論文
第69巻第13号 2022年11月 国保保険料と被保険者の受診行動について-HLMによる分析-佐川 和彦(サガワ カズヒコ) |
目的 国保被保険者の受診行動について,サンク・コスト効果の存在を検証するだけではなく,その大きさが地域によって異なることも検証する。さらに,サンク・コスト効果の大きさを決定づける要因についても検証を行った。
方法 平成30年度の保険者別データを用いて,国保被保険者の受診行動について分析を行った。受診率関数の推定にあたっては,HLM(階層線型モデル)を応用した。レベル1において,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の符号がプラス,かつ有意ならば,サンク・コスト効果が存在することになる。次に,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の経験的ベイズ推定値を求め,地域間でサンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することを確認した。レベル2において,人口当たりの医師数(歯科医師数)がサンク・コスト効果の大きさを左右するかどうかを検証した。
結果 国保被保険者については,総じてサンク・コスト効果が存在することが確認された。また,地域間で,サンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することが確認できた。被保険者がサンク・コスト効果に基づく受診行動を取る地域が多数であったが,少数であっても,経験的ベイズ推定値がマイナスであり,被保険者のコスト意識に基づく行動が優勢である地域があることも確認された。人口当たりの医師数(歯科医師数)が増加すれば,サンク・コスト効果が大きくなる(コスト意識に基づく行動が優勢である地域においては,少なくともそれを抑制する)傾向があることが確認された。
結論 人口当たりの医師数や歯科医師数が増加することによる被保険者の利便性の向上が,サンク・コスト効果を大きくしている。保険料引き上げを検討する際に,サンク・コスト効果による受診率上昇も考慮に入れなければ,サンク・コスト効果の分だけ,将来の医療費に想定外の上乗せが生じることになるであろう。
キーワード 国保保険料,受診率,サンク・コスト効果,医療資源量,HLM(階層線型モデル)