論文
第70巻第3号 2023年3月 レセプト統計による推計平均在院日数の妥当性の検証について渡邊 千里(ワタナベ センリ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ) |
目的 診療エピソードにアプローチする統計にはコホート統計と期間統計があり,入院の在院日数に関するものとしては,コホート統計として患者調査の退院患者平均在院日数が,期間統計として病院報告の平均在院日数がある。厚生労働省保険局調査課では,新たな期間統計として,レセプト統計の件数・日数に関する恒等式から平均在院日数を推計する式を数理的に導出し,この推計値が実質的に病院報告の平均在院日数とみなせることを示している。この推計式を用いれば,業務上自動的に得られるレセプト統計から平均在院日数が推計でき,医療費分析において非常に有用である。本研究では,この推計式と病院報告の計算方法による平均在院日数およびコホート統計の計算方法による平均在院日数を同一のデータからそれぞれ計算し,直接比較することを目的とした。
方法 全国のDPC病院からランダムに抽出した10施設についての2013~2020年度のDPCデータを用いる。調査対象期間を2013~2019年度とし,調査対象期間の各月ごとに病院報告の計算方法による平均在院日数(基準値)と上記推計式による推計平均在院日数を計算し,両者を比較する。また,在院患者数の月内の分布を確認し,月末在院患者数の影響を補正した推計式でも比較する。さらに,コホート統計として新規入院患者平均在院日数と退院患者平均在院日数との比較も行った。
結果 在院患者数の月末変化率は平均△4.2%(95%信頼区間:△5.0-△3.5%,p<0.001)となり,月末に有意に減少していた。推計平均在院日数は基準値と高い相関を示したものの,基準値に対してプラス方向に偏りが見られたが,補正値では偏りが見られなかった。基準値との同等性を比較すると,基準値との差は,推計平均在院日数が平均0.273(95%信頼区間:0.247-0.298),補正値が平均0.007(△0.006-0.020),新規入院患者平均在院日数が平均△0.067(△0.101-△0.033),退院患者平均在院日数が平均0.069(0.018-0.119)で,すべて同等性マージン(±0.5日)の範囲内にあった。
結論 病院報告の計算方法による平均在院日数と比べて,推計平均在院日数はおおむね同等である。また,コホート統計ともおおむね同等である。
キーワード 平均在院日数,推計平均在院日数,レセプト統計,診療エピソード統計,コホート統計,期間統計