに,被説明変数をスーパーバイザー人数および所長福祉職割合として,それぞれパネル・ポアソン回帰,トービット分析を行った。その結果,被説明変数をスーパーバイザー人数とした場合の推定結果は,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスとなり,1%水準で有意であった。また,被説明変数を所長福祉職割合とした場合の推定結果は,児童虐待相談件数の推定係数の符号はプラスであり,10%水準で有意であった。
結論 推定結果を総合的に解釈すると,児童相談所は,近年急速に増加している虐待相談については,その経験が蓄積されておらず,技術の継承等がなされていないことから,虐待相談件数が増加すると,児童相談所における未対応件数が増加傾向となる。しかし,虐待相談件数が多い児童相談所においては,専門性が高いと考えられるスーパーバイザーを積極的に配置している。また,児童相談所長には,福祉等専門職による採用区分により採用されている者が多く起用されており,児童相談所における専門性の必要性を認識していることが推察される。
キーワード 児童虐待相談件数,児童相談所,専門性,スーパーバイザー,実証分析