論文
第70巻第7号 2023年7月 福祉学科学生の認知症の人に対する態度とイメージ
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目的 本研究は,福祉先進国の日本と福祉発展途上国の中国における福祉学科学生の認知症の人に対する態度,イメージ,認知症に関する知識の現状を明らかにし,日中比較を通して,今後の両国の福祉人材育成の取り組みについて提案することを目的とした。
方法 2022年の時点で,日本のA大学と中国のB大学の福祉学科に在籍する1~3年次の学生を対象とした。調査期間は,中国では5月9日~20日,日本では6月21日とし,アンケート調査を行った。最終的に397人(日本109人;中国288人)を分析対象とした。調査により両国の福祉学科学生の認知症の人に対する態度とイメージおよび認知症に関する知識について回答を得て比較した。調査対象者の基本属性と認知症関連項目の日中比較について,χ2検定を用いた。また,認知症の人に対する態度とイメージ,認知症に関する知識の項目別の日中比較についてはχ2検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。さらに,認知症の人に対する態度および下位尺度の肯定的態度と否定的態度,認知症に関する知識,認知症の人に対するイメージ合計得点の平均値に日中の間に差があるかどうかを調べるため,t検定を用いて,分析を行った。
結果 両国の福祉学科学生が認知症の人に対する肯定的態度を持つ傾向を示した。下位尺度の肯定的態度と否定的態度では,中国の福祉学科学生の認知症の人に対する肯定的態度が有意に強く,否定的態度も有意に強い。また,両国の福祉学科学生の認知症に関する知識の全体の正答率ともに6割強であり,中国の方が認知症の原因,行動・心理症状およびその対応方法に関する7項目の正答率が有意に高く,日本の方が記憶障害と幻覚・妄想の対応方法および治療に関する6項目の正答率が有意に高かった。さらに,認知症の人に対するイメージでは,日本の方がネガティブな回答が多く,中国の方がポジティブな回答が多く,中国の方が認知症の人に対するよりポジティブなイメージを持つことが明らかになった。
結論 今後,両国の認知症高齢者が増加する高齢社会に向けて,専門的な福祉人材を育成するために,両国とも福祉学科学生に対して,認知症の人に対するポジティブなイメージを促進し,認知症に関する知識を全般的に高めることが必要である。特に,深刻な認知症問題を来す中国において,福祉学科学生に対して,認知症の人に対する否定的態度を解消し,治療等に関する知識を高める必要性が提示できる。
キーワード 認知症の人に対する態度,認知症に関する知識,認知症の人に対するイメージ,福祉学科学生,日中比較