論文
第69巻第3号 2022年3月 正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得に関する研究大山 篤(オオヤマ アツシ) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ)石田 智洋(イシダ トモヒロ) 品田 佳世子(シナダ カヨコ) |
目的 非正規雇用労働者は雇用が不安定で,年次有給休暇の取得は正規雇用労働者に比べて困難となりやすいとされる。今後の職域における保健活動を円滑に進める上でも,非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得状況の特性を知っておくことは,意義があると考えられる。本研究では正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得や通院による休暇の状況について,男女別に比較・検討することを目的とした。
方法 本研究におけるWeb調査は2017年2月に実施した。回答者はWeb調査会社の登録モニタのうち,20-60歳代の正規/非正規雇用労働者各420名であった。質問内容は最終学歴や事業所の従業員数等の属性,最近1年間の年次有給休暇の取得状況,および通院のために休暇を取得した日数等であった。分析については,年次有給休暇を取得しなかった者の割合や,年次有給休暇を取得した者の平均取得日数,通院による休暇日数等を男女の正規/非正規雇用労働者間で比較した。また,男女別に年次有給休暇取得の有無を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得の有無を調べたところ,非正規雇用労働者の方が年次有給休暇を取得した者の割合が低く,男性では2人に1人,女性では3人に1人が年次有給休暇を取得していなかった。しかし,年次有給休暇を取得した正規/非正規雇用労働者に限定して1年間の平均取得日数を比較すると,男女の正規/非正規雇用労働者間に差は見られなかった。通院のために仕事を休んだ平均日数に関しても,同様であった。男女別に年次有給休暇の取得の有無に関する多重ロジスティック回帰分析を行った結果,非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であり,さらに男性では第三次産業に従事し,大学卒業以上の学歴がない場合,女性では勤務場所(事業所)での従業員数が少なく,年齢が若い傾向にある場合に休暇が取りにくいことが示された。
結論 男女ともに非正規雇用労働者のなかには年次有給休暇の取得が難しい人がいる反面,年次有給休暇を取得していた場合には,正規雇用労働者とほぼ変わらない日数を取得できていた。非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であったが,年次有給休暇を取りにくい要因には男女差も見られた。
キーワード 非正規雇用,非正規雇用労働者,年次有給休暇,Web調査,産業保健,働き方改革