論文
第70巻第7号 2023年7月 人口動態調査の二次利用提供データを用いた
絹田 皆子(キヌタ ミナコ) 今野 弘規(イマノ ヒロノリ) 董 加毅(トウ カギ) |
目的 平成19年,統計法が60年ぶりに改正され,厚生労働省が実施する人口動態調査等の公的統計データの二次利用に関する規定により,死亡票に記載された死因の県間比較調査や研究が推進されることとなった。しかしながら,人口動態調査に基づく死亡率について,長期的動向の県間比較を行う際,「死因簡単分類名の心疾患(高血圧性を除く)を構成する内訳病名(ICD-10小分類相当,以下,内訳病名)」を用いることの課題点を検証した報告は見当たらない。そこでわれわれは,平成29年度環境省委託事業「放射線健康管理・健康不安対策事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業)」「福島県内外での疾病動向の把握に関する調査研究」の一環として,死因簡単分類名の「心疾患(高血圧性を除く)」における内訳病名別死亡率の長期的動向の県間比較を行い,その課題点を検証した。
方法 1995年から2015年までの人口動態調査の二次利用提供データを用いて,福島県と近隣9県(岩手,宮城,山形,茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,新潟)の40~79歳日本人男女を対象として,10県全体および各県別の「心疾患(高血圧性を除く)」(ICD-10:I01-I02.0,I05-I09,I20-I25,I27,I30-I52,以下,心疾患)の内訳病名割合(%)を5年ごとに算出し,上位10位までの疾患を比較した。
結果 「心疾患」において,1995年では,10県全体における内訳病名上位10疾患は,1位の「急性心筋梗塞,詳細不明(I21.9)」が約半数を占め,次いで「心不全,詳細不明(I50.9)」が約1/5を占めていた。各県別の全期間における「心疾患」の内訳病名割合は,山形・福島・茨城ではほぼ変化が認められなかった。しかしながら,岩手・宮城・千葉・新潟は1995年時点で全体の数%であった「心臓性突然死〈急死〉と記載されたもの(I46.1)」が,2015年には全体の約15~40%に,宮城・栃木・埼玉は1995年時点で全体の数%であった「急性虚血性心疾患,詳細不明(I24.9)」が,2015年では全体の約13~35%に,群馬は1995年時点で全体の数%であった「心疾患,詳細不明(I51.9)」が,2015年では全体の約35%に,それぞれ大幅に増加していた。その逆に,それら7県では,心筋梗塞や心不全の割合は減少傾向がみられた。
結論 「心疾患」の内訳病名は,急性心筋梗塞や心不全などの主要な病名の頻度が1995年以降の20年間で変化の仕方が県によって大きく異なり,判定基準が統一されていないことが明らかとなったことから,死亡率の長期的動向や県間比較には,単純に内訳病名を用いることは適切でないことが示唆された。
キーワード 人口動態統計,心疾患,死因病名,長期的動向,県間比較