論文
第70巻第12号 2023年10月 家族介護・就業と健康の関連-中高年女性のパネルデータ分析-菊澤 佐江子(キクザワ サエコ) 植村 良太郎(ウエムラ リョウタロウ) |
目的 全国パネル調査データを用いて,同居による親の介護(以下,介護)と健康の関連について,介護開始からの経過時間,就業状況といった社会的文脈を考慮しつつ,精神的健康と身体的健康の両面から検討を行った。
方法 厚生労働省が2005~2014年に実施した「中高年者縦断調査」の第1回~第10回調査の個票データを使用した。分析にあたっては,1年間(T1からT2)を観察単位として,9観察単位(2005~2006年,2006~2007年,…,2013~2014年)をプールした統合データを作成した。分析対象は,50代女性で,分析に用いた変数に欠損値がなかった12,253人(延べ38,330観察単位)である。分析は,2時点間(T1-T2)の介護状況がT2の健康状態に及ぼす影響を検討するために,変量効果モデルを推定した。
結果 身体機能的制限については,いずれのモデルにおいても,介護継続/開始/停止の回帰係数は有意ではなく,係数は負の値を示していた。ディストレスについては,介護開始/継続の回帰係数がともに0.1%水準で正の方向に有意であり,係数は介護開始,介護継続の順で大きかった。就業継続/開始の回帰係数は,身体機能的制限・ディストレスともに,負の方向に有意であった。介護と就業の交互作用は,身体機能的制限についてのみ観察され,介護継続と就業継続,介護継続と就業停止の交互作用がそれぞれ5%,1%水準で正の方向に有意であった。
結論 介護は精神的健康と有意な負の関連をもつものの,その関連は介護の過程によって一様ではなく,たとえば,ディストレスの水準は,介護開始後1年以内の介護者で,介護をしていない者に比べ顕著に高く,1年以上介護を継続している者ではそれよりは低いものの有意に高く,介護停止で元の水準に戻る傾向があることが考察された。介護が健康に及ぼす効果は,精神的健康と身体的健康とで必ずしも一様ではないことも示された。特に,介護の健康への効果に対する就業状況の作用のあり方は,精神的健康と身体的健康の間で,また介護や就業の過程によって異なり,たとえば,介護継続者が就業を継続することは,精神的健康にはプラスに作用するが,身体的健康においては過重な負担となって表れるケースもあることが考察された。介護と健康との関連については,身体的健康や時間の経過のほか介護サービス等の情報を含むデータを用いてさらに詳細な分析を行うことが,今後の課題と考えられた。
キーワード 家族介護,就業,精神的健康,身体的健康,パネル調査データ