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論文記事:日本の脳出血治療の現状と将来像 202201-02 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第69巻第1号 2022年1月

日本の脳出血治療の現状と将来像

光安 由利栄(ミツヤス ユリエ) 石原 礼子(イシハラ レイコ)

目的 脳血管疾患は日本の死因の上位で要介護4および5の原因疾患として第1位である。また,日本の脳出血の発症率は諸外国の2倍から3倍高く,突然死リスクや再発率が高いといった問題がある。今回,厚生労働省が公表する平成30年度DPCデータを用いて,日本の脳出血の疾患動向を明確にし,どのような治療が行われているのか分析することを目的とした。

方法 平成30年度「退院患者調査」の参考資料2(6)「診断群分類毎の集計」より,MDC01(神経系疾患)の内訳から010040(非外傷性頭蓋内血腫)を対象とした。性別,年齢,ICD10,治療法,退院時転帰,退院時死亡率,血腫除去方法について診断群分類番号別,重症度別,手術別のいずれかで件数や割合を比較した。割合の比較にはχ2検定を用いた。退院時死亡率は分母に退院患者数,分子に退院時転帰が「死亡」の患者数として算出した。

結果 非外傷性頭蓋内血腫(非外傷性硬膜下血腫以外)の件数は65,025件であった。軽症群は42,773件(65.8%),重症群は22,252件(34.2%)であった。男女別では男性で軽症群が68.3%,女性で62.8%となり,男性で有意に軽症群が多かった。80歳以上の割合は軽症群で28.0%,重症群で38.6%となり,有意に重症群で多かった。65歳以上の割合は軽症群で65.3%,重症群で72.8%となり,有意に重症群で多かった。ICD10の重症度別分布は「I610(大脳)半球の脳内出血,皮質下」が約7割を占めた。治療法は手術なしが軽症群で87.9%,重症群で66.8%となり,有意に軽症群で多かった。一方,手術あり群は重症群で有意に多かった。退院時転帰は「治癒・軽快」が78.0%を占め,最も多かった。退院時死亡率は全体で12.0%であった。血腫除去方法は開頭頭蓋内血腫除去術が全体で72.5%を占め,最も多かった。

結語 手術なしの重症群に死亡率が高く,開頭頭蓋内血腫除去術が多かった。開頭頭蓋内血腫除去術は一般的に多く用いられており,視野が広く血腫吸収率が高いが,侵襲が大きく,全身麻酔による術後合併症のリスクがある。その一方,内視鏡下脳内血腫除去術は手術技術習得に時間を要するが,低侵襲で血腫吸収率が高く,早期にリハビリテーションが出来るため,今後広く用いられることを期待する。さらに,日本で脳出血による血腫除去に特化した医療手術用ロボット技術はまだ導入されていない。将来,脳出血手術のためのロボット技術が開発・発表され,より安全で低侵襲な手術が可能になることを期待する。

キーワード DPC,高齢者,脳出血,非外傷性頭蓋内血腫,内視鏡下脳内血腫除去術

 

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